(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】バルーンカテーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/10 20130101AFI20220317BHJP
【FI】
A61M25/10 510
A61M25/10 502
(21)【出願番号】P 2021073308
(22)【出願日】2021-04-23
(62)【分割の表示】P 2017519163の分割
【原出願日】2016-05-12
【審査請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2015099712
(32)【優先日】2015-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】佐野 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】大山 靖
(72)【発明者】
【氏名】比恵島 徳寛
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0046711(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0086674(US,A1)
【文献】特開平09-164191(JP,A)
【文献】特表2014-531935(JP,A)
【文献】特開平10-277157(JP,A)
【文献】特開平01-263262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの遠位端側にバルーンが設けられたバルーンカテーテル
を製造するに際して、
前記バルーン
を変形可能な合成樹脂材で形成
し、
付加構造体を、該バルーンに対して固着力を発揮する樹脂材が配合された硬化性の金属ペーストを用いて、該バルーンの内周面と外周面の少なくとも一方の面を一つの成形面として該面上で直接に
所定パターンに形成
し、
前記成形面に前記付加構造体を形成する際に、形成面と反対側となる前記内周面または前記外周面を冷却する冷却処理を施すことを特徴とするバルーンカテーテル
の製造方法。
【請求項2】
前記付加構造体が、前記バルーンの内周面に形成されている請求項1に記載のバルーンカテーテル
の製造方法。
【請求項3】
前記付加構造体が、前記バルーンの周方向に連続した筒状のメッシュ形状とされている請求項1又は2に記載のバルーンカテーテル
の製造方法。
【請求項4】
前記付加構造体が、前記バルーンの長さ方向に連続した線形状とされている請求項1又は2に記載のバルーンカテーテル
の製造方法。
【請求項5】
前記付加構造体が、前記バルーンの拡縮に伴って変形可能とされている請求項1~4の何れか1項に記載のバルーンカテーテル
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフトの遠位端側にバルーンが設けられた医療器具であって、血管等の体内管腔へ挿入されて経皮的血管形成術やステント施術などのさまざまな処置に用いられるバルーンカテーテルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、血管等の管腔における病変部位を経皮的に治療する医療器具の一つとしてバルーンカテーテルが知られている。バルーンカテーテルは、特開平05-084304号公報(特許文献1)、特表2008-509749号公報(特許文献2)、特表2008-519654号公報(特許文献3)などに記載されているように、体外から管腔へ挿し入れられるシャフトの遠位端側にバルーンを設け、体外に位置するシャフトの近位端側での圧力流体の給排操作によりバルーンを拡縮変形できるようになっている。このようなバルーンカテーテルを用いることで、例えば血管の狭窄部位をバルーンで拡張させたり、更に拡張させた狭窄部位にステントをデリバリして留置したり、或いはバルーンの外周に配したブレードで石灰化部分に切れ目を入れるなどの治療を行うことができる。
【0003】
ところで、バルーンカテーテルにおいてバルーンに要求される特性は具体的な用途などに応じて異なり、例えば管腔を押し広げるのに大きな力が必要とされる場合にはバルーンの壁部に大きな耐圧性が要求される。また、血管の石灰化部分に切れ目を入れる用途では、バルーンの外周に高硬度のブレードを設けることが必要となる。
【0004】
このような要求に対して、例えばバルーンの材質の変更や肉厚化によって耐圧性を向上させたり、バルーンの形状を変更して外周に突起状の刃部を一体的に形成することによって対応することも考えられる。
【0005】
ところが、バルーンの材質変更や肉厚化による耐圧性の向上やバルーンの形状変更による刃部の形成などでは、要求される特性を十分に達成し難い場合があった。例えば要求される耐圧性を実現しようとするとバルーンが厚肉となり過ぎて硬くなり、病変部位の通過性能などが低下してしまうおそれもあった。
【0006】
なお、特表2009-513299号公報(特許文献4)には、周壁に穿孔を設けた樹脂補強管をバルーンに内挿して補強した構造が開示されている。しかし、バルーンとは別に樹脂補強管を形成するための成形型や特別な設備が必要となるだけでなく、バルーンと樹脂補強管を高精度に寸法合わせする必要があり、製造が難しかった。また、樹脂補強管は管体の周壁に穿孔するものであるから、形状の自由度が小さく、バルーンカテーテルに要求される各種特性を高度に達成することも困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平05-084304号公報
【文献】特表2008-509749号公報
【文献】特表2008-519654号公報
【文献】特表2009-513299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題とするところは、用途などによって要求される各種要求を大きな自由度をもって高度に実現することが可能となる、新規な構造のバルーンカテーテルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、シャフトの遠位端側にバルーンが設けられたバルーンカテーテルを製造するに際して、前記バルーンを変形可能な合成樹脂材で形成し、付加構造体を、該バルーンに対して固着力を発揮する樹脂材が配合された硬化性の金属ペーストを用いて、該バルーンの内周面と外周面の少なくとも一方の面を一つの成形面として該面上で直接に所定パターンに形成し、前記成形面に前記付加構造体を形成する際に、形成面と反対側となる前記内周面または前記外周面を冷却する冷却処理を施すことを、特徴とする。
【0010】
本態様に従うバルーンカテーテルの製造方法では、バルーンの面上に付加構造体が直接に形成されて設けられていることから、バルーンの形状に精度良く対応した付加構造体が実現可能となる。また、付加構造体の形状を、バルーンの面上で大きな自由度をもって設定することが可能になり、前記特許文献4に記載の従来構造のように管形状に限定されることもない。それ故、バルーンカテーテルに要求される特性を有利に実現することも可能になる。
【0011】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に係るバルーンカテーテルの製造方法であって、前記付加構造体が、該バルーンの内周面に形成されていることを、特徴とする。
【0012】
本態様に従うバルーンカテーテルの製造方法では、バルーンの内周面上に付加構造体が直接に形成されて設けられていることから、血管などの体組織に対する付加構造体の直接の接触が防止される上で、耐圧性能が向上された例えば冠動脈用であれば24atmくらいのいわゆる高耐圧型のバルーンを形成することが可能になる。また、本態様に従う構造のバルーンカテーテルでは、バルーンから万が一付加構造体が外れるようなことになったとしても、カテーテル内部に付加構造体が留まるため血管壁を損傷することはない。
【0016】
本発明の第3の態様は、前記第1又は2の態様に係るバルーンカテーテルの製造方法であって、前記付加構造体が、前記バルーンの周方向に連続した筒状のメッシュ形状とされているものである。
【0017】
本態様に従うバルーンカテーテルの製造方法では、メッシュ形状の付加構造体を採用することで、バルーンの変形を許容すると共に柔軟性も良好に確保しつつ、バルーンの周壁部を補強して耐圧性能の向上などを図ることが可能になる。なお、本態様におけるメッシュ形状は、線状体が連結や交差等することで開口部が設けられた各種態様を含み、例えば複数本の互いに交差する螺旋の線状体からなる構造のほか、波状や稲妻状に蛇行して周方向に延びる線状体を部分的に軸方向に連結したステント状の構造なども採用することができる。
【0018】
なお、本態様に従うメッシュ形状の付加構造体は、後述する第4の態様などに従ってバルーンの内周面や外周面に形成される他態様の付加構造体とあわせて採用することも可能である。
【0019】
本発明の第4の態様は、前記第1又は2の態様に係るバルーンカテーテルの製造方法であって、前記付加構造体が、前記バルーンの長さ方向に連続した線形状とされているものである。
【0020】
本態様に従うバルーンカテーテルの製造方法では、付加構造体をバルーンの外周面に突出させることができ、それによってブレードを形成することができる。かかる付加構造体からなるブレードは、バルーンと異なる金属などの硬質材で形成することが可能でありカッティングバルーンカテーテルなどとして好適に用いられ得る。また本態様に従う構造のバルーンカテーテルでは、付加構造体をバルーンの内周面に突出させることができ、耐圧性能が向上された例えば冠動脈用であれば24atmくらいのいわゆる高耐圧型のバルーンを形成することが容易になる。
【0021】
本発明の第5の態様は、前記第1~4の何れかの態様に係るバルーンカテーテルの製造方法であって、前記付加構造体が、前記バルーンの拡縮に伴って変形可能とされているものである。
【0022】
本態様に従うバルーンカテーテルの製造方法では、バルーンの拡張状態でも収縮状態でも、バルーンに対する補強などの作用をより効果的に維持して奏し得ることとなる。なお、付加構造体の変形を許容するには、付加構造体そのものを伸縮等の変形可能な材質で形成するほか、例えば付加構造体を湾曲形状として伸縮などの変形が許容される構造とすることも可能である。
【発明の効果】
【0025】
本発明に従えば、バルーンカテーテルにおいて、バルーンの形状に精度良く対応した付加構造体が、管形状等に限定されない大きな自由度をもって設けられ得る。そして、かかる付加構造体により、例えばバルーンの耐圧性能や強度やバルーンの外周側へのブレードの設定など、バルーンカテーテルにおける各種の要求特性に対して対応することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態としてのバルーンカテーテルの概略構造を示す全体説明図である。
【
図2】
図1に示されたバルーンカテーテルの遠位端側をバルーンの拡張状態で示す縦断面図であって、バルーンにおける付加構造体の一態様を示す説明図。
【
図4】本発明の実施形態としてのバルーンカテーテルの遠位端側をバルーンの拡張状態で示す外観図であって、付加構造体の更に別態様を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0028】
先ず、
図1には、本発明の第1の実施形態としてのバルーンカテーテル10が示されている。このバルーンカテーテル10は、長尺のカテーテル12を備えており、カテーテル12の遠位端側(
図1中の左方)にバルーン14が設けられていると共に、カテーテル12の近位端側(
図1中の右方)にハブ16が設けられている。そして、カテーテル12の遠位端側を人体の手首や大腿部等から血管に挿し入れて冠動脈等の治療部位まで到達させた状態で、バルーン14を膨らませることにより、血管の狭窄部位を押し広げて正常な血流を回復する等の施術を行うことができるようになっている。
【0029】
より詳細には、
図2に示されているように、カテーテル12は、それぞれ管状とされた内シャフト18に外シャフト20を外挿した二重管構造とされている。
【0030】
なお、内シャフト18と外シャフト20は、何れも、血管に沿って湾曲可能な特性を有するものとして従来から公知の各種の材質や構造で形成され得る。具体的には、例えばポリアミド,塩化ビニル,ポリウレタン,ポリイミド,ポリエチレン,ポリエステルエラストマー,ポリプロピレン,ポリテトラフルオロエチレン,ポリエーテルエーテルケトン,ポリフッ化ビニリデン等の合成樹脂材料、ステンレス鋼,ニッケル-チタン合金等の金属材料及びこれらの組み合わせによって成形されたものなどが採用され得る。
【0031】
また、内シャフト18の遠位端部分は、外シャフト20の遠位端から所定長さで突出しており、内シャフト18の突出端部には先端チップ22が取り付けられている。先端チップ22は、内シャフト18よりも軟質であることが好ましく、遠位端側に向かって次第に小径となるテーパ付きの外周面形状を有しており、その中心軸上には、内シャフト18の内腔に連通する中心孔が貫通形成されている。
【0032】
更にまた、外シャフト20から突出した内シャフト18の遠位端部分には、造影マーカー24,24が取り付けられている。造影マーカー24は、白金-イリジウム合金等のX線不透過性を有する金属材料で形成されており、環状又はC字形状の部材とされて、内シャフト18の周壁に固着されている。
【0033】
さらに、外シャフト20から突出した内シャフト18の遠位端部分には、バルーン14が外挿状態で配されている。バルーン14は、例えば変形可能な合成樹脂材等からなる膜で形成された筒状体で構成されており、径方向で拡縮変形可能とされている。
【0034】
なお、バルーン14の材質としては、従来から公知のものが採用可能であり、例えばポリエチレンテレフタレートやナイロン、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリエーテルブロックアミド共重合体、ポリエチレン、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレン、シリコンゴム、ラテックスゴムなどが好適に採用される。
【0035】
また、本実施形態のバルーン14は、拡張状態で、軸方向の中間部分が略円筒形状とされると共に、その軸方向両端部分から各外方に向かって次第に小径になるテーパ筒形状が一体的に延びだした形状とされている。なお、バルーン14の収縮状態では、不規則に潰れるようにして周壁部が縮径されるようになっていても良いし、例えば周上の複数箇所で傘のように折り畳まれるようにして周方向にラッピングされたりする、所定の折り畳み形状が設定されていても良い。
【0036】
そして、バルーン14の軸方向両端が、各テーパ筒形状の小径側端部において、外シャフト20の遠位端側外周面または内シャフト18の遠位端側外周面に対して流体密に固着されている。これにより、バルーン14の内部には、内シャフト18の遠位端側の外周面上で外部から密閉された空間が形成されている。また、バルーン14の内部に形成された空間には、軸方向に貫通して内シャフト18が配設されていると共に、外シャフト20の内部において内シャフト18の外周面上に形成された空間が開口して連通されている。
【0037】
なお、本実施形態のバルーンカテーテル10は、ラピッドエクスチェンジタイプとされている。即ち、外シャフト20が、ディスタルシャフト26とプロキシマルシャフト28を軸方向に接続した構造とされており、ディスタルシャフト26内に挿通された内シャフト18の近位端部が、外シャフト20の長さ方向中間部分において、ディスタルシャフト26とプロキシマルシャフト28の接続部位、またはその近傍の外周面に開口している。
【0038】
そして、内シャフト18の内腔によって、ガイドワイヤ挿通用のガイドワイヤルーメン30が形成されており、かかるガイドワイヤルーメン30が、カテーテル12の遠位端から中間部分まで延びている。即ち、ガイドワイヤルーメン30の一方の端部は、先端チップ22を通じてカテーテル12の遠位端に開口していると共に、他方の端部は、外シャフト20の長さ方向中間部分で外周面に開口している。
【0039】
また、外シャフト20の内腔によって、内シャフト18の外周面上に調圧用ルーメン32が形成されており、かかる調圧用ルーメン32が、カテーテル12の略全長に亘って延びている。即ち、調圧用ルーメン32は、プロキシマルシャフト28の近位端側においてハブ16を通じて開口していると共に、ディスタルシャフト26内では内シャフト18の外周側を環状断面をもって延びており、ディスタルシャフト26の遠位端面に開口して、バルーン14内に連通されている。
【0040】
ここにおいて、バルーン14には、
図2,3に示されているように、その内周面34上に付加構造体36が設けられている。本実施形態の付加構造体36は、バルーン14の内周面34を一つの成形面として内周面34上で直接に形成されることによって、互いに周方向で反対側に傾斜した各複数本の螺旋形の線状体を交差させた全体として略組紐状の筒形メッシュ形状とされている。即ち、本実施形態の付加構造体36は、周方向に所定角度で傾斜しつつ軸方向に延びる複数本の線状体によって、全体として周方向および軸方向に連続した筒状体とされている。
【0041】
このようなメッシュ形状の付加構造体36によれば、各線状体の変形によって拡縮変形が有利に許容され得ることとなり、それ故、バルーン14の内周面に固着されたままの状態でも、バルーン14の拡縮変形を許容するようになっている。
【0042】
なお、本実施形態ではバルーン14の内周面34の略全面に亘ってメッシュ形状の付加構造体36が配されているが、付加構造体36の配設位置や配設領域の大きさなどは限定されるものでなく、例えばバルーン14において拡張時の圧力変形が大きくなりやすい筒状の軸方向中央部分だけに付加構造体36を配することなども可能である。
【0043】
また、かかる付加構造体36の線径やメッシュの大きさなどは、バルーンカテーテル10に要求される特性に応じて適宜に調節可能であり、限定されるものでない。同様に付加構造体36の材質も選択可能であり、セラミックスや合成樹脂なども採用することができる。
【0044】
好適には、金属ベースの材質からなる付加構造体36が、電鋳、エッチング、溶射や真空蒸着によって形成されて採用される。また、樹脂ベースの材質からなる付加構造体36が、溶射や真空蒸着によって形成されて採用される。
【0045】
なお、バルーン14の内周面34上に直接に付加構造体36を形成することで、付加構造体36をバルーン14に対してある程度の力で固着させることも可能である。例えば、予めバルーン14の内周面34上に適切なレジン層や接着剤層を設けることで、付加構造体36をバルーン14の内周面34に対して非接着にしたり、より強固に接着したりすることができる。また、溶射や真空蒸着等によって付加構造体36を形成する硬化性の金属ペースト層に、バルーン14に対して固着力を発揮する樹脂材を配合することで、付加構造体36のバルーン14に対する固着力を向上させることも可能である。
【0046】
上述の如き付加構造体36がバルーン14の内周面上に設けられた本実施形態のバルーンカテーテル10においては、バルーン14の面上で形成されることにより、バルーン14の形状に高精度に対応した形状の付加構造体36を安定して設けることができて、付加構造体36によるバルーン14への耐圧性や強度の向上効果などが有効に安定して発揮され得る。
【0047】
また、電鋳やエッチング等によって付加構造体36が形成されることから、付加構造体36が従来構造のように管形状に限定されることがなく任意の形状や寸法、配設位置を設定して設けることが可能になる。加えて、高い寸法精度が得られることで、性能も安定して得ることができ、バルーン14に対する耐圧性や強度、耐久性の向上などといった目的とする性能が良好に発揮されることとなる。
【0048】
そして、前記実施形態に示す網目構造や螺旋構造などを、十分に細幅の線状体の交差構造をもって形成することで、付加構造体36の柔軟な変形性能も得ることが可能になり、バルーンの拡縮変形を大きく阻害することなく、バルーンカテーテルの血管への挿入操作性も良好に維持することが可能になる。
【0049】
さらに、本実施形態では、付加構造体36がバルーン14の内周面に形成されていることから、付加構造体36がバルーン14で覆われた構造とされて、血管などの体組織に対する付加構造体36の直接の接触が防止される。それ故、付加構造体36の体組織への直接の接触に起因する問題が回避されることとなり、付加構造体36の材質や形状などについての選択自由度が大きく確保されるという利点もある。
【0050】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明は上述の実施形態などにおける具体的な記載によって限定的に解釈されるものでない。例えば、本発明において付加構造体の形成は、電鋳、エッチング、溶射や真空蒸着を含むそれら各種の技術を組み合わせて用いて付加構造体を形成しても良い。また、このような製膜技術などを利用することで、例えば複数回の電鋳等を行って異なる材質の積層構造をもって付加構造体を形成することも可能である。
【0051】
また、付加構造体の具体的形状として、前述の如きバルーンの長さ方向に連続した線形状とされている線状体、コイルスプリングのような螺旋状の線形状の筒状体、互いに周方向で反対側へ傾斜した各複数本の螺旋状の線形状を相互に交差部で一体化した構造の網目状の筒状体(
図2参照)の他にも、例えば、波状に繰り返して周方向に延びる湾曲線形状を基本とする付加構造体を採用することも可能である。
【0052】
さらに、前述の実施形態では、バルーン14の内周面に付加構造体36が設けられていたが、そのような付加構造体は、バルーンの14の内周面に代えてまたは加えてバルーン14の外周面に形成することもできる。バルーン14の外周面に付加構造体36を形成することで、バルーン14の拡張変形がバルーン14を付加構造体へ押し付ける方向へ作用することになるから、付加構造体によるバルーンの耐圧性能の向上効果などが一層有効に発揮されるし、付加構造体がバルーンに対する固着状態へより安定して保持され得ることとなる。
【0053】
また、バルーン14の面上で付加構造体を形成する際には、採用する形成方法や材質などを考慮して、バルーン14の冷却処理も適宜に行うようにされ得る。かかる冷却処理は、例えば雰囲気温度を冷却管理する他、例えばバルーン14において付加構造体の形成面と反対側となる外周面または内周面に流通や対流で流動する冷却流体を流動接触させて冷却することなども可能である。
【0054】
更にまた、付加構造体として、前述の如きメッシュ構造や螺旋構造のほか、軸方向に平行にまたは所定角度傾斜して独立して延びる線状体を採用することも可能であり、そのような線状体の一本または複数本を、バルーン14の内周面や外周面に配するようにしても良い。
【0055】
具体的には、例えば
図4に示されているように、バルーン14の外周面上を軸方向に平行に直線的に延びる線状体からなる付加構造体80を設けることができる。かかる付加構造体80は、
図5に示されているように、バルーン14の外周面82に突出してブレードをなすように形成されている。なお、このような付加構造体80も、前記実施形態と同様に、電鋳などにより、バルーン14の外周面82上で直接に形成することができる。
【0056】
これら
図4,5に示された実施形態では、バルーン14の外周面に突出するブレードとして付加構造体80を設けることができ、かかる付加構造体80によってバルーン14の補強効果などを得ることができると共に、カッティングバルーンとして構成することも可能になる。なお、軸方向に延びる各付加構造体80は、周方向に所定角度だけ傾斜していても良いし、突出先端に鋸刃状の凹凸を付しても良く、また、複数の付加構造体80を相互に連結して周方向に延びる環状の連結部を設けることも可能である。
【0057】
また、メッシュ形状や線形状等の各種形状とされた所定パターンの付加構造体は、バルーンの外周面と内周面を問わず一方の面に、或いはそれらの両面に形成されていてもよい。
【0058】
更にまた、前記実施形態では、ガイドワイヤルーメン30の近位端側がカテーテル12の外周面に開口するラピッドエクスチェンジタイプのカテーテルが採用されていたが、ガイドワイヤルーメンの近位端側が外シャフト20の近位端側に設けられたハブ16を通じて外部に開口するオーバーザワイヤタイプのカテーテルが採用されてもよい。
【0059】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
また、本発明は、もともと以下(i)~(viii)に記載の各発明を何れも含むものであり、その構成および作用効果に関して、付記しておく。
本発明は、
(i) シャフトの遠位端側にバルーンが設けられたバルーンカテーテルにおいて、前記バルーンの内周面と外周面の少なくとも一方の面を一つの成形面として該面上で直接に形成されることによって所定パターンの付加構造体が設けられていることを特徴とするバルーンカテーテル、
(ii) 前記付加構造体が、該バルーンの内周面に形成されている(i)に記載のバルーンカテーテル、
(iii) 前記付加構造体が、溶射と真空蒸着の少なくとも一方によって形成されている(i)又は(ii)に記載のバルーンカテーテル、
(iv) 前記付加構造体が、電鋳とエッチングの少なくとも一方によって形成されている(i)又は(ii)に記載のバルーンカテーテル、
(v) 前記付加構造体が、前記バルーンの周方向に連続した筒状のメッシュ形状とされている(i)~(iv)の何れか1項に記載のバルーンカテーテル、
(vi) 前記付加構造体が、前記バルーンの長さ方向に連続した線形状とされている(i)~(iv)の何れか1項に記載のバルーンカテーテル、
(vii) 前記付加構造体が、前記バルーンの拡縮に伴って変形可能とされている(i)~(vi)の何れか1項に記載のバルーンカテーテル、
(viii) 前記付加構造体が、前記バルーンの面上に固着されている(i)~(vii)の何れか1項に記載のバルーンカテーテル、
に関する発明を含む。
上記(i)に記載の発明では、バルーンの面上に付加構造体が直接に形成されて設けられていることから、バルーンの形状に精度良く対応した付加構造体が実現可能となる。また、付加構造体の形状を、バルーンの面上で大きな自由度をもって設定することが可能になり、前記特許文献4に記載の従来構造のように管形状に限定されることもない。それ故、バルーンカテーテルに要求される特性を有利に実現することも可能になる。
上記(ii)に記載の発明では、バルーンの内周面上に付加構造体が直接に形成されて設けられていることから、血管などの体組織に対する付加構造体の直接の接触が防止される上で、耐圧性能が向上された例えば冠動脈用であれば24atmくらいのいわゆる高耐圧型のバルーンを形成することが可能になる。また、本態様に従う構造のバルーンカテーテルでは、バルーンから万が一付加構造体が外れるようなことになったとしても、カテーテル内部に付加構造体が留まるため血管壁を損傷することはない。
上記(iii)および(iv)に記載の発明では、電鋳等の技術を利用することにより、付加構造体が、より高度な形状や厚さの寸法精度をもって実現可能となる。
上記(v)に記載の発明では、メッシュ形状の付加構造体を採用することで、バルーンの変形を許容すると共に柔軟性も良好に確保しつつ、バルーンの周壁部を補強して耐圧性能の向上などを図ることが可能になる。なお、本態様におけるメッシュ形状は、線状体が連結や交差等することで開口部が設けられた各種態様を含み、例えば複数本の互いに交差する螺旋の線状体からなる構造のほか、波状や稲妻状に蛇行して周方向に延びる線状体を部分的に軸方向に連結したステント状の構造なども採用することができる。なお、本態様に従うメッシュ形状の付加構造体は、後述する(vi)の態様などに従ってバルーンの内周面や外周面に形成される他態様の付加構造体とあわせて採用することも可能である。
上記(vi)に記載の発明では、付加構造体をバルーンの外周面に突出させることができ、それによってブレードを形成することができる。かかる付加構造体からなるブレードは、バルーンと異なる金属などの硬質材で形成することが可能でありカッティングバルーンカテーテルなどとして好適に用いられ得る。また本態様に従う構造のバルーンカテーテルでは、付加構造体をバルーンの内周面に突出させることができ、耐圧性能が向上された例えば冠動脈用であれば24atmくらいのいわゆる高耐圧型のバルーンを形成することが容易になる。
上記(vii)に記載の発明では、バルーンの拡張状態でも収縮状態でも、バルーンに対する補強などの作用をより効果的に維持して奏し得ることとなる。なお、付加構造体の変形を許容するには、付加構造体そのものを伸縮等の変形可能な材質で形成するほか、例えば付加構造体を湾曲形状として伸縮などの変形が許容される構造とすることも可能である。
上記(viii)に記載の発明では、バルーンに固着されていることによって、例えば付加構造体の損傷を防止したり、バルーンへの補強効果の向上を図ったりすることができる。特に本発明では、バルーンの内周面や外周面に付加構造体が直接に形成されることから、別体形成して後固着する場合に比して、付加構造体のバルーンへの固着構造を容易に且つ強固に実現することも容易となる。
【符号の説明】
【0060】
10:バルーンカテーテル、12:カテーテル、14:バルーン、16:ハブ、18:内シャフト、20:外シャフト、22:先端チップ、34:内周面、36,80:付加構造体、82:外周面