(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
B60K 35/00 20060101AFI20220317BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20220317BHJP
G02B 27/01 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
B60K35/00 A
B60R11/02 C
G02B27/01
(21)【出願番号】P 2019505917
(86)(22)【出願日】2018-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2018008696
(87)【国際公開番号】W WO2018168595
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2017049809
(32)【優先日】2017-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017143890
(32)【優先日】2017-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】舛屋 勇希
【審査官】齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/022051(WO,A1)
【文献】特開2007-296889(JP,A)
【文献】特開2008-203441(JP,A)
【文献】特開2017-015918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 35/00
B60R 11/02
G02B 27/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、画像を、前記車両に備わる被投影部材に投影することで、ユーザーに前記画像の虚像を視認させるヘッドアップディスプレイ装置であって、
車両情報を取得する車両情報取得部と、
外光センサから得られる外光強度情報及び前記車両情報取得部が取得した車両情報の少なくとも一方に基づいて、昼夜を判別する昼夜判定部と、
前記車両の前照灯がオンされている場合に、前記車両情報取得部が取得した車両情報に基づいて、前記前照灯の状態がハイビーム状態であるか、ロービーム状態であるかを判別するハイビーム/ロービーム検出部と、
第1のコンテンツについての第1の画像データを生成する画像生成部と、
前記第1の画像データに対応する第1の画像を表示する表示面を備える画像表示部と、
前記第1の画像を示す表示光を反射して、前記被投影部材に投影する光学部材を含む光学系と、
前記ユーザー上又は前記車両上に設定される基準点から前記虚像までの距離を虚像表示距離とする場合に、前記画像表示部から前記被投影部材までの光路長の変更及び前記表示面上における前記第1の画像の表示位置の変更、の少なくとも一方によって、前記第1の画像に対応する虚像である第1の虚像についての虚像表示距離を制御する虚像表示距離制御部と、
を有し、
昼に対応する第1の状態、又は夜における前記前照灯がハイビームである第1の状態での前記ユーザーの視野範囲を第1の注視領域とし、前記第1の注視領域内における前記ユーザーの代表注視点を第1の注視点とし、夜における前記前照灯がロービームである第
2の状態での前記ユーザーの視野範囲を第2の注視領域とし、前記第2の注視領域内における前記ユーザーの代表注視点を第2の注視点とする場合において、
前記虚像表示距離制御部は、前記昼夜判定部の判定結果及び前記ハイビーム/ロービーム検出部の検出結果に基づいて、昼の場合又は夜における前記前照灯がハイビームである場合に対応する前記第1の状態と、夜における前記前照灯がロービームである場合に対応する前記第2の状態とを区別し、前記第1の状態又は前記第2の状態に応じて、第1の虚像についての虚像表示距離を、前記第1の注視点又は前記第2の注視点に対応する距離に切り換え、
又は、
昼に対応する第3の状態での前記ユーザーの視野範囲を第3の注視領域とし、前記第3の注視領域内における前記ユーザーの代表注視点を第3の注視点とし、夜における前記前照灯がハイビームである第4の状態での前記ユーザーの視野範囲を第4の注視領域とし、前記第4の注視領域内における前記ユーザーの代表注視点を第4の注視点とし、夜における前記前照灯がロービームである第5の状態での前記ユーザーの視野範囲を第5の注視領域とし、前記第5の注視領域内における前記ユーザーの代表注視点を第5の注視点とする場合において、
前記虚像表示距離制御部は、前記昼夜判定部の判定結果及び前記ハイビーム/ロービーム検出部の検出結果に基づいて、昼の場合に対応する前記第3の状態と、夜における前記前照灯がハイビームである場合に対応する前記第4の状態と、夜における前記前照灯がロービームである場合に対応する前記第5の状態とを区別し、前記第3の状態又は前記第4の状態又は前記第5の状態に応じて、前記第1の虚像についての虚像表示距離を、前記第3の注視点又は前記第4の注視点又は前記第5の注視点に対応する距離に切り換え
、
前記虚像表示距離制御部は、前記第1/第2の状態、又は、前記第3/第4/第5の状態に応じて、前記第1の画像に対応する第1の虚像についての虚像表示距離を切り換え制御する際に、前記画像表示部の前記表示面に、実景に重畳される重畳コンテンツについての第2の画像が表示されている場合は、前記切り換え制御を実行しないことを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記虚像表示距離制御部は、
前記第1の状態を判定するときは、前記第1の虚像についての虚像表示距離を、前記第1の注視点に対応する第1の距離に設定し、前記第2の状態を判定するときは、前記第1の虚像についての虚像表示距離を、前記第2の注視点に対応し、かつ前記第1の距離よりも短い第2の距離に設定し、
又は、
前記虚像表示距離制御部は、
前記第3の状態を判定するときは、前記第1の虚像についての虚像表示距離を、前記第3の注視点に対応する第3の距離に設定し、前記第4の状態を判定するときは、前記第1の虚像についての虚像表示距離を、前記第4の注視点に対応し、かつ前記第3の距離とは異なる第4の距離に設定し、前記第5の状態を判定するときは、前記第1の虚像についての虚像表示距離を、前記第5の注視点に対応し、かつ前記第3の距離及び前記第4の距離よりも短い第5の距離に設定することを特徴とする請求項
1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記第1のコンテンツは、前記車両の走行速度を示す車速情報、前記車両の走行状態を示す、エンジンの回転数の情報、吸気圧の情報、油圧の情報、燃圧の情報、油温の情報、水温の情報、排気温度の情報、スロットル開度の情報、吸気温の情報の、少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項
1又は
2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記画像表示部の前記表示面における、実空間での鉛直方向に対応する方向を縦方向とし、前記縦方向に直交し、かつ、実空間での前記車両の前方に向かって左右方向に対応する方向を横方向とする場合において、
前記虚像表示距離制御部は、前記第1/第2の状態、又は、前記第3/第4/第5の状態に応じて、前記第1の画像に対応する第1の虚像についての虚像表示距離を切り換え制御する際に、前記画像表示部の前記表示面上での、前記横方向における前記第1の画像のレイアウトを維持して虚像表示距離を変更することを特徴とする請求項
1乃至
3の何れか1項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項5】
前記車両が、前記前照灯の照射方向を、前記ユーザーの操舵操作に応じて適応的に変更する場合において、
前記画像表示部の前記表示面における、実空間での鉛直方向に対応する方向を縦方向とし、前記縦方向に直交し、かつ、実空間での前記車両の前方に向かって左右方向に対応する方向を横方向とするとき、
前記虚像表示距離制御部は、
前記第1/第2の状態、又は、前記第3/第4/第5の状態に応じて、前記第1の画像に対応する第1の虚像についての虚像表示距離を切り換え制御し、
かつ、前記車両情報取得部が取得する、操舵操作に伴って変化する操舵角情報に基づいて、前記ユーザーの視点の移動に対応するように、前記画像表示部の前記表示面における、前記第1の画像の前記横方向の位置を制御する請求項
1乃至
4の何れか1項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項6】
前記虚像表示距離制御部は、前記画像表示部を、所定範囲において振動させることによって前記画像表示部から前記被投影部材までの光路長を周期的に変更し、
前記画像表示部の前記表示面に前記第1の画像が表示されるタイミングが制御されることによって、前記第1の画像に対応する虚像である前記第1の虚像についての前記虚像表示距離が制御されることを特徴とする請求項1
に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項7】
前記虚像表示距離は、m通り(mは3以上の自然数)に変更可能であり、
前記第1の虚像は、実景に重畳する必要がない非重畳コンテンツについての虚像であり、
前記m通りに変更される前記虚像表示距離に対応する虚像表示面を第1~第mの虚像表示面とする場合に、前記画像表示部を所定範囲内で振動させる制御、前記画像表示部の前記表示面における画像の表示タイミングの制御、及び、前記表示タイミングの制御に同期した表示内容の変更制御によって、前記第1~第mの虚像表示面の内の少なくとも2面の各々に、異なる非重畳コンテンツについての虚像の表示が可能であることを特徴とする請求項
6に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項8】
前記虚像表示距離制御部は、昼と夜、又は、前記第1、第2の状態、又は、前記第3、第4、第5の状態に対応して、使用可能な虚像表示面群(少なくとも2以上の虚像表示面を含む)を切り換えることを特徴とする請求項
6又は
7に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載されるヘッドアップディスプレイ(HUD)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドアップディスプレイ装置(以下、HUD装置と称する)は、例えば自動車(主として四輪車)、オートバイ(主として二輪車)等の車両に搭載され、運転に関係する情報等を示す画像を被投影部材(透光性と反射性とを併せ持つウインドシールド(フロントガラス)、コンバイナ等)に投影することで、運転者の前方の実景(例えば前方車両、前方路面等を含む景色)に重ねて虚像を表示することができる車両用表示装置である。必要な情報等が前方等の景色と重ね合わされて表示されることから、運転者は、車両の運転中に大きな視線の移動を行うことなく、必要な情報を効率的に得ることができる。
【0003】
HUD装置が表示するコンテンツには、一例として、実景に重畳するべき重畳コンテンツ(例えば、前方の車両の移動又は動きに応じてその車両位置に重畳される注意喚起マーク)と、実景に重畳する必要のない(対象物の移動又は動きに応じて表示位置を動的に変化させる必要のない)非重畳コンテンツ(例えば、車速情報)と、が含まれる。但し、実景としての路面の傾き(道路勾配)、又はその路面に平行な仮想面に応じて、その路面又は仮想面上に例えば車両情報が動的に重畳される場合には、その車速情報は、重畳コンテンツである。なお、重畳コンテンツ及び非重畳コンテンツは、それぞれ、動的重畳コンテンツ及び非動的(静的)重畳コンテンツと呼ぶこともできる。
【0004】
非重畳コンテンツの虚像、又は車両情報の虚像は、典型的には、ユーザー(運転者等)の運転中に違和感を生じさせないように、又はコンテンツ又は車両情報がどこに表示されているのかを容易に認識させるために、固定位置に表示するのが一般的である。言い換えれば、従来は、非重畳コンテンツの虚像、又は車両情報の虚像は、一例として、被投影部材における虚像表示領域中の固定位置(例えば、下方中央や下方右側等)に表示される。
【0005】
特許文献1には、HUD装置が表示する情報である、通常の第1の情報(車速やエンジンの回転数等の車両情報)と、緊急度又は重要度の高い第2の情報(典型的には、「津波発生」等の緊急放送メッセージ、障害物を報知する情報等)とを区別し、第2の情報に関しては、前照灯のオン・オフに対応させて表示位置(高さ位置)を変更してユーザー(運転者等)の迅速な認知を可能とし、第1の情報に関しては、前照灯のオン・オフに関係なく表示位置を固定(第2の情報が表示されり高さよりも下側)として、実景の視認を優先させて運転者に支障が生じないようにする技術が開示されている(特許文献1の例えば段落[0036]~[0038],[0047]~[0050]、[
図5]~[
図7]等参照)。言い換えれば、この特許文献1においても、車速等の車両情報の表示位置は固定されている。なお、特許文献1における第2の情報は、障害物を報知する情報である場合であっても、表示位置(高さ位置)が前照灯のオン・オフに対応させて固定されている非重畳コンテンツ(障害物の移動又は動きにかかわらず固定されているコンテンツ)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、車速等の車両情報(非重畳コンテンツ又は場合によっては重畳コンテンツであってもよい)は、典型的には、被投影部材の表示領域(虚像を表示可能な領域)中の固定位置にて表示されている。特許文献1では、車速等の第1の情報は、運転者の基準視線(ウインドシールドの中央部付近の高さ)よりも低い表示位置(高さ位置)に、具体的には、ウインドシールドの下側に、固定されている。
【0008】
特許文献1では、緊急度又は重要度の高い第2の情報は、前照灯(ロービーム及びハイビーム)がオフされる時に、ウインドシールドの中央部付近の高さとほぼ同じ表示位置(高さ位置)に固定される一方、ロービーム及びハイビームがオンされる時に、それぞれ、ウインドシールドの中央部付近の高さよりも僅かに低い(高さ位置)及び高い(高さ位置)位置に移動される。しかしながら、第2の情報の表示位置(高さ位置)であっても、第2の情報の虚像と運転者の視点(目)との距離は、ほぼ一定である。言い換えれば、特許文献1の
図4の虚像(緊急情報302)の実空間上の位置(車両前後方向における虚像と運転者との距離)は、ミラーを回転させるだけでは、ほぼ一定である。
【0009】
ところで、運転者が前方の実景から虚像を見るときに、運転者は、目のピント(注視点)を実空間上の実景から虚像に調整する必要がある。特に、運転者が前方の実景を見ているときには、昼における運転者の注視する実空間上の実景位置(車両前後方向における注視実景と運転者との距離)と、夜における運転者の注視する実空間上の実景位置(車両前後方向における注視実景と運転者との距離)とに違いがあることを本発明者らは認識し、したがって、実空間上の虚像位置(車両前後方向における虚像と運転者との距離)がほぼ一定である場合には、昼における虚像へのピント調整と夜における虚像へのピント調整とに違いがあることを本発明者らは認識した。このように運転者の注視点が前方の実景から虚像を切り替わる場合には、運転者の視線の移動が極力低減されるように(言い換えれば、目のピント調整が極力低減されるように)車両情報等の表示情報(コンテンツ)を、より適切な表示距離(虚像表示距離)で表示することが望まれる。特に、車速等の車両情報(非重畳コンテンツ)の表示位置が固定されている特許文献1のHUD装置では、この要求に応えることができない。
【0010】
本発明の1つの目的は、コンテンツの画像を、運転状況に応じて、適切な表示距離で表示できるヘッドアップディスプレイ装置を提供することである。本発明の他の目的は、以下に例示する態様及び最良の実施形態、並びに添付の図面を参照することによって、当業者に明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下に、本発明の概要を容易に理解するために、本発明に従う態様を例示する。
【0012】
第1の態様において、ヘッドアップディスプレイ装置は、
車両に搭載され、画像を、前記車両に備わる被投影部材に投影することで、ユーザーに前記画像の虚像を視認させるヘッドアップディスプレイ装置であって、
車両情報を取得する車両情報取得部と、
外光センサから得られる外光強度情報及び前記車両情報取得部が取得した車両情報の少なくとも一方に基づいて、昼夜を判別する昼夜判定部と、
第1のコンテンツ(例えば、前記車両の前方の実景に重畳する必要のない非重畳コンテンツ)についての第1の画像データを生成する画像生成部と、
前記第1の画像データに対応する第1の画像を表示する表示面を備える画像表示部と、前記第1の画像を示す表示光を反射して、前記被投影部材に投影する光学部材を含む光学系と、
前記ユーザー上又は前記車両上に設定される基準点から前記虚像までの距離を虚像表示距離とする場合に、前記画像表示部から前記被投影部材までの光路長の変更及び前記表示面上における前記第1の画像の表示位置の変更、の少なくとも一方によって、前記第1の画像に対応する虚像である第1の虚像についての虚像表示距離を制御する虚像表示距離制御部と、
を有し、
昼における前記ユーザーの視野範囲を第1の注視領域とし、前記第1の注視領域内における前記ユーザーの代表注視点を第1の注視点とし、夜における前記ユーザーの視野範囲を第2の注視領域とし、前記第2の注視領域内における前記ユーザーの代表注視点を第2の注視点とする場合において、
前記虚像表示距離制御部は、前記昼夜判定部の判定結果が昼であるか夜であるかに応じて、第1の虚像についての虚像表示距離を、前記第1の注視点又は前記第2の注視点に対応する距離に切り換える。
【0013】
第1の態様では、虚像表示距離制御部が、非重畳コンテンツ等の第1のコンテンツの虚像の虚像表示距離を、昼夜判定部の判定結果に応じて、第1の注視点(昼における注視点)/第2の注視点(夜における注視点)の各々に対応する距離に切り換え制御する。ここで、「注視点」は、昼/夜における第1、第2の各注視領域(視野範囲)における代表注視点(例えば、見晴らしがよく、障害物等がなく、警告表示等も表示されていない、最も安定した走行状態において、標準的なユーザーの目のピントが合っていると推定される点)である。本態様によれば、昼又は夜において、車両情報(車速表示等)等の第1のコンテンツが、ユーザーの視線(注視点)に対応して表示されることから、ユーザーは、目の移動やピント調整を最小限に抑えながら、現状の走行状態を把握することができる。また、虚像表示距離の変更は、画像を表示する表示面を備える画像表示部(例えば、画像が投影されるスクリーン、バックライト付きの液晶パネル等の表示装置)から被投影部材(典型的にはウインドシールド)までの光路長(具体的には、例えば、光学系の光軸が表示部の表示面と交わる第1点から、被投影部材と交わる第2点までの光路の長さ)の変更、及び画像表示部の表示面における第1のコンテンツの画像の表示位置の変更の少なくとも一方により行われる。言い換えれば、いずれか単独でもよく、各手法を併用してもよい。虚像の距離が制御されることから、切り換え制御の精度が高くなり、よって、ユーザーの目のピント調整の負担が軽減される。
【0014】
第2の態様において、ヘッドアップディスプレイ装置は、
車両に搭載され、画像を、前記車両に備わる被投影部材に投影することで、ユーザーに前記画像の虚像を視認させるヘッドアップディスプレイ装置であって、
車両情報を取得する車両情報取得部と、
外光センサから得られる外光強度情報及び前記車両情報取得部が取得した車両情報の少なくとも一方に基づいて、昼夜を判別する昼夜判定部と、
前記車両の前照灯がオンされている場合に、前記車両情報取得部が取得した車両情報に基づいて、前記前照灯の状態がハイビーム状態であるか、ロービーム状態であるかを判別するハイビーム/ロービーム検出部と、
第1のコンテンツ(例えば、前記車両の前方の実景に重畳する必要のない非重畳コンテンツ)についての第1の画像データを生成する画像生成部と、
前記第1の画像データに対応する第1の画像を表示する表示面を備える画像表示部と、
前記第1の画像を示す表示光を反射して、前記被投影部材に投影する光学部材を含む光学系と、
前記ユーザー上又は前記車両上に設定される基準点から前記虚像までの距離を虚像表示距離とする場合に、前記画像表示部から前記被投影部材までの前記光路長の変更及び前記表示面上における前記第1の画像の表示位置の変更、の少なくとも一方によって、前記第1の画像に対応する虚像である第1の虚像についての虚像表示距離を制御する虚像表示距離制御部と、
を有し、
昼に対応する第1の状態、又は夜における前記前照灯がハイビームである第1の状態での前記ユーザーの視野範囲を第1の注視領域とし、前記第1の注視領域内における前記ユーザーの代表注視点を第1の注視点とし、夜における前記前照灯がロービームである第1の状態での前記ユーザーの視野範囲を第2の注視領域とし、前記第2の注視領域内における前記ユーザーの代表注視点を第2の注視点とする場合において、
前記虚像表示距離制御部は、前記昼夜判定部の判定結果及び前記ハイビーム/ロービーム検出部の検出結果に基づいて、昼の場合又は夜における前記前照灯がハイビームである場合に対応する前記第1の状態と、夜における前記前照灯がロービームである場合に対応する前記第2の状態とを区別し、前記第1の状態又は前記第2の状態に応じて、第1の虚像についての虚像表示距離を、前記第1の注視点又は前記第2の注視点に対応する距離に切り換え、
又は、
昼に対応する第3の状態での前記ユーザーの視野範囲を第3の注視領域とし、前記第3の注視領域内における前記ユーザーの代表注視点を第3の注視点とし、夜における前記前照灯がハイビームである第4の状態での前記ユーザーの視野範囲を第4の注視領域とし、前記第4の注視領域内における前記ユーザーの代表注視点を第4の注視点とし、夜における前記前照灯がロービームである第5の状態での前記ユーザーの視野範囲を第5の注視領域とし、前記第5の注視領域内における前記ユーザーの代表注視点を第5の注視点とする場合において、
前記虚像表示距離制御部は、前記昼夜判定部の判定結果及び前記ハイビーム/ロービーム検出部の検出結果に基づいて、昼の場合に対応する前記第3の状態と、夜における前記前照灯がハイビームである場合に対応する前記第4の状態と、夜における前記前照灯がロービームである場合に対応する前記第5の状態とを区別し、前記第3の状態又は前記第4の状態又は前記第5の状態に応じて、前記第1の虚像についての虚像表示距離を、前記第3の注視点又は前記第4の注視点又は前記第5の注視点に対応する距離に切り換える。
【0015】
第2の態様では、第1の態様の構成に加えて、前照灯の状態がハイビーム状態であるか、ロービーム状態であるかを判別するハイビーム/ロービーム検出部が設けられる。本態様では、虚像表示距離制御部は、昼である第1の状態又は夜における前照灯がハイビームである第1の状態と、夜における前照灯がロービームである第2の状態とを区別し、又は、昼である第3の状態と、夜における前照灯がハイビームである第4の状態と、夜における前照灯がロービームである第5の状態とを区別し、第1/第2の各状態に応じて、又は、第3/第4/第5の各状態に応じて、虚像表示距離を、第1/第2の各注視点に対応する距離、又は第1/第2/第3の各注視点に対応する距離に切り換える。ここで、第1乃至第5の各注視点は、第1乃至第5の各状態における注視領域におけるユーザーの代表注視点であり、各注視領域内において一義的に定められる。第2の態様にて得られる効果は、第1の態様と同様であるが、前照灯の状態を考慮した場合分けをしていることから、夜間において、前照灯のハイビーム状態/ロービーム状態に応じて、例えば非重畳コンテンツである第1のコンテンツの虚像についての虚像表示距離が切り換えられ、よって、虚像表示距離の切り換え制御の精度を、より高めることができる。
【0016】
第2の態様に従属する第3の態様において、
前記虚像表示距離制御部は、
前記第1の状態を判定するときは、前記第1の虚像についての虚像表示距離を、前記第1の注視点に対応する第1の距離に設定し、前記第2の状態を判定するときは、前記第1の虚像についての虚像表示距離を、前記第2の注視点に対応し、かつ前記第1の距離よりも短い第2の距離に設定してもよく、
又は、
前記虚像表示距離制御部は、
前記第3の状態を判定するときは、前記第1の虚像についての虚像表示距離を、前記第3の注視点に対応する第3の距離に設定し、前記第4の状態を判定するときは、前記第1の虚像についての虚像表示距離を、前記第4の注視点に対応し、かつ前記第3の距離とは異なる第4の距離に設定し、前記第5の状態を判定するときは、前記第1の虚像についての虚像表示距離を、前記第5の注視点に対応し、かつ前記第3の距離及び前記第4の距離よりも短い第5の距離に設定してもよい。
【0017】
ユーザーは、夜間には、遠方の視認性が悪いため、前照灯が照らしている路面近傍(言い換えれば、前照灯の照射エリア近傍)を注視する傾向が強く、よってロービーム時における視点は、比較的車両に近い側にあり、一方、昼間及び夜間のハイビーム時には、遠方や周囲の視認性が良いため、ユーザーは、周辺視野を含めて前方風景の全体を捉えるべく、夜間と比較して遠方を注視する傾向があり、よって、このときの視点は、比較的車両から遠い側(奥側)にある。また、夜間のハイビーム時と昼間は、ユーザーが比較的遠方を注視する傾向がある点で共通するが、視点の位置が必ずしも一致するとは限らず、昼間と夜間のハイビーム時とを区別した方がよい場合もあり得る。そこで、第3の態様では、虚像表示距離制御部は、昼、及び夜における前照灯がハイビームの場合/夜におけるロービームの場合に対応させて、虚像表示距離を、第1/第2の距離(第2の距離は第1の距離よりも短い)に切り換え制御し、又は、昼の場合/夜におけるハイビームの場合/夜におけるロービームの場合の各場合に対応させて、虚像表示距離を、第3/第4/第5の各距離(第3/第4の距離は異なる値であり、第5の距離は、第3/第4の距離よりも短い)に切り換え制御する。これにより、各状態における注視点に対応させて、例えば非重畳コンテンツである第1のコンテンツについての虚像表示距離を精度よく切り換えることができる。
【0018】
第2又は第3の態様に従属する第4の態様において、
前記第1のコンテンツ(例えば非重畳コンテンツ)は、前記車両の走行速度を示す車速情報、前記車両の走行状態を示す、エンジンの回転数の情報、吸気圧の情報、油圧の情報、燃圧の情報、油温の情報、水温の情報、排気温度の情報、スロットル開度の情報、吸気温の情報の、少なくともいずれか一つを含んでもよい。
【0019】
車速、エンジンの回転数、吸気圧、油圧、燃圧、油温、水温、排気温度、スロットル開度、吸気温等の車両情報は、走行状態を示す情報としてユーザーに有用である。そこで、第3の態様では、上記に例示される情報のうちの少なくとも一つを含む例えば非重畳コンテンツを切り換え制御の対象としている。なお、例えば、競技車両においては、各種の車両情報を、ユーザーの視点の移動やピント調整を少なくしつつ、効果的に表示するのがよい場合も想定される。
【0020】
第2乃至第4の何れか1つの態様に従属する第5の態様において、
前記虚像表示距離制御部は、前記第1/第2の状態、又は、前記第3/第4/第5の状態に応じて、前記第1の画像に対応する第1の虚像についての虚像表示距離を切り換え制御する際に、前記画像表示部の前記表示面に、実景に重畳される重畳コンテンツについての第2の画像が表示されている場合は、前記切り換え制御を実行しないようにしてもよい。
【0021】
第5の態様では、実景に重畳される重畳コンテンツ(例えば、前方の車両に重畳される注意喚起マーク)の虚像が表示されている状況では、例えば非重畳コンテンツである第1のコンテンツの虚像についての虚像表示距離の切り換え制御は実行しないようにしている。ユーザーが重畳コンテンツの虚像を注視する状況で、第1乃至第4の態様における切り換え制御を実行すると、ユーザーに、視点の変動を強要することになり、好ましくないことから、注視点の競合が生じる場合には、切り換え制御を実行しないようにするものである。
【0022】
第2乃至第5の何れか1つの態様に従属する第6の態様において、
前記画像表示部の前記表示面における、実空間での鉛直方向に対応する方向を縦方向とし、前記縦方向に直交し、かつ、実空間での前記車両の前方に向かって左右方向に対応する方向を横方向とする場合において、
前記虚像表示距離制御部は、前記第1/第2の状態、又は、前記第3/第4/第5の状態に応じて、前記第1の画像に対応する第1の虚像についての虚像表示距離を切り換え制御する際に、前記画像表示部の前記表示面上での、前記横方向における前記第1の画像のレイアウトを維持して虚像表示距離を変更してもよい。
【0023】
第6の態様では、虚像表示距離の切り換え制御を行う際に、切り換えの前後で、レイアウトが変更されないようにして、ユーザーに、極力違和感を与えないようにする。例えば、画像表示部の表示面の下方の中央に第1のコンテンツ(例えば非重畳コンテンツ)の画像が表示されている場合には、その画像の左には第1のスペースが存在し、右には第2のスペースが存在するはずであり、つまり、横方向に関して、左側から、左スペース、画像、右スペースとなるレイアウトが形成されているものと把握できる。よって、切り換え制御後においても、横方向におけるレイアウトが、画像表示部の表示面上で維持されるようにする。また、例えば、画像表示部の表示面の下方の中央付近に、道路の速度制限値、車速、の各情報が並列に、近接して表示されている場合は、切り換え制御後においても、その横方向のレイアウト(つまり、各情報の横方向における位置、及び、各情報の相互の位置関係)が維持されるようにする。
【0024】
第2乃至第6の何れか1つの態様に従属する第7の態様において、
前記車両が、前記前照灯の照射方向を、前記ユーザーの操舵操作に応じて適応的に変更する場合において、
前記画像表示部の前記表示面における、実空間での鉛直方向に対応する方向を縦方向とし、前記縦方向に直交し、かつ、実空間での前記車両の前方に向かって左右方向に対応する方向を横方向とするとき、
前記虚像表示距離制御部は、
前記第1/第2の状態、又は、前記第3/第4/第5の状態に応じて、前記第1の画像に対応する第1の虚像についての虚像表示距離を切り換え制御し、
かつ、前記車両情報取得部が取得する、操舵操作に伴って変化する操舵角情報に基づいて、前記ユーザーの視点の移動に対応するように、前記画像表示部の前記表示面における、前記第1の画像の前記横方向の位置を制御してもよい。
【0025】
第7の態様では、上記のように虚像表示距離を切り換え制御し、さらに、操舵操作に伴って変化する操舵角情報に基づいて、ユーザーの視点の移動に対応するように、例えば非重畳コンテンツについての第1の画像の、画像表示部の表示面における横方向の位置を、例えば切り換え制御し、これによって、ユーザーが、より少ない視点の移動及びピント調整で、第1の画像を視認できるようにする。よって、ユーザーの目の負担がさらに軽減される。
【0026】
第1又は第2の態様に従属する第8の態様において、
前記画像生成部は、前記第1のコンテンツについての前記第1の画像データの他に、第2のコンテンツについての第2の画像データも生成してもよく、
前記画像表示部は、前記第1の画像データに対応する前記第1の画像を表示する前記表示面の他に、前記第2の画像データに対応する前記第2の画像を表示する他の表示面を有してもよく、
前記光学系は、前記第1の画像を示す表示光を反射し、かつ前記第2の画像を表示する表示光を反射して、前記被投影部材に投影してもよく、
前記第2の画像に対応する虚像である第2の虚像についての虚像表示距離は、前記第1の画像に対応する虚像である前記第1の虚像についての前記虚像表示距離よりも長く、かつ、前記虚像表示距離制御部は、前記第2の虚像についての前記虚像表示距離については、前記昼夜判定部の判定結果に基づく制御、又は、前記昼夜判定部の判定結果及び前記ハイビーム/ロービーム検出部の検出結果に基づく制御を実行しないものであってもよい。
【0027】
第8の態様では、2面の虚像表示面を有するHUD装置(2面HUD、あるいは2レイヤーHUD)において、ユーザーから見て、より遠方に表示される第2の虚像(言い換えれば、虚像表示距離が、第1の虚像よりも長い第2の虚像)については、昼夜判定部の判定結果に基づく制御、又は、昼夜判定部の判定結果及びハイビーム/ロービーム検出部の検出結果に基づく制御(言い換えれば、虚像表示距離の切り換え制御)の対象とせず、虚像表示距離の切り換え制御は、ユーザーから見て、より近くに表示される第1の虚像(言い換えれば、虚像表示距離が、第2の虚像よりも短い第1の虚像)のみ行うこととしている。2面(2レイヤー)HUD装置では、例えば、ユーザーから見て、より遠方の位置に、広い範囲の実景に対応する大きな虚像表示面を設定して、この虚像表示面に、例えば、実景に重畳する必要がある重畳コンテンツ(例えば、前方の車両に重畳される注意喚起マーク)についての第2の虚像を表示し、一方、より近い位置に、比較的小さな虚像表示面を設定し、この虚像表示面に、例えば、実景に重畳する必要のない非重畳コンテンツ(例えば、車速表示等の情報)についての第1の虚像を表示することで、各情報をはっきりと区別して、立体感を持たせて表示することができる。この2面(2レイヤー)HUD装置の第1の虚像に関して、昼夜等の区別に応じた虚像表示距離の切り換え制御を採用することで、ユーザーが第1の虚像を視認する場合のピント調整(ピント合わせ)の負担が軽減され、運転時の負荷を軽くすることが可能となる。よって、2面(2レイヤー)HUD装置の利便性が向上する。
【0028】
第8の態様に従属する第9の態様において、
前記第1の虚像は、実景に重畳する必要がない非重畳コンテンツについての虚像であり、前記第2の虚像は、実景に重畳する必要がある重畳コンテンツについての虚像であってもよい。
【0029】
第9の態様では、実景に重畳する重畳コンテンツ(例えば、前方の車両に重畳される注意喚起マーク)についての第2の虚像と、実景に重畳する必要のない非重畳コンテンツ(例えば、車速表示等の情報)についての第1の虚像とを、はっきりと区別して、立体感を持たせて表示することができ、かつ、第1の虚像に関して、昼夜等の区別に応じた虚像表示距離の切り換え制御を採用することで、ユーザーが第1の虚像を視認する場合のピント調整(ピント合わせ)の負担を軽減することができる。よって、運転時の負荷を軽くすることが可能となり、2面(2レイヤー)HUD装置の利便性の向上を図ることができる。
【0030】
第1又は第2の態様に従属する第10の態様において、
前記虚像表示距離制御部は、前記画像表示部を、所定範囲において振動させることによって前記画像表示部から前記被投影部材までの光路長を周期的に変更してもよく、
前記画像表示部の前記表示面に前記第1の画像が表示されるタイミングが制御されることによって、前記第1の画像に対応する虚像である前記第1の虚像についての前記虚像表示距離が制御されてもよい。
【0031】
第10の態様では、多面の虚像表示面を設定可能なHUD(多面HUD、あるいはマルチレイヤーHUD)装置において、虚像表示距離の切り換え制御を実行する。多面(マルチレイヤー)HUD装置では、第1の虚像を表示可能な虚像表示面が多面化(マルチレイヤー化)されることから、虚像表示距離を、より自在に変更することができ、更に奥行き感のある立体的な表示が可能である。また、表示対象の物体(オブジェクト)のサイズや高さを、適宜、変更して遠近感を持たせたり、物体の表示位置を調整したり、物体に奥行きを持たせて立体化したり、物体に影をつけたり、斜視表現を採用したり、物体の質感を緻密に表現したりする、といった、幾何学的な立体装飾処理(以下、単に、立体装飾と称する場合がある)を施すことで、よりリアルな3D表示が可能となる。この多面(マルチレイヤー)HUD装置における第1の虚像に関して、昼夜等の区別に応じた虚像表示距離の切り換え制御を採用することで、ユーザーが第1の虚像を視認する場合のピント調整(ピント合わせ)の負担が軽減され、運転時の負荷を軽くすることが可能となる。よって、多面(マルチレイヤー)HUD装置の利便性が向上する。
【0032】
第10の態様に従属する第11の態様において、
前記虚像表示距離は、m通り(mは3以上の自然数)に変更可能であってもよく、
前記第1の虚像は、実景に重畳する必要がない非重畳コンテンツについての虚像であってもよく、
前記m通りに変更される前記虚像表示距離に対応する虚像表示面を第1~第mの虚像表示面とする場合に、前記画像表示部を所定範囲内で振動させる制御、前記画像表示部の前記表示面における画像の表示タイミングの制御、及び、前記表示タイミングの制御に同期した表示内容の変更制御によって、前記第1~第mの虚像表示面の内の少なくとも2面の各々に、異なる非重畳コンテンツについての虚像の表示が可能であってもよい。
【0033】
第11の態様では、多面(マルチレイヤー)HUD装置は、虚像表示距離をm通り(mは3以上の自然数)に変更でき、画像表示部の振動制御と、表示タイミングの制御と、表示タイミングの制御に同期した表示内容の変更制御と、を併用する(組み合わせる)ことで、少なくとも2面の虚像表示面の各々に、異なる非重畳コンテンツについての虚像の表示が可能である。例えば、m=45(なお、mの値が大きくなるほどユーザーから遠い虚像面となる)の場合、例えば、m=1の虚像表示面に、「55km/h」というような車速表示を行い、m=30の虚像表示面に、「二重丸と組み合わせた60の表示」をすることで、通行中の道路の制限速度の表示をなすことができる。車速と、道路の制限速度と、を異なる虚像表示距離の虚像表示面に表示することで、立体的な表示(立体的なAR表示)が可能である。但し、立体的な表示がされる分、ユーザーの目の負担は大きくなるのは否めない。ここで、昼夜等の区別に応じた虚像表示距離の切り換え制御を採用することで、ユーザーが虚像を視認する場合のピント調整(ピント合わせ)の負担が軽減され、よって、運転時の負荷の軽減が実現される。
【0034】
第10又は第11の態様に従属する第12の態様において、
前記虚像表示距離制御部は、昼と夜、又は、前記第1、第2の状態、又は、前記第3、第4、第5の状態に応じて、使用可能な虚像表示面群(少なくとも2以上の虚像表示面を含む)を切り換えてもよい。
【0035】
第12の態様では、多面(マルチレイヤー)HUD装置において、昼夜等の区別に応じた虚像表示距離の切り換え制御を行う際、まず、昼、夜等の各状態に応じて、虚像表示面群を切り換えるという制御を実行する。この場合、切り換えられた後の虚像表示面群に含まれる虚像表示面を、適宜、選択して虚像が表示されることになる。使用可能な虚像表示面群の切り換えを行うことで、使用可能な虚像表示面の範囲(虚像表示面の数、位置等)を簡単に絞り込むことができ、実際に使用する虚像表示面の選択の負担が軽減され、また、絞り込みがなされることで、虚像を表示するための処理(画像表示部における画像表示のタイミング調整等)の処理が容易となり、虚像表示距離制御部の負担が軽減される。
【0036】
当業者は、例示した本発明に従う態様が、本発明の精神を逸脱することなく、さらに変更され得ることを容易に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明のヘッドアップディスプレイ(HUD)装置の一例における全体の概略構成を示す図である。
【
図2】虚像表示距離の一例について説明するための図である。
【
図3】虚像表示距離を制御可能な通常のHUD装置の、要部の構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4(a)は、虚像表示距離を制御可能な路面重畳HUD装置の、要部の構成の一例を示す図であり、
図4(b)は、虚像の位置の変更によって虚像表示距離が変化する様子を示す図である。
【
図5】
図5(a)は、昼のときの注視領域及び注視点の例を示す図、
図5(b)は、夜における前照灯がハイビームのときの注視領域及び注視点の例を示す図、
図5(c)は、夜における前照灯がロービームのときの注視領域及び注視点の例を示す図、である。
【
図6】
図6(a)乃至(c)の各々は、
図3の構成を用いて、虚像表示距離を、
図5(a)乃至(c)の各々における注視点に対応させて切り換え制御する場合の虚像の表示例を示す図である。
【
図7】
図7(a)乃至(c)の各々は、
図4の構成を用いて、虚像表示距離を、
図5(a)乃至(c)の各々における注視点に対応させて切り換え制御する場合の虚像の表示例を示す図である。
【
図8】
図8(a)及び(b)は、虚像表示距離の切り換え制御を実行しない場合の一例を示す図であり、
図8(c)は、非重畳コンテンツとして、複数の種類の情報が横一列に配置されている例を示す図である。
【
図9】虚像表示距離を制御可能なヘッドアップディスプレイ(HUD)装置の、主要な動作手順の一例を示すフロー図である。
【
図10】
図10(a)は、操舵操作に伴って変化する操舵角情報に基づいて虚像の横方向の位置が制御される例における、位置変更前の注視点の位置を示す図であり、
図10(b)は、位置変更前の虚像の表示位置を示す図であり、
図10(c)は、位置変更後の注視点の位置を示す図であり、
図10(d)は、位置変更後の虚像の表示位置を示す図である。
【
図11】
図11(a)は、2面(2レイヤー)HUD装置の虚像表示例を示す図であり、
図11(b)は、2面(2レイヤー)HUD装置の要部の構成例を示す図である。
【
図12】
図12(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、
図11の2面(2レイヤー)HUD装置における、夜間(夜間ロービーム)状態、昼間状態及び夜間ハイビーム状態における虚像表示例を示す図である。
【
図13】
図13(a)は、多面(マルチレイヤー)HUD装置の虚像表示例を示す図であり、
図13(b)は、多面(マルチレイヤー)HUD装置の要部の構成例を示す図であり、
図13(c)は、スクリーン及びレンズの位置を制御する位置制御信号と、スクリーンの表示面における画像表示タイミングとの関係(同期関係)の一例を示す図である。
【
図14】
図14(a)は、
図13の多面(マルチレイヤー)HUD装置における虚像表示面の設定例を示す図であり、
図14(b)、(c)及び(d)は、それぞれ、夜間(夜間ロービーム)状態、昼間状態及び夜間ハイビーム状態において使用可能な虚像表示面群の例を示す図である。
【
図15】
図15(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、多面(マルチレイヤー)HUD装置における、夜間(夜間ロービーム)状態、昼間状態、夜間ハイビーム状態における虚像表示例を示す図であり、
図15(d)は、車両の走行中における虚像(車速を示す虚像、及び道路の制限速度を示す虚像)の、奥行き感を持たせた表示例を示す図である。
【
図16】
図16(a)は、多面(マルチレイヤー)HUD装置で、道路の制限速度の変更を予告する虚像を、遠方に、現在の制限速度の表示とは異なる態様で表示した例を示す図であり、
図16(b)は、車両の進行に伴い、制限速度の変更を予告する虚像がダイナミックに接近してくる様子を示す図であり、
図16(c)は、予告されていた制限速度が、現在の制限速度として表示された様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に説明する最良の実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、当業者は、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
【0039】
図1は、本発明のヘッドアップディスプレイ(HUD)装置の一例における全体の概略構成を示す図である。HUD装置100は、車両(ここでは四輪の自動車とする)10に搭載され、画像(言い換えれば画像の表示光)を、車両10に備わる被投影部材(典型的には、透光性と反射性とを併せ持つウインドシールド)6に投影することで、ユーザー(典型的には、運転者)に、画像の虚像(例えば、路面2に垂直である虚像表示面400a上の虚像V(a)、又は路面2に平行である虚像表示面400b上の虚像V(b))を視認させる車両表示装置である。ユーザーの前方の実景(例えば前方車両、前方路面等を含む景色)に重ねて虚像を表示することができることから、ユーザーは、車両の運転中に大きな視線の移動を行うことなく、必要な情報を効率的に得ることができる。なお、
図1において、ユーザーの視点を符号Aで示している。
【0040】
HUD装置100が表示するコンテンツには、一例として、実景に重畳するべき重畳コンテンツ(例えば、前方の車両に重畳される注意喚起マーク)と、実景に重畳する必要のない非重畳コンテンツ(例えば、車速情報等の車両の走行状態を示す車両情報)と、が含まれる。なお、重畳コンテンツ及び非重畳コンテンツは、それぞれ、動的重畳コンテンツ及び非動的(静的)重畳コンテンツと呼ぶこともできる。
【0041】
従来、車速等の車両情報(非重畳コンテンツ)は被投影部材6の表示領域(虚像を表示可能な領域であり、
図1では不図示であるが、例えば
図5において、参照符号11で示されている)中の固定位置にて表示される。ところで、ユーザーが前方の実景から虚像(例えば車両情報)を見るときに、ユーザーは、目のピントを実空間上の実景から虚像に調整する必要がある。言い換えれば、運転中、ユーザーは、常に実景(又は虚像)だけを見て運転するのではなく、必要に応じて虚像(又は実景)を見ることとなる。特に、ユーザーが前方の実景を見ているときには、昼におけるユーザーの注視する実空間上の実景位置(車両前後方向における注視実景とユーザー(視点A)との距離)と、夜におけるユーザーの注視する実空間上の実景位置(車両前後方向における注視実景とユーザー(視点A)との距離)とに違いがあることを本発明者らは認識し、したがって、実空間上の虚像位置(車両前後方向における虚像とユーザー(視点A)との距離)がほぼ一定である場合には、昼における虚像へのピント調整と夜における虚像へのピント調整とに違いがあることを本発明者らは認識した。このようにユーザーの注視点(ピント)が前方の実景から虚像に切り替わる場合には、ユーザーの視線(注視点)の移動が極力低減されるように(言い換えれば、目のピント調整が極力低減されるように)車両情報(車速等)の表示情報(コンテンツ)を、より適切な表示距離(虚像表示距離)で表示するのが望ましい。
【0042】
図1のHUD装置100は、上記のような状況に柔軟に対応できるようにするために、昼及び夜を区別することができる。より具体的には、1例として、HUD装置100は、昼の場合又は夜における前照灯がハイビームの場合(第1の状態)、及び、夜における前照灯がロービームの場合(第2の状態)を区別することができる。代替的に、HUD装置100は、昼の場合(第3の状態)、及び、夜における前照灯がハイビームの場合(第4の状態)、及び、夜における前照灯がロービームの場合(第5の状態)を区別することができる。HUD装置100は、区別又は判定の結果に基づき、例えば車速等のコンテンツについての虚像表示距離を、上記の各場合(各状態)における注視点に対応させて切り換え制御することが可能な構成を備えている。なお、注視点については、後述する。
【0043】
図1のHUD装置100は、例えば、車両10のダッシュボード4の内部に収納されており、制御部30と、投光部42と、必要に応じて設けられるレンズ44と、画像を表示する表示面47を備える、画像表示部としてのスクリーン46と、画像を示す表示光5を反射して、被投影部材6に投影する光学部材(
図1では不図示、
図3、
図4における凹面鏡49)を含む光学系48と、を有する。
【0044】
制御部30は、車両10に備わるECU(Electronic Control Unit)150から例えばCAN等の車載ネットワークを構成する信号線(バス)8を経由して取得する車両情報取得部14と、車両10に備わる外光センサ12から得られる外光強度情報及び車両情報取得部14が取得した車両情報(典型的には、前照灯3の状態)の少なくとも一方に基づいて昼夜を判別する昼夜判定部16と、車両10の前照灯3がオンされている場合に、車両情報取得部14が取得した車両情報に基づいて、前照灯3の状態がハイビーム状態であるか、ロービーム状態であるかを判別するハイビーム/ロービーム検出部18と、車両の前方の実景に重畳する必要のない非重畳コンテンツについての第1の画像データ、および実景に重畳される重畳コンテンツについての第2の画像データを生成する画像生成部20と、投光部42の動作を制御する投光制御部22と、虚像表示距離制御部24と、を有する。なお、当業者は、各コンテンツをAR(Augmented Reality)コンテンツと呼んでもよい。
【0045】
画像表示部46は、
図1の例では、投光部42によって投光された画像が、表示面47に結像されるスクリーン46により構成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、バックライト付きの液晶表示装置等の表示パネルであってもよい。表示パネルを用いる場合は、投光部42及び投光制御部22は不要であり、代わりに、画像表示制御部が設けられる。画像表示部(画像が投影されるスクリーン46、又は、バックライト付きの液晶パネル等の表示装置の表示パネル)の表示面47には、非重畳コンテンツについての第1の画像データに対応する第1の画像、及び重畳コンテンツについての第2の画像データに対応する第2の画像が表示される。
【0046】
虚像表示距離制御部24は、第1の画像についての虚像V(a)、又は虚像V(b)についての虚像表示距離を切り換え制御することができる。ここで、虚像V(a)は、路面2に平行でない虚像表示面400a上に、例えば立像の虚像(水平な路面に対して45度~90度の角度をなす虚像)を表示する、通常のHUD装置においてユーザーに視認される虚像であり、虚像V(b)は、路面2上に、又は路面2にほぼ平行な仮想面上に、虚像表示面400bが設定される、いわゆる路面重畳HUD装置においてユーザーに視認される虚像である。
【0047】
次に、「虚像表示距離」について説明する。
図1の場合、虚像表示距離は、符号La、Lbで示されている。「虚像表示距離」は、ユーザー上に設定される基準点又は車両10上に設定される基準点から虚像V(a)(又はV(b))までの距離である。
【0048】
ユーザー側に設けられる基準点は、例えば、ユーザーの両目の中心点等の視点A、又は視点Aに対応する車内空間の点等の例えば一点とすることができ、運転席または被投影部材(ウインドシールド等)6に設定される点としてもよい。
【0049】
また、ユーザー側の基準点から虚像V(a)(V(b))までの距離(見かけ上の距離)は、正確には、虚像上にも基準点を設定し、その虚像上の基準点を、ユーザー側の基準点を原点とする3次元極座標(ri,θi,φi)により表すことで定義することができる。なお、偏角θiは、車両の前方の座標軸(
図1におけるZ軸)を基準とした左右方向における角度であり、偏角φiは、鉛直方向における角度である。言い換えれば、3次元極座標系の偏角(θi,φi)は虚像の方向を示しており、そして、3次元極座標系の動径riが虚像表示距離を示す。
【0050】
但し、虚像位置を3次元極座標で表すと虚像距離riの等しい面は球面となるが、車両用のHUD装置では、虚像方向が一定の範囲(車両の前方)に制限されており、虚像表示距離の等しい面を平面で近似することができ、また、HUD装置では、虚像表示面が平面となるように光学的に工夫されているものが多い。したがって、以下の説明では、
図2に示されるように、虚像表示距離の等しい面を平面として扱うこととする。
【0051】
ここで、
図2を参照する。車両の進行方向がZ軸であり、z=ri(
図2では、ri=10m、20m)の平面を、虚像距離riの表示面(言い換えれば、虚像表示面400a1、400a2)としている。そして、この虚像表示面400a1、400a2上に、車速等の、非重畳コンテンツとしての車両情報についての第1の画像の虚像が表示される。
図2では、車速が「55km/h」と表示されている。
【0052】
なお、
図1において、路面2上に虚像表示面400bがある場合には、虚像V(b)上に基準点を設け、この基準点を通り、かつ路面に垂直な仮想的な面を想定し、その面までの距離(水平距離)を虚像表示距離Lbとする。また、
図1では、虚像表示面400aは、路面2に対して垂直であるが、路面2に対して例えば、所定の角度(立像の場合は45度~90度の範囲)で傾いている場合もあり得る。この場合も、虚像V(a)に基準点を設け、この基準点を通り、かつ路面に垂直な仮想的な面を想定し、その面までの距離(水平距離)を虚像表示距離Laとする。なお、上記の説明は一例であり、虚像表示距離を規定する方法として、他の方法を採用してもよい。
【0053】
次に、
図3、
図4を参照して、虚像表示距離の切り換え制御について、具体的に説明する。なお、
図3及び
図4において、
図1と共通する部分には同じ符号を付してある。まず、
図3を参照する。
図3は、虚像表示距離を制御可能な、通常のHUD装置(非路面重畳HUD)装置の、要部の構成の一例を示す図である。
【0054】
図3のHUD装置100は、一例として、例えば非重畳コンテンツの画像データである第1の画像データ(及び例えば重畳コンテンツの画像データである第2の画像データ)を生成する画像生成部20と、投光制御部22と、虚像表示距離制御部24と、投光部42と、レンズ44と、画像が表示される表示面47を有するスクリーン46と、光学系48に含まれる光学部材としての凹面鏡49と、レンズ駆動部51と、スクリーン駆動部53と、を有する。レンズ駆動部51は、レンズ44をz軸に沿う方向に移動させ、スクリーン駆動部53は、スクリーン46をz軸に沿う方向に移動させる。虚像表示距離制御部24は、レンズ駆動部51及びスクリーン駆動部53に制御信号を出力して、レンズ44及びスクリーン46を連動させて移動させる。
【0055】
レンズ44及びスクリーン46が移動されると、画像表示部としてのスクリーン46から被投影部材(典型的にはウインドシールド)6までの光路の光路長が変化する。ここで、「光路長」は、光学系48の光軸(言い換えれば、光学系48に含まれる光学部材である凹面鏡49の光軸であり、これはHUD装置の光軸ともいえる:
図3中、一点鎖線の直線で示される符号P)が、画像表示部としてのスクリーン46の表示面47と交わる第1点W1から、被投影部材6と交わる第2点W2までの光路の長さである。この光路長が変更されることで、虚像表示距離は、例えば、距離Laから距離La’へと変更される。
【0056】
また、虚像表示面400a(400a’)が路面2に対して傾斜している場合は、傾斜面である虚像表示面400a(400a’)上における虚像の位置が、上下方向(
図3の例ではy軸方向)に沿って移動されることによっても、虚像表示距離を微調整することができる。言い換えれば、画像表示部としてのスクリーン46の表示面47に表示される画像Mの上下方向における位置が変更されることによっても、虚像表示距離を調整することができる。この場合は、虚像表示距離制御部24が、画像生成部20に指示して、画像データ(ここでは非重畳コンテンツについての第1の画像データ)の生成時に、画像の位置を変更させる。このように、虚像表示距離の変更は、光路長の変更、及び画像表示部(ここではスクリーン46)の表示面47における画像の表示位置の変更、の少なくとも一方により行われ得る。言い換えれば、いずれか単独でもよく、各手法を併用してもよい。虚像が表示される距離が制御されることから、切り換え制御の精度が高くなり、よって、ユーザーの目のピント調整の負担が軽減される。
【0057】
次に、
図4を参照する。
図4(a)は、虚像表示距離を制御可能な路面重畳HUD装置の、要部の構成の一例を示す図であり、
図4(b)は、虚像の位置の変更によって虚像表示距離が変化する様子を示す図である。
図4(a)に示されるように、路面重畳HUD装置は、鉛直方向(y軸方向)を基準として、所定の角度だけ傾斜したスクリーン46を備えている。路面重畳HUD装置は、通常は、画像表示部としての傾斜したスクリーン46を移動させる機構は有していない。よって、この場合は、スクリーン46の表示面47上で画像Mのy軸方向における位置を変更することによって、虚像表示距離を変更することになる。但し、傾斜したスクリーンを移動させる機構を有する場合は、
図3の例と同じように、スクリーン46の移動によって虚像表示距離を変更することができ、また、スクリーン46の移動と、画像Mの表示面47上における位置の変更との併用によっても、虚像表示距離を変更することができる。
【0058】
図4(a)において、傾斜したスクリーン46の表示面47上での画像Mの、上下方向に沿う位置の変更は、破線の双方向の矢印で示されている。この画像Mの位置の変更によって、
図4(b)に示される、路面2に設定される虚像表示面400b上で、例えば、虚像V(b)が、虚像V(b)’の位置まで移動することになり、この場合、虚像表示距離Lbが、虚像表示距離Lb’へと変更されることになる。
【0059】
次に、
図5乃至
図8を用いて、非重畳コンテンツについての虚像の虚像表示距離を変更する場合の具体的な態様について説明する。まず、
図5(a)乃至(c)を参照する。
図5(a)乃至(c)においては、ユーザーの「注視領域」及び「注視点」の、運転環境による変動の一例が示されている。
【0060】
上述のとおり、本発明では、運転環境(昼夜を含む)を表すいくつかの場合を区別し、各場合に応じてユーザーの視野範囲である注視領域を想定し、その注視領域内で、代表注視点である注視点を想定し、その注視点に対応するように、虚像表示距離を切り換え制御する。なお、代表注視点は、一例であるが、見晴らしがよく、障害物等がなく、警告表示等も表示されていない、最も安定した走行状態において、標準的なユーザーの目のピントが合っていると推定される注視点とすることができる。注視点は、注視領域内において一義的に定められる仮想的な注視点ということができる。
【0061】
場合分けの態様としては、昼及び夜を区別するものが考えられる。一例として、より具体的には、昼の場合又は夜における前照灯がハイビームの場合(第1の状態)、及び夜における前照灯がロービームの場合(第2の状態)を区別するものが考えられる。他の一例として、昼の場合(第3の状態)、及び、夜における前照灯がハイビームの場合(第4の状態)、及び、夜における前照灯がロービームの場合(第5の状態)を区別するものが考えられる。
【0062】
図5(a)乃至(c)には、昼(第3の状態)/夜における前照灯がハイビームの場合(第4の状態)/夜における前照灯がロービームの場合(第5の状態)を区別する場合の注視領域及び注視点の変動の例が示される。
【0063】
図5(a)は、昼のときの注視領域及び注視点の例を示している。
図5(a)において、被投影部材(典型的にはウインドシールド)における虚像表示領域(虚像を表示可能な領域)11は、太い破線で囲まれて矩形の領域として描かれている。昼間においては、ユーザーは、比較的遠方を注視する傾向が強く、ユーザーの注視領域200bは、車両から遠い側にシフトしている。よって、注視点Qbは、虚像表示領域11内における、上方の中央付近に位置している。
【0064】
図5(b)は、夜における前照灯がハイビームのときの注視領域及び注視点の例を示している。夜間には、ユーザーは、前照灯の照射エリア近傍を注視する傾向が強い。夜間のハイビーム時と昼間は、ユーザーが比較的遠方を注視する傾向がある点で共通するが、視点の位置が必ずしも一致するとは限らない。
図5(b)の例では、ユーザーの注視領域200bは、
図5(a)の注視領域200aと比較してやや下側(車両に近い側)にシフトされている。これに対応して、
図5(b)における注視点Qbは、
図5(a)における注視点Qaと比較してやや下側(車両に近い側)にシフトされている。但し、これは一例であり、上記の例に限定されるものではない。
【0065】
図5(c)は、夜における前照灯がロービームのときの注視領域及び注視点の例を示している。上述のとおり、夜間では、ユーザーは、前照灯の照射エリア近傍を注視する傾向が強く、よってロービーム時における視点は比較的車両に近い側にある。言い換えれば、
図5(c)の例では、ユーザーの注視領域200cは、
図5(a)、(b)における注視領域200a、200bと比較して下側(車両に近い側)にシフトされている。これに対応して、
図5(c)における注視点Qcは、
図5(a)、(b)における注視点Qa、Qbと比較して下側(車両に近い側)にシフトされている。
【0066】
なお、昼と夜とを区別する場合には、夜における注視点として、注視点Qb、Qcのいずれかを採用する。又、昼と、夜におけるハイビーム時とを同じ区分とする場合には、注視点として、注視点Qa、Qbのいずれかを採用する。
【0067】
虚像表示距離制御部24は、上記の例のような注視点の変化に応じて、虚像表示距離を切り換え制御する。言い換えれば、虚像表示距離制御部24は、昼/夜に応じて、又は、昼、及び夜における前照灯がハイビームの場合(第1の状態)/夜におけるロービームの場合(第2の状態)に対応させて、虚像表示距離を、第1/第2の距離(第2の距離は第1の距離よりも短い)に切り換え制御してもよく、又、
図5(c)の例のように、昼の場合(第3の状態:
図5(a))/夜におけるハイビームの場合(第4の状態:
図5(b))/夜におけるロービームの場合(第5の状態:
図5(c))の各場合に対応させて、虚像表示距離を、第3/第4/第5の各距離(第3/第4の距離は異なる値であり、第5の距離は、第3/第4の距離よりも短い)に切り換え制御してもよい。これにより、各状態における注視点に対応させて、例えば非重畳コンテンツについての虚像表示距離を精度よく切り換えることができる。
【0068】
次に、
図6(a)乃至(c)を参照する。
図6(a)乃至(c)の各々は、
図3の構成(虚像表示距離を変更する機構をもつ、非路面重畳HUD装置の構成)を用いて、虚像表示距離を、
図5(a)乃至(c)の各々における注視点に対応させて切り換え制御する場合の虚像の表示例を示す図である。
図6の例では、非重畳コンテンツの第1の画像の虚像として、車速を表示する虚像(言い換えれば「55km/h」という表示)210が示されている。
【0069】
図6(a)乃至(c)では、車両は、見晴らしがよく、障害物等がなく、警告表示等も表示されていない、安定した走行状態にあり、ユーザーの注視点は、概ね、
図5(a)乃至(c)に示した注視点Qa乃至Qcの付近にあると推定されるため、注視点Qa乃至Qcに対応するように、車速を示す虚像210a乃至210cの虚像表示距離が切り換え制御される。「55km/h」という虚像210の表示サイズは、距離の大小(遠近)に応じて適宜、調整され、遠近感を伴う表示となっている。
【0070】
図6の例は、昼又は夜において、例えば、見通しのよい直線道路を車両が走っており、いつの間にかスピードが出すぎてしまいそうである、といった状況と言える。しかし、車両情報(車速表示等)が、ユーザーの視点に対応して表示されることから、ユーザーは、目の移動やピント調整を最小限に抑えながら、現状の走行状態を把握することができ、スピードの出しすぎ等の好ましくない運転を回避できる可能性が高まる。又、虚像の距離が制御されることから、切り換え制御の精度が高くなり、よって、ユーザーの目のピント調整の負担が軽減される。
【0071】
次に、
図7を参照する。
図7(a)乃至(c)の各々は、
図4の構成(路面重畳HUD装置の構成)を用いて、虚像表示距離を、
図5(a)乃至(c)の各々における注視点に対応させて切り換え制御する場合の虚像の表示例を示す図である。虚像の表示態様は、概ね、
図6(a)乃至(c)と同様であり、
図6(a)乃至(c)についての説明が、そのまま適用され得る。但し、路面重畳HUD装置の場合、虚像は例えば非立像であり、従って、虚像は、下端から上端に向かって幅が狭くなる先細りの遠近表示となる。
図7では、便宜上、車速を表示する虚像220a乃至200cを、斜体によって示している。
【0072】
なお、上記の例では、虚像表示距離の切り換え制御の対象となる非重畳コンテンツとして、車速を示す車両情報を採用しているが、これに限定されるものではない。虚像表示距離の切り換え制御の対象となる非重畳コンテンツは、車両の走行速度を示す車速情報、車両の走行状態を示す、エンジンの回転数の情報、吸気圧の情報、油圧の情報、燃圧の情報、油温の情報、水温の情報、排気温度の情報、スロットル開度の情報、吸気温の情報の、少なくともいずれか一つを含むものであってもよい。
【0073】
車速、エンジンの回転数、吸気圧、油圧、燃圧、油温、水温、排気温度、スロットル開度、吸気温等の車両情報は、走行状態を示す情報としてユーザーに有用である。例えば、競技車両においては、各種の車両情報を、ユーザーの視点の移動やピント調整を少なくしつつ、効果的に表示するのがよい場合も想定される。本発明の非重畳コンテンツの画像の切り換え制御は、街乗りモードのみならず、スポーツモードにおいても利用可能である。
【0074】
次に、
図8を参照する。
図8(a)及び(b)は、虚像表示距離の切り換え制御を実行しない場合の一例を示す図であり、(c)は、非重畳コンテンツとして、複数の種類の情報が横一列に配置されている例を示す図である。
図8(a)では、昼の注視領域200a内に、前を行く車両があり、この車両に、注意喚起マーク(重畳コンテンツ)の虚像230aが重畳されて表示されている。車速を示す第1の画像の虚像220aは、被投影部材6の虚像表示領域11の上方の中央位置に表示されている。
【0075】
図8(a)の状態が継続中に夜になり、前照灯がオンされて、
図8(b)のように、夜における前照灯がロービームとなっている状態になった場合、車速を示す虚像220cの虚像表示距離の切り換え制御は、以下の理由で実行されない。
【0076】
注意喚起マークは、実景(この場合は前方の車両)に重畳される重畳コンテンツであり、画像表示部46の表示面47に表示される注意喚起マークの画像は、第2の画像である。この第2の画像の虚像が表示されている状況では、ユーザーの注視点は、注意喚起マークの虚像230aの付近に向けられることが多いと推定される。
【0077】
この状態で第1の画像についての虚像表示距離の切り換え制御を実行すると、ユーザーに、視線の変動を強要することになり、注視点の競合が生じて、ユーザーを混乱させてしまうおそれがある。したがって、注視点の競合が予測される場合は、非重畳コンテンツについての第1の画像の虚像の、虚像表示距離の切り換え制御は実行しない。
【0078】
また、重畳コンテンツについての第2の画像の虚像が、第1の画像の虚像と重なるなど、第1の画像の虚像を注視点に対応する位置に表示することが好ましくない状況である場合には、虚像表示距離の切り換え制御モード自体を解除して、通常の表示位置固定モードにおける位置に復帰させる、といった対策を採ることも有効であると考えられる。言い換えれば、非重畳コンテンツについての第1の画像の虚像に関して、虚像表示距離を適宜、切り換え制御することは、HUD装置の本来の目的である第2の画像の虚像の、重畳対象物(実景)への重畳に支障のない範囲で行われるべきものであり、また、不要な注視点の競合を引き起こす可能性がある場合は、切り換え制御を実行しない等の、慎重な運用の下に実行されるものである。
【0079】
以上の説明では、非重畳コンテンツが車速情報単独である場合を例にとっているが、実際の運転状況では、
図8(c)に示されるように、非重畳コンテンツが複数の情報を含み、各情報が所定のレイアウトで表示されている場合がある。
図8(c)の例では、天気予報の注意報(「大雪」警報)の表示と、道路の制限速度の表示と、車速の表示とが、横一列(この場合の横方向は、車両の左右方向のことである)に並んでいる。
図8(c)では、種類の異なる3つの情報を一つの非重畳コンテンツ210の虚像として取り扱っている。
【0080】
このような場合に、仮に、虚像210についての虚像表示距離の切り換え制御を実行する場合には、その横方向におけるレイアウト(各表示の配置)を維持しつつ、虚像表示距離の切り換えを実行する。言い換えれば、虚像表示距離の切り換え制御を行う際に、切り換えの前後で、レイアウトが変更されないようにして、ユーザーに、極力違和感を与えないようにする。
【0081】
つまり、画像表示部46の表示面47における、実空間での鉛直方向に対応する方向を縦方向とし、縦方向に直交し、かつ、実空間での車両の前方に向かって左右方向に対応する方向を横方向とする場合において、虚像表示距離制御部24は、上記の昼/夜、又は、第1/第2の状態、又は、前記第3/第4/第5の状態に応じて、第1の画像に対応する虚像(第1の虚像とする)についての虚像表示距離を切り換え制御する際に、画像表示部46の表示面47上での、横方向における第1の画像のレイアウトを維持して、虚像表示距離を変更させる。切り換えの前後でレイアウトが変更されないようにすることで、ユーザーに違和感を与えないようにすることができ、安全運転上の不都合が生じない。
【0082】
先に説明した
図6(c)及び
図7(c)の例では、画像表示部46の表示面47の下方の中央に非重畳コンテンツの画像(第1の画像)が表示され、その画像の左には第1のスペースが存在し、右には、同じサイズの第2のスペースが存在すると考えられる。言い換えれば、横方向に関して、左側から、左スペース、画像、同サイズの右スペースとなるレイアウトが形成されているものと把握できる。この状況から、例えば
図6(a)及び
図7(a)の状況に移行する際、切り換え制御後においても、横方向におけるレイアウトが、画像表示部の表示面上で維持されるように切り換えが行われている。
【0083】
また、
図8(c)の例のように、画像表示部46の表示面47の下方の中央付近に、天気予報の注意報、道路の速度制限値、車速、の各情報の虚像が並列に、近接して表示されている場合は、切り換え制御後においても、その横方向のレイアウト(つまり、各情報の横方向における位置、及び、各情報の相互の位置関係)が維持されるようにするのが好ましい。但し、これに限定されるものではなく、状況に応じて、レイアウトを少々改変する程度のことは許容される。
【0084】
次に、
図9を参照する。
図9は、虚像表示距離を制御可能なHUD装置の、主要な動作手順の一例を示すフロー図である。まず、
図1に示される車両情報取得部14が、昼夜判定のための情報(外光センサ12が検出する外光強度情報、CANトランシーバICからの調光情報等)を取得する(ステップS1)。次に、昼夜判定部16が昼夜判定を行い(ステップS2)、夜と判定される場合は、続いてハイビーム/ロービーム検出部18が、前照灯がハイビーム状態であるかロービーム状態であるかを検出する(ステップS3)。
【0085】
ステップS1、S2の判定結果に応じて、例えば、
図5乃至
図7を用いて説明したように、第1乃至第3の虚像表示距離が設定される(ステップS4~S6)。
【0086】
昼における第1の距離をR1とし、夜におけるハイビーム時の第2の距離をR2とし、夜におけるロービーム時の第3の距離をR3とする場合、R1とR2は異なる距離であり、R3は、R1及びR2よりも小さい。
図5(a)乃至(c)の例では、R1>R2>R3の関係が成立する。なお、昼/夜に場合分けする場合には、R1と、R2又はR3を設定する。また、昼及び夜における前照灯がハイビームである状態/夜における前照灯がロービームである状態に場合分けする場合は、R1又はR2と、R3とを設定する。
【0087】
続いて、虚像表示距離制御部24は、虚像表示距離を変更可能な状況であるか(例えば、
図8(a)及び(b)のような状況であるか)を判定し(ステップS7)、Noの場合は、切り換え制御を行うことなく現状の虚像表示距離を維持し(ステップS9)、Yesの場合は、ステップS7で決定された虚像表示距離で虚像を表示させる。上述のとおり、虚像表示距離の変更は、
図3で示した光路長(第1点W1から第2点W2までの光路の長さ)の変更、及び表示面47上における第1の画像の表示位置の変更、の少なくとも一方(いずれか単独、又は双方の併用)によって実行される。
【0088】
本発明は、上記の例に限定されるものではなく、種々、変形、応用が可能である。ここで、
図10を参照する。
図10(a)は、操舵操作に伴って変化する操舵角情報に基づいて虚像の横方向の位置が制御される例における、位置変更前の注視点の位置を示す図であり、(b)は、位置変更前の虚像の表示位置を示す図であり、(c)は、位置変更後の注視点の位置を示す図であり、(d)は、位置変更後の虚像の表示位置を示す図である。
【0089】
図10の例では、車両が、前照灯の照射方向を、ユーザーの操舵操作に応じて適応的に変更する構成を備える。
図10(a)は、夜における前照灯がロービームである状況での注視点Qcの位置が示されている(これは、
図5(c)と同じである)。この場合は、
図10(b)に示されるように、車速についての虚像220cが、注視点Qcに対応する虚像表示距離にて表示される(これは、
図7(c)と同じである)。
【0090】
この状況において、車両情報取得部14が、車両の操舵角情報を取得する。「操舵角情報」は、例えば、前照灯の照射方向を適応的に変化させるシステムを内蔵した車両におけるステアリングハンドルの操舵角情報であり、具体的には、例えば、車両情報取得部が取得する、舵角センサの検出信号、トルクセンサによって検出される操舵トルク信号等である。
【0091】
虚像表示距離制御部24は、この操舵角情報に基づいて、ユーザーの視線(注視点)が横方向に移動しているかを判定する。例えば、
図10(c)に示すように、視線(注視点Qd)が右方向に移動していると判定される場合には、
図10(d)に示されるように、車速を示す虚像220dの表示位置を、視線(注視点Qd)の移動に合わせて、右方向に移動させる。
【0092】
言い換えれば、画像表示部46の表示面47における、実空間での鉛直方向に対応する方向を縦方向とし、縦方向に直交し、かつ、実空間での車両の前方に向かって左右方向に対応する方向を横方向とするとき、虚像表示距離制御部24は、昼/夜、又は、上述の第1/第2の状態、又は、上述の第3/第4/第5の状態に応じて、第1の画像に対応する第1の虚像についての虚像表示距離を切り換え制御し(つまり、奥行き方向についての虚像表示距離を変更し)、かつ、車両情報取得部14が取得する、操舵操作に伴って変化する操舵角情報に基づいて、ユーザーの視線(注視点Qd)の移動に対応するように、画像表示部46の表示面47における、第1の画像の横方向(実空間における車両の左右方向)の位置を制御する。
【0093】
前掲の実施形態のように、虚像表示距離を切り換え制御し、さらに、操舵操作に伴って変化する操舵角情報に基づいて、ユーザーの視点の移動に対応するように、非重畳コンテンツについての第1の画像の、画像表示部の表示面における横方向の位置を、例えば切り換え制御することで、ユーザーが、より少ない視点の移動及びピント調整で、第1の画像を視認できるようになる。よって、ユーザーの目の負担がさらに軽減される。
【0094】
例えば、見晴らしのよい広々とした道路が左右に緩くカーブしており、前方を行く車両がなく、警告表示もなされていないような場合は、スピードが出すぎてしまう恐れがあるが、上記の制御を行うことで、ユーザーに現在の車速の状況を、さりげなく、的確に伝えることができ、これがユーザーに注意を促すことになる。よって、ユーザーに、従来にない、ワンランク上の安全運転環境を提供することができる。
【0095】
このように、従来は、例えば非重畳コンテンツの虚像の表示位置は固定されていたが、本発明では、虚像表示距離(虚像表示位置ということもできる)が、運転環境に応じた注視点の変化に対応して適応的に切り換え制御され、これによって、ユーザーに、運転状況に適応した、従来にない、ワンランク上の安全運転環境を提供することが可能となる。
【0096】
本発明は、上記の例に限定されるものではなく、種々、変形、応用が可能である。例えば、本発明は、2面(2レイヤー)HUD装置に適用することもできる。ここで、
図11を参照する。
図11(a)は、2面(2レイヤー)HUD装置の虚像表示例を示す図であり、
図11(b)は、2面(2レイヤー)HUD装置の要部の構成例を示す図である。
【0097】
図11(a)に示されるように、2面(2レイヤー)HUD装置100は、虚像表示面として、ユーザー1から見て、近い位置(虚像表示距離L100)の第1の虚像表示面PS1と、より遠方(虚像表示距離L102、ここでは、L102>L100)の第2の虚像表示面PS2と、を設定することができる。第1の虚像表示面PS1には、例えば、車両の車速情報(ここでは、「55km/h」)SPの虚像が表示される。車速情報SPは、実景に重畳する必要のない非重畳コンテンツの画像である。一方、第2の虚像表示面PS2には、例えば、前方の車両に重畳される注意喚起マークCUの虚像が表示される。注意喚起マークCUは、実景に重畳する必要のある重畳コンテンツの画像である。
【0098】
なお、第1の虚像表示面PS1上の車速情報SPの虚像は、2面(2レイヤー)HUD装置100から被投影部材6(ウインドシールド等)に投射(投影)される表示光K1が、ユーザー1の視点Aに入射されることによって視認される。また、第2の虚像表示面PS2上の注意喚起マークCUの虚像は、2面(2レイヤー)HUD装置100から被投影部材6(ウインドシールド等)に投射(投影)される表示光K2が、ユーザー1の視点Aに入射されることによって視認される。
【0099】
ここで、
図11(a)に示されるように、第1の虚像表示面PS1上に表示される車速情報SPの虚像の虚像表示距離(L100)については、
図1で説明した、虚像表示距離制御部24による、昼夜判定部16の判定結果に基づく制御、又は、昼夜判定部16の判定結果及びハイビーム/ロービーム検出部18の検出結果に基づく制御によって、適宜、変更され得る。
図11(a)の例では、昼の場合(「D」と記載)は、虚像表示距離はL100に設定され、夜の場合(「N」と記載)は、虚像表示距離はL104(L104<L100)へと変更される。先に説明したように、夜間は、ユーザー1は、前照灯の光が届く範囲(昼間に比べてより近い位置)を見る傾向があることから、夜間には、第1の虚像表示面PS1を、図中、破線で示される位置まで、ユーザー1により近づくように移動させ、夜間におけるユーザーの視点位置と同じにする。これによって、ユーザー1の視点調整の負担が軽減される。
【0100】
このように、2面(2レイヤー)HUD装置では、例えば、ユーザー1から見て、より近い位置に、比較的小さな第1の虚像表示面PS1を設定し、この第1の虚像表示面PS1に、例えば、実景に重畳する必要のない非重畳コンテンツ(例えば、車速情報SP等の情報)についての第1の虚像を表示し、また、より遠方の位置に、広い範囲の実景に対応する大きな第2の虚像表示面PS2を設定して、この第2の虚像表示面PS2に、例えば、実景に重畳する重畳コンテンツ(例えば、前方の車両に重畳される注意喚起マークCU等の情報)についての第2の虚像を表示することで、各情報をはっきりと区別して、立体感を持たせて表示することができる。そして、第1の虚像(車速表示等の情報についての虚像)に関して、昼夜等の区別に応じた虚像表示距離の切り換え制御を採用することで、ユーザーが第1の虚像を視認する場合のピント調整(ピント合わせ)の負担が軽減され、運転時の負荷を軽くすることが可能となる。よって、2面(2レイヤー)HUD装置の利便性が向上する。
【0101】
なお、第2の虚像(前方車両に重畳される注意喚起マークCU等の情報についての虚像)については、昼夜等の区別に応じた虚像表示距離の切り換え制御は行わないことが好ましい。言い換えれば、注意喚起マークCU等の虚像(第2の虚像)は、実景としての対象物に重ね合わされるものであることから、その虚像(第2の虚像)の位置を、実際の対象物の位置と関係なく、昼夜等の区別に応じて移動させると、ユーザー1は、あたかも対象物が移動した(例えば接近した)ように錯覚してしまうおそれがあり、安全運転の確保の観点からは好ましくない。したがって、虚像表示距離の切り換え制御は、第1の虚像(非重畳コンテンツの画像の虚像)についてのみ行う。
【0102】
次に、
図11(b)を参照する。
図11(b)に示されるように、2面(2レイヤー)HUD装置100は、例えば、光源部31(例えば、レーザー光源33と、レーザー光を2分割して2つのビームを生成して出力する光学系35と、を含む)と、ミラー39と、レンズ44と、画像表示部としてのスクリーン46a、46bと、虚像表示距離制御部24(レンズ駆動部51と、スクリーン駆動部53とを含む)と、ミラー71と、反射鏡(凹面鏡)72と、筐体81と、光出射窓83と、を有する。スクリーン46aの表示面47に表示される画像Maの出射光によって表示光K1が生成され、スクリーン46bの表示面47に表示される画像Mbの出射光によって表示光K2が生成される。虚像表示距離制御部24(レンズ駆動部51、スクリーン駆動部53)によって、レンズ44及びスクリーン46aの位置が、光路に沿って、言い換えれば、レンズ44(及びスクリーン46a)の光軸に沿う方向に移動することで、第1の虚像表示面PS1についての虚像表示距離(L100、L104)を適宜、切り換えることが可能である。
【0103】
次に、
図12を参照する。
図12(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、
図11の2面(2レイヤー)HUD装置における、夜間(夜間ロービーム)状態、昼間状態及び夜間ハイビーム状態における虚像表示例を示す図である。
図12(a)~(c)において、下側に「横画角」と記載されているが、これは、画像表示部としてのスクリーン46(46a)における横幅に相当する(
図15においても同様である)。第2の虚像表示面PS2についての虚像表示距離L102は、
図12(a)~(c)のいずれの場合も共通である(言い換えれば、昼夜等の区別に左右されない)。第1の虚像表示面PS1についての虚像表示距離は、虚像表示距離制御部24によって、適宜、切り換えられ、これによって、
図12(a)の場合はL104に設定され、
図12(b)の場合はL100(L104<L100)に設定され、
図12(c)の場合はL106(L104<L106<L104)に設定される。
【0104】
本発明は、上記の例に限定されるものではなく、種々、変形、応用が可能である。例えば、本発明は、多面(マルチレイヤー)HUD装置に適用することもできる。なお、ここで、
図13を参照する。
図13(a)は、多面(マルチレイヤー)HUD装置の虚像表示例を示す図であり、
図13(b)は、多面(マルチレイヤー)HUD装置の要部の構成例を示す図であり、
図13(c)は、スクリーン及びレンズの位置を制御する位置制御信号と、スクリーンの表示面における画像表示タイミングとの関係(同期関係)の一例を示す図である。なお、
図13の多面(マルチレイヤー)HUD装置は、本質的には1つの虚像表示面から多面(マルチレイヤー)の虚像表示面が形成されているが、複数の光源部を備えて、多面(マルチレイヤー)の虚像表示面を形成してもよい。また、多面(マルチレイヤー)の虚像表示面を構成する実質的に1つの虚像表示面又は各虚像表示面は、実空間での任意の平面に設定してもよく、立体的な表示が可能な多面(マルチレイヤー)HUD装置は、当業者に3DHUD装置と呼ばれてもよい。
【0105】
多面(マルチレイヤー)HUD装置は、多面(本明細書において、好ましくは3以上の面)の虚像表示面を設定可能なHUD装置である。言い換えれば、虚像表示距離は、m通り(mは3以上の自然数)に変更可能である。多面(マルチレイヤー)HUD装置では、虚像を表示可能な虚像表示面が多面化(マルチレイヤー化)されることから、虚像表示距離を、より自在に変更することができ、更に奥行き感のある立体的な表示が可能となる。また、更に、表示対象の物体(オブジェクト)のサイズや高さを、適宜、変更して遠近感を持たせたり、物体の表示位置を調整したり、物体に奥行きを持たせて立体化したり、物体に影をつけたり、斜視表現を採用したり、物体の質感を緻密に表現したりする、といった、幾何学的な立体装飾処理(以下、単に、立体装飾と称する場合がある)を施すことで、よりリアルな3D表示が可能となる。
【0106】
この多面(マルチレイヤー)HUD装置における虚像の表示に関して、昼夜等の区別に応じた虚像表示距離の切り換え制御を採用することで、ユーザー1が虚像を視認する場合のピント調整(ピント合わせ)の負担が軽減され、運転時の負荷を軽くすることが可能となる。よって、多面(マルチレイヤー)HUD装置の利便性が向上する。
【0107】
図13(a)の例では、夜間に使用可能な虚像表示面として、夜用の第1の虚像表示面(「N1」と記載)PS10と、夜用の第2の虚像表示面(「N2」と記載)PS12と、が設定され、昼間に使用可能な虚像表示面として、昼用の第1の虚像表示面(「D1」と記載)PS11と、昼用の第2の虚像表示面(「D2」と記載)PS13と、が設定されている。夜用の第1、第2の虚像表示面についての虚像表示距離は各々、L201、L203である。また、昼用の第1、第2の虚像表示面についての虚像表示距離は、それぞれ、L202、L204である。ここで、L201<L202<L203<L204である。
【0108】
夜間においては、夜用第1の虚像表面(N1)PS10に、車速情報(「55km/h」)SPが表示され、第2の虚像表示面(N2)PS12に、道路の制限速度情報(「二重丸の内側に60と記載された情報」)LSPが表示されている。なお、「車速」、「道路の制限速度」の各情報は、一般には、実景に重畳する必要がない非重畳コンテンツの情報である。車速と道路の制限速度の各情報を、虚像表示距離が異なる面に表示することで、奥行き感のある、より立体的な表示(AR表示)が可能である(
図15(d)参照)。但し、立体的な表示がされる分、状況によっては、ユーザーの目の負担が大きくなるのは否めない。特に、昼夜等の状況によっては、昼夜等の状態の区別に応じた虚像表示距離の切り換え制御を採用することで、ユーザーが虚像を視認する場合のピント調整(ピント合わせ)の負担が軽減され、よって、運転時の負荷の軽減が実現される。
【0109】
次に、
図13(b)を参照する。先に
図1において制御部30を示したが、
図13(b)の例では、この制御部30に、位置制御信号生成部91が設けられ、また、
図1の虚像表示距離制御部24は、
図13(b)においては、虚像表示距離制御部24’に置き換えられている。虚像表示距離制御部24’は、レンズ駆動部93及びスクリーン駆動部95を含む。また、
図13(b)においては、画像処理部58と、光源部56とが設けられる。なお、光源部56は、光源駆動部55及び光源57を含む。位置制御信号生成部91が生成する位置制御信号VPCは、虚像表示距離制御部24’のレンズ駆動部93及びスクリーン駆動部95に供給され、同時に、光源駆動部55にも供給される。
【0110】
虚像表示距離制御部24’は、画像表示部としてのスクリーン46(及びレンズ44)を、画像表示部としてのスクリーン46の光軸に沿う方向(言い換えれば、光路に沿う方向)において、所定範囲(ここでは距離範囲LZ)で、振動させることによって、画像表示部としてのスクリーン46(より具体的には、画像Mが表示される表示面47)から、被投影部材6までの光路長を周期的に変更する。また、光源部56の光源駆動部55によって、光源(レーザー光源LD)57からの光の出射タイミングが制御されることによって、画像表示部としてのスクリーン46の表示面47上における画像Mの表示タイミング(表示時刻)が制御(調整)される。
【0111】
ここで、m通りに変更され得る虚像表示距離(mの虚像表示距離)に対応する虚像表示面を第1~第mの虚像表示面とする場合に、画像表示部としてのスクリーン46(及びレンズ44)を所定範囲(LZ)で、所定周期で振動させる制御、画像表示部としてのスクリーン46の表示面47における画像の表示タイミングの制御、及び、表示タイミングの制御に同期した表示内容の変更制御(の組み合わせ)によって、第1~第mの虚像表示面の内の少なくとも2面の各々に、異なる非重畳コンテンツについての虚像の表示が可能である。
図13(a)の例では、昼間、夜間において、2面の各々に異なる非重畳コンテンツ(車速情報、道路の制限速度情報)の虚像を表示させている。
【0112】
制御部30(
図1)に含まれる位置制御信号生成部91が生成する位置制御信号VPCは、例えば、
図11(c)に記載されるような、鋸歯状(のこぎり状)の電圧信号(鋸歯状波の電圧信号)である、
図11(c)では、横軸に時間t、縦軸に電圧vを設定している。位置制御信号VPCの電圧が0の場合は、画像表示部としてのスクリーン46は、第1の位置PT0に位置し、位置制御信号VPCの電圧がピーク値の場合は、画像表示部としてのスクリーン46は、第2の位置PT1に位置する。
【0113】
ここで、
図11(c)のように、時刻t1に、夜用の第1(夜1)の虚像表示面PS10に表示する画像(「55km/h」)を表示させ、時刻t2に、昼用の第1(昼1)の虚像表示面PS11に表示する画像(「55km/h」)を表示させ、時刻t3に、夜用の第2(夜2)の虚像表示面PS12に表示する画像(「二重丸の内側に60と表記される画像」)を表示させ、時刻t4に、昼用の第2(昼2)の虚像表示面PS13に表示する画像(「二重丸の内側に60と表記される画像」)を表示させることで、
図13(a)に示されるような虚像の表示が実現される。
【0114】
次に、
図14を参照する。
図14(a)は、多面(マルチレイヤー)HUD装置における虚像表示面の設定例を示す図であり、
図14(b)、(c)及び(d)は、それぞれ、夜間(夜間ロービーム)状態、昼間状態、夜間ハイビーム状態において使用可能な虚像表示面群の例を示す図である。上述のとおり、多面(マルチレイヤー)HUD装置100は、虚像表示距離をm通り(mは3以上の自然数)に変更でき、画像表示部の振動制御と、画像の表示タイミングの制御と、これに同期した表示内容の変更制御と、を併用することで、少なくとも2面の虚像表示面の各々に、異なる非重畳コンテンツについての虚像の表示が可能である。
図14(a)の例では、例えば、m=45に設定されている。mの値が大きくなるほどユーザーから遠い虚像面となる場合、
図14(a)の例では、m=1に対応する虚像表示面PL(1)、乃至、m=45に対応する虚像表示面PL(45)が設定され、この45面の中から選択される1面に、所望の画像の虚像を自在に表示することができる。
【0115】
例えば、m=1の虚像表示面に、「55km/h」というような車速表示を行い、m=30の虚像表示面に、「二重丸と組み合わせた60の表示」をすることで、通行中の道路の制限速度の表示をなすことができる。車速と、道路の制限速度と、を異なる虚像表示距離の虚像表示面に表示することで、立体的な表示(立体的なAR表示)が可能である。但し、上述のとおり、立体的な表示がされる分、昼夜等の状況によっては、ユーザーの目の負担は大きくなるのは否めない。そこで、昼夜等の区別に応じた虚像表示距離の切り換え制御が採用され、これによって、ユーザーが虚像を視認する場合のピント調整(ピント合わせ)の負担が軽減され、よって、運転時の負荷の軽減が実現される。
【0116】
ここで、昼夜等の区別に応じた虚像表示距離の切り換え制御を行うに際して、
図13(b)の虚像表示距離制御部24’は、まず、昼夜等の区別に応じて、使用可能な虚像表示面群(少なくとも2以上の虚像表示面を含む)を切り換え(言い換えれば、使用可能な虚像表示面群の選択を行い)、そして、選択された虚像表示面群の中から、適切な面を選んで、虚像を表示させてもよい。
【0117】
具体的には、
図14(b)の例(夜、あるいは、夜のロービーム時に対応する例)では、虚像表示面PL(1)~PL(20)を含む虚像表示面群PLS1が選択されている。
図14(c)の例(昼に対応する例)では、使用可能なすべての虚像表示面PL(1)~PL(45)を含む虚像表示面群PLS2が選択されている。
図14(d)の例(夜のハイビーム時に対応する例)では、虚像表示面PL(5)~PL(42)を含む虚像表示面群PLS3が選択されている。
【0118】
このように、多面(マルチレイヤー)HUD装置100において、昼夜等の区別に応じた虚像表示距離の切り換え制御を行う際、まず、昼、夜等の各状態に応じて、虚像表示面群を切り換え、そして、切り換えられた後の虚像表示面群に含まれる虚像表示面を、適宜、選択して虚像を表示する、という処理を行うこと(言い換えれば、使用可能な虚像表示面群の切り換え制御を行う)ことで、使用可能な虚像表示面の範囲(虚像表示面の数、位置等)を簡単に絞り込むことができ、実際に使用する虚像表示面の選択の負担が軽減され、また、絞り込みがなされることで、虚像を表示するための処理(画像表示部における画像表示のタイミング調整等の処理)が容易となり、虚像表示距離制御部24’の負担が軽減される。
【0119】
次に、
図15を参照する。
図15(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、多面(マルチレイヤー)HUD装置における、夜間(夜間ロービーム)状態、昼間状態及び夜間ハイビーム状態における虚像表示例を示す図であり、
図15(d)は、車両の走行中における虚像(車速を示す虚像、及び道路の制限速度を示す虚像)の、奥行き感を持たせた表示例を示す図である。注意喚起マークCUは、実景である前方の車両に重畳する必要がある重畳コンテンツの画像であり、この注意喚起マークCUの虚像については、
図12の例と同様に、昼夜等の区別による虚像表示距離の切り換え制御は実行しないことが好ましい。先に説明したとおり、これは、重畳コンテンツの虚像を移動させると、あたかも、重畳されている対象物自体が移動したかのような印象をユーザー1に与える可能性があるからである。
図15(a)~(c)のいずれの場合も、注意喚起マークCUの虚像は、例えば、m=30に相当する虚像表示面であるPL(30)に表示されている。虚像表示距離はL320である。言い換えれば、夜間(夜間ロービーム)状態、昼間状態及び夜間ハイビーム状態において、前方の車両と多面(マルチレイヤー)HUD装置が搭載される車両(自車両)との距離は、一定であると仮定する。
【0120】
図15(a)の例(夜間、又は夜間ロービーム時の例)では、車速情報(ここでは「55km/h」とする)SPの虚像は、m=1に相当する虚像表示面であるPL(1)に表示され、道路の制限速度情報(ここでは、二重丸の内側に60と表記される)LSPの虚像は、m=7に相当する虚像表示面であるPL(7)に表示される。虚像表示面PL(1)の虚像表示距離はL300であり、虚像表示面PL(7)の虚像表示距離はL310である。
【0121】
図15(b)の例(昼間の例)では、車速情報SPの虚像は、m=11に相当する虚像表示面であるPL(11)に表示され、道路の制限速度情報LSPの虚像は、m=17に相当する虚像表示面であるPL(17)に表示される。虚像表示面PL(11)の虚像表示距離はL301(L300<L301)であり、虚像表示面PL(7)の虚像表示距離はL311である。ここで、L310<L311の関係が成立する。
【0122】
図15(c)の例(夜間ハイビーム時の例)では、車速情報SPの虚像は、m=9に相当する虚像表示面であるPL(9)に表示され、道路の制限速度情報LSPの虚像は、m=15相当する虚像表示面であるPL(15)に表示される。虚像表示面PL(9)の虚像表示距離はL302である。ここで、L300<L302<L301の関係が成立する。また、虚像表示面PL(15)の虚像表示距離はL312である。ここで、L310<L312<L311の関係が成立する。このように、非重畳コンテンツの画像についての虚像の虚像表示距離を、昼夜等の区別に応じて切り換え制御することで、ユーザー1の視点移動が抑制され、目の負担が軽減される。
【0123】
次に、
図15(d)を参照する。被投影部材6(ウインドシールド等)の虚像表示領域11において、手前の中央に大きく「55km/h」という車速情報SPの虚像が配置され、その左奥に、やや小さく、かつ遠近感を持たせた形態で、「二重丸の内側に60」という表記の制限速度情報LSPの虚像が配置され、更に右奥に、前方車両に重畳される注意喚起マークの虚像が、小さく、かつ遠近感を持たせた形態で配置されている。このように、多面(マルチレイヤー)HUD装置100によれば、奥行き感のある、立体的な表示(AR表示)が可能であり、よりダイナミックで視認し易い表示(AR表示)が実現される。この点は、例えば、
図8(c)の表示例(車速、制限速度の各虚像が同一の虚像表示面に表示される例)と比較すると明らかである。
【0124】
但し、立体的な表示(立体的なAR表示)である分、ユーザー1の目の負担は大きくなるのは否めない。ここで、昼夜等の区別に応じた虚像表示距離の切り換え制御を採用することで、ユーザー1が虚像を視認する場合のピント調整(ピント合わせ)の負担が軽減され、よって、運転時の負荷の軽減が実現される。
【0125】
次に、
図16を参照して、多面(マルチレイヤー)HUD装置における、虚像をダイナミックに移動させる応用例について説明する。
図16(a)は、多面(マルチレイヤー)HUD装置で、道路の制限速度の変更を予告する虚像を、遠方に、現在の制限速度の表示とは異なる態様で表示した例を示す図であり、
図16(b)は、車両の進行に伴い、制限速度の変更を予告する虚像がダイナミックに接近してくる様子を示す図であり、
図16(c)は、予告されていた制限速度が、現在の制限速度として表示された様子を示す図である。
【0126】
例えば、
図14(c)の例(昼間に、45面すべてを含む虚像表示面群PLS2が選択される例)において、ユーザー1から見て、より近い位置にある手前面として、1枚の虚像表示面PL(3)を使用し、また、より遠くにある奥面として、16枚の虚像表示面PL(30)~PL(45)を使用する。
図16(a)に示されるように、手前面である虚像表示面PL(3)には、現在走行中の道路の(現時点における)制限速度情報(「60km/h」)LSP(1)が表示されている。ここで、もう少し走ると、制限速度が「80km/h」に変更される場合に、その変更地点に到達した時点で、唐突に制限速度の表示を変更すると、ユーザー1がその表示の変更に気づかずに通り過ぎてしまう、あるいは、その唐突な変更に対して違和感を覚える、といった場合が有り得る。そこで、ここでは、奥面を利用して、制限速度の変更を予告することとする。
図16(a)に記載されるように、例えば、奥面としての虚像表示面PL(45)に小さく、かつ、現時点の制限速度表示(制限速度情報)LSP(1)とは異なる態様で(ここでは、表示が点滅する態様で)、制限速度の予告表示(「二重丸の内側に80と記載される表示」)RLSPがなされる。
【0127】
そして、
図16(b)に記載されるように、車両が、制限速度の変更地点に接近するに伴い、制限速度の予告表示RSLPを、手前側に移動させる。例えば、使用する虚像表示面を、PL(45)を起点として、PL(30)に向けて、次々と切り換えていくことで、このようなダイナミックな虚像の移動が可能となる。そして、
図16(c)のように、制限速度の変更地点に到達すると、制限速度の予告表示が、現時点の制限速度表示LSP(2)に切り得られる(言い換えれば、置き換わる)。この場合、置き換わるのではなく、移動してきた予告表示が後方に流れるように消えていき、一方、現時点の制限速度の表示が変更される、という態様であってもよい。このようにすれば、ユーザー1は、制限速度の変更を予め知ることができ、制限速度の変更を確実に認識でき、かつ、変更された後の制限速度に応じて、車速を高めるといったことが迅速にでき、より快適な運転環境が実現される。
【0128】
なお、「制限速度の変更の予告」は一例であり、これに限定されるものではない。例えば、A県からB県へと入る場合の、「県境の予告表示」、あるいは、「もう少し走ると、急激な右カーブがあることを示す、右に曲折する矢印の予告表示」等にも適用可能である。
【0129】
以上、
図14(c)の昼間の例について説明したが、例えば、
図14(b)の例(夜間の例)においては、例えば、手前面として、虚像表示面PL(1)を使用し、奥面として、虚像表示面PL(15)~PL(20)を使用してもよい。
【0130】
本発明は、上述の例示的な実施形態に限定されず、また、当業者は、上述の例示的な実施形態を特許請求の範囲に含まれる範囲まで、容易に変更することができるであろう。
【符号の説明】
【0131】
2・・・路面、3・・・前照灯、4・・・ダッシュボード、5・・・表示光、6・・・被投影部材(ウインドシールド等)、10・・・車両、11・・・虚像表示領域、12・・・外光センサ、14・・・車両情報取得部、16・・・昼夜判定部、18・・・ハイビーム/ロービーム検出部、20・・・画像生成部、22・・・投光制御部、24・・・虚像表示距離制御部、30・・・制御部、42・・・投光部、44・・・レンズ、46・・・画像表示部としてのスクリーン(傾斜したスクリーンを含む)、47・・・表示面、48・・・光学系、49・・・光学部材としての凹面鏡、51・・・レンズ駆動部、53・・・スクリーン駆動部、55・・・光源駆動部、56・・・光源部、57・・・光源(LD)、58・・・画像処理部、91・・・位置制御信号生成部、93・・・レンズ駆動部、95・・・スクリーン駆動部 100・・・HUD装置、200a、200b、200c・・・注視領域、Qa~Qc・・・注視点、210a、210b、210c・・・車速を示す虚像、400a、400b・・・虚像表示面、PS1、PS2・・・2面(2レイヤー)HUD装置における虚像表示面、PS10~PS13、PL(1)~PL(45)・・・多面(マルチレイヤー)HUD装置における虚像表示面、PLS1~PLS3・・・虚像表示面群、SP・・・車速情報(車速表示)、LSP・・・制限速度情報(制限速度表示)、RLSP・・・予告制限速度情報(予告制限速度表示)。