(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】含浸木材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B27K 3/02 20060101AFI20220317BHJP
【FI】
B27K3/02 C
(21)【出願番号】P 2020075383
(22)【出願日】2020-04-21
【審査請求日】2021-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000204985
【氏名又は名称】大建工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591120088
【氏名又は名称】越井木材工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮村 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】日笠 基
(72)【発明者】
【氏名】大橋 春樹
(72)【発明者】
【氏名】石井 寛典
(72)【発明者】
【氏名】越井 潤
【審査官】櫻井 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-098538(JP,A)
【文献】特開昭63-317302(JP,A)
【文献】特開平03-274104(JP,A)
【文献】特開2019-084796(JP,A)
【文献】特開平11-300707(JP,A)
【文献】特開2009-045914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 1/00 - 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含浸薬剤を溶解した薬液を減圧及び加圧可能な金属製の液圧注入釜内に供給して、該液圧注入釜内に収容した木質基材に上記薬液を含浸する含浸工程と、
上記液圧注入釜から上記含浸工程で用いた薬液を排出した後に、上記薬液中における上記含浸薬剤の析出温度以上の洗浄温水を上記液圧注入釜内に供給してから該洗浄温水を該液圧注入釜から排出することにより、上記液圧注入釜の内壁面及び上記木質基材の表面を洗浄する洗浄工程と、
上記液圧注入釜から上記洗浄工程で洗浄された木質基材を取り出した後に、該木質基材を乾燥する乾燥工程とを備え
、
上記洗浄工程で排出した洗浄温水を次処理の木質基材に含浸する薬液の溶媒の一部及び該薬液に溶解する含浸薬剤の一部として用いることを特徴とする含浸木材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された含浸木材の製造方法において、
上記含浸薬剤は、ホウ酸若しくはホウ砂の単体、ホウ酸及びホウ砂の混合物、リン酸若しくはリン酸グアニジンの単体、又はリン酸及びリン酸グアニジンの混合物であることを特徴とする含浸木材の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載された含浸木材の製造方法において、
上記洗浄温水は、30℃以上に加温されたものであることを特徴とする含浸木材の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1つに記載された含浸木材の製造方法において、
上記含浸工程では、上記液圧注入釜内に上記薬液を供給する前に、該液圧注入釜内に上記木質基材を収容した状態で該液圧注入釜内を減圧することを特徴とする含浸木材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含浸木材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、国産の木材の利用拡大等を図るために、例えば、天然木等の木質基材を難燃剤が溶解された薬液で含浸処理した含浸木材が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、リン酸グアニジン及びリン酸が水に溶解された難燃化薬液を被処理木材に含浸させて不燃木材を製造する不燃木材の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に開示された不燃木材の製造方法のような含浸木材の製造方法では、被処理木材が収容された圧力容器の内部を減圧する減圧処理及び加圧する加圧処理を行うので、圧力容器として、耐圧性を有する金属製の液圧注入釜を用いる必要がある。しかしながら、金属製の液圧注入釜を用いると、薬液が液圧注入釜の内壁面に残存又は付着した状態で冷えると、薬液に溶解していた含浸薬剤が液圧注入釜の内壁面で析出するので、液圧注入釜を含む製造設備では、析出して固着した含浸薬剤によって、動作不良を引き起こすおそれがあり、改善の余地がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、金属製の液圧注入釜の内壁面における含浸薬剤の固着を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る含浸木材の製造方法は、含浸薬剤を溶解した薬液を減圧及び加圧可能な金属製の液圧注入釜内に供給して、該液圧注入釜内に収容した木質基材に上記薬液を含浸する含浸工程と、上記液圧注入釜から上記含浸工程で用いた薬液を排出した後に、上記薬液中における上記含浸薬剤の析出温度以上の洗浄温水を上記液圧注入釜内に供給してから該洗浄温水を該液圧注入釜から排出することにより、上記液圧注入釜の内壁面及び上記木質基材の表面を洗浄する洗浄工程と、上記液圧注入釜から上記洗浄工程で洗浄された木質基材を取り出した後に、該木質基材を乾燥する乾燥工程とを備え、上記洗浄工程で排出した洗浄温水を次処理の木質基材に含浸する薬液の溶媒の一部及び該薬液に溶解する含浸薬剤の一部として用いることを特徴とする。
【0008】
上記の方法によれば、木質基材に薬液を含浸する含浸工程と木質基材を乾燥する乾燥工程との間に行う洗浄工程において、液圧注入釜から含浸工程で用いた薬液を排出した後に、薬液中における含浸薬剤の析出温度以上の洗浄温水を液圧注入釜内に供給してから洗浄温水を液圧注入釜から排出して、液圧注入釜の内壁面及び木質基材の表面を洗浄する。これにより、液圧注入釜の内壁面に付着した薬液が、含浸薬剤を溶解した状態のまま、洗浄温水に含まれて、洗い流されるので、金属製の液圧注入釜の内壁面における含浸薬剤の固着を抑制(大幅に軽減)することができる。また、洗浄工程において、薬液が含浸された木質基材を取り出すことなく、洗浄温水が液圧注入釜内に供給されるので、液圧注入釜の内壁面だけでなく薬液が含浸された木質基材の表面も洗浄温水によって洗浄される。これにより、木質基材の表面に付着した薬液が、含浸薬剤を溶解した状態のまま、洗浄温水に含まれて、洗い流されるので、木質基材の表面に付着した薬液の結晶化による木質基材同士のくっつきを抑制することができると共に、仮に、後工程で所定形状に加工する際には、薬液の結晶化による加工刃物の消耗を抑制することができる。
【0009】
さらに、洗浄工程で排出した洗浄温水を次処理の木質基材に含浸する薬液の溶媒の一部及びその薬液に溶解する含浸薬剤の一部として用いるので、洗浄温水及びそれに含まれる含浸薬剤がリサイクルされることにより、含浸薬剤の効率的な利用が可能になり、製造コストを低減することができ、安価な製品を提供することができる。
【0010】
上記含浸薬剤は、ホウ酸若しくはホウ砂の単体、ホウ酸及びホウ砂の混合物、リン酸若しくはリン酸グアニジンの単体、又はリン酸及びリン酸グアニジンの混合物であってもよい。
【0011】
上記の方法によれば、含浸薬剤が、ホウ酸若しくはホウ砂の単体、又はホウ酸及びホウ砂の混合物である場合には、ホウ酸系含浸薬剤が含浸された不燃木材や防蟻木材を製造することができる。また、含浸薬剤が、リン酸若しくはリン酸グアニジンの単体、又はリン酸及びリン酸グアニジンの混合物である場合には、リン酸系含浸薬剤が含浸された不燃木材を製造することができる。ここで、不燃木材は、木質基材にホウ酸系含浸薬剤やリン酸系含浸薬剤を含浸することにより、非含浸の木質基材よりも燃え難くなった含浸木材である。また、防蟻木材は、木質基材にホウ酸系含浸薬剤を含浸することにより、非含浸の木質基材よりもシロアリ等の食害が抑制された含浸木材である。
【0012】
上記洗浄温水は、30℃以上に加温されたものであってもよい。
【0013】
上記の方法によれば、洗浄温水が30℃以上に加温されたものであるので、液圧注入釜の内壁面及び木質基材の表面に付着した薬液に洗浄温水が混じっても、薬液の急激な温度降下による結晶化が抑制され、液圧注入釜の内壁面及び木質基材の表面を確実に洗浄することができる。
【0014】
上記含浸工程では、上記液圧注入釜内に上記薬液を供給する前に、該液圧注入釜内に上記木質基材を収容した状態で該液圧注入釜内を減圧してもよい。
【0015】
上記の方法によれば、含浸工程において、液圧注入釜内に薬液を供給する前に、液圧注入釜内に木質基材を収容した状態で液圧注入釜内を減圧するので、木質基材に含まれる空気を少なくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、液圧注入釜から含浸工程で用いた薬液を排出した後に、薬液中における含浸薬剤の析出温度以上の洗浄温水を液圧注入釜内に供給してから洗浄温水を液圧注入釜から排出して、液圧注入釜の内壁面及び木質基材の表面を洗浄する洗浄工程を備えるので、金属製の液圧注入釜の内壁面における含浸薬剤の固着を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る含浸木材の製造方法で製造される含浸木材の断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る含浸木材の製造方法の含浸工程で用いる液圧注入釜及びその周辺設備の概略構成図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る含浸木材の製造方法における製造工程を連続的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の各実施形態に限定されるものではない。
【0019】
《第1の実施形態》
図1~
図3は、本発明に係る含浸木材の製造方法の第1の実施形態を示している。なお、本実施形態では、含浸木材として、(難燃剤を溶解した薬液を含浸した)不燃木材を例示する。ここで、
図1は、本実施形態の製造方法で製造される不燃木材10の断面図である。
【0020】
不燃木材10は、
図1に示すように、板状の木質基材5と、木質基材5の内部に含浸して固着された難燃剤6とを備えている。
【0021】
木質基材5は、例えば、無垢材、集成材、合板、LVL(Laminated Veneer Lumber)、パーティクルボード、木質繊維板等である。なお、木質基材5としては、木質系の材料が含まれていれば、木質系以外の材料との複合材も用いることができる。
【0022】
難燃剤6は、例えば、リン酸若しくはリン酸グアニジンの単体、又はリン酸及びリン酸グアニジンの混合物等のリン酸系含浸薬剤、ホウ酸若しくはホウ砂の単体、又はホウ酸及びホウ砂の混合物等のホウ酸系含浸薬剤、その他の水溶性の難燃剤等により構成されている。なお、ホウ酸系含浸薬剤は、難燃剤としてだけでなく、防蟻剤としても有効に働くものである。ここで、特に、ホウ酸系含浸薬剤やリン酸系含浸薬剤は、温度に依存して、その水に対する溶解度が大きく変わるので、本発明の作用効果が有効に発揮される。
【0023】
次に、上記構成の不燃木材10を製造する方法について、図面を用いて説明する。なお、本実施形態の不燃木材10の製造方法は、薬液調整工程、含浸工程、洗浄工程及び乾燥工程を備える。ここで、
図2は、不燃木材10の製造方法の含浸工程で用いる液圧注入釜30及びその周辺設備の概略構成図である。なお、
図2の概略構成図におけるポンプ、コック及び配管の構成は、一例であり、本発明は、この構成に限定されない。また、
図3は、不燃木材10の製造工程を連続的に示す模式図である。なお、
図3において、木質基材5aは、含浸処理が行われた木質基材5を示しており、木質基材5bは、その後に洗浄処理が行われた木質基材5を示している。
【0024】
~液圧注入釜及びその周辺設備~
液圧注入釜30は、減圧及び加圧可能な金属製のチャンバにより構成されている。また、液圧注入釜30には、
図2に示すように、第1接続配管25及び第2接続配線27を介して、薬液7を貯留する薬液タンク20が接続されている。また、液圧注入釜30には、
図2に示すように、第1接続配管25及び第2接続配管26を介して、50℃程度に加温した洗浄温水8を貯留する温水タンク40が接続されている。ここで、第1接続配管25の経路中には、
図2に示すように、液圧注入釜30から温水タンク40側に向かって、コックCaa、圧力ポンプPa、コックCab、コックCaが順に設けられている。なお、コックCaa、圧力ポンプPa及びコックCabが並ぶ配管の部分には、
図2に示すように、コックCacを備えた迂回配管が設けられている。また、第2接続配管26の経路中には、
図2に示すように、液圧注入釜30側から温水タンク40に向かって、コックCb、コックCba、液送ポンプPb及びコックCbbが順に設けられている。なお、コックCba、液送ポンプPb及びコックCbbが並ぶ配管の部分には、
図2に示すように、コックCbcを備えた迂回配管が設けられている。また、第2接続配管27の経路中には、
図2に示すように、薬液タンク20から離れるように、コックCca、液送ポンプPc及びコックCcb及びコックCcが順に設けられている。なお、コックCca、液送ポンプPc及びコックCcbが並ぶ配管の部分には、
図2に示すように、コックCccを備えた迂回配管が設けられている。さらに、液圧注入釜30には、
図2に示すように、コックCdを備えた排気配管28を介して、減圧ポンプPdが接続されている。なお、上記各接続配管、上記各コック及び上記各ポンプ等には、必要に応じて、加温装置が設けられていることが望ましい。
【0025】
<薬液調整工程>
例えば、薬液タンク20内において、撹拌装置(不図示)を用いて、100質量部の50℃の水に30質量部のリン酸グアニジンを溶解させて、薬液7を調整する。ここで、薬液7に用いる水は、イオン交換水、蒸留水、水道水、工業用水等である。また、薬液7に用いるリン酸グアニジンは、ジグアニジン塩のリン酸ジグアニジンである。なお、上述した配合で調整した薬液7において、リン酸グアニジンの析出温度は、39℃である。
【0026】
また、本実施形態では、難燃剤6としてリン酸グアニジンを用いた不燃木材10の製造方法を例示するが、難燃剤6としてホウ酸及びホウ砂の混合物を用いる場合には、例えば、100質量部の60℃の水に60質量部のホウ酸(B(OH)3)及び65質量部のホウ砂(Na2B4O7・10H2O)を溶解させて、薬液7を調整すればよい。この薬液7において、ホウ酸及びホウ砂の析出温度は、45℃であるので、後述する洗浄工程において、45℃以上の60℃程度の洗浄温水を用いればよい。
【0027】
ここで、薬液7を調整する際に、前回の洗浄工程で使用された洗浄温水8が温水タンク40に戻されている場合には、温水タンク40内に貯留された洗浄温水8の体積及び難燃剤6の濃度を測定することにより、温水タンク40中の難燃剤6の量を算出し、難燃剤6の不足分を薬液タンク20内に追加し、溶解させればよい。なお、洗浄温水8中の難燃剤6の濃度は、洗浄温水8の比重を測定することにより測定することができるが、これに限らず、塩分濃度計等で測定してもよい。
【0028】
<含浸工程>
まず、全てのコックを閉じ、圧力ポンプPa、液送ポンプPb及び液送ポンプPcが停止させた状態で、液圧注入釜30内に複数の木質基材5を収容した後に、コックCdを開き、減圧ポンプPdを動作させることにより、液圧注入釜30内を、例えば、0.09MPa程度に減圧して、木質基材5内の導管等に含まれる空気を除去する(
図3中の(a)参照)。
【0029】
続いて、コックCdを閉じ、減圧ポンプPdを停止させた後に、コックCcc、コックCc、コックCa、コックCab及びコックCaaを開くと共に、圧力ポンプPaを動作させることにより、第2接続配管27及び第1接続配管25を介して、液圧注入釜30内に薬液7を供給して、液圧注入釜30内を薬液7で満たす(
図3中の(b)参照)。
【0030】
さらに、圧力ポンプPaを動作させ続けることにより、薬液タンク20内の薬液7を液圧注入釜30内に連続的に送り込んで、液圧注入釜30内を、例えば、1.6MPa程度に加圧して、木質基材5に薬液7を含浸する(
図3中の(c)参照)。なお、加圧条件は、液圧注入釜30内の液圧を測定することで、プログラムにより自動的に制御し、段階的に上昇させるのが望ましく、本実施形態の例では、15時間程度をかけて、段階的に1.6MPaとする。
【0031】
<洗浄工程>
まず、圧力ポンプPaを停止させ、コックCacを徐々に開くことにより、液圧注入釜30内の薬液7を薬液タンク20に戻して、液圧注入釜30から薬液7を排出する(
図3中の(d)参照)。なお、液圧注入釜30が常圧に戻った後は、コックCccを閉じ、コックCca及びコックCcbを開き、液送ポンプPcを動作させることにより、液圧注入釜30内の薬液7を薬液タンク20に戻す。
【0032】
続いて、コックCca及びコックCcb及びコックCcを閉めると共に、液送ポンプPcを停止させた後に、コックCb及びコックCbcを開いた状態で、圧力ポンプPaを動作させることにより、温水タンク40内の洗浄温水8を液圧注入釜30内に供給して、液圧注入釜30内を洗浄温水8で満たす(
図3中の(e)参照)。なお、圧力ポンプPaにより高い圧力をかけない方が望ましいので、液圧注入釜30内に洗浄温水8が満たされた後は、圧力ポンプPaを停止して、コックCa及びコックCbcを閉じ、所定時間(例えば、30分間~1時間程度)静置する(
図3中の(f)参照)。
【0033】
さらに、コックCac、コックCa、コックCb、コックCba及びコックCbbを開いた状態で液送ポンプPbを動作させることにより、液圧注入釜30内の洗浄温水8を温水タンク40に戻して、液圧注入釜30から洗浄温水8を排出することにより、液圧注入釜30の内壁面及び木質基材5a(5b)の表面を洗浄する(
図3中の(g)参照)
。
【0034】
なお、洗浄工程で液圧注入釜30から排出した洗浄温水8は、例えば、全てのコックを閉じた状態から、コックCca、コックCcb、コックCc、コックCb及びコックCbcを開いた状態で液送ポンプPcを動作させて、温水タンク40内の洗浄温水8を薬液タンク20内に供給することにより、次処理の木質基材5に含浸する薬液7の溶媒の一部として用いられる。
【0035】
また、洗浄工程においては、液圧注入釜30内、各接続配管及び各コックを加温することにより、難燃剤6の析出温度以下にならないように温度を維持するのが好ましい。なお、この温度維持が難しい場合には、残存した難燃剤6が溶解された洗浄温水8において、その難燃剤6の濃度を想定したときの析出温度よりも高い温度であればよい。ここで、洗浄温水8に溶解して回収された難燃剤6は、液圧注入釜30、接続配管、木質基材5に付着した難燃剤6の量により異なるが、製造設備毎に量が決まるので、この決まった量に鑑み、安全率を考慮して、高めに設定すればよい。そして、本実施形態では、洗浄温水8中に回収された難燃剤6の量が5質量%程度であるので、安全率を考慮して、10質量%の濃度での析出温度を想定すると、析出温度が約10℃程度となる。この場合、10℃~20℃よりも低い温度にならないように加温すれば、洗浄温水8を排出する際に、洗浄温水8中で結晶化することがない。このように、析出する可能性のある難燃剤6を使用する製造方法では、特に冬季を想定すると、加温なしでは配管内等で結晶化による不具合が生じてしまうものの、本実施形態の洗浄工程を行うことにより、結晶化による不具合を大幅に軽減することができる。
【0036】
<乾燥工程>
全てのコックを閉め、液圧注入釜30を開けて、上記洗浄工程で洗浄された木質基材5bを液圧注入釜30から取り出した後に、60℃程度で20日間程度静置して、木質基材5bを乾燥する(
図3の(h)参照)。
【0037】
以上のようにして、本実施形態の不燃木材10を製造することができる。
【0038】
なお、本実施形態では、50℃に加温した洗浄温水8で液圧注入釜30の内壁面を洗浄する製造方法を例示したが、液圧注入釜30内に供給された洗浄温水8に含まれる難燃剤6の濃度は、含浸工程で用いる薬液7における難燃剤6の濃度よりもかなり低いので、洗浄温水8の温度は、必ずしも薬液7中における難燃剤6の析出温度以上でなくてもよい。但し、洗浄温水8を流し込んだ際に液圧注入釜30や接続配管内に残留した薬液7と混じり、急激に温度を下げると、この部分で結晶化してしまうので、洗浄温水8が30℃以上に加温されていれば、大きな問題が生じることなく、液圧注入釜30の内壁面、接続配管の内壁面及び木質基材5aの表面の洗浄を行うことができる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の不燃木材10の製造方法によれば、木質基材5に薬液を含浸する含浸工程と木質基材5bを乾燥する乾燥工程との間に行う洗浄工程において、液圧注入釜30から含浸工程で用いた高濃度の薬液7を排出した後に、薬液7中における難燃剤6の析出温度以上の洗浄温水8を液圧注入釜30内に供給してから洗浄温水8を液圧注入釜30から排出して、液圧注入釜30の内壁面及び木質基材5aの表面を洗浄する。これにより、液圧注入釜30の内壁面に付着した薬液7が、難燃剤6を溶解した状態のまま、洗浄温水8に含まれて、洗い流されるので、金属製の液圧注入釜30の内壁面における難燃剤7の固着を大幅に軽減することができる。
【0040】
また、洗浄工程において、薬液7が含浸された木質基材5aを取り出すことなく、洗浄温水8が液圧注入釜30内に供給されるので、液圧注入釜30の内壁面だけでなく薬液7が含浸された木質基材5aの表面も洗浄温水8によって洗浄される。これにより、木質基材5aの表面に付着した薬液7が、難燃剤6を溶解した状態のまま、洗浄温水8に含まれて、洗い流されるので、木質基材5aの表面に付着した薬液7の結晶化による木質基材5a(5b)同士のくっつきを抑制することができると共に、仮に、後工程で所定形状に加工する際には、薬液7の結晶化による加工刃物の消耗を抑制することができる。
【0041】
また、洗浄工程において、液圧注入釜30の内壁面だけでなく第1接続配管25、第2接続配管27及び第3接続配管26の内壁面も洗浄温水8によって洗い流されるので、第1接続配管25、第2接続配管27及び第3接続配管26の詰まりを抑制することができる。
【0042】
また、洗浄工程において、液圧注入釜30の内壁面だけでなく木質基材5aの表面も洗浄温水8によって洗い流されるので、製造された不燃木材10において、難燃剤6が表面に染み出して結晶化する白華を抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態の不燃木材10の製造方法によれば、洗浄温水8が30℃以上に加温されたものであるので、液圧注入釜30の内壁面及び木質基材5aの表面に付着した薬液7に洗浄温水8が混じっても、薬液7の急激な温度降下による結晶化が抑制され、液圧注入釜30の内壁面及び木質基材5aの表面を確実に洗浄することができる。
【0044】
また、本実施形態の不燃木材10の製造方法によれば、含浸工程において、液圧注入釜30内に薬液7を供給する前に、液圧注入釜30内に木質基材5を収容した状態で液圧注入釜30内を減圧するので、木質基材5に含まれる空気を少なくすることができる。
【0045】
また、本実施形態の不燃木材10の製造方法によれば、洗浄工程で排出した洗浄温水8を次処理の木質基材5に含浸する薬液7の溶媒の一部として用いるので、洗浄温水8及びそれに含まれる難燃剤6がリサイクルされることにより、難燃剤6の効率的な利用が可能になり、製造コストを低減することができ、安価な製品を提供することができる。
【0046】
《その他の実施形態》
上記第1の実施形態では、含浸木材として不燃木材10を例示したが、含浸木材は、例えば、ホウ酸系含浸薬剤等の防蟻剤を溶解した薬液を含浸した防蟻木材等であってもよい。
【0047】
上記第1の実施形態では、リン酸若しくはリン酸グアニジンの単体、リン酸及びリン酸グアニジンの混合物、ホウ酸若しくはホウ砂の単体、又はホウ酸及びホウ砂の混合物等を水に溶解した薬液を用いた不燃木材の製造方法を例示したが、本発明は、水溶性の難燃剤の以外に他の助剤を水に溶解した薬液を用いた不燃木材(含浸木材)の製造方法にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明したように、本発明は、金属製の液圧注入釜の内壁面における含浸薬剤の固着を抑制することができるので、極めて有用である。
【符号の説明】
【0049】
5 木質基材
6 難燃剤(含浸薬剤)
7 薬液
8 洗浄温水
10 不燃木材(含浸木材)
30 液圧注入釜