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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】スラブ支持構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 5/32 20060101AFI20220316BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20220316BHJP
   E04B 1/48 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
E04B5/32 D
E04B1/58 601A
E04B5/32 A
E04B1/48 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018101601
(22)【出願日】2018-05-28
(65)【公開番号】P2019206812
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000148346
【氏名又は名称】株式会社錢高組
(73)【特許権者】
【識別番号】000245852
【氏名又は名称】矢作建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095452
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 博樹
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 治人
(72)【発明者】
【氏名】鞆 伸之
(72)【発明者】
【氏名】羽生田 剛成
(72)【発明者】
【氏名】田口 孝
(72)【発明者】
【氏名】築城 寛行
(72)【発明者】
【氏名】深津 尚人
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-066714(JP,A)
【文献】特開2004-316073(JP,A)
【文献】特開2012-012788(JP,A)
【文献】米国特許第05311629(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/32
E04B 1/48,1/58
E04B 1/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨梁により床スラブを支持するスラブ支持構造であって、
第1の方向に延び、前記床スラブを支持する第1の鉄骨梁と、
前記第1の方向と交差する第2の方向に延び、前記床スラブを支持する第2の鉄骨梁と、
前記第1の鉄骨梁の上部において、前記第1の方向に適宜間隔をおいて設けられた複数の第1スタッドと、
前記第2の鉄骨梁の上部において、前記第2の方向に適宜間隔をおいて設けられた複数の第2スタッドと、
前記第1スタッドと係わり合う第1部位、前記第2スタッドと係わり合う第2部位、及び前記第1部位と前記第2部位との間で延びる第3部位を有し、前記第1スタッド及び前記第2スタッドとともに前記床スラブに埋め込まれる補強筋と、を備える、
ことを特徴とするスラブ支持構造。
【請求項2】
請求項1に記載のスラブ支持構造において、前記補強筋は、前記第2の方向に延びる第1の鉄筋と、前記第1の方向に延びて前記第1の鉄筋と交差する第2の鉄筋と、を備えてメッシュ状に形成されている、
ことを特徴とするスラブ支持構造。
【請求項3】
請求項1に記載のスラブ支持構造において、前記補強筋は、前記第1の鉄骨梁から前記第2の鉄骨梁に向けて延びる第1の鉄筋と、前記第1の方向と前記第2の方向とが合成された方向に延びて前記第1の鉄筋と交差する第2の鉄筋と、を備えてメッシュ状に形成されている、
ことを特徴とするスラブ支持構造。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のスラブ支持構造において、前記第1の鉄筋と前記第2の鉄筋とは交差する部位において溶接されている、
ことを特徴とするスラブ支持構造。
【請求項5】
請求項1に記載のスラブ支持構造において、前記補強筋の前記第1部位は、前記第1スタッドを囲う様なフック形状で形成され、
前記補強筋の前記第2部位は、前記第2スタッドを囲う様なフック形状で形成され、
前記補強筋の前記第3部位は、前記第1部位と前記第2部位とを結ぶ方向に延びる、
ことを特徴とするスラブ支持構造。
【請求項6】
請求項5に記載のスラブ支持構造において、前記補強筋は、前記第1部位を備えるとともに、前記第3部位が、前記第1部位から前記第2部位に向かう途中で途切れる第1補強筋と、
前記第2部位を備えるとともに、前記第3部位が、前記第2部位から前記第1部位に向かう途中で途切れる第2補強筋と、を備え、
前記第1補強筋が備える前記第3部位と、前記第2補強筋が備える前記第3部位とが、前記第1部位と前記第2部位とを結ぶ方向においてオーバーラップしている、
ことを特徴とするスラブ支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨梁により床スラブを支持するスラブ支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の床構造として、H形鋼製の鉄骨梁上に、鉄筋コンクリート製の床スラブ、デッキプレート上にコンクリート層を設けた合成の床スラブを設置する床構造が広く用いられている。
このような床構造において、地震等で大きな外力が作用した場合に、H形鋼が横座屈する現象を生じる。
このような課題を解決するために、特許文献1に示される床構造では、鉄骨梁上に頭付きスタッドを接合し、この頭付きスタッドを床スラブのコンクリート内に埋め込むことでコンクリートと鉄骨梁とを一体化し、横座屈を防止する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-21283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建築物の内部では鉄骨梁の両側に床スラブが配置される場合と、外周に設置された梁等のように、鉄骨梁の片方にしか床スラブが配置されない場合とがある。この片方のみに床スラブが配置された構成では、地震等で大きな外力が作用した場合に、H形鋼が横座屈し、それによりスタッドの、床スラブが無い側のコンクリートが破壊されてしまう虞がある。尚、「H型鋼が横座屈する」とは、H型鋼梁の上部が水平に移動すること、もしくはH型鋼梁が材軸回転方向に変位することを指す。
【0005】
具体的には、鉄骨梁の片方のみに床スラブが配置された構成において、大きな外力が作用して梁の横座屈が発生し、床スラブが配置されていない側にH形鋼が変位しようとすると、当該H形鋼に接合されたスタッドも床スラブの配置されていない側に変位しようとする。この際、スタッドと一体化されたコンクリートは、スタッドの変位を妨げるように拘束する。しかしながら、スタッドを変位させようとする力が、スタッドの周囲のコンクリートの耐力より大きい場合には、スタッドの周囲のコンクリートに割れ等の破壊、所謂コーン状破壊が生じ、スタッドがコンクリートから抜けるなどして、スタッドの変位、ひいてはH形鋼の横座屈が生じてしまうことがある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、片側にしか床スラブが取り付かない鉄骨梁であっても横座屈を抑制できるスラブ支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、本発明の第1の態様のスラブ支持構造は、鉄骨梁により床スラブを支持するスラブ支持構造であって、第1の方向に延び、前記床スラブを支持する第1の鉄骨梁と、前記第1の方向と交差する第2の方向に延び、前記床スラブを支持する第2の鉄骨梁と、前記第1の鉄骨梁の上部において、前記第1の方向に適宜間隔をおいて設けられた複数の第1スタッドと、前記第2の鉄骨梁の上部において、前記第2の方向に適宜間隔をおいて設けられた複数の第2スタッドと、前記第1スタッドと係わり合う第1部位、前記第2スタッドと係わり合う第2部位、及び前記第1部位と前記第2部位との間で延びる第3部位を有し、前記第1スタッド及び前記第2スタッドとともに前記床スラブに埋め込まれる補強筋と、を備える、ことを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、スラブ支持構造は前記第1スタッドと係わり合う第1部位、前記第2スタッドと係わり合う第2部位、及び前記第1部位と前記第2部位との間で延びる第3部位を有し、前記第1スタッド及び前記第2スタッドとともに前記スラブに埋め込まれる補強筋を備えるので、前記第1部位及び前記第2部位が前記第1スタッド及び前記第2スタッドの周囲のコンクリートと一体化される。これにより、前記第1スタッド及び前記第2スタッドの周囲のコンクリートは、前記第1スタッド及び前記第2スタッドだけでなく、前記第1部位及び前記第2部位とも一体化する。更に、前記第1スタッド及び前記第2スタッドの周囲に補強筋を配することにより、前記第1スタッド及び前記第2スタッドの変位を妨げるとともに、例えばコンクリートのコーン状破壊の様な脆性的な破壊を抑制できる。その結果、前記第1の鉄骨梁及び前記第2の鉄骨梁を補強することができ、前記第1の鉄骨梁及び前記第2の鉄骨梁における横座屈を抑制することができる。
【0009】
さらに、本態様において前記補強筋は、前記第1スタッドと係わり合う第1部位と前記第2スタッドと係わり合う第2部位との間で延びる第3部位を有しているので、前記第3部位が前記床スラブにおける前記ひび割れの成長を抑制することができる。
【0010】
上述するように、前記補強筋は、前記第1の鉄骨梁及び前記第2の鉄骨梁の横座屈を抑制する補強鉄筋と、前記床スラブを形成する為に打設するコンクリートのひび割れの成長を抑制するひび割れ防止鉄筋とを兼ねることができるので、補強鉄筋とひび割れ防止鉄筋とを積み重ねて配置せずとも良く、高さ方向における鉄筋の積み重ねを低くでき、鉄筋に対する床スラブの厚みを確保することができる。その結果、簡素な構成で鉄骨梁により床スラブを支持するスラブ支持構造を得ることができる。
【0011】
尚、本態様において、「係わり合う」とは、前記第1スタッドと前記第1部位とが直接接触する関係に限定されず、地震等でスラブ支持構造に外力が作用した場合、前記第1部位が前記第1スタッドからコンクリート等の材料を介して影響力を受ける様な関係を意味する。前記第2スタッド及び前記第2部位における「係わり合う」も同様の意味である。
【0012】
本発明の第2の態様のスラブ支持構造は、第1の態様において、前記補強筋は、前記第2の方向に延びる第1の鉄筋と、前記第1の方向に延びて前記第1の鉄筋と交差する第2の鉄筋と、を備えてメッシュ状に形成されている、ことを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、前記補強筋は、前記第2の方向に延びる第1の鉄筋と、前記第1の方向に延びて前記第1の鉄筋と交差する第2の鉄筋とを備えてメッシュ状に形成されているので、一の補強筋により、前記第1の鉄骨梁及び前記第2の鉄骨梁における前記第1スタッド及び前記第2スタッドの両方を補強することができ、床スラブにおける配筋も簡素化できる。
【0014】
本発明の第3の態様のスラブ支持構造は、第1の態様において、前記補強筋は、前記第1の鉄骨梁から前記第2の鉄骨梁に向けて延びる第1の鉄筋と、前記第1の方向と前記第2の方向とが合成された方向に延びて前記第1の鉄筋と交差する第2の鉄筋と、を備えてメッシュ状に形成されている、ことを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、前記補強筋において前記第1の鉄筋が前記第1の鉄骨梁から前記第2の鉄骨梁に向けて延びているので、例えば前記第1の鉄骨梁に外力が作用した場合、前記第1の鉄筋に加え、前記第2の鉄骨梁も前記第1の鉄骨梁を支えることができ、前記第1の鉄骨梁の横座屈に対する耐力を高めることができる。同様に、前記第2の鉄骨梁に外力が作用した場合も、前記第1の鉄筋及び前記第1の鉄骨梁が前記第2の鉄骨梁を支えるので前記第2の鉄骨梁の横座屈に対する耐力を高めることができる。
【0016】
さらに、前記第1の鉄筋が前記第1の鉄骨梁から前記第2の鉄骨梁に向けて延びているので、前記第1の方向と前記第2の方向とが合成された方向に生じるひび割れを前記第1の鉄筋が横切る形となり、前記ひび割れの成長を確実に抑制することができる。
【0017】
本発明の第4の態様のスラブ支持構造は、第2または第3の態様において、前記第1の鉄筋と前記第2の鉄筋とは交差する部位において溶接されていることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、前記第1の鉄筋と前記第2の鉄筋とは交差する部位において溶接されているので、例えば前記第1の鉄筋に外力が加わった場合において、前記外力は前記第2の鉄筋にも分散される。これにより前記補強筋は、簡素な構成であっても補強筋全体の耐力を高めることができる。
【0019】
本発明の第5の態様のスラブ支持構造は、第1の態様において、前記補強筋の第1部位は、前記第1スタッドを囲う様なフック形状で形成され、前記補強筋の第2部位は、前記第2スタッドを囲う様なフック形状で形成され、前記補強筋の第3部位は、前記第1部位と前記第2部位とを結ぶ方向に延びる、ことを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、前記補強筋の第1部位は、前記第1スタッドを囲う様なフック形状で形成され、前記補強筋の第2部位は、前記第2スタッドを囲う様なフック形状で形成され、前記補強筋の第3部位は、前記第1部位と前記第2部位とを結ぶ方向に延びている。前記補強筋の第1部位及び第2部位がフック形状で形成されているので、前記補強筋の第1部位と前記第1スタッドとの係わり合い、及び前記補強筋の第2部位と前記第2スタッドとの係わり合いをより確実にすることができる。その結果、前記補強筋は前記第1の鉄骨梁及び前記第2の鉄骨梁を補強し、前記第1の鉄骨梁及び前記第2の鉄骨梁における横座屈の抑制を確実にすることができる。
【0021】
加えて、前記第3部位は前記第1部位と前記第2部位とを結ぶ方向に延びているので、前記第1の方向と前記第2の方向とが合成された方向に生じるひび割れを横切ることになる。その結果、前記第3部位は前記床スラブにおける前記ひび割れの成長を抑制することができる。
【0022】
本発明の第6の態様のスラブ支持構造は、第5の態様において、前記補強筋は、前記第1部位を備えるとともに、前記第3部位が、前記第1部位から前記第2部位に向かう途中で途切れる第1補強筋と、前記第2部位を備えるとともに、前記第3部位が、前記第2部位から前記第1部位に向かう途中で途切れる第2補強筋と、を備え、前記第1補強筋が備える前記第3部位と、前記第2補強筋が備える前記第3部位とが、前記第1部位と前記第2部位とを結ぶ方向においてオーバーラップしている、ことを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、前記第1補強筋が備える前記第3部位と、前記第2補強筋が備える前記第3部位とが、前記第1部位と前記第2部位とを結ぶ方向においてオーバーラップしているので、前記床スラブにおけるひび割れ発生部分における耐力を高めることができ、ひび割れの成長をより確実に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係るスラブ支持構造を備える鉄骨構造物の斜視図。
図2】第1実施形態に係るスラブ支持構造を示す斜視図。
図3】第1実施形態に係るスラブ支持構造を示す平面図。
図4】第1実施形態に係るスラブ支持構造を示す側断面図。
図5】第1実施形態の一の変更形態に係るスラブ支持構造を示す側断面図。
図6】第1実施形態の他の変更形態に係るスラブ支持構造を示す側断面図。
図7】第2実施形態に係るスラブ支持構造を示す平面図。
図8】第3実施形態に係るスラブ支持構造を示す平面図。
図9】従来技術におけるスラブ支持構造とひび割れとの関係を示す平面図。
図10】従来技術におけるスラブ支持構造を示す側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施例において同一の構成については、同一の符号を付し、最初の実施例においてのみ説明し、以後の実施例においてはその構成の説明を省略する。
【0026】
図1は本発明に係るスラブ支持構造を備える鉄骨構造物の斜視図であり、図2は第1実施形態に係るスラブ支持構造を示す斜視図であり、図3は第1実施形態に係るスラブ支持構造を示す平面図であり、図4は第1実施形態に係るスラブ支持構造を示す側断面図である。
【0027】
図5は第1実施形態の一の変更形態に係るスラブ支持構造を示す側断面図であり、図6は第1実施形態の他の変更形態に係るスラブ支持構造を示す側断面図であり、図7は第2実施形態に係るスラブ支持構造を示す平面図であり、図8は第3実施形態に係るスラブ支持構造を示す平面図である。
【0028】
図9は従来技術におけるスラブ支持構造とひび割れとの関係を示す平面図であり、図10は従来技術におけるスラブ支持構造を示す側断面図である。
【0029】
また、各図において示すX-Y-Z座標系はX方向が第1の方向であり、Y方向が第1の方向と交差する第2の方向であり、Z方向がX軸方向及びY方向と交差する方向であり、一例として鉛直方向を示している。
【0030】
<<<第1実施形態>>>
図1を参照して本実施形態に係る鉄骨構造物10について説明する。鉄骨構造物10は、Z軸方向に延びる鋼製の鉄骨柱12と、鋼製の鉄骨柱12に対してX軸方向及びY軸方向のいずれか一方に延びる複数の鋼製の鉄骨梁14とを備えている。鉄骨構造物10は、鉄骨柱12に対して鉄骨梁14を組み合わせて構成されている。本実施形態において鉄骨構造物10は、例えば、ビルディング等の建築物として構築されている。尚、図1ないし図3図7及び図8において鉄骨梁14は、図示を簡略化しているが、一例としてH形鋼として形成されている。
【0031】
図1において、鉄骨構造物10の各階の床面には、鉄骨柱12及び鉄骨梁14に囲まれた領域が形成され、当該領域にコンクリートが打設されて床面を形成する鉄筋コンクリート製の床スラブ16が形成されている。
【0032】
図2及び図3において、鉄骨構造物10の外側に面する鉄骨柱12、特に鉄骨構造物10の角部に位置する鉄骨柱12におけるスラブ床構造を含むスラブ支持構造18について説明する。図2において鉄骨柱12には、第1の方向であるX軸方向に延びる第1の鉄骨梁20と、第2の方向であるY軸方向に延びる第2の鉄骨梁22とが接続されている。本実施形態では、一例として第1の鉄骨梁20及び第2の鉄骨梁22は鉄骨柱12に対して溶接されているが、ボルト等の締結部材等で鉄骨柱12に対して固定してもよい。尚、図2及び図3において、床スラブ16(コンクリート106)の図示を省略している。
【0033】
第1の鉄骨梁20の上面には、第1の方向に適宜間隔をおいて複数の第1スタッド24が設けられている。第2の鉄骨梁22の上面には、第2の方向に適宜間隔をおいて複数の第2スタッド26が設けられている。本実施形態において、第1スタッド24及び第2スタッド26は、頭付きスタッドとして構成されている。
【0034】
図2及び図3において、第1の鉄骨梁20の上部には、Y軸方向に延びる第1スラブ筋28がX軸方向に適宜間隔をおいて第1スタッド24と係わり合うように配置されている。第2の鉄骨梁22の上部には、X軸方向に延びる第2スラブ筋30がX軸方向に適宜間隔をおいて第2スタッド26と係わり合うように配置されている。本実施形態において第1スラブ筋28及び第2スラブ筋30は鉄筋として構成されている。Y軸方向に延びる第1スラブ筋28とX軸方向に延びる第2スラブ筋30とは、交差する部位で結束もしくは固定されている。尚、図2及び図3において、第1スラブ筋28と第1スタッド24、第2スラブ筋30と第2スタッド26は各々が1対1で係わり合うよう示されているが、これは必ずしも1対1である必要はない。
【0035】
本実施形態においてスラブ支持構造18は補強筋32を備えている。補強筋32は、X軸方向に適宜間隔をおいてY軸方向に延びる複数の第1の鉄筋34と、Y軸方向に適宜間隔をおいてX軸方向に延びる複数の第2の鉄筋36とを備えている。本実施形態において、第1の鉄筋34と第2の鉄筋36とはメッシュ状(網目状)に形成されており、第1の鉄筋34と第2の鉄筋36とが交差する部位は、一例として溶接されている。
【0036】
尚、補強筋32は、第1の鉄筋34と第2の鉄筋36とが交差する部位を結束もしくは固定、一例として溶接してメッシュ状に形成する構成であるが、例えば、鉄骨構造物10の建設現場において第1の鉄筋34と第2の鉄筋36とを交差させて、交差部位を結束もしくは固定、一例として溶接して補強筋32を形成(現場施工)してもよく、あるいは、予め第1の鉄筋34と第2の鉄筋36とを交差させて交差部位を結束もしくは固定、一例として溶接して補強筋32を形成(工場施工)した上で鉄骨構造物10の建設現場に運び込み、スラブ支持構造18に設置してもよい。尚、補強筋32の施工形態は、後述する第2実施形態及び第3実施形態においても適用可能である。
【0037】
尚、本実施形態において、第1スラブ筋28及び第2スラブ筋30の直径はd1としており、第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36の直径はd2としている。一例として直径d1は直径d2よりも大きい。
【0038】
本実施形態において、補強筋32は、第1部位32a、第2部位32b及び第3部位32cを備えている。第1部位32aはメッシュ状に形成された補強筋32の-Y方向側の端部に形成されている。第1部位32aは、第1スタッド24と係わり合うように構成されている。具体的には、補強筋32は、第1部位32aにおけるメッシュ部分に第1スタッド24が入り込むように第1の鉄骨梁20の上部に配置されている。尚、本実施形態においてスラブ支持構造18は、一例として第1の鉄骨梁20、第2の鉄骨梁22、第1スタッド24、第2スタッド26及び補強筋32とを備えている。
【0039】
ここで、第1スタッド24は、第1部位32aのメッシュ部分を形成する第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36が形成するメッシュ内に受け入れられていることが望ましい。
【0040】
図示を省略しているが、スラブ支持構造18にコンクリート106(図4及び図9参照)を打設した際、第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36が形成するメッシュ内に受け入れられている第1スタッド24と第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36との間にコンクリート106が入り込む。コンクリート106が乾燥すると、第1スタッド24と第1スタッド24が受け入れられている第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36が形成するメッシュ部分とは、コンクリート106を介して一体化され、第1部位32aの一体性を高めることができる。
【0041】
同様に、第2部位32bはメッシュ状に形成された補強筋32の-X方向側の端部に形成されている。第2部位32bは、第2スタッド26と係わり合うように構成されている。具体的には、補強筋32は、第2部位32bにおけるメッシュ部分に第2スタッド26が入り込むように第2の鉄骨梁22の上部に配置されている。
【0042】
第2スタッド26も、第2部位32bのメッシュ部分を形成する第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36が形成するメッシュ内に受け入れられていることが望ましい。これにより、スラブ支持構造18にコンクリート106を打設した際、第2スタッド26と第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36との間にコンクリートが入り込み、コンクリート106が乾燥することで、第2スタッド26と、第2スタッド26が受け入れられている第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36が形成するメッシュ部分とがコンクリート106を介して一体化され、第2部位32bの一体性を高めることができる。
【0043】
本実施形態において、第3部位32cは第1部位32aと第2部位32bとの間で延びている。本実施形態における第3部位32cは具体的には、第1部位32aと第2部位32bとを繋ぎ、X軸方向に延びる第1の鉄骨梁20とY軸方向に延びる第2の鉄骨梁22との間の領域(具体的にはXY方向の領域)を覆うように配置されている。本実施形態において、補強筋32は、鉄骨柱12を避けるようにL字状に形成されている。
【0044】
<<<補強筋の役割について>>>
ここで、補強筋32の役割について説明する。一例として、建築物の外壁側に配置された鉄骨梁では、鉄骨梁の片側にのみ床スラブが配置されることから、単に頭付きスタッドを設けた構成において地震等による大きな荷重が作用した場合、鉄骨梁が床スラブの配置されていない側に横座屈しようとすると頭付きスタッドも床スラブの配置されていない側に変位しようとする。その結果、頭付きスタッドを変位させようとする力がコンクリート106の耐力より大きい場合、頭付きスタッド周囲のコンクリートが破壊されるコーン状破壊が生じ、床スラブの耐力低下が生じる場合がある。
【0045】
本実施形態において補強筋32の第1部位32aと第1スタッド24とはコンクリート106がスラブ支持構造18に打設されることで、一体化される。ここで、例えば、第1の鉄骨梁20が床スラブの無い側である-Y軸方向に横座屈しようとする場合、第1スタッド24が第1の鉄骨梁20とともに-Y軸方向側に変位しようとする。
【0046】
この際、第1スタッド24は、第1部位32aと一体化されているので、補強筋32も-Y軸方向側に引っ張られる。しかしながら、本実施形態において、第1部位32aの+Y方向側には第3部位32cが形成されている。具体的には、第1部位32aから、+Y軸方向に向けて複数の第1の鉄筋34が延びている。これら第1の鉄筋34の周囲にはコンクリートが打設されており、第1の鉄筋34には、コンクリート106との間に付着力が発生する。尚、ここで、付着力とは、例えば、鉄筋の周囲のコンクリート106に対して鉄筋を引き抜こうとする場合、鉄筋の引抜を妨げるように作用する力である。
【0047】
本実施形態では、第1の鉄筋34は、第1部位32aから第3部位32cまで延びているので、第1の鉄筋34とコンクリート106との接触面積が増大し、第1の鉄筋34とコンクリート106との間に生じる付着力が大きい。その結果、第1の鉄筋34におけるコンクリート106に対する付着強度を高めることができる。したがって、第1の鉄骨梁20が床スラブの無い側である-Y軸方向に横座屈を生じさせようとする場合、補強筋32の第1部位32aから延びる第1の鉄筋34が、第1の鉄骨梁20を-Y軸方向側に横座屈させようとする力に抗する。その結果、第1スタッド24の周囲のコンクリートの耐力を高めることができ、第1スタッド24の周囲のコンクリートにおけるコーン状破壊を抑制し、第1の鉄骨梁20の横座屈を抑制できる。
【0048】
一方、第1の鉄骨梁20が+Y軸方向に横座屈を生じさせようとする場合、スラブ支持構造18に打設されたコンクリート106を圧縮させる方向となる。ここで、コンクリート106は、引張強度よりも圧縮強度の方が高いという特性を有している。したがって、補強筋32及びコンクリート106が第1の鉄骨梁20の横座屈を抑制する。
【0049】
第2部位32bにおいても、+X方向側に複数の第2の鉄筋36が第3部位32cへ延びている。これにより、第2の鉄筋36とコンクリートとの間の付着強度を高めることができる。これにより、第2の鉄骨梁22が-X方向側へ横座屈を生じさせようとする場合、補強筋32の第2部位32bから延びる第2の鉄筋36が、第2の鉄骨梁22を-X軸方向側に横座屈させようとする力に抗する。その結果、第2スタッド26の周囲のコンクリートの耐力を高めることができ、第2スタッド26の周囲のコンクリートにおけるコーン状破壊を抑制し、第2の鉄骨梁22の横座屈を抑制できる。
【0050】
本実施形態において補強筋32は、第1の鉄筋34と第2の鉄筋36とをメッシュ状に交差させて一つの補強筋32として構成したので、一つの補強筋32により第1の鉄骨梁20及び第2の鉄骨梁22の両方を補強することができ、床スラブ16における配筋も簡素化できる。
【0051】
さらに、本実施形態では、第1の鉄筋34と第2の鉄筋36とを交差する部位で一例として溶接しているので、第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36の少なくとも一方に外力、例えば、第1の鉄骨梁20及び第2の鉄骨梁22に横座屈を生じさせようとする力が加わった場合、第1の鉄筋34に作用する力は第2の鉄筋36に分散され、第2の鉄筋36に作用する力は第1の鉄筋34に分散されるので、補強筋32を簡素な構成としつつも補強筋32全体の耐力を高めることができる。
【0052】
ところで、鉄骨梁上に床スラブを形成すべく、コンクリートを打設すると、コンクリートが乾燥する際、コンクリートは収縮する。この際、図9において交差する鉄骨梁100、102上に設けられた頭付きスタッド104がコンクリート106の収縮を拘束するので、コンクリート106において交差する鉄骨梁100、102の交差部にひび割れ108が生じる。コンクリート106の乾燥が進むと、コンクリート106はA1方向及びA2方向に収縮を生じさせる。その結果、コンクリート106において、ひび割れ108が成長し、床スラブの耐力の低下を引き起こす。このため、ひび割れ108を横切る方向にひび割れ防止筋をコンクリート内に配置することが望ましい。
【0053】
図10に示すように、床スラブ110を形成するスラブ鉄筋112、114の他に、頭付きスタッド104を補強する補強鉄筋116、118及びひび割れ防止鉄筋120を配置すると、これらの鉄筋が鉛直方向に積み重なって配置された状態となる。その結果、鉄骨梁100、102の上方において所定の厚みとなるようにコンクリート106を打設した際、積み重なって配置された鉄筋の高さが高くなる。
【0054】
これにより、最上位に配置された鉄筋(図10において、例えばひび割れ防止鉄筋120)に対して所定のコンクリートの被り量h1(例えば、建築基準法では20mm、日本建築学会の鉄筋コンクリート工事標準仕様書では30mm以上と規定されている。)となるようにコンクリート106を打設すると、ひび割れ防止鉄筋120を配置しない場合におけるコンクリートの被り量h2(補強鉄筋118を最上位に配置した状態における所定の被り量)に対してひび割れ防止鉄筋120を配置した分だけコンクリートの被り量を増やさなければならない。
【0055】
図10においては、ひび割れ防止鉄筋120を配置した場合における補強鉄筋118からコンクリート106の上面までの被り量は、h3となる。被り量h3は被り量h1及び被り量h2よりも大きい。したがって、ひび割れ防止鉄筋120を配置した場合、必要以上にコンクリート106の厚みを確保しなければならない。尚、図10における二点鎖線は、補強鉄筋118を最上位に配置した状態におけるコンクリートの上面の位置を模式的に図示している。
【0056】
本実施形態において、第3部位32cは、図3に示すように第1の鉄骨梁20と第2の鉄骨梁22との間の領域(具体的にはXY方向の領域)を覆うように配置されており、Y軸方向に延びる第1の鉄筋34とX軸方向に延びる第2の鉄筋36とは、ひび割れ108が成長しようとする方向であるXY方向と交差するように配置されている。Y軸方向に延びる第1の鉄筋34とX軸方向に延びる第2の鉄筋36には、それぞれコンクリートとの間に付着力が発生している。これにより、第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36に生じる付着力が、コンクリートにおいてひび割れ108(図9)が成長する方向(図9における矢印A1及びA2方向)への収縮を妨げ、ひび割れ108の成長を抑制できる。
【0057】
<<<スラブ筋と補強筋との関係について>>>
図4において、スラブ支持構造18の高さ方向におけるスラブ筋28、30と補強筋32との関係について説明する。図4において、第1スタッド24と係わり合うように、Y軸方向に延びる第1スラブ筋28が配置されている。第1スラブ筋28の下方には、第1スラブ筋28と接触するようにX軸方向に延びる第2スラブ筋30が、Y軸方向に適宜間隔をおいて配置されている。
【0058】
補強筋32の第1の鉄筋34は、X軸方向に間隔をおいて配置された複数の第1スラブ筋28の間に入り込むように配置されている。第1の鉄筋34も高さ方向において第1スタッド24と係わり合うように配置されている。第1の鉄筋34の下方には、第1の鉄筋34と接触するようにX軸方向に延びる第2の鉄筋36が、Y軸方向に適宜間隔をおいて配置されている。
【0059】
本実施形態では、図4に示すように、高さ方向において第1スラブ筋28及び第2スラブ筋30が配置された領域R1と、補強筋32(第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36)が配置された領域R2とがオーバーラップするように構成されている。具体的には、高さ方向において第1スラブ筋28及び第2スラブ筋30が配置された領域R1内に補強筋32(第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36)が配置された領域R2が位置している。
【0060】
本実施形態では、補強筋32が第1の鉄骨梁20及び第2の鉄骨梁22の横座屈を抑制する補強鉄筋と、コンクリート106のひび割れ108(図9)の成長を抑制するひび割れ防止鉄筋とを兼ねるように構成している。これにより、本実施形態において床スラブ16を構成する際、積み重ねる鉄筋の数を減らすことができ、複数の鉄筋を積み重ねた高さを低くすることができるので、最上位の鉄筋(図4において第1スラブ筋28)に対するコンクリート106の被り量をh4とすることができる。本実施形態において被り量h4は、所定の被り量h1(図10)よりも大きい量である。その結果、床スラブを構造上必要な厚さに抑えることができる。
【0061】
<<<第1実施形態の変更形態>>>
(1)本実施形態では、高さ方向において第1スラブ筋28及び第2スラブ筋30が配置された領域R1内に補強筋32(第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36)が配置された領域R2が位置するように配筋したが、この構成に代えて、図5に示すように、第1スラブ筋28及び第2スラブ筋30が配置された領域R1の少なくとも一部と補強筋32(第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36)が配置された領域R2の少なくとも一部とが高さ方向においてオーバーラップするとともに補強筋32をスラブ筋28、30の上側に配置するように構成してもよい。
【0062】
本変更形態では、第1スラブ筋28及び第2スラブ筋30の配筋は第1実施形態と同じである。第1の鉄筋34は高さ方向において第1スタッド24と係わり合うように配置されている。第1の鉄筋34の上方には、第1の鉄筋34と接触するようにX軸方向に延びる第2の鉄筋36が、Y軸方向に適宜間隔をおいて配置されている。これにより、第1スラブ筋28及び第2スラブ筋30が配置された領域R1と補強筋32(第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36)が配置された領域R2とが高さ方向においてオーバーラップし、鉄筋を積み重ねた高さを低くできる。
【0063】
本変更形態では、最上位の鉄筋(図5において第2の鉄筋36)に対するコンクリート106の被り量をh5とすることができる。本実施形態において被り量h5は、所定の被り量h1(図10)よりも大きい量である。その結果、鉄筋に対してコンクリートの被りを所定量の被りh1以上とすることができ、床スラブを構造上必要な厚さに抑えることができる。
【0064】
(2)本実施形態では、高さ方向において第1スラブ筋28及び第2スラブ筋30が配置された領域R1内に補強筋32(第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36)が配置された領域R2が位置するように配筋したが、この構成に代えて、図6に示すように、第1スラブ筋28及び第2スラブ筋30が配置された領域R1の少なくとも一部と補強筋32(第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36)が配置された領域R2の少なくとも一部とが高さ方向においてオーバーラップするとともに補強筋32をスラブ筋28、30の下側に配置するように構成してもよい。
【0065】
本変更形態では、第1スラブ筋28及び第2スラブ筋30の配筋は第1実施形態と同じである。補強筋32の第2の鉄筋36は、Y軸方向に間隔をおいて配置された複数の第2スラブ筋30の間に入り込むように配置されている。Y軸方向に延びる第1の鉄筋34は、第2スラブ筋30及び第2の鉄筋36と接触するように、第2スラブ筋30及び第2の鉄筋36の下方に配置されている。これにより、第1スラブ筋28及び第2スラブ筋30が配置された領域R1と補強筋32(第1の鉄筋34及び第2の鉄筋36)が配置された領域R2とが高さ方向においてオーバーラップし、鉄筋を積み重ねた高さを低くできる。
【0066】
本変更形態においても、最上位の鉄筋は、第2の鉄筋36であるのでコンクリート106の被り量はh5である。本実施形態において被り量h5は、所定の被り量h1(図10)よりも大きい量である。その結果、鉄筋に対してコンクリートの被りを所定量の被りh1以上とすることができ、床スラブを構造上必要な厚さに抑えることができる。
【0067】
尚、上記、第1実施形態の変更形態(1)及び(2)の構成は、後述する第2実施形態及び第3実施形態に適用可能である。
【0068】
<<<第2実施形態>>>
図7においてスラブ支持構造の第2実施形態について説明する。第2実施形態はスラブ支持構造38において補強筋40の構成が異なる点で第1実施形態と相違する。尚、第1の鉄骨梁20、第2の鉄骨梁22、第1スタッド24、第2スタッド26、第1スラブ筋28及び第2スラブ筋30の構成は第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。本実施形態においてスラブ支持構造38は、一例として第1の鉄骨梁20、第2の鉄骨梁22、第1スタッド24、第2スタッド26及び補強筋40とを備えている。尚、図7において、床スラブ16(コンクリート106)の図示を省略している。
【0069】
本実施形態における補強筋40は、第1の鉄骨梁20から第2の鉄骨梁22に向けて、具体的には図7における-X+Y方向(又は+X-Y方向)に延びる第1の鉄筋42と、+X方向と+Y方向とが合成された方向、具体的には+X+Y方向に延び、第1の鉄筋42と交差する第2の鉄筋44とを備えてメッシュ状に形成されている。第1の鉄筋42と第2の鉄筋44とは交差する部位において結束もしくは固定、一例として溶接されている。
【0070】
補強筋40は、第1スタッド24と係わり合う第1部位40aと、第2スタッド26と係わり合う第2部位40bと、第1部位40aと第2部位40bとの間で延びる第3部位40cとを備えている。
【0071】
第1部位40aは、補強筋40の-Y方向側端部に形成されている。第1部位40aには、第1スタッド24が受け入れられ、コンクリート106が打設された後は埋め込まれた状態となる。本実施形態においてもスラブ支持構造38にコンクリート106を打設した際、コンクリート106を介して第1スタッド24と第1部位40aとは一体化される。
【0072】
第2部位40bは、補強筋40の-X方向側端部に形成されている。第2部位40bには、第2スタッド26が受け入れられ、コンクリート106が打設された後は埋め込まれた状態となる。第2部位40bは、スラブ支持構造38にコンクリート106を打設した際、コンクリート106を介して第2スタッド26と一体化される。
【0073】
本実施形態において第3部位40cは、第1部位40aと第2部位40bとを繋いでいる。さらに、第1の鉄筋42は、図9におけるひび割れ108を横切る方向、具体的にはひび割れ108が拡がる方向であるA1方向及びA2方向に沿って延設されている。この構成では、スラブ支持構造38においてコンクリート106が打設された際、第1の鉄筋42とコンクリート106との付着力がひび割れ108の拡がる方向であるA1方向及びA2方向(図9)に対して作用するので、コンクリート106のA1方向及びA2方向への収縮を妨げ、ひび割れ108の成長を抑制できる。
【0074】
さらに、本実施形態では、第1の鉄筋42が第1の鉄骨梁20と第2の鉄骨梁22とを繋ぐように配置されているので、例えば、第1の鉄骨梁20に横座屈を生じさせるような外力が作用した場合、第1の鉄筋42に加え、第2の鉄骨梁22も第1の鉄骨梁20を支えることができ、第1の鉄骨梁20の横座屈に対する耐力を高めることができる。同様に、第2の鉄骨梁22に横座屈を生じさせるような外力が作用した場合も、第1の鉄筋42及び第1の鉄骨梁20が第2の鉄骨梁22を支えるので第2の鉄骨梁22の横座屈に対する耐力を高めることができる。
【0075】
<<<第3実施形態>>>
図8においてスラブ支持構造の第3実施形態について説明する。第3実施形態はスラブ支持構造46において補強筋48の構成が異なる点で第1実施形態と相違する。尚、第1の鉄骨梁20、第2の鉄骨梁22、第1スタッド24、第2スタッド26、第1スラブ筋28及び第2スラブ筋30の構成は第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。本実施形態においてスラブ支持構造46は、一例として第1の鉄骨梁20、第2の鉄骨梁22、第1スタッド24、第2スタッド26及び補強筋48とを備えている。尚、図8において、床スラブ16(コンクリート106)の図示を省略している。
【0076】
本実施形態における補強筋48は、第1補強筋50と、第2補強筋52とを備えている。第1補強筋50は、第1部位48aと、第3部位48cとを備え、第2補強筋52は、第2部位48bと、第3部位48cとを備えている。本実施形態において第1部位48aは、第1スタッド24を取り囲む様なフック形状に形成されている。第2部位48bも第2スタッド26を取り囲む様なフック形状に形成されている。第1部位48a及び第2部位48bもスラブ支持構造46にコンクリート106が打設された際、第1部位48aはコンクリート106を介して第1スタッド24と一体化され、第2部位48bはコンクリート106を介して第2スタッド26と一体化される。
【0077】
本実施形態において、第1補強筋50の第3部位48cは、第1部位48aから第2部位48bに向かう途中で途切れるように構成されている。同様に、第2補強筋52の第3部位48cは、第2部位48bから第1部位48aに向かう途中で途切れるように構成されている。
【0078】
本実施形態において、第1補強筋50の第3部位48cは第1部位48aから第2部位48bに向けて延び、第2補強筋52の第3部位48cは、第2部位48bから第1部位48aに向けて延びており、その経路の途中で、第1補強筋50の第3部位48cと第2補強筋52の第3部位48cとはオーバーラップしている。
【0079】
本実施形態において、第1部位48a及び第2部位48bはフック状に形成されているので、第1部位48aと第1スタッド24との係わり合い及び第2部位48bと第2スタッド26との係わり合いをより確実にすることができる。その結果、第1補強筋50は第1の鉄骨梁20を補強し、第2補強筋52は第2の鉄骨梁22を補強することができ、第1の鉄骨梁20及び第2の鉄骨梁22における横座屈の抑制を確実にすることができる。
【0080】
ここで、図8における符号S1が付された二点鎖線は、床スラブ16においてひび割れ108(図9)の発生し易い部分を示している。本実施形態では、第1補強筋50の第3部位48c及び第2補強筋52の第3部位48cがひび割れ108の発生し易い部分を横切るように配置されている。本実施形態では、第1補強筋50の第3部位48cと第2補強筋52の第3部位48cとをひび割れ108を横切る方向でオーバーラップさせているので、ひび割れ108の成長を抑制できる。
【0081】
本実施形態では、一例として第1補強筋50の第3部位48cは、第2補強筋52の第3部位48cとオーバーラップする領域の長さが第1補強筋50の直径d3の30倍から50倍程度になるように配置されている。同様に、第2補強筋52の第3部位48cも、第1補強筋50の第3部位48cとオーバーラップする領域の長さが第2補強筋52の直径d4の30倍から50倍程度になるように配置されている。これにより、第1補強筋50及び第2補強筋52は一体として見ることができ、ひび割れ108の成長をより確実に抑制できる。
【0082】
<<<各実施形態における他の変更形態>>>
第1実施形態ないし第3実施形態において鉄骨柱12は鉄骨として構成したが、この構成に代えて、鉄筋コンクリート、鉄骨鉄筋コンクリート、CFT造等の構成であってもよい。
【0083】
尚、本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0084】
10 鉄骨構造物、12 鉄骨柱、14、100、102 鉄骨梁、16、110 床スラブ、18、38、46 スラブ支持構造、20 第1の鉄骨梁、22 第2の鉄骨梁、24 第1スタッド、26 第2スタッド、28 第1スラブ筋、30 第2スラブ筋、32、40、48 補強筋、32a、40a、48a 第1部位、32b、40b、48b 第2部位、32c、40c、48c 第3部位、34、42 第1の鉄筋、36、44 第2の鉄筋、50 第1補強筋、52 第2補強筋、104 頭付きスタッド、106 コンクリート、112、114 スラブ鉄筋、116、118 補強鉄筋、120 ひび割れ防止鉄筋、A1、A2 矢印、R1、R2 領域、h1、h2、h3、h4、h5 コンクリートの被り量、S1 ひび割れの発生し易い部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10