(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】大型パイプを較正するための機械式エキスパンダ用の潤滑リング
(51)【国際特許分類】
B22F 10/38 20210101AFI20220316BHJP
B21D 3/14 20060101ALI20220316BHJP
B21D 37/18 20060101ALI20220316BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20220316BHJP
【FI】
B22F10/38
B21D3/14 C
B21D37/18
B22F10/28
(21)【出願番号】P 2020555483
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2019059548
(87)【国際公開番号】W WO2019197664
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-10-23
(31)【優先権主張番号】102018205600.5
(32)【優先日】2018-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102019204376.3
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035426
【氏名又は名称】エス・エム・エス・グループ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【氏名又は名称】鈴木 友子
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ホルニッケル・ザラー
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第201067779(CN,Y)
【文献】国際公開第2015/091728(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0184086(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/38
B21D 3/14
B21D 37/18
B22F 3/105
B22F 3/16
B22F 10/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型パイプを較正するための機械式エキスパンダ(1)用の潤滑リング
(6)において、
潤滑リング(6)が、従来の方法で製造された楔側のリング(12)と、この楔側のリングの上に付加製造技術により製造されたディスク側の部分(13)を備えること、
楔側のリング(12)が、貫通孔として形成された潤滑剤通路を備え、構造用鋼から成ること、及び、
ディスク側の部分(13)が、楔側のリング(12)よりも複雑な潤滑剤通路を備え、高強度鋼から成ること、
を特徴とする潤滑リング。
【請求項2】
大型パイプが、14インチ以下の直径を有すること、を特徴とする請求項
1に記載の潤滑リング。
【請求項3】
付加製造された部分(13)が、潤滑剤を案内するための環状のコモンレール(14)を備えること、を特徴とする請求項1
又は2に記載の潤滑リング。
【請求項4】
付加製造された部分(13)が、2線式分配器(11)の機能を統合するために形成されていること、を特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の潤滑リング。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の潤滑リングを製造するための方法において、
この方法が、以下のステップ、即ち、
a.従来の方法で
楔側のリング(12)を製造するステップ、
b.プリンタ設置スペース内でブランクとしての
楔側のリング(12)の位置調整と組立をするステップ、
c.ブランク上に金属粉末層を形成すると共にレーザにより溶融
し、これによりディスク側の部分(13)を製造するステップ、
を備えること、を特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念による潤滑リングに関する。加えて、本発明は、請求項6の特徴を備えた人かつリングを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大型パイプを較正するためのエキスパンダの構築の実務から、プルロッドにより移動される楔とディスクの間に潤滑リングを配置することが知られている。この場合、ディスク、潤滑リング及び楔から成る積層体は、プルロッドの方向に高い力の作用を受ける。プルロッドは、構成要素に力を加える。これら構成要素は、プルロッドによってシリンダの方向に移動される。プルロッドは、油圧によって伸縮させられるシリンダ上に位置する。楔上に位置するセグメントが、半径方向外方へ押され、較正すべきパイプを伸ばす。楔とセグメントの間のギャップを潤滑するための潤滑剤は、潤滑リングを経て楔内の孔に導かれ、潤滑リングは、2つのコモンレールと、潤滑剤流を制御するための2線式分配器を備える。
【0003】
大型パイプを製造する場合、これら大型パイプは、内外のシーム溶接の後に、機械式エキスパンダによってその真円度及び寸法精度に関して較正される。各膨張過程で、高い面圧が、従って摩擦が、セグメントの面と楔の面の間に生じる。摩擦は、規定された潤滑によって低減される。潤滑剤を相応の箇所に案内するため、潤滑リングは、潤滑剤分配器として、またエキスパンダオイルの継送器として使用される。
【0004】
これまで、SMS group GmbHの潤滑リングは、従来の製造手法によって製造されていた。個々の油圧通路は、部分的に2つの平面内を延在するように穿孔される。
【0005】
競合企業であるHauusler AGは、エキスパンダオイルの分配及び継送のためにホースラインを使用し、Fontijne Grotness社は、機能を満足するために曲がったパイプを提供してきた。
【0006】
国際公開第2015/032228号パンフレットには、従来の構成の潤滑リングが設けられている、パイプを較正するためのエキスパンダが記載されている。このような潤滑リングは、成形、機械加工及び他の従来の技術により鋼部分から製造される。
【0007】
国際公開第2016/149774号パンフレットには、ターボコンプレッサの高速回転部品としてのインペラが記載されている。この場合、インペラの回転対象に形成された基盤は、付加製造によって製造され、次いで、別の構造を付加製造により形成することができる。
【0008】
米国特許出願公開第2017/0260997号明細書には、ホットアイソスタティックプレスによりターボ機械の高速回転部品としてのインペラを製造することが記載されている。可能な選択的な製造手法として、一般に付加製造が示される。
【0009】
独国特許第10 2011 106 605号明細書には、製造手法をテーマとしない機械式の引張りエキスパンダが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2015/032228号パンフレット
【文献】国際公開第2016/149774号パンフレット
【文献】米国特許出願公開第2017/0260997号明細書
【文献】独国特許第10 2011 106 605号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、エキスパンダオイルの分配及び継送するための潤滑リングの簡素化されかつ再現可能な製造を提供することである。更に、本発明の課題は、14インチ以下の直径を備えた大型パイプを製造するための部品寸法の低減を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、冒頭で述べた潤滑リングに関しては、本発明によれば、請求項1の特徴的特徴によって解決される。
【0013】
本発明の好ましい実施形態の場合、付加製造された部分は、高強度鋼から成る。
【0014】
更に一般に有利には、大型パイプは、14インチ以下の直径を有する。
【0015】
特に好ましくは、付加製造された部分が、潤滑剤を案内するための環状のコモンレールを備えること、を企図する。
【0016】
潤滑剤の分配の一般的な最適化のために、付加製造された部分が、2線式分配器の機能を統合するために形成されていること、が有利に企図され得る。
【0017】
加えて、本発明は、以下のステップ、即ち、
a.従来の方法で鋼からリングを製造するステップ、
b.プリンタ設置スペース内でブランクとしてのリングの位置調整と組立をするステップ、
c.ブランク上に金属粉末層を形成すると共にレーザにより溶融するステップ、
を備えること、を特徴とする、本発明による潤滑リングを製造するための方法に関する。
【0018】
本発明の適用分野:本発明は、新システムと既存のシステム(改造ソリューションとして)の両方で使用することができる。本発明に対するキーワードは、パイプ溶接システム、SAWパイプ、機械式エキスパンダ、エキスパンダ工具、大型パイプの較正である。
【0019】
本発明の目的は、14インチ以下の直径を備えた大型パイプを較正するためのエキスパンダ工具の簡素化されかつ再現可能な製造である。
【0020】
以前に知られていた解決策の欠点:特に小さなパイプ直径(例えば14インチ以下)用のエキスパンダ工具の場合、従来型の製造はその限界に達している。その理由は、潤滑リング内の設置スペースが小さく、それが、液体孔の位置決め及び製造を困難にするからである。流体を90°方向転換させるために、2つの孔、即ち一方の垂直方向の孔と、他方の水平方向の孔が必要である。したがって、14インチのパイプ用の潤滑リングの製造は非常に複雑でリスクが高くなる。何故なら、一部の領域では、他の油圧孔との衝突が生じるまで数ミリメートルしか残っていないからである。そうであれば、部品はスクラップになる。
【0021】
本発明による解決策の核心:本発明は、従来型の製造を付加製造と結合するハイブリッド部品である。ベースとして、低強度であるが安価な構造用鋼から成るリングが使用され、このリング上に、高強度の材料から成るより複雑な部分が、3Dプリントとも呼ばれる付加製造によって層状に生成される。
【0022】
危険な横断面が部品のこの領域にはないので、リングについては、低い強度特性を備えた構造用鋼で十分である。まず、後続の組立及び油圧ライン用の貫通孔が、従来の方法でスチールリング内に形成される。次に、層状の構築については、リングが、プリンタ設置スペース内で位置調整と組立をされ、金属粉末層が、ブランク上に形成されると共にレーザにより溶融される。付加製造の場合、工具が、通路の形状又はコースを提供するのではないので、通路は、できるだけコンパクトに集積され、それにより、部品高さが低減される。加えて、SMSグループのデザインは、環状の両コモンレールによって特徴付けられる。これらコモンレールは、2線式分配器への個々の通路にエキスパンダオイルを供給する。
【0023】
本発明を改善する付加的な措置:正確に規定されたエキスパンダオイルの排出を保証するための2線式分配器の機能の統合。
【0024】
本発明の別の利点:通路の接続が、ディスク側に存在する2つの接続点だけにより行なわれることを理由とする、68から50へのシールの数(リークの可能性)の低減。分配器の機能を担いかつ通路の供給を保証する2つの環状のコモンレールの統合による、購入される特殊シールを廃止。周囲の構成要素も小さく寸法設定され得るような、部品高さの低減。ここでは部分的に3つの平面内に斜めに延在する孔を形成する必要がないことを理由とする、隣接する構成要素の簡素化。部品数及びそれに伴う組立費用の低減。ノウハウの保護。
【0025】
以下で、本発明の好ましい実施例を説明すると共に添付の図面により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明による潤滑リングを備えた周知のエキスパンダの断面図
【
図3】孔を形成するためステップを示した部分的に切開した図で示した、
図2からの潤滑リング
【
図4】
図1からの本発明による潤滑リングもしくはハイブリッド部品としての潤滑リングの立体図
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1に示したエキスパンダ1は、楔2を有し、この楔は、プルロッド3を介して、反対向きに形成されたセグメント4に対して相対的に変位可能であるので、セグメント4は、パイプ(図示してない)を内側から変形もしくは較正するために、半径方向外方へ押される。
【0028】
楔2は、潤滑剤を楔2とセグメント4の間のギャップに搬送する潤滑剤通路(図示してない)を備える。
【0029】
楔2は、ナット5によりプルロッドに結合されている。ナット5の間には、引張方向にディスク7が、次に潤滑リング6が、積層体として配置されている。潤滑剤は、供給ピン8から外部ライン9を介してディスク7内の通路に案内される。ディスク7内の通路は、軸方向に潤滑リング6の通路10に接続する。潤滑リング6には、潤滑剤流を制御するために役立つ2線式分配器11(
図4には示してない)が取り付けられている。
【0030】
図2及び
図3は、従来の方法で製造された周知の潤滑リングを示す。この場合、
図3は、流体孔もしくは潤滑剤通路がこれまでどのように穿孔により潤滑剤リング6に形成されたかを明らかにする。
【0031】
図2による周知の潤滑リング6’は、
図4による本発明による潤滑リング6に対して選択的に
図1によるエキスパンダに設けることができる、もしくは、本発明による潤滑リングは、従来の潤滑リング6’を、場合によってはディスク7を付加的に適合させて置換することができる。
【0032】
図4による本発明による潤滑リング6は、従来の方法で製造された、リングの形態の部分12を有し、この部分の形状は、この領域が、
図2による潤滑リング6’の対応する部分十分に一致する。付加製造により製造された部分13は、軸方向に、従来の方法で製造された部分12に接続する。付加製造された部分13は、ディスク7に面し、このディスクに隣接する。従って、
図4による潤滑リング6は、ハイブリッド部品として形成されている。従来の方法で製造された部分12は、構造用鋼から成る。付加製造された部分13は、高強度鋼から成る。
【0033】
付加製造された部分13内に、特に2線式分配器11に潤滑剤を分配するための2つの環状のコモンレールライン14が設けられている。
【0034】
付加製造:発明の開示であるハイブリッド部品としての潤滑リング
【0035】
大型パイプの製造時、これら大型パイプは、内外のシーム溶接後に、機械式エキスパンダ1によってその真円度及び寸法精度に関して較正される。各膨張過程で、高い面圧が、従って摩擦が、セグメントの面と楔の面の間に生じる。摩擦は、規定された潤滑によって低減される。潤滑剤を相応の箇所に案内するため、潤滑剤リングは、潤滑剤分配器及び潤滑剤継送器として使用される。
【0036】
特に、小さいパイプ直径(例えば14”以下)用のエキスパンダ工具1の場合、従来型の製造はその限界に達している。その理由は、潤滑リング6’内の設置スペースが小さく、それが、流体孔の位置決め及び形成が困難にするからである。
【0037】
付加製造技術により、新たな可能性が生じる。但し、付加製造に関連したしばしばフィリグリー的構造は、特に重機エンジニアリングでは適用が困難でしかない。何故なら、しばしば操作条件が非常に粗く、高い力が塑性変形のために必要とされ、それが、構成要素の堅固な構造を生じさせるからである。
【0038】
堅固な構成は、製品開発プロセスでも考慮された。この場合、従来型の構造が付加製造された構造と結合されるハイブリッドデザインの新しい潤滑リング6が作成されている。層状の形成に関する基盤を、スチールリング12が構成し、このスチールリング内に、楔2への流体継送をするための第1の孔が、既に従来の手段により形成されている。リング12は、プリンタ設置スペース内で位置調整と組立をされる。次いで、付加製造技術による構築が行なわれる。流体通路のコンパクトな配置により、形成すべき高さは、わずか70mmである。最大寸法は、元の構成と比較して、外径で10%、全部品高さでほぼ30%低下し、これが、同時に、周囲の構成要素の縮小を生じさせる。何故なら、付加製造技術により、通路10,14は、完全に製造工具の輪郭に依存せずに形成することができると共に小さい設置スペースで非常にコンパクトに形成することができる。
【0039】
SMSグループのデザインは、環状の両コモンレール14によって特徴付けられる。これらコモンレールは、2線式分配器11への個々の通路に供給をし、その場合、これら通路内では、正確に規定された量の潤滑剤が排出される。両コモンレール14のための潤滑油供給は、2つの通路10を介してのみ行なわれ、これは、必要なシールの数あるいは可能なリーク箇所の数の点で大いに有利である。何故なら、数は、17%削減されるからである。これにより、同様に、特殊シールの必要がなくなる。更に、わずか2つの通路10を介する潤滑剤供給は、従来の方法で製造されたディスクのような隣接する部品の構成を簡素化する。付加製造領域のデザインは、後続の後処理のための労力ができるだけ低く抑えられるように規定されている。このため、支持構造の必要がなくなるように、プリント方向の全ての角度が選択される。また、2線式分配器11の座用の後加工も、できるだけ少なく抑えられている。
【0040】
従来の方法と付加的方法の組合せは、技術的に説得力があるだけでなく、経済的にも説得力があり、今後は、重機エンジニアリングにおいて重要な役割を果たす。
【符号の説明】
【0041】
1 エキスパンダ
2 楔
3 プルロッド
4 セグメント
5 ナット
6 潤滑リング
6’ 従来の潤滑リング
7 ディスク
8 供給ピン
9 外部ライン
10 潤滑リングの通路
11 2線式分配器
12 従来の方法で製造された部分、鋼からなるリング
13 付加製造により製造された部分
14 コモンレールライン