(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】ポリマーホスホナート難燃剤を含むポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20220316BHJP
C08L 85/02 20060101ALI20220316BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20220316BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220316BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L85/02
C08L33/02
C08J5/18 CFD
B29C55/12
(21)【出願番号】P 2020560405
(86)(22)【出願日】2019-04-26
(86)【国際出願番号】 GB2019051165
(87)【国際公開番号】W WO2019207314
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-12-04
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519399763
【氏名又は名称】デュポン テイジン フィルムス ユーエス リミテッド パートナーシップ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】アシュビー シェーン
(72)【発明者】
【氏名】マートロック サイモン
(72)【発明者】
【氏名】マクドナルド ウィリアム エー
(72)【発明者】
【氏名】ロバット アラン
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-514681(JP,A)
【文献】特表2013-522425(JP,A)
【文献】特表2015-528839(JP,A)
【文献】国際公開第2019/079324(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムであって、前記フィルムの合計質量に対して約1~約25質量%の量のポリマーホスホナート難燃剤を含み、ナトリウムおよびカリウム金属陽イオンからなる群から選択される少なくとも1種の金属陽イオンをさらに含み、前記金属陽イオンが
、ポリアクリル酸イオン
から選択される対陰イオンとの塩の形態で存在する、ポリエステルフィルム。
【請求項2】
延伸されている、好ましくは二軸延伸フィルムである、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記フィルムの合計質量に対して少なくとも約5質量%、好ましくは少なくとも約10質量%、好ましくは少なくとも約12質量%、好ましくは約20質量%以下、好ましくは約18質量%以下の量の前記ホスホナート難燃剤を含む、請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記ホスホナート難燃剤が式Iのホスホナート難燃剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【化1】
(I)
(式中、
Arは芳香族基であり、-O-Ar-O-は、1個または複数の置換されていてもよいアリール環を有する化合物、例えば、これらに限定されるものではないが、レゾルシノール、ヒドロキノン、およびビスフェノール、例えばビスフェノールA、ビスフェノールF、および4,4’-ビフェノール、フェノールフタレイン、4,4’-チオジフェノール、4,4’-スルフォニルジフェノール、またはこれらの組み合わせ、に由来し、;
Xは、C
1-20アルキル、C
2-20アルケン、C
2-20アルキン、C
5-20シクロアルキルまたはC
6-20アリールであり;
nは、1~約100、好ましくは1~約75、好ましくは2~約50の整数、またはこれらの範囲の間の任意の整数である)
【請求項5】
Xが、C
1-20アルキル、好ましくはC
1-10アルキル、好ましくはC
1-5アルキル、好ましくはメチルから選択される、請求項4に記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
-O-Ar-O-が、ビスフェノールA、ビスフェノールFおよび4,4’-ビフェノール、好ましくはビスフェノールAに由来する、請求項4または5に記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記ホスホナート難燃剤が式IIを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【化2】
(II)
【請求項8】
前記ホスホナート難燃剤の質量平均分子量(Mw)が、約10,000~約120,000、好ましくは約50,000~約120,000、好ましくは約80,000~約120,000g/molの範囲にある、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項9】
前記ホスホナート難燃剤が、前記ホスホナート難燃剤の質量に対して少なくとも約5質量%、好ましくは少なくとも約8質量%、好ましくは少なくとも約10質量%、好ましくは約20質量%以下、好ましくは約15質量%以下、好ましくは約12質量%以下のリン含有率を特徴とし、好ましくは約11質量%である、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項10】
前記ホスホナート難燃剤のガラス転移温度(Tg)が、約95~約120℃の範囲にある、請求項1~9のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項11】
前記フィルム中に存在する前記金属陽イオンの量が、ポリエステルの量に対して少なくとも10ppm、好ましくは約1000ppm以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項12】
UL94試験法においてVTM-0等級を示す、請求項1~11のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項13】
二軸延伸フィルムであり、および/または前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタラートである、請求項1~12のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項14】
前記フィルムが製作される前記ポリエステルの固有粘度が少なくとも0.65、かつ0.85以下である、請求項1~13のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項15】
フィルム厚さが、約250μm以下、好ましくは約150μm以下、好ましくは約100μm以下、好ましくは75μm以下、好ましくは50μm以下、かつ好ましくは少なくとも約5μm、好ましくは少なくとも約10μmである、請求項1~14のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項16】
透明なフィルムであり、前記フィルムのヘイズが、約8%以下、好ましくは約5%以下、好ましくは約4%以下、好ましくは約3%以下、好ましくは約2%以下、好ましくは約1%以下であり、および/または可視領域の前記フィルムの全光線透過率が、少なくとも約85%、好ましくは少なくとも約88%、好ましくは少なくとも約90%、好ましくは少なくとも約92%である、請求項1~15のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項17】
白色度指数が少なくとも85であり、および/または前記フィルムのL*値が少なくとも90であり、および/または前記フィルムの透過光学濃度が少なくとも約0.5である、請求項1~15のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項18】
単層ポリエステルフィルムである、請求項1~17のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項19】
前記フィルムが、接着促進層、好ましくはアクリル樹脂で被覆されている、請求項1~18のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項20】
20%~50%の範囲の結晶化度を示す半結晶性フィルムである、請求項1~19のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項21】
前記フィルムの縦および横の寸法両方において、150℃、30分間で5%未満の収縮を示す、請求項1~20のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項22】
前記フィルムの縦および横方向のそれぞれにおいて少なくとも15kg/mm
2の極限引張強さ(UTS)および/または前記フィルムの縦および横方向のそれぞれにおいて少なくとも130%の破断伸び(ETB)を示す、請求項1~21のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項23】
ポリエステルフィルムにおける、前記ポリエステルフィルムに難燃性を与えるかまたは前記ポリエステルフィルムの難燃性を改善するための、ポリマーホスホナート難燃剤ならびにI族およびII族金属陽イオンからなる群から選択される少なくとも1種の金属陽イオンの使用であって、前記ポリエステルフィルムは、前記フィルムの合計質量に対して約1.0~約25.0質量%の量の前記ポリマーホスホナート難燃剤を含み、前記金属陽イオンが
、ポリアクリル酸イオン
から選択される対陰イオンとの塩の形態で存在する、使用。
【請求項24】
ポリエステルフィルムに難燃性を与えるかまたはポリエステルフィルムの難燃性を改善する方法であって、前記フィルム中に、前記フィルムの合計質量に対して約1.0~約25.0質量%の量のポリマーホスホナート難燃剤、ならびにナトリウムおよびカリウム金属陽イオンからなる群から選択される少なくとも1種の金属陽イオンの組み合わせを供給するステップを含み、前記金属陽イオンが
、ポリアクリル酸イオン
から選択される対陰イオンとの塩の形態で存在する、方法。
【請求項25】
前記ポリエステルフィルムに難燃性を与えるかまたは前記ポリエステルフィルムの難燃性を改善するための前記使用または方法が、前記ポリエステルフィルムにUL94試験法のVTM-0等級を与える使用または方法である、請求項23に記載の使用または請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ポリマーホスホナート難燃剤および/または前記少なくとも1種の金属陽イオンおよび/または前記ポリエステルフィルムが、請求項1~22のいずれかに記載の通りである、請求項23、24もしくは25に記載の使用または方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリエステルフィルム、ならびにフィルムを製造する方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムの有利な機械的性質、寸法安定性および光学的性質はよく知られている。しかしながら、建築、織物、家具および電気的な用途に使用されるほとんどのポリマー材料は可燃性である。材料の燃焼性を減少させ、材料を使用する際により安全にしようとする、強い要望がある。最も一般的な手法は、可燃性のポリマー系に1種または複数の難燃剤元素を添加することであるが、しかし、その場合、これらは他の問題を引き起こす場合がある。例えば、後の加工および/またはポリマー組成もしくはポリマーフィルムの物理的性質に悪影響を及ぼさずに、十分に高い添加量を達成することは困難であることが判明している。特に、有利な光学的性質(高い透明度などの)および/または低収縮率を示す難燃性ポリエステルフィルムを提供することは困難であった。さらに、また、フィルムの機械的性質に悪影響を及ぼし得る、結晶化度の損失のない難燃性ポリエステルフィルムを提供することは困難であった。
本発明は、前に挙げた問題の1つまたは複数を解決すること、特にフィルムの光学的性質を損なわない、特に透明度および/または透明性の承諾しがたい減少のない、優れた難燃性を示すポリエステルフィルムを提供することを目的とする。本発明は、優れた難燃性および優れた光学的性質、特に例えばヘイズおよびTLTによって測定されるようなフィルムの高い透明度および高い透明性を示すポリエステルフィルムを提供することを特別の目的とする。
【0003】
独国特許出願公開第10043779号は、ビスベンゼン変性熱可塑性ポリマーの基層およびカバー層を含む、ディスプレイおよび保護グレイジング用に適した二軸延伸多重層フィルムを記載している。カバー層は、2種の成分の混合物またはブレンドを含む。第1の成分は、ポリエチレンテレフタラート(PET)であってもよく、第2の成分は、イソフタル酸、スルホモノマー、脂肪族または脂環式グリコールおよび任意に脂肪族ジカルボン酸に由来するコポリマーの混合物またはブレンドであってもよい。フィルムは、任意に、ジメチルメチルホスホナートなどの難燃剤を含んでもよい。
独国特許出願公開第10035327号は、難燃剤を含む、2~60質量%のシクロオレフィンコポリマーを含む少なくとも1つの層および少なくとも1つの接着促進表面を含む不透明な二軸延伸ポリエステルフィルムについて記載している。難燃剤は、メチルホスホン酸ジメチルなどの有機リン化合物であってもよい。
【0004】
特開2004131669号公報は、ポリエステルおよびホスホン酸残基および二価フェノール残基を含むポリマーを含む、磁気記録媒体用の二軸延伸ポリマーフィルムについて記載し、優れた剛性および靭性を提供すると報告されている。
特開2006274112号公報は、優れた寸法安定性を示す磁気記録媒体用の二軸延伸ポリエステルフィルムについて記載している。フィルムは、II族金属塩などの金属塩であってもよいエンタルピー緩和促進剤、およびフェニルホスホン酸ジメチルなどの亜リン酸化合物を含む。
特開平06200131号公報は、PENベースポリエステル、およびそれから製造された、改善された電気的性質を示し、電磁気テープに適したフィルムについて記載している。ポリエステルは、アンチモン、マグネシウムおよびリン元素を含み、リン元素はメチルホスホン酸ジメチルから選択されてもよい。
韓国特許第101234613号は、フィルムの少なくとも1つの面にポリエステル基板層および接着性高分子樹脂下塗り層を含む高い耐熱性を有する光学用ポリエステルフィルムについて記載している。ポリエステルフィルムは、カルボキシホスフィン酸およびメチルホスホン酸ジメチルから選択される難燃剤粒子を含む。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の態様によると、フィルムの合計質量に対して約1.0~約25.0質量%の量のポリマーホスホナート難燃剤を含み、I族およびII族金属陽イオンからなる群から選択される少なくとも1種の金属陽イオンをさらに含むポリエステルフィルム、好ましくは延伸ポリエステルフィルムが提供される。
好ましくは、フィルムの合計質量に対して約1.0~約25.0質量%の量のポリマーホスホナート難燃剤を含み、ナトリウムおよびカリウム金属陽イオンからなる群から選択される少なくとも1種の金属陽イオンをさらに含むポリエステルフィルム(好ましくは延伸ポリエステルフィルム)が提供される。
本発明者らは、驚いたことに、I族およびII族金属陽イオンからなる群から選択される少なくとも1種の金属陽イオン(特にナトリウムおよびカリウム金属陽イオン)と組み合せた前記ホスホナート難燃剤が、フィルムの優れた難燃性ならびに高い透明度および透明性を示すポリエステルフィルムの提供において特に有益であることを見いだした。驚いたことに、本発明者らは、前記ホスホナート難燃剤の比較的低い添加量でさえポリエステルフィルムが前記性質を示すことを見いだした。
【0006】
ポリエステルフィルムは、自立するフィルムまたはシートであり、このことは、支持基部のない状態で独立して存在することができるフィルムまたはシートを意味する。フィルムは、延伸していない(例えばキャスト)ポリエステルフィルムであってもよい。好ましくは、フィルムは、一軸または二軸延伸、より好ましくは二軸延伸されている。
フィルムを構成するポリエステルは、好ましくは合成直鎖状ポリエステルである。フィルムを構成するポリエステルは、好ましくは結晶化可能である。ポリエステルは熱可塑性である。適切なポリエステルは、1種または複数のジカルボン酸またはその低級アルキルジエステル(最大6炭素原子)の、1種または複数のジオールとの縮合により入手可能である。
ジカルボン酸成分は、少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸を含み、好ましくはテレフタル酸、イソフタル酸(IPA)、フタル酸、1,4-、2,5-、2,6-または2,7-ナフタレンジカルボン酸であり、好ましくはテレフタル酸(TA)または2,6-ナフタレンジカルボン酸、好ましくはテレフタル酸である。ポリエステルは、任意に他のジカルボン酸に由来する1種または複数の残基を含んでいてもよく、それは例えば、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、1,10-デカンジカルボン酸、特に一般式CnH2n(COOH)2(式中、nは2~8である)のものを含む脂肪族ジカルボン酸、例えばコハク酸、グルタル酸、セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸またはピメリン酸、好ましくはセバシン酸、アジピン酸およびアゼライン酸、より好ましくはアゼライン酸である。
【0007】
ジオールは、好ましくは脂肪族および脂環式のジオール、例えば、エチレングリコール(EG)、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールおよび1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、好ましくはエチレングリコールおよび1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、好ましくはエチレングリコールから選択される。
ポリエチレンテレフタラート(PET)またはポリエチレン2,6-ナフタラート(PEN)、特にPETは好ましいポリエステルである。
好ましいPETおよびPENポリエステルは、任意に、上記の他のジカルボン酸および/またはジオールに由来する相対的に少量の1種または複数の残基を含んでもよく、そのような少量が存在する場合、前記他のジカルボン酸の合計量は、ポリエステルの合計ジカルボン酸画分の好ましくは10mol%未満、好ましくは5mol%未満、好ましくは1mol%未満、および/または前記他のジオールの合計量は、ポリエステルの合計ジオール画分の好ましくは15mol%未満、好ましくは10mol%未満、好ましくは5mol%未満である。
【0008】
ポリエステルは、好ましくは唯1種のジカルボン酸、好ましくは芳香族ジカルボン酸、好ましくはテレフタル酸または2,6-ナフタレンジカルボン酸、好ましくはテレフタル酸を含む。ポリエステルは、好ましくは唯1種のジオール、好ましくは脂肪族ジオール、好ましくはエチレングリコールを含む。好ましくは、ポリエステルは、1種の芳香族ジカルボン酸および1種の脂肪族ジオールを含む。
フィルムを形成するポリエステル樹脂はフィルムの主成分であり、所与の層の合計質量の少なくとも50%、所与の層の合計質量の好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より典型的には少なくとも85%、より典型的には少なくとも90%を構成する。
【0009】
フィルムが製作されるポリエステルの固有粘度は、好ましくは少なくとも約0.60、好ましくは少なくとも約0.61、好ましくは少なくとも0.62、好ましくは少なくとも0.63、好ましくは少なくとも0.64、好ましくは少なくとも0.65、好ましくは少なくとも約0.70、好ましくは少なくとも約0.75、好ましくは少なくとも約0.80である。好ましくはポリエステルの固有粘度は、0.85以下、好ましくは0.83以下である。粘度が高すぎるポリエステルの使用は、フィルム製作中に難事を引き起こし、および/または特殊な、より頑丈なフィルム形成設備が必要となり得る。例えば、粘度を大幅に上げすぎると、安定なフィルムの生産を達成するために、アウトプットを下げる(すなわち、単位時間当たりに押出されるポリエステルの量を減らし、それほど経済的でない工程の原因となる)か、または溶融物の粘度を下げるために押出温度を上げる(ポリマーの熱分解および関連する性質の喪失の原因となり得る)ことが必要になることを意味し得る。
ポリエステルの形成は、一般に約295℃までの温度での縮合またはエステル交換による公知の方式で好都合に果たされる。好ましい実施形態において、例えば回転式真空乾燥器を使用する、窒素流動床または真空流動床などの流動床を使用する、当業界でよく知られている従来の技法を使用して、固相重合が、ポリエステルの固有粘度を目標値に上げるために使用されてもよい。
【0010】
ポリエステルフィルムは、フィルムの所与の層の合計質量の約1.0~約25.0%、好ましくは少なくとも約5%、好ましくは少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約12%、好ましくは約20%以下、好ましくは約18%以下、好ましくは約15%の量の前記ホスホナート難燃剤を含む。
ホスホナート難燃剤は、好ましくは式Iのホスホナート難燃剤である。
【化1】
(I)
(式中、
Arは芳香族基であり、-O-Ar-O-は、例えば、レゾルシノール、ヒドロキノン、およびビスフェノールA、ビスフェノールFなどのビスフェノール、および4,4’-ビフェノール、フェノールフタレイン、4,4’-チオジフェノール、4,4’-スルフォニルジフェノール、またはこれらの組み合わせなどであるがこれらに限定されない、1個または複数の置換されていてもよいアリール環を有する化合物に由来し;
Xは、C
1-20アルキル、C
2-20アルケン、C
2-20アルキン、C
5-20シクロアルキルまたはC
6-20アリールであり;
nは、1~約100、好ましくは1~約75、好ましくは2~約50の整数、またはこれらの範囲の間の任意の整数である)
【0011】
基Xは、好ましくはC
1-20アルキル、好ましくはC
1-10アルキル、好ましくはC
1-5アルキル、好ましくはメチルから選択される。
基-O-Ar-O-は、好ましくはビスフェノールA、ビスフェノールF、および4,4’-ビフェノール、好ましくはビスフェノールAに由来する。
好ましい実施形態において、ホスホナート難燃剤は、式IIのホスホナート難燃剤であるか、またはそれを含む。
【化2】
(II)
【0012】
適切なホスホナート難燃剤化合物のさらなる実施形態は、米国特許出願公開第2016/0168760号に記載されており、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
ホスホナート難燃剤の質量平均分子量(Mw)は、好ましくは約10,000~約120,000、好ましくは約50,000~約120,000、好ましくは約80,000~約120,000g/molの範囲にある。分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって適切に求められ、以下に記載の設備を使用して、例えばポリスチレン(PS)標準に対して測定される。
ホスホナート難燃剤は、好ましくは、ホスホナート難燃剤の質量に対して少なくとも約5質量%、好ましくは少なくとも約8質量%、好ましくは少なくとも約10質量%、好ましくは約20質量%以下、好ましくは約15質量%以下、好ましくは約12質量%以下のリン含有率を特徴とし、好ましくは約11質量%である。
ホスホナート難燃剤のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは約95~約120℃の範囲、好ましくは約110~約110℃の範囲にある。
【0013】
ポリエステルが製作された後、好ましくはホスホナート難燃剤がポリエステル組成物へ導入される。好ましくは、フィルム製作工程において使用される押出機中へポリエステルを導入する前またはその間に、ホスホナート難燃剤は、ポリエステルに添加される。ホスホナート難燃剤がフィルム製作工程において使用される押出機に添加される場合、それは、好ましくは押出機バレルの始点に添加される。ホスホナート難燃剤は、重力式フィーダーによって押出機へ導入して最終フィルムにホスホナート難燃剤の所望量を与えてもよい。マスターバッチ技術も使用されてもよい。
このように、ホスホナート難燃剤は、好ましくはポリエステルとブレンドされる。
好ましい実施形態において、前記ホスホナート難燃剤は、延伸ポリエステルフィルム中に存在する唯一のリン含有難燃剤、好ましくは唯一の難燃添加剤である。
ホスホナート難燃剤は、ポリエステルと少なくとも部分的に共重合されて、好ましくはブロックコポリマーを形成していてもよい。
【0014】
ポリエステルフィルムは、I族およびII族金属陽イオンからなる群から選択される少なくとも1種の金属陽イオンを含む。好ましくは、所与の層中に存在する金属陽イオンの量は、所与の層中のポリエステルの量に対して、質量で少なくとも10ppm、好ましくは少なくとも15ppm、少なくとも40ppm、好ましくは少なくとも45ppm、好ましくは少なくとも65ppm、好ましくは少なくとも80ppm、好ましくは少なくとも100ppmである。好ましくは、金属陽イオンの量は、所与の層中のポリエステルの量に対して、質量で約1000ppm以下、好ましくは約500ppm以下、好ましくは約275ppm以下、典型的には約200ppm以下、一実施形態において、約150ppm以下である。好ましくは、金属陽イオンの量は、所与の層中のポリエステルの量に対して質量で45ppm~500ppm、より好ましくは65ppm~275ppm、より好ましくは100ppm~200ppmの範囲である。
本明細書において使用される場合、「I族」および「II族」という用語は、従来の化学の意味を有し、周期表中の対応する族を指す。本発明において、金属陽イオンは、好ましくはI族金属陽イオンから選択され、好ましくはナトリウムおよびカリウム、および最も好ましくはナトリウムから選択される。
【0015】
好ましくは、I族またはII族陽イオンは、好ましくは水酸化物イオン、ポリアクリル酸イオン、炭酸水素イオン、カルボン酸イオン、塩化物イオン、酢酸イオン、ギ酸イオンおよび硝酸イオンから選択される好適な対陰イオンとの塩の形態で存在する。好ましい実施形態において、陰イオンは、水酸化物イオンまたはポリアクリル酸イオン、好ましくはポリアクリル酸イオンから選択される。適切なポリアクリラートは、約1,000~約10,000g/molの質量平均分子量(MW)のものを含む。ここでの分子量決定は、2つのGPC Ultrastyragelカラム、103および104Å(5μm混合、300mm x 19mm、Waters Millipore Corporation, Milford, MA, USA)および移動相としてのTHFを備えるHewlett-Packard 1050 Series HPLCシステムで行うことができる。分子量は、ポリスチレン標準の保持時間と比較して計算される。
そのような金属陽イオン含有種の組み込みが、優れた難燃性および高い透明度および透明性を有するフィルムをもたらすことがわかった。
金属陽イオン(好ましくはその塩の形態である)は、重合前にポリエステルまたはそのモノマーに添加されてもよい。好ましい実施形態において、金属陽イオン(好ましくはその塩の形態にである)は、ポリエステルを調製するために重合反応の開始時に添加される。
【0016】
ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの製作において従来通りに使用される、任意の他の添加剤をさらに含んでもよい。したがって、粒状充填剤、加水分解安定剤、酸化防止剤、UV安定剤、架橋剤、染料、潤滑剤、ラジカル捕捉剤、熱安定剤、界面活性剤、光沢増進剤、分解促進剤、粘性調整剤および分散安定剤などの試剤を適宜組み込むことができる。粒状充填剤、加水分解安定剤(好ましくは分岐モノカルボン酸のグリシジルエステル)および酸化防止剤(好ましくはヒンダードフェノール、第二級芳香族アミンおよびヒンダードアミン)は、本発明における特別の有用性を有し、この点で適切な添加剤は、国際公開第2012/120260号に開示され、その添加剤の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。UV安定剤はまた特に有用である。
粒状充填剤は、当業界でよく知られているように製造中の取り扱い性および巻取り性を向上させ、および/または光学的性質を調整することができる。粒状充填剤は典型的には粒状無機充填剤である(例えば、金属またはアルミナ、チタニアなどのメタロイド酸化物、タルクおよびシリカ(特に沈降または珪藻土シリカおよびシリカゲル)、か焼チャイナクレーならびにカルシウムおよびバリウムの炭酸塩および硫酸塩などのアルカリ金属塩)。粒状無機充填剤は好ましくは細かく分割され、その体積分布中央粒径(体積%を粒子の直径に関連付ける累積分布曲線上で読み取った、全粒子の体積の50%に相当する球相当径、しばしば「D(v,0.5)」値と称せられる)は、好ましくは0.01~5μm、より好ましくは0.05~1.5μm、特に0.15~1.2μmの範囲である。好ましくは、無機充填剤粒子の少なくとも90体積%、より好ましくは少なくとも95体積%は、体積分布中央粒径±0.8μm、特に±0.5μmの範囲内にある。充填剤粒子の粒径は、電子顕微鏡、コールターカウンター、沈降分析および静的または動的光散乱によって測定することができる。レーザー光回折に基づく技法が好ましい。前述の従来から使用される添加剤は、従来の方式でポリマーへ導入されてもよい。例えば、フィルム形成ポリマーが由来するモノマー反応体と混合することによって、または、タンブルブレンドもしくはドライブレンドによって、または押出成形機内で配合し、続いて冷却し、通常は顆粒もしくはチップに粉砕することによって、成分をポリマーと混合することができる。マスターバッチ技術を使用することもできる。
【0017】
ポリエステルフィルムの形成は、当業界でよく知られている従来の押出技法によって達成することができる。一般に、工程は、約275~約300℃、好ましくは約290~295℃の範囲内の温度で溶融ポリマーの層を押出し、押出物を急冷し、急冷された押出物を延伸するステップを含む。延伸は、延伸フィルムの製造のための当業界で知られている任意の工程、例えば管状法またはフラットフィルム法によって達成することができる。フィルムの面内で互いに垂直な方向に引っ張ることによって二軸延伸をもたらして、満足のゆく機械的および物理的性質の組み合わせが達成される。管状法では、熱可塑性ポリエステルチューブを押出成形し、これを続いて急冷し、再加熱し、次いで、横延伸を起こすために不活性ガスの圧力によって膨らませ、さらに縦延伸を起こす速度で引くことによって、同時二軸延伸を達成することができる。好ましいフラットフィルム法では、フィルム形成ポリエステルを、スロットダイを通して押出し、冷却したキャスティングドラム上で速やかに急冷して、ポリエステルが確実に急冷されて非晶質状態になるようにする。次いで、延伸は、急冷された押出物をポリエステルのガラス転移温度より高い温度で少なくとも一方向に延伸することによって達成される。急冷された平らな押出物をまず一方向、通常は縦方向、すなわちフィルム延伸機の前進方向に、次いで横方向に延伸して、連続的な延伸を達成することができる。押出物の前進方向への延伸は、1組の回転ロール上または2対のニップロールの間で都合よく行われ、次いで横方向の延伸がテンタ装置で達成される。延伸は、一般に、延伸フィルムの寸法が、延伸の方向または各方向において元の寸法の2~5倍、より好ましくは2.5~4.5倍となるように行われる。より好ましくは、延伸フィルムの寸法が前進方向の引張りの元の寸法の3.0~3.3倍、および横方向の引張りの元の寸法の3.3~3.9倍となるように、延伸が行われる。一方向のみの延伸が必要な場合、より大きな延伸比(例えば約8倍まで)が使用されてもよい。典型的には、延伸は、ポリエステルのTgより高い温度で、好ましくはTgより約15℃高い温度で達成される。縦方向と横方向に均一に延伸する必要はないが、釣り合いのとれた特性を望むならば、そうすることが好ましい。
【0018】
ポリエステルの所望の結晶化を促すために、ポリエステルのガラス転移温度以上だがその溶融温度以下の温度で寸法担持しながら、ヒートセットすることによって、延伸フィルムを寸法的に安定化させることができ、またそれが好ましい。ヒートセットの間に、少量の寸法の緩和が「トーイン」として知られる手順によって横方向(TD)に実施されてもよい。トーインは、2~4%の程度の寸法の緩和を含むことができる。当業界で公知のように、工程または機械方向(MD)における寸法の緩和もまた可能である。実際のヒートセットの温度および時間は、フィルムの組成およびその所望の最終の熱収縮によって変わるが、フィルムの引裂き抵抗などの強靭性を実質的に低下させるような選択を行うべきではない。これらの制約の範囲内で、一般に約180~245℃のヒートセット温度が望ましい。一実施形態において、ヒートセット温度は、加水分解安定性に改善を与える約200~約225℃の範囲内にある。ヒートセットの後、フィルムは典型的には、ポリエステルの所望の結晶化度を引き起こすように高速で急冷される。
【0019】
好ましくは、インライン緩和段階の使用によってフィルムはさらに安定化される。代替として、緩和処理はオフラインで実施することができる。この追加のステップにおいて、フィルムは、MDおよびTD方向の張力を大幅に下げて、ヒートセット段階の温度より低い温度で加熱される。フィルムが受ける張力は、小さい張力であり、通常、フィルム幅の5kg/m未満、好ましくは3.5kg/m未満であり、好ましくは2.5kg/m未満、通常1.0~2.0kg/mの範囲にある。フィルム速度を制御する緩和工程では、フィルム速度の低下(したがって、歪みの緩和)は、通常、0~2.5%、好ましくは0.5~2.0%の範囲にある。熱安定化ステップの間、フィルムの横寸法の増加はない。熱安定化ステップで用いられる温度は、最終フィルムに望まれる特性の組み合わせに応じて変わり得るが、より高い温度が、より良好な、すなわち、より少ない残留収縮性をもたらす。135~250℃の温度が一般に望ましく、150~230℃が好ましく、170~200℃がより好ましい。加熱時間は、用いられる温度に依存するが、通常、10~40秒の範囲にあり、20~30秒の時間が好ましい。この熱安定化工程は、水平および直立の配置構成、別個の工程ステップとしての「オフライン」、またはフィルム製作工程の継続としての「インライン」のいずれかを含む様々な方法によって実施することができる。こうして加工されたフィルムは、このようなヒートセット後の緩和なしに製造されたものより小さい熱収縮を示す。
【0020】
ポリエステルフィルムは、単層または複数のポリエステル層を含む複合構造のいずれであってもよい。以下に記載のように、多重層ポリエステルフィルムの1つの層は加熱封止できる層であってもよい。好ましい実施形態において、ポリエステルフィルムは単層である。複合構造の形成は、マルチオリフィスダイの独立したオリフィスを通しての個々のフィルム形成層の同時共押出とその後のまだ溶融している層の合体によってか、または、好ましくは、単一流路共押出(個々のポリマーの溶融物流が、最初に、ダイのマニホールドに導く流路内で合体され、その後、流線流条件下で混ざることなくダイオリフィスから一緒に押出されて、多重層ポリマーフィルムを生成する)によってかのいずれかで、好ましくは共押出によって達成され、この多重層ポリマーフィルムは、先に記載されたように、延伸され、ヒートセットされ得る。複合フィルムのポリエステル層は、上記のポリエステル、好ましくはPETまたはPETベースポリエステルから選択される。複合フィルム中のいずれかの層または各層は、上で言及した添加剤のうちのいずれを含んでもよく、所与の層中の添加剤は、他の層中の添加剤と同じでも異なっていてもよく、また量は同一でも異なっていてもよい。好ましくは、ホスホナート難燃剤は、多重層フィルムの少なくとも外側層、好ましくは多重層フィルムの各層中にある。一実施形態において、ポリエステルフィルムは、好ましくはABまたはBABの層状構造を有する2または3つの層を含む。多重層ポリエステルフィルムの外側層は、当業界で従来のように製作時に取り扱い性および巻取り性を改善するために適切に粒状充填剤を含み、そのような粒状充填剤は、適切には一般に、層の2.5質量%を超えない、好ましくは2.0質量%を超えない、好ましくは1.1質量%を超えない、好ましくは0.6質量%を超えない、好ましくは0.5質量%を超えない、好ましくは0.3質量%を超えない量で存在する。
【0021】
本発明のフィルムは加熱封止できてもよい。加熱封止できる機能は、好ましくはポリエステル基層に加熱封止できる層を配置することにより提供される。代替として、単層フィルムのポリエステルはそれ自体で加熱封止できる。しかし、好ましくは、加熱封止できる機能が、加熱封止できる層を、それ自体では加熱封止できないポリエステル基層に配置することによって提供される。
【0022】
加熱封止できるポリエステルは、好ましくは1種または複数のジオールおよび1種または複数のジカルボン酸に由来するコポリエステルから選択されるコポリエステルであり、そのコポリエステルは少なくとも3つの異なるタイプのモノマー繰り返し単位を含み、好ましくは脂肪族ジオールおよびジカルボン酸は上述のジカルボン酸およびジオールから選択される。加熱封止できるコポリエステル層のコポリエステルは、その層の主成分であり、層の合計質量に対して少なくとも50質量%、好ましくは層の合計質量に対して少なくとも65質量%、好ましくは少なくとも80質量%、好ましくは少なくとも90質量%、より典型的には少なくとも95質量%を構成する。加熱封止できるコポリエステルは、好ましくは以下から選択される:
(i) 第1の芳香族ジカルボン酸(好ましくはTA)、第2の芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジオールを含み、好ましくはそれらからなり、好ましくはTA、IPAおよびEGからなる繰り返し単位に由来するコポリエステル。この実施形態において、第2の芳香族ジカルボン酸(好ましくはIPA)は、コポリエステルの酸分率の好ましくは約5~約30mol%、好ましくは約10~約25mol%、好ましくは約10~約20mol%、好ましくは約15~約20mol%の量、存在する。
(ii) 第1の芳香族ジカルボン酸(好ましくはTA)、脂肪族ジオール(好ましくはEG)および脂環式ジオール(好ましくはCHDM)を含み、好ましくはそれらからなるコポリエステル。好ましくは、コポリエステルは唯1種の芳香族ジカルボン酸(好ましくはTA)を含む。好ましくは、コポリエステルは唯1種の脂肪族ジオール(好ましくはEG)グリコールを含む。好ましくは、コポリエステルは唯1種の脂環式ジオール(好ましくはCHDM)を含む。好ましいコポリエステルは、TA、EGおよびCHDMに由来する。脂環式ジオールと脂肪族ジオールの好ましいモル比は、10:90~70:30、好ましくは10:90~60:40の範囲、好ましくは20:80~40:60、より好ましくは30:70~35:65の範囲にある。したがって、コポリエステルのグリコール分率は、10~70mol%、好ましくは10~60mol%、好ましくは20~40mol%、好ましくは30~35mol%の脂環式ジオール、および30~90mol%、好ましくは40~90mol%、好ましくは60~80mol%、好ましくは65~70mol%の脂肪族ジオールを含むことが好ましい。好ましい実施形態において、このコポリエステルは、グリコール分率が約33mol%の1,4-シクロヘキサンジメタノールおよび約67mol%のエチレングリコールを含むテレフタル酸のコポリエステルである。
(iii) 芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸および脂肪族ジオールを含み、好ましくはそれらからなるコポリエステル。好ましい芳香族ジカルボン酸はテレフタル酸である。好ましい脂肪族ジカルボン酸は、セバシン酸、アジピン酸およびアゼライン酸から選択される。コポリエステル中に存在する芳香族ジカルボン酸の濃度は、コポリエステルのジカルボン酸成分を基準にして好ましくは45~80、より好ましくは50~70、特に55~65モル%の範囲にある。コポリエステル中に存在する脂肪族ジカルボン酸の濃度は、コポリエステルのジカルボン酸成分を基準にして好ましくは20~55、より好ましくは30~50、特に35~45モル%の範囲にある。そのようなコポリエステルの特に好ましい例は、(a)脂肪族グリコール、好ましくはエチレングリコールとの、アゼライン(azeleic)酸およびテレフタル酸のコポリエステル;(b)脂肪族グリコール、好ましくはエチレングリコールとの、アジピン酸およびテレフタル酸のコポリエステル;および(c)脂肪族グリコール、好ましくはブチレングリコールとの、セバシン酸およびテレフタル酸のコポリエステルである。
【0023】
代替実施形態において、加熱封止できる機能は、本明細書に記載のポリエステルフィルム上に非ポリエステル加熱封止ポリマーをコーティングすることにより提供されてもよい。適切な加熱封止層は、好ましくはエチレン酢酸ビニル(EVA)を含み、好ましくはそれからなる。適切なEVAポリマーは、Elvax(商標)樹脂としてDuPontから得ることができる。典型的には、これらの樹脂は、9%~40%、典型的には15%~30%の範囲の酢酸ビニル含有率を有する。
加熱封止できる層の形成は、従来の技法によって達成することができ、形成の方法は、加熱封止できる層の素性に依存する。コポリエステル(i)および(ii)を含む加熱封止できる層は、適切に共押出によって調製される。コポリエステル(iii)およびEVAを含む加熱封止できる層は、上記のポリエステル層に加熱封止できるポリマーをコーティングすることにより適切に調製される。コーティングは、例えば以下に記載のような任意の適切なコーティング技術を使用して達成することができる。加熱封止できる層の厚さは、フィルムの合計厚さの、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下、かつ好ましくは少なくとも2.5%、より好ましくは少なくとも5%、好ましくは約10%~約20%である。
【0024】
最も好ましい実施形態において、ポリエステルフィルムは光学的に透明である。本明細書において使用される場合、「光学的に透明」という用語は、8%以下、好ましくは5%以下、好ましくは4%以下、好ましくは3%以下、好ましくは2%以下、好ましくは1%以下の可視波長領域の散乱光、および/または少なくとも80%、好ましくは少なくとも88%、より好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約92%の可視領域(400nm~700nm)の光について合計視感透過率(TLT)の百分率を与える層を指す。好ましくは光学的に透明なフィルムは、これらの判定基準の両方を満たす。この実施形態において、フィルム中の任意の充填剤は、典型的には少量のみ存在し、一般に、層の質量に対して2.5%を超えず、好ましくは2.0%を超えず、好ましくは1.1%を超えず、好ましくは0.6%を超えず、好ましくは0.3%を超えず、好ましくは充填剤はシリカである。この実施形態において、フィルムの巻取り性(すなわちフィルムがロールに巻き取るときにブロッキングまたはスティッキングがないこと)は改善され、ヘイズ性または他の光学的性質の受け入れがたい低下がない。
【0025】
代替実施形態において、ポリエステルフィルムは不透明である。不透明フィルムは、好ましくは少なくとも0.4、好ましくは少なくとも0.5、好ましくは少なくとも0.6、好ましくは少なくとも0.7、好ましくは少なくとも1.0、好ましくは少なくとも1.5、一実施形態において、好ましくは少なくとも2.0、好ましくは少なくとも3.0、好ましくは少なくとも4.0の透過光学濃度(TOD)を示す。適切な不透明化剤は、当業界で公知の、カーボンブラック、またはアルミニウム粉などの金属充填剤を含む。不透明フィルムは、必要に応じて着色されてもよく、例えば白色、灰色または黒色であってもよい。適切な白色化剤は、上記に言及した粒状無機充填剤、特に硫酸バリウムおよび二酸化チタン、特に二酸化チタンを含む。白色フィルムは、好ましくは少なくとも60、好ましくは少なくとも85、好ましくは少なくとも90、好ましくは少なくとも95、典型的には約120以下、典型的には約105単位以下の白色度指数、および/または好ましくは85を超え、好ましくは90を超え、好ましくは92.00を超え、典型的には90.00~100.00、より典型的には92.00~95.00の範囲のL*値を示す。
【0026】
ポリエステルフィルムの固有粘度は、好ましくは少なくとも約0.70、好ましくは少なくとも約0.75、好ましくは少なくとも0.80、かつ好ましくは約0.85以下、好ましくは約0.83以下である。
本発明のポリエステルフィルムは驚くほど良好な難燃性を示す。特に、ポリエステルフィルムは、長い間ポリエステルフィルム製造業者の目標であったVTM0等級(以下に記載のUL試験法に定義される)を示す。従来のポリエステルフィルムは、典型的にはVTM2等級の燃焼分類等級を示すにすぎない。しかし、多くの用途に対して、ポリマー成分は、VTM0等級を示す場合には、ポリエステルフィルムが使用される用途の範囲を限定してきた燃焼性に関して装置または装具の一部としての使用にのみ許容されると思われる。
本発明のフィルムは半結晶性である。本明細書において使用される場合、「半結晶性」という用語は、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも25%、および典型的には50%または45%または40%以下の結晶化度を示すフィルムを指す。
本発明のポリエステルフィルムは、150℃、30分間で、特にフィルムの機械方向(縦の寸法)において、好ましくは10%未満、好ましくは5%未満、好ましくは3%未満、好ましくは2%未満、好ましくは1%未満の低い収縮率を示す。好ましくは、そのような収縮値は、フィルムの両方の寸法(すなわち縦および横の寸法)において示される。
【0027】
本発明のフィルムは、好ましくはフィルムの縦および横方向それぞれにおいて、少なくとも約15、好ましくは少なくとも約18、好ましくは少なくとも約19、好ましくは少なくとも約20、好ましくは少なくとも約21kg/mm2の極限引張強さ(UTS)を示す。
本発明の多重層フィルムは、好ましくはフィルムの縦および横方向それぞれにおいて、少なくとも130%、好ましくは少なくとも150%、好ましくは少なくとも160%、好ましくは少なくとも170%、好ましくは少なくとも180%、好ましくは少なくとも190%、好ましくは少なくとも200%の破断伸び(ETB)を示す。
フィルムの「縦方向」および「横方向」という用語が、フィルムがその製作時に延伸される方向を指すことは理解されよう。「機械方向」という用語も縦方向を指すために本明細書において使用される。
本発明のポリエステルフィルムには、任意にアクリル樹脂層を被覆してもよい。そのようなアクリル酸層は、ポリエステルフィルムの表面への接着促進層として、例えばインク、インク、染料および/またはラッカーなどの接着を改善するインク受容層として使用されてもよい。
【0028】
本明細書において使用される場合、「アクリル樹脂」という用語は、少なくとも1種のアクリル酸および/またはメタクリル酸成分を含む樹脂を指す。
インク受容層のアクリル樹脂は適切には熱硬化性である。
インク受容層のアクリル樹脂は、好ましくはアクリル酸のエステルおよび/またはメタクリル酸のエステル、および/またはその誘導体に由来する、少なくとも1種のモノマーを含む。好ましくは、アクリル樹脂は、アクリル酸のエステルおよび/またはメタクリル酸のエステルおよび/またはその誘導体に由来する、50モル%を超え、好ましくは98モル%未満、より好ましくは60~97モル%、特に70~96モル%、特別に80~94モル%の範囲の少なくとも1種のモノマーを含む。好ましいアクリル樹脂は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル(terbutyl)、ヘキシル、2-エチルヘキシル、ヘプチルおよびn-オクチルなどのアルキル基が最大10個の炭素原子を含む、アクリル酸および/またはメタクリル酸のアルキルエステルを含む。好ましくはアクリル樹脂は、アクリル酸アルキル(好ましくはアクリル酸エチルおよび/またはアクリル酸ブチル)およびメタクリル酸アルキル(好ましくはメタクリル酸メチル)を含み、好ましくはアクリル樹脂はアクリル酸エチルおよびメタクリル酸メチルを含む。アクリラートモノマーは、好ましくは20~80モル%(好ましくは30~65モル%)の範囲の比率で存在し、メタクリラートモノマーは、好ましくは20~80モル%(好ましくは20~60モル%)の範囲の比率で存在する。
【0029】
好ましくはアクリル酸および/またはメタクリル酸および/またはその誘導体の前記エステルと共に任意選択の追加のモノマーとして共重合される、アクリル樹脂の調製における使用に適切な他のモノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ハロ置換アクリロニトリル、ハロ置換メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-エタノールアクリルアミド、N-プロパノールアクリルアミド、N-メタクリルアミド、N-エタノールメタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、イタコン酸、イタコン酸無水物およびイタコン酸のハーフエステルが含まれる。他の任意選択のモノマーは、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニルおよび安息香酸ビニルなどのビニルエステル、ビニルピリジン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、マレイン酸、無水マレイン酸、スチレン、ならびにクロロスチレン、ヒドロキシスチレンおよびアルキル化スチレンなどのスチレンの誘導体を含み、ここで、アルキル基は1~10個の炭素原子を含む。
【0030】
好ましいアクリル樹脂は、3種のモノマーに由来し、35~60モル%(好ましくは40~50モル%)のアクリル酸エチル、30~55モル%(好ましくは40~50モル%)のメタクリル酸メチル、および2~20モル%(好ましくは5~10mol%)のアクリルアミドまたはメタクリルアミドを含み、好ましくは、およそのモル比率46/46/8%のアクリル酸エチル/メタクリル酸メチル/アクリルアミドまたはメタクリルアミドをそれぞれ含む。好ましくは、ポリマーは、例えば、メチル化メラミン-ホルムアルデヒド樹脂約25質量%の存在下で熱硬化性である。
さらなる好ましいアクリル樹脂は、4種のモノマーに由来し、コモノマー(a)35~40モル%のアクリル酸アルキル、(b)35~40モル%のメタクリル酸アルキル、(c)遊離のカルボキシル基を含む10~15モル%のモノマー(d)スルホン酸基および/またはその塩を含む15~20モル%のモノマーを含むコポリマーを含む。アクリル酸エチルは特に好ましいモノマー(a)であり、メタクリル酸メチルは特に好ましいモノマー(b)である。遊離のカルボキシル基(すなわちコポリマーが形成される重合反応に関与するもの以外のカルボキシル基)を含むモノマー(c)は、適切には共重合性不飽和カルボン酸を含み、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸および/またはイタコン酸から(好ましくはアクリル酸およびイタコン酸から)選択される。スルホン酸基モノマー(d)は、遊離酸および/またはその塩、例えば、アンモニウム、置換アンモニウム、またはリチウム、ナトリウムまたはカリウム、塩などのアルカリ金属として、存在してもよい。スルホナート基は、コポリマー樹脂が形成される重合反応に関与しない。スルホン酸基モノマーは好ましくは芳香族であり、より好ましくはp-スチレンスルホン酸および/またはその塩である。
【0031】
アクリル樹脂の質量平均分子量(MW;本明細書に記載のように測定される)は、広い範囲にわたり様々であり得るが、好ましくは10,000~1,000,000、より好ましくは50,000~200,000の範囲にある。
インク受容層のアクリル樹脂成分は、インク受容層の合計質量に対して好ましくは少なくとも30質量%を、より好ましくは40~99質量%、特に50~85質量%、特別に70~80質量%の範囲で含む。インク受容層のアクリル樹脂は、好ましくは層の主成分である。
【0032】
第2の実施形態のインク受容層が由来する組成は、適切にまた架橋剤を含み、特に、インク受容層はアクリル樹脂含有層である。架橋剤は、ポリエステル基層の接着を改善するよう機能する。架橋剤はまた、溶媒耐性を与えるためにインク受容層と内部架橋するように機能するべきである。適切な架橋剤としては、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、アミン誘導体、例えば、ヘキサメトキシメチルメラミンおよび/またはアミン、例えば、メラミン、ジアジン、尿素、環状エチレン尿素、環状プロピレン尿素、チオ尿素、環状エチレンチオ尿素、アルキルメラミン、アリールメラミン、ベンゾグアナミン、グアナミン、アルキルグアナミンおよびアリールグアナミンのアルデヒド、例えばホルムアルデヒドとの縮合生成物が含まれる。有用な縮合物は、ホルムアルデヒドとのメラミンの縮合物である。縮合物はアルコキシ化されていてもよい。架橋剤は、適切にインク受容層の合計質量に対して最大70質量%、好ましくは1~60質量%、より好ましくは15~50質量%、特に20~30質量%の範囲の量で使用されてもよい。触媒が、好ましくは架橋剤の架橋作用を容易にするために使用される。架橋メラミンホルムアルデヒド用の好ましい触媒としては、パラトルエンスルホン酸、塩基との反応によって安定化したマレイン酸、パラトルエンスルホン酸モルホリニウムおよび硝酸アンモニウムが含まれる。
第2の実施形態のインク受容層が由来する組成は、任意にフィルム形成および取り扱いを助ける可塑剤を含む。任意の適切な可塑剤、例えばフタル酸アルキルベンジルなどのフタル酸エステル、アジピン酸ジアルキルおよびm.p-クレゾールプロポキシラートを使用することができる。
【0033】
アクリル樹脂は一般に水に不溶性である。典型的に、アクリル樹脂は、水分散の形態のコーティング組成物としてポリエステル基層に塗布される。
アクリル樹脂を含有するインク受容層は、典型的には、延伸フィルムの生産における延伸操作の前、その間またはその後に、コーティング組成物の形態で塗布することができる。コーティング組成物は、好ましくはポリエステル基層に二軸延伸操作の2つの段階(縦および横の)間に塗布される。アクリル樹脂を被覆したポリエステル基層は、組成の希釈剤(通常は水であるが、有機溶媒をさらにまたは代替として使用することができる)を追い出し、コーティングを融合し連続的で均質な層を形成するのを支援し、ならびに架橋性コーティング組成物の架橋を容易にするために加熱される(典型的には240℃まで、好ましくは220℃まで)。浸し塗り、ビードコーティング、リバースロールコーティングまたはスロットコーティングなどの任意の適切な従来のコーティング技法が使用されてもよい。コーティング組成物は、好ましくは約0.05~5mg/dm2、特に0.1~2.0mg/dm2の範囲の乾燥被覆質量でポリエステル基層に塗布される。
【0034】
第2の実施形態におけるインク受容層(好ましくはアクリル樹脂含有インク受容層)の厚さは、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは0.01~1.0μm、特に0.02~0.5μmの範囲にある。
本発明のフィルムの合計厚さは、好ましくは500μm以下、好ましくは350μm以下、好ましくは250μm以下、好ましくは150μm以下、好ましくは100μm以下、好ましくは75μm以下、好ましくは50μm以下、好ましくは少なくとも約5μm、典型的には少なくとも約10μmである。
本発明のフィルムは、例えば、スクリーン、シェードまたは壁カバーにおいて、コンデンサーおよびフレキシブルプリント回路、薄膜タッチスイッチなどの電気部品および回路の製作において、ならびに建築および運送業界で使用される構成要素の製作において、難燃性が所望されるかまたは有利である場合、任意の環境または最終用途に適切である。フィルムは、外装材を組み立てる製作において特に役立つ。フィルムは、また、航空機の内部に使用するのに適する材料のように、特に適切である。
【0035】
本発明の第2の態様によると、ポリエステルフィルム(特に延伸フィルム)における、ポリエステルフィルムに難燃性を与えるかまたはポリエステルフィルムの難燃性を改善するための、ポリマーホスホナート難燃剤ならびにI族およびII族金属陽イオン(特にナトリウムおよびカリウム、特にナトリウム)からなる群から選択される少なくとも1種の金属陽イオンの使用であって、ポリエステルフィルムは、フィルムの合計質量に対して約1.0~約25.0質量%の量のポリマーホスホナート難燃剤を含む、使用が提供される。
本発明の第3の態様によると、ポリエステルフィルム(特に延伸フィルム)に難燃性を与えるかまたはポリエステルフィルムの難燃性を改善する方法であって、フィルム中に、フィルムの合計質量に対して約1.0~約25.0質量%の量のポリマーホスホナート難燃剤、ならびにI族およびII族金属陽イオンからなる群から選択される少なくとも1種の金属陽イオン(特にナトリウムおよびカリウム、特にナトリウム)の組み合わせを供給するステップを含む、方法が提供される。
本発明の第1の態様に関して記載の選択物および要素は、本発明の第2および第3の態様に対して等しく当てはまることは理解されよう。
「難燃性を改善する」という用語は、本明細書において使用される場合、前記ポリマーホスホナート難燃剤および前記少なくとも1種の金属陽イオンの組み合わせがない場合のポリエステルフィルムと比較してポリエステルフィルムの難燃性が改善されることを意味すると理解されよう。
【0036】
特に、前記ポリエステルフィルムに難燃性を与えるか、または前記ポリエステルフィルムの難燃性を改善する方法は、好ましくはUL94試験法のVTM-0等級をポリエステルフィルムに与える使用または方法である。
好ましい実施形態において、前記の使用または方法は、本明細書において定義されるような、高い透明度および透明性を併せて前記難燃特性をポリエステルフィルムに与える使用または方法である。
特性測定
【0037】
以下の分析を、本明細書に記載のフィルムを特性評価するために用いた。
(i)光学的透明度は、全光線透過率(TLT)、および標準試験法ASTM D1003に従って、M57D球面ヘイズメーター(Diffusion Systems)を用い、フィルムの合計厚さを通るヘイズ(散乱透過する可視光の%)を測定することによって評価した。
(ii) 透過光学濃度(TOD)は、Macbeth Densitometer TR 927(Dent and Woods Ltd, Basingstoke, UKから入手)を使用して透過モードで測定する。
(iii) L*、a*およびb*色座標値(CIE(1976))、白色度指数および黄色度指数は、Konica Minolta CM3600aなどのASTM D 313の原理に一致する標準色度測定器を使用して測定する。
(iv) 難燃性は、UL94 Vertical Flame Test for Thin Materials(VTM)法によって評価する。200mm x 50mmの試験試料を各フィルム試料から切り取り、ロッドを包んで「円錐」形を形成した。それぞれフィルムサンプルからの5つの試験試料を試験に使用した。試料のコンディショニングはしなかった。ロッドの上端から75mmに線を引いた。接炎の前に、各ロッドの上端はバネクランプによって閉じた状態に保持し、スタンドを用いて試験試料を垂直に保持した。バーナーの炎は20±1mmの青い炎が生じるように調節した。正確な高さを実現するために、プロパンの供給および空気口を絶えず調節することが必要であった。フィルム試料を垂直に保持し、フィルムより10mm下のチューブの底部に炎を45°の角度で当てた。接炎は3秒間であり、フィルムがそれから縮むにつれてバーナーを上に移動させることにより10mmの距離を維持した。3秒後、試料から炎を取り去り、最初の接炎後の燃焼継続時間(秒)を書き留めた(A)。繰り返し3秒の接炎を完了し、第2の接炎後の燃焼継続時間(秒)に加えてグローイング継続時間(秒)を書き留めた(B)。5つの試料すべてについて燃焼継続時間(秒)の合計を書き留める(C)。試験片が125mmの印まで燃えたら、観察Dはyesであった。接炎の間に溶融したポリマーの雫が試料から落ちたら、観察Eはyesであった。接炎の間に保持クランプまで燃えたら、観察Fはyesであった。この試験法について分類を以下のように与える:
【0038】
【表1】
(v) ポリエステルおよびポリエステルフィルムの固有粘度(dL/gの単位で)を、ASTM D5225-98(2003)に従って溶液粘度法によってViscotek(商標)Y-501C Relative Viscometerで(例えば、Hitchcock, Hammons & Yau in American Laboratory(1994年8月)”The dual-capillary method for modern-day viscometry”を参照)、o-クロロフェノール中のポリエステルの0.5質量%溶液を25℃で使用し、Billmeyerの一点法を使用することによって測定して、固有粘度を計算する。
η=0.25η
red+0.75(lnη
rel)/c
式中、
η=固有粘度(dL/g)、
η
rel=相対粘度、
c=濃度(g/dL)、
η
red=還元粘度(dL/g)、これは(η
rel-1)/cと等しく(またη
sp/cとしても表現される)、η
spは比粘度である。
(vi) 極限引張強さ(UTS)、破断伸び(ETB)およびF5値(5%の伸びでの応力)を試験法ASTM D882に従って測定する。直定規および較正した試料切断機(10mm±0.5mm)を使用して機械方向に沿ってフィルムの5つの小片(長さ100mm)を切り取る。Instron model 3111材料試験機を使用し、ゴム製掴み面を有する空気圧作用の掴み具を使用して各試料を試験する。温度(23℃)および相対湿度(50%)を制御する。クロスヘッド速度(分離の速度)は25mm/分である。歪速度は50%である。破断伸び(E
B(%))を次のように定義する。
E
B(%)=(破断伸張/L
0)x100
式中、L
0は掴み具間の試料の元の長さである。
(vii) 加熱封止性を以下のようにフィルムの加熱封止強度を測定することにより評価することができる。各フィルムの加熱封止できる層が互いに接するように、フィルムの試料を一緒に配置する。加熱封止できる層を一緒に配置し140℃で10秒間、275kPa(40psi)の圧力下で加熱することにより、加熱封止を形成する。封止したフィルムを室温に冷却し、線形張力の下、4.23mm/秒の一定速度でフィルムの層を剥離するのに必要な封止の単位幅当たりの力を測定して加熱封止強度を求める。
(viii) 熱収縮は、フィルムの機械および横方向に対して指定の方向に切断し、目視による測定のために印を付けた200mm×10mmの寸法のフィルム試料で評価した。より長い試料寸法(すなわち、200mmの寸法)は、収縮が測定されているフィルム方向に対応する、すなわち、機械方向における収縮の評価では、試験試料の200mmの寸法が、フィルムの機械方向に沿う向きにある。150℃の予め決めた温度に試験片を加熱し(その温度の加熱オーブンに入れることによって)、30分間保った後、室温に冷却し、その寸法を手作業で再測定した。熱収縮は、元の長さの百分率として計算し、表した。
(ix) ガラス転移温度(T
g)および結晶の融点(T
m)は、示差走査熱量測定法(DSC)によってPerkinElmer HyperDSC 8500を使用して測定した。他に明示しない限り、下記標準試験法に従って、ASTM E1356-98に記載の方法を基準にして測定を行った。走査の間、乾燥窒素の雰囲気下に試料を維持した。20ml/分の流速およびAlパンを使用した。20℃から350℃まで試料(5mg)を20℃/分で加熱した。
ASTM E1356-98に記載のように、DSC走査で観察されたガラス転移の外挿立ち上がり温度としてT
gの値を求めた(熱流(W/g)対温度(℃))。T
mの値を転移のピーク吸熱としてDSC走査から求めた。
(x) 上記のDSC分析から、次式に従って計算した結晶化度(X
c)として結晶化度を測定した。
X
c=ΔH
m/ΔH
m
°
式中、
ΔH
m=溶融吸熱の積分から計算した融解エンタルピーの実測値;ΔH
m
°=結晶化度100%の対応するポリ(アルキレン-カルボキシレート)ホモポリマーの融解エンタルピーの理論値。したがって、PET(またはPETベースの)ポリエステルについて、ΔH
m
°は、100%結晶性のPETポリマーの融解エンタルピーの理論値(140J/g)であり、PEN(またはPENベースの)のポリエステルに関しては、ΔH
m
°は、文献(B. Wunderlich, Macromolecular Physics, Academic Press, New York, (1976))において定義されるような100%結晶性のPENポリマーの融解エンタルピーの理論値(103J/g)である。
本発明は、以下の実施例への参照によってさらに説明される。実施例は、上記の本発明の範囲を限定するようには意図されない。
【実施例】
【0039】
従来の合成手順を使用し、表1に示す様々な添加剤を含む一連のPETポリエステル(P1~P7)を調製した。特に断らなければ、表1の量は、生成したポリマーの最終質量に対する質量で与えられる。ポリエステルP1、P2およびP7は、そのIVを上げるために固相重合にかけた。
【0040】
【0041】
(比較例1~4および実施例1~3)
ポリエステルP1、P6およびP7ベースのポリエステルフィルムの第1のシリーズを製造した。前進方向の延伸比は約3.0から3.3までであり;横方向の延伸比は約3.3から3.5までであり;ヒートセットは、約190~約225℃の温度で、好ましくは約225℃の温度を有する最初の帯域、および約190℃の温度を有する最終帯域で行った。押出機バレルの始点に式Iのホスホナート難燃剤をポリエステルにフィルム製作中に添加した。すべての事例において、ホスホナート難燃剤は、式(1)として下記に示す構造を有するFRX Nofia(登録商標)HM1100(FRX Polymers, Inc.から入手可能)であった。
【0042】
【化3】
(1)
表2にフィルム中に存在するホスホナート難燃剤の量を示す。また最終フィルムのヘイズおよびTLT(本明細書に記載のように測定した)を示す。
【0043】
【表3】
表2の結果は、ナトリウムイオンの添加によってFRX Nofia(登録商標)HM1100を含むポリエステルフィルムの光学的性質を著しく改善することを実証する。難燃性に関して比較例2および4、ならびに実施例3を試験した。驚いたことに、実施例3のみが、比較例2および4と同量の難燃剤にもかかわらずVTM-0等級を達成し、ナトリウム塩が難燃性だけでなく光学的性質にとっても重要であることを示す。
【0044】
(実施例4~16)
PETポリエステルP1-P7ベースの第2のシリーズのポリエステルフィルムを製造し、すべての事例において、これらは15質量%のFRX Nofia(登録商標)HM1100を含み、50μmの最終フィルム厚さを有していた。実施例5~16では、アクリル樹脂接着促進層(厚さ<0.5μm)を1つの面に被覆した。フィルムの組成は、本明細書に記載のように測定した性質と共に表3に記載した。
【0045】
結果は、本発明のポリエステルフィルムが思いがけず、UL94試験法でのVTM-0等級の優れた難燃性、ならびに可視領域の低いヘイズおよび高い合計視感透過率の優れた光学的性質を示すことを実証する。
【表4】
(比較例5および実施例17~19)
【0046】
ポリエステルP2ベースの第3のシリーズのナトリウム塩含有フィルムを製造した。これらは、表4に示すように様々な量のFRX Nofia(登録商標)HM1100難燃剤を含有する。
【表5】
結果は、本発明の難燃性ポリエステルフィルムが工業的に有用なレベルの結晶化度を保持することを実証する。
次に、本発明の好ましい態様を示す。
1. ポリエステルフィルムであって、前記フィルムの合計質量に対して約1~約25質量%の量のポリマーホスホナート難燃剤を含み、ナトリウムおよびカリウム金属陽イオンからなる群から選択される少なくとも1種の金属陽イオンをさらに含む、ポリエステルフィルム。
2. 延伸されている、好ましくは二軸延伸フィルムである、上記1に記載のポリエステルフィルム。
3. 前記フィルムの固有粘度が少なくとも約0.70である、上記1または2に記載のポリエステルフィルム。
4. 前記フィルムの合計質量に対して少なくとも約5質量%、好ましくは少なくとも約10質量%、好ましくは少なくとも約12質量%、好ましくは約20質量%以下、好ましくは約18質量%以下の量の前記ホスホナート難燃剤を含む、上記1~3のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
5. 前記ホスホナート難燃剤が式Iのホスホナート難燃剤である、上記1~4のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【化1】
(I)
(式中、
Arは芳香族基であり、-O-Ar-O-は、1個または複数の置換されていてもよいアリール環を有する化合物、例えば、これらに限定されるものではないが、レゾルシノール、ヒドロキノン、およびビスフェノール、例えばビスフェノールA、ビスフェノールF、および4,4’-ビフェノール、フェノールフタレイン、4,4’-チオジフェノール、4,4’-スルフォニルジフェノール、またはこれらの組み合わせ、に由来し、;
Xは、C
1-20
アルキル、C
2-20
アルケン、C
2-20
アルキン、C
5-20
シクロアルキルまたはC
6-20
アリールであり;
nは、1~約100、好ましくは1~約75、好ましくは2~約50の整数、またはこれらの範囲の間の任意の整数である)
6. Xが、C
1-20
アルキル、好ましくはC
1-10
アルキル、好ましくはC
1-5
アルキル、好ましくはメチルから選択される、上記5に記載のポリエステルフィルム。
7. -O-Ar-O-が、ビスフェノールA、ビスフェノールFおよび4,4’-ビフェノール、好ましくはビスフェノールAに由来する、上記5または6に記載のポリエステルフィルム。
8. 前記ホスホナート難燃剤が式IIを有する、上記1~7のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【化2】
(II)
9. 前記ホスホナート難燃剤の質量平均分子量(Mw)が、約10,000~約120,000、好ましくは約50,000~約120,000、好ましくは約80,000~約120,000g/molの範囲にある、上記1~8のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
10. 前記ホスホナート難燃剤が、前記ホスホナート難燃剤の質量に対して少なくとも約5質量%、好ましくは少なくとも約8質量%、好ましくは少なくとも約10質量%、好ましくは約20質量%以下、好ましくは約15質量%以下、好ましくは約12質量%以下のリン含有率を特徴とし、好ましくは約11質量%である、上記1~9のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
11. 前記ホスホナート難燃剤のガラス転移温度(Tg)が、約95~約120℃の範囲、好ましくは約110~約110℃の範囲にある、上記1~10のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
12. 前記フィルム中に存在する前記金属陽イオンの量が、ポリエステルの量に対して少なくとも10ppm、好ましくは約1000ppm以下であり、および/または前記金属陽イオンが、水酸化物イオン、ポリアクリル酸イオン、炭酸水素イオン、カルボン酸イオン、塩化物イオン、酢酸イオン、ギ酸イオンおよび硝酸イオンから選択される対陰イオンとの塩の形態で存在する、上記1~11のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
13. UL94試験法においてVTM-0等級を示す、上記1~12のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
14. 二軸延伸フィルムであり、および/または前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタラートである、上記1~13のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
15. 前記フィルムが製作される前記ポリエステルの固有粘度が少なくとも0.65、かつ0.85以下である、上記1~14のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
16. フィルム厚さが、約250μm以下、好ましくは約150μm以下、好ましくは約100μm以下、好ましくは75μm以下、好ましくは50μm以下、かつ好ましくは少なくとも約5μm、好ましくは少なくとも約10μmである、上記1~15のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
17. 透明なフィルムであり、前記フィルムのヘイズが、約8%以下、好ましくは約5%以下、好ましくは約4%以下、好ましくは約3%以下、好ましくは約2%以下、好ましくは約1%以下であり、および/または可視領域の前記フィルムの全光線透過率が、少なくとも約85%、好ましくは少なくとも約88%、好ましくは少なくとも約90%、好ましくは少なくとも約92%である、上記1~16のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
18. 白色度指数が少なくとも85であり、および/または前記フィルムのL*値が少なくとも90であり、および/または前記フィルムの透過光学濃度が少なくとも約0.5である、上記1~16のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
19. 単層ポリエステルフィルムである、上記1~18のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
20. 前記フィルムが、接着促進層、好ましくはアクリル樹脂で被覆されている、上記1~19のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
21. 前記ホスホナート難燃剤が、前記ポリエステルと少なくとも部分的に共重合され、好ましくはブロックコポリマーの形態である、上記1~20のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
22. 20%~50%の範囲の結晶化度を示す半結晶性フィルムである、上記1~21のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
23. 前記フィルムの縦および横の寸法両方において、150℃、30分間で5%未満の収縮を示す、上記1~22のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
24. 前記フィルムの縦および横方向のそれぞれにおいて少なくとも15kg/mm
2
の極限引張強さ(UTS)および/または前記フィルムの縦および横方向のそれぞれにおいて少なくとも130%の破断伸び(ETB)を示す、上記1~23のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
25. ポリエステルフィルムにおける、前記ポリエステルフィルムに難燃性を与えるかまたは前記ポリエステルフィルムの難燃性を改善するための、ポリマーホスホナート難燃剤ならびにI族およびII族金属陽イオンからなる群から選択される少なくとも1種の金属陽イオンの使用であって、前記ポリエステルフィルムは、前記フィルムの合計質量に対して約1.0~約25.0質量%の量の前記ポリマーホスホナート難燃剤を含む、使用。
26. ポリエステルフィルムに難燃性を与えるかまたはポリエステルフィルムの難燃性を改善する方法であって、前記フィルム中に、前記フィルムの合計質量に対して約1.0~約25.0質量%の量のポリマーホスホナート難燃剤、ならびにI族およびII族金属陽イオンからなる群から選択される少なくとも1種の金属陽イオンの組み合わせを供給するステップを含む、方法。
27. 前記ポリエステルフィルムに難燃性を与えるかまたは前記ポリエステルフィルムの難燃性を改善するための前記使用または方法が、前記ポリエステルフィルムにUL94試験法のVTM-0等級を与える使用または方法である、上記25に記載の使用または上記26に記載の方法。
28. 前記ポリマーホスホナート難燃剤および/または前記少なくとも1種の金属陽イオンおよび/または前記ポリエステルフィルムが、上記1~24のいずれかに記載の通りである、上記25、26もしくは27に記載の使用または方法。