(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】皮脂産生促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/899 20060101AFI20220317BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220317BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20220317BHJP
A61K 8/9794 20170101ALI20220317BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
A61K36/899
A61P17/00
A61P17/16
A61K8/9794
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2017161114
(22)【出願日】2017-08-24
【審査請求日】2020-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】506188611
【氏名又は名称】佐藤 隆
(73)【特許権者】
【識別番号】514099961
【氏名又は名称】合同会社EBC&M
(73)【特許権者】
【識別番号】517297533
【氏名又は名称】合同会社テイクプラス
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃治
(72)【発明者】
【氏名】坂上 弘明
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-013090(JP,A)
【文献】国際公開第2008/018118(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104490722(CN,A)
【文献】国際公開第2007/142130(WO,A1)
【文献】特開2017-031110(JP,A)
【文献】特開平07-187990(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0021353(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/899
A61P 17/00
A61K 8/9794
A61Q 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮脂産生促進剤の有効成分となる竹の抽出物の製造方法であって、
孟宗竹の稈部分の常圧過熱水蒸気抽出物を、高速液体クロマトグラフィーにて次の分析条件で展開し、
リテンションタイム10分以下の分画成分を含有させず、リテンションタイムが32分以上42分以下の分画成分を含有させる製造方法。
高速液体クロマトグラフィーの分析条件
・カラム Waters社製SunFire
(商標) C18(担体粒子径5μm、カラム内径4.6mm、カラム長150mm)
・カラム温度 室温
・移動相A:0.1%TFA/Water、移動相B:0.1%TFA/CH
3CN
・分離条件
0~5min:移動相A98%、移動相B2%に保持、
5~40min:移動相A98%、移動相B2%から移動相A60%、移動相B40%へ直線的に変化、
40~50min:移動相A2%、移動相B98%に保持、
・移動相流速 1mL/min
・測定波長 214nm
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竹の常圧過熱水蒸気による抽出物を主成分とする皮脂産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
外来植物である孟宗竹は、1950年代頃までは竹材や筍を得るために管理された竹林で栽培されていた。しかしながら、近年は竹林業が経済的に成立しなくなり、各地で竹林が放置されるようになった。孟宗竹は繁殖力が異常に強いため、放置された竹林では、竹の繁殖域が無秩序に周囲に広がり、既存の植生を破壊するいわゆる竹害が問題となっている。
【0003】
一方、竹害の問題に対し、竹を有効利用するための研究が進められている。例えば、竹を常圧過熱水蒸気で処理して発生する蒸気を凝縮して得られる竹の過加熱水蒸気抽出物(以下、竹SHS(Super-Heated Stream)抽出物という)が、食中毒原因菌選択制抗菌剤として提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の竹SHS抽出物も含めて、竹抽出物に抗菌作用があることや低分子量の有機酸(ギ酸、酢酸、コハク酸、リンゴ酸など)が含まれることが知られているが、有機酸の物性から、竹抽出物を外用剤として皮膚疾患治療や美容の目的に利用する場合、皮膚刺激が懸念される。
【0006】
これに対し、本発明は、竹抽出物から新たな有用成分とその薬剤としての用途を見出し、竹の有効利用を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、竹SHS抽出物に含まれる成分を高速液体クロマトグラフィーにより分離し、個々の成分を細胞に作用させることで、比較的疎水性度の高い成分が皮脂産生促進作用を有することを見出し、本発明を想到した。
【0008】
即ち、本発明は、皮脂産生促進剤の有効成分となる竹の抽出物の製造方法であって、
孟宗竹の稈部分の常圧過熱水蒸気抽出物を、高速液体クロマトグラフィーにて次の分析条件で展開し、
リテンションタイム10分以下の分画成分を含有させず、リテンションタイムが32分以上42分以下の分画成分を含有させる製造方法を提供する。
高速液体クロマトグラフィーの分析条件
・カラム Waters社製SunFire(商標) C18(担体粒子径5μm、カラム内径4.6mm、カラム長150mm)
・カラム温度 室温
・移動相A:0.1%TFA/Water、移動相B:0.1%TFA/CH3CN
・分離条件
0~5min:移動相A98%、移動相B2%に保持、
5~40min:移動相A98%、移動相B2%から移動相A60%、移動相B40%へ直線的に変化、
40~50min:移動相A2%、移動相B98%に保持、
・移動相流速 1mL/min
・測定波長 214nm
【発明の効果】
【0009】
本発明の皮脂産生促進剤によれば、脂腺細胞における皮脂産生能力を促進させることができる。そのため、本発明の皮脂産生促進剤は皮脂の減少に伴う皮膚疾患の治療ないし予防に有用となる。また、本発明の皮脂産生促進剤を皮膚に適用すると、表皮に潤いや柔軟性を付与することができ、美容上の効果も得ることができる。
【0010】
さらに、本発明の皮脂産生促進剤は、竹を原材料とし、常圧過熱水蒸気で竹を処理し、発生した蒸気を凝集するという簡便な方法により製造できるため、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、竹SHS抽出物を逆相クロマトグラフィーで展開したクロマトグラムである。
【
図2】
図2は、
図1に対し、竹SHS抽出物の注入量および分離条件を変更して逆相クロマトグラフィーで展開した場合のクロマトグラムである。
【
図3A】
図3Aは、竹SHS抽出物又はそのHPLC画分の脂腺細胞に対する作用を示す写真である。
【
図3B】
図3Bは、竹SHS抽出物のHPLC画分の脂腺細胞に対する作用を示す写真である。
【
図3C】
図3Cは、竹SHS抽出物のHPLC画分の脂腺細胞に対する作用を示す写真である。
【
図3D】
図3Dは、竹SHS抽出物のHPLC画分の脂腺細胞に対する作用を示す写真である。
【
図4】
図4は、脂腺細胞のDNA当たりの皮脂(TG)の産生量に及ぼす竹SHS抽出物の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の皮脂産生促進剤について詳細に説明する。
本発明の皮脂産生促進剤は、竹を常圧過熱水蒸気で処理することにより発生する蒸気を凝縮して得られる竹SHS抽出物であって、後述する逆相クロマトグラフィーで展開した場合に、リテンションタイムが特定の範囲となる成分を含有する。
【0013】
ここで、竹はイネ目イネ科タケ亜科のうち、茎が木質化する種の総称であり、竹の代表的な種類としては、モウソウチク(孟宗竹)、マダケ、ハチク等が挙げられる。本発明が抽出対象とする竹には、孟宗竹をはじめとする上述の代表的な竹の他に、アズマザサ、ヤダケ、アズマネザサ、スズタケ、クマザサやチシマザサなどのイネ科タケ亜科に属するササ類を含めることができる。
【0014】
抽出する竹の部位としては、稈、枝、葉又は根をあげることができる。
【0015】
竹から竹SHS抽出物を得る方法は、特許文献1に記載されている方法によればよい。即ち、竹を入れた容器に、好ましくは180~250℃、より好ましくは200~230℃の常圧過加熱水蒸気を、好ましくは0.2~1.0kg/竹1kgの流量で導入し、それにより発生する加水分解生成物の蒸気(即ち、竹の分解により生じた揮発竹酢成分)を冷却凝縮させる。こうして得られた竹SHS抽出物は、タール分を含まず、発がん性を有するベンゾピレンの濃度が低く、好ましくは0.7ppb以下である。
【0016】
また、こうして得られた竹SHS抽出物は種々の成分の混合物となっているが、本発明の皮膚産生促進剤には、室温(例えば25℃)で実施例に記載の逆相クロマトグラフィーで展開した場合にリテンションタイムが32分以上42分以下の成分を含有させる。一方、この逆相クロマトグラフィーでリテンションタイム10分以下の成分は、ギ酸、酢酸、コハク酸、リンゴ酸などの低分子量の有機酸であり、細胞毒性があるので、皮脂産生促進剤には含有させないことが好ましい。
【0017】
本発明の皮脂産生促進剤の剤型は、固形状、半固形状、液状等のいずれであってもよく、製品の形態に応じて適宜決定される。
【0018】
また、本発明の皮脂産生促進剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、pH調整剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、香料、色素などの各種添加剤や賦形剤を含有することができる。
【0019】
本発明の皮脂産生促進剤の投与形態は、経口、経腸、径粘膜、注射等とすることができる。また、医薬品、化粧品、飲食品、ペットフード等に配合して使用することができる。
【実施例】
【0020】
(1)竹SHS抽出物の調製
特許文献1の実施例の「選択性抗菌剤の製造実施例1」に記載されている方法で、孟宗竹の稈部分から竹SHS抽出物を得た。
【0021】
(2)HPLCによる竹SHS抽出物の解析
(1)で得た竹SHS抽出物を試料とし、高速液体クロマトグラフ(Chromaster(Organizer,Interface Box,5410 UV Detector,5110 Pump)、株式会社日立ハイテクサイエンス)を用いて次の逆相クロマトグラフィーの分離条件で展開し、
図1のクロマトグラムを得た。
図1から疎水性度の異なる複数の化合物が竹SHS抽出物に含まれることがわかる。
【0022】
HPLC分析条件
・カラム Waters社製SunFire(商標) C18(担体粒子径5μm、カラム内径4.6mm、カラム長150mm)
・カラム温度 室温
・移動相A:0.1%TFA/Water、移動相B:0.1%TFA/CH3CN
・分離条件
0~170min:移動相A100%、移動相B0%から移動相A60%、移動相B40%へ直線的に変化
・移動相流速 1mL/min
・測定波長 214nm
・試料注入量 100μL
【0023】
(3)HPLCによる竹SHS抽出物分画試料の調製
次に、竹SHS抽出物に含まれる個々の成分を分離し、分離した成分ごとに細胞に対する作用を調べるため、逆相クロマトグラフィーの分離条件及び試料注入量を次のように変更し、細胞培養に用いるために十分な量の分画成分を得た。この場合のクロマトグラムを
図2に示す。
【0024】
HPLC分析条件
・カラム Waters社製SunFire(商標) C18(担体粒子径5μm、カラム内径4.6mm、カラム長150mm)
・カラム温度 室温
・移動相A:0.1%TFA/Water、移動相B:0.1%TFA/CH3CN
・分離条件
0~5min:移動相A98%、移動相B2%に保持、
5~40min:移動相A98%、移動相B2%から移動相A60%、移動相B40%へ直線的に変化、
40~50min:移動相A2%、移動相B98%に保持、
・移動相流速 1mL/min
・測定波長 214nm
・試料注入量 1000μL
【0025】
図2が示すように、竹SHS抽出物は11の成分に分画した。このようにして得られた11の画分を凍結乾燥した。
【0026】
このうち、画分1は、DMSOに溶解した成分(F1D)と、DMSOに不溶性のものを超純水にて溶解したもの(F1W)の2つに分けた。画分2から画分9は全てDMSOに溶解した(F2-F9)。なお、リテンションタイム10分以下の成分には、特許文献1に記載されている、ギ酸、酢酸、コハク酸、リンゴ酸などの低分子量の有機酸が含まれていると考えられる。
【0027】
(4)竹SHS抽出物の皮脂産生促進作用
(4-1)ハムスター脂腺細胞の単離
ゴールデンハムスター(雄、5週齢)の左右耳介部を切除し、penicillin G(100units/mL)および硫酸streptomycin(100μg/mL)を添加したDMEMに浸し、1時間以上4℃にて放置した後にリン酸緩衝食塩液(PBS(-))で洗浄した。耳介部周囲の毛を刈り、5×5mm程度に細切し、2.4units/mL dispase溶液中で4℃、13.5時間静置した。酵素処理後、ピンセットにて耳介部より表皮を剥離し、皮脂腺を含む真皮を脂腺細胞培養液(SGM)[DMEM/F12/6%(v/v)FBS/2%(v/v)human serum/0.68mM L-glutamine/penicillin(100units/mL)/硫酸streptomycin(100μg/mL)]に浸し、実体顕微鏡下で皮脂腺を単離した。
【0028】
(4-2)ハムスター脂腺細胞の皮脂産生に対する竹SHS抽出物の作用
継代培養したハムスター脂腺細胞(p=5)を96well plate (IWAKI製)に1.0×104cells/wellの細胞数で播種した。この場合、ハムスター脂腺細胞を未分画の竹SHS抽出物(0.0003%、0.01%、0.1%及び1%)、及び竹SHS抽出物のHPLC分画のF1D、F1W、F2、F3、F4、F5、F6、F7、F8及びF9(0.0003%、0.01%、及び1%)でそれぞれ処理し、9日間培養した。培養後、リン酸緩衝液(PBS(-))にて細胞を洗浄し、4%パラホルムアルデヒドにて固定し、細胞標本を得た。
【0029】
皮脂産生能に対する竹SHS抽出液の影響を評価するため、得られた細胞標本をoil red O染色法により脂肪滴を染色した。また、対照として、DHTや竹SHS抽出物を添加せずに作製した細胞標本(Ctl)、DHTの存在下(濃度10μM)で竹SHS抽出物を添加せずに作製した細胞標本(DHT)、又は皮脂産生促進作用が知られているインスリン(Ins)の存在下(濃度10μM)で作製した細胞標本についても同様に染色した。
【0030】
ここで、Oil red O染色液は、0.3%(w/v)oil red O を含む isopropanol溶液と精製水を3:2(v:v)で混合し、密閉式超音波細胞破砕装置(コスモ・バイオ株式会社製)により15分間超音波処理を行い、10分間室温に放置し、ろ過した上清である。
【0031】
この染色法では、固定した細胞標本にoil red O 染色液を加えて37℃で15分間染色した。
【0032】
染色後、細胞をリン酸緩衝液(PBS(-))にて洗浄し、光学顕微鏡(オリンパス株式会社製)により脂肪滴形成を観察した。この観察写真を「竹SHS抽出物(画分)」として
図3A、
図3B、
図3C及び
図3Dに示す。
【0033】
また、皮脂の主成分であるトリアシルグリセロール(TG)を定量するため、DHTや竹SHS抽出物を添加しない細胞(Ctl)、DHTの存在下(濃度10μM)で竹SHS抽出物を添加せずに処理した細胞(DHT)、皮脂産生抑制作用が知られているレチノイン酸を処理した細胞(RA)(濃度1nM)、皮脂産生促進作用が知られているインスリンを処理した細胞(Ins)(濃度10μM)、DHT存在下でRAを処理した細胞(DHT+RA)、DHT存在下で竹SHS抽出物を処理した細胞(DHT+竹SHS抽出物0.1%又は1%)をそれぞれPBS(-)で2回洗浄し、0.25% (w/v) trypsin/0.02% (w/v) EDTA/PBS(-)溶液を用いて回収した。得られた細胞懸濁液を氷冷下、密閉式超音波細胞破砕装置(コスモ・バイオ株式会社製)により超音波処理を行い、細胞を破砕した。この細胞内のTG量をアクアオートカイノスTG-II試薬(株式会社カイノス製)を用いて次の方法で測定した。すなわち、上記で調製した細胞懸濁液試料(50μL)に反応試液R-1(90μL)を添加し、37℃で10分間反応させた後、直ちに反応試液R-2(30μL)を添加し、さらに37℃で10分間反応させた。反応終了後、595nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーにて測定した。この吸光度からTG量を、同様に実施したトリオレイン標準液(200mg/dL)の吸光度に基づいて算出した。一方、細胞中のDNA量を3,5-ジアミノ安息香酸二塩酸塩(DABA)法を用いて測定し、DNA1μgあたりの皮脂量(TG/DNA)を求め、このTG/DNAのコントロールに対する比を求めた。結果を
図4に示す。
【0034】
図3A~
図3D及び
図4から、未分画の竹SHS抽出物には、その濃度依存的にDHTにより誘導した皮脂産生を抑制する作用が認められ、竹SHS抽出物の濃度が1%であると外観観察から細胞死が疑われた。また、竹SHS抽出物のF1Dには皮脂産生に対して強い抑制作用が認められた。しかしながら、竹SHS抽出物のF2~F5には細胞毒性が認められず、F6~F8には皮脂産生の促進作用が認められた。したがって、F6~F8を含む画分、即ち、リテンションタイムが32分以上42分以下の画分は、皮脂産生促進剤の有効成分となることがわかる。また、観察された脂肪滴を蓄積する細胞数と各画分の濃度との関係から、この有効成分の適正濃度は、画分濃度として1%未満であることがわかる。