(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】固定具
(51)【国際特許分類】
E04B 9/18 20060101AFI20220316BHJP
【FI】
E04B9/18 B
(21)【出願番号】P 2018070656
(22)【出願日】2018-04-02
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】311000188
【氏名又は名称】株式会社サンユー
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 士朗
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-109142(JP,A)
【文献】特開2015-031004(JP,A)
【文献】特開2016-020557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部外面が水平である建築用構造部材に、鉛直方向に延びる棒状部材を連結固定する固定具であって、
前記底部外面に対して垂直な側部外面に密着して固定される垂直板部と、
前記垂直板部に連設され、前記側部外面との間に前記棒状部材を受容可能な支持空間を形成する受け部と、
前記垂直板部の下端から水平方向に延び、上面が前記底部外面に密着して固定される水平板部とを備え、
前記受け部の下端が前記水平板部の上面よりも下方に位置することを特徴とする固定具。
【請求項2】
前記受け部の下端と前記水平板部の下面とが同一平面上に位置することを特徴とする請求項1に記載の固定具。
【請求項3】
前記水平板部および前記垂直板部の間に形成される折曲部と前記受け部との間に、切欠きが形成されることを特徴とする請求項1に記載の固定具。
【請求項4】
前記支持空間を覆うようにして前記受け部の上端に設けられる蓋部材を備え、前記蓋部材は前記受け部の上端に、前記蓋部材よりも脆弱な連結部を介して連結されることを特徴とする請求項1に記載の固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C型鋼等の建築用構造部材に吊りボルト等の棒状部材を連結する固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の天井等において、水平に設置されたC型鋼に吊りボルトを連結する固定具が知られている(特許文献1)。この固定具は、C型鋼のウェブの側面に固定される側面固定部と、C型鋼のフランジよりも下方に配置される吊りボルト挟持部とを有し、吊りボルトは吊りボルト挟持部に挟持され、その上端がC型鋼のフランジの下面に当接した状態で、ナットにより吊りボルト挟持部に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した固定具では、吊りボルトはC型鋼のフランジの下面に当接した状態で固定され、固定具に、横方向からの外力に対して十分な強度性能を持たせるために、大型あるいは複雑な構造を有するように設計しなければならないという問題があった。また、工事現場では、吊りボルトがC型鋼のフランジの下面に当接した状態で吊りボルト挟持部に固定されるように、吊りボルト挟持部に対する吊りボルトの上下位置を微調整しなければならず、その作業は煩雑であった。
【0005】
本発明は、構成が簡単かつ小型で、十分な固定強度を発揮し、しかも工事現場での取付け作業が容易な固定具を提供すること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、底部外面が水平である建築用構造部材に、鉛直方向に延びる棒状部材を連結固定する固定具であって、底部外面に対して垂直な側部外面に密着して固定される垂直板部と、垂直板部に連設され、側部外面との間に棒状部材を受容可能な支持空間を形成する受け部と、垂直板部の下端から水平方向に延び、上面が底部外面に密着して固定される水平板部とを備え、受け部の下端が水平板部の上面よりも下方に位置することを特徴としている。
【0007】
好ましくは、受け部の下端と水平板部の下面とが同一平面上に位置する。また、水平板部および垂直板部の間に形成される折曲部と受け部との間に、切欠きが形成されてもよい。さらに固定具は、棒状部材を受容可能な支持空間を覆うようにして受け部の上端に設けられる蓋部材を備えていてもよく、この蓋部材は受け部の上端に、蓋部材よりも脆弱な連結部を介して連結されることが好ましい。また蓋部材に代えて、プラスチックやアルミシール等の板状部材を受け部の上端に設けてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、構成が簡単かつ小型で、十分な固定強度を発揮し、しかも工事現場での取付け作業が容易な固定具を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態である固定具を用いて吊りボルトをC型鋼に固定した状態を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態の固定具をC型鋼側から見た斜視図である。
【
図3】第1実施形態の固定具をC型鋼に取付ける状態を示す斜視図である。
【
図4】C型鋼に吊りボルトを取付ける手順を示す斜視図である。
【
図5】吊りボルトがC型鋼の下側フランジの下面に当接した状態を示す図である。
【
図6】吊りボルトが固定具の受け部の下端に係合した状態を示す図である。
【
図7】吊りボルトが固定具の受け部に装着された状態を示す図である。
【
図9】第1実施形態の固定具によるC型鋼と吊りボルトの連結構造に作用する外力を示す図である。
【
図10】第1実施形態の固定具を角パイプに取付けた状態を示す斜視図である。
【
図11】第1実施形態の固定具をチャネル鋼に取付けた天井を示す図である。
【
図12】第1実施形態の固定具をチャネル鋼に取付けた状態を示す図である。
【
図13】第2実施形態の固定具を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は第1実施形態の固定具20を示し、固定具20は、建築用構造部材であるC型鋼10に、鉛直方向に延びる吊りボルト(棒状部材)11を連結固定している。C型鋼10は、建築物の例えば天井スラブに固定され、水平状態に定められる。C型鋼10には多数の吊りボルト11が連結固定され、後述するように、吊りボルト11のC型鋼10に対する連結部分の近傍にはブレースが連結される。また吊りボルト11の下端には野縁受を介して野縁が格子状に設けられ、野縁の下面に天井石膏ボードが接着される。
【0011】
C型鋼10はウェブ12と上側フランジ13と下側フランジ14とを有する。上側フランジ13はウェブ12に対して垂直であり、天井スラブに固定される。下側フランジ14はウェブ12に対して垂直であり、ウェブ12と下側フランジ14にはビス15によって固定具20が取付けられる。吊りボルト11は固定具20に形成された受け部21に挿入されてウェブ12に連結固定される。
【0012】
図2、3を参照して固定具20の構成を説明する。固定具20は、半円筒状の受け部21と、受け部21の両側に連設された一対の垂直板部22と、各垂直板部22の下端から水平方向に延びる水平板部23とを有する。水平板部23の上面24はC型鋼10の下側フランジ14の下面(底部外面)に密着して固定される。垂直板部22は、ウェブ12の外面、すなわち下側フランジ14の下面に対して垂直な側部外面に密着して固定される。受け部21は、固定具20がC型鋼10に固定された状態において、ウェブ12の外面との間に吊りボルト11を受容可能な支持空間Sを形成する。
【0013】
受け部21の内壁面の上部と下部には、吊りボルト11の雄ネジに螺合する雌ネジ25がそれぞれ形成される。垂直板部22にはビス15が挿通するビス孔26が形成され、水平板部23にも同様にビス孔27が形成される。水平板部23と垂直板部22の間には折曲部28が形成され、折曲部28と受け部21との間には切欠き29が形成される。
【0014】
図4~7を参照して、C型鋼10に吊りボルト11を取付ける手順を説明する。
まず固定具20が、垂直板部22をC型鋼10のウェブ12の外面に密着させ、水平板部23をC型鋼10の下側フランジ14の外面に密着させた状態で、ビス15によりC型鋼10に固定される。この状態において、固定具20の受け部21とウェブ12の間に、吊りボルト11を受容するための支持空間Sが形成される。受け部21は一対の水平板部23の間に位置し、受け部21の下端30は水平板部23の下面31と同一平面上に位置する。すなわち受け部21の下端30は水平板部23の上面24よりも下方に位置しており、C型鋼10のウェブ12とは反対側から見ると、下側の雌ネジ25が露出している。
【0015】
C型鋼10の上側フランジ13は天井スラブに固定されており、下側フランジ14の下面は水平である。吊りボルト11は、その上端面16が下側フランジ14の下面に当接せしめられ(
図5参照)、上端面16が下側フランジ14に接触した状態を維持させつつ固定具20側へ動かされて、受け部21に係合される(
図6参照)。次に、吊りボルト11は軸心周りに回転せしめられて上昇し、この上昇動作は、上端面16が受け部21の上端開口から突出するまで続けられる(
図7参照)。
【0016】
図8(a)、(b)は、固定具20を用いてC型鋼10に吊りボルト11、11´を固定した天井の構造の一例を示している。
図8(a)はC型鋼10のウェブ12の方向から見た図であり、
図8(b)はC型鋼10の長手方向に沿って見た図である。以下の説明において、
図8(a)の左右方向をX方向、
図8(b)の左右方向をY方向と呼ぶ。
【0017】
図8(a)、(b)において、吊りボルト11、11´の下端にはハンガー40を介して野縁受け41が固定される。野縁受け41の下側にはクリップ47を介して野縁42が取付けられ、野縁42の下面には天井石膏ボード43が張り付けられる。天井の強度を向上させるため、隣り合う2本の吊りボルト11、11´は水平補強材44とブレース45によって連結される。水平補強材44はハンガー40に連結され、水平補強材44と野縁受け41は連結部材により連結される。ブレース45の上端は連結金具46を介して吊りボルト11の上端に取付けられ、ブレース45の下端は吊りボルト11の隣に位置する吊りボルト11´の下端部近傍において水平補強材44に固定される。
【0018】
1つの固定具20に対して4本のブレース45が連結されている。各ブレース45は吊りボルト11の上端から、隣り合う吊りボルト11´の下端へ向かって斜め方向に延びている。したがって
図8(a)、(b)および
図9に示すように、固定具20には、X方向に振動する荷重Fxにより、C型鋼20の長手方向に対して傾斜する方向の繰返し荷重Fx1、Fx2が作用し、Y方向に振動する荷重Fyにより、C型鋼20の幅方向に対して傾斜する方向の繰返し荷重Fy1、Fy2が作用する。
【0019】
従来の固定具の場合、吊りボルトはC型鋼10の下側フランジ14に当接するように固定されていたため、繰返し荷重Fx1、Fx2、Fy1、Fy2に対する抵抗力は小さく、天井構造の強度が不十分であった。これに対して本実施形態では、吊りボルト11は固定具10の受け部21により強固に固定され、したがって天井構造は十分な強度性能を有する。
【0020】
本実施形態の固定具20は1枚の金属板を折り曲げ加工することにより成形され、固定具20の構成は簡単かつ小型である。また固定具20の加工は容易であり、特に水平板部23と受け部21の間には切欠き29が形成されているので、水平板部23の折り曲げ作業は容易である。
【0021】
さらに固定具20が取付けられたC型鋼10に吊りボルト11を固定する作業では、
図4~7を参照して説明したように、吊りボルト11の上端面16がC型鋼20の下側フランジ14に接触した状態を維持させつつ固定具20側へ移動させると、吊りボルト11は一対の水平板部23に案内されて受け部21に導かれ、その後、吊りボルト11を軸心周りに回転させるだけでよい。したがって工事現場での吊りボルト11のC型鋼10への取付け作業は容易である。
【0022】
図10は本実施形態の固定具20を角パイプ50に取付けた例を示している。このように固定具20は角パイプ50にも利用することができ、上述した効果を得ることができる。
【0023】
図11、12は本実施形態の固定具20を、吊りボルト11の中間高さ位置に設けられた水平補強材51に取付けた例を示している。この水平補強材51はチャネル鋼であり、固定具20はチャネル鋼のウェブに固定される。吊りボルト11は水平補強材51の固定具20を貫通して上方へ延び、吊りボルト11の上端はC型鋼10に取付けられた固定具20に固定される。この例によっても上述した効果が得られる。
【0024】
図13(a)、(b)は第2実施形態の固定具20を示している。第1実施形態との違いは受け部21の上端に蓋部材32が設けられる点である。蓋部材32は支持空間Sを覆うようにして設けられ、連結部33を介して受け部21に連結される。連結部33は上面を断面V字状に凹ませて成形された薄肉状の部分を有し、蓋部材32よりも脆弱である。その他の構成は第1実施形態と同じである。
【0025】
第2実施形態の固定具20がC型鋼10等に取付けられた場合、吊りボルト11を軸心周りに回転させて受け部21内に挿入する操作では、吊りボルト11の上端16が受け部21から上方へ突出するときに(
図7参照)、上端16が蓋部材32を押すことにより、蓋部材32が連結部33において受け部21から分離し、落下する。これにより作業者は吊りボルト11の受け部21への取付け作業が完了したことを目視で確認することができ、吊りボルト11の固定具20への取付け作業がより簡単になる。
【0026】
なお蓋部材32に代えて、プラスチックやアルミシール等の板状部材を受け部21の上端に設けても同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0027】
11 吊りボルト(棒状部材)
20 固定具
21 受け部
22 垂直板部
23 水平板部
30 受け部の下端
S 支持空間