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特許7041793シリコーンゲル組成物及びシリコーンゲルシート
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  • 特許-シリコーンゲル組成物及びシリコーンゲルシート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】シリコーンゲル組成物及びシリコーンゲルシート
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20220316BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20220316BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20220316BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220316BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K5/01
C08K3/013
C08K9/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021561851
(86)(22)【出願日】2021-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2021014461
【審査請求日】2021-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2020115156
(32)【優先日】2020-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237422
【氏名又は名称】富士高分子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】片石 拓海
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕子
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/071137(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/009007(WO,A1)
【文献】特開2016-053107(JP,A)
【文献】特開2008-214497(JP,A)
【文献】特開2001-348483(JP,A)
【文献】特開2008-056761(JP,A)
【文献】特開2001-214101(JP,A)
【文献】特開2002-020391(JP,A)
【文献】特開平05-279687(JP,A)
【文献】国際公開第2013/162738(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A 付加反応硬化が可能なオルガノポリシロキサン:100質量部
B 1分子中にアルケニル基を1つ有する不飽和炭化水素化合物:0.01~10質量部
C 付加反応硬化触媒:触媒量
と、熱伝導性フィラーを含み、
前記不飽和炭化水素化合物は、室温(25℃)で液状であり、100℃で揮発又は分解しないα-オレフィンおよびα-メチルスチレンから選ばれる少なくとも1種であり、
熱硬化温度が70~150℃であることを特徴とするシリコーンゲル組成物。
【請求項2】
前記不飽和炭化水素化合物は、1-デセンである請求項に記載のシリコーンゲル組成物。
【請求項3】
前記A成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の数と前記B成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の数の合計に対する、前記A成分中のケイ素原子に結合したSi-H基の数の比が、0.5以上2.0以下である、請求項1又は2に記載のシリコーンゲル組成物。
【請求項4】
前記A成分は、下記A1およびA2を含み、A2は、A2-1およびA2-2の両方を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のシリコーンゲル組成物。
A1 1分子中にアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン
A2 1分子中にSi-H基を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
A2-1 1分子中にSi-H基を2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
A2-2 1分子中にSi-H基を3個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【請求項5】
前記A1成分100重量部に対して、
前記A2-1成分を50~300質量部、
前記A2-2成分を0.1~100質量部含む、請求項に記載のシリコーンゲル組成物。
【請求項6】
前記A1が、分子鎖の両末端がビニル基の直鎖状ジメチルポリシロキサンである、請求項又はに記載のシリコーンゲル組成物。
【請求項7】
前記熱伝導性フィラーは、A成分を100質量部としたとき、400~3000質量部の割合で含む請求項1に記載のシリコーンゲル組成物。
【請求項8】
前記熱伝導性フィラーは、平均粒子径の異なった少なくとも2種類の熱伝導性フィラーである請求項1又はに記載のシリコーンゲル組成物。
【請求項9】
前記熱伝導性フィラーの少なくとも1種類の熱伝導性フィラーは、RaSi(OR')4-a(但し、Rは炭素数8~12の非置換又は置換有機基、R'は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で表面処理されている請求項に記載のシリコーンゲル組成物。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項のシリコーンゲル組成物をシート成形し硬化したシートであることを特徴とするシリコーンゲルシート。
【請求項11】
前記シリコーンゲルシートを厚さが60%となるように圧縮し、80℃雰囲気下24時間放置後のオイルブリード率が0.5%以下である、請求項10に記載のシリコーンゲルシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゲル組成物及びシリコーンゲルシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のCPU等の半導体の性能向上はめざましくそれに伴い発熱量も膨大になっている。そのため発熱するような電子部品には放熱体が取り付けられ、例えば、半導体と放熱体との密着性を改善する為に熱伝導性シリコーンゲルシートが使われている。従来の熱伝導性シリコーンのゲル状硬化物は、組成物中のアルケニル基とSi-H基の割合を偏らせることで未反応部分を残し、ゲル状の硬化物を実現していた。しかし、アルケニル基とSi-H基の割合を偏らせてゲル状の硬化物とすると、原料の未反応オイルが硬化物中に残ってしまい、オイルブリードの原因となっていた。
【0003】
特許文献1には、低弾性かつ低応力であり、経時でのオイルブリードが防止された組成物が提案されている。具体的には、1分子中にケイ素に結合したアルケニル基を少なくとも1個有するオルガノポリシロキサン(A成分)100質量部に対して、1分子中にケイ素に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B成分)を少なくとも15重量部配合し、かつ、A成分中のケイ素原子結合アルケニル基1個に対するB成分中のケイ素原子結合水素原子が0.3~2.5個に設定された組成物が提案されている。
【0004】
特許文献2には、熱伝導性充填剤を高充填しても、低硬度で、オイルブリードが低減された硬化物を提供できる、シリコーン組成物が提案されている。具体的には、ベースポリマーとして、1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有する直鎖状のポリオルガノシロキサン(A1)と脂肪族不飽和結合を有しない分岐状のシリコーンレジン(A2)とを所定の割合で含み、R2Si(OSiR3 2H)3(式中、R2は炭素原子数1~4のアルキル基またはフェニル基、R3は炭素原子数1~4のアルキル基である。)で表されるポリオルガノハイドロジェンシロキサンを、前記A1のケイ素原子結合アルケニル基1個に対して、SiH基の個数が0.3~1.5個となる量含む、シリコーン組成物が提案されている。
【0005】
特許文献3には、シリコーンオイルやオリゴマー等の液体成分のブリードアウト量が少ない熱伝導性シリコーンシートが提案されている。具体的には、前記熱伝導性シリコーンシートは、1分子中に平均2個以上かつ分子鎖両末端のケイ素に結合したアルケニル基を含有する直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)と、脂肪族不飽和結合を有しない分岐状のシリコーンレジンと、R2Si(OSiR3 2H)3(式中、R2は炭素原子数1~4のアルキル基またはフェニル基、R3は炭素原子数1~4のアルキル基である。)で表される架橋成分と、を含む組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-344106号公報
【文献】特開2007-154098号公報
【文献】特開2015-90897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、A成分中のケイ素原子結合アルケニル基1個に対するB成分中のケイ素原子結合水素原子数を1.05とした低オイルブリードの組成物が提案されているが、このような組成物を用いてシリコーンゲルシートを作製した場合、シート(硬化物)が硬くなってしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、柔軟性を発現でき、且つ、オイルブリードも少ないシリコーンゲル硬化物の提供を可能とするシリコーンゲル組成物、及びシリコーンゲルシートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシリコーンゲル組成物は、下記A~Cを含む。
A 付加反応硬化が可能なオルガノポリシロキサン:100質量部
B 1分子中にアルケニル基を1つ有する不飽和炭化水素化合物:0.01~10質量部
C 付加反応硬化触媒:触媒量
【0010】
本発明のシリコーンゲルシートは、前記シリコーンゲル組成物をシート成形し硬化したシートである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、1分子中にアルケニル基を1つ有する不飽和炭化水素化合物を含むことにより、柔軟性を発現でき、オイルブリードも少ないシリコーンゲル硬化物の提供を可能とするシリコーンゲル組成物、及びシリコーンゲルシートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1A-Bは本発明の一実施例における試料の熱伝導率の測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
オルガノポリシロキサンにおけるアルケニル基とSi-H基の割合を偏らせることによりゲルを柔らかくすることは可能であるが、その場合は、オイルブリードが増えてしまう。オルガノポリシロキサンにおけるアルケニル基とSi-H基の割合の偏りを小さくし、シリコーンゲル硬化物が柔軟性を発現できるように、分子中にアルケニル基を一つだけ有するシリコーンオイルを分子量調整剤として添加することが考えられる。しかし、この場合は、分子量調整剤を多量に添加する必要があり、当該分子量調整剤は、入手が難しく、コスト増加の原因となる。
本発明では、安価で、比較的入手が容易な、1分子中にアルケニル基を1つ有する不飽和炭化水素化合物(B成分)の少量の使用で、柔軟性を発現でき、且つ、オイルブリードも少ないシリコーンゲル硬化物を提供できる。
【0014】
本発明の特徴的要件であるB成分について説明する。B成分は、1分子中にアルケニル基を1つ有する不飽和炭化水素化合物である。前記不飽和炭化水素化合物は、室温(25℃)で液状であり、100℃で揮発又は分解しないα-オレフィンが好ましい。室温(25℃)で液状であればA成分と室温で混合できる。100℃で揮発又は分解しなければ、硬化時にA成分と硬化し、シリコーンゲルに取り込まれる。すなわち、前記α-オレフィンは不飽和結合の部分がA成分のSi-H基と付加反応することでA成分と硬化する。これにより、未反応のアルケニル基及びSi-H基を極力残さずに硬化させても柔軟な硬化物とすることでき、オイルブリードの少ないゲル状硬化物を実現できる。前記不飽和炭化水素化合物は、1-デセンなどのα-オレフィン及びα-メチルスチレンのうちの少なくとも1種が好ましい。また、前記不飽和炭化水素化合物は、1-デセンなどのα-オレフィン又はα-メチルスチレンが好ましい。特に、α-オレフィンがより望ましい。1-デセンは下記(化1)で示され、融点:-66.3℃、沸点:172℃である。α-メチルスチレンは下記(化2)で示され、融点:-23~-24℃である。
【0015】
【化1】
【0016】
【化2】
【0017】
B成分は、A成分100質量部に対して0.01~10質量部、好ましくは0.1~5質量部含む。0.01質量部未満では分子量調整の効果が期待できず、10質量部を超えると耐熱性の低下に繋がる可能性がある。B成分を添加することで硬化反応後のシリコーンゲルの分子量を小さくすることができる。B成分は反応点を1つしか持たないため、例えば2つの反応基を有するポリマーにB成分が二つ反応すると、その分子はそれ以上分子量を増やすことが出来なくなる。また、分子量が大きくなりすぎると、硬化物が硬くなってしまうため、硬化物の硬さを下げるためにB成分を添加する。
【0018】
次に本発明のシリコーンゲル組成物について説明する。この組成物は下記A~Cを含む。
A 付加反応硬化が可能なオルガノポリシロキサン:100質量部
B 1分子中にアルケニル基を1つ有する不飽和炭化水素化合物:0.01~10質量部
C 付加反応硬化触媒:触媒量
【0019】
前記A成分は、一例を挙げると次のとおりである。
A1 1分子中にアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン
A2 1分子中にSi-H基を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
前記A1,A2が、市販品である場合は、各々、A液、B液として扱われており、A液、B液の一方又は双方には、前記C成分である付加反応硬化触媒(例えば、白金触媒)が含まれている。
【0020】
前記A成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の数と前記B成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の数の合計に対する、前記A成分中のケイ素原子に結合したSi-H基の数の比は、好ましくは0.5以上2.0以下であり、より好ましくは0.7以上1.5以下であり、未反応のSi-H基、及びアルケニル基を少なくするため、即ち、組成物における、オルガノポリシロキサンのアルケニル基とSi-H基の割合の偏りがない状態とするため、さらに好ましくは0.9以上1.1以下である。
【0021】
前記A1成分は、1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンであり、本発明のシリコーンゲル組成物における主剤(ベースポリマー成分)である。このオルガノポリシロキサンは、アルケニル基として、ビニル基、アリル基等の炭素原子数2~8、特に2~6の、ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に2個以上有する。このオルガノポリシロキサンは直鎖状であることが望ましく、アルケニル基の位置としては分子鎖の両末端が望ましい。粘度は25℃で10~100,000mPa・s、特に100~10,000mPa・sであることが作業性、硬化性などから望ましい。前記成分A1の動粘度は、作業性、硬化性が良いという理由から、好ましくは10~10000mm2/sであり、より好ましくは50~1000mm2/sであり、さらに好ましくは60~500mm2/sである。動粘度はメーカーカタログ等に記載されているが、ウベローデ粘度計により測定した25℃における動粘度である。1分子中のケイ素原子の数(即ち、重合度)は、例えば1~1350、好ましくは150~300程度のものを使用することができる。なお、このオルガノポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。
【0022】
A1成分中のアルケニル基以外の置換基は同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、例えば、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、並びに、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基、シアノエチル基等が挙げられる。
【0023】
A1成分中のアルケニル基は、例えば炭素原子数2~6、特に2~3のものが好ましく、具体的にはビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。
【0024】
前記A2成分は、1分子中にSi-H基を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであるが、1分子中に2個のSi-H基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(A2-1成分)と、1分子中にSi-H基を3個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(A2-2成分)の両方を含んでいると好ましい。これらの配合量は、未反応のSi-H基、及びアルケニル基を少なくする観点から、A1成分100質量部に対して、A2-1成分が50~300質量部であると好ましく、A2-2成分が0.1~100質量部であると好ましく、0.1~30質量部がより好ましい。
【0025】
前記A2-1成分の分子構造は直鎖状であることが望ましく、Si-H基の位置としては分子鎖の両末端が望ましい。一分子中のケイ素原子の数(即ち、重合度)は2~1,000、特に2~300程度のものを使用することができる。水素原子以外のケイ素原子に結合した有機基としては、脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基が挙げられ、例えば、炭素原子数1~10、特に1~6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、並びに、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの 、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基等のハロゲン置換アルキル基、シアノエチル基等が挙げられる。A2-1成分の動粘度は、作業性、硬化性が良いという理由から、好ましくは2~10000mm2/sであり、より好ましくは10~2000mm2/sであり、さらに好ましくは50~1000mm2/sである。
【0026】
A2―2成分の分子構造は直鎖状であることが望ましい。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては下記構造のものが例示できる。
【0027】
【化3】
【0028】
上記の式中、R6は互いに同一又は異種の水素、アルキル基、フェニル基、エポキシ基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アルコキシ基であり、少なくとも3つは水素である。Lは0~1,000の整数、特には0~300の整数であり、Mは1~200の整数である。A2―2成分の動粘度は、作業性、硬化性が良いという理由から、好ましくは20~10000mm2/sであり、より好ましくは10~2000mm2/sであり、さらに好ましくは50~1000mm2/sである。
【0029】
シリコーンゲル組成物には、必要に応じて硬化遅延剤を加えてもよい。硬化遅延剤としてはエチニルシクロヘキサノールなどがある。硬化遅延剤は、A成分100質量部に対して0.001~0.1質量部加えるのが好ましい。
【0030】
付加反応硬化触媒(C成分)は、本組成物の硬化を促進させる触媒成分である。C成分としては、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒を用いることができる。例えば白金黒、塩化第2白金酸、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類やビニルシロキサンとの錯体、白金ビス(アセチルアセトナト)等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属触媒が挙げられる。C成分の配合量は、硬化に必要な量であればよく、所望の硬化速度などに応じて適宜調整することができる。A1およびA2成分の合計に対して金属原子重量として0.01~1000ppm添加するのが好ましい。
【0031】
本発明のシリコーンゲル組成物に熱伝導性を付与する場合は、熱伝導性フィラー(熱伝導性粒子ともいう)をさらに含むことが好ましい。熱伝導性粒子は、アルミナ(酸化アルミニウム)、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム、親水性ヒュームドシリカ以外のシリカなどの無機粒子が好ましい。これらの無機粒子は、単独でも複数種類組み合わせて添加してもよい。この中でもアルミナ(酸化アルミニウム)は安価なことから好ましい。熱伝導性粒子の形状は球状,鱗片状,多面体状、破砕状等様々なものを使用できる。熱伝導性粒子の比表面積は0.06~15m2/gの範囲が好ましい。比表面積はBET比表面積であり、測定方法はJIS R1626にしたがう。平均粒子径は、0.1~100μmの範囲が好ましい。平均粒子径の測定はレーザー回折光散乱法により、体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)を測定する。この測定器としては、例えば堀場製作所社製のレーザー回折/散乱式粒子分布測定装置LA-950S2がある。
【0032】
前記熱伝導性フィラーは、A成分100質量部に対し、400~3000質量部加えるのが好ましい。熱伝導性フィラーのより好ましい添加量は500~3000質量部であり、さらに好ましくは600~3000質量部である。これにより本発明の硬化後のシリコーンゲルの熱伝導率を1W/m・K以上にできる。
【0033】
熱伝導性粒子は平均粒子径が異なる少なくとも2つの無機粒子を併用してもよい。このようにすると大きな粒子径の間に小さな粒子径の熱伝導性無機粒子が埋まり、最密充填に近い状態で充填でき、熱伝導性が高くなるからである。
【0034】
本発明で使用する熱伝導性粒子は一部または全部がシランカップリング剤で表面処理されていてもよい。シランカップリング剤は予め熱伝導性粒子と混合して前処理してもよく、マトリックス樹脂(A成分及びB成分)と熱伝導性粒子を混合する際に添加してもよい(インテグラルブレンド法)。インテグラルブレンド法の場合には、本発明のシリコーンゲル組成物に使用される表面処理されていない熱伝導性粒子100重量部に対し、シランカップリング剤を0.01~10重量部添加するのが好ましい。表面処理することでマトリックス樹脂に充填されやすくなる。
【0035】
熱伝導性粒子は、RaSi(OR’)4-a(Rは炭素数1~20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるシラン化合物、もしくはその部分加水分解物、もしくはアルコキシ基含有シリコーン(以下シランカップリング剤ともいう)で表面処理されていてもよい。前記シランカップリング剤は、一例としてオクチルトリメトキシシラン,オクチルトリエトキシシラン,デシルトリメトキシシラン,デシルトリエトキシシラン,ドデシルトリメトキシシラン,ドデシルトリエトキシシラン等のシラン化合物がある。前記シランカップリング剤は、一種又は二種以上混合して使用することができる。表面処理剤として、アルコキシシランと片末端シラノールシロキサンや片末端トリメトキシシリルポリシロキサンを併用してもよい。ここでいう表面処理とは共有結合のほか吸着なども含む。熱伝導性粒子を表面処理すると、硬化触媒が熱伝導性粒子に吸着することを防ぎ、硬化阻害を防止する効果がある。これは保存安定性の向上に有用である。
【0036】
本発明の熱伝導性シリコーンゲルシートの熱伝導率は1~5W/m・Kが好ましく、より好ましくは1.2~4.5W/m・Kであり、さらに1.5~4W/m・Kである。熱伝導率は後に説明するホットディスク法(ISO/CD 22007-2準拠)で測定する。
【0037】
本発明の熱伝導性シリコーンゲルシートのAsker C硬さは3~70が好ましく、より好ましくは5~60であり、さらに好ましくは5~30である。Asker C硬さはJIS K 7312に従って測定する。
【0038】
本発明の熱伝導性シリコーンゲルシートをポリテトラフルオロエチレンろ紙で挟んで厚さが60%となるように圧縮し、80℃雰囲気下24時間放置後の前記ろ紙重量の変化から算出されるオイルブリード率は、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.4%以下である。前記オイルブリード率は、実施例に記載の方法により求めることができる。
【0039】
本発明の熱伝導性シリコーンゲルシートの製造方法は、前記組成物を均一に混合し、シート成形し、熱硬化する。シート成形は、前記組成物をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに挟んで圧延する方法が好ましい。シートの厚さは0.1~5.0mmが好ましい。熱硬化は、温度70~150℃で、10~120分間熱処理することで行うのが好ましい。
【0040】
本発明の組成物には、必要に応じて前記以外の成分を配合することができる。例えばベンガラ、酸化チタン、酸化セリウムなどの耐熱向上剤、難燃助剤などを添加してもよい。着色、調色の目的で有機或いは無機粒子顔料を添加しても良い。
【実施例
【0041】
以下実施例を用いて説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。各種パラメーターについては下記の方法で測定した。
【0042】
<硬さ>
JIS K 7312に規定されているAsker C硬さを測定した。
<オイルブリード率>
オイルブリード率は、幅25mm、長さ25mm、厚さ3.0mmのシリコーンゲルシートをPTFEろ紙で挟み、厚さが1.8mmになるよう圧縮し、80℃雰囲気下、24時間放置してPTFEろ紙に吸着したオイルをブリードオイルとし、下記式により算出した。
オイルブリード率=(試験後ろ紙重量‐試験前ろ紙重量)÷試験前シリコーンゲルシート重量×100
【0043】
<熱伝導率>
熱伝導率は、ホットディスク(ISO/CD 22007-2準拠)により測定した。この熱伝導率測定装置1は図1Aに示すように、ポリイミドフィルム製センサ2を2個の試料3a,3bで挟み、センサ2に定電力をかけ、一定発熱させてセンサ2の温度上昇値から熱特性を解析する。センサ2は先端4が直径7mmであり、図1Bに示すように、電極の2重スパイラル構造となっており、下部に印加電流用電極5と抵抗値用電極(温度測定用電極)6が配置されている。熱伝導率は以下の式(数1)で算出する。
【数1】
【0044】
(実施例1)
(1)A成分
市販の付加反応硬化型2液硬化シリコーンゲル(ダウ・東レ社製、品番 CY52-276、A液とB液で構成され、硬化触媒(C成分)がA液に含まれており、本発明のA1,A2,C成分を充足する。):A液およびB液各50g、計100g
(2)B成分
不飽和炭化水素として1-デセン:0.5g
(3)熱伝導性粒子
(i)不定形アルミナ、平均粒子径0.3μm、オクチルトリメトキシシラン表面処理品(D1):51g
(ii)破砕状アルミナ、平均粒子径2.1μm、デシルトリメトキシシラン表面処理品(D2):657g
(iii)球状アルミナ、平均粒子径20μm、表面処理なし品(D4):556g
上記成分を混合し、得られた組成物をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに挟んで厚さ3.0mmに圧延することでシート成形し、温度100℃で10分間硬化した。
以上のようにして得た硬化シートを評価した。
【0045】
(実施例2)
不飽和炭化水素として1-デセンに代えてα-メチルスチレンを1gとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0046】
(実施例3)
(1)A成分
(i)分子鎖の両末端に各1個のビニル基を有し、動粘度が350mm2/sの直鎖状ジメチルポリシロキサン:31.56g
(ii)1分子中にSi-H基を2個有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン:67.86g、動粘度1,000mm2/s
(iii)1分子中にSi-H基を3個以上有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.58g 動粘度30mm2/s
(2)B成分
不飽和炭化水素として1-デセン:1g
(3)熱伝導性粒子
(i)球状アルミナ、平均粒子径2μm、表面処理なし品(D3):150g
(ii)球状アルミナ、平均粒子径75μm、表面処理なし品(D5):400g
(4)白金触媒:0.3g
(5)硬化遅延剤、エチニルシクロヘキサノール:0.02g
混合、成形、硬化は実施例1と同様に実施した。
実施例3の組成物における、A成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の数とB成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の数の合計に対する、A成分中のケイ素原子に結合したSi-H基の数の比(Si-H基数/アルケニル基数)は1.1であった。
【0047】
(実施例4)
A成分の各成分の配合量を変え、および不飽和炭化水素として1-デセンに代えてα-メチルスチレンを1gとした以外は実施例3と同様に実施した。
実施例4の組成物における、A成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の数とB成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の数の合計に対する、A成分中のケイ素原子に結合したSi-H基の数の比(Si-H基数/アルケニル基数)は1.1であった。
【0048】
(比較例1~5)
表2に示す条件で実施した。
比較例5の組成物における、A成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の数とB成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の数の合計に対する、A成分中のケイ素原子に結合したSi-H基の数の比(Si-H基数/アルケニル基数)は 1.1 であった。
以上の結果を下記の表1~2にまとめて示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
以上の結果から、次のことがわかる。
(1)実施例1,2と比較例1から、不飽和炭化水素が硬さ低下に効果的であることがわかる。
(2)実施例1,2と比較例2,3,4から、片末端ビニルポリシロキサンやジメチルポリシロキサンよりも、不飽和炭化水素は少量で硬さを下げることができる。とくに、実施例1と比較例3より、1-デセンは片末端ビニルポリシロキサンやジメチルポリシロキサンの1/4の量で同じくらいの効果がある。
(3)実施例3,4、および比較例5は、未反応のSi-H基、及びビニル基を極力なくすよう硬化させた配合のシリコーンゲルシートである。実施例3,4と比較例5の比較から分かるように、不飽和炭化水素を用いれば、片末端ビニルポリシロキサンを用いる場合に比べ、非常に少量の添加でゲル状を実現できる。とくに実施例4(不飽和炭化水素1g添加)と比較例5(片末端ビニルポリシロキサン24.6g添加)は、同じ硬さであるが、実施例4における不飽和炭化水素の添加量は少量であった。
以上のとおり、実施例1~4は少量のB成分の添加で柔軟性を発現できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の熱伝導性シリコーンゲル組成物及びそれを用いて成形されたシリコーンゲルシートは、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させるのに好適である。
【符号の説明】
【0053】
1 熱伝導率測定装置
2 センサ
3a,3b 試料
4 センサの先端
5 印加電流用電極
6 抵抗値用電極(温度測定用電極)
【要約】
本発明のシリコーンゲル組成物は、下記A~C成分を含む。A:付加反応硬化が可能なオルガノポリシロキサン:100質量部、B:1分子中にアルケニル基を1つ有する不飽和炭化水素化合物:0.01~10質量部、C:付加反応硬化触媒:触媒量。前記不飽和炭化水素化合物は、好ましくは、室温(25℃)で液状であり、100℃で揮発又は分解しないα-オレフィンおよびα-メチルスチレンから選ばれる少なくとも1種である。本発明のシリコーンゲルシートは、前記シリコーンゲル組成物をシート成形し硬化したシートである。
図1