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  • -温度検出機構、電子体温計及び深部体温計 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】温度検出機構、電子体温計及び深部体温計
(51)【国際特許分類】
   G01K 13/20 20210101AFI20220317BHJP
   G01K 15/00 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
G01K13/20 341P
G01K15/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017221390
(22)【出願日】2017-11-17
(65)【公開番号】P2018084579
(43)【公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2016224196
(32)【優先日】2016-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591096059
【氏名又は名称】戸川 達男
(73)【特許権者】
【識別番号】399006700
【氏名又は名称】根本 鉄
(73)【特許権者】
【識別番号】516346045
【氏名又は名称】田中 志信
(73)【特許権者】
【識別番号】516346953
【氏名又は名称】野川 雅道
(73)【特許権者】
【識別番号】516346056
【氏名又は名称】西村 和也
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【弁理士】
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】戸川 達男
(72)【発明者】
【氏名】根本 鉄
(72)【発明者】
【氏名】田中 志信
(72)【発明者】
【氏名】野川 雅道
(72)【発明者】
【氏名】西村 和也
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第3499310(US,A)
【文献】特開2006-119139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガリウムを温度標準として利用するものであり、センサーの検出温度がガリウムの融点を通過したときに前記検出温度を自動校正する機能を有する温度検出機構において、
前記センサーが、センサー本体部と、当該センサー本体部の周囲に密着するガリウム層と、当該ガリウム層の周囲を覆う保護層を備えており、
前記ガリウム層が、ガリウムを封入したマイクロカプセルを分散させた樹脂層から成ることを特徴とする温度検出機構。
【請求項2】
請求項1に記載された温度検出機構を備えることを特徴とする電子体温計。
【請求項3】
請求項1に記載された温度検出機構を利用した熱流補償系を備えることを特徴とする深部体温計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガリウムを密着させた温度センサーを備える温度検出機構、電子体温計及び深部体温計に関する。
【背景技術】
【0002】
温度計校正用の温度標準として主に銀、アルミニウム、銅などの純金属の融点を利用する技術が知られている(特許文献1)。この技術では、温度センサー差し込み穴を有するセラミックス製の容器内に空間を残して純金属を真空密封している。容器には差し込み穴が設けられており、温度センサーをこの穴に差し込んで容器の側面に接触させることで純金属の温度を計測する仕組みになっている。
また、高純度のガリウムの融点は約29.76(℃)であり、常温付近の温度標準として有用であることが Sostman らの1970年代の論文(非特許文献1)で示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平08-15056号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】H.E. Sostman 著 Melting point of gallium as a temperature calibration standard. Review of Scientific Instruments. 1977年2月発行 vol. 48, p127~130.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ガリウムを温度標準として利用する場合、上記特許文献1の技術では次のような問題がある。
すなわち、容器に入れたガリウムの温度を容器の側面に接触させた温度センサーで計測する場合、ガリウムとセンサーを等温に保つためにはガリウムと容器の熱容量をセンサーの熱容量に対して十分大きくする必要があり、ガリウムと容器の体積が大きくなるという問題がある。
特に、電子体温計のような小型の機器においてはガリウム及びガリウムを保持するための機構を電子体温計の感温部内に収める必要があるため、ガリウム入れた容器を感温部に収めることができないという問題がある。
仮にガリウムを入れた容器を感温部内に収めることができるサイズまで小さくした場合、温度センサーも相対的に小さくする必要があるため、電子体温計で通常使用されているサーミスタを温度センサーとして使用できなくなるという問題が生じる。
【0006】
本発明は、このような問題を考慮して、ガリウムを密着させたセンサーを用いることで小型化及び高精度の温度測定を経年変化なく行なうことを可能とした温度検出機構、電子体温計及び深部体温計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の温度検出機構は、ガリウムを温度標準として利用するものであり、センサーの検出温度がガリウムの融点を通過したときに前記検出温度を自動校正する機能を有する温度検出機構において、前記センサーが、センサー本体部と、当該センサー本体部の周囲に密着するガリウム層と、当該ガリウム層の周囲を覆う保護層を備えており、前記ガリウム層が、ガリウムを封入したマイクロカプセルを分散させた樹脂層から成ることを特徴とする。
本発明の電子体温計は、上記温度検出機構を備えることを特徴とする。
本発明の深部体温計は上記温度検出機構を利用した熱流補償系を備えることを特徴とする。



【発明の効果】
【0008】
本発明ではガリウム層をセンサー本体部に密着させるので、従来のようにガリウムを容器に入れる場合と比較してガリウムとセンサー本体部を等温に保つことが容易になる。ガリウム層及びセンサー本体部を小さくできるので例えば電子体温計の感温部内に収めることが可能となる。
また、ガリウムを封入したマイクロカプセルを分散させてガリウム層を構成する場合、温度検出機構の製造が容易になるとともに、マイクロカプセルの壁材によってガリウムに不純物が混入して融点が変化するのを防ぐことができ、高い精度を経年変化なく行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施の形態における温度検出機構及び電子体温計を示す概略図
図2】制御部の構成を示すブロック図
図3】温度出力と経過時間との関係を示すグラフ
図4】第2の実施の形態における温度検出機構及び電子体温計を示す概略図
図5】実施例における試作したサーミスタの概観
図6】試作したサーミスタの断面写真
図7】体温計測実験の結果を示すグラフ
図8】リード線からの熱伝達確認実験の結果のうち、断熱なしの結果を示すグラフ(a)及び断熱ありの結果を示すグラフ(b)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1の実施の形態]
本発明の温度検出機構1及びこの温度検出機構1を備える電子体温計2の第1の実施の形態ついて説明する。
図1及び図2に示すように、温度検出機構1の大部分は電子体温計2の感温部10に収容されている。
温度検出機構1はガリウムを温度標準として利用するものであり、センサーの検出温度を自動校正する機能を有する。
【0011】
センサーはセンサー本体部20、ガリウム層21、保護層22及び制御部23から概略構成される。
センサー本体部20としては一般的な温度センサーを使用することができ、例えばサーミスタやp-n接合ダイオードを備えるものが挙げられるが、これらに限定されない。例えば白金などの測温抵抗体も使用することが出来る。
【0012】
ガリウム層21はセンサー本体部20の周囲に密着して形成される。ガリウム層21をセンサー本体部20の周囲に密着させる方法としては例えばセンサー本体部20を液状ガリウムに浸漬し、取り出して放冷固化させるディップ法が挙げられる。ガリウム層21をセンサー本体部20に密着させることによりガリウム層21とセンサー本体部20を等温に保つことが容易になる。
ガリウムは可能な限り高純度であるのが好ましいが、他にもインジウムや錫との合金であってもよい。
【0013】
保護層22はガリウム層21の周囲を覆うために設けられる。
保護層22はポリプロピレンやテフロン(登録商標)等の柔軟性を有する材料で構成するのが好ましい。保護層22に柔軟性を持たせることで温度変化に伴うガリウムの相転移時の体積変化(膨張・収縮)を吸収することができる。
制御部23はセンサー本体部20からの温度出力Xを受信し、演算処理を行った上で補正温度を出力する。制御部23は温度出力部23a、融点検出部23b、補正値修正部23c、補正温度出力部23d及び温度表示部23eから概略構成される。
【0014】
次に、温度検出機構1の原理について説明する。
20℃の室温に置いていた電子体温計2を37℃の身体に装着した場合、図3に示すように時間の経過と共に測定温度はほぼ指数関数的に体温に近づいていく。そして測定温度がガリウムの融点の29.76(℃)を通過するときにガリウムが溶け始める。ガリウムが溶け終わるまでは潜熱が吸収されて一定温度に保たれるため、温度上昇曲線の途中に平坦部分が生じる。
平坦部分の時間長さd(s)はセンサーの構造によって決まる。すなわち、センサー温度をT1(℃)、周辺の媒質の温度をT2(℃)、保護層の素材の熱伝導率をk(W/m・K)、保護層22の厚みをL(m)、センサーの表面積をA(m2)、センサー周辺の媒質温度T2の上昇速度をλ(K/s)、センサーが融点に達してからの経過時間をt(s)とすると、融点に達してからのセンサーへの熱の流入F(J/s)は次の数式1のようになる。
【数1】
したがって、平坦部分の期間にセンサーに流入する熱量Q(J)は次の数式2となる。
【数2】
平坦部分においてはセンサー温度が変化しないので、流入した熱量はすべて潜熱で吸収される。したがって、センサーに密着させたガリウムの質量をm(g)とすれば、ガリウムの融解における潜熱は約80(J/g)であることから、平坦部分の終端においては次の数式3となる。
【数3】
したがって数式2及び3より次の数式4が得られる。
【数4】
【0015】
実際的な一例として、センサー部の直径を2(mm)、長さを1(mm) (A=6.3×10-6 m2)、mを5(mg)、Lを0.1(mm)、kを0.5(W/m・K)、λを0.1(K/s)とすれば、平坦部分の時間は約16.3(s)となる。センサーの大きさや形状が異なっても、密着させたガリウムの質量mを適当に設定すれば、平坦部分の時間dを調節することができる。適当な時間の平坦部分が得られれば、その時点の計測系の出力を29.76(℃)に自動調節することにより、30(℃)付近において0.01(℃)の絶対精度で校正することが期待できる。
この結果から、算定に用いた球状のセンサーに近い形状のセンサーであれば、必要なガリウムの質量は5mg程度であり、保護層を含めても通常の電子体温計先端の感温部に十分収納できる。
【0016】
次に、制御部23の動作の一例について説明する。
まず、センサー本体部20と接続された温度出力部23aが温度出力Xを出力する。融点検出部23bは温度出力Xを受信しており、温度出力Xが滑らかに上昇している間は出力Pを0とし、平坦な部分を検出している間は出力Pを1とする。補正値修正部23cは出力Pが0のときは当該出力Pを変更せずにそのまま保持し、出力Pが1のときには補正値出力Yを(29.765-X)に置き換える。補正温度出力部23dは温度出力Xと補正値出力Yの和として補正温度を出力し、温度表示部23eは補正温度を表示する。
制御部23の動作の他の例として、例えば長時間にわたって体温を記録した後に体温の時間経過を分析する場合には、読み出した温度データーの中からガリウム融点付近の平坦部分を抽出して、その点の出力値が29.76(℃)となるように全データーを補正すればよい。ただし、温度記録がサンプリングデーターである場合には、サンプリング間隔が平坦部分の長さより十分短い必要がある。
【0017】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の温度検出機構及びこの温度検出機構を備える電子体温計の第2の実施の形態ついて説明するが、上記第1の実施の形態と同一の構成となる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
図4に示すように本実施の形態の温度検出機構3及び電子体温計4は、ガリウムを封入したマイクロカプセル30を分散させた樹脂層でガリウム層31を構成する点に特徴を有する。
マイクロカプセル30を用いることによって温度検出機構3及び電子体温計4の製作が容易になるとともに、マイクロカプセル30の壁材によってガリウムに不純物が混入して融点が変化するのを防ぐことができ、高い精度を保つことができる。
ガリウム・インジウム合金を封入したマイクロカプセルの製造技術については論文(B. J. Blaiszik ほか著 Microencapsulation of gallium-indium (Ga-In) liquid metal for self-healing applications. J. Microencapsul. 2014年発行 vol. 31, p350~354.)にも記載されているように周知の技術であり、これを利用することでガリウムを芯材とするマイクロカプセル30を製造できる。
【0018】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の温度検出機構1,3を利用した深部体温計について説明する。
熱流補償系を用いる深部体温計においては、熱流を検出するために熱絶縁層の両面に設置した2個の温度センサーで温度差を検知し、温度差がゼロになるように一方の面を加熱することにより、完全に近い断熱を実現する。この際、熱流補償を高精度で行うために2個の温度センサーの相対誤差を極力小さくする必要があり、本発明の温度検出機構1,3が有効である。
本発明の温度検出機構1,3ではセンサー温度がガリウムの融点を通過することが必要であるが、深部体温計を装着する際に室温に置いたプローブを身体に装着すれば、プローブ温度が室温から体温に向かって上昇するので、室温が29℃より低ければ2個の温度センサーを用いて自動校正することができる。
【実施例
【0019】
[ガリウム封入サーミスタの試作]
液体ガリウムは大部分の金属を脆化させるうえに、濡れ性が非常に高く取り扱いにくいという問題が有る。そこでこれを解決するために、ガラス被覆されたサーミスタのヘッド部にガリウムをコーティングしさらにポリウレタンで保護する方法を独自に考案し、ガリウム封入サーミスタの具現化を可能にした。試作したサーミスタの概観を図5に、断面写真を図6に示す。図6からサーミスタの周りのガリウム層がポリウレタンの層でしっかりと封入されていることが確認できる。
[ガリウム封入サーミスタによる体温計測実験]
ガリウム封入サーミスタを冷蔵庫で冷却しガリウムを固化。計測直前に冷蔵庫から取り出し、ガリウム封入サーミスタヘッドを肘関節内側または腋窩部に挟み、その時の温度変化を温度データロガー(CT-620BT,カスタム(株))により5秒間隔で計測した。その結果を図7に示す。この結果からガリウムの相転移に起因すると考えられる温度平坦部が観察され、今回新たに考案した方法の妥当性が確認された。
[リード線からの熱伝達確認実験]
リード線の熱伝達が相転移部の温度測定精度に影響を及ぼす可能性が考えられたので、熱収縮チューブで断熱効果を高めたものを用意し同一条件で平坦部温度検知の計測実験を行った。結果を図8に示す。この結果からリード線の断熱の有無で平坦部の温度、平坦部持続時間に差が生じていることが判る。具体的には断熱あり(図8(b))に比べて断熱なし(図8(a))の方が温度平坦部での温度がガリウム融点の29.7646℃に近くなっている。また、断熱ありの方が温度平坦部の持続時間が長くなっている。これは断熱した場合にはサーミスタヘッド部に比べてリード線の方が温度が低く熱が流出したためと考えられ、プロトタイプ試作に際してはサーミスタヘッドとリード線部分との間に温度差が生じないような構造とすべきであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、ガリウムを密着させたセンサーを用いることで小型化及び高精度の温度測定を経年変化なく行なうことを可能とした温度検出機構、電子体温計及び深部体温計に関するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0021】
1 温度検出機構
2 電子体温計
3 温度検出機構
4 電子体温計
10 感温部
20 センサー本体部
21 ガリウム層
22 保護層
23 制御部
23a 温度出力部
23b 融点検出部
23c 補正値修正部
23d 補正温度出力部
23e 温度表示部
30 マイクロカプセル
31 ガリウム層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8