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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】重症市中肺炎の処置
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20220316BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220316BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220316BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220316BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
A61K39/395 Y
A61P11/00
A61P31/04
A61K45/00
A61K9/08
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2018548424
(86)(22)【出願日】2017-03-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 EP2017055838
(87)【国際公開番号】W WO2017157850
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-03-12
(31)【優先権主張番号】16160175.2
(32)【優先日】2016-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16185173.8
(32)【優先日】2016-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】595107379
【氏名又は名称】ビオテスト・アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Biotest AG
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・ランゴア
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア・ヴァルテンベルク-デマント
(72)【発明者】
【氏名】ウルリケ・ヴィッパーマン
(72)【発明者】
【氏名】ベンヤミン・デルケン
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0196310(US,A1)
【文献】Concept for a study design in patients with severe community-acquired pneumonia: A randomised controlled trial with a novel IGM-enriched immunoglobulin preparation - The CIGMA study,Respiratory Medicine,2015年04月02日,Vol. 109, p. 758-67,doi: 10.1016/j.rmed.2015.03.008.
【文献】呼吸器感染症の診断における血清プロカルシトニン定量の有用性,日呼吸会誌,2010年,Vol. 48, No. 9,p. 654-660
【文献】Serum immunoglobulins in the infected andconvalescent phases in community-acquiredpneumonia,Respiratory Medicine,2013年,Vol. 107, 2038e2045,p. 2038-2045
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61P 11/00
A61P 31/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該免疫グロブリン製剤が、全免疫グロブリン含有量の10~40重量%を占めるIgMを含み、該患者が、少なくとも50 mg/l~少なくとも100 mg/lの血清CRPレベル、および/または少なくとも1.0 ng/ml~少なくとも5.0 ng/mlの血清PCTレベルを有する、免疫グロブリン製剤。
【請求項2】
免疫グロブリン製剤が、全免疫グロブリン含有量の18~28重量%を占めるIgMを含む、請求項1に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項3】
血清CRPレベルが、少なくとも50 mg/l、または少なくとも70 mg/l、または少なくとも75 mg/l、または少なくとも80 mg/l、または少なくとも100 mg/lであり、および/または血清PCTレベルが、少なくとも1.0 ng/ml、または少なくとも1.5 ng/ml、または少なくとも2.0 ng/ml、または少なくとも5 ng/mlである、請求項1または2に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項4】
該血清PCTおよび/またはCRPレベルが、sCAPの診断時に存在し、特に、昇圧剤治療の開始および/または侵襲性機械的換気の開始24時間前から開始24時間後の範囲内に少なくとも1回存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項5】
患者が、0.4 g/l以下~1.5 g/l以下の血清IgMレベル、および/または5 g/l以下~10 g/l以下の血清IgGレベル、および/または4.0 g/l以下、3.5 g/l以下、3 g/l以下、2.5 g/l以下または2.0 g/l以下の血清IgAレベルを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項6】
血清IgMレベルが、1.0 g/l以下、または0.8 g/l以下、または0.7 g/l以下、または0.5 g/l以下であり、および/または血清IgGレベルが、9 g/l以下、または8 g/l以下、または7 g/l以下、または7 g/l以下、または6 g/l以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項7】
該処置が、抗生物質治療の補助的である、請求項1~6のいずれか一項に記載の血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤。
【請求項8】
該血清IgM、IgGまたはIgAレベルが、sCAPの診断時に存在し、より具体的には、昇圧剤治療または侵襲性機械的換気の開始前24時間から開始後24時間の範囲内に少なくとも1回存在する、請求項5、6または7に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項9】
免疫グロブリン製剤が、β-プロピオラクトンで処理されていない、請求項1~8のいずれか一項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項10】
免疫グロブリン製剤が、全免疫グロブリン含有量の15~27重量%を占めるIgAを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項11】
免疫グロブリン製剤が、全免疫グロブリン含有量の48~66重量%を占めるIgGを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項12】
免疫グロブリン製剤が、全タンパク質含有量の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%を占める全免疫グロブリン含有量を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項13】
1リットルの溶液当たり40~100グラムの免疫グロブリン、好ましくは1リットルの溶液当たり40~60グラムの免疫グロブリンを含む、静脈内投与のための溶液の形態である、請求項1~12のいずれか一項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項14】
該免疫グロブリン製剤が、21日間にわたって3~10回の一日投与量で投与され、好ましくは、1回目の一日投与量が昇圧剤治療および/または侵襲性機械的換気の開始後24時間以内、好ましくは1~12時間に投与される、請求項1~13のいずれか一項に記載のヒト免疫グロブリン製剤。
【請求項15】
該免疫グロブリン製剤が、下記処置レジメンに従って投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載のヒト免疫グロブリン製剤:1回目の一日投与量を昇圧剤治療および/または侵襲性機械的換気の開始後24時間以内、好ましくは1~12時間に投与し、続いて3~10回、好ましくは3~6回連続して一日点滴投与量を投与し、所望により1回以上の維持点滴投与量を該免疫グロブリン製剤の1回目の投与後10~18日に投与する。
【請求項16】
投与される一日投与量が、30~80 mg IgM/kg体重、好ましくは35~65 mg IgM/kg体重である、請求項1~15のいずれか一項に記載のヒト免疫グロブリン製剤。
【請求項17】
投与される初回の一日投与量が、50~80 mg IgM/kg体重、好ましくは60~65 mg IgM/kg体重である、請求項1~16のいずれか一項に記載のヒト免疫グロブリン製剤。
【請求項18】
点滴速度が6 mg IgM/分以下であり、より好ましくは初期点滴速度が2 mg IgM/分以下である、請求項1~17のいずれか一項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項19】
免疫グロブリン製剤が由来する血漿ドナー数が少なくとも500、少なくとも1500、より好ましくは少なくとも2500であることを特徴とする、請求項1~18のいずれか一項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項20】
患者が男性である、および/または患者が65歳以下である、請求項1~19のいずれか一項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項21】
免疫グロブリン製剤が、医薬組成物で構成され、医薬組成物が、1リットルの溶液当たり20~100グラムの免疫グロブリン含む、静脈内投与のための溶液である、請求項1~20のいずれか一項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載の免疫グロブリン製剤または医薬組成物を含む、点滴に適する容器。
【請求項23】
1つまたは複数の請求項22に記載の容器および、好ましくは請求項1~21のいずれか一項に記載の投与のための指示を含む、投与のための説明書を含む、パッケージまたはキット。
【請求項24】
ヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤での補助的処置から利益を得るsCAP患者を特定するための方法であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、患者の血液試料中の血清CRPレベル、および/または血清PCTレベル、および/または血清IgMレベル、および/または血清IgGレベル、および/または血清IgAレベル、または任意のそれらの組合せを決定する工程を含み:(1)少なくとも50 mg/l~少なくとも100 mg/lの血清CRPレベル;(2)少なくとも1.0 ng/ml~少なくとも5.0 ng/mlの血清PCTレベル;(3)0.5 g/l以下~1.5 g/l以下の血清IgMレベル;(4)5 g/l以下~10 g/l以下の血清IgGレベル;(5)4.0 g/l以下、3.5 g/l以下、3 g/l以下、2.5 g/l以下または2.0 g/l以下の血清IgAレベルのいずれか1つ以上が、患者が該処置から利益を得る可能性があることを示す、方法。
【請求項25】
該PCT、CRP、IgM、IgGまたはIgAのレベルが、sCAPの診断時に存在し、より具体的には、昇圧剤治療または侵襲性機械的換気の開始前24時間から開始後24時間の範囲内に少なくとも1回存在する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
測定が、請求項1~21のいずれか一項に記載のIgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置開始予定より前になされる、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
患者が男性である、および/または患者が65歳以下である、請求項24~26のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症の医薬品および処置の分野に関する。特に、本発明は、重症市中肺炎(sCAP, severe Community Acquired Pneumonia)の処置およびsCAPの処置における使用のための新規な医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
市中肺炎(CAP)は、成人における罹患および死亡の重要な原因である。米国において、CAPは、感染症による死亡の第1位の原因であり、死因の第8位であり、毎年130万件の入院が推定される(例えばWelte et al., 2015: Respir Med. 2015 Jun;109 (6):758-67)参照)。重症市中肺炎(sCAP)は、通常、昇圧剤または侵襲性機械的換気での処置などの集中治療を必要とするCAPと定義される。入院したCAP患者の約10%が、sCAPと分類され得る。集中治療室に入院したsCAP患者の死亡率は、通常、患者の入院までの時間に依存して23~58%の範囲であり、広域抗生物質の有効性が改善されているにも関わらず、近年あまり改善されていない。重症CAPは、集中治療室(ICU)管理を通常必要とする別個の臨床疾患単位である。重症CAPは、肺炎球菌、インフルエンザ菌、レジュネラ・ニューモフィラ菌、黄色ブドウ球菌および緑膿菌などの細菌(Cilloniz et al., Thorax. 2011 Apr;66(4):340-6参照)ならびにウイルスおよび真菌を含む広範な微生物の感染により引き起こされる。したがって、患者は、同様の症状を示すが、疾患の根本的原因が異なる。多くの場合、原因となる病原体を特定できないか、または特定の処置、例えば特定の抗生物質を適時に適用するには特定が遅すぎる。それ故に、適切なsCAP処置のために広範な治療が必要であると考えられる。sCAP患者集団は、部分的に敗血症患者サブ集団と重複するが、すべてのsCAP患者が敗血症を発症するわけではなく、sCAP患者がすべての敗血症患者内にサブグループを形成する。
【0003】
敗血症を処置するための免疫グロブリン製剤および濃縮物の可能性のある効果について多くの報告が発表されているが(例えばKreymann et al., Crit Care Med 2007 Vol. 35, No. 12; Que et al., 2014, Eur J Clin Microbiol Infect Dis 33:1861-1867)、いずれもこのような処置を用いるのが好都合であるのかまたは利益に反するのかについての実際の決定的なデータを示していない(Werdan, 2006, Crit. Care Med. Vol.34, No.5 pp.1542-1544; Werdan 2012: Intensive-News Germany, Issue 4/12のレビューおよび考察参照)。German Sepsis Societyのガイドライン(2010年更新版, Reinhart et al., GMS German Medical Science 2010, Vol. 8, ISSN 1612-3174)は、IgGのみ含む製剤とIgM濃縮製剤の2群の製剤を区別している。IgG製剤の使用は、臨床試験の否定的な結果を考慮して推奨されない。対照的に、IgM濃縮免疫グロブリン製剤の使用は、重症敗血症または敗血症性ショックの成人患者の処置において考慮され得る。国際的ガイドラインにも同様の推奨を見つけることができる(Dellinger et al., Crit Care Med 2013; 39(2): 165-228およびCrit Care Med 2013; 41(2): 580-637))。本発明者らの知る限りでは、Pentaglobin(Biotest)は、唯一市販されている、IgMおよびIgGの両方が濃縮された(IgAも含む)血漿由来ヒト免疫グロブリン製剤であり、1980年代半ばより重症細菌感染症を処置するために使用されている。Pentaglobinは、IgGが高く(76%)、またIgMおよびIgAを含む(各12%)、β-プロピオラクトン修飾免疫グロブリン製剤である。
【0004】
敗血症患者の予後に対するIgMおよびIgGおよびIgAレベルの影響は、現在議論されている。Bermejo-Martinらは、血漿中低レベルの内因性免疫グロブリンIgG1、IgMおよびIgAの同時存在が、重症敗血症または敗血症性ショックの患者の生存の低下に関連すると報告した(Bermejo-Martin et al., J Intern Med 2014 276:404-412)。当該試験は、IgG1を指し、総IgGを指すわけではない。筆者らは、これらの免疫グロブリンの濃度の評価が敗血症の患者における外因性免疫グロブリンでの処置の結果を向上させ得ると結論付けている。対照的に、Geierらは2015年に、ICUの入室時のIgG、IgMまたはIgAの循環レベルと内科ICUで処置された患者における死亡率間に相関が見られないと結論付け、治療的IVIG(静脈内免疫グロブリン)投与の潜在的効果に関する結論はデータから導き出すことができないと述べた(Med Klin Intensivmed Notfmed. 2015 Dec 17)。また、Venetらは2011年に、補助的処置として多価免疫グロブリンで処置された大部分の敗血症患者でIgGおよびIgMレベルが低下したが、これらの変化は、敗血症性ショック後の死亡率、罹患率または重症度の増加と関連しているようではないと報告した(International Immunopharmacology 11 (2011) 2086-2090)。当該試験は、IVIGの使用に関する最終結論を提供しないが、更なる層別化を示唆する。Giamarellos-Bourboulisらは、重症敗血症対敗血症性ショックの患者の血清中循環IgMレベルの影響を報告し、IgMの分布が非生存者でより低いことを見出した(Crit Care 2013 17:R247)。De la Torreらは、低レベルの免疫グロブリン、特に総IgGおよびIgG2が、健常な対照と比較してCAPの患者で共通して見られることを報告した(Resp Med 2013 107:2038-2045)。Justelらは、結果から、IgMの早期評価が重度のパンデミックインフルエンザの患者における臨床判断を導くことに寄与し得ると結論付けた(J Clin Vir, 2013 58:564-567)。最後に、Shankar-Hariらは2015年に、固定効果および変量効果メタアナリシス両方によって、敗血症診断日における正常以下のIgGレベルが重症敗血症および/または敗血症性ショックの成人患者の死亡リスクの増加に関連しないことを報告した(Intensive Care Med. 2015 Aug;41(8):1393-401)。彼らは、IgGがIVIg治療の層別化マーカーとして用いられることを可能とし、また内因性IgGレベルの低下の根底にあるメカニズムを調査する試験に加えて、病気の特徴および/または死亡率に対する内因性免疫グロブリン軌道に関する試験が必要とされると結論付けた。
【0005】
新規な化学的未修飾のIgM濃縮免疫グロブリン製剤(BT086と表される)が、Biotestにより開発された(WO2011/131786およびWO2011/131787参照)。BT086は、処理およびβ-プロピオラクトンで修飾されていない。したがって、両化合物の特性および活性の相違が予想される。第I相の薬物動態データが示されている(Schmiedl et al., 2011, Pharmakokinetik und Vertraeglichkeit des IgM-angereicherten Immunglobulin-Konzentrates BT086 bei gesunden Versuchspersonen nach Mehrfachgabe、およびSchmiedl et al. 2011, Pharmakokinetik und Vertraeglichkeit des IgM-angereicherten Immunglobulin-Konzentrates BT086 bei gesunden Versuchspersonen nach Einmalgabe mit Dosiseskalationの両方は、2011年にチューリッヒでのVerbund klinischer Pharmakologie in Deutschlandにてポスター発表された)。Biotestにより支援された最近の臨床試験において(CIGMA試験、Welte et alらにより2015年に報告された: Respir Med. 2015 Jun;109 (6):758-67)、IgM濃縮BT086は、sCAP患者を処置するために補助的治療として用いられた。BT086での処置は、人工呼吸器非使用日数および28日死亡率の減少傾向を示したが、試験結果は統計学的に有意でなかった(2015年6月30日付のBiotest AGプレスリリース参照)。
【0006】
CRPおよびPCTは、炎症マーカーであり、両者は、炎症、細菌感染、組織傷害または敗血症の診断およびモニタリングにおいて用いられる。一般に敗血症の補助的治療を支援する際のCRPおよびPCTなどのバイオマーカーの使用の可能性が議論されている(Becze, Z., Molnar, Z., Fazakas, J., International Journal of Antimicrobial Agents 46 (2015) S13-S18)。しかしながら、治療を導く際の特定のバイオマーカーレベルの使用に関して決定的な指針はない。
【0007】
sCAP患者において、Coelhoらは2012年に、CRPレベルが抗生物質処置の72~96時間後に30~70%低下したならば生存率が顕著に高いため、CRPを治療反応の評価基準として用いることができると報告した(Critical Care 2012, 16:R53)。
【0008】
PCTは、特に細菌感染のマーカーとして用いられている。Jensenらは、ICU患者における死亡率の予測因子としてのPCTの使用を報告し、抗生物質治療を導くためのPCT測定について推測した(Crit Care Med 2006 Vol. 34, No. 10)。免疫グロブリン製剤での処置は言及されていなかった。
【0009】
したがって、より早期の侵襲性機械的換気からのウィーニングを可能にし、より効果的な方法で罹患率および死亡率を低下させることを目的としてsCAPを処置する方法の改善についてアンメット・メディカル・ニーズがある。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、補助的処置に加えて、すなわち侵襲性機械的換気および/または抗菌処置などの支持および/または原因治療に加えて、ヒトIgM濃縮ヒト免疫グロブリン製剤を用いて、sCAP患者を処置するための新規の治療方法、ツールおよび指針を提供する。
【0011】
該ヒトIgM濃縮免疫グロブリン製剤は、β-プロピオラクトンで処理されていない点で確立されているヒト免疫グロブリン製剤Pentaglobinと異なる。これは、Pentaglobinと比較して異なる特性を有する製剤をもたらす。例えば、BT086中のIgM含有量はPentaglobinと比較して2倍に増加させたにすぎないが、BT086のバッチがPentaglobinと比較して大腸菌のオプソニン化の約10倍の増加を示すことが見出された。
【0012】
本明細書で用いられるヒトIgM濃縮免疫グロブリン製剤は、血漿由来、すなわちプールヒト血漿由来である。本明細書の他の箇所で詳述するように、製剤は、好ましくは全免疫グロブリン含有量の10~40重量%を占めるIgM、および好ましくは全免疫グロブリン含有量の10~35重量%を占めるIgAおよび/または全免疫グロブリン含有量の40~75重量%を占めるIgGを含む。
【0013】
このたび本発明者らは、CIGMA試験の全体的結果がsCAP患者の不均一性の影響を受けていたかもしれないことを見出した。すべての患者は、sCAPの症状および診断を有したが、すべての患者が、IgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置から同じように利益を得たわけではないことを見出した。sCAP患者での課題は、sCAPの原因および患者の共存症が不均一であり、根底にある病原体を区別する単純な方法がないことである。したがって、IgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置からより多くの利益を得る患者を特定する単純なパラメーターを有することは有利である。このようなパラメーターは、理想的には、根底にある疾患の原因の特定から独立しているべきである。今日まで、該IgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置の利益を最も得るsCAP患者のサブグループを単純かつ迅速に特定することが可能であるかについての情報は利用可能でなかった。これらの知見は、sCAP患者のより個別化された処置への一歩であり、個々の患者のためのより良好な処置決定を可能にする。また、本発明者らは、本明細書に定義されるIgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置をさらに改善し得る種々の投与計画を特定した。
【0014】
第1の実施態様において、本発明は、重症市中肺炎(sCAP)を処置するのに用いるためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤を提供する。該免疫グロブリン製剤は、化学修飾されておらず、特にIgMが濃縮されているが、好ましくはIgA免疫グロブリンもまた濃縮されている。
【0015】
本明細書に定義されるIgM濃縮免疫グロブリン製剤は、これ以外では患者の重度の呼吸障害、重症敗血症、多臓器不全および最終的な死を引き起こし得る病態生理学的プロセスに干渉する広範なメカニズムにより作用すると考えられる。細菌内毒素および外毒素の中和に加えて、IgM濃縮免疫グロブリン製剤は、特定の免疫細胞による病原体の認識の増加を媒介し、その破壊を促進する。また、IgM濃縮免疫グロブリン製剤は、過剰な免疫応答を再平衡させ得て、抗炎症特性を有する。
【0016】
本発明者らは、本明細書に定義されるIgM濃縮免疫グロブリン製剤での補助的治療から最も利益を得るこれらのsCAP患者を選択するために用いられ得る多くのパラメーターを特定し、該パラメーターは、特に:1)炎症マーカーPCTまたはCRPの特定のレベルおよび2)sCAPの治療の開始または診断時におけるIgMおよび/またはIgGおよび/またはIgAの特定のレベルであった。
【0017】
したがって、本明細書で見られる結果は、特定の血中マーカーのレベルを決定することにより容易に選択され得る、sCAP患者の特定のサブセットにおいて補助的処置としてIgM濃縮免疫グロブリン製剤を用いるための新たらしい展望を開く。
【0018】
本発明は、以下の態様を含む:
【0019】
態様1 患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該患者が、少なくとも50 mg/l~少なくとも100 mg/lの血清CRPレベル、および/または少なくとも1.0 ng/ml~少なくとも15 ng/ml、好ましくは少なくとも1.0 ng/ml~少なくとも5.0 ng/mlの血清PCTレベルを有する、製剤。
【0020】
態様2 血清CRPレベルが、少なくとも50 mg/l、または少なくとも70 mg/l、または少なくとも75 mg/l、または少なくとも80 mg/l、または少なくとも100 mg/lであり、および/または血清PCTレベルが、少なくとも1.0 ng/ml、または少なくとも1.5 ng/ml、または少なくとも2.0 ng/ml、または少なくとも5.0 ng/mlである、態様1に記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
【0021】
態様3 該血清PCTおよび/またはCRPレベルが、sCAPの診断時に存在し、特に、昇圧剤治療の開始および/または侵襲性機械的換気の開始24時間前から開始24時間後の範囲内で少なくとも1回存在する、態様1または2に記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
【0022】
いくつかの実施態様において、該血清PCTおよび/またはCRPレベルは、処置前段階、例えばsCAP診断時、入院時、より具体的には、sCAP原因および/または支持治療の開始の-1日目、より具体的には、抗生物質sCAP治療の-1日目または昇圧剤治療もしくは侵襲性機械的換気の開始時に測定された。好ましくは、測定は、本明細書に定義されるIgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置開始予定より前になされる。
【0023】
態様4 患者が、0.4 g/l以下~1.5 g/l以下の血清IgMレベル、5 g/l以下~10 g/l以下の血清IgGレベル、および/または4.0 g/l以下、3.5 g/l以下、3 g/l以下、2.5 g/l以下または2.0 g/l以下の血清IgAレベルを有する、態様1~3のいずれかに記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
【0024】
いくつかの実施態様において、該血清IgMレベルは、1.0 g/l以下、0.8 g/l以下、または0.7 g/l以下、または0.6 g/l以下、または0.5 g/l以下であり、および/またはIgGレベルは、9 g/l以下、または8 g/l以下、または7 g/l以下、または6 g/l以下である。
【0025】
態様5 患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該患者が、0.5 g/l以下~1.5 g/l以下の血清IgMレベル、および/または5 g/l以下~10 g/l以下の血清IgGレベルを有する、製剤。
【0026】
いくつかの実施態様において、該血清IgMレベルは、1.0 g/l以下、0.8 g/l以下、または0.7 g/l以下、または0.6 g/l以下、または0.5 g/l以下であり、および/またはIgGレベルは、9 g/l以下、または8 g/l以下、または7 g/l以下、または6 g/l以下である。
【0027】
態様6 患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該患者が、4.0 g/l以下、3.5 g/l以下、3 g/l以下、2.5 g/l以下または2.0 g/l以下の血清IgAレベルを有する、製剤。
【0028】
態様7 該補助的処置が、本明細書の他の箇所で定義される原因および/または支持sCAP治療に加えて、より好ましくは本明細書の他の箇所で定義される抗生物質治療に加えて、処置として定義される、態様1~6のいずれか1つに記載の使用のためのヒトIgM濃縮免疫グロブリン製剤。
【0029】
態様8 該血清IgMおよび/またはIgGおよび/またはIgAレベルが、sCAPの診断時に存在し、より具体的には、昇圧剤治療の開始または侵襲性機械的換気の開始前24時間から開始後24時間の範囲内に少なくとも1回存在する、態様5~7のいずれかに記載の使用のためのヒト免疫グロブリン製剤。いくつかの実施態様において、該血清IgMおよび/またはIgGおよび/またはIgAレベルは、処置前段階、例えばsCAP診断時、入院時、sCAP診断時、より具体的には、sCAP原因および/または支持治療の開始の-1日目、より具体的には、sCAPの抗生物質治療の-1日目または昇圧剤治療の開始時もしくは侵襲性機械的換気の開始時に測定された(例えば、侵襲性機械的換気の開始に最も近い値)。
【0030】
態様9 免疫グロブリン製剤が、β-プロピオラクトンで処理されていない、態様1~8のいずれかに記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
【0031】
態様10 免疫グロブリン製剤が、全免疫グロブリン含有量の10~40重量%、好ましくは18~28重量%を占めるIgMを含む、態様1~9のいずれかに記載の使用のためのヒト免疫グロブリン製剤。
【0032】
態様11 全免疫グロブリン含有量の15~27%を占めるIgAをさらに含む、態様1~10のいずれかに記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
【0033】
態様12 全免疫グロブリン含有量の48~66%を占めるIgGをさらに含む、態様1~11のいずれかに記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
【0034】
態様13 全タンパク質含有量の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%を占める全免疫グロブリン含有量を有する、態様1~12のいずれかに記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
【0035】
態様14 組成物、特に静脈内投与のための溶液である、態様1~13のいずれかに記載の使用のための免疫グロブリン製剤。特に、本発明は、態様1~13のいずれかに記載の使用のための免疫グロブリン製剤を含む組成物、好ましくは医薬組成物を提供する。特定の実施態様において、該組成物は、1リットルの溶液当たり20~100グラムの免疫グロブリン、好ましくは1リットルの溶液当たり40~60グラムの免疫グロブリン、より好ましくは1リットルの溶液当たり40~60グラムの免疫グロブリンを含む、静脈内投与のための溶液である。いくつかの実施態様において、該溶液は、0.2~0.5 Mグリシン、好ましくは約0.3 Mグリシンであり、好ましくはpH4.3~4.7である。好ましい実施態様において、該組成物または溶液は、タンパク質のうち23%w/wの平均IgM濃度を有し、これは、約11.5 mg IgM/mlの静脈内投与のための溶液をもたらす。
【0036】
態様15 該免疫グロブリン製剤が、21日間にわたって3~10回の一日投与量で投与され、好ましくは、1回目の一日投与量が昇圧剤治療の開始および/または侵襲性機械的換気の開始後24時間以内、好ましくは1~12時間に投与される、態様1~14のいずれかに記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
【0037】
態様16 該免疫グロブリン製剤が、下記処置レジメンに従って投与される、態様1~15のいずれかに記載の使用のためのヒト免疫グロブリン製剤:1回目の一日投与量(すなわち初回投与量)を昇圧剤治療の開始および/または侵襲性機械的換気の開始後24時間以内、好ましくは1~12時間に投与し、続いて3~10回、好ましくは3~6回連続して一日投与量を投与し、所望により1回以上維持投与量を該免疫グロブリン製剤の1回目の投与後10~18日に投与する。
【0038】
これらの態様で用いる「昇圧剤治療および/または侵襲性機械的換気の開始後」なる表現は、昇圧剤治療の開始または侵襲性機械的換気の開始のいずれかが事象を引き起こすのに十分であることを意味する。昇圧剤治療および侵襲性機械的換気の両方が開始されるとき、事象は両者のうち早い方により引き起こされる。
【0039】
態様17 一日投与量が、30~80 mg IgM/kg体重、好ましくは35~65 mg IgM/kg体重、より好ましくは40~45 mg IgM/kg体重である、態様1~16のいずれかに記載の使用のためのヒト免疫グロブリン製剤。
【0040】
態様18 初回投与量が、一日投与量より高く、例えば該初回投与量が、50~80 mg IgM/kg体重、好ましくは60~65 mg IgM/kg体重である、態様1~17のいずれかに記載の使用のためのヒト免疫グロブリン製剤。いくつかの実施態様において、初回投与量は、本明細書で言及される一日投与量の約1.5倍であるが、80 mg IgM/kg体重を越えない。
【0041】
態様19 30~80 mg IgM/kg体重、好ましくは35~65 mg IgM/kg体重、より好ましくは40~45 mg IgM/kg体重または60~65 mg IgM/kg体重の維持投与量が、投与される、態様1~18のいずれかに記載の使用のためのヒト免疫グロブリン製剤。
【0042】
態様20 点滴速度が6 mg IgM/分以下であり、より好ましくは初期点滴速度が2 mg IgM/分以下である、態様1~19のいずれかに記載の使用のためのヒト免疫グロブリン製剤。いくつかの実施態様において、初期点滴速度は、1分当たり0.1 mlの本明細書で定義されるIgM溶液である。該点滴速度は、10分間毎に0.1 mlずつ、1分当たり0.5 mlの本明細書で定義されるIgM溶液の最大点滴速度まで増大させ得る。
【0043】
態様21 血漿ドナー数が少なくとも500、少なくとも1500、より好ましくは少なくとも2500であることを特徴とする、態様1~20のいずれかに記載の使用のためのヒト免疫グロブリン製剤。
【0044】
態様22 患者が男性である、および/または患者が65歳以下である、態様1~21のいずれかに記載の使用のためのヒト免疫グロブリン製剤。
【0045】
態様23 前記態様のいずれか1つに記載の使用のためのIgM濃縮免疫グロブリン製剤または医薬組成物を含むか、または態様14に記載の組成物を含む容器。いくつかの実施態様において、このような容器は、ゴム栓、好ましくは突刺し可能な栓を有する、液体製剤を含むバイアルであり得る。あるいは、該容器は、静脈内投与のための溶液に製剤化された免疫グロブリン製剤を典型的には含む、静脈内投与における使用に適する液体バッグであり得る。
【0046】
態様24 1つまたは複数の態様23に記載の容器および、好ましくは態様14~19のいずれか1つに定義される投与計画に従った投与のための指示を含む、投与のための説明書を含む、パッケージまたはキット。
【0047】
態様25 ヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤での補助的処置から利益を得るsCAP患者を特定するための方法であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、患者の血液試料中の血清CRPレベル、および/または血清PCTレベル、および/または血清IgMレベル、および/または血清IgGレベル、および/または血清IgAレベル、または任意のそれらの組合せを決定する工程を含み:(1)少なくとも50 mg/l~少なくとも100 mg/lの血清CRPレベル;(2)少なくとも1.0 ng/ml~少なくとも5.0 ng/mlの血清PCTレベル;(3)0.5 g/l以下~1.5 g/l以下の血清IgMレベル;(4)5 g/l以下~10 g/l以下の血清IgGレベル、例えば最大10 g/l、好ましくは最大9 g/l、好ましくは最大8 g/l、より好ましくは最大7 g/lの血清IgGレベル;(5)最大4.0 g/l、好ましくは最大3.5 g/l、好ましくは最大3.0 g/l、好ましくは最大2.5 g/l、または好ましくは最大2.0 g/lの血清IgAレベルのいずれか1つ以上が、患者がこのような処置から利益を得ることができるか、利益を得る可能性があるか、または利益を得るだろうことを示す、方法。
【0048】
いくつかの実施態様において、1.0 g/l以下、0.8 g/l以下、または0.7 g/l以下、または0.6 g/l以下、または0.5 g/l以下、または0.4 g/l以下である血清IgMレベル、および/または9 g/l以下、または8 g/l以下、または7 g/l以下、または6 g/l以下であるIgGレベルは、患者がこのような処置から利益を得ることができるか、利益を得る可能性があるか、または利益を得るだろうことを示す。
【0049】
いくつかの実施態様において、該血清CRP、PCT、IgM、IgGまたはIgAレベルが、sCAPの診断時に存在するとき、特に該レベルが昇圧剤治療の開始および/または侵襲性機械的換気の開始24時間前から開始24時間後の範囲内に少なくとも1回存在するとき、患者がこのような処置から利益を得ることができるか、利益を得る可能性があるか、または利益を得るだろうことを示す。
【0050】
いくつかの実施態様において、該PCT、CRP、IgM、IgGまたはIgAレベルの測定は、本明細書に定義されるIgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置開始予定より前になされる。特に、該PCT、CRP、IgM、IgGまたはIgAレベルの測定は、処置前段階、例えばsCAP診断時、入院時、より具体的には、sCAP原因および/または支持治療の開始の-1日目、より具体的には、sCAPの抗生物質治療の-1日目または昇圧剤治療の開始時もしくは侵襲性機械的換気の開始時になされる(例えば、侵襲性機械的換気の開始に最も近い値)。好ましくは、測定は、本明細書に定義されるIgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置開始予定より前になされるべきである。
【0051】
態様26 ヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤の投与を含む、処置を必要とする患者におけるsCAPを処置する方法であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該sCAP患者が、少なくとも50 mg/l~少なくとも100 mg/lの血清CRPレベルおよび/または少なくとも1.0 ng/ml~少なくとも5.0 ng/mlの血清PCTレベルを有する、方法。
【0052】
態様27 血清CRPレベルが、少なくとも50 mg/l、または少なくとも70 mg/l、または少なくとも75 mg/l、または少なくとも80 mg/l、または少なくとも100 mg/lであり、および/または血清PCTレベルが、少なくとも1.0 ng/ml、または少なくとも1.5 ng/ml、または少なくとも2.0 ng/ml、または少なくとも5.0 ng/mlである、態様26に記載の方法。
【0053】
態様28 該補助的処置が、本明細書の他の箇所で定義される原因および/または支持sCAP治療に加えて、より好ましくは本明細書の他の箇所で定義される抗生物質治療に加えて、処置として定義される、態様26または27に記載の方法。
【0054】
態様29 該血清PCTおよび/またはCRPレベルが、sCAPの診断時に存在し、特に、昇圧剤治療の開始および/または侵襲性機械的換気の開始24時間前から開始24時間後の範囲内に少なくとも1回存在する、態様26~28のいずれかに記載の方法。
【0055】
いくつかの実施態様において、該血清PCTおよび/またはCRPレベルは、処置前段階、例えばsCAP診断時、入院時、より具体的には、sCAP原因および/または支持治療の開始の-1日目、より具体的には、抗生物質sCAP治療の-1日目または昇圧剤治療の開始時もしくはまたは侵襲性機械的換気の開始時に測定された。好ましくは、測定は、本明細書に定義されるIgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置開始予定より前になされる。
【0056】
態様30 患者が、0.5 g/l以下~1.5 g/l以下の血清IgMレベル;5 g/l以下~10 g/l以下の血清IgGレベル;および/または4.0 g/l以下、3.5 g/l以下、3 g/l以下、2.5 g/l以下または2.0 g/l以下の血清IgAレベルを有する、態様26~29のいずれかに記載の方法。
【0057】
いくつかの実施態様において、該血清IgMレベルは、1.0 g/l以下、0.8 g/l以下、または0.7 g/l以下、または0.6 g/l以下、または0.5 g/l以下であり、および/またはIgGレベルは、9 g/l以下、または8 g/l以下、または7 g/l以下、または6 g/l以下である。
【0058】
態様31 ヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤の投与を含む、処置を必要とする患者におけるsCAPを処置する方法であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該患者が、0.5 g/l以下~1.5 g/l以下の血清IgMレベル;5 g/l以下~10 g/l以下の血清IgGレベル;および/または4.0 g/l以下、3.5 g/l以下、3 g/l以下、2.5 g/l以下または2.0 g/l以下の血清IgAレベルを有する、方法。
【0059】
いくつかの実施態様において、該血清IgMレベルは、1.0 g/l以下、0.8 g/l以下、または0.7 g/l以下、または0.6 g/l以下、または0.5 g/l以下であり、および/またはIgGレベルは、9 g/l以下、または8 g/l以下、または7 g/l以下、または6 g/l以下である。
【0060】
態様32 該補助的処置が、本明細書の他の箇所で定義される原因および/または支持sCAP治療に加えて、より好ましくは本明細書の他の箇所で定義される抗生物質治療に加えて、処置として定義される、態様31に記載の方法。
【0061】
態様33 該血清IgM、IgGおよび/またはIgAレベルが、sCAPの診断時に存在し、より具体的には、昇圧剤治療の開始または侵襲性機械的換気の開始前24時間から開始後24時間の範囲内に少なくとも1回存在する、態様31または32に記載の方法。いくつかの実施態様において、該血清IgM、IgGおよび/または血清IgAレベルは、処置前段階、例えばsCAP診断時、入院時、sCAP診断時、より具体的には、sCAP原因および/または支持治療の開始の-1日目、より具体的には、sCAPの抗生物質治療の-1日目または昇圧剤治療もしくは侵襲性機械的換気の開始時に測定された(例えば、侵襲性機械的換気の開始に最も近い値)。
【0062】
態様34 免疫グロブリン製剤が、全免疫グロブリン含有量の10~40重量%、好ましくは18~28重量%を占めるIgMを含む、態様26~33のいずれかに記載の方法。
【0063】
態様35 免疫グロブリン製剤が、全免疫グロブリン含有量の15~27%を占めるIgAをさらに含む、態様26~34のいずれかに記載の方法。
【0064】
態様36 ヒト免疫グロブリン製剤が、全免疫グロブリン含有量の48~66%を占めるIgGをさらに含む、態様26~35のいずれかに記載の方法。
【0065】
態様37 該製剤が、全タンパク質含有量の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%を占める全免疫グロブリン含有量を有する、態様26~36のいずれかに記載の方法。
【0066】
態様38 該免疫グロブリン製剤が、組成物、好ましくは医薬組成物で存在する、態様26~37のいずれかに記載の方法。いくつかの実施態様において、該組成物または医薬組成物は、1リットルの溶液当たり40~100グラムの免疫グロブリン、好ましくは1リットルの溶液当たり40~60グラムの免疫グロブリンを含む、静脈内投与のための溶液である。いくつかの実施態様において、該溶液は、0.2~0.5 Mグリシンであり、好ましくはpH4.3~4.7である。好ましい実施態様において、該溶液は、タンパク質のうち23%w/wの平均IgM濃度を有し、これは、約11.5 mg IgM/mlの静脈内投与のための溶液をもたらす。
【0067】
態様39 該免疫グロブリン製剤が、21日間にわたって3~10回の一日投与量で投与され、好ましくは、1回目の一日投与量が昇圧剤治療の開始および/または侵襲性機械的換気の開始後24時間以内、好ましくは1~12時間に投与される、態様26~38のいずれかに記載の方法。
【0068】
態様40 該免疫グロブリン製剤が、下記処置レジメンに従って投与される、態様26~39のいずれかに記載の方法:1回目の一日投与量(すなわち初回投与量)を昇圧剤治療の開始および/または侵襲性機械的換気の開始後24時間以内、好ましくは1~12時間に投与し、続いて3~10回、好ましくは3~6回、例えば4または5回連続して一日投与量を投与し、所望により1回以上維持投与量を該免疫グロブリン製剤の1回目の投与後10~18日に投与する。
【0069】
本明細書で用いる「昇圧剤治療および/または侵襲性機械的換気の開始後」なる表現は、昇圧剤治療の開始または侵襲性機械的換気の開始のいずれかが事象を引き起こすのに十分であることを意味する。昇圧剤治療および侵襲性機械的換気の両方が開始されるとき、事象は両者のうち早い方により引き起こされる。
【0070】
態様41 一日投与量が、30~80 mg IgM/kg体重、好ましくは35~65 mg IgM/kg体重、より好ましくは40~45 mg IgM/kg体重である、態様26~40のいずれかに記載の方法。
【0071】
態様42 初回投与量が、一日投与量より高く、例えば該初回投与量が、50~80 mg IgM/kg体重、好ましくは60~65 mg IgM/kg体重である、態様26~41のいずれかに記載の方法。いくつかの実施態様において、初回投与量は、本明細書で言及される一日投与量の約1.5倍であるが、80 mg IgM/kg体重を越えない。
【0072】
態様43 30~80 mg IgM/kg体重、好ましくは35~65 mg IgM/kg体重、より好ましくは40~45 mg IgM/kg体重または60~65 mg IgM/kg体重の維持投与量が、投与される、態様26~42のいずれかに記載の方法。
【0073】
態様44 点滴速度が6 mg IgM/分以下であり、より好ましくは初期点滴速度が2 mg IgM/分以下である、態様26~43のいずれかに記載の方法。いくつかの実施態様において、初期点滴速度は、1分当たり0.1 mlの本明細書で定義されるIgM溶液である。該点滴速度は、10分間毎に0.1 mlずつ、1分当たり0.5 mlの本明細書で定義されるIgM溶液の最大点滴速度まで増大させ得る。
【0074】
態様45 血漿ドナー数が少なくとも500、少なくとも1500、より好ましくは少なくとも2500であることを特徴とする、態様26~44のいずれかに記載の方法。
【0075】
態様46 患者が男性である、および/または患者が65歳以下である、態様26~45のいずれかに記載の方法。
【0076】
態様47 患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のための医薬の製造のための、ヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤の使用であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該患者が、少なくとも50 mg/l~少なくとも100 mg/lの血清CRPレベルおよび/または少なくとも1.0 ng/ml~少なくとも5.0 ng/mlの血清PCTレベルを有する、使用。
【0077】
態様48 血清CRPレベルが、少なくとも50 mg/l、または少なくとも70 mg/l、または少なくとも75 mg/l、または少なくとも80 mg/l、または少なくとも100 mg/lであり、および/または血清PCTレベルが、少なくとも1.0 ng/ml、または少なくとも1.5 ng/ml、または少なくとも2.0 ng/ml、または少なくとも5.0 ng/mlである、態様47に記載の使用。
【0078】
態様49 該血清PCTおよび/またはCRPレベルが、sCAPの診断時に存在し、特に、昇圧剤治療の開始および/または侵襲性機械的換気の開始24時間前から開始24時間後の範囲内に少なくとも1回存在する、態様47または48に記載の使用。
【0079】
いくつかの実施態様において、該血清PCTおよび/またはCRPレベルは、処置前段階、例えばsCAP診断時、入院時、より具体的には、sCAP原因および/または支持治療の開始の-1日目、より具体的には、抗生物質sCAP治療の-1日目または昇圧剤治療の開始もしくは侵襲性機械的換気の開始時に測定された。好ましくは、測定は、本明細書に定義されるIgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置開始予定より前になされる。
【0080】
態様50 患者が、0.5 g/l以下~1.5 g/l以下の血清IgMレベル;5 g/l以下~10 g/l以下の血清IgGレベル;および/または4.0 g/l以下、3.5 g/l以下、3 g/l以下、2.5 g/l以下または2.0 g/l以下の血清IgAレベルを有する、態様47~49のいずれかに記載の使用。
【0081】
いくつかの実施態様において、該血清IgMレベルは、1.0 g/l以下、0.8 g/l以下、または0.7 g/l以下、または0.6 g/l以下、または0.5 g/l以下であり、および/またはIgGレベルは、9 g/l以下、または8 g/l以下、または7 g/l以下、または6 g/l以下である。
【0082】
態様51 患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のための医薬の製造のための、ヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤の使用であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該患者が、0.5 g/l以下~1.5 g/l以下の血清IgMレベル;5 g/l以下~10 g/l以下の血清IgGレベル;および/または4.0 g/l以下、3.5 g/l以下、3 g/l以下、2.5 g/l以下または2.0 g/l以下の血清IgAレベルを有する、使用。
【0083】
いくつかの実施態様において、該血清IgMレベルは、1.0 g/l以下、0.8 g/l以下、または0.7 g/l以下、または0.6 g/l以下、または0.5 g/l以下であり、および/またはIgGレベルは、9 g/l以下、または8 g/l以下、または7 g/l以下、または6 g/l以下である。
【0084】
態様52 該補助的処置が、本明細書の他の箇所で定義される原因および/または支持sCAP治療に加えて、より好ましくは本明細書の他の箇所で定義される抗生物質治療に加えて、処置として定義される、態様51に記載の使用。
【0085】
態様53 該血清IgM、IgGおよび/またはIgAレベルが、sCAPの診断時に存在し、より具体的には、昇圧剤治療の開始または侵襲性機械的換気の開始前24時間から開始後24時間の範囲内に少なくとも1回存在する、態様51または52に記載の使用。いくつかの実施態様において、該血清IgM、IgGおよび/またはIgAレベルは、処置前段階、例えばsCAP診断時、入院時、sCAP診断時、より具体的には、sCAP原因および/または支持治療の開始の-1日目、より具体的には、sCAPの抗生物質治療の-1日目または昇圧剤治療の開始もしくは侵襲性機械的換気の開始時に測定された(例えば、侵襲性機械的換気の開始に最も近い値)。
【0086】
態様54 免疫グロブリン製剤が、β-プロピオラクトンで処理されていない、態様47~53のいずれかに記載の使用。
【0087】
態様55 免疫グロブリン製剤が、全免疫グロブリン含有量の10~40重量%、好ましくは18~28重量%を占めるIgMを含む、態様47~53のいずれか1つに記載の使用。
【0088】
態様56 全免疫グロブリン含有量の15~27%を占めるIgAをさらに含む、態様47~55のいずれかに記載の使用。
【0089】
態様57 全免疫グロブリン含有量の48~66%を占めるIgGをさらに含む、態様47~56のいずれかに記載の使用。
【0090】
態様58 全タンパク質含有量の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%を占める全免疫グロブリン含有量を有する、態様47~57のいずれかに記載の使用。
【0091】
態様59 該免疫グロブリン製剤が、組成物、好ましくは医薬組成物で存在する、態様47~58のいずれかに記載の使用。いくつかの実施態様において、該組成物または医薬組成物は、1リットルの溶液当たり40~100グラムの免疫グロブリン、好ましくは1リットルの溶液当たり40~60グラムの免疫グロブリンを含む、静脈内投与のための溶液である。いくつかの実施態様において、該溶液は、0.2~0.5 Mグリシンであり、好ましくはpH4.3~4.7である。好ましい実施態様において、該溶液は、タンパク質のうち23%w/wの平均IgM濃度を有し、これは、約11.5 mg IgM/mlの静脈内投与のための溶液をもたらす。
【0092】
態様60 該免疫グロブリン製剤が、21日間にわたって3~10回の一日投与量で投与され、好ましくは、1回目の一日投与量が昇圧剤治療および/または侵襲性機械的換気の開始後24時間以内、好ましくは1~12時間に投与される、態様47~59のいずれかに記載の使用。
【0093】
態様61 該免疫グロブリン製剤が、下記処置レジメンに従って投与される、態様47~60のいずれかに記載の使用:1回目の一日投与量(すなわち初回投与量)を昇圧剤治療の開始および/または侵襲性機械的換気の開始後24時間以内、好ましくは1~12時間に投与し、続いて3~10回、好ましくは3~6回、例えば4または5回連続して一日投与量を投与し、所望により1回以上維持投与量を該免疫グロブリン製剤の1回目の投与後10~18日に投与する。
【0094】
これらの態様で用いる「昇圧剤治療の開始および/または侵襲性機械的換気の開始後」なる表現は、昇圧剤治療の開始または侵襲性機械的換気の開始のいずれかが事象を引き起こすのに十分であることを意味する。昇圧剤治療および侵襲性機械的換気の両方が開始されるとき、事象は両者のうち早い方により引き起こされる。
【0095】
態様62 一日投与量が、30~80 mg IgM/kg体重、好ましくは35~65 mg IgM/kg体重、より好ましくは40~45 mg IgM/kg体重である、態様47~61のいずれかに記載の使用。
【0096】
態様63 初回投与量が、一日投与量より高く、例えば該初回投与量が、50~80 mg IgM/kg体重、好ましくは60~65 mg IgM/kg体重である、態様47~62のいずれかに記載の使用。いくつかの実施態様において、初回投与量は、本明細書で言及される一日投与量の約1.5倍であるが、80 mg IgM/kg体重を越えない。
【0097】
態様64 30~80 mg IgM/kg体重、好ましくは35~65 mg IgM/kg体重、より好ましくは40~45 mg IgM/kg体重または60~65 mg IgM/kg体重の維持投与量が、投与される、態様47~63のいずれかに記載の使用。
【0098】
態様65 点滴速度が6 mg IgM/分以下であり、より好ましくは初期点滴速度が2 mg IgM/分以下である、態様47~64のいずれかに記載の使用。いくつかの実施態様において、初期点滴速度は、1分当たり0.1 mlの本明細書で定義されるIgM溶液である。該点滴速度は、10分間毎に0.1 mlずつ、1分当たり0.5 mlの本明細書で定義されるIgM溶液の最大点滴速度まで増大させ得る。
【0099】
態様66 血漿ドナー数が少なくとも500、少なくとも1500、より好ましくは少なくとも2500であることを特徴とする、態様47~65のいずれかに記載の使用。
【0100】
態様67 患者が男性である、および/または患者が65歳以下である、態様47~66のいずれかに記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0101】
図1図1は、健常な対象体におけるIgMレベルを示す。42 mg/kg体重のIgM濃縮免疫グロブリン製剤BT086の5日間連日投与。BT086の反復静脈内点滴後の総IgMの平均血清濃度対時間プロファイル。42 mg/kg体重の本明細書に記載のIgM濃縮免疫グロブリン製剤(BT086)の5日間連日投与後に到達した健常な対象体におけるIgMレベル。
図2図2は、試験982の第II相試験デザインを示す。試験982を、3つの試験段階、すなわちスクリーニング段階、処置段階およびフォローアップ段階に分けた。侵襲性機械的換気を必要とする重症市中肺炎(sCAP)に罹患している患者が、この第II相試験に登録された。適格な患者をBT086またはプラセボでの処置に1:1で無作為化した。1日1回、5日間連続して(1日目から5日目まで)治験薬で患者を処置し、28日目までまたは退院のいずれか早いほうまで試験にとどめた。英国で募集された患者についてのみ、現地の規制要件を満たすために43日目までの付加的な安全性フォローアップを行った。主要評価項目は、プラセボと適切な標準的治療で処置された患者と比較した、補助的BT086と適切な標準的治療で処置されたsCAP患者において決定された人工呼吸器非使用日数(VFD)の増加であった。略語:Vent. 換気の開始;Rand. 無作為化。
図3図3は、プラセボで処置された患者におけるVFDと比較した、本明細書に記載のIgM濃縮免疫グロブリン製剤(BT086)で処置されたsCAP患者における人工呼吸器非使用日数(VFD)を示す。p値は、平均値間の差を指す。
図4図4は、プラセボで処置された患者における死亡率と比較した、本明細書に記載のIgM濃縮免疫グロブリン製剤(BT086)で処置されたsCAP患者における死亡率を示す。p値は、全原因死亡率値間の差を指す。
図5図5は、本明細書に記載のIgM濃縮免疫グロブリン製剤(BT086)で処置されたsCAP患者(パネルa)およびプラセボで処置された患者(パネルb)において得られたIgMレベルを示す。各線は、1名の患者のデータを表す。
図6図6は、本明細書に記載のIgM濃縮免疫グロブリン製剤(BT086)で処置されたsCAP患者と本明細書に記載のプラセボで処置された患者間の死亡率の差(死亡率Δ、点線)に対してプロットした検出限界を超える血清IgMカットオフレベルについての死亡率データを示す。それぞれのカットオフレベル以下のIgM値を有する患者のデータを示す。投与前、処置前12時間以内、処置の開始前ほぼ12時間以内にレベルを測定した。当該図から、1.5 g/l IgM以下のカットオフを選択する場合、死亡率Δは増加することが明らかになる。0.8 g/lのカットオフについては、最大差(16.6%)が観察される。0.4 g/lのカットオフについては、10.3%の差が観察される。患者数(実線)は、それぞれのカットオフレベル以下の値を示す試験における患者の数を指す。例えば、47名の患者は0.4 g/l以下のIgMレベルを有し、一方、111名の患者は0.8 g/l以下のIgMレベルを有し、129名の患者は1.0 g/l以下のIgMレベルを有する。患者数が増加するほど、分析のためのより良好なデータベース提供すること、および当業者は、良好な処置の利益を維持しながら多くの患者を処置することを可能にする適切なカットオフレベルを選択し得ることが、当業者により理解されるだろう。
図7図7は、本明細書に記載のIgM濃縮免疫グロブリン製剤(BT086)で処置された患者と本明細書に記載のプラセボで処置された患者間の死亡率の差(死亡率Δ)に対してプロットした血清CRPカットオフレベルについての死亡率データを示す。それぞれのカットオフレベル以上のCRPレベルを有する患者のデータを示す。投与前、処置前12時間以内、処置の開始前ほぼ12時間以内にレベルを測定した。当該図は、より高いCRP血清レベルを有する患者における死亡率Δの明らかな傾向を示す。死亡率Δは、約70 mg/lのカットオフレベルでピークに達する(16.9%の絶対死亡率の差)。最小差は、10 mg/lのカットオフレベルで観察される(4%の死亡率の差)。患者数(実線)は、それぞれのカットオフレベル以上の値を示す試験における患者の数を指す。
図8図8は、本明細書に記載のIgM濃縮免疫グロブリン製剤(BT086)で処置された患者と本明細書に記載のプラセボで処置された患者間の死亡率の差(死亡率Δ)に対してプロットした血清PCTカットオフレベルについての死亡率データを示す。それぞれのカットオフレベル以上のPCTレベルを有する患者のデータを示す。投与前、処置前12時間以内、処置の開始前ほぼ12時間以内にレベルを測定した。血清PCTカットオフレベルは、Ig処置とプラセボ患者間の死亡率の差(死亡率Δ)に対してプロットした。CRPと同様に、より高いPCT値を血清中示すとき、当該図は、免疫グロブリン処置対プラセボ処置の患者間の死亡率Δにおいて正の傾向を示す。1.5 ng/ml PCTのカットオフ値において、死亡率Δは、既に10%を超える。13%の死亡率の差は、2.1 ng/mlのカットオフを適用すると観察され、17.9%の絶対死亡率の差は、15 ng/mlのカットオフで観察される。患者数(実線)は、それぞれのカットオフレベル以上の値を示す試験における患者の数を指す(右側縦軸参照)。
図9図9は、本明細書に記載のIgM濃縮免疫グロブリン製剤(BT086)で処置された患者と本明細書に記載のプラセボで処置された患者間の死亡率の差(死亡率Δ、点線)に対する血清IgGカットオフレベルについての死亡率データを示す。それぞれのカットオフレベル以下のIgG値を有する患者のデータを示す。投与前、処置前12時間以内、処置の開始前ほぼ12時間以内にレベルを測定した。血清IgGカットオフレベルは、Ig処置とプラセボ患者間の死亡率の差(死亡率Δ)に対してプロットした。約10 g/l IgG以下のIgGレベルを有する患者において、免疫グロブリン処置対プラセボ処置の死亡率Δは、増加し始める。約7 g/l IgGのカットオフレベルについては、最大の死亡率Δ(11.1%)が観察される。患者数(実線)は、それぞれのカットオフレベル以上の値を示す試験における患者の数を指す。
図10図10は、本明細書に記載のIgM濃縮免疫グロブリン製剤(BT086)で処置された患者と本明細書に記載のプラセボで処置された患者間の死亡率の差(死亡率Δ、点線)に対する血清IgAカットオフレベルについての死亡率データを示す。それぞれのカットオフレベル以下のIgA値を有する患者のデータを示す。処置前12時間以内、処置の開始前ほぼ12時間以内にレベルを測定した。血清IgAカットオフレベルは、Ig処置とプラセボ患者間の死亡率の差(死亡率Δ)に対してプロットした。約4 g/l IgA以下のIgAレベルを有する患者において、免疫グロブリン処置対プラセボ処置の死亡率Δは、増加し始める。約3 g/l IgAのカットオフレベルにおいて、9.5%の死亡率の差が観察され、より低いカットオフ値については10%超までさらに増大する。患者数(実線)は、それぞれのカットオフレベル以上の値を示す試験における患者の数を指す。
【発明を実施するための形態】
【0102】
本発明は特定の実施態様に関して説明されるが、本発明はそれらに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。特許請求の範囲におけるいずれの参照記号もその範囲を限定するものとして解釈してはならない。以下の用語または定義は、単に本発明の理解を助けるために提供される。本明細書で特に定義されない限り、本明細書で用いられるすべての用語は、本発明の技術分野の当業者にとってそれらが有するだろう意味と同じ意味を有する。本明細書で提供される提示は、当業者により理解される範囲より狭い範囲を有すると理解されるべきでない。
【0103】
他に断らない限り、特に詳細に説明されないすべての方法、工程、技術および操作は、当業者に明らかであるように、それ自体公知の方法で実施されることができ、実施されている。例えば、標準ハンドブック、上述の一般的な背景技術および本明細書で引用する更なる参考文献を参照されたい。
【0104】
本明細書で用いられる単数形「a」、「an」および「the」は、他に明確に断らない限り、単数形および複数形の両方の言及を含む。本明細書で用いられる、態様、請求項または実施態様に関して使用されるときの用語「いずれかの(any)」は、任意の単一のもの(すなわち、いずれか1つ)および言及される当該態様、請求項または実施態様のすべての組合せを指す。
【0105】
本明細書で用いられる用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」および「含んでなる(comprised of)」は、「含む(including)」、「含む(includes)」または「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、包括的または非限定的であり、更なる記載されていない構成要素(member)、成分(element)または方法工程を除外しない。当該用語はまた、「本質的に~からなる(consisting essentially of)」および「~からなる(consisting of)」を包含する。
【0106】
終点による数値範囲の記載は、それぞれの範囲内に包含されるすべての数および分数、ならびに記載された終点を含む。
【0107】
パラメーター、量、持続時間などの測定可能な値に言及するときの本明細書で用いられる用語「約」は、変動が開示される発明の実施に適当である限り、特定の値のおよび特定の値から、±10%以下、好ましくは±5%以下、より好ましくは±1%以下、さらにより好ましくは±0.1%以下の変動を包含することを意味する。修飾語「約」が指す値自体も、具体的にかつ好ましくは開示されると解される。
【0108】
「疾患の処置における使用のための製剤」で用いられるように、本明細書で用いられる用語「使用のための」は、対応する処置方法、および対応する疾患の処置のための医薬の製造のための製剤の使用もまた開示する。
【0109】
用語「市中肺炎」または「CAP」は、当業者に公知であり、例えばIDSA/ATS Guidelines for CAP in Adults(CID 2007:44 (Suppl 2) S27)を参照されたい。特に、当該用語は、病院外で罹る肺炎を指す。これは、院内肺炎(HAP)および人工呼吸器関連肺炎(VAP)と対照的である。HAPは、別の病気または処置のために入院中または入院後罹る肺炎を指し、入院後少なくとも48~72時間に発症する。VAPは、挿管および機械的換気の少なくとも48時間後に生じるHAPのサブセットである。HAPは、CAPより不均一であると考えられ、種々の病原体スペクトラムにより引き起こされ得る。CAPは、肺炎球菌、インフルエンザ菌、レジュネラ・ニューモフィラ菌、黄色ブドウ球菌および緑膿菌などの細菌(Cilloniz et al., Thorax. 2011 Apr;66(4):340-6参照)ならびにウイルスおよび真菌を含む広範な微生物の感染により引き起こされる。
【0110】
用語「重症市中肺炎」または「sCAP」は、当業者に公知である。特に、用語「重症市中肺炎」または「sCAP」は、集中治療を必要とする市中肺炎患者のサブグループを指す。Infectious Disease Society of America(IDSA)およびAmerican Thoracic Society(ATS)は、sCAPの定義を含むCAPの管理についてのガイドラインを発行している(Mandell et al., 2007, Infectious Diseases Society of America/American Thoracic Society Consensus Guidelines on the Management of Community-Acquired Pneumonia in Adults, Clin. Inf. Dis. 2007:44:S27-72 (Suppl 2), Table 4参照)。IDSA/ATSガイドラインによれば、sCAPは、集中治療を必要とするCAPと定義される。CAP患者が、以下のリストから、1つまたは2つ両方の主要基準、または3つの下位基準の存在を示す場合、集中治療室への入室が推奨される。
下位基準 a
30呼吸/分以上の呼吸数b
250以下のPaO2/FiO2b
多葉性浸潤
錯乱/見当識喪失
尿毒(20 mg/dL以上のBUNレベル)
白血球減少症c(4000細胞/mm3未満のWBC数)
血小板減少症(100,000細胞/mm3未満の血小板数)
低体温(36℃未満の深部温度)
積極的な流体蘇生を必要とする低血圧
主要基準
侵襲性機械的換気
昇圧剤を必要とする敗血症性ショック
上記文中の略語:
BUN、血中尿素窒素;PaO2/FiO2、動脈血酸素分圧/吸入酸素濃度;WBC、白血球。
a 考慮すべき他の基準としては、低血糖(非糖尿病性患者)、急性アルコール中毒/アルコール性禁断症、低ナトリウム血症、原因不明代謝性アシドーシスまたは乳酸塩レベル上昇、肝硬変および無脾症が挙げられる。
b 非侵襲的換気の必要性は、30呼吸/分超の呼吸数または250未満のPaO2/FiO2比と置き換わり得る。
c 感染症単独の結果として。
【0111】
より具体的には、本発明によるsCAPの患者は、以下の基準を満たす:
1)侵襲性機械的換気を必要とするかまたは昇圧剤での処置を必要とする、特に気管内換気または気管切開による換気を必要とする、とりわけ気管内換気を必要とする
2)肺炎について抗生物質処置を受けている患者
3)患者は肺炎の徴候および症状を有しなければならない。特に、以下の兆候の少なくとも1つ:咳の発生または増加;膿性痰の産生または痰の特性の変化;呼吸困難または頻呼吸(呼吸数>20呼吸/分);胸膜炎性胸痛;肺検査でのラ音および/または断続性ラ音および/または肺圧密のエビデンス(例えば衝撃への遅鈍、気管支呼吸音またはヤギ声)の聴診所見
4)好ましくは肺炎のX線(または他の画像化技術)のエビデンス
5)肺炎に病院外で罹患している。入院患者において、入院後最大72時間、特に最大48時間に肺炎が診断される。
本発明によるsCAPは、養護ホームまたは同様の施設の患者もまた含む。
【0112】
侵襲性機械的換気を受けているすべてのsCAP患者のうち概算で約80%が昇圧剤での治療もまた必要とすると推定される。すべてのsCAP患者のうち概算で約60%は、侵襲性機械的換気が無く、昇圧剤で処置される。
【0113】
本明細書に定義されるsCAPを処置するための補助的治療として使用するための免疫グロブリン製剤は、血漿由来である。用語「血漿由来」は、当業者に公知である。特に本発明によれば、用語「血漿由来」は、製剤が多くの異なる健常なヒトドナーの血漿に由来することを意味する。このような血漿由来製品は、一般的に当該技術分野において公知である。製剤中好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%のタンパク質は、ヒト血清由来である。所望により、血漿由来製剤は、実質的に組換えタンパク質を有しない。しかしながら、製剤はまた、本明細書の他の箇所で記載される更なる添加剤を含む組成物の形態で存在し得る。ポリマー免疫グロブリン受容体pIgRの細胞外部分などの分泌成分を含む組成物の形態で製剤を用いることが企図される(WO2013/132052(CSL Behringへ譲渡)、US7794721(Simon))。このような分泌成分は、組換えにより生成され得る。
【0114】
典型的には、血漿由来製剤はプール血漿に由来する。本明細書で用いられる用語「プール血漿」は、異なる対象体からの血漿のプールを包含するが、プールが実際に単一プールとして製造されることを意味しない。サブプールにおいてプールを製造することが有利であり得る。したがって、プール血漿は、サブプールまたはヒト免疫グロブリン製剤の製造の後期段階から混合され得る。実際、ヒト免疫グロブリン製剤または最終組成物も、異なるヒト免疫グロブリン製剤または組成物から混合され得る。好ましくは、血漿プールは、少なくとも500、少なくとも1000、2000、2500、3000、4000、または少なくとも5000名のドナーからの血漿を含有する。したがって、ドナーの数は、500~5000超、好ましくは2500~5000名のドナー、より好ましくは5000名を超えるドナーの間で変化し得る。
【0115】
本明細書に定義される免疫グロブリン製剤は、実質的に純粋なヒト血漿タンパク質製剤であって、タンパク質含有量の少なくとも93%、好ましくは少なくとも95%が免疫グロブリンである製剤を含む。したがって、本明細書に定義される免疫グロブリン製剤は、異なるドナーからの血漿のプールおよび精製により得られる天然型の免疫グロブリンを含む。ドナーの数およびドナー抗体スペクトルの差異は、細菌、ウイルスおよび真菌などの種々の肺炎原因因子に対して大きな多様性を有する抗体のプールをもたらす。
【0116】
本発明によるIgM濃縮免疫グロブリン製剤は、IgM、IgAおよびIgGを含む。IgM濃縮製剤中の免疫グロブリンの全含有量は、全タンパク質含有量のうち、好ましくは少なくとも85%、より具体的には少なくとも90%、特に少なくとも95%である。
【0117】
また、本発明に関連して用いられる免疫グロブリン製剤は、化学修飾されていない。本発明に関連して「化学修飾されていない」または「化学的未修飾の」は、免疫グロブリン製剤が意図的に修飾されていないこと、特に、製剤が、免疫グロブリンを共有結合で修飾する物質を加えることにより処理されていないことを意味する。このような物質は公知であり、アルキル化剤(例えばβ-プロピオラクトン)またはプロテアーゼ(例えばペプシン)が挙げられる。当業者は、任意の精製および生成工程において、いくつかの意図しない修飾、例えば、重合、凝集、酸化、脱アミド化または立体配座変化が生じ得ることを理解するだろう。また、血漿中のプロテアーゼの存在によりいくつかの意図しない断片化が生じ得る。また、UV処理が免疫グロブリン分子のいくつかの修飾を引き起こし得る。より具体的には、本発明に関連して用いられる免疫グロブリン製剤は、β-プロピオラクトンを加えることまたはプロテアーゼなどの酵素を加えることにより処理されておらず、さらに具体的には、免疫グロブリン製剤は、β-プロピオラクトンで処理されていない。このような処理、例えばβ-プロピオラクトンでの処理は、ウイルスの不活性化のために用いられ得て、EP001319(Biotest)も参照されたい。β-プロピオラクトンは、タンパク質のアルキル化を引き起こすため、立体配座および特性を変化させ得る。用語「β-プロピオラクトンで処理されていない」または「β-プロピオラクトンで未処理の」は、特に、β-プロピオラクトンがIgM濃縮免疫グロブリン製剤の製造工程中加えられていないこと、特に、全工程を通して40 gの全免疫グロブリンに対して0.01 ml未満のβ-プロピオラクトンが、より具体的には、製造工程中の如何なる時点でも0.001 ml未満のβ-プロピオラクトンが免疫グロブリン製剤中に存在していることを意味する。化学修飾は、活性の部分的喪失または変化を引き起こし得る。したがって、本発明による免疫グロブリン製剤は、他のIgMおよびIgA含有免疫グロブリン製剤、例えばPentaglobin(40 g/lの全免疫グロブリンに対して約1.25 mlのβ-プロピオラクトンで処理されている)と異なると考えられる。例えば、化学的未修飾のIgM製剤は、β-プロピオラクトンで処理されている製剤と比較して、より高いオプソニン化活性を示す。同様に、低温殺菌または熱処理が、望ましくない凝集形成または変性を引き起こし、活性の喪失をもたらすため、本発明によるIgM濃縮免疫グロブリン製剤は、好ましくは低温殺菌または熱処理されていない。また、酵素修飾が活性の喪失をもたらし得るため、本発明によるIgM濃縮免疫グロブリン製剤は、好ましくは例えばペプシンによる酵素修飾されていない。
【0118】
別のウイルス不活性化処理が、当業者に利用可能であり、本発明に関連して用いられる免疫グロブリン製剤に用いられ得て、例えば、オクタン酸での処理(好ましくは振動撹拌機を用いる)、UV照射および/またはナノろ過が挙げられる(例えば国際特許出願WO2011/131786(Biotest)参照、出典明示によりその全体として本明細書の一部とする)。
【0119】
IgM濃縮免疫グロブリン製剤中のIgMは、複数の生物学的活性を媒介する。特に、IgMはオプソニン化および補体活性化において活性である。また、IgMはエンドトキシンおよびエキソトキシンを中和することができる。オプソニン化は、病原体を抗体で被覆し、それ故に免疫系による破壊のために標識するプロセスである。五量体として分泌されるため、IgMは、高い結合活性を有し、特に補体活性化において効果的である。IgMは、補体を活性化し、補体因子C3bをもたらして、抗原と結合することによりオプソニン化に寄与する。IgMは、B細胞の活性化後産生される免疫グロブリンの第1のクラスである。IgGとは対照的に、IgM分子は、J鎖を含有し、分泌可能であると考えられる。
【0120】
IgM濃縮免疫グロブリン製剤中のIgAは、複数の生物学的活性を媒介する。IgAは、炎症反応、抗体依存性細胞介在性細胞毒性(ADCC)、好酸球および好塩基球の脱顆粒、単球、マクロファージおよび好中球による食作用を開始し、多形核白血球による呼吸バースト活性を誘発する、免疫エフェクター細胞とと呼ばれるFc受容体と特に相互作用する。IgAはまた、活性化補体因子を除去し得る。
【0121】
IgM濃縮免疫グロブリン製剤中のIgGはまた、オプソニン化を媒介し、さらに毒素と結合して中和し、抗体依存性細胞介在性細胞毒性(ADCC)において役割を果たす。IgGは、種々の補体因子と結合する。IgGはまた、本発明によるIgM濃縮製剤の活性プロファイルに寄与する、免疫調節特性を有する。また、免疫グロブリン製剤中特定量のIgGは、液体形態の製剤の安定性を向上させ得る。IgGとは対照的に、IgA分子は、J鎖を含有し、分泌可能であると考えられる。
【0122】
IgM濃縮免疫グロブリン製剤は、一定量のIgMを含むべきである。用語「IgM濃縮」は、IgMの含有量が、全免疫グロブリン含有量のうち5~70重量%、好ましくは10~40重量%、より好ましくは17~35重量%(w/w)のIgMの範囲であり得て、好ましく製剤中少なくとも5 g/l IgMの濃度であり得ることを意味する。IgMの低含有量は、必要な生物学的活性の観点から望ましくないことがある。一方、一定量のIgGは、液体形態の製剤の安定性を向上させるため、望ましいことがある。例えば全免疫グロブリン含有量のうち40%超のIgMを含む製剤は、例えば凍結乾燥形態で調製され得る。好ましくは、IgM濃縮免疫グロブリン製剤は、次の組成物を有する(製剤が液体製剤である場合、このような組成物は特に好ましい):
- 全免疫グロブリン含有量のうち10~40重量%、好ましくは17~35重量%、より好ましくは18~28重量%、より好ましくは20~26重量%、より好ましくは22~24重量%の免疫グロブリンM(w/w)、
- 全免疫グロブリン含有量のうち10~35重量%、好ましくは15~27重量%、より好ましくは20~25重量%、より好ましくは22~24重量%の免疫グロブリンA(w/w)、および
- 全免疫グロブリン含有量のうち40~75重量%、好ましくは48~66重量%、より好ましくは53~55重量%の免疫グロブリンG(w/w)。
【0123】
製剤中のIgM濃度は、好ましくは少なくとも5 g/l、より好ましくは少なくとも7 g/l、より好ましくは少なくとも8 g/l、より好ましくは少なくとも10 g/lである。
【0124】
先行技術において、IgMのさらにより高い含有量を有する免疫グロブリン製剤が公知であるが(例えばEP0352500参照)、一定含有量のIgGが、液体形態で安定性を向上させ、有用な生物学的機構を発揮し得るため有利である。
【0125】
百分率での値は、欧州薬局方7.0, 2011年、2.2.1および2.7.1に従った比濁法または免疫沈降法により決定され得る。
【0126】
例示的なIgM濃縮免疫グロブリン製剤は、次のとおりである(すべての値は、全免疫グロブリンに対する特定免疫グロブリンの重量%を表し、すべての値は、IgM、IgAおよびIgGの値を加算して100%となるよう選択される):
【表1】
【0127】
免疫グロブリン製剤は、ヒト投与に適していなければならず、特に、欧州薬局方の適用基準を満たすべきである。
- 低プレカリクレインアクティベーター(≦35 IU/ml)、例えば2016年1月に刊行された2016年6月の欧州薬局方8.8(タイトル2.6.15)に従って試験される
- 低抗補体活性(≦1 CH50/mg タンパク質)、例えば2016年1月に刊行された2016年6月の欧州薬局方8.8(タイトル2.6.17)に従って試験される
- ウイルス活性無し
【0128】
ポリマー含有量は、好ましくは7%以下、より好ましくは5%以下である。例えば、分子サイズ分布は、7%以下、好ましくは5%以下が>1200 kDaであることを示す(欧州薬局方0918)。
【0129】
本発明は、本明細書に定義されるIgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置から最も多くの利益を得る患者を層別化するために、2つの炎症マーカーCRPおよびPCTの具体的なレベルを特定した。CRPおよびPCTの両方は、炎症マーカーであり、両者は、炎症、細菌感染、組織傷害または敗血症の診断およびモニタリングにおいて用いられる。炎症マーカーとしてのそれらの類似性にもかかわらず、いくらかの差異がある。CRPは、臨床現場においてより一般的で迅速な通例のマーカーであり、血液検査の多くの標準的プロトコールに含まれている。対照的にPCTは、他の原因の全身性炎症反応から細菌感染を識別し、CRPと比較してより高い感受性および特異性を有すると考えられている(例えばBecze, Z., Molnar, Z., Fazakas, J., International Journal of Antimicrobial Agents 46 (2015) S13-S18参照)。
【0130】
本発明に関連して用語「CRP」は、肝臓および脂肪細胞により産生されるタンパク質のペントラキシンファミリーに属する血漿タンパク質である、C反応性タンパク質に関する。臨床的に、CRPは、組織傷害または炎症に反応して急速に増加する、いわゆる「急性反応」マーカーとして知られる。CRPは、例えば、ELISA、免疫比濁法、比濁法、高速免疫拡散法および目視的凝集法を用いて測定され得る。本発明によるCRPレベルは、バリデートされた臨床検査方法を用いて測定されるべきである。このようなCRPの臨床的測定のためにバリデートされた方法は、当業者に利用可能であり、臨床現場で日常的に用いられる。本発明によるCRPレベルは、血液、血清または血漿、好ましくは血清中で測定され得る。ヒト血清中のCRPの通常濃度は、5~10 mg/Lであり、年齢と共に増加する。より高いレベルは、妊娠後期の女性、軽度の炎症およびウイルス感染症の対象体(10~40 mg/L)、活動性炎症、または細菌感染症(40~200 mg/L)において見られる。興味深いことに、本発明者らは、以前は特定の診断的な関連性があると考えられていなかった、CRP値のより高い範囲内のカットオフは、本発明による免疫グロブリン製剤での処置からの利益について極めて予測的であることを見出した。
【0131】
したがって、本発明はまた、患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該患者が、少なくとも50 mg/l~少なくとも100 mg/lの血清CRPレベルを有する、製剤に関する。特に、該患者は、少なくとも70 mg/l~少なくとも100 mg/lの血清CRPレベルを有する。より具体的には、該患者は、少なくとも70 mg/l~少なくとも80 mg/lの血清CRPレベルを有する。
【0132】
本発明はまた、患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該患者が、少なくとも50 mg/l、または少なくとも70 mg/l、または少なくとも75 mg/l、または少なくとも80 mg/l、または少なくとも100 mg/lの血清CRPレベルを有する、製剤に関する。
【0133】
本発明に関連して用語「PCT」は、ホルモンカルシトニンの前駆体である、プロカルシトニンに関するものであり、PCTは、炎症誘発性刺激に対する反応においていくつかの細胞タイプおよび多くの臓器により産生され得て、特に細菌産物による。通常、健常な個体の血流中のPCTレベルは、0.05 ng/ml未満である。全身反応を伴う重症感染症がもたらす障害と共に、プロカルシトニンの血中レベルは、100 ng/ml以上に上昇し得る。血清中でプロカルシトニンの半減期は、25~30時間(重症腎機能不全の患者では30~45時間)である。PCTの測定は、重症敗血症のマーカーとして用いられており、一般的に敗血症の程度をよく等級付けする。興味深いことに、本発明者らは、特定のカットオフ値を超えるPCT血漿レベルは、本発明による免疫グロブリン製剤での処置からの利益を極めて予測することを見出した。PCTは、一般的に血漿および血液試料中安定である。本発明によるPCTレベルは、例えば血液、血清または血漿(好ましくはヘパリン処理血漿またはK+-EDTA血漿)、好ましくは血清中で測定され得る。本発明によるPCTレベルは、例えば、ELISA、免疫比濁法、比濁法、高速免疫拡散法および目視的凝集法を用いて測定され得る。本発明によるPCTレベルは、バリデートされた臨床検査方法を用いて測定されるべきである。このようなPCTの臨床的測定のためにバリデートされた方法は、当業者に利用可能であり、臨床現場で日常的に用いられる。
【0134】
これらの知見を考慮して、本発明はまた、患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該患者が、少なくとも1.0 ng/ml~少なくとも15 ng/mlの血清PCTレベルを有する、製剤に関する。特に、該患者は、少なくとも1.0 ng/ml~少なくとも5.0 ng/mlの血清PCTレベルを有し、好ましくは、該患者は、少なくとも1.0 ng/ml~少なくとも2.0 ng/mlの血清PCTレベルを有する。
【0135】
本発明はまた、患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該患者が、少なくとも1.0 ng/ml、または少なくとも1.5 ng/ml、または少なくとも2.0 ng/ml、または少なくとも5 ng/mlの血清PCTレベルを有する、製剤に関する。好ましくは、該患者は、少なくとも1.5 ng/ml、または少なくとも2.0 ng/mlの血清PCTレベルを有する。
【0136】
本発明に関連して、sCAP患者におけるIgMの血中レベルについての特定のカットオフレベルは、本発明による免疫グロブリン製剤での処置からの利益について極めて予測的であることもまた見出された。IgMの測定のためにバリデートされた方法は、当業者に利用可能である。
【0137】
したがって、本発明はまた、患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、患者が、0.4 g/l以下~1.5 g/l以下の血清IgMレベルを有する、製剤に関する。好ましくは、該患者は、0.5 g/l以下~1.5 g/l以下の血清IgMレベルを有する。より好ましくは、該患者は、0.5 g/l以下~1.0 g/l以下の血清IgMレベルを有する。より好ましくは、該患者は、0.7 g/l以下~1.0 g/l以下の血清IgMレベルを有する。
【0138】
本発明はまた、患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該患者が、1.0 g/l以下、0.8 g/l以下、または0.7 g/l以下、0.6 g/l以下、または0.5 g/l以下の血清IgMレベルを有する、製剤に関する。
【0139】
本発明に関連して、sCAP患者におけるIgGの血中レベルについての特定のカットオフレベルは、本発明による免疫グロブリン製剤での処置からの利益について極めて予測的であることもまた見出された。IgGの測定のためにバリデートされた方法は、当業者に利用可能である。
【0140】
したがって、本発明はまた、患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、患者が、5 g/l以下~10 g/l以下の血清IgGレベルを有する、製剤に関する。好ましくは、患者は、6 g/l以下~10 g/l以下の血清IgGレベルを有する。より好ましくは、患者は、6 g/l以下~8 g/l以下の血清IgGレベルを有する。
【0141】
本発明はまた、患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該患者が、9 g/l以下、または8 g/l以下、または7 g/l以下、または7 g/l以下、または6 g/l以下の血清IgGレベルを有する、製剤に関する。
【0142】
本発明に関連して、sCAP患者におけるIgAの血中レベルについての特定のカットオフレベルは、本発明による免疫グロブリン製剤での処置からの利益について予測的であることもまた見出された(図10参照)。IgAの測定のためにバリデートされた方法は、当業者に利用可能である。
【0143】
したがって、本発明はまた、患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、患者が、2 g/l以下~4 g/l以下の血清IgAレベルを有する、製剤に関する。好ましくは、該患者は、2 g/l以下~3.5 g/l以下の血清IgAレベルを有する。より好ましくは、該患者は、2.5 g/l以下~3.5 g/l以下の血清IgAレベルを有する。
【0144】
本発明はまた、患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該患者が、4.0 g/l以下、3.5 g/l以下、または3 g/l以下、2.5 g/l以下、または2.0 g/l以下の血清IgAレベルを有する、製剤に関する。
【0145】
本発明に関連して用いられるPCT、CRP、IgM、IgGまたはIgAの任意のこのようなレベルは、sCAPの診断時、集中治療室への入室時、またはsCAP原因および/または支持治療の開始時に存在するかまたは測定されるべきである。PCT、CRP、IgM、IgGまたはIgAの該レベルはまた、sCAPに罹患しているかまたはsCAPの処置を受けている患者におけるsCAP診断後に存在し得る。特に、このようなレベルは、昇圧剤治療の開始または侵襲性機械的換気の開始前72時間から開始後72時間の範囲内に少なくとも1回存在するかまたは測定されるべきである。より具体的には、このようなレベルは、昇圧剤治療の開始または侵襲性機械的換気の開始前48時間から開始後48時間の範囲内に少なくとも1回存在するかまたは測定されるべきである。より具体的には、このようなレベルは、昇圧剤治療の開始または侵襲性機械的換気の開始前24時間から開始後24時間の範囲内に少なくとも1回存在するかまたは測定されるべきである。より具体的には、このようなレベルは、昇圧剤治療の開始または侵襲性機械的換気の開始前12時間から開始後12時間の範囲内に少なくとも1回存在するかまたは測定されるべきである。本明細書において、昇圧剤治療の開始は、特に全身的昇圧剤治療の開始、より具体的にはsCAP関連昇圧剤治療の開始を意味する。
【0146】
血清または血漿、好ましくは血清中の免疫グロブリンレベルを決定するのに適するアッセイは、当業者に公知である。可能な方法としては、比濁法または比濁分析が挙げられる。好ましくは、上述したIgM、IgGおよびIgAレベルは、Siemens Advia 2400またはRoche Hitachi Modular DPE、好ましくはSiemens Advia 2400で比濁分析を用いて血清中測定されるレベルを指す。
【0147】
男性患者は、IgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置からより多くの利益を得ることもまた本発明に関連して見出された。65歳以下の患者は、IgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置からより多くの利益を得ることもまた見出された。
【0148】
したがって、本発明はまた、患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該患者が男性である、および/または該患者が65歳以下である、製剤に関する。
【0149】
本発明に関連してなされた知見を考慮すると、本発明はまた、本発明によるIgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置から最も多くまたはより多くの利益を得る患者を特定または選択することを可能にする。特に、CRP、PCT、IgM、IgGおよびIgAの特定レベルを有する患者は、該マーカーの他のレベルを有する患者より多くの利益を得ることが見出された。このような患者について、本発明によるIgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置は、一般的に有用である、および/または推奨される。したがって、本発明はまた、ヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤での補助的処置から利益を得るsCAP患者を特定または選択する方法であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、患者の血液試料中の血清CRPレベル、および/または血清PCTレベル、および/または血清IgMレベル、および/または血清IgGレベル、および/または血清IgAレベル、または任意のそれらの組合せを決定する工程を含み:(1)少なくとも50 mg/l~少なくとも100 mg/lの血清CRPレベル;(2)少なくとも1.0 ng/ml~少なくとも5.0 ng/mlの血清PCTレベル;(3)0.5 g/l以下~1.5 g/l以下の血清IgMレベル;(4)5 g/l以下~10 g/l以下の血清IgGレベル;(5)2 g/l以下~3.5 g/l以下の血清IgAレベルのいずれか1つ以上である、方法に関する。より好ましくは、該患者は、2.5 g/l以下~3.5 g/l以下の血清IgAレベルを有し、患者がこのような処置から利益を得る可能性があるかまたは利益を得るだろうことを示す。本明細書におけるすべての他の考察を、上記のこの方法に準用して適用し得る。
【0150】
IgM濃縮製剤での処置は、IgAへの公知の抗体を有する選択的、絶対的IgA欠損を有する患者について推奨され得ない。
【0151】
下記病態の1つ以上を有するsCAP患者において、IgM濃縮製剤での処置は、推奨され得ないか、または特別な注意、例えば用量の減少または特に低点滴速度を必要とし得る:
- 透析中の患者、慢性重症腎不全の患者(CRCL<30 ml/分)
- Child C肝硬変の患者
- 非代償性心不全
- 妊娠または授乳中の女性
- 免疫グロブリン、ワクチンまたはヒト起源の他の物質に対する公知の関連不耐性
- 好中球数<1,000/mm3または血小板数<50,000/mm3の患者
【0152】
嚢胞性線維症、慢性感染気管支拡張症、結核、胸部/頭頸部/血液悪性腫瘍などのいくつかの肺疾患は、sCAP原因または支持治療を妨げ得る。
【0153】
IgM濃縮免疫グロブリン製剤の投与は、末期の疾患に罹患している患者にはあまり適さない可能性がある。例えば、余命を害する重症疾患に罹患している患者(例えば、既往の回復不可能な病状を考慮すると28日間生存することが期待されない患者)である。このような患者は、本明細書に定義されるIgM濃縮免疫グロブリン組成物での処置から利益を得るには余命が既に短すぎることがある。用語「末期の疾患」は、当業者に公知である。本発明に関連して、用語「末期の疾患」は特に、進行性疾患の経過における最後の段階に関する。より具体的には、余命が28日未満の患者は、末期の疾患を有すると考えられ得る。
【0154】
用語「処置する」または「処置」は、既に発症した疾患または病態の治療的処置、ならびに肺炎の疾患再発を回避するためおよび/または二次感染を回避するための予防的(prophylactic)または防止的(preventative)手段の両方を包含する。該処置による有益なまたは所望の臨床結果としては、疾患の治癒、疾患の1つ以上の症状の緩和、疾患の程度の減少、疾患の状態の安定化(すなわち悪化しない)、疾患の進行の遅延または減速、疾患の再発の防止、疾患状態の改善または緩和などが挙げられるが、これらに限定されない。「処置」はまた、処置を受けないとき予想される生存と比較して生存を延長することを意味し得る。具体的には、本明細書で用いられる用語処置は、患者の28日死亡率を低下させること、および肺炎またはsCAPに罹患している患者における人工呼吸器非使用日数(VFD)を増加させることを目的とする。本明細書で用いられるCAPまたはsCAPの典型的な処置は、感染の原因の除去を目的とする原因治療、ならびに必要に応じて生命および/または臓器のサポートを提供することを目的とする支持治療を含む。原因治療は、典型的には、感染性因子および付随する毒素を減少または抑制するための抗菌または抗ウイルス治療を含む:しかしながら、抗生物質処置のため、時には更なる毒素が放出され得る。処置指針は、例えばMandell et al., 2007(IDSA/ATS Guidelines for CAP in Adults CID 44 (Suppl 2) S27)から得られ得る。抗生物質治療としては、例えばセフトリアキソン、シプロフロキサシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、レボフロキサシン、タゾピペ、バンコマイシン、メロペネムが挙げられ得る。抗生物質は、所望により、マクロライド、呼吸器用キノロン、ドキシサイクリンなどと組み合せられ得る(Mandell et al., 2003 Dec 1;37(11):1405-33; Niederman et al., 2001 Am J Respir Crit Care Med. Jun;163(7):1730-54)。
【0155】
VFDは、機械的換気の抜管成功(ウィーニング)と患者の試験への登録後28日目との間の日数として定義される。ウィーニング成功後であっても、フォローアップ(28日間)の終了前に患者が死亡した場合、VFDは「0」である。したがって、VFDは、死亡率と生存者における換気の持続期間を組み合わせる(Schoenfeld et al. 2002 Crit Care Med 30(8):1772-1777 (2002))。
【0156】
支持治療は、典型的には、呼吸補助および/または酸素投与、特に機械的換気、例えば侵襲性機械的換気によるもの、および/または昇圧剤処置を含み得る。他の集中治療手段は、必要に応じて重要な臓器機能のサポート、例えば腎補助であり得る。本明細書に記載の免疫グロブリン製剤は、補助的処置として、すなわち任意の原因および/または支持治療と組み合せて用いられることが意図される。
【0157】
したがって、用語「sCAP治療」または「sCAP処置」は、臨床または健康管理現場において用いられ、本明細書で例示される原因および/または支持治療を包含する。本発明に関連して用いられるIgM濃縮免疫グロブリン製剤は、治療有効量または予防有効量で投与され得る。用語「予防有効量」は、対象体において肺炎またはsCAPの発症を阻止するかまたは遅延させる医薬組成物の量を指す。本明細書で用いられる用語「治療有効量」は、医師または臨床医により求められている対象体における生物学的または医薬的反応であって、とりわけ疾患の症状の緩和または処置されている疾患または病態の改善を含み得る反応を引き起こす、医薬組成物の量を指す。本明細書で定義される医薬組成物についての治療および予防に有効な用量を決定するための方法は、当該技術分野において公知である。
【0158】
本発明は、上述の原因および支持sCAP治療に対する補助的処置として、特に、抗生物質処置および/または昇圧剤での処置および/または侵襲性機械的換気での処置に加えて、用いるためのIgM濃縮免疫グロブリン製剤を含む。
【0159】
sCAPの「補助的処置」なる用語は、当業者により理解される。特に、用語「補助的処置」は、該原因および/または支持治療、例えば1つ以上の抗菌剤、抗真菌剤または抗ウイルス剤での処置、および/または呼吸器および臓器機能サポートと並行した、その後の、その前の、またはそれと重複した、本発明によるIgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置を含む。より好ましくは、補助的処置は、IgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置が、sCAP診断後早期に、好ましくはその直後に、例えばsCAP診断前後24時間以内に、好ましくは昇圧剤治療の開始および/または侵襲性機械的換気の開始後1~24時間以内に、または本明細書の他の箇所でより詳細に説明され、さらに詳しく述べられるように、開始されることを意味する。IgM濃縮免疫グロブリン製剤での補助的処置はまた、sCAPに罹患している患者が、sCAP診断後、本明細書の他の箇所で特定される血清CRPレベルおよび/または血清PCTレベルおよび/または血清IgMレベルおよび/または血清IgGレベルおよび/または血清IgAレベル達する場合、sCAPに罹患している患者におけるsCAP診断後最大約24、48または72時間以内に開始され得る。これらの考察に照らして、本発明はまた、抗生物質および/または昇圧剤および/または侵襲性機械的換気での処置を受けている患者における重症市中肺炎(sCAP)の処置における使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該患者が、本明細書の他の箇所で特定される血清CRPレベルおよび/または血清PCTレベルおよび/または血清IgMレベルおよび/または血清IgGレベルおよび/または血清IgAレベルを有する、製剤に関する。
【0160】
用語「侵襲性機械的換気」または「機械的侵襲性換気」は、当業者により十分理解される。機械的換気は、例えば人工呼吸器(レスピレーターとしても知られる)を用いて、患者の自発呼吸を機械的に補助するかまたは置き換える方法である。人工呼吸器(medical ventilator)(あるいは本発明に関連して単純に人工呼吸器(ventilator))は、身体上呼吸することができないか、または呼吸が不十分である患者について呼吸メカニズムを補助するかまたは置き換えるために、空気または別の適切なガス混合物を肺内へおよび/また肺外へ機械的に移動させるように設計された機械である。空気(または別のガス混合物)を肺内へ押し込む陽圧換気、および空気を本質的に肺内へ吸い込ませる陰圧換気の2つの主な様式がある。機械的換気は、口(例えば気管内チューブ)または皮膚(例えば気管切開チューブ)を貫通する任意の装置を含む場合、侵襲性と呼ばれる。特に、本発明に関連して「侵襲性機械的換気」は、気管内換気および気管切開による換気、より具体的には気管内換気に関する。
【0161】
患者は、sCAPの診断初期またはsCAP診断前に投与される場合、IgM濃縮免疫グロブリン製剤からより多くの利益を得ると予想される。したがって、本発明はまた、重症市中肺炎(sCAP)の予防および/または処置における使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、特にsCAPを発症すると予想される患者においてであり、該患者が、本明細書の他の箇所で特定される血清CRPレベルおよび/または血清PCTレベルおよび/または血清IgMレベルおよび/または血清IgGレベルおよび/または血清IgAレベルを有する、製剤に関する。好ましくは、このような予防または処置は、抗生物質治療の補助的である。特に、該患者は、既に市中肺炎(CAP)に罹患している。本明細書において、「sCAPを発症すると予想される患者」は、特に患者が抗生物質治療に反応しないかまたはほとんど反応しないならば、該患者が、72時間以内、より好ましくは48時間以内、より好ましくは24時間以内、より好ましくは12時間以内に本明細書の他の箇所で定義されるsCAPの基準を満たすと予想されること、を意味する。本発明によるIgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置は、sCAPの診断前に開始され得る。
【0162】
本明細書に定義されるIgM濃縮免疫グロブリン製剤は、当業者により適切と見なされるように、投与され得る。しかしながら、sCAP診断またはsCAP治療の開始後のIgM濃縮免疫グロブリン製剤での早期処置は、例えば病原体の早期オプソニン化または毒素の早期中和により、患者への利益を向上させると本発明者らは考える。
【0163】
したがって、例えば、製剤は、sCAP診断、または集中治療室への入室、または昇圧剤治療の開始または侵襲性機械的換気の開始後21日間または3週間にわたって3~10回の一日投与量または点滴投与量で投与され得る。好ましくは、少なくとも3回の一日投与量、より好ましくは少なくとも4または5回の一日投与量は、sCAP診断、集中治療室への入室、または昇圧剤治療の開始または侵襲性機械的換気の開始に連続して直ぐに投与される。好ましくは、1回目の一日投与量は、sCAP原因または支持治療の開始後24時間以内、より好ましくは1~12時間に投与される。より具体的には、1回目の一日投与量は、集中治療室への入室後24時間以内、より好ましくは1~12時間に投与される。さらにより具体的には、1回目の一日投与量は、昇圧剤治療の開始および/または侵襲性機械的換気の開始後24時間以内、より好ましくは1~12時間に投与される。本明細書において、昇圧剤治療の開始は、特に全身的昇圧剤治療の開始、より具体的にはsCAP関連昇圧剤治療の開始を意味する。本明細書において、集中治療室への入室は、特にsCAPに関連した集中治療室への入室を意味する。「24時間以内」または「1~12時間」の投与は、特に、投与が好ましくはこの時間枠内に開始されることを意味する。当業者は、例えば全体の最初または1回目の一日投与量の点滴のための時間がこの時間枠を超えて延び得ることを理解するだろう。
【0164】
IgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置の開始に関連して、「昇圧剤治療の開始および/または侵襲性機械的換気の開始後」は、昇圧剤治療の開始または侵襲性機械的換気の開始のいずれかが本明細書に記載の時間枠に従って処置の開始を誘発するのに十分であることを意味する。昇圧剤治療および侵襲性機械的換気の両方が開始される場合、処置の開始は両方のうち早い方により誘発される。
【0165】
別の一処置レジメンにおいて、IgM濃縮免疫グロブリン製剤は、下記処置レジメンに従って投与され得る:1回目の一日投与量を昇圧剤治療の開始および/または侵襲性機械的換気の開始後24時間以内、好ましくは1~12時間に投与し、続いて3~10回、好ましくは3~6回、より好ましくは5回連続して一日投与量を投与し、所望により1回以上維持投与量を該免疫グロブリン製剤の1回目の投与後10~18日、より好ましくは12~16日、より好ましくは14日に投与する。
【0166】
より具体的な好ましい例において、補助的治療として本明細書に定義される免疫グロブリン製剤で使用するための処置レジメンは、sCAP診断および/または集中治療室への入室および/または昇圧剤治療の開始または侵襲性機械的換気の開始後1~24時間以内、より具体的には1~12時間以内、より具体的には侵襲性機械的換気の開始後1~12時間以内の、1回目の一日投与量、続いて連続4日間の一日投与量を含み得る。
【0167】
投与レジメンに関連して、昇圧剤治療の開始は、特に全身的昇圧剤治療の開始、より具体的にはsCAP関連昇圧剤治療の開始を意味する。投与に関連して、集中治療室への入室は、特にsCAPに関連した集中治療室への入室を意味する。
【0168】
免疫グロブリン処置の一日投与量は、1 kg体重当たり患者に投与されるIgMタンパク質重量に基づいて計算される。投与量は、好ましくは、処置前の入院時の体重に基づく。例えば、42 mg IgM/kg体重の投与量は、入院時または処置開始時の患者の1 kg体重当たり、42 mgのIgMタンパク質を該患者に投与することを指す。全体として免疫グロブリン製剤が他のタンパク質、主にIgGおよびIgAタンパク質も含むことを考慮すると、これは、投与される製剤の量がより高くなり、好ましくは製剤中のIgMの平均濃度で計算されることを暗示する。例えば、全タンパク製剤中のIgM濃度が23%である場合、42 mg IgM/kg体重の投与量は、1 kg体重当たり約182.7 mgの全免疫グロブリン製剤を投与することにより達成される。同様に、IgMの別の平均パーセンテージが製剤中用いられる場合、投与される免疫グロブリン製剤の量は、当業者により容易に計算され得る。
【0169】
当業者は、IgM濃縮免疫グロブリン製剤の有効量を定義することができる。好ましくは、本明細書に定義される各一日の免疫グロブリン投与は、30~80 mg IgM/kg患者体重、好ましくは35~65 mg IgM/kg体重、より好ましくは40~45 mg IgM/kg体重または60~65 mg IgM/kg体重、またはそれらに等しい投与量の一日投与量で投与される。例えば、患者が、処置の開始時に1.5 g/lまたは2 g/lを超える血清IgMレベルを有する場合、または患者が、腎障害、腎不全または肝障害に罹患している場合、20 mg IgM/kg体重などのより低い投与量も想定され得る。
【0170】
1回目の一日投与は、患者において免疫グロブリンの負荷効果を生じるように、その後の一日投与量より高くなり得る負荷投与を含み得る。このような負荷投与の典型的な投与量は、その後の一日投与量の1.5~2倍であり得る。例えば、投与される通常の一日投与量が40~45 mg IgM/kg体重である場合、適切な負荷投与量は、約60~80 mg IgM/kg体重を含み得る。いくつかの実施態様において、投与される初回の一日投与量は、50~80 mg IgM/kg体重、好ましくは60~65 mg/kg体重である。このような負荷投与量は、例えば点滴時間を増加させることにより投与され得る。
【0171】
いくつかの実施態様において、処置計画はまた、一日投与量が投与された後一定期間、維持投与量の投与を含み得る。典型的には、このような維持投与量は、1回目の投与量または負荷投与量の投与後10~16日目のいずれか1日に投与される。このような維持投与量は、他の投与量、例えば40~80 mg IgM/kg体重、好ましくは40~65 mg IgM/kg体重、より好ましくは40~45 mg IgM/kg体重または60~65 mg IgM/kg体重と同様であり得て、および/または例えば処置中に患者の試料において測定されるIgMレベルに基づいて、患者の反応または必要性に合わせて調整され得る。したがって、維持投与量は、例えばIgMの血漿レベルが1.0 g/l、好ましくは0.7 g/l、より好ましくは0.5 g/lのレベル未満に低下する時に投与され得る。
【0172】
処置を受けている患者における免疫グロブリンレベルを決定するために用いられるアッセイは、当業者の知識に従って選択され得る。1つの可能な方法は、欧州薬局方に従う患者の血液試料での比濁法である。
【0173】
例示的な実施態様において、処置計画は次のとおりであり得る:
【表2】
* 1日目は、sCAP処置の最初の日、すなわちIgM濃縮製剤の最初の投与が、昇圧剤でのsCAP処置の開始または侵襲性機械的換気の開始後典型的には1~24時間、好ましくは1~12時間に投与されることを指す。
【0174】
本明細書に定義される免疫グロブリン製剤または医薬組成物は、特に点滴静注により投与され得る。該点滴は、好ましくは、免疫グロブリン製剤を妨害し得る他の薬物または医薬との混合を避けるために、別々の点滴ラインを用いてなされる。点滴速度は、当業者により選択され得る。点滴速度は、好ましくは約8 mg IgM/分以下、好ましくは約6 mg IgM/分以下である。好ましくは、所与の患者の初期点滴速度は、約2以下、好ましくは1.5、より好ましくは1.2 mg IgM/分以下である。これは、5%(w/v)の全免疫グロブリンおよび全免疫グロブリンのうち約23%(w/w)のIgMを含む免疫グロブリン製剤の場合、約0.7 ml/分以下、好ましくは約0.5 ml/分以下の点滴速度および約0.1 ml/分未満の初期点滴速度に対応する。低初期点滴速度は、患者が本明細書に定義される免疫グロブリン製剤に対して望ましくない反応を示すかを確認するための時間を与える。より好ましくは、約0.1 ml/分(1.15 mg IgM/分)の初期点滴速度は、約0.5 ml/分(5.75 mg IgM/分)の標的点滴速度まで約10分毎に増加させ得る。該点滴は、典型的には、点滴が所定の時間の大部分を実質的な中断無くおよそ所定の速度で継続されることを意味する、「持続点滴」によりなされ得る。当業者は、点滴が例えば製剤または組成物を含む容器の変更のために短時間中断され得ることを理解するだろう。総一日投与量が持続点滴と同じままである限り、間欠的点滴静注もまた用いられ得る。総一日投与量はまた、24時間にわたって引き伸ばされて、一日投与量の持続点滴をもたらし得る。用語「実質的な中断無く」は、例えば免疫グロブリン製剤を含む空の容器を変更するためまたは別の医薬の間欠的点滴を可能にするために点滴を中断することを許容する。両方のタイプの点滴について、本明細書に記載の推奨一日投与量は尊重されるべきである。
【0175】
免疫グロブリン製剤またはそれを含む医薬組成物の投与量はまた、投与後の患者における免疫グロブリンレベルに従ってさらに調節され得る。好ましくは、該レベルは、投与後適切な時間、例えば次の投与予定より前に測定される。
【0176】
本発明者らはまた、血中IgMレベルが本発明の免疫グロブリン製剤の連日投与後数日にわたり増加することを実現した。また、IgMの開始レベルが低い患者は処置から特に十分な利益を得ることが見出された。他方、特にIgMの開始レベルが低い患者は、低投与量でもよい。これらの知見に基づいて、本発明者らは、負荷投与を含む適応させた投与計画を開発した。したがって、好ましくは、本発明による免疫グロブリン製剤の1回目の投与量は、通常の一日投与量より高い投与量で投与され、対象体において免疫グロブリンの負荷効果を引き起こす。このような負荷投与の典型的な投与量は、連日投与量の約1.5または2倍である。このような負荷投与量は、処置の開始後早期に患者におけるIgMレベルを増加させるが、それに続く投与量の投与後に患者における最大IgMレベルに影響をほとんど及ぼさないことを見出した。好ましくは、このような負荷投与量は、点滴時間を延長することにより投与され得る。
【0177】
処置の開始時のIgMレベルがより低い患者は、他の患者よりIgM投与から強く利益を得る傾向があることをデータが示すため、このような負荷投与は、患者の開始IgMレベルに依存してなされ得る。負荷投与は、より急速に患者のIgMレベルを正常レベルに戻す。また、比濁法は、該患者のIgMレベルを測定するために用いられ得る。
【0178】
本発明に関連して、本発明者らはまた、本明細書に定義されるIgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置が終了した後5日間でIgMレベルが既に顕著に低下することを実現した(図5参照)。また、一般に敗血症患者に対して議論されているように、患者は、疾患の後期過程において免疫無防備状態に入り得る。したがって、患者は、感染の再発のリスクがあり、および/または二次感染のリスクがあり得る。ヒト免疫グロブリン製剤は広範囲の病原体対する抗体を含むため、患者は、1回以上の更なる維持投与から利益を得ることができる。
【0179】
これらの知見および考察に基づいて、本発明者らは、維持投与を含む適応させた投与計画を開発した。したがって、いくつかの実施態様において、処置計画はまた、一日投与量が投与された後一定期間、維持投与量の投与を含み得る。典型的には、このような維持投与量は、初回投与量の後10~18日目のいずれか1日、好ましくは初回投与量の後12~16日目のいずれか1日に投与される。このような維持投与量は、他の投与量、例えば30~80 mg IgM/kg体重、好ましくは35~70 mg IgM/kg体重、より好ましくは40~45 mg IgM/kg体重または60~65 mg IgM/kg体重と同様であり得て、および/または例えば処置中に患者の試料において測定されるIgMレベルに基づいて、患者の反応または必要性に合わせて調整され得る。したがって、維持投与量は、例えばIgMの血漿レベルが0.5 g/lの正常レベル未満に低下するときに投与され得る。このような維持投与量の投与は、必要に応じて繰り返され得る。
【0180】
sCAPは重症疾患であり、患者は処置中に更なる合併症を発症し得る。したがって、処置は、患者の病態に適応させ得る。例えば、患者が処置中に腎不全を発症する場合、および/または患者が処置中に重症溶血を発症する場合、処置は中断されてもよく、または投与量を減少させてもよい。
【0181】
IgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置は、sCAP原因または支持治療、特に例えば昇圧剤での処置の開始および/または侵襲性機械的換気の開始から好ましくは1~24時間以内、より好ましくは1~12時間以内に開始される。
【0182】
用語「昇圧剤」は、当業者に公知であり、抗降圧剤、すなわち低下した血圧を上昇させることを目的とする任意の薬剤を示す。例示的な昇圧剤は、総末梢抵抗を増加させる血管収縮剤、グルココルチコイドなどのカテコールアミンのアドレナリン受容体を増感させる薬剤、およびカテコールアミンなどの心拍出量を増加させる薬剤である。本発明に関連して好ましい昇圧剤としては、カテコールアミン、特にドブタミン、エピネフリン、ドーパミンおよびノルエピネフリンが挙げられる。
【0183】
本明細書に定義されるヒトIgM濃縮免疫グロブリン製剤は、例えば国際特許出願WO2011/131786およびWO2011/131787(Biotest)(出典明示によりその全体として本明細書の一部とする)に記載の方法に従って製造され得る。要約すると、当該方法は、血漿を血液ドナーから採取するかまたは得る工程、ならびにCohn血漿分画法または改変法を用いて該血漿プールから免疫グロブリンを精製する工程および更なる精製工程を含む。該方法を用いると、全タンパク質含有量に基づいて90%、好ましくは少なくとも93%、より好ましくは少なくとも95%の純粋な免疫グロブリンを含む免疫グロブリン含有物が単離される(例えばCohn分画IIIまたはI/IIIから)。
【0184】
IgM製剤を得るために用いられるプールヒト血漿は、好ましくはHCV-RNA、HBV-DNA、HAV-RNAおよびHIV-RNAについて陰性であり;Parvo B19 DNAレベルは、好ましくは1×104 IU/mLを越えない。
【0185】
上記方法は、当業者の通例である更なる工程、例えば沈殿工程、クロマトグラフィー工程およびまたはろ過または遠心分離工程を含み得る。各工程の条件、例えば特定のpH値または塩濃度は、当業者により決定され得る。更なる指針および好ましい条件は、例えばWO2011/131786(Biotest)(出典明示によりその全体として本明細書の一部とする)で見付けられ得る。
【0186】
他の箇所で述べたように、方法は、免疫グロブリン製剤または免疫グロブリン製剤の任意の中間体の、化学修飾またはβ-プロピオラクトン処理の工程を含んではならない。
【0187】
例えば、要約すると、IgM濃縮免疫グロブリン製剤を製造するための方法は、下記工程を含み得る:
(a)ヒト血漿から血漿分画を免疫グロブリン含有溶液として調製する工程
(b)C7-C9カルボン酸、例えばオクタン酸を溶液と混合し、混合した溶液を振動撹拌機(例えばGraber & Pfenninger GmbH)で処理して、夾雑タンパク質を沈殿させる工程;
(c)沈殿したタンパク質を溶液から分離して、IgM含有免疫グロブリン組成物を得る工程(d)IgM含有免疫グロブリン組成物をpH3.5~pH4.5にてインキュベートして、インキュベートした溶液を形成する工程
(e)インキュベートした溶液にUVCを照射して、UVC照射した溶液を形成する工程;および
(f)UVC照射した溶液を無菌条件下ろ過して、ヒトにおける静脈内投与に適する免疫グロブリン製剤を形成する工程。
【0188】
上記のように、本明細書に定義される免疫グロブリン製剤は、適切な医薬組成物、好ましくは点滴静注に適した溶液に製剤化され得る。この点において、本明細書に定義される免疫グロブリン製剤は、組成物、好ましくは医薬組成物、より好ましくは点滴静注に適した(医薬)組成物であり得る。
【0189】
本発明による免疫グロブリン製剤は、医薬組成物に製剤化され得る。好ましくは、本発明による医薬組成物は、1リットルの溶液当たり約20 g、好ましくは約30 g、より好ましくは約40 gから約100 g、例えば約45~55 g/lの免疫グロブリンタンパク質を含む。組成物は、適切な添加剤、例えば0.2~0.5 Mグリシンを含み得る。好ましくは、製剤は、2~8℃における製剤の良好な安定性を維持するために、pH4~7、好ましくはpH4.3~4.7にて緩衝化される。
【0190】
医薬組成物は、肺炎の処置または敗血症の処置に適した他の活性物質:例えば適切な抗ウイルス剤、抗炎症剤、または免疫調節剤、適切な抗生物質、抗真菌剤、呼吸補助、例えば酸素または機械的換気、輸液蘇生および臓器機能代替、例えば腎代替治療をさらに含んでもよく、またはそれらと組み合せてもよい。
【0191】
医薬組成物は、医薬的に許容される添加物、添加剤、またはより効果的な投与を可能にする他の物質をさらに含み得る。
【0192】
本明細書に定義される免疫グロブリン製剤は、医薬添加剤を有して任意の適切な医薬形態、または薬剤溶液もしくは製剤、好ましくは点滴静注用溶液で製剤化され得る。
【0193】
IgM濃縮免疫グロブリン製剤を含む医薬組成物は、例えば点滴用溶液として製剤化され得る。このような組成物は、pH4.3~4.7の0.3 Mグリシン中、全免疫グロブリンのうち18~28重量%のIgM;15~27重量%のIgA;および48~66重量%のIgGを含む、免疫グロブリンを例えば≧90%、好ましくは≧95%含み得る。
【0194】
好ましくは、IgM濃縮製剤は、液体形態で少なくとも3ヵ月、好ましくは少なくとも6ヵ月および最も好ましくは少なくとも2年間2~8℃にて安定である形態または組成物であり、ここで該安定は、HPSECで測定して7%、好ましくは5%を超えるIgMの断片化または重合がなく、タンパク質分解活性の増加がなく、大腸菌に対するIgM抗体活性および肺炎球菌サッカライドに対するIgM抗体活性の25%超の低下がなく、抗補体活性の25%超の増加がなく、1 CH50/mgタンパク質未満のままであることを意味する。またさらに、同じ基準で評価されて、IgM濃縮製剤は、同じ基準で評価されるとき、液体形態で少なくとも3ヵ月、好ましくは少なくとも6ヵ月および最も好ましくは少なくとも1年間室温(23~27℃)にて安定である形態または組成物である。
【0195】
免疫グロブリン製剤を含む(医薬)組成物はまた、無菌条件下適切な容器に充填され得る。適切な容器は、例えば密閉された貫通可能なゴム栓を含む、点滴に適したフラスコまたはボトルであり得る。したがって、本発明はまた、本明細書に定義される免疫グロブリン製剤を含む医薬組成物を含む、フラスコまたはボトルなどの容器に関する。例えば、該フラスコまたはボトルは、好ましくは全免疫グロブリンのうち10~40重量%、好ましくは18~28重量%のIgMを含む、約5%または約10%の本発明による全免疫グロブリン製剤を約50 ml~約100 mlを含み得る。また、本発明はまた、投与についての説明書(好ましくは本発明の投与計画に従った投与についての説明書)と一緒に組成物を含む、1つまたは複数の容器、フラスコまたはボトルを含む、パッケージまたはキットに関する。
【0196】
本明細書に記載の発明のそれぞれの態様を以下の非限定的な実施例によりさらに説明する。
【0197】
本明細書で引用されるすべての参考文献は、出典明示によりその全体として本明細書の一部とする。
【実施例
【0198】
実施例1:本発明によるヒト免疫グロブリン製剤の製造
本明細書に定義されるヒト免疫グロブリン製剤を、WO2011/131786に記載の一般的方法を用いて製造し得る。要約すると、次の工程を用いた:血漿を健常なドナーから得て、プールし、ヒトIgMの最初の精製を古典的Cohn血漿分画法または公知のその改変法(例えばCohn/Oncley、Kistler/Nitschmann)により行う。冷温エタノール沈殿法を用いて、IgM分画をCohn分画IIIまたは分画I/III中回収する。製剤は、全タンパク質含有量に基づいて少なくとも95%の純粋な免疫グロブリンである。生成物をβ-プロピオラクトンで処理せず、また低温殺菌しなかった。次の工程で製造した:オクタン酸を溶液と混合し、混合した溶液を振動撹拌機(Graber & Pfenninger)で処理して、夾雑タンパク質を沈殿させる工程;沈殿したタンパク質を溶液から分離して、IgM含有免疫グロブリン組成物を得る工程。IgM含有免疫グロブリン組成物をpH3.5~pH4.5にてインキュベートして、インキュベートした溶液を形成させた。インキュベートした溶液をUVCで処理して、UVC照射した溶液を形成させ;UVC照射した溶液を無菌条件下ろ過して、ヒトにおける静脈内投与に適する免疫グロブリン製剤を形成させた。
【0199】
最終製剤は、次の特性を有する:
【表3】
【0200】
IgM濃縮免疫グロブリン製剤は、+2℃~+8℃にて少なくとも24ヵ月間安定であった。
【0201】
IgM濃縮免疫グロブリン製剤はまた、2016年1月に刊行された2016年6月の欧州薬局方8.8(タイトル2.6.17)に従って試験される、次の特性を有することが示された:
低プレカリクレインアクティベーター(≦35 IU/ml)、
低IgMポリマー含有量(≦5%)、および
低抗補体活性(≦1 CH50/mgタンパク質)。
【0202】
IgM濃縮免疫グロブリン製剤をまた病原体に対する力価について試験した。製剤は、ストレプトリジンO抗原(IgG)(≧200 IU/ml)に対する抗体を含んでいた。また、抗体活性の力価を測定し得る。
【0203】
製剤をBT086またはBT0588と表す。
【0204】
実施例2:sCAPのための補助的処置として用いられるIgM濃縮免疫グロブリン製剤(BT-086)の臨床試験結果
無作為化二重盲検プラセボ対照第II相試験を、侵襲性機械的換気により換気される重症市中肺炎(sCAP)を有する160名の入院患者において、実施例1において製造および製剤化されたヒト免疫グロブリン製剤を用いて、その有効性、安全性および薬物動態を評価するために行った。
【0205】
(プラセボ)
試験において対照として用いられるプラセボは、点滴用1%ヒトアルブミン溶液であった。BT086と同様の外観を有するので盲検が保たれるため、ヒトアルブミンをプラセボとして選択した。プラセボは次の組成を有した:
- ヒト血漿タンパク質:10 mg/mL、このうちアルブミン≧96%
- カプリネート(安定化剤):0.5~2.0 mmol
- N-アセチル-DL-トリプトファネート(安定化剤):0.5~2.0 mmol
- ナトリウム:140~160 mmol
- pH:6.7~7.3
【0206】
Biotest製の市販のヒトアルブミン20%製剤Albiominを、1%ヒトアルブミンプラセボを製造するための出発物質として用いた。
【0207】
(患者特性)
このセクションにおいて、患者特性の概要を示す。主な特性を次の表に示す:
【表4】
【0208】
(患者組入れ基準)
一般に、患者は、臨床試験に選択されるために、次の基準の1つ以上に適合する必要があった:
・何らかの試験特有の評価の前に、書面のインフォームドコンセントを得る
・主要sCAP基準:肺炎について適切な抗生物質処置を受けている気管内換気患者を必要とすること
・侵襲性機械的換気および治療の前に、患者は次の2つの炎症の兆候うち少なくとも1つを有しなければならない:発熱/低体温または白血球(WBC)数>10,000/mm3またはWBC<4,500/mm3
・患者は次の肺炎の徴候および症状の少なくとも1つを有しなければならない:咳の発生または増加;膿性痰の産生または痰の特性の変化;呼吸困難または頻呼吸(呼吸数>20呼吸/分);胸膜炎性胸痛;肺検査でのラ音および/または断続性ラ音および/または肺圧密のエビデンス(例えば衝撃への遅鈍、気管支呼吸音またはヤギ声)の聴診所見
・細菌性肺炎と一致する浸潤物のX線(または他の画像化技術)のエビデンス
・肺炎を病院外で獲得した。入院患者において、入院後最大72時間に肺炎が診断される。養護ホームまたは同様の施設の患者は適格である
・侵襲性機械的換気の開始後1時間以後であって12時間以内にBT086での患者の処置を開始しなければならない
【0209】
気管内換気を必要とすることは、気管切開による換気の患者もまた含まれることを意味する。
【0210】
(患者除外基準)
患者が次の基準に適合する場合、患者を臨床試験から除外した:
・院内感染肺炎の疑いがある患者
・余命を害する他の重症疾患の存在(例えば、既往の回復不可能な病状を考慮すると、患者は28日を生存することが期待されない)
・IgAへの公知の抗体を有する選択的、絶対的IgA欠損
・好中球数<1,000/mm3または血小板数<50,000/mm3の患者
【0211】
(投与量計算および投与)
すべての投与量は、処置前の記録された入院体重に基づいた。すべての点滴について計算された総投与量は、入院体重に基づいており、各投与量について記録した。
【0212】
免疫グロブリン製剤を含む溶液を、別々の点滴ラインを用いて点滴ポンプにより点滴静注した。他の薬物または医薬と混ざらないよう注意した。他の免疫グロブリン製剤での適合性の経験に基づいて、免疫グロブリン製剤を、0.9%塩化ナトリウムまたは5%デキストロース生理食塩水のいずれかを含有するIVラインへ順次注入した。1日当たり投与される免疫グロブリン製剤の量は、患者の体重に依存する。例えば70 kgの対象体において42 mg IgM/kg体重の投与量に到達するために:70×3.65 mlの免疫グロブリン製剤=255.65 mlが一日に0.5 ml/分の最大点滴速度にて点滴される(時間=8:30 h)。100 kgの患者については、365.22 mlの溶液が投与される(時間=12:10 h)。
【0213】
(投与レジメン)
補助的治療の投与レジメンは次のとおりである:連続5日間にわたる42 mg IgM/kg体重のIgM濃縮製剤(BT086)の5回の点滴、侵襲性機械的換気後1~12時間に最初の投与の開始。
【0214】
典型的には、次の処置計画が適用された:
【表5】
【0215】
図1は、健常な対象体において本明細書に定義されるように42 mg IgM/kg体重の5回連続投与後IgMは増加することを示し、これは再現性のある用量依存性血漿PKレベルを示している。
【0216】
(初期試験の結果)
図2は、試験デザインの概要を示す。主要評価項目は、人工呼吸器非使用日数(VFD)であった。副次評価項目の1つは、標準的治療を補助する処置としてのBT086の投与後の死亡率レベルであった。
【0217】
VFDは、機械的換気の抜管成功(ウィーニング)と患者の試験への登録後28日目との間の日数として定義される。ウィーニング成功後であっても、フォローアップ(28日間)の終了前に患者が死亡した場合、VFDは「0」である。したがって、VFDは、死亡率と生存者における換気の持続期間を組み合わせる(Schoenfeld et al. 2002 Crit Care Med 30(8):1772-1777 (2002))。
【0218】
図3および4は、補助的処置として本明細書に定義される免疫グロブリン製剤で処置された患者と補助的処置として上で定義されるプラセボで処置された患者におけるVFDおよび28日死亡率それぞれの差を示す。図3から分かるように、免疫グロブリン製剤処置患者対プラセボ処置患者の試験に記載された完全な患者集団において1.4日のVFDの増加を観察することができる。当該試験において、プラセボ群と比較して、全原因死亡率の5%の絶対的低下が観察され、相対的低下はより高かった。図3は、補助的処置として本明細書に定義される免疫グロブリン製剤で処置された患者において、補助的処置としてプラセボで処置された患者に対する全原因死亡率の相対的低下が約20%の差であることを示す。また、肺炎原因の死亡率が相対的に51%低下したことが観察された。
【0219】
興味深いことに、試験の更なる分析のうちに、特定レベルの炎症マーカーCRPおよびPCTまたは特定レベルの免疫グロブリンを有する患者は、IgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置から他の患者より多くの利益を得ることが分かった。試験の更なる分析において、男性患者は、IgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置から女性患者より多くの利益を得ることもまた分かった。試験の分析において、65歳以下の患者は、IgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置から65歳を超える患者より多くの利益を得ることもまた分かった。
【0220】
実施例3:CRPレベルがsCAP集団内のサブグループにおける異なる反応の存在を示す
実施例2において、補助的処置としてプラセボで処置された患者に対する、補助的処置として本明細書に定義される免疫グロブリン製剤で処置された患者の2日のVFDの増加の想定される試験エンドポイントが、達成されなかった。処置結果の更なる分析において、BT086での処置に良好な反応をする患者は、処置の開始時により高いCRPレベルを有することが分かった。これらのデータを図7に示す。当該図は、より高い投与前CRP血清レベルを有する患者における死亡率Δの明らかな傾向を示す。死亡率Δは、約70 mg/lのカットオフレベルでピークに達する(16.9%の絶対死亡率の差)。最小差は、10 mg/lのカットオフレベルで観察される(4%の死亡率の差)。高い割合の患者が処置から利益を得るが、これらの患者の利益が高いため、約50~100 mg/lのカットオフ値の範囲は、特に興味深いと考えられる。16.9%の絶対死亡率の差が、全患者集団と比較して死亡率の3倍の低下を意味することを考慮するべきである。別の実施例において、次の表に示すように、100 mg/lのカットオフを用いると、全原因28日死亡率の明らかな低下(50%)および平均VFDの明らかな増加(>2日)が見られた。
【表6】
【0221】
分析のために、BT086での処置開始前最後(侵襲性機械的換気の開始後1~12時間以内)のCRP値を考慮した。この値は、常に、BT086での処置開始前24時間以内であり、ほとんどすべての場合、BT086処置開始前12時間以内である。同じことが以下の実施例で言及する他のレベル(PCT、IgMなど)に適用される。
【0222】
実施例4:PCTレベルがsCAP集団内のサブグループにおける異なる反応の存在を示す
別のマーカーがIgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置の利益について予測的である顕著な可能性を示すこともまた分かった。1.5 ng/ml PCTのカットオフ値において、死亡率Δは、既に10.3%である。13%の死亡率の差は、2.1 ng/mlのカットオフを適用すると観察され、17.9%の絶対死亡率の差は、15 ng/mlのカットオフで観察される。しかしながら、カットオフレベルを増大させると、処置される患者の数が小さくなる。
【0223】
次の表から分かるように、プラセボ群に対してIgM群でVFDの平均数は3日を超えて増加し、28日死亡率は10%超低下した。
【表7】
【0224】
実施例5:IgMレベルがsCAP集団内のサブグループにおける異なる反応の存在を示す。
実施例3および4に加えて、処置開始前のIgMの患者血清レベルはまた、処置の利益の改善の強い独立した予測因子であることが分かった(図6)。図6のデータから、1.5 g/l IgM以下のカットオフを選択する場合、死亡率Δは増大することが分かる。0.8 g/lのカットオフについては、この最大差(16.6%)が観察される。0.4 g/lのカットオフについては、10.3%の差が観察される。患者数(実線)は、それぞれのカットオフレベル以下の値を示す試験における患者の数を指す。例えば、47名の患者は0.4 g/l以下のIgMレベルを有し、一方、111名の患者は0.8 g/l以下のIgMレベルを有し、そして129名の患者は1.0 g/l以下のIgMレベルを有する。患者数が増加するほど、分析のためのより良好なデータベース提供すること、および当業者は、良好な処置の利益を維持しながら多くの患者を処置することを可能にする適切なカットオフレベルを選択し得ることが、当業者により理解されるだろう。
【0225】
次の表から分かるように、プラセボ処置患者群に対してIgM製剤処置患者でVFDの平均数は3日を超えて増加し、28日死亡率は12%超低下した。
【表8】
【0226】
実施例6:IgAレベルがsCAP集団内のサブグループにおける異なる反応の存在を示す
前記実施例に加えて、血清IgAカットオフレベルについての死亡率データを、本明細書に記載のIgM濃縮免疫グロブリン製剤(BT086)で処置された患者と本明細書に記載のプラセボで処置された患者間の死亡率の差(死亡率Δ、点線)に対してプロットした(図10参照)。
【0227】
それぞれのカットオフレベル以下のIgA値を有する患者のデータを示す。投与前、処置前12時間以内、処置の開始前ほぼ12時間以内にレベルを測定した。
【0228】
当該図から分かるように、約4 g/l IgA以下のIgAレベルを有する患者において、免疫グロブリン処置対プラセボ処置の死亡率Δは、増加し始める。約3 g/l IgAのカットオフレベルにおいて、9.5%の死亡率の差が観察され、より低いカットオフ値については10%超までさらに増大する。患者数(実線)は、それぞれのカットオフレベル以上の値を示す試験における患者の数を指す。
【0229】
実施例7:CRPおよびIgMレベルがsCAP集団内のサブグループにおける異なる反応の存在を示す
前記実施例に加えて、カットオフレベルCRP 70 mg/l以上、IgM 0.8 g/l以下、および両基準を満たす患者群の更なる詳細を、ベースラインデータを含めて、次の表に示す:
【表9】
【0230】
ベースラインデータから、プラセボおよび処置群の人口統計学的特性は比較可能であるが、層別群の死亡率の差は顕著であることが分かる。0.05の有意差レベルを有するフィッシャーの正確確率検定からの記述的p値を層別群から計算した。この計算によれば、死亡率の差は有意である(CRP 70 mg/l以上についてはp=0.030、IgM 0.8 g/l以下についてはp=0.042、および両基準を満たす患者群についてはp=0.006)。
【0231】
APACHE II(「Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II」)は、疾患の重症度分類システムである(Knaus WA, Draper EA, Wagner DP, Zimmerman JE (1985). "APACHE II: a severity of disease classification system". Critical Care Medicine 13 (10): 818-29)。APACHE IIは、集中治療室に入院した成人患者の疾患の重症度を測定するようにデザインされている。
本発明は、以下の態様をさらに含む。
[1] 患者における重症市中肺炎(sCAP)の補助的処置での使用のためのヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾および/またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、該患者が、少なくとも50 mg/l~少なくとも100 mg/lの血清CRPレベル、および/または少なくとも1.0 ng/ml~少なくとも5.0 ng/mlの血清PCTレベルを有する、免疫グロブリン製剤。
[2] 免疫グロブリン製剤が、全免疫グロブリン含有量の10~40重量%、好ましくは18~28重量%を占めるIgMを含む、[1]に記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
[3] 血清CRPレベルが、少なくとも50 mg/l、または少なくとも70 mg/l、または少なくとも75 mg/l、または少なくとも80 mg/l、または少なくとも100 mg/lであり、および/または血清PCTレベルが、少なくとも1.0 ng/ml、または少なくとも1.5 ng/ml、または少なくとも2.0 ng/ml、または少なくとも5 ng/mlである、[1]または[2]に記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
[4] 該血清PCTおよび/またはCRPレベルが、sCAPの診断時に存在し、特に、昇圧剤治療の開始および/または侵襲性機械的換気の開始24時間前から開始24時間後の範囲内に少なくとも1回存在する、[1]~[3]のいずれか一項に記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
[5] 患者が、0.4 g/l以下~1.5 g/l以下の血清IgMレベル、および/または5 g/l以下~10 g/l以下の血清IgGレベル、および/または4.0 g/l以下、3.5 g/l以下、3 g/l以下、2.5 g/l以下または2.0 g/l以下の血清IgAレベルを有する、[1]~[4]のいずれか一項に記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
[6] 血清IgMレベルが、1.0 g/l以下、または0.8 g/l以下、または0.7 g/l以下、または0.5 g/l以下であり、および/またはIgGレベルが、9 g/l以下、または8 g/l以下、または7 g/l以下、または7 g/l以下、または6 g/l以下である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
[7] 該処置が、抗生物質治療の補助的である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の使用のための血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤。
[8] 該血清IgM、IgGまたはIgAレベルが、sCAPの診断時に存在し、より具体的には、昇圧剤治療または侵襲性機械的換気の開始前24時間から開始後24時間の範囲内に少なくとも1回存在する、[5]、[6]または[7]に記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
[9] 免疫グロブリン製剤が、β-プロピオラクトンで処理されていない、[1]~[8]のいずれか一項に記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
[10] 免疫グロブリン製剤が、全免疫グロブリン含有量の10~40重量%、好ましくは18~28重量%を占めるIgMを含む、[1]および[3]~[8]のいずれか一項に記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
[11] 免疫グロブリン製剤が、全免疫グロブリン含有量の15~27重量%を占めるIgAを含む、[1]~[10]のいずれか一項に記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
[12] 免疫グロブリン製剤が、全免疫グロブリン含有量の48~66重量%を占めるIgGを含む、[1]~[11]のいずれか一項に記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
[13] 免疫グロブリン製剤が、全タンパク質含有量の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%を占める全免疫グロブリン含有量を有する、[1]~[12]のいずれか一項に記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
[14] 1リットルの溶液当たり40~100グラムの免疫グロブリン、好ましくは1リットルの溶液当たり40~60グラムの免疫グロブリンを含む、静脈内投与のための溶液の形態である、[1]~[13]のいずれか一項に記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
[15] 該免疫グロブリン製剤が、21日間にわたって3~10回の一日投与量で投与され、好ましくは、1回目の一日投与量が昇圧剤治療および/または侵襲性機械的換気の開始後24時間以内、好ましくは1~12時間に投与される、[1]~[14]のいずれか一項に記載の使用のためのヒト免疫グロブリン製剤。
[16] 該免疫グロブリン製剤が、下記処置レジメンに従って投与される、[1]~[15]のいずれか一項に記載の使用のためのヒト免疫グロブリン製剤:1回目の一日投与量を昇圧剤治療および/または侵襲性機械的換気の開始後24時間以内、好ましくは1~12時間に投与し、続いて3~10回、好ましくは3~6回連続して一日点滴投与量を投与し、所望により1回以上の維持点滴投与量を該免疫グロブリン製剤の1回目の投与後10~18日に投与する。
[17] 投与される一日投与量が、30~80 mg IgM/kg体重、好ましくは35~65 mg IgM/kg体重である、[1]~[16]のいずれか一項に記載の使用のためのヒト免疫グロブリン製剤。
[18] 投与される初回の一日投与量が、50~80 mg IgM/kg体重、好ましくは60~65 mg IgM/kg体重である、[1]~[17]のいずれか一項に記載の使用のためのヒト免疫グロブリン製剤。
[19] 点滴速度が6 mg IgM/分以下であり、より好ましくは初期点滴速度が2 mg IgM/分以下である、[1]~[18]のいずれか一項に記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
[20] 免疫グロブリン製剤が由来する血漿ドナー数が少なくとも500、少なくとも1500、より好ましくは少なくとも2500であることを特徴とする、[1]~[19]のいずれか一項に記載の使用のための免疫グロブリン製剤。
[21] [1]~[20]のいずれか一項に記載の使用のための免疫グロブリン製剤または医薬組成物を含む、点滴に適する容器。
[22] 1つまたは複数の[21]に記載の容器および、好ましくは[1]~[17]のいずれか一項に記載の投与のための指示を含む、投与のための説明書を含む、パッケージまたはキット。
[23] ヒト血漿由来IgM濃縮免疫グロブリン製剤での補助的処置から利益を得るsCAP患者を特定するための方法であって、該免疫グロブリン製剤が、化学修飾またはβ-プロピオラクトンで処理されておらず、患者の血液試料中の血清CRPレベル、および/または血清PCTレベル、および/または血清IgMレベル、および/または血清IgGレベル、および/または血清IgAレベル、または任意のそれらの組合せを決定する工程を含み:(1)少なくとも50 mg/l~少なくとも100 mg/lの血清CRPレベル;(2)少なくとも1.0 ng/ml~少なくとも5.0 ng/mlの血清PCTレベル;(3)0.5 g/l以下~1.5 g/l以下の血清IgMレベル;(4)5 g/l以下~10 g/l以下の血清IgGレベル;(5)4.0 g/l以下、3.5 g/l以下、3 g/l以下、2.5 g/l以下または2.0 g/l以下の血清IgAレベルのいずれか1つ以上が、患者が該処置から利益を得る可能性があることを示す、方法。
[24] 該PCT、CRP、IgM、IgGまたはIgAのレベルが、sCAPの診断時に存在し、より具体的には、昇圧剤治療または侵襲性機械的換気の開始前24時間から開始後24時間の範囲内に少なくとも1回存在する、[23]に記載の方法。
[25] 測定が、本願に定義されるIgM濃縮免疫グロブリン製剤での処置開始予定より前になされる、[23]または[24]に記載の方法。
[26] 患者が男性である、および/または患者が65歳以下である、[1]~[25]のいずれか一項に記載の製剤または方法。
図1
図2
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図10