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特許7041710鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金、はんだボール、Ball Grid Arrayおよびはんだ継手
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  • 特許-鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金、はんだボール、Ball  Grid  Arrayおよびはんだ継手 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金、はんだボール、Ball Grid Arrayおよびはんだ継手
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/26 20060101AFI20220316BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20220316BHJP
   H05K 3/34 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
B23K35/26 310A
C22C13/00
H05K3/34 512C
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020080471
(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公開番号】P2021171812
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2020-05-28
【審判番号】
【審判請求日】2021-05-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180426
【弁理士】
【氏名又は名称】剱物 英貴
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 岳
(72)【発明者】
【氏名】須藤 皓紀
(72)【発明者】
【氏名】須佐 舞
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-105750(JP,A)
【文献】特公平3-28996(JP,B2)
【文献】特開2009-151898(JP,A)
【文献】特許第5296269(JP,B1)
【文献】特開2002-20807(JP,A)
【文献】特開2010-120030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K35/26
C22C13/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、1~23%のInと、0.001~0.08%のGeと、残部がSnおよび不可避的不純物からなる合金組成を有する鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金。
【請求項2】
前記合金組成のIn含有量が、質量%で16~2%である、請求項1に記載の鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金。
【請求項3】
前記合金組成のGe含有量が、質量%で0.005~0.01%である、請求項1または2に記載の鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金。
【請求項4】
前記合金組成のGe含有量が質量%で0.005~0.009%である、請求項1または2に記載の鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金。
【請求項5】
前記不可避的不純物としてのUおよびThが各々5質量ppb以下であり、前記不可避的不純物としてのAsおよびPbが各々5質量ppm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金。
【請求項6】
更に、質量%で、3.5%以下のAg、0.7%以下のCu、0.05%以下のNi、および0.02%以下のCoの少なくとも1種を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金からなるはんだボール。
【請求項8】
平均粒径が1~1000μmである、請求項7に記載のはんだボール。
【請求項9】
平均粒径が1~100μmである、請求項7に記載のはんだボール。
【請求項10】
真球度が0.95以上である、請求項7~9のいずれか1項に記載のはんだボール。
【請求項11】
真球度が0.99以上である、請求項7~9のいずれか1項に記載のはんだボール。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか1項に記載のはんだボールを用いて形成されたBall Grid Array。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか1項に記載の鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金から形成されるはんだ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金、はんだボール、Ball Grid Arrayおよびはんだ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CPU(Central Processing Unit)などの電子デバイスは小型化が要求されている。電子デバイスが小型化するとはんだ付け時の熱的負荷が大きくなるため、低温でのはんだ付けが望まれている。はんだ付け温度が低温になれば、信頼性の高い回路基板を製造することができる。低温ではんだ付けを行うためには、低融点のはんだ合金を用いる必要がある。
【0003】
低融点のはんだ合金として、例えば63Sn-37Pbはんだ合金が挙げられる。63Sn-37Pbはんだ合金の融点は、約183℃である。しかし環境に対する悪影響の懸念から、Pbを含有するはんだ合金は近年使用が規制されている。
【0004】
Sn-Pb組成のはんだ合金に代わる低融点のはんだ合金としては、JIS Z 3282(2017)に開示されているように、Sn-58Biはんだ合金やSn-52Inはんだ合金が挙げられる。Sn-58Biはんだ合金の融点は、約139℃である。また、Sn-52Inはんだ合金の融点は、約119℃である。特に、Sn-58Biはんだ合金は低コストであるとともに、優れた濡れ性を有する低融点はんだ合金として広く用いられている。
【0005】
ところで近年、はんだ合金中に極微量含有する不純物元素が経時変化によりアルファ線を放出し、放出されたアルファ線が半導体のソフトエラーを引き起こすと指摘されている。このようなソフトエラーを抑制するためには、不純物の少ないはんだ合金を用いる必要がある。しかし、Biは放射性同位体を多く含むため、アルファ線量の少ない高純度の原材料を得るのが困難である。従って、Sn-Bi組成の低融点はんだ合金では、アルファ線放出によるソフトエラーの発生を抑制することが困難である。
【0006】
そこで、Sn-In組成の低融点はんだ合金が検討されている。以下の特許文献1及び特許文献2は、Sn-In組成の低融点はんだ合金に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-105750号公報
【文献】特開2006-000909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
Sn-Inからなるはんだ合金は、Inの含有量により、その融点は約120℃から約230℃まで変化する。このうち、融点が130℃から210℃のはんだ合金が望まれている。その理由は、従来用いられている融点が約220℃のSn-3Ag-0.5Cu中温はんだ合金と、融点が約119℃のSn-52In低温はんだ合金との中間の融点をもつ、中低温はんだ合金と呼ぶべきはんだ合金であるためである。これにより、多段階にはんだ付けを行うステップ・ソルダリングにおいて、中温はんだ合金を用いたはんだ付けを行った後に中低温はんだ合金を用いたはんだ付けを行う際、中温はんだが再溶融することはない。中低温はんだ合金を用いたはんだ付けを行った後に低温はんだ合金を用いたはんだ付けを行う際、中低温はんだが再溶融することはない。また、ステップ・ソルダリングでは、プロセス上はんだ付け前に中低温はんだが溶融しない程度の温度域で保持されることがある。
【0009】
このように、ステップ・ソルダリングに用いるはんだ合金としては、従来の中温はんだ合金と低温はんだ合金の中間の融点であることと同時に、高温で長時間保持した後もはんだ付け性が確保されていることが求められる。
【0010】
本発明の課題は、中低温の融点であり、かつ高温で長時間保持後もはんだ付け性が確保される鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金、はんだボール、Ball Grid Arrayおよびはんだ継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、改めて、SnおよびInの2元素からなるSn-In系の合金から出発して検討を始めた。この合金は、Inの含有量が一定量以上になると、InとSnによるγ相と呼ばれる金属間化合物の相を形成する。ただし、このγ相は脆いことから、はんだ合金の延性を低下させるリスクがある。そして融点が約130℃から約200℃の中低温になるように、Inの含有量は20質量%程度に設定した。
【0012】
そして、高温で長時間保持した後にはんだ付け性が確保できるよう種々の元素を添加して特性の改善を試みた。種々の元素を添加したはんだ合金を高温で長時間保持した後、XPS(X線電分光法:X-ray Photoelectron Spectroscopy)により深さ方向に分析した。その結果、特にGeを添加したはんだ合金の酸化膜が薄いという知見が得られた。これは、In酸化膜がGeの添加によりアモルファス化し、In酸化膜の結晶粒界が消失することによって、Oの拡散が抑制されるためであると推察される。
【0013】
これらの知見により得られた本発明は次の通りである。
(1)質量%で、1~23%のInと、0.001~0.08%のGeと、残部がSnおよび不可避的不純物からなる合金組成を有する鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金。
【0014】
(2)合金組成のIn含有量が、質量%で16~2%である、上記(1)に記載の鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金。
(3)合金組成のGe含有量が、質量%で0.005~0.01%である、上記(1)または上記(2)に記載の鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金。
【0015】
(4)合金組成のGe含有量が質量%で0.005~0.009%である、上記(1)または上記(2)に記載の鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金。
(5)不可避的不純物としてのUおよびThが各々5質量ppb以下であり、不可避的不純物としてのAsおよびPbが各々5質量ppm以下である、上記(1)~上記(4)のいずれか1項に記載の鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金。
(6)更に、質量%で、3.5%以下のAg、0.7%以下のCu、0.05%以下のNi、および0.02%以下のCoの少なくとも1種を含有する、上記(1)~上記(5)のいずれか1項に記載の鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金。
【0016】
(7)上記(1)~上記(6)のいずれか1項に記載の鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金からなるはんだボール。
(8)平均粒径が1~1000μmである、上記(7)に記載のはんだボール。
(9)平均粒径が1~100μmである、上記(7)に記載のはんだボール。
(10)真球度が0.95以上である、上記(7)~上記(9)のいずれか1項に記載のはんだボール。
(11)真球度が0.99以上である、上記(7)~上記(9)のいずれか1項に記載のはんだボール。
【0017】
(12)上記(7)~上記(11)のいずれか1項に記載のはんだボールを用いて形成されたBall Grid Array。
【0018】
(13)上記(1)~上記(6)のいずれか1項に記載の鉛フリーかつアンチモンフリーのはんだ合金から形成されるはんだ継手。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、Sn-Inの状態図である。
図2図2は、実施例19のはんだ合金にて作製したはんだボール表面のXPS分析のチャートであり、図2(a)~図2(c)は各々別々のはんだボールでのチャートである。
図3図3は、比較例4のはんだ合金にて作製したはんだボール表面のXPS分析のチャートであり、図3(a)~図3(c)は各々別々のはんだボールでのチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を以下により詳しく説明する。本明細書において、はんだ合金の合金組成に関する「%」は、特に指定しない限り「質量%」である。はんだ合金の合金組成に関する「ppm」は、特に指定しない限り「質量ppm」である。また、はんだ合金の合金組成に関する「ppb」は、特に指定しない限り「質量ppb」である。
【0021】
1. はんだ合金の合金組成
(1) 12~23%のIn
Inは、はんだ合金の融点を下げる性質を有する。図1は、Sn-In系の合金中のInの含有量と、融点との関係を示した状態図である。図1に示すように、Sn-In系の合金の融点は、Inの含有量が多くなるにつれて下がる傾向にある。
【0022】
ただし、Inの含有量が20%よりも多くなると、固相線温度が急激に低下し始める。Inの含有量が25%よりも多くなると、固相線温度が約117℃まで低下する。そのため、Inの含有量が25%よりも多い合金をベースとするはんだ合金は、中温域でのソルダリングに供されるはんだ合金として適切でない。この点、Inの含有量の上限値が23%程度であれば、固相線温度の条件が満たされる。故に、Inの含有量の上限は23%以下である。固相線温度の条件の充足性の観点からすると、好ましい上限は21%以下である。
一方、Inの含有量が12%未満であると、液相線温度が上昇してしまい、所望の融点を得ることが困難になる。Inの含有量の下限は12%以上であり、好ましくは16%以上である。
【0023】
(2) 0.001~0.08%のGe
Geは、Snの酸化を抑制するとともに、はんだ合金の濡れ性を改善する性質を有する。従来、Pも同様の効果を奏する元素とされていたが、本発明においてはPを含有した組成では効果が見られなかった。これは以下のように推察される。はんだ合金の表面に形成される酸化膜は、高温環境下において、酸素の粒界拡散により酸素がはんだ合金の内部に侵入して厚くなると考えられている。このため、結晶相で構成されている従来の酸化膜は、酸素の侵入経路となる結晶粒界が多数存在するため、酸化膜が厚くなってしまう。しかし、Sn-In系のはんだ合金にGeが添加されると、負の混合熱により結晶相の析出が阻害され、はんだ合金の表面に形成されるInの酸化膜がアモルファス化し、酸素が拡散するための粒界が消失する。このため、高温で長時間保持した後でも酸化膜が厚くならず、高いはんだ付け性が維持されると推察される。従って、本発明者らはGeを含有することが所望の特性を得るためには必須の構成であると知見した。
【0024】
Geの含有量が0.001%未満であると、高温で長時間保持後も酸化膜を薄い状態に保つ効果が見られなかった。従って、Geの含有量の下限は、0.001%以上であり、好ましくは0.003%以上であり、より好ましくは0.004%以上であり、さらに好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.007%以上である。一方、Geの含有量が過剰であると、液相線温度が上昇し、所望の融点を得ることが困難になる。また、はんだボールの造粒が困難になる。従って、Geの含有量の上限は0.08%以下であり、好ましくは0.05%以下であり、より好ましくは0.01%以下であり、特に好ましくは0.009%以下であり、最も好ましくは0.008%以下である。
【0025】
(3) 残部:Sn
本発明に係るはんだ合金の残部は、Snである。ただし不可避的不純物としての元素の含有を排除するものではない。不可避的不純物の具体例としては、AsやCdが挙げられる。また、本発明は鉛フリーかつアンチモンフリーではあるが、不可避的不純物としてのPbやSbの含有を除外するものではない。
【0026】
(4) 任意添加元素
本発明に係るはんだ合金は、質量%で、12~23%のInと、0.001~0.08%のGeと、残部がSnおよび不可避的不純物からなる。しかし、はんだ合金の特性を更に改善するため、固相線温度が130℃以上、液相線温度が210℃以下の範囲で、Ag、Cu、Ni、Coの元素を任意に添加してもよい。具体的には、Agが3.5%以下、Cuが0.7%以下、Niが0.05%以下、Coが0.02%以下の範囲で、各元素を任意に添加してもよい。より好ましくは、Agが3.0%以下、Cuが0.5%以下、Niが0.03%以下、Coが0.01%以下の範囲で、各元素を任意に添加してもよい。
【0027】
Agは、InとAgIn化合物を形成する。この金属間化合物の相が析出すると、はんだ合金の変形を抑制することができる。Cuは、CuSn化合物を形成する。この金属間化合物が析出すると、はんだ合金の析出強化を図ることができる。Niは、合金組織を微細化する。合金組織が微細化すると、はんだ合金の機械的特性が向上する。Coも、合金組織を微細化して、はんだ合金の機械的特性に寄与する。各任意添加元素は単独で添加されるだけに限られず、固相線温度が130℃以上、液相線温度が210℃以下の範囲で、Ag、Cu、Ni、Coから2種以上が同時に添加されてもよい。
【0028】
(5) 不可避的不純物としてのUおよびTh含有量:各々5ppb以下、不可避的不純物としてのAsおよびPb含有量:各々5ppm以下
本発明に係るはんだ合金は、上記のとおり不可避的不純物としての元素の含有は排除しない。ただし、アルファ線の放出による半導体のソフトエラーを抑制するために、以下の元素の含有量を更に低減させることが好ましい。具体的には、UおよびTh含有量が各々5ppb以下であることが好ましく、より好ましくは2ppb以下である。AsおよびPb含有量は各々5ppm以下の含有量であることが好ましく、より好ましくは2ppm以下であり、更に好ましくは1ppm以下である。
【0029】
(6) 融点
本発明に係るはんだ合金は、中低温はんだとして好適に用いられるよう、固相線温度が130℃以上であることが好ましい。固相線温度が130℃以上であると、ステップ・ソルダリングにおける低温はんだを用いたはんだ付け時に、既にはんだ付け済みの本発明に係るはんだ合金が再溶融することを抑制できる。低温はんだは、例えば融点が約119℃のSn-52Inはんだ合金である。本発明に係るはんだ合金の固相線温度は、好ましくは150℃以上である。本発明に係るはんだ合金の固相線温度が150℃以上であれば、ステップ・ソルダリングにおける低温はんだとして融点が約139℃のSn-58Biはんだ合金を用いることもできる。本発明に係るはんだ合金の固相線温度は、より好ましくは165℃以上である。
【0030】
また、本発明に係るはんだ合金は、中低温はんだとして好適に用いられるよう、液相線温度が210℃以下であることが好ましい。液相線温度が210℃以下であると、ステップ・ソルダリングにおける本発明に係るはんだ合金のはんだ付け時に、既にはんだ付け済みの中温はんだが再溶融することを防ぐことができる。同様にして、高温はんだが再溶融することも防ぐことができる。中温はんだとは、例えば融点が約220℃のSn-3Ag-0.5Cuはんだ合金である。また、高温はんだとは、例えば固相線温度が約270℃で液相線温度が約300℃のSn-90Pbはんだ合金である。本発明に係るはんだ合金の液相線温度は、好ましくは200℃以下である。
【0031】
(7) 酸化膜厚
本発明に係るはんだ合金は、高温環境下において長時間曝された後であっても、厚いSn酸化膜が形成されることがなく、酸化膜の厚さが薄く保たれる。この理由は明らかではないが、前述のように、In酸化膜がGeによりアモルファス化し、In酸化膜の結晶粒界が消失することによって、Oの拡散が抑制されるためであると推察される。
【0032】
本発明において、酸化膜厚の測定方法は、例えば以下のように行うことができる。5.0mm×5.0mmの大きさのサンプル(はんだ材料が板状でない場合には、5.0mm×5.0mmの範囲にはんだ材料(はんだ粉末、はんだボール等)を隙間なく敷き詰めたもの)を用意する。このサンプルにおいて、任意の100μm×100μmのエリアを選定し、イオンスパッタリングを行いながらSn、O、In、C、その他添加元素の各原子についてXPS分析を行い、XPS分析のチャートを得る。サンプル1個につき1つのエリアを選定し、3つのサンプルについてそれぞれ1回ずつ、合計3回の分析を行う。得られたXPS分析のチャートにおいて、横軸は、スパッタ時間(min)及びスパッタ時間からSiO標準試料のスパッタエッチングレートを用いて算出したSiO換算の深さ(nm)のいずれかから選択でき、縦軸は、検出強度(cps)である。以後の測定においては、XPS分析のチャートにおける横軸を、スパッタ時間からSiO標準試料のスパッタエッチングレートを用いて算出したSiO換算の深さ(nm)とする。
【0033】
各サンプルのXPS分析のチャートにおいて、O原子の検出強度が最大となったSiO換算の深さをDo・max(nm)とする。そして、Do・maxより深い部分において、O原子の検出強度が、最大検出強度(Do・maxにおける強度)の1/2の強度となる最初のSiO換算の深さをD1(nm)とする。
酸化膜厚(SiO換算)は、7nm未満が好ましく、6nm以下がより好ましく、4nm以下が最も好ましい。酸化膜厚が上記範囲内であれば、濡れ性に優れたはんだ材料が得られる。
【0034】
2.はんだボール、Ball Grid Array
本発明に係るはんだ合金の形態としては、はんだボールとして最適に用いられる。はんだボールの真球度は0.90以上が好ましく、0.95以上がより好ましく、0.99以上が最も好ましい。真球度は、例えば、最小二乗中心法(LSC法)、最小領域中心法(MZC法)、最大内接中心法(MIC法)、最小外接中心法(MCC法)など種々の方法で求められる。本発明において、はんだボールの真球度は、最小領域中心法(MZC法)を用いるCNC画像測定システム(ミツトヨ社製のウルトラクイックビジョンULTRA QV350-PRO測定装置)を使用して測定する。本発明において、真球度とは真球からのずれを表し、例えば500個の各ボールの直径を長径で割った際に算出される算術平均値であり、値が上限である1.00に近いほど真球に近いことを表す。
【0035】
本発明に係るはんだボールは、Ball Grid Array(BGA)などの半導体パッケージの電極や基板のバンプ形成に用いられる。本発明に係るはんだボールの直径は1~1000μmの範囲内が好ましく、より好ましくは、1~100μmである。はんだボールは、一般的なはんだボールの製造法により製造することができる。本発明での直径とは、ミツトヨ社製のウルトラクイックビジョン、ULTRA QV350-PRO測定装置によって測定された直径をいう。
更に、本発明に係るはんだボールの表面にフラックスが塗布されていてもよい。
【0036】
3. はんだ継手
本発明に係るはんだ継手は、半導体パッケージにおけるICチップとその基板(インターポーザ)との接続、或いは半導体パッケージとプリント配線板との接続に使用するのに適している。ここで、本発明に係る「はんだ継手」とは、上述した本発明に係るはんだ合金を用いて接続されており、ICチップと基板との接続部をいい、電極の接続部やダイと基板との接続部を含む。
【0037】
4.その他
本発明に係るはんだ合金は、はんだボールの形態で用いることに適しているが、はんだボールの形態のみに限定されるものではない。例えば、線状のはんだや、線状のはんだ中にフラックスを含有するやに入りはんだや、成型はんだや、棒はんだ、はんだ粉末とフラックスを混練したはんだペーストにも用いることができる。
本発明に係るはんだ合金を用いた接合方法は、例えばリフロー法を用いて常法に従って行えばよい。加熱温度はチップの耐熱性やはんだ合金の液相線温度に応じて適宜調整してもよい。また、本発明に係るはんだ合金を用いて接合する場合には、凝固時の冷却速度を考慮した方がさらに組織を微細にすることができる。例えば2~3℃/s以上の冷却速度ではんだ継手を冷却する。この他の接合条件は、はんだ合金の合金組成に応じて適宜調整することができる。
【実施例
【0038】
表1~表3に示すはんだ合金について、液相線温度、固相線温度、高温長時間保持後の表面酸化膜の厚みについて評価した。
【0039】
(1)液相線温度と固相線温度
固相線温度と液相線温度は、JIS Z 3198-1の測定方法と同様のDSC(Differential scanning calorimetry)による方法で実施した。固相線温度が150℃以上のサンプルは「◎」と評価し、130℃以上150℃未満のサンプルは「〇」と評価し、130℃よりも低いサンプルは「×」と評価した。具体的には、実施例7は187℃で「◎」であった。実施例14は166℃で「◎」であった。比較例7は204℃で「◎」であり、比較例8は117℃で「×」であった。
【0040】
液相線温度が210℃以下のサンプルは「〇」と評価し、210℃よりも高いサンプルは「×」と評価した。液相線温度が200℃以下のサンプルは「◎」と評価した。具体的には、実施例7は203℃で「〇」であった。実施例14は195℃で「◎」であった。比較例7は219℃で「×」であり、比較例8は185℃で「◎」であった。
【0041】
(2)高温長時間保持後の表面酸化膜の厚み
表1~表3に示すはんだ合金から直径0.6mmのはんだボールを作製した。プリント基板に所定のパターンでCu電極を配置し、Cu電極の表面をプリフラックス処理(OSP:Organic Solderability Preservative)した後、水溶性フラックス(千住金属社製:WF-6400)を100μmの厚さで印刷塗布した。そして、このCu電極に予め作製したはんだボールを搭載したのち、リフロー法によりはんだ付けすることで、はんだ継手が形成された試料を得た。
【0042】
空気雰囲気の恒温槽を125℃に加熱し、各試料を恒温槽中で750時間放置した。750時間加熱後に、各試料をXPSによる深さ方向分析を用いて、以下の通り表面の酸化膜の厚みを以下のように評価した。
【0043】
(分析条件)
・分析装置:PHI Quantera II (アルバック・ファイ(株)製)
・分析条件:X線源 AlKα線、X線銃電圧 15kV、X線銃電流値 10mA、分析エリア 100μm×100μm
・スパッタ条件:イオン種 Ar+、加速電圧 1kV、スパッタリングレート 1.0nm/min(SiO換算)
(評価手順)
各試料において、はんだ継手のはんだ合金部分に対してイオンスパッタリングを行いながらSn、Ge、O、In、C、その他添加元素の各原子についてXPS分析を行い、XPS分析のチャートを得た。サンプル1個につき1つのエリアを選定し、3つのサンプルについてそれぞれ1回ずつ、合計3回の分析を行った。得られたXPS分析のチャートにおいて、横軸は、スパッタ時間(min)及びスパッタ時間からSiO標準試料のスパッタエッチングレートを用いて算出したSiO換算の深さ(nm)のいずれかから選択でき、縦軸は、検出強度(cps)である。以後の測定においては、XPS分析のチャートにおける横軸を、スパッタ時間からSiO標準試料のスパッタエッチングレートを用いて算出したSiO換算の深さ(nm)とする。
【0044】
各サンプルのXPS分析のチャートにおいて、O原子の検出強度が最大となったSiO換算の深さをDo・max(nm)とした。そして、Do・maxより深い部分において、O原子の検出強度が、最大検出強度(Do・maxにおける強度)の1/2の強度となる最初のSiO換算の深さをD1(nm)とした。
全3回の測定の全てにおいてD1≦7nmとなったサンプルを「〇」と評価し、全3回の測定の1つでもD1>7nmとなったサンプルを「×」と評価した。
【0045】
(3)総合評価
総合評価は、上記試験項目のうち一つでも「×」の評価項目がある場合は「×」と評価し、「×」の評価項目が無いものを「〇」と評価し、さらに固相線温度と液相線温度両方の評価項目が「◎」である場合は「◎」と評価した。
【0046】

【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
表に示すように、実施例~56は、固相線温度と液相線温度と高温長時間保持後の酸化膜厚の厚みのいずれも「〇」または「◎」の評価となり、総合評価も「〇」または「◎」であった。実施例~56について、更に不可避的不純物中のUおよびTh含有量が各々5ppb以下であり、AsおよびPb含有量が5ppm以下であると、経時変化後のアルファ線放出を抑制することができる。
【0050】
一方で比較例1~6は、Geを含有しないため、高温長時間保持後の酸化膜の成長を抑制できなかった。また、比較例1と5と6はInの含有量が少なすぎるか過剰であったため、液相線温度または固相線温度の評価が「×」となった。比較例7~10は、Geを適量含有するため高温長時間保持の酸化膜の成長を抑制することができたが、Inの含有量が少なすぎるか過剰であったため、液相線温度または固相線温度の評価が「×」となった。
【0051】
比較例11~21は、Inを適量含有するため液相線温度と固相線温度の評価が、いずれも「◎」となった。しかし、Geを含有せずその他の元素を添加しており、これら元素では、高温長時間保持の酸化膜の成長を抑制できなかった。比較例22~24はGeを過剰に含有するため、液相線温度の評価が「×」となった。
【0052】
酸化膜の厚さに関しては、XPSチャートを用いて説明する。図2は、実施例19のはんだ合金にて作製したはんだボール表面のXPS分析のチャートであり、図2(a)~図2(c)は各々別々のはんだボールでのチャートである。図3は、比較例4のはんだ合金にて作製したはんだボール表面のXPS分析のチャートであり、図3(a)~図3(c)は各々別々のはんだボールでのチャートである。図2に示すように、Geを含有する実施例19では、酸化膜厚が平均で約4.0μmである結果が示された。一方、図3に示すように、Geを含有しない比較例4では、酸化膜厚が約17μmであり、実施例19と比較して4倍以上の厚い酸化膜が形成されていることが明らかになった。
図1
図2
図3