(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】湿度補正付きガスセンサー
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20220316BHJP
G01N 27/22 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
G01N5/02 A
G01N27/22 A
(21)【出願番号】P 2019531285
(86)(22)【出願日】2018-01-17
(86)【国際出願番号】 US2018014105
(87)【国際公開番号】W WO2018136556
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-11-13
(32)【優先日】2017-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519205903
【氏名又は名称】マトリックス センサーズ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MATRIX SENSORS,INC.
【住所又は居所原語表記】10655 Roselle Street,Suite 100,San Diego,CA 92121(US)
(74)【代理人】
【識別番号】100109634
【氏名又は名称】舛谷 威志
(74)【代理人】
【識別番号】100129263
【氏名又は名称】中尾 洋之
(72)【発明者】
【氏名】サスーナー,ハインリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ウィルキンソン,ポール,アール.
(72)【発明者】
【氏名】ブリット,デヴィット,ケー.
(72)【発明者】
【氏名】ヤマモト,スティーブン
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/006587(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0061777(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0177196(US,A1)
【文献】特開2005-337794(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0107735(US,A1)
【文献】登録実用新案第3094415(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/00-5/04
G01N 27/00-27/49
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿度の影響の補正を行い、少なくとも1つの被検物質を検出するためのデバイスであって、
a)振動部を有する少なくとも1つの共振センサーと、
b)前記共振センサーの前記振動部上に配置された少なくとも第1のコンデンサーであって、前記第1のコンデンサーは、少なくとも2つの電極と、前記電極の間に配置されているセンシング材料と、によって形成されている、第1のコンデンサーと、
c)物質が前記センシング材料内で吸着または吸収された際の前記コンデンサーのキャパシタンスおよび前記振動部の応答を測定するために配置された少なくとも1つの読み出し回路と、
d)前記キャパシタンスおよび前記振動部の前記応答を表す信号またはデータを受信するために前記読み出し回路と通信する少なくとも1つのプロセッサーであって、前記プロセッサーは、前記キャパシタンスおよび前記振動部の前記応答の双方の測定値に基づいて、前記被検物質の存在、量、または濃度を示す少なくとも1つの被検物質値を判別するようプログラムされており、前記振動部の前記応答は前記センシング材料内に吸着または吸収された前記被検物質と水の複合質量を示し、前記プロセッサーは前記振動部の前記応答に対する水の寄与または前記複合質量に対する水の寄与を判別するため、前記キャパシタンスの測定値を用いることによって、前記被検物質値を判別するようプログラムされている、少なくとも1つのプロセッサーと、
を含むデバイス。
【請求項2】
前記電極は、金属の略平行な層または板を含み、前記電極の少なくとも1つは、分子が、前記センシング材料へ通過することを可能とするために、ガス透過性である請求項1のデバイス。
【請求項3】
前記第1のコンデンサーとは反対側の前記振動部の面上に配置された第2のコンデンサーをさらに含み、前記第2のコンデンサーは、少なくとも2つの電極と、それらの間に配置された追加的なセンシング材料と、から形成されている請求項1または2のデバイス。
【請求項4】
前記少なくとも1つの読み出し回路は、前記第1および第2のコンデンサーのそれぞれのキャパシタンスを測定するために配置された少なくとも1つのキャパシタンス測定回路を含む、請求項3のデバイス。
【請求項5】
前記少なくとも1つの読み出し回路は、前記コンデンサーの合計キャパシタンスを測定するために配置された少なくとも1つのキャパシタンス測定回路を含む、請求項3のデバイス。
【請求項6】
前記センシング材料と前記追加的なセンシング材料は、同じターゲット被検物質を吸着および吸収するための実質的に同じタイプの材料である、請求項3~5のいずれか一項のデバイス。
【請求項7】
前記センシング材料と前記追加的なセンシング材料は、少なくとも2つの異なるターゲット被検物質を吸着および吸収するための2つの異なるタイプのセンシングフィルムである、請求項3~5のいずれか一項のデバイス。
【請求項8】
前記プロセッサーは、前記キャパシタンスの前記測定値から少なくとも1つの湿度値を算出するようさらにプログラムされている請求項1~7のいずれか一項のデバイス。
【請求項9】
前記共振センサーは、機械共振器と、前記機械共振器の対向する面に接合された第1および第2の電極と、を備えており、前記センシング材料は、前記第2の電極上に設けられており、前記コンデンサーは、前記第2の電極と、前記センシング材料上に設けられた第3の電極と、から形成され、前記センシング材料が前記第2および第3の電極の間に位置するようになっており、前記第3の電極は、ガス透過性である請求項1または2のデバイス。
【請求項10】
前記第1の電極と、第4の電極と、前記第1および第4の電極の間に配置された追加的なセンシング材料と、によって形成された第2のコンデンサーをさらに含み、前記読み出し回路は、前記第1および前記第2のコンデンサーを形成する前記4つの電極に接続され、前記第1および第2のコンデンサーの合計キャパシタンスまたは前記第1および第2のコンデンサーのそれぞれのキャパシタンスを測定する請求項9のデバイス。
【請求項11】
前記第2のコンデンサーは、物質が追加的なセンシング材料内で吸着しないように、覆われているか、封止されており、それによって前記第2のコンデンサーは、参照センサーとして機能する、請求項3または10のデバイス。
【請求項12】
前記センシング材料は、水の比誘電率よりも低い比誘電率を有するガスのターゲット分子を選択的に吸着または吸収する少なくとも1つの有機フレームワークを含む請求項1~11のいずれか一項のデバイス。
【請求項13】
湿度の影響の補正を行い、少なくとも1つの被検物質を検出するためのセンサーデバイスであって、
a)振動部を有する少なくとも1つの共振センサーと、
b)前記共振センサーの前記振動部上に配置された少なくとも第1のコンデンサーであって、前記第1のコンデンサーは、少なくとも第1および第2の電極と、前記第1および第2の電極の間に配置されている第1のセンシング材料のフィルムと、によって形成されている、第1のコンデンサーと、
c)前記第1のコンデンサーとは反対側の前記振動部の面上に配置された第2のコンデンサーであって、前記第2のコンデンサーは、第3および第4の電極と、前記第3および第4の電極の間に配置されている第2のセンシング材料のフィルムと、によって形成されている、第2のコンデンサーと、
d)物質が前記フィルム内で吸着または吸収された際の前記振動部の応答を測定するために配置された少なくとも1つの読み出し回路であって、前記振動部の前記応答は、前記フィルム内で吸着または吸収された前記被検物質と水の複合質量を示す、少なくとも1つの読み出し回路と、
e)前記第1および第2のコンデンサーのそれぞれのキャパシタンスを測定するため、または前記コンデンサーの合計キャパシタンスを測定するために配置され、それにより、前記それぞれのキャパシタンスの測定値または前記合計キャパシタンスの測定値は、前記フィルム内の前記水の量を示し、被検物質
値における湿度の影響の補正を可能にする、少なくとも1つのキャパシタンス測定回路と、
を含むセンサーデバイス。
【請求項14】
前記第1および第2の電極は、金属の略平行な層または板を含む請求項13のデバイス。
【請求項15】
前記読み出し回路および前記キャパシタンス測定回路と通信する少なくとも1つのプロセッサーをさらに含み、前記プロセッサーは、前記振動部の前記応答に対する水の寄与または前記複合質量に対する水の寄与を判別するため、前記それぞれのキャパシタンスの測定値または前記合計キャパシタンスの測定値を用いることによって、前記被検物質値を判別するようプログラムされている、請求項13または14のデバイス。
【請求項16】
前記センシング材料は、水の比誘電率よりも低い比誘電率を有するガスのターゲット分子を選択的に吸着または吸収する少なくとも1つの有機フレームワークを含む請求項13~15のいずれか一項のデバイス。
【請求項17】
湿度の影響の補正を行い、少なくとも1つの被検物質を検出するための方法であって、
a)前記被検物質および水蒸気を含んでいる可能性のある環境またはサンプルに対して、少なくとも1つの共振センサーを露出させる工程であって、前記共振センサーは、少なくとも1つの振動部と、前記振動部上に配置された少なくとも1つのコンデンサーと、を備え、前記コンデンサーは、少なくとも2つの電極と、前記電極の間に配置されているセンシング材料と、によって形成されている、前記少なくとも1つの共振センサーを露出させる工程と、
b)物質が前記センシング材料内で吸着または吸収された際の前記コンデンサーのキャパシタンスおよび前記振動部の応答を測定する工程と、
c)少なくとも1つのプロセッサーを用いて、前記振動部の前記応答の測定値および前記キャパシタンスに従って、前記被検物質の存在、量、または濃度を示す少なくとも1つの被検物質値を判別する工程であって、前記振動部の前記応答は、前記センシング材料内に吸着または吸収された前記被検物質と水の複合質量を示し、前記プロセッサーは前記振動部の前記応答に対する水の寄与または前記複合質量に対する水の寄与を判別するため、前記キャパシタンスの測定値を用いることによって、前記被検物質値を判別する工程と、
を含む方法。
【請求項18】
前記電極は、金属の略平行な層または板を含み、前記電極の少なくとも1つは、ガス透過性である請求項17の方法。
【請求項19】
前記プロセッサーを用いて、前記キャパシタンスの測定値から少なくとも1つの湿度値を判別する工程をさらに含む、請求項17または18の方法。
【請求項20】
前記センシング材料は、水の比誘電率よりも低い比誘電率を有するガスのターゲット分子を選択的に吸着または吸収する少なくとも1つの有機フレームワークを含む請求項17~19のいずれか一項の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願への相互参照】
【0001】
本出願は、2017年1月17日付で出願された米国仮特許出願第62/447,429号に基づく優先権の利益を主張し、該米国仮特許出願の開示の全てが、参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
本発明は、一般に、物質を検出するためのセンサーに関し、より具体的には、湿度の存在下においてガスを検出するためのセンサーに関する。
【0003】
ガスの化学的なセンシングは、環境モニタリング、工業安全、および公衆セキュリティーを含むいくつかの分野における重要な技術である。利用およびターゲットガスに応じて、電気化学、金属酸化物半導体、および非分散型赤外線吸収のような異なる動作原理が用いられている。スマートフォン、ウェアラブルデバイス、およびコネクテッドセンサーデバイスの近年の進歩に伴い、ますます多くの化学センシング利用が現出してきている。特に、消費者の健康、安全、および福祉をモニタリングすることは、相当な注目を集めている。上で挙げられた既存の技術は、これら現出してきている利用に対するニーズを満たしていないという問題がある。特に、既存のデバイスは、特殊性に欠け、さらに、比較的大きなサイズ、消費電力要求、およびコストを有している。
【0004】
克服すべき1つの課題は、共振化学センサーは、相対湿度のわずかな変化にすら非常に敏感に反応してしまうことにある。大気環境条件で被検物質を測定する際、センサーは、ターゲットガスによる質量変化だけでなく、センシング物質中の水分子の追加的な吸着による変化をも示してしまう。多くのセンシング物質が、低い横感度(クロス感度)で、特定の被検物質分子を検出するために調整され得るが、水分子の吸収は、その偏在性および化学的活性度によって、解決することがより困難な課題である。
【0005】
化学的センシングのために、水の干渉問題に対処する複数のアプローチが文献に示されている。これらアプローチは、疎水性のレセプター材料の設計、水のアクセスをブロックするためのフィルターおよび膜の組み込み、水に対する異なる親和性を有する第2のセンサーの追加(US20130311108A1に記載されているようなもの)、または、参照として別の湿度センサーを追加すること(US7887683B2に記載されているようなもの)を含む。これら方法のそれぞれは、深刻な制限を有している。例えば、疎水性のレセプター材料は、もしそのようなものが見つかればだが、材料特性のトレードオフによって、被検物質に対する低下した感度を有することが多い。フィルターまたは膜の追加は、コストを増加させ、さらに、デバイスの測定および寿命に影響を与え得るフィルターの飽和、脱着、およびヒステリシスの問題を引き起こす。別の相対湿度センサーを追加することは、市販の湿度センサーが、要求される精密さおよび正確さを満たさないため、失敗している。水の吸着をモニタリングするための第2のセンシング材料を追加することは、2つのセンシング材料が正確に同じものではなく、これらの相違が、特に、時間の経過と共に、解消するには大きすぎる誤差を生じさせることから、問題がある。最後に、これらアプローチの大部分は、コスト、サイズ、および複雑さを増加させる。センシング材料による湿度および水吸着の影響を判別し、被検物質を検出するためのシンプルで、低コストで、小型化されたセンサーに対するニーズが、依然として存在している。
【発明の概要】
【0006】
1つの態様において、湿度の影響の補正を行い、少なくとも1つの被検物質を検出するためのセンサーデバイスが提供される。デバイスは、振動部を有する少なくとも1つの共振センサーを含む。少なくとも1つのコンデンサーが、共振部上に配置されている。コンデンサーは、少なくとも2つの電極と、該電極の間に配置されたセンシング材料と、から形成されている。少なくとも1つの読み出し回路は、物質がセンシング材料内で吸着または吸収された際のコンデンサーのキャパシタンスおよび振動部の応答(例えば、周波数シフトや、共振周波数、散逸、線質係数、剛性、または歪みの変化)の双方を測定するよう配置されている。測定のこの組み合わせは、デバイスが、様々なタイプの吸着または吸収された分子を区別すること、特に、興味対象の被検物質(例えば、二酸化炭素またはメタン)と、被検物質の検出に干渉し得る水分子とを区別することを可能とする。いくつかの実施形態において、プロセッサーは、センシング材料内の水の影響を判別するために、キャパシタンスおよび振動部の応答の双方の測定値に基づいて、被検物質の存在、量、または濃度を示す被検物質値を判別するよう、プログラムされている。
【0007】
別の態様によれば、湿度の影響の補正を行い、少なくとも1つの被検物質を検出するためのセンサーデバイスが提供される。デバイスは、振動部を有する少なくとも1つの共振器を含む。第1および第2の電極が、共振器の第1および第2の面に接合される。第1および第2の電極は、振動部の振動動作を駆動するために、共振器の両面に電位差を付与するよう配置されている。センシング材料は、第2の電極上に設けられている。センシング材料は、被検物質が存在する場合、被検物質を吸着または吸収する。第3の電極は、センシング材料が第2および第3の電極の間に位置するように、センシング材料上に設けられている。第3の電極は、ガス透過性である。少なくとも1つの読み出し回路は、物質がセンシング材料内で吸着または吸収された際の第2および第3の電極によって形成されたコンデンサーのキャパシタンスおよび振動部の応答を測定するよう配置されている。いくつかの実施形態において、プロセッサーは、センシング材料内の水の影響を判別するために、キャパシタンスおよび振動部の応答の双方の測定値に基づいて、被検物質の存在、量、または濃度を示す被検物質値を判別するようプログラムされている。
【0008】
別の態様によれば、湿度の影響の補正を行い、少なくとも1つの被検物質を検出するための方法が提供される。少なくとも1つの共振センサーは、被検物質および水蒸気を含んでいる可能性のあるサンプルまたは環境に対して露出されている。共振センサーは、少なくとも1つの振動部と、振動部上に配置された少なくとも1つのコンデンサーと、を備えている。コンデンサーは、少なくとも2つの電極と、該電極の間に配置されたセンシング材料と、から形成されている。方法は、物質がセンシング材料内で吸着または吸収された際のコンデンサーのキャパシタンスおよび振動部の応答を測定する工程を含む。少なくとも1つのプロセッサーは、センシング材料内の水の影響を判別するために、キャパシタンスおよび振動部の応答の双方の測定値に従って、被検物質の存在、量、または濃度を示す少なくとも1つの被検物質値を判別するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明の上述の態様および利点は、以下の詳細な説明を読み、さらに、添付の図面を参照することにより、より良く理解されるであろう。
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る共振センサーおよび平行板コンデンサーの上面図である。
【0011】
【
図2】
図2は、共通電極を共有する機械共振器とコンデンサーの概略的な側面図である。
【0012】
【
図3】
図3は、本発明の別の実施形態に係る共振センサーの振動部上に設けられたコンデンサーの概略的な側面図である。
【0013】
【
図4】
図4A-Eは、本発明のいくつかの実施形態に係る共振器の5つの異なるタイプのガス透過性電極の概略的な平面図である。
【0014】
【
図5A】
図5Aは、本発明の別の実施形態に係る共振器上に配置された交差指型コンデンサーを有するセンサー要素の上側平面図である。
【0015】
【0016】
【
図6】
図6は、本発明のいくつかの実施形態に係る、3つの電極を有するセンサー要素に接続された読み出し回路の概略的なブロック図である。
【0017】
【
図7】
図7は、本発明の別の実施形態に係る、4つの電極を有するセンサー要素に接続された読み出し回路の概略的なブロック図である。
【0018】
【
図8】
図8は、本発明のいくつかの実施形態に係る、算出された被検物質値と湿度値を出力するプロセッサーと通信する読み出し回路の概略的なブロック図である。
【0019】
【
図9】
図9は、本発明の別の実施形態に係る共振器の両側上に設けられたセンシング材料を有するコンデンサーを備えるセンサーデバイスの概略的な側面図である。
【0020】
【
図10】
図10は、本発明の別の実施形態に係る共振器の両面上に設けられたセンシング材料を有するコンデンサーを備える別のセンサーデバイスの概略的な側面図である。
【発明の詳細な説明】
【0021】
以下の説明において、構造間の記載された全ての接続は、直接的な動作接続、または、中間構造を介した間接的な動作接続であってもよいことが理解される。特に必要でなければ、任意の記述された方法の工程は、必ずしも特定の説明された順番で実行される必要はない。パラメーターに基づいて(または、パラメーターに従って)判断または決定を行うことは、パラメーター、および、任意選択的には、他のデータに従って判断または決定を行うことを含む。特別に特定されない限り、いくつかの量/データの指標は、量/データ自身であってもよく、または、量/データ自身とは異なる指標であってもよい。本発明のいくつかの実施形態において記述されるコンピュータープログラムは、スタンドアローンのソフトウェアエンティティーであってもよいし、他のコンピュータープログラムのサブエンティティー(例えば、サブルーチン、コードオブジェクト)であってもよい。コンピューター可読媒体は、磁気、光学、および半導体ストレージメディア(例えば、ハードディスク、光学ディスク、フラッシュメモリー、DRAM)のような非一時的媒体や、導電性ケーブルやファイバー光学リンクのような通信リンクを含む。いくつかの実施形態によれば、本発明は、特に、本明細書で記述される方法を実行するようプログラムされたハードウェア(例えば、1つ以上のプロセッサーと、接続されたメモリー)や、本明細書で記述される方法を実行するための命令をエンコードするコンピューター可読媒体を含むコンピューターシステムを提供する。
【0022】
共振センサーは、周波数シフトや、共振周波数、散逸、線質係数、剛性、または歪みの変化のような、センサーの機械的または電気機械的な応答に反映される特性を変化させるターゲット分子を吸着または吸収するセンシング材料を用いる。共振センサーの応答は、センサーの振動動作を駆動する回路のインピーダンスの変化のような、電気的特性を用いて検出されることが多い。共振センサーまたは共振センサーアレイの周波数シフトや、共振周波数、散逸、線質係数、剛性、または歪みの変化を検出するための多くの電気的検出方法および任意選択的な検出方法が、本分野において既知である。
【0023】
広範な種類の片持ち梁、膜、および圧電共振器ベースのセンサーが、微小電気機械システム(MEMS)技術を用いて構成されている。これらセンサーは、一般的に、特定の被検物質(例えば、興味対象のガスの分子)を選択的に吸着するセンシング材料(例えば、ポリマーフィルムや有機金属フレームワーク)の使用によって、物質を検出する。共振センサーは、ある程度の相対湿度であったとしても、僅かな量の水蒸気に対して高い感度を有する。大気条件で被検物質を測定する際、センサーは、ターゲットガスによる質量変化だけでなく、センシング材料内の水分子の追加的な吸着による質量変化を示すことになる。
【0024】
図1は、共振センサー10と、共振センサー10の振動部上に配置された平行板コンデンサー12と、を示している。共振センサー10は、好ましくは、水晶振動子マイクロバランス(QCM)である。片持ち梁、容量性超微細加工超音波トランスデューサー(cMUTs)、圧電性超微細加工超音波トランスデューサー(PMUT)、薄膜バルク音波共振器(FBARまたはTFBAR)、または他のMEMsトランスデューサーを含むが、これに限定されない用途に適した他の機械共振器が数多く存在する。水晶振動子は、典型的には、円形面を有しており、平行板コンデンサー12は、円形面の略中央のQCMの振動部上に配置されている。コンデンサーは、それぞれの電気接触パッド13A、13Bを有する2つの電極によって形成されている。
【0025】
コンデンサー12は、共振センサー10上のセンシング材料内で吸着または吸収された水蒸気の量を判別するために有用なキャパシタンス測定値を提供する。キャパシタンス測定値は、周波数シフトや、共振周波数、散逸、線質係数、剛性、または歪みの変化のような、共振センサー10の機械的または電気機械的な応答の測定値と組み合わせられる。電気機械的測定値とキャパシタンス測定値とのこの組み合わせは、デバイスが、様々なタイプの吸着または吸収された分子を区別、特に、興味対象の被検物質(例えば、二酸化炭素またはメタン)と、被検物質の検出に干渉し得る水分子とを区別することを可能とする。キャパシタンス測定値は、水による共振器の応答がどれくらいあるのかを判別し、センシング材料内の被検物質の質量による共振器の応答がどのくらいあるのかを判別するために有用である。
【0026】
図2は、機械共振器11(例えば、水晶振動子)と、共振器11の背面側に接合された第1の(後方)電極14と、共振器11の前面側に接合された第2の(前方)電極16と、を備える共振センサーの側面図を示している。第1および第2の電極14および16は、共振器11の振動動作を駆動するために、共振器11の両面に電位差を付与するよう配置されている。第1および第2の電極14および16は、典型的には、金である。センシング材料30は、第2の電極16上に設けられている。センシング材料30は、第2の(前方)電極16を、少なくとも部分的に覆っている。いくつかの実施形態において、センシング材料30は、電極16を完全に覆っているが、完全に覆うことは必須ではない。第2の電極16上のセンシング材料30の層は、(被検物質が、共振センサーが露出している環境内またはサンプル内に存在する場合に、)吸着された被検物質の質量による共振センサーの振動を変化させるのに十分な量の被検物質を吸着するのに十分な量でなければならない。センシング材料30は、好ましくは、前方電極16上で成長または前方電極16上に直接設けられた吸着フィルム(例えば、有機金属フレームワークまたはポリマーフィルム)である。
【0027】
平行板コンデンサーは、第2の電極16と、センシング材料30上に配置された第3の電極18と、によって形成されている。共振器11がQCMである場合、第1の電極14が後方電極であり、第2の電極16が前方電極である。好ましくは、第2の(前方)電極16は接地(グランド)されており、本実施形態において、コンデンサーは、接地された第2の電極16を、共振器11と共有する。第3の電極18は、好ましくは、センシング材料30の最上部上に堆積またはセンシング材料30の最上部上で成長されている。第3の電極18は、センシング材料30が、センサーが露出している環境内またはサンプル内の被検物質に対してアクセス可能であることを保証するために、ガス透過性(例えば、多孔質、スロットが形成されている、交差指型、または蛇行型)でなければならない。
【0028】
センシング材料30は、好ましくは、有機金属フレームワーク(MOF)、多孔性配位ポリマー、または多孔性配位フレームワークのような多孔質結晶質材料である。好ましいMOFサブクラスは、同じ配列を有するが、異なる化学官能性を有する複数の有機リンカーの混合を用いて形成された多変量MOF(MTV-MOF)、IRMOF、およびゼオライトイミダゾレートフレームワーク(ZIF)を含む。また、好適な多孔質センシング材料は、その内部において、フレームワークが、金属配位結合ではなく、共有化学結合を含む共有有機フレームワーク(COF)と、無機多孔質結晶質材料に分類されるゼオライトと、を含む。稀な実施形態においては、多孔質センシング材料は、ディスクリート多孔質ケージを有する有機金属多面体、多孔質有機金属ポリマー、有機金属ゲル、多孔質カーボン(活性炭としても知られている)のような非結晶質多孔質材料を含む。
【0029】
有機金属フレームワーク(MOF)は、有機リンカーによって接続される金属イオンのノードから構築されている多孔質結晶質材料の拡大クラスである。これら材料は、典型的には、1オングストローム未満から、約30オングストロームの範囲の幅または径のポア開口を有するよう設計されている(Yaghi,et.al., Nature423,705-714,2003年6月12日)。また、98オングストロームのポア開口を有する特異なMOF(「MOF-74」)のクラスが、実証されている(Deng,et.al.,Science336,1018,2012)。様々なポアサイズを有するMOFは、分子のサイズに基づいて、分子を選択的に吸着することができる。例えば、二酸化炭素(CO2)吸着用に設計されたポアサイズを有する人工MOFは、工業プロセスにおいて、ガスを分離することができる(Du,et.al.,J.AM.Chem.Soc.,2013,135(2),pp562-565)。また、MOFは、制御された環境における化学的センサーとして機能するよう、QCMと共にセンシング材料として使用され得る。MOFの1つ以上のタイプが共振センサー上のセンシング材料として用いられた際、その上にMOFが成長した面は、自己組織単分子膜(SAM)によって成長したMOF用に準備されていてもよく、酸化物または金属の面の堆積によるものであってもよい。センサーの振動部上のMOFコーティングは、典型的には、1から1000nmの範囲の厚みを有する。MOFは、高い選択性で特定のガスを対象とするために、異なるポアサイズおよび特定の化学的親和性で設計され得る。
【0030】
他の実施形態において、センシング材料30は、ポリマーフィルムである。ポリマーセンシング材料は、数秒から数十分の時間で、ガス状態の被検物質に応答する。ポリマーセンシング材料の選択は、好ましくは、共振器の機械的特性(弾性率、密度、厚み等)にフィットするよう最適化され、これにより、検出時間が最小化され、さらに、感度が最大化される。センサーは、特定用途向けに、様々なタイプのセンシング材料でコーティングまたは機能化されていてもよい。これらの使用可能なセンシング材料としては、例えば、上で挙げたような多孔質レセプター材料、ポリマー(コポリマー、バイオポリマー)、ゾルゲル、およびDNA、RNA、たんぱく質、セル、バクテリア、カーボンナノチューブアレイ、金属から酵素までを含む触媒、ナノクラスター、有機および無機材料(高分子、有機金属錯体、または樹状材料を含む)が挙げられる。
【0031】
第2および第3の電極16および18は、好ましくは、金属の略平行な層または板を含み、さらに、センシング材料30の層は、金属の平行層または板の間に配置されている。電極は、典型的には、それぞれの電気接触パッド13A、13Bを備えており(
図1には示されているが、
図2には示されていない)、第3の電極18は、ガス透過性である(例えば、電極内に孔または開口が存在しており、分子がセンシング材料30へ通過することを可能としている)。よって、各電極の接触パッド、孔または他の部分は、正確に平行板のようになっていなくてもよく、各電極の全体が、完全な平行板である必要はない。代わりに、電極16および18のそれぞれが、他の電極の面と略平行な面内に横たわる少なくとも1つの金属層(ガス透過性となるため、孔を備えていてもよい)である主要部を有していることが好ましい。各電極は、金属の平行層の一部分である必要は必ずしもない、いくつかの他の部分(例えば、電気接触パッド)を備えている。接触パッドは、好ましくは、電極の主要部から水晶振動子のエッジ部または非振動部に向かって、外側に延伸している。その点において、接触パッドは、本分野において知られているように、クオーツの保持具に接続されており、続いて、より大きなパッドまたはビア内へ接続されている。本発明は、ガードリング等を含み得るコンデンサーデザインの他の変形もカバーすることは理解される。
【0032】
第2および第3の電極16、18によって形成されるコンデンサーは、共振器11の振動部上に配置されなければならない。「振動部」との用語は、振動する共振器の部分、領域、または部材を意味することを意図している。例えば、QCM用の振動部は、典型的には、第1および第2の電極14および16の間で振動する圧電性材料を含む。片持ち梁タイプの共振センサー用において、振動部は、片持ち梁であり、コンデンサーは、梁上に配置されている。cMUTタイプの共振センサー用において、振動部は、典型的には、振動膜であり、コンデンサーは、膜上に配置されている。FBARタイプの共振センサーにおいては、振動部は、典型的には、圧電性材料と、圧電性材料の両面に電位差を付与するよう配置された電極等と、を含む。
【0033】
共振器11の振動部上でのコンデンサーの位置決めは、デバイスが、センシング材料30内に吸着または吸収された物質(例えば、興味対象の被検物質および水)の質量に対する機械的または電気機械的な応答を測定すること、および、同じ温度および時点での同じセンシング材料30における物質の吸着または吸収によるキャパシタンスの変化を正確に測定することを可能とする。キャパシタンス測定値は、センシング材料30内の水による共振器11の応答(例えば、周波数シフトや、共振周波数、剛性、または歪みの変化)がどれくらいかを示し、よって、センシング材料30内に吸着または吸収されたターゲット被検物質の量による共振器11の応答がどれくらいかを示す。水は、興味対象の被検物質よりも大幅に高い比誘電率を有しているため、センシング材料30内の水の存在は、キャパシタンス測定値を大きく変化させる一方、ターゲットガスの分子の存在は、被検物質の大幅に低い比誘電率によって、キャパシタンス測定値に対する無視されるほど小さい影響しか有さないことが多い。平行板コンデンサーのキャパシタンスCは、以下の式(1)で与えられる。
【0034】
ここで、κは、比誘電率であり、∈
0は、真空の誘電率であり、Aは、コンデンサー電極面積であり、tは、その厚さである。高比誘電率の分子がセンシング材料30に吸着または吸収されるにつれて、キャパシタンスは増大する。表1は、比誘電率と、最も興味のある干渉物質である水を含む、いくつかの共通溶媒の質量を示している。
【表1】
【0035】
水は、メタンや二酸化炭素のような、興味対象の可能性のある被検物質よりも大幅に高い比誘電率を有している。被検物質の吸着は、センシング材料30によってコーティングされている機械共振器の周波数をモニタリングすることにより検出される。センシング材料30内での被検物質の吸着は、以下の式に従って、共振器の質量を増大させ、共振器の周波数を低下させる。なお、ガスが脱着した際は、その逆となる。
【0036】
ここで、f
0は、共振周波数であり、m
0は、質量負荷前の共振器の質量である。質量の変化は、分子の重量m
molのN個の蓄積によるものであり、以下の式(3)が得られる。
【0037】
課題は、センシング材料30内の湿度(水分子)による質量負荷、および、その結果としての周波数シフトがどの程度あるかをどのようにして判断し、さらに、ターゲット被検物質が存在する場合には、ターゲット被検物質の分子によるものがどの程度あるかを、どのように判別するか、である。湿度の課題を解決するため、2つの測定値が、同じセンシング材料30において作成される。第1に、第2および第3の電極16および18によって形成されるコンデンサーのキャパシタンスは、センシング材料30内の水の量を判別するために測定される。第2に、質量負荷に対する共振器11の機械的または電気機械的な応答(例えば、周波数シフト)が、センシング材料30内のガス吸収(被検物質および水蒸気)の合計複合質量を判別するために測定される。振動部応答(例えば、周波数)およびキャパシタンスの測定値は、同時に取得されてもよいし、順々に取得されてもよいし、測定の順番は逆であってもよい。
【0038】
水は、通常、興味対象の被検物質よりも大幅に高い誘電率を有しており、そのため、キャパシタンス測定信号は、センシング材料30の内の水の量に対応しており、センシング材料内の被検物質の量からは独立している。メタンや二酸化炭素のような多くのガス被検物質は、キャパシタンスに影響を及ぼさないか、キャパシタンスに対するそれらの影響は、無視できるほど小さい。センシング材料30内に吸着された合計複合質量は、センシング材料内の水の質量および被検物質の質量の合計に対応している。キャパシタンス測定値は、周波数に変化に対する水の寄与を算出し(または、周波数ではない場合、振動部の応答を測定するために、任意の測定信号が選択される)、これにより、センシング材料30内に吸着された合計複合質量に対する水の寄与を算出するために用いられる。共振器11の周波数の変化は、吸着された複合質量を示し、水の寄与が、センシング材料30内の吸着された水蒸気と被検物質の複合質量から差し引かれ(または、アルゴリズム、較正曲線またはデータ、および/またはルックアップテーブルの使用が行われ)、被検物質が存在する場合に、被検物質の量を判別する。このようにして、デバイスは、湿度の変動から独立して、正確な被検物質値(質量または濃度)を判別することができる。
【0039】
図3は、振動部および振動部上に配置されたコンデンサーを有し、水分子がセンシング材料30内に吸着された際のキャパシタンスの変化を測定する共振センサーの別の実施形態を示している。この実施例では、デバイスは、上述のような3つの電極ではなく、4つの電極を備えている。上述の実施例と同様に、共振センサーは、機械共振器11と、共振器11の対向する面に接合された第1および第2の電極14および16と、を備えている。第1および第2の電極14および16は、共振器11の振動部の振動動作を駆動するために、共振器の両面に電位差を付与するよう、配置されている。
【0040】
コンデンサーは、第3および第4の電極24および26と、第3および第4の電極24および26の間に配置されているセンシング材料30と、によって形成されている。この実施例では、コンデンサーは、好ましくは、第3の電極24を第2の電極16から分離する少なくとも1つの絶縁層28を用いることにより、共振器11の振動部上に配置されている。絶縁層用に好適な材料の例としては、SiO2、SiN、Al2O3、またはAlNが挙げられる。第3および第4の電極24および26は、好ましくは、平行板タイプのコンデンサーを本質的に形成する金属の略平行な層または板を含む。第4の電極26は、センシング材料30が、センサーが露出されている環境内またはサンプル内の分子に対してアクセス可能であることを保証するために、ガス透過性(例えば、多孔質、スロットが形成されている、交差指型、または蛇行型)でなければならない。
【0041】
図4A-Eは、被検物質の分子がセンシング材料に到達することを可能とするための、コンデンサーの外側電極として用いるのに適したガス透過性電極のデザインの複数の異なる例を示している。例えば、ガス透過性電極は、多孔質プラチナである。
図4Aは、ポリスチレン球を用いたマスキングプロセスにおいて形成され得、様々な形状およびサイズのビアまたは孔32を有する別の電極23を示している。
図4Bは、略一様な形状および離間距離の孔34を有する電極25を示している。孔34は、フォトリソグラフィープロセスを用いて形成され得る。
図4Cは、シャドウマスクを用いたフラクショナル被覆を提供するよう形成された露出開口36を有する電極27を示している。
図4Dは、孔を有さないが、リソグラフィーで規定され得る蛇行パターンまたは形状を有するガス透過性電極29を示している。
図4Eは、リソグラフィーで規定され得る櫛パターンまたは形状を有する別のガス透過性電極33を示している。電極33の縦方向のストライプは、上面、底面、またはそれらの間の任意の部分に沿った水平方向の連続的なストライプによって接続されている。
【0042】
ガス透過性電極として用いるのに適した多孔質金属フィルムを製造するためのいくつかの方法が存在している。第1の技術は、多孔質金属フィルムの直接堆積である(例えば、斜角スパッタリング)。第2の技術は、金属フィルムの後工程である(例えば、2つの金属の同時スパッタリングと、その後の選択的な脱合金)。第3の技術は、以下の種類のマスクを用いた金属フィルムのマスク堆積である。(a)秩序配置またはランダム配置されたスリットまたは孔(例えば、蛇行、櫛、およびメッシュ実施形態)によって開口を規定するためのフォトリソグラフィープロセス(フォトレジストを用いたもの);(b)ステンシルマスクの使用、または(c)除去または残留されたマスクとしての粒子(例えば、ポリスチレン球)の使用。
【0043】
図5Aは、コンデンサーを形成する交差指型電極38A、38Bを有する別の実施形態の上面図である。センシング材料30は、交差指型電極38A、38Bの間に配置されている。
図5Bは、A-A’線に沿った
図5Aのセンサー要素の断面図である。この実施例において、デバイスは、4つの電極を備えている。上述の実施例と同様に、共振センサーは、機械共振器11と、共振器11の対向する面に接合された第1および第2の電極14、16と、を備えている。第1および第2の電極14、16は、共振器の振動動作を駆動するために、共振器11の両面に電位差を付与するよう、配置されている。コンデンサーは、第3および第4の電極38Aおよび38Bによって形成されている。第3および第4の電極38Aおよび38Bは、センシング材料30が、センサーが露出している環境内またはサンプル内の水分子および被検物質の双方にアクセス可能となるように、交差指型とされている。交差指型コンデンサーは、第3および第4の電極38Aおよび38Bを、第2の電極16から分離する絶縁層28(例えば、SiO
2、SiN、Al
2O
3、またはAlN)を用いることにより、共振器11の振動部上に配置されている。
【0044】
図6は、コンデンサーと共に共振センサーに接続された電子読み出し回路の概念的なブロック図である。この実施例において、センサーデバイスは、3つの電極を有している(
図2を参照して上述したものと同様である)。物質がセンシング材料30内に吸着または吸収された際のコンデンサーのキャパシタンスおよび振動部の応答の双方を測定するための1つ以上の読み出し回路を構成する数多くの適切な方法が存在する。よって、「少なくとも1つの読み出し回路」との文言は、単一の電子読み出し回路によって双方の測定が実行される実施形態、または、複数の別々の読み出し回路によって、別々の電気機械的測定およびキャパシタンス測定が実行される他の実施形態を含む。
【0045】
この実施例において、共振器11の振動動作を駆動し、さらに、物質がセンシング材料30内に吸着または吸収された際の振動部分の機械的または電気機械的な応答を測定するために、発振回路46は、第1の電極14および第2の電極16に接続されている。センシング材料は、好ましくは、MOFフィルムである。読み出しに好適な発振回路としては、コルピッツ発振回路、ピアス発振回路、またはバトラー発振回路が挙げられる。物質がセンシニング材料30内に吸着または吸収された際の第2および第3の電極16および18によって形成されるコンデンサーのキャパシタンスを測定するために、キャパシタンス測定回路44は、第2の電極16(共有電極)および第3の電極18に接続されており、物質がセンシング材料30内に吸着または吸収された際の第2および第3の電極16および18によって形成されたコンデンサーのキャパシタンスを測定する。キャパシタンスの測定は、これに限定されるわけではないが、弛緩発振器またはΣ-Δキャパシタンス-To-デジタルコンバーターのような高精度キャパシタンス測定方法を用いて実行され得る。少なくとも1つのプロセッサー48は、(無線または有線で)発振回路46およびキャパシタンス測定回路44と通信可能であり、電気機械的な応答およびキャパシタンスを示す信号またはデータを受信する。
【0046】
図7は、3つの電極ではなく、4つの電極を有するセンサー要素に接続されている同様の電子読み出し回路の概略的なブロック図である。発振回路46は、共振器11の振動動作を駆動し、さらに、物質がセンシング材料30、好ましくはMOFフィルム内に吸着または吸収された際の振動部の機械的または電気機械的な応答を測定するために、第1の電極14および第2の電極16に接続されている。キャパシタンス回路44は、第3の電極24および第4の電極26に接続されており、物質がセンシング材料30内に吸着または吸収された際の第3の電極24および第4の電極26によって形成されたコンデンサーのキャパシタンスを測定する。プロセッサー48は、発振回路46およびキャパシタンス測定回路44と通信を行い、電気機械的な応答およびキャパシタンスを示す信号またはデータを受信する。共振回路46およびキャパシタンス測定回路44は、理解の簡易化のために、特許図面において別々に描かれているが、これらは、典型的には、マイクロプロセッサー48の制御下にある同じ総合的な電子読み出し回路の一部である。
【0047】
図8は、算出された被検物質値、および、任意選択的に、湿度値(例えば、相対湿度値)を出力するプロセッサー48と通信する発振回路46およびキャパシタンス測定回路44の概略的なブロック図である。プロセッサー48は、センシング材料内の水の影響を判別するために、キャパシタンスおよび発振器11の応答の双方の測定とは独立して、被検物質の存在、量、または濃度を示す少なくとも1つの被検値を判別するようプログラムされている。いくつかの実施形態において、被検物質値は、被検物質用の「存在している」または「存在していない」のような2値であってもよく、所望の限界値またはしきい値を超えて存在することであってもよい。より好ましくは、被検物質値は、被検物質の濃度、量、または質量のような数値である。被検物質値および/または湿度値は、任意選択的に、プロセッサー48と通信するディスプレイ52を用いて、エンドユーザーに表示されてもよい。いくつかの実施形態において、任意選択的な圧力センサー60および任意選択的な温度センサー62(例えば、サーミスタ)が、マイクロプロセッサー48に接続されていてもよい。マイクロプロセッサー48は、様々な温度(および、任意選択的に圧力)におけるキャパシタンスvs相対湿度(RH)を判別するようプログラムされている。
【0048】
キャパシタスおよび振動部の応答の双方の測定値が、被検物質値、および、任意選択的に、湿度値を算出するために用いられ得る数多くの方法またはアルゴリズムが存在している。一般的に、キャパシタンス測定値は、センシング材料内の水の量、または、キャパシタンス測定値は、センシング材料内の水による共振器の応答(例えば、周波数シフトや、共振周波数、剛性、または歪み)がどれくらいあるのかを示し、そのため、プロセッサー48は、センシング材料内で吸着または吸収されたターゲット被検物質の質量による共振器の応答がどれくらいあるのかを算出することができる。
【0049】
1つの例として、我々は、様々な温度(および、任意選択的に、圧力)におけるキャパシタンスvs相対湿度(RH)の特性を示すことができる。この特性は、多項式のような数式または数値の形態であってもよい。また、我々は、様々な温度(および、任意選択的に、圧力)における共振周波数vsRHの同様の特徴化を実行する。次に、我々は、これら2つのデータセットを組み合わせ、変数RHを除去し、これにより、我々が、様々な温度(および、任意選択的に、圧力)におけるキャパシタンスvs共振周波数についての較正値のデータセットを得る。メタンや二酸化炭素のような被検物質では、ターゲットガスは、キャパシタンスに影響を与えない、または、キャパシタンスに対するこれらの影響は、無視できるほど小さい。水は、キャパシタンスに対する強い影響を有する。キャパシタンスvs共振周波数のデータセットは、我々の水較正データベース(例えば、プロセッサー48のメモリー内の数式またはルックアップテーブル)である。
【0050】
好適なアルゴリズムの1つの例としては、以下のようなものが挙げられる。各時点において、我々は、キャパシタンスを測定し、我々の較正テーブルを用いてキャパシタンス測定値を周波数に変換し、その後、共振器の実際に測定された共振周波数から、その周波数を差し引いた。結果として得られたものは、センシング材料内で吸着された興味対象の被検物質にのみ対応する周波数変化である。任意選択的に、我々は、キャパシタンス測定値を取得し、さらに、ちょうど上述した較正データテーブルを用いて、それをRHに変換することもできる。このようにして、本デバイスは、ディスプレイ52を用いてエンドユーザーに表示、または、通信や記録され得るRHおよび被検物質濃度の双方を報告することができる。
【0051】
共振器の機械的または電気機械的な応答およびキャパシタンスの双方の測定値が被検物質値、および、任意選択的に、湿度値を算出するために用いられ得る数多くの別の方法が存在する(典型的には、アルゴリズム、較正カーブまたは較正データ、および/またはルックアップテーブルを用いたもの)。一般的に、発振器の応答(例えば、周波数応答)は、センシング材料30内に吸着された物質(水および被検物質)の複合質量を示しており、キャパシタンス測定値は、センシング材料内で吸着または吸収されている物質の合計複合質量から差し引かれるべき(または、判別されるべき)水の寄与を示している。よって、本デバイスは、質量負荷における水と被検物質とを区別可能であり、湿度から独立して、被検物質値を正確に報告する。
【0052】
図9は、上述の
図6のデバイスと同様のセンサーデバイスの別の実施形態を示している。しかしながら、
図9のデバイスは、共振器11の対向する面上に配置されているセンシング材料を有する2つのコンデンサーを備えている。特に、
図9のデバイスは、第1の電極14上に設けられた追加的なセンシング材料50をさらに備えている。よって、センシング材料30および50が、共振器11の対向する面上に配置されている。センシング材料30および50は、好ましくは、それぞれ、第2の(前方)電極16および第1の(後方)電極14上で成長またはそれら上に直接堆積されたMOFフィルムである。センシング材料30および50は、好ましくは、同じターゲット被検物質を吸着するための同じ材料である。代替的な実施形態において、センシング材料30および50は、2つの異なるターゲット被検物質(例えば、メタンと二酸化炭素)をセンシング可能な2つの異なるタイプのセンシングフィルムであってもよい。第1のコンデンサーは、第2および第3の電極16および18と、第2および第3の電極の間に配置されている(すなわち、挟まれている)第1のセンシング材料30の層とによって、形成されている。さらに、第2のコンデンサーは、第1の電極14および追加的なセンシング材料50上に設けられた第4の電極20によって、センシング材料50の層が、第1および第4の電極14および20の間に配置される(例えば、挟まれる)よう、形成されている。第1および第4の電極14および20は、好ましくは、金属の平行板または層であり、第4の電極20は、ガス透過性である。
【0053】
上述の実施形態のように、読み出し回路は、好ましくは、共振器11の振動動作を駆動し、さらに、振動部の機械的または電気機械的な応答を測定するために、第1の電極14および第2の電極16に接続されている発振回路46を備えている。第1のキャパシタンス測定回路44Aは、第2の電極16(共有電極)および第3の電極18に接続されており、物質がセンシング材料30内に吸着または吸収された際の第2および第3の電極16および18によって形成された第1のコンデンサーのキャパシタンスを測定する。キャパシタンスの測定値は、弛緩発振器やΣ-Δキャパシタンス-to-デジタルコンバーターのような高精度キャパシタンス測定方法を用いて実行され得る。
【0054】
いくつかの実施形態において、第2のキャパシタンス測定回路44Bは第1の電極14(別の共有電極)および第4の電極20に接続され、物質がセンシング材料50内に吸着または吸収された際の第1および第4の電極14および20によって形成された第2のコンデンサーのキャパシタンスを測定する。プロセッサー48は、(無線または有線で)発振回路46およびキャパシタンス測定回路44Aおよび44Bと通信し、第1および第2のキャパシタンス測定値および電気機械的な応答を示す信号またはデータを受信する。第1および第2のキャパシタンス測定回路44Aおよび44Bは、理解の明確化のために、特許図面において別々のものとして描かれているが、第1および第2のコンデンサーのそれぞれのキャパシタンスを測定するために2つの別々のキャパシタンス測定回路を有することは必須ではない。他の実施形態において、第1および第2のコンデンサーの双方の合計キャパシタンスを測定するための単一のキャパシタンス測定回路が存在する。さらに、キャパシタンス測定回路および発振回路46は、典型的には、マイクロプロセッサー48の制御下の同じ総合的な電子読み出し回路である。
【0055】
共振器11の対向する面上に配置された第1および第2のコンデンサーを有する両面センサーデバイスは、いくつかの利点を有している。共振器11の対向する面上の2つのコンデンサーの対称性は、共振器の対称的な(応力無しの)動作を保証し、共振器が動作中において面歪みの外側において感知してしまう可能性を低減する。第4の電極20は、好ましくは、センシング材料50が、センサーが露出している環境内またはサンプル内の被検物質分子にアクセス可能となるように、ガス透過性(例えば、多孔質、スロットが形成されている、交差指型、または蛇行型)である。共振器11の対向する面上のセンシング材料30および50の両面配置は、被検物質を検出するためのセンサーの感度を増加させ得る。さらに、キャパシタンス測定回路が、第1および第2のコンデンサーの合計キャパシタンスを測定するそれら実施形態において、2つのコンデンサーは、容易に測定可能な合計キャパシタンスの増加を提供する。
【0056】
図10は、共振器11の対向する面上に設けられた第1および第2のコンデンサーを有する両面センサーデバイスの別の実施例を示している。この実施例において、デバイスは、
図9を参照して上述したような4つの電極(そのうち、2つが共有電極)ではなく、6つの電極を備えている。上述の実施例のように、
図10のデバイスは、共振器11と、共振器11の対向する面に接合された第1および第2の電極14、16と、を備えている。第1および第2の電極14および16は、共振器11の振動動作を駆動するために、共振器の両面に電位差を付与するよう配置されている。第1のコンデンサーは、第3および第4の電極24および26と、第3および第4の電極24および26の間に配置されているセンシング材料30と、から構成されている。第1のコンデンサーは、第3の電極24を第2の電極16から分離する第1の絶縁層28Aの使用によって、共振器11の振動部分上に配置されている。第4の電極26は、センシング材料30が、センサーが露出している環境内またはサンプル内の分子にアクセス可能であることを保証するために、ガス透過性(例えば、多孔質、スロットが形成されている、交差指型、または蛇行型)でなければならない。
【0057】
第2のコンデンサーは、第5および第6の電極54および56と、第5および第6の電極54および56の間に挟まれた追加的なセンシング材料50と、によって形成されている。第2のコンデンサーは、第5の電極54を第1の電極14から分離する第2の絶縁層28Bの使用によって、共振器11の振動部上に配置されている。第2のコンデンサーは、第3および第4の電極24および26によって形成される第1のコンデンサーとは反対側の共振器11の面上に配置されている。第5および第6の電極54および56は、好ましくは、金属の平行板または層である。第6の電極56は、センシング材料50がターゲット被検物質にアクセス可能となるように、ガス透過性である。いくつかの実施形態において、センシング材料30および50は、同じターゲット被検物質を吸着するための同じ材料である。共振器11の対向する面上のセンシング材料30および50の両面配置は、センサーデバイスの感度を増加させ得る。他の実施形態において、センシング材料30および50は、2つの異なるターゲット被検物質をセンシング可能な2つの異なるタイプのセンシングフィルムであってもよい。
【0058】
代替的な実施形態において、第6の電極56は、センシング材料50が、センサーが露出している環境内またはサンプル内の分子にアクセス不可能となるように、ガス透過性ではない。または、第2のコンデンサーは、物質が追加的なセンシング材料50内に吸着しないように、覆われているか、封止されている。これら代替的な実施形態において、第2のコンデンサーは、参照センサーとして機能する。ガス透過性のコンデンサーの反対側の覆われているまたは封止されているコンデンサーは、ガス吸収によるものではない動作条件(例えば、温度、圧力、ドリフト等)の変化の度に、参照として機能することができる。また、共振器の対向する面上の2つのコンデンサーの対称性は、共振器の対称的な(応力無しの)動作を保証し、共振器が動作中において面歪みの外側において感知してしまう可能性を低減するという利点が存在する。
【0059】
本発明の実施形態に係る共振デバイスは、多くの民生用途に好適なガスセンサーである。共振デバイスは、1つ以上のメタライズ層のみを追加することにより、シンプルさと低コストを維持し、かつ、キャパシタンス測定を行うための電子読み出し回路の機能を増補することにより、湿度の課題を解決している。デバイスは、いくつかの実施形態において、小型化されていてもよい。例えば、コンデンサーおよび発振回路(プロセッサー無し)を有する共振センサーを含むデバイスは、好ましくは、5×5×1mm以下の寸法の3次元構造を有している。プロセッサーは、その内部に含まれていてもよいし、別々であってもよい。
【0060】
プロセッサー48は、デバイスに備えられているマイクロプロセッサー(例えば、小型8ビット低コストプロセッサー)であってもよい。代替的に、処理機能が、1つ以上の読み出し回路と通信する別のプロセッサーまたは外部コンピューターにおいて実行されていてもよい。外部プロセッサーまたはコンピューターは、測定されたキャパシタンスおよび発振器の応答(例えば、周波数シフトまたは共振周波数)を表すデータを受信し、被検物質値、および、任意選択的に、湿度値を判別する。代替的に、複数のプロセッサーが提供されていてもよく、例えば、1つ以上のプロセッサーが、1つ以上の外部プロセッサーまたはコンピューターと、(無線または有線で)通信するデバイス内に設けられていてもよい。
【0061】
データのいくつかの処理は、共振センサーの近くで実行され得る。例えば、時間平均または多重化またはデジタル化が、マルチプロセッサーを有するコンピューターまたは回路基板に送信される前に、センサーの近辺において全て処理されてもよい。特定のアルゴリズムがメモリー内に読み込まれ得、同じ機能が実行され、そのうち1つは、デジタルコンピューターにおけるものであり、その後、ディスプレイが駆動され、検出または危険レベルを示すためにカラー出力が用いられる。FRタグおよび埋め込み医療機器のような、今日配備されている多くのセンサーの場合と同様に、RFアンテナを用いて、センサーと接合およびセンサーに電力を提供することができる。センサーが駆動されると、センサーは自身の機能をセンシングし、その後、センサーの出力が受信アンテナへ再出力される。この態様において、デバイスは、パッシブであり、遠隔操作され得る。
【0062】
上記記述は、実施例として、本発明の実施例を示すものであり、必ずしも限定ではない。多くの他の実施形態が可能である。例えば、理解の簡易化のために、特許図面では、1つのセンサー要素のみが示されているが、センサーアレイもまた、代替的な実施形態において可能である。共振センサーアレイが、センサーアレイが複数のターゲット被検物質、化合物、および複合混合物を感度良くに検出および区別化可能となるように、異なる特性を有する複数のMOFまたはポリマーフィルムによって機能化されてもよい。さらに、デバイスは、圧力および温度を検出するために、圧力センサーおよび/または温度センサーのような複数の異なるタイプのセンサーを備えていてもよく、これらデータを算出において用いてもよい。さらに、センサーデバイスは、ヒーターおよび温度センサーを有する温度フィードバック制御ループを備えていてもよい。
【0063】
したがって、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲およびそれらの法的均等物によって判断されるべきである。