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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】水質分析用試薬及び水質分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/18 20060101AFI20220317BHJP
   C08B 37/16 20060101ALI20220317BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20220317BHJP
   C09B 57/02 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
G01N33/18 B
C08B37/16
G01N21/78 C
C09B57/02 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017164819
(22)【出願日】2017-08-29
(65)【公開番号】P2019045158
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-06-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年度応用化学科卒業論文発表会、平成29年2月28日開催
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】出 健志
(72)【発明者】
【氏名】胡 錦陽
(72)【発明者】
【氏名】横山 雄
(72)【発明者】
【氏名】桑原 哲夫
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-131204(JP,A)
【文献】特開2011-002270(JP,A)
【文献】特表平09-500411(JP,A)
【文献】特開2017-102093(JP,A)
【文献】特表2009-519709(JP,A)
【文献】特開2003-066029(JP,A)
【文献】細川侑汰, 外,蛍光性色素クマリンを連結したβ-シクロデキストリンの合成と分子認識特性,シクロデキストリンシンポジウム講演要旨集,2017年08月07日,Vol.34,p.142-143
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/18
C08B 37/16
G01N 21/78
C09B 57/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-メチルイソボルネオールを検知する水質分析に用いられる水質分析用試薬であって、
前記水質分析用試薬は、モノ-[7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボキシアミド]-β-シクロデキストリンである、水質分析用試薬。
【請求項2】
請求項1に記載の水質分析用試薬を試料水に添加する工程と、
水質分析用試薬を添加した試料水に光源光を照射する工程と、
水質分析用試薬を添加した試料水に光源光を照射したことにより発生した分析光を分光分析する工程と、
を有する水質分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水質分析用試薬及び水質分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上下道水又は排水から有害物質を取り除く水処理において、水処理装置の運転を管理するために、原水及び処理水の水質を把握しておくことが重要である。そのため、例えば、化学的または光学的に、有害物質を分析する分析機器が利用されている。処理水の水質基準項目は多岐にわたっているため、分析機器もそれぞれの分析項目に応じて使用されている。
【0003】
上水道用の原水においては、水源の富栄養化などによって藻類由来の異臭が発生することがある。そのため、上水道用の原水を浄化する浄水においては、活性炭による吸着、オゾン注入等の高度処理プロセスを導入することによって、異臭原因物質等の有害物質を除去することがある。異臭原因物質として代表的な物質としては、ゲオスミン、2-メチルイソボルネオール(2-MIB)が挙げられる。これら異臭原因物質を分析する際には、ガスクロマトグラフィー質量分析装置(GC-MS)が用いられることがある。
しかし、ガスクロマトグラフィー質量分析装置は高価な装置であるため、分析に要するコストが高くなる可能性があった。また、ガスクロマトグラフィー質量分析装置を用いて異臭原因物質を分析する方法では、試料の準備が煩雑になる場合があった。
【0004】
水に含まれる有害物質を分析する方法として、蛍光性色素を添加した試料水に光を照射し、光の照射によって生じた蛍光を測定する分光分析方法を適用できる。しかし、従来の分光分析方法では、測定感度が不十分になる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-131204号公報
【文献】特開2017-102093号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】渡辺貞夫著、神奈川県衛生研究所研究報告、「水中のかび臭物質(2-メチルイソボルネオールおよびジェオスミン)分析法の検討」、No.34、2004年、p.1-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、有害物質を低コストで且つ高感度で測定できる水質分析用試薬及び水質分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の水質分析用試薬は、シクロデキストリンが蛍光性色素で修飾されたシクロデキストリン誘導体である。前記蛍光性色素は、親水部及び疎水部の両方を備える環状構造を持つ。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の水質分析用試薬を用いる水質分析装置の一例を示す模式図。
図2】実施形態の水質分析用試薬を用いる水質分析装置の他の例を示す模式図。
図3】実施形態の水質分析用試薬を用いる水質分析装置の他の例を示す模式図。
図4】実施例における、2-メチルイソボルネオール含有量と蛍光強度変化率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の水質分析用試薬及び水質分析方法を、図面を参照して説明する。
【0011】
実施形態の水質分析用試薬は、シクロデキストリンが蛍光性色素で修飾されたシクロデキストリン誘導体である。実施形態の水質分析用試薬により、水に含まれる有害物質の検知を可能にする。
【0012】
シクロデキストリンは、グルコースが6個以上結合した環状オリゴ糖の一種である。シクロデキストリンの環状構造の内側は分子を包接できる大きさを有している。シクロデキストリンは複数のヒドロキシ基を有している。シクロデキストリンのヒドロキシ基は環状構造の外側に位置するため、シクロデキストリンの環状構造の内側は疎水性になっている。したがって、シクロデキストリンは、疎水性分子を包接しやすい。
【0013】
蛍光性色素とは、光を照射した際に蛍光を発する色素のことである。実施形態における蛍光性色素は有機化合物である。
実施形態における蛍光性色素は、環状構造を有する化合物である。蛍光性色素の環状構造は、親水部と疎水部の両方を備える。
親水部は、少なくとも1個のヘテロ原子を有する。ヘテロ原子は、酸素、窒素、硫黄、リン、塩素、ヨウ素、臭素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の原子である。これらヘテロ原子は電子吸引性を有し、水分子と水素結合しやすいため、親水性が高い。
親水部を構成する基としては、例えば、カルボニル基、ヒドロキシ基、アミノ基、シアノ基、カルボキシ基、チオール基、スルホ基、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、ウレタン結合、ハロゲン等が挙げられる。これらの基の1種を有して親水部を構成してもよいし、2種以上を有して親水部を構成してもよい。
疎水部は、ヘテロ原子を有さない炭化水素鎖である。疎水部を構成する炭化水素鎖は、飽和炭化水素でもよいし、不飽和炭化水素でもよい。疎水部を構成する炭化水素鎖の炭素数は2以上であることが好ましく、4以上であることが好ましい。炭化水素鎖の炭素が多い程、疎水性が高くなる。しかし、蛍光性色素としての機能を充分に発揮させる点では、疎水部を構成する炭化水素鎖の炭素数は、10以下であることが好ましい。
本実施形態の場合には、前記環状構造を、ヒドロキシ基とカルボキシ基が縮合したエステル結合を有する縮合環化構造(ラクトン環)にすることにより、親水性基と疎水性基とを併せ持つ蛍光性色素としている。
【0014】
そのような蛍光性色素としては、ラクトン誘導体が挙げられる。ラクトン誘導体を蛍光性色素として用いれば、有害物質の測定感度をより向上させることができる。
ラクトン誘導体は、単環化合物であってもよいし、多環化合物であってもよい。ラクトン誘導体の具体例としては、例えば、クマリン誘導体、γ-ブチロラクトン誘導体等が挙げられる。有害物質の測定感度がより高くなる点では、ラクトン誘導体はクマリン誘導体であることが好ましい。
ラクトン誘導体の親水部は、ラクトン環を構成するエステル結合である。ラクトン誘導体の疎水部は、ラクトン誘導体の環状構造のエステル結合以外の炭化水素鎖であり、特に、ラクトン誘導体の環状構造においてエステル結合に対して対称の位置にある炭化水素鎖である。ラクトン誘導体がクマリン誘導体である場合、クマリン誘導体の1位及び2位が親水部であり、4位、5位及び6位が疎水部である。
【0015】
ラクトン誘導体等の蛍光性色素は、置換基として官能基をさらに有することが好ましい。官能基とは、助色団である。蛍光性色素が助色団をさらに有すると、蛍光性色素の蛍光発光性に助色団の蛍光発光性が加わり、蛍光強度が増幅されるため、有害物質の測定感度をより向上させることができる。
助色団としては、例えば、アミノ基、チオール基、アルデヒド基、カルボキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。前記助色団は1種のみでもよいし、2種以上でもよい。
前記蛍光性色素がクマリン誘導体である場合、前記助色団のなかでも、アミノ基が好ましく、ジエチルアミノ基がより好ましい。アミノ基は、クマリン誘導体に容易に導入できる。また、アミノ基、特にジエチルアミノ基をクマリンに導入すれば、蛍光強度がより増幅されるため、有害物質の測定感度をより高めることができる。
蛍光性色素が、アミノ基を有するクマリン誘導体である場合、7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボン酸が好ましい。7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボン酸は、容易に合成できる。7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボン酸を蛍光性色素として使用すれば、有害物質の測定感度をより向上させることができる。
前記助色団は、ヘテロ原子を有するため、親水性を有する。そのため、例えば、7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボン酸においては、クマリン誘導体の1位及び2位に加えて7位が親水部となる。
【0016】
前記シクロデキストリンと前記蛍光性色素とは、直接結合してもよいし、有機鎖を介して間接的に結合してもよい。前記シクロデキストリンと前記蛍光性色素とが直接結合した化合物、前記シクロデキストリンと前記蛍光性色素とが間接的に結合した化合物のいずれも、シクロデキストリンが蛍光性色素で修飾された化合物である。
【0017】
前記シクロデキストリンと前記蛍光性色素とが直接結合する場合、蛍光性色素を、親水基を有する化合物とし、その親水基とシクロデキストリンとを反応させることによって結合することが好ましい。蛍光性色素の親水基は、シクロデキストリンのヒドロキシ基と反応させてもよい。また、シクロデキストリンのヒドロキシ基をアミノ基に変換し、そのアミノ基と蛍光性色素の親水基とを反応させてもよい。
蛍光性色素の親水基としては、カルボキシ基、ヒドロキシ基が好ましい。
【0018】
前記シクロデキストリンと前記蛍光性色素とが、有機鎖を介して間接的に結合している場合、有機鎖としては炭素数2~6の有機鎖が好ましい。炭素数2~6の有機鎖は、有害物質の分析に対して適した鎖長になり、有害物質の測定感度をより向上させることができ、しかも検知速度を向上させることもできる。
有機鎖の具体例としては、例えば、アルキレン基、オキシアルキレン基等が挙げられる。炭素数2~6のアルキレン基は、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基のいずれかである。
炭素数2~6のオキシアルキレン基は、1~3個のエチレングリコールより形成された、エーテル結合を有する基である。炭素数2~6のオキシアルキレン基は、1個又は2個のプロピレングリコールより形成された、エーテル結合を有する基でもよい。
【0019】
前記シクロデキストリン誘導体の具体例としては、例えば、下記化学式(1)~(3)で表されるシクロデキストリン誘導体が挙げられる。下記のシクロデキストリン誘導体は、水質分析用試薬として使用した際に、より高感度で有害物質を検知して測定できる化合物である。また、下記のシクロデキストリン誘導体は、容易に合成可能な化合物である。
化学式(1)で表される化合物:モノ-[7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボキシアミド]-β-シクロデキストリン。
化学式(2)で表される化合物:モノ-[7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボキシアミド]-ブチレン-アミノ-β-シクロデキストリン。
化学式(3)で表される化合物:モノ-[7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボキシアミド]-トリ(オキシエチレン)-アミノ-β-シクロデキストリン。
【0020】
【化1】
【0021】
【化2】
【0022】
【化3】
【0023】
前記シクロデキストリン誘導体の合成方法としては、下記の方法が挙げられる。但し、前記シクロデキストリン誘導体の合成方法は下記の方法に限定されない。
シクロデキストリン誘導体の合成では、β-シクロデキストリンを出発物質とし、シクロデキストリンのヒドロキシ基をモノトシル化し、次いで、アジ化し、次いで、アミノ化する。これにより形成されたアミノ基と蛍光性色素とを反応させる(下記反応式(A)参照)。この反応により、前記シクロデキストリン誘導体を合成できる。
【0024】
【化4】
【0025】
シクロデキストリンのヒドロキシ基をモノトシル化する際には、β-シクロデキストリンに、ピリジン等の溶媒中で、p-トルエンスルホニルクロリドを反応させる。これにより、シクロデキストリンのモノトシル化物を得る。反応の際には加熱してもよいし、非加熱でもよい。反応停止の際には、水を添加すればよい。
シクロデキストリンのモノトシル化物をアジ化する際には、シクロデキストリンのモノトシル化物に、水とアジ化ナトリウム(NaN)を添加して反応させる。これにより、シクロデキストリンのアジ化物を得る。反応の際には加熱してもよいし、非加熱でもよいが、加熱することが好ましい。
シクロデキストリンのアジ化物をアミノ化する際には、まず、シクロデキストリンのアジ化物を、ジメチルアセトアミド(DMAc)等の溶媒に溶解させる。次いで、トリフェニルホスフィン(PPh)を添加し、反応させて、トリフェニルホスフィンを付加させる。得られた反応物にアンモニア水を添加し、反応させて、シクロデキストリンのアミノ化物を得る。反応の際には加熱してもよいし、非加熱でもよい。
シクロデキストリンのアミノ化物に蛍光性色素を反応させる際には、まず、蛍光性色素とジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)とヒドロキシベンゾトリアゾールとを、ジメチルホルムアミド等の溶媒に溶解させる。その溶解物を氷浴中で攪拌して、蛍光性色素溶液を調製する。反応式(A)における蛍光性色素は、7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボン酸である。前記蛍光性色素溶液を、ジメチルホルムアミド等の溶媒に溶解させたシクロデキストリンの溶液に添加する。これにより、シクロデキストリンのアミノ化物に蛍光性色素を反応させる。その際、まず氷浴中で反応させた後、室温で反応させることが好ましい。シクロデキストリンのアミノ化物に蛍光性色素を反応させることによって、実施形態におけるシクロデキストリン誘導体が得られる。
【0026】
上述した実施形態の水質分析用試薬は、浄水場において浄化される原水及び浄化後の処理水に含まれる有害物質、又は、工場排水に含まれる有害物質の分析に適している。前記有害物質としては、2-メチルイソボルネオール、ゲオスミン、トリハロメタン、フミン質等の疎水性有害物質が挙げられる。実施形態の水質分析用試薬は、前記有害物質の少なくとも1種を分析対象にできる。
【0027】
以下、前記シクロデキストリン誘導体を水質分析用試薬として用いた水質分析方法の一例について説明する。
図1に、水質分析方法の一例に使用する水質分析装置10を示す。水質分析装置10は、セル11と光源12と分析部13とを備える。
セル11は、測定対象の試料水W及び水質分析用試薬を入れる容器である。セル11の材質としては石英が好適に使用される。
光源12は、セル11に光源光L1を照射する光発生部である。光源12が発する光源光L1としては、可視光、紫外光、赤外光等が挙げられる。光源光L1は、蛍光性色素の電子を励起させる励起光になる。光源光L1の種類は、有害物質の種類、水質分析用試薬における蛍光性色素の種類、分析部13の構成等に応じて適宜選択される。
分析部13は、光源光L1をセル11に照射した際に得られる分析光L2を分析するものである。分析部13の具体例としては、蛍光分光光度計、赤外分光光度計等が挙げられる。
【0028】
水質分析装置10を用いた水質分析方法では、まず、セル11に試料水Wを入れると共に、試料水Wに実施形態の水質分析用試薬を添加する。
次いで、光源12よりセル11に向けて光源光L1を照射する。セル11内の試料水Wには水質分析用試薬が添加されているため、有害物質の含有量に応じた強度の分析光L2を生じる。その分析光L2を分析部13で受光して分光分析する。その分析結果に基づき、試料水W中の有害物質の濃度を求める。求められた有害物質の濃度によって、水処理の運転条件を調整する。
【0029】
前記シクロデキストリン誘導体を水質分析用試薬として用いた水質分析方法においては、上記の水質分析装置10以外の水質分析装置を用いてもよい。例えば、図2に示す水質分析装置20、図3に示す水質分析装置30を用いてもよい。
【0030】
水質分析装置20は、分析用水槽21とポンプ22と試薬添加部23と光源24と分析部25とを備える。
水質分析装置20における分析用水槽21は、試料水Wを分析するために一時的に貯留する槽である。分析用水槽21の上部は開放されている。
ポンプ22は、分析用水槽21に連続的又は断続的に試料水を供給する供給手段である。ポンプ22の種類としては特に制限はなく、公知のポンプを使用できる。
試薬添加部23は、試料水に水質分析用試薬を添加する添加手段である。
光源24及び分析部25は、上記の水質分析装置10を構成する光源12及び分析部13と同様である。但し、光源24は、分析用水槽21に向けて光源光L1を照射し、分析部25は、分析用水槽21内の試料水Wにて生じた分析光L2を受光して分析する。
【0031】
水質分析装置20を用いた分析方法では、ポンプ22を用いて試料水を分析用水槽21に連続的又は断続的に供給する。それと同時に、ポンプ22を用いて分析用水槽21に送る試料水に、試薬添加部23を用いて水質分析用試薬を連続的又は断続的に添加する。これより、分析用水槽21に、水質分析用試薬が添加された試料水Wを溜める。
光源24より、分析用水槽21に溜めた、水質分析用試薬が添加された試料水Wに向けて光源光L1を照射する。分析用水槽21内の試料水から出射した分析光L2を分析部25で受光して分光分析する。その分析結果に基づき、試料水W中の有害物質の濃度を求める。分析用水槽21内の試料水Wは連続的又は断続的に分析用水槽21から排出する。
【0032】
水質分析装置20を用いた水質分析方法においては、試料水を連続的又は断続的に水質測定できるため、オンラインの測定に適用できる。
また、水質分析装置20を用いた水質分析方法では、分析用水槽21に溜まった試料水Wの水面に向けて光源光L1を照射し、試料水Wの水面から出射した分析光L2を分析する。すなわち、試料水Wに光源光L1を直接照射し、試料水Wから出射した分析光L2を直接分析する。そのため、水質分析装置10のように光源光L1及び分析光L2がセルを透過することがなく、セルを透過する際の光源光L1及び分析光L2の減衰が生じない。したがって、試料水Wに含まれる有害物質の測定感度をより向上させることができる。
【0033】
水質分析装置30は、分析用水槽31とポンプ32と洗浄液供給部33と光源34と分析部35とを備える。
水質分析装置30における分析用水槽31は、試料水Wを分析するために一時的に貯留する槽である。分析用水槽31の上部は開放されている。分析用水槽31の内部には、水質分析用試薬が基材の表面に固定化された試薬固定部材31aが挿入されている。試薬固定部材31aを構成する基材として特に制限はなく、ガラス板、セラミックス板、樹脂板等が使用される。基材の表面に水質分析用試薬を固定する方法としては、例えば、シランカップリング剤を用いて、基材の表面と水質分析用試薬とを結合する方法が挙げられる。
洗浄液供給部33は、分析用水槽31に洗浄液を供給する供給手段である。洗浄液供給部33としては、三方バルブ等が使用される。
ポンプ32、光源34及び分析部35は、各々、上記の水質分析装置20を構成するポンプ22、光源24及び分析部25と同様である。
【0034】
水質分析装置30を用いた分析方法では、ポンプ32を用いて試料水を分析用水槽31に連続的又は断続的に供給する。分析用水槽31には試料水Wが溜まり、試料水Wに含まれる有害物質が、試薬固定部材31aの表面に固定された水質分析用試薬に捕捉される。
光源34より、試料水Wが溜まった分析用水槽31に向けて光源光L1を照射する。光源光L1の照射により、水質分析用試薬に捕捉された有害物質の量に応じた強度の分析光L2が分析用水槽31から出射する。その分析光L2を分析部35で受光して分光分析する。その分析結果に基づき、試料水W中の有害物質の濃度を求める。分析用水槽31内の試料水Wは連続的又は断続的に分析用水槽31から排出する。
また、洗浄液供給部33から任意の間隔で洗浄液を分析用水槽31に供給し、水質分析用試薬に捕捉された有害物質を洗い流す。これにより、試薬固定部材31aを再生する。
洗浄液としては、水質分析用試薬に捕捉された有害物質を除去できる液体であれば特に制限されない。洗浄液の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール系溶剤;又はアルコール系溶剤の水溶液が使用される。
【0035】
水質分析装置30を用いた水質分析方法においても、試料水を連続的又は断続的に水質測定できるため、オンラインの測定に適用できる。
また、水質分析装置30を用いた水質分析方法では、試料水Wに光源光L1を直接照射し、試料水Wから出射した分析光を直接分析するから、有害物質の測定感度をより向上させることができる。
また、水質分析装置30を用いた水質分析方法では、試薬固定部材31aに固定された水質分析用試薬が有害物質を捕捉するため、分析用水槽31内で有害物質を濃縮できる。そのため、有害物質の量がある程度多い条件で分光分析できるため、測定感度をより向上させることができる。それに加えて、水質分析用試薬を常時添加する必要がないため、ランニングコストを削減できる。
【0036】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、水質分析用試薬が、シクロデキストリンが蛍光性色素で修飾されたシクロデキストリン誘導体であり、蛍光性色素が、親水部及び疎水部の両方を有する環状構造を持つことにより、有害物質を低コストで且つ高感度で測定できる。本実施形態では、例えば、蛍光性色素における環状構造を、ヒドロキシ基とカルボキシ基とが縮合したエステル結合を有する縮合環化構造(ラクトン環)にして、親水性基と疎水性基とを併せ持つものとすることができる。
【0037】
実施形態におけるシクロデキストリン誘導体においては、蛍光性色素が親水部と疎水部の両方を備えるため、分光分析によって、有害物質を包接したシクロデキストリン誘導体を容易に検知できるため、有害物質を高感度で測定できる。
前記水質分析用試薬を用いた有害物質の分析方法は、高価なGC-MSを使用しないため、低コストである。また、前記水質分析用試薬を用いた有害物質の分析方法は、簡便である。
よって、実施形態の水質分析用試薬によれば、有害物質を低コストで且つ高感度で測定できる。例えば、実施形態の水質分析用試薬を用いて水質分析すれば、濃度が10ng/L以下の有害物質を測定することも可能になる。
【実施例
【0038】
以下、水質分析用試薬の合成方法の一例、水質分析用試薬を用いた水質分析の一例を示す。
【0039】
あらかじめモレキュラーシーブ3Aを用いて乾燥したピリジン500mLに、80℃で4時間加熱乾燥したβ-シクロデキストリン(以下、「β-CD」と表記する。)43.5gを徐々に加えて溶解させた。続いて、p-トルエンスルホニルクロリド12.4gを徐々に加え、室温で4時間攪拌し、β-CDにp-トルエンスルホニルクロリドを反応させた。その後、40ml程度の水を添加して反応を停止させ、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮した。得られた濃縮物に水と少量のエタノールを添加し、再び濃縮し、ピリジンの臭いが消失するまで、水及びエタノールの添加と濃縮とを繰り返して、白色固体を得た。
この白色固体に500mLの水を添加し、加熱溶解させた。得られた溶液を一晩放冷させて再結晶させた。再結晶させた白色固体に水を添加した後に再結晶させる工程を3回繰り返した。
次に、混合溶媒(n-ブタノール:エタノール:水=5:4:3)を用いた再結晶を5回繰り返した。得られた結晶を濾別し、80℃で4時間加熱乾燥した。これにより、β-CDのモノトシル化物を得た。
【0040】
500mLのナス型フラスコにβ-CDのモノトシル化物5.05g及び水100mLを入れ、アジ化ナトリウム(NaN)2.54gを添加して、懸濁液を得た。懸濁液のまま80℃で4時間加熱攪拌して、β-CDのモノトシル化物にアジ化ナトリウムを反応させた。
反応物を室温で一晩放置した後、沈殿した未反応物を濾別した。得られた濾液を、ロータリーエバポレーターを用いて減圧蒸留して、固体状のβ-CDのアジ化物を得た。このβ-CDのアジ化物を真空乾燥した。
【0041】
固体状のβ-CDのアジ化物にジメチルアセトアミド(DMAc)50mLを添加し、ある程度溶解させた。得られた溶液にトリフェニルホスフィン(PPh)3.10gを添加し、1時間半反応させて、β-CDのアジ化物にトリフェニルホスフィンを付加させた。得られた反応物に、濃アンモニア水(NH)20mLを添加し、3時間攪拌した。得られた溶液を、1Lのアセトンに少しずつ滴下することにより再沈殿させ、全ての溶液を滴下した後、濾過することにより、白色固体を得た。得られた白色固体に200mLの水を添加して溶解させた後、得られた溶液を、あらかじめ塩酸によってH型に調製した吸着剤(Sephadex CM25(Pharmacia社製))を充填したカラムに導入した。約10Lの蒸留水を前記カラムに流して洗浄した後、1Nのアンモニア水を流して、溶出物を溶出させた。これにより得られた溶出液を、ロータリーエバポレーターを用いて10mLになるまで濃縮し、その濃縮物をアセトン1Lに添加して再沈殿させた。沈殿した白色固体を濾過、加熱乾燥することにより、β-CDのアミノ化物を得た。
【0042】
7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボキシアミド70mgとジシクロヘキシルカルボジイミド(CCD)110mgとヒドロキシベンゾトリアゾール72mgとを3mLのジメチルホルムアミドに溶解させ、氷浴中で30分間攪拌した。これにより得られた蛍光性色素溶液を、β-CDのアミノ化物250mgをジメチルホルムアミド中に溶解させた溶液に添加した。氷浴中で約5時間攪拌した後、さらに室温で3日間攪拌して反応させた。得られた反応液を、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮し、濃縮物をアセトン中で再沈殿させることにより、目的化合物を含む粗生成物を得た。前記粗生成物を5質量%のメタノール水溶液100mLに溶解し、得られた溶液を、可溶部をあらかじめ5質量%メタノール水溶液で調整した吸着剤(ダイヤイオンHP20(三菱化学株式会社製))を充填したカラムに導入した。前記カラムに、5質量%メタノール水溶液3L、10質量%メタノール水溶液5L、15質量%メタノール水溶液5L、20質量%メタノール水溶液6L、25質量%メタノール水溶液7L、30質量%メタノール水溶液15L、35質量%メタノール水溶液14Lを順次導入した。これにより不純物を除去し、30質量%メタノール水溶液及び35質量%メタノール水溶液により溶出した溶出液を濃縮した。この濃縮によって、目的化合物であるモノ-[7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボキシアミド]-β-シクロデキストリンを得た。
【0043】
得られたモノ-[7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボキシアミド]-β-シクロデキストリンを用いて、かび臭物質の一種である2-メチルイソボルネオール(2-MIB)を含む試料水を分析した。分析に用いた試料水は、2-MIBの含有量が既知の試料である。
具体的には、図1に示す水質分析装置10を用い、試料水を入れたセル11に、光源12より励起光(波長408nm、光源光L1)を照射した。励起光の照射により発生した蛍光(波長474nm、分析光L2)の強度を、分光光度計を備える分析部13を用いて測定した。
測定した蛍光の強度をIとし、2-MIBを添加する前の蛍光強度をIとし、Iを基準として蛍光強度変化率[(I-I)/I]を求めた。2-MIBの含有量に対する蛍光強度変化率[(I-I)/I]を図4に示す。
図4に示すように、2-MIBの含有量と蛍光強度変化率とは相関関係を有していた。したがって、モノ-[7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボキシアミド]-β-シクロデキストリンを水質分析用試薬として用いて試料水を分光分析することにより、試料水中の2-MIBの含有量を測定できることがわかった。また、試料水中の2-MIBの含有量が10ng/L以下の少量であっても測定できており、測定感度が高かった。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4