(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】表面処理金属板、電池容器および電池
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20220316BHJP
C23C 8/16 20060101ALI20220316BHJP
C25D 5/14 20060101ALI20220316BHJP
C25D 5/50 20060101ALI20220316BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20220316BHJP
H01M 50/10 20210101ALI20220316BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
C23C28/00 B
C23C8/16
C25D5/14
C25D5/50
C25D7/00 W
H01M50/10
C25D5/26 E
(21)【出願番号】P 2019509387
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013756
(87)【国際公開番号】W WO2018181950
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2017072626
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中野 雄二
(72)【発明者】
【氏名】松重 大輔
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 興
【審査官】馳平 憲一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/147843(WO,A1)
【文献】特開2012-048958(JP,A)
【文献】特開2000-212728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 28/00
C23C 8/16
C25D 5/14
C25D 5/50
C25D 7/00
H01M 50/10
C25D 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板と、
前記金属板上に形成されたニッケル-コバルト二元合金層と、を備える表面処理金属板であって、
前記ニッケル-コバルト二元合金層は、X線光電子分光分析法によって測定される酸素原子の含有割合が5原子%以上である部分を酸化被膜とした場合における、厚みが0.5~30nmである酸化被膜を表面に備え、
昇温、温度105℃および相対湿度100%RHの水蒸気雰囲気で72時間保持、ならびに、降温を行うプレッシャークッカー試験を実施した場合における前記酸化被膜の厚みの増加量が28nm以下である表面処理金属板。
【請求項2】
前記酸化被膜を備える前記ニッケル-コバルト二元合金層が形成された面の最表面において、電子線後方散乱回折法により結晶粒径を測定した際における、結晶粒径が0.05μm以上である結晶粒中における、結晶粒径が0.95μm以上である結晶粒の個数の割合(GS1)が19%以上である請求項1に記載の表面処理金属板。
【請求項3】
前記酸化被膜を備える前記ニッケル-コバルト二元合金層が形成された面において、X線光電子分光分析法によって測定した際における、酸素原子の含有割合が5原子%となるエッチング深さにおけるニッケル原子の原子数に対するコバルト原子の原子数の比(Co/Ni
(酸素5原子%))が0.2~1.9である請求項1または2に記載の表面処理金属板。
【請求項4】
前記酸化被膜を備える前記ニッケル-コバルト二元合金層が形成された面の最表面において、電子線後方散乱回折法により結晶粒径を測定した際における、結晶粒径が0.05μm以上である結晶粒中における、結晶粒径が0.95μm以上である結晶粒の個数の割合(GS1)が19%未満であり、かつ、結晶粒径が0.05μm以上、1.05μm未満である結晶粒中における、結晶粒径が0.05μm以上、0.25μm未満である結晶粒の個数の割合(GS2)が56%以下である請求項1または3に記載の表面処理金属板。
【請求項5】
前記酸化被膜を備える前記ニッケル-コバルト二元合金層が形成された面において、X線光電子分光分析法によって測定した際における、エッチング深さ40nm(SiO
2換算値)におけるニッケル原子の原子数に対するコバルト原子の原子数の比(Co/Ni
(40))が0.5~3.2である請求項1~4のいずれかに記載の表面処理金属板。
【請求項6】
昇温、温度105℃および相対湿度100%RHの水蒸気雰囲気で72時間保持、ならびに、降温を行うプレッシャークッカー試験を実施した後における前記酸化被膜の厚みが、35nm以下である請求項1~5のいずれかに記載の表面処理金属板。
【請求項7】
前記酸化被膜を備える前記ニッケル-コバルト二元合金層に含まれるコバルト量が、0.15~6.0g/m
2である請求項1~6のいずれかに記載の表面処理金属板。
【請求項8】
前記ニッケル-コバルト二元合金層の下地として、ニッケルめっき層をさらに備える請求項1~7のいずれかに記載の表面処理金属板。
【請求項9】
前記酸化被膜を備える前記ニッケル-コバルト二元合金層、および前記ニッケルめっき層に含まれる合計のニッケル量が、2.9~28.5g/m
2である請求項8に記載の表面処理金属板。
【請求項10】
前記金属板が鋼板であり、
前記鋼板上に直接形成された鉄-ニッケル拡散層をさらに備える請求項1~9のいずれかに記載の表面処理金属板。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の表面処理金属板からなる電池容器。
【請求項12】
請求項11に記載の電池容器を備える電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理金属板、該表面処理金属板を用いた電池容器、および該電池容器を用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オーディオ機器や携帯電話など、多方面において携帯用機器が用いられ、その作動電源として一次電池であるアルカリ電池、二次電池であるニッケル水素電池、リチウムイオン電池などが多用されている。これらの電池においては、高出力化および長寿命化など、高性能化が求められており、正極活物質や負極活物質などからなる発電要素を充填する電池容器も電池の重要な構成要素としての性能の向上が求められている。
【0003】
たとえば、特許文献1では、電池容器として用いた場合に、電池特性を向上させるという観点より、電池容器内面となる面の最表面に、特定のニッケル-コバルト合金層が形成されてなる表面処理金属板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、製造される表面処理金属板は、製造直後の状態では表面に変色はみられないものの、電池容器として用いられるまでに、そのまま半年や1年といった長期の期間保管していた場合、または高温、高湿環境下に曝された場合、表面が変色してしまう場合があるという問題があった。特に、上記特許文献1の表面処理金属板は、長尺の製品(たとえば、鋼帯に連続的にニッケル-コバルト合金層を形成することで製造した製品)とした場合に、コイル状に巻き取った状態のまま長期間保管してしまうと、表面処理金属板同士の隙間で湿度が上昇してしまい、表面処理金属板の変色が進行しやすくなってしまうという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、長期間保管した場合においても表面の変色を防止することができ、しかも、電池容器として用いた場合に電池特性を向上させることができる表面処理金属板を提供することである。また、本発明は、このような表面処理金属板を用いて得られる電池容器および電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、金属板上に、特定の酸化被膜を備えるニッケル-コバルト二元合金層を形成することにより、上記目的を達成できることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、金属板と、前記金属板上に形成されたニッケル-コバルト二元合金層と、を備える表面処理金属板であって、前記ニッケル-コバルト二元合金層は、X線光電子分光分析法によって測定される酸素原子の含有割合が5原子%以上である部分を酸化被膜とした場合における、厚みが0.5~30nmである酸化被膜を表面に備え、昇温、温度105℃および相対湿度100%RHの水蒸気雰囲気で72時間保持、ならびに、降温を行うプレッシャークッカー試験を実施した場合における前記酸化被膜の厚みの増加量が28nm以下である表面処理金属板が提供される。
【0009】
本発明の表面処理金属板において、前記酸化被膜を備える前記ニッケル-コバルト二元合金層が形成された面において、X線光電子分光分析法によって測定した際における、酸素原子の含有割合が5原子%となるエッチング深さにおけるニッケル原子の原子数に対するコバルト原子の原子数の比(Co/Ni(酸素5原子%))がより安定的に変色を抑制可能という観点から、上限は好ましくは1.9以下、より好ましくは1.6以下、さらに好ましくは1.3以下、特に好ましくは1.0以下である。またより接触抵抗の増加を抑制可能という観点から下限は好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.4以上である。
本発明の表面処理金属板において、前記酸化被膜を備える前記ニッケル-コバルト二元合金層が形成された面の最表面において、電子線後方散乱回折法により結晶粒径を測定した際における、結晶粒径が0.05μm以上である結晶粒中における、結晶粒径が0.95μm以上である結晶粒の個数の割合(GS1)が19%以上であることが好ましい。
あるいは、本発明の表面処理金属板において、前記酸化被膜を備える前記ニッケル-コバルト二元合金層が形成された面の最表面において、電子線後方散乱回折法により結晶粒径を測定した際における、結晶粒径が0.05μm以上である結晶粒中における、結晶粒径が0.95μm以上である結晶粒の個数の割合(GS1)が19%未満であり、かつ、結晶粒径が0.05μm以上、1.05μm未満である結晶粒中における、結晶粒径が0.05μm以上、0.25μm未満である結晶粒の個数の割合(GS2)が56%以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の表面処理金属板において、前記酸化被膜を備える前記ニッケル-コバルト二元合金層が形成された面において、X線光電子分光分析法によって測定した際における、深さ8.9nm(SiO2換算値)におけるニッケル原子の原子数に対するコバルト原子の原子数の比(Co/Ni(8.9))が0.4~1.4であることが好ましい。
本発明の表面処理金属板において、前記酸化被膜を備える前記ニッケル-コバルト二元合金層が形成された面において、X線光電子分光分析法によって測定した際における、深さ40nm(SiO2換算値)におけるニッケル原子の原子数に対するコバルト原子の原子数の比(Co/Ni(40))が0.5~3.2であることが好ましい。
本発明の表面処理金属板において、昇温、温度105℃、相対湿度100%RHの水蒸気雰囲気で72時間保持、ならびに、降温を行うプレッシャークッカー試験を行った場合における、プレッシャークッカー試験後の前記酸化被膜の厚みが、35nm以下であることが好ましい。
本発明の表面処理金属板において、前記酸化被膜を備える前記ニッケル-コバルト二元合金層に含まれるコバルト量が、より安定的に変色を抑制可能という観点から、上限は好ましくは6.0g/m2以下、より好ましくは3.5g/m2以下、さらに好ましくは2.6g/m2以下、特に好ましくは1.8g/m2以下である。また、より接触抵抗の増加を抑制可能という観点から下限は好ましくは0.15g/m2以上、より好ましくは0.3g/m2以上、さらに好ましくは0.35g/m2以上である。
【0011】
本発明の表面処理金属板において、前記ニッケル-コバルト二元合金層の下地として、ニッケルめっき層をさらに備えることが好ましい。
本発明の表面処理金属板において、前記酸化被膜を備える前記ニッケル-コバルト二元合金層、および前記ニッケルめっき層に含まれる合計のニッケル量が、電気抵抗に優れ、かつ耐食性に優れる観点から、上限は好ましくは28.5g/m2以下、より好ましくは19.5g/m2以下、さらに好ましくは15.0g/m2以下である。基材である鉄に対する耐食性を保持する観点から、下限は好ましくは2.9g/m2以上、より好ましくは4.7g/m2以上である。
【0012】
本発明によれば、上記いずれかの表面処理金属板からなる電池容器が提供される。
また、本発明によれば、上記電池容器を備える電池が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、長期間保管した場合においても表面の変色を防止することができ、しかも、電池容器として用いた場合に電池特性を向上させることができる表面処理金属板を提供することができる。また、本発明は、このような表面処理金属板を用いて得られる電池容器および電池を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る表面処理金属板を適用した電池の一実施形態を示す斜視図である。
【
図3】本発明に係る表面処理金属板の一実施形態を示す断面図である。
【
図4】本発明に係る表面処理金属板の第二の実施形態を示す断面図である。
【
図5】本発明に係る表面処理金属板の第三の実施形態を示す断面図である。
【
図6】本発明に係る表面処理金属板の第四の実施形態を示す断面図である。
【
図8】実施例の表面処理金属板について、プレッシャークッカー試験前の状態にて、X線光電子分光分析法により測定した結果を示すグラフである。
【
図9】実施例の表面処理金属板について、プレッシャークッカー試験後の状態にて、X線光電子分光分析法により測定した結果を示すグラフである。
【
図10】実施例の表面処理金属板について、プレッシャークッカー試験後の状態にて、X線光電子分光分析法により測定した結果を示すグラフである。
【
図11】ニッケル-コバルト二元合金層および酸化被膜に含まれるCo量を変化させた表面処理金属板について、色調評価を行った結果を示す表である。
【
図12】実施例の表面処理金属板について、SEMおよびEBSDによる測定結果を示す図である。
【
図13】実施例の表面処理金属板について、SEMおよびEBSDによる測定結果を示す図である。
【
図14】実施例の表面処理金属板について、SEMによる測定結果を示す図である。
【
図15】比較例の表面処理金属板について、SEMおよびEBSDによる測定結果を示す図である。
【
図16】比較例の表面処理金属板について、SEMおよびEBSDによる測定結果を示す図である。
【
図17】比較例の表面処理金属板について、SEMによる測定結果を示す図である。
【
図18】比較例の表面処理金属板について、SEMによる測定結果を示す図である。
【
図19】比較例の表面処理金属板について、SEMによる測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態について説明する。本発明に係る表面処理金属板は、所望の電池の形状に応じた外形形状に加工される。電池としては、特に限定されないが、一次電池であるアルカリ電池、二次電池であるニッケル水素電池、リチウムイオン電池などを例示することができ、これらの電池の電池容器の部材として、本発明に係る表面処理金属板を用いることができる。以下においては、アルカリ電池の電池容器を構成する正極缶に、本発明に係る表面処理金属板を用いた実施形態にて、本発明を説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る表面処理金属板を適用したアルカリ電池2の一実施形態を示す斜視図、
図2は、
図1のII-II線に沿う断面図である。本例のアルカリ電池2は、有底円筒状の正極缶21の内部に、セパレータ25を介して正極合剤23および負極合剤24が充填され、正極缶21の開口部内面側には、負極端子22、集電体26およびガスケット27から構成される封口体がカシメ付けられてなる。なお、正極缶21の底部中央には凸状の正極端子211が形成されている。そして、正極缶21には、絶縁性の付与および意匠性の向上等のために、絶縁リング28を介して外装29が装着されている。
【0017】
図1に示すアルカリ電池2の正極缶21は、本発明に係る表面処理金属板を、深絞り加工法、絞りしごき加工法(DI加工法)、絞りストレッチ加工法(DTR加工法)、または絞り加工後ストレッチ加工としごき加工を併用する加工法などにより成形加工することで得られる。以下、
図3を参照して、本発明に係る表面処理金属板(表面処理金属板1)の構成について説明する。
【0018】
図3は、本実施形態の表面処理金属板1を示す断面図であり、たとえば、
図2に示す正極缶21のIII部を含む正極缶21を構成するために用いられる。
図3において上側が
図1のアルカリ電池2の内面(アルカリ電池2の正極合剤23と接触する面)側に相当する。本実施形態の表面処理金属板1は、
図3に示すように、表面処理金属板1の金属板11を構成する鋼板上に、酸化被膜13を備えるニッケル-コバルト二元合金層12が形成されてなる。
【0019】
本実施形態の表面処理金属板1は、金属板11と、前記金属板11上に形成されたニッケル-コバルト二元合金層12と、を備える表面処理金属板であって、前記ニッケル-コバルト二元合金層は、X線光電子分光分析法によって測定される酸素原子の含有割合が5原子%以上である部分を酸化被膜13とした場合における、厚みが0.5~30nmである酸化被膜を表面に備え、昇温、温度105℃、相対湿度100%RHの水蒸気雰囲気で72時間保持、ならびに、降温を行うプレッシャークッカー試験を行った場合における、プレッシャークッカー試験後の前記酸化被膜の厚みの増加量が28nm以下である。これにより、本実施形態の表面処理金属板1は、長期間保管した場合においても表面の変色を防止することができ、しかも、電池容器として用いた場合に電池特性を向上させることができる表面処理金属板を提供することができる。
【0020】
<金属板11>
金属板11としては、特に限定されないが、加工性に優れるという点より、鋼、ステンレス鋼、Al、Al合金、Ti、Ti合金、Cu、Cu合金、Ni、Ni合金などを用いることができ、これらの中でも、鋼、ステンレス鋼が好ましく、低炭素アルミキルド鋼(炭素量0.01~0.15重量%)、炭素量が0.003重量%以下の極低炭素鋼、または極低炭素鋼にTiやNbなどを添加してなる非時効性極低炭素鋼などが特に好ましい。なお、
図3に示す表面処理金属板では、金属板11として鋼板を用いた例を示すが、金属板11としては鋼板に限定されない。
【0021】
金属板11の厚みは、表面処理金属板の用途に応じて適宜選択すればよく、特に限定されないが、好ましくは0.015~1.5mmである。アルカリ電池やコイン電池などの電池用鋼板(炭素鋼またはステンレス)であれば0.15~0.6mmが好ましく、特にアルカリ電池缶用鋼板としては0.15~0.5mmが好ましい。一方で、軽量化やフレキシブル性を求められる用途においては0.015mm~0.1mmの箔状が好ましい。
【0022】
<ニッケル-コバルト二元合金層12>
本実施形態の表面処理金属板1は、金属板11上に、ニッケル-コバルト二元合金層12を備える。なお、ニッケル-コバルト二元合金層12は、後述するように、その表面に酸化被膜13を備える。本実施形態において、ニッケル-コバルト二元合金層12を形成する方法としては、特に限定されないが、たとえば、次の方法が挙げられる。すなわち、第1の方法として、ニッケル-コバルト合金めっき浴を用いて、金属板11の表面にめっきを行い、その後、必要に応じて熱処理を施すことで、ニッケル-コバルト二元合金層12を得る方法が挙げられる。あるいは、第2の方法として、金属板11の表面にニッケルめっき層およびコバルトめっき層を、この順に形成し、次いで、これに熱処理を施すことで熱拡散させる方法が挙げられる。ただし、本実施形態において、ニッケル-コバルト二元合金層12を形成する方法としては、上記の方法に特に限定されるものではない。
なお、ニッケル-コバルト二元合金層12としては、実質的にニッケルとコバルトとからなる合金層であればよく、たとえば、ニッケルおよびコバルト以外の金属の含有量が、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下に抑制されたものであればよい。また、熱処理によりニッケルおよび/またはコバルトのうち少なくとも一部は酸化されていてもよく、さらには、炭素などの金属以外の不可避成分を、たとえば、1重量%以下程度含有するものであってもよい。
【0023】
上記第1の方法により、ニッケル-コバルト二元合金層12を形成する場合には、ニッケル-コバルト合金めっき浴として、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸コバルトおよびホウ酸を含有してなるワット浴をベースとしためっき浴を用いて、ニッケル-コバルト合金めっきを行うことが好ましい。なお、めっき浴中における、コバルト/ニッケル比は、コバルト/ニッケルのモル比で、0.1~1.0の範囲とすることが好ましく、0.18~0.69の範囲とすることがより好ましく、さらに好ましくは0.2~0.6である。たとえば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸コバルトおよびホウ酸を含有してなるワット浴をベースとしためっき浴を用いる場合には、硫酸ニッケル:10~300g/L、塩化ニッケル:20~60g/L、硫酸コバルト:10~250g/L、ほう酸:10~40g/Lの範囲で、コバルト/ニッケル比が上記範囲となるように、各成分を適宜調整してなるめっき浴を用いることができる。また、ニッケル-コバルト合金めっきは、浴温40~80℃、pH1.5~5.0、電流密度1~40A/dm2の条件とすることが好ましく、ニッケル-コバルト二元合金層の粒径を制御する観点から10~30A/dm2がより好ましい。めっき厚みは、好ましくは0.05~1.0μmであり、変色抑制および耐食性、アルカリ電池缶として用いる際には電池特性向上の効果の観点より、下限は後述のように下地にニッケル層を形成した場合はより好ましくは0.08μm、さらに好ましくは0.1μmであり、下地にニッケル層を形成しない場合は0.3μm以上が好ましい。上限は厚すぎると変色抑制の効果が得られにくくなるため、下地にニッケル層を形成する場合はより好ましくは0.5μm、さらに好ましくは0.3μmである。
【0024】
上述したニッケル-コバルト合金めっき浴を用いる場合には、ニッケル-コバルト合金めっき浴を撹拌しながら、めっきを行うことが好ましい。撹拌を行うことにより、形成されるニッケル-コバルト二元合金層12中のコバルト量を安定化させることができる。すなわち、ニッケルとコバルトの合金めっきは、その標準電極電位を鑑みればコバルトが優先析出する共析であると考えられる。その一方で、コバルト/ニッケル比が上述したような範囲にあるめっき浴を使用した場合には、めっき層を形成する場合、めっき浴中の変化量に対し、ニッケルがコバルトよりも析出しやすくなる傾向があった。ニッケル-コバルト合金めっき浴の撹拌を行わずにめっきを行った場合には、上記傾向がより強く、このような状況においては、形成されるニッケル-コバルト二元合金層12中のニッケルおよびコバルトのそれぞれの含有割合を所望の範囲に制御するのが困難になってしまう場合がある。これに対して、ニッケル-コバルト合金めっき浴を撹拌しながらめっきを行うことにより、ニッケル-コバルト合金めっき浴中のコバルト/ニッケルのモル比に応じて、より容易に、形成されるニッケル-コバルト二元合金層12中のニッケルおよびコバルトの含有割合を制御することが可能となり、ニッケルおよびコバルトの含有割合が所望の値に制御されたニッケル-コバルト二元合金層12を形成することができるようになる。
【0025】
ニッケル-コバルト合金めっき浴を撹拌する方法としては、特に限定されないが、たとえば、めっきを行っている間に、ニッケル-コバルト合金めっき浴にバブリング噴流を行う方法などが挙げられる。
【0026】
また、めっきを行っている間におけるニッケル-コバルト合金めっき浴中の金属イオン濃度(ニッケルイオン濃度およびコバルトイオン濃度)の変動を抑制するという観点より、アノード(陽極)として、ニッケル電極と、コバルト電極とを用い、これらをニッケルイオンおよびコバルトイオンの供給源とすることが好ましい。この際には、アノードとしては、ニッケルペレットおよびコバルトペレットを混合してアノードバスケットに充填したものを用いる方法や、ニッケルおよびコバルトの合金ペレットを用いる方法を用いてもよいが、より適切にニッケル-コバルト合金めっき浴中の金属イオン濃度を抑制することができるという観点より、ニッケルペレットおよびコバルトペレットを混合してアノードバスケットに充填したものを用いる方法が好ましい。
ニッケル-コバルト合金めっきにおいては、形成されるニッケル-コバルト合金層中のコバルト/ニッケル比がめっき浴中のコバルト/ニッケル比の変化に敏感であり、特に金属板11が鋼帯の場合、連続めっきで形成されるため顕著である。形成されるニッケル-コバルト二元合金層におけるコバルト/ニッケル比が変色の抑制に大きく影響するため、この制御が重要となるが、本実施形態においては、上述のような撹拌やアノードとしてニッケル電極とコバルト電極を用いることにより、含有割合が所望の値に制御されたニッケル-コバルト二元合金層12を安定的に形成することができるようになる。
【0027】
また、ニッケル-コバルト合金めっきを行う際の電流密度は、上記範囲とすることが好ましい。めっき時の電流密度は、高すぎると結晶粒が細かくなりすぎる恐れがあるが、めっき焼け抑制などを考慮した範囲であれば表面処理金属板1の変色を抑制する作用には大きな影響を与えないと考えられる。なお、電流密度が小さすぎると粒径が大きくなる。例えば電池缶用途などにおいて、成形の際に金型への焼き付きが生じる恐れがある。
【0028】
また、第1の方法においては、ニッケル-コバルト二元合金層12を形成する前に、下地ニッケルめっきを施して、下地ニッケルめっき層を形成することが好ましい。下地ニッケルめっき層は、通常、用いられるワット浴を用いて形成することができ、また、その厚みは、好ましくは0.02~3.0μm、上限はより好ましくは2.0μm以下、さらに好ましくは1.5μm以下であり、下限はより好ましくは0.5μm以上である。第1の方法において、下地ニッケルめっき層を形成することにより、
図4に示す表面処理金属板1aのように、金属板11上に、下から順にニッケル層14、ニッケル-コバルト二元合金層12を有するもの(Ni-Co/Ni/Fe)とすることができる。
【0029】
本実施形態においては、下地ニッケルめっき層(ニッケル層14)を形成することにより、得られる表面処理金属板1を長期間保管した場合においても、保管中に酸化被膜13が過度にさらに酸化してしまうことをより有効に防止することができ、これにより、表面処理金属板1の表面の変色をより有効に防止することができ、しかも、表面処理金属板1を電池容器として用いた場合に電池特性を向上させることができるようになる。なお、下地ニッケルめっき層(ニッケル層14)には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、すなわち、表面処理金属板1の表面の変色を有効に防止することができる範囲であれば、コバルトが含まれていてもよい。
【0030】
また、本実施形態においては、ニッケル-コバルト合金めっき浴を用いて金属板11の表面にめっきを行った後に、熱処理を施すことが好ましい。この場合における、熱処理は、連続焼鈍法、または箱型焼鈍法のいずれで行なってもよい。
【0031】
熱処理の条件は、後述する酸化被膜13をより良好に形成することができるという観点より、以下の条件とすることが好ましい。まず、連続焼鈍により熱処理を行う場合には、熱処理温度は、好ましくは450~900℃、より好ましくは500~800℃、さらに好ましくは520~750℃であり、熱処理時間は、好ましくは3~120秒、より好ましくは10~90秒、さらに好ましくは20~60秒である。また、箱型焼鈍により熱処理を行う場合には、熱処理温度は、好ましくは400~700℃、より好ましくは450~650℃、さらに好ましくは450~600℃であり、熱処理時間は、好ましくは30分~12時間、より好ましくは30分~10時間、さらに好ましくは60分~8時間であり、熱処理雰囲気は、非酸化性雰囲気または還元性保護ガス雰囲気とすることが好ましい。なお、熱処理雰囲気を、還元性保護ガス雰囲気とする場合には、保護ガスとして、熱伝達のよい水素富化焼鈍と呼ばれるアンモニアクラック法により生成される75%水素-25%窒素からなる保護ガスを用いることが好ましい。
【0032】
上述した熱拡散させる処理を行うことにより、ニッケル-コバルト二元合金層12の表面に、後述する酸化被膜13を良好に形成することができる。また、熱拡散させる処理を行うことにより、金属板11が鋼板である場合、金属板11と、ニッケル-コバルト二元合金層12との間に、鉄-ニッケル拡散層および/または鉄-ニッケル-コバルト拡散層を形成することもでき、そのため、本実施形態の表面処理金属板を、金属板11上に、下から順に、鉄-ニッケル拡散層および/または鉄-ニッケル-コバルト拡散層、ニッケル-コバルト二元合金層12を有するような構成(Ni-Co/Fe-Niおよび/またはNi-Co-Fe/Fe)とすることができる。あるいは、下地ニッケルめっき層を形成する場合には、下地ニッケルめっき層の厚みまたは熱処理条件によって、
図5に示す表面処理金属板1bのように、金属板11上に、下から順に、鉄-ニッケル拡散層15、ニッケル-コバルト二元合金層12を有するような構成(Ni-Co/Fe-Ni/Fe)、あるいは、
図6に示す表面処理金属板1cのように、金属板11上に、下から順に、鉄-ニッケル拡散層15、ニッケル層14、ニッケル-コバルト二元合金層12を有するような構成(Ni-Co/Ni/Fe-Ni/Fe)とすることができる。
【0033】
一方、上記第2の方法により、ニッケル-コバルト二元合金層12を形成する場合には、まず、ニッケルめっき浴を用いて、金属板11の表面にニッケルめっき層を形成する。ニッケルめっき浴としては、ニッケルめっきで通常用いられているめっき浴、すなわち、ワット浴や、スルファミン酸浴、ほうフッ化物浴、塩化物浴などを用いることができる。たとえば、ニッケルめっき層は、ワット浴として、硫酸ニッケル200~350g/L、塩化ニッケル20~60g/L、ほう酸10~50g/Lの浴組成のものを用い、pH1.5~5.0、浴温40~80℃にて、電流密度1~40A/dm2の条件で形成することができる。ニッケルめっき層の厚みは、好ましくは0.2~3.0μm、より好ましくは0.5~2.0μmである。
【0034】
次いで、ニッケルめっき層を形成した金属板11上に、コバルトめっきを施すことで、ニッケルめっき層上に、コバルトめっき層を形成する。コバルトめっき層は、たとえば、硫酸コバルト:200~300g/L、塩化コバルト:50~150g/L、塩化ナトリウム:10~50g/Lの浴組成のコバルトめっき浴を用いて、pH:2~5、浴温:40~80℃、電流密度:1~40A/dm2の条件で形成することができる。コバルトめっき層の厚みは、好ましくは0.02~0.5μm、より好ましくは0.05~0.15μmである。第2の方法においては、コバルトめっき層が厚すぎると後の熱処理において表層のコバルト/ニッケル比が下がりにくくなる恐れがあり、結果、酸化被膜が増大しやすくなってしまうことが懸念される。また、粒径が大きくなることによる成形の際の金型への焼き付きなどの問題が生じる恐れがある。
【0035】
次いで、ニッケルめっき層およびコバルトめっき層を形成した金属板11について、熱処理を施すことで、ニッケルめっき層およびコバルトめっき層を熱拡散させて、ニッケル-コバルト二元合金層12を形成する処理を行なう。この場合における、熱処理は、上述した第1の方法と同様の条件で行うことができる。
【0036】
第2の方法においては、熱拡散させる処理を行うことにより、ニッケル-コバルト二元合金層12を形成することができるとともに、ニッケル-コバルト二元合金層12の表面に、良好に酸化被膜13を形成することができる。また、熱拡散させる処理を行うことにより、金属板11と、ニッケル層との間に、鉄-ニッケル拡散層を形成することもでき、そのため、
図6に示す表面処理金属板1cのように、金属板11上に、下から順に、鉄-ニッケル拡散層15、ニッケル層14、ニッケル-コバルト二元合金層12を有するような構成(Ni-Co/Ni/Fe-Ni/Fe)とすることができる。あるいは、第2の方法において、ニッケルめっき層の厚みまたは熱処理条件によっては、ニッケル層を完全に熱拡散させることができ、この場合には、
図5に示す表面処理金属板1bのように、金属板11上に、下から順に、鉄-ニッケル拡散層15、ニッケル-コバルト二元合金層12(Ni-Co/Fe-Ni/Fe)を有するような構成とすることができる。
【0037】
<酸化被膜13>
本実施形態においては、上述したニッケル-コバルト二元合金層12が、表面に酸化被膜13を備える。これにより、本実施形態の表面処理金属板1は、
図3に示すように、金属板11上に、酸化被膜13を備えるニッケル-コバルト二元合金層12を有する構造となる。
【0038】
酸化被膜13は、ニッケル-コバルト二元合金層12の一部が酸化することによって形成され、ニッケル酸化物およびコバルト酸化物を含む層である。酸化被膜13は、ニッケル-コバルト二元合金層12の表面をX線光電子分光分析法によって深さ方向に測定した際に、酸素原子の含有割合が所定値以上である部分を示す。具体的には、後述する実施例の表面処理金属板1をX線光電子分光分析法により測定して得られた
図7のグラフを参照して説明する。
図7のグラフは、X線光電子分光分析法による測定結果に基づき、酸素原子のO1sのピークの強度に基づく酸素原子の含有割合、コバルト原子のCo2p
3のピークの強度に基づくコバルト原子の含有割合、およびニッケル原子のNi2p
3のピークの強度に基づくニッケル原子の含有割合を、エッチング深さ(SiO
2換算)ごとに、それぞれ求めた結果を示すグラフである。本実施形態においては、このような酸素原子、コバルト原子、およびニッケル原子の合計量に対して、酸素原子の含有割合が5原子%以上である部分(
図7に示す例では、エッチング深さが0~18nmである部分)を、酸化被膜13であるとする。そのため、
図7に示す例では、酸化被膜13の厚みは、酸素原子の含有割合が5原子%以上である部分の厚み、すなわち18nmとなる。
【0039】
本実施形態によれば、表面処理金属板1を、酸化被膜13の厚みが0.5~30nmであるものとし、かつ、表面処理金属板1に対して、昇温、温度105℃および相対湿度100%RHの水蒸気雰囲気で72時間保持、降温を行うプレッシャークッカー試験を実施した場合における酸化被膜13の厚みの増加量が28nm以下となるように制御することにより、長期間保管した場合においても表面処理金属板1の表面の変色を防止することができる。特に、金属板11として帯状のもの(たとえば、鋼帯)を使用し、表面処理金属板1を連続生産する場合には、連続生産時において、生産された表面処理金属板1はある程度の温度でコイル状に巻き取られる。この際に、表面処理金属板1の板と板との間に湿気を巻き込んだまま巻き込む形になり、この湿気が原因となり、変色や錆が発生しやすくなる。また、季節による影響も大きく、夏場や結露が発生する冬場も同様にコイルに水分が付着する状況が発生すると同様の課題が生じる。また、表面処理金属板1を船舶により輸送する場合には、船内は高温(たとえば、50~70℃)かつ高湿の状態となる。この状況で長期間(たとえば、1週間以上)輸送されると、表面処理金属板1が変色や錆が進行するという課題があった。これに対して、本実施形態の表面処理金属板1によれば、このような状況における変色を防止することが可能となる。
しかも、本実施形態の表面処理金属板1によれば、酸化被膜13の厚み、およびプレッシャークッカー試験を実施した場合における酸化被膜13の厚みの増加量を上記範囲に制御することにより、表面処理金属板1を電池容器として用いた場合に電池特性を向上させることができるようになる。
【0040】
酸化被膜13の厚みは、0.5~30nmであればよいが、好ましくは0.5~25nm、より好ましくは0.5~20nmである。酸化被膜13の厚みを上記範囲とすることにより、得られる表面処理金属板1を長期間保管した場合においても、保管中に酸化被膜13が過度にさらに酸化してしまうことを防止することができ、これにより、表面処理金属板1の表面の変色を防止することができ、しかも、表面処理金属板1を電池容器として用いた場合に電池特性を向上させることができるようになる。酸化被膜13の厚みが厚すぎると、得られる表面処理金属板1は、長期間保管した場合に、酸化被膜13中のコバルト酸化物等の影響により、表面が変色してしまうとともに、表面の接触抵抗値が増大して電池容器として用いた場合の電池特性が低下してしまう。なお、酸化被膜13の表面が変色してしまうと(すなわち、酸化被膜13中のコバルト等が過度に酸化して変色が進行してしまうと)、表面処理金属板1を電池容器として用いた場合に、変色した部分と、変色していない部分とにおいて、電池特性に差が生じてしまう場合がある。また、酸化被膜13の表面が変色してしまうと、その変色が、金属板11の腐食に起因するものなのか区別が困難となり、金属板11の腐食という電池性能に影響を与える現象の発見が遅れてしまうおそれがある。一方、酸化被膜13の厚みが薄すぎると、得られる表面処理金属板1を長期間保管した場合に、保管中に酸化被膜13が過度にさらに酸化してしまい、表面処理金属板1の表面が変色してしまうとともに、表面処理金属板1を電池容器として用いた場合に電池特性が低下してしまう。
【0041】
また、酸化被膜13は、昇温、温度105℃および相対湿度100%RHの水蒸気雰囲気で72時間保持、ならびに、降温を行うプレッシャークッカー試験を実施した場合における酸化被膜13の厚みの増加量が、28nm以下であればよいが、好ましくは25nm以下、より好ましくは20nm以下である。プレッシャークッカー試験後の酸化被膜13の厚みの増加量を上記範囲に制御することにより、得られる表面処理金属板1を長期間保管した場合においても、保管中に酸化被膜13が過度にさらに酸化してしまうことを防止することができ、これにより、表面処理金属板1の表面の変色を防止することができ、しかも、表面処理金属板1を電池容器として用いた場合に電池特性を向上させることができるようになる。なお、プレッシャークッカー試験は、昇温、温度105℃および相対湿度100%RHの水蒸気雰囲気で72時間保持、ならびに、降温を行うものであればよいが、「昇温、温度105℃および相対湿度100%RHの水蒸気雰囲気で24時間保持、ならびに、降温」を1サイクルとし、これを3サイクル行うという方法を採用してもよく、この場合においても、酸化被膜13の厚みの増加量が上記範囲であればよい。また、105℃保持後の降温工程においては、温度を50℃まで低下させればよい。また、昇温工程、降温工程における、目標温度まで到達させるための時間は、試験結果に実質的に影響を及ぼさない範囲で適宜設定すればよく、特に限定されないが、たとえば、昇温工程においては、30~60分の範囲で、また、降温工程は、45~140分の範囲で設定すればよく、たとえば、昇温工程を45分、降温工程を120分とすることができる。
【0042】
本実施形態においては、表面処理金属板1の酸化被膜13の厚み、およびプレッシャークッカー試験後の酸化被膜13の厚みの増加量を、それぞれ上記範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、上述したニッケル-コバルト合金めっきを行った後の熱処理の条件を制御する方法、あるいは、後述するように、表面処理金属板1の表面における結晶粒径が0.95μm以上である結晶粒の含有割合(GS1)を制御する方法、表面処理金属板1の表面における結晶粒径が0.05μm以上、0.25μm未満である結晶粒の含有割合(GS2)を制御する方法、表面処理金属板1の表面から所定深さにおけるニッケル原子の原子数に対するコバルト原子の原子数の比を制御する方法などが挙げられる。
【0043】
なお、本実施形態の表面処理金属板1においては、昇温、温度105℃および相対湿度100%RHの水蒸気雰囲気で72時間保持、ならびに、降温を行うプレッシャークッカー試験を実施した後における、酸化被膜13の厚み(酸化被膜13の総厚)は、好ましくは35nm以下、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは25nm以下である。上記の特定の条件でプレッシャークッカー試験を行った後の酸化被膜の厚みを上記範囲に制御することにより、得られる表面処理金属板1を長期間保管した場合においても、保管中に酸化被膜13が過度にさらに酸化してしまうことをより有効に防止することができ、これにより、表面処理金属板1の表面の変色をより有効に防止することができ、しかも、表面処理金属板1を電池容器として用いた場合に電池特性を向上させることができるようになる。なお、プレッシャークッカー試験は、昇温、温度105℃および相対湿度100%RHの水蒸気雰囲気で72時間保持、ならびに、降温を行うものであればよいが、「昇温、温度105℃および相対湿度100%RHの水蒸気雰囲気で24時間保持、ならびに、降温」を1サイクルとし、これを3サイクル行うという方法を採用してもよく、この場合においても、酸化被膜13の厚みが上記範囲であればよい。
【0044】
また、本実施形態の表面処理金属板1においては、酸化被膜13を備えるニッケル-コバルト二元合金層12が形成された面の最表面において、電子線後方散乱回折法により結晶粒径を測定した際における、結晶粒径が0.05μm以上である結晶粒中における、結晶粒径が0.95μm以上である結晶粒の個数の割合(GS1)が、好ましくは19%以上であり、より好ましくは21%以上、さらに好ましくは23%以上である。また、結晶粒径が0.95μm以上である結晶粒の個数の割合(GS1)の上限は、特に限定されないが、好ましくは65%以下である。電子線後方散乱回折法によれば、酸化被膜13を備えるニッケル-コバルト二元合金層12が形成された面の最表面における、結晶配向を測定し、この測定結果に基づき、結晶配向が同じと判断できる領域を、1つの結晶粒と判断し、その粒子径を算出することで、各結晶粒の結晶粒径の測定を行うものである。そして、本実施形態においては、各種特性に実質的に影響を及ぼすと考えられる結晶粒として、結晶粒径が0.05μm以上である結晶粒を検出し、結晶粒径が0.05μm以上である結晶粒中における、結晶粒径が0.95μm以上である結晶粒の個数の割合(GS1)を上記範囲とするものである。結晶粒径が0.95μm以上である結晶粒の個数の割合(GS1)を上記範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、たとえば、上述したニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、ニッケル-コバルト合金めっき浴を撹拌しながらめっきを行う方法や、アノードとして、ニッケルペレットおよびコバルトペレットを混合してアノードバスケットに充填したものを用いる方法などが挙げられる。特に、ニッケル-コバルト合金めっき浴を撹拌しながらめっきを行う方法や、アノードとして、ニッケルペレットおよびコバルトペレットを混合してアノードバスケットに充填したものを用いる方法を用いることにより、結晶粒径が0.95μm以上と結晶粒径が比較的大きな結晶粒を適切に成長させることができ、これにより、より有効に表面処理金属板1の表面の変色を防止することができるようになる。
【0045】
本実施形態においては、表面処理金属板1について、結晶粒径が0.95μm以上である結晶粒の含有割合(GS1)を上記範囲に制御することにより、得られる表面処理金属板1を長期間保管した場合においても、保管中に酸化被膜13が過度にさらに酸化してしまうことをより有効に防止することができ、これにより、表面処理金属板1の表面の変色をより有効に防止することができ、しかも、表面処理金属板1を電池容器として用いた場合に電池特性をより向上させることができるようになる。
【0046】
あるいは、、本実施形態の表面処理金属板1においては、酸化被膜13を備えるニッケル-コバルト二元合金層12が形成された面の最表面において、電子線後方散乱回折法により結晶粒径を測定した際における、結晶粒径が0.05μm以上である結晶粒中における、結晶粒径が0.95μm以上である結晶粒の個数の割合(GS1)が、好ましくは19%未満であり、かつ、結晶粒径が0.05μm以上、1.05μm未満である結晶粒中における、結晶粒径が0.05μm以上、0.25μm未満である結晶粒の個数の割合(GS2)が、好ましくは56%以下であり、より好ましくは53%以下、さらに好ましくは48%以下である。また、結晶粒径が0.05μm以上、0.25μm未満である結晶粒の個数の割合(GS2)の下限は、特に限定されないが、好ましくは、5%以上である。この場合においても、上記と同様に、各種特性に実質的に影響を及ぼすと考えられる結晶粒として、結晶粒径が0.05μm以上である結晶粒を検出するものである。そして、比較的大きな結晶粒径を有する0.95μm以上である結晶粒の個数の割合(GS1)が、19%に満たない場合でも、比較的大きな結晶粒径を有する0.95μm以上である結晶粒を除いた結晶粒のうち、微小な結晶粒である結晶粒径が0.05μm以上、0.25μm未満である結晶粒の個数の割合(GS2)を上記範囲とすることによっても、比較的大きな結晶粒径を有する0.95μm以上である結晶粒の個数の割合(GS1)を19%以上とする場合と同質の効果が得られるものである。結晶粒径が0.05μm以上、0.25μm未満である結晶粒の個数の割合(GS2)を上記範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、たとえば、上述したニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、ニッケル-コバルト合金めっき浴を撹拌しながらめっきを行う方法や、アノードとして、ニッケルペレットおよびコバルトペレットを混合してアノードバスケットに充填したものを用いる方法などが挙げられる。特に、ニッケル-コバルト合金めっき浴を撹拌しながらめっきを行う方法や、アノードとして、ニッケルペレットおよびコバルトペレットを混合してアノードバスケットに充填したものを用いる方法を用いることにより、結晶粒を適切に成長させることができ、これにより、熱処理を施すことで微小な結晶粒である結晶粒径が0.05μm以上、0.25μm未満である結晶粒の個数の割合(GS2)を低減でき、結果として、より有効に表面処理金属板1の表面の変色を防止することができるようになる。
【0047】
本実施形態においては、表面処理金属板1について、結晶粒径が0.95μm以上である結晶粒の含有割合(GS1)が19%未満である場合でも、結晶粒径が0.05μm以上、0.25μm未満である結晶粒の個数の割合(GS2)を上記範囲に制御することにより、得られる表面処理金属板1を長期間保管した場合においても、保管中に酸化被膜13が過度にさらに酸化してしまうことをより有効に防止することができ、これにより、表面処理金属板1の表面の変色をより有効に防止することができ、しかも、表面処理金属板1を電池容器として用いた場合に電池特性をより向上させることができるようになる。
【0048】
さらに、本実施形態の表面処理金属板1においては、酸化被膜13を備えるニッケル-コバルト二元合金層12が形成された面において、X線光電子分光分析法によって測定した際における、酸素原子、コバルト原子、およびニッケル原子の合計量に対する酸素原子の含有割合が5原子%となるエッチング深さでのニッケル原子の原子数に対するコバルト原子の原子数の比(Co/Ni(酸素5原子%))が、より安定的に変色を抑制可能という観点から、上限は好ましくは1.9以下、より好ましくは1.6以下、さらに好ましくは1.3以下、特に好ましくは1.0以下である。Co/Ni(酸素5原子%)が高すぎると酸化膜の厚みの増加量が大きくなりやすいために接触抵抗が増大しやすくなってしまうが、Co/Ni(酸素5原子%)が一定範囲においてはある程度高い方が接触抵抗が低くなるため、下限は好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.4以上である。
【0049】
また、本実施形態の表面処理金属板1においては、酸化被膜13を備えるニッケル-コバルト二元合金層12が形成された面において、X線光電子分光分析法によって測定した際における、酸素原子、コバルト原子、およびニッケル原子の合計量に対して酸素原子の含有割合が5原子%となるエッチング深さから、さらにエッチング深さ40nm(SiO2換算値)とした深さにおけるニッケル原子の原子数に対するコバルト原子の原子数の比(Co/Ni(酸素5原子%+40))が、上限は好ましくは4.0以下、より好ましくは2.7以下、さらに好ましくは2.3以下である。下限は好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.4以上である。
【0050】
本実施形態においては、Co/Ni(酸素5原子%)、および/または、Co/Ni(酸素5原子%+40)を上記範囲に制御することにより、得られる表面処理金属板1を長期間保管した場合においても、保管中に酸化被膜13が過度にさらに酸化してしまうことをより有効に防止することができ、これにより、表面処理金属板1の表面の変色をより有効に防止することができ、しかも、表面処理金属板1を電池容器として用いた場合に電池特性をより向上させることができるようになる。
【0051】
特に、本実施形態においては、Co/Ni(酸素5原子%)を特定の範囲に制御し(すなわち、表面処理金属板1における、酸化被膜13の境界部分のCo/Niを特定の範囲に制御し)、Co/Ni(酸素5原子%+40)を特定の範囲に制御する(すなわち、表面処理金属板1における、酸化被膜13が形成された部分よりも深い位置におけるCo/Niを特定の範囲に制御する)ことにより、表面処理金属板1の表面の変色をより有効に防止することができるようになるものである。
【0052】
また、本実施形態の表面処理金属板1においては、表面処理金属板1の表面の変色をより有効に防止することができるという観点より、酸化被膜13を備えるニッケル-コバルト二元合金層12が形成された面において、X線光電子分光分析法によって測定した際における、エッチング深さ8.9nm(SiO2換算値)におけるニッケル原子の原子数に対するコバルト原子の原子数の比(Co/Ni(8.9))が、好ましくは0.4~1.4である。
【0053】
さらに、本実施形態の表面処理金属板1においては、表面処理金属板1の表面の変色をより有効に防止することができるという観点より、酸化被膜13を備えるニッケル-コバルト二元合金層12が形成された面において、X線光電子分光分析法によって測定した際における、エッチング深さ40nm(SiO2換算値)におけるニッケル原子の原子数に対するコバルト原子の原子数の比(Co/Ni(40))が、好ましくは0.5~3.2である。
【0054】
本実施形態の表面処理金属板1においては、金属板11上に形成されるすべての層に含まれる合計のコバルト量(すなわち、金属板11上における、ニッケル-コバルト二元合金層12、酸化被膜13、および必要に応じて形成される鉄-ニッケル-コバルト拡散層に含まれる合計のコバルト量)が、より安定的に変色を抑制可能という観点から、上限は好ましくは6.0g/m2以下、より好ましくは3.5g/m2以下、さらに好ましくは2.6g/m2以下、特に好ましくは1.8g/m2以下である。またより接触抵抗の増加を抑制可能という観点から下限は好ましくは0.15g/m2以上、より好ましくは0.3g/m2以上、さらに好ましくは0.35g/m2以上である。コバルト量を上記範囲に制御することにより、得られる表面処理金属板1を長期間保管した場合においても、保管中に酸化被膜13が過度にさらに酸化してしまうことをより有効に防止することができ、これにより、表面処理金属板1の表面の変色をより有効に防止することができ、しかも、表面処理金属板1を電池容器として用いた場合に電池特性をより向上させることができるようになる。
【0055】
本実施形態の表面処理金属板1においては、金属板11上に形成されるすべての層に含まれる合計のニッケル量(すなわち、金属板11上における、ニッケル-コバルト二元合金層12、酸化被膜13、ならびに、必要に応じて形成されるニッケル層14、鉄-ニッケル拡散層15、および鉄-ニッケル-コバルト拡散層に含まれる合計のニッケル量)が、電気抵抗に優れ、かつ耐食性に優れる観点から、上限は好ましくは28.5g/m2以下、より好ましくは19.5g/m2以下、さらに好ましくは15.0g/m2以下である。基材である鉄に対する耐食性を保持する観点から、下限は好ましくは2.9g/m2以上、より好ましくは4.7g/m2以上である。ニッケル量を上記範囲に制御することにより、得られる表面処理金属板1を長期間保管した場合においても、保管中に酸化被膜13が過度にさらに酸化してしまうことをより有効に防止することができ、これにより、表面処理金属板1の表面の変色をより有効に防止することができ、しかも、表面処理金属板1を電池容器として用いた場合に電池特性をより向上させることができるようになる。
【0056】
<電池容器>
本実施形態の表面処理金属板は、深絞り加工法、絞りしごき加工法(DI加工法)、絞りストレッチ加工法(DTR加工法)、または絞り加工後ストレッチ加工としごき加工を併用する加工法などにより、酸化被膜13を備えるニッケル-コバルト二元合金層12が容器内面側となるように、
図1,2に示すアルカリ電池2の正極缶21や、その他の電池の電池容器などに成形加工されて用いられる。
【0057】
本実施形態の電池容器は、上述した本実施形態の表面処理金属板を用いてなるものであるため、電池の電池特性を向上させることができる。すなわち、従来の表面処理金属板は、表面にニッケル-コバルト合金層を有していると、長期間保管した場合に、表面が酸化して過度にコバルト酸化物が形成されてしまうことにより、表面が変色してしまうとともに、表面の接触抵抗値が増大して、電池容器として用いた場合の電池特性が低下してしまう場合がある。さらに、コバルト酸化物に起因する変色が進行してしまうと、表面処理金属板を電池容器として用いた場合に、変色した部分と、変色していない部分とにおいて、電池特性に差が生じてしまう場合がある。また、コバルト酸化物に起因する変色が進行してしまうと、その変色が、金属板の腐食に起因するものなのか区別が困難となり、金属板の腐食という電池性能に影響を与える現象の発見が遅れてしまうおそれがある。
【0058】
これに対して、本実施形態の電池容器は、上述した本実施形態の表面処理金属板を用いてなるものであるため、表面の変色がより有効に防止され、電池の電池特性を向上させることができるものである。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
なお、各特性の定義および評価方法は、以下のとおりである。
【0060】
<Ni量およびCo量>
プレッシャークッカー試験の実施前の表面処理金属板の表面を、蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX100e)(サンプルサイズ:φ49mm、測定径:φ30mm、X線種:Ni-Kα線、Co-Kα線)を用いて測定することにより、酸化被膜を備えるニッケル-コバルト二元合金層に含まれるNi量およびCo量を測定した。
【0061】
<結晶粒径が0.95μm以上である結晶粒の個数の割合(GS1)、結晶粒径が0.05μm以上、0.25μm未満である結晶粒の個数の割合(GS2)>
プレッシャークッカー試験の実施前の表面処理金属板について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて表面処理金属板の表面に電子線を照射した際に、反射された電子線をスクリーンに投影して得られる電子後方散乱パターン(EBSD(Electron Backscatter Diffraction))を解析することにより、結晶粒径が0.05μm以上である結晶粒を検出した。なお、測定に際しては、測定範囲10μm×10μmとし、結晶方位差(1つの結晶粒と判断する結晶方位範囲)を15°以下とし、解析ソフトとして、「TSL OIS Data Collction 6(TSLソリューションズ社製)」を使用した。具体的には、解析結果より、検出した結晶粒径が0.05μm以上である結晶粒について、「結晶粒径が0.05μm以上、0.15μm未満である結晶粒からなる第1グループ」、「結晶粒径が0.15μm以上、0.25μm未満である結晶粒からなる第2のグループ」、「結晶粒径が0.25μm以上、0.35μm未満である結晶粒からなる第3のグループ」と、結晶粒径が小さな方から、0.lμm刻みでグループ化し、このようなグループ化を、「結晶粒径が4.95μm以上、5.05μm未満である結晶粒からなる第50のグループ」まで行った。そして、各グループに属する結晶粒の数に基づき、結晶粒径が0.05μm以上である結晶粒中における、結晶粒径が0.95μm以上である結晶粒の個数の割合(GS1)を求めた。より具体的には、結晶粒径が0.95μm以上である結晶粒の個数の割合(GS1)は、全グループの合計の個数に対する、第10グループ(0.95μm以上、1.05μm未満)と、これよりも大きな粒径を有するグループである第11~第50グループとの合計の個数の割合から求めた。
さらに、本実施例では、結晶粒径が0.95μm以上である結晶粒の個数の割合(GS1)が19%未満であったものについて、各グループに属する結晶粒の数に基づき、結晶粒径が0.05μm以上、1.05μm未満である結晶粒中における、結晶粒径が0.05μm以上、0.25μm未満である結晶粒の個数の割合(GS2)も求めた。より具体的には、結晶粒径が0.05μm以上、0.25μm未満である結晶粒の個数の割合(GS2)は、第1~第9グループ(第9グループは、0.85μm以上、0.95μm未満)の合計の個数に対する、第1グループと第2グループとの合計の個数の割合から求めた。
【0062】
<酸化被膜の厚み>
プレッシャークッカー試験の実施前後の表面処理金属板の表面を、それぞれ、X線光電子分光装置を用いて測定することにより、酸素原子のO1sのピークの強度に基づく酸素原子の含有割合、コバルト原子のCo2p3のピークの強度に基づくコバルト原子の含有割合、およびニッケル原子のNi2p3のピークの強度に基づくニッケル原子の含有割合を、エッチング深さ(SiO2換算)ごとに、それぞれ求めた。そして、求めた結果に基づいて、表面処理金属板の表面から、酸素原子、コバルト原子、およびニッケル原子の合計量に対して、酸素原子の含有割合が5原子%となる部分までの深さを、酸化被膜の厚みとして検出した。また、プレッシャークッカー試験の実施前後の表面処理金属板の酸化被膜の厚みの差分を、酸化被膜の増加量として算出した。
【0063】
<Co/Ni(8.9)、Co/Ni(酸素5原子%)、Co/Ni(40)およびCo/Ni(酸素5原子%+40)>
プレッシャークッカー試験の実施前後の表面処理金属板の表面を、それぞれ、X線光電子分光装置を用いて測定することにより、コバルト原子のCo2p3のピークの強度に基づくコバルト原子の含有割合、およびニッケル原子のNi2p3のピークの強度に基づくニッケル原子の含有割合を、エッチング深さ(SiO2換算)ごとに、それぞれ求めた。そして、求めた結果に基づいて、エッチング深さが8.9nmの位置におけるニッケル原子の原子数に対するコバルト原子の原子数の比(Co/Ni(8.9))、酸素原子、コバルト原子、およびニッケル原子の合計量に対して酸素原子の含有割合が5原子%となるエッチング深さでのニッケル原子の原子数に対するコバルト原子の原子数の比(Co/Ni(酸素5原子%))、エッチング深さが40nmの位置におけるニッケル原子の原子数に対するコバルト原子の原子数の比(Co/Ni(40))、および酸素原子の含有割合が5原子%となるエッチング深さから、さらに40nmエッチングした深さにおけるニッケル原子の原子数に対するコバルト原子の原子数の比(Co/Ni(酸素5原子%+40))をそれぞれ算出した。
【0064】
<色調>
プレッシャークッカー試験の実施前後の表面処理金属板の表面を、それぞれ、分光測色計(コニカミノルタジャパン社製、CM-3500d)を用いて、サンプルサイズ:φ49mm、測定径:φ30mm、反射/透過:反射、正反射光処理:SCE、UV条件:100%Fullの条件にて測定することにより、L*a*b*色空間のL*値を測定し、プレッシャークッカー試験の実施前後の表面処理金属板のL*値の差分を算出し、以下の基準で評価した。
1:L*値の差分が、-2.0超、0以下であった
2:L*値の差分が、-2.3超、-2.0以下であった
3:L*値の差分が、-8.0超、-2.3以下であった
4:L*値の差分が、-20.0超、-8.0以下であった
5:L*値の差分が、-20.0以下であった
【0065】
<接触抵抗値>
プレッシャークッカー試験の実施前後の表面処理金属板について、それぞれ、電気接点シミュレータ(山崎精密研究所社製、CRS-1)を用いて、接触荷重:100gfの条件で測定することにより、表面処理金属板の接触抵抗値を得た。また、プレッシャークッカー試験の実施前後の表面処理金属板の接触抵抗値の差分を算出し、以下の基準で評価した。
1:接触抵抗値の差分が、6mΩ以下
2:接触抵抗値の差分が、6mΩ超、9mΩ以下
3:接触抵抗値の差分が、9mΩ超
【0066】
《実施例1》
金属板として、下記に示す化学組成を有する低炭素アルミキルド鋼のTM圧延板(厚さ0.25mm)を焼鈍して得られた鋼板を準備した。
C:0.04重量%、Mn:0.21重量%、Si:0.02重量%、P:0.012重量%、S:0.009重量%、Al:0.061重量%、N:0.0036重量%、残部:Feおよび不可避的不純物
【0067】
そして、準備した鋼板について、アルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記条件にてニッケルめっきを行い、次いで、下記条件にてニッケル-コバルト合金めっきを行い、ニッケルめっき層の上に、厚さ0.2μmのニッケル-コバルト二元合金層を形成した。なお、ニッケル-コバルト合金めっきを行う際には、下記めっき浴をバブリングすることで撹拌しながら、めっきを行った。また、ニッケル-コバルト合金めっきを行う際には、アノードとして、ニッケルペレットおよびコバルトペレットを混合してアノードバスケットに充填したものを使用した。
<ニッケルめっき>
浴組成:硫酸ニッケル250g/L、塩化ニッケル45g/L、ほう酸30g/L
pH:3.5~5.0
浴温:60℃
電流密度:10A/dm2
<ニッケル-コバルト合金めっき>
めっき浴の浴組成:硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸コバルト、塩化コバルト、およびホウ酸を、コバルト/ニッケルのモル比0.30で含有
pH:3.5~5.0
浴温:60℃
電流密度:20A/dm2
【0068】
次いで、ニッケル-コバルト二元合金層を形成した鋼板に対して、700℃、40秒間の条件にて、連続焼鈍(熱処理)を行うことにより、ニッケル-コバルト二元合金層上に酸化被膜を形成し、表面処理金属板を得た。そして、このようにして得られた表面処理金属板について、上記方法に従い、Ni付着量およびCo付着量の測定、結晶粒径1.0μm以上の結晶粒の割合の測定、酸化被膜の厚みの測定、Co/Ni
(8.9)、Co/Ni
(酸素5原子%)、Co/Ni
(40)およびCo/Ni
(酸素5原子%+40)の測定、色調の測定、接触抵抗値の測定を行った。結果を表1に示す。また、実施例1における、酸化被膜の厚みを求めるためのX線光電子分光装置による測定結果を、
図8(A)、
図8(B)に示す。なお、
図8(B)は、
図8(A)の一部を拡大したグラフである。さらに、実施例1における、結晶粒径の測定のためのSEMによる測定結果を
図12(A)に、EBSDによる解析結果を
図12(B)にそれぞれ示す。
【0069】
次いで、表面処理金属板に対して、高速加速寿命試験装置(エスペック社製、EHS-411MD)を用いて、表面処理金属板のニッケル-コバルト二元合金層12および酸化被膜13が形成された面を上側に向けて、実質的に、昇温、温度105℃および相対湿度100%RHの水蒸気雰囲気で72時間保持、降温となる条件にて、プレッシャークッカー試験を実施した。(実際には、「昇温(昇温時間45分)、温度105℃および相対湿度100%RHの水蒸気雰囲気で24時間保持、降温(降温時間120分)」を行うサイクルを、3サイクル実施した。)。そして、プレッシャークッカー試験後の表面処理金属板について、酸化被膜の厚みの測定、Co/Ni
(酸素5原子%)およびCo/Ni
(酸素5原子%+40)の測定、色調の測定、接触抵抗値の測定を行った。結果を表1に示す。また、実施例1における、プレッシャークッカー試験後の表面処理金属板について、酸化被膜の厚みを求めるためのX線光電子分光装置による測定結果を、
図9(A)、
図9(B)に示す。なお、
図9(B)は、
図9(A)の一部を拡大したグラフである。
【0070】
《実施例2》
ニッケル-コバルト二元合金層を形成した鋼板に対する連続焼鈍(熱処理)の条件を、500℃、40秒間に変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。さらに、実施例2における、結晶粒径の測定のためのSEMによる測定結果を
図13(A)に、EBSDによる解析結果を
図13(B)にそれぞれ示す。
【0071】
《実施例3》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.22である浴組成のめっき浴を使用した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。さらに、実施例3における、結晶粒径の測定のためのSEMによる測定結果を
図14に示す。
【0072】
《実施例4》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.49である浴組成のめっき浴を使用し、さらに、ニッケル-コバルト二元合金層を形成した鋼板に対する連続焼鈍(熱処理)の条件を、500℃、40秒間に変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0073】
《実施例5》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.58である浴組成のめっき浴を使用した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0074】
《実施例6》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.20である浴組成のめっき浴を使用し、さらに、電流密度を20A/dm2から10A/dm2に変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0075】
《実施例7》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.09である浴組成のめっき浴を使用した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0076】
《比較例1》
ニッケル-コバルト二元合金層を形成した鋼板に対して、連続焼鈍(熱処理)を行わなかった以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。ただし、比較例1においては、結晶粒径1.0μm以上の結晶粒の割合を測定しようとしたところ、表面処理金属板の表面の結晶粒の結晶粒径が小さすぎることと、ニッケル-コバルト二元合金層のめっき歪が大きすぎることに起因して、十分な測定を行うことができなかった。なお、比較例1の表面処理金属板の表面をSEMにより測定した結果からは、表面処理金属板の表面が非常に細かい一次粒子でめっき層全面が覆われていることが確認できるため、表面処理金属板の表面には、結晶粒径1.0μm以上の結晶粒はほとんど存在しないと考えられる。また、比較例1における、プレッシャークッカー試験後の表面処理金属板について、酸化被膜の厚みを求めるために行ったX線光電子分光装置による測定結果を、
図10(A)、
図10(B)に示す。なお、
図10(B)は、
図10(A)の一部を拡大したグラフである。さらに、比較例1における、結晶粒径の測定のためのSEMによる測定結果を
図15(A)に、EBSDによる解析結果を
図15(B)にそれぞれ示す。
【0077】
《比較例2》
ニッケル-コバルト二元合金層を形成した鋼板に対する連続焼鈍(熱処理)の条件を、300℃、40秒間に変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。ただし、比較例2においては、結晶粒径1.0μm以上の結晶粒の割合を測定しようとしたところ、表面処理金属板の表面の結晶粒の結晶粒径が小さすぎることと、ニッケル-コバルト二元合金層のめっき歪が大きすぎることに起因して、十分な測定を行うことができなかった。なお、比較例2の表面処理金属板の表面をSEMにより測定した結果からは、表面処理金属板の表面が非常に細かい一次粒子でめっき層全面が覆われていることが確認できるため、表面処理金属板の表面には、結晶粒径1.0μm以上の結晶粒はほとんど存在しないと考えられる。さらに、比較例2における、結晶粒径の測定のためのSEMによる測定結果を
図16(A)に、EBSDによる解析結果を
図16(B)にそれぞれ示す。
【0078】
《比較例3》
準備した鋼板上に、ニッケルめっきを行うことなく(ニッケルめっき層を形成することなく)、直接、ニッケル-コバルト合金めっきを行い、ニッケル-コバルト二元合金層を形成した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0079】
《比較例4》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.58である浴組成のめっき浴を使用し、さらに、ニッケル-コバルト二元合金層を形成した鋼板に対する連続焼鈍(熱処理)の条件を、500℃、40秒間に変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0080】
《比較例5》
ニッケル-コバルト合金めっきに代えて、下記条件にてコバルトめっきを行い、厚さ0.1μmのコバルトめっき層を形成し、その後、連続焼鈍(熱処理)を行わなかった以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。ただし、比較例5においては、結晶粒径1.0μm以上の結晶粒の割合を測定しようとしたところ、表面処理金属板の表面の結晶粒の結晶粒径が小さすぎることと、ニッケル-コバルト二元合金層のめっき歪が大きすぎることに起因して、十分な測定を行うことができなかった。なお、比較例5の表面処理金属板の表面をSEMにより測定した結果からは、表面処理金属板の表面が非常に細かい一次粒子でめっき層全面が覆われていることが確認できるため、表面処理金属板の表面には、結晶粒径1.0μm以上の結晶粒はほとんど存在しないと考えられる。比較例5における、結晶粒径の測定のためのSEMによる測定結果を
図17に示す。
<コバルトめっき>
浴組成:硫酸コバルト250g/L、塩化コバルト90g/L、塩化ナトリウム20g/L、ほう酸30g/L
pH:3.5~5.0
浴温:60℃
電流密度:20A/dm
2
【0081】
《比較例6》
ニッケル-コバルト合金めっきに代えて、上記比較例5と同じ条件にてコバルトめっきを行い、厚さ0.1μmのコバルトめっき層を形成した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。なお、比較例6においては、色調の測定を行ったところ、プレッシャークッカー試験の実施前後の色調の差は比較的小さかったものの、表面処理金属板の表面に部分的に強い変色が発生したため、色調の評価は不合格(NG)とした。さらに、比較例6における、結晶粒径の測定のためのSEMによる測定結果を
図18に示す。
【0082】
【0083】
表1に示すように、プレッシャークッカー試験前のニッケル-コバルト二元合金層上の酸化被膜の厚みが0.5~30nmであり、かつ、プレッシャークッカー試験後の酸化被膜の厚みの増加量が28nm以下である表面処理金属板は、色調評価および接触抵抗値評価がいずれも優れるものであり、これにより、長期間保管した場合においても表面の変色を防止することができ、しかも、電池容器として用いた場合に電池特性を向上させることができるものであることが確認された(実施例1~7)。
一方、プレッシャークッカー試験後の酸化被膜の厚みの増加量が28nm超である場合には、いずれも、色調の評価結果に劣るものであった(比較例1~6)。また、比較例1~6の中でも、比較例1,2,5,6については、接触抵抗値の評価結果にも劣るものであり、このことから、酸化被膜の厚みの増加によって、表面処理金属板の表面における接触抵抗値が不安定になってしまったと考えられる。なかでも、比較例5は、プレッシャークッカー試験前のニッケル-コバルト二元合金層上の酸化被膜の厚みが30nm超であったため、色調の評価結果、および接触抵抗値の評価結果が、いずれも特に劣るものとなった。
【0084】
加えて、
図11に示すように、ニッケル-コバルト二元合金層および酸化被膜に含まれるCo量を変化させた表面処理金属板を作製して、色調評価を行った。具体的には、ニッケル-コバルト合金めっきを行う際における、めっき浴中のコバルト/ニッケルのモル比を変化させ、さらに、ニッケル-コバルト二元合金層を形成した鋼板に対する連続焼鈍(熱処理)の温度条件を変化させることにより、ニッケル-コバルト二元合金層および酸化被膜に含まれるCo量を変化させた表面処理金属板を作製し、上記方法に従い、プレッシャークッカー試験の実施前後の表面処理金属板のL
*値の差分を算出して評価を行った。なお、
図11においては、ニッケル-コバルト二元合金層の厚みが0.2μmの場合においてCo量が0.38g/m
2以下である表面処理金属板については、色調変化量が比較的小さかったものの、Co量が少なすぎることから、電池容器とした場合の電池特性に劣るものであるものと判断し、色調評価を行わなかった。また、表面処理金属板の表面に部分的に強い変色が発生した表面処理金属板については、色調の評価は不合格(NG)とした。
【0085】
図11に示すように、ニッケル-コバルト二元合金層および酸化被膜に含まれるCo量が少ないほど、また、熱処理温度が高いほど、プレッシャークッカー試験の実施前後の色調の差が小さくなり、色調の評価結果が良好なものとなる傾向があることが確認された。これは、ニッケル-コバルト二元合金層および酸化被膜に含まれるCo量が少ないほど、また、熱処理温度が高いほど、得られる表面処理金属板は、ニッケル-コバルト二元合金層上の酸化被膜が、上述した厚みを有し、かつ、プレッシャークッカー試験後の酸化被膜の厚みの増加量が所定値以下となるものに調整され、その結果、色調の評価結果が良好なものとなったものと考えられる。
【0086】
さらに、
図12(実施例1)、
図13(実施例2)、
図15(比較例1)、
図16(比較例2)の結果から、熱処理を行わなかった表面処理金属板(
図15)、および熱処理温度を300℃とした表面処理金属板(
図16)は、表面の結晶粒径が非常に小さい一方で、熱処理温度を500℃とした表面処理金属板(
図13)、および熱処理温度を700℃とした表面処理金属板(
図12)は、熱処理により結晶粒が再結晶したものと考えられ、結晶粒径が大きくなったおり、特に700℃の熱処理を行った表面処理金属板は、結晶粒径がより大きくなっていることが確認された。
【0087】
《実施例8》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.09である浴組成のめっき浴を使用し、さらに、ニッケル-コバルト二元合金層を形成した鋼板に対する連続焼鈍(熱処理)の条件を、500℃、40秒間に変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0088】
《実施例9》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.18である浴組成のめっき浴を使用した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0089】
《実施例10》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.18である浴組成のめっき浴を使用し、さらに、ニッケル-コバルト二元合金層を形成した鋼板に対する連続焼鈍(熱処理)の条件を、500℃、40秒間に変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0090】
《実施例11》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.22である浴組成のめっき浴を使用し、さらに、ニッケル-コバルト二元合金層を形成した鋼板に対する連続焼鈍(熱処理)の条件を、500℃、40秒間に変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0091】
《実施例12》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.49である浴組成のめっき浴を使用した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0092】
《実施例13》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.69である浴組成のめっき浴を使用した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。さらに、実施例13における、結晶粒径の測定のためのSEMによる測定結果を
図19に示す。
【0093】
《実施例14》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.20である浴組成のめっき浴を使用し、さらに、ニッケル-コバルト二元合金層を形成した鋼板に対する連続焼鈍(熱処理)の条件を、500℃、40秒間に変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0094】
《比較例7》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.49である浴組成のめっき浴を使用し、さらに、ニッケル-コバルト二元合金層を形成した鋼板に対する連続焼鈍(熱処理)の条件を、300℃、40秒間に変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0095】
《比較例8》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.58である浴組成のめっき浴を使用し、さらに、ニッケル-コバルト二元合金層を形成した鋼板に対する連続焼鈍(熱処理)の条件を、300℃、40秒間に変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0096】
《比較例9》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.69である浴組成のめっき浴を使用し、その後、ニッケル-コバルト二元合金層を形成した鋼板に対して、連続焼鈍(熱処理)を行わなかった以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0097】
《比較例10》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.69である浴組成のめっき浴を使用し、さらに、ニッケル-コバルト二元合金層を形成した鋼板に対する連続焼鈍(熱処理)の条件を、300℃、40秒間に変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0098】
《比較例11》
ニッケル-コバルト合金めっきを行う際に、コバルト/ニッケルのモル比が0.69である浴組成のめっき浴を使用し、さらに、ニッケル-コバルト二元合金層を形成した鋼板に対する連続焼鈍(熱処理)の条件を、500℃、40秒間に変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0099】
《比較例12》
ニッケル-コバルト合金めっきに代えて、下記条件にてコバルトめっきを行い、厚さ0.1μmのコバルトめっき層を形成し、さらに、連続焼鈍(熱処理)の条件を、300℃、40秒間に変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理金属板を作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
<コバルトめっき>
浴組成:硫酸コバルト250g/L、塩化コバルト90g/L、塩化ナトリウム20g/L、ほう酸30g/L
pH:3.5~5.0
浴温:60℃
電流密度:20A/dm2
【0100】
【0101】
表2に示すように、プレッシャークッカー試験前のニッケル-コバルト二元合金層上の酸化被膜の厚みが0.5~30nmであり、かつ、プレッシャークッカー試験後の酸化被膜の厚みの増加量が28nm以下である表面処理金属板は、色調評価および接触抵抗値評価がいずれも優れるものであり、これにより、長期間保管した場合においても表面の変色を防止することができ、しかも、電池容器として用いた場合に電池特性を向上させることができるものであることが確認された(実施例8~14)。
一方、プレッシャークッカー試験後の酸化被膜の厚みの増加量が28nm超である場合には、いずれも、色調の評価結果に劣るものであった(比較例7~12)。さらに、比較例7~10,12については、接触抵抗値の評価結果にも劣るものであった。なかでも、比較例9,10,12は、プレッシャークッカー試験前のニッケル-コバルト二元合金層上の酸化被膜の厚みが30nm超であったため、色調の評価結果、および接触抵抗値の評価結果が、いずれも特に劣るものとなった。