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  • 特許-エアフィルタ 図1
  • 特許-エアフィルタ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】エアフィルタ
(51)【国際特許分類】
   B01D 46/42 20060101AFI20220316BHJP
   G21C 13/00 20060101ALN20220316BHJP
【FI】
B01D46/42 Z
G21C13/00 500
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018069149
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177363
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000232760
【氏名又は名称】日本無機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 佑輝
(72)【発明者】
【氏名】杉本 数弘
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特許第4672089(JP,B1)
【文献】実開昭61-061010(JP,U)
【文献】特開2013-246157(JP,A)
【文献】特開2005-131573(JP,A)
【文献】特開昭58-169099(JP,A)
【文献】米国特許第04610706(US,A)
【文献】特開2003-190231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04;46/00-46/54
G21C 11/00-13/10
F24F 7/00-7/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体中の微粒子を捕集する濾材と、
前記濾材を取り囲む枠体と、を備え、
前記枠体は、気乾比重が0.35~0.4り、表面処理剤の塗膜を表面に有しない木材から構成される、ことを特徴とするエアフィルタ。
【請求項2】
JIS Z2101に準拠した前記木材の吸水量は0.24~0.26g/cm3である、請求項1に記載のエアフィルタ。
【請求項3】
前記木材のブリネル硬さは14~20である、請求項1又は2に記載のエアフィルタ。
【請求項4】
JIS Z2101に準拠した前記木材の膨潤率は1.0~3.0%である、請求項1から3のいずれか1項に記載のエアフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾材及び濾材を取り囲む枠体を備えるエアフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
空気中に浮遊する塵埃等の微粒子を捕集して、空気を清浄化するエアフィルタは、一般に、濾材と、濾材を取り囲む枠体と、を備える。このうち、枠体は、剛性の高い材料で構成されているため、使用済みのエアフィルタを解体したときに、嵩張って保管場所を占有するという問題がある。従来のエアフィルタとして、焼却処分が可能な木製の枠体を備えたものが知られている(特許文献1)。このエアフィルタによれば、使用後に解体したときに、枠体を焼却して減容できるため、保管場所を占有することを抑えられると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-246157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
木製の構造体は、周囲の水分量の変化などの影響を受けて、使用に伴って、表面がささくれる場合がある。このような木製の構造体を、エアフィルタの枠体として用いた場合、ささくれを起こした枠体の部分から、粒子状の細かい木屑が脱離して、下流側に流れる場合があることが明らかにされた。このような木屑は、エアフィルタの使用者などに、エアフィルタの品質に問題があるかのような印象を抱かせるおそれがある。
【0005】
本発明は、木材から構成された枠体を備えるエアフィルタにおいて、枠体からの発塵を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、エアフィルタであって、
気体中の微粒子を捕集する濾材と、
前記濾材を取り囲む枠体と、を備え、
前記枠体は、気乾比重が0.35~0.4であり、表面処理剤の塗膜を表面に有しない木材から構成される、ことを特徴とする。
【0007】
JIS Z2101に準拠した前記木材の吸水量は0.24~0.26g/cm3であることが好ましい。
【0008】
前記木材のブリネル硬さは14~20であることが好ましい。
【0009】
JIS Z2101に準拠した前記木材の膨潤率は1.0~3.0%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、木材から構成された枠体を備えるエアフィルタにおいて、枠体からの発塵を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の一例によるエアフィルタを示す外観斜視図である。
図2】エアフィルタの組み立て方を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態のエアフィルタについて説明する。
図1に、本実施形態の一例によるエアフィルタ1を示す。
エアフィルタ1は、濾材3と、枠体5と、を備える。
【0013】
濾材3は、気体中の微粒子を捕集する部材であり、例えば、ガラス繊維、有機繊維、あるいは、これらの繊維の混合繊維の繊維体からなるシート状あるいはマット状の部材である。ガラス繊維からなる濾材3として、例えば、湿式法を用いて抄紙された不織布が挙げられる。有機繊維からなる濾材3として、例えば、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布が挙げられる。
濾材3は、エレクトレット処理が施されたものであってもよい。また、濾材は、抗菌剤あるいは防カビ剤を繊維に付着させたものであってもよい。
【0014】
図1に示す例において、濾材3は、ガラス繊維からなるシート状の部材にプリーツ加工が施されて、ジグザグ形状を有している。図1に示す濾材3のプリーツ間隔は、プリーツの谷折りされた部分の内側に挿入して配置された複数のセパレータ4によって保持されている。セパレータ4は、例えば、アルミ箔、ステンレス箔、または、樹脂シートをラミネートした不織布、をコルゲート加工により波型形状した部材である。なお、濾材3のプリーツ間隔は、セパレータ4によって保持されるほか、プリーツの折り目と直交するように濾材3の表面に線状に設けられた複数のスペーサや、濾材3にエンボス加工を施すことで設けられた突起によって保持されていてもよい。スペーサは、例えば、溶融させたホットメルト樹脂を濾材の表面に塗布して作製される。突起は、濾材を折り畳んだ状態で互いに当接するような濾材の位置に複数形成される。
【0015】
枠体5は、濾材3を取り囲む部材である。枠体5は、図1に示すように、矩形状の部材であり、複数の枠材を組み合わせて作製される。図1に示す枠体5は、4つの枠体5a、5b、5c、5dを組み合わせて作製されている。隣接する枠材同士は、例えばビス止めされている。
【0016】
枠体5は、気乾比重が0.4以下である木材から構成される。気乾比重とは、乾燥させた木材と同じ体積の水の重さに対する木材の重さの比を意味する。乾燥させた木材とは、気乾状態(JIS Z2101)にある木材をいう。気乾比重が0.4以下である木材は、表面のささくれが起こり難く、ささくれに伴って発生する細かい木屑の脱離を抑制する効果があることが明らかにされた。このような木材を枠体5として用いることにより、枠体5からの発塵を抑制でき、脱離した木屑がエアフィルタ1の下流側、あるいは、濾材3の表面に滞留することを抑制できる。ここでいう細かい木屑のサイズは、例えば、0.1~数mmのサイズであり、肉眼で視認できる大きさである。このような粒子が、エアフィルタ1の周辺や、エアフィルタ1が設置されたダクト上に滞留していると、エアフィルタ1の品質に問題があるかのような印象を抱かせるおそれがある。
なお、気乾比重が上記範囲にある木材は、木材を構成する繊維の量が少ないために、乾燥してもささくれが起こり難いと考えられる。木材を構成する繊維は、セルロースを主成分とする繊維である。一方、気乾比重が0.4を超える木材は、繊維量が多いために、乾燥時にささくれが起きやすく、ささくれた部分から発塵しやすい。
【0017】
木材から構成される枠体5は、具体的に、木を切削加工して作製された繊維方向が一定である(繊維が一定の方向を向く)部材、あるいは、そのような部材を複数組み合わせてなる(多数のチップを集めたものを除く)。そのような枠体5の具体例として、無垢材、合板、集成材が挙げられる。このうち、合板は、例えば、薄い単板(ベニヤ)を奇数層、互いに繊維方向が90°異なるよう重ねて圧着した板材である。なお、図1に示す枠材5a~5dは、いずれも合板であり、単板の積層方向は、気流方向Xと直交し、かつ、濾材3を向く方向である。
繊維方向が一定である部材は、板紙(JIS P0001)、繊維板(JIS A5905)などの繊維方向が一定でない部材と比べ、吸水によってカビが発生し難い反面、大きなささくれが生じやすい。しかし、気乾比重が0.4以下である木材は、上述したようにささくれが起こり難いため、繊維方向が一定である部材から構成されていても、発塵を抑制する効果が得られる。なお、上記した繊維方向が一定である部材は、構成成分として、セルロースのほか、例えば、リグニン20~30質量%を有している
【0018】
なお、木材の気乾比重が小さすぎると、枠体5の剛性が不足して、エアフィルタ1の運搬、設置など取扱時に外傷を受けやすく、ささくれの起点となる傷が却って発生しやすい。このため、木材の気乾比重は0.3以上であることが好ましい。木材の気乾比重のより好ましい範囲は、0.35~0.39である。
【0019】
一実施形態によれば、JIS Z2101に準拠した木材の吸水量(以降、単に木材の吸水量という)は0.24~0.26g/cm3であることが好ましい。本明細書において、吸水量は、木材の木口から吸水させたときの吸水量を意味する。エアフィルタ1は、建物の外気取入口や、その付近のダクト内の部分など、外気に近い環境に設置される場合がある。このような環境では、空気中の水分量の変化が室内と比べ大きく、枠体5を構成する木材が吸収、放出する水分量が大きくなり、これに伴って、ささくれが起きやすい。この実施形態では、木材の吸水量が上記範囲にある枠体5によれば、空気中の水分量の変化が大きい外気に近い環境下でも、ささくれに伴って生じる発塵を抑制する効果があるとの知見に基づき、木材の吸水量を上記範囲に制限している。
【0020】
また、一実施形態によれば、JIS Z2101に準拠した木材の膨潤率(以降、単に木材の膨潤率という)は1.0~3.0%であることが好ましい。本明細書において、膨潤率とは、JIS Z2101に準拠した体積膨潤率いう。外気に近い環境に設置されたエアフィルタ1は、室内と比べ温度変化が大きいために、枠体5を構成する木材の膨張量、収縮量が大きくなり、これに伴って、ささくれが起きやすい。この実施形態では、木材の膨潤率が上記範囲にある枠体5によれば、温度変化が大きい外気に近い環境下でも、ささくれに伴って生じる発塵を抑制する効果があるとの知見に基づき、木材の吸水量を上記範囲に制限している。木材の膨潤率のより好ましい範囲は、1.5~2.0%である。
【0021】
一実施形態によれば、木材のブリネル硬さは14~20であることが好ましい。このような特性を満たす木材は、エアフィルタ1の取扱時に外傷を受け難く、枠体5として用いたときに、ささくれの起点となる傷が付き難い。このような理由から、この実施形態では、木材のブリネル硬さが上記範囲に制限されている。ブリネル硬さは、例えば、直径10mm、鋼球で3000kgfの荷重をかけ、表面につくられた凹みの表面積を測定し、荷重を凹みの表面積で割ることで計算される。鉄球を落下させる荷重をかける木材の表面は、板目面である。
【0022】
また、JIS Z2101に準拠した木材の縦引張強度は、50~70MPaであることが好ましい。また、JIS Z2101に準拠した木材の縦引張ヤング係数は、7000~8000N/mm2であることが好ましい。これらの特性を満たす木材は、強度特性が良好であるため、取扱時に外傷を受け難く、枠体5として用いたときに、ささくれの起点となる傷が付き難い。
【0023】
枠材5a~5dの板厚は、例えば、10~30mmである。なお、板厚とは、気流方向Xと直交し、濾材3を向く方向の長さをいう。
【0024】
濾材3は、枠体5に対し、リークが生じないよう気密にシールされている。図1に示す例の濾材3は、プリーツの折り目が延びる方向の両端(図1の上下方向の両端)において、ウレタン系樹脂等のシール剤によって枠体5に対しシールされ、プリーツの折り目が延びる方向及び気流方向(X方向)と直交する方向の両端において、接着剤により線接着されている。
図1に示すエアフィルタ1は、シール剤を用いて濾材3を枠体5に固定できるよう、さらに、リブ6を備える。リブ6は、枠材5a、5cの濾材3側の表面にそれぞれ設けられ、図2に示すように、液状のシール剤を貯留できる矩形状の空間を形成するよう、枠材5a、5cの表面から突出して構成されている。リブ6は、例えば、ABS樹脂等の樹脂からなり、図1に示す例では、矩形の各辺と対応する4つのリブ材6a、6b、6c、6dからなる。このうち、リブ材6b、6dは、枠材5a、5cの表面と直交する方向に一部が埋め込まれて固定されている。リブ材6a、6cは、隣り合うリブ6b、6dの端と接着され、固定されている。
【0025】
図2は、エアフィルタ1の組み立て方を説明する図である。
この例では、まず、枠材5cを、リブ6を上方に向けて載置し、リブ6に囲まれた矩形状の空間に、例えばウレタン樹脂のシール剤が注がれる。
一方、谷折り部の内側ごとにセパレータ4を配置した濾材3を、枠材5b、5dで両側から挟むように配置し、接着剤で枠材5b、5dに接着したものを、枠材5cの一辺に対して、図示されるように、回動するよう固定する。この状態から、枠材5b、5dで挟んだ濾材3及びセパレータ4を回動して、濾材3及びセパレータ4の下端をシール剤に固化する前に接触させる。シール剤が固化した後、次いで、枠材5aを、リブ6を上方に向けて載置し、枠材5cと同じ要領で、ウレタン樹脂のシール剤を注ぐ。そして、枠材5aの一変に対して、枠材5b、5dで挟まれ、枠材5cに固定された濾材3及びセパレータ4を、回動するよう固定する。この状態から回動して、濾材3及びセパレータ4の他端をシール剤に固化する前に接触させる。シール剤が固化した後、枠材5a、5cの外側を向く面から、ビス止めにより枠材5b、5cと固定する。以上のようにして、エアフィルタ1は組み立てられる。
【0026】
エアフィルタ1は、さらに、図示されないガスケットを備えていてもよい。ガスケットは、例えば、気流方向Xを向く枠体5の面の全周にわたって設けられる。このガスケットを、枠体5と、エアフィルタ1の取り付け位置のフレーム等との間に挟持し、圧接するよう、エアフィルタ1を設置することで、エアフィルタ1とフレーム等との間でリークが発生することが防止される。枠体5の表面は、木材に起因した大きな表面粗さを有している。このため、枠体5とガスケットの密着性が確保されるよう、ガスケットの材質としては、発泡ポリウレタン、ゴムが好ましく、ガスケットの厚さは4~6mmであることが好ましい。
【0027】
枠体5を構成する木材は、表面に、防虫剤が塗布されていてもよい。
また、枠体5を構成する木材は、ニス、塗料などの表面処理剤が塗布されていない表面未処理材であることが好ましい。材質によっては、枠体5の焼却処分の制約となる場合があるためである。また、表面処理剤の塗膜から微粒子が脱離して、下流側に浮遊する恐れがあるためである。
【0028】
エアフィルタ1は、例えば、高性能フィルタ、中性能フィルタ、あるいはガス除去フィルタとして用いられる。
高性能フィルタは、ULPA、HEPAの各フィルタであり、JIS Z8122に規定されたフィルタである。
中性能フィルタは、主として粒径が5μmより小さい粒子に対して中程度の粒子捕集率をもつエアフィルタであって、光散乱光量積算方式(比色法)あるいは計数法(粒径0.7μm)で50~95%の捕集効率を有するエアフィルタである
【0029】
エアフィルタ1は、例えば、ビル、工場等の建物の中に設けられたダクト又は空調室や、ガスタービンの給気側のスペースに設けられた取付枠等に取り付けられる。また、エアフィルタ1は、原子力発電所を含む原子力関連施設でも用いることができる。原子力関連施設で用いた使用済みのエアフィルタは、廃棄や保管の方法に制約があるため、焼却でき、減容可能な枠体5を備えることは有効である。
【0030】
本実施形態のエアフィルタ1によれば、ささくれが起こり難く、ささくれに伴って発生する細かい木屑の脱離を抑制することができ、発塵した木屑が、エアフィルタ1の周辺や、エアフィルタ1が設置されたダクト上に滞留することを抑制できる。
【0031】
(実施例、比較例)
本発明のエアフィルタの効果を調べるために、2種類の試験フィルタを作製し、発塵の抑制効果を評価した。試験フィルタの仕様は、下記表1に示したもの以外、上記説明した実施形態の仕様を採用した。枠体は、JAS1類1等の厚さ15)mmの普通合板の板材を組み合わせて、610×610×290)mmの外寸とした。
【0032】
試験フィルタを、ヒートサイクル試験を行った後、建物内のダクトの途中に設置し、8時間、定格風量で気流を通過させた後、エアフィルタ1の設置位置より下流側のダクトの位置に設置したSUS製の板に滞留した0.5~2mmのサイズの木屑の数を数えた。ヒートサイクル試験では、試験フィルタを置いた室内の温度を-10℃で12時間保持した後、40℃で12時間保持することを1サイクルとして、10サイクル行った。その結果、木屑の数が、5個未満であった場合をA、5個以上であった場合をBと評価した。
【0033】
【表1】
【0034】
実施例と比較例を比較すると、気乾比重が0.4以下である木材で構成した枠体を備えることで、発塵抑制効果が高くなることがわかる。
【0035】
以上、本発明のエアフィルタについて詳細に説明したが、本発明のエアフィルタは上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0036】
1 エアフィルタ
3 濾材
4 セパレータ
5 枠体
5a、5b、5c、5d 枠材
6 リブ
6a、6b、6c、6d リブ材
図1
図2