(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】組換え哺乳動物細胞および目的物質の生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20220316BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20220316BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220316BHJP
C12N 15/90 20060101ALI20220316BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220316BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220316BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12P21/00 C
C12P21/08
C12N15/90 Z
C12N15/09 100
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2018065970
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2020-11-06
(31)【優先権主張番号】P 2017071936
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業、国際基準に適合した次世代抗体医薬等の製造研究」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】山名 良正
(72)【発明者】
【氏名】近藤 雅子
(72)【発明者】
【氏名】上平 正道
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/040285(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/027072(WO,A2)
【文献】Molecular Biology Reports,2004年,Vol.31, p.85-90
【文献】Cytotechnology,2012年,Vol.64, p.267-279
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外来性の目的遺伝子を含む発現単位が複数組込まれてなる哺乳動物細胞であって、
前記複数の発現単位の数が3以上であり、
かつ、前記複数の発現単位が当該動物細胞染色体のヒポキサンチン-ホスホリボシルトランスフェラーゼ酵素(hprt)遺伝子座に導入されてなり、
前記複数の発現単位の間に外来性の間隙配列を備え、当該間隙配列が0.5kbp以上20kbp以下の鎖長を有し、かつ前記間隙配列が
ヒトhprt遺伝子座のイントロンまたはエキソンに由来する配列を含むものであって、互いに異なる配列であることを特徴とする、細胞
【請求項2】
前記間隙配列の鎖長が1kbp以上20kbp以下である、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記間隙配列の1つ以上が1kbp以上の鎖長を有する、請求項1に記載の細胞。
【請求項4】
前記目的遺伝子が複数種組み込まれてなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項5】
隣り合う間隙配列の相同性が55%以下、もしくは50%以下のいずれか一方である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項6】
互いに異なる間隙配列の相同性が55%以下、もしくは50%以下のいずれか一方である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項7】
前記哺乳動物細胞が、CHO細胞である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項8】
前記目的遺伝子がタンパク質をコードする遺伝子である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項9】
前記タンパク質が抗体である、請求項
8に記載の細胞。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項の細胞を培養する工程を含んでなる、目的物質の生産方法。
【請求項11】
請求項1~
9のいずれか一項に記載の細胞の製造方法であって、前記複数の発現単位および間隙配列が、AGISによって導入されてなることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効率的なタンパク質等の目的物質生産を可能にする組換え細胞およびその製造方法、並びにその細胞を用いたタンパク質等の目的物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えタンパク質生産システムにおいて、原核生物や真核生物を宿主とした種々の方法が知られている。哺乳類動物細胞を宿主とした組換えタンパク質生産システムは、ヒトを始めとする高等動物由来のタンパク質に対し、糖鎖付加、フォールディング、リン酸化などの翻訳後修飾をより生体で作られるものと同じように施すことが可能である。
【0003】
この翻訳後修飾は、タンパク質の本来有する生理活性を組換えタンパク質で再現するために必要なものであり、そのような生理活性が特に必要とされる医薬品などに用いられる組換えタンパク質の生産系には、哺乳類動物細胞を宿主としたタンパク質生産システムが用いられている。
【0004】
タンパク質生産システム構築のために、細胞ゲノム中の標的遺伝子座に目的遺伝子を特異的な組み込み、長期間、安定にタンパク質を発現しうる組換え細胞を効率的に取得する手法が提案されている。
【0005】
この標的遺伝子の一例としては、ヒポキサンチン-ホスホリボシルトランスフェラーゼ酵素(hprt)遺伝子が挙げられる。hprt遺伝子は、ヒト等のX染色体長腕に存在するハウスキーピング遺伝子の一つとして知られており、hprt遺伝子のノックアウト後の細胞は、薬剤6‐Thioguanine(6TG)に対して耐性を示すため、陰性選択が容易に行われる。
【0006】
ヒトの雄由来のHT1080細胞株のhprt遺伝子座に目的遺伝子を組換えベクターにより導入し、選択薬剤非存在下で長期間、安定にタンパク質を発現しうる組換え細胞を取得したことが報告されている(特開2007-325571号公報(特許文献1)、非特許文献1:Koyama Y Et Al.,(2006) Biotechnology And Bioengineering,95,1052-1060)。
【0007】
また、本発明者らの一部は、hprt遺伝子座に外来性の目的遺伝子の複数コピーを導入し哺乳動物細胞を用意し、この細胞を培養してタンパク質等の目的物質を産生する方法を提案している(WO09/022656号公報(特許文献2))。さらにこの方法をCHO細胞に適用する手法を提案している(WO2011/040285号公報(特許文献3))。
【0008】
本発明者らの知る限りでは、上記従来技術においても、遺伝子の発現単位を染色体の同一部位に複数導入すると、導入した遺伝子が期待どおりの量で発現しなかったり、発現が経時的に低下したりするなどの現象が見られた。
【0009】
一方で、遺伝子増幅の手法として、例えば、組換え酵素Creと、スペーサー領域、並びにその左右にそれぞれ配置された左アーム領域及び右アーム領域からなる、Creのターゲットサイトとを用いた方法が提案されている(特開2009-189318号公報(特許文献4)、Kameyama,Y. et al.,Biotechnol.Bioeng、105,1106(2010)(非特許文献2)、Inao T.et al.,Journal of Bioscience and Bioengineering 120、99-106,2015(非特許文献3))。この方法は、逐次遺伝子組込みシステム(Accumulative Gene Integration System;AGIS)と呼ばれ、この方法によれば、動物細胞の染色体上で目的遺伝子の増幅を行うことができ、得られた細胞は組換えタンパク質の大量生産のために用いることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-325571号公報
【文献】WO09/022656号公報
【文献】WO2011/040285号公報
【文献】特開2009-189318号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Koyama Y Et Al.,Biotechnology And Bioengineering, 95, 1052-1060(2006)
【文献】Kameyama,Y. et al.,Biotechnol.Bioeng、105,1106(2010)
【文献】Inao T.et al.,Journal of Bioscience and Bioengineering、120、99-106(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、今般、外来性の目的遺伝子を複数導入する際に、複数の目的遺伝子の発現単位の間の鎖長および配列を制御することで、長期間、より安定して組換えタンパク質等の目的物質を生産できる系が実現できるとの知見を得た。とりわけ、その導入数と発現量との間に強い正の直線的な相関を示すとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0013】
従って、本発明は、効率的なタンパク質等の目的物質生産を可能にする組換え細胞およびその製造方法、並びにその細胞を用いた目的物質の製造方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そして、本発明による細胞は、
外来性の目的遺伝子を含む発現単位が複数組込まれてなる哺乳動物細胞であって、
前記複数の発現単位の数が3以上であり、
前記複数の発現単位の間に外来性の間隙配列を備え、当該間隙配列が0.5kbp以上20kbp以下の鎖長を有し、かつ前記間隙配列が互いに異なる配列であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明による細胞の製造方法は、前記複数の発現単位および間隙配列が、AGISによって導入されてなることを特徴とするものである。
【0016】
さらに、本発明によるタンパク質等の目的物質の製造方法は、前記本発明による細胞を培養する工程を含んでなることを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】工程(1-1)における、トラスツズマブ重鎖発現単位ベクターの模式図である。(1)はベクター全体図であり、(2)は切り出したトラスツズマブ重鎖発現単位である。
【
図2】工程(1-2)における、トラスツズマブ軽鎖発現単位ベクターの模式図である。(1)はベクター全体図であり、(2)は切り出したトラスツズマブ軽鎖発現単位である。
【
図3A】工程(1-3)における、x1 AGIS トラスツズマブ発現ベクター(ベクター1)作製方法の模式図である。
【
図4A】工程(1-4)における、x2 AGIS トラスツズマブ発現ベクター(ベクター2)作製方法の模式図である。
【
図5A】工程(1-5)における、x3 AGIS トラスツズマブ発現ベクター(ベクター3)作製方法の模式図である。
【
図6】工程(2-1)における、CHO hprt AGIS起点ベクターの模式図である。
【
図7A】工程(2-3)における、CHO hprt AGIS起点ベクターのCHO細胞のhprt遺伝子座への相同組換えによる導入の模式図および導入確認の結果である。CHO hprt AGIS起点ベクター、CHO細胞のhprt遺伝子領域、および組換えCHO細胞のゲノムPCRの指標となったDNAの関係を示す模式である。
【
図7C】ゲノムDNAを鋳型としたPCRによる、ベクター導入確認の電気泳動結果である。
【
図8A】工程(2-4)における、CHO hprt AGIS起点ベクター導入CHO細胞へのベクター1の逐次導入による導入の模式図および導入確認の結果である。ベクター1、CHO hprt AGIS起点ベクター導入CHO細胞のCHO hprt AGIS起点ベクター領域、および組換えCHO細胞のゲノムPCRの指標となったDNAの関係を示す模式である。
【
図8C】ゲノムDNAを鋳型としたPCRによる、ベクター導入確認の電気泳動結果である。
【
図9A】ベクター1導入CHO細胞へのベクター2の逐次導入による導入の模式図および導入確認の結果である。ベクター2と、ベクター1導入CHO細胞のベクター1領域、および組換えCHO細胞のゲノムPCRの指標となったDNAの関係を示す模式である。
【
図9C】ゲノムDNAを鋳型としたPCRによる、ベクター導入確認の電気泳動結果である。
【
図10A】ベクター1とベクター2導入CHO細胞への、ベクター3の逐次導入による導入の模式図および導入確認の結果である。ベクター3と、ベクター1とベクター2導入CHO細胞のベクター1とベクター2領域、および組換えCHO細胞のゲノムPCRの指標となったDNAの関係を示す模式である。
【
図10C】ゲノムDNAを鋳型としたPCRによる、ベクター導入確認の電気泳動結果である。
【
図11A】ベクター1導入CHO細胞、ベクター1とベクター2導入CHO細胞、およびベクター1とベクター2とベクター3導入CHO細胞の、トラスツズマブ重鎖とトラスツズマブ軽鎖のコピー数定量結果であり、各導入細胞染色体中のトラスツズマブ重鎖DNAとトラスツズマブ軽鎖DNAのコピー数定量結果である。
【
図11B】ベクター1導入CHO細胞、ベクター1とベクター2導入CHO細胞、およびベクター1とベクター2とベクター3導入CHO細胞の、トラスツズマブ重鎖とトラスツズマブ軽鎖のコピー数定量結果であり、各導入細胞染色体中のトラスツズマブ重鎖mRNAとトラスツズマブ軽鎖mRNAのコピー数定量結果である。
【
図12A】ベクター1導入CHO細胞、ベクター1とベクター2導入CHO細胞、およびベクター1とベクター2とベクター3導入CHO細胞の、抗体発現量の長期安定性確認結果である。
【
図12B】
図12Aに、ベクター1とベクター2とベクター3導入CHO細胞の112日、168日および224日間の継代培養後の抗体発現量を加えた結果である。
【
図13A】比較例2における、x2 AGIS 間隙配列Aベクター作製方法の模式図である。
【
図14A】ベクター1導入CHO細胞へのx2 AGIS 間隙配列Aベクターの逐次導入による導入の模式図および導入確認の結果である。x2 AGIS 間隙配列Aベクターと、ベクター1導入CHO細胞のベクター1領域、および組換えCHO細胞のゲノムPCRの指標となったDNAの関係を示す模式である。
【
図14C】ゲノムDNAを鋳型としたPCRによる、ベクター導入確認の電気泳動結果である。
【
図15】ベクター1およびx2 AGIS 間隙配列Aベクター導入CHO細胞の、抗体発現量の長期安定性確認結果である。
【
図16A】実施例3における、x2 AGIS 間隙配列B500ベクター作製方法の模式図である。
【
図17A】ベクター1導入CHO細胞へのx2 AGIS 間隙配列B500ベクターの逐次導入による導入の模式図および導入確認の結果である。x2 AGIS 間隙配列B500ベクターと、ベクター1導入CHO細胞のベクター1領域、および組換えCHO細胞のゲノムPCRの指標となったDNAの関係を示す模式である。
【
図17C】ゲノムDNAを鋳型としたPCRによる、ベクター導入確認の電気泳動結果である。
【
図18】ベクター1およびx2 AGIS 間隙配列B500ベクター導入CHO細胞の、抗体発現量の長期安定性確認結果である。
【
図19A】実施例4における、x2 AGIS 間隙配列C500ベクター作製方法の模式図である。
【
図20A】ベクター1導入CHO細胞へのx2 AGIS 間隙配列C500ベクターの逐次導入による導入の模式図および導入確認の結果である。x2 AGIS 間隙配列C500ベクターと、ベクター1導入CHO細胞のベクター1領域、および組換えCHO細胞のゲノムPCRの指標となったDNAの関係を示す模式である。
【
図20C】ゲノムDNAを鋳型としたPCRによる、ベクター導入確認の電気泳動結果である。
【
図21】ベクター1およびx2 AGIS 間隙配列C500ベクター導入CHO細胞の、抗体発現量の長期安定性確認結果である。
【
図22A】実施例5における、x1 AGIS 間隙配列A500ベクター作製方法の模式図である。
【
図23A】実施例5における、x2 AGIS 間隙配列C500-B500ベクター作製方法の模式図である。
【
図24A】実施例5における、CHO hprt AGIS起点ベクター導入CHO細胞へのx1 AGIS 間隙配列A500ベクターの逐次導入による導入の模式図である。x1 AGIS 間隙配列A500ベクター、CHO hprt AGIS起点ベクター導入CHO細胞のCHO hprt AGIS起点ベクター領域の関係を示す模式図である。
【
図25A】x1 AGIS 間隙配列A500ベクター導入CHO細胞へのx2 AGIS 間隙配列C500-B500ベクターの逐次導入による導入の模式図および導入確認の結果である。x2 AGIS 間隙配列Aベクターと、x1 AGIS 間隙配列A500ベクター導入CHO細胞のx1 AGIS 間隙配列A500ベクター領域、および組換えCHO細胞のゲノムPCRの指標となったDNAの関係を示す模式図である。
【
図25C】ゲノムDNAを鋳型としたPCRによる、ベクター導入確認の電気泳動結果である。
【
図26】x1 AGIS 間隙配列A500ベクターおよびx2 AGIS 間隙配列C500-B500ベクター導入CHO細胞の、抗体発現量の長期安定性確認結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
間隙配列
本発明による哺乳動物細胞に組込まれる「発現単位」は、外来性の目的遺伝子、つまり目的のタンパク質または核酸等の物質を発現させることができる構造のものであれば限定されないが、特にタンパク質の場合には、好ましくは、プロモーター、(転写開始点から終止コドンまでの)目的タンパク質のコード領域、ポリA配列を備えてなる単位を意味する。目的遺伝子他の、発現単位の構成要素の詳細は後述する。
【0019】
「プロモーター」とは、ゲノムDNAやウイルスゲノムから取得した、プロモーター機能を有する一つながりのDNA配列である。あるいは、公知のDNA構造物から、プロモーター機能を有する領域を含む配列を、適切な制限酵素で切り出したり、PCR反応によって増幅して取り出したりしたものでもよい。
【0020】
本発明による哺乳動物細胞には、発現単位が3以上組込まれ、さらにこの複数の発現単位と発現単位との間に「外来性の間隙配列」を備える。本発明にあっては、この間隙配列は0.5kbp以上の鎖長を有し、かつ前記間隙配列が互いに異なる配列であることを特徴とする。発現単位と発現単位との間に、このような間隙配列を備えることで、その導入数に比例した発現の向上が安定的に得られる。
【0021】
目的タンパク質の発現量は、導入された遺伝子の数に比例することが期待されるが、実際には、導入当初には遺伝子数に比例した発現量が得られても、時間の経過と共に発現量が減少してしまうことが従来の手法においては観察されたが、本発明にあっては、長期間にわたり、例えば50日以上、好ましい条件下にあっては100日以上、より好ましい条件下にあっては200日であり、もっとも好ましい条件下にあっては300日にわたり、安定した発現量を維持できる。安定した発現量とは、細胞樹立直後の比生産を好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、もっとも好ましくは90%以上維持することを意味する。
【0022】
本発明の一つの好ましい態様によれば、間隙配列の鎖長の好ましい下限は0.5kbpであり、より好ましくは1kbpであり、さらに好ましくは1.5kbpであり、もっとも好ましくは2kbpである。また、間隙配列の長さの好ましい上限は20kbpであり、より好ましくは10kbpであり、さらに好ましくは5kbpであり、もっとも好ましくは3kbpである。間隙配列の鎖長の好ましい範囲は、前記の下限値と上限値とを選択して、組み合わせることで決定される。
【0023】
本発明の一つの態様によれば、複数の間隙配列の少なくとも一つが、1kbp以上の鎖長を有するものとされることが、長期間の安定した組換えタンパク質の生産に有利である。
【0024】
また、本発明において、複数の間隙配列は互いに異なる配列とされるが、好ましくは、相互の相同性が99.5%以下、より好ましくは95%以下、さらに好ましくは90%以下、さらに好ましくは87.5%以下、さらに好ましくは85%以下、さらに好ましくは82.5%以下、さらに好ましくは80%以下、さらに好ましくは77.5%以下、さらに好ましくは75%以下、さらに好ましくは72.5%以下、さらに好ましくは70%以下、さらに好ましくは67.5%以下、さらに好ましくは65%以下、さらに好ましくは62.5%以下、さらに好ましくは60%以下、さらに好ましくは57.5%以下、さらに好ましくは55%以下、さらに好ましくは52.5%以下、もっとも好ましくは50%以下とされる。
【0025】
本発明において、相同性は、以下のようにして測定する。すなわち、比較したい二つの間隙配列のうち、短い方の配列全長に対し、長い方の配列内において、短い方の配列と同じ長さの任意の配列の相同性を測定していき、得られた相同性の最大値を相同性と定義する。具体的な相同性の測定方法として、遺伝子情報ソフトウェアのホモロジー検索機能を使用する方法等がある。より具体的には、GENETYX Ver.10ソフトウェア(株式会社ゼネテックス)の、塩基配列×塩基配列ホモロジー検索を用いて比較することができる。
【0026】
本発明において、この間隙配列は外来性であり、ここで外来性とは、組込まれる哺乳動物細胞が本来有していない配列に加え、組込まれる哺乳動物細胞が有する配列ではあるが、本来その位置に存在しない配列も含む意味に用いるものとする。
【0027】
本発明において間隙配列は特に機能を有しないものであり、換言すれば、発現単位と発現単位との間の配列を間隙配列と定義してよいが、タンパク質等の目的物質の発現に本質的に悪影響を与えない限り、特定の機能を有する配列を含んでいてもよい。
【0028】
従って、本発明の一つの態様によれば、間隙配列は、例えば、他の細胞や生物の染色体から任意に取得してきた配列、コンピューター上で設計した配列に基づき、合成して作製した配列、発現単位以外のベクター構成配列(単なるベクター骨格、選択マーカー、GFPなどのレポーターなど)、後記するAGIS(逐次遺伝子組込みシステム)の結果残存するベクターパーツ、マーカー配列などから構成されてよい。
【0029】
動物細胞への組込み部位となる配列
本発明において、発現単位の組込み部位は、発現単位を組込む手法などを考慮して適宜決定されてよい。例えば、安定遺伝子座に組込む方法、ランダムに好適部位に組込む方法、染色体外ベクターに組込む方法等が挙げられる。本発明の好ましい態様によれば、組込みの手法としては安定遺伝子座に組込む方法が挙げられ、ここで、安定遺伝子座としては、例えばヒポキサンチン-ホスホリボシルトランスフェラーゼ酵素(hprt)遺伝子座、ROSA26遺伝子座領域、PhiC31 pseudo attP部位等が挙げられる。また、ランダム挿入の場合には、染色体上の安定な部位に偶発的に導入された細胞を選別する方法が挙げられる。また、組込み部位は染色体上でなくても良く、例えばヒト人工染色体(HACベクター)、マウス人工染色体(MACベクター)などの人工染色体上であっても良い。
【0030】
本発明の好ましい態様によれば、組込み部位として、hprt遺伝子座を用いる。この標的領域に発現単位を組込むことは、hprt遺伝子の転写・発現を阻害してhprt遺伝子の機能を不活化し、6-TG等を用いる陰性選択によって効率的に組換え細胞を取得する上でも好ましい。
【0031】
また、本発明において標的領域は、目的遺伝子の発現を妨げない限り、hprt遺伝子座中において適宜決定してよい。具体的な配列は、WO2011/040285号公報(特許文献3)の記載を参考に決定することが出来る。この特許文献3の開示内容は、引用することにより本明細書の開示の一部とされる。
【0032】
哺乳動物細胞
また、本発明において、宿主細胞として用いられる哺乳動物細胞は、好ましくはチャイニーズハムスター由来のものであり、例えば、肺、卵巣、腎臓などの臓器由来の細胞を取り出し、株化した細胞株を利用できる。かかるチャイニーズハムスター細胞の具体的な例としては、例えば、CHO細胞、CHO-K1、CHO-K1SV(Lonza)、CHO-S(Life technologies)、DG44(Life technologies)、DXB11、CHOZN GS(Merck)、CHOZN DHFR(Merck)、およびその派生株等が挙げられる。
【0033】
また、用いられる哺乳動物細胞は、ヒト由来、マウス由来、サル由来等も利用可能である。例えばヒト由来の具体的な例としては、HEK293、PER.C6(Crucell)、HT1080等が挙げられる。また、マウス由来の具体的な例としては、NS0、BHK、SP2/0、SP2/0-AG14等が挙げられる。サル由来の具体的な例としては、COS等が利用できる。
【0034】
目的遺伝子および発現単位
また、本発明において、目的遺伝子は、医薬として有用なタンパク質をコードしていることが好ましい。目的遺伝子は、cDNAに由来する配列であっても、ゲノムDNAに由来する天然イントロンを含む構造遺伝子であっても、好適に利用可能である。目的遺伝子がコードするタンパク質として具体的には、抗体、酵素、サイトカイン、ホルモン、凝固因子、調節タンパク質、レセプター、機能性因子等が挙げられるが、好ましくは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、エリスロポエチン、組織特異的プラスミノーゲン活性化因子または顆粒球コロニー活性化因子等である。
【0035】
本発明の一つの態様によれば、タンパク質をコードする目的遺伝子の配列長さは、好ましくは200~8000bp、より好ましくは300~3000bp、もっとも好ましくは400~2500bpである。
【0036】
タンパク質の種類として、哺乳動物細胞によって生産されるタンパク質は哺乳動物細胞に特有の翻訳後修飾を受けて生成されることを目的とすることがあり、その様な態様として好ましくは、糖タンパク質であることが望ましい。糖タンパク質として具体的には、
・ トラスツズマブ、リツキシマブ、パニツムマブ、ペルツズマブ、オビヌツズマブ、ベバシズマブ、トシリズマブ、アダリムマブ、イピリムマブ、ダラツムマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブ、ペンブロリズマブ、モガムリズマブ、ブレンツキシマブ、イクセキズマブ、セクキヌマブ、ブロダルマブ、オマリズマブ、エボロクマブ、デノスマブ、イダルシズマブ、アリロクマブ、ディヌツキシマブ、レスリズマブ、アレンツズマブ、ブリアキヌマブ、オクレリズマブ、ロモソズマブ、ベズロトクスマブ、サリルマブ、ブロスマブ、ベンラリズマブ、サペリズマブ、レブリキズマブ、ファルレツズマブ、ガンテネルマブ、パトリツマブ、イネビリズマブ、アヅカツマブ、チルドラキズマブ、ファシヌマブ、マルゲツキシマブ、ボコシズマブ、デュピルマブ、エレヌマブ、ビマグルマブ、デュルバルマブ、ガルカネズマブ、リサンキズマブ、アンデカリキシマブ、アベルマブ、バダスツキシマブ、ベゲロマブ、スプタブマブ、デパツキシズマブ、オピシヌマブ、タネツマブ、オクラツズマブ、コルツキシマブ、パムレブルマブ、リリルマブ、フルラヌマブ、テプロツムマブ、ウレルマブ、ブレセルマブ、ランドグロズマブ、ネイフリズマブ、フォラルマブ、アンルキンズマブ、コドリツズマブ、イクルクマブ、グレンバツズマブ、ガニツマブ、アマツキシマブ、エンシツキシマブ、ナミルマブ、ポネズマブ、デクトレクマブ、イサツキシマブ、クラウディキシマブ、オロキズマブ、マブリリムマブ、フィクラツズマブ、モナリズマブ、クレネズマブ、ディリダブマブ、デムシズマブ、レンジルマブ、セリバンツマブ、ブロソズマブ、オンツキシズマブ、ロデルシズマブ、クラザキズマブ、ポラツズマブ、シムツズマブ、デニンツズマブ、アネツマブ、ネモリズマブ、インダツキシマブ、イマルマブ、オテレルツズマブ、タレックスツマブ、ルリズマブ、テシドルマブ、エミベツズマブ、アブリルマブ、ブラジクマブ、エマクツズマブ、ルムレツズマブ、ミルベツキシマブ、バルリルマブ、カブラリズマブ、トレボグルマブ、エビナクマブ、ピジリムマブ、ロバルピツズマブ、リヌクマブ、サシツズマブ、セラリズマブ、ビメキズマブ、ウブリツキシマブ、ロイコツキシマブ、ベセンクマブ、ウロクプルマブ、バンドルツズマブ、ソネプシズマブ、アティヌマブ、フランボツマブ、ブロンティクツズマブ、バンティクツマブ、コンシズマブ、セバシズマブ、エノブリツズマブ、ラルパンシズマブ、ネシツムマブ、オファツムマブ、ラムシルマブ、エロツズマブ、ナタリズマブ、ベドリズマブ、ベリムマブ、エクリズマブ、パリビズマブ、エプラツズマブ、トレメリブマブ、トラロキヌマブ、エトロリズマブ、シルクマブ、オララツマブ、リサンキズマブ、リゲリズマブ、パノバクマブ、ティソムマブ、セツキシマブ、ゴリムマブ、インフリキシマブ、シルツキシマブ、ウステキヌマブ、メポリズマブ、カナキヌマブ、バシリキシマブ、ダクリズマブ、ソラネツマブ、アニフロルマブ、ゲボキズマブ、グセルクマブ、エルゲンツマブ、エンフォルツマブ、クロテヅマブ、オレクルマブ、ゲリリムズマブ、ネスバクマブ、パルサツズマブ、ペラキズマブ、ナルナツマブ、エナバツズマブ、ソフィツズマブ、エノティクマブ、パテクリズマブ、トベツマブ、ピナツズマブ、フェザキヌマブ、プラクルマブ、サマリズマブ、オザネズマブ、バテリズマブ、アスクリンバクマブ、ダセツズマブ、カルルマブ、フレソリムマブ、イマガツズマブ、オナルツズマブ、オクセルマブ等のモノクローナル抗体、
・ エタネルセプト、アバタセプト、ベラタセプト、アフリベルセプト、リロナセプト、エフラロクトコグ、エフトレノナコグ、デュラグルチド、アタシセプト、ルスパテルセプト、バビネルセプト、アシネルセプト、ダランテルセプト、ソタテルセプト、イパフリセプト、ラマテルセプト、アスフォターゼ等の抗体融合タンパク質、
・ エリスロポエチン、ダルベポエチン、アルテプラーゼ、アニストレプラーゼ、モンテプラーゼ、テネクテプラーゼ、レテプラーゼ、オクタコグ、ルリオクタコグ、モロクトコグ、ツロクトコグ、スソクトコグ、シモクトコグ、ノナコグ、トレノナコグ、エプタコグ、レノグラスチム、イミグルセラーゼ、ドルナーゼ、アガルシダーゼ、ラロニダーゼ、アルグルコシダーゼ、ベラグルセラーゼ、ガルスルファーゼ、イズルスルファターゼ、タリグルセラーゼ、ヒアロニダーゼ、エロスルファーゼ、フォリトロピン、チロトロピン、セルリポナーゼ等の組換え糖タンパク質、
・ エミシズマブ、バヌシズマブ、イスティラツマブ、パシツキシズマブ、デュリゴツズマブ、デュボルツキシズマブ等の二重特異性抗体、または
・ 糖鎖を有するワクチンおよびウイルス様粒子VLP等が挙げられる。
【0037】
また、糖鎖のないタンパク質としては、具体的には、
・ ScFv抗体、Fab抗体、およびそれらの改変、融合タンパク質、
・ ATF4、ATF6、VAMP8 及びSnap23等の機能性因子、
・ GFP、DsRed、CFP、YFP、SEAP等のレポーター、
・ EGFR、VEGF、PDGFなどの受容体、糖鎖のないワクチン、ウイルス様粒子等が挙げられる。
【0038】
また、本発明において、目的遺伝子は、アンチセンス、siRNA、アプタマー、miRNAアンチセンス、miRNA mimic、デコイ、CpGオリゴ等の機能性核酸、タンパク質と融合させて核酸融合タンパク質を構成させるための機能性核酸をコードしていることが好ましい。
【0039】
また、本発明において発現単位は、プロモーター配列や転写終結シグナル配列等の発現に必要な要素を含む発現ユニットとして組込まれることが好ましい。したがって、本発明の一つの態様によれば、発現単位は、少なくともプロモーター配列および転写終結シグナル配列を含んでなる。
【0040】
また、上記プロモーターや転写終結シグナルは、目的遺伝子の種類、性質等に応じて適宜決定してよく、かかるプロモーター配列の好適な例としては、CHEF1αプロモーター、hEF1プロモーター、CMVプロモーター、SV40プロモーター、CAGプロモーター、CAGGプロモーター、リボソーマルプロテインを駆動するプロモーター、ヒートショックプロテインを駆動するプロモーター、U6プロモーター、Tet発現誘導プロモーター、クロラムフェニコール発現誘導プロモーター等が挙げられる。また、転写終結シグナル配列の好適な例としては、BGHポリAシグナル配列、SV40ポリAシグナル配列等が挙げられる。
【0041】
また、プロモーター配列、転写終結シグナル配列の他の発現に必要な要素としては、例えば、目的遺伝子を効率的に発現させるための調節エレメント(例えば、エンハンサー、IRES(internal ribosome entry site)配列、UCOE、STAR、MAR、Power express element等を適宜選択して用いてよい。調節エレメントはその性質に応じて、発現ユニットにおける適切な位置に配置することが可能である。これら発現に必要な要素は、タンパク質等の目的物質の生産性等を勘案して適宜選択される。
【0042】
本発明の一つの態様によれば、一つの発現単位における目的遺伝子を異なるものとすることができる。このような複数種の目的遺伝子の発現を長期間、安定して生産できることは本発明の注目すべき利点である。
【0043】
複数の発現単位および間隙配列の導入
本発明において、発現単位および間隙配列は、その複数が導入可能であれば、導入の方法は限定されないが、例えば段階的に導入する方法および一度に複数導入する方法が挙げられる。
【0044】
段階的に導入する方法は例えば、Cre、φC31、R4、Flp等の組換え酵素を用いる方法、TALEN、CRISPR/Cas9等に代表されるゲノム編集技術を用いる方法等が挙げられる。Cre組換え酵素を用いる方法の好ましい態様によれば、特開2009-189318号公報(特許文献4)が開示する、逐次遺伝子組込みシステム(Accumulative Gene Integration System;AGIS)により行われることが好ましい。この特許文献4の開示内容は、引用することにより本明細書の開示の一部とされる。
【0045】
一度に複数導入する方法は例えば、複数の発現単位および間隙配列全長を化学合成し、導入する方法等が挙げられる。
【0046】
AGIS(逐次遺伝子組込みシステム)
この方法は、組換え酵素Creと、変異LoxP配列とを用い、染色体への目的遺伝子の導入を繰り返し行うことができる、換言すれば、染色体上での目的遺伝子の増幅を行うことができる方法である。この方法は、LoxPのアーム変異とスペーサー変異の両者の特性を組み合わせることによって、Cre依存的に独立して不可逆的な挿入反応がおこることを利用したものであり、2回の組込反応の後に組換え可能なターゲットサイトが初期状態に戻るように設計する。これにより遺伝子組込み反応を原理的には無限に繰り返すことが可能となる。具体的には、
組換え酵素Creと、
スペーサー領域、並びにその左右にそれぞれ配置された左アーム領域及び右アーム領域からなる、Creのターゲットサイトと
を用いる遺伝子組換え方法であって:
(A)スペーサー領域1、変異のある一方のアーム領域、及び野生型である他方のアーム領域からなるターゲットサイト1であって、宿主染色体に導入されたもの;
(B)遺伝子1、及び遺伝子1の両側にそれぞれ連結されたターゲットサイト2及びターゲットサイト3を含む組込カセットであって、
このときターゲットサイト2は、スペーサー領域1、及び変異のある、ターゲットサイト1とは反対側であって、かつ遺伝子1に近い側である一方のアーム領域、及び野生型である他方のアーム領域からなり、そして
ターゲットサイト3は、スペーサー領域1とは独立して機能可能なスペーサー領域2、及び変異のある、ターゲットサイト1と同じ側であって、かつ遺伝子1に近い側である一方のアーム領域、及び野生型である他方のアーム領域からなるもの;及び
(C)遺伝子2、遺伝子2の両側にそれぞれ連結されたターゲットサイト4及びターゲットサイト5を含む置換カセットであって、
このときターゲットサイト4は、スペーサー領域2、及び変異のある、ターゲットサイト1とは反対側であって、かつ遺伝子2に近い側の一方のアーム領域、及び野生型である他方のアーム領域からなるもの
このときターゲットサイト5は、スペーサー領域3(但し、スペーサー領域3は、スペーサー領域1と同じか、又はスペーサー領域1及び2各々とは独立して機能可能なものである。)、及び変異のある、ターゲットサイト1と同じ側であって、かつ遺伝子2に近い側の一方のアーム領域、及び野生型である他方のアーム領域からなるもの
を準備し;
(1)ターゲットサイト1と組込カセットとを、Creによって反応させ、反応生成物を得る工程;そして
(2)該反応生成物と置換カセットとを、Creよって反応させる
工程を含む、染色体上で2以上の組換えを行うための、遺伝子組換え方法である。
【0047】
上記における、「(A)スペーサー領域1、変異のある一方のアーム領域、及び野生型である他方のアーム領域からなるターゲットサイト1であって、宿主染色体に導入されたもの」の調製、すなわち導入起点の染色体への導入方法には、(1)例えばホモロジーアームベクターを用いて相相同組換えにより動物細胞の所定の部位に導入する方法、(2)遺伝子編集技術により、所定の部位に導入する方法、(3)ランダム挿入により好適な部位に偶発的に導入された細胞を選別する方法などにより行うことが出来る。
【0048】
ベクター
本発明において、複数の発現単位および間隙配列は、ベクターに組込んで哺乳動物細胞ゲノムに導入することができる。このようなベクターシステムとしては、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクターまたは人工染色体ベクター等が挙げられる。
【0049】
ベクターは、制限酵素切断反応およびライゲーション反応を組み合わせて好適に構築される。例えば、各構成ユニットの両末端に制限酵素の認識配列を含有させ、該認識配列用の制限酵素で切断反応を行い、不要なDNA配列(大腸菌内での操作用配列等)をゲル切り出し等の処理によって除去し、得られたユニットのライゲーション反応を行うことにより、ベクターを構築しうる。
【0050】
ライゲーション反応により構築したベクターDNAは、フェノール・クロロホルム抽出等により精製し、ベクターの種類等を勘案して選択した大腸菌、酵母等の宿主細胞において増殖させることができる。
【0051】
ベクターの導入
上記ベクターの導入方法としては、一般的に用いられる方法が好適に利用できる。例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、DEAE-デキストラン法、リポソーム試薬を用いる方法、カチオン性脂質を用いたリポフェクション法、ウイルスベクターを用いる方法などが挙げられる。ここで、ベクターが環状である場合、公知の方法により線状化して細胞に導入されてもよい。
【0052】
また、ベクターやタンパク質等の目的物質の性質によっては、組換え細胞の取得効率等を勘案して、Cre/LoxPシステムやFlp/FRTシステムなどのような、組換え酵素を利用した部位特異的導入システム、あるいはウイルス由来インテグラーゼ、またはウイルスベクター、もしくはTALEN、CRISPR/Cas9等に代表されるゲノム編集技術を用いる方法も適宜適用してよく、本発明にはかかる態様も包含される。
【0053】
細胞株の選択
また、本発明による製造方法にあっては、上記導入後、細胞の選択を行うことが好ましい。選択工程は、マーカー遺伝子を用いる方法、目的遺伝子あるいは遺伝子産物の発現量を指標として選別する方法等を用いることにより、高い精度で細胞選択を行うことが可能となる。
【0054】
また、本発明による製造方法にあっては、組換え細胞を取得後、Chemical Defined 培地などに馴化させることにより無血清下での培養も可能である。かかる馴化条件は、組換え細胞の状態に応じて適宜決定することができる。
【0055】
目的物質の製造方法
また、本発明の別の態様によれば、上記組換え細胞を用意し、該細胞を培養してタンパク質等の目的物質を産生することを含んでなる、タンパク質等の目的物質の製造方法が提供される。上記方法によれば、タンパク質等の目的物質を効率的かつ安定に取得することができる。
【0056】
上記培養工程における培地としては、組換え細胞の状態に応じて公知の培地を適宜選択してよいが、無血清培地が好ましい。また、上記培地は、培養コストおよび精製コストを勘案すれば、選択薬剤を添加しないものが好ましい。上記培地の好適な例としては、Chemical Defined培地等が挙げられる。
【0057】
上記培養方法としては、バッチカルチャー法、フェッド-バッチカルチャー法、還流培養法など公知の方法が適用可能である。
【実施例】
【0058】
本発明を以下の実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0059】
下記の実施例において用いたLoxP配列は以下の通りとした。
【表1】
【0060】
実施例1、2および比較例1の細胞の作製および評価
工程1:互いに異なる配列の間隙配列を発現単位間にもつ逐次導入ベクターの作製
工程(1-1) トラスツズマブ重鎖発現単位ベクター作製
マウスIgκの分泌シグナルペプチド(METDTLLLWVLLLWVPGSTGD)(SEQ ID NO:1)に、トラスツズマブ重鎖のアミノ酸配列(独立行政法人医薬品医療機器総合機構の平成20年1月16日のトラスツズマブ(遺伝子組換え)審査報告書より取得)を結合し、この配列をコードするDNA配列を設計した。次に、配列の5’側には制限酵素EcoRIの認識配列(下線部)とコザック配列(小文字)(GAATTCgccgccacc)を付加し、3’末端には終止コドンと制限酵素XhoI認識配列(tgaCTCGAG)を付加した。この配列に基づいてDNAを合成し、トラスツズマブ重鎖遺伝子断片を作製した。
【0061】
次に、pmaxGFPプラスミド(amaxa)を鋳型として、SV40pA‐s/SV40pA‐aプライマーセットによるPCR反応でSV40ポリAを増幅し、SV40ポリA断片を得た。センスプライマーの5’端には制限酵素XhoI認識配列(下線部)を、アンチセンスプライマーの5’端には制限酵素ClaI認識配列(下線部)を付加している。
SV40pA‐sプライマー:5’‐CTCGAGctcgatgagtttggacaaac‐3’((SEQ ID NO:2)
SV40pA‐aプライマー:5’‐ATCGATGTCGACAAGCTTTCTAGAACGCGTtaccacatttgtagaggtt‐3’(SEQ ID NO:3)
【0062】
次に、CHO-K1(ATCC CCL-61)のゲノムDNAをMAG Extractor(TOYOBO)で抽出し、このDNAを鋳型として、CHEF1αプロモーター‐s/CHEF1αプロモーター‐aプライマーセットによるPCR反応を行い、CHO内在性のEF1αプロモーターを増幅し、CHEF1αプロモーター断片を得た。センスプライマーの5’端には制限酵素ClaI認識配列(下線部)を、アンチセンスプライマーの5’端には制限酵素EcoRI認識配列(下線部)を付加している。
CHEF1αプロモーター‐sプライマー:5’‐ATCGATGTCGACAAGCTTTCTAGAACGCGTccacacaatcagaaccaca‐3’(SEQ ID NO:4)
CHEF1αプロモーター‐aプライマー:5’‐GAATTCgcggtggttttcacaacacc‐3’(SEQ ID NO:5)
【0063】
次に、pCR-BluntII-TOPOベクター(Life technologies)を鋳型として、pUC‐s/pUC‐aプライマーセットでPCR反応を行い、カナマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、および複製起点を増幅し、プラスミドの基本骨格を得た。センスプライマーの5’端と、アンチセンスプライマーの5’端には制限酵素ClaI認識配列(下線部)をそれぞれ付加している。
pUC‐sプライマー:5’‐ATCGATGCTTACATGGCGATAGCTAG‐3’(SEQ ID NO:6)
pUC‐aプライマー:5’‐ATCGATGAATCAGGGGATAACGCAGG‐3’(SEQ ID NO:7)
【0064】
作製、取得したCHEF1αプロモーター断片、トラスツズマブ重鎖遺伝子断片、SV40ポリA断片、およびプラスミドの基本骨格を、末端の制限酵素切断とライゲーションで連結し、
図1(1)のトラスツズマブ重鎖発現単位ベクターを作製した。
【0065】
得られたトラスツズマブ重鎖発現単位ベクターを制限酵素MluIで切断し、アガロースゲル電気泳動を行い、
図1(2)のトラスツズマブ重鎖発現単位を切り出して抽出した。
【0066】
工程(1-2) トラスツズマブ軽鎖発現単位ベクター作製
上記工程(1-1)と同様に、マウスIgκの分泌シグナルペプチドに、トラスツズマブ軽鎖のアミノ酸配列(上記工程(1-1)と同じ審査報告書より取得)を結合し、この配列をコードするDNA配列を設計した。次に、配列の5’側には制限酵素EcoRIの認識配列(下線部)とコザック配列(小文字)(GAATTCgccgccacc)を付加し、3’末端には終止コドン(小文字)と制限酵素XhoI認識配列(下線部)(tgaCTCGAG)を付加した。この配列に基づいてDNAを合成し、トラスツズマブ軽鎖遺伝子断片を作製した。
【0067】
上記工程(1-1)で取得、作製したCHEF1αプロモーター断片、SV40ポリA断片、プラスミドの基本骨格、およびトラスツズマブ軽鎖遺伝子断片を、末端の制限酵素切断とライゲーションで連結し、
図2(1)のトラスツズマブ軽鎖発現単位ベクターを作製した。
【0068】
こうして得られたトラスツズマブ軽鎖発現単位ベクターを制限酵素MluIで切断し、アガロースゲル電気泳動を行い、
図2(2)のトラスツズマブ軽鎖発現単位を切り出して抽出した。
【0069】
工程(1-3) x1 AGIS トラスツズマブ発現ベクター(ベクター1)作製
pQBI25プラスミドベクター(和光純薬工業)を鋳型として、pUC‐amp‐s1/pUC‐amp‐a1プライマーセットでPCR反応を行い、複製起点とアンピシリン耐性遺伝子を含む断片(1)を得た。センスプライマーの5’端には制限酵素SpeI認識配列(下線部)および表1のLoxPsp8’配列(小文字)を、アンチセンスプライマーの5’端には制限酵素BamHI認識配列(下線部)を付加している。
pUC‐amp‐s1プライマー:5’‐ACTAGTCtaccgttcgtataaagtatcctatacgaagttatTAGCTTCAGTGAGCAAAAG‐3’(SEQ ID NO:8)
pUC‐amp‐a1プライマー:5’‐GGATCCtcgcgtaggtggcacttttc‐3’(SEQ ID NO:9)
【0070】
次に、pBApo-EF1α Purベクター(TaKaRa)を鋳型とし、puro‐s/puro‐aプライマーセットでPCR反応を行い、ピューロマイシン耐性遺伝子とSV40ポリAを含む断片を得た。センスプライマーの5’端には制限酵素BamHI認識配列(下線部)および表1のLoxPwt配列(小文字)を、アンチセンスプライマーの5’端には制限酵素SpeI認識配列(下線部)および表1のLoxPsp10配列の相補配列(小文字)を付加している。
puro‐sプライマー:5’‐GGATCCataacttcgtatagcatacattatacgaagttatCCACCGAGTCAAGCCCACGGT‐3’(SEQ ID NO:10)
puro‐aプライマー:5’‐ACTAGTAAGCTTACGCGTtaccgttcgtataattatggttatacgaagttatACGATCATAATCAGCCATAC‐3’(SEQ ID NO:11)
【0071】
上で得られた複製起点とアンピシリン耐性遺伝子を含む断片(1)と、ピューロマイシン耐性遺伝子とSV40ポリAを含む断片を連結し、x1基本ベクターを作製した。
【0072】
次に、ヒト胎児腎細胞由来のHEK293(JCRB ID:9068)のゲノムDNAを鋳型とし、ダミー配列‐s/ダミー配列‐aプライマーセットで3130bpのダミー配列を増幅した。センスプライマーの5’端には制限酵素HindIII認識配列(下線部)を、アンチセンスプライマーの5’端には制限酵素SpeI認識配列(下線部)を付加している。
ダミー配列‐sプライマー:5’‐AAGCTTGGCAACATAGCGAGACTTCG‐3’(SEQ ID NO:12)
ダミー配列‐aプライマー:5’‐ACTAGTGTGTACAGAAGGCTGAAAGG‐3’(SEQ ID NO:13)
【0073】
さらに、HEK293のゲノムDNAを鋳型とし、間隙配列A‐s/間隙配列A‐aプライマーセットで2051bpの間隙配列A(SEQ ID NO:14)をPCR増幅し、増幅産物のサイズをアガロースゲル電気泳動で確認した。センスプライマーの5’端には制限酵素MluI認識配列(下線部)を、アンチセンスプライマーの5’端には制限酵素HindIII認識配列(下線部)を付加している。
間隙配列A‐sプライマー:5’‐ACGCGTTGAAAGTGTGAGTTCCGGAG‐3’(SEQ ID NO:15)
間隙配列A‐aプライマー:5’‐AAGCTTAACTGCAGCCTATTGGTAGC‐3’(SEQ ID NO:16)
【0074】
上で得られたx1基本ベクターのMluI、HindIII部位間に間隙配列Aを挿入し、次にHindIII、SpeI部位間にダミー配列を挿入し、次にMluI部位に工程(1-1)のトラスツズマブ重鎖発現単位断片を挿入し、最後にHindIII部位に工程(1-2)のトラスツズマブ軽鎖発現単位断片を挿入し、
図3に示すベクター1を作製した。
【0075】
工程(1-4) x2 AGIS トラスツズマブ発現ベクター(ベクター2)作製
pQBI25プラスミドベクターを鋳型として、pUC‐amp‐s2/pUC‐amp‐a2プライマーセットでPCR反応を行い、複製起点とアンピシリン耐性遺伝子を含む断片(2)を得た。センスプライマーの5’端には制限酵素SpeI認識配列(下線部)および表1のLoxPsp10’配列(小文字)を、アンチセンスプライマーの5’端には制限酵素BamHI認識配列(下線部)を付加している。
pUC‐amp‐s2プライマー:5’‐ACTAGTCtaccgttcgtataaccataattatacgaagttatTAGCTTCATGTGAGCAAAAG‐3’(SEQ ID NO:17)
pUC‐amp‐a2プライマー:5’‐GGATCCtcgcgTaggtggcacttttc‐3’(SEQ ID NO:18)
【0076】
次に、pcDNA3.1/Hygro(+)ベクター(Life technologies)を鋳型とし、Hygro‐s/Hygro‐aプライマーセットでPCR反応を行い、ハイグロマイシン耐性遺伝子とSV40ポリAを含む断片を得た。センスプライマーの5’端には制限酵素BamHI認識配列(下線部)および表1のLoxPwt配列(小文字)を、アンチセンスプライマーの5’端には制限酵素SpeI認識配列(下線部)および表1のLoxPsp8配列の相補配列(小文字)を付加している。
Hygro‐sプライマー:5’‐GGATCCataacttcgtatagcatacattatacgaagttatCCAAAAAGCTGAACTCACCGC‐3’(SEQ ID NO:19)
Hygro‐aプライマー:5’‐ACTAGTAAGCTTACGCGTTaccgttcgtataggatactttatacgaagttatTAGCTCACTCATTAGGCACC‐3’(SEQ ID NO:20)
【0077】
上で得られた複製起点とアンピシリン耐性遺伝子を含む断片(2)と、ハイグロマイシン耐性遺伝子とSV40ポリAを含む断片を連結し、x2基本ベクターを作製した。
【0078】
次に、HEK293のゲノムDNAを鋳型とし、間隙配列C‐s/間隙配列C‐aプライマーセットで2045bpの間隙配列CをPCR増幅し、増幅産物のサイズをアガロースゲル電気泳動で確認した。センスプライマーの5’端には制限酵素MluI認識配列(下線部)を、アンチセンスプライマーの5’端には制限酵素HindIII認識配列(下線部)を付加している。
間隙配列C‐sプライマー:5’‐ACGCGTCGTTTTCTCACTGGCTGCTG‐3’(SEQ ID NO:21)
間隙配列C‐aプライマー:5’‐AAGCTTACTCTCATAGTACCTGTCCC‐3’(SEQ ID NO:22)
【0079】
さらに、HEK293のゲノムDNAを鋳型とし、間隙配列B‐s/間隙配列B‐aプライマーセットで3093bpの間隙配列B(SEQ ID NO:23)をPCR増幅し、増幅産物のサイズをアガロースゲル電気泳動で確認した。センスプライマーの5’端には制限酵素HindIII認識配列(下線部)を、アンチセンスプライマーの5’端には制限酵素SpeI認識配列(下線部)を付加している。
間隙配列B‐sプライマー:5’‐AAGCTTGCTCATTGACACTCTGTACC‐3’(SEQ ID NO:24)
間隙配列B‐aプライマー:5’‐ACTAGTCTCACGTGGAGCAGATAAGC‐3’(SEQ ID NO:25)
【0080】
上で得られたx2基本ベクターのMluI、HindIII部位間に間隙配列C(SEQ ID NO:26)を挿入し、次にHindIII、SpeI部位間に間隙配列Bを挿入し、次にMluI部位に工程(1-1)のトラスツズマブ重鎖発現単位断片を挿入し、最後にHindIII部位に工程(1-2)のトラスツズマブ軽鎖発現単位断片を挿入し、
図4に示すベクター2を作製した。
【0081】
工程(1-5) x3 AGIS トラスツズマブ発現ベクター(ベクター3)作製
pQBI25プラスミドベクターを鋳型として、pUC‐amp‐s3/pUC‐amp‐a3プライマーセットでPCR反応を行い、複製起点とアンピシリン耐性遺伝子を含む断片(3)を得た。センスプライマーの5’端には制限酵素SpeI認識配列(下線部)および表1のLoxPsp8’配列(小文字)を、アンチセンスプライマーの5’端には制限酵素BamHI認識配列(下線部)を付加している。
pUC‐amp‐s3プライマー:5’‐ACTAGTCtaccgttcgtataaagtatcctatacgaagttatTAGCTTCATGTGAGCAAAAG‐3’(SEQ ID NO:27)
pUC‐amp‐a3プライマー:5’‐GGATCCtcgcgTaggtggcacttttc‐3’(SEQ ID NO:28)
【0082】
次に、pcDNA6/V5-His/lacZベクター(Life technologies)を鋳型とし、Bsd‐s/Bsd‐aプライマーセットでPCR反応を行い、ブラストサイジン耐性遺伝子とSV40ポリAを含む断片を得た。センスプライマーの5’端には制限酵素BamHI認識配列(下線部)および表1のLoxPwt配列(小文字)を、アンチセンスプライマーの5’端には制限酵素SpeI認識配列(下線部)および表1のLoxPsp10配列の相補配列(小文字)を付加している。
Bsd‐sプライマー:5’‐GGATCCataacttcgtatagcatacattatacgaagttatCCGCCAAGCCCTGTCCCAGGA‐3’(SEQ ID NO:29)
Bsd‐aプライマー:5’‐ACTAGTAAGCTTACGCGTtaccgttcgtataattatggttatacgaagttatACGATCATAATCAGCCATAC‐3’(SEQ ID NO:30)
【0083】
上で得られた複製起点とアンピシリン耐性遺伝子を含む断片(3)と、ブラストサイジン耐性遺伝子とSV40ポリAを含む断片を連結し、x3基本ベクターを作製した。
【0084】
次に、HEK293のゲノムDNAを鋳型とし、間隙配列E‐s/間隙配列E‐aプライマーセットで2033bpの間隙配列EをPCR増幅し、増幅産物のサイズをアガロースゲル電気泳動で確認した。センスプライマーの5’端には制限酵素MluI認識配列(下線部)を、アンチセンスプライマーの5’端には制限酵素HindIII認識配列(下線部)を付加している。
間隙配列E‐sプライマー:5’‐ACGCGTCAACCTACTGTGGCATAGAC‐3’(SEQ ID NO:31)
間隙配列E‐aプライマー:5’‐AAGCTTACAGGCAGAGGTTATCCTGG‐3’(SEQ ID NO:32)
【0085】
さらに、HEK293のゲノムDNAを鋳型とし、間隙配列D‐s/間隙配列D‐aプライマーセットで3001bpの間隙配列D(SEQ ID NO:33)をPCR増幅し、増幅産物のサイズをアガロースゲル電気泳動で確認した。センスプライマーの5’端には制限酵素HindIII認識配列(下線部)を、アンチセンスプライマーの5’端には制限酵素SpeI認識配列(下線部)を付加している。
間隙配列D‐sプライマー:5’‐AAGCTTAGATCACAGCTCACTGTGGC‐3’(SEQ ID NO:34)
間隙配列D‐aプライマー:5’‐ACTAGTCGGCTGACACCTGTAATCTC‐3’(SEQ ID NO:35)
【0086】
上で得られたx3基本ベクターのMluI、HindIII部位間に間隙配列E(SEQ ID NO:36)を挿入し、次にHindIII、SpeI部位間に間隙配列Dを挿入し、次にMluI部位に工程(1-1)のトラスツズマブ重鎖発現単位断片を挿入し、最後にHindIII部位に工程(1-2)のトラスツズマブ軽鎖発現単位断片を挿入し、
図5に示すベクター3を作製した。
【0087】
工程2:互いに異なる配列の間隙配列を発現単位間にもつ逐次導入ベクターのCHOのhprt遺伝子座への逐次導入
工程(2-1) CHO hprt AGIS起点ベクター作製
HEK293のゲノムDNAを鋳型とし、hEF1‐s/hEF1‐aプライマーセットでhEF1プロモーター配列を増幅した。センスプライマーの5’端には制限酵素MluI認識配列(下線部)を、アンチセンスプライマーの5’端にはリン酸基(P)を付加している。
hEF1‐sプライマー:5’‐ACGCGTagccgaacctctcgcaagtc‐3’(SEQ ID NO:37)
hEF1‐aプライマー:5’P‐TTTGGCTTTTAGGGGTAGTTTTCACGACAC‐3’(SEQ ID NO:38)
【0088】
次に、TOTO株式会社所有のEGFP遺伝子配列とSV40ポリA配列を含むベクターを鋳型として、EGFP‐s/EGFP‐aプライマーセットでEGFP遺伝子配列+SV40ポリA配列を増幅した。センスプライマーの5’端にはリン酸基(P)と表1のLoxPwt配列(小文字)を、アンチセンスプライマーの5’端には制限酵素XbaI認識配列(下線部)と表1のLoxPsp8配列の相補鎖(小文字)を付加している。
EGFP‐sプライマー:5’P‐ATGataacttcgtatagcatacattatacgaagttatCCATGGTGAGCAGGGCGAGGA‐3’(SEQ ID NO:39)
EGFP‐aプライマー:5’‐TCTAGAtaccgttcgtataggatactttatacgaagttatTACCACATTTGTAGAGGTTT‐3’(SEQ ID NO:40)
【0089】
次に、hEF1プロモーター配列とEGFP遺伝子配列+SV40ポリA配列のPCR増幅産物をライゲーション反応によって連結し、hEF1プロモーター+EGFP+SV40ポリA断片を作製した。
【0090】
次に、WO09/022656号公報(特許文献2)に記載のCHO 2.5kbx2 重鎖ベクターを制限酵素MluIおよびXbaIで切断し、3.1kbpの断片を除去し、前項で作製したhEF1プロモーター+EGFP+SV40ポリA断片を、挿入し、
図6に示すCHO hprt AGIS起点ベクターを作製した。
【0091】
工程(2-2) Cre発現プラスミドの作製
705-Cre cm,Expression Vector(フナコシ)を鋳型として、Cre‐s/Cre‐aプライマーセットでPCR反応を行い、Cre組換え酵素遺伝子を増幅した。センスプライマーの5’端には制限酵素KpnI認識配列(下線部)を、アンチセンスプライマーの5’端には制限酵素BglII認識配列(下線部)を付加している。
Cre‐sプライマー:5’‐GGTACCGAAGCCGCTAGCGCTACCGGTCGCCACCatgtccaatttactgccgtac‐3’(SEQ ID NO:41)
Cre‐aプライマー:5’‐AGATCTctaatcgccatcttccagca‐3’(SEQ ID NO:42)
【0092】
次に、pmaxGFPプラスミドを制限酵素KpnI、BglIIで切断し、GFP配列を除去し、前項のCre組換え酵素遺伝子増幅産物を挿入してCre発現プラスミドを作製した。
【0093】
工程(2-3) CHO hprt AGIS起点ベクターのCHOのhprt遺伝子座への導入
CHO―K1(ATCC CCL-61)を、無血清浮遊培養に馴化した株を準備した。この細胞株をAMEM培地(組成;Advanced MEM(Life Technologies)、5%[v/v]FBS(Life Technologies)、1× GlutaMAX(Life Technologies))で、37℃、8%CO2の条件で2日間培養した。
【0094】
この培養細胞を、Trypsin/EDTA(Life Technologies)で剥離し、AMEM培地で反応を停止後、遠心分離した。この細胞ペレットをPBS(和光純薬工業)で洗浄後、遠心し、PBSで懸濁した。PBS細胞懸濁液は細胞密度を測定し、2×106 cellsを遠心し、得られたペレットをNucleofection T solution(amaxa)で懸濁した後、線状化したCHO hprt AGIS起点ベクター2μgと混合した。得られた混合液はNucleofectorII(amaxa)プログラムU-023により電圧印加を行った。
【0095】
電圧印加を行った細胞をAMEM培地5mLに懸濁し、段階希釈しながら96ウェルマイクロプレートに播種した後、37℃、8%CO2の条件で培養した。トランスフェクションから2日後にG418(Life Technologies)を加えた(最終濃度;500μg/mL)。 さらに4日後にG418(最終濃度;500μg/mL)および6-TG(最終濃度;50μM)(和光純薬工業)を加え、さらに6日間培養した。
【0096】
培養後、全ウェルを確認し、G418/6TG耐性コロニーを単離した。単離したクローンを、G418と6TGを添加したAMEM培地で96ウェルプレートから、24ウェルプレート、6ウェルプレート、100mmディッシュに拡大培養した。
【0097】
次に、各クローンをTrypsin/EDTAで剥離し、AMEM培地で反応を停止後、遠心分離した。得られた細胞ペレットをCD OptiCHO培地(組成;CD OptiCHO(Life Technologies)、1× GlutaMAX(Life Technologies))で洗浄後、再度遠心し、CD OptiCHO培地に懸濁した。前記細胞懸濁液は125mlフラスコで、37℃、8%CO2、128rpmの条件で継代培養した。
【0098】
得られた陽性クローンのゲノムDNAを、MAG Extractor(TOYOBO)で抽出した。抽出したゲノムDNAを、primer1/primer2プライマーセット、およびprimer3/primer4プライマーセットを用いたゲノムPCRで解析した。
primer1:5’―GACACATGCAGACAGAACAG―3’(SEQ ID NO:43)
primer2:5’―AACTTCTCGGGGACTGTGGG―3’(SEQ ID NO:44)
primer3:5’―CTATCGCCTTCTTGACGAGT―3’(SEQ ID NO:45)
primer4:5’―GTTTGCTAACACCCCTTCTC―3’(SEQ ID NO:46)
【0099】
図7Bに示すように、正しい相同組換えクローンの場合、ホモロジーアーム1側では3132bpのPCR産物が増幅される。また、ホモロジーアーム2側では2914bpのPCR産物が増幅される。解析結果は
図7Cに示されるとおりであった。解析した8クローン全てにおいて、ホモロジーアーム1側で3132bp、およびホモロジーアーム2側で2914bpの増幅断片が増幅した。そこで、クローンNo.1をCHO hprt AGIS起点ベクター導入株として、以下の実験に用いた。
【0100】
工程(2-4) ベクター1のCHOのhprt遺伝子座への導入
上記工程(2-3)で作製したCHO hprt AGIS起点ベクター導入株に、上記工程(2-3)と同様に電圧印加によりベクター1を2μgとCre発現プラスミド0.2μgを導入し、96ウェルプレートに播種した。
【0101】
播種から2日後、6日後の培地交換、および拡大培養にはAMEM培地+puromycin(最終濃度;12μg/mL)(Life Technologies)を用いた。
【0102】
取得した陽性クローンのゲノムDNAを、MAG Extractorで抽出した。抽出したゲノムDNAを、primer5/primer6プライマーセット、およびprimer7/primer8プライマーセットを用いたゲノムPCRで解析した。
primer5:5’-GGGAGCTCAAAATGGAGGAC-3’(SEQ ID NO:47)
primer6:5’-GAAGAGTTCTTGCAGCTCGG-3’(SEQ ID NO:48)
primer7:5’-GCTTGCATTGTATGTCTGGC-3’(SEQ ID NO:49)
primer8:5’-GGTTCTTTCCGCCTCAGAAG-3(SEQ ID NO:50)
【0103】
図8Bに示すように、正しい逐次導入クローンの場合、LoxPwt組換え部位周辺では573bpのPCR産物が増幅される。また、LoxPsp8組換え部位周辺では204bpのPCR産物が増幅される。解析結果は
図8Cに示されるとおりであった。解析した10クローン中10クローンにおいて、LoxPwt組換え部位周辺で573bp、LoxPsp8組換え部位周辺で204bpの増幅断片が増幅した。そこで、クローンNo.6をベクター1導入株として、以下の実験に用いた。
【0104】
工程(2-5) ベクター1導入株へのベクター2の逐次導入:細胞例1の作製
上記工程(2-4)で作製したベクター1導入株に、上記工程(2-3)と同様に電圧印加によりベクター2を2ugとCre発現プラスミド0.2ugを導入し、96ウェルプレートに播種した。
【0105】
播種から2日後、6日後の培地交換、および拡大培養にはAMEM培地+Hygromycin(最終濃度;500μg/mL)(Life Technologies)を用いた。
【0106】
取得した陽性クローンのゲノムDNAを、MAG Extractorで抽出した。抽出したゲノムDNAを、primer9/primer10プライマーセット、およびprimer11/primer12プライマーセットを用いたゲノムPCRで解析した。
primer9:5’-GGGAGCTCAAAATGGAGGAC-3’(SEQ ID NO:51)
primer10:5’-GCAATAGGTCAGGCTCTCGC-3’(SEQ ID NO:52)
primer11:5’-GAATGGGTTGGCGGAGCTAC-3’(SEQ ID NO:53)
primer12:5’-GCTGTGGTTCTGATTGTGTGG-3’(SEQ ID NO:54)
【0107】
図9Bに示すように、正しい逐次導入クローンの場合、LoxPwt組換え部位周辺では684bpのPCR産物が増幅される。また、LoxPsp10組換え部位周辺では376bpのPCR産物が増幅される。解析結果は
図9Cに示されるとおりであった。LoxPsp10組換え部位周辺の解析を行ったところ、24クローン中10クローンで376bpの増幅産物が増幅した。その10クローンについてLoxPwt組換え部位周辺の解析を行ったところ、10クローン中10クローンで684bpの増幅産物が増幅した。そこで、クローンNo.1をベクター1およびベクター2導入株(細胞例1)として、以下の実験に用いた。
【0108】
工程(2-6) ベクター1およびベクター2導入株へのベクター3の逐次導入:細胞例2の作製
上記工程(2-4)で作製したベクター1およびベクター2導入株に、上記工程(2-4)と同様に電圧印加によりベクター3を2μgとCre発現プラスミド0.2μgを導入し、96ウェルプレートに播種した。
【0109】
播種から2日後、6日後の培地交換、および拡大培養にはAMEM培地+Blasticidin(最終濃度;12μg/mL)(Life Technologies)を用いた。
【0110】
取得した陽性クローンのゲノムDNAを、MAG Extractorで抽出した。抽出したゲノムDNAを、primer13/primer14プライマーセット、およびprimer15/primer16プライマーセットを用いたゲノムPCRで解析した。
primer13:5’-GGGAGCTCAAAATGGAGGAC-3’(SEQ ID NO:55)
primer14:5’-GCTGTGGTTCTGATTGTGTGG-3’(SEQ ID NO:56)
primer15:5’-GACTACAAGTGCGTGCCATC-3’(SEQ ID NO:57)
primer16:5’-GCTGTGGTTCTGATTGTGTGG-3’(SEQ ID NO:58)
【0111】
図10Bに示すように、正しい逐次導入細胞の場合、LoxPwt組換え部位周辺では1118bpのPCR産物が増幅される。また、LoxPsp8組換え部位周辺では226bpのPCR産物が増幅される。解析結果は
図10Cに示されるとおりであった。LoxPsp8組換え部位周辺の解析を行ったところ、23クローン中11クローンで226bpの増幅産物が増幅した。その11クローンについてLoxPwt組換え部位周辺の解析を行ったところ、11クローン中11クローンで1118bpの増幅産物が増幅した。そこで、クローンNo.22をベクター1とベクター2とベクター3導入株(細胞例2)として、以下の評価に用いた。
【0112】
評価:互いに異なる配列の間隙配列を発現単位間にもつ逐次導入ベクター導入CHOの評価
評価1 間隙配列の相同性の測定
工程(1-3)、(1-4)および(1-5)で作製したベクター1、ベクター2およびベクター3の、間隙配列同士の相同性を下記のとおりに測定した。
【0113】
GENETYX Ver.10ソフトウェアに間隙配列の電子ファイルを読み込み、「Homology」コマンドの「Nucleotide vs Nucleotide Homology」を選択した。
【0114】
次に、「パラメーター」ダイアログの「Original Sequence」と「Complement Sequence」の両方にチェックを入れ、「Unit size」の値を「6」に、「Scores alignments」の値を「100」に設定した。
【0115】
次に、比較したい間隙配列の電子ファイルを「Sequence」ダイアログで「Target Sequence」に追加し、「OK」を選択して実行した。
【0116】
出力された測定結果の「Identity(%)」の値のうち、最も高い値を相同性の値として採用した。
【0117】
その結果、各間隙配列間の相同性はそれぞれ、間隙配列A-間隙配列Bは51%、間隙配列A-間隙配列Cが45%、間隙配列A-間隙配列Dが48%、間隙配列A-間隙配列Eが45%、間隙配列B-間隙配列Cが44%、間隙配列B-間隙配列D:52%、間隙配列B-間隙配列Eが46%、間隙配列C-間隙配列Dが44%、間隙配列C-間隙配列Eが45%、そして間隙配列D-間隙配列Eが45%であった。
【0118】
評価2 ベクター1導入株(比較例1)、ベクター1およびベクター2導入株(実施例1)、およびベクター1、ベクター2およびベクター3導入株(実施例2)のトラスツズマブ重鎖、軽鎖の発現量解析
工程(2-4)、(2-5)および(2-6)で作製した、ベクター1導入株(以下、「比較例1」という)、ベクター1とベクター2導入株(以下、「実施例1」という)、およびベクター1とベクター2とベクター3導入株(以下、「実施例2」という)のゲノムDNAを、MAG Extractorで抽出した。抽出したゲノムDNAトラスツズマブ重鎖、軽鎖のコピー数を、リアルタイムPCRで定量した。
【0119】
トラスツズマブ重鎖のコピー数定量は、重鎖フォワードプライマー/重鎖リバースプライマーのプライマーセットと、重鎖TaqMANプローブで実施した。
重鎖フォワードプライマー:5’-ACGAGGACCCTGAAGTGAAGTTC-3’(SEQ ID NO:59)
重鎖リバースプライマー:5’-TGTTCCTCTCTAGGCTTGGTCTTG-3’(SEQ ID NO:60)
重鎖TaqMANプローブ:5’-TACGTGGACGGCGTGGA-3’(SEQ ID NO:61)
【0120】
トラスツズマブ軽鎖のコピー数定量は、軽鎖フォワードプライマー/軽鎖リバースプライマーのプライマーセットと、軽鎖TaqMANプローブで実施した。
軽鎖フォワードプライマー:5’-TCTACTCCGCCTCCTTCCTGTA-3’(SEQ ID NO:62)
軽鎖リバースプライマー:5’-TGGCAGTAGTAGGTGGCGAAGT-3’ (SEQ ID NO:63)
軽鎖TaqMANプローブ:5’-ATCCGGCACCGACTT-3’ (SEQ ID NO:64)
【0121】
リアルタイムPCR装置は7300 Real-Time PCR(Applied Biosystems)を用いた。CHO内在性GAPDHのコピー数によって上記定量値を標準化した。
【0122】
定量結果は
図11Aに示されるとおりであった。トラスツズマブ重鎖遺伝子とトラスツズマブ軽鎖遺伝子のコピー数は、導入したそれぞれのコピー数と一致していた。
【0123】
次に、比較例1、実施例1、および実施例2の細胞を、CD OptiCHO培地で3×105 cells/mLに調製し、125mLフラスコで、37℃、8%CO2、128rpmの条件で2日間培養した。
【0124】
前項の培養液を遠心し、細胞ペレットをPBS(TaKaRa)で洗浄し、5×104 cellsからmRNAをTaq Man Gene Expression Cells―to ―CT Kit(Life Technologies)で抽出し、同キットを用いてcDNAを合成した。調整したcDNAのトラスツズマブ重鎖とトラスツズマブ軽鎖のコピー数を、重鎖フォワードプライマー/重鎖リバースプライマーのプライマーセットと、重鎖TaqMANプローブを用いてリアルタイムPCRで定量した。内在性GAPDHのmRNAコピー数によって上記定量値を標準化し、トラスツズマブ遺伝子導入コピー数1の細胞株を1.0とした相対コピー数を算出した。
【0125】
定量結果は
図11Bに示されるとおりであった。トラスツズマブ重鎖mRNAの相対コピー数は、トラスツズマブ重鎖遺伝子導入コピー数が1、2、および3コピーの細胞株において、それぞれ1.0、1.8、および2.5であり、遺伝子コピー数にほぼ比例して増加していた。
【0126】
また、
図11Bに示されるように、トラスツズマブ軽鎖mRNAの相対コピー数は、トラスツズマブ軽鎖遺伝子導入コピー数が1、2、3コピーの細胞株において、それぞれ1.0、1.6、2.7であり、遺伝子コピー数にほぼ比例して増加していた。
【0127】
評価2 比較例1、実施例1、および実施例2の細胞のトラスツズマブ生産性および長期発現安定性の解析
比較例1、実施例1、および実施例2の細胞それぞれを、125mLフラスコで、CD OptiCHO培地、37℃、8%CO2、128rpmの条件で継代培養維持し、適時、各細胞株のトラスツズマブ生産量を測定した。
【0128】
トラスツズマブ生産量測定は、次のように実施した。樹立直後、あるいは継代維持中の細胞株を、CD OptiCHO培地で2×105 cells/mLに調製し、125mLフラスコで37℃、8%CO2、128rpmの条件で8日間培養した。培養8日目の培養液の細胞密度を測定し、培養液を遠心して培養上清を取得した。Blitz装置(ForteBIO)でBiosensor/Protein A Tray(ForteBIO)を用いて、培地上清中のトラスツズマブ量を測定した。
【0129】
比較例1のバッチ培養でのトラスツズマブ発現量は、樹立直後で48.0mg/Lであった。また、224日間の継代培養において発現量が安定に維持された(
図12A)。
【0130】
実施例1のバッチ培養でのトラスツズマブ発現量は、樹立直後で97.1mg/Lであった。継代培養56日後までで113mg/Lに増加し、以降は168日間の継代培養中、116mg/Lで安定に維持された(
図12A)。
【0131】
実施例2のバッチ培養でのトラスツズマブ発現量は、樹立直後で164mg/Lであった。また、56日間の継代培養において発現量が安定に維持された(
図12A)。
【0132】
比較例1、実施例1、および実施例2の細胞における、トラスツズマブ遺伝子の導入コピー数に対する発現量は、強い正の直線的な相関を示した。また、継代培養による発現量低下は起こらず、長期間の安定発現が確認された(
図12A)。
【0133】
更に、実施例2の細胞を継代培養維持し、上記と同様に112日、168日および224日間の継代培養後のトラスツズマブ生産量を測定した。そして、これら日数における比較例1および実施例1の細胞の生産量と比較した。その際、日間での定量誤差を出来るだけなくすため、
図12Aに結果が示される上記試験において、培養上清を保存しておき、これらにおけるトラスツズマブ発現量を再測定した。すなわち、比較例1につき、樹立直後、28日、56日、112日、168日および224日間の-80℃で保存しておいた培養上清について、トラスツズマブ発現量を同時に再測定した。また、同様に実施例1につき、樹立直後、28日、56日、112日および168日間の-80℃で保存しておいた培養上清について、トラスツズマブ発現量を同時に再測定した。また、実施例2について、上記日数以前の生産量についても、定量誤差を考慮して、樹立直後、28日、56日間の-80℃で保存しておいた培養上清について、トラスツズマブ発現量を同時に再測定した。
【0134】
再測定した、比較例1のバッチ培養でのトラスツズマブ発現量は、樹立直後で62.3mg/Lであった。また、224日間の継代培養において発現量が安定に維持された(
図12B)。
【0135】
再測定した、実施例1のバッチ培養でのトラスツズマブ発現量は、樹立直後で135mg/Lであった。継代培養56日後までで148mg/Lに増加し、以降は168日間の継代培養中、159mg/Lで安定に維持された(
図12B)。
【0136】
再測定した、実施例2のバッチ培養でのトラスツズマブ発現量は、樹立直後で220mg/Lであった。また、224日間の継代培養において発現量が安定に維持された(
図12B)。
【0137】
比較例2:互いに異なる間隙配列の相同性が100%である細胞例
間隙配列Aの全長と同一の配列を間隙配列としてもつ、「x2 AGIS 間隙配列Aベクター」を下記のとおり作製した。
【0138】
間隙配列A’(SEQ ID NO:65)の配列を人工遺伝子合成して取得した。本配列は、5’端に制限酵素HindIII認識配列(AAGCTT)を、3’端には制限酵素SpeI認識配列(ACTAGT)を付加している。また、3’端のSpeI直前までの2043bpは、工程(1-3)の間隙配列Aの2051bpに含まれる配列と完全に同一配列である。一方、5’端のHindIII認識配列以降の1kbpは、工程(1-4)の間隙配列Bと同一の配列である。
【0139】
工程(1-4)で作製したx2基本ベクターの、MluI、HindIII部位間に間隙配列Cを挿入し、次にHindIII、SpeI部位間に間隙配列A’を挿入し、次にMluI部位に工程(1-1)のトラスツズマブ重鎖発現単位断片を挿入し、最後にHindIII部位に工程(1-2)のトラスツズマブ軽鎖発現単位断片を挿入し、
図13に示すx2 AGIS 間隙配列Aベクターを作製した。
【0140】
次に、ベクター1導入株に、x2 AGIS 間隙配列Aベクターを以下のとおり逐次導入し、細胞を作製した。
【0141】
工程(2-4)で作製したベクター1導入株に、工程(2-3)と同様にx2 AGIS 間隙配列Aベクターを導入し、陽性クローンを取得した。
【0142】
取得した陽性クローンのゲノムDNAを、MAG Extractorで抽出した。抽出したゲノムDNAを、primer9/primer10プライマーセット、およびprimer16/primer12プライマーセットを用いたゲノムPCRで解析した。
primer16:5’-TCCCAAAGTACCGGGATTAC-3’(SEQ
ID NO:66)
【0143】
図14Bに示すように、正しい逐次導入クローンの場合、LoxPwt組換え部位周辺では684bpのPCR産物が増幅される。また、LoxPsp10組換え部位周辺では636bpのPCR産物が増幅される。解析結果は
図14Cに示されるとおりであった。LoxPsp10組換え部位周辺の解析を行ったところ、13クローン中8クローンで636bpの増幅産物が増幅した。その8クローンについてLoxPwt組換え部位周辺の解析を行ったところ、10クローン中8クローンで684bpの増幅産物が増幅した。
【0144】
クローンNo.3を選択し、ゲノムDNAのトラスツズマブ重鎖、軽鎖のコピー数を評価1と同様にしてリアルタイムPCRで定量した。
【0145】
その結果、トラスツズマブ重鎖コピー数は1.9±0.1、軽鎖コピー数は1.9±0.1であり、導入した遺伝子数2とほぼ一致していた。そこで、クローンNo.3をベクター1およびx2 AGIS 間隙配列Aベクター導入株(以下、この細胞を「比較例2」という)として、以下の評価に用いた。
【0146】
評価:互いに相同な配列の間隙配列を発現単位間にもつベクター導入CHO株の評価
評価3 比較例2の細胞のトラスツズマブ重鎖、軽鎖の発現量解析
比較例2の細胞を評価2と同様に継代培養維持し、適時、細胞株のトラスツズマブ生産量を測定した。
【0147】
比較例2のバッチ培養でのトラスツズマブ発現量は、樹立直後で137mg/Lであった。継代培養を続けると生産量が減少していき、継代112日後では95.5mg/Lまで低下した(
図15)。
【0148】
実施例3:1つの間隙配列が0.5kbpの細胞例(#1) 実施例1の間隙配列Bを0.5kbpの鎖長に変更した細胞例
1つの間隙配列が541bpである、「x2 AGIS 間隙配列B500ベクター」を下記のとおり作製した。
【0149】
HEK293のゲノムDNAを鋳型とし、間隙配列B500‐s/間隙配列B‐aプライマーセットで541bpの間隙配列B500(SEQ ID NO:67)をPCR増幅し、増幅産物のサイズをアガロースゲル電気泳動で確認した。センスプライマーの5’端には制限酵素HindIII認識配列(下線部)を付加している。
間隙配列B500‐sプライマー:5’‐AAGCTTaatctttgtcagcagttccc‐3’(SEQ ID NO:68)
【0150】
工程(1-4)で作製したx2基本ベクターの、MluI、HindIII部位間に間隙配列Cを挿入し、次にHindIII、SpeI部位間に間隙配列B500を挿入し、次にMluI部位に工程(1-1)のトラスツズマブ重鎖発現単位断片を挿入し、最後にHindIII部位に工程(1-2)のトラスツズマブ軽鎖発現単位断片を挿入し、
図16Aに示すx2 AGIS 間隙配列B500ベクターを作製した。
【0151】
次に、ベクター1導入株にx2 AGIS 間隙配列B500ベクターを以下のとおり逐次導入し、細胞を作製した。
【0152】
工程(2-4)で作製したベクター1導入株に、工程(2-3)と同様にx2 AGIS 間隙配列B500ベクターを導入し、陽性クローンを取得した。
【0153】
取得した陽性クローンのゲノムDNAを、MAG Extractorで抽出した。抽
出したゲノムDNAを、primer9/primer10プライマーセット、およびprimer11/primer12プライマーセットを用いたゲノムPCRで解析した。
【0154】
図17Bに示すように、正しい逐次導入クローンの場合、LoxPwt組換え部位周辺では684bpのPCR産物が増幅される。また、LoxPsp10組換え部位周辺では376bpのPCR産物が増幅される。解析結果は
図17Cに示されるとおりであった。LoxPsp10組換え部位周辺の解析を行ったところ、10クローン中6クローンで376bpの増幅産物が増幅した。その6クローンについてLoxPwt組換え部位周辺の解析を行ったところ、6クローン中6クローンで684bpの増幅産物が増幅した。
【0155】
クローンNo.2を選択し、ゲノムDNAのトラスツズマブ重鎖、軽鎖のコピー数を評価1と同様にしてリアルタイムPCRで定量した。
【0156】
その結果、トラスツズマブ重鎖コピー数は1.9±0.1、軽鎖コピー数は2.0±0.2であり、導入した遺伝子数2とほぼ一致していた。そこで、クローンNo.2をベクター1およびx2 AGIS 間隙配列B500ベクター導入株(以下、「実施例3」という)として、以下の評価に用いた。
【0157】
評価:1つの間隙配列が0.5kbp(541bp)であるベクター導入CHO株の評価
評価4 実施例3の細胞のトラスツズマブ重鎖、軽鎖の発現量解析
実施例3の細胞を評価2と同様に継代培養維持し、適時、細胞株のトラスツズマブ生産量を測定した。
【0158】
実施例3のバッチ培養でのトラスツズマブ発現量は、樹立直後で110mg/Lであった。継代112日後では119mg/Lであり、発現量が安定に維持された(
図18)。
【0159】
実施例4:1つの間隙配列が0.5kbpの細胞例(#2) 実施例1の間隙配列Cを0.5kbpの鎖長に変更した細胞例
1つの間隙配列が493bpである、「x2 AGIS 間隙配列C500ベクター」を下記のとおり作製した。
【0160】
HEK293のゲノムDNAを鋳型とし、間隙配列C500‐s/間隙配列C‐aプライマーセットで493bpの間隙配列C500(SEQ ID NO:69)をPCR増幅し、増幅産物のサイズをアガロースゲル電気泳動で確認した。センスプライマーの5’端には制限酵素HindIII認識配列(下線部)を付加している。
間隙配列C500‐sプライマー:5’ AAGCTTTCATCTCTCAACAACTCTGG‐3’(SEQ ID NO:72)
【0161】
工程(1-4)で作製したx2基本ベクターの、MluI、HindIII部位間に間隙配列C500を挿入し、次にHindIII、SpeI部位間に間隙配列Bを挿入し、次にMluI部位に工程(1-1)のトラスツズマブ重鎖発現単位断片を挿入し、最後にHindIII部位に工程(1-2)のトラスツズマブ軽鎖発現単位断片を挿入し、
図19Aに示すx2 AGIS 間隙配列C500ベクターを作製した。
【0162】
次に、ベクター1導入株にx2 AGIS 間隙配列C500ベクターを以下のとおり逐次導入し、細胞を作製した。
【0163】
工程(2-4)で作製したベクター1導入株に、工程(2-3)と同様にx2 AGIS 間隙配列C500ベクターを導入し、陽性クローンを取得した。
【0164】
取得した陽性クローンのゲノムDNAを、MAG Extractorで抽出した。抽
出したゲノムDNAを、primer9/primer10プライマーセット、およびprimer11/primer12プライマーセットを用いたゲノムPCRで解析した。
【0165】
図20Bに示すように、正しい逐次導入クローンの場合、LoxPwt組換え部位周辺では684bpのPCR産物が増幅される。また、LoxPsp10組換え部位周辺では376bpのPCR産物が増幅される。解析結果は
図20Cに示されるとおりであった。LoxPsp10組換え部位周辺の解析を行ったところ、11クローン中6クローンで376bpの増幅産物が増幅した。その6クローンについてLoxPwt組換え部位周辺の解析を行ったところ、6クローン中6クローンで684bpの増幅産物が増幅した。
【0166】
クローンNo.5を選択し、ゲノムDNAのトラスツズマブ重鎖、軽鎖のコピー数を評価1と同様にしてリアルタイムPCRで定量した。
【0167】
その結果、トラスツズマブ重鎖コピー数は2.0±0.4、軽鎖コピー数は1.8±0.5であり、導入した遺伝子数2とほぼ一致していた。そこで、クローンNo.5をベクター1およびx2 AGIS 間隙配列C500ベクター導入株(以下、この「実施例4」という)として、以下の評価に用いた。
【0168】
評価:1つの間隙配列が0.5kbp(493bp)であるベクター導入CHO株の評価
評価5 実施例4の細胞のトラスツズマブ重鎖、軽鎖の発現量解析
実施例4の細胞を評価2と同様に継代培養維持し、適時、細胞株のトラスツズマブ生産量を測定した。
【0169】
実施例4のバッチ培養でのトラスツズマブ発現量は、樹立直後で111mg/Lであった。継代102日後では118mg/Lであり、発現量が安定に維持された(
図21)。
【0170】
実施例5:実施例1の間隙配列A、B、Cを全て0.5kbpの鎖長に変更した細胞例
1つの間隙配列が502bpである、「x1 AGIS 間隙配列A500ベクター」を下記のとおり作製した。
【0171】
HEK293のゲノムDNAを鋳型とし、間隙配列A500‐s/間隙配列A‐aプライマーセットで502bpの間隙配列A500(SEQ ID NO:70)をPCR増幅し、増幅産物のサイズをアガロースゲル電気泳動で確認した。センスプライマーの5’端には制限酵素HindIII認識配列(下線部)を付加している。
間隙配列A500‐sプライマー:5’ AAGCTTGGGGGTATTTTTGTGTGCAG‐3’(SEQ ID NO:71)
【0172】
工程(1-3)で作製したx1基本ベクターの、MluI、HindIII部位間に間隙配列A500を挿入し、次にHindIII、SpeI部位間にダミー配列を挿入し、次にMluI部位に工程(1-1)のトラスツズマブ重鎖発現単位断片を挿入し、最後にHindIII部位に工程(1-2)のトラスツズマブ軽鎖発現単位断片を挿入し、
図22Aに示すx1 AGIS 間隙配列A500ベクターを作製した。
【0173】
次に、2つの間隙配列がそれぞれ493bp、541bpである、「x2 AGIS 間隙配列C500-B500ベクター」を下記のとおり作製した。
【0174】
工程(1-4)で作製したx2基本ベクターの、MluI、HindIII部位間に工程(5-1)の間隙配列C500を挿入し、次にHindIII、SpeI部位間に工程(4-1)の間隙配列B500を挿入し、次にMluI部位に工程(1-1)のトラスツズマブ重鎖発現単位断片を挿入し、最後にHindIII部位に工程(1-2)のトラスツズマブ軽鎖発現単位断片を挿入し、
図23Aに示すx2 AGIS 間隙配列C500-B500ベクターを作製した。
【0175】
次に、CHO hprt AGIS起点ベクター導入株にx1 AGIS 間隙配列A500ベクターを以下のとおり逐次導入した。
【0176】
工程(2-3)で作製したCHO hprt AGIS起点ベクター導入株に、工程(2-2)と同様に電圧印加によりx1 AGIS 間隙配列A500ベクターを2μgとCre発現プラスミド0.2μgを導入し、96ウェルプレートに播種した。
【0177】
播種から2日後、6日後の培地交換、および拡大培養にはAMEM培地+puromycin(最終濃度;12μg/mL)を用いた。
【0178】
増殖が認められたウェルの細胞を採取し、x1 AGIS 間隙配列A500ベクター導入細胞とした。
【0179】
次に、x1 AGIS 間隙配列A500ベクター導入株にx2 AGIS 間隙配列C500-B500ベクターを以下のとおり逐次導入し、実施例5の細胞を作製した。
【0180】
工程(6-3)で作製したx1 AGIS 間隙配列A500ベクター導入株に、工程(2-3)と同様にx2 AGIS 間隙配列C500-B500ベクターを導入し、陽性クローンを取得した。
【0181】
取得した陽性クローンのゲノムDNAを、MAG Extractorで抽出した。抽
出したゲノムDNAを、primer7/primer8プライマーセット、primer9/primer10プライマーセット、およびprimer11/primer12プライマーセットを用いたゲノムPCRで解析した。
【0182】
図25Bに示すように、正しい逐次導入クローンの場合、LoxPwt組換え部位周辺では684bpのPCR産物が増幅される。また、LoxPsp10組換え部位周辺では376bpのPCR産物が増幅される。さらに、LoxPsp8組換え部位周辺では204bpのPCR産物が増幅される。解析結果は
図25Cに示されるとおりであった。LoxPsp10組換え部位周辺の解析を行ったところ、10クローン中7クローンで376bpの増幅産物が増幅した。その7クローンについてLoxPwt組換え部位周辺の解析を行ったところ、7クローン中7クローンで684bpの増幅産物が増幅した。また、その7クローンについてLoxPsp8組換え部位周辺解析を行ったところ、7クローン中7クローンで204bpの増幅産物が増幅した。
【0183】
クローンNo.2を選択し、ゲノムDNAのトラスツズマブ重鎖、軽鎖のコピー数を評価1と同様にしてリアルタイムPCRで定量した。
【0184】
その結果、トラスツズマブ重鎖コピー数は1.8±0.1、軽鎖コピー数は2.0±0.3であり、導入した遺伝子数2とほぼ一致していた。そこで、クローンNo.2をx1 AGIS 間隙配列A500ベクターおよびx2 AGIS 間隙配列C500-B500ベクター導入株(以下、「実施例5」という)として、以下の評価に用いた。
【0185】
評価:間隙配列が3つ全て0.5kbpであるベクター導入CHO株の評価
評価6 実施例5の細胞のトラスツズマブ重鎖、軽鎖の発現量解析
実施例5の細胞を評価2と同様に継代培養維持し、適時、細胞株のトラスツズマブ生産量を測定した。
【0186】
実施例5のバッチ培養でのトラスツズマブ発現量は、樹立直後で123mg/Lであった。継代28日後では127mg/Lで、安定に維持されていた(
図26)。
【配列表】