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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】給電針および電着塗装装置
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/12 20060101AFI20220317BHJP
   C25D 13/22 20060101ALI20220317BHJP
   C25D 17/24 20060101ALI20220317BHJP
   C25D 21/00 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
C25D17/12
C25D13/22 303
C25D17/24
C25D21/00 F
C25D21/00 J
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019163382
(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公開番号】P2021042407
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2019-09-06
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390035219
【氏名又は名称】株式会社シミズ
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 茂文
(72)【発明者】
【氏名】砂留 満久
(72)【発明者】
【氏名】森本 匠
(72)【発明者】
【氏名】丸田 博之
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】池渕 立
【審判官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-72092(JP,A)
【文献】特開2012-21203(JP,A)
【文献】特公昭50-24984(JP,B2)
【文献】特公昭47-51453(JP,B2)
【文献】特開2003-247095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D9/00-9/12
C25D13/00-21/22@Z
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗料が貯留された貯留槽に配設される、被塗物を収容可能な収容体であって、被塗物が抜け出ることがなく、かつ電着塗料が透過できる大きさの複数の透孔を有し、回転軸線L1まわりに回転可能な収容体の内面に、起立した状態で配設される給電針であって、
電圧印加手段によって、前記給電針に電気的に接続された第1電極体と、前記貯留槽に配設された第2電極体との間に電圧が印加され、先端部の直径が1μm以上100μm以下である円錐台状に形成されていることを特徴とする給電針。
【請求項2】
電着塗料が貯留された貯留槽と、
前記貯留槽に配設される、被塗物を収容可能な収容体であって、前記収容体は、被塗物が抜け出ることがなく、かつ電着塗料が透過できる大きさの複数の透孔を有し、回転軸線L1まわりに回転可能であり、前記収容体の内面に、起立した状態で配設された複数の給電針を備えた収容体とを備え、
電圧印加手段によって、前記給電針に電気的に接続された第1電極体と、前記貯留槽に配設された第2電極体との間に電圧が印加される電着塗装装置であって、
前記給電針は、先端部の直径が1μm以上100μm以下である円錐台状に形成されており、1cmあたり25本以上1600本以下の密度で互いに間隔をあけて格子状に整列して配設されることを特徴とする、電着塗装装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗装に用いられる給電方法に関する。特に、外観の品質が求められる、例えば服飾ボタン、スライダーチャック等の装飾の小物部品、および例えばコンデンサーチップ等の小物の電子部品を、塗装治具を必要とせずに、電着塗装するために好適に用いられる給電針に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電着塗装は工業的に確立された技術であり、防錆用途では自動車ボディの下塗り塗装、アルマイト処理された建材、および装飾用途では眼鏡フレーム等のめっきや金属筐体等のカラー化技術として使用されている。
【0003】
電着塗装法によって形成される塗装被膜は、膜厚が均一で、高い透明性を有し、金属及びめっき被膜との密着性に優れる樹脂被膜である。また、電着塗装法では、優れた付きまわり性によって、基材の形状、基材表面の凹凸などに左右されず均一な膜厚に塗装でき、定量的に膜厚を管理でき、塗料損失が少なく、限外ろ過により塗料を容易に回収できるという利点がある。
【0004】
電着塗装の手順を説明する。電荷を付与した被膜形成成分を含む塗料浴中に、脱脂、活性化処理または化成処理などの前処理を行ない、金属またはめっき被膜を形成した金属や樹脂製の基材が浸漬され、浴内において通電し、基材のめっき被膜表面に被膜成形成分が析出される。被膜成形成分が析出された基材は、焼付け処理が施され、塗装被膜が形成される。
【0005】
電着塗装工程では、被塗物に通電し固定するための治具が一般的に必要である。被塗物が、服飾用ボタン、建材のつまみ等の小物である場合には、大量の被塗物を処理するために、治具掛け治具外しの処理数が多くなり、多大な労力およびコストの負担を要している。電気めっきにおいては、バレルめっきと呼ばれる電気めっき処理が古くからある。バレルめっき処理は、小物部品を治具掛けせずに大量に処理できる長所がある。このことから、古くから電気的に処理する電着塗装においてもバレル装置の適用が考えられてきた。しかしながら、電着塗装の塗料成分は樹脂であり、バレルめっきのような金属(ニッケル、亜鉛等)ではないため、通電性が低く、硬さもないため、困難な手法として認識されている。ボルト、ナットのようなエッジのある小物部品にしか適用できない。
【0006】
図8は、従来のバレル105を用いた電着塗装装置101の模式図である。図9は、従来のバレル105に収容された被塗物104の重なり状態を示す模式図である。102は貯留槽を示し、151は第1電極体を示し、152は第2電極体を示す。図9に示すように、従来のバレル105では、先端に金属の接点部を有するリード線から給電するので、給電の効率が悪く、被塗物104に、リード線との接触による傷が生じやすい。
【0007】
特許文献1には、金属物品を絶縁性のバレルに入れ、該バレルを電着塗料に浸漬し、該バレルの内部または内面に配置したリード線を介して金属物品に給電するバレル方式の電着塗装法が記載されている。被塗物が微小な金属物品である場合に、処理中に、被塗物がバレル内面に付着し、あるいは被塗物同士が接合して不良品が大量に発生することを防止するために、バレルを間欠的に回転させて電着塗装している。バレルの間欠的な回転とは、回転と回転停止との繰り返しであり、回転停止中は、金属物品に電着塗膜を析出させ、回転中は、金属物品を、上方に移動させ、上方に移動させた金属物品を自重によって落下させてバレル内面に衝突させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-348361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の電着塗装装置では、リード線の接点部に電着塗膜が析出して、被塗物の通電状態の低下を招くという問題がある。
【0010】
従来の手法では、通電体との接触による傷が発生するので、従来の手法は、傷の目立たない被塗物または外観品質の低い被塗物に限り適用されている。従来の手法では、外観を重視する用途に適用することが確立されていない。
【0011】
本発明の目的は、被塗物に対する通電状態の低下を抑制することができ、外観上の品質が高い電着塗装ができる給電針および電着塗装装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、電着塗料が貯留された貯留槽に配設される、被塗物を収容可能な収容体であって、被塗物が抜け出ることがなく、かつ電着塗料が透過できる大きさの複数の透孔を有し、回転軸線L1まわりに回転可能な収容体の内面に、起立した状態で配設される給電針であって、
電圧印加手段によって、前記給電針に電気的に接続された第1電極体と、前記貯留槽に配設された第2電極体との間に電圧が印加され、先端部の直径が1μm以上100μm以下である円錐台状に形成されていることを特徴とする給電針である。
【0013】
本発明は、電着塗料が貯留された貯留槽と、
前記貯留槽に配設される、被塗物を収容可能な収容体であって、前記収容体は、被塗物が抜け出ることがなく、かつ電着塗料が透過できる大きさの複数の透孔を有し、回転軸線L1まわりに回転可能であり、前記収容体の内面に、起立した状態で配設された複数の給電針を備えた収容体とを備え、
電圧印加手段によって、前記給電針に電気的に接続された第1電極体と、前記貯留槽に配設された第2電極体との間に電圧が印加される電着塗装装置であって、
前記給電針は、先端部の直径が1μm以上100μm以下である円錐台状に形成されており、1cmあたり25本以上1600本以下の密度で互いに間隔をあけて格子状に整列して配設されることを特徴とする、電着塗装装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被塗物が当接する給電針の先端部は、直径が1μm以上100μm以下であり、好ましくは2μm以上30μm以下の端面を有する先端が尖っている台形状であって、その形については特に限定されないが、好ましくは円錐台状または多角錐台状であるので、先端部に析出した塗膜は、被塗物の当接の衝撃によって容易に破砕され、給電針の先端部が露出し、給電針に接触する被塗物に通電させることができ、また、先端部との当接によって被塗物に生じる傷は小さく、塗料の塗膜によって覆うことができる。これによって、被塗物に対する通電状態の低下を抑制することができ、外観上の品質が高い電着塗装ができる給電針とすることができる。
【0015】
また、本発明によれば、給電針が、1cmあたり25本以上1600本以下が互いに間隔をあけて格子状に整列して配設されているので、たとえばボルト、小ねじなどの小形部品である被塗物に一度に当接する給電針の数が多くなり、効果的に被塗物に通電することができる。また、給電針の密度が高いほど被塗物に対する給電針の本数が多くなることより、被塗物の保持が安定し、回転を伴う転がりがスムースとなり、給電針と被塗物とのずれから生じる擦れ傷の発生率が低下する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態の電着塗装装置1の模式図である。
図2】複数の給電針11が基板9に配設された状態を模式的に示す図である。
図3】給電針11の拡大図である。
図4】電着塗装の手順を示すフローチャートである。
図5】給電針11が微小な場合の電着塗装を模式的に示す図である。
図6】給電針11が大径である場合の電着塗装を模式的に示す図である。
図7】電着塗装装置1の第1電極体51と第2電極体52とを模式的に示す図である。
図8】従来のバレルを用いた電着塗装装置の模式図である。
図9】従来のバレルの被塗物の重なり状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の一実施形態の電着塗装装置1の模式図であり、図2は、複数の給電針11が基板9に配設された状態を模式的に示す図である。図3は、給電針11の拡大図である。図4は、電着塗装の手順を示すフローチャートである。第1実施形態の電着塗装装置1について説明する。電着塗装装置1は、電着塗料6が貯留される貯留槽2と、水平に対して角度θ1で傾斜した回転軸線L1を有し、複数の被塗物4を収容可能な筒状の収容体5であって、貯留槽2に貯留された電着塗料6に、少なくとも一部を浸漬させた状態で、貯留槽2に配設される収容体5と、収容体5を、回転軸線L1まわりに回転させる駆動手段7と、収容体5の内面8に、該内面8から起立した状態で配設される複数の給電針11と、複数の給電針11に電気的に接続される第1電極体51(図7参照)と、貯留槽2内に貯留される電着塗料6に浸漬される第1電極体51と対極となる第2電極体52(図7参照)と、第1電極体51と第2電極体52との間に直流電圧を印加する図示しない電圧印加手段とを備える。
【0018】
貯留槽2には、電着塗装用の塗料を水に分散または溶解させた電着塗料6が貯留されている。電着塗装用の塗料は、アニオン型であってもよく、あるいはカチオン型であってもよい。貯留槽2内の電着塗料6は、一定の濃度、温度およびpHに保たれている。収容体5は、たとえばバレルである。バレルの材料として、電着塗装中に腐食することのない任意の絶縁性材料を用いることによって、収容体5への塗膜の析出を防止することができる。好ましくは樹脂が用いられる。たとえば、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂が挙げられる。
【0019】
収容体5の回転軸線L1に垂直な断面は、円形に限定されるものではなく、楕円形あるいは六角形などの多角形であってもよい。収容体5は、下方側に位置する一端部に底壁25を有しており、周壁18および底壁25には、図示しない複数の透孔が形成されている。この透孔は、収容体5内に収容された被塗物4が収容体5の外部に抜け出ることがなく、かつ貯留槽2に貯留された電着塗料6が容易に透過できる大きさである。
【0020】
透孔は、樹脂板にパンチングすることによって形成することができ、あるいは射出成形などによって形成することができる。あるいは、強度が確保されれば、樹脂板に形成したメッシュなどであってもよい。収容体5の周壁18の厚みは、収容体5内に複数の被塗物4が収容された状態で、収容体5を回転することができるように選択される。
【0021】
多数の被塗物4が収容される収容体5の内面8には、内面8に対して垂直に立ち上がる導電性を有する多数の給電針11が配設されている。給電針11は、たとえば微小サイズの先端が尖っている台形状であって、その形については特に限定されないが好ましくは円錐台状または多角錐台状であり、給電針11の高さは、被塗物4の電着塗装される膜厚よりも大きくなるように構成されている。被塗物4を塗装する膜厚がたとえば10μmであれば、給電針11の高さHは、20~500μmで、好適には200μm程度が好ましい。また、被塗物4を給電針11の先端部に当接させて、隣接する給電針11間の隙間に入り込まないようにするために、隣接する給電針11間のピッチは、100~2000μmで好適には500μmが好ましい。
【0022】
給電針11は、微細加工された金型を使用して、金属の複製技術によって複製される。たとえば電気鋳造の技術を活用して、シート状またはテープ状に複数個の針を電鋳加工された状態で形成することができる。好適にはNiめっきの電気鋳造が利用される。これにより、容易に収容体5に適した形状の複数の給電針11を同時に形成することができ、量産することができる。給電針11は、エンドミルを用いた切削によって、あるいは、エッチングなどによって形成することもできる。給電針11は、被塗物4が連続的に移動する構造の収容体5の内面8に配設される。給電針11は、先端径が小さく、先端径が1μm以上100μm以下であり、好ましくは2μm以上30μm以下の微細な円形の端面が形成された先端が尖っている台形状であって、その形については特に限定されないが好ましくは円錐台状または多角錐台状の先端部を有している。給電針11は、1cmあたりの個数が多いほど好適であり、たとえば、1cmあたり25本以上1600本以下が互いに間隔をあけて格子状に整列して配設されている。たとえば一辺が10mmの正方形の基板に、縦方向および横方向に、500μmのピッチであり、10mm角(1cm)あたり400本を有することが適切である。このような構成であると、被塗物4が一度に当接する給電針11の数が多くなり、効果的に被塗物11に給電することができる。また、給電針11の密度が高いほど被塗物4に対する給電針11の本数が多くなり、被塗物4のずれを伴う回転を防止できるため転がりがスムースとなり、擦り傷の発生率が低下する。
【0023】
給電針11はたとえば導電性を有する金属から成り、収容体5が絶縁性材料からなる場合には、収容体5内に配設された給電針11への給電は、たとえば収容体5に設けられ、給電針11に電気的に接続された図示しないリード線を介して行なわれる。リード線は、被覆ケーブルの先端に露出した金属棒状の接点部を設けたものであり、接点部が基板9に接続される。接点部の材料として、鉄合金、銅合金などを用いることができる。なお、収容体5は駆動手段7によって回転駆動されるので、リード線に、回転自在に接続する接続手段を介在させる。
【0024】
収容体5の内面8に給電針11を配設し、配設した個々の給電針11を図示しない電圧印加手段に接続することで、給電針11に当接する個々の被塗物4に給電することができる。これによって、被塗物4への通電性を改善することができる。また電着塗装では1分間程度の短時間で電着塗膜を形成することができる。
【0025】
給電針11を使用できる電着塗料として、たとえば、商品名「エレコート AM-1」(株式会社シミズ製)、商品名「エレコート フロスティ W-2」(株式会社シミズ製)、商品名「エレコート CM」(株式会社シミズ製)、商品名「エレコート CMEX」(株式会社シミズ製)などが挙げられる。
【0026】
収容体5は、回転駆動される駆動軸の回転軸線L1が、水平に対して角度θ1を成して傾斜した状態で、電着塗料6に浸漬されているので、個々の被塗物4は、収容体5の回転にともなって、収容体5の内面8に配設された給電針11の先端部31に断続的に当接しながら、収容体5内で回転する。角度θ1は10~45°に選ばれ、好ましくは30°に選ばれる。収容体5内には多数の被塗物4が収容されており、いずれかの被塗物4が給電針11に当接している状態が保持される。電着塗料6は、析出した塗膜の厚みがある程度以上になると導電性が失われ、絶縁性になるので、被塗物4の電着塗膜が付着していない凹部や隙間に電流が回り込む。これによって、被塗物4の形状にかかわらず、均一な厚みの塗膜を形成することができる。
【0027】
個々の給電針11に注目すると、給電針11の先端部31は、断続的に被塗物4が当接しており、被塗物4が先端部31から離れた状態で塗膜が析出される。先端部31に析出された塗膜は、塗膜が析出された後に被塗物4が先端部31に当接する衝撃によって、先端部31に析出された塗膜は先端部31から剥がれ落ち、被塗物4は、塗膜が剥がれ落ちて導電性の先端部31に当接することができる。給電針11の先端部31は、塗膜の析出と、析出された塗膜の剥がれとを繰り返して、被塗物4が導電性の先端部31に当接した状態で、被塗物4に給電することができる。
【0028】
被塗物4を電着塗装する手順について、図4に示すフローチャートを参照しながら説明する。先ずステップS1で被塗物4の材質により適切な浸漬脱脂または電解脱脂を行い、次いで水洗を行う、脱脂液はアルカリ性であるため水洗性を高めるため、ステップS2で通例の酸洗浄を行う、次いで水洗を行う。ステップS3では必要であれば中間処理としてクロメート処理、リン酸系処理など行う。ステップS4では純水洗浄を行い、不純物イオンの電着塗料6への持ち込みを防止する。ステップS5で電着塗装装置1に供給して被塗物4の表面に塗膜を電着させる。
【0029】
電着塗装が完了した被塗物4を収容体5から取り出し、ステップS6で、被塗物4に付着している余分な塗料を回収した後、純水で洗浄する。その後、ステップS7で、洗浄した被塗物4を網状の冶具に載せて水切りを行い、100℃前後で予備乾燥を行い、付着している水分を蒸発させ、塗膜を平滑にする。ステップS8で被塗物4をオーブンとも呼ばれる加熱炉内に収容し、所定の設定温度で所定の設定時間、焼付け乾燥処理を行なった後、自然冷却する。網状の治具は、テフロン(登録商標)塗装処理して非粘着性にしたものが好適である。これによって、焼付け乾燥される。
【0030】
なお、第1および第2電極体51,52間に印加される設定電圧、設定電流、設定時間、焼付け乾燥温度、焼付乾燥時間などの電着塗装の条件は、対象とする被塗物4の組成、サイズおよび塗膜の膜厚などによって適宜変更可能である。また、電着塗装における極性は、実施形態では被塗物4を正極(アニオン電着)とした場合について説明したが、被塗物4を負極(カチオン電着)とすることも可能である。なお、被塗物4を負極とした場合には、貯留槽2には正極が電着溶液に浸漬した状態で配設される。例えば第1電極体51を正極、第2電極体52を負極としたとき、第1および第2電極体51,52間に印加される直流電圧は、50~300Vに設定される。また、第1電極体51を負極、第2電極体52を正極としたときも、第1および第2電極体51,52間に印加される直流電圧は、同様に設定される。
【0031】
本実施形態の電着塗装装置1によれば、駆動手段7が収容体5を回転軸線L1まわりに回転させると、収容体5の回転に伴って、収容体5に収容された被塗物4が、収容体5内で回転方向に移動した後、自重によって落下して、収容体5の内面8に該内面8から起立した状態で配設される給電針11に当接する。給電針11の表面に塗膜成分が析出して塗膜が形成されても、その先端塗膜は破砕され、給電針11の先端表面を露出させるので、第1電極体51と電気的に接続される給電針11と接触する被塗物4は第2電極体52との間に直流電圧を印加させることができる。これによって、第1電極体51と電気的に接続される給電針11に接触する複数の被塗物4と第2電極体52との間の通電状態の低下が抑制され、高精度で均一な膜厚の塗膜を形成することができる。
【0032】
このように、電着塗装装置1は、電着塗料6が貯留される貯留槽2と、複数の被塗物4を収容可能な収容体5であって、貯留槽2に貯留された電着塗料6に、少なくとも一部を浸漬させた状態で、貯留槽2に配設される収容体5と、収容体5に、起立した状態で配設される複数の給電針11と、複数の給電針11に電気的に接続される第1電極体51と、貯留槽2内に貯留される電着塗料6に浸漬される第2電極体52と、第1電極体51と第2電極体52との間に直流電圧を印加する図示しない電圧印加手段とを備える。収容体5に収容された被塗物4が、収容体5から起立した状態で配設される給電針11に当接することによって、給電針11の表面に塗膜が生じても、その塗膜は破砕され、給電針11の先端部表面を露出させ、給電針11に接触する被塗物4と第2電極体52とを通電させることができるようになる。これによって、複数の被塗物4と第2電極体52との間の通電状態の低下が抑制され、被塗物4と第2電極体52との間に電圧が印加され、高精度で均一な膜厚の塗膜を形成することができる。
【0033】
図5は、給電針が微小な場合の電着塗装を模式的に示す図であり、図6は、給電針が大径である場合の電着塗装を模式的に示す図である。図7は電着塗装装置1の第1電極体51と第2電極体52とを模式的に示す図である。
【0034】
図5を参照しながら、給電針が微小な場合の電着塗装について説明する。給電針11に被塗物4が接触することによって、電着塗膜として電解ガス81と水分82とを内包するスポンジ状の析出塗膜83が被塗物4に析出する。析出塗膜83は、たとえばエアーブローなどによる水切り、予備乾燥、焼き付け乾燥の各工程において流動し、平滑化していく現象がある。析出塗膜83がスポンジ状態時に、非常に微細な接点にて給電を行うので、接点跡84が小さく、後工程において流動により平滑化し、接点跡84を消滅させることが可能である。それにより、接点跡84の問題を解決することができ、装飾塗装用途、薄膜均一塗装用途に適した電着塗装装置1を提供することができる。さらに給電針自体も電着塗膜が析出し、先端も電着塗膜でカバーされるが、非常に微細な接点のため、電着塗膜に深く挿入するこができ、品物表面の金属面まで安定して達する。そのため、連続的に電着塗装を行っても通電性が低下することがない。
【0035】
図6を参照しながら、給電を用いた電着塗装について説明する。通常のサイズの給電針91に被塗物4が接触することによって、電着塗膜として電解ガス81と水分82を内包するスポンジ状の析出塗膜83が被塗物4に析出する。析出塗膜83は、水切り(エアーブロー)、予備乾燥、焼き付け乾燥の各工程で流動するが、接点跡94が大きいので、後工程において流動により平滑化して接点跡94を消滅させることができない。さらに給電針自体も電着塗膜が析出し、先端も電着塗膜でカバーされるが、接点が大きく、電着塗膜に深く挿入することができないので、品物表面の金属面に接触しづらく、連続的に電着塗装を行うと、給電針先端の電着塗膜の付着および品物の電着塗膜の成長により次第に通電性が低下していく。
【0036】
図7に示す電着塗装装置1の給電針11として、本発明の、密度が1cmあたり25本の給電針11群と、密度が1cmあたり400本などで設定された複数の給電針11群を使用して、被塗物4に電着塗装した塗装物の外観判定を行なった。外観判定の結果を表1に示す。なお、図7において、51は第1電極体を示し、52は第2電極体を示す。外観判定の結果を表1に示す。
【表1】
【0037】
本発明の、密度が1cmあたり25本である給電針11群および密度が1cmあたり400本である給電針11群を使用した場合には、電着塗装したすべての被塗物(ボルト、ナット、球体、鏡面体)の外観は良好であった。ボルト、ナットについてはエッジ部が多く傷が目立たない品物であり、球体についてはエッジ部がなく通電性が低く、傷が目立ちやすい品物である。鏡面体はエッジ部が少ない形状に光沢Niめっき処理を施しており、傷が目立ちやすい品物である。
【符号の説明】
【0038】
1 電着塗装装置
2 貯留槽
4 被塗物
5 収容体
6 電着塗料
7 駆動手段
8 内面
9 基板
11 給電針
18 周壁
25 底壁
31 先端部
L1 回転軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9