(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】金属部品を熱処理する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20220316BHJP
C21D 1/34 20060101ALI20220316BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20220316BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20220316BHJP
B21D 24/00 20060101ALI20220316BHJP
B21D 28/00 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
C21D9/00 A
C21D1/34 R
C21D1/34 P
C21D1/18 C
C21D1/34 101
B21D22/20 H
B21D22/20 Z
B21D24/00 M
B21D28/00 A
(21)【出願番号】P 2018538754
(86)(22)【出願日】2017-01-25
(86)【国際出願番号】 EP2017051509
(87)【国際公開番号】W WO2017129601
(87)【国際公開日】2017-08-03
【審査請求日】2019-12-02
(31)【優先権主張番号】102016201024.7
(32)【優先日】2016-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102016201025.5
(32)【優先日】2016-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102016201936.8
(32)【優先日】2016-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102016202766.2
(32)【優先日】2016-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102016120605.9
(32)【優先日】2016-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】315015977
【氏名又は名称】シュヴァルツ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルデン,フランク
(72)【発明者】
【氏名】ライナルツ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンケル,ヨルク
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/137308(WO,A1)
【文献】特開2006-104526(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0091758(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0318415(US,A1)
【文献】国際公開第2010/150683(WO,A1)
【文献】特開2014-147963(JP,A)
【文献】特表2013-515618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/02- 1/84
C21D 9/00- 9/44, 9/50
B21D 22/20,28/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部品(1)を熱処理する方法であって、
a)第1炉(9)内で、金属部品(1)を加熱する工程と、
a1)前記金属部品(1)を
前記第1炉(9)から温度制御部(10)へと移動する工程と、
b)
前記温度制御部(10)内で、前記金属部品(1)における
少なくとも1つの第1部分領域(2)の冷却及び/又は前記金属部品(1)における少なくとも1つの第2部分領域(3)の加熱によって、前記少なくとも1つの第1部分領域(2)と
前記少なくとも1つの第2部分領域(3)との間に温度差を設定する工程と、
b1)前記金属部品(1)を
前記温度制御部(10)から第2炉(12)へと移動する工程と、
b2)前記第2炉(12)内で、
前記金属部品(1)全体内への熱エネルギーの入力が行われることにより、前記金属部品(1)における前記少なくとも1つの第1部分領域(2)を
少なくとも加熱する工程と、
c)プレスハードニングツール(4)内で、前記金属部品(1)を少なくとも部分的に成形及び/又は冷却する工程と
を少なくとも含み、
工程c)よりも前の工程によって、前記金属部品(1)に対して部分的に異なる熱処理が行われて、工程c)よりも後の工程において、前記少なくとも1つの第1部分領域(2)が前記少なくとも1つの第2部分領域(3)よりも低い強度となり、
d)前記金属部品(1)における前記少なくとも1つの第1部分領域(2)に機械的後処理を行う工程と
を
さらに含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
工程a)において、前記金属部品を、放射熱及び/又は対流によって少なくとも500K加熱する
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の方法であって、
工程d)における前記機械的後処理を、少なくとも1つの機械的切断ツール(5)を用いて実行する
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法であって、
前記機械的後処理の加工の間、前記金属部品(1)を前記プレスハードニングツール(4)内に保持する
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法であって、
前記金属部品(1)における前記少なくとも1つの第1部分領域(2)が、フランジ領域(6)及び/又は凹部(7)用の領域を形成する
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部品を熱処理する方法及び装置に関する。本発明は、特に、選択的にプレコートされる部品を部分硬化させる際に用いられる。部品は、望ましくは、高強度マンガンボロン鋼製のものを対象とする。
【背景技術】
【0002】
安全性に関わる鋼板製車体部品の製造には、通常、車体部品へと成形中又は成形後に鋼板を硬化させる必要がある。このために、「プレスハードニング」と呼ばれる熱処理方法が確立されている。このプロセスでは、通常はブランクの形態で提供される鋼板が、初めに炉内で加熱された後、プレス内での成形加工中に冷却されることで硬化される。
【0003】
通常、部品には、加熱及びプレスハードニングによって、加熱されない状態と比べ(僅かではあるが)幾何学的な変化が生じる。このため、一般的には、プレスハードニング後に鋼板を所望の最終外形にトリミングする必要がある。後続のトリミングは、通常、生産される部品の公差仕様の許容範囲が極めて広く、この変化が公差の許容範囲内である場合にのみ省略できる。しかしながら、プレスハードニングが適用される主な分野では、公差仕様の許容範囲は狭いことが多い。
【0004】
また、プレスハードニング後の鋼板の引張強度が、通常、1000MPa(メガパスカル)よりも大きいということを考慮しなければならない。その結果、硬化した部品は特別な方法でしか切断することができない。このために通常適用できる方法として、硬化した鋼の切断又はハードカッティングがある。しかしながら、このプロセスは、1000MPaを超える引張強度をもった鋼を分断できる工具を必要とする。硬化した鋼の切断を行う場合、製造チェーンが長くなるだけでなく、このために必要な工具は多額の投資を必要とする上に摩耗が激しく、保守が必要となる。従って、硬化した鋼の切断は、工業的連続生産において価値あるものとはみなされていない。
【0005】
工業的連続生産における一般的な方法はレーザーカッティングである。少なくとも一本のレーザービームによって、硬化した部品を所望の最終外形にトリミングする。しかしながら、レーザーカッティングは、通常、長いサイクル時間を要し、エネルギーコストが高く多額の投資が必要という欠点がある。
【発明の概要】
【0006】
このことから、本発明は、先行技術に関して述べた問題の少なくとも一部を解決することを目的とする。特に、可能な限り正確な外形をもつプレス硬化された部品を工業的連続生産で製造可能とする、金属部品を熱処理する方法及び装置が提供される。また、この方法及び装置は可能な限り最低のエネルギー費用で実行又は操作可能とし、且つ/又は、その実装及び/又は生産は可能な限り最低の投資費用となるはずである。また、特に、この方法及び装置は可能な限り短いサイクル時間を実現できるようにする。
【0007】
これらの目的は、独立請求項の特徴によって実現される。本明細書に開示される解決策の更に有利な実施形態は、従属請求項に記される。なお、従属請求項内に個別に列記される特徴は、任意の且つ技術的に有意義な手法で互いに組み合わせられて、本発明の更なる実施形態を定義することができる。また、請求項内に記される特徴は、本発明の更に好適な実施形態が提示される明細書内でより詳細に特定及び説明される。
【0008】
本発明に係る、金属部品を熱処理する方法は、
a)部品を加熱する工程と、
b)部品における少なくとも1つの第1部分領域と少なくとも1つの第2部分領域との間に温度差を設定する工程と、
c)プレスハードニングツール内で、部品を少なくとも部分的に成形及び/又は冷却する工程と、
d)部品における少なくとも1つの第1部分領域に機械的後処理を行う工程とを少なくとも含む。
【0009】
上記の方法工程a)、b)、c)及びd)の順序は、この方法の通常のプロセスに基づく。この個別又は複数の方法工程は同時に実施されてもよいし、連続的及び/又は少なくとも部分的に同時に実施されてもよい。好適には、この方法は、本明細書に開示する装置を使用して実施される。開示される方法は、特に、可能な限り正確な外形をもった、プレス硬化された部品の生産に用いられる。
【0010】
特に有利な手法では、開示される方法によって、プレス硬化された部品が、工業的連続生産で製造される際に可能な限り正確な外形をもつようにできる。これによって、特に、部品において後処理を必要としうる領域が、部品における少なくとも1つの他の領域よりも低い強度となるように、後処理加工に先立って、部品に対して部分的に異なる熱処理を行なうことが可能となる。これによって、後処理加工を機械的に、特に工具を激しく摩耗させることなく実行できるため、エネルギーコストが高く且つ多額の投資を必要とするレーザーカッティングを省略できる。機械的な後処理は比較的素早く行うことができるので、この方法は、特に、可能な限り短いサイクル時間を更に実現する。
【0011】
好適には、金属部品は、金属ブランク、鋼板、又は少なくとも部分的に事前成形された半製品である。好適には、金属部品は、例えば記号表示が22MnB5である(マンガン)ボロン鋼といった(硬化可能な)鋼を用いたもの又は鋼製である。更に好適には、金属部品には、少なくとも大部分に(金属)コーティングが設けられるか、それがプレコートされる。例えば、亜鉛を(主に)備えたコーティング、又はアルミニウム及び/又はシリコンを(主に)備えたコーティングであってもよく、特に、アルミニウム/シリコン(Al/Si)コーティングとして知られるものであってもよい。
【0012】
工程a)では、部品(全体)を加熱し、特に第1炉内で加熱する。好適には、部品は、第1炉内で、均一且つ/又は均等に、加熱される。更に好適には、部品は、例えば、加熱ループや電熱線といった、(部品と物理的及び/又は電気的に接触しない)少なくとも1つの電動加熱要素、及び/又は少なくとも1つの(ガス加熱式)放射管による放射熱(のみ)によって、第1炉内で加熱される。
【0013】
有利な実施形態によれば、工程a)において、部品を、放射熱及び/又は対流によって少なくとも500K〔ケルビン〕、好適には少なくとも700K、又は更に好適には少なくとも800K加熱することが提案される。好適には、工程a)において、接触がない状態で、特に電動加熱要素との熱伝導及び/又は電気接触がない状態で、加熱する。
【0014】
好適には、部品は、工程a)において、Ac3温度より低い温度まで、又はAc1温度より低い温度にまで加熱される。Ac1温度は、金属部品、特に鋼部品が加熱されると、フェライトからオーステナイトへの変化が始まる温度である。Ac3温度は、金属部品、特に鋼部品が加熱されると、フェライトからオーステナイトへの変化が終了するか(全体的に)完了している温度である。或いは、部品は、工程a)において、Ac3温度を上回る温度まで加熱されてもよい。
【0015】
好適には、工程a)の後且つ工程b)の前に、部品を、温度制御部内へと移動させる。このために、例えば少なくともローラテーブル及び/又は(工業)ロボットを備えた搬送ユニットが設けられてもよい。特に好適には、部品を第1炉から温度制御部へ移動させる。特に、部品は、第1炉から温度制御部まで少なくとも0.5m〔メートル〕の距離を移動する。部品は、周辺領域と接触しながら、又は保護環境内で、案内されてもよい。
【0016】
有利な実施形態によれば、工程b)における温度差の設定を、1つの第1部分領域の冷却及び/又は少なくとも1つの第2部分領域の加熱によって行うことが提案される。好適には、部品における少なくとも1つの第1部分領域の、部分的、能動的、伝導的且つ/又は対流的な冷却が、工程b)において、特に温度制御部において行われる。また、冷却後、部品は部分的に異なる(部品)温度を有し、少なくとも1つの第1部分領域の第1温度と少なくとも1つの第2部分領域の第2温度との間に温度差が設定される。また、工程c)では、部品の異なる部分領域間で複数の(異なる)温度差を設定することも可能である。例えば、それぞれが異なる温度を有する3つ以上の部分領域を部品内に設定することも可能である。
【0017】
好適には、工程b)における温度差の設定は、部品における少なくとも1つの第1部分領域の(第1)温度が、同じ部品における少なくとも1つの第2部分領域の(第2)温度よりも低くなるように行われる。より好適には、工程b)において、部品における少なくとも1つの第1部分領域と少なくとも1つの第2部分領域との間の温度差を、少なくとも50K、好適には少なくとも100K、又は更に好適には少なくとも150Kに設定する。第1部分領域は、通常、(第2部分領域と比べて)完成後の部品においてより延性がある部分領域か、強度が低い部分領域である。第2部分領域は、通常、(第1部分領域と比べて)完成後の部品において比較的硬い部分領域か、強度が高い部分領域である。
【0018】
工程b)において1つの第1部分領域の(能動的な)冷却が行われる場合は、好適には対流によって行われ、特に好適には、流体を噴射する少なくとも1つのノズルによって行われる。このために、ノズルは、温度制御部内に設置されて第1部分領域に向かって配向されてもよい。流体は、例えば空気、窒素、水、又はそれらの混合物であってもよい。好適には、冷却は、それぞれが流体を噴射する複数のノズルを備えたノズル列によって行われ、特に好適には、ノズル列の形状及び/又は複数のノズルの配置は、部品における少なくとも1つの第1部分領域の(所望の)形状に適合する。
【0019】
少なくとも1つの第1部分領域は、好適には、工程b)において、Ac1温度よりも低い温度まで冷却される。少なくとも1つの第1部分領域は、特に好適には、工程b)において、Ac1温度よりも低い温度まで冷却される。好適には、少なくとも1つの第1部分領域は、工程b)において、550℃〔セルシウス度〕(823.15K)よりも低い温度、特に好適には500℃(773.15K)よりも低い温度、又は450℃(723.15K)よりも低い温度にまで冷却される。
【0020】
特に、1つの第1部分領域の(能動的な)冷却の代わりに又は追加で、部品における少なくとも1つの第1部分領域と少なくとも1つの第2部分領域との間の温度差を、少なくとも1つの第1部分領域を少なくとも部分的に熱的に絶縁、分離、画定、及び/又は分割することにより設定して(も)よい。好適には、少なくとも1つの第1部分領域は、特に少なくとも1つのカバー、パネル及び/又はパーティションによって、少なくとも1つの第2部分領域及び/又は(電気)加熱要素等の熱源から、少なくとも部分的に熱的に絶縁、分離、画定、及び/又は分割される。特に、部品における少なくとも1つの第1部分領域が能動的に冷却されない場合には、特に好適には、工程b)において、部品における少なくとも1つの第3部分領域を、例えば対流及び/又は伝導によって能動的に冷却したり、部品における少なくとも1つの第2部分領域内に熱エネルギーを(能動的に)入力したりする。これによって、第3部分領域内を、第1部分領域内よりも(更に)低い強度に設定できる。好適には、部品における少なくとも1つの第3部分領域は、工程b)において、少なくとも50K、好適には少なくとも100K、又は更に好適には少なくとも150K冷却される。
【0021】
好適には、工程b)において、部品における少なくとも1つの第2部分領域内に熱エネルギーを入力することは、特に温度制御部内で行われ、且つ/又は、(能動的な)冷却工程又は受動的な冷却工程又は部品における少なくとも1つの第1部分領域を冷却する工程と同時に又は少なくとも部分的に同時に行われる。好適には、部品における少なくとも1つの第2部分領域には、工程b)において及び/又は温度制御部内で、熱放射(のみ)が行われる。この熱放射は、例えば、加熱ループや電熱線といった、特に温度制御部内に設置された(部品と接触しない)少なくとも1つの電動又は電気で加熱される加熱要素、及び/又は、特に温度制御部内に設置された少なくとも1つの(ガス加熱式)放射管によって生成及び/又は照射される放射熱(のみ)によるものである。
【0022】
部品における少なくとも1つの第2部分領域内への熱エネルギーの入力は、工程b)中に及び/又は部品が温度制御部内に滞在している状態で、少なくとも1つの第2部分領域 の温度の低下及び/又は少なくとも1つの第2部分領域の冷却速度について、これが少なくとも軽減されるように行うことができる。このプロセス制御は、工程a)において部品をAc3温度より高い温度まで加熱した場合に、特に有利である。或いは、温度制御部内での、部品における少なくとも1つの第2部分領域への熱エネルギーの入力は、部品における少なくとも1つの第2部分領域が、特に少なくとも約50K(大幅に)加熱されるように行われてもよい。このプロセス制御は、工程a)において部品をAc3温度より低い温度まで、又はAc1温度より低い温度にまで加熱した場合に、特に有利である。
【0023】
好適には、部品は、工程b)の後及び工程c)の前に、第2炉内へと移動される。
特に好適には、(このプロセスで)部品を温度制御部から第2炉内へと移動させる。このために、例えば少なくともローラテーブル及び/又は(工業)ロボットを備えた搬送ユニットが設けられてもよい。好適には、部品は、温度制御部から第2炉まで少なくとも0.5mの距離を移動する。部品は、周辺領域と接触しながら、又は保護環境内で、案内されてもよい。好適には、部品は、温度制御部から取り除かれた直後に第2炉内へとそのまま搬送される。
【0024】
好適には、少なくとも、部品における少なくとも1つの第1部分領域は、工程b)の後及び工程c)の前に、特に第2炉内で、好適には少なくとも50K、特に好適には少なくとも100K、又は更に好適には少なくとも150K加熱される。代わりに又は追加で、部品における少なくとも1つの第3部分領域は、工程b)の後及び工程c)の前に、特に第2炉内で、好適には少なくとも100K、特に好適には少なくとも150K、又は更に好適には少なくとも200K加熱される。加熱される少なくとも1つの第1部分領域に加えて少なくとも1つの第3部分領域が加熱される場合、これらの加熱プロセスは、同時に又は少なくとも部分的に同時に行われてもよい。
【0025】
特に好適には、少なくとも、部品における少なくとも1つの第1部分領域又は少なくとも1つの第3部分領域は、第2炉内で、例えば、加熱ループや電熱線といった(部品と接触しない)少なくとも1つの電動加熱要素、及び/又は少なくとも1つの(ガス加熱式)放射管による放射熱(のみ)によって加熱される。更に好適には、工程e)では、少なくとも1つの第1部分領域及び/又は少なくとも1つの第3部分領域の加熱と特に同時に又は少なくとも部分的に同時に、特に放射熱(のみ)によって、部品における少なくとも1つの第2部分領域が、少なくとも50K、特に好適には少なくとも70K、又は更に好適には少なくとも100K加熱される。特に好適には、第2炉では、部品における少なくとも1つの第2部分領域は、Ac1温度より高い温度まで、又はAc3より高い温度にまで加熱される。或いは、部品が第2炉内に滞在している状態で、少なくとも1つの第1部分領域及び/又は少なくとも1つの第3部分領域の加熱と特に同時に又は少なくとも部分的に同時に、少なくとも1つの第2部分領域の温度低下の抑制及び/又は少なくとも1つの第2部分領域の冷却速度低下が少なくとも行われる。
【0026】
言い換えれば、工程b)の後及び工程c)の前に、特に放射熱による、部品全体内への熱エネルギーの入力が行われてもよい。例えば、第2炉は、このために、特に放射熱(のみ)によって加熱可能な、好適には(実質的に)均等な内部温度が実現される炉内部を備えてもよい。好適には、第2炉内での、部品における少なくとも1つの第1部分領域内への熱エネルギーの入力は、少なくとも1つの第1部分領域の温度が少なくとも50K、好適には少なくとも100K、特に好適には少なくとも150K、又は更に好適には少なくとも200K上昇するように行われる。少なくとも1つの第3部分領域が存在する場合、第2炉内での、部品における少なくとも1つの第3部分領域内への熱エネルギーの入力は、少なくとも1つの第3部分領域の温度が少なくとも100K、好適には少なくとも120K、特に好適には少なくとも150K、又は更に好適には少なくとも200K上昇するように行われる。
【0027】
好適には、第2炉内での、部品における少なくとも1つの第2部分領域内への熱エネルギーの入力は、部品が第2炉内に滞在している状態で、少なくとも1つの第2部分領域の温度の低下及び/又は少なくとも1つの第2部分領域の冷却速度が少なくとも軽減されるように行うことができる。このプロセス制御は、工程a)において部品をAc3温度より高い温度まで加熱した場合に、特に有利である。或いは、第2炉内での、部品における少なくとも1つの第2部分領域内への熱エネルギーの入力は、少なくとも、部品における少なくとも1つの第2部分領域が、特に少なくとも50K、特に好適には少なくとも70K、又は更に好適には少なくとも100K(大幅に)加熱され、且つ/又は、Ac1温度より高い温度まで又はAc3温度より高い温度にまで加熱されるように行われてもよい。このプロセス制御は、工程a)において部品をAc3温度より低い温度まで又はAc1温度より低い温度にまで加熱した場合に、特に有利である。
【0028】
第2炉が設けられる場合、好適には、部品は、工程c)の前に、第2炉からプレスハードニングツール内へと移動される。好適には、第2炉からプレスハードニングツール内への移動は、例えば少なくともローラテーブル及び/又は処理ユニット、特に(工業)ロボットを備えた搬送装置によって行われる。特に、好適には、部品は、第2炉からプレスハードニングツールまで少なくとも0.5mの距離を移動する。部品は、周辺領域と接触しながら、又は保護環境内で、案内されてもよい。好適には、部品は、第2炉から取り除かれた直後にプレスハードニングツール内へとそのまま搬送される。
【0029】
工程d)において、部品における少なくとも1つの第1部分領域には、特にトリミングによって、(単に又は独占的に)機械的後処理が行われる。機械的な後処理は、好適には、少なくとも分断、切断、鋸引き、フライス加工、及び/又は平削りを含む。特に好適には、部品における少なくとも1つの第1部分領域の内部及び/又は上に対する機械的な切断は、工程d)で行われる。より好適には、少なくとも1つの第1部分領域の領域内における部品の機械的トリミングが工程d)で行われる。好適には、機械的な後処理は、部品における少なくとも1つの第1部分領域のスタンピングを含む。特に好適には、後処理、特にトリミング又はスタンピングは、部品における第1部分領域の大部分、特に少なくとも70%、又は少なくとも85%もが、(残りの)部品から除去及び/又は分断されるように行われる。より好適には、工程d)において、部品における第1部分領域の特に少なくとも大部分、特に少なくとも70%、又は少なくとも85%もの、(残りの)部品からのチップレス及び/又は断熱切断加工が行われる。断熱分断は、特に、特に強い加熱による微細組織の分解又は軟化を実現する、この場合における分断領域での高速塑性変形を意味するものと理解されたい。分断プロセスが好適には高速であることで、特に、(分断領域の)材料端領域内への熱伝導が(実質的に)行われない。
【0030】
有利な実施形態によれば、工程d)における機械的な後処理を、少なくとも1つの機械的切断ツールを用いて実行することが提案される。機械的切断ツールは、好適には、ブレード又は切断エッジといった、互いに(対して)近付いたり離れたりするように動作可能な、少なくとも2つの分断手段及び/又は切断手段を備える。より好適には、切断ツールは手動案内及び/又は自動の鋼ばさみである。特に好適には、切断ツールは電気、空気圧、油圧によって駆動できる。
【0031】
有利な実施形態によれば、機械的な後処理加工の間、部品をプレスハードニングツール内に保持することが提案される。機械的な後処理は、好適には、部品がプレスハードニングツール内で保持、クランプ、チャック及び/又はプレスされている間に行われる。好適には、機械的な後処理は、(プレスハードニングツールによって実行される)成形及び/又は冷却の直後に行われる。特に、機械的な後処理はプレスハードニングツール内で行われる。
【0032】
より有利な実施形態によれば、部品における少なくとも1つの第1部分領域が、フランジ領域及び/又は凹部用の領域を形成することが提案される。好適には、少なくとも1つの第1部分領域は部品の連結フランジを形成する。より好適には、少なくとも1つの第1部分領域は部品の端領域を形成する。特に好適には、端領域は部品全体の周囲に延在する。
【0033】
より好適には、少なくとも1つの第1部分領域は、少なくとも部分的に、部品の(外側)外形に沿って、又は(外側)部品端部に沿って、延在する。
【0034】
((外側)部品端部から続く、又は(外側)外形から続く)ストリップが、部品の中心に向かって、少なくとも0.005m[メートル]、好適には少なくとも0.01m、又は更に好適には少なくとも0.1m、及び/又は0.3mまで、好適には0.2mまで、又は更に好適には0.1mまで延在してもよい。ストリップは、(外側)外形に沿った、又は(外側)部品端部に沿った、好適には0.05mから0.15m、特に好適には約0.1mの、延在方向に交差する(均一又は不均一な)ストリップ幅を有してもよい。ストリップは、好適には、部品の(外側)外形全体に沿って、又は(外側)部品端部全体に沿って形成される。これによって、部品により延性のある部品端部を設けることができ、部品の(外側)外形をよりトリミングし易くできる。
【0035】
更なる態様によれば、
‐加熱可能な第1炉と、
‐金属部品における少なくとも1つの第1部分領域と少なくとも1つの第2部分領域との間に温度差を設定するように構成されて設けられた、少なくとも1つの温度制御部と、
‐少なくとも1つのプレスハードニングツールと、
‐プレスハードニングツールに割り当てられる、少なくとも1つの機械的後処理ユニットとを少なくとも備える、部品を熱処理する装置が開示される。
【0036】
第1炉は、好適には、放射熱及び/又は対流によって加熱できる。装置は、より好適には、特に放射熱及び/又は対流によって加熱できる、加熱可能な第2炉を備える。特に好適には、第2炉は温度制御部の下流に位置付けられる。また、好適には、第2炉は、少なくとも、部品における少なくとも1つの第1部分領域又は少なくとも1つの第3部分領域を、少なくとも50K、好適には少なくとも100K、特に好適には少なくとも150K、又は更に好適には少なくとも200K加熱するように構成されて設けられる。
【0037】
更に有利な実施形態によれば、少なくとも第1炉又は第2炉が連続炉又はバッチ炉であることが提案されている。好適には、第1炉は連続炉であり、特にローラハース炉である。特に好適には、第2炉は連続炉であり、特にローラハース炉又はバッチ炉であり、特に、一方の上に他方が設置された少なくとも2つのチャンバを備えた多層バッチ炉である。
【0038】
好適には、第2炉は、特に放射熱(のみ)によって加熱可能で、好適には(実質的に)均等な内部温度を設定できる、炉内部を含む。特に、第2炉が多層バッチ炉として設計されている場合、こうした炉内部が、チャンバの数に対応して複数存在してもよい。
【0039】
好適には、第1炉及び/又は第2炉内に、放射熱源(のみ)が設置される。これは、少なくとも1つの電動加熱ループ及び/又は少なくとも1つの電動電熱線といった、(部品と接触しない)少なくとも1つの電動加熱要素を、第1炉の炉内部及び/又は第2炉の炉内部に設置する場合に特に好ましい。代わりに又は追加で、少なくとも1つの、特にガス加熱式の放射管を、第1炉の炉内部及び/又は第2炉の炉内部に設置してもよい。好適には、複数の放射管ガスバーナー、又は少なくとも1つのガスバーナーがそれぞれの内部で燃焼する放射管を、第1炉の炉内部及び/又は第2炉の炉内部に設置する。ガスバーナーが内部で燃焼する放射管の内部領域は、炉内部に燃焼ガスや排ガスが到達して炉内雰囲気に影響を及ぼすことのないように、大気によって炉内部から分離される場合に、特に有利である。こうしたシステムは「間接ガス加熱」とも呼ばれる。
【0040】
温度制御部は、好適には、第1炉の下流に位置付けられる。流体を噴射するように設けられ且つ構成された少なくとも1つのノズルは、温度制御部内に設置又は保持されてもよい。好適には、少なくとも1つのノズルは、部品における少なくとも1つの第1部分領域及び/又は少なくとも1つの第3部分領域を冷却するために流体を噴射するように構成されて設けられる。これによって、部品における少なくとも1つの第1部分領域又は少なくとも1つの第3部分領域と少なくとも1つの第2部分領域との間の温度差を、特に有利に設定できる。特に好適には、少なくとも1つのノズルは、部品における少なくとも1つの第1部分領域及び/又は第3部分領域に向かって流体を噴射することが可能なように配向される。より好適には、各ノズルが流体を噴射するように設けられ且つ構成された複数のノズルを備えたノズル列を、温度制御部内に設置する。特に好適には、ノズル列の形状及び/又は複数のノズルの配置は、部品における少なくとも1つの第1部分領域の(所望の)形状に適合する。
【0041】
好適には、少なくとも1つの加熱ユニットが温度制御部内に設置される。好適には、加熱ユニットは、部品における少なくとも1つの第2部分領域内へと熱エネルギーを入力するように設けられ且つ構成される。特に好適には、加熱ユニットは、部品における少なくとも1つの第2部分領域内への熱エネルギーの入力が、少なくとも1つのノズルによる、部品における少なくとも1つの第1部分領域及び/又は少なくとも1つの第3部分領域の冷却と同時又は少なくとも部分的に同時に実施できるように、温度制御部内に設置及び/又は配向される。好適には、加熱ユニットは少なくとも1つの放射熱源(のみ)を備える。特に好適には、少なくとも1つの放射熱源は、少なくとも1つの電動加熱ループ及び/又は少なくとも1つの電動電熱線といった、(部品と(機械的に及び/又は電気的に)接触しない)少なくとも1つの電動加熱要素を考慮して設計される。代わりに又は追加で、少なくとも1つのガス加熱式の放射管を放射熱源として提供してもよい。
【0042】
プレスハードニングツールは、好適には、第2炉の下流に位置する。プレスハードニングツールは、特に、部品の成型及び(少なくとも部分的な)冷却、特に急冷を、同時又は少なくとも部分的に同時に行うように設けられ且つ構成される。
【0043】
少なくとも1つの機械的後処理ユニットはプレスハードニングツールに割り当てられる。好適には、後処理ユニットは設置されてもよく、又はプレスハードニングツールの領域内に設置される。特に好適には、後処理ユニットは配向されてもよく、プレスハードニングツールに向かって配向される。より好適には、後処理ユニットがプレスハードニングツールと協働するように、後処理ユニットがプレスハードニングツールに対して、特に電磁的、機械的、空気圧的、油圧的、及び/又は信号伝達可能に接続される。後処理ユニットは、(プレスハードニングツールから)分離したユニットを表してもよいし、プレスハードニングツール内に少なくとも部分的に組み込まれたり、プレスハードニングツールに固定されて接続されたりしてもよい。例えば、後処理ユニットは(このために)、好適には、プレスハードニングツール、特にプレスハードニングツールの上側シェル及び/又は下側シェルと一体的に又はその上に形成されるか、プレスハードニングツールに固定されて接続される後処理ツール、特に分断ツール、スタンピングツール及び/又は切断ツールを備える。後処理ツールの第1部分、特に第1ブレードが、プレスハードニングツールの上側シェルに(直接及び/又は固定されるように)接続されてもよいし、後処理ツールの第2部分、特に第2ブレードが、プレスハードニングツールの下側シェルに(直接及び/又は固定されるように)接続されてもよい。
【0044】
有利な実施形態によれば、少なくとも1つの機械的後処理ユニットが、少なくとも1つの機械的切断ツールを備えることが提案される。
【0045】
装置は、好適には、本明細書に開示する方法を実行するのに用いられる。有利な実施形態によれば、装置が、本明細書に開示する方法を実行するように構成されて設けられる。
【0046】
方法と関連して説明される詳細、特徴及び有利な実施形態は、本明細書に開示する方法と共に存在してもよいし、その逆もありうる。これについて、特徴を更に特徴付けるように提供される解説全てが、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0047】
有利な実施形態によれば、プレスハードニングツール内に保持された金属部品を(機械的に)トリミングするための機械的後処理ユニットの使用であって、部品が強度特性が比較的低い少なくとも1つの第1部分領域と、強度特性が(比較的)高い少なくとも1つの第2部分領域とを備え、少なくとも1つの第1部分領域の内部及び/又は上(のみ)でトリミングが行われる、機械的後処理ユニットの使用が開示される。
【0048】
方法及び/又は装置と関連して上記に説明される詳細、特徴及び有利な実施形態は、本明細書に開示する使用と共に存在してもよいし、その逆もありうる。これについて、特徴を更に特徴付けるように提供される解説全てが、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0049】
以下、本発明及び技術的な実施形態を、図面に基づいてより詳細に説明する。なお、本発明は、ここに示す実施例によって限定されるべきではない。具体的には、特に明記されていない限り、図面に記された主題の一部の態様を抽出して、これらを他の構成要素及び/又は他の図面や本明細書からの知見と組み合わせることも可能である。概略的な図面には以下を含む。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【発明を実施するための形態】
【0051】
(実施例1)
図1は、金属部品を熱処理する装置8の図を概略的に示す。装置8は、第1炉9と、温度制御部10と、プレスハードニングツール4とを備える。例えば、温度制御部10とプレスハードニングツール4との間に第2炉12が設けられる。本明細書では、装置8はプレスハードニング用の加熱成形ラインを表す。温度制御部10は第1炉9の(すぐ)下流に位置付けられ、装置8によって処理される部品1を、第1炉6を離れた直後に温度制御部10内へとそのまま移動できるようになっている。また、第2炉12は温度制御部10の(すぐ)下流に位置付けられ、プレスハードニングツール4は第2炉12の(すぐ)下流に位置付けられている。
【0052】
図1に示す装置は、プレスハードニングツール4に割り当てられる機械的後処理ユニット11を更に備える。機械的後処理ユニット11は、金属部品1を少なくとも部分的にトリミングできる切断ツール5を備える。
【0053】
図2は、2つの第1部分領域2と2つの第2部分領域3とを備えた金属部品1の上面図を概略的に示す。また、部品は、例えば第3部分領域13を備える。本明細書では、プレスハードニング加工後の状態の部品1を示す。部品1では、第2部分領域3内が(全体がマルテンサイトになるように)硬化される。このため、部品1では、第2部分領域3内の強度が高い。一方で、部品1では、第1部分領域内の強度は低い。しかしながら、部品1では、第3部分領域13内の強度が最も低い。第3部分領域13は、例えば、部品1に作用する衝撃エネルギーの吸収に用いることができる。
【0054】
図2によれば、部品1の第1部分領域2の一方がフランジ領域6を形成し、第1部分領域2の他方が凹部7用の領域を形成する。第1部分領域2の強度は、(全体がマルテンサイトになるように)硬化された第2部分領域3よりも軽減されているため、フランジ領域6及び凹部7用の領域は容易に機械的にトリミングできる。
図2では、フランジ領域6はまだ機械的な後処理をされていない。しかしながら、凹部7用の領域は既に機械的な後処理をされているため、
図2では凹部7が存在している。
【0055】
先行技術に関して述べた問題の少なくとも一部を解決する、金属部品を熱処理する方法及び装置が提供される。特に、この方法及び装置は、プレス硬化された部品が、工業的連続生産で生産される際に可能な限り正確な外形をもつようにできる。また、この方法及び装置は、可能な限り最低のエネルギー費用で実行又は操作でき、且つ/又は可能な限り最低の投資費用で、その実装及び/又は生産が行われる。また、特に、この方法及び装置は、可能な限り短いサイクル時間を実現する。
【符号の説明】
【0056】
1 部品
2 第1部分領域
3 第2部分領域
4 プレスハードニングツール
5 切断ツール
6 フランジ領域
7 凹部
8 装置
9 第1炉
10 温度制御部
11 後処理ユニット
12 第2炉
13 第3部分領域