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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】成膜方法及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/54 20060101AFI20220317BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
C23C14/54 B
C23C14/24 M
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021515230
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2020038356
(87)【国際公開番号】W WO2021075385
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/040457
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390007216
【氏名又は名称】株式会社シンクロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】室谷 裕志
(72)【発明者】
【氏名】宮内 充祐
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 芳幸
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 友和
(72)【発明者】
【氏名】松平 学幸
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-210466(JP,A)
【文献】特開2015-049338(JP,A)
【文献】特開2018-123365(JP,A)
【文献】国際公開第2015/097898(WO,A1)
【文献】特開平05-295516(JP,A)
【文献】特表2016-520964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜室の内部に少なくとも蒸着材料と被蒸着物を設置し、
排気及び/又は前記蒸着材料の組成を変えないガスの供給により、前記成膜室の内部の前記被蒸着物を含む第1領域の雰囲気圧力を、0.05~100Paに設定し、
前記成膜室の内部の前記蒸着材料を含む第2領域の雰囲気圧力を、0.05Pa以下に設定し(ただし、第1領域の雰囲気圧力と第2領域の雰囲気圧力は等しくない。)
この状態で、真空蒸着法により、前記第2領域において前記蒸着材料を蒸発させ、前記第1領域において前記被蒸着物に前記蒸発した蒸着材料を成膜するとともに、前記第1領域において前記被蒸着物にイオンを照射する成膜方法。
【請求項2】
前記イオンは、前記第2領域に設置された、動作圧力が0.05Pa以下の第1イオン源から照射される請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記イオンは、前記第1領域に設置された、動作圧力が0.05~100Paの第2イオン源から照射される請求項1に記載の成膜方法。
【請求項4】
屈折率が1.38以下、鉛筆硬度が2B以上である膜を形成する請求項1~3のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記蒸着材料がSiOである請求項1~4のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項6】
少なくとも蒸着材料と被蒸着物とが設けられる成膜室と、
排気及び/又は前記蒸着材料の組成を変えないガスの供給により、前記成膜室の内部の、前記被蒸着物を含む第1領域の雰囲気圧力を、0.05~100Paに設定するとともに、前記成膜室の内部の、前記蒸着材料を含む第2領域の雰囲気圧力を0.05Pa以下に設定する圧力設定装置と(ただし、第1領域の雰囲気圧力と第2領域の雰囲気圧力は等しくない。)
真空蒸着法により前記被蒸着物に前記蒸着材料を成膜する際に、前記被蒸着物にイオンを照射するイオン源と、
雰囲気圧力を0.05Pa以下に設定した前記第2領域において前記蒸着材料を蒸発させ、雰囲気圧力を0.05~100Paに設定した前記第1領域において前記被蒸着物に前記蒸発した蒸着材料を成膜する制御装置と、を備える成膜装置。
【請求項7】
前記イオン源は、前記第2領域に設置された、動作圧力が0.05Pa以下の第1イオン源である請求項6に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記イオン源は、前記第1領域に配置された、動作圧力が0.05~100Paの第2イオン源である請求項7に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記圧力設定装置は、
前記成膜室の内部の全体を、蒸着可能な雰囲気圧力に減圧する減圧装置と、
前記成膜室の内部の前記被蒸着物を含む第1領域の雰囲気圧力を、前記成膜室の内部の雰囲気圧力に対して局所的に増圧する増圧装置と、を含む請求項6~8のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記増圧装置は、
前記成膜室の内部の前記第1領域に不活性ガスを供給するガス供給装置を含む請求項9に記載の成膜装置。
【請求項11】
前記増圧装置は、
前記減圧装置による前記第1領域の減圧作用の一部を遮る遮蔽部材を含む請求項9又は10に記載の成膜装置。
【請求項12】
前記圧力設定装置は、
前記成膜室の内部の、前記第1領域を含む全体を、蒸着可能な雰囲気圧力より高い圧力に減圧する第1減圧装置と、
前記成膜室の内部の、前記蒸着材料を含む第2領域を、蒸着可能な圧力に局所的に減圧する第2減圧装置と、を含む請求項6~11のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項13】
前記第1減圧装置は、
前記成膜室の内部の前記第1領域に不活性ガスを供給するガス供給装置を含む請求項12に記載の成膜装置。
【請求項14】
前記第1減圧装置は、
前記第1減圧装置及び/又は前記第2減圧装置による前記第1領域の減圧作用の一部を遮る遮蔽部材を含む請求項12又は13に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法及び成膜装置に関し、特にイオンビームアシスト真空蒸着方法を用いた成膜方法及び成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
撮像素子として用いられるCCDやCMOSは、銀塩写真フィルムに比べて表面での光反射が強いため、フレアやゴーストが発生し易い。また曲率半径の小さいレンズでは、光線の入射角度が位置によって大きく異なるため、レンズ表面の傾斜が大きな部分では低い反射率を保てない。さらに、LCDのような平面ディスプレイにおいては、ディスプレイ表面の光反射による外光の映り込みが問題になるので、アンチグレア処理が施されているが、ディスプレイの高密度化が進むと、液晶を透過した光がアンチグレア処理された表面で乱反射し、画像の高解像度化の妨げになる。このような基板表面の反射を低減するためには、低屈折率の表面層を成膜することが必要とされる(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】反射低減技術の新展開(菊田久雄著,日本光学会会誌「光学」第40巻第1号,2011年1月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
屈折率が1.5のガラスに、屈折率が1.38のフッ化マグネシウムのような低屈折材料を用いて表面層を形成することは知られている。しかしながら、1.38の低屈折率材料を用いても、1.4%の反射が残る。現在のところ、1.1~1.2といった低屈折率の薄膜材料は存在しない。また、低屈折率の膜に対し、簡単には剥がれないような機械的強度の向上も求められている。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、低屈折率の膜を高い機械強度で形成できる成膜方法及び成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、成膜室の内部に少なくとも蒸着材料と被蒸着物を設置し、排気及び/又は前記蒸着材料の組成を変えないガスの供給により、前記成膜室の内部の前記被蒸着物を含む第1領域の雰囲気圧力を0.05~100Paに設定し、前記成膜室の内部の前記蒸着材料を含む第2領域の雰囲気圧力を0.05Pa以下(ただし、第1領域の圧力≠第2領域の圧力であるから、第1領域の雰囲気圧力が0.05Paの場合、第2領域の雰囲気圧力は0.05Pa未満。以下同じ。)に設定し、この状態で、真空蒸着法により、前記第2領域において前記蒸着材料を蒸発させ、前記第1領域において前記被蒸着物に前記蒸発した蒸着材料を成膜するとともに、前記第1領域において前記被蒸着物にイオンを照射する成膜方法によって上記課題を解決する。
【0007】
また本発明は、少なくとも蒸着材料と被蒸着物とが設けられる成膜室と、
排気及び/又は前記蒸着材料の組成を変えないガスの供給により、前記成膜室の内部の、前記被蒸着物を含む第1領域の雰囲気圧力を、0.05~100Paに設定するとともに、前記成膜室の内部の、前記蒸着材料を含む第2領域の雰囲気圧力を0.05Pa以下に設定する圧力設定装置と、
真空蒸着法により前記被蒸着物に前記蒸着材料を成膜する際に、前記被蒸着物にイオンを照射するイオン源と、
雰囲気圧力を0.05Pa以下に設定した前記第2領域において前記蒸着材料を蒸発させ、雰囲気圧力を0.05~100Paに設定した前記第1領域において前記被蒸着物に前記蒸発した蒸着材料を成膜する制御装置と、を備える成膜装置によって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成膜室の内部の蒸着材料を含む第2領域を0.05Pa以下の雰囲気圧力に設定するので真空蒸着が可能となる一方、成膜室の内部の被蒸着物を含む第1領域を0.05~100Paの雰囲気圧力に設定し、被蒸着物にイオンを照射しながら真空蒸着を行うので、機械的強度の高い、低屈折率の膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る真空蒸着装置の第1実施形態を示す概略縦断面である。
図2図1のII-II線に沿う矢視図である。
図3図1に示す第1領域A及び第2領域Bの雰囲気圧並びに第1排気装置及び第2排気装置の設定圧力を示すグラフ(縦軸は圧力の対数)である。
図4】本発明に係る真空蒸着装置の第2実施形態を示す概略縦断面である。
図5】本発明に係る真空蒸着装置の第3実施形態を示す概略縦断面である。
図6】本発明に係る真空蒸着装置の第4実施形態を示す概略縦断面である。
図7】本発明に係る真空蒸着装置の第5実施形態を示す概略縦断面である。
図8】本発明に係る真空蒸着装置の第6実施形態を示す概略縦断面である。
図9】本発明に係る真空蒸着装置の第7実施形態を示す概略縦断面である。
図10】本発明に係る真空蒸着装置の第8実施形態を示す概略縦断面である。
図11】本発明に係る真空蒸着装置の第9実施形態を示す概略縦断面である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《第1実施形態》
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る成膜装置の第1実施形態である真空蒸着装置1を示す概略縦断面、図2は、図1のII-II線に沿う矢視図である。なお、真空蒸着装置1は、本発明に係る成膜方法を実施する装置でもある。
【0011】
本実施形態の真空蒸着装置1は、実質的に密閉空間となる成膜室2aを構成する筐体2と、成膜室2aの内部全体を減圧するための第1排気装置3と、成膜室2aの内部の第2領域Bを局所的に減圧する第2排気装置4と、被蒸着物である基板Sを保持する基板ホルダ5と、蒸着機構6と、基板ホルダ5に保持された基板Sを含む第1領域Aの、第1排気装置3及び/又は第2排気装置4による減圧作用の一部を遮る遮蔽部材7と、第1領域Aに所定のガスを導入するノズル8及びガス供給源9と、成膜室2aの内部の雰囲気圧力を制御しながら蒸着材料を蒸発させ、基板Sに蒸発した蒸着材料を成膜する制御を実行する制御装置10と、イオンアシスト用の第1イオン源11Aと、を備える。
【0012】
本実施形態の真空蒸着装置1は、上面(天井面)、下面(底面)及び複数の側面を有する箱形、又は上面(天井面)、下面(底面)、曲面状の側面を有する筒形で構成された筐体2を有し、当該筐体2の内部が、実質的に密閉空間としての成膜室2aを構成する。図1に示す真空蒸着装置1の姿勢において、筐体2の上側の面を上面、下側の面を下面、横側の面を側面と便宜的に称するが、これは単に筐体2と、当該筐体2に設けられる第1排気装置3、基板ホルダ5及び蒸着機構6との相対的な位置関係を説明するための便宜的な定義であり、実際に設置された真空蒸着装置1の姿勢を絶対的に定義するものではない。
【0013】
たとえば、図1に示す実施形態の真空蒸着装置1は、基板ホルダ5と蒸着機構6とを上下方向(鉛直方向)に配置しているが、本発明の成膜方法及び成膜装置はこの配置に何ら限定されず、基板ホルダ5と蒸着機構6とを左右方向、水平方向、または斜め方向に配置してもよい。また、図1に示す実施形態の真空蒸着装置1は、基板ホルダ5と蒸着機構6とを上下方向(鉛直方向)に配置したため、そのレイアウトの関係で、第1排気装置3を筐体2の側面に配置し、第2排気装置4を筐体2の下面に配置したが、本発明の成膜方法及び成膜装置はこの配置に何ら限定されず、第1排気装置3及び第2排気装置4は、筐体2に対して適宜箇所に配置することができる。
【0014】
第1排気装置3は、図1に示すように、筐体2の側面のほぼ中央に、ゲートバルブ3aを介して設けられている。ゲートバルブ3aは、第1排気装置3と成膜室2aとを開閉する気密バルブであり、成膜室2aを減圧する場合にはゲートバルブ3aが開放される。一方、図示しない開口部を介して、基板Sを成膜室2aに投入する場合や、成膜を終えた基板Sを成膜室2aから取り出する場合などは、ゲートバルブ3aが閉塞される。第1排気装置3として、ターボ分子ポンプ(TMP)や定圧ポンプ(CP)を挙げることができ、成膜室2aの内部を0.01Pa以下まで減圧できる定格能力を有することが望ましい。
【0015】
第2排気装置4は、図1に示すように、筐体2の下面であって蒸着機構6の直下に、ゲートバルブ4aを介して設けられている。ゲートバルブ4aは、第2排気装置4と成膜室2aとを開閉する気密バルブであり、成膜室2aの内部を減圧する場合にはゲートバルブ4aが開放される。一方、図示しない開口部を介して、基板Sを成膜室2aに投入する場合や、成膜を終えた基板Sを成膜室2aから取り出する場合などは、ゲートバルブ4aが閉塞される。第2排気装置4として、ターボ分子ポンプ(TMP)や定圧ポンプ(CP)を挙げることができ、成膜室2aの内部のうち蒸着機構6を含む第2領域Bを0.01Pa以下まで減圧できる定格能力を有することが望ましい。
【0016】
成膜室2aの内部には、板状の基板ホルダ5が回転軸5bにより懸架され、回転軸5bは筐体2の上面に回転可能に支持されている。そして、基板ホルダ5は、駆動部5cにより回転する回転軸5bを中心に回転可能とされている。基板ホルダ5の基板保持面5aには、蒸着材料の蒸着対象となる基板Sが保持される。なお、基板ホルダ5に保持する基板Sの数量は何ら限定されず、1枚であっても複数枚であってもよい。また、駆動部5cを省略して非回転の基板ホルダ5としてもよい。図1に示す第1実施形態では、基板ホルダ5の基板保持面5aに複数の基板Sが保持可能とされ、蒸着機構6の直上に複数の基板Sが位置するように基板ホルダ5が設けられている。
【0017】
成膜室2aの内部の下面近傍には、蒸着機構6が設けられている。本実施形態の蒸着機構6は、電子ビーム蒸着源からなり、蒸着材料を充填する坩堝6aと、坩堝6aに充填された蒸着材料に電子ビームを照射する電子銃6bとを備える。また、坩堝6aの上方には、当該坩堝6aの上部開口を開閉するシャッタ6cが移動可能に設けられている。基板ホルダ5に保持された基板Sに対して成膜処理を行う場合には、電子銃6bを作動して坩堝6aに充填された蒸着材料を加熱蒸発させるとともにシャッタ6cを開いて、蒸発した蒸着材料を基板Sに付着させる。なお、図1に示す符号6dは、マイスナトラップの冷却管コイルであって、成膜室2aの内部を真空排気したときに、基板Sから放出される水分を効率的に除去するものである。本実施形態の真空蒸着装置1にて用いられる蒸着材料としては、特に限定はされないが、SiO,MgF,Al,ZrO,Ta,TiO,Nb又はHfO、などを用いることができる。
【0018】
なお、蒸着機構6の蒸発源として、電子銃(電子ビーム加熱)の代わりに、抵抗加熱を用いてもよい。抵抗加熱は、発熱体の両端に電圧をかけ、流れる電流によるジュール熱で加熱する方法である。発熱体として用いられるのは、タングステン、タンタル、モリブデンなどの高融点金属や、カーボン、窒化ホウ素・ホウ化チタン混合焼結体などである。発熱体は蒸発物質に応じて、適した形状に加工して用いてもよいし、耐熱性の坩堝を併用してもよい。
【0019】
本実施形態の真空蒸着装置1では、基板ホルダ5に保持された基板Sを、当該基板ホルダ5を含めて囲む位置に、遮蔽部材7が固定されている。本実施形態の遮蔽部材7は、上面及び下面が開放された筒状に形成され、第1排気装置3及び/又は第2排気装置4による成膜室2aの一部の排気を遮る機能を司る。すなわち、図1に示すように、遮蔽部材7で囲まれた、基板Sを含む領域を第1領域Aと称すると、第1排気装置3及び/又は第2排気装置4により成膜室2aの内部の気体が排気される際に、当該第1領域Aのガスの排気を部分的に遮蔽することで、第1領域Aの減圧効果を低減する。遮蔽部材7の横断面は、円形、楕円形、多角形のいずれでもよく、基板ホルダ5の形状に応じて設定してもよい。
【0020】
本実施形態の真空蒸着装置1では、基板ホルダ5に保持された基板Sを含む第1領域Aに、所定の不活性ガス又は蒸着材料の組成を変えない活性ガスを導入するノズル8及びガス供給源9を備える。ノズル8は、図1に示すように、たとえば遮蔽部材7を貫通して固定してもよい。ガス供給源9は、成膜室2aの内部の雰囲気ガス、たとえばアルゴンガスその他の不活性ガス又は活性ガスであっても蒸着材料の組成を変えないガスなどを供給するための供給源である。ノズル8及びガス供給源9は、第1領域Aの雰囲気圧力を周囲の圧力に対して増加させることを唯一の目的とするものであり、反応性ガスを供給して反応した膜を生成するものではない。したがって、蒸着材料がSiOの場合の酸素ガスのように、活性ガスであっても、蒸着材料SiOの組成を変えない活性ガスは、第1領域Aに導入してもよい。蒸着材料がSiOの場合の酸素ガスは、形成したSiO膜と多少は反応するが、反応したとしてもSiOになるだけで、膜を構成する蒸着材料SiOの組成を変えないからである。図1には、1つのノズル8及びガス供給源9を示しているが、1つ又は複数のガス供給源9に複数のノズル8を接続し、当該複数のノズル8から第1領域Aに向かって所定のガスを吹き付けるようにしてもよい。なお、成膜室2aの内部は、不活性ガス雰囲気又は蒸着材料の組成を変えない活性ガス雰囲気とされている。
【0021】
制御装置10は、第1排気装置3のON/OFF、ゲートバルブ3aの開閉、第2排気装置4のON/OFF、ゲートバルブ4aの開閉、基板ホルダ5の駆動部5cのON/OFFを含む回転速度制御、シャッタ6cの開閉を含む蒸着機構6の作動制御、ノズル8のON/OFFを含むガス流量制御、第1イオン源11A又は第2イオン源11BのON/OFFを含む作動制御などを司る。そして、成膜室2aの内部を所定の雰囲気圧力に制御した状態で、イオンアシスト真空蒸着法による成膜制御を実行する。
【0022】
成膜室2aの内部の下面近傍で、蒸着機構6の側方の第2領域Bには、第1イオン源11Aが設置されている。第1イオン源11Aは、蒸着機構6による基板Sの成膜処理を、イオンによって補助するイオンアシスト用のイオン源である。第1イオン源11Aのイオンビームの照射範囲は、基板ホルダ5の基板保持面5aの全部又は一部の所定範囲とされている。本実施形態の基板ホルダ5の基板保持面5aに保持された基板Sの一部は、基板ホルダ5の回転に伴って一時的に遮蔽部材7により隠れるため、イオンビームが遮蔽部材7により遮蔽されない範囲に向けて第1イオン源11Aからのイオンビームが照射される。
【0023】
本実施形態では、第1イオン源11Aとして、例えば、プラズマからのイオンの引き出しに格子状の電極を利用するイオン源、いわゆるカウフマン型イオン源を用いている。カウフマン型イオン源の動作圧力は、0.02Pa以下である。図示は省略するが、カウフマン型の第1イオン源11Aは、筐体と、筐体内に配されたアノード及びフィラメントと、筐体外部に配された磁界発生用のマグネットと、筐体の開口部に配されて筐体と同電位に保たれたスクリーン電極と、スクリーン電極の外側に配されるスクリーン状の加速電極とを備える。筐体内に酸素などの反応性ガス又はアルゴンなどの不活性ガスを供給し、アノードに正の電位を印可してフィラメントを加熱すると、放電が発生し、放電により発生した電子とガスとの衝突により、筐体内にプラズマが生成する。生成したプラズマは、筐体外部に配されたマグネットの磁界によって高密度化される。この状態で、加速電極に負の電位を印可すると、プラズマからイオンが引き出されてスクリーン電極を通過し、加速されて基板Sに照射される。
【0024】
蒸着機構6により基板Sに堆積する蒸着膜にイオンビームを照射することで、緻密で強度が高く、表面が平滑な膜を得ることができる。なお、第1イオン源11Aの上方に、基板Sに対するイオンの照射を遮るシャッタや、イオンの指向性を調整するための調整板などを設置してもよい。また、第1イオン源11Aから照射された正イオンにより帯電した基板Sを電気的に中和するために、基板Sに向けて負の電子を照射するニュートラライザを成膜室2a内に設置してもよい。さらに、第1イオン源11Aは、カウフマン型イオン源に限定されず、動作圧力が第2領域Bの雰囲気圧力である0.05Pa以下であれば、カウフマン型以外の形式のイオン源を用いてもよい。
【0025】
第1イオン源11Aは、動作圧力が0.05Pa以下のカウフマン型イオン源であるため、第2領域Bに設置したが、これに代えて、動作圧力が0.05~100Paのエンドホール型イオン源(以下、第2イオン源11Bともいう)を、成膜室2aの内部の、蒸着機構6と基板ホルダ5との間、より詳しくは、蒸着機構6の上方で基板ホルダ5の下方の位置に設けてもよい。この位置は、第1領域Aが0.05~100Paの雰囲気圧力に設定され、第2領域Bが0.05Pa以下の雰囲気圧力に設定されることから、ホール型イオン源の動作圧力の範囲に入る可能性が高いからである。図1に第2イオン源11Bを一点鎖線で示す。第2イオン源11Bも、第1イオン源11Aと同様、蒸着機構6による基板Sの成膜処理を、イオンによって補助するイオンアシスト用のイオン源である。
【0026】
図示は省略するが、エンドホール型の第2イオン源11Bは、底面側が閉塞され、上面側が開口された円筒形状の筐体と、筐体内の底面側に配された磁石と、磁石の上方に配された円板状のアノードと、アノードの上方に配されたカソードとを備える。アノードには、上面の開口が下面よりも大きくされた円錐形状のプラズマ生成部が貫通するように設けられている。筐体内には、酸素などの反応性ガス又はアルゴンなどの不活性ガスが供給され、供給されたガスは、筐体内を通過してアノードのプラズマ生成部に導入される。この状態でアノードとカソードとの間に電圧を印可すると、カソードからアノードに向けて電子が供給され、電子とガスとの衝突によってプラズマ生成部内でプラズマが生成される。また、カソードから供給された電子は、磁石の磁界によって軌道が曲げられて移動距離が増大するので、ガスとの衝突断面積が増えてプラズマが高密度化される。プラズマに含まれるイオンは、カソードによって引き出され、加速されて基板Sに照射される。
【0027】
特に、エンドホール型の第2イオン源11Bは、カウフマン型の第1イオン源11Aに比べて、基板Sとの距離を短くできるので、イオンの移動距離の長さによるエネルギ低下を抑制することができる。したがって、カウフマン型の第1イオン源11Aよりも高いエネルギでイオンを基板Sに照射することができ、より機械的強度の高い薄膜を形成することができる。
【0028】
次に作用を説明する。
本実施形態の真空蒸着装置1及びこれを用いた成膜方法は、基板ホルダ5の基板保持面5aに基板Sを装着し、筐体2を密閉したのち、ゲートバルブ3aを開いて第1排気装置3を作動し、当該第1排気装置3の設定値をたとえば0.01Paに設定して成膜室2aの内部を全体的に減圧する。これと相前後してゲートバルブ4aを開いて第2排気装置4を作動し、当該第2排気装置4の設定値をたとえば0.01Paに設定して蒸着機構6を含む第2領域Bを局所的に減圧する。なお、この時点で駆動部5cを駆動して基板ホルダ5の所定の回転速度で回転し始めてもよい。
【0029】
時間の経過とともに成膜室2aの内部は、常圧から減圧されるが、基板ホルダ5に保持された基板Sを含む第1領域Aは、遮蔽部材7により第1排気装置3及び/又は第2排気装置4による全体的な排気の一部が遮られると同時に、基板ホルダ5に保持された基板Sを含む第1領域Aには、ガス供給源9からの不活性ガス又は蒸着材料の組成を変えない活性ガスがノズル8を介して導入されるので、基板ホルダ5に保持された基板Sを含む第1領域Aの雰囲気圧力は、成膜室2aの内部の一般領域に比べて高圧となる。これに対して、遮蔽部材7による減圧抑制効果が及ばない蒸着機構6及び第1イオン源11Aを含む第2領域Bの雰囲気圧力は、第2排気装置4により局所的な排気が行われるため、成膜室2aの内部の一般領域よりも低圧となる。
【0030】
これら第1排気装置3、第2排気装置4、遮蔽部材7、ノズル8及びガス供給源9の作用により、好ましくは、第2領域Bの雰囲気圧力が0.05Pa以下、第1領域Aの雰囲気圧力が0.05~100Paになったら、蒸着機構6の電子銃6bを作動して坩堝6aに充填された蒸着材料を加熱蒸発させるとともにシャッタ6cを開いて、蒸発した蒸着材料を基板Sに付着させる。なお、図示は省略するが、第1領域A及び第2領域Bのそれぞれには雰囲気圧力を検出する圧力センサが設けられ、この圧力センサの出力信号を制御装置10で読み出すことで、蒸着機構6のシャッタ6cの開閉制御が実行される。
【0031】
また、第1イオン源11Aは、蒸着機構6の作動と同時、あるいは蒸着機構6の作動よりも先あるいは後に動作を開始し、基板Sに向けてイオンを照射する。第1イオン源11Aは、動作圧力が0.05Pa以下とされたカウフマン型イオン源であるため、第2領域Bの雰囲気圧力で適正に動作する。なお、第1イオン源11Aに代えて第2イオン源11Bを設けた場合、第2イオン源11Bは、動作圧力が0.05~100Paとされたエンドホール型イオン源であるため、第1領域A又はその近傍の雰囲気圧力で適正に動作する。
【0032】
第1イオン源11Aから照射されたイオンの運動エネルギにより、蒸着機構6により蒸発されて浮遊している蒸着材料を加速させて基板Sに押し付けたり、基板Sに堆積した薄膜の表面を緻密化したりする。これにより、基板Sの表面に形成される薄膜は、密着性、緻密性及び機械的強度が高くなる。
【0033】
図3は、第1領域A及び第2領域Bの雰囲気圧並びに第1排気装置3及び第2排気装置4の設定圧力を示すグラフであり、縦軸は圧力の対数を示す。同図に示すように、蒸着機構6を含む第2領域Bを0.05Pa以下にする理由は、これより雰囲気圧力が高いと蒸着材料が蒸発しないからである。一方、基板Sを含む第1領域Aを0.05Pa以上にする理由は、これより雰囲気圧力が低いと所望の低屈折率の薄膜が得られないからである。また、基板Sを含む第1領域Aを100Pa以下にする理由は、これより雰囲気圧力が高いと蒸着材料が基板Sに届かず成膜できないからである。本実施形態では、蒸着機構6を含む第2領域Bが0.05Pa以下、基板Sを含む第1領域Aが、0.05~100Paになればよいので、第1排気装置3及び第2排気装置4の設定圧力と、ノズル8及びガス供給源9からのガス供給量は特に限定されない。
【0034】
以上のとおり、本実施形態の真空蒸着装置1及びこれを用いた成膜方法によれば、蒸着機構6を含む第2領域Bの雰囲気圧力を蒸着が可能な圧力(好ましくは上限に近い範囲の圧力)に設定する一方で、基板Sを含む第1領域Aの雰囲気圧力は相対的に高圧にするので、真空蒸着法により低屈折率の薄膜を得ることができる。また、第2領域B内で動作可能な第1イオン源11A又はこれより高圧領域で作動可能な第2イオン源11Bを用いてイオンアシストを行うので、イオンアシストを行わない場合に比べ、薄膜の機械的強度を高めることができる。
【0035】
なお、上記基板Sが、本発明の被蒸着物に相当し、
上記第1排気装置3,上記第2排気装置4,上記遮蔽部材7,上記ノズル8及び上記ガス供給源9が、本発明の圧力設定装置に相当し、
上記第1排気装置3及び上記第2排気装置4が、本発明の減圧装置に相当し、
上記遮蔽部材7,上記ノズル8及び上記ガス供給源9が、本発明の増圧装置に相当し、
上記ノズル8及び上記ガス供給源9が、本発明のガス供給装置に相当し、
上記第1排気装置3,上記遮蔽部材7,上記ノズル8及び上記ガス供給源9が、本発明の第1減圧装置に相当し、
上記第2排気装置4が、本発明の第2減圧装置に相当する。
【0036】
《第2実施形態》
図4は、本発明に係る真空蒸着装置1の第2実施形態を示す概略縦断面である。本実施形態の真空蒸着装置1は、図1~2に示す第1実施形態の真空蒸着装置1に比べ、遮蔽部材7を設けていない点が相違する。本発明の成膜方法及び成膜装置は、第1領域Aの雰囲気圧力を、0.05~100Paに設定できればよいので、遮蔽部材7は、たとえば第1排気装置3、第2排気装置、ノズル8及びガス供給源9の構成や能力に応じて、省略することができる。また、イオン源として第1イオン源11Aのみを図示するが、第1実施形態と同様、第1イオン源11Aに代えて、成膜室2aの内部の第1領域A、又は成膜室2aの内部の蒸着機構6と基板ホルダ5との間、より詳しくは、蒸着機構6の上方で基板ホルダ5の下方の位置に、第2イオン源を設けてもよい。その他の構成については、第1実施形態の構成と同一であるため、第1実施形態の記載をここに援用する。なお、ノズル8及びガス供給源9からは、アルゴンガスその他の不活性ガス又は蒸着材料の組成を変えない活性ガスが供給され、成膜室2aの内部は、不活性ガス雰囲気又は蒸着材料の組成を変えない活性ガス雰囲気とされている点も同じである。
【0037】
《第3実施形態》
図5は、本発明に係る真空蒸着装置1の第3実施形態を示す概略縦断面である。本実施形態の真空蒸着装置1は、図1~2に示す第1実施形態の真空蒸着装置1に比べ、ノズル8及びガス供給源9を設けていない点が相違する。
【0038】
また、本発明の成膜方法及び成膜装置は、第1領域Aの雰囲気圧力を、0.05~100Paに設定できればよいので、ノズル8及びガス供給源9は、たとえば第1排気装置3、第2排気装置、遮蔽部材7の構成や能力に応じて、省略することができる。ただし、圧力勾配を生成する手段としてのノズル8及びガス供給源9は用いないが、図示しないガス供給系からアルゴンガスその他の不活性ガス又は蒸着材料の組成を変えない活性ガスが成膜室2aの内部に供給され、これにより成膜室2aの内部は不活性ガス雰囲気又は蒸着材料の組成を変えない活性ガス雰囲気とされている。また、イオン源として第1イオン源11Aのみを図示するが、第1実施形態と同様、第1イオン源11Aに代えて、成膜室2aの内部の第1領域A、又は成膜室2aの内部の蒸着機構6と基板ホルダ5との間、より詳しくは、蒸着機構6の上方で基板ホルダ5の下方の位置に、第2イオン源を設けてもよい。その他の構成については、第1実施形態の構成と同一であるため、第1実施形態の記載をここに援用する。
【0039】
《第4実施形態》
図6は、本発明に係る真空蒸着装置1の第4実施形態を示す概略縦断面である。本実施形態の真空蒸着装置1は、図1~2に示す第1実施形態の真空蒸着装置1に比べ、第2排気装置4を設けていない点が相違する。なお、ノズル8及びガス供給源9からは、アルゴンガスその他の不活性ガス又は蒸着材料の組成を変えない活性ガスが供給され、成膜室2aの内部は、不活性ガス雰囲気又は蒸着材料の組成を変えない活性ガス雰囲気とされている点も同じである。
【0040】
本発明の成膜方法及び成膜装置は、第2領域Bの雰囲気圧力を、0.05Pa以下に設定できればよいので、第2排気装置4は、たとえば第1排気装置3、遮蔽部材7、ノズル8及びガス供給源9の構成や能力に応じて、省略することができる。また、イオン源として第1イオン源11Aのみを図示するが、第1実施形態と同様、第1イオン源11Aに代えて、成膜室2aの内部の第1領域A、又は成膜室2aの内部の蒸着機構6と基板ホルダ5との間、より詳しくは、蒸着機構6の上方で基板ホルダ5の下方の位置に、第2イオン源を設けてもよい。その他の構成については、第1実施形態の構成と同一であるため、第1実施形態の記載をここに援用する。
【0041】
《第5実施形態》
図7は、本発明に係る真空蒸着装置1の第5実施形態を示す概略縦断面である。本実施形態の真空蒸着装置1は、図1~2に示す第1実施形態の真空蒸着装置1に比べ、遮蔽部材7を設けていない点と、第2排気装置4を設けていない点が相違する。本発明の成膜方法及び成膜装置は、第1領域Aの雰囲気圧力を、0.05~100Paに設定できればよいので、遮蔽部材7は、たとえば第1排気装置3、ノズル8及びガス供給源9の構成や能力に応じて、省略することができる。また、本発明の成膜方法及び成膜装置は、第2領域Bの雰囲気圧力を、0.05Pa以下に設定できればよいので、第2排気装置4は、たとえば第1排気装置3、ノズル8及びガス供給源9の構成や能力に応じて、省略することができる。また、イオン源として第1イオン源11Aのみを図示するが、第1実施形態と同様、第1イオン源11Aに代えて、成膜室2aの内部の第1領域A、又は成膜室2aの内部の蒸着機構6と基板ホルダ5との間、より詳しくは、蒸着機構6の上方で基板ホルダ5の下方の位置に、第2イオン源を設けてもよい。その他の構成については、第1実施形態の構成と同一であるため、第1実施形態の記載をここに援用する。なお、ノズル8及びガス供給源9からは、アルゴンガスその他の不活性ガス又は蒸着材料の組成を変えない活性ガスが供給され、成膜室2aの内部は、不活性ガス雰囲気又は蒸着材料の組成を変えない活性ガス雰囲気とされている点も同じである。
【0042】
《第6実施形態》
図8は、本発明に係る真空蒸着装置1の第6実施形態を示す概略縦断面である。本実施形態の真空蒸着装置1は、図1~2に示す第1実施形態の真空蒸着装置1に比べ、第2排気装置4を設けていない点と、ノズル8及びガス供給源9を設けていない点が相違する。
【0043】
本発明の成膜方法及び成膜装置は、第1領域Aの雰囲気圧力を、0.05~100Paに設定できればよいので、ノズル8及びガス供給源9は、たとえば第1排気装置3、遮蔽部材7の構成や能力に応じて、省略することができる。ただし、圧力勾配を生成する手段としてのノズル8及びガス供給源9は用いないが、図示しないガス供給系からアルゴンガスその他の不活性ガス又は蒸着材料の組成を変えない活性ガスが成膜室2aの内部に供給され、これにより成膜室2aの内部は不活性ガス雰囲気又は蒸着材料の組成を変えない活性ガス雰囲気とされている。また、本発明の成膜方法及び成膜装置は、第2領域Bの雰囲気圧力を、0.05Pa以下に設定できればよいので、第2排気装置4は、たとえば第1排気装置3、遮蔽部材7の構成や能力に応じて、省略することができる。また、イオン源として第1イオン源11Aのみを図示するが、第1実施形態と同様、第1イオン源11Aに代えて、成膜室2aの内部の第1領域A、又は成膜室2aの内部の蒸着機構6と基板ホルダ5との間、より詳しくは、蒸着機構6の上方で基板ホルダ5の下方の位置に、第2イオン源を設けてもよい。その他の構成については、第1実施形態の構成と同一であるため、第1実施形態の記載をここに援用する。
【0044】
《第7実施形態》
図9は、本発明に係る真空蒸着装置1の第7実施形態を示す概略縦断面である。本実施形態の真空蒸着装置1は、図1~2に示す第1実施形態の真空蒸着装置1に比べ、遮蔽部材7の構成と、第1排気装置3及びゲートバルブ3aの設置位置と、第2排気装置4を設けていない点と、イオン源として第2イオン源11Bを設けている点が相違する。
【0045】
本実施形態の真空蒸着装置1では、第1排気装置3は、図9に示すように、筐体2の下面に、すなわち蒸着機構6の近傍に、ゲートバルブ3aを介して設けられている。ゲートバルブ3aは、第1排気装置3と成膜室2aとを開閉する気密バルブである。
【0046】
また、本実施形態の真空蒸着装置1では、成膜室2aの内部であって、基板ホルダ5に保持された基板Sを含む第1領域Aと、蒸着機構6を含む第2領域Bとの間に、遮蔽部材7が固定されている。本実施形態の遮蔽部材7は、中央が円形、楕円形又は矩形などに開口した板部材で構成され、第1排気装置3による成膜室2aの一部の排気を遮る機能を司る。すなわち、図9に示すように、基板ホルダ5に保持された基板Sを含む領域を第1領域Aと称すると、第1排気装置3により成膜室2aの内部の気体が排気される際に、当該第1領域Aのガスの排気を部分的に遮蔽することで、第1領域Aの減圧効果を低減する。
【0047】
本実施形態の真空蒸着装置1では、基板ホルダ5に保持された基板Sを含む第1領域Aと、蒸着機構6を含む第2領域Bとの間に、遮蔽部材7が固定されているので、第2領域Bの雰囲気圧力でしか動作しない第1イオン源11Aを第2領域Bに設置すると、イオンビームの一部が遮蔽部材7によって遮られ、効率が低下する恐れがある。そのため、遮蔽部材7より基板ホルダ5に近い位置に第2イオン源11Bが配置されている。
【0048】
本発明の成膜方法及び成膜装置は、第2領域Bの雰囲気圧力を、0.05Pa以下に設定できればよいので、第2排気装置4は、たとえば第1排気装置3、遮蔽部材7、ノズル8及びガス供給源9の構成や能力に応じて、省略することができる。その他の構成については、第1実施形態の構成と同一であるため、第1実施形態の記載をここに援用する。なお、ノズル8及びガス供給源9からは、アルゴンガスその他の不活性ガス又は蒸着材料の組成を変えない活性ガスが供給され、成膜室2aの内部は、不活性ガス雰囲気又は蒸着材料の組成を変えない活性ガス雰囲気とされている点も同じである。
【0049】
《第8実施形態》
図10は、本発明に係る真空蒸着装置1の第8実施形態を示す概略縦断面である。本実施形態の真空蒸着装置1は、図1~2に示す第1実施形態の真空蒸着装置1に比べ、第1排気装置3及びゲートバルブ3aの設置位置と、遮蔽部材7を設けていない点と、第2排気装置4を設けていない点が相違する。第1排気装置3及びゲートバルブ3aの設置位置は、図9の第7実施形態と同一であるため、その記載をここに援用する。
【0050】
本発明の成膜方法及び成膜装置は、第1領域Aの雰囲気圧力を、0.05~100Paに設定できればよいので、遮蔽部材7は、たとえば第1排気装置3、ノズル8及びガス供給源9の構成や能力に応じて、省略することができる。また、本発明の成膜方法及び成膜装置は、第2領域Bの雰囲気圧力を、0.05Pa以下に設定できればよいので、第2排気装置4は、たとえば第1排気装置3、ノズル8及びガス供給源9の構成や能力に応じて、省略することができる。また、イオン源として第1イオン源11Aのみを図示するが、第1実施形態と同様、第1イオン源11Aに代えて、成膜室2aの内部の第1領域A、又は成膜室2aの内部の蒸着機構6と基板ホルダ5との間、より詳しくは、蒸着機構6の上方で基板ホルダ5の下方の位置に、第2イオン源を設けてもよい。その他の構成については、第1実施形態の構成と同一であるため、第1実施形態の記載をここに援用する。なお、ノズル8及びガス供給源9からは、アルゴンガスその他の不活性ガス又は蒸着材料の組成を変えない活性ガスが供給され、成膜室2aの内部は、不活性ガス雰囲気又は蒸着材料の組成を変えない活性ガス雰囲気とされている点も同じである。
【0051】
《第9実施形態》
図11は、本発明に係る真空蒸着装置1の第9実施形態を示す概略縦断面である。本実施形態の真空蒸着装置1は、図1~2に示す第1実施形態の真空蒸着装置1に比べ、遮蔽部材7の構成と、ノズル8及びガス供給源9を設けていない点と、第1排気装置3及びゲートバルブ3aの設置位置と、第2排気装置4を設けていない点と、イオン源として第2イオン源11Bを設けている点が相違する。遮蔽部材7の構成と第1排気装置3及びゲートバルブ3aの設置位置と第2イオン源11Bの構成は、図9の第7実施形態と同一であるため、その記載をここに援用する。
【0052】
本発明の成膜方法及び成膜装置は、第1領域Aの雰囲気圧力を、0.05~100Paに設定できればよいので、ノズル8及びガス供給源9は、たとえば第1排気装置3、遮蔽部材7の構成や能力に応じて、省略することができる。ただし、圧力勾配を生成する手段としてのノズル8及びガス供給源9は用いないが、図示しないガス供給系からアルゴンガスその他の不活性ガス又は蒸着材料の組成を変えない活性ガスが成膜室2aの内部に供給され、これにより成膜室2aの内部は不活性ガス雰囲気又は蒸着材料の組成を変えない活性ガス雰囲気とされている。また、本発明の成膜方法及び成膜装置は、第2領域Bの雰囲気圧力を、0.05Pa以下に設定できればよいので、第2排気装置4は、たとえば第1排気装置3、遮蔽部材7の構成や能力に応じて、省略することができる。その他の構成については、第1実施形態の構成と同一であるため、第1実施形態の記載をここに援用する。
【0053】
上述した第1実施形態~第9実施形態では、基板ホルダ5に装着した基板Sの成膜を終了したら成膜室2aを大気圧雰囲気に戻し、成膜後の基板Sを取り外すとともに成膜前の基板Sを装着する、いわゆるバッチ式生産方式による真空蒸着装置1を示したが、成膜室2aに仕切バルブを介してロードロック室を接続し、基板Sを装着した基板ホルダ5を、ロードロック室を介して搬出/搬入する、いわゆる連続生産方式による真空蒸着装置1であってもよい。
【0054】
また、上述した第1実施形態~第9実施形態では、蒸着膜を形成する被成膜物として、半導体ウェーハやガラス基板などを例示し、これを基板ホルダ5に装着したが、長尺フィルムのようにロール状に巻回された被成膜物であってもよい。ロール状に巻回された被成膜物の場合には、基板ホルダ5に代えて、成膜前のロールを支持してフィルムを送り出す送り側ローラと、成膜後のフィルムを巻き取る巻取側ローラとを設けてもよい。
【0055】
《光学薄膜》
上述した各実施形態の成膜方法により得られる膜は、特に限定されないが、屈折率が1.38以下、鉛筆硬度が2B以上である膜であり、光学薄膜として利用することができる。また、上述した各実施形態の成膜方法により得られる光学薄膜などの膜は、特に限定はされないが、単一の光学薄膜などの膜で構成してもよく、または光学薄膜などの多層膜に適用してもよい。本実施形態の成膜方法により得られた光学薄膜などの膜を多層膜に適用する場合、最下層、中間層又は最表面の何れに本実施形態の膜を適用してもよい。さらに、本実施形態の成膜方法により得られた光学薄膜などの膜の表面に有機膜を形成してもよい。
【実施例
【0056】
《実施例1》
図4の真空蒸着装置1を用いて、ガラス製の基板S(SCHOTT社製N-BK7,板厚1.0mm,φ30mm,屈折率n:1.5168)の片面に、目標膜厚を500nmにしてSiO膜を成膜した。このときの成膜条件として、図1に示す蒸着機構6の坩堝6aと基板Sとの垂直方向の距離を35~70cm、第1領域Aの目標真空度を1Pa、第2領域Bの目標真空度を0.001Paとした。また、蒸着材料としてSiOを用い、電子銃6bの電流量を170mAとした。また基板Sは200℃に加熱した。また、イオン源としてカウフマン型の第1イオン源11Aを用い、出力設定は、加速電圧を0.5kV、加速電流を0.2Aとした。
【0057】
得られたSiO膜について、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製U-4100)を用いて分光透過率と分光反射率を測定し、その透過率と反射率より成膜後の膜の屈折率を算出するとともに、同じ膜について鉛筆硬度試験(JIS K5600 塗料一般試験方法 4.4 引っかき硬度(鉛筆法)に準じた。)を行った。なお、屈折率は、波長550nmでの屈折率を示す。この結果を表1に示す。
【0058】
《比較例1》
実施例1で用いた真空蒸着装置1において、ノズル8からの不活性ガスの供給を停止し、成膜室2aの内部全体の真空度を0.001Paとして真空蒸着による成膜を行ったこと以外は実施例1と同じ条件で成膜した。得られたSiO膜の鉛筆硬度と、波長550nmでの屈折率を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
《考 察》
比較例1の結果のとおり、従来公知のイオンアシスト真空蒸着法でガラス製の基板の表面にSiO膜を形成すると、成膜材料SiO自体の屈折率1.46にほぼ等しい膜が形成される。これに対して、実施例1の結果のとおり、第1領域Aの雰囲気圧力を0.05~100Pa、第2領域Bの圧力を0.05Pa以下としてイオンアシスト真空蒸着法を行うと、成膜材料SiOの屈折率1.46より低い、1.31~1.41の屈折率の膜が形成される。また、一般的に低屈折率膜は機械的強度が低いが、実施例1では、鉛筆硬度試験結果がFの膜が形成された。
【符号の説明】
【0061】
1…真空蒸着装置
2…筐体
2a…成膜室
3…第1排気装置
3a…ゲートバルブ
4…第2排気装置
5…基板ホルダ
5a…基板保持面
5b…回転軸
5c…駆動部
6…蒸着機構
6a…坩堝
6b…電子銃
6c…シャッタ
6d…マイスナトラップ
7…遮蔽部材
8…ノズル
9…ガス供給源
10…制御装置
11A…第1イオン源
11B…第2イオン源
A…第1領域
B…第2領域
S…基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11