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特許7041619ポリ(エーテルスルホン)ブレンド物を含有するポリマー組成物及びこれから製造される物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】ポリ(エーテルスルホン)ブレンド物を含有するポリマー組成物及びこれから製造される物品
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/06 20060101AFI20220316BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220316BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
C08L81/06
C08K3/013
C08K3/34
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018527877
(86)(22)【出願日】2016-11-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 EP2016078859
(87)【国際公開番号】W WO2017093139
(87)【国際公開日】2017-06-08
【審査請求日】2019-10-25
(31)【優先権主張番号】62/261,549
(32)【優先日】2015-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16157651.7
(32)【優先日】2016-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】モンタツ, マリアム
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-005108(JP,A)
【文献】特開平04-227659(JP,A)
【文献】国際公開第2014/072447(WO,A1)
【文献】特表2003-506515(JP,A)
【文献】特表2008-516029(JP,A)
【文献】特開2012-036399(JP,A)
【文献】英国特許第02088396(GB,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質と接触するように構成された表面(S)を含む物品(A)であって、表面(S)が:
- 成分(a):少なくとも80モル%の式(II)の繰り返し単位(RPES):
(式中、
- 各Rは、互いに等しいか又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホン酸塩、アルキルホスホン酸塩、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され、
- 各iは、互いに等しいか又は異なり、0~4の範囲の整数であり、好ましくはそれぞれi=0である)
を含む、約50重量%~約98.5重量%のポリ(エーテルスルホン)(「PES」)ポリマー(M1);
- 成分(b):
-約1重量%~約20重量%のポリスルホン(「PSU」)ポリマー(M2)、又は
-約1重量%~約20重量%のポリ(フェニルエーテルスルホン)(「PPSU」)ポリマー(M3)、又は
-約1重量%~約40重量%の(M2)と(M3)との混合物;
- 任意選択的な、約1重量%~約40重量%のカオリン;
を含有するポリマー組成物(C)を含み、
全ての重量%はポリマー組成物の総重量基準であり、
ポリマー組成物(C)が、約1重量%~約7重量%、好ましくは約1重量%~約5重量%のPPSUポリマー(M3)を含有する場合には、カオリンが少なくとも約7重量%、好ましくは少なくとも約10重量%存在することを条件とする、物品(A)。
【請求項2】
ポリマー組成物(C)がポリスルホン(「PSU」)ポリマーを含まない、請求項1に記載の物品(A)。
【請求項3】
ポリマー組成物(C)が、約67重量%~約95重量%、好ましくは約75重量%~約90重量%の成分(a)、及び/又は約5重量%~約10重量%の成分(b)を含有する、請求項1又は2に記載の物品(A)。
【請求項4】
表面(S)が、基材と、基材の上に配置された約25μm~約1mmの平均厚さを有するフィルム又はコーティングとを含み、フィルム又はコーティングがポリマー組成物(C)を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の物品(A)。
【請求項5】
食品容器、食品器具、及び医療用物品からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の物品(A)。
【請求項6】
PESポリマー(M1)が、少なくとも約200℃、好ましくは少なくとも約210℃、より好ましくは少なくとも約220℃の、ASTM D3418規格に準拠して示差走査熱量分析により測定されるガラス転移温度を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の物品(A)。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の物品(A)とタンパク質との間の付着の低減方法であって、ポリマー組成物(C)から表面(S)の少なくとも一部を形成することを含む、方法。
【請求項8】
成分(a)及び(b)、並びに任意選択的な粘土鉱物フィラー(F)、並びに任意選択的な他の成分をブレンドしてポリマー組成物(C)を作製することと、ポリマー組成物(C)を含む表面(S)を形成するか物品(A)の少なくとも表面にポリマー組成物(C)をコーティング若しくは積層して表面(S)を形成することと、を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の物品(A)の作製方法。
【請求項9】
ポリマー組成物(C)であって、
- 成分(a):少なくとも80モル%の式(II)の繰り返し単位(RPES):
(式中、
- 各Rは、互いに等しいか又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホン酸塩、アルキルホスホン酸塩、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され、
- 各iは、互いに等しいか又は異なり、0~4の範囲の整数であり、好ましくはそれぞれi=0である)
を含む、約60重量%~約98.5重量%のポリ(エーテルスルホン)(「PES」)ポリマー(M1);
- 成分(b):
-約1重量%~約20重量%のポリスルホン(「PSU」)ポリマー(M2)、又は
-約1重量%~約20重量%のポリ(フェニルエーテルスルホン)(「PPSU」)ポリマー(M3)、又は
-約1重量%~約40重量%の(M2)と(M3)との混合物;
- 任意選択的な約1重量%~約40重量%のカオリン;
を含有し、
全ての重量%はポリマー組成物の総重量基準であり、
ポリマー組成物(C)が、約1重量%~約7重量%、好ましくは約1重量%~約5重量%のPPSUポリマー(M3)を含有する場合には、カオリンが少なくとも約7重量%、好ましくは少なくとも約10重量%存在することを条件とする、ポリマー組成物(C)。
【請求項10】
PESポリマー(M1)が、少なくとも90モル%の式(II)の繰り返し単位(RPES)を含む、請求項9に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項11】
PSUポリマー(M2)が、式(X)のもの:
(式中、
- 各Rは、互いに等しいか又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホン酸塩、アルキルホスホン酸塩、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され;
- R’及びR’’は、互いに等しいか又は異なり、水素、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホン酸塩、アルキルホスホン酸塩、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され;
- 各kは、互いに等しいか又は異なり、0~4の範囲の整数であり、好ましくはそれぞれk=0並びに/又はR’及びR’’はメチル基である)である、請求項9又は10に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項12】
PPSUポリマー(M3)が、式(XII)のものである:
(式中、
- 各Rは、互いに等しいか又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホン酸塩、アルキルホスホン酸塩、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され、
- 各lは、互いに等しいか又は異なり、0~4の範囲の整数であり、好ましくはそれぞれl=0である)、請求項9~11のいずれか一項に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項13】
0.1重量%未満のPSUポリマー(M2)を含有する、請求項9~12のいずれか一項に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項14】
タンパク質と接触するように構成された表面(S)を含む物品(A)であって、表面(S)が、請求項9~13のいずれか一項に記載のポリマー組成物(C)を含み、好ましくは、物品(A)が食品容器、食品器具、及び医療用物品からなる群から選択される、物品(A)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年12月1日出願の米国仮特許出願第62/261549号及び2016年2月26日出願の欧州特許出願公開第16157651.7号に基づく優先権を主張する。これらの出願のそれぞれの全内容は、全ての目的のために、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ポリ(エーテルスルホン)ポリマーブレンド物を含有するポリマー組成物に関する。本発明は、更に、ポリ(エーテルスルホン)ブレンド物を含む非付着性表面にも関する。
【背景技術】
【0003】
様々な用途の状況において、プラスチック表面へのタンパク質の望ましくない付着がよく見られる。更に、タンパク質付着の問題は、タンパク質とプラスチック表面が高温(例えば約80℃超)で接触する場合に悪化し得る。例えば、食品用途の状況において、調理中又は配膳時に比較的高い温度で食品と接触する食卓用品、調理器具、貯蔵容器、及び食器類などの容器及び器具は、様々な物質で汚れる場合がある。いくつかの例においては、容器/器具は、残留食品と容器/器具との間の固着のため、思い通りにきれいにすることができない。更に、繰り返し使用すると汚れが一層悪化し、容器/器具の耐用寿命が短くなることになる。
【0004】
別の例として、医療用途においては、体内のタンパク質の望ましくない濃縮物(例えば血液、血漿、及び血清)が体内に埋め込まれた人工移植片及びチューブなどの物品の表面に付着する場合がある。加えて、体外で使用されるがタンパク質を含む体液と接触することになる滅菌トレーや流体ろ過膜などの物品の表面も、望ましくない量のタンパク質が付着しやすい場合がある。
【0005】
タンパク質のプラスチック表面への付着を低減するための典型的な方法としては、タンパク質と物質表面との間の接触を減らすか防止することが挙げられる。フルオロポリマー、特にはポリテトラフルオロエチレンは、それらの非付着特性のためよく知られている。しかし、これらのポリマーは、一般的に、表面上の薄膜として積層又はコーティングされる。そのため、これらにはタンパク質残留物が付着し易く、結果として得られる物品の耐引っ掻き性及び耐摩耗性は十分でない場合がある。食品の付着を減らすための他の公知の方法としては、限定するものではないが、ポリマー組成物中でのシリコーン誘導体の使用が挙げられる。
【0006】
望ましい機械的及び熱的な耐性を維持しながらもタンパク質に関して望ましい非付着特性を有する物品を提供するという課題は、現時点で未だ解決されていない。
【発明の概要】
【0007】
第1の態様においては、本発明は、タンパク質と接触するように構成された表面(S)を含む物品(A)であって、表面(S)が、成分(a):約50重量%~約98.5重量%のポリ(エーテルスルホン)(「PES」)ポリマー(M1);を含有する組成物(C)を含む、物品(A)に関する。ポリマー組成物(C)は、更に、(b):約1.0重量%~約40重量%のポリスルホン(「PSU」)ポリマー(M2);又は約1重量%~約40重量%のポリ(フェニルエーテルスルホン)(「PPSU」)ポリマー(M3);又は約1重量%~約40重量%の(M2)と(M3)との混合物;を含有する。ポリマー組成物(C)は、任意選択的には、約1重量%~約40重量%の少なくとも1種の粘土鉱物フィラー(F)を含有していてもよい。全ての量は、ポリマー組成物の総重量基準である。ポリマー組成物(C)が、約1重量%~約7重量%、好ましくは約1重量%~約5重量%のPPSUポリマー(M3)を含有する場合、粘土鉱物フィラー(F)は、少なくとも約7重量%、好ましくは少なくとも約10重量%で存在する。
【0008】
いくつかの実施形態においては、鉱物フィラー(F)はカオリン及び/又はマイカの中から選択される。
【0009】
いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物(C)はポリスルホンポリマーを含まない。
【0010】
いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物(C)は、約67重量%~約95重量%、好ましくは約75重量%~約90重量%の成分(a)、及び/又は約5重量%~約10重量%の成分(b)を含有する。いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物(C)は、約75重量%~約90重量%の成分(a)、約3重量%~約10重量%の成分(b)としての成分(M2)又は(M3)、約5重量%~約8重量%の二酸化チタン、並びに任意選択的な約5重量%~約30重量%のフィラー(F)としてのカオリン及び/又はマイカを含有する。
【0011】
いくつかの実施形態においては、表面(S)は、基材と、基材の上に配置された約25μm~約1mmの平均厚さを有するフィルム又はコーティングとを含み、フィルム又はコーティングは前記ポリマー組成物(C)を含有する。いくつかの実施形態においては、物品(A)は、食品容器、食品器具、及び医療用物品からなる群から選択される。追加的な又は代替の実施形態においては、物品(A)は、食品提供用のトレー、皿、ボウル、カップ、食品貯蔵容器、ポット、平鍋、ミキシングボウル、キャセロール皿、ナイフ、フォーク、スプーン、調理器具、配膳器具、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。いくつかのそのような実施形態においては、食品提供用のトレーは複数の食品容器を有し、複数の食品容器のうちの少なくとも1つは、上述した物品(A)である。
【0012】
いくつかの実施形態においては、物品(A)は、植込み型除細動器、人工股関節、人工膝関節、心臓ペースメーカー、豊胸インプラント、人工椎間板、子宮内避妊器具、人工膝、冠動脈ステント、耳管、プロテーゼ、人工心臓弁、カテーテル、血液透析膜、鉗子、クランプ、開創器、ディストラクター、外科用メス、外科用ハサミ、拡張器、反射鏡、吸引チップ、ステープラー、注射針、ドリル、光ファイバー機器、及び滅菌トレーから選択される。
【0013】
いくつかの実施形態においては、物品(A)とタンパク質との間の付着の低減方法は、ポリマー組成物(C)から表面(S)の少なくとも一部を形成することを含み得る。いくつかの実施形態においては、物品(A)の作製方法は、成分(a)及び(b)、並びに任意選択的な粘土鉱物フィラー(F)、並びに任意選択的な他の成分をブレンドしてポリマー組成物(C)を作製することと、ポリマー組成物(C)を含む表面(S)を形成するか物品(A)の少なくとも表面にポリマー組成物(C)をコーティング若しくは積層して表面(S)を形成することと、を含み得る。
【0014】
いくつかの実施形態においては、PESポリマー(M1)は、少なくとも約200℃、好ましくは少なくとも約210℃、より好ましくは少なくとも220℃の、ASTM D3418規格に準拠して示差走査熱量分析により測定されるガラス転移温度を有する。
【0015】
第2の態様においては、本発明は、成分(a):例えば約60重量%~約98.5重量%などの約50重量%~約98.5重量%のポリ(エーテルスルホン)(「PES」)ポリマー(M1);を含有するポリマー組成物(C)に関する。ポリマー組成物(C)は、成分(b):例えば約1.0重量%~約20重量%のポリスルホン(「PSU」)ポリマー(M2)などの、約1重量%~約40重量%のポリスルホン(「PSU」)ポリマー(M2);又は、約1重量%超約40重量%以下のポリ(フェニルエーテルスルホン)(「PPSU」)ポリマー(M3);又は、約1重量%超約40重量%以下の(M2)と(M3)との混合物;も含有する。ポリマー組成物(C)は、任意選択的には、約1重量%~約40重量%の少なくとも1種の粘土鉱物フィラー(F)を含有していてもよい。全ての量は、ポリマー組成物の総重量基準である。ポリマー組成物(C)が約1重量%~約7重量%、好ましくは約1重量%~約5重量%のPPSUポリマー(M3)を含有する場合、粘土鉱物フィラー(F)は、少なくとも7重量%、好ましくは少なくとも約10重量%で存在する。
【0016】
いくつかの実施形態においては、PESポリマー(M1)は、少なくとも50モル%の下記式の繰り返し単位(RPES)を含む:
(式中、
- 各Rは、互いに等しいか又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホン酸塩、アルキルホスホン酸塩、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され、
- 各iは、互いに等しいか又は異なり、0~4の範囲の整数である)。いくつかの実施形態においては、それぞれi=0である。
【0017】
いくつかの実施形態においては、PSUポリマー(M2)は、少なくとも50モル%の下記式の繰り返し単位(RPSU)を含む:
(式中、(i)各Rは、互いに等しいか又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホン酸塩、アルキルホスホン酸塩、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され;(ii)R’及びR’’は、互いに等しいか又は異なり、水素、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホン酸塩、アルキルホスホン酸塩、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され;(iii)各kは、互いに等しいか又は異なり、0~4の範囲の整数である)。いくつかの実施形態においては、それぞれk=0である。追加的な又は代替の実施形態においては、R’及びR’’はメチル基である。
【0018】
いくつかの実施形態においては、PPSUポリマー(M3)は、少なくとも50モル%の下記式の繰り返し単位(RPPSU)を含む:
(式中、(i)各Rは、互いに等しいか又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホン酸塩、アルキルホスホン酸塩、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され;(ii)各lは、互いに等しいか又は異なり、0~4の範囲の整数である)。いくつかの実施形態においては、それぞれl=0である。
【0019】
いくつかの実施形態においては、鉱物フィラー(F)はカオリン及び/又はマイカである。
【0020】
いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物(C)は、ポリスルホンポリマー(M2)を含有しないか、ポリスルホンポリマー(M2)を2重量%又は1重量%を超えない量で含有する。
【0021】
いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物(C)は、約67重量%~約95重量%、好ましくは約75重量%~約90重量%の成分(a)、及び/又は、約5重量%~約10重量%の成分(b)を含有する。いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物(C)は、約75重量%~約90重量%の成分(a)、約3重量%~約10重量%の成分(b)としての成分(M2)又は(M3)、約5重量%~約8重量%の二酸化チタン、並びに任意選択的な約5重量%~約30重量%のフィラー(F)としてのカオリン及び/又はマイカを含有する。
【0022】
いくつかの実施形態においては、物品(A)は、タンパク質と接触するように構成された表面(S)を含み、表面(S)はポリマー組成物(C)を含有する。いくつかのそのような実施形態においては、表面(S)は、基材と、基材の上に配置された約25μm~約1mmの平均厚さを有するフィルム又はコーティングとを含み、フィルム又はコーティングはポリマー組成物(C)を含有する。いくつかの実施形態においては、物品(A)は、食品容器、食品器具、及び医療用物品からなる群から選択される。いくつかの実施形態においては、物品(A)は、食品提供用のトレー、皿、ボウル、カップ、食品貯蔵容器、ポット、平鍋、ミキシングボウル、キャセロール皿、ナイフ、フォーク、スプーン、調理器具、配膳器具、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。いくつかのそのような実施形態においては、食品提供用のトレーは複数の食品容器を有し、複数の食品容器のうちの少なくとも1つは、上述した物品(A)であってもよい。
【0023】
いくつかの実施形態においては、物品(A)は、植込み型除細動器、人工股関節、人工膝関節、心臓ペースメーカー、豊胸インプラント、人工椎間板、子宮内避妊器具、人工膝、冠動脈ステント、耳管、プロテーゼ、人工心臓弁、カテーテル、血液透析膜、鉗子、クランプ、開創器、ディストラクター、外科用メス、外科用ハサミ、拡張器、反射鏡、吸引チップ、ステープラー、注射針、ドリル、光ファイバー機器、及び滅菌トレーから選択される。
【0024】
いくつかの実施形態においては、物品(A)とタンパク質との間の付着の低減方法は、ポリマー組成物(C)から表面(S)の少なくとも一部を形成することを含み得る。いくつかの実施形態においては、物品(A)の作製方法は、成分(a)及び(b)、並びに任意選択的な粘土鉱物フィラー(F)、並びに任意選択的な他の成分をブレンドしてポリマー組成物(C)を作製することと、ポリマー組成物(C)を含む表面(S)を形成するか物品(A)の少なくとも表面にポリマー組成物(C)をコーティング若しくは積層して表面(S)を形成することと、を含み得る。
【0025】
いくつかの実施形態においては、PESポリマー(M1)は、少なくとも約200℃、好ましくは少なくとも約210℃、より好ましくは少なくとも220℃の、ASTM D3418規格に準拠して示差走査熱量分析により測定されるガラス転移温度を有する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書においては、ポリ(エーテルスルホン)(「PES」)ポリマー及び(i)ポリスルホン(「PSU」)ポリマー又は(ii)ポリ(フェニルスルホン)(「PPSU」)ポリマーを有するポリマー組成物が述べられる。いくつかの実施形態においては、本ポリマー組成物は、任意選択的に1種以上の添加剤を含んでいてもよい。驚くべきことには、前述のポリマー組成物が、タンパク質に対する極めて優れた非付着特性を有していることが見出された。特に、タンパク質は、比較的弱いファンデルワールス力から比較的強い共有結合までの範囲の化学結合によりプラスチック表面に付着し得る。1つの態様においては、ポリマー組成物は、タンパク質がポリマー組成物を含む物品のプラスチック表面と接触する用途の状況において、プラスチックとタンパク質との間の付着を低減するために望ましく使用することができる。
【0027】
ポリ(エーテルスルホン)ポリマー(M1)
ポリマー組成物は、少なくとも1種のポリ(エーテルスルホン)(「PES」)ポリマー(又はPESポリマー)を含有する。PESポリマーとは、少なくとも50モル%の、次式(I)の繰り返し単位(RPES)を有するポリマーのことをいう:
(式中、(i)各Rは、互いに等しいか又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホン酸塩、アルキルホスホン酸塩、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され、(ii)各iは、互いに等しいか又は異なり、0~4の範囲の整数である)。明確にすると、iが0である場合には、対応するするベンジル基は無置換である。更に、本明細書において、破線の結合は隣接する繰り返し単位への結合を示す。いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物は、少なくとも55モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも99モル%、又は少なくとも99.9モル%の繰り返し単位(RPES)を有し得る。当業者は、想定されている明確に開示されている範囲内及び本開示の範囲内にある追加の(RPES)の量の範囲を認識するであろう。
【0028】
いくつかの実施形態においては、ポリ(エーテルスルホン)(「PES」)ポリマーは、少なくとも50モル%の下記式(II)の繰り返し単位(RPES)を有する。
【0029】
いくつかの実施形態においては、繰り返し単位(RPES)は、それぞれi=0である式(I)又は(II)に従っていてもよい。
【0030】
本発明によれば、ポリ(エーテルスルホン)(「PES」)ポリマーは、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。PESポリマーがコポリマーである実施形態においては、ポリ(エーテルスルホン)(「PES」)ポリマーは、次式からなる群から選択される、繰り返し単位(RPES)とは異なる繰り返し単位(RPES )を含む:
(式中、
各Rは、互いに等しいか又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホン酸塩、アルキルホスホン酸塩、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され;
各jは、互いに等しいか又は異なり、0~4の範囲の整数であり;
Tは、-CH-;-O-;-S-;-C(O)-;-C(CH-;-C(CF-;-C(=CCl)-;-C(CH32)(CHCHCOOH)-;-N=N-;-RC=CR-;(ここで、各R及びRは、互いに独立して、水素、又はC~C12アルキル、C~C12アルコキシ、もしくはC~C18アリール基である);-(CH-及び-(CF-(ここで、qは、1~6の範囲の整数である)、又は最大で6個の炭素原子の、直鎖もしくは分岐の、脂肪族二価基;ならびにそれらの混合から選択される)。
【0031】
いくつかの実施形態においては、繰り返し単位(RPES )は、次のもの:
又はこれらの混合からなる群から選択される。
【0032】
PESポリマーがコポリマーであるいくつかの実施形態においては、PESは、少なくとも約1モル%、少なくとも約5モル%、又は少なくとも約10モル%の繰り返し単位(RPES )を有していてもよい。そのような実施形態においては、PESポリマーは、約50モル%以下、約40モル%以下、約30モル%以下、又は約20モル%以下の繰り返し単位(RPES )を有していてもよい。当業者は、想定されている明確に開示されている範囲内及び本開示の範囲内にある追加的な範囲を認識するであろう。
【0033】
PESポリマーは、約20,000グラム/モル(g/mol)~約100,000g/mol、又は約40,000g/mol~約80,000g/molの重量平均分子量を有し得る。当業者は、想定されている明確に開示されている範囲内及び本開示の範囲内にある追加的な重量平均分子量の範囲を認識するであろう。重量平均分子量は、
として決定することができ、
式中のMは、試料中のポリマー分子の分子量の離散値であり、Nは、分子量Mの試料中のポリマー分子の数である。数平均分子量は、ASTM D5296規格を使用して、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0034】
本明細書における対象のPESポリマーは、少なくとも約200℃、少なくとも約210℃、又は少なくとも約220℃のガラス転移温度(「T」)を有する。ガラス転移温度は、ASTM D3418規格に準拠して、20℃/分の昇温速度を使用する示差走査熱量分析(「DSC」)を使用して測定することができる。
【0035】
本発明のポリマー組成物は、約98.5重量%(「wt.%」)以下、例えば98重量%以下、又は95重量%以下のPESポリマーを含有する。そのような実施形態においては、ポリマー組成物は、少なくとも約50重量%、少なくとも約55重量%、少なくとも約60重量%、又は少なくとも約65重量%のPESポリマーを含有する。当業者は、想定されている明確に開示されている範囲内及び本開示の範囲内にある追加的なPESの量の範囲を認識するであろう。
【0036】
ポリスルホンポリマー(M2)
ポリマー組成物は、任意選択的に少なくとも1種のポリスルホン(「PSU」)ポリマー(又はPSUポリマー)を含有していてもよい。本明細書において、PSUポリマーとは、少なくとも50モル%の、次式(IX)の繰り返し単位(RPSU)を有するポリマーのことをいう:
(式中、(i)各Rは、互いに等しいか又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホン酸塩、アルキルホスホン酸塩、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され;(ii)R’及びR’’は、互いに等しいか又は異なり、水素、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホン酸塩、アルキルホスホン酸塩、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され;(iii)各kは、互いに等しいか又は異なり、0~4の範囲の整数である)。いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物は、少なくとも55モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも99モル%、又は少なくとも99.9モル%の繰り返し単位(RPSU)を有し得る。当業者は、想定されている明確に開示されている範囲内及び本開示の範囲内にある追加の(RPSU)の量の範囲を認識するであろう。
【0037】
いくつかの実施形態においては、繰り返し単位(RPSU)は、式(X):
に従う。
【0038】
いくつかの実施形態においては、繰り返し単位( PSU )は、それぞれk=0である式(IX)又は(X)のものである。
【0039】
いくつかの実施形態においては、繰り返し単位( PSU )は、R’及びR’’がメチル基(-CH)である式(IX)又は(X)のものである。
【0040】
いくつかの実施形態においては、繰り返し単位( PSU )は、R’及びR’’がメチル基(-CH)でありそれぞれk=0である式(IX)又は(X)のものである。
【0041】
本発明のPSUポリマーは、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。
【0042】
いくつかの実施形態においては、PSUポリマーは、コポリマーであり、例えば式(III)~(VIII)からなる式の群から選択される式によって表される、繰り返し単位(RPSU)とは異なる繰り返し単位(RPSU )を更に含む。
【0043】
PSUポリマーがコポリマーであるいくつかの実施形態においては、PSUは、少なくとも約1モル%、少なくとも約5モル%、又は少なくとも約10モル%の繰り返し単位(RPSU )を有していてもよい。そのような実施形態においては、PSUポリマーは、約50モル%以下、約40モル%以下、約30モル%以下、又は約20モル%以下の繰り返し単位(RPSU )を有していてもよい。当業者は、想定されている明確に開示されている範囲内及び本開示の範囲内にある追加的な範囲を認識するであろう。
【0044】
PSUポリマーは、約20,000g/mol~約80,000g/molの重量平均分子量を有していてもよい。当業者は、想定されている明確に開示されている範囲内及び本開示の範囲内にある追加的な重量平均分子量の範囲を認識するであろう。
【0045】
ポリマー組成物がPSUポリマーを含有するいくつかの実施形態においては、PSUポリマーが約1重量%超、少なくとも約1.5重量%、又は少なくとも2重量%の量で存在する場合に極めて優れた非付着特性が見出されることが発見された。いくつかの実施形態においては、PSUポリマーの量は、約40重量%以下、約35重量%以下、約30重量%以下、約20重量%以下、約15重量%以下、又は約10重量%以下である。本発明のポリマー組成物は、例えば約1重量%~約20重量%のポリスルホン(「PSU」)ポリマー(M2)を含有する。当業者は、想定されている明確に開示されている範囲内及び本開示の範囲内にある追加的なPSUの量の範囲を認識するであろう。
【0046】
ポリ(フェニルスルホン)ポリマー(M3)
ポリマー組成物は、任意選択的に少なくとも1種のポリ(フェニルスルホン)(「PPSU」)ポリマー(又はPPSUポリマー)を含有していてもよい。本明細書において、PPSUポリマーとは、少なくとも50モル%の、次式(XI)の繰り返し単位(RPPSU)を有するポリマーのことをいう:
(式中、(i)各Rは、互いに等しいか又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホン酸塩、アルキルホスホン酸塩、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され、(ii)各lは、互いに等しいか又は異なり、0~4の範囲の整数である)。いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物は、少なくとも55モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも99モル%、又は少なくとも99.9モル%の繰り返し単位(RPPSU)を有していてもよい。当業者は、想定されている明確に開示されている範囲内及び本開示の範囲内にある追加の( PPSU )の量の範囲を認識するであろう。
【0047】
いくつかの実施形態においては、繰り返し単位( PPSU )は、式(XII):
のものである。
【0048】
いくつかの実施形態においては、繰り返し単位(RPPSU)は、それぞれl=0である式(XI)又は(XII)のものである。
【0049】
本発明のPPSUポリマーは、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。
【0050】
いくつかの実施形態においては、PPSUポリマーは、例えば式(III)~(VIII)からなる式の群から選択される式によって表される、繰り返し単位(RPPSU)とは異なる繰り返し単位(RPPSU )を含む。
【0051】
PPSUポリマーがコポリマーであるいくつかの実施形態においては、PPSUポリマーは、少なくとも約1モル%、少なくとも約5モル%、又は少なくとも約10モル%の繰り返し単位(RPPSU )を有していてもよい。そのような実施形態においては、PPSUポリマーは、約50モル%以下、約40モル%以下、約30モル%以下、又は約20モル%以下の繰り返し単位(RPPSU )を有していてもよい。当業者は、想定されている明確に開示されている範囲内及び本開示の範囲内にある追加的な範囲を認識するであろう。
【0052】
PPSUポリマーは、約20,000g/mol~約80,000g/molの重量平均分子量を有していてもよい。当業者は、想定されている明確に開示されている範囲内及び本開示の範囲内にある追加的な重量平均分子量の範囲を認識するであろう。
【0053】
通常、ポリマー組成物がPPSUポリマーを含有する実施形態においては、PPSUポリマーが少なくとも7重量%、少なくとも約8重量%、少なくとも約9重量%、又は少なくとも10重量%の量で存在する場合に極めて優れた非付着特性が得られることが見出された。いくつかのそのような実施形態においては、PPSUポリマーの量は、約40重量%以下、約35重量%以下、約30重量%以下、約25重量%以下、又は約20重量%以下である。当業者は、想定されている明確に開示されている範囲内及び本開示の範囲内にある追加的なPPSUの量の範囲を認識するであろう。ポリマー組成物がPPSUポリマーを含有するいくつかの実施形態においては、驚くべきことには、極めて優れた非付着特性が、少なくとも5重量%のPPSUポリマーで達成できることが見出された。特に、驚くべきことには、ポリマー組成物が粘土鉱物フィラーを含有する実施形態においては、極めて優れた非付着特性は、下の実施例で示されるように、約5.5重量%未満のPPSUポリマーの量で達成されることが見出された。そのような実施形態においては、PPSUポリマーの量は、約1重量%超である。それと同時に、PPSUポリマーの量は、約40重量%以下、約35重量%以下、約30重量%以下、約25重量%以下、又は約20重量%以下である。
【0054】
PSUとPPSUとの混合物
いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物は、PSUポリマーとPPSUポリマーの両方を含有する。この場合、PSUポリマーとPPSUポリマーの合計の量は、例えば、約1重量超、例えば約2重量%超、又は約5重量%超であってもよい。いくつかの実施形態においては、PSUポリマーとPPSUポリマーの合計の量は、約40重量%以下、約35重量%以下、又は約30重量%以下、約20重量%以下、約15重量%以下、又は約10重量%以下である。
【0055】
添加剤
いくつかの実施形態においては、本ポリマー組成物は、1種以上の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、限定するものではないが、フィラー、無機顔料、UV/光安定剤、熱安定剤、可塑剤、潤滑剤、加工助剤、耐衝撃性改良剤、難燃剤、及び帯電防止剤を挙げることができる。
【0056】
いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物は、無機顔料以外のフィラーを含有する。望ましいフィラーとしては、限定するものではないが、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、炭化ケイ素繊維、アラミド繊維、珪灰石、タルク、マイカ、二酸化チタン、チタン酸カリウム、シリカ、カオリン、チョーク、アルミナ、窒化ホウ素、酸化アルミニウムが挙げられる。フィラーは、特には機械的強度(例えば曲げ弾性率)及び/又は寸法安定性及び/又は耐摩擦・摩耗性を改善すると考えられる。いくつかの実施形態によれば、ポリマー組成物は、約1重量%~約40重量%、約2重量%~約30重量%、約3重量%~約25重量%、又は20重量%以下の合計のフィラー量を含む。当業者は、想定されている明確に開示されている範囲内及び本開示の範囲内にある追加的なフィラー量を認識するであろう。
【0057】
上で述べたように、いくつかの実施形態においては、特に望ましいフィラーの分類には、粘土鉱物フィラーが含まれる。ポリマー組成物がPPSUポリマーを含有する実施形態においては、驚くべきことには、極めて優れた非付着特性を、粘土鉱物フィラーを含まない対応するポリマー組成物と比べて少ないPPSU量で達成し得ることが見出された。粘土鉱物フィラーとしては、限定するものではないが、カオリン、マイカ、及びモンモリロナイトが挙げられる。カオリンで非常に優れた結果が得られた。粘土鉱物フィラーとPPSUポリマーとを含有する実施形態においては、ポリマー組成物は、少なくとも約1重量%、少なくとも約5重量%、少なくとも約7重量%、少なくとも約8重量%、少なくとも約9重量%、又は少なくとも約10重量%の粘土鉱物フィラー量を有していてもよい。そのような実施形態においては、ポリマー組成物は、約40重量%以下、約30重量%以下、約20重量%以下、又は約15重量%以下の粘土鉱物フィラー量を有していてもよい。当業者は、想定されている明確に開示されている範囲内及び本開示の範囲内にある追加的な粘土鉱物フィラー量の範囲を認識するであろう。
【0058】
いくつかの実施形態においては、本ポリマー組成物は、任意選択的に1種以上の無機顔料を含んでいてもよい。通常、無機顔料は、波長選択的な吸収の結果として反射した又は透過した光の色を変化させることによりポリマー組成物の選択された外観を得るために添加される。望ましい無機顔料としては、限定するものではないが、二酸化チタン、硫化亜鉛、硫酸バリウム、カーボンブラック、リン酸コバルト、チタン酸コバルト、硫セレン化カドミウム、セレン化カドミウム、フタロシアニン銅、ウルトラマリン、ウルトラマリンバイオレット、亜鉛フェライト、マグネシウムフェライト、及び酸化鉄が挙げられる。本明細書の対象のポリマー組成物は、任意選択的には、合計で約0.1重量%~約20重量%の無機顔料の量を含んでいてもよい。当業者は、想定されている明確に開示されている範囲内及び本開示の範囲内にある追加的な顔料の量を認識するであろう。
【0059】
物品
上で説明したように、本明細書の対象のポリマー組成物は、タンパク質に対する極めて優れた非付着特性を有する。そのため、本明細書に記載のポリマー組成物は、望ましくは、タンパク質と直接接触するプラスチック表面を有する物品の中に組み込まれる。物品は、少なくともその一部分がその意図される用途の状況においてタンパク質と接触するプラスチック表面を有し得る。表面は、物品の外表面であっても内表面であってもよい。例えば、食品用ボウルは内表面を有しており、その少なくとも一部はタンパク質(例えば食品)と直接接触することが意図されている。別の例として、医療用インプラントは、タンパク質(例えば血液、血漿、又は血清)と直接接触することが意図されている外表面を有している。当業者であれば、物品の意図されている用途の状況に基づいて、どの表面がタンパク質と接触することが意図されているかを理解するであろう。いくつかの実施形態においては、表面はポリマー組成物を含み得る。例えば、ポリマー組成物は表面の一部を形成していてもよく、あるいはポリマー組成物は物品の全て、又は実質的に全てを形成していてもよい。もう1つの例として、表面は、下にある基材の上に配置された、ポリマー組成物を含むコーティング又はフィルムを含んでいてもよい。そのような実施形態においては、下にある基材は、フィルム又はコーティングを形成しているポリマー組成物とは異なる組成物を有する構造要素であってもよい。ポリマー組成物がフィルム又はコーティングである実施形態においては、フィルム又はコーティングは、約25μm~約1mmの平均厚さを有していてもよい。
【0060】
いくつかの実施形態においては、ポリマー組成物は、望ましくは食品容器及び器具などの物品の中に組み込まれてもよい。食品とは、人間又は動物の消費が意図されており、またこれに適切な、物質のことをいう。そのような物品は一般的に、調理中、配膳時、又は消毒処理(例えば洗浄のための高温蒸気での処理)において、比較的高い温度で食品と接触して、様々な物質、特にはタンパク質で汚れる場合があり、これは通常の家庭の条件では洗浄により思い通りにきれいにすることができない。目玉焼きやスクランブルエッグなどの(ただしこれらに限定されない)、タンパク質を豊富に含む食品は、特に食品容器及び器具に付着する傾向がある。本明細書に記載のポリマー組成物は、容器/器具と残留食品との間の付着の低減を補助するために、食品容器や器具などの物品において望ましく使用することができる。食品容器としては、限定するものではないが、食品提供用のトレー、皿、ボウル及びカップ、食品貯蔵容器、調理器具(例えばポット、平鍋、ミキシングボウル、キャセロール皿)等が挙げられる。食品器具としては、限定するものではないが、ナイフ、フォーク、スプーン、調理器具、配膳器具等が挙げられる。
【0061】
いくつかの実施形態においては、本明細書に記載のポリマー組成物は、望ましくは、航空機産業における機上での用途のための食品容器又は食品器具の中に組み込むことができる。そのような用途の状況では、食品の貯蔵、食品の加熱(一般的には200℃以上)、及び食品の提供のために、単一の容器(例えばボウル)が多くの場合使用される。使用後、容器は、これが取り出されて洗浄のために運ばれる飛行機の着陸時まで保管されたままである。洗浄には、一般的に、容器に対して強力な洗浄工程(約80℃以上)を行う、1つ以上の洗浄工程が含まれる。全ての前述の工程は、望ましくない容器の汚れを悪化させるか、更にこれらの汚れの原因となる場合がある。加えて、そのような繰り返しの使用のサイクルによって、容器は比較的早くそれ以上の使用に望ましくないものとなり、容器を新しいものと交換しなければならない。そのため、本明細書に記載のポリマー組成物を含む食品容器及び器具は、少なくとも食品容器のライフサイクルを延ばすことによって、特には航空機産業における一日当たりに使用される食品容器の量の観点から、大きな経済的利点を有し得る。更に、フライト中に飛行機上で提供される品物は軽量化のために大きく最適化されており、それと同時に強度も必要とされている。本明細書に記載のポリマー組成物は、比較的軽量なままでありながらも非常に優れた強度を有する。本明細書に記載のポリマー組成物は、少なくとも約1.3~約1.6(標準的な温度及び圧力のHOに対して)の相対密度を有することができる。
【0062】
いくつかの実施形態においては、本明細書に記載のポリマー組成物は、望ましくは身体の内部又は外部で使用される医療用物品の中に組み込まれてもよい。例えば、埋め込み可能なデバイスに関して、身体はその自然免疫応答の一部として、埋め込まれた物体の表面上にタンパク質(例えばコラーゲン)を分泌する。埋め込まれたデバイスの表面にタンパク質の堆積物がたまることから、望ましくないことには物質の堆積によって経時的にデバイスの機能が損なわれ、デバイスの交換の必要及び患者に追加的な医療処置を受けさせる必要が生じ、患者のコストを増大させる場合がある。もう1つの例として、手術室の中で使用される医療用トレーの表面は、多くの場合、使用済器具等に由来する体液に触れる。使用後、トレーは、通常、これらを再利用可能にするために滅菌処理される。滅菌処理には、少なくともトレーを洗剤で洗浄することが含まれる場合があり、更に、一般的には高温でトレーを加熱することが含まれる。したがって、本明細書に記載のポリマー組成物は、洗浄の量を減らすために、又は繰り返しの使用サイクルにわたってそのようなトレーの清浄性を更に確実にするために、使用することができる。特定の医療用途に関わらず、医療用物品の適切な機能のためには強度が一般的に必要とされる。更に、特定の医療用途においては(例えば埋め込み可能なデバイス)、同時に軽量化することも望ましい。したがって、本明細書に記載のポリマー組成物は、医療用途の状況に特に望ましい。当然、上のものは、同様の理由のため、動物の治療のために使用される医療用物品(例えば獣医用品)にも等しく当てはまる。
【0063】
いくつかの実施形態においては、本明細書に記載のポリマー組成物は、望ましくは、植込み型除細動器、人工股関節、人工膝関節、心臓ペースメーカー、豊胸インプラント、脊椎固定具(人工脊間板が挙げられるが、これに限定されない)、子宮内避妊器具、人工膝、冠動脈ステント、耳管、プロテーゼ、人工心臓弁、埋め込み可能なチューブ(カテーテルが挙げられるが、これに限定されない)、ろ過膜(血液透析膜が挙げられるが、これに限定されない)、手術器具(鉗子、クランプ、開創器、ディストラクター、外科用メス、外科用ハサミ、拡張器、反射鏡、吸引チップ、ステープラーが挙げられるが、これに限定されない)、注射針、ドリル、光ファイバー機器、及び医療用トレー(滅菌トレーが挙げられるが、これらに限定されない)などの医療用物品の中に組み込むことができるが、これらに限定されない。
【0064】
本明細書に記載の物品は、射出成形、ブロー成形、圧縮成形、及びこれらの任意の組み合わせなどの(ただしこれらに限定されない)、当該技術分野で周知の手法を使用して形成することができる。
【0065】
参照により本明細書に組み込まれる特許、特許出願、及び刊行物のいずれかの開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【実施例
【0066】
次の実施例は、本明細書に記載のポリマー組成物の非付着性能を実証する。
【0067】
性能を実証するために、1種以上の次のポリマーを使用して試料を形成した:
Solvay Specialty Polymers U.S.A, L.L.C.製造のVeradel(登録商標)PES A 301 NT(「M1」);
Solvay Specialty Polymers U.S.A, L.L.C.製造のUdel(登録商標)PSU 1700 NT(「M2」);
Solvay Specialty Polymers U.S.A, L.L.C.製造のRadel(登録商標)PPSU R-5900 NT(「M3」);
Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A製造のPolymist(登録商標)PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)F5A;
Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A製造のHyflon(登録商標)MFA 840(ポリテトラフルオロエチレンパーフルオロメチルビニルエーテル)(「MFA」);及び
Solvay Specialty Polymers U.S.A, L.L.C.製造のRyton(登録商標)PR37 PPS(「PPS」)。
【0068】
更に、各試料に次のうちの1種以上を任意選択的に組み込んだ:
白色顔料として実施例で使用したTiOは、二酸化チタンルチルR105としてDupont Titanium Technologies(登録商標)から供給された;
Wacker Chemieにより供給されたGenioplast(登録商標)Pellet Sをシリコーン系添加剤として使用した;
安定剤として実施例で使用したZnOは、Lanxess CompanyのRhein Chemie Corporationから供給された;そして
カオリンは、BASFからTranslink(登録商標)HF9000として得た。
【0069】
非付着試験用の試料板を形成するために、ポリマー組成物を最初に押出ブレンドし、その後射出成形した。各試料について、ポリマー樹脂及びカオリンを、複数の重量検出型定量フィーダーによって、12個のゾーンを有するZSK-26二軸押出機の第1のバレルに供給した。残りの成分はバレル7の中に供給した。スクリュー速度は、200rpmであった。バレル設定は、340~360℃の範囲にあった。押出物を、慣用装置を使用して冷却し、ペレット化した。ペレットを使用して、射出成形により約5cm7.6cm2.54mmの小さい板を作製した。
【0070】
試料板の非付着特性を試験するために、5ミリリットル(「mL」)の生のスクランブルエッグ(たんぱく質を非常に多く含む食品)を各板の表面上に置いた。次いで、各板をオーブンの中で30分間200℃に加熱し、その後取り出して室温まで冷ました。次いで、板に対して1回以上の洗浄工程を行うことで板の非付着特性を決定した。一回目の洗浄処理(「処理A」)は、板を上下逆さまにして卵を取り除くことを含んでいた。二回目の処理(「処理B」)は、冷たいせっけん水で板を洗うことを含んでいた。
【0071】
非付着特性は、次の通りに目視検査によりランク付けした:
「++」は、処理A後の板に食品が何も付着しなかったことを示し(「付着なし」);
「-」は、処理A後に卵が残っていたものの、処理Bの後には残っていなかったことを示し(「わずかに付着」);
「--」は、処理A及び処理Bの後に卵が残っていたことを示す(「著しく付着」)。結果は以下の表に示されている。
【0072】
【0073】
表1を参照すると、試料E1~E5及びE6~E11は、全て極めて優れた非付着特性を有していた。図1は、E8(左のパネル)及びC4(右のパネル)の写真画像であり、処理A後(E8)、並びに処理A及びB後(C4)の各試料の表面を示している。更に、C1をE1~E5及びE6~E11と比較すると、ポリマー組成物がPSUポリマー又はPPSUポリマーを含有しない場合には、極めて優れた非付着特性は得られないことが実証される。加えて、C3をE5~E7と比較すると、試験した試料について、少ない量のPPSUで極めて優れた非付着特性を得るために、カオリンを利用できることが実証される。特に、E5(10重量%PPSU、カオリンなし)、E6(5重量%PPSU、10重量%カオリン)、及びE7(5重量%PPSU、20重量%カオリン)の全てが付着を有さなかった一方で、C3(5重量%PPSU、カオリンなし)は、有意に付着を有していた。
【0074】
比較組成物C7~C10(含フッ素ポリマーを含む)について得られた結果は次の表2にまとめられている(含フッ素ポリマーを用いた比較例)
【0075】
【0076】
表2を参照すると、結果から、1重量%より多い含フッ素ポリマー(MFA又はPTFE)の存在下では、ポリマー組成物は有意な付着を示すことが実証される。
【0077】
比較組成物C8(PSU/PPSUの代わりにシリコーン添加剤を含有)及びC11~C12(PSU/PPSUの代わりにPPSを含有)について得られた不十分な結果は、次の表3にまとめられている(ポリフェニレンサルファイド又はシリコーン添加剤を用いた比較例)
【0078】
【0079】
本発明の実施例E2~E7、及びE14の組成物に対しては、そのプラスチック表面への汚染作用が広く知られている一般的な調味料を使用した汚染試験も行った。約5mlのケチャップ、マスタード、及びターメリックとコーン油との50:50の体積混合物を、射出成形によって製造した板(上に記載の通り)の上に垂らした。調味料は、室温で72時間乾燥させた。その後、板を冷水及び低刺激性せっけんで洗浄し、乾燥し、汚染についてこれらの表面を目視で検査した。試験したどの板も汚染されなかった。