(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】反射構造体および反射構造体を用いた光分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/61 20060101AFI20220317BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
G01N21/61
G02B5/08 A
(21)【出願番号】P 2018056995
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2020-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今橋 理宏
(72)【発明者】
【氏名】中尾 茂
(72)【発明者】
【氏名】西島 喜明
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-145293(JP,A)
【文献】特開2017-062182(JP,A)
【文献】特開平10-339808(JP,A)
【文献】特開2007-255947(JP,A)
【文献】特開2013-176436(JP,A)
【文献】特開2017-116449(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106872389(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 ー G01N 21/74
G02B 5/00 - G02B 5/136
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象ガスを検知するための非分散型赤外線分析式ガスセンサにおいて、赤外線を反射する反射構造体であって、
金により形成される反射面を有する本体と、
前記赤外線が照射されたときに局在表面プラズモン共鳴が生じるように前記本体の反射面上に設けられる金ナノ粒子とを備え、
前記金ナノ粒子において前記局在表面プラズモン共鳴を生じさせる前記赤外線の波長と、前記赤外線が照射された際の前記検知対象ガスの赤外線吸収スペクトルにおける吸収ピークの波長とが略一致するように
、前記金ナノ粒子の形状、前記金ナノ粒子の大きさ、または前記金ナノ粒子と前記反射面との間の間隔が設定される、反射構造体。
【請求項2】
前記金ナノ粒子が、リンカーを介して前記反射面に連結されている、
請求項1に記載の反射構造体。
【請求項3】
前記金ナノ粒子が、自己組織化により形成されるリンカーを介して前記反射面に連結されている、
請求項1に記載の反射構造体。
【請求項4】
前記金ナノ粒子が、ロッド状に形成されている、
請求項1~3のいずれか1項に記載の反射構造体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の反射構造体を用いた光分析装置。
【請求項6】
中赤外領域の赤外線を用いる、請求項5に記載の光分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射構造体および反射構造体を用いた光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、雰囲気ガス中の検知対象ガスなどの検知対象物を検知するための光分析装置に、たとえば特許文献1に開示されるような非分散型赤外線分析(NDIR)式ガスセンサが用いられている。NDIR式ガスセンサは、検知対象ガスが特定波長の赤外線を吸収する特性を利用して、検知対象ガスを通過した特定波長の赤外線の吸収強度を測定することにより、検知対象ガスを検知する。
【0003】
NDIR式ガスセンサでは、検知対象ガスの吸収強度を増加させるために、赤外線の光路長をできるだけ長く確保して、検知対象ガスによる赤外線の吸収量を多くする必要がある。しかし、赤外線の光路長を長くすることでセンサが大型化するという問題が生じる。そのような問題を解決するために、たとえば、特許文献2に示されるように、測定セル内に複数の反射鏡を配置して、赤外線の複数回の反射を利用することで、センサの大型化を抑制しながら、赤外線の光路長を長く確保することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-219101号公報
【文献】特開2014-238307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、NDIR式ガスセンサに限らず、赤外分光装置やラマン分光装置など、光吸収を利用する光分析装置において、光路に反射鏡を用いる場合、反射鏡の焦点位置の正確な位置決めが難しいため、光路を通過する光の全体を受光することが難しく、その結果として、測定される光の吸収強度が小さくなる。また、反射鏡による集光の難しさに加え、反射鏡自体での光吸収による反射のロスも生じる可能性があり、その場合にも測定される光の強度が小さくなる。さらに、光分析装置の筐体の制約から、反射鏡の配置にも制約が生じるため、反射鏡の数を増やして反射回数を増加させて、光路長を延長するのにも限界がある。したがって、光分析装置においては、最低限の反射鏡を用いて光路長を延長しつつ、光の吸収強度を増加させることが求められる。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みなされたもので、光の吸収強度を増加させることが可能な反射構造体およびその反射構造体を用いた光分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の反射構造体は、光を反射する反射構造体であって、金により形成される反射面を有する本体と、光が照射されたときに局在表面プラズモン共鳴が生じるように前記本体の反射面上に設けられる金ナノ粒子とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、前記金ナノ粒子が、リンカーを介して前記反射面に連結されていることが好ましい。
【0009】
また、前記金ナノ粒子が、自己組織化により形成されるリンカーを介して前記反射面に連結されていることが好ましい。
【0010】
また、前記金ナノ粒子が、ロッド状に形成されていることが好ましい。
【0011】
本発明の光分析装置は、前記反射構造体を用いた光分析装置であることを特徴とする。
【0012】
また、中赤外領域の赤外線を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光の吸収強度を増加させることが可能な反射構造体およびその反射構造体を用いた光分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る光分析装置の構成を示す概略図である。
【
図2】
図1の光分析装置で用いられる反射構造体の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係る反射構造体およびその反射構造体を用いた光分析装置を説明する。ただし、以下に示す実施形態は一例であり、本発明の反射構造体および光分析装置は、以下の例に限定されることはない。
【0016】
本実施形態の反射構造体は、光を反射するために用いられる。本実施形態の反射構造体は、たとえば、光分析装置に用いることができる。以下では、反射構造体を、光分析装置、特に非分散型赤外線分析(NDIR)式ガスセンサを用いたガス検知器に適用した例を挙げて説明する。ただし、本発明の反射構造体は、光分析装置に限らず、光を反射することが必要な他の用途にも適用可能である。
【0017】
光分析装置は、光を利用して検知対象物を検知するために用いられる装置である。光分析装置1は、
図1に示されるように、光源2と、光源2からの光Lを反射する反射構造体3とを備えている。光分析装置1は、光源2から放射される光Lが、反射構造体3により反射されて伝搬する過程において、検知対象物と相互作用することによって生じる光Lの変化や新たに生じる光を検出することにより、検知対象物を検知する。光分析装置1は、本実施形態では、非分散型赤外線分析(NDIR)式ガスセンサNを用いたガス検知器である。以下では、このガス検知器1を例に挙げて、本発明の光分析装置を説明する。ただし、本発明の光分析装置は、NDIR式ガスセンサを用いたガス検知器に限定されることはなく、たとえば赤外分光装置やラマン分光装置など、光を利用して検知対象物を検知する他の光分析装置であってもよい。
【0018】
光分析装置であるガス検知器1は、検知対象物である検知対象ガスを検知するために用いられる。ガス検知器1は、
図1に示されるように、検知対象ガスを検知する非分散型赤外線分析(NDIR)式ガスセンサNを備えている。ガス検知器1はさらに、任意で、NDIR式ガスセンサNを操作するための操作部C(たとえば操作ボタンなど)と、NDIR式ガスセンサNにより得られる検知結果を表示する表示部D(たとえば液晶ディスプレイなど)とを備えている。ガス検知器1は、内部バッテリまたは外部電源などの図示しない電源から電力が供給されて作動する。
【0019】
ガス検知器1の検知対象ガスは、ガス検知器1により検知対象となるガスである。検知対象ガスとしては、たとえば、メタン、ブタン、イソブタン、水、アンモニア、二酸化硫黄、三酸化硫黄、硫化水素、亜酸化窒素、アセトン、オゾン、六フッ化硫黄、オクタフルオロシクロペンテン、ヘキサフルオロ1、3ブタジエンなど、赤外線の波長領域において吸収ピークを有するガスが例示される。ただし、本発明の光分析装置の検知対象物としては、赤外線の波長領域において吸収ピークを有するガスに限定されることはなく、紫外線や可視光線の波長領域など、他の波長領域に吸収特性を有する物質であってもよい。
【0020】
NDIR式ガスセンサNは、赤外線を検知対象ガスに照射して、検知対象ガスによって吸収された赤外線の吸収強度(減衰強度)を測定することで、検知対象ガスを検知する。NDIR式ガスセンサNは、本実施形態では、
図1に示されるように、内部空間Sを有する筐体Hと、筐体Hの内部に光Lを放射する光源2と、光源2からの光Lを反射する反射構造体3と、光Lを検出する光検出部4と、光源2および光検出部4を制御する回路部5とを備えている。NDIR式ガスセンサNは、光源2、反射構造体3、光検出部4および回路部5が筐体Hに一体となって設けられ、単体として取扱い可能なモジュールを形成している。しかし、NDIR式ガスセンサNは、たとえば回路部5が筐体Hとは別に設けられてもよく、その構成は図示された例に限定されない。
【0021】
筐体Hは、内部空間Sに検知対象ガスが供給される部材である。筐体Hは、
図1に示されるように、上下(
図1中、紙面表裏方向)の両端が閉じた略円筒状に形成され、その内部に内部空間Sが設けられる。また、筐体Hは、内部空間S内に検知対象ガスを導入するガス導入部(図示せず)と、内部空間Sから検知対象ガスを排出するガス排出部(図示せず)とを備えている。筐体Hでは、ガス導入部から検知対象ガスが導入されて、内部空間S内に検知対象ガスが供給されて、ガス排出部から検知対象ガスが排出される。筐体Hは、特に限定されることはなく、たとえば樹脂材料などにより形成される。筐体Hは、本実施形態では略円筒状に形成されているが、略直方体形状など他の形状に形成されてもよい。
【0022】
光源2は、検知対象物を検知するために利用可能な光を放射する。光源2は、本実施形態では、検知対象物である検知対象ガスによって吸収される波長の光(たとえば検知対象ガスの分子振動が励起されるエネルギーを有する光)を放射する。光源2により放射される光は、少なくとも検知対象ガスの吸収スペクトルにおける吸収ピークの波長を有する光を含んでいればよく、その波長の単色光であっても、その波長を含む広い波長範囲の光であってもよい。たとえば、メタン、ブタンなどの可燃性ガスを検知対象ガスとする場合、これらの可燃性ガスは中赤外領域の波長(たとえば2.5~4μm)に吸収ピークを有しているので、これらの可燃性ガスを検知する場合には、中赤外領域の赤外線が用いられる。光源2は、
図1に示されるように、回路部5に通信可能に接続されて、回路部5によってその出力が制御される。光源2としては、たとえば、発光ダイオード(LED)や赤外線ランプを採用することができる。光源2は、たとえば、連続光やパルス光を放射する。光源2は、本実施形態では赤外線を放射するように構成されているが、検知対象物を検知するのに必要な波長の光を放射することができればよく、赤外線だけでなく可視領域や紫外線領域など他の波長の光を放射するように構成されてもよい。
【0023】
光検出部4は、光Lを検出して、光Lの強度を測定する。光検出部4は、本実施形態では、
図1に示されるように、光源2から放射されて筐体Hの内部空間S内を伝搬した後の光Lを検出する。光検出部4は、反射構造体3から反射された光Lを検出するように位置合わせされる。光検出部4は、回路部5に通信可能に接続されて、測定した光Lの強度データを回路部5に送信する。光検出部4は、光を検出して光の強度を測定することができれば、特に限定されることはなく、公知の量子型受光素子であるフォトダイオードや、公知の熱型受光素子であるサーモパイル、ボロメータ、焦電センサなどを採用することができる。フォトダイオードとしては、たとえば、近赤外域で使用されるPbS素子、InGaAs素子など、中赤外域で使用されるPbSe素子、InAsSb素子、Al-InAsSb素子など、遠赤外域で使用されるMCT(テルル化カドミウム水銀)素子などが例示される。
【0024】
回路部5は、
図1に示されるように、光源2および光検出部4に通信可能に接続され、光源2および光検出部4を制御する。また、回路部5は、光源2から放射された光Lの強度と、光検出部4により測定された光Lの強度とを比較することで、検知対象ガスの有無を判定し、あるいは検知対象ガスの濃度を算出する。回路部5は、たとえば公知の中央演算処理装置(CPU)により構成することができる。
【0025】
反射構造体3は、光Lを反射するとともに、検知対象物による光Lの吸収を促進する。反射構造体3は、
図2に示されるように、金により形成される反射面31aを有する本体31と、光Lが照射されたときに局在表面プラズモン共鳴が生じるように本体31の反射面31a上に設けられる金ナノ粒子32とを備えている。反射構造体3は、本体31の反射面31aにより光Lを反射し、反射面31a上に設けられる金ナノ粒子32により検知対象物による光Lの吸収を促進する。
【0026】
反射構造体3は、本実施形態では、
図1に示されるように、筐体Hの内部空間S内において、光源2から放射された光L、または他の反射構造体3から反射された光Lを反射して、さらに他の反射構造体3、または光検出部4に光Lを導くように、内部空間Sに隣接する筐体Hの側面に設けられる。ガス検知器1では、検知対象ガスが供給される筐体Hの内部空間S内において、反射構造体3によって光Lが反射されて伝搬するので、内部空間Sを大きくすることなく、光源2から光検出部4に至る光Lの経路を長くすることができる。ガス検知器1は、光Lの経路を長くすることができるので、内部空間Sを大きくすることなく、検知対象ガスによる光の吸収強度(検知信号強度)を増加させることができる。なお、反射構造体3は、本実施形態では、内部空間S内で光Lが複数回(図示された例では4回)反射されて光源2から光検出部4に導かれるように、互いに離間して複数(図示された例では4つ)設けられているが、その数や設けられる位置は特に限定されることはなく、たとえば1つであってもよいし、内部空間Sに隣接する筐体Hの側面に連続して設けられていてもよい。
【0027】
反射構造体3の本体31は、光Lを反射するとともに、金ナノ粒子32を支持する。本体31は、本実施形態では、
図2に示されるように、金により形成される反射面31aと、反射面31aが設けられる基部31bと、基部31bと一体的に形成される支持台31cとを有している。本体31は、
図1に示されるように、反射面31aが筐体Hの内部空間S内を向くように、支持台31cが筐体Hの側面に取り付けられることで、筐体Hに設けられる。
【0028】
本体31の反射面31aは、光源2から放射された光Lを反射する。反射面31aは、本実施形態では、
図2に示されるように、反射した光Lが集光されるように凹状に形成され、凹面鏡を形成している。ただし、反射面31aは、光Lを反射して、別の反射構造体3の反射面31aまたは光検出部4に光Lを導くことができれば、凹状に限定されることはなく、平面状など他の形状に形成されてもよい。反射面31aは、たとえば、基部31bを金により構成し、基部31bの表面を研磨することによって形成することもできるし、蒸着など公知の成膜手法により、基部31bの表面に金膜を設けることにより形成することもできる。反射面31aは、金により形成されることで、酸化されることなくより安定した表面を維持できるので、安定して光を反射することができる。さらに、金は、赤外線に対する反射率が高く、反射面31aは、光Lとして赤外線を用いる場合に、より有効に光を反射することができる。
【0029】
本体31の基部31bおよび支持台31cは、本実施形態では、それぞれ径の異なる略円柱状に形成されているが、反射面31bが設けられ、筐体Hに取り付けることができればよく、その形状は特に限定されない。また、基部31bおよび支持台31cは、特に限定されることはなく、たとえば金属(アルミニウムなど)や樹脂により形成することができる。基部31bおよび支持台31cと反射面31aとは、別の材料により形成されてもよいし、同じ材料により形成されてもよい。
【0030】
反射構造体3の金ナノ粒子32は、共鳴条件を満たす波長の光Lが照射されたときに局在表面プラズモン共鳴を生じる粒子である。金ナノ粒子32に光Lが照射されると、金ナノ粒子32の表面において自由電子のプラズモン振動が励起され、金ナノ粒子32内で自由電子の粗密が生じることで、金ナノ粒子32に分極状態が生じる。照射される光Lの波長と金ナノ粒子32の誘電率とが互いに共鳴条件を満足するとき、光Lによって金ナノ粒子32に励起される分極が非常に大きくなって、金ナノ粒子32に局在表面プラズモン共鳴が生じる。このときの分極は、共鳴条件を満たす光Lの周波数で振動して、その結果、金ナノ粒子32の極近傍において強い近接場光を生成する。金ナノ粒子32の極近傍を通過する検知対象ガスは、たとえば、この近接場光によって分子振動が励起されることによって、この近接場光を吸収する。この際、光と分子の相互作用時間が増加(104倍程度)し、光と分子の相互作用が著しく増幅されて、分子振動の励起が促進される。光源2から放射される光Lの波長が、金ナノ粒子32に局在表面プラズモン共鳴を生じさせるための光Lの波長と対応(または略一致)し、局在表面プラズモン共鳴によって生成される近接場光の波長が、検知対象ガスの吸収スペクトルにおける吸収ピークの波長(たとえば分子振動を励起するための光の波長)と対応(または略一致)する場合に、金ナノ粒子32に局在表面プラズモン共鳴が生じるとともに、たとえば、検知対象ガスの分子振動が非常に多く生じることになって、結果的に検知対象ガスによる光Lの吸収が大きくなる。したがって、反射構造体3は、反射面31a上に金ナノ粒子32を設けることで、光Lの吸収強度を増加させることができる。そして、ガス検知器1においては、金ナノ粒子32が反射面31aに設けられた反射構造体3を光Lの反射に用いることで、検知対象ガスによる光Lの吸収が大きくなるので、検知対象ガスの検知信号強度が増加する。
【0031】
金ナノ粒子32は、球状、ロッド状、ワイヤ状またはプレート状などの任意の形状で、最長部分の長さが5μm未満の大きさに形成される金の粒子を含んでいる。金ナノ粒子32の形状および大きさは、特に限定されることはなく、検知対象ガスにより吸収される光の波長に対応して、金ナノ粒子32に局在表面プラズモン共鳴を生じさせるように設定される。従来、金ナノ粒子の形状および大きさに依存して、金ナノ粒子の誘電率が変化し、それによって、局在表面プラズモン共鳴を生じさせる光の波長が変化することが知られている。たとえば、金ナノ粒子の大きさが大きくなるにしたがって、局在表面プラズモン共鳴を生じさせる光の波長は大きくなる。また、金ナノ粒子を球状からロッド状やプレート状にすることで、局在表面プラズモン共鳴を生じさせる光の波長が大きくなる。金ナノ粒子がロッド状に形成されている場合は、ロッド状の金ナノ粒子のアスペクト比(長辺の長さ/短辺の長さ)が小さいときは、主に金ナノ粒子の大きさ(たとえば長辺の長さ)に依存して、局在表面プラズモン共鳴を生じさせる光の波長が大きくなるが、ロッド状の金ナノ粒子のアスペクト比が大きくなると、主にアスペクト比の大きさに依存して、局在表面プラズモン共鳴を生じさせる光の波長が大きくなる。金ナノ粒子が、アスペクト比をさらに大きくしたワイヤ状に形成されることで、光の波長はさらに大きくなる。このように、局在表面プラズモン共鳴を生じさせる光の波長が金ナノ粒子32の形状および大きさに依存するので、金ナノ粒子32に局在表面プラズモン共鳴を生じさせ、それによって検知対象ガスによって光Lが吸収されるのに必要な光Lの波長に応じて、金ナノ粒子の形状および大きさを設定することができる。
【0032】
本実施形態のガス検知器1では、検知対象とする検知対象ガスの吸収スペクトルにおける吸収ピークが生じる波長を含む光Lが選択され、その光Lによって局在表面プラズモン共鳴が生じる形状および大きさの金ナノ粒子32が選択される。たとえば、メタン、ブタンなどの可燃性ガスを検知対象ガスとする場合、これらの可燃性ガスは中赤外領域の波長(たとえば2.5~4μm)に吸収ピークを有しているので、光Lとしては、中赤外領域の赤外線を用いることが好ましく、金ナノ粒子32は、ロッド状またはプレート状に形成されていることが好ましい。あるいは、光Lとして遠赤外領域の赤外線を用いる場合には、金ナノ粒子32は、ロッドのアスペクト比をより大きくしたワイヤ状に形成されることが好ましい。金ナノ粒子32は、ロッド状に形成されることで、光Lの波長を変更してもアスペクト比を変更することにより局在表面プラズモン共鳴を生じさせることができるので、検知対象ガスの種類に応じて容易に設計変更が可能である。ロッド状に形成される金ナノ粒子32のアスペクト比や大きさは、光Lの波長や、金ナノ粒子32と反射面31aとの間の距離などに応じて設定することができる。金ナノ粒子32のアスペクト比は、たとえば約1/1~約200/1の範囲で設定され、可視域から近赤外域の波長の光を用いる場合には約1/1~約5/1、中赤外域の波長の光を用いる場合には約5/1~約25/1(波長が3~4.5μmの光を用いる場合には約15/1~約25/1)、遠赤外領域の波長の光を用いる場合には約25/1~約200/1の範囲に設定される。また、金ナノ粒子32の長辺の長さは、たとえば約5~約5000nmの範囲で設定され、可視域の波長を有する光を用いる場合には約5~約20nm、近赤外域の光を用いる場合には約20~約100nm、中赤外域の光を用いる場合には約100~約1000nm、遠赤外域の光を用いる場合には約1000~約5000nmの範囲に設定される。
【0033】
金ナノ粒子32の配置は、光Lが照射されたときに局在表面プラズモン共鳴が生じればよく、特に限定されることはない。本実施形態では、
図2に示されるように、ロッド状に形成された金ナノ粒子32が、その長手方向が反射面31aに対して交差する方向(図示された例では略直交する方向)に延びるように配置されている。金ナノ粒子32の長手方向が反射面31aに対して交差する方向に延びることで、反射面31aを形成する金の誘電関数の影響によって、局在表面プラズモン共鳴のスペクトルが長波長側にシフトするため、金ナノ粒子32のアスペクト比を小さく抑えることができる。そして、金ナノ粒子32と反射面31aとの間の距離が互いに接触しない範囲で近ければ近いほど、局在表面プラズモン共鳴のスペクトルが長波長側にさらにシフトし、金ナノ粒子32のアスペクト比をさらに小さく抑えることができる。物性的には、金ナノ粒子32と反射面31aとの間で電子間相互作用(たとえばクーロン相互作用)が生じる場合に、金ナノ粒子32に光Lが照射されると、金ナノ粒子32は、反射面31aの影響を受けながら分極するので、長手方向の長さが実際の長さよりも伸びたように分極し、金ナノ粒子32の見かけ上のアスペクト比が大きくなる。それによって、使用される光Lの波長に対して金ナノ粒子32に要求されるアスペクト比は、金ナノ粒子32の増加した見かけ上のアスペクト比によって満足させられるので、金ナノ粒子32自体のアスペクト比を小さく抑えることができる。
【0034】
金ナノ粒子32は、本実施形態では、
図2に示されるように、反射面31a上に複数設けられている。しかし、金ナノ粒子32の数は、特に限定されることはなく、反射面31aの略全面を覆うような数であってもよいし、反射面31aの一部を覆うような数であってもよく、必要とされる、検知対象ガスによる光Lの吸収強度や反射面31aによる光Lの反射強度に応じて、適宜設定することができる。たとえば、反射面31a上における金ナノ粒子32の密度は、後述する自己組織化によって配置される範囲に設定することができる。また、金ナノ粒子32間の間隔は、特に限定されることはないが、金属消光(隣接する金ナノ粒子へのエネルギー移動に伴う励起子の消失)が抑制される範囲内であって、局在表面プラズモンにより増強される電場の影響を受ける範囲内であることが好ましく、たとえば3~10nmであることが好ましい。ただし、金属消光が抑制される範囲としては、金ナノ粒子32同士が接触するとプラズモン共鳴が消失するので、金ナノ粒子32同士が接触しない範囲で、たとえば1nm程度の範囲とすることもできる。また、局在表面プラズモンにより増強される電場の影響を受ける範囲は、金ナノ粒子32の形状や共鳴波長などによって定まるため、金ナノ粒子32間の間隔は、金ナノ粒子32の形状や共鳴波長などに応じて、たとえば100nm程度の範囲とすることも可能である。したがって、金ナノ粒子32間の間隔は、1~100nmの範囲とすることも可能である。
【0035】
金ナノ粒子32の反射面31aへの配置方法は、光Lが照射されたときに局在表面プラズモン共鳴が生じるように本体31の反射面31aに設けられていればよく、特に限定されることはないが、本実施形態では、
図2に示されるように、金ナノ粒子32は、リンカー33を介して反射面31aに連結されている。リンカー33は、光Lが照射されたときに金ナノ粒子32と反射面31aとの間での自由電子の授受を抑制して、金ナノ粒子32に分極を生じさせるように、反射面31aから離間して金ナノ粒子32を反射面31a上に配置する。なお、本実施形態では、金ナノ粒子32と反射面31aとがリンカー33を介して連結されているが、金ナノ粒子32同士がリンカーを介して連結されていてもよい。
【0036】
金ナノ粒子32と反射面31aとの間の間隔は、特に限定されることはないが、金属消光(隣接する反射面31aへのエネルギー移動に伴う励起子の消失)が抑制される範囲内であって、局在表面プラズモンにより増強される電場の影響を受ける範囲内であることが好ましく、たとえば3~10nmであることが好ましい。ただし、金属消光が抑制される範囲としては、金ナノ粒子32と反射面31aとが接触するとプラズモン共鳴が消失するので、金ナノ粒子32と反射面31aとが接触しない範囲で、たとえば1nm程度の範囲とすることもできる。また、局在表面プラズモンにより増強される電場の影響を受ける範囲は、金ナノ粒子32の形状や共鳴波長などによって定まるため、金ナノ粒子32と反射面31aとの間の間隔は、金ナノ粒子32の形状や共鳴波長などに応じて、たとえば100nm程度の範囲とすることも可能である。したがって、金ナノ粒子32と反射面31aとの間の間隔は、1~100nmの範囲とすることも可能である。
【0037】
リンカー33を構成する材料としては、互いの自由電子の授受を抑制するように金ナノ粒子32を反射面31a上に配置することができれば、特に限定されることはなく、たとえば、たんぱく質の架橋剤や、金属有機構造体を安定化させるテレフタル酸ジアニオンなどを用いることができる。ただし、金ナノ粒子32は、自己組織化により形成されるリンカー33を介して反射面31aに連結されていることが好ましい。本実施形態では、リンカー33は、自己組織化し、自己組織化単分子膜を形成している。そして、自己組織化により形成されるリンカー33と金ナノ粒子32とが連結され、自己組織化膜を形成している。自己組織化単分子膜は、比較的均一な膜厚で反射面31a上に形成することができるので、金ナノ粒子32は、自己組織化により形成されるリンカー33を介して反射面31aに連結されることにより、反射面31aとの間隔がより均一になるように配置され得る。
【0038】
リンカー33が形成する自己組織化単分子膜の単分子としては、特に限定されることはなく、チオール基を有するもの、リン酸基を有するもの、ホスホン基を有するものなど、一端が反射面31aに結合し他端が金ナノ粒子32に結合するものを用いることができる。チオール基を有するものとしては、特に限定されることはなく、アルカンジチオールやオクタデシルジチオールなどが例示される。アルカンジチオールとしては、炭素数が5~50のものが好ましく、5~30のものがより好ましく、10~20のものがさらに好ましい。
【0039】
自己組織化単分子膜の形成方法は、公知の方法を採用することができる。たとえば、単分子としてアルカンジチオールを用いる場合は、所定の炭素数を有するアルカンジチオールを含む溶液に反射構造体3の反射面31aを浸漬することにより、反射面31a上に自己組織化単分子膜を形成することができる。自己組織化単分子膜が形成された反射面31aを、金ナノ粒子32が分散された溶液に浸漬することにより、金ナノ粒子32は、自己組織化単分子膜を介して反射面31aに連結される。あるいは、所定の炭素数を有するアルカンジチオールと金ナノ粒子32とをあらかじめ分散させた溶液に、反射構造体3の反射面31aを浸漬させることによっても、自己組織化単分子膜を反射面31a上に形成し、金ナノ粒子32を反射面31aに連結することができる。
【0040】
リンカーを構成する材料として、他にも、反射面31a上に設けられたクロム膜(たとえば膜厚1~2nm)およびシリコン酸化物膜(たとえば膜厚2~3nm)の上に、たとえば一方がシランカップリングで、他方がチオールにより形成される表面修飾剤を設けたものを用いることで、金ナノ粒子32と反射面31aとの間の間隔を精緻に制御することができる。また、表面をシリコン酸化物で被覆した逆コアシェル型の、たとえばロッド状の金ナノ粒子32を用いても、金ナノ粒子32と反射面31aとの間の間隔を確保することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 光分析装置(ガス検知器)
2 光源
3 反射構造体
31 本体
31a 反射面
31b 基部
31c 支持台
32 金ナノ粒子
33 リンカー
4 光検出部
5 回路部
C 操作部
D 表示部
H 筐体
L 光
N 非分散型赤外線分析(NDIR)式ガスセンサ
S 内部空間