(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】その場凝固複合コアセルベートならびにその製造および使用方法
(51)【国際特許分類】
A61L 31/12 20060101AFI20220316BHJP
A61L 31/02 20060101ALI20220316BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20220316BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20220316BHJP
A61L 31/18 20060101ALI20220316BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
A61L31/12 100
A61L31/02
A61L31/04 120
A61L31/04 110
A61L31/06
A61L31/18
A61L31/16
(21)【出願番号】P 2020114813
(22)【出願日】2020-07-02
(62)【分割の表示】P 2017501675の分割
【原出願日】2015-07-14
【審査請求日】2020-07-02
(32)【優先日】2014-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513308790
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ユタ リサーチ ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100159916
【氏名又は名称】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】ラッセル ジェイ.スチュワート
【審査官】古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-500072(JP,A)
【文献】特表2011-510152(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0040688(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/00-31/18
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
C08L 33/00-33/26
C08K 3/00- 3/40
C08L 5/00- 5/16
C08F 220/00-220/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の血管内の血流の低減または阻害における使用のための、流体形態の組成物であって、
水と、
少なくとも1つのポリカチオンと、
少なくとも1つのポリアニオンと、
一価イオンを水中において生成する塩と、
を含み、
水中の前記一価イオンの濃度は、前記ポリカチオンと前記ポリアニオンとが結合しない程度に高く、
前記塩は、塩化ナトリウムであり、
前記組成物中の前記一価イオンの濃度は、前記血管内に存在する前記一価イオンの濃度よりも高く、
前記ポリカチオンは、2つ以上のグアニジニル側鎖を含有する天然ポリマーまたは合成ポリマーを含み、
前記ポリアニオンは、ポリホスフェートを含み、
前記組成物を前記血管内へ導入すると、前記組成物は、前記血管内においてその場で固体に転換され、前記血管内に塞栓を形成
し、
前記ポリカチオン対前記ポリアニオンの全体の正電荷/負電荷比は、0.5~3.0であり、
前記組成物中の前記一価イオンの濃度は、0.5M~2.0Mである、
組成物。
【請求項2】
前記組成物中の前記一価イオンの濃度は、前記血管内における前記一価イオンの濃度よりも1.5~10倍高い、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ポリカチオンは、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミドまたはメタクリルアミド骨格と、前記骨格に対するペンダント基である2つ以上のグアニジニル基とを含む合成ポリグアニジニルポリマーである、
請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリカチオンは、合成ポリグアニジニルポリマーであり、
前記合成ポリグアニジニルポリマーは、
アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、または、それらの組み合わせからなる群から選択されるモノマーのコポリマーと、
次の式Iの化合物、または、その薬学的に許容可能な塩と、
を含み、
【化1】
前記式Iにおいて、R
1は水素またはアルキル基であり、Xは酸素またはNR
5であり、ここでR
5は水素またはアルキル基であり、mは1~10である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリカチオンは、前記式Iの化合物とメタクリルアミドとの重合生成物を含む、
請求項
4に記載の組成物。
【請求項6】
R
1はメチル基であり、XはNHであり、mは3である、
請求項
4に記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリアニオンは、無機ポリホスフェートまたはリン酸化糖である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記ポリアニオンは、無機ポリホスフェートである、
請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記ポリアニオンは、ヘキサメタリン酸塩を含む、
請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記ポリアニオンは、イノシトール6リン酸である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記ポリアニオンは、ホスフェート基および/またはホスホネート基を含む、
請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記ポリアニオンは、2つ以上のペンダントホスフェートまたはホスホネート基を含むポリアクリレートを含む、
請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記ポリアニオンは、ホスフェートまたはホスホネートアクリレートおよび/またはホスフェートまたはホスホネートメタクリレートと、1つまたは複数の付加的な重合性モノマーとの間の共重合生成物である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
造影剤または可視化剤をさらに含む、
請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記造影剤は、タンタル粒子、金粒子、またはヨウ素を含む、
請求項
14に記載の組成物。
【請求項16】
強化成分をさらに含む、
請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
前記強化成分は、天然もしくは合成繊維、水不溶性充填粒子、ナノ粒子、または、マイクロ粒子を含む、
請求項
16に記載の組成物。
【請求項18】
1つまたは複数の生物活性剤をさらに含む、
請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
前記生物活性剤は、抗生物質、鎮痛剤、免疫調節因子、成長因子、酵素阻害剤、ホルモン、メディエーター、メッセンジャー分子、細胞シグナル伝達分子、受容体アゴニスト、腫瘍溶解剤、化学療法剤、または受容体アンタゴニスト、核酸、またはこれらの任意の組み合わせを含む、
請求項
18に記載の組成物。
【請求項20】
前記ポリカチオンは、合成ポリグアニジニルポリマーであり、
前記合成ポリグアニジニルポリマーは、
アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、または、それらの組み合わせからなる群から選択されるモノマーと、
次の式Iの化合物、または、その薬学的に許容可能な塩と、
の重合生成物を含み、
【化2】
前記式Iにおいて、R
1は水素またはアルキル基であり、Xは酸素またはNR
5であり、ここでR
5は水素またはアルキル基であり、mは3であり、
前記ポリアニオンは、ヘキサメタリン酸ナトリウムを含み、
前記ポリカチオン対前記ポリアニオンの全体の正電荷/負電荷比は、0.95~1.10であり、
前記組成物中の塩化ナトリウムの濃度は、0.5M~2.0Mである、
請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
前記式Iの化合物は、塩酸塩である、
請求項
20に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2014年7月14日に出願された米国仮特許出願第62/024,128号明細書に対する優先権を主張する。本出願は、参照によってその全体が本明細書に援用される。
【0002】
配列表への相互参照
本明細書に記載されるタンパク質は、配列識別子番号(配列番号)によって参照される。配列番号は、配列識別子<400>1、<400>2などに数値的に対応する。書面によるコンピュータ可読フォーマット(CFR)の配列表は、参照によってその全体が援用される。
【0003】
承認
本発明は、米国国立衛生研究所により授与された5R01HD075863、および海軍研究事務所により授与されたN00014-13-1-0577の下で政府の支援により成された。政府は本発明における特定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
いくつかのゲル化機構に基づいて、その場でゲル化する多数の系が開発されている。反応性モノマーまたはマクロマーは、組織内に配置した後に化学的に重合させてヒドロゲルにすることができる。これの一例は、ポリエチレングリコール-ジアクリレート(PEG-dA)マクロマーの光開始その場重合である。化学反応性部分を有するポリマーは、配置の最中またはその直前に第2の反応性成分と混合されると、その場で化学的に架橋され得る。このアプローチの一例は、活性化エステル基で終結する、複数のアームを有するPEGマクロマーである。多価アミンまたはチオールと混合されると、成分は共有結合で架橋してヒドロゲルになる。ヒドロゲルのその場での熱硬化は、注入可能な粘性ポリマー溶液から固体ヒドロゲルへの温度依存性転移を利用する。一例は、PEGおよびポリプロピレンオキシド(PPO)のABA型ブロックコポリマーであり、これは、哺乳類の生理的温度よりも低い下限臨界共溶温度(LCST)を有する。溶液は、LCSTよりも低温で注入可能であるが、温度がLCSTよりも高い生理的温度と平衡になるとその場で凝固する。付加的なその場ゲル化系は、分離したポリマーにおける受容体とリガンド(例えば、抗体と抗原など)の間の特定の相互作用に依存する。
【0005】
その場ゲル化系の潜在的な臨床用途には、ゲル内に捕捉された治療薬の放出動態学を制御するための薬物送達デポーが含まれる。他の使用には、美容上の目的の、そして事故の外傷または外科的切除による組織の空隙を充填するための組織の増大が含まれる。その場でゲル化または凝固する系は、制御された局所的塞栓の形成により血管内の血流を遮断するためにも使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在の塞栓剤には重大な欠点がある。一部の例では、塞栓形成剤としてシアノアクリレート(CA)接着剤が使用される。シアノアクリレートモノマーは、血管内で水と接触すると急速に重合して硬質樹脂になる。CAは制御するのが困難であり、急速に重合し、そしてカテーテルの末端を血管に接着させてカテーテルの除去を困難にし得る。Onyx(登録商標)は、注入可能なエチレンビニルアルコールのジメチルスルホキシド(DMSO)溶液である。水様性の生理環境に注入されると、DMSO溶媒は材料から拡散し、水に不溶性のエチレンビニルアルコールを沈殿させる。Onyx(登録商標)の欠点は、DMSO溶媒の毒性のために少量でしか使用できないことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書には、固体接着剤をその場で生成する流体複合コアセルベートが記載される。適用部位のイオン強度よりも高いイオン強度において流体の接着性複合コアセルベートを形成するが、適用部位では不溶性の接着性固体またはゲルを形成するように、反対に帯電した高分子電解質を設計した。流体で高イオン強度の接着性複合コアセルベートがより低いイオン強度の適用部位に導入される場合、複合コアセルベート中の塩濃度が適用部位の塩濃度と平衡になると、流体接着性複合コアセルベートは接着性固体またはゲルに転換される。一実施形態では、流体複合コアセルベートは生理的イオン強度においてその場で凝固するように設計されており、多数の医学的用途を有する。他の態様では、流体複合コアセルベートは、非医学的用途のために水性環境において使用することができる。
【0008】
本発明の利点は一部がこの後の記載において説明され、一部はその記載から明らかになる、あるいは以下に記載される態様の実施により分かるであろう。以下に記載される利点は、特許請求の範囲において特に指摘される要素および組み合わせによって実現および達成されるであろう。上記の一般的な説明および以下の詳細な説明はいずれも例示的および説明的なものにすぎず、限定的なものではないことは理解されるべきである。
【0009】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付図面は、以下に記載されるいくつかの態様を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】種々の濃度のNaClが混合されたプロタミンおよびヘキサメタホスフェートの水溶液を示す。NaClが1100mMと1200mMの間に、臨界イオン強度(I)が存在し、複合コアセルベートは固体の非流動性ゲルになる。I
critよりも上では、コアセルベートの粘度はIの増大と共に低下する。I
critより下ではゲルの硬さは増大する。イオン強度を変化させることによって、形態を相互転換できる。
【
図2】マクロイオン電荷比1:1で混合した合成ポリホスフェートおよびプロタミンの粘度対イオン強度を示す。
【
図3】分岐流路を有するインビトロ血管モデルを示す。接着性複合コアセルベートのフローインジェクションのために流路の片側に細いカテーテルを挿入した。反対側を閉鎖することにより、塞栓形成により保持される圧力を決定することができる。枠で囲まれた領域は
図4に示される。
【
図4】分岐血管のシリコンチューブモデルの塞栓形成を示す。高濃度の塩における低粘度の複合コアセルベートは、生理食塩水の流れに注入されるとシリコン管類に接着し、直ちに凝固し、チャネルを通る流れを遮断する。
【
図5】N-(3-メタクリルアミドプロピル)グアニジウムクロリドの合成を示す。
【
図6A-B】
図6Aは、可視化のために少量のフルオレセインメタクリレートと共重合させたコポリグイニジウム(co-polyguinidium)の構造を示す。
図6Bは、架橋のためのメタクリルアミド側鎖を有するコポリグイニジウムの構造を示す。
【
図7A-D】
図7Aおよび7Bは、塞栓形成した腎臓の蛍光透視画像を示す。
図7Cおよび7Dは、死後の塞栓形成した腎臓の三次元CT画像を示す。
【
図8A-D】
図8Aは、塞栓形成した腎臓の皮質の閉塞細動脈の断面を低倍率で示す。
図8Bは、塞栓形成した腎臓の閉塞細動脈および毛細血管を有する糸球体をより高倍率で示す。
図8Cは、塞栓形成した腎臓の皮質の閉塞細動脈の縦断面を低倍率で示す。
図8Dは、塞栓形成した腎臓の閉塞動脈をより高倍率で示す。
【
図9】30重量%のタンタル造影剤を含む場合および含まない場合のPRT/IP6複合コアセルベートの流動挙動を示す。
【
図10A-B】
図10Aは、37℃において様々なNaCl濃度にわたるPRT/IP6高分子電解質混合物の状態図を示す。
図10Bは、21℃において様々なNaCl濃度にわたるPRT/IP6高分子電解質混合物の状態図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本化合物、組成物、物品、デバイス、および/または方法が開示及び記載される前に、以下に記載される態様が特定の化合物、合成方法、または使用に限定されず、従って当然ながら異なり得ることを理解すべきである。また、本明細書において使用される専門用語が特定の態様を説明することのみを目的としており、限定を意図するものではないことも理解すべきである。
【0012】
本明細書および以下の特許請求の範囲ではいくつかの用語が言及され、これらは以下の意味を有すると定義されるものとする。
本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、文脈が他に明確に指示しない限り、単数形の「a」、「an」および「the」は、複数の指示対象を含むことに注意しなければならない。従って、例えば、「医薬担体」への言及は、このような担体の2つ以上の混合物などを含む。
【0013】
「任意選択的な」または「任意選択的に」は、続いて記載される事象または状況が起こっても起こらなくてもよく、この記載が、事象または状況の起こる場合、および起こらない場合を含むことを意味する。例えば、「任意選択的に置換された低級アルキル」という語句は、低級アルキル基が置換されていてもいなくてもよく、この記載が、非置換の低級アルキルおよび置換された低級アルキルの両方を含むことを意味する。
【0014】
範囲は、本明細書において、「約」1つの特定の値から、および/または「約」別の特定の値までで表され得る。このような範囲が表される場合、別の態様は、その1つの特定の値から、および/またはその別の特定の値までを含む。同様に、先行詞「約」の使用により値が近似値で表される場合、その特定の値が別の態様を形成することが理解されるであろう。さらに、各範囲の端点は、他の端点に関連する場合、および他の端点とは無関係である場合のいずれにおいても有意であることが理解されるであろう。
【0015】
本明細書および最後の特許請求の範囲における組成物または物品中の特定の要素または成分の重量部への言及は、その要素または成分と、その組成物または物品中の重量部が表す任意の他の要素または成分との間の重量関係を示す。従って、2重量部の成分Xおよび5重量部の成分Yを含有する化合物において、XおよびYは、2:5の重量比で存在し、付加的な成分が化合物中に含有されるかどうかに関係なくこのような比で存在する。
【0016】
成分の重量パーセントは、反することが特に記載されない限り、その成分を含む配合物または組成物の全重量を基準とする。
【0017】
「アルキル基」という用語は、本明細書で使用される場合、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、テトラデシル、ヘキサデシル、エイコシル、テトラコシルなどの、1~25個の炭素原子を有する分枝または非分枝飽和炭化水素基である。より長鎖のアルキル基の例としてはパルミテート基が挙げられるが、これに限定されない。「低級アルキル」基は、1~6個の炭素原子を含有するアルキル基である。
【0018】
「シクロアルキル基」という用語は、本明細書で使用される場合、少なくとも3つの炭素原子で構成される非芳香族炭素系環である。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられるが、これらに限定されない。「ヘテロシクロアルキル基」という用語は、ヘテロ原子(限定されないが、例えば、窒素、酸素、硫黄、またはリンなど)によって環の炭素原子の少なくとも1つが置換された、上記で定義されるシクロアルキル基である。
【0019】
「アリール基」という用語は、本明細書で使用される場合、ベンゼン、ナフタレンなどを含むがこれらに限定されない、任意の炭素系芳香族基である。「アリール基」という用語には「ヘテロアリール基」も含まれ、これは、芳香族基の環内に少なくとも1つのヘテロ原子が取り込まれた芳香族基であると定義される。へテロ原子の例としては、窒素、酸素、硫黄、およびリンが挙げられるが、これらに限定されない。1つの態様では、ヘテロアリール基はイミダゾールである。アリール基は置換されていても、あるいは非置換であってもよい。アリール基は、アルキル、アルキニル、アルケニル、アリール、ハロゲン化物、ニトロ、アミノ、エステル、ケトン、アルデヒド、ヒドロキシ、カルボン酸、またはアルコキシを含むがこれらに限定されない、1つまたは複数の基によって置換され得る。
【0020】
「求核基」という用語は、活性化エステルと反応することができる任意の基を含む。例としては、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基、およびこれらの対応するアニオンが挙げられる。
【0021】
「カルボキシル基」という用語は、カルボン酸および対応するその塩を含む。
【0022】
「アミノ基」という用語は、本明細書で使用される場合、式-NHRR’で表され、式中、RおよびR’は、アルキル、アリール、カルボニル、ヘテロシクロアルキルなどを含む任意の有機基でよく、RおよびR’は別々の基であっても、あるいは環の一部であってもよい。例えば、ピリジンは、RおよびR’が芳香環の一部であるヘテロアリール基である。
【0023】
「処置」という用語は、本明細書で使用される場合、既存の状態の症状を保持または低減することであると定義される。「予防」という用語は、本明細書で使用される場合、疾患または障害の1つまたは複数の症状の発生の可能性を除去または低減することであると定義される。「低減」という用語は、本明細書で使用される場合、本明細書に記載される複合コアセルベートをその場で凝固させて活性を完全に除去する、または複合コアセルベートの非存在下での同じ活性と比較して活性を低減する能力である。
【0024】
「被験者」は、ヒト、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、齧歯類(例えば、マウス、ラットなど)、モルモット、ネコ、ウサギ、雌ウシを含むがこれらに限定されない哺乳類と、ニワトリ、両生類、および爬虫類を含む非哺乳類とを指す。
【0025】
「生理的条件」は、被験者内のpH、温度などの条件を指す。例えば、ヒトの生理的pHおよび温度はそれぞれ7.2および37℃である。
【0026】
その場凝固複合コアセルベート
水溶液中で反対の正味電荷を有する高分子電解質は、溶液の条件および電荷比に応じて、いくつかのより高次のモルホロジーに結合することができる。これらは、正味の表面電荷を有する高分子電解質複合体の安定したコロイド懸濁液を形成することができる。同様の表面電荷の間の反発により、懸濁液はさらなる結合から安定化される。高分子電解質の電荷比が平衡またはほぼ平衡になると、最初の複合体はさらに凝集して高密度の流体相内に沈降することができ、この場合、反対のマクロイオン電荷はほぼ等しい。このプロセスは複合コアセルベーションと呼ばれ、高密度の流体モルホロジーは複合コアセルベートと呼ばれる。さらに記述的には、プロセスは、2つの反対に帯電した高分子電解質の水溶液から、2つの液相(高分子電解質枯渇相と平衡にある高密度の濃縮高分子電解質相)への、結合マクロ相の分離である。水性コアセルベート相は水性枯渇相中に分散され得るが、水中の油滴のように急速に沈降して戻る。高分子電解質対の間の引力が反発力よりも強いと、対になった高分子電解質から複合コアセルベートへの、自然の脱混合が起こる。熱力学的には、複合コアセルベーションを駆動する自由エネルギーの正味の負電荷は、主に、完全に溶媒和された高分子電解質の配列エントロピーの損失を上回る、マクロイオンが結合するときに放出される小さい対イオンのエントロピーの利得に由来する。
【0027】
反対の正味電荷を有する高分子電解質から生成され得る異なるモルホロジーの非限定的な例は
図1および10に提供される。
図10Aおよび10Bの状態図に示されるように、高分子電解質の電荷比、温度、塩濃度、およびpHなどのパラメータを変更すると、ゲル、複合コアセルベート、または透明な均一溶液(すなわち、相分離なし)の形成が起こり得る(
図1)。流体複合コアセルベートが形成する状態図の領域で高分子電解質を混合することによって、本明細書に記載されるその場凝固複合コアセルベートを流体形態で調製することができる。流体形態が状態図のゲル領域(
図10)に相当する環境に導入されると、その場凝固複合コアセルベートが新しい溶液条件と平衡になるにつれて、流体形態は硬化して固体ゲルになるであろう。「ゲル」という用語は、本明細書では、流体によりその全体積にわたって拡大される非流体コロイドネットワークまたはポリマーネットワークであると定義される。IUPAC.Compendium of Chemical Terminology,第2版(「Gold Book」).A.D.McNaughtおよびA.Wilkinsonにより編集.Blackwell Scientific Publications,Oxford(1997年)。逆に、本明細書に記載される流体複合コアセルベートは液体である。従って、流体複合コアセルベートおよびゲル中のポリカチオンおよびポリアニオンは同一であるという事実にもかかわらず、本明細書に記載される流体複合コアセルベートは、その場で生成される対応するゲルと比較して、完全に異なるモルホロジーを有する。
【0028】
本明細書に記載されるその場凝固複合コアセルベートを生成するために使用される成分およびその用途は以下に提供される。
【0029】
I.ポリカチオン
ポリカチオンは、通常、特定のpHにおいて複数のカチオン基を有するポリマー骨格で構成される。カチオン基はポリマー骨格のペンダントであってもよいし、そして/あるいはポリマー骨格内に取り込まれていてもよい。特定の態様(例えば、生物医学的用途)では、ポリカチオンは、カチオン基またはpHを調整することによってカチオン基に容易に転換され得る基を有する任意の生体適合性ポリマーである。1つの態様では、ポリカチオンはポリアミン化合物である。ポリアミンのアミノ基は分枝であってもよいし、あるいはポリマー骨格の一部であってもよい。アミノ基は、選択されたpHでプロトン化されてカチオン性アンモニウム基を生成することができる第1級、第2級、または第3級アミノ基であり得る。一般に、ポリアミンは、その等電点(pI)(ポリマーが正味の中性電荷を有するpH)で示されるように、関連のpHにおいて負電荷に対して正電荷が大過剰であるポリマーである。ポリカチオン上に存在するアミノ基の数は、最終的に、特定のpHにおけるポリカチオンの電荷密度を決定する。例えば、ポリカチオンは、10~90モル%、10~80モル%、10~70モル%、10~60モル%、10~50モル%、10~40モル%、10~30モル%、または10~20モル%のアミノ基を有することができる。1つの態様では、ポリアミンは、約7のpHで過剰の正電荷を有し、pIは7よりも大幅に高い。以下に議論されるように、pI値を増大するために付加的なアミノ基をポリマーに取り込むことができる。
【0030】
1つの態様では、アミノ基は、ポリカチオンに結合したリシン、ヒスチジン、またはアルギニン残基から誘導され得る。例えば、アルギニンはグアニジニル基を有し、ここで、グアニジニル基は、本明細書において有用な適切なアミノ基である。カチオン性ポリマーと関連して任意のアニオン性対イオンを使用することができる。対イオンは、組成物の必須成分と物理的および化学的に適合性でなければならず、生成物の性能、安定性または審美性を他の方法で過度に損なわないものである。このような対イオンの非限定的な例としては、ハロゲン化物(例えば、塩化物、フッ化物、臭化物、ヨウ化物)、硫酸、メチル硫酸、酢酸および他の一価カルボン酸イオンが挙げられる。
【0031】
1つの態様では、ポリカチオンは、天然の生物から産生される正に帯電したタンパク質であり得る。例えば、組換えP.カリフォルニカ(P.californica)タンパク質をポリカチオンとして使用することができる。1つの態様では、Pc1、Pc2、Pc4~Pc18(配列番号1~17)をポリカチオンとして使用することができる。タンパク質中に存在するアミノ酸のタイプおよび数は、所望の溶液特性を達成するために異なり得る。例えば、Pc1はリシンが豊富であり(13.5モル%)、Pc4およびPc5はヒスチジンが豊富である(それぞれ、12.6および11.3モル%)。
【0032】
別の態様では、ポリカチオンは、例えば、細菌、酵母、雌ウシ、ヤギ、タバコなどの異種宿主において、遺伝子または改変遺伝子またはいくつかの遺伝子からの部分を含有する複合遺伝子を人工的に発現させることによって産生される組換えタンパク質である。
【0033】
別の態様では、ポリカチオンは生分解性ポリアミンであり得る。生分解性ポリアミンは、合成ポリマーまたは天然に存在するポリマーであり得る。ポリアミンが分解し得るメカニズムは、使用されるポリアミンに応じて異なるであろう。天然ポリマーの場合、このポリマー鎖を加水分解することができる酵素が存在するため、これらは生分解性である。例えば、プロテアーゼは、ゼラチンのような天然タンパク質を加水分解することができる。合成生分解性ポリアミンの場合、これらも化学的に不安定な結合を有する。例えば、β-アミノエステルは、加水分解可能なエステル基を有する。生分解性の割合を修正するために、ポリアミンの性質に加えて、ポリアミンの分子量および接着剤の架橋密度などの他の検討事項を変更することができる。
【0034】
1つの態様では、生分解性ポリアミンは、多糖、タンパク質、または合成ポリアミンを含む。1つまたは複数のアミノ基を有する多糖を本明細書において使用することができる。1つの態様では、多糖は、キトサンまたは化学修飾キトサンなどの天然多糖である。同様に、タンパク質は、合成または天然に存在する化合物であり得る。別の態様では、生分解性ポリアミンは、ポリ(β-アミノエステル)、ポリエステルアミン、ポリ(ジスルフィドアミン)、混合ポリ(エステルおよびアミドアミン)、およびペプチド架橋ポリアミンなどの合成ポリアミンである。
【0035】
ポリカチオンが合成ポリマーである場合、様々な異なるポリマーを使用することができるが、例えば、生物医学的用途などの特定の用途では、ポリマーは生体適合性であり、かつ細胞および組織に対して毒性でないことが望ましい。1つの態様では、生分解性ポリアミンは、アミン修飾天然ポリマーであり得る。例えば、アミン修飾天然ポリマーは、1つまたは複数のアルキルアミノ基、ヘテロアリール基、または1つもしくは複数のアミノ基で置換された芳香族基で修飾されたゼラチンであり得る。アルキルアミノ基の例は、式IV~VIに示される。
【化1】
式中、R
13~R
22は独立して、水素、アルキル基、または窒素含有置換基であり、
s、t、u、v、w、およびxは1~10の整数であり、
Aは、1~50の整数である。
ここで、アルキルアミノ基は、天然ポリマーに共有結合される。1つの態様では、天然ポリマーがカルボキシル基(例えば、酸またはエステル)を有する場合、カルボキシル基をアルキルジアミノ化合物と反応させて、アミド結合を生成し、アルキルアミノ基をポリマーに取り込むことができる。従って、式IV~VIを参照すると、アミノ基NR
13は、天然ポリマーのカルボニル基に共有結合している。
【0036】
式IV~VIに示されるように、アミノ基の数は異なり得る。1つの態様では、アルキルアミノ基は、-NHCH2NH2、-NHCH2CH2NH2、-NHCH2CH2CH2NH2、-NHCH2CH2CH2CH2NH2、-NHCH2CH2CH2CH2CH2NH2、-NHCH2NHCH2CH2CH2NH2、-NHCH2CH2NHCH2CH2CH2NH2、-NHCH2CH2CH2NHCH2CH2CH2CH2NHCH2CH2CH2NH2、-NHCH2CH2NHCH2CH2CH2CH2NH2、-NHCH2CH2NHCH2CH2CH2NHCH2CH2CH2NH2、または-NHCH2CH2NH(CH2CH2NH)dCH2CH2NH2であり、式中、dは0~50である。
【0037】
1つの態様では、アミン修飾天然ポリマーは、芳香族基に直接または間接的に結合した1つまたは複数のアミノ基を有するアリール基を含むことができる。あるいは、アミノ基は、芳香環に取り込むことができる。例えば、芳香族アミノ基は、ピロール、イソピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、またはインドールである。別の態様では、芳香族アミノ基は、ヒスチジン中に存在するイソイミダゾール基を含む。別の態様では、生分解性ポリアミンは、エチレンジアミンで修飾されたゼラチンであり得る。
【0038】
別の態様では、ポリカチオンは、カチオン性界面活性剤を用いて形成されるポリカチオン性ミセルまたは混合ミセルであり得る。カチオン性界面活性剤は非イオン性界面活性剤と混合されて、様々な電荷密度を有するミセルを形成することができる。ミセルは、多価ミセルを形成する疎水性相互作用のために、ポリカチオン性である。1つの態様では、ミセルは、ポリアニオン上に存在する活性化エステル基と反応することができる複数のアミノ基を有する。
【0039】
非イオン性界面活性剤の例としては、約8~約20個の炭素原子を含有する直鎖または分枝鎖配置のより高級の脂肪族アルコール(例えば、脂肪アルコールなど)を、約3~約100モル、好ましくは約5~約40モル、最も好ましくは約5~約20モルのエチレンオキシドと縮合させた縮合生成物が挙げられる。このような非イオン性のエトキシル化脂肪アルコール界面活性剤の例は、Union CarbideからのTergitolTM15-SシリーズおよびICIからのBrijTM界面活性剤である。TergitolTM15-S界面活性剤は、C11~C15第2級アルコールポリエチレングリコールエーテルを含む。BrijTM97界面活性剤はポリオキシエチレン(10)オレイルエーテルであり、BrijTM58界面活性剤はポリオキシエチレン(20)セチルエーテルであり、そしてBrijTM76界面活性剤はポリオキシエチレン(10)ステアリルエーテルである。
【0040】
非イオン性界面活性剤の別の有用な種類には、約6~12個の炭素原子を含有する直鎖または分枝鎖配置のアルキルフェノール1モルと、エチレンオキシドとのポリエチレンオキシド縮合物が含まれる。非反応性の非イオン性界面活性剤の例は、Rhone-PoulencからのIgepalTMCOおよびCAシリーズである。IgepalTMCO界面活性剤には、ノニルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノールが含まれる。IgepalTMCA界面活性剤には、オクチルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノールが含まれる。
【0041】
炭化水素の非イオン性界面活性剤の別の有用な種類には、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドまたはブチレンオキシドのブロックコポリマーが含まれる。このような非イオン性ブロックコポリマー界面活性剤の例は、BASFからのPluronicTMおよびTetronicTMシリーズの界面活性剤である。PluronicTM界面活性剤には、エチレンオキシド-プロピレンオキシドブロックコポリマーが含まれる。TetronicTM界面活性剤には、エチレンオキシド-プロピレンオキシドブロックコポリマーが含まれる。
【0042】
他の態様では、非イオン性界面活性剤には、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびステアリン酸ポリオキシエチレンが含まれる。このような脂肪酸エステルの非イオン性界面活性剤の例は、ICIからのSpanTM、TweenTM、およびMyjTM界面活性剤である。SpanTM界面活性剤には、C12~C18ソルビタンモノエステルが含まれる。TweenTM界面活性剤には、ポリ(エチレンオキシド)C12~C18ソルビタンモノエステルが含まれる。MyjTM界面活性剤には、ステアリン酸ポリ(エチレンオキシド)が含まれる。
【0043】
1つの態様では、非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキル-フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアシルエステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ラウリン酸ポリエチレングリコール、ステアリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、オレイン酸ポリエチレングリコール、オキシエチレン-オキシプロピレンブロックコポリマー、ラウリン酸ソルビタン、ステアリン酸ソルビタン、ジステアリン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、ラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンラウリルアミド、ラウリルアミン酢酸塩、固い(hard)牛脂プロピレンジアミンジオレイン酸塩、エトキシル化テトラメチルデシンジオール、フルオロ脂肪族高分子エステル、ポリエーテル-ポリシロキサンコポリマーなどを含むことができる。
【0044】
カチオン性ミセルを作製するために有用なカチオン性界面活性剤の例としては、アルキルアミン塩および第4級アンモニウム塩が挙げられる。カチオン性界面活性剤の非限定的な例としては、26個までの炭素原子を有することができる第4級アンモニウム界面活性剤が挙げられ、これには、米国特許第6,136,769号明細書で議論されるようなアルコキシレート第4級アンモニウム(AQA)界面活性剤;米国特許第6,004,922号明細書で議論されるようなジメチルヒドロキシエチル第4級アンモニウム;ジメチルヒドロキシエチルラウリルアンモニウムクロリド;国際公開第98/35002号パンフレット、国際公開第98/35003号パンフレット、国際公開第98/35004号パンフレット、国際公開第98/35005号パンフレット、および国際公開第98/35006号パンフレットで議論されるようなポリアミンカチオン性界面活性剤;米国特許第4,228,042号明細書、米国特許第4,239,660号明細書、米国特許第4,260,529号明細書および米国特許第6,022,844号明細書で議論されるようなカチオン性エステル界面活性剤;ならびに米国特許第6,221,825号明細書および国際公開第00/47708号パンフレットで議論されるようなアミノ界面活性剤、特にアミドプロピルジメチルアミン(APA)が含まれる。
【0045】
1つの態様では、ポリカチオンは、1つまたは複数のペンダントアミノ基を有するポリアクリレートを含む。例えば、ポリカチオンの骨格は、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミドなどを含むがこれらに限定されないアクリレートモノマーの重合から誘導され得る。1つの態様では、ポリカチオン骨格はポリアクリルアミドから誘導される。他の態様では、ポリカチオンはブロックコポリマーであり、このコポリマーのセグメントまたは部分は、コポリマーを生成するために使用されるモノマーの選択に応じてカチオン基または中性基を有する。
【0046】
他の態様では、ポリカチオンはデンドリマーであり得る。デンドリマーは、分枝状ポリマー、複数のアームを有するポリマー、星形ポリマーなどであり得る。1つの態様では、デンドリマーは、ポリアルキルイミンデンドリマー、混合アミノ/エーテルデンドリマー、混合アミノ/アミドデンドリマー、またはアミノ酸デンドリマーである。別の態様では、デンドリマーは、ポリ(アミドアミン)、またはPAMAMである。1つの態様では、デンドリマーは3~20個のアームを有し、各アームはアミノ基を含む。
【0047】
1つの態様では、ポリカチオンはポリアミノ化合物である。別の態様では、ポリアミノ化合物は、10~90モル%の第1級アミノ基を有する。さらなる態様では、ポリカチオンポリマーは、式I
【化2】
(式中、R
1、R
2、およびR
3は独立して水素またはアルキル基であり、Xは酸素またはNR
5であり、ここでR
5は水素またはアルキル基であり、mは1~10である)の少なくとも1つの断片またはその薬学的に許容可能な塩を有する。別の態様では、R
1、R
2、およびR
3はメチルであり、mは2である。式Iを参照すると、ポリマー骨格は、ペンダント-C(O)X(CH
2)
mNR
2R
3単位を有するCH
2-CR
1単位で構成される。1つの態様では、ポリカチオンは、カチオン性第1級アミンモノマー(3-アミノ-プロピルメタクリレート)およびアクリルアミドのフリーラジカル重合生成物であり、分子量は10~200kdであり、第1級モノマー濃度は5~90モル%である。
【0048】
別の態様では、ポリカチオンはプロタミンである。プロタミンはアルギニンが豊富なポリカチオン性タンパク質であり、精子形成の間のクロマチンの精子頭部への凝縮に関与する。水産業の副産物として、魚の精子から精製される市販のプロタミンは、容易に大量に入手可能であり、比較的安価である。本明細書において有用なプロタミンの非限定的な例はサルミンである。サケの精子から単離されるプロタミンであるサルミンのアミノ酸配列は、配列番号18である。32のアミノ酸のうち、21はアルギニン(R)である。Rの側鎖にあるグアニジニル基は、約12.5のpKaを有し、それによりサルミンは、生理的に適切なpHにおいて高密度に帯電したポリカチオンとなる。サルミンは、約4,500g/molの分子質量と、カルボキシ末端における単一の負電荷とを有する。別の態様では、プロタミンはクルペインである。
【0049】
1つの態様では、プロタミンは、本明細書に記載される1つまたは複数の架橋性基により誘導体化することができる。例えば、サルミンは、1つまたは複数のアクリレートまたはメタクリレート基を含むように誘導体化することができる。この実施形態のための例示的で非限定的な手順は、実施例において提供される。この態様では、架橋性ポリカチオンを形成するために、サルミンは、C末端カルボキシレートにおいて単一のメタクリルアミド基により誘導体化されている。
【0050】
1つの態様では、ポリカチオンは、天然ポリマーに存在する1つまたは複数のアミンがグアニジン基により修飾された天然ポリマーである。別の態様では、ポリカチオンは、1つまたは複数のグアニジニル側鎖を含有する合成ポリマーである。例えば、ポリカチオンは、アクリレートまたはメタクリレート骨格と、1つまたは複数のグアニジニル側鎖とを有する合成ポリグアニジニルポリマーであり得る。別の態様では、ポリカチオンポリマーは、式VIII
【化3】
(式中、R
1は水素またはアルキル基であり、Xは酸素またはNR
5であり、ここでR
5は水素またはアルキル基であり、mは1~10である)の少なくとも1つの断片またはその薬学的に許容可能な塩を有する。別の態様では、R
1、R
2、およびR
3はメチルであり、mは2である。式VIIIを参照すると、ポリマー骨格は、ペンダント-C(O)X(CH
2)
mNC(NH)NH
2単位を有するCH
2-CR
1単位で構成される。本明細書において有用な合成ポリグアニジニルポリマーの一例は、
図6に示される。合成ポリグアニジニルポリマーを調製するための例示的で非限定的な手順は、実施例において提供される。
【0051】
別の態様では、合成ポリグアニジニルポリマーは、本明細書に記載される1つまたは複数の架橋性基により誘導体化することができる。例えば、1つまたは複数のアクリレートまたはメタクリレート基を合成ポリグアニジニルポリマー上にグラフトすることができる。
図6Bは、メタクリレート側鎖を有する合成ポリグアニジニルポリマーを示す。この実施形態のための例示的で非限定的な手順は、実施例において提供される。
【0052】
II.ポリアニオン
ポリカチオンと同様に、ポリアニオンは合成ポリマーであっても、あるいは天然に存在してもよい。天然に存在するポリアニオンの例としては、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、デルマタン硫酸、ケラチン硫酸、およびヒアルロン酸などのグリコサミノグリカンが挙げられる。他の態様では、中性pHにおいて正味の負電荷を有する酸性タンパク質、または低pIを有するタンパク質は、本明細書に記載される天然に存在するポリアニオンとして使用することができる。アニオン基はポリマー骨格のペンダントであってもよいし、そして/あるいはポリマー骨格内に取り込まれていてもよい。
【0053】
ポリアニオンが合成ポリマーである場合、これは一般に、アニオン基またはpHを調整することによってアニオン基に容易に転換され得る基を有する任意のポリマーである。アニオン基に転換され得る基の例としては、カルボキシレート、スルホネート、ボロネート、サルフェート、ボレート、ホスホネート、またはホスフェートが挙げられるが、これらに限定されない。上記の検討事項が満たされれば、アニオン性ポリマーと関連して任意のカチオン性対イオンを使用することができる。
【0054】
1つの態様では、ポリアニオンはポリホスフェートである。別の態様では、ポリアニオンは、5~90モル%のホスフェート基を有するポリホスフェート化合物である。例えば、ポリホスフェートは、例えば、DNA、RNA、またはホスビチン(卵タンパク質)、象牙質(天然歯のリン酸化タンパク質)、カゼイン(リン酸化乳タンパク質)、もしくは骨タンパク質(例えば、オステオポンチン)のような高度にリン酸化されたタンパク質などの天然に存在する化合物であり得る。
【0055】
あるいは、ポリホスホセリンは、アミノ酸セリンを重合させた後、このポリペプチドを化学的にリン酸化することにより製造される合成ポリペプチドであり得る。別の態様では、ポリホスホセリンは、ホスホセリンの重合によって製造することができる。1つの態様では、ポリホスフェートは、タンパク質(例えば、天然のセリンまたはスレオニンが豊富なタンパク質)を化学的または酵素的にリン酸化することにより製造することができる。さらなる態様では、ポリホスフェートは、セルロースまたはデキストランなどの多糖を含むがこれらに限定されない多価アルコールを化学的にリン酸化することにより製造することができる。
【0056】
別の態様では、ポリホスフェートは合成化合物であり得る。例えば、ポリホスフェートは、ペンダントホスフェート基がポリマー骨格に結合される、および/またはポリマー骨格中に存在する(例えば、ホスホジエステル骨格)ポリマーであり得る。
【0057】
別の態様では、ポリアニオンは、アニオン性界面活性剤を用いて形成されるミセルまたは混合ミセルであり得る。アニオン性界面活性剤は、上記の非イオン性界面活性剤のいずれかと混合されて、様々な電荷密度を有するミセルを形成することができる。ミセルは、多価ミセルを形成する疎水性相互作用のために、ポリアニオン性である。
【0058】
他の有用なアニオン性界面活性剤には、以下のアルカリ金属および(アルキル)アンモニウム塩が含まれるが、これらに限定されない:1)ドデシル硫酸ナトリウム、2-エチルヘキシル硫酸ナトリウム、およびドデカンスルホン酸カリウムなどのアルキル硫酸塩およびアルキルスルホン酸塩;2)直鎖または分枝鎖脂肪族アルコールおよびカルボン酸のポリエトキシル化誘導体の硫酸塩;3)ラウリルベンゼン-4-スルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンまたはアルキルナフタレンスルホン酸塩および硫酸塩、ならびにエトキシル化およびポリエトキシル化アルキルおよびアラルキルアルコールカルボン酸塩;5)アルキルサルコシネートおよびアルキルグリシネートなどのグリシネート;6)ジアルキルスルホコハク酸塩を含むスルホコハク酸塩;7)イソチオネート(isothionate)誘導体;8)Nメチル-N-オレイルタウリンナトリウムなどのN-アシルタウリン誘導体;9)アルキルおよびアルキルアミドアルキルジアルキルアミンオキシドを含むアミンオキシド;ならびに10)エトキシル化ドデシルアルコールリン酸エステルなどのアルキルリン酸モノまたはジエステル、ナトリウム塩。
【0059】
適切なアニオン性スルホネート界面活性剤の代表的な市販の例としては、例えば、Henkel Inc.(Wilmington,Del.)からTEXAPONTML-100として、またはStepan Chemical Co(Northfield,Ill.)からPOLYSTEPTMB-3として入手可能なラウリル硫酸ナトリウム;Stepan Chemical Co.(Northfield,Ill.)からPOLYSTEPTMB-12として入手可能な25ラウリルエーテル硫酸ナトリウム;Henkel Inc.(Wilmington,Del.)からSTANDAPOL.TM.Aとして入手可能なラウリル硫酸アンモニウム;およびRhone-Poulenc,Inc.(Cranberry,N.J.)からSIPONATETMDS-10として入手可能なドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、Cytec Industries(West Paterson,N.J.)から市販されている商品名AEROSOLTMOTを有するジアルキルスルホコハク酸;メチルタウリンナトリウム(日光ケミカルズ株式会社(東京、日本)から商品名NIKKOLTMCMT30で入手可能);Clariant Corp.(Charlotte,N.C.)から入手可能な(C14~C17)第2級アルカンスルホン酸(アルファ-オレフィンスルホン酸)ナトリウムであるHostapurTMSASなどの第2級アルカンスルホン酸塩;Stepan Companyから商品名ALPHASTETMPC48で入手可能なメチル-2-スルホ(C12~16)エステルナトリウムおよび2-スルホ(C12~C16)脂肪酸二ナトリウムなどのメチル-2-スルホアルキルエステル;ラウリルスルホ酢酸ナトリウム(商品名LANTHANOLTMLAL)およびラウレススルホコハク酸二ナトリウム(STEPANMILDTMSL3)として、いずれもStepan Companyから入手可能なアルキルスルホ酢酸塩およびアルキルスルホコハク酸塩;Stepan Companyから商品名STEPANOLTMAMで市販されているラウリル硫酸アンモニウムなどのアルキル硫酸塩、およびまたはStepan Chemical Co.からBIO-SOFT(登録商標)AS-100で販売されているドデシルベンゼンスルホン酸が挙げられる。1つの態様では、界面活性剤は、C12~C16スルホン酸塩の混合物を含有するアルファオレフィンスルホン酸二ナトリウムであり得る。1つの態様では、Pilot Corp.により製造されるCALSOFTTMAOS-40を、本明細書において界面活性剤として使用することができる。別の態様では、界面活性剤は、Dow Chemicalにより製造されるアルキルジフェニルオキシドジスルホン酸塩であるDOWFAX 2A1または2Gである。
【0060】
適切なアニオン性のホスフェート界面活性剤の代表的な市販の例としては、Clariant Corp.から商品名HOSTAPHATTM340KLで市販されている、一般にトリラウレス-4-リン酸と呼ばれるモノ-、ジ-およびトリ-(アルキルテトラグリコールエーテル)-o-リン酸エステルの混合物、ならびにCroda Inc.(Parsipanny,N.J.)から商品名CRODAPHOSTMSGで入手可能なPPG-5セチル10リン酸が挙げられる。
【0061】
適切なアニオン性のアミンオキシド界面活性剤の代表的な市販の例としては、商品名AMMONYXTMLO、LMDO、およびCO(ラウリルジメチルアミンオキシド、ラウリルアミドプロピルジメチルアミンオキシド、およびセチルアミンオキシドである)で、すべてStepan Companyから市販されているものが挙げられる。
【0062】
1つの態様では、ポリアニオンは、1つまたは複数のペンダントホスフェート基を有するポリアクリレートを含む。例えば、ポリアニオンは、アクリレート、メタクリレートなどを含むがこれらに限定されないアクリレートモノマーの重合から誘導され得る。他の態様では、ポリアニオンはブロックコポリマーであり、このコポリマーのセグメントまたは部分は、コポリマーを生成するために使用されるモノマーの選択に応じてアニオン基および中性基を有する。
【0063】
1つの態様では、ポリアニオンは2つ以上のカルボキシレート、サルフェート、スルホネート、ボレート、ボロネート、ホスホネート、またはホスフェート基を含む。
【0064】
別の態様では、ポリアニオンは、式XI
【化4】
(式中、R
4は、水素またはアルキル基であり、
nは1~10であり、
Yは、酸素、硫黄、またはNR
30であり、ここで、R
30は水素、アルキル基、またはアリール基であり、
Z’は、アニオン基またはアニオン基に転換され得る基である)
を有する少なくとも1つの断片またはその薬学的に許容可能な塩を有するポリマーである。
【0065】
1つの態様では、式XI中のZ’は、カルボキシレート、サルフェート、スルホネート、ボレート、ボロネート、置換もしくは非置換ホスフェート、またはホスホネートである。別の態様では、式XI中のZ’は、サルフェート、スルホネート、ボレート、ボロネート、置換もしくは非置換ホスフェート、またはホスホネートであり、式XI中のnは2である。
【0066】
別の態様では、ポリアニオンは、複数のホスフェート基を有する無機ポリホスフェートである(例えば、(NaPO3)nであり、式中、nは3~10である)。無機ホスフェートの例としては、グラハム塩、ヘキサメタリン酸塩、およびトリリン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。これらの塩の対イオンは、例えば、Na+、K+、およびNH4
+などの一価のカチオンであり得る。
【0067】
別の態様では、ポリアニオンはリン酸化糖である。糖は、ヘキソースまたはペントース糖であり得る。さらに、糖は、部分的または完全にリン酸化され得る。1つの態様では、リン酸化糖はイノシトール6リン酸である。
【0068】
III.架橋性基
特定の態様では、ポリカチオンおよびポリアニオンは、硬化の際に2つのポリマー間の架橋が新しい共有結合を生じるようにする基を含有することができる。架橋のメカニズムは、架橋基の選択に応じて異なり得る。1つの態様では、架橋基は求電子基と求核基であり得る。例えば、ポリアニオンは1つまたは複数の求電子基を有することができ、ポリカチオンは、求電子基と反応して新しい共有結合を生じることができる1つまたは複数の求核基を有することができる。求電子基の例としては、無水物基、エステル、ケトン、ラクタム(例えば、マレイミドおよびスクシンイミド)、ラクトン、エポキシド基、イソシアナート基、およびアルデヒドが挙げられるが、これらに限定されない。求核基の例は以下に示される。1つの態様では、ポリカチオンおよびポリアニオンは、マイケル付加によって互いに架橋することができる。例えば、ポリカチオンは、例えば、ポリアニオン上に存在するオレフィン基と反応することができるヒドロキシルまたはチオール基などの1つまたは複数の求核基を有することができる。
【0069】
1つの態様では、ポリアニオン上の架橋基はオレフィン基を含み、ポリカチオン上の架橋基は、オレフィン基と反応して新しい共有結合を生じる求核基を含む。別の態様では、ポリカチオン上の架橋基はオレフィン基を含み、ポリアニオン上の架橋基は、オレフィン基と反応して新しい共有結合を生じる求核基を含む。
【0070】
別の態様では、ポリカチオンおよびポリアニオンはそれぞれ、化学線架橋性基を有する。本明細書で使用される場合、硬化または重合に関連する「化学線架橋性基」は、ポリカチオンとポリアニオンとの間の架橋が、例えば、UV照射、可視光照射、電離放射線(例えば、ガンマ線またはX線照射)、マイクロ波照射などの化学線照射によって行われることを意味する。化学線硬化法は当業者によく知られている。化学線架橋性基は、例えば、オレフィン基などの不飽和有機基であり得る。本明細書において有用なオレフィン基の例としては、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、アリル基、ビニル基、ビニルエステル基、またはスチレニル基が挙げられるが、これらに限定されない。別の態様では、化学線架橋性基はアジド基であり得る。例えば、アジド基を介した光活性化架橋により、ポリカチオンとポリアニオンとの間に架橋が生じ得る。
【0071】
ポリカチオンおよびポリアニオンとして使用することができる上記のポリマー(合成または天然に存在する)はどれも、化学線架橋性基を含むように修飾され得る。
【0072】
別の態様では、架橋性基は、酸化剤の存在下で酸化を受けることができるジヒドロキシ置換芳香族基を含む。1つの態様では、ジヒドロキシ置換芳香族基は、酸化されて対応するキノンになることができるオルト-ジヒドロキシ芳香族基である。別の態様では、ジヒドロキシル置換芳香族基は、ジヒドロキシフェノールまたはハロゲン化ジヒドロキシフェノール基、例えば、DOPAおよびカテコール(3,4ジヒドロキシフェノール)などである。例えば、DOPAの場合、酸化されるとドパキノンになることができる。ドパキノンは、隣接するDOPA基または別の求核基と反応することができる。過酸化物、過ヨウ素酸塩(例えば、NaIO4)、過硫酸塩、過マンガン酸塩、二クロム酸塩、遷移金属酸化物(例えば、Fe+3化合物、四酸化オスミウム)、または酵素(例えば、カテコールオキシダーゼ)を含むがこれらに限定されない酸素または他の添加剤などの酸化剤の存在下で、ジヒドロキシル置換芳香族基は酸化され得る。
【0073】
1つの態様では、ポリアニオンは2つ以上のモノマー間の重合生成物であり、ここで、モノマーの1つは、モノマーに共有結合したジヒドロキシ芳香族基を有する。例えば、ポリアニオンは、(1)ホスフェートアクリレートおよび/またはホスフェートメタクリレートと、(2)第2のアクリレートまたは第2のメタクリレートに共有結合したジヒドロキシ芳香族基を有する第2のアクリレートおよび/または第2のメタクリレートとの間の重合生成物であり得る。別の態様では、ポリアニオンは、メタクリロキシエチルホスフェートと、ドーパミンメタクリルアミドとの間の重合生成物である。これらのポリマーのそれぞれにおいて、ペンダントオルト-ジヒドロキシフェニル残基を含有するアクリレートは適切なモノマーと重合されて、ペンダントオルト-ジヒドロキシフェニル残基を有するポリアニオンを生じる。オルト-ジヒドロキシフェニル基の酸化は反応性中間体のオルトキノン基をもたらし、マイケル型付加により、例えば、アミノ、ヒドロキシル、またはチオール基などの求核試薬と架橋(すなわち、反応)して、新しい共有結合を形成することができる。例えば、ポリカチオン上のリシル基は、ポリアニオン上のオルトキノン残基と反応して、新しい共有結合を生じることができる。例えば、チロシンまたはアルキルフェノール基などの他の基を本明細書において使用することができる。アルキルフェノール基は、H2O2の存在下でペルオキシダーゼ酵素、例えば、西洋わさびペルオキシダーゼにより架橋され得る。本明細書に記載される接着性複合コアセルベートの使用に関する架橋の重要性は以下で議論されるであろう。
【0074】
特定の態様では、上記で使用される酸化剤は安定化され得る。例えば、酸化還元活性でない、過ヨウ素酸塩との複合体を形成する化合物は、安定化された酸化剤をもたらすことができる。言い換えると、過ヨウ素酸塩は非酸化形態で安定化され、複合体である間は、オルト-ジヒドロキシ置換芳香族基を酸化することができない。複合体は可逆的であり、非常に高い安定度定数を有するとしても、少量の非複合体化過ヨウ素酸塩が形成されている。オルト-ジヒドロキシル置換芳香族基は、その少量の遊離過ヨウ素酸塩に対して化合物と競合する。遊離過ヨウ素酸塩が酸化されると、平衡複合体からさらに放出される。1つの態様では、6員環上にシス,シス-1,2,3-トリオール群を有する糖は、競合的な過ヨウ素酸塩複合体を形成することができる。安定した過ヨウ素酸塩複合体を形成する特定の化合物の一例は、1,2-O-イソプロピリデン-アルファ-D-グルコフラノースである(A.S.Perlin and E.von Rudloff,Canadian Journal of Chemistry.Volume 43(1965))。安定化した酸化剤は、架橋の速度を制御することができる。理論により束縛されることは望まないが、安定化酸化剤は酸化の速度を遅くして、接着剤が不可逆的に硬化する前に酸化剤を添加し、基材を適所に配置するための時間を提供する。
【0075】
他の態様では、ポリカチオンおよび/またはポリアニオン上に存在する架橋剤は、遷移金属イオンと配位化合物を形成することができる。1つの態様では、ポリカチオンおよび/またはポリアニオンは、遷移金属イオンに配位することが可能な基を含むことができる。配位する側鎖の例は、カテコール、イミダゾール、ホスフェート、カルボン酸、および組み合わせである。配位および解離の速度は、配位基の選択、遷移金属イオン、およびpHによって制御され得る。従って、上記の共有結合による架橋に加えて、架橋は、静電結合、イオン結合、配位結合、または他の非共有結合によって生じ得る。例えば、鉄、銅、バナジウム、亜鉛、およびニッケルなどの遷移金属イオンを本明細書において使用することができる。1つの態様では、遷移金属は、適用部位において水性環境で存在する。
【0076】
特定の態様では、その場凝固複合コアセルベートは、多価架橋剤を含むこともできる。1つの態様では、多価架橋剤は、マイケル付加反応によってポリカチオンおよびポリアニオン上に存在する架橋性基(例えば、オレフィン基)と反応して新しい共有結合を生じる求核基(例えば、ヒドロキシル、チオールなど)を2つ以上有する。1つの態様では、多価架橋剤はジ-チオールまたはトリ-チオール化合物である。
【0077】
IV.強化成分
本明細書に記載されるその場凝固複合コアセルベートは、任意選択的に、強化成分を含むことができる。「強化成分」という用語は、本明細書では、強化成分を含まない同じコアセルベートと比較したときに、コアセルベートの硬化前または硬化後のその場凝固複合コアセルベートについて、本明細書に記載される流体複合コアセルベートの1つまたは複数の特性(例えば、凝集性、破壊靭性、弾性率、硬化後の寸法安定性、粘度など)を強化または変更する任意の成分であると定義される。強化成分がコアセルベートの機械特性を強化し得るモードは様々であることができ、コアセルベートの意図される用途、ならびにポリカチオン、ポリアニオン、および強化成分の選択に依存するであろう。例えば、コアセルベートの硬化の際、コアセルベート中に存在するポリカチオンおよび/またはポリアニオンは、強化成分と共有結合で架橋することができる。他の態様では、強化成分は、コアセルベート内の空間または「相」を占有することができ、これは最終的にコアセルベートの機械特性を増大させる。本明細書において有用な強化成分の例は以下に提供される。
【0078】
1つの態様では、強化成分は重合性モノマーである。複合コアセルベート内に捕捉された重合性モノマーは、相互貫入(interpenetrating)ポリマーネットワークを生成するために重合を受けることができる任意の水溶性モノマーであり得る。特定の態様では、相互貫入ネットワークは、ポリアニオン上に存在する活性化エステル基と反応(すなわち、架橋)することができる求核基(例えば、アミノ基)を有することができる。重合性モノマーの選択は用途に応じて異なり得る。水中の重合性モノマーの溶解特性ならびに得られるコアセルベートの機械特性を修正するために、分子量などの因子が変更され得る。
【0079】
重合性モノマー上の官能基の選択によって重合のモードが決定される。例えば、重合性モノマーは、例えば、フリーラジカル重合およびマイケル付加反応などのメカニズムによる重合を受けることができる重合性オレフィンモノマーであり得る。1つの態様では、重合性モノマーは、2つ以上のオレフィン基を有する。1つの態様では、モノマーは、上記で定義された1つまたは2つの化学線架橋性基を含む。
【0080】
水溶性の重合性モノマーの例としては、ヒドロキシアルキルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシアルキルアクリレート、N-ビニルピロリドン、N-メチル-3-メチリデン-ピロリドン、アリルアルコール、N-ビニルアルキルアミド、N-ビニル-N-アルキルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、(低級アルキル)アクリルアミドおよびメタクリルアミド、ならびにヒドロキシル置換(低級アルキル)アクリルアミドおよびメタクリルアミドが挙げられるが、これらに限定されない。1つの態様では、重合性モノマーは、ジアクリレート化合物またはジメタクリレート化合物である。別の態様では、重合性モノマーは、ポリアルキレンオキシドグリコールジアクリレートまたはジメタクリレートである。例えば、ポリアルキレンは、エチレングリコールのポリマー、プロピレングリコールのポリマー、またはこれらのブロックコポリマーであり得る。1つの態様では、重合性モノマーは、ポリエチレングリコールジアクリレートまたはポリエチレングリコールジメタクリレートである。1つの態様では、ポリエチレングリコールジアクリレートまたはポリエチレングリコールジメタクリレートは、200~2,000、400~1,500、500~1,000、500~750、または500~600のMnを有する。
【0081】
特定の態様では、相互貫入ポリマーネットワークは、医学的用途のために生分解性かつ生体適合性である。従って、重合性モノマーは、重合の際に生分解性かつ生体適合性の相互貫入ポリマーネットワークが生成されるように選択される。例えば、重合性モノマーは、切断可能なエステル結合を有することができる。1つの態様では、重合性モノマーはヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)であり、これは生体適合性の相互貫入ネットワークを生成するであろう。他の態様では、生分解性架橋剤を使用して、例えばアルキルメタクリルアミドなどの生体適合性の水溶性モノマーを重合させることができる。架橋剤はペプチドのように酵素的に分解可能であってもよいし、あるいはエステルまたはジスルフィド結合を有することにより化学的に分解可能であってもよい。別の態様では、強化成分は、天然または合成繊維であり得る。
【0082】
他の態様では、強化成分は水不溶性充填剤であり得る。充填剤は、粒子(マイクロおよびナノ)から繊維材料まで、様々な異なるサイズおよび形状を有することができる。充填剤の選択は、その場凝固複合コアセルベートの用途に応じて異なり得る。
【0083】
本明細書において有用な充填剤は、有機および/または無機材料で構成され得る。1つの態様では、ナノ構造は、炭素のような有機材料または無機材料(ホウ素、モリブデン、タングステン、ケイ素、チタン、銅、ビスマス、炭化タングステン、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二硫化モリブデン、炭化ケイ素、二ホウ化チタン、窒化ホウ素、酸化ジスプロシウム、酸化水酸化鉄(III)、酸化鉄、酸化マンガン、二酸化チタン、炭化ホウ素、窒化アルミニウム、またはこれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない)で構成され得る。
【0084】
特定の態様では、充填剤は、ポリカチオンおよび/またはポリアニオンと反応(すなわち、架橋)するために官能化され得る。例えば、充填剤は、アミノ基または活性化エステル基により官能化され得る。他の態様では、2つ以上の異なるタイプの充填剤を使用することが望ましい。例えば、炭素ナノ構造は、1つまたは複数の無機ナノ構造と組み合わせて使用することができる。
【0085】
1つの態様では、充填剤は、金属酸化物、セラミック粒子、または水不溶性無機塩を含む。本明細書において有用な充填剤の例としては、以下に列挙される、SkySpring Nanomaterials,Inc.によって製造されるものが挙げられる。
【0086】
金属および非金属元素
Ag、99.95%、100nm
Ag、99.95%、20~30nm
Ag、99.95%、20~30nm、PVP被覆
Ag、99.9%、50~60nm
Ag、99.99%、30~50nm、オレイン酸被覆
Ag、99.99%、15nm、10重量%、自己分散性
Ag、99.99%、15nm、25重量%、自己分散性
Al、99.9%、18nm
Al、99.9%、40~60nm
Al、99.9%、60~80nm
Al、99.9%、40~60nm、低酸素
Au、99.9%、100nm
Au、99.99%、15nm、10重量%、自己分散性
B、99.9999%
B、99.999%
B、99.99%
B、99.9%
B、99.9%、80nm
ダイアモンド、95%、3~4nm
ダイアモンド、93%、3~4nm
ダイアモンド、55~75%、4~15nm
黒鉛、93%、3~4nm
スーパー活性炭、100nm
Co、99.8%、25~30nm
Cr、99.9%、60~80nm
Cu、99.5%、300nm
Cu、99.5%、500nm
Cu、99.9%、25nm
Cu、99.9%、40~60nm
Cu、99.9%、60~80nm
Cu、5~7nm、分散体、油溶性
Fe、99.9%、20nm
Fe、99.9%、40~60nm
Fe、99.9%、60~80nm
カルボニル-Fe、マイクロサイズ
Mo、99.9%、60~80nm
Mo、99.9%、0.5~0.8μm
Ni、99.9%、500nm(調整可能)
Ni、99.9%、20nm
炭素被覆Ni、99.9%、20nm
Ni、99.9%、40~60nm
Ni、99.9%、60~80nm
カルボニル-Ni、2~3μm
カルボニル-Ni、4~7μm
カルボニル-Ni-Al(Niシェル、Alコア)
カルボニル-Ni-Fe合金
Pt、99.95%、5nm、10重量%、自己分散性
Si、立方晶、99%、50nm
Si、多結晶、99.99995%、塊
Sn、99.9%、<100nm
Ta、99.9%、60~80nm
Ti、99.9%、40~60nm
Ti、99.9%、60~80nm
W、99.9%、40~60nm
W、99.9%、80~100nm
Zn、99.9%、40~60nm
Zn、99.9%、80~100nm
金属酸化物
AlOOH、10~20nm、99.99%
Al2O3 アルファ、98+%、40nm
Al2O3 アルファ、99.999%、0.5~10μm
Al2O3 アルファ、99.99%、50nm
Al2O3 アルファ、99.99%、0.3~0.8μm
Al2O3 アルファ、99.99%、0.8~1.5μm
Al2O3 アルファ、99.99%、1.5~3.5μm
Al2O3 アルファ、99.99%、3.5~15μm
Al2O3 ガンマ、99.9%、5nm
Al2O3 ガンマ、99.99%、20nm
Al2O3 ガンマ、99.99%、0.4~1.5μm
Al2O3 ガンマ、99.99%、3~10μm
Al2O3 ガンマ、押出物
Al2O3 ガンマ、押出物
Al(OH)3、99.99%、30~100nm
Al(OH)3、99.99%、2~10μm
アルミニウムイソプロポキシド(AIP)、C9H21O3Al、99.9%
AlN、99%、40nm
BaTiO3、99.9%、100nm
BBr3、99.9%
B2O3、99.5%、80nm
BN、99.99%、3~4μm
BN、99.9%、3~4μm
B4C、99%、50nm
Bi2O3、99.9%、<200nm
CaCO3、97.5%、15~40nm
CaCO3、15~40nm
Ca3(PO4)2、20~40nm
Ca10(PO4)6(OH)2、98.5%、40nm
CeO2、99.9%、10~30nm
CoO、<100nm
Co2O3、<100nm
Co3O4、50nm
CuO、99+%、40nm
Er2O3、99.9%、40~50nm
Fe2O3 アルファ、99%、20~40nm
Fe2O3 ガンマ、99%、20~40nm
Fe3O4、98+%、20~30nm
Fe3O4、98+%、10~20nm
Gd2O3、99.9%<100nm
HfO2、99.9%、100nm
In2O3:SnO2=90:10、20~70nm
In2O3、99.99%、20~70nm
In(OH)3、99.99%、20~70nm
LaB6、99.0%、50~80nm
La2O3、99.99%、100nm
LiFePO4、40nm
MgO、99.9%、10~30nm
MgO、99%、20nm
MgO、99.9%、10~30nm
Mg(OH)2、99.8%、50nm
Mn2O3、98+%、40~60nm
MoCl5、99.0%
Nd2O3、99.9%、<100nm
NiO、<100nm
Ni2O3、<100nm
Sb2O3、99.9%、150nm
SiO2、99.9%、20~60nm
SiO2、99%、10~30nm、シランカップリング剤による処理
SiO2、99%、10~30nm、ヘキサメチルジシラザンによる処理
SiO2、99%、10~30nm、チタンエステルによる処理
SiO2、99%、10~30nm、シランによる処理
SiO2、10~20nm、アミノ基による修飾、分散性
SiO2、10~20nm、エポキシ基による修飾、分散性
SiO2、10~20nm、二重結合による修飾、分散性
SiO2、10~20nm、二重層による表面修飾、分散性
SiO2、10~20nm、表面修飾、超疎水性および親油性、分散性
SiO2、99.8%、5~15nm、表面修飾、疎水性および親油性、分散性
SiO2、99.8%、10~25nm、表面修飾、超疎水性、分散性
SiC、ベータ、99%、40nm
SiC、ベータ、ウイスカー、99.9%
Si3N4、アモルファス、99%、20nm
Si3N4 アルファ、97.5~99%、繊維、100nmX800nm
SnO2、99.9%、50~70nm
ATO、SnO2:Sb2O3=90:10、40nm
TiO2 アナターゼ、99.5%、5~10nm
TiO2 ルチル、99.5%、10~30nm
TiO2 ルチル、99%、20~40nm、SiO2による被覆、高疎水性
TiO2 ルチル、99%、20~40nm、SiO2/Al2O3による被覆
TiO2 ルチル、99%、20~40nm、Al2O3による被覆、親水性
TiO2 ルチル、99%、20~40nm、SiO2/Al2O3/ステアリン酸による被覆
TiO2 ルチル、99%、20~40nm、シリコーン油による被覆、疎水性
TiC、99%、40nm
TiN、97+%、20nm
WO3、99.5%、<100nm
WS2、99.9%、0.8μm
WCl6、99.0%
Y2O3、99.995%、30~50nm
ZnO、99.8%、10~30nm
ZnO、99%、10~30nm、シランカップリング剤剤による処理
ZnO、99%、10~30nm、ステアリン酸による処理
ZnO、99%、10~30nm、シリコーン油による処理
ZnO、99.8%、200nm
ZrO2、99.9%、100nm
ZrO2、99.9%、20~30nm
ZrO2-3Y、99.9%、0.3~0.5um
ZrO2-3Y、25nm
ZrO2-5Y、20~30nm
ZrO2-8Y、99.9%、0.3~0.5μm
ZrO2-8Y、20nm
ZrC、97+%、60nm
【0087】
1つの態様では、充填剤はナノシリカである。ナノシリカは、複数の供給業者から幅広い範囲のサイズで市販されている。例えば、水性のNexsilコロイドシリカは、Nyacol Nanotechnologies,Incから直径6~85nmで入手可能である。またアミノ変性ナノシリカは、例えばSigma Aldrichから市販されているが、未変性シリカよりも直径の範囲が狭い。ナノシリカはコアセルベートの不透明度に関与せず、これは、コアセルベートから製造される接着剤および糊の重要な属性である。
【0088】
別の態様では、充填剤はリン酸カルシウムで構成され得る。1つの態様では、充填剤は、式Ca5(PO4)3OHを有するヒドロキシアパタイトであり得る。別の態様では、充填剤は、置換ヒドロキシアパタイトであり得る。置換ヒドロキシアパタイトは、1つまたは複数の原子が別の原子で置換されたヒドロキシアパタイトである。置換ヒドロキシアパタイトは、式M5X3Yで示され、式中、MはCa、Mg、Naであり、XはPO4またはCO3であり、そしてYはOH、F、Cl、またはCO3である。ヒドロキシアパタイト構造中には、以下のイオン:Zn、Sr、Al、Pb、Baからの微量の不純物も存在し得る。別の態様では、リン酸カルシウムはオルトリン酸カルシウムを含む。オルトリン酸カルシウムの例としては、無水リン酸一カルシウム、リン酸一カルシウム一水和物、リン酸二カルシウム二水和物、無水リン酸二カルシウム、リン酸八カルシウム、ベータリン酸三カルシウム、アルファリン酸三カルシウム、スーパーアルファリン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、アモルファスリン酸三カルシウム、またはこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。他の態様では、リン酸カルシウムは、骨基質タンパク質を優先的に吸収することができるカルシウム欠損ヒドロキシアパタイトを含むこともできる。
【0089】
特定の態様では、充填剤は、1つまたは複数のアミノ基または活性化エステル基により官能化され得る。この態様では、充填剤は、ポリカチオンまたはポリアニオンに共有結合され得る。例えば、アミノ化シリカは、活性化エステル基を有するポリアニオンと反応されて、新しい共有結合を形成することができる。
【0090】
他の態様では、充填剤がコアセルベートと静電結合を形成できるように、充填剤は、帯電基を生成するように修飾され得る。例えば、アミノ化シリカを溶液に添加し、pHを調整することにより、アミノ基がプロトン化されて静電結合に利用できるようになる。
【0091】
1つの態様では、強化成分はミセルまたはリポソームであり得る。一般に、この態様で使用されるミセルおよびリポソームは、コアセルベートを調製するためにポリカチオンおよびポリアニオンとして使用されるミセルまたはリポソームとは異なる。ミセルおよびリポソームは、上記の非イオン性、カチオン性、またはアニオン性の界面活性剤から調製することができる。ミセルおよびリポソームの電荷は、ポリカチオンまたはポリアニオンの選択ならびにコアセルベートの意図される使用に応じて異なり得る。1つの態様では、ミセルおよびリポソームは、医薬化合物のような疎水性化合物を可溶化するために使用することができる。従って、接着剤としての使用に加えて、本明細書に記載される接着性複合コアセルベートは、生物活性剤送達デバイスとしても有効であり得る。
【0092】
V.開始剤
特定の態様では、その場凝固複合コアセルベートは、コアセルベート内に捕捉された1つまたは複数の開始剤も含む。本明細書において有用な開始剤の例としては、複合コアセルベート組成物中の異なる成分間の架橋を促進するための、熱開始剤、化学開始剤、または光開始剤が挙げられる。
【0093】
光開始剤の例としては、ホスフィンオキシド、過酸化物、過酸、アジド化合物、α-ヒドロキシケトン、またはα-アミノケトンが挙げられるが、これらに限定されない。1つの態様では、光開始剤には、カンファーキノン、ベンゾインメチルエーテル、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、またはDarocure(登録商標)もしくはIrgacure(登録商標)タイプ、例えば、Darocure(登録商標)1173もしくはIrgacure(登録商標)2959が含まれるが、これらに限定されない。参照によって援用される欧州特許第0632329号明細書に開示される光開始剤を本明細書において使用することができる。他の態様では、光開始剤は、リボフラビン、エオシン、エオシンy、およびローズベンガルを含むがこれらに限定されない水溶性光開始剤である。
【0094】
1つの態様では、開始剤は正帯電官能基を有する。例としては、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩;2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩;2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩脱水物(dehydrate);2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩;2,2’-アゾビス[2-(3,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン]二塩酸塩;アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}二塩酸塩;2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-エチルプロパン)二塩酸塩、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0095】
別の態様では、開始剤は油溶性開始剤である。1つの態様では、油溶性開始剤は、有機過酸化物またはアゾ化合物を含む。有機過酸化物の例としては、ケトン過酸化物、ペルオキシケタール、ヒドロペルオキシド、過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、ペルオキシジカーボネート、ペルオキシエステルなどが挙げられる。油溶性開始剤として使用することができる有機過酸化物のいくつかの特定の非限定的な例としては、過酸化ラウロイル、1,1-ビス(t-ヘキシルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルペルオキシラウレート、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート、ジ-t-ブチルペルオキシヘキサヒドロ-テレフタレート、過酸化ジクミル、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、過酸化ジ-t-ブチル、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジ-カーボネート、t-アミルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、1,1-ジ(t-アミルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、過酸化ベンゾイル、過酢酸t-ブチルなどが挙げられる。
【0096】
油溶性開始剤として使用することができるアゾ化合物のいくつかの特定の非限定的な例としては、2,2’-アゾビス-イソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、1,1’-アゾビス-1-シクロヘキサン-カルボニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチラート、1,1’-アゾビス-(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)およびその可溶性塩(例えば、ナトリウム、カリウム)などが挙げられる。
【0097】
1つの態様では、開始剤は、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、およびこれらの混合物を含むがこれらに限定されない水溶性開始剤である。別の態様では、開始剤は、上記の過硫酸塩と還元剤(例えば、メタ重亜硫酸ナトリウムおよび重亜硫酸ナトリウムなど)との反応生成物、ならびに4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)およびその可溶性塩(例えば、ナトリウム、カリウム)などの酸化還元開始剤である。
【0098】
特定の態様では、開始速度を増大させるために、複数の開始剤を使用して、開始剤系の吸収プロファイルを拡大することができる。例えば、異なる波長の光で活性化される2つの異なる光開始剤を使用することができる。別の態様では、共開始剤は、本明細書に記載される開始剤のいずれかと組み合わせて使用することができる。1つの態様では、共開始剤は、アクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、安息香酸2-(ジメチルアミノ)エチル、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、4-(ジメチルアミノ)安息香酸2-エチルヘキシル、アクリル酸3-(ジメチルアミノ)プロピル、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、または4-(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンである。
【0099】
特定の態様では、開始剤および/または共開始剤は、ポリカチオンおよび/またはポリアニオンに共有結合される。例えば、開始剤および/または共開始剤は、ポリカチオンおよび/またはポリアニオンを作製するために使用されるモノマーと共重合され得る。1つの態様では、開始剤および共開始剤は、ポリカチオンおよびポリアニオンを作製するために使用される上記のモノマーと共重合させることができるアクリレートおよびメタクリレート基(例えば、上記の共開始剤の例を参照)などの重合性オレフィン基を有する。別の態様では、開始剤は、ポリカチオンおよびポリアニオンの骨格に化学的にグラフトされ得る。従って、これらの態様では、光開始剤および/または共開始剤はポリマーに共有結合され、ポリマー骨格のペンダントである。このアプローチは、配合を単純化し、恐らく貯蔵性および安定性を高めるであろう。
【0100】
他の態様では、開始剤および/または共開始剤は、流体複合コアセルベート内に静電結合される。
【0101】
VI.多価カチオン
その場凝固複合コアセルベートは、任意選択的に、1つまたは複数の多価カチオン(すなわち、+2以上の電荷を有するカチオン)を含有することができる。1つの態様では、多価カチオンは、1つまたは複数のアルカリ土類金属で構成される二価カチオンであり得る。例えば、二価カチオンは、Ca+2およびMg+2の混合物であり得る。他の態様では、+2以上の電荷を有する遷移金属イオンを多価カチオンとして使用することができる。多価カチオンの濃度により、コアセルベート形成の速度および程度が決定され得る。理論により束縛されることは望まないが、流体中の粒子間の弱い凝集力は、過剰の表面負電荷を架橋する多価カチオンにより媒介され得る。本明細書において使用される多価カチオンの量は異なり得る。1つの態様では、この量は、ポリアニオンおよびポリカチオン中に存在するアニオン基およびカチオン基の数に基づく。
【0102】
その場凝固複合コアセルベートの調製
本明細書に記載されるその場凝固複合コアセルベートの合成は、いくつかの技術および手順を用いて実施することができる。コアセルベートを製造するための例示的な技術は実施例において提供される。1つの態様では、ポリカチオンおよびポリアニオンは希薄溶液で混合される。混合されると、ポリカチオンおよびポリアニオンが結合する際に、これらは混合チャンバ(例えば、チューブ)の底で凝縮して流体/液体相になり、凝縮相を生じる。凝縮相(すなわち、流体複合コアセルベート)は分離され、その場凝固複合コアセルベートとして使用される。
【0103】
1つの態様では、ポリカチオンの水溶液は、ポリカチオン対ポリアニオンの正/負電荷比が4~0.25、3~0.25、2~0.25、1.5~0.5、1.10~0.95、1~1であるように、ポリアニオンの水溶液と混合される。ポリカチオンおよびポリアニオン上の帯電基の数に応じて、ポリカチオンおよびポリアニオンの量は、特定の正/負電荷比を達成するために異なり得る。その場凝固複合コアセルベートは水を含有し、水の量は、組成物の20%~80重量%である。
【0104】
ポリカチオン、ポリアニオン、および一価塩を含有する溶液のpHは、複合コアセルベートの形成を最適化するために異なり得る。1つの態様では、その場凝固複合コアセルベートを含有する組成物のpHは、6~9、6.5~8.5、7~8、または7~7.5である。別の態様では、組成物のpHは7.2(すなわち、生理的pH)である。
【0105】
その場凝固複合コアセルベート中に存在する一価塩の量は、その場凝固複合コアセルベートが導入される環境中の一価塩の濃度に応じて異なり得る。これは、実施例および
図10Aおよび10Bにおいて実証される。一般に、複合コアセルベート中の一価塩の濃度は、環境中の一価塩の濃度よりも高い。例えば、生理的条件下のNaおよびKClの濃度は約150mMである。従って、その場凝固複合コアセルベートがヒト被験者に投与される予定であれば、その場凝固複合コアセルベート中に存在する一価塩の濃度は150mMよりも高いであろう。1つの態様では、その場凝固複合コアセルベート中に存在する一価塩は、0.5M~2.0Mの濃度である。別の態様では、一価塩の濃度は、0.5~1.8、0.5~1.6、0.5~1.4、または0.5~1.2である。別の態様では、複合コアセルベート中の一価塩の濃度は、水性環境中の一価塩の濃度よりも1.5~2、1.5~3、1.5~4、1.5~5、1.5~6、1.5~7、1.5~8、1.5~9または1.5~10倍高い。
【0106】
1つの態様では、一価塩は、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムまたは混合物であり得る。他の態様では、その場凝固複合コアセルベートは、非経口もしくは静脈内投与のためまたは注射により被験者に対して使用され得る高張生理食塩水中に配合され得る。1つの態様では、その場凝固複合コアセルベートは、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液、または被験者に安全に投与され得る他の緩衝生理食塩水中に配合することができ、ここで、生理食塩水濃度は、生理的条件における生理食塩水濃度よりも高いように調整されている。
【0107】
キット
本明細書に記載されるポリカチオンおよびポリアニオンは、乾燥粉末として長期間貯蔵することができる。この特徴は、コアセルベートの調製および最終的には接着剤の調製(所望される場合)のために非常に有用である。従って、本明細書には、本明細書に記載されるその場凝固複合コアセルベートおよび接着剤を作製するためのキットが記載される。1つの態様では、キットは、(1)少なくとも1つのポリアニオンと、(2)少なくとも1つのポリカチオンと、(3)0.5M~2.0Mの濃度の一価塩を含む水溶液とを含み、ここで、ポリカチオン対のポリアニオンの正/負電荷比は0.25~4である。キットは、本明細書に記載される付加的な成分(例えば、強化成分、開始剤、生物活性剤、造影剤など)を含むこともできる。
【0108】
乾燥粉末として貯蔵される場合、ポリカチオンおよび/またはポリアニオンに水を添加して、コアセルベートを生成することができる。1つの態様では、乾燥粉末を生成するためにポリカチオンおよびポリアニオンを凍結乾燥させる前に、水と混合したときに酸または塩基を添加することなく所望のpHが生じるように、ポリカチオンおよびポリアニオンのpHを調整することができる。例えば、水が添加されるとそれに応じてpHを調整するポリカチオン粉末中には、過剰の塩基が存在し得る。
【0109】
別の態様では、その場凝固複合コアセルベートは、将来のためにシリンジ内に装填され得る。その場凝固複合コアセルベートは安定であるため、複合コアセルベートの滅菌溶液をシリンジ内に長期間貯蔵して、必要に応じて使用することができる。
【0110】
その場凝固複合コアセルベートの適用
本明細書に記載されるその場凝固複合コアセルベートおよび接着剤は、水性環境において接着剤およびコーティングを生じることが望ましい場合に多数の利点および用途を有する。上記で議論されたように、その場凝固複合コアセルベートは、低粘度を有する流体であり、ゲージの細いデバイス、シリンジ、カテーテル、針、カニューレ、または管類によって容易に注入可能である。その場凝固複合コアセルベートは水性であり、潜在的に毒性の溶媒の必要性が排除される。
【0111】
本明細書に記載されるその場凝固複合コアセルベートは、適用部位のイオン強度よりも高いイオン強度において流体であるが、適用部位のイオン強度では不溶性のイオン性ヒドロゲルである。流体で高イオン強度の複合コアセルベートがイオン強度のより低い適用部位に導入される場合、複合コアセルベート中の塩濃度が適用部位の塩濃度と平衡になると、複合コアセルベートは適用部位において固体またはゲルをその場で形成する。その後に生成される固体またはゲルは、非流体の水不溶性材料である。
【0112】
適用部位のイオン濃度は、その場凝固複合コアセルベートのイオン濃度に応じて異なり得る。1つの態様では、適用部位は1つまたは複数の一価塩を有し、一価塩の濃度は500mM未満、または150mMから500mM未満までである。別の態様では、適用部位における一価塩のイオン濃度は150mM~600mMであり、複合コアセルベート組成物の一価塩の濃度は、600mM超~2Mである。
【0113】
その場凝固複合コアセルベートは、生理的条件下で、固体またはゲルをその場で形成することができる。生理的イオン強度は約300mOsm/Lである。従って、300mOsm/Lよりも大きいイオン強度を有するその場凝固複合コアセルベートが被験者に導入される(例えば、哺乳類に注射される)場合、流体複合コアセルベートは、適用部位において、接着性固体またはゲルに転換される。従って、本明細書に記載されるその場凝固複合コアセルベートは多数の医学的および生物学的用途を有し、これらは以下に詳細に記載される。
【0114】
1つの態様では、その場凝固複合コアセルベートは、1つまたは複数の造影剤を含むことができる。その場凝固複合コアセルベートが被験者に投与されると、医師は、その場で生成される接着性ゲルまたは固体の位置を正確にモニターすることができる。当該技術分野において知られている造影剤を本明細書において使用することができる。1つの態様では、造影剤は、ポリカチオンおよびポリアニオンと混合され得る。例えば、タンタル粉末または金などの金属粒子を使用することができる。あるいは、可溶性ヨウ素錯体を造影剤として使用することができる。造影剤は、X線、NMR画像形成、超音波、および蛍光透視を含む当該技術分野において知られている技術を用いて検出することができる。
【0115】
他の態様では、複合コアセルベートの位置を明白に検出するために可視化剤が使用され得る。これの一例は
図6Bに示されており、フルオレセインが合成ポリグアニジニルポリマー(すなわち、ポリカチオン)に共有結合している。従って、1つの態様では、造影剤または可視化剤が共有結合された重合性モノマーは他のモノマーと重合されて、本明細書において医学的および生物学的用途に有用なポリカチオンおよびポリアニオンを生成することができる。
【0116】
1つの態様では、その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルは、被験者の血管内の血流を低減または阻害するために使用することができる。この態様では、流体複合コアセルベートから生成される接着性固体またはゲルは、血管内に人工塞栓を形成する。従って、本明細書に記載される流体複合コアセルベートは、合成塞栓剤として使用することができる。この態様では、血管を部分的または完全に遮断するために、その場凝固複合コアセルベートが血管に注入され、その後、接着性固体またはゲルが形成される。この方法は、腫瘍、動脈瘤、静脈瘤、または動静脈奇形、傷口の開いたもしくは出血している創傷、または他の血管異常への血流を阻害するために、止血または人工塞栓症の形成を含む多数の用途を有する。
【0117】
上記で議論したように、流体複合コアセルベートは、合成塞栓剤として使用することができる。しかしながら、他の態様では、本明細書に記載される流体複合コアセルベートは、1つまたは複数の付加的な塞栓剤を含むことができる。市販の塞栓剤は、血管の塞栓形成に使用される微小粒子である。微小粒子のサイズおよび形状は異なり得る。1つの態様では、微小粒子は高分子材料で構成され得る。これの一例は、Merit Medical Systems,Inc.によって製造されるBearinTMnsPVA粒子であり、これは、45μm~1,180μmのサイズ範囲のポリビニルアルコールで構成される。別の態様では、塞栓剤は、高分子材料で構成されるミクロスフェアである。このような塞栓剤の例としては、40μm~1,200μmのサイズ範囲のゼラチンと架橋されたトリスアクリルにより作製されるEmbosphere(登録商標)ミクロスフェア;30μm~200μmのサイズ範囲のHepaSphereTMミクロスフェア(酢酸ビニルおよびアクリル酸メチルから作製される球形の親水性ミクロスフェア);および30μm~200μmのサイズ範囲のQuadraSphere(登録商標)ミクロスフェア(酢酸ビニルおよびアクリル酸メチルから作製される球形の親水性ミクロスフェア)が挙げられ、これらは全て、Merit Medical Systems,Inc.によって製造される。別の態様では、ミクロスフェアには、造影剤として使用することができる1つまたは複数の金属が含浸され得る。これの一例は、Merit Medical Systems,Inc.によって製造されるEmboGold(登録商標)ミクロスフェアであり、これは、40μm~1,200μmのサイズ範囲の2%の元素金が含浸されたゼラチンと架橋されたトリスアクリルから作製される。
【0118】
別の態様では、流体複合コアセルベートは、被験者において流体複合コアセルベートから生成される固体またはゲルの位置を可視化するために造影剤を含む。上記の可視化のための造影剤および方法を本実施形態において使用することができる。1つの態様では、造影剤は、0.5μm~50μm、1μm~25μm、1μm~10μm、または1μm~5μmの粒径を有するタンタル粒子であり得る。別の態様では、造影剤は、10%~60%、20%~50%、または20%~40%の量のタンタル粒子である。
【0119】
塞栓用途の場合、造影剤または塞栓剤などの成分の添加は、流体複合コアセルベートの粘度および被験者への投与に影響を与え得る。例えば、チタン粒子などの造影剤を含有する流体複合コアセルベートは、チタン粒子を含まない同じ流体複合コアセルベートよりも、低ずり速度において粘性になるであろう(例えば、
図9を参照)。さらに、流体複合コアセルベートの粘度は、低ずり速度において回復し得る。可逆的なずり減粘により、本明細書に記載される粘性流体複合コアセルベートは、小さい力で長く細いカテーテルを通して注入できるようになり、ずり速度が低下してカテーテルの出口でゼロになるにつれて複合コアセルベートの粘度は増大し、適用部位から流出するのを防止する。これにより、組成物を注入する間の正確な制御が可能になる。
【0120】
1つの態様では、その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルは、被験者の血管の内壁を強化するために使用することができる。その場凝固複合コアセルベートは、血管が遮断されないように血管の内側を被覆するのに十分な量で血管内に導入され得る。例えば、その場凝固複合コアセルベートは、動脈瘤のある血管に注入することができる。ここでは、その場凝固複合コアセルベートは、動脈瘤の破裂を低減または防止する。1つの態様では、流体複合コアセルベートは造影剤を含むことができる。上記の可視化のための造影剤および方法を本実施形態において使用することができる。
【0121】
1つの態様では、その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルは、被験者の血管における穿刺部を閉鎖または封鎖するために使用することができる。1つの態様では、その場凝固複合コアセルベートは、血管が遮断されないように血管内の穿刺部を閉鎖または封鎖するのに十分な量で血管内に注入され得る。別の実施形態では、その場凝固複合コアセルベートは、穿刺部を封鎖するために血管の外部表面上の穿刺部に適用され得る。1つの態様では、流体複合コアセルベートは造影剤を含むことができる。上記の可視化のための造影剤および方法を本実施形態において使用することができる。
【0122】
1つの態様では、その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルは、いくつかの異なる骨折および骨破壊を修復するために使用することができる。接着性固体およびゲルは、形成するといくつかのメカニズムによって骨(および他のミネラル)に接着する。骨のヒドロキシアパタイトミネラル相(Ca5(PO4)3(OH))の表面は、正および負の両方の電荷が並んでいる。ポリアニオン上に存在する負の基(例えば、ホスフェート基)は正の表面電荷と直接相互作用をすることもできるし、あるいはポリカチオンおよび/または多価カチオン上のカチオン基を介して負の表面電荷に架橋することもできる。同様に、ポリカチオンと負の表面電荷との直接的な相互作用は接着に寄与し得る。あるいは、酸化架橋剤は、骨基質タンパク質の求核性側鎖にカップリングすることができる。
【0123】
このような破壊の例としては、完全骨折、不完全骨折、線状骨折、横骨折、斜骨折、圧迫骨折、らせん骨折、粉砕骨折、または開放骨折が挙げられる。1つの態様では、骨折は関節内骨折または頭蓋顔面骨折である。関節内骨折などの骨折は、軟骨表面まで延在し、それを破断する骨損傷である。その場凝固複合コアセルベートから生成される接着性固体およびゲルは、このような骨折の低減の維持に役立つことができ、侵襲的手術を少なくし、手術室での時間を低減し、コストを削減し、外傷後の関節炎のリスクを低減することによってより良い結果を得ることができる。
【0124】
他の態様では、その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルは、重度の粉砕骨折の小さい断片を接合するために使用することができる。この態様では、骨折骨の小片は現存する骨に接着され得る。小断片を機械的固定器で穿孔することによりこれらの低減を維持することは特に困難である。断片が小さく、その数が多い程、問題は大きくなる。1つの態様では、その場凝固複合コアセルベートは、亀裂全体に充填するのではなく骨折を固定するために、少量注入されて上記のようなスポット接合部(spot weld)を形成することができる。生体適合性の小さいスポット接合部は周囲組織の治癒の妨害を最小限にし、必ずしも生分解性である必要はなくなるであろう。この点において、永久埋め込み機器と類似しているであろう。
【0125】
その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルは、多数の歯科的用途を有する。例えば、その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルは、歯の破壊または亀裂を封鎖し、歯冠の固定、または同種移植、またはインプラントおよび義歯の装着ために使用することができる。その場凝固複合コアセルベートが口の中の特定の場所(例えば、顎、歯の一部分)に適用された後、インプラントを基材に取り付け、続いて硬化させることができる。
【0126】
他の態様では、その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルは、基材を骨および他の組織(例えば、軟骨、靱帯、腱、軟組織、臓器、およびこれらの材料の合成誘導体など)に接着させることができる。例えば、酸化チタン、ステンレス鋼、または他の材料から作られるインプラントは、骨折骨を修復するために一般に使用されている。その場凝固複合コアセルベートは、金属基材を骨に接着する前に、基材、骨、またはその両方に適用することができる。他の態様では、基材は、布地(例えば、内部包帯)、組織移植片、パッチ、または創傷治癒材料であり得る。従って、骨断片の結合に加えて、その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルは基材の骨への結合を促進することができ、これにより、骨の修復および回復が促進され得る。本明細書に記載される流体コアセルベート複合体およびスポット接合技術を用いて、被験者において生物学的足場を配置するために、その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルを使用することができる。明細書に記載される接着性複合コアセルベートで構成される小さい接着性タック(tack)は、足場の内外への細胞の移動または小分子の輸送を妨害しないであろう。特定の態様では、足場は、骨および組織の成長または修復を促進する1つまたは複数の薬物を含有することができる。他の態様では、足場は、例えば抗生物質などの、感染を防止する薬物を含むことができる。例えば、足場は薬物で被覆されてもよいし、あるいは代替例では、薬物が時間と共に足場から溶出するように薬物が足場内に取り込まれてもよい。
【0127】
また、本明細書に記載されるその場凝固複合コアセルベートから生成される接着性ゲルおよび固体は、1つまたは複数の生物活性剤のカプセル化、足場形成、封鎖、または保持が可能であることも考えられる。生物活性剤は、抗生物質、鎮痛剤、免疫調節因子、成長因子、酵素阻害剤、ホルモン、メディエーター、メッセンジャー分子、細胞シグナル伝達分子、受容体アゴニスト、腫瘍溶解剤、化学療法剤、または受容体アンタゴニストを含むがこれらに限定されない任意の薬物であり得る。また薬剤は、自己または相同(同種異系)細胞、多血小板血漿(PRP)、または他の同様の組織であってもよい。
【0128】
別の態様では、生物活性剤は核酸であり得る。核酸は、オリゴヌクレオチド、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、またはペプチド核酸(PNA)であり得る。対象の核酸は、天然に存在する細胞から得られる核酸、組換えで産生された核酸、または化学的に合成された核酸などの任意の源からの核酸であり得る。例えば、核酸は、cDNAまたはゲノムDNA、または天然に存在するDNAに相当するヌクレオチド配列を有するように合成されたDNAであり得る。また核酸は、核酸の突然変異または改変された形態(例えば、少なくとも1つの核酸残基の改変、欠失、置換または付加により天然に存在するDNAとは異なるDNA)または天然に存在しない核酸であり得る。
【0129】
他の態様では、生物活性剤は、骨処置の用途で使用される。例えば、生物活性剤は、骨形成タンパク質(BMP)およびプロスタグランジンであり得る。骨粗鬆症を処置するために生物活性剤が使用される場合、例えばビスホネート(bisphonate)などの当該技術分野において知られている生物活性剤は、その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルによって被験者に局所的に送達することができる。
【0130】
特定の態様では、その場凝固複合コアセルベートを生成するために使用される充填剤は生物活性特性を有することもできる。例えば、充填剤が銀粒子である場合、この粒子は抗菌剤としても挙動することができる。放出速度は、複合体を調製するために使用される材料の選択によって、そして生物活性剤がイオン化可能な基を有する場合にはその電荷によって制御することができる。したがって、この態様では、その場凝固複合コアセルベートから生成される接着性固体またはゲルは、局所的な薬物制御放出デポーとして機能することができる。組織および骨を固定すると同時に生物活性剤を送達して、患者の快適性をより高め、骨の治癒を促進し、そして/あるいは感染を防止することが可能であり得る。
【0131】
接着性複合コアセルベートおよびそれから生成される接着剤は、様々な他の外科的手技において使用することができる。例えば、その場凝固複合コアセルベートは、外科的手技により生じた創傷への被覆として適用され、創傷治癒を促進し、感染を防止することができる。1つの態様では、その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルは、外傷または外科的手技により生じた眼の創傷を処置するために使用することができる。1つの態様では、その場凝固複合コアセルベートおよびそれから生成される接着剤は、被験者の角膜または強膜(schleral)裂傷を修復するために使用することができる。他の態様では、その場凝固複合コアセルベートは、外科的手技(例えば、緑内障手術または角膜移植)により損傷を受けた眼の組織の治癒を促進するために使用することができる。参照によって援用される米国特許出願公開第2007/0196454号明細書に開示される方法を使用して、本明細書に記載されるコアセルベートを眼の様々な領域に適用することができる。
【0132】
その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルは、皮膚と、挿入された医療デバイス(例えば、カテーテル、電極リード、ニードル、カニューレ、オッセオインテグレートされた人工装具など)との間の接合部を封鎖するために使用することができる。ここでは、医療デバイスの挿入および/または除去の際、被験者の皮膚と挿入された医療デバイスとの間の接合部を封鎖するために、接合部に流体複合コアセルベートが適用される。従って、デバイスが被験者に挿入され、その後固体またはゲルを形成する場合、流体複合コアセルベートは入口部位における感染を防止する。他の態様では、その場凝固複合コアセルベートは、創傷治癒を促進し、さらなる感染を防止するために、デバイスが除去された後の皮膚の入口部位に適用することができる。
【0133】
別の態様では、その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルは、腫瘍生検中の腫瘍細胞の増殖を防止または低減するために使用することができる。本方法は、生検針の除去の際に、生検針により生じた痕跡をその場凝固複合コアセルベートを用いて埋め戻す(back-filling)ことを含む。1つの態様では、その場凝固複合コアセルベートは、生検中に悪性腫瘍細胞が被験者の他の部分に増殖する可能性を防止または低減し得る抗増殖剤を含む。
【0134】
別の態様では、その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルは、内部組織または膜における穿刺部を閉鎖または封鎖するために使用することができる。特定の医学的用途では、内部組織または膜は穿刺された後、さらなる合併症を回避するために封鎖されなければならない。あるいは、組織を封鎖し、さらなる損傷を防止し、創傷治癒を促進するために、その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルを使用して、足場またはパッチを組織または膜に接着させることができる。
【0135】
別の態様では、その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルは、被験者の瘻孔を封鎖するために使用することができる。瘻孔は、臓器、血管、または腸と、別の構造(例えば、皮膚など)との間の異常な接続である。瘻孔は通常損傷または手術によって生じるが、感染または炎症によって発生することもある。瘻孔は通常は病的状態であるが、治療的な理由で外科的に形成されることもある。他の態様では、その場凝固複合コアセルベートならびにそれから生成される接着性固体およびゲルは、被験者の2つの組織間の望ましくない接着を防止または低減することができ、ここで本方法は、組織の少なくとも1つの表面をその場凝固複合コアセルベートと接触させるステップを含む。1つの態様では、瘻孔は、腸管皮膚瘻(ECF)である。ECFは、腸管または胃と、皮膚との間に発生する異常な接続である。結果として、胃または腸の内容物が皮膚に漏出する。大部分のECFは、腸の手術の後に生じる。
【0136】
特定の態様では、その場凝固複合コアセルベートから接着性固体またはゲルが形成された後、接着性固体またはゲルは、続いて、固体またはゲル内の架橋性基を有するポリカチオンおよび/またはポリアニオンの共有結合による架橋によって硬化され得る。出発材料の選択に応じて、硬化の間にコアセルベート全体にわたって様々な程度の架橋が生じ得る。接着性ゲルは、架橋を促進するために熱または光にさらされてもよい。共有結合性の架橋を容易にするために、本明細書に記載される開始剤のいずれかをその場凝固複合コアセルベートに含有させることができる。
【0137】
医学的生物学的用途に加えて、その場複合コアセルベートは、水を含有するか、あるいは水性環境にさらされ得るいくつかの他の物品および組成物中に取り込むことができる。例えば、その場凝固複合コアセルベートは、水面下のコーティングまたはペンキとして使用することができる。1つの態様では、その場凝固複合コアセルベートは、淡水または海洋環境において水中表面に適用することができ、急速に凝固して、表面上に保護コーティングを形成し得る。例えば、その場凝固複合コアセルベートは、海洋用途で使用することができ、この場合、一価塩濃度は非常に高い可能性がある。ここでは、その場凝固複合コアセルベート中の一価塩濃度は、その場凝固複合コアセルベートが海水と接触されたときに不溶性ゲルまたは固体を形成し得るように調整され得る。1つの態様では、接着性ゲルまたは固体は、自然の周辺光によって、あるいは光源を適用することによって、共有結合で架橋され得る。ポリカチオンおよび/またはポリアニオン上の架橋基により、コーティングは適用およびゲル化の後に共有結合で架橋され、硬度を増大させ、強度および安定性を改善することができる。
【0138】
他の態様では、他の物品が、本明細書に記載される硬化した接着性複合コアセルベートを含むことができる。例えば、その場凝固複合コアセルベートをフィルム基材に適用して、粘着テープを作ることができる。この態様では、複合コアセルベートの適用および最終的には接着性固体またはゲルの適用は水性環境において実施され、接着性バッキングの調製に通常使用される有機溶媒の除去を必要としない。
【実施例】
【0139】
以下の実施例は、本明細書において記載および特許請求される化合物、組成物、および方法を作製および評価する方法についての完全な開示および説明を当業者に提供するように提示されており、単に例示的であることが意図され、本発明者らがその発明であるとみなすものの範囲を限定することは意図されない。数(例えば、量、温度など)に関して正確さを保証する努力がなされたが、いくらかの誤差および偏差は考慮されるべきである。他に指示されない限り、部は重量部であり、温度は℃で示されるかまたは周囲温度であり、圧力は大気圧またはその付近である。反応条件、例えば、成分濃度、所望の溶媒、溶媒混合物、温度、圧力、ならびに記載されるプロセスから得られる生成物の純度および収率を最適化するために使用可能な他の反応範囲および条件について多数の多様性および組み合わせが存在する。このようなプロセス条件を最適化するために、合理的かつ日常的な実験のみが必要とされるであろう。
【0140】
実施例1
プロタミンのメタクリレート化
サケの精子からの硫酸プロタミン(MP Biomedical,cat#0210275280)を50mg/mlで150mMのNaCl溶液中に溶解させた。pHをNaOHにより6.5に調整した。20℃で攪拌しながら、10倍モル過剰のグリシジルメタクリレートを液滴で添加した。pHを12時間ごとに6.5に調整した。48時間後に、10倍過剰体積のアセトンによりサルミンを沈殿させた。沈殿物をアセトンですすぎ、乾燥させ、水中に再溶解させた。48時間の透析の後、pHを7に調整し、溶液を凍結乾燥した。C末端カルボキシレートにおけるメタクリレート化は、NMR分光法により検証した。
【0141】
プロタミン類似体:合成グアニジニルポリマー
N-(3-メタクリルアミドプロピル)グアニジウムクロリドとアクリルアミドとのフリーラジカル共重合によりアルギニン豊富なプロタミンの類似体を合成した。天然プロタミンを上回る合成ポリグアニジニウムの主要な利点は、(1)グアニジニル側鎖密度、およびそれによりポリマー電荷密度を、広範囲にわたって変更してゲル化条件を調整できること、(2)MWを制御及び変更できること、(3)グアニジニルモノマーと、架橋基または蛍光ラベルなどのポリマーに付加的な官能性を加える側鎖を有する他のモノマーとを共重合させることが可能であること、ならびに(4)生分解性が望ましくない用途のために、合成アクリレートプロタミン類似体が非分解性であるか、またはゆっくり分解可能であることである。
【0142】
図5は、例示的な合成グアニジニルモノマーを調製するための反応スキームを示す。N-(3-メタクリルアミドプロピル)グアニジウムクロリドは、公開された手順に従って合成した。DMF(85mL、反応物の最終濃度を2Mに維持)中のN-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩(15g、84mmol)、4-メトキシフェノール(150mg)およびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(38mL、209mmol)の撹拌溶液に、1H-ピラゾール-1-カルボキサミジン一塩酸塩(12.3g、84mmol)をAr下で添加した。混合物をAr下、室温で24時間撹拌し、次にジエチルエーテル(1200mL)中に注いだ。得られた油相を上清から分離し、アセトニトリル(200mL)およびトリエチルアミン(10mL)の溶液で2回洗浄した。得られた固体をジクロロメタン(300mL)で洗浄し、真空下で乾燥させて、13.3g(72%)の生成物を得た。
1HNMR(400MHz,DMSO-d
6)δppm8.09(s,1H),7.91(s,1H),7.70-6.90(br,4H),5.70(s,1H),5.33(s,1H),3.16(m,4H),1.87(s,3H),1.65(quin,3H)。
【0143】
ポリグアニジン(
図6A)は、N-(3-メタクリルアミドプロピル)グアニジウムクロリド、アクリルアミド、フルオレセインO-メタクリレートおよび4-シアノ-4-(チオベンゾイルチオ)ペンタン酸をDMSO中に溶解させることにより合成した。30分間脱気した後、開始剤アゾビスイソブチロニトリルを添加し、溶液をAr下で70℃に加熱した。40時間後に溶液を冷却し、アセトンにより沈殿させ、水中に溶解させた。30分間脱気し、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩を添加し、70℃で一晩加熱して、4-シアノ-4-(チオベンゾイルチオ)ペンタン酸RAFT剤を除去した。dI水に対して3日間の透析(MWCO-14,000)によりポリマー溶液を精製し、凍結乾燥した。
【0144】
メタクリルアミド側鎖をポリグアニジン上にグラフトさせて(
図6B)、ポリマーの架橋を促進した。ポリグアニジウムをメタノール中に溶解させた。トリエチルアミンおよび阻害剤フェノチアジンを添加した。溶液を0℃に冷却した後、塩化メタクリロイルを添加した。反応を氷浴から取り出し、室温で一晩撹拌した。ポリマーをアセトンにより沈殿させ、ろ過し、乾燥させた。
【0145】
ポリホスフェート
一実施形態では、ポリホスフェートを用いて、プロタミンまたはポリグアニジンを有する複合コアセルベートを形成した。負に帯電したホスフェートおよびホスホネート基は、グアニジウム基と強力な静電結合を形成する。いくつかのポリホスフェートは市販されており、食品および消費者ヘルスケア製品への添加物として使用される。ヘキサメタリン酸ナトリウム(CAS#68915-31-1)を使用して、サルミン複合コアセルベートを形成した。他の適切なポリホスフェートには、三リン酸ナトリウム(CAS#7758-29-4)およびイノシトール6リン酸ナトリウム(CAS#14306-25-3)(フィチン酸としても知られている)が含まれる。これらのポリホスフェートは生分解性かつ非毒性である。イノシトール6リン酸は植物中に天然に存在し、販売されており、栄養補助食品として消費される。
【0146】
コアセルベートの調製
45.8モル%のアクリルアミドへキサン酸側鎖を含むポリ(アクリルアミド-co-アクリルアミドへキサン酸)のナトリウム塩を、150、300、500、750、および1000mMのNaClの別々の溶液中に50mg/mlで溶解させた。硫酸サルミン(MP Biomedicals)を、150、300、500、750、および1000mMのNaClの別々の溶液中に50mg/mlで溶解させた。最終電荷比がカルボキシレート対アルギニン1:1になるように、所与のNaCl濃度において適切な体積のサルミン溶液を、適切な体積のポリ(アクリルアミド-co-アクルリアミドへキサン酸)に液滴で添加することによって、複合コアセルベートを形成した。混合した溶液は即時に混濁し、数分以内に複合コアセルベートがチューブの底に沈降し始めた。複合コアセルベート相を24時間平衡化させ、その後、ポリマーが枯渇した上側の水相を除去した。下側の高密度相がその場凝固複合コアセルベートとして使用される。ポジティブディスプレイスメント式ピペットを用いて、150マイクロリットルの高密度の複合コアセルベート相をレオメータのデッキに移した。
【0147】
結合したPEの材料特性に対するイオン強度の効果は、
図2にさらに示される。高イオン強度におけるその場凝固複合コアセルベートから、生理的イオン強度付近の固体ゲルになるまで、材料の粘度は一桁変化した。
【0148】
実施例2
実施例1の手順を用いて、サルミンおよびヘキサメタホスフェートのその場で硬化する水溶液を種々の濃度のNaClと室温22℃で混合した。NaClが1100mMと1200mMの間に、臨界イオン強度(I)が存在し、複合コアセルベートが固体の非流動性ゲルになる。I
critよりも上では、コアセルベートの粘度はIの増大と共に低下する。I
critより下ではゲルの硬さは増大する。イオン強度を変化させることによって、形態は相互転換可能である。結果は、
図1に示される。
【0149】
その場凝固複合コアセルベートの塞栓剤としての評価
インビトロモデルおけるその場凝固複合コアセルベート(サルミンおよびヘキサメタホスフェート)の塞栓剤としての使用は、
図3および4において実証される。シリコーン管類およびぜん動ポンプを用いて分岐血管系のモデルを作った。この系には、圧力ゲージ、流量制御のためのバルブ、および小径カテーテルのための入口が含まれる(
図3)。生理食塩水を循環させながら、ゲージの細いカテーテル(青色)を分岐チャネルの片側に挿入した(
図4A)。生理食塩水の流れに挿入された高イオン強度(1,200mMのNaCl)の流体のその場凝固複合コアセルベートは即時に凝固した(
図4B)。チャネルを通る流れは他方のチャネルに迂回され、これは、ゲル化プラグの下の静止気泡から明らかである(
図4C、白色矢印)。塞栓プラグが耐え得る圧力を決定するために、開放チャネルをクランプして、圧力をかけた。図示される実施例では、プラグは110mmHgの閉鎖系圧力に耐えた後に破損した。これは、健康なヒトの正常な生理的血液の圧力の範囲内である。
【0150】
実施例3.その場硬化接着性コアセルベートのインビボ評価:ウサギ腎臓塞栓形成
4.5kg重量のメスのニュージーランドホワイトラビットを環境制御した動物研究施設において飼育した。食物を1日1回与え、水を自由に供給した。この調査は、IACUC承認プロトコルの下、ユタ大学動物研究ガイドラインに従って実行した。
【0151】
全ての外科的手技は、無菌条件下で実施した。まずウサギを導入チャンバ内でイソフルランにより麻酔した後、気管内チューブ(3.5mm、Hudson/Sheridan)で挿管した。挿管したらすぐに、麻酔ガス分析器、呼吸モニター(Ohmeda 5250 RGM)、酸素濃度計、温度計、およびイソフルラン気化器を含む、非侵襲的モニタリングに対する備えのある麻酔器(Drager Narkomed 2B)にウサギをつないだ。手技の間、0.9%生理食塩水(Baxter)の静脈内注入を施した。
【0152】
その場凝固コアセルベートの調製
硫酸プロタミン(MP Biomedicals,Inc.)およびフィチン酸ナトリウム(Sigma-Aldrich,Inc.)を用いて複合コアセルベートを調製した。硫酸プロタミン(PRT)およびフィチン酸ナトリウム(IP6)を1200mMのNaCl中にそれぞれ62.5mg/mLおよび115.1mg/mLで溶解させ、pH7.2に調整した。0.22μmシリンジフィルタ(Millex-GS,Millipore)を通して、溶液を50mLの無菌円錐管内にフィルタ滅菌した。60℃(コアセルベーションの相分離温度よりも高温)において、8mLのIP6および32mLのPRTの溶液を正電荷対負電荷比1:1で混合した。凝縮したコアセルベート相が30重量%のタンタルを含むように、タンタル金属粉末(1,114.3mg、1~5ミクロン粒径、Atlantic Equipment Engineers)も添加した。室温まで冷却しながら溶液を絶えず混合した。高密度のコアセルベートがチューブの底に沈降した。24時間後に上清を除去し、高密度コアセルベート相を1mLのシリンジ内に無菌的に装入した。
【0153】
カテーテル挿入手順
動脈カテーテル挿入部位として右大腿動脈を選択した。脚の内側を剪毛し、切開部位および周囲の皮膚を70%イソプロピルアルコールで清浄にした。消毒した領域を無菌ドレープで被覆し、右大腿動脈上の領域のみを露出させた。3~5cmの縦方向切開により動脈を露出させた。切開の位置は、動脈の触診により決定した。鈍的切開により動脈を大腿神経および静脈から単離した。2本の4.0絹縫合糸を動脈下に配置し、アクセスのために動脈を静かに持ち上げるために使用した。局所リドカイン(2%、Hospira)を投与し、取扱いの間、大腿動脈の血管攣縮を低下させた。
【0154】
4Fアクセスキット(Access Point Technology,Inc)を用いて大腿動脈にアクセスした。蛍光透視(C-arm 9800シリーズOEC MEdical/GE medical)下でマイクロカテーテル(2.8F、135cm/Biomerics)を大腿動脈から腎臓動脈内へ操作した。X線造影剤としてOmnipaque(イオヘキソール240mg/ml)を使用して、臓器および血管を可視化した。マイクロカテーテルが腎臓動脈内に配置されたらすぐに、通常の生理食塩水により1:1で希釈したOmnipaqueを注入して血管を可視化した。カテーテルに生理食塩水を流してから、0.2mLの高濃度食塩水(hypersaline)(1.2M)をカテーテルに注入した。
【0155】
その場凝固接着性コアセルベートを1mLのシリンジ(Medallion,Merit Medical)に装入した。コアセルベートは、30重量%のタンタル金属(1~5ミクロン粒径)を造影剤として含有した。シリンジをカテーテルに取り付け、サンプルを腎臓動脈に注入した。塞栓形成中または塞栓形成後に、呼吸または心拍数の変化は起こらなかった。C-arm 9800シリーズ蛍光透視器(OEC Medical/GE Medical Inc.)を用いて接着剤の注入を可視化した。接着剤の注入の結果として左腎臓の完全な閉塞が観察された(
図7Aおよび7B)。コアセルベートが腎臓皮質全体の細く分岐した血管内に均等に浸透したことは明らかであった。
【0156】
塞栓形成の90分後に安楽死溶液(Vet One)を用いて動物を安楽死させた。蛍光透視によって、注入後90分の間、その場凝固コアセルベートの位置または不透明性に変化は観察されなかった。死の前に、Axiom Artist dBA2方向血管造影システム(Siemens Inc.)において動物を走査して、塞栓形成した腎臓の3D画像を得た(
図7Cおよび7D)。完全かつ均一な塞栓形成が3D画像に現れた。
【0157】
組織構造
剖検の間、塞栓化腎臓を単離し、10%緩衝ホルマリン中に固定した。2日後に腎被膜を除去し、組織さらに4日間固定した。組織をパラフィンに埋め込み、切片にし、ヘマトキシリン&エオシン(
図8A~8D)を用いて染色した。組織構造から、動脈および小動脈が完全に閉塞されたことが観察された。閉塞は腎臓全体に均一に生じ、糸球体の毛細血管内に浸透した。重要なのは、静脈または細静脈中には塞栓剤が見られなかったことである。接着性コアセルベートは血管の壁に接着するようであった。接着性コアセルベートは血液と混合せず、接着剤と直接接触する赤血球の溶解の証拠はなかった。塞栓に直接隣接した細胞または組織に対する目に見える効果はなかった。
【0158】
実施例4.流動挙動研究
サンプル調製
硫酸プロタミン(MP Biomedicals,Inc.)およびフィチン酸ナトリウム(Sigma-Aldrich,Inc.)を用いて複合コアセルベートを調製した。硫酸プロタミン(PRT)およびフィチン酸ナトリウム(IP6)を1,200mMのNaCl中にそれぞれ62.5mg/mLおよび115.1mg/mLの濃度で溶解させ、pH7.2に調整した。溶液を1部のIP6対4部のPRTの比率で混合して、正電荷対負電荷比1:1を得た。溶液を60℃(コアセルベーションの相分離温度よりも高温)で混合した。凝縮したコアセルベート相が30重量%のタンタルを含むような量のタンタル金属粉末(1~5ミクロン粒径、Atlantic Equipment Engineers)を添加した。室温まで冷却しながら溶液を絶えず混合した。高密度のコアセルベート相がチューブの底に沈降した。24時間後に上清相をコアセルベート相から除去した。
【0159】
振動レオロジー
温度制御されたレオメータ(AR2000exレオメータ、TA Instruments)においてPRT/IP6コアセルベートの流動挙動を特徴付けした。20mm、4°の円錐構造を用いて、適用したずり速度の関数として粘度を測定した。実験中にサンプルが乾燥するのを防止するために溶媒トラップを使用した。ディケード毎に10点で0.01s
-1から1000s
-1まで、ずり速度を段階的に上げた。タンタル含有コアセルベートは、低ずり速度において、非タンタル含有コアセルベートよりも5~6倍粘性であった。タンタルコアセルベートは、ずり速度が増大するにつれて約1.2Pasまでずり減粘し、高ずり速度では、非タンタルコアセルベートの粘度に接近した(
図9)。順方向の掃引の最後に、ずり速度を1000s
-1から0.01s
-1まで段階的に下げた。タンタルコアセルベートの粘度は低ずり速度で回復した。可逆的なずり減粘は、造影剤含有コアセルベートの重要な特徴であり、これにより、粘性組成物は小さい力で長く細いカテーテルを通して注入できるようになり、ずり速度が低下してカテーテル出口でゼロになるにつれて、組成物の粘度は増大し、適用部位から流出するのを防止する。これにより、組成物を注入する間の正確な制御が可能になる。
【0160】
実施例5.その場凝固接着剤の状態図
反対に帯電した高分子電解質(PE)の水性混合物は、いくつかの材料状態または形態で存在することができる。形態は、pH、イオン強度、および温度のような溶液条件に依存する。6:1~1:6の範囲の正電荷対負電荷比と、0.15~1.5MのNaCl範囲の溶液イオン強度とを有する、硫酸プロタミン(PRT)およびフィチン酸ナトリウム(IP6)の混合物の状態図を、21℃および37℃で作製した(
図10)。適切な体積のpH7.2のPRTおよびIP6の100mg/mLストック溶液、5MのNaCl、H
2Oを混ぜ合わせることにより、1.5mLのEppendorf管において、60℃で溶液(1ml)を作った。ボルテックスしながら、PRTを他の成分に液滴で添加した。溶液を37℃でインキュベートした。溶液が37℃に冷却されるにつれて、PEが凝縮し、高密度の流体(コアセルベート)相または固体(ゲル)相に分離した。37℃で24時間の平衡化の後、凝縮したPE相の形態は、傾けた時に流動するか(コアセルベート)否か(ゲル)により、コアセルベートまたはゲルとして明白に記録した。次に溶液を21℃まで冷却し、24時間後に再度記録した。
【0161】
反対に帯電したPEの静電的に結合した形態は、NaCl濃度に依存する。塩濃度がより高いと、静電相互作用が遮断され、PE結合の強度が低下し、結果として流体コアセルベート形態になる。低塩濃度では、相互作用がより強く、結果として、強力に結合した固体ゲル形態になる。非常に高い塩濃度では、PE電荷は完全に遮断され、PEは結合しない。この場合、PEは完全に溶媒和され、水溶液中に懸濁され、相分離は生じない。温度もPE結合の強度に影響を与える。より高い温度では、静電相互作用は弱くなり、従って、PEはより低いNaCl濃度で凝縮して液体コアセルベート形態になる。PE間の結合の強度は、最大数の電荷の相互作用が生じる場合に最高であり、これは、電荷比が1:1の場合である。
【0162】
状態図は、本発明の原理を説明する。流体複合コアセルベートが凝縮する状態図の領域でPEを混合することにより、注入可能な流体形態で接着剤を調製することができる。流体形態が状態図のゲル領域に相当する環境に注入されると、接着剤が新しい溶液条件と平衡になるにつれて、流体形態は硬化して固体ゲルになるであろう。
図10の状態図から、600mM~1,500mMの範囲のNaCl濃度において接着剤の流体コアセルベート形態を調製可能であることが観察され得る。37℃で300mM未満のNaClを有する環境、すなわちヒトの生理的条件に流体コアセルベートが注入されると、流体形態はその場で自然に固体ゲル形態に遷移するであろう。
【0163】
本出願を通して種々の刊行物が参照される。本明細書に記載される化合物、組成物および方法をより十分に記載するために、これらの刊行物の開示はここにその全体が参照によって本出願に援用される。
【0164】
本明細書に記載される化合物、組成物および方法に対して種々の修正および変更を行うことができる。本明細書に記載される化合物、組成物および方法の他の態様は、本明細書の検討および本明細書に開示される化合物、組成物および方法の実施から明らかであろう。本明細書および実施例は例示的であると考えられることが意図される。