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特許7041708ウイルス性肺炎治療のためのC5aの阻害剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】ウイルス性肺炎治療のためのC5aの阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20220316BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220316BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20220316BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20220316BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P11/00
A61P31/12
C07K16/28
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020073194
(22)【出願日】2020-04-16
(62)【分割の表示】P 2016558056の分割
【原出願日】2015-03-20
(65)【公開番号】P2020125324
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2020-05-07
(31)【優先権主張番号】14160947.9
(32)【優先日】2014-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512137876
【氏名又は名称】インフラルクス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(72)【発明者】
【氏名】グオ,レンフェン
(72)【発明者】
【氏名】リーデマン,ニルス クリストフ
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-512209(JP,A)
【文献】国際公開第2011/063980(WO,A1)
【文献】Am J Respirat Cell Mol Biol., 2013, Vol.49, p.221-230
【文献】Plos One, 2013, Vol.8 Iss.5, p.e64443(p.1-11)
【文献】J Clin Invest., 1996, Vol.98 No.2, p.503-512
【文献】Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol., 2001, Vol.280, p.L512-518
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61P 11/00
A61P 13/12
C12N 16/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス性肺炎に罹患した被験体のウイルス量を減少せるために使用するC5aの阻害剤を含む医薬組成物であって、
該C5aの阻害剤はヒトC5aに特異的に結合する結合部分であり、該結合部分が、抗体又はその抗原結合断片であって
C5aの阻害剤は、配列番号6に示される重鎖CDR3配列、配列番号10に記載の重鎖CDR2配列、および配列番号14に記載の重鎖CDR1配列、ならびに配列番号8に示される軽鎖CDR3配列、配列番号12に記載の軽鎖CDR2配列、および配列番号16に記載の軽鎖CDR1配列を含み、
前記被験体のウイルス性肺炎がHxNxウイルスにより生じる、
C5aの阻害剤を含む医薬組成物。
【請求項2】
単剤療法として使用される、被験体のウイルス性肺炎の治療における使用のためのC5aの阻害剤を含む医薬組成物であって、
C5aの阻害剤は、配列番号6に示される重鎖CDR3配列、配列番号10に記載の重鎖CDR2配列、および配列番号14に記載の重鎖CDR1配列、ならびに配列番号8に示される軽鎖CDR3配列、配列番号12に記載の軽鎖CDR2配列、および配列番号16に記載の軽鎖CDR1配列を含み、
前記被験体のウイルス性肺炎がHxNxウイルスにより生じる、
C5aの阻害剤を含む医薬組成物
【請求項3】
前記HxNxウイルスがH1N1、H1N3、H2N2、H3N2、H5N1、H7N2、H7N3、H7N7、H7N9、H9N2、H10N7、及びH10N8からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
被験体のウイルス性肺炎がH7N9ウイルスにより生じる、前記被験体のウイルス性肺炎の治療における使用のためのC5aの阻害剤を含む医薬組成物であって、
C5aの阻害剤は、配列番号6に示される重鎖CDR3配列、配列番号10に記載の重鎖CDR2配列、および配列番号14に記載の重鎖CDR1配列、ならびに配列番号8に示される軽鎖CDR3配列、配列番号12に記載の軽鎖CDR2配列、および配列番号16に記載の軽鎖CDR1配列を含む、
C5aの阻害剤を含む医薬組成物
【請求項5】
前記被験体が霊長類、類人猿、若しくはヒトである、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
被験体が霊長類、類人猿、若しくはヒトである、前記被験体ウイルス性肺炎の治療における使用のためのC5aの阻害剤を含む医薬組成物であって、
C5aの阻害剤は、配列番号6に示される重鎖CDR3配列、配列番号10に記載の重鎖CDR2配列、および配列番号14に記載の重鎖CDR1配列、ならびに配列番号8に示される軽鎖CDR3配列、配列番号12に記載の軽鎖CDR2配列、および配列番号16に記載の軽鎖CDR1配列を含み、
前記被験体のウイルス性肺炎がHxNxウイルスにより生じる、
C5aの阻害剤を含む医薬組成物
【請求項7】
前記HxNxウイルスがH1N1、H1N3、H2N2、H3N2、H5N1、H7N2、H7N3、H7N7、H7N9、H9N2、H10N7、及びH10N8からなる群から選択される、請求項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は肺炎、特にウイルス性肺炎の治療における使用のためのC5aの阻害剤に関する。本発明はまた肺炎、特にウイルス性肺炎の治療のための医薬組成物の調製におけるC5aの阻害剤の使用に関する。本発明は更に、治療量のC5aの阻害剤を、それを必要とする被験体に投与する工程を含む、肺炎、特にウイルス性肺炎の治療のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
C5a
C5aは、補体の活性化の際にC5から切断される。補体の活性化生成物のうち、C5aは、広範囲の機能を有する最も強力な炎症性ペプチドの1つである(非特許文献1)。C5aは、11.2 kDaの分子量を有する、健康なヒトの血液中に存在する糖タンパク質である。C5aのポリペプチド部分は8.2 kDaの分子量に相当する74個のアミノ酸を含有して、炭水化物部分はおよそ3 kDaに相当する。C5aは、高親和性のC5a受容体(C5aR及びC5L2)によってその効果を発揮する(非特許文献2)。C5aRは、7回膜貫通型セグメントを有するGタンパク質結合型受容体のロドプシン型ファミリーに属する。C5L2は類似しているが、Gタンパク質結合型ではない。現在、C5a-C5L2相互作用に関する生物学的応答はほとんど見出されていないため、C5aは主にC5a-C5aR相互作用によってその生物学的機能を発揮すると考えられている。C5aRは、好中球、好酸球、好塩基球及び単球を含む骨髄細胞、並びに多くの器官、特に肺及び肝臓における非骨髄細胞において広く発現され、C5a/C5aRシグナル伝達の重要性を示す。C5aは、様々な生物学的機能を有する(非特許文献1)。C5aは、好中球に対する強力な化学誘引物質であり、単球及びマクロファージに対する走化活性も有する。C5aは、好中球における酸化的バースト(O2消費)を引き起こし、食作用及び顆粒酵素の放出を増強する。C5aは、血管拡張因子であることも見出されている。C5aは、好中球における接着分子の発現を増強する、様々な細胞型からのサイトカイン発現の変調に関与することが示されている。C5aは、炎症反応連鎖の上流で機能する炎症応答に対する強力な誘導因子及び増強因子であるため、疾患状況において過度に産生された場合、非常に有害となることが見出されている。高用量のC5aは、好中球に対して非特異的な走化性の「脱感作」を引き起こすことによって、広範な機能不全を引き起こす可能性がある(非特許文献3)。
【0003】
C5aが多数の炎症促進性応答を行うことが報告されている。例えば、C5aはヒト白血球による炎症促進性サイトカイン、例えばTNF-α、IL-1β、IL-6、IL-8、及びマクロファージ遊走阻害因子(MIF)の合成及び放出を刺激する(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)。C5aは、肺胞上皮細胞におけるTNF-α、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)-2、サイトカイン誘導性好中球化学誘引物質(CINC)-1及びIL-1βの産生において、LPSとの強い相乗効果を生じる(非特許文献7、非特許文献8)。
【0004】
C5aの遮断が、敗血症の実験モデルにおいて及び例えば、KlosA. et al(非特許文献9)及びAllegretti M.et al(非特許文献10)によって部分的に概説されたような様々な種における虚血/再灌流損傷、腎疾患、移植片拒絶反応、マラリア、関節リウマチ、感染性腸疾患、炎症性肺疾患、狼瘡様自己免疫疾患、神経変性疾患等の炎症の多くの他のモデルにおいて防御的であることも証明されている。さらに、マウスの腫瘍モデルにおいてC5aの遮断が強い治療的利益を示すことが最近発見された(非特許文献11)。
【0005】
トリインフルエンザ
新規のトリインフルエンザH7N9ウイルスは2013年2月に中国で発生し、45名の死亡例を含む合計139名の患者が2013年11月までに確認された(WHO。トリインフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染-最新。http://www.who.int/csr/don/2013_11_06/en/index.html(2013年11月16日にアクセス))。H7N9ウイルス感染症に罹患したほとんどの重症例は、急性肺損傷(ALI)を伴うウイルス性肺炎の徴候を示した後、重度の呼吸不全及びHPAI(高病原性トリインフルエンザ)H5N1ウイルス又は重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスに感染した患者の発症機序と類似した急性呼吸窮迫症候群(ARDS)へと進行した(非特許文献12、非特許文献13)。これまでにこれらの疾患を効果的に治療する治療方法は見つかっていない。これまでに積み重ねてきた研究から、補体の活性化はインフルエンザウイルスに感染した重度の患者で起こり、炎症促進伝達物質及び肺損傷のレベルに密接に関連することが示唆された。重度のpdmH1N1(汎発性インフルエンザH1N1)ウイルス感染患者は全身の補体の活性化が高く、炎症促進伝達物質の生成が高まっていたことが報告されている(非特許文献14、非特許文献15)。さらに、これまでの我々の研究から、H5N1感染のマウスモデルにおいて肺組織切片及び血漿試料の補体の活性化産物がかなり増加し、ALIの発症機序には、少なくとも一部として補体の活性化が起因し、C3a及びC5a等の活性化産物が関連し得ることが示された(非特許文献16)。
【0006】
補体系は、病原体の侵入に対する宿主の防御及び損傷している可能性がある細胞片のクリアランスにおける免疫系の中心的な部分である。しかし、過剰な補体の活性化は有害となるおそれがあるが、それは制御不能の炎症応答となる一因となり、組織傷害につながり得るためである(非特許文献17)。補体は種々の臨床疾患、例えば虚血/再灌流(I/R)損傷、移植、及び自己免疫障害の治療に対する関心の高い、期待された標的物質となっている(非特許文献18、非特許文献19、非特許文献20)。病原体誘導性疾患の転帰における補体の活性化の役割が、増殖及び病原性を含む病原体の生物学的特徴の多様性、並びに病原体誘起性免疫応答における補体の活性化の潜在的な「二面性の役割」により更に複雑になる可能性があることから、病原体関連炎症障害の治療に対する補体阻害剤の開発において炎症及び組織損傷を抑制する一方で病原体クリアランス機能の維持を考慮することは重要である。
【0007】
補体の活性化産物であるC5aは、多くの疾患モデルにおいて強力な炎症促進性及び調節シグナルを介在して主たる炎症促進性活性に作用する(非特許文献9)。これまで、C5a又はC5aRを標的とする多くの治療化合物、例えばC5a阻害剤であるC5aIP、C5aRアンタゴニストであるPMX53及びCCX168が前臨床モデルにおいて試験され、移植、敗血症、関節炎、腎血管炎、及び癌の治療的効果が期待されている(非特許文献21、非特許文献22、非特許文献23、非特許文献24)。C5a又はC5a受容体の抗体遮断がプラスモディウム・ベルゲイ(Plasmodium berghei:ネズミマラリア原虫)ANKA(PbA)感染のマウスモデルにおける過剰な免疫応答を無効にしたことも示された(非特許文献25)。同様に、これまでの我々のHPAI H5N1ウイルス性肺炎のマウスモデルを使用した研究により、抗C5a治療が肺損傷を有意に減弱させ、生存率を改善させたことが明らかとなった(非特許文献16)。膜侵襲複合体(MAC)が、侵入する病原体に対する宿主固有の防御において重要な役割を果たしていることから、病原体感染由来の炎症応答を阻害する一方でMAC群の形成が損なわれないC5a遮断の方法を適用することは利点があるように思われる。
【0008】
本発明に内在する技術的課題
本発明に内在する課題の1つとして、ウイルス性肺炎の治療、特に新型のトリインフルエンザH7N9ウイルスにより生じるウイルス性肺炎の治療のための治療的アプローチの提供があった。
【0009】
今まで、抗C5a治療が新型のトリインフルエンザウイルスH7N9により生じるウイルス性肺炎の治療に有効であるかどうかについて研究されていなかった。これまでの研究は、他のトリインフルエンザウイルス(H5N1;非特許文献16を参照のこと)に注目しており、マウスモデルを使用し、トリインフルエンザウイルスにより生じるウイルス性肺炎を研究するにすぎなかった。マウスモデルによる肯定的な結果は、必ずしも実際のヒト患者治療に適用可能とは限らない。
【0010】
本出願の発明者らは、ヒトC5aに対するかなり強力な中和mAbであり、現在H7N9ウイルス感染のサルモデルにおいて臨床開発中であるIFX-1を使用し、H7N9ウイルス誘導性の重度の肺炎の治療における補体阻害の治療的可能性を探求している。我々の知る限りでは、これは、ウイルス性肺炎の抗C5a治療がサルモデルにおいて研究された最初のものである。
【0011】
以下に示す実験の欄のデータにより、H7N9感染において過剰な補体の活性化が生じ、それがALI(急性肺損傷)及び全身の炎症の発症に起因するものであることが示されている。
【0012】
本発明者らは、H7N9に感染したサルの抗C5a治療が、治療していない被感染アフリカミドリザルに比べたときに、実質的にALIを減弱させ、組織病理学的損傷のスコアをかなり減少させ、マクロファージ及び好中球の肺浸潤の低下につながることを認めている。さらに、体温上昇及び炎症伝達物質の血漿濃度の有意な低下により証明されるように、H7N9により生じる感染性のSIRS(全身性炎症反応症候群)の強度がIFX-1治療により顕著に減少した。AGMの被感染肺におけるウイルス価は、IFX-1治療により予想外に消失した。ウイルス複製におけるC5aの関与を示唆する機構が知られていなかったため、これは非常に驚くべきことであった。
【0013】
これらの結果は、補体阻害が重度のウイルス性肺炎の補助治療としてかなり期待された方法であることを示唆している。C5a阻害剤の投与に関連した治療効果は、C5a阻害剤に基づいたウイルス性肺炎の単剤療法であっても実現可能であると思われるほど卓越したものである。
【0014】
上記の概説は必ずしも、本発明に関する全ての利点及び本発明によって解決される全ての課題を記載している訳ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【文献】Guo RF, and Ward PA. 2005. Annu. Rev, Immunol.23:821-852
【文献】Ward PA. 2009. J. Mol. Med. 87(4):375-378
【文献】Huber-Lang M et al. 2001. J. Immunol.166(2):1193-1199
【文献】Hopken U et al. 1996. Eur J Immunol26(5):1103-1109
【文献】Riedemann NC et al. 2004. J Immunol173(2):1355-1359
【文献】Strieter RM et al. 1992. Am J Pathol141(2):397-407
【文献】Riedemann NC et al. 2002. J. Immunol.168(4):1919-1925
【文献】Rittirsch D et al. 2008. Nat Rev Immunol8(10):776-787
【文献】Klos A. et al. 2009. Mol Immunol46(14):2753-2766
【文献】Allegretti M et al. 2005. Curr Med Chem12(2):217-236
【文献】Markiewski MM et al. 2008. Nat Immunol9(11):1225-1235
【文献】Beigel JH et al. 2005. N Engl J Med353:1374-1385
【文献】Ip WK, et al. 2005. J Infect Dis191:1697-1704
【文献】Berdal JE et al. 2011. J. Infect.63(4):308-16
【文献】Ohta R et al. 2011. Microbiol. Immunol.55(3):191-8
【文献】Sun, S. et al. 2013. Am J Respir Cell MolBiol 49: 221-230
【文献】Daniel Ricklin & John D Lambris. 2013 JImmunol 190(8):3831-8
【文献】Lu F. et al. 2013. Cardiovasc. Pathol.22:75-80
【文献】Tillou, X. et al. 2010. Kidney Int.78:152-159
【文献】Manderson AP, et al. 2004. Annu Rev Immunol22:431-456
【文献】Woodruff, T.M. et al. 2011. Mol. Immunol.48:1631-1642
【文献】Okada, N. et al. 2012. Clin. Exp. Pharmacol.2:114
【文献】Tokodai, K. et al. 2010. Transplantation90:1358-1365
【文献】Koehl, J. 2006. Curr. Opin. Mol. Ther. 8:529-538
【文献】Patel, S.N. et al. 2008. J. Exp. Med.205:1133-1143
【発明の概要】
【0016】
第1の態様において、本発明はウイルス性肺炎に罹患した被験体のウイルス量を減少及び/又は急性肺損傷(ALI)を減少させるために使用するC5aの阻害剤に関する。
【0017】
第2の態様において、本発明は単剤療法として使用される、被験体の肺炎(好ましくはウイルス性肺炎)の治療における使用のためのC5aの阻害剤に関する。
【0018】
第3の態様において、本発明はH7N9ウイルスにより生じる、被験体のウイルス性肺炎の治療における使用のためのC5aの阻害剤に関する。
【0019】
第4の態様において、本発明は霊長類、好ましくは類人猿、より好ましくはヒトである被験体の肺炎(好ましくはウイルス性肺炎)の治療における使用のためのC5aの阻害剤に関する。
【0020】
この本発明の概要は必ずしも、本発明の全ての特徴を記載している訳ではない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1-1】図Aは、IFX-1の生物学的特徴を示すグラフである。ヒトのeC5aに対するIFX-1の遮断活性をZAP-CD11bアッセイにおいて試験した。データは異なるドナーを用いる3つの別個の実験の代表例である。図Bは、IFX-1の生物学的特徴を示すグラフである。サルのeC5aに対するIFX-1の遮断活性をZAP-CD11bアッセイにおいて試験した。データは異なるドナーを用いる3つの別個の実験の代表例である。
図1-2】図1Cは、IFX-1の生物学的特徴を示すグラフである。感染及び抗体投与後0日、1日、3日、5日、及び7日目のサルの血漿試料中のIFX-1濃度を測定した(0日、1日、3日目はn=4、5日、7日目はn=2)。
図2図2Aは、H7N9ウイルス感染後のAGMの肺における補体の活性化を示すグラフである。C3aRに対する定量的RT-PCR分析は、感染後3日目の全ての肺葉から採取した18個(A/H7N9群)及び6個(偽薬群)の試料において行われた。示されているデータは偽薬群と比較した比(平均±SEM)である。図2Bは、H7N9ウイルス感染後のAGMの肺における補体の活性化を示すグラフである。C5aRに対する定量的RT-PCR分析は、感染後3日目の全ての肺葉から採取した18個(A/H7N9群)及び6個(偽薬群)の試料において行われた。示されているデータは偽薬群と比較した比(平均±SEM)である。図2Cは、H7N9ウイルス感染後のAGMの肺における補体の活性化を示すグラフである。MASP2に対する定量的RT-PCR分析は、感染後3日目の全ての肺葉から採取した18個(A/H7N9群)及び6個(偽薬群)の試料において行われた。示されているデータは偽薬群と比較した比(平均±SEM)である。図2Dは、H7N9ウイルス感染後のAGMの肺における補体の活性化を示すグラフである。A/H7N9感染のAGMの血漿中のC3aの濃度を定量的ELISAにより測定した。データは表示の時間点の平均値±SEMとして表した(0日、1日、及び3日目はn=6、5日目はn=3)。3連の***は0日目に対してP<0.001であることを意味する。図2Eは、H7N9ウイルス感染後のAGMの肺における補体の活性化を示すグラフである。A/H7N9感染のAGMの血漿中のC5aの濃度を定量的ELISAにより測定した。データは表示の時間点の平均値±SEMとして表した(0日、1日、及び3日目はn=6、5日目はn=3)。3連の***は0日目に対してP<0.001であることを意味する。図2Fは、H7N9ウイルス感染後のAGMの肺における補体の活性化を示すグラフである。A/H7N9感染のAGMの血漿中のC5b-9の濃度を定量的ELISAにより測定した。データは表示の時間点の平均値±SEMとして表した(0日、1日、及び3日目はn=6、5日目はn=3)。3連の***は0日目に対してP<0.001であることを意味する。
図3図3Aは、A/H7N9ウイルス感染後の抗C5a抗体治療により軽減したALIを示すグラフである。3日目の半定量的組織病理学的分析により、A/H7N9感染させただけのAGMの肺損傷に比べIFX-1処置したAGMでは軽減したことが明らかとなった(各時間点でのIFX-1処置群のAGMは2頭及び対照群のAGMは3頭)。図3Bは、A/H7N9ウイルス感染後の抗C5a抗体治療により軽減したALIを示すグラフである。A/H7N9感染後の表示の時間点の体温変化(平均値±SEM)。図示のデータは0日目に測定した温度を減算することにより算出した(感染後0日及び3日目のA/H7N9群のAMGは6頭及びA/H7N9+IFX-1群のAMGは4頭;5日目及び7日目に残した各群のAMGは3頭及び2頭)。*はA/H7N9群に対してP<0.05であることを意味する。図3Cは、A/H7N9ウイルス感染後の抗C5a抗体治療により軽減したALIを示すグラフである。感染3日目の、全ての肺葉から採取し、ホモジナイズした試料の肺ウイルス価を決定した(A/H7N9群の3頭のAMG由来の試料はn=18及びA/H7N9+IFX-1群の2頭のAMG由来の試料はn=12)。データは肺組織の1グラム当たりのTCID50として表し(平均値±SEM)、破線にて検出限界を示した。
図4-1】図4Aは、H7N9ウイルス感染後に抗C5a抗体処置したAGMにおける炎症応答の減少を示すグラフである。定量的ELISAを行い、AGMの血清試料中のIL-1βの濃度を測定した。示されたデータは、n=6のA/H7N9群(黒丸)及びn=4のA/H7N9+IFX-1群(白丸)、感染後0日、1日、及び3日目の表示の時間点でのサイトカイン及びケモカインの濃度(平均値±SEM)であり、5日目に残したAMGは各群3頭及び2頭であった。*及び3連の***は、A/H7N9群に対してそれぞれP<0.05及びP<0.001であることを意味する。図4Bは、H7N9ウイルス感染後に抗C5a抗体処置したAGMにおける炎症応答の減少を示すグラフである。定量的ELISAを行い、AGMの血清試料中のIL-6の濃度を測定した。示されたデータは、n=6のA/H7N9群(黒丸)及びn=4のA/H7N9+IFX-1群(白丸)、感染後0日、1日、及び3日目の表示の時間点でのサイトカイン及びケモカインの濃度(平均値±SEM)であり、5日目に残したAMGは各群3頭及び2頭であった。*及び3連の***は、A/H7N9群に対してそれぞれP<0.05及びP<0.001であることを意味する。図4Cは、H7N9ウイルス感染後に抗C5a抗体処置したAGMにおける炎症応答の減少を示すグラフである。定量的ELISAを行い、AGMの血清試料中のIP-10の濃度を測定した。示されたデータは、n=6のA/H7N9群(黒丸)及びn=4のA/H7N9+IFX-1群(白丸)、感染後0日、1日、及び3日目の表示の時間点でのサイトカイン及びケモカインの濃度(平均値±SEM)であり、5日目に残したAMGは各群3頭及び2頭であった。*及び3連の***は、A/H7N9群に対してそれぞれP<0.05及びP<0.001であることを意味する。図4Dは、H7N9ウイルス感染後に抗C5a抗体処置したAGMにおける炎症応答の減少を示すグラフである。定量的ELISAを行い、AGMの血清試料中のIFN-γの濃度を測定した。示されたデータは、n=6のA/H7N9群(黒丸)及びn=4のA/H7N9+IFX-1群(白丸)、感染後0日、1日、及び3日目の表示の時間点でのサイトカイン及びケモカインの濃度(平均値±SEM)であり、5日目に残したAMGは各群3頭及び2頭であった。*及び3連の***は、A/H7N9群に対してそれぞれP<0.05及びP<0.001であることを意味する。図4Eは、H7N9ウイルス感染後に抗C5a抗体処置したAGMにおける炎症応答の減少を示すグラフである。定量的ELISAを行い、AGMの血清試料中のTNF-αの濃度を測定した。示されたデータは、n=6のA/H7N9群(黒丸)及びn=4のA/H7N9+IFX-1群(白丸)、感染後0日、1日、及び3日目の表示の時間点でのサイトカイン及びケモカインの濃度(平均値±SEM)であり、5日目に残したAMGは各群3頭及び2頭であった。*及び3連の***は、A/H7N9群に対してそれぞれP<0.05及びP<0.001であることを意味する。図4Fは、H7N9ウイルス感染後に抗C5a抗体処置したAGMにおける炎症応答の減少を示すグラフである。定量的ELISAを行い、AGMの血清試料中のMCP-1の濃度を測定した。示されたデータは、n=6のA/H7N9群(黒丸)及びn=4のA/H7N9+IFX-1群(白丸)、感染後0日、1日、及び3日目の表示の時間点でのサイトカイン及びケモカインの濃度(平均値±SEM)であり、5日目に残したAMGは各群3頭及び2頭であった。*及び3連の***は、A/H7N9群に対してそれぞれP<0.05及びP<0.001であることを意味する。
図4-2】図4Gは、H7N9ウイルス感染後に抗C5a抗体処置したAGMにおける炎症応答の減少を示すグラフである。感染後3日目の肺におけるマクロファージの数の半定量的分析(n=3のA/H7N9群及びn=2のA/H7N9+IFX-1群)。メモ:図はマクロファージ細胞(%マクロファージ+顕微鏡視野)の誤記で、マクロファージ細胞(%好中球+顕微鏡視野)と記載。図4Hは、H7N9ウイルス感染後に抗C5a抗体処置したAGMにおける炎症応答の減少を示すグラフである。感染後3日目の肺における好中球の数の半定量的分析(n=3のA/H7N9群及びn=2のA/H7N9+IFX-1群)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
本発明を以下で詳細に説明する前に、本明細書中に記載される特定の方法論、プロトコル及び試薬は変動し得ることから、本発明はこれらに限定されないと理解すべきである。本明細書中で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明するためのものにすぎず、添付した特許請求の範囲のみによって限定される本発明の範囲を限定することは意図されないことも理解すべきである。他に規定のない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0023】
好ましくは、本明細書中で使用される用語は、"A multilingual glossary ofbiotechnological terms: (IUPAC Recommendations)", Leuenberger, H.G.W,Nagel, B. and Koelbl, H. eds. (1995), Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel,Switzerlandに記載されているように定義される。
【0024】
以下の本明細書及び添付の特許請求の範囲を通じて、文脈上他の意味に解釈すべき場合を除き、「含む」という単語、及びその変化形(the word "comprise", and variations such as"comprises" and "comprising")は、記載された整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を包含することを示唆するが、任意の他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を除外することを示唆しないと理解される。
【0025】
幾つかの文書(例えば、特許、特許出願、科学出版物、製造業者の仕様書、使用説明書、GenBankアクセッション番号配列寄託等)が、本明細書の文章の至るところで引用されている。本明細書において、いかなる事項も、本発明が、先行発明によるそのような開示に先行する権利を与えられていないことを承認するものとして解釈されるものではない。本明細書に引用される幾つかの文献は、「引用することにより本明細書の一部をなす」ものと特徴づけられる。そのような本明細書の一部をなす引用文献の規定又は教示と本明細書において詳述される規定又は教示との間に不一致が生じた場合には、本明細書の文章を優先する。
【0026】
配列:本明細書において言及される全ての配列は、その内容全体及び開示とともに本明細書の一部をなす添付の配列表において開示される。
【0027】
本明細書中で使用する場合、「ヒトC5a」は、以下の74個のアミノ酸のペプチドを表す:
TLQKKIEEIA AKYKHSVVKK CCYDGACVNN DETCEQRAAR ISLGPRCIKA FTECCVVASQ LRANISHKDMQLGR(配列番号1)。
【0028】
本明細書中で使用する場合、「ヒトC5a」という用語は、この74個のアミノ酸のペプチドのグリコシル化形態及び脱グリコシル化形態を指す。本明細書において「ヒトC5a」及び「hC5a」という用語は同じ意味で使用される。
【0029】
本明細書中で使用する場合、「C5aの阻害剤」という用語は、C5aの生物学的活性を阻害する化合物を指す。「C5aの阻害剤」という用語は、C5aがC5a受容体であるC5aR及びC5L2に結合することを干渉する化合物、特にC5aがC5aRに結合することを干渉する化合物を指す。それに応じて、「C5aの阻害剤」という用語は、C5aに特異的に結合し、かつC5aのC5aRへの結合を阻害する化合物、及びC5aRに特異的に結合し、かつC5aのC5aRへの結合を阻害する化合物を包含する。C5aの阻害剤の例として、C5a阻害性ペプチド(C5aIP)、選択的C5a受容体アンタゴニストPMX53及びCCX168、並びに国際公開第2011/063980号(また、米国特許出願公開第2012/0231008号として公開)に開示された抗C5a抗体が挙げられる。本明細書において、「C5aの阻害剤」及び「C5a阻害剤」という用語は同じ意味で使用される。
【0030】
「結合部分」という用語は、本明細書中で使用する場合、標的分子又は標的エピトープと特異的に結合することができる任意の分子又は分子の一部を指す。本出願との関連において好ましい結合部分は、(a)抗体若しくはその抗原結合断片、(b)オリゴヌクレオチド、(c)抗体様タンパク質又は(d)ペプチド模倣物である。特に、本発明を実施するために十分に好適な例示的「結合部分」は、2つのアミノ酸配列NDETCEQRA(配列番号2)及びSHKDMQL(配列番号3)により形成されるヒトC5aの立体構造エピトープに結合することが可能である。特に、本発明を実施するために十分に好適な更なる例示的「結合部分」は、2つのアミノ酸配列DETCEQR(配列番号4)及びHKDMQ(配列番号5)により形成されるヒトC5aの立体構造エピトープに結合することが可能である。
【0031】
本明細書中で使用する場合、第1の化合物(例えば抗体)は、該第1の化合物が、1 mM以下、好ましくは100 μM以下、好ましくは50 μM以下、好ましくは30 μM以下、好ましくは20 μM以下、好ましくは10 μM以下、好ましくは5 μM以下、より好ましくは1 μM以下、より好ましくは900 nM以下、より好ましくは800 nM以下、より好ましくは700 nM以下、より好ましくは600 nM以下、より好ましくは500 nM以下、より好ましくは400 nM以下、より好ましくは300 nM以下、より好ましくは200 nM以下、更により好ましくは100 nM以下、更により好ましくは90 nM以下、更により好ましくは80 nM以下、更により好ましくは70 nM以下、更により好ましくは60 nM以下、更により好ましくは50 nM以下、更により好ましくは40 nM以下、更により好ましくは30 nM以下、更により好ましくは20 nM以下、更により好ましくは10 nM以下の第2の化合物(例えば抗原、例えば標的タンパク質)に対する解離定数Kdを有する場合、上記第2の化合物と「結合」するとみなされる。
【0032】
本発明による「結合」という用語は好ましくは、特異的結合に関する。「特異的結合」は、結合部分(例えば抗体)が、別の標的との結合と比較して特異的な標的、例えばエピトープとより強く結合することを意味する。結合部分は、該結合部分が第2の標的に対する解離定数より低い解離定数(Kd)で第1の標的と結合する場合、第2の標的と比較して第1の標的とより強く結合する。好ましくは、結合部分が特異的に結合する標的に対する解離定数(Kd)は、該結合部分が特異的に結合しない標的に対する解離定数(Kd)より10倍超、好ましくは20倍超、より好ましくは50倍超、更により好ましくは100倍超、200倍超、500倍超又は1000倍超低い。
【0033】
本明細書中で使用する場合、「Kd」(通常「mol/L」(「M」と略されることもある)で測定される)という用語は、結合部分(例えば抗体又はその断片)と標的分子(例えば抗原又はそのエピトープ)との間の特定の相互作用の解離平衡定数を指すことを意図する。本出願に関して、「Kd」値は、室温(25℃)にて表面プラズモン共鳴分光法(Biacore(商標))により求められる。
【0034】
抗原決定基としても知られる「エピトープ」は、免疫系によって、具体的には抗体、B細胞又はT細胞によって認識される高分子の一部である。本明細書中で使用する場合、「エピトープ」は、本明細書に記載されるような結合部分(例えば抗体又はその抗原結合断片)と結合することが可能な高分子の一部である。これとの関連で、「結合」という用語は好ましくは、特異的結合に関する。エピトープは、通常、アミノ酸又は糖側鎖等の分子の化学的に活性な表面の基からなり、通常、特定の三次元構造特徴、及び特定の電荷特徴を有する。立体構造エピトープ及び非立体構造エピトープは、変性溶媒の存在下で立体構造エピトープとの結合は失われるが、非立体構造エピトープとの結合は失われない点において区別され得る。
【0035】
本明細書中で使用する場合、「立体構造エピトープ」は、直鎖高分子(例えばポリペプチド)のエピトープを表し、このエピトープは上記高分子の三次元構造によって形成される。本出願との関連において、「立体構造エピトープ」は、「不連続エピトープ」、すなわち高分子の一次配列(例えばポリペプチドのアミノ酸配列)における少なくとも2つの別々の領域から形成される高分子(例えばポリペプチド)における立体構造エピトープである。換言すれば、エピトープは、該エピトープが本発明の結合部分(例えば抗体又はその抗原結合断片)が同時に結合する一次配列における少なくとも2つの別々の領域(これらの少なくとも2つの別々の領域には、本発明の結合部分が結合しない一次配列における1つ又は複数の領域が割り込んでいる)からなる場合、本発明との関連における「立体構造エピトープ」であるとみなされる。好ましくは、かかる「立体構造エピトープ」はポリペプチド上に存在し、一次配列における2つの別々の領域は、本発明の結合部分(例えば抗体又はその抗原結合断片)が結合する2つの別々のアミノ酸配列(これらの少なくとも2つの別々のアミノ酸配列には、本発明の結合部分が結合しない一次配列における1つ又は複数のアミノ酸配列が割り込んでいる)である。好ましくは、割り込むアミノ酸配列は、結合部分が結合しない2つ以上のアミノ酸を含む、連続するアミノ酸配列である。本発明の結合部分が結合する少なくとも2つの別々のアミノ酸配列は、その長さに関して特に限定されない。上記少なくとも2つの別々のアミノ酸配列内のアミノ酸の総数が結合部分と立体構造エピトープとの間の特異的結合を達成するのに十分に大きいものであれば、かかる別々のアミノ酸配列は、1個のアミノ酸のみからなっていてもよい。
【0036】
「パラトープ」は、エピトープに結合する抗体の一部である。本発明との関連では、「パラトープ」は、エピトープに結合する本明細書に記載されるような結合部分(例えば抗体又はその抗原結合断片)の一部である。
【0037】
「抗体」という用語は典型的には、ジスルフィド結合によって相互連結された少なくとも2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖、又はその抗原結合部分を含む糖タンパク質を指す。「抗体」という用語はまた、抗体、特に本明細書に記載の抗体の全ての組換え形態、例えば原核生物において発現させた抗体、未グリコシル化抗体、真核生物(例えばCHO細胞)に発現させた抗体、グリコシル化抗体、並びに以下に記載の任意の抗原結合抗体断片及び誘導体を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてVH又はVHとして略す)及び重鎖定常領域(本明細書においてCH又はCHとして略す)を含む。重鎖定常領域をCH1、CH2、及びCH3(又はCH1、CH2、及びCH3)と呼ばれる3つの部分に更に細分することができる。各軽鎖は軽鎖可変領域(本明細書においてVL又はVLとして略す)及び軽鎖定常領域(本明細書においてCL又はCLとして略す)を含む。VH領域及びVL領域は、より保存性の高い領域(フレームワーク領域(FR)と称される)が間に置かれた、超可変性を有する領域(相補性決定領域(CDR)と称される)に更に細分することができる。各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシ末端まで以下の順序で配列した、3つのCDR及び4つのFRから構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)、及び古典的な補体系の第1の成分(C1q)を含む宿主組織又は因子に対する免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0038】
抗体の「抗原結合断片」(又は単に「結合部分」)という用語は、本明細書中で使用する場合、抗原と特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ又は複数の断片を指す。抗体の抗原結合機能は、全長抗体の断片によって発揮され得ることが示されている。抗体の「抗原結合部分」という用語内に包含される結合断片の例は、(i)Fab断片、すなわちVLドメイン、VHドメイン、CLドメイン及びCHドメインからなる一価の断片、(ii)F(ab')2断片、すなわちヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価の断片、(iii)VHドメイン及びCHドメインからなるFd断片、(iv)抗体の単一アームのVLドメイン及びVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al., (1989) Nature 341:544-546)、(vi)単離相補性決定領域(CDR)、並びに(vii)合成リンカーによって任意に連結することができる2つ以上の単離CDRの組合せを含む。さらに、Fv断片の2つのドメインVL及びVHは別々の遺伝子によってコードされるが、これらは、組換え法を使用して、VL領域及びVH領域が対になって一価の分子(一本鎖Fv(scFv)として知られる。例えば、Birdet al. (1988) Science 242: 423-426、及びHuston et al.(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-5883を参照されたい)を形成する単一のタンパク質鎖としてこれらを作製することを可能とする合成リンカーによって連結することができる。かかる一本鎖抗体は、抗体の「抗原結合断片」という用語内に包含されることも意図する。更なる例は、(i)免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドと融合した結合ドメインポリペプチド、(ii)該ヒンジ領域と融合した免疫グロブリン重鎖CH2定常領域、及び(iii)該CH2定常領域と融合した免疫グロブリン重鎖CH3定常領域を含む、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質である。結合ドメインポリペプチドは、重鎖可変領域又は軽鎖可変領域であり得る。結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質は、米国特許出願公開第2003/0118592号及び米国特許出願公開第2003/0133939号に更に開示されている。これらの抗体断片は、当業者に既知の従来の技法を使用して取得され、該断片は、インタクトな抗体がスクリーニングされるのと同じ方法で有用性に関してスクリーニングされる。「抗原結合断片」の更なる例は、単一のCDRから得られるいわゆるマイクロ抗体である。例えば、Heap et al., 2005は、HIV-1のgp120エンベロープ糖タンパク質に指向性を有する抗体の重鎖CDR3由来の17個のアミノ酸残基のマイクロ抗体を記載している(Heap C.J. et al. (2005) Analysis of a 17-amino acid residue,virus-neutralizing microantibody. J. Gen. Virol. 86:1791-1800)。他の例は、好ましくは同族の(cognate)フレームワーク領域によって、互いに融合した2つ以上のCDR領域を含む小抗体模倣物を含む。同族のVHのFR2によって連結したVHのCDR1及びVLのCDR3を含むかかる小抗体模倣物は、Qiu et al., 2007によって記載されている(Qiu X.-Q. et al.(2007) Small antibody mimetics comprising two complementary-determining regionsand a framework region for tumor targeting. Nature biotechnology 25(8):921-929)。
【0039】
したがって、「抗体又はその抗原結合断片」という用語は、本明細書中で使用する場合、免疫グロブリン分子、及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち抗原と免疫特異的に結合する抗原結合部位を含有する分子を指す。例えば、標的分子又は標的エピトープと、例えば配列番号2によるアミノ酸配列及び配列番号3によるアミノ酸配列によって形成されるヒトC5aの立体構造エピトープと、又はアミノ酸配列DETCEQR(配列番号4)及びHKDMQ(配列番号5)によって形成されるヒトC5aの立体構造エピトープと特異的に結合させるファージディスプレイを含む技法によって選択される免疫グロブリン様タンパク質も含まれる。本発明の免疫グロブリン分子は、免疫グロブリン分子の任意のタイプ(例えばIgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY)、クラス(例えばIgG1、IgG2、好ましくはIgG2a及びIgG2b、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はサブクラスのものであり得る。
【0040】
本発明において使用可能な抗体及びその抗原結合断片は、トリ及び哺乳動物を含む任意の動物起源由来であり得る。好ましくは、抗体又は断片は、ヒト、チンパンジー、齧歯類(例えばマウス、ラット、モルモット又はウサギ)、ニワトリ、シチメンチョウ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ウシ、ウマ、ロバ、ネコ又はイヌ起源由来である。抗体がヒト又はマウス起源のものであることが特に好ましい。本発明の抗体は、1つの種、好ましくはヒト由来の抗体定常領域を別の種、例えばマウス由来の抗原結合部位と組み合わせたキメラ分子も含む。さらに、本発明の抗体は、非ヒト種(例えばマウス)由来の抗体の抗原結合部位をヒト起源の定常領域及びフレームワーク領域と組み合わせたヒト化分子を含む。
【0041】
本明細書で例示されるように、本発明の抗体は、該抗体を発現するハイブリドーマから直接取得することができ、又はクローニングして、宿主細胞(例えばCHO細胞又はリンパ球細胞)において組換え的に発現させることができる。宿主細胞の更なる例は、微生物、例えば大腸菌及び真菌、例えば酵母である。代替的には、該抗体をトランスジェニック非ヒト動物又は植物において組換え的に作製することができる。
【0042】
「キメラ抗体」という用語は、重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列の各々の一部分が、特定の種由来の又は特定のクラスに属する抗体中の対応する配列に対して相同であり(homologous)、該鎖の残りのセグメントが別の種又はクラスの抗体中の対応する配列に対して相同である抗体を指す。典型的には、軽鎖及び重鎖の両方の可変領域は哺乳動物の1つの種由来の抗体の可変領域を模倣し、定常部分は別の種由来の抗体の配列に対して相同である。かかるキメラ形態の明らかな利点の1つは、例えばヒト細胞調製物由来の定常領域と組み合わせて、可変領域を、非ヒト宿主生物から容易に入手可能なB細胞又はハイブリドーマを使用して、現在既知の供給源から都合良く得ることができることである。この可変領域は調製し易いという利点を有しており、その特異性は供給源によって影響されない一方で、ヒト種のものである定常領域は、非ヒト供給源由来の定常領域の場合よりも、抗体を注入した場合にヒト被験体から免疫応答を誘発する可能性が低い。しかしながら、この定義はこの特定の例に限定されない。
【0043】
「ヒト化抗体」という用語は、非ヒト種の免疫グロブリンに実質的に由来する抗原結合部位を有する分子であって、該分子の残りの免疫グロブリン構造がヒト免疫グロブリンの構造及び/又は配列に基づくものである、分子を指す。抗原結合部位は、定常ドメイン上に融合した完全な可変ドメイン、又は可変ドメインにおける適切なフレームワーク領域上にグラフティングした相補性決定領域(CDR)のみのいずれかを含み得る。抗原結合部位は、野生型であってもよく、又は1つ若しくは複数のアミノ酸置換によって修飾されていてもよく、例えばより密接にヒト免疫グロブリンに類似するように修飾されていてもよい。ヒト化抗体の幾つかの形態は、全てのCDR配列を保存している(例えば、マウス抗体由来の6つのCDRを全て含有するヒト化マウス抗体)。他の形態は、元の抗体に対して変化させた1つ又は複数のCDRを有する。
【0044】
抗体をヒト化する種々の方法は、その内容全体が引用することにより本明細書の一部をなす、Almagro& Fransson, 2008, Frontiers in Bioscience, 13:1619-1633に概説されるように、当業者に既知のものである。Almagro & Franssonによる概説の記事は、国際公開第2011/063980号が国内段階に移行した米国特許出願公開第2012/0231008号に簡単に要約されている。米国特許出願公開第2012/0231008号及び国際公開第2011/063980号の内容はその内容全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0045】
本明細書中で使用する場合、「ヒト抗体」は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変領域及び定常領域を有する抗体を含む。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えば、in vitroでランダム突然変異誘発若しくは部位特異的突然変異誘発によって、又はinvivoで体細胞突然変異によって導入される突然変異)を含んでいてもよい。本発明のヒト抗体は、ヒト免疫グロブリンライブラリから、又は例えばKucherlapati & Jakobovitsによる米国特許第5,939,598号に記載されるような、1つ若しくは複数のヒト免疫グロブリンに対してトランスジェニックであり、内在性免疫グロブリンを発現しない動物から単離される抗体を含む。
【0046】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書中で使用する場合、単一分子組成の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体は、特定のエピトープに対する単一の結合特異性及び親和性を示す。一実施形態では、モノクローナル抗体は、不死化細胞と融合した非ヒト動物(例えばマウス)から得られるB細胞を含むハイブリドーマによって産生される。
【0047】
「組換え抗体」という用語は、本明細書中で使用する場合、組換え手段によって調製、発現、創出又は単離される全ての抗体、例えば(a)免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニック若しくはトランスクロモソーマルである動物(例えばマウス)、又はそれから調製されるハイブリドーマから単離される抗体、(b)抗体を発現するように形質転換された宿主細胞、例えばトランスフェクトーマから単離される抗体、(c)組換えコンビナトリアル抗体ライブラリから単離される抗体、及び(d)免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段によって調製、発現、創出又は単離される抗体を含む。
【0048】
「トランスフェクトーマ」という用語は、本明細書中で使用する場合、抗体を発現する組換え真核生物宿主細胞、例えばCHO細胞、NS/0細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞、植物細胞、又は酵母細胞を含む真菌を含む。
【0049】
本明細書中で使用する場合、「異種抗体」は、かかる抗体を産生するトランスジェニック生物との関係において定義される。この用語は、トランスジェニック生物からなるものでない生物中に見出されるものに対応するアミノ酸配列又はコードする核酸配列を有する、一般的にトランスジェニック生物以外の種由来の抗体を指す。
【0050】
本明細書中で使用する場合、「ヘテロハイブリッド抗体」は、異なる生物起源の軽鎖及び重鎖を有する抗体を指す。例えば、マウス軽鎖と結合したヒト重鎖を有する抗体は、ヘテロハイブリッド抗体である。
【0051】
したがって、本発明における使用に好適な「抗体及びその抗原結合断片」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一価抗体、二重特異性抗体、ヘテロコンジュゲート抗体、多重特異性抗体、組換え抗体、異種抗体、ヘテロハイブリッド抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体(特にCDRグラフティングを行った抗体)、脱免疫化(deimmunized)抗体若しくはヒト抗体、Fab断片、Fab'断片、F(ab')2断片、Fab発現ライブラリによって作製される断片、Fd、Fv、ジスルフィド結合したFv(dsFv)、一本鎖抗体(例えばscFv)、ダイアボディ又はテトラボディ(Holliger P. et al.(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90(14), 6444-6448)、ナノボディ(単一ドメイン抗体としても知られる)、抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば本発明の抗体に対する抗Id抗体を含む)、及び上記のいずれかのエピトープ結合断片を含むが、これらに限定されない。
【0052】
本明細書に記載される抗体は、単離されていることが好ましい。「単離抗体」は、本明細書中で使用する場合、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指すことを意図する(例えば、C5aと特異的に結合する単離抗体は、C5a以外の抗原と特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかしながら、ヒトC5aのエピトープ、アイソフォーム又は変異体と特異的に結合する単離抗体は、例えば他の種由来の他の関連抗原(例えばC5aの種相同体、例えばラットC5a)との交差反応性を有し得る。さらに、単離抗体は、他の細胞性物質及び/又は化学物質を実質的に含まない場合もある。本発明の一実施形態では、「単離」モノクローナル抗体の組合せは、異なる特異性を有し、十分に規定される組成で組み合わせられる抗体に関する。
【0053】
「天然」という用語は、或る対象物に適用されるものとして本明細書中で使用する場合、対象物を自然中に見出すことができることを指す。例えば、自然中の供給源から単離することができる生物(ウイルスを含む)中に存在し、実験室において人間によって意図的に修飾されていないポリペプチド配列又はポリヌクレオチド配列は天然のものである。
【0054】
本明細書中で使用する場合、「核酸アプタマー」という用語は、in vitro選択の繰り返し又はSELEX(試験管内進化法)により標的分子と結合するように改変された核酸分子を指す(概説に関してはBrody E.N. and Gold L.(2000), Aptamers as therapeutic and diagnosticagents. J. Biotechnol. 74 (1):5-13を参照されたい)。核酸アプタマーはDNA分子又はRNA分子であり得る。アプタマーは、例えば修飾ヌクレオチド、例えば2'-フッ素置換ピリミジンのように修飾を含有していてもよい。
【0055】
本明細書中で使用する場合、「抗体様タンパク質」という用語は、標的分子と特異的に結合するように改変された(例えばループの突然変異誘発により)タンパク質を指す。典型的には、かかる抗体様タンパク質は、両端でタンパク質骨格と結合した少なくとも1つの可変ペプチドループを含む。この二重の構造的制約により、抗体様タンパク質の結合親和性が抗体の結合親和性に匹敵するレベルまで大幅に増大する。可変ペプチドループの長さは典型的には、10個~20個のアミノ酸である。骨格タンパク質は、良好な溶解特性を有する任意のタンパク質であり得る。好ましくは、骨格タンパク質は小さい球状タンパク質である。抗体様タンパク質は、アフィボディ(affibodies)、アンチカリン(anticalins)、及び設計されたアンキリン反復タンパク質(概説に関してはBinz H.K. et al.(2005) Engineering novel binding proteins fromnonimmunoglobulin domains. Nat. Biotechnol. 23(10):1257-1268を参照されたい)を含むがこれらに限定されない。抗体様タンパク質は、突然変異体の大規模ライブラリ由来のものであってもよく、例えば大規模ファージディスプレイライブラリから選択して(panned)もよく、正規の抗体と同様に単離してもよい。また、抗体様結合タンパク質を、球状タンパク質の表面露出残基のコンビナトリアル突然変異誘発により得ることができる。抗体様タンパク質は「ペプチドアプタマー」と呼ばれることもある。
【0056】
本明細書中で使用する場合、「ペプチド模倣物」は、ペプチドを模倣するように設計される小さいタンパク質様の鎖である。ペプチド模倣物は典型的には、分子の特性を変化させるための既存のペプチドの修飾によって生じる。例えば、ペプチド模倣物は、分子の安定性又は生物学的活性を変化させるための修飾によって生じ得る。これは、既存のペプチド由来の薬剤様化合物の開発において一定の役割を有し得る。これらの修飾は、自然には起こらないペプチドに対する変化(例えば、骨格の変化、及び非天然アミノ酸の組込み)を含む。
【0057】
「保存的置換」は、例えば、関与するアミノ酸残基の極性、電荷、サイズ、溶解性、疎水性、親水性及び/又は両親媒性の類似性に基づいて行われ得る。アミノ酸は、以下の6つの標準的なアミノ酸群に分類することができる:
(1)疎水性:Met、Ala、Val、Leu、Ile、
(2)中性、親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln、
(3)酸性:Asp、Glu、
(4)塩基性:His、Lys、Arg、
(5)鎖の配向性に影響を及ぼす残基:Gly、Pro、及び、
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
本明細書中で使用する場合、「保存的置換」は、上で示される6つの標準的なアミノ酸群の同じ群内に列挙される別のアミノ酸による、或るアミノ酸の交換と定義される。例えば、GluによるAspの交換によって、そのように修飾されたポリペプチドにおける1つの負電荷は保持される。加えて、グリシン及びプロリンを、α-ヘリックスを破壊するその能力に基づき互いに置換することができる。上の6つの群内における幾つかの好ましい保存的置換は、以下の下位群内における交換である:(i)Ala、Val、Leu及びIle、(ii)Ser及びThr、(iii)Asn及びGln、(iv)Lys及びArg、並びに(v)Tyr及びPhe。既知の遺伝コード、並びに組換えDNA技法及び合成DNA技法を踏まえて、熟練した科学者は、保存的アミノ酸変異体をコードするDNAを容易に構築することができる。
【0058】
本明細書中で使用する場合、「非保存的置換」又は「非保存的アミノ酸交換」は、上で示される6つの標準的なアミノ酸群(1)~(6)の異なる群に列挙される別のアミノ酸による、或るアミノ酸の交換と定義される。
【0059】
本明細書中で使用する場合、「1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を含む」という表現は、そのように修飾されたアミノ酸配列が3個以下のアミノ酸の置換(好ましくは保存的アミノ酸の置換)、3個以下のアミノ酸の欠失、及び3個以下のアミノ酸の付加を含有するという理解が必要となる。結果として、このように特徴づけられたアミノ酸配列は、最大9個のアミノ酸修飾(3個の交換+3個の欠失+3個の付加)を有する。それに応じて、「含む」という用語は他の文脈においてオープンな表現として理解されるけれども、上記の表現はクローズの表現である。
【0060】
「生物学的活性」は、本明細書中で使用する場合、酵素活性、別の化合物との結合活性(例えば別のポリペプチドとの結合、特に受容体との結合、又は核酸との結合)、阻害活性(例えば酵素阻害活性)、活性化活性(例えば酵素活性化活性)、又は毒性効果を含むがこれらに限定されない、或るポリペプチドが示し得る任意の活性を指す。ポリペプチドの変異体及び誘導体に関して、変異体又は誘導体がかかる活性を親ポリペプチドと同程度示すことは必要とされない。変異体は、親ポリペプチドの活性の少なくとも10 %程度(例えば少なくとも20 %、少なくとも30 %、少なくとも40 %又は少なくとも50 %)、関連する活性を示す場合、本出願との関連内における変異体とみなされる。同様に、誘導体は、親ポリペプチドの活性の少なくとも10 %程度、関連する生物学的活性を示す場合、本出願との関連内における誘導体とみなされる。特に関連する「生物学的活性」は、本発明との関連では、配列番号2によるアミノ酸配列及び配列番号3によるアミノ酸配列によって形成されるヒトC5aの立体構造エピトープとの結合活性である。好ましくは、関連する「生物学的活性」は、本発明との関連では、アミノ酸配列DETCEQR(配列番号4)及びKDMによって形成されるヒトC5aの立体構造エピトープとの結合活性である。結合活性を決定するためのアッセイは、当業者に既知であり、ELISA及び表面プラズモン共鳴アッセイを含む。
【0061】
本明細書中で使用する場合、「患者」は、本明細書に記載のC5aの阻害剤を用いた治療から恩恵を受け得る任意の哺乳動物又はトリを意味する。好ましくは、「患者」は、実験動物(例えば、マウス又はラット)、家畜動物(例えば、モルモット、ウサギ、ニワトリ、シチメンチョウ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ウシ、ウマ、ロバ、ネコ、又はイヌを含む)又はサル(例えば、アフリカミドリザル、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ)及びヒトを含む霊長類からなる群から選択される。特に、「患者」はヒトであることが好ましい。本明細書において、「患者」及び「被治療被験体」(又は単に「被験体」)という用語は同じ意味で使用される。
【0062】
本明細書中で使用する場合、他に明記されていない場合「サル」という用語は、任意の非ヒト霊長類哺乳動物を指す。例えば、以下の「実施例」の欄において、「サル」という用語は通例、「アフリカミドリザル」の略語として使用される。
【0063】
本明細書中で使用する場合、「類人猿」という用語は、生物学的にヒト上科に属する、旧世界の真猿亜目哺乳動物を指し、それに応じてテナガザル(テナガザル(Hyilobatidae)科)、オランウータン(オランウータン属)、ゴリラ(ゴリラ属)、チンパンジー(チンパンジー属)、及びヒト(ヒト属)を含む。
【0064】
本明細書中で使用する場合、或る疾患又は障害に関する「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」又は「治療(treatment)」は、(a)該障害の重症度及び/又は期間を低減すること、(b)治療される該障害(複数の場合もある)に特徴的な症状の発症を制限又は予防すること、(c)治療される該障害(複数の場合もある)に特徴的な症状の悪化を阻止すること、(d)該障害(複数の場合もある)を過去に有していた患者における該障害(複数の場合もある)の再発を制限又は予防すること、並びに(e)過去に該障害(複数の場合もある)の症状を示した患者における症状の再発を制限又は予防することのうち1つ又は複数を達成することを意味する。
【0065】
本明細書中で使用する場合、疾患又は障害を「予防する(prevent)」、「予防すること(preventing)」、「予防(prevention)」又は「予防(法)(prophylaxis)」は、障害が或る特定の時間量において被験体に生じることを予防することを意味する。例えば、本明細書に記載のC5aの阻害剤(例えば、抗C5a抗体又はその抗原結合断片)を、疾患又は障害を予防する目的で被験体に投与する場合、少なくとも投与した日、及び好ましくは投与した日の1日後又は数日後(例えば、1日~30日後又は2日~28日後又は3日~21日後又は4日~14日後又は5日~10日後)まで上記の疾患又は障害の発症を予防する。
【0066】
本明細書中で使用する場合、「投与すること(administering)」は、in vivoでの投与、及びex vivoでの組織、例えば静脈移植片への直接の投与を含む。
【0067】
本発明による「医薬組成物」は種々の活性成分と希釈剤及び/又は担体とを混合した組成物の形態で存在してもよく、又は活性成分が部分的に若しくは全体に個別の形態で存在する調製物の組合せの形態を取ってもよい。このような組合せ又は調製物の組合せの例としてパーツキット(kit-of-parts)がある。
【0068】
「有効量」は、意図した目的を達成するのに十分な治療剤の量である。所定の治療剤の有効量は、作用剤の性質、投与経路、治療剤を投与する被験体の大きさ及び種、並びに投与目的等の因子により変動し得る。各々の個別のケースにおける有効量は、当該技術分野において確立された方法に従って当業者が経験的に決定することができる。
【0069】
本明細書中で使用する場合、「補助療法」という用語は、少なくとも2つの異なる薬剤を患者に投与する併用療法を指す。これらの少なくとも2つの異なる薬剤を、両方の薬剤を含有する単一の医薬組成物に配合することができる。代替法として、各薬剤を別個の医薬組成物に配合することができ、医薬組成物を別個に(例えば、様々な時間点にて、及び/又は様々な投与経路により)患者に投与する。この投与の代替例では、(少なくとも)2つの異なる薬剤をパーツキットに含むことができる。本開示は特に、抗ウイルス剤を用いた抗ウイルス治療の補助療法としてC5a阻害剤を用いた療法を特徴とする。
【0070】
本明細書中で使用する場合、「抗ウイルス剤」という用語は、ノイラミニダーゼ阻害剤(例えば、経口吸入型ザナミビル又は経口オセルタミビル)及びウイルス特異的抗体を含むが、それらに限定されない。
【0071】
「薬学的に許容可能な」は、連邦政府若しくは州政府の監督官庁により承認されていること、又は米国薬局方、若しくは動物における、より具体的にはヒトにおける使用のための他の一般的に認められた薬局方にリストされていることを意味する。
【0072】
「担体」という用語は、本明細書中で使用する場合、治療剤とともに投与される希釈剤、補助剤、賦形剤又はビヒクルを指す。かかる薬学的担体は、無菌の液体、例えば水、及び石油起源、動物起源、植物起源又は合成起源の油、例えばラッカセイ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等を含む油中の生理食塩溶液であってもよい。生理食塩溶液は、医薬組成物を静脈内投与する場合、好ましい担体である。生理食塩溶液並びにデキストロース及びグリセロールの水溶液を、特に注射用溶液のために、液体担体として利用することもできる。好適な薬学的賦形剤は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、米粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール等を含む。必要に応じて、組成物は、微量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含有していてもよい。これらの組成物は、溶液、懸濁液、乳濁液、錠剤、丸剤、カプセル、粉末、持続放出製剤等の形態をとり得る。組成物を、伝統的な結合剤及び担体、例えばトリグリセリドを用いて、坐剤として配合することができる。本発明の化合物を、中性形態又は塩形態として配合することができる。薬学的に許容可能な塩は、遊離のアミノ基とともに形成されるもの、例えば塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸等由来のもの、及び遊離のカルボキシル基とともに形成されるもの、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等由来のものを含む。好適な薬学的担体の例は、E. W. Martinによる"Remington'sPharmaceutical Sciences"に記載されている。かかる組成物は、患者への適切な投与のための形態をもたらすための好適な量の担体とともに、好ましくは精製形態の、治療的有効量の化合物を含有する。製剤は、投与様式に適合しているものとする。
【0073】
分子生物学、細胞生物学、タンパク質化学及び抗体技法の分野において一般的に知られており実施されている方法は、継続的に更新されている以下の刊行物に十分に記載されている:"Molecular Cloning: A Laboratory Manual",(Sambrook et al.,Cold Spring Harbor)、Current Protocols in MolecularBiology (F. M. Ausubel et al. Eds., Wiley & Sons)、CurrentProtocols in Protein Science (J. E. Colligan et al. Eds., Wiley & Sons)、Current Protocols in Cell Biology (J. S. Bonifacino et al., Wiley& Sons)及びCurrent Protocols in Immunology (J. E.Colligan et al., Eds., Wiley & Sons)。細胞培養及び培地に関する既知の技法は、"Large Scale Mammalian Cell Culture" (D. Hu et al., Curr.Opin., Biotechnol. 8: 148-153, 1997)、"Serum freeMedia" (K. Kitano, Biotechnol. 17:73-106, 1991)及び"SuspensionCulture of Mammalian Cells" (J.R. Birch et al. Bioprocess Technol. 10:251-270, 1990)に記載されている。
【0074】
本発明の実施形態
本発明をここでさらに記載する。以下の節では本発明の種々の態様をより詳細に規定する。以下に規定する各態様は、反対の内容が明示されない限り、任意の他の態様(単数又は複数)と組み合わせることができる。特に、好ましい又は有利であるとして示した任意の特徴を、好ましい又は有利であるとして示した任意の他の特徴(単数又は複数)と組み合わせることができる。
【0075】
第1の態様において、本発明はウイルス性肺炎、特にHxNx介在性ウイルス性肺炎に罹患した被験体におけるウイルス量を減少及び/又は急性肺損傷(ALI)を減少させるために使用するC5aの阻害剤に関する。
【0076】
代替表現では、本発明の第1の態様は、ウイルス性肺炎、特にHxNx介在性ウイルス性肺炎に罹患した被験体におけるウイルス量を減少及び/又は急性肺損傷(ALI)を減少させるための医薬組成物の調製におけるC5aの阻害剤の使用に関する。
【0077】
別の代替表現では、本発明の第1の態様は、ウイルス性肺炎、特にHxNx介在性ウイルス性肺炎に罹患する被験体におけるウイルス量を減少及び/又は急性肺損傷(ALI)を減少させる方法であって、上記の被験体に治療量のC5aの阻害剤を投与する工程を含む、方法に関する。
【0078】
第2の態様において、本発明は単剤療法として使用される、肺炎(好ましくはウイルス性肺炎、特にHxNx介在性ウイルス性肺炎)の被験体の治療における使用のためのC5aの阻害剤に関する。
【0079】
代替表現では、本発明の第2の態様は、単剤療法として使用される、肺炎(好ましくはウイルス性肺炎、特にHxNx介在性ウイルス性肺炎)の被験体の治療のための医薬組成物の調製におけるC5aの阻害剤の使用に関する。
【0080】
別の代替表現では、本発明の第2の態様は、肺炎(好ましくはウイルス性肺炎、特にHxNx介在性ウイルス性肺炎)を治療する方法であって、単剤療法として投与される、治療量のC5aの阻害剤を、それを必要とする被験体に投与する工程を含む、方法に関する。
【0081】
第3の態様において、本発明はH7N9ウイルスにより生じる被験体のウイルス性肺炎の治療における使用のためのC5aの阻害剤に関する。
【0082】
代替表現では、本発明の第3の態様はH7N9ウイルスにより生じる被験体のウイルス性肺炎の治療のための医薬組成物の調製におけるC5aの阻害剤の使用に関する。
【0083】
別の代替表現では、本発明の第3の態様はH7N9ウイルスにより生じる被験体のウイルス性肺炎を治療する方法であって、治療量のC5aの阻害剤を、それを必要とするこの被験体に投与する工程を含む、方法に関する。
【0084】
第4の態様において、本発明は霊長類、好ましくは類人猿、より好ましくはヒトである被験体の肺炎(好ましくはウイルス性肺炎、特にHxNx介在性ウイルス性肺炎)の治療における使用のためのC5aの阻害剤に関する。
【0085】
代替表現では、本発明の第4の態様は霊長類、好ましくは類人猿、より好ましくはヒトである被験体の肺炎(好ましくはウイルス性肺炎、特にHxNx介在性ウイルス性肺炎)の治療のための医薬組成物の調製におけるC5aの阻害剤の使用に関する。
【0086】
別の代替表現では、本発明の第4の態様は肺炎(好ましくはウイルス性肺炎、特にHxNx介在性ウイルス性肺炎)を治療する方法であって、治療量のC5aの阻害剤を、霊長類、好ましくは類人猿、より好ましくはヒトである、C5aの阻害剤を必要とする被験体に投与する工程を含む、方法に関する。
【0087】
本発明の第2の態様、第3の態様又は第4の態様の一実施形態において、C5aの阻害剤はウイルス性肺炎に罹患した被験体のウイルス量及び/又は急性肺損傷(ALI)を減少させるために使用するものであり、又は代替表現では、医薬組成物はウイルス性肺炎に罹患した被験体のウイルス量を減少及び/又は急性肺損傷(ALI)を減少させるためのものであり、又は別の代替表現では、上記方法はウイルス性肺炎に罹患した被験体のウイルス量及び/又は急性肺損傷(ALI)を減少させるためのものである。
【0088】
本発明の第1の態様、第3の態様又は第4の態様の一実施形態において、C5aの阻害剤は単剤療法として使用するものであり、又は代替表現では、医薬組成物は単剤療法として使用すべきものであり、又は代替表現では、C5aの阻害剤を単剤療法として投与する。
【0089】
本発明の第1の態様、第3の態様又は第4の態様の別の実施形態において、C5aの阻害剤は抗ウイルス剤を用いた補助療法に使用するものであり、又は代替表現では、医薬組成物は抗ウイルス剤を用いた補助療法に使用すべきものであり、又は代替表現では、上記方法は治療量の抗ウイルス剤を上記被験体に投与する工程を更に含む。このような補助療法における使用に好適な抗ウイルス剤としてノイラミニダーゼ阻害剤(例えば、経口吸入型ザナミビル又は経口オセルタミビル)及びウイルス特異的抗体が挙げられるがそれらに限定されない。
【0090】
本発明の第1の態様、第2の態様又は第4の態様の一実施形態において、被験体の肺炎はHxNxウイルスによって生じる。幾つかの実施形態において、HxNxウイルスは、H1N1、H1N3、H2N2、H3N2、H5N1、H7N2、H7N3、H7N7、H7N9、H9N2、H10N7、及びH10N8からなる群から選択される。本発明の第1の態様、第2の態様又は第4の態様の特定の実施形態において、HxNxウイルスはH7N9である。
【0091】
本発明の第1の態様、第2の態様又は第3の態様の一実施形態において、被験体は霊長類、好ましくは類人猿、より好ましくはヒトである。
【0092】
本発明は更に、上記に定義された4つの態様の組合せを提供する。例えば、一実施形態において、本発明の第1の態様、第2の態様、及び第3の態様の特徴を組み合わせることができる。別の実施形態において、本発明の第1の態様、第2の態様、及び第4の態様の特徴を組み合わせることができる。別の実施形態において、本発明の第1の態様、第3の態様、及び第4の態様の特徴を組み合わせることができる。別の実施形態において、本発明の第2の態様、第3の態様、及び第4の態様の特徴を組み合わせることができる。更に別の実施形態において、本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様、及び第4の態様の特徴を組み合わせることができる。
【0093】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の一実施形態において、C5aの阻害剤は、(i)C5aに特異的に結合し、かつC5aのC5aRへの結合を阻害する化合物(結合部分)、及び(ii)C5aRに特異的に結合し、かつC5aのC5aRへの結合を阻害する化合物(結合部分)からなる群から選択される。C5aに特異的に結合する化合物の例として、C5a阻害性ペプチド(C5aIP)及び抗C5a抗体、例えば国際公開第2011/063980号(米国特許出願公開第2012/0231008号としても公開)に開示された抗C5a抗体がある。C5aRに特異的に結合する化合物の例として、選択的C5a受容体アンタゴニストPMX53及びCCX168がある。
【0094】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の一実施形態において、C5aの阻害剤はヒトC5aに特異的に結合する結合部分である。更なる実施形態において、上記の結合部分は、
(a)抗体又はその抗原結合断片と、
(b)オリゴヌクレオチドと、
(c)抗体様タンパク質と、
(d)ペプチド模倣物と、
からなる群から選択される。
【0095】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の一実施形態において、結合部分はヒトC5aのアミノ酸配列NDETCEQRA(配列番号2)及びSHKDMQL(配列番号3)により形成される立体構造エピトープに特異的に結合する。配列番号2及び配列番号3に記載のアミノ酸配列により形成される立体構造に結合するということは、結合部分が配列番号2に記載のアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸及び配列番号3に記載のアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸に結合することを意味する。配列番号2はヒトC5aのアミノ酸30~38番目に対応する。配列番号3はヒトC5aのアミノ酸66~72番目に対応する。
【0096】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の好ましい実施形態において、結合部分は、DETCEQR(配列番号4)に記載のアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸に結合する。配列番号4はヒトC5aのアミノ酸31~37番目に対応する。
【0097】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の更に好ましい実施形態において、結合部分は、HKDMQ(配列番号5)に記載のアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸、より好ましくはアミノ酸配列KDM内の少なくとも1つのアミノ酸に結合する。配列番号5はヒトC5aのアミノ酸67~71番目に対応し、配列KDMはヒトC5aのアミノ酸68~70番目に対応する。
【0098】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の好ましい実施形態において、結合部分は、アミノ酸配列DETCEQR(配列番号4)内の少なくとも1つのアミノ酸に結合し、アミノ酸配列HKDMQ(配列番号5)内の少なくとも1つのアミノ酸に結合する。
【0099】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の特に好ましい実施形態において、結合部分は、アミノ酸配列DETCEQR(配列番号4)内の少なくとも1つのアミノ酸に結合し、アミノ酸配列KDM内の少なくとも1つのアミノ酸に結合する。
【0100】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の好ましい実施形態において、立体構造エピトープを形成する2つの配列(例えば、配列番号2及び配列番号3、配列番号4及び配列番号5又は配列番号4及び配列KDMに記載の配列対)は、本発明の結合部分に結合する際に、関与しない1個~50個の連続するアミノ酸によって隔てられる。以下では、本発明の結合部分との結合に関与しないかかるアミノ酸を「非結合アミノ酸」と称する。立体構造エピトープを形成する2つの配列は、好ましくは、6個~45個の連続する非結合アミノ酸によって、より好ましくは12個~40個の連続する非結合アミノ酸によって、より好ましくは18個~35個の連続する非結合アミノ酸によって、より好ましくは24個~30個の連続する非結合アミノ酸によって、より好ましくは25個~29個の連続する非結合アミノ酸によって、更により好ましくは26個~28個の連続する非結合アミノ酸によって、最も好ましくは27個の連続する非結合アミノ酸によって隔てられる。
【0101】
好ましい実施形態において、結合部分は、10 nM以下、好ましくは9 nM以下、より好ましくは8 nM以下、より好ましくは7 nM以下、より好ましくは6 nM以下、より好ましくは5 nM以下、より好ましくは4 nM以下、より好ましくは3 nM以下、より好ましくは2 nM以下、更により好ましくは1 nM以下のKd値を伴うヒトC5aに対する結合定数を有する。
【0102】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の好ましい実施形態において、結合部分とヒトC5aとの間の解離定数Kdは、1 pM(ピコモル)~5 nM(ナノモル)、より好ましくは2 pM~4 nM、より好ましくは5pM~3 nM、より好ましくは10 pM~2 nM、より好ましくは50 pM~1nM、より好ましくは100 pM~900 pM、より好ましくは200 pM~800 pM、より好ましくは300 pM~700 pM、及び更により好ましくは400 pM~600 pMである。
【0103】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の好ましい実施形態では、1つの結合部分が、1分子のC5a、好ましくはヒトC5aによって誘導される生物学的効果に対して少なくとも75 %の遮断活性、好ましくは少なくとも80 %の遮断活性、より好ましくは少なくとも85 %の遮断活性、より好ましくは少なくとも90 %の遮断活性、より好ましくは少なくとも95 %の遮断活性を示す。これらの好ましい遮断活性は、結合部分がC5a、好ましくはヒトC5aと結合する単一のパラトープを含む、これらの実施形態を指す。結合部分が2つ以上のC5a特異的パラトープを含む実施形態では、1つの結合部分分子を、結合部分に存在するC5a特異的パラトープの数と等しい数のC5a分子と接触させた場合に、上記の少なくとも75 %、好ましくは少なくとも80 %、より好ましくは少なくとも85 %等の遮断活性が達成される。換言すれば、本明細書に記載の結合部分のパラトープとC5aとが等モル濃度で存在する場合に、結合部分が、C5aによって誘導される生物学的効果に対して少なくとも75 %の遮断活性、好ましくは少なくとも80 %の遮断活性、より好ましくは少なくとも85 %の遮断活性、より好ましくは少なくとも90 %の遮断活性、より好ましくは少なくとも95 %の遮断活性を示す。遮断される好ましい生物学的効果は、C5aによって誘導されるヒト全血細胞からのリゾチーム放出である。このC5aによって誘導されるリゾチーム放出及びその遮断を決定するためのアッセイは、例えば国際公開第2011/063980号において記載されている。
【0104】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の好ましい実施形態では、結合部分は、ヒト血漿におけるCH50活性を阻害しない。CH50活性を決定するためのアッセイは、当業者に既知であり、例えば国際公開第2011/063980号において記載されている。
【0105】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の好ましい実施形態では、結合部分は、少なくとも1つのC5bによって誘導される生物学的効果に対して遮断活性を示さず、好ましくは、結合部分は、任意のC5bによって誘導される生物学的効果に対して遮断活性を示さない。
【0106】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の好ましい実施形態では、結合部分は、ヒト全血における大腸菌によって誘導されるIL-8産生を低減することが可能である。全血におけるIL-8産生を測定するためのアッセイは、当業者に既知であり、例えば国際公開第2011/063980号において記載されている。
【0107】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の好ましい実施形態では、結合部分は抗体であり、上記抗体がポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一価抗体、二重特異性抗体、ヘテロコンジュゲート抗体、多重特異性抗体、脱免疫化抗体、キメラ抗体、ヒト化(特にCDRグラフティングを行った)抗体及びヒト抗体からなる群から選択される。
【0108】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の好ましい実施形態では、結合部分は抗体の抗原結合断片であり、上記断片がFab断片、Fab'断片、F(ab')2断片、Fd断片、Fv断片、ジスルフィド結合したFv(dsFv)、単一ドメイン抗体(ナノボディとしても知られる)及び一本鎖Fv(scFv)抗体からなる群から選択される。
【0109】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の一実施形態において、結合部分は抗体又はその抗原結合断片であり、上記の抗体又はその抗原結合断片は、
(i)配列番号6に記載の重鎖CDR3配列、又は、
(ii)配列番号7に記載の重鎖CDR3配列を含み、
重鎖CDR3配列は任意に1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を含む。
【0110】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の一実施形態において、結合部分は、
(iii)配列番号8に記載の軽鎖CDR3配列、又は、
(iv)配列番号9に記載の軽鎖CDR3配列を含み、
軽鎖CDR3配列は任意に1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を含む、抗体又はその抗原結合断片である。
【0111】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の幾つかの実施形態において、結合部分は、
(i)配列番号6に記載の重鎖CDR3配列及び配列番号8に記載の軽鎖CDR3配列、又は、
(ii)配列番号7に記載の重鎖CDR3配列及び配列番号9に記載の軽鎖CDR3配列を含み、
重鎖CDR3配列は任意に1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を含み、
軽鎖CDR3配列は任意に1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を含む、抗体又はその抗原結合断片である。
【0112】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の一実施形態において、結合部分は、以下の配列:
(v)配列番号10に記載の重鎖CDR2配列、
(vi)配列番号11に記載の重鎖CDR2配列、
(vii)配列番号12に記載の軽鎖CDR2配列、
(viii)配列番号13に記載の軽鎖CDR2配列、
(ix)配列番号14に記載の重鎖CDR1配列、
(x)配列番号15に記載の重鎖CDR1配列、
(xi)配列番号16に記載の軽鎖CDR1配列、又は、
(xii)配列番号17に記載の軽鎖CDR1配列、
の少なくとも1つを含み、
重鎖CDR2配列は任意に1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を含み、
軽鎖CDR2配列は任意に1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を含み、
重鎖CDR1配列は任意に1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を含み、
軽鎖CDR1配列は任意に1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を含む、抗体又はその抗原結合断片である。
【0113】
好ましくは、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、及び配列番号17に記載のアミノ酸配列のそれぞれにおける上記のこれらの任意の変化の合計数、すなわち各配列の交換、欠失、及び付加の合計数は1又は2である。
【0114】
好ましくは、抗体又はその抗原結合断片に存在する全てのCDRに対して加えられた交換、欠失、及び付加の合計数は1~5(例えば、1、2、3、4又は5)である。
【0115】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の好ましい実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、以下の表1に列挙されるような重鎖CDR3配列、重鎖CDR2配列及び重鎖CDR1配列(ここで、各重鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各重鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各重鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)の組のうちの1つを含む。
【0116】
表1:本発明の抗体又はその断片における使用に好適な重鎖CDR配列の組
【表1】
【0117】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の好ましい実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、以下の表2に列挙されるような軽鎖CDR3配列、軽鎖CDR2配列及び軽鎖CDR1配列(ここで、各軽鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各軽鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各軽鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)の組のうちの1つを含む。
【0118】
表2:本発明の抗体又はその断片における使用に好適な軽鎖CDR配列の組
【表2】
抗体IFX-1の軽鎖CDR2配列(配列番号12)は抗体INab708の軽鎖CDR2配列(配列番号13)と同一であるため、配列番号13を含む組は配列番号12を含む組と重複すると考えられる。したがって、この表は4組の軽鎖CDR配列のみを列挙している。
【0119】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の好ましい実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、上の表1に列挙される重鎖CDRの組A~Hのうちの1つ、及び上の表2に列挙される軽鎖CDRの組I~IVのうちの1つ、すなわち以下の組の組合せ:A-I、A-II、A-III、A-IV、B-I、B-II、B-III、B-IV、C-I、C-II、C-III、C-IV、D-I、D-II、D-III、D-IV、E-I、E-II、E-III、E-IV、F-I、F-II、F-III、F-IV、G-I、G-II、G-III、G-IV、H-I、H-II、H-III又はH-IVのうちの1つを含む(ここでは、A-I及びH-IVの組合せが好ましい)(ここで、各重鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各重鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各重鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各軽鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各軽鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各軽鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)。
【0120】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の好ましい実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、(i)IFX-1のVHドメイン、又は(ii)INab708のVHドメインを含む、これから本質的になる、又はこれからなるVHドメインを含む。
【0121】
IFX-1及びINab708のVHドメインを規定するFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4の配列を以下の表3に示す。
【0122】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の好ましい実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、(i)IFX-1のVLドメイン、又は(ii)INab708のVLドメインを含む、これから本質的になる、又はこれからなるVLドメインを含む。
【0123】
IFX-1及びINab708のVLドメインを規定するFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4の配列を以下の表3に示す。
【0124】
表3:抗体IFX-1及びINab708のCDR及びFR配列(Chothia分類様式)
【表3】
【0125】
以下の「実施例」の欄において更に説明されるように、IFX-1は、ドイツのInflaRx GmbHにより開発されたキメラヒト/マウスモノクローナルIgG4抗体である。IFX-1は国際公開第2011/063980号に記載のマウスモノクローナル抗体INab308に由来する。IFX-1はINab308と同じ重鎖可変領域及び同じ軽鎖可変領域を有する。INab708は本質的にINab308及びIFX-1と同じ立体構造エピトープを標的とするマウスモノクローナル抗体であり、国際公開第2011/063980号にも記載されている。
【0126】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の更に好ましい実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、VHドメイン及びVLドメインを含み、
(i)上記VHドメインはIFX-1のVHドメインを含み、これから本質的になり、若しくはこれからなり、上記VLドメインはIFX-1のVLドメインを含み、これから本質的になり、若しくはこれからなり、又は、
(ii)上記VHドメインはINab708のVHドメインを含み、これから本質的になり、若しくはこれからなり、上記VLドメインはINab708のVLドメインを含む、これから本質的になる、若しくはこれからなる。
【0127】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の好ましい実施形態では、本明細書に記載されるような1つ又は複数のCDR、CDRの組、又はCDRの組の組合せを含む抗体又はその抗原結合断片は、ヒト抗体のフレームワークにおいて上記CDRを含む。
【0128】
本明細書中における、その重鎖に関して特定の鎖、又は特定の領域若しくは配列を含む抗体に対する言及は、好ましくは、上記抗体の全ての重鎖が上記特定の鎖、領域又は配列を含む状況に関する。このことは、抗体の軽鎖にも同様に適用される。
【0129】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の幾つかの実施形態において、結合部分はオリゴヌクレオチドである。これらの実施形態において、オリゴヌクレオチドは核酸アプタマー、例えばDNAアプタマー若しくはRNAアプタマー又はDNAヌクレオチド及びRNAヌクレオチドを含む混合アプタマーであることが更に好ましい。幾つかの実施形態において、1つ又は複数のヌクレオチドを修飾ヌクレオチド、例えば2'-フッ素-置換ピリミジンに置き換えることができる。核酸アプタマーはまた蛍光レポーター分子、アフィニティータグ及び/又は高分子と結合させることができる。例えば、アプタマーをポリエチレングリコール(PEG)に、又は同等の高分子に結合させることは、アプタマーの生物学的半減期を増長させる。
【0130】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の幾つかの実施形態において、結合部分は抗体様タンパク質、例えば上記の「定義」の欄において例示した抗体様タンパク質である。
【0131】
本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様又は第4の態様の幾つかの実施形態において、結合部分はペプチド模倣物である。本発明の実施に好適なペプチド模倣物は上記の抗体様タンパク質系であることが好ましい。
【0132】
特定の核酸配列及びアミノ酸配列、例えば配列表に示される核酸配列及びアミノ酸配列に関して本明細書において提示される教示は、上記特定の配列と機能的に同等である配列、例えば該特定のアミノ酸配列の特性と同一又は類似の特性を示すアミノ酸配列、及び該特定の核酸配列によってコードされるアミノ酸配列の特性と同一又は類似の特性を示すアミノ酸配列をコードする核酸配列をもたらす修飾された上記特定の配列(modifications of said specific sequences)に関するようなものとしても解釈される。1つの重要な特性は、その標的に対する抗体の結合を保持すること、又は抗体のエフェクター機能を維持することである。好ましくは、特定の配列に対して修飾された配列は、抗体における特定の配列を置き換えた場合、C5a、特に本明細書中で特定されるC5aの立体構造エピトープに対する上記抗体の結合を保持し、好ましくは、本明細書に記載されるような上記抗体の機能、例えばC5aによって誘導されるヒト全血細胞からのリゾチーム放出の遮断、及び/又はヒト全血における大腸菌によって誘導されるIL-8産生の低減を保持する。
【0133】
C5aと結合する能力を失わなければ、特にCDR超可変領域及び可変領域の配列を修飾してもよいことを、当業者は理解するであろう。例えば、CDR領域は、本明細書において記載される領域と同一又は高度に相同である。「高度に相同」は、CDRにおいて1個~5個、好ましくは1個~4個、例えば1個~3個、又は1個若しくは2個の交換、特に保存的交換、欠失及び/又は付加がなされてもよいことを意図する。加えて、超可変領域及び可変領域を、本明細書において具体的に開示される領域と実質的な相同性を示すように修飾してもよい。
【0134】
さらに、本発明によれば、本明細書に記載されるアミノ酸配列、特にヒト重鎖定常領域のアミノ酸配列を修飾して、該配列を所望のアロタイプ、例えば白人集団又は中国人集団に見出されるアロタイプに適合させることが望ましい場合がある。
【0135】
本発明は、抗体の機能特性又は薬物動態特性を変化させるためにFc領域に変化を加えた抗体を更に含む。かかる変化によって、C1q結合及びCDC、又はFcγR結合及びADCC(抗体依存性細胞傷害)の減少又は増大をもたらすことができる。例えば、重鎖定常領域のアミノ酸残基の1つ又は複数において置換を行うことによって、変更した抗体と比較して、抗原と結合する能力を保持しながらエフェクター機能の変化を引き起こすことができる(米国特許第5,624,821号及び米国特許第5,648,260号を参照されたい)。
【0136】
抗体のin vivo半減期を、Ig定常ドメイン又はIg様定常ドメインのサルベージ受容体エピトープを変更して、該分子がインタクトなCH2ドメイン又はインタクトなIg Fc領域を含まないようにすることによって、改善することができる(米国特許第6,121,022号及び米国特許第6,194,551号を参照されたい)。さらに、in vivo半減期を、Fc領域中に突然変異を起こすことによって、例えば252位のロイシンをトレオニンに置換することによって、254位のセリンをトレオニンに置換することによって、又は256位のフェニルアラニンをトレオニンに置換することによって増大させることができる(米国特許第6,277,375号を参照されたい)。
【0137】
さらに、抗体のエフェクター機能を変化させるために、抗体のグリコシル化パターンを変更することができる。例えば、Fc受容体に対するFc領域の親和性を増強してNK細胞の存在下における抗体のADCC(抗体依存性細胞傷害)の増大をもたらすために、Fc領域の297位のAsnに通常結合しているフコース単位を付加しないトランスフェクトーマにおいて、抗体を発現させることができる(Shield et al. (2002) J. Biol. Chem., 277: 26733-40を参照されたい)。さらに、ガラクトシル化の変更を、CDC(補体依存性細胞傷害)を変更するために行うことができる。
【0138】
代替的には、別の実施形態では、突然変異を、例えば飽和突然変異誘発によって、抗C5a抗体をコードする配列の全て又は一部に沿ってランダムに導入することができ、得られる変更された抗C5a抗体を、結合活性に関してスクリーニングすることができる。
【0139】
本発明の任意の態様の実施において、当技術分野において確立されている任意の経路により、患者において十分なC5aの阻害剤濃度となる、本明細書に記載の医薬組成物又はC5aの阻害剤(例えば、本明細書に記載のC5a、特にhC5aに特異的に結合する結合部分)を患者に投与することができる。医薬組成物又はC5aの阻害剤を、全身的に又は局所的に投与することができる。かかる投与は、非経口的に、経粘膜的に、例えば、経口的に、経鼻的に、経直腸的に、膣内投与により、舌下投与により、粘膜下投与により、経皮投与により、又は吸入により行われ得る。好ましくは、投与は、例えば静脈内注射又は腹腔内注射を介した、非経口投与であり、動脈内投与、筋肉内投与、皮内投与及び皮下投与も含むがこれらに限定されない。本発明の医薬組成物を局所的に投与する場合、該医薬組成物を治療対象の器官又は組織に直接注射することができる。
【0140】
経口投与に適した医薬組成物は、カプセル若しくは錠剤として、粉末若しくは顆粒として、溶液、シロップ若しくは懸濁液(水性液体又は非水性液体中の)として、可食性の泡若しくはホイップとして、又は乳濁液として提供することができる。錠剤又は硬ゼラチンカプセルは、ラクトース、デンプン又はその誘導体、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、ステアリン酸又はその塩を含んでいてもよい。軟ゼラチンカプセルは、植物油、ワックス、脂肪、半固体又は液体のポリオール等を含んでいてもよい。溶液及びシロップは、水、ポリオール及び糖を含んでいてもよい。
【0141】
経口投与を意図した活性作用剤は、胃腸管中で活性作用剤の崩壊及び/又は吸収を遅延化する材料でコーティングしてもよく、又はこれと混和してもよい(例えば、モノステアリン酸グリセリン又はジステアリン酸グリセリンを使用することができる)。したがって、活性作用剤の持続放出を長時間にわたって達成することができ、必要に応じて、活性作用剤を胃内における分解から保護することができる。経口投与のための医薬組成物は、特定のpH又は酵素的条件による特定の胃腸位置での活性作用剤の放出を促進するように配合することができる。
【0142】
経皮投与に適した医薬組成物を、長期間にわたりレシピエントの表皮と密に接触した状態とすることを意図する分離型のパッチとして提供することができる。局所投与に適した医薬組成物を、軟膏、クリーム、懸濁液、ローション、粉末、溶液、ペースト、ゲル、噴霧剤、エアロゾル又はオイルとして提供することができる。皮膚、口、眼又は他の外部組織への局所投与のために、局所用の軟膏又はクリームを使用することが好ましい。軟膏において配合する場合、活性成分をパラフィン系軟膏基剤又は水混和性軟膏基剤とともに利用することができる。代替的には、活性成分を、水中油型基剤又は油中水型基剤を含むクリーム中で配合することができる。眼に対する局所投与に適した医薬組成物は、点眼剤を含む。これらの組成物では、活性成分を、好適な担体、例えば水性溶媒に溶解又は懸濁することができる。口における局所投与に適した医薬組成物は、ロゼンジ、トローチ及び洗口剤を含む。
【0143】
経鼻投与に適した医薬組成物は、固体担体、例えば粉末(好ましくは、20ミクロン~500ミクロンの範囲の粒子径を有する)を含んでいてもよい。粉末を、嗅ぎタバコを吸うような形で、すなわち、鼻の近くに保持した粉末の容器からの鼻での急速な吸入によって投与することができる。代替的には、経鼻投与に適した(adapted)組成物は、例えば、経鼻噴霧剤又は点鼻剤のように、液体担体を含んでいてもよい。これらの組成物は、活性成分の水溶液又は油溶液を含んでいてもよい。吸入による投与用の組成物を、所定の投与量の活性成分をもたらすように構築することができる加圧エアロゾル、ネブライザ又は吸入器を含むがこれらに限定されない特に適した装置において供給することができる。好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物を、鼻腔を介して肺へと投与する。
【0144】
非経口投与に適した医薬組成物は、水性及び非水性の無菌の注射用溶液又は懸濁液を含み、これらは抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び組成物を対象のレシピエントの血液と実質的に等張にする溶質を含有していてもよい。かかる組成物中に存在していてもよい他の成分は、例えば、水、アルコール、ポリオール、グリセリン及び植物油を含む。非経口投与に適した組成物は、単位用量又は複数用量の容器、例えば封止アンプル及びバイアルにおいて与えることができ、使用直前に無菌液体担体、例えば注射用無菌生理食塩溶液を添加するだけでよいフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存することができる。即時注射溶液及び懸濁液を、無菌の粉末、顆粒及び錠剤から調製することができる。
【0145】
好ましい実施形態では、組成物を、日常的な手法に従って、ヒトへの静脈内投与に適した医薬組成物として配合する。典型的には、静脈内投与用の組成物は、無菌の等張水性緩衝液中の溶液である。必要に応じて、組成物は、可溶化剤、及び注射部位における疼痛を緩和するための局所麻酔薬、例えばリドカインを含んでいてもよい。概して、成分は、別々に、又は単位投与形態中に混合して、例えば活性作用剤の量を示した気密封止容器、例えばアンプル又は小袋(sachette)中における乾燥凍結乾燥粉末又は水を含まない濃縮物として、供給される。組成物を注入によって投与する場合、該組成物を、無菌の医薬品グレードの水又は生理食塩水を含有する注入ボトルを用いて分注することができる。組成物を注射によって投与する場合、無菌生理食塩水のアンプルを、投与前に成分を混合することができるように提供することができる。
【0146】
別の実施形態では、例えば、本明細書に記載のC5a阻害剤等の薬剤を、制御放出システムにおいて送達することができる。例えば、阻害剤を、静脈内注入、埋込み型浸透圧ポンプ、経皮パッチ、リポソーム、又は他の投与様式を使用して投与することができる。一実施形態では、ポンプを使用することができる(Sefton (1987) CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14: 201-240、Buchwald et al. (1980) Surgery 88:507-516、Saudeket al. (1989) N. Eng. J. Med. 321: 574-579を参照されたい)。別の実施形態では、化合物を、小胞、特にリポソームにおいて送達することができる(R. Langer (1990) Science 249:1527-1533、Treatet al. (1989) in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer,Lopez-Berestein and Fidler (eds.), Liss, N.Y., 353-365、国際公開第91/04014号、米国特許第4,704,355号を参照されたい)。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる(Medical Applications of Controlled Release (1974) Langer and Wise(eds.), CRC Press: Boca Raton, Fla.、Controlled DrugBioavailability, Drug Product Design and Performance, (1984) Smolen and Ball(eds.), Wiley: N.Y.、Ranger and Peppas (1953) J.Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23: 61を参照されたい。Levyet al. (1985) Science 228:190、During et al. (1989) Ann.Neurol. 25: 351、Howard et al. (1989) J. Neurosurg. 71:105も参照されたい)。
【0147】
更に別の実施形態では、制御放出システムを、治療標的、すなわち標的細胞、標的組織又は標的器官の近くに配置することによって、全身用の用量の一部しか必要でないものとすることができる(例えば、Goodson (1984) 115-138 in Medical Applications of ControlledRelease, vol. 2を参照されたい)。他の制御放出システムが、Langerによる概説(1990, Science 249: 1527-1533)において論じられている。
【0148】
特定の実施形態では、本発明の医薬組成物又はC5a阻害剤を、治療を必要とする領域に対して局所的に投与することが望ましい場合がある。これは、例えば、限定するものではないが、外科処置時の局所注入、局所塗布(例えば、外科処置後の創傷被覆と組み合わせて)によって、注射によって、カテーテルを用いて、坐剤を用いて、又は膜、例えばシラスチック膜、若しくは繊維を含む多孔質、非多孔質若しくはゼラチン質の材料のものであるインプラントを用いて、達成することができる。
【0149】
好ましい有効用量の選択は、当業者に既知である複数の因子の検討に基づいて、当業者によって決定される。かかる因子は、薬学的化合物に対する規制認可を取得する際に典型的に利用される通常の開発手順において確立されている、医薬組成物の特定の形態、例えばポリペプチド又はベクター、及びその薬物動態パラメータ、例えば生物学的利用能、代謝、半減期等を含む。用量を検討する際の更なる因子は、予防及び/又は治療すべき病態若しくは疾患、又は正常な個体において達成すべき利益、患者の体重、患者の年齢、投与経路、投与が急性であるか若しくは慢性であるか、併用薬、並びに投与される薬学的作用剤の有効性に影響を及ぼすことが知られている他の因子を含む。したがって、正確な投与量は、施術医の判断及び各患者の状況によって、例えば標準的な臨床技法によって、個々の患者の病態及び免疫状態に応じて、決定するものとする。
【0150】
以下の図及び実施例は、単に本発明を例示するものであり、添付の特許請求の範囲によって示されるような本発明の範囲を限定するものとは決して解釈されないものとする。
【実施例
【0151】
1. 材料及び方法
1.1 倫理に関する陳述
動物を含む全ての手法は、実験動物センター、病原体及びバイオセキュリティ国家重点実験室、北京微生物学及び疫学研究所(the Laboratory Animal Center, State Key Laboratory of Pathogen andBiosecurity, Beijing Institute of Microbiology and Epidemiology)のIACUCにより承認された(許可番号はBIME2013-15である)。動物試験は、実験動物の管理及び使用に関するガイドの推奨に従い厳密に行われた。
【0152】
1.2 H7N9ウイルス感染のアフリカミドリザルモデル
本試験において12頭の2歳齢~4歳齢の若年成体のアフリカミドリザル(AGM)が使用され、生存ウイルス及び生存ウイルスの混入の可能性のある生物学的試料を取り扱う実験は全てバイオセーフティーレベル3の実験室において行われた。ケタミン(5mg/kg)の腹腔内(i.p.)注射による麻酔後に、10頭のAGMにA/Anhui/1/2013(H7N9)ウイルス(106のTCID50)を気管から接種し、陰性対照として、2頭のAGMに同容量のPBSを気管から接種した。ウイルスを接種した10頭のAGMの内4頭に、ウイルス接種後に30分間静脈内から抗C5aモノクローナル抗体(IFX-1;5mg/kg)を処置した(H7N9+抗C5a Ab群)。10頭のAGMの内6頭には対照としてPBSを処置した(H7N9+PBS群)。感染後3日目及び7日目にH7N9+PBS群の3頭のサル及びH7N9+抗C5a抗体群の2頭のサルからそれぞれ試料を採取した。正常対照の試料を3日目に採取した。ヘパリン処理した(Heparin)血漿及び血清を全動物から0日、1日、3日、5日、7日目に採取し、分析まで-70℃にて保存し、補体の活性化生成物又はサイトカインの濃度を評価するために使用した。
【0153】
感染後3日目に動物をケタミン麻酔下において失血させ、安楽死させた。麻酔後、AGMの体温をモニタリングし、鼻腔用スワブ(swabs:綿棒)及び咽頭用スワブを回収し、100 IUのペニシリン/ml及び100μgのストレプトマイシン/mlを補充した1 mlのダルベッコ改変イーグル培地に入れた。スワブを、TCID50分析を行うまで-70℃にて保存した。標準的なプロトコルに従い剖検を行った。肉眼的病理の半定量的評価において、各肺葉の剖検時に、罹患した肺組織の割合を各肺葉の浸潤影及び暗赤色に変色した面積により算出し、肉眼的病理学スコアを決定した。逆転写(RT)-PCR用に、試料をRNA保存液(Tiangen Biotech Co., Ltd)に4℃にて一晩保存した後、RT-PCR分析を行うまで-70℃にて保存した。組織病理学試験において、気管、前葉、中葉、及び後葉の肺組織、肝臓、脾臓、腎臓、腸、脳、並びにリンパ節を10 %の中性緩衝ホルマリンに一晩懸濁させ、パラフィンで包埋し、4 ?mに薄片化し、ヘマトキシリンエオジン(H&E)で染色し、免疫組織化学検査に使用した。
【0154】
1.3 肺損傷の組織病理学的分析
肺を摘出し、標準的な手法において肺の前葉、中葉、及び後葉から試料採取した。4 ?mの厚さの切片をヘマトキシリンエオジン(H&E)で染色し、光学顕微鏡により試験した。気管及び気管支病変を粘膜下層膜の上皮変性及び炎症性細胞浸潤の範囲に従い評価した。実質の損傷を上皮変性、肺胞細胞の退行及び壊死、炎症性細胞の浸潤及び実質壁の拡大、出血並びに間質浮腫に従い分析した(Sun, S. et al. 2011, Am J Respir Cell Mol Biol;18:834-842)。退行又は炎症の大きさ及び重症度の累積スコアが1動物当たりの合計スコアとなり、その平均をその群の合計スコアとした。
【0155】
1.4 マクロファージ及び好中球に対する免疫組織化学染色
ホルマリン固定し、パラフィン包埋した肺切片を、キシレンを用いて、脱パラフィン処理し、段階的アルコール(gradedalcohol)を用いて水和させた。マクロファージ、好中球、及びTリンパ球の浸潤を、以下の抗体:CD68及びミエロペルオキシダーゼ(MPO)(Beijing Zhongshan Biotechnology Co., Ltd., China)を用いて評価した。製造業者の説明書に従い、標準的なストレプトアビジン-ビオチン検出システム(Beijing Zhongshan Biotechnology Co., Ltd., Beijing, China)を用いて、抗体を検出した。
【0156】
マクロファージ及び好中球の浸潤の半定量的評価として、30~50の任意に選択された40×の対物視野数にて、盲検下において各肺切片の肺実質のマクロファージ又は好中球の存在を光学顕微鏡により試験した。各動物に対する累積スコアを100視野当たりの明視野数(%)として表した(非特許文献16)。
【0157】
1.5 IFX-1濃度及びCD11bアッセイの測定
サル血漿試料のIFX-1濃度をドイツのInflaRxGmbHにより提供された標準的な酵素免疫吸着アッセイ(ELISA)により測定した。CD11bアッセイを使用し、ヒト及びサルの遮断効率を評価した。すなわち、ヒト又はサルの血液を血漿又はザイモン活性化血漿(ZAP;内因性C5aであるeC5aを含有)を用いて刺激した。様々な濃度のIFX-1及び対照ヒトIgG4抗体(Sigma、米国、ウィスコンシン州)をアッセイに添加し、抗体及びeC5aをプレインキュベーションせずにIFX-1遮断活性を決定し、また、ドイツのInflaRx GmbHにより提供されたELISAキットによりeC5a濃度を測定した。刺激後、抗マウスのCD11b:FITC又はアイソタイプ対照mAb(BDBioscience、米国、ニュージャージー州)を添加し、インキュベーションした。赤血球の溶解工程直後に、ゲーティングした顆粒球のCD11b発現をBD FACSCanto(商標)IIフローサイトメーターにより分析した。FITC標識した顆粒球の平均蛍光強度(MFI)を使用し、CD11b発現レベルを試験した。
【0158】
1.6 血漿中の炎症性サイトカイン及びC3a、C5a、C5b-9の測定
感染したAGMの血清試料又は血漿試料を表示の時間に採取し、測定まで-70℃にて保存した。IL-1β、IL-6、IFN-γ、TNF-α、MCP-1、及びIP-10のサイトカイン濃度を、U-CyTech biosciences又はUscn life science Inc製のサル用ELISAキットを用いて測定した。C3a及びC5b-9濃度をBDbiosciencesのヒト用ELISAキットを用いて測定し、またC5a ELISAは、ドイツ、イエナのInflaRx GmbHにより提供された。つまり、希釈されたAGM血清又は血漿100 ?lを、個々のAGMのサイトカイン、MPO、C3a、C5a、及びC5b-9に特異的な抗体で予めコーティングしたプレートに添加し、4℃にて一晩インキュベーションした。洗浄後、酵素結合した特異的抗体を添加し、37℃にて1時間インキュベーションした。プレートを洗浄後、基質溶液を添加し、37℃にて30分間インキュベーションした。TMBを用いてアッセイを行い、1NのH2SO4を添加することにより反応を停止させた。ELISAプレートリーダー(Synergy 2, Bio Tek)により450 nmでの吸光度を測定し、AGMのサイトカイン又はC3a、C5a、及びC5b-9の量を、測定により得られた標準曲線から決定した。
【0159】
1.7 C3aR mRNA、C5aR mRNA及びMASP2の発現の検出
全RNAをAGMの前葉、中葉、及び後葉の肺組織から単離し、相対定量的リアルタイムRT-PCRを行った。相対的C3aR、C5aR及びマンノース結合タンパク質関連セリンプロテアーゼ2(MASP2)の発現データを2-ΔΔCT法(Livak, K.J. & Schmittgen T.D. 2001.Methods 25:402-408)を用いて分析した。
【0160】
1.8 組織のウイルス価
被感染AGMそれぞれの気管支と左右の肺それぞれの前葉、中葉、及び後葉の肺組織の6つの試料とを表示の時間に回収し、OMNI BEAD RUPTOR 24組織グラインダー(OMNI International, INC.)を用いて最小必須培地(MEM)及び抗生物質とともにホモジナイズし、10 %(w/v)懸濁液を得た。50 %組織培養感染量(TCID50)により、記載(Zhao, G. et al. 2010. VirologyJournal, 7:151-156)の通りに組織のウイルス価を決定した。つまり、MDCK細胞の単層にAGMの器官の10倍連続希釈したホモジネートを4回接種した。接種の2時間後、上清を除去し、MEM、抗生物質、及び2 μg/mlのTPCK-トリプシン(Sigma)と交換した。ウイルス細胞変性効果(CPE)を3日間観察した後に、細胞の感染を、0.5 %シチメンチョウ赤血球を用いた血球凝集活性により示した。組織ウイルス価をリードミュンヒの方法により算出し、組織のLog10TCID50/gとして表した。
【0161】
1.9 統計分析
ウェルチのt検定にて補正したステューデントのt検定を、マクロファージ数及び好中球数のRT-PCR分析、半定量的組織病理学的分析、肺ウイルス価検出、及び半定量的分析のデータ比較に使用した。C3a、C5a、及びC5b-9の血漿濃度及びヒトeC5aに対するIFX-1の遮断活性のデータを、一元配置分散分析及びダネットのポスト検定を用いて比較した。表示の時間点での群間の温度変化並びに炎症性サイトカイン及びケモカインの差を、二元配置分散分析及びボンフェローニのポスト検定を用いて比較した。0.05より小さいP値は、統計的に有意であるとみなした。データは平均値±s.e.m.として表している。全ての分析は、Graphpad Prismバージョン5.01にて行われた。
【0162】
2. 結果
2.1 IFX-1及びその生物学的活性
IFX-1は、ドイツのInflaRx GmbHにより開発されたキメラヒト/マウスモノクローナルIgG4抗体である。抗体はCHO(チャイニーズハムスターの卵巣)細胞株により産生されたIgG4κ抗体であり、マウス重鎖及びκ軽鎖可変(VH及びVL)領域とヒトγ4重鎖及びκ軽鎖定常領域とからなる。InflaRx GmbHにより開示されたように、IFX-1はサル毒物学的試験及びヒトI相試験において試験されており、更なる臨床試験において良好な安全プロファイルを示している。
【0163】
8名の異なるドナー由来のヒトZAP試料から生成された内因性C5a(eC5a)を用いたCD11bアッセイによりIFX-1遮断活性を試験した。図1Aに示されるように、IFX-1は、0.5:1のAb:Agのモル比で80 %を超えることで、ヒト顆粒球のCD11b発現を有意に低下させた。eC5a誘導性CD11b上方調節におけるIFX-1の遮断活性は、Ab:Ag比が1:1及び2:1であるときに、最大98 %に達した。
【0164】
サルC5aに対する遮断活性も、サルZAP及びサル全血を用いてZAP-CD11bアッセイにより試験した。IFX-1はサル顆粒球におけるZAP誘導性CD11b上方調節を100%遮断することが可能であり(図1B)、IFX-1がサルeC5aに対する完全な機能的遮断抗体であることを示す。
【0165】
H7N9ウイルス感染のサルモデルにおいて、IFX-1の5 mg/kg用量を静脈投与し、4頭の被感染サルを処置した後、その濃度を薬物動態アッセイによりモニタリングした。処置の1日後に4頭の被処置サルにおいて認められたIFX-1はおよそ40 μg/mlであり、残した2頭のサルの7日目のIFX-1の濃度は約10 μg/mlに低下した(図1C)。これらのデータは、IFX-1がサルeC5aを遮断するよう完全に機能し、処置に適用した用量がこのモデルにおいて十分であることを示している。
【0166】
2.2 H7N9ウイルス感染アフリカミドリザル(AGM)の発生機序
H7N9ウイルスの発生機序及びウイルス感染に対する宿主の免疫応答を検討するために、8頭のAGMにH7N9ウイルス(AH1/H7N9)を感染させ、2頭のAGMに偽薬を処置した。3頭の動物を3日目に安楽死させ、更なる3頭の動物を7日目に安楽死させ、残りの2頭の動物を感染後14日目に安楽死させた。肺、気管、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、脳、及び腸をH7N9ウイルス感染AGMから摘出し、ウイルス単離のためホモジナイズした。感染後3日目にウイルスは肺及び気管から単離されたが、他の組織ホモジネートからは単離されなかった(表4)。7日目及び14日目では、ウイルスは採取したどの組織からも単離することはできなかった。AGM血清血球凝集阻止(HI)価を感染後7日目に検出し、14日目のHI価は1:80~1:160であった(表4)。ウイルス学的及び血清学的試験によりAGMがH7N9ウイルスに効果的に感染したことが証明された。
【0167】
表4.組織ウイルス単離及び血清HI価
【表4】
【0168】
更なる顕微鏡観察において(データは図示せず)、肺の損傷ピークはH7N9ウイルス感染後3日目に観察され、その後徐々に回復した。3日目に、PBSを接種した対照群と比較したときに、気管が多病巣性となる気管支腺炎(bronchadenitis)が被感染肺において観察され、気管の粘膜下層膜の上皮変性並びにリンパ球、マクロファージ、好中球、及び場合により好酸球の中等度浸潤を特徴とした。H7N9ウイルスに感染した肺に認められる病変は急性の滲出性びまん性肺損傷であり、これは細気管支及び終末細気管支の上皮の変性及び虚脱、リンパ球、マクロファージ及び好中球の浸潤を伴う肺胞中隔のびまん及び肥厚、肺細胞の変性及び虚脱、及び肺間質の多発性出血、滲出液、並びに重度浮腫を特徴とした。内皮は多数の炎症性細胞の付着及び基底膜の損傷を伴い変性した。超微細構造観察により、ミトコンドリアの腫脹及び小胞体の変性を伴う肺の上皮細胞の退行、肺胞空間への細胞片の剥落を伴う血液ガス関門の損傷、及び間質浮腫における炎症性細胞浸潤(データは図示せず)が示された。
【0169】
脳、心臓、腸、脾臓、及び腎臓を含む試験した他の器官全てにおいて、脾臓は、赤髄の食細胞数の軽度の増加及び脾動脈のカフ(cuff)並びに赤髄の充血及び限局性出血(データは図示せず)を伴うH7N9ウイルス感染後の或る特定レベルの組織病理学的変化を示す唯一の器官であった。脳、腸、及び腎臓等の他の器官に認められる損傷はなかった。
【0170】
2.3 H7N9ウイルス感染後の肺の補体の活性化
補体の活性化が病原体の侵入に対する防御に対して中枢の役割を果たすが、これまでに積み重ねてきた研究から、過度の補体の活性化が種々の自己免疫及び炎症性疾患と関連することが示された(非特許文献9)。本試験において、リアルタイムRT-PCR分析により、C3aR、C5aR、及びMASP2の発現の転写レベルがH7N9ウイルス感染の1日目に有意に上方調節された(図2A図2B、及び図2C)。さらに、AGMの血漿試料中の主要な補体の活性化産物であるC3a、C5a、及びC5b-9の濃度は、H7N9ウイルス感染後に顕著に上昇した。C3a及びC5b-9は、1日目~5日目の全ての時間点にて高濃度を維持する一方、C5a濃度は1日目及び3日目に有意に増加し、5日目に基礎濃度近くまで戻った(図2D図2E及び図2F)。さらに、肺切片、特に重度の炎症を伴う細気管支上皮及び組織におけるC3aR及びC5aRのタンパク質発現の亢進は、H7N9ウイルス感染後の免疫組織化学染色によって示された(データは図示せず)。補体の活性化の別の指標であるC3c染色もH7N9ウイルス感染後3日目のAGMの肺での沈着が増加したことを示した(データは図示せず)。これらのデータは、補体系がH7N9感染後に循環系及び肺において広く活性化していることを示した。
【0171】
2.4 H7N9ウイルス感染により誘導されたALIの臨床徴候を軽減する抗C5a抗体治療
H7N9ウイルス感染誘導性肺損傷の発生機序における補体の活性化の役割を検討するため、抗C5a抗体のIFX-1(5 mg/kg)をウイルス感染直後に被感染AGMに静脈内注射した。肉眼的病理検査では、AGMの被感染肺に多発性浸潤影及び暗赤色の変色が示され、肺の背部表面に最も広がりを示したが、抗C5aを用いて処置した被感染AGM由来の肺では、暗赤色の変色がほとんどないほぼ正常な様相が示されたことが明らかになった(データは図示せず)。組織病理学的分析は、全ての被感染AGMが軽度又は多病巣性気管支間質肺炎を伴う或る程度の肺損傷を発症したことを示した。しかし、肺病理検査では、抗C5a処置を行った被感染AGM由来の肺は明らかに改善している。感染後3日目に、未処置のAGMは、気管支の上皮細胞の落屑を伴う広範囲の多病巣性肺病変、肺胞上皮の退行及び壊死、大量の間質浮腫、多発性出血及び強度の炎症性浸潤を示したが、抗C5a処置した被感染AGMにおいて、間質浮腫の少ない実質壁の軽度から中等度の拡大、非常に少数の炎症性細胞浸潤物及び明らかに低度の肺損傷が示されている(データは図示せず)。肺損傷は処置群及び非処置群の両方において、3日目のものより7日目のものが軽度に見えるが、気管支上皮細胞及び肺細胞の退行、間質、特に血管周囲の浮腫は、7日目の処置AGMのものより未処置のAGMにおいてより重度であった(データは図示せず)。感染後3日目に得られたAGM肺における半定量的組織分析により、肺組織病理学的損傷スコアはIFX-1治療によりかなり軽減したことが示された(図3A)。
【0172】
IFX-1抗体を用いて処置したAGMでは、非処置AGMのものに比べたときにH7N9ウイルス感染後の体温の変動が小さいことが示された(図3B)。驚くべきことに、ホモジナイズした肺組織のウイルス価の結果は、被処置のAGMの平均肺ウイルス価が、未処置のAGMに比べて低いおよそ1.8 logであり(p<0.01)(図3C)、これは、ウイルス複製が抗C5a抗体処置後に何らかの形で減少したことを示した。
【0173】
2.5 AGMにおけるH7N9ウイルス感染により引き起こされた炎症応答を減少させる抗C5a抗体治療
AGMのH7N9ウイルス感染により引き起こされた炎症応答に対する補体の活性化の役割を更に決定するために、炎症性サイトカイン及びケモカイン、並びにマクロファージ及び好中球の浸潤を、IFX-1抗体処置した又は処置していないH7N9ウイルス感染AGMにおいて評価した。図4に示されるように、本試験において試験した炎症性伝達物質は全て、感染後に有意に上昇した。IL-1β、IP-10、及びMCP-1は感染後1日目にしてすぐに発現のピークに達した一方で、IL-6、TNF-α、及びIFN-γは3日目に発現のピークを示し、全ての伝達物質のレベルは5日目に低下した。これらの炎症性伝達物質の全体の発現レベルは、抗C5a処置したサルにおいて有意に妨げられたようである。
【0174】
マクロファージ及び好中球の浸潤を、感染3日後に作製したAGMの肺組織切片におけるCD68及びMPOの発現の免疫組織化学染色から測定した(データは図示せず)。データは、被感染肺において好中球及びマクロファージがともに顕著に増加し、浸潤の程度は肺の病変と正の相関を示したことが示された。しかし、炎症性浸潤物、特に好中球の数は、非処置AGMと比べたときに、IFX-1処置のサルの肺において有意に低下した(図4G図4H)。総じて、データは、ALI及びH7N9ウイルス感染により引き起こされた全身の炎症に対する抗C5a処置の有効な治療効果を確かなものにした。
【配列表フリーテキスト】
【0175】
配列番号6 IFX-1 CDR3重鎖
配列番号7 INab708 CDR3重鎖
配列番号8 IFX-1 CDR3軽鎖
配列番号9 INab708 CDR3軽鎖
配列番号10 IFX-1 CDR2重鎖
配列番号11 INab708 CDR2重鎖
配列番号12 IFX-1 CDR2軽鎖
配列番号13 INab708 CDR2軽鎖
配列番号14 IFX-1 CDR1重鎖
配列番号15 INab708 CDR1重鎖
配列番号16 IFX-1 CDR1軽鎖
配列番号17 INab708 CDR1軽鎖
配列番号18 IFX-1 FR1重鎖
配列番号19 IFX-1 FR2重鎖
配列番号20 IFX-1 FR3重鎖
配列番号21 IFX-1 FR4重鎖
配列番号22 IFX-1 FR1軽鎖
配列番号23 IFX-1 FR2軽鎖
配列番号24 IFX-1 FR3軽鎖
配列番号25 IFX-1 FR4軽鎖
配列番号26 INab708 FR1重鎖
配列番号27 INab708 FR2重鎖
配列番号28 INab708 FR3重鎖
配列番号29 INab708 FR4重鎖
配列番号30 INab708 FR1軽鎖
配列番号31 INab708 FR2軽鎖
配列番号32 INab708 FR3軽鎖
配列番号33 INab708 FR4軽鎖
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4-1】
図4-2】
【配列表】
0007041708000001.app