(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器、空間測定誤差検出方法、及び、補正方法、光学式三次元形状測定装置、光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差校正方法、並びに、光学式三次元形状測定装置のプロービング性能検査用平面標準器
(51)【国際特許分類】
G01B 11/24 20060101AFI20220317BHJP
【FI】
G01B11/24 D
(21)【出願番号】P 2020098970
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2021-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】503249810
【氏名又は名称】株式会社XTIA
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【氏名又は名称】村上 浩之
(72)【発明者】
【氏名】興梠 元伸
(72)【発明者】
【氏名】今井 一宏
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-207300(JP,A)
【文献】特開2010-210372(JP,A)
【文献】特開2003-302202(JP,A)
【文献】特開2003-329402(JP,A)
【文献】特開2016-102755(JP,A)
【文献】特開2018-63243(JP,A)
【文献】特表2019-507885(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111127565(CN,A)
【文献】中国実用新案第209166380(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第106887022(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0188380(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0096485(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光コム距離計から測定対象物に照射する測定光を走査することにより、非接触で物体の三次元形状を測定する光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器であって、
複数の検査球と、
上記検査球が2次元に配列される基板と
を備え、
上記検査球は、所定の直径に真球加工され、上記直径より短い深さのねじ穴と有する鋼球からなり、表面に窒化チタン膜が成膜されており、
上記基板は、上記ねじ穴に螺合する螺子が貫通される貫通孔が2個以上形成され、貫通孔の上部で検査球と接する面に面取り加工が施されており、
上記複数の検査球は、2次元に配列され、それぞれ上記基板の面取り加工部に接触した状態で該基板の裏側から螺子止め固定されており、
上記複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の少なくとも1つが既知である
ことを特徴とする光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器。
【請求項2】
上記検査球は、弾発素子により所定の押圧力で上記基板の面取り加工部に押圧される状態で螺子止め固定されていることを特徴とする請求項1に記載の光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器。
【請求項3】
上記複数の検査球は、3mm~6.8mm内の所定の直径を有し、3mm~6.8mm内の所定のピッチで2次元に配列されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器。
【請求項4】
上記複数の検査球は、JIS規格検査で使用する区間だけ選定された球間距離位置に2次元に配列されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器。
【請求項5】
上記複数の検査球は、上記基板の表面に2次元方向にそれぞれ最大長さが26.4mm以上40mm以下で5つの異なる検査用長さの少なくとも1つに対応する球間距離位置に2次元に配列されていることを特徴とする請求項4に記載の光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器。
【請求項6】
上記複数の検査球は、対角方向にそれぞれ最大長さが42.3mm以上64mm以下で5つの異なる検査用長さの少なくとも1つに対応する球間距離位置に2次元に配列されていることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器。
【請求項7】
上記複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度、直径の校正値または公称値または設計値が明らかになっていることを特徴とする請求項6に記載の光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器。
【請求項8】
光コム距離計から測定対象物に照射する測定光を走査することにより、非接触で物体の三次元形状を測定する光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検出方法であって、
被検査光学式三次元形状測定装置により、請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器を測定対象物として三次元形状測定を行い、測定結果として得られる複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報と予め校正されている上記複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報との少なくとも1つ差分を上記被検査光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差として検出する
ことを特徴とする光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検出方法。
【請求項9】
光コム距離計から測定対象物に照射する測定光を走査することにより、非接触で物体の三次元形状を測定する光学式三次元形状測定装置の補正方法であって、
被補正光学式三次元形状測定装置により、請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の光空間測定誤差検査器を測定対象物として複数の高さ位置に置いて、三次元形状測定を行い、各高さ位置における測定結果として得られる複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報と予め校正されている上記複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報との少なくとも1つ差分を上記被補正光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差として検出して補正データを取得する
ことを特徴とする光学式三次元形状測定装置の補正方法。
【請求項10】
請求項8に記載された光学式三次元形状測定装置の補正方法により取得された補正データに基づいて、測定対象物に照射する測定光を走査する光学系の歪みの空間分布を補正する補正手段を備えることを特徴とする光学式三次元形状測定装置。
【請求項11】
請求項9に係る補正済みの光学式三次元形状測定装置を被検査光学式三次元形状測定装置として、補正データの取得に用いた空間測定誤差検査器とは別の請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の光学式三次元形状測定装置の光空間測定誤差検査器を測定対象物として三次元形状測定を行い、測定結果として得られる上記複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報と予め校正されている上記複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報との少なくとも1つ差分を上記被検査光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差として検出する
ことを特徴とする光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差校正方法。
【請求項12】
光コム距離計から測定対象物に照射する測定光を走査することにより、非接触で物体の三次元形状を測定する光学式三次元形状測定装置のプロービング性能検査用平面標準器であって、
精密研磨されたセラミック平面に窒化チタン膜が成膜されてなることを特徴とする光学式三次元形状測定装置のプロービング性能検査用平面標準器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光コム距離計から測定対象物に照射する測定光を走査することにより、非接触で物体の三次元形状を測定する光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器、空間測定誤差検出方法、及び、補正方法、光学式三次元形状測定装置、光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差校正方法、並びに、光学式三次元形状測定装置のプロービング性能検査用平面標準器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、精密なポイントの距離計測が可能な距離計測方法として、レーザ光を利用する光学原理による距離計測が知られている。レーザ光を用いて対象物体までの距離を測定するレーザ距離計ではレーザ光の発射時刻と、測定対象に当たり反射してきたレーザ光を受光素子にて検出した時刻との差に基づいて、測定対象物までの距離が算出される(たとえば特許文献1参照)。また、例えば、半導体レーザの駆動電流に三角波等の変調をかけ、対象物での反射光を半導体レーザ素子の中に埋め込まれたフォトダイオードを使用して受光し、フォトダイオード出力電流に現れた鋸歯状波の主波数から距離情報を得ている。
【0003】
ある点から測定点までの絶対距離を高精度で測定する装置としてレーザ距離計が知られている。たとえば、特許文献1には、基準光の干渉信号と測定光の干渉信号の時間差から距離を測定する距離計が記載されている。
【0004】
従来の絶対距離計では、長い距離を高精度で測れる実用的な絶対距離計を実現することが難しく、高い分解能を得るためにはレーザ変位計のように原点復帰が必要なため絶対距離測定に適さない方法しか手段がなかった。
【0005】
本件発明者等は、基準面に照射される基準光と測定面に照射される測定光との干渉光を基準光検出器により検出するとともに、上記基準面により反射された基準光と上記測定面により反射された測定光との干渉光を測定光検出器により検出して、上記基準光検出器と測定光検出器により得られる2つ干渉信号の時間差から、上記基準面までの距離と上記測定面までの距離の差を求めることにより、高精度で、しかも短時間に行うことの可能な光コム距離計及び距離測定方法並びに光学的三次元形状測定装置を先に提案している(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
光学的三次元形状測定装置では、光コム距離計から出射された測定光を1次元又は2次元に走査するガルバノミラーやポリゴンミラー等の走査光学系を介して測定対象物に照射して、測定対象物で反射された測定光の反射光が走査光学系を介して戻される光コム距離計により、測定面までの距離情報として測定面の三次元形状情報を取得するので、測定対象物付近の仮想平面に対して垂直な方向から測定対象物に測定光を照射するために、テレセントリックf-θレンズ等によるテレセントリック光学系による光学スキャナが使用されている。
【0007】
従来、二次元スキャンの光学スキャナの補正は、一般的に、三次元座標が校正された校正用基準器を使用して、次のようにして行われている。
【0008】
図24に示すように、校正用基準器200の格子点の座標を(X
Gi,Y
Gj,Z
Gk)とする。平面に格子状に座標を作製した基準器であればX
Gi,Y
GjはXY基準器の座標、Z
Gkは基準器を設置した高さである。Z基準平面になる面にXY座標が識別できる加工を施したものでも良い。またはZ基準平面とXY基準器を別に用意してもよい。Z基準平面とXY基準器が別の場合であっても、それぞれ同じ条件で計測すれば、スキャナ側から見た座標(X
i,Y
j,Z
k)と校正用基準器の格子点の座標(X
i,Y
j,Z
k)の関係を求めることができる。ここで、X
i,Y
jはスキャナが想定しているXY座標、Z
kは形状計測器が出力する補正前の高さの値である。
【0009】
まず複数の高さでXY基準器を測定して、スキャナが想定するXY座標(Xi,Yj)と校正用基準器の格子点の座標のZ依存性(Xi,Yj,Zk)を得る。
次にZ基準平面を測定するとスキャナ側から見た座標(高さ分布)(Xi,Yj,Zk)とZ基準平面の設置高さ(ZGk)の関係が得る。両者を合成することで共通の(Xi,Yj)を介してスキャナ側から見た座標と校正用基準器の格子点の座標の関係が得られる。
【0010】
ここでZ基準平面として鏡面反射成分の少なくかつ平坦度の高い粗面を使用することができる。X軸周り、Y軸周りそれぞれにわずかな角度をつけて鏡面反射を含まない高さ分布データを得る。それらを平均して仮想平面形状を得る。XY基準器を測定する場合、鏡面反射成分がXY基準期の格子点の抽出に影響を与えない条件ならば、基準器を仮想平面に一致させて測定を行ってもよい。
【0011】
格子点の座標(XGi,YGj,ZGk)がスキャナ側から見た座標(高さ分布)(Xi,Yj,Zk)に見えているので、格子点の座標についての補正量
(ΔXi,ΔYj,ΔZk)=(XGi-Xi,YGj-Yj,ZGk-Zk)
全ての格子点について補正量を求めれば格子点における補正データの集合として
ΔXi=XMCAL(Xi,Yj,Zk)
ΔYj=YMCAL(Xi,Yj,Zk)
ΔZk=ZMCAL(Xi,Yj,Zk)
が得られる。このデータには格子点の補正量しか含まれないため、格子点以外の補正量は補間によって求める必要がある。補正データの集合を元にそれぞれをスキャナ側から見たXY座標、および高さZの値、(X,Y,Z)の高次多項式またはその他適切な関数でフィットしてその多項式の係数として補正データを保存しておく。フィットされた関数をそれぞれ
ΔXi=XFCAL(X,Y,Z)
ΔYj=YFCAL(X,Y,Z)
ΔZk=ZFCAL(X,Y,Z)
とすれば、スキャナ側から見た任意の座標(XA,YA,ZA)における補正量は内挿によって
ΔXA=XFCAL(XA,YA,ZA)
ΔYA=YFCAL(XA,YA,ZA)
ΔZA=ZFCAL(XA,YA,ZA)
となる。なお通常の使用環境ではスキャナを出るビームは測定対象に向かって一直線に進むのでZに関しては一次式で表されると考えてよい。
【0012】
スキャナ光学系のテレセントリシティー(鉛直打ち下ろし特性、仮想平面の法線への一致具合といったもの)が高く、XY座標のZ依存性が無視できるほど小さい場合には補正データからZ依存性がなくなるため、計測が容易な一つの高さ(例えばZ=0の高さやビーム焦点の高さ)だけで校正用基準器の座標を取得すればよい。
【0013】
Z=0における全ての格子点について補正量を求めれば格子点における補正データの集合として
ΔXi=XMCAL(Xi,Yj,0)
ΔYj=YMCAL(Xi,Yj,0)
ΔZk=ZMCAL(Xi,Yj,0)
が得られる。ΔZiについては格子点に限定せず、平面のデータ全体を使うことができる。格子点以外の補正量は補間によって求められる。補正データの集合を元にそれぞれをスキャナ側から見たXY座標(X,Y)の高次多項式またはその他適切な関数でフィットしてその多項式の係数として補正データを保存しておく。フィットされた関数をそれぞれ
ΔX=XFCAL(X,Y)
ΔY=YFCAL(X,Y)
ΔZ=ZFCAL(X,Y)
とすれば、スキャナ側から見た任意の座標(XA,YA,ZA)における補正量は内挿によって
ΔXA=XFCAL(XA,YA)
ΔYA=YFCAL(XA,YA)
ΔZA=ZFCAL(XA,YA)
となる。
【0014】
Z依存性を含む一般形で補正式を定義しておいてZ依存を表す項にかかる係数がゼロである場合として考えてもよい。
【0015】
スキャナが例えばX軸に平行なラインのように単一方向へのスキャンを行って、Y軸方向には別の移動手段によって全体の形状を計測する場合は、二次元スキャンの中の一ラインをスキャンしたと考えて補正を行う。スキャンの線がX軸に平行な線に対してゆがみがある場合にはXY座標の補正が必要になる。X軸のラインスキャンとY軸移動を組み合わせてXY基準器をY軸方向の座標校正をするために最低限必要な幅でスキャンして、二次元スキャンと同様な方法で補正データを取得する。
【0016】
また、JIS規格として、三次元座標測定機の精度試験方法を定めたJIS B 7440が設けられており、JIS B 7440-8として光学式距離測定の原理によって補正後測定点を決定する非接触プロービングシステムである光学式距離センサ付き座標測定機について規定されている。
【0017】
そして、長さの標準器であるブロックゲージと球体とを用いることによって、静的な目盛りの校正と球体の測定とを同時に行うことにより検出器の動作性能を含めた各軸の目盛り誤差を総合的に校正することができるようにしたCMM校正ゲージが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0018】
この特許文献3の開示技術では、国家標準器として第1端面と第2端面間の長さの絶対値が保証されているブロックゲージの表面に、球体を載置して固定することによりCMM校正ゲージを構成する。使用に際しては、第1端面に3点以上CMMの測定子を当てて第1端面の平面を特定し、次いで球体の赤道部分に3点測定子を当てると共に極点にも当てて、第1端面の平面からの球体の中心座標と球体の直径を特定し、次いで第2端面に測定子を当てて第2端面と球体の上記特定値を補正し、球体の3次元空間の座標が正確に特定されたCMM校正ゲージとする。
【0019】
CMM(coordinate measuring machine)は、三次元空間に存在する離散したX、Y、Zの座標点を用いて計算機の支援により寸法及び形状を測定するための計測器であり、より具体的には、定盤上に載置した被測定物と、測定器においてZ軸先端に取り付けたプローブとを、X、Y、Zの三次元方向へ相対移動させ、プローブが被測定物に接触した瞬間をとらえ、この瞬間を電気的トリガとして各送り軸方向の座標値を読みとり、計算機により寸法及び形状を計測する三次元測定器である。
また、上面が平坦な基板の表面に配置される第1の球体列と、前記基板の上面に対して傾斜して配置される第2の球体列とを備えることにより三次元座標測定機を精度評価するための三次元座標測定機ゲージを構成すること提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】特開2001-343234号公報
【文献】特許第5231883号公報
【文献】特許第3005681号公報
【文献】特開2012-58057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
ところで、本件発明者等が先に提案している光コム距離計から測定対象物に照射する測定光を走査することにより、非接触で物体の三次元形状を測定する光学式三次元形状測定装置では、光コム干渉計を介して測定対象物に照射された測定光の測定対象物上の照射位置の計測を高精度に且つ短時間に行うことができるのであるが、光学スキャナを介して測定対象物に測定光を照射するので、光学スキャナによる走査歪みに起因する測定誤差がある。
【0022】
光学的三次元形状測定装置に備えられた光学スキャナでは、一般的に、レンズや鏡の曲面は理想型状からのずれや屈折率の影響により、仮想平面上で完全に等距離になることはなく、像面湾曲に見られるように視野の中心部と周縁部で高さが異なることが多い。光学系の如何なる場所でも主光軸が光軸に対して平行な理想的なテレセントリック光学系による光学スキャナを備える光学的三次元形状測定装置であれば、鏡のように高精度の基準平面を計測し、計測結果として得られる平面が平面に見えるような補正データを使用して測定対象物の高さデータに誤差なく補正することが可能である。
【0023】
しかしながら、現実には、光学スキャナを介して測定対象物に照射される測定光は、理想的な光学系からの乖離や材料の波長分散の影響を受けて、場所毎に光軸に対して僅かに傾斜しており、それが1次元又は2次元に分布した歪みのある状態となる。
【0024】
また、波長分散の大きな材料が走査光学系に含まれる場合、群遅延が測定光のビーム径内で分布する虞がある。
【0025】
このように場所毎に光軸に対して僅かに傾斜した測定光を出射する光学スキャナや波長分散の大きな材料が走査光学系に含まれる光学スキャナでは、鏡を用いて校正すると、鏡面反射された測定光の一部の反射光成分のみが光コム距離計における干渉信号の生成に寄与することになる。
【0026】
光コム距離計では、測定対象物に照射した測定光の上記測定対象物により反射された反射光の全てを検出することができれば、測定光の光軸中心の軌跡の距離を高精度に計測できるのであるが、反射光の一部しか検出できない場合には、 測定光の光軸中心の軌跡から算出される距離にする誤差が生じることになる。
【0027】
このように、光学的三次元形状測定装置で得られる座標補正などを行わない生の形状データには座標や空間の距離には誤差が含まれる。誤差はスキャナの非直線性、光学系のひずみ、テレセントリシティーからのずれ、収差などが要因である。したがって、測定対象物の形状計測と別に座標の基準となる検査器で空間的な誤差分布を検出して補正データとして持っておいて、測定結果の座標やスキャナの動きに補正を加えることで正しい座標値に変換してデータの補正(キャリブレーション)を行う必要がある。
【0028】
また、補正(キャリブレーション)が済んだ光学的三次元形状測定装置に対して座標測定性能を評価するための座標や長さの真値が定まった検査器による空間的な誤差検出が必要である。光学式非接触三次元計測機のJIS B 7440-8「製品の幾何特性仕様(GPS)-座標測定システム(CMS)の受入検査及び定期検査-第8部:光学式距離センサ付き座標測定機」に準拠した検査方法が望ましい。
【0029】
本件発明者等は、上述の如き従来の実情に鑑み、測定光を測定対象物に照射する走査光学系の歪みを補正することができる校正データを取得可能な光学スキャナ装置の校正方法を特願2020-001699として、先に提案している。
【0030】
また、特許文献3や特許文献4の開示技術は、測定子を当てて測定を行う接触型の三次元測定器の校正を行うためのものであり、非接触型の光学式三次元形状測定装置の校正について考慮されていない。
【0031】
なお、JIS B 7440-8では、「検査用標準器鋼製又はセラミックス製の検査用標準器を用いてプロービング誤差の評価を行う。他の適切な材料で製作された検査用標準器を用いてもよい。異なる材質の検査用標準器を用いて検査を行うと、表面反射率光の浸込み(体積散乱)、色、散乱特性などの光学特性の違いによって、得られるプロービング誤差が変わる可能性があるため、使用した検査用標準器の材質は記録しなければならない。プロービング誤差の評価に使用する検査用標準器の表面粗さは,対応する最大許容誤差と比較して無視できる程度に小さくなければならない。」と規定されている。
【0032】
そこで、本発明の目的は、上述の如き従来の実情に鑑み、JIS B 7440-8に準拠した長さ測定誤差検査器として機能し、光コム距離計から測定対象物に照射する測定光を走査することにより、非接触で物体の三次元形状を測定する光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器および空間測定誤差検出方法を提供することにある。
【0033】
また、本発明の他の目的は、テレセントリック光学系からのずれを検出して座標補正や校正(キャリブレーション)に必要なデータを取るための光学式三次元形状測定装置の校正(キャリブレーション)用の空間測定誤差検査器及び校正方法を提供することにある。
【0034】
また、測定光を測定対象物に照射する走査光学系の歪みによる影響を除去して誤差の少ない三次元形状測定を行うことのできる光学式三次元形状測定装置及びその空間測定誤差校正方法を提供することにある。
【0035】
さらに、本発明の他の目的は、測定光を測定対象物に照射する走査光学系の歪みによる影響を除去して誤差の少ない三次元形状測定を行うことのできる光学式三次元形状測定装置のプロービング性能検査用平面標準器を提供することにある。
【0036】
本発明の他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施の形態の説明から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明は、光コム距離計から測定対象物に照射する測定光を走査することにより、非接触で物体の三次元形状を測定する光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器であって、複数の検査球と、上記検査球が2次元に配列される基板とを備え、上記検査球は、所定の直径に真球加工され、上記直径より短い深さのねじ穴と有する鋼球からなり、表面に窒化チタン膜が成膜されており、上記基板は、上記ねじ穴に螺合する螺子が貫通される貫通孔が2個以上形成され、貫通孔の上部で検査球と接する面に面取り加工が施されており、上記複数の検査球は、2次元に配列され、それぞれ上記基板の面取り加工部に接触した状態で該基板の裏側から螺子止め固定されており、上記複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の少なくとも1つがが既知であることを特徴とする。
【0038】
本発明に係る光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器において、上記検査球は、弾発素子により所定の押圧力で上記基板の面取り加工部に押圧される状態で螺子止め固定されているものとすることができる。
【0039】
本発明に係る光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器において、上記複数の検査球は、3mm~6.8mm内の所定の直径を有し、3mm~6.8mm内の所定のピッチで2次元に配列されているものとすることができる。
【0040】
本発明に係る光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器において、上記複数の検査球は、JIS規格検査で使用する区間だけ選定された球間距離位置に2次元に配列されているものとすることができる。
【0041】
本発明に係る光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器において、上記複数の検査球は、上記基板の表面に2次元方向にそれぞれ最大長さが26.4mm以上40mm以下で5つの異なる検査用長さの少なくとも1つに対応する球間距離位置に2次元に配列されているものとすることができる。
【0042】
本発明に係る光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器において、上記複数の検査球は、対角方向にそれぞれ最大長さが42.3mm以上64mm以下で5つの異なる検査用長さの少なくとも1つに対応する球間距離位置に2次元に配列されているものとすることができる。
【0043】
本発明に係る光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器において、上記複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の少なくとも1つの校正値または公称値または設計値が明らかになっているものとすることができる。
【0044】
本発明は、光コム距離計から測定対象物に照射する測定光を走査することにより、非接触で物体の三次元形状を測定する光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検出方法であって、
被検査光学式三次元形状測定装置により、上記光空間測定誤差検査器を測定対象物として三次元形状測定を行い、測定結果として得られる記複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報と予め校正されている上記複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報との少なくとも1つの差分を上記被検査光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差として検出することを特徴とする。
【0045】
本発明は、光コム距離計から測定対象物に照射する測定光を走査することにより、非接触で物体の三次元形状を測定する光学式三次元形状測定装置の補正方法であって、被補正光学式三次元形状測定装置により、上記光空間測定誤差検査器を測定対象物として複数の高さ位置に置いて、三次元形状測定を行い、各高さ位置における測定結果として得られる記複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報と予め校正されている上記複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報との少なくとも1つの差分を上記被補正光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差として検出して補正データを取得することを特徴とする。
【0046】
本発明は、光学式三次元形状測定装置であって、上記光学式三次元形状測定装置の補正方法により取得された補正データに基づいて、測定対象物に照射する測定光を走査する光学系の歪みを補正する補正処理手段を備えることを特徴とする。
【0047】
本発明は、光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差校正方法であって、補正済みの光学式三次元形状測定装置を被検査光学式三次元形状測定装置として、補正データの取得に用いた空間測定誤差検査器とは別の光空間測定誤差検査器を測定対象物として三次元形状測定を行い、測定結果として得られる記複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報と予め校正されている上記複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報との少なくとも1つの差分を上記被検査光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差として検出することを特徴とする。
【0048】
本発明は、光コム距離計から測定対象物に照射する測定光を走査することにより、非接触で物体の三次元形状を測定する光学式三次元形状測定装置のプロービング性能検査用平面標準器であって、精密研磨されたセラミック平面に窒化チタン膜が成膜されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0049】
上述の如き特徴点を有する本発明によれば、それぞれ所定の直径に真球加工され、上記直径より短い深さのねじ穴を有する鋼球からなり、表面に窒化チタン膜が成膜された複数の検査球が、上記ねじ穴に螺合する螺子が貫通される貫通孔が2個以上形成され、貫通孔の上部で検査球と接する面に面取り加工が施された基板の面取り加工部に接触した状態で該基板の裏側から螺子止め固定されており、上記複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の少なくとも1つが予め校正されていることにより、非接触で物体の三次元形状を測定する光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差を高精度に検出することができ、JIS B 7440-8に準拠した長さ測定誤差検査器として、光コム距離計から測定対象物に照射する測定光を走査することにより、非接触で物体の三次元形状を測定する光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器および空間測定誤差検出方法を提供することができる。
【0050】
また、本発明によれば、テレセントリック光学系からのずれを検出して座標補正や校正(キャリブレーション)に必要なデータを取るための光学式三次元形状測定装置の校正(キャリブレーション)用の空間測定誤差検査器及び校正方法を提供することできる。
【0051】
また、本発明によれば、測定光を測定対象物に照射する走査光学系の歪みによる影響を除去して誤差の少ない三次元形状測定を行うことのできる光学式三次元形状測定装置及びその空間測定誤差校正方法を提供することができる。
【0052】
さらに、本発明によれば、測定光を測定対象物に照射する走査光学系の歪みによる影響を除去して誤差の少ない三次元形状測定を行うことのできる光学式三次元形状測定装置のプロービング性能検査用平面標準器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】本発明を適用した光学式三次元形状測定装置100の基本的な構成を示すブロック図である。
【
図2】上記光学的三次元形状測定装置に備えられた光コム距離計の構成を示すブロック図である。
【
図3】上記光学的三次元形状測定装置における光学スキャナ装置が測定光を1方向に走査するスキャン光学系を備える1次元スキャナである場合の校正処理の様子を模式的に示す斜視図である。
【
図4】上記1次元スキャナで校正用基準平面の形状を測定した場合に、スキャンされる点の軌跡がX軸からのずれに応じた測定結果として得られる高さ分布の様子を模式的に示す斜視図であり、(A)は 基準平面の傾斜角度θが正の場合を示し、(B)は 基準平面の傾斜角度θが負の場合を示している。
【
図5】上記光学的三次元形状測定装置における光学スキャナ装置が測定光を2方向に走査するスキャン光学系を備える2次元スキャナである場合の校正処理の様子を模式的に示す斜視図である。
【
図6】上記2次元スキャナの校正処理における校正用基準器の基準平面の状態を示す模式的に示す斜視図であり、(A)は 基準平面をX軸廻りに+θ傾けた状態を示し、(B)は 基準平面をX軸廻りに-θ傾けた状態を示し、(C)は 基準平面をY軸廻りに+φ傾けた状態を示し、(D)は 基準平面をY軸廻りに-φ傾けた状態を示し、(E)は θ=0度、φ=0度の仮想平面を示している。
【
図7】単一材料で製作されたテレセントリックレンズを用いて、ガルバノスキャナでX方向に1次元スキャンするスキャン光学系について、スキャンの直線性を測定した結果と、このスキャン光学系により、平面性の高い窒化チタン膜が成膜されたセラミック基板をY方向に±1度傾けて1次元形状を測定した結果を示す特性図であり、(A)はスキャンの直線性の測定結果を示し、(B)はセラミック基板の1次元形状を測定した結果の差分をプロットしたものである。
【
図8】平面ミラーを計測した結果と、粗面である窒化チタン膜が成膜されたセラミック基板を計測したときの乖離を示す特性図であり、(A)は
図7の(B)を測定したときのデータ(TiN+1度)のデータから、平面ミラーを計測したデータの差分をプロットしたものであり、(B)は
図7の(B)を測定したときのデータ(TiN-1度)のデータから、平面ミラーを計測したデータの差分をプロットしたものであり、(C)は、
図8の(A)と
図8の(B)の平均値を示している。
【
図9】定盤上に裁置されたプロービング性能検査用平面標準器を示す鳥瞰図である。
【
図10】基板上に複数の検査球を2次元に配列してなる本発明を適用した空間測定誤差検査器を示す鳥瞰図である。
【
図11】上記空間測定誤差検査器の構造の説明に供する図であり、(A)は基板の平面図、(B)は、この空間測定誤差検査器を分解した状態模式的に示す側面図、(C)は、この空間測定誤差検査器を組み立ててベース基板に取り付けた状態を模式的に示す側面図である。
【
図12】上記空間測定誤差検査器による球間距離測定を行う際の設置状態を模式的に示す斜視図であり、(A)は測定空間のXY平面に平行に空間測定誤差検査器を設置した状態を示し、(B)は空間測定誤差検査器を(A)に示した状態から四隅の一点を中心に対角線上の他の隅側を持ち上げた状態を示し、(C)はさらに側面を持ち上げた状態を示している。
【
図13】縦(40mm)×横(40mm)×高さ(30mm)の三次元空間を計測範囲とする三次元形状測定装置の校正に使用する空間測定誤差検査器としてベース基板に取り付けた3種類の空間測定誤差検査器を示す鳥瞰図である。
【
図14】光学的三次元形状測定装置の定盤上に上記3種類の空間測定誤差検査器の載置した状態を示す鳥瞰図である。
【
図15】基板上に配列固定された28個の検査球を備える空間測定誤差検査器による測定データの解析結果の説明の際に参照される28個の検査球に付した番号(0~27)を示す空間測定誤差検査器の鳥瞰図である。
【
図16】空間測定誤差検査器による測定データの解析についての説明に供する図である。
【
図17】測定データの解析結果として得られた中心座標と高さの関係を空間測定誤差検査器を上方から見て示した図である。
【
図18】測定データの解析結果として得られた球中心の軌跡の誤差を強調して示した図である。
【
図19】測定データの解析結果として得られたX断面における球中心の軌跡を示す図である。
【
図20】測定データの解析結果として得られたY断面における球中心の軌跡を示す図である。
【
図21】測定データの解析結果として得られた球間距離を示す図であり、(A)は0番と1番の球間距離を示し、(B)は0番と5番の球間距離を示し、(C)は0番と6番の球間距離を示し、(D)は0番と22番の球間距離を示し、(E)は0番と27番の球間距離を示している。
【
図22】測定データの解析結果として得られた0番を基準として球間距離のRmax=0.6(上面直径の60%の範囲)、Rmax=0.7(上面直径の70%の範囲)、Rmax=0.8(上面直径の60%の範囲)、Rmax=0.9(上面直径の90%の範囲)における再現性を示す図であり、(A)は高さ97.5mmにおける球間距離のばらつきを示し、(B)は高さ87.5mmにおける球間距離のばらつきを示し、(C)は高さ77.5mm)における球間距離のばらつきを示している。
【
図23】測定データの解析結果として得られた中心座標(中心点包含球のの半径)のRmax=0.6(上面直径の60%の範囲)、Rmax=0.7(上面直径の70%の範囲)、Rmax=0.8(上面直径の60%の範囲)、Rmax=0.9(上面直径の90%の範囲)における再現性を示す図であり、(A)は中心点包含球径(高さ97.5mm)を示し、(B)は中心点包含球(高さ87.5mm)を示し、(C)は中心点包含球(高さ77.5mm)を示している。
【
図24】従来、二次元スキャンの光学スキャナの校正に一般的に使用されている校正用基準器の模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、共通の構成要素については、共通の指示符号を図中に付して説明する。また、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能であることは言うまでもない。
【0055】
本発明は、例えば
図1に示すような構成の光学式三次元形状測定装置100に適用される。
【0056】
図1は、本発明を適用した光学式三次元形状測定装置100の基本的な構成を示すブロック図である。
【0057】
この光学的三次元形状測定装置100は、光コム距離計10と、光コム距離計10から出射される測定光S2で測定対象物50を走査する光学スキャナ装置20と、光コム距離計10の出力に基づいて、測定対象物50の複数の点までの絶対距離を計測して立体像を得る信号処理装置30を備える。
【0058】
光コム距離計10は、例えば
図2のブロック図に示すように、光周波数コム干渉計を用いて距離を測定するものであって、第1、第2の光コム光源11、12から出射される中心周波数と周波数間隔の異なる二つの光周波数コムをそれぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる干渉性のある基準光S1と測定光S2として干渉光学系13を介して測定光路15に入射させる測定光S2との干渉光S3を基準光検出器16により検出するとともに、基準光路14と測定光路15に入射させた基準光S1と測定光S2が上記基準光路14と測定光路15を往復して戻ってくる基準光S1’と測定光S2’との干渉光S4を測定光検出器17により検出し、信号処理部18により、上記基準光検出器16により干渉光S3を検出した干渉信号と上記測定光検出器17により干渉光S4を検出した干渉信号の時間差から、光速と測定波長における屈折率から上記基準光S1が往復した基準光路14の距離L1と上記測定光S2が往復した測定光路15の距離L2の差を求めることができる。なお、干渉計や検出器の形態は複数ある。
【0059】
上記光学スキャナ装置20は、光コム距離計10から出射される測定光S2を測定対象物50の表面にスキャンしながら照射して、表面からの反射光を光コム距離計10に戻すもので、上記光コム距離計10から出射される測定光S2で測定対象物50を走査する走査光学系21と、この走査光学系21により偏向された測定光S2を集光させるとともに測定対象物50に垂直方向から照射させるテレセントリック集光光学系22からなるスキャン光学系23を備えている。
【0060】
信号処理装置30は、上記光学スキャナ装置20を制御してレーザービームを走査すると同時に上記光コム距離計10が計測する測定対象物50までの距離情報を取得して、ビーム照射位置とその場所まで距離を複数の点について蓄積することにより非接触で測定対象物50の三次元形状を測定する。
【0061】
そして、この光学的三次元形状測定装置100における光学スキャナ装置20は、
図3に示すように、測定光S2を1方向に走査するスキャン光学系23Aを備える1次元スキャナである場合、スキャンされた測定光S2が作るシート状の平面41と校正用基準器40の校正用基準平面40Aが垂直になった状態を基準として、X軸(測定光S2の走査方向)周りに基準平面40Aを角度θ0だけ傾けた状態で、上記光コム距離計10から上記校正用基準器40の基準平面40Aに照射する測定光S2を走査して、上記基準平面40Aの形状測定を行うことにより補正データの取得が行われる。
【0062】
ここで、鏡面反射成分を検出しないようするために基準平面40は、わずかに傾けられるのであって、ビーム径に応じて必要な角度θ0は異なる。ビーム径100μmの場合、X軸(測定光S2の走査方向)周りに基準平面40Aを1度傾ければ十分である。
【0063】
この光学スキャナ装置20の校正には、平面度の良い機械加工面や窒化チタン(TiN)がコートされたセラミック基板など、平面度は高いが拡散反射成分を含み、鏡面反射成分の少ない基準平面40Aを有し、基準平面40上の座標位置が予め校正された校正用基準器40が用いられる。この校正用基準器40には、例えば、
図9の鳥瞰図に示すように、精密研磨されたセラミック平面に窒化チタン膜が成膜された平面度が0.2μmの校正用基準平面40Aを有するプロービング性能検査用平面標準器と同じ仕様で作成された板を定盤60上に裁置して使用した。
【0064】
この光学的三次元形状測定装置100における信号処理装置30は、上記光学スキャナ装置20を制御してレーザービームを走査すると同時に上記光コム距離計10が計測する上記校正用基準器40の基準平面40Aまでの距離情報を取得して、ビーム照射位置とその場所まで距離を複数の点について蓄積することにより上記基準平面40Aの三次元形状を測定し、上記光コム距離計10により得られる上記基準平面40Aの形状測定結果に基づいて、上記予め校正された基準平面40A上の座標位置に対する上記形状測定結果に基づく座標位置の誤差を補正データとする補正処理を行う。
【0065】
ここで、
図4は、上記1次元スキャナで上記校正用基準器40の基準平面40Aの形状を測定した場合に、スキャンされる点の軌跡がX軸からのずれに応じた測定結果として得られる高さ分布の様子を模式的に示す斜視図であり、(A)は 基準平面40Aの傾斜角度θが正の場合を示し、(B)は 基準平面40Aの傾斜角度θが負の場合を示している。
【0066】
すなわち、信号処理装置30による光学スキャナ装置20の補正処理では、光学スキャナ装置20が測定光S2を1方向に走査するスキャン光学系23Aを備える1次元スキャナである場合、スキャンされる点の軌跡がX軸からずれていると、高さのずれとして検出され、Y軸の正方向に湾曲している場合には、
図4の(A)に示すように、角度θが正ならばZ軸方向の高さ分布F1は上に凸となり、X軸の正方向に湾曲している場合には、
図4の(B)に示すように、角度θが負ならばZ軸方向の高さ分布F2は下に凸となるので、正負の角度θで校正用基準平面40Aの形状を測定して高さ分布の加算平均を取ることによってスキャン線の湾曲と基準平面40Aの傾きによって発生する高さ変動を相殺することができる。
【0067】
また、この光学的三次元形状測定装置100における光学スキャナ装置20は、
図5に示すように、測定光S2を2方向に走査するスキャン光学系23Bを備える2次元スキャナである場合、X軸方向にスキャンされた測定光S2が作るシート状の平面41Xと校正用基準器40の校正用基準平面40Aが垂直になった状態を基準として、X軸(測定光S2の走査方向)周りに基準平面40Aを角度θ0だけ傾けるとともにY軸方向にスキャンされた測定光S2が作るシート状の平面41Yと校正用基準器40の校正用基準平面40Aが垂直になった状態を基準としてY軸周りに基準平面40Aを角度φ0だけ傾けた状態で、上記光コム距離計10から上記校正用基準器40の基準平面40Aに照射する測定光S2を走査して、上記基準平面40Aの形状測定を行うことにより補正データの取得が行われる。
【0068】
信号処理装置30による光学スキャナ装置20の補正処理では、光学スキャナ装置20が測定光S2を2方向に走査するスキャン光学系23Bを備える2次元スキャナである場合、スキャンの場所によってスキャン線の湾曲が異なるので、
図6に示すように、X軸、Y軸それぞれ正負に傾けて測定することによって後処理でその影響を除外する。
【0069】
図6の(A),(B),(C),(D),(E)は、光学スキャナ装置20が測定光S2を2方向に走査するスキャン光学系23Bを備える2次元スキャナである場合の補正処理における校正用基準器40の基準平面40Aの状態を模式的に示す斜視図であり、(A)は 基準平面40AをX軸廻りに+θ傾けた状態を示し、(B)は 基準平面40AをX軸廻りに-θ傾けた状態を示し、(C)は 基準平面40AをY軸廻りに+φ傾けた状態を示し、(D)は 基準平面40AをY軸廻りに-φ傾けた状態を示し、(E)は θ=0度、φ=0度の仮想平面40Bを示している。
【0070】
すなわち、X軸に平行に存在すべき線がY軸の正の方向に湾曲している場合、
図6の(A)に示すように、X軸廻りの角度θ
0を正負それぞれで、Z軸方向の高さ分布F1、F2を測定する。
【0071】
Y軸に平行に存在すべき線がX軸の正の方向に湾曲している場合、
図6の(C)に示すように、Y軸廻りの角度φ
0を正負それぞれで、Z軸方向の高さ分布F3、F4を測定する。
【0072】
このように正負の角度θ0、φ0で校正用基準平面40Aの形状を測定(合計4回)して高さ分布の加算平均を取ることによってスキャン線の湾曲と基準平面の傾きによって発生する高さ変動を相殺することができる。
【0073】
すなわち、
図6の(A),(B),(C),(D),(E)に示すように、X軸周りの±θ、Y軸周りの±φ、合計4つの傾斜角で測定したデータの加算平均から、
図6の(E)に示すように、θ=0度、φ=0度の仮想平面40Bの測定データを得ることができ、粗面の基準平面40Aからの拡散反射を主成分するデータ、すなわち、鏡面反射の影響を受けないデータを取得することができる。
【0074】
ここで、単一材料で製作されたテレセントリックレンズを用いて、ガルバノスキャナでX方向に1次元スキャンするスキャン光学系について、スキャンの直線性を測定した結果と、このスキャン光学系により、平面性の高い窒化チタン膜が成膜されたセラミック基板をY方向に±1度傾けて1次元形状を測定した結果を
図7の(A),(B)に示す。
【0075】
図7の(A)は160mm幅スキャンできる単一材料で製作されたテレセントリックレンズを用いて、ガルバノスキャナでX方向に1次元スキャンしたときのスキャンの直線性の測定結果を示している。直線性には直線からの逸脱が観測されている。
【0076】
図7の(B)は、平面性の高い窒化チタン膜が成膜されたセラミック基板を上記光学系の焦点位置かつスキャン中心のビームに対して垂直に設置したのち、Y方向に+1度傾けたとき(X軸方向に走査された測定光が形成する平面と窒化チタン膜が成膜された平面が交差する直線を軸としたX軸回転)の1次元形状を測定した結果を(TiN+1度)とし、逆にY方向に-1度傾けたときの1次元形状を測定した結果を(TiN-1度)とし、それらの差分((TiN-1度)-(TiN+1度))をプロットしたものである。
【0077】
図7の(B)に示す計測結果は、
図7の(A)に示す測定結果と強い相関が認められ、(TiN-1度)と(TiN+1度)の差分にはスキャンの直線性由来以外の歪み成分をキャンセルする効果があり、スキャンの直線性が際立って見えるようになったためである。
【0078】
すなわち、
図7の(B)の計測結果は、レーザービームに対して角度をもっておかれた平面の高さを測定すると、スキャンの直線性からの逸脱成分が形状データに含まれてしまうことを証明している。
【0079】
また、
図8の(A)、(B)は、
図7の(B)を測定したときのデータ(TiN+1度)及び(TiN-1度)のデータから、平面ミラーを計測したデータの差分をプロットしたものであり、
図8の(C)は、
図8の(A)と
図8の(B)の平均値を示している。
【0080】
スキャンの直線性はY方向に+1度傾けたときと-1度傾けたときでは符号が反転するので、
図8の(A)と
図8の(B)の平均値である
図8の(C)ではスキャンの直線性由来の歪みの成分はキャンセルされている。したがって
図8の(C)で表される歪みは、平面ミラーを計測した結果と、粗面である窒化チタン膜が成膜されたセラミック基板を計測したときの乖離を表している。この乖離の主要因はテレセントリックレンズの不完全性及びレンズの材料の波長分散によるものである。
【0081】
この光学的三次元形状測定装置100における信号処理装置30では、平面度は高いが拡散反射成分を含む基準平面40Aを有し、基準平面40A上の座標位置が予め校正された校正用基準器40を上記基準平面40Aが僅かに傾斜された状態に設置し、光コム距離計10から上記校正用基準器40の基準平面40Aに照射する測定光S2を光学スキャナ装置20により走査して、上記光コム距離計10により上記基準平面40Aより反射された測定光S2’の拡散反射成分を用いて上記基準平面40Aの形状測定を行い、上記光コム距離計10により得られる上記基準平面40Aの形状測定結果に基づいて、上記予め校正された基準平面40A上の座標位置に対する上記形状測定結果に基づく座標位置の誤差を補正データとする補正処理が行われることにより、上記光コム距離計10による測距データとして、上記スキャン光学系の歪みが補正された上記測定対象物の三次元形状測定データを取得することができる。
【0082】
すなわち、この光学的三次元形状測定装置100において、信号処理装置30は、光コム距離計10から測定対象物50に照射する測定光S2を上記光学スキャナ装置20で走査することにより、上記光コム距離計10による測距データとして上記スキャン光学系23の群遅延の空間分布が補正された測定対象物50の三次元形状測定データを取得する補正処理手段としての機能を有しており、平面度は高いが拡散反射成分を含む基準平面を有し、基準平面40A上の座標位置が予め校正された校正用基準器40を用いて補正データを取得して、測定対象物50に照射される測定光S2の光軸に対する傾斜等に起因するスキャン光学系23の歪みを補正データ基づき補正することにより、測定光S2を測定対象物50に照射する上記スキャン光学系23の歪みによる影響を除去して誤差の少ない三次元形状測定を行うことができる。
【0083】
補正データの形式は測定されたデータの三次元座標データ(X,Y,Z)を補正後の座標(X+ΔX,Y+ΔY,Z+ΔZ)に変換するためのデータ(ΔX,ΔY,ΔZ)そのものをテーブルの形で保持する方式や(ΔX,ΔY,ΔZ)を(X,Y,Z)の関数の形式で保持しておく方式が考えられる。関数形式の場合、多項式近似した関数の係数の形で補正データを保持することも可能である。
【0084】
この光学的三次元形状測定装置100では、上記信号処理装置30により、平面度は高いが拡散反射成分を含む基準平面40Aを有し、基準平面40A上の座標位置が予め校正された校正用基準器40を上記基準平面40Aが僅かに傾斜された状態に設置し、光コム距離計10から上記校正用基準器40の基準平面40Aに照射する測定光S2を光学スキャナ装置20により走査して、上記光コム距離計10により上記基準平面40Aより反射された測定光S2’の拡散反射成分を用いて上記基準平面40Aの形状測定を行い、上記光コム距離計10により得られる上記基準平面40Aの形状測定結果に基づいて、上記予め校正された基準平面40A上の座標位置に対する上記形状測定結果に基づく座標位置の誤差を補正データとする本発明に係る光学スキャナ装置の補正方法が実行される。
【0085】
この光学スキャナ装置20の補正方法では、上記校正用基準器40の基準平面40Aに照射した測定光S2による上記基準平面40A上の走査軌跡が直線から逸脱する場合に、基準に対し正負の上記基準平面40Aの傾け角度において、上記光コム距離計10により上記基準平面40Aより反射された測定光S2’の拡散反射成分を用いて上記基準平面40Aの形状測定を行うものとすることができる。
【0086】
また、この光学スキャナ装置20の補正方法において、上記光学スキャナ装置20が1次元スキャナである場合に、上記光学スキャナ装置20により走査された測定光S2が形成する平面に対し、上記校正用基準器40の基準平面40Aが垂直な状態を基準として、上記測定光S2が形成する平面と上記基準平面40Aが交差する直線を軸として軸周りに上記基準平面40Aを傾斜させた基準に対し正負の上記基準平面40Aの傾け角度において、上記基準平面40Aの形状測定を行うことにより得られる2つの高さ分布の加算平均を取るものとすることができる。
【0087】
また、この光学スキャナ装置20の補正方法において、上記光学スキャナ装置20が2次元スキャナである場合に、上記光学スキャナ装置20によりX軸方向に走査された測定光S2が形成する平面に対し、上記校正用基準器40の基準平面40Aが垂直な状態を基準として、上記X軸方向に走査された測定光がS2形成する平面と上記基準平面40Aが交差する直線を軸として軸周りに上記基準平面40Aを傾斜させた基準に対し正負の上記基準平面の傾け角度において、上記基準平面40Aの形状測定を行うとともに、上記光学スキャナ装置20によりY軸方向に走査された測定光S2が形成する平面に対し、上記校正用基準器40の基準平面40Aが垂直な状態を基準として、上記Y軸方向に走査された測定光S2が形成する平面と上記基準平面40Aが交差する直線を軸として軸周りに上記基準平面40Aを傾斜させた基準に対し正負の上記基準平面40Aの傾け角度において、上記基準平面40Aの形状測定を行って得られる4つの高さ分布の加算平均を取るものとすることができる。
【0088】
また、上記三次元形状測定装置100では、信号処理装置30により光学スキャナ装置20におけるスキャン光学系23の歪みを補正する補正処理行うものとしたが、上述の如き本発明に係る光学スキャナ装置の補正方法により取得された補正データに基づいて、測定対象物50に照射する測定光S2を走査するスキャン光学系23の歪みを補正する補正処理手段として、例えば、予め取得された補正データを記憶手段に保存しておき、光学的三次元形状測定装置100の信号処理装置30や光コム距離計10の信号処理部18に補正データを供給する補正データ供給手段を光学スキャナ装置20に備えるようにしてもよい。
【0089】
ここで、上記三次元形状測定装置100における光学スキャナ装置20の校正には、精密研磨されたセラミック平面に窒化チタン膜が成膜された平面度が0.2μmの校正用基準平面40Aを有するプロービング性能検査用平面標準器である校正用基準器40を用いたが、例えば
図10の鳥瞰図に示すような構造の基板110上に複数の検査球120を2次元に配列してなる空間測定誤差検査器140を使用することができる。
【0090】
この空間測定誤差検査器140は、縦(40mm)×横(40mm)×高さ(30mm)の三次元空間を計測範囲とする三次元形状測定装置100の校正に使用するものとして設計したもので、縦(6個)×横(6個)で36個の検査球120が格子点位置に配置固定される縦(60mm)×横(60mm)×高さ(15mm)の基板110を球固定ブロックとして備える。
【0091】
図11は、空間測定誤差検査器140の構造の説明に供する図であり、(A)は基板120の平面図、(B)は、この空間測定誤差検査器140を分解した状態模式的に示す側面図、(C)は、この空間測定誤差検査器140を組み立ててベース基板150に取り付けた状態を模式的に示す側面図である。
【0092】
この空間測定誤差検査器140における複数の検査球120は、
図11の(B)に示すように、 それぞれ所定の直径Dに真球加工され、上記D直径より短い深さdのねじ穴121と有するステンレス鋼球又は炭素鋼球からなり、表面に窒化チタン膜が成膜されている。
【0093】
上記基板110は、熱膨張係数がJIS規格に規定された範囲に入っている鉄、SUSなど材料からなる。
【0094】
上記基板120は、
図11の(A)、(B)の平面図に示すように、36個の検査球120が配置固定される格子点位置に上記ねじ穴121に螺合する螺子130が貫通される貫通孔111が形成され、貫通孔111の上部で検査球110と接する面に面取り加工加工が施されている。
【0095】
上記複数の検査球120は、上記基板110に2次元配列され、それぞれ上記基板110の面取り加工部112に接触した状態で該基板110の裏側から螺子130により固定されている。
【0096】
上記複数の検査球120は、面取り加工部112の内側で半球面と面取り加工面が接触して位置が安定する状態で上記基板110に螺子止めされる。
【0097】
ここでは、螺子130により検査球120を基板110の裏側から面取り加工部112の中心方向に引っ張るような形になるので、スプリングワッシャ131付きの螺子130を使って一定の力で検査球120を基板110に押し付ける力が働くようにしている。
【0098】
このようにして上記複数の検査球120が基板110上に配置固定することにより組み立てられた空間測定誤差検査器140は、上記複数の検査球110の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の少なくとも1つが予め校正され、校正済みの状態でベース基板150に取り付けられる。
【0099】
この空間測定誤差検査器140は、基板110の3箇所に設けられた取り付け穴115A、115B、115Cを介して高さ調整螺子160によりにより、基板110が3点支持された状態で姿勢調整自在に取り付けられ、支持フレーム170を介してベース基板150に螺子止めされる。
【0100】
ここで、JIS規格では、点群測定によって単一方向法で測定する場合として、PD:プロービング方向、GAS:最小二乗当てはめ球、PC:点群、CGAS1:最小二乗当てはめ球中心1、CGAS2:最小二乗当てはめ球中心2を規定し、ボールプレート又がボールバーなど球面の測定面をもつ寸法検査標準器の単一方向測定は、点群による球の測定及び、最小二乗当てはめによる中心間距離の決定を含む。検査対象のそれぞれの測定線に関して、短い寸法検査用標準は計15回、双方向法で測定しなければならないと本文に
図B.3を参照して規定されている。
【0101】
しかしながら、上記三次元形状測定装置100では、点群による球の測定を 双方向法で行うことができないので、付属書JDに規定されている球間距離測定誤差の検査の手法を採用している。
【0102】
すなわち、付属書JDの
図JD.1-球による検査用標準器では、DP:検査用標準器の球直径、LP:検査用標準器の球直径として、最小二乗球への当てはめを行い、球間距離誤差E
S.JISを決定するようにしている。すなわち、それぞれの球の中心位置を最小二乗球から決定し、球間距離L
measを測定した球の中心間距離として算出し、算出した測定値L
measと校正値L
calとの差(L
meas-L
cal)を球間距離誤差E
S.JISとする。
【0103】
また、JIS規格では、座標測定機の測定空間において、七つの異なる位置(位置及び方向)に、五つの異なる検査用の長さを設置し、各々の長さを3回ずつ測定し、合計105回の測定を実施しなければならないと本文に規定されている。そして、
図7-検査用標準器の位置として、必須の四つ方向の位置(1~4)及び方向は空間の対角方向とされ、残りの三つの既定の位置(6~7)は座標系の各軸に沿った位置とされている。
【0104】
さらに、JIS規格では、検査用標準球の直径の既定値は10mm以上51mm以下でなければならない。検査用標準球の直径がセンサエリアの範囲と比較して大幅に小さい場合,取得できる測定点の数が不十分となることがあり,センサの測定値のひずみを正しく評価できないことがある。検査用標準球上での測定範囲がセンサエリアの範囲の66%よりも小さい場合、プロービング性能検査用標準平面を測定しなければならない。製造業者と使用者の合意の基に,プロービング性能検査用標準平面の代わりに直径が51mmを超える球を用いてもよい。プロービング性能検査用標準平面又は大直径の検査用標準球上での測定範囲はセンサエリアの範囲の66%以上でなければならないと本文に規定されている。
【0105】
この空間測定誤差検査器140は、上述の如く、縦(40mm)×横(40mm)×高さ(30mm)の三次元空間を計測範囲とする三次元形状測定装置100の校正に使用するものとして設計したもので、例えば、横(X)方向と縦(Y)方向の検査範囲それぞれ40mmの66%の長さが26.4mmであるから、JIS規格で
図7-検査用標準器の位置として規定された必須の7方向の内の5番に相当する横(X)軸方向と6番に相当する縦(Y)軸方向に最大長さが26.4mm以上40mm以下で5つの異なる検査用長さ与えるように、それぞれ6個の検査球120が基板110上に配列設置される。
【0106】
また、対角方向の検査範囲の長さ64.0mmの66%の長さは42.3mmであるから、最大長さが42.3mm以上64.0mm以下として、JIS規格で
図7-検査用標準器の位置として規定された必須の7方向の内の1番から4番に相当する対角方向に五つの異なる検査用長さを与えるように、6個の検査球120が基板110上に配列設置される。
【0107】
なお、 検査球120は直線上にほぼ等間隔に配置してもよく、直線上になくても直線と並行にオフセットさせた位置に複数の検査球120を配置して検査用長さを設置することもできる。
【0108】
ここで、この空間測定誤差検査器140は、JIS規格で
図7-検査用標準器の位置として規定された必須の7方向の内の7番の高さ(Z)軸方向に五つの異なる検査用長さを与えることはできないので、ブロックゲージを使用するものとする。
【0109】
そして、上述の如く、点群による球の測定を双方向法で行うことができない、この三次元形状測定装置100において採用した付属書JDに規定されている球間距離測定誤差の検査では、球間距離測定誤差E
S.JISの評価は,全測定領域又は非直交形座標測定機の場合には附属書JCに記載の検査測定範囲において,球面による検査用標準器を七つの位置及び姿勢で測定して行う規定され、付属書JDの
図JD.2に示された球面による検査用標準器の配置及び姿勢が推奨されている。球面による検査用標準器のそれぞれの球表面で座標値を取得し評価する点数の合計は25点以上であるが、最大点数は制限しないとされ、使用する球面による検査用標準器の球間距離L
Pが使用する測定機の各辺における測定可能な最大長さの66%に満たない場合は、付属書JDの
図JD.3に示されるように、球面による検査用標準器を姿勢変化なく移動させ、各辺の長さの66%以上となる領域内で数回に分けて測定を行うとされ、このとき、1回の距離は、使用する球面による検査用標準器の球間距離L
Pを超えないように設定するとされている。
【0110】
そして、この空間測定誤差検査器140は、上述の如く、JIS規格で
図7-検査用標準器の位置として規定された必須の7方向の内の1番から4番に相当する対角方向に最大長さが42.3mm以上64.0mm以下で5つの異なる検査用長さ与えるように、それぞれ6個の検査球120が基板110上に配列設置され、5番に相当する横(X)軸方向と6番に相当する縦(Y)軸方向に最大長さが26.4mm以上40mm以下で5つの異なる検査用長さ与えるように、それぞれ6個の検査球120が基板110上に配列設置されているので、
図12の(A)に示すように、測定空間のXY平面に平行に設置することにより、JIS規格の本文に規定された5番(横(X)軸)方向と6番(縦(Y)軸)方向における長さの測定に用いることができるばかりでなく、付属書JDに規定された2番(横(Y)軸)方向と3番(奥行き(Y)軸)方向における長さの測定に用いることができる。
【0111】
また、この空間測定誤差検査器140は、
図12の(B)に示すように、上記
図12の(A)に示した状態から、四隅の一点を中心に対角線上の他の隅側を持ち上げることにより、JIS規格の本文に規定されたJIS規格で
図7-検査用標準器の位置として規定された必須の7方向の内の1番~4番(対角線軸)方向における長さの測定に用いることができるとともに、付属書JDに規定された付属書JDの
図JD.2に示された空間対角の例えば7番(B-H)方向における長さの測定に用いることができる。なお、この測定には、側面の持ち上げとZ軸回りの回転を組み合わせてもよい。
【0112】
さらに、この空間測定誤差検査器140は、
図12の(C)に示すように、側面を持ち上げることにより、付属書JDに規定された付属書JDの
図JD.2に示された空間対角の例えば4番、5番、6番の空間対角方向における長さの測定に用いることができる。
【0113】
ここで、
図13に示すように、縦(40mm)×横(40mm)×高さ(30mm)の三次元空間を計測範囲とする三次元形状測定装置100の校正に使用する空間測定誤差検査器140として、表面に窒化チタン膜が成膜されたステンレス鋼球からなる直径Dが1/4インチの検査球120Aを備える空間測定誤差検査器140A、表面に窒化チタン膜が成膜されたステンレス鋼球からなる直径Dが5/32インチの検査球120Bを備える空間測定誤差検査器140B、直径Dが1/4インチのセラミック球からなる検査球120Cを備える空間測定誤差検査器140Cの3種類作成してベース基板150に取り付け、
図14に示すように光学的三次元形状測定装置100により、空間測定誤差検査器140A、140B、140Cの各検査球120A、120B、120Cの形状測定を行ったところ、空間測定誤差検査器140Cに備えられたセラミック球からなる検査球120Cは、表面が鏡面であるために、三次元形状測定装置100による測定光の戻り光の光強度が検査球120Cの中央領域では高いが周辺領域での極端に低下してしまい、ノイズの影響などを受けやすく、三次元形状測定に不向きであった。
【0114】
これに対し、空間測定誤差検査器140A、140Bに備えられた表面に窒化チタン膜が成膜されたステンレス鋼球からなる検査球120A、120Bでは、三次元形状測定装置100から照射された測定光が検査球表面で適度に拡散され、戻り光の光強度が検査球120Cの中央領域に対し周辺領域で低下するもののノイズの影響などを受けにくく、三次元形状測定を適正に行うことができた。
【0115】
上記空間測定誤差検査器140では、鋼球中心座標を算出できる範囲でなるべく密に検査球120を配置することにより、基準座標点を増やして補正用のデータとしての信頼性を上げることができる。
【0116】
ただし、検査球120の直径Dが小さすぎると球上面の計測データ数が減少して球面フィットの精度が低下するため好ましくない、検査球120の直径Dは、およそ4mm程度から6.5mm程度が好ましい。
【0117】
また、検査球120は、校正対象とする誤差の空間周波数・周期よりも細かく配置することが望ましい。
【0118】
検査球120の直径Dは、40mm×40mmをスキャンする一般的な光学系(レンズ、反射鏡)による座標誤差を補正する場合、10mm以下の値を選択すれば大部分の校正に対応できる。
【0119】
上記空間測定誤差検査器140は、JIS規格検査で使用する区間だけ球間距離を選定して設定するように構成しても良い。
【0120】
また、ベース基板150に取り付けられた空間測定誤差検査器140Aについて、光学的三次元形状測定装置100により三次元形状測定を行い、取得された測定データについて解析したところ、次のような結果が得られた。この空間測定誤差検査器140Aにおける複数の検査球120Aは、各中心座標、球間距離、直径は既知であり、例えば、設計値又は公称値あるいは校正値が明らかになっている。
【0121】
図15に示すように、基板110A上に配列固定された28個の検査球120Aに付した番号(0~27)を参照して、以下、測定データの解析結果について説明でする。
【0122】
測定データの解析では、
図16に示すように、一つの補正済みバイナリデータを球一つを含む要素データに分割し、各要素で検査球をフィットさせることにより、要素左上を原点とした球中心の相対座標を取得し、相対座標から元データの左上を原点とする絶対座標に変換して、中心座標の高さ依存性をグラフ化した。フィットには上面から見た球直径のおよそ50%~90%のデータを使用した。
【0123】
図17は、測定データの解析結果として得られた球中心の軌跡を示す図であり、球中心座標と高さの関係を示している。この
図17では、XYの寸法と比較して誤差が小さいため目立たず、各検査球の中心座標が平行になっているように見えている。
【0124】
図18は、それぞれ測定データの解析結果として得られた球中心の軌跡を示す図であり誤差の大きさはそのままでXYの寸法だけ1/20に縮小して誤差を強調して、球中心座標の高さ依存性を示している。
【0125】
図19は、測定データの解析結果として得られたX断面における球中心の軌跡を示す図であり、誤差の大きさはそのままでXYの寸法だけ1/20に縮小して誤差を強調して、球中心座標の高さ依存性を示している。この
図19では、下に向かってビーム射出範囲が広がっている。最上位最下位でX座標に0.2mmの違いがある。
【0126】
図20は、測定データの解析結果として得られたY断面における球中心の軌跡を示す図であり、誤差の大きさはそのままでXYの寸法だけ1/20に縮小して誤差を強調して、球中心座標の高さ依存性を示している。この
図20では、全体としてビーム射出角に傾きがあり、やや下に向かってビーム射出範囲が狭まっている。Y座標の変化は0.1mm程度あるが、球間距離の誤差は小さく見える。
【0127】
図21は、測定データの解析結果として得られた球間距離を示す図であり、(A)は0番と1番の球間距離を示し、(B)は0番と5番の球間距離を示し、(C)は0番と6番の球間距離を示し、(D)は0番と22番の球間距離を示し、(E)は0番と27番の球間距離を示している。測定データの解析結果では、隣りあう球の間隔の設計値は6.8±0.05mmで、6.75~6.75mmの範囲になっている。0番と5番の球間距離は、
図26(B)に示すように、34.0±0.05mmで、33.95~34.055mmの範囲になっている。X方向の球間距離の誤差は、0番と5番の間が大きく、Y方向の球間距離の誤差は、6番と22番の間が小さい。
【0128】
図22は、測定データの解析結果として得られた0番を基準として球間距離のRmax=0.6(上面直径の60%の範囲)、Rmax=0.7(上面直径の70%の範囲)、Rmax=0.8(上面直径の60%の範囲)、Rmax=0.9(上面直径の90%の範囲)における再現性を示す図であり、(A)は高さ97.5mmにおける球間距離のばらつきを示し、(B)は高さ87.5mmにおける球間距離のばらつきを示し、(C)は高さ77.5mmにおける球間距離のばらつきを示している。
【0129】
球間距離ばらつきは、同一のバイナリデータから計算条件を変えて評価し、10回の計測幅(最大-最小)を指標とした。Rmax=0.9の結果が比較的安定している。球間距離の繰り返し再現性は方向に依らず焦点付近で1μm程度である。
【0130】
図23は、測定データの解析結果として得られた中心座標(中心点包含球のの半径)のRmax=0.6(上面直径の60%の範囲)、Rmax=0.7(上面直径の70%の範囲)、Rmax=0.8(上面直径の60%の範囲)、Rmax=0.9(上面直径の90%の範囲)における再現性を示す図であり、(A)は中心点包含球径(97.5mm)を示し、(B)は中心点包含球(87.5mm)を示し、(C)は中心点包含球(77.5mm)を示している。
【0131】
上記空間測定誤差検査器140は、複数の検査球120の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の少なくとも1つが既知、例えば、設計値又は公称値あるいは校正値が明らかになっていることにより、非接触で物体の三次元形状を測定する光学式三次元形状測定装置100の空間測定誤差を高精度に検出することができ、JIS B 7440-8に準拠した長さ測定誤差検査器として使用することなでき、光コム距離計から測定対象物に照射する測定光を走査することにより、非接触で物体の三次元形状を測定する光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検査器および空間測定誤差検出方法を提供することができる。
【0132】
すなわち、光コム距離計から測定対象物に照射する測定光を走査することにより、非接触で物体の三次元形状を測定する光学式三次元形状測定装置の空間測定誤差検出を行うに当たり、被検査光学式三次元形状測定装置100により、光空間測定誤差検査器140を測定対象物として三次元形状測定を行い、測定結果として得られる複数の検査球120の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報と予め校正されている上記複数の検査球120の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報との少なくとも1つの差分を上記被検査光学式三次元形状測定装置100の空間測定誤差として検出することができる。
【0133】
また、光コム距離計から測定対象物に照射する測定光を走査することにより、非接触で物体の三次元形状を測定する光学式三次元形状測定装置を補正するに当たり、被補正光学式三次元形状測定装置100により、光空間測定誤差検査器140を測定対象物として複数の高さ位置に置いて、三次元形状測定を行い、各高さ位置における測定結果として得られる複数の検査球120の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報と予め校正されている上記複数の検査球の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報との少なくとも1つの差分を上記被補正光学式三次元形状測定装置100の空間測定誤差として検出して補正データを取得することができる。
【0134】
また、光空間測定誤差検査器140を用いた補正方法により補正データが取得された光学式三次元形状測定装置100は、測定対象物に照射する測定光を走査する光学系の歪みを補正する補正処理手段を備えることにより、測定光を測定対象物に照射する走査光学系の歪みによる影響を除去して誤差の少ない三次元形状測定を行うことができる。
【0135】
さらに、補正済みの光学式三次元形状測定装置100を被検査光学式三次元形状測定装置として、補正データの取得に用いた空間測定誤差検査器140とは別の本発明に係る光空間測定誤差検査器を測定対象物として三次元形状測定を行い、測定結果として得られる複数の検査球120の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報と予め校正されている上記複数の検査球120の各中心座標、球間距離、真球度又は直径の情報との少なくとも1つの差分を検出することで、上記校正済みの光学式三次元形状測定装置100の空間測定誤差を校正することができる。
【符号の説明】
【0136】
10 光コム距離計、11、12 第1、第2の光コム光源、13 干渉光学系、14 基準光路、15 測定光路、16 基準光検出器、17 測定光検出器、18 信号処理部、20 光学スキャナ装置、21 走査光学系、22 テレセントリック集光光学系、23、23A、23B スキャン光学系、30 信号処理装置、40 校正用基準器、40A 基準平面、40B 仮想平面、50 測定対象物、60 定盤、100 光学的三次元形状測定装置、110、110A 基板、111 貫通孔、112 面取り部、115A、115B、115C 取り付け穴、120、120A、120B、120C 検査球、121 ねじ穴、130 螺子、131 スプリングワッシャ、140、140A、140B、140C 光空間測定誤差検査器、150 ベース基板、160 高さ調整螺子、170 支持フレーム