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特許7042012円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造装置及び製造方法
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  • 特許-円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造装置及び製造方法 図1
  • 特許-円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造装置及び製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20220317BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021035960
(22)【出願日】2021-03-08
(65)【公開番号】P2021153178
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-03-08
(31)【優先権主張番号】202010214860.0
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】310005618
【氏名又は名称】煙台東星磁性材料株式有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100139033
【弁理士】
【氏名又は名称】日高 賢治
(72)【発明者】
【氏名】楊昆昆
(72)【発明者】
【氏名】王伝申
(72)【発明者】
【氏名】彭衆傑
(72)【発明者】
【氏名】丁開鴻
【審査官】橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3204278(JP,U)
【文献】特開2015-65218(JP,A)
【文献】特開2009-289994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/057
B22F 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造装置であって、
密閉ブースと、当該密閉ブースの内部に1又は複数の支持ラックを立設し、前記支持ラックには水平方向に延伸するロール軸が取り付けられ、
前記ロール軸の外周面には、前記ロール軸の径方向に伸縮して前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の内周面を支持又は開放する伸縮手段を備え、
前記ロール軸の軸線方向の先端外方には、重希土類スラリーを前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の内周面に吹き付ける第1スプレー手段が設置され、
前記ロール軸の軸線方向と垂直方向の外方には、前記重希土類スラリーを前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の外周面に吹き付ける第2スプレー手段が設置される、
ことを特徴とする円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造装置。
【請求項2】
前記ロール軸の軸線方向と垂直方向の外方には、更に熱風乾燥ノズルが設置される、
ことを特徴とする請求項1に記載の円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造装置。
【請求項3】
前記支持ラックには、上下動可能なスライドレールが更に取り付けられ、前記スライドレール上には、当該スライドレールに沿って往復運動し、前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体を保持する支持体が設けられる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造装置。
【請求項4】
前記密閉ブースの外部には、前記重希土類スラリーを充填する圧力撹拌桶が設けられ、前記第1スプレー手段及び前記第2スプレー手段は、配管を介して前記圧力撹拌桶に接続されている、
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造装置。
【請求項5】
前記支持ラックが複数立設される場合、複数の前記支持ラックは互いに平行で、かつ隣接する前記支持ラックの間の距離は調整可能である、
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造装置。
【請求項6】
前記第2スプレー手段は、前記ロール軸との距離を調整可能であり、かつロール軸の軸線方向と平行に移動可能である、
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造装置。
【請求項7】
円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造方法であって、以下の工程(a)~工程(e)を含み、
工程(a)重希土類スラリーの調整
重希土類粉末、有機接着剤、有機溶剤を混合して重希土類スラリーを調整し、
工程(b)前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体のセット
前記重希土類スラリーを吹付ける前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体を、回転制御可能な回転機構にセットし、
工程(c)前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の外周面への重希土類コーティング層の形成
前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体を、前記回転機構によって回転させつつ、その外周面に前記重希土類スラリーを吹き付け、吹付け完了後に熱風乾燥して前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の外周面に重希土類コーティング層を形成し、
工程(d)前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の内周面への重希土類コーティング層の形成
外周面に重希土類コーティング層を形成した前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の内周面に、前記重希土類スラリーを吹き付け、吹付け完了後、焼付箱内に設置して乾燥させ、前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の内外周面に重希土類コーティング層を形成し、
工程(e)拡散及び時効処理
内外周面に前記重希土類コーティング層が形成された前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体を、真空又は不活性ガス雰囲気保護下で拡散及び時効処理を行う、
ことを特徴とする円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造方法。
【請求項8】
前記工程(a)における前記重希土類粉末の成分は、金属テルビウム又は金属ジスプロシウムであり、前記重希土類粉末は、純金属粉末、化合物粉末又は合金粉末であり、
前記有機接着剤は、樹脂系接着剤又はゴム系接着剤であり、
前記有機溶剤は、ケトン類、ベンゼン類又はエステル類溶剤である、
ことを特徴とする請求項7に記載の円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造方法。
【請求項9】
前記工程(e)における拡散処理温度は850℃~950℃、拡散時間は4~72時間、時効処理温度は450℃~650℃、時効時間は3~15時間である、
ことを特徴とする請求項7又は8に記載の円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造方法。
【請求項10】
前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の前記内周面に形成される前記重希土類コーティング層の厚さは、前記外周面に形成される重希土類コーティング層の厚さより厚い、
ことを特徴とする請求項7ないし9のいずれか1項に記載の円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造方法。
【請求項11】
前記工程(b)~前記工程(d)は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造装置を用いて行われる、
ことを特徴とする請求項7ないし10のいずれか1項に記載の円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はNd-Fe-B系磁性体の加工技術であって、主に円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd-Fe-B系磁性体は、1983年の登場以来、コンピュータ、自動車、医療機器及び風力発電機等の分野において幅広く利用されているが、Nd-Fe-B系磁性体は、その特殊な形状及び配向方向によって、特にモータ分野において利用されている。しかしながらモータは、高速回転の過程で生じる熱によってNd-Fe-B系磁性体の磁気特性が弱まるため、モータの性能に大きな影響を与えている。こうした状況を回避するために、モータに利用されるNd-Fe-B系磁性体の保磁力の向上は必須の課題となっている。
【0003】
Nd-Fe-B系永久磁性体は、金属間化合物であるNdFe14Bを基材とする永久磁性材であり、NdFe14B相の境界にジスプロシウム、テルビウム元素又はその合金を添加してNdFe14B相の結晶磁気異方性を高めることにより、Nd-Fe-B系磁性体の保磁力を高めることが可能である。この理論によって発展してきた結晶粒界拡散技術は、優れた性能向上と言う利点と高い経済的価値によって、Nd-Fe-B系磁性体の製造技術として幅広く用いられており、且つ様々な拡散法が提示されてきた。しかしながら、円筒状Nd-Fe-B系磁性体の場合、その特殊な形状により、従来の拡散法のいずれもが、円筒状Nd-Fe-B系磁性体に対して低コスト且つ高効率な重希土類の拡散を行うことができず、その保磁力を十分に高めることができていない。
【0004】
包頭天和磁材技術有限公司は、中国特許公開CN106782980Aにおいて、電気めっき液として重希土類溶融塩を用い、Nd-Fe-B系磁性体の表面に一層の重希土類めっき層を電気めっきし、その後、高温拡散処理によって磁気特性を向上させる方法を開示している。この方法は、角形、瓦型、マントウ形、輻射リング形といった様々な形状のNd-Fe-B系磁性体の表面を一層の重希土類膜層で覆った後に、拡散及び時効処理を行ってNd-Fe-B系磁性体の保磁力高めるものである。この方法は高い汎用性を有するものの、重希土類電気めっき液が酸化し易く、電気めっきプロセスが妨げられる一方で、電気めっきプロセス中のピンチポイント及びコーナー効果の存在も、重希土類膜層の均一性に影響を与えるといった課題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】中国特許公開CN106782980A
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、特に円筒状Nd-Fe-B系磁性体に対する拡散処理に係る問題を解決し、重希土類コーティング膜の均一化、安定化及び大量生産が可能な、円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本願の第一の発明は、円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造装置であって、密閉ブースと、当該密閉ブースの内部に1又は複数の支持ラックを立設し、前記支持ラックには水平方向に延伸するロール軸が取り付けられ、前記ロール軸の外周面には、前記ロール軸の径方向に伸縮して前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の内周面を支持又は開放する伸縮手段を備え、前記ロール軸の軸線方向の先端外方には、重希土類スラリーを前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の内周面に吹き付ける第1スプレー手段が設置され、前記ロール軸の軸線方向と垂直方向の外方には、前記重希土類スラリーを前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の外周面に吹き付ける第2スプレー手段が設置される、ことを特徴とする。
【0008】
また、前記ロール軸の軸線方向と垂直方向の外方には、更に熱風乾燥ノズルが設置される、ことを特徴とする。
【0009】
また、前記支持ラックには、上下動可能なスライドレールが更に取り付けられ、前記スライドレール上には、当該スライドレールに沿って往復運動し、前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体を保持する支持体が設けられる、ことを特徴とする。
【0010】
また、前記密閉ブースの外部には、前記重希土類スラリーを充填する圧力撹拌桶が設けられ、前記第1スプレー手段及び前記第2スプレー手段は、配管を介して前記圧力撹拌桶に接続されている、ことを特徴とする。
【0011】
また、前記支持ラックが複数立設される場合、複数の前記支持ラックは互いに平行で、かつ隣接する前記支持ラックの間の距離は調整可能である、ことを特徴とする。
【0012】
さらに、前記第2スプレー手段は、前記ロール軸との距離を調整可能であり、かつロール軸の軸線方向と平行に移動可能である、ことを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成するため、本願の第二の発明は、円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造方法であって、以下の工程(a)~工程(e)を含み、
工程(a)重希土類スラリーの調整
重希土類粉末、有機接着剤、有機溶剤を混合して重希土類スラリーを調整し、
工程(b)前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体のセット
前記重希土類スラリーを吹付ける前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体を、回転制御可能な回転機構にセットし、
工程(c)前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の外周面への重希土類コーティング層の形成
前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体を、前記回転機構によって回転させつつ、その外周面に前記重希土類スラリーを吹き付け、吹付け完了後に熱風乾燥して前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の外周面に重希土類コーティング層を形成し、
工程(d)前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の内周面への重希土類コーティング層の形成
外周面に重希土類コーティング層を形成した前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の内周面に、前記重希土類スラリーを吹き付け、吹付け完了後、焼付箱内に設置して乾燥させ、前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の内外周面に重希土類コーティング層を形成し、
工程(e)拡散及び時効処理
内外周面に前記重希土類コーティング層が形成された前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体を、真空又は不活性ガス雰囲気保護下で拡散及び時効処理を行う、
ことを特徴とする。
【0014】
また、前記工程(a)における前記重希土類粉末の成分は、金属テルビウム又は金属ジスプロシウムであり、前記重希土類粉末は、純金属粉末、化合物粉末又は合金粉末であり、前記有機接着剤は、樹脂系接着剤又はゴム系接着剤であり、前記有機溶剤は、ケトン類、ベンゼン類又はエステル類溶剤である、ことを特徴とする。
【0015】
また、前記工程(e)における拡散処理温度は850℃~950℃、拡散時間は4~72時間、時効処理温度は450℃~650℃、時効時間は3~15時間である、ことを特徴とする。
【0016】
また、前記円筒状Nd-Fe-B系磁性体の前記内周面に形成される前記重希土類コーティング層の厚さは、前記外周面に形成される重希土類コーティング層の厚さより厚い、ことを特徴とする。
【0017】
さらに、前記工程(b)~前記工程(d)は、上記第一発明に係る円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造装置を用いて行われる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
上記した本発明によれば、回転するロール軸に円筒状Nd-Fe-B系磁性体を固定し、スプレー手段を用いて内外表面に重希土類スラリーを塗布することで、従来技術である電気泳動法や電気めっき法を用いる方法に比べて、膜厚制御が容易で、迅速かつ均一な重希土類コーティング層を形成することができ、その後の拡散処理によって円筒状Nd-Fe-B系磁性体の保磁力を均一かつ効果的に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の製造装置の側面図である。
図2】本発明の製造装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態につき、図1図2に基づいて詳細に説明する。
本発明に係る円筒状Nd-Fe-B系磁性体の製造装置は、密閉ブース2と、その内部に設置される回転機構及び支持機構を有し、回転機構はロール軸5及び当該ロール軸5の外周面に設けられた伸縮手段7を含み、支持機構は固定台3、支持ラック4、スライドレール6及び支持体9を含み、更に吹付手段(スプレー手段)としての第1スプレーガン8及び第2スプレーガン10と、熱風乾燥ノズル12を有する。なお図1、2では複数の支持ラック4を有する構成を示しているが、支持ラック4は1つであっても良い。
【0021】
第1スプレーガン8及び第2スプレーガン10は、各々管路を介して密閉ブース2の外部に設けた圧力撹拌桶1に連結され、圧力撹拌桶1内には重希土類スラリーが充填され、第1スプレーガン8及び第2スプレーガン10のノズルヘッドから重希土類スラリーを蓄圧式によって噴霧するものである。
【0022】
密閉ブース2の底部には固定台3が設けられ、固定台3の一端に支持ラック4が複数立設され、支持ラック4の上部にはモータ(図示せず)によって回転するロール軸5が水平方向に延出している。
【0023】
処理すべき円筒状Nd-Fe-B系磁性体11は、伸縮手段7によってロール軸7に固定され、ロール軸7の回転と同調して回転する。伸縮手段7は、図1に示すように十字状に4本の伸縮シャフトを備えており、処理すべき円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の内径に応じ、モータ(図示せず)によって伸縮制御される。図1、2において、7-1は伸状態にある伸縮手段を示し、7-2は縮状態にある伸縮手段を示している。
【0024】
図1、2に示すように、本実施例においては、複数の支持ラック4に、一本のロール軸5が設けられ、当該ロール軸5には、その軸線方向に3個の円筒状Nd-Fe-B系磁性体を直列に並べて配置した場合について説明するが、ロール軸5の長さ、本数、各ロール軸5に挿入される円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の数量は、必要に応じて調整可能である。即ち、同時に処理する円筒状Nd-Fe-B系磁性体11は、3個に限定されず、1個又は2個でもよく、更には4個以上であっても良い。
【0025】
第2スプレーガン10及び熱風乾燥ノズル12は、いずれもロール軸5の軸線方向と垂直方向の外方に位置し、かつロール軸5の軸線方向と平行な線上を移動することができ、さらに第2スプレーガン10及び熱風乾燥ノズル12とロール軸5との距離は調整可能である。伸縮手段7によってロール軸5に固定された3つの円筒状Nd-Fe-B系磁性体11が、ロール軸5の回転に伴って回転を開始すると、第2スプレーガン10は、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の外周面に対して重希土類スラリーの吹付けを行う。圧力撹拌桶1内の重希土類スラリーは、ガス圧によって霧化され噴射される。
【0026】
支持ラック4の下部位置にはスライドレール6が設けられ、スライドレール6は、モータ(図示せず)に制御されて支持ラック4に沿って上下に往復運動し、スライドレール6にはスライドレール6上を往復運動する支持体9が設けられ、支持体9はV字形、波紋状又は表面に突起を有する構成である。
【0027】
支持体9はロール軸5の直下に位置し、スライドレール6の上下動によって、支持体9が円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を下から保持又は非保持する状態になるように構成されている。
【0028】
ロール軸5の軸線方向において支持ラック4から遠い側の端部外方には、第1スプレーガン8が設けられ、第1スプレーガン8はロール軸5の中心軸線と同一直線上にあり、第1スプレーガン8は、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の内周面に対する重希土類スラリーの吹付けに用いられる。
【0029】
スライドレール6を、支持ラック4に沿って円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の下方まで移動させ、支持体9によって円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を下から保持すると、伸縮手段7が縮動作して収納され、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11は伸縮手段から解放されて、支持体9のみによって支持される。その後、支持体9の移動によって円筒状Nd-Fe-B系磁性体11が第1スプレーガン8側へと移動し、3つの円筒状Nd-Fe-B系磁性体11が第1スプレーガン8を順次通過し、第1スプレーガン8によって3つの円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の内周面に、重希土類スラリーが吹付けられる。
【0030】
本発明の製造装置を用いた円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の製造は、具体的に以下の工程で行われる。
【0031】
工程(a)重希土類スラリーの調合、準備
重希土類粉末、有機接着剤及び有機溶剤を混合して重希土類スラリーを調合し、調合が完了した重希土類スラリーを圧力撹拌桶1内に投入して撹拌する。重希土類スラリーは、金属テルビウム又は金属ジスプロシウムの純金属粉末、化合物粉末又は合金粉末であり、有機接着剤は、樹脂系接着剤又はゴム系接着剤であり、有機溶剤は、ケトン類、ベンゼン類又はエステル類溶剤である。
【0032】
工程(b)円筒状Nd-Fe-B系磁性体のセット
円筒状Nd-Fe-B系磁性体11をロール軸5に挿入し、伸縮手段7を延伸動作させて、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の内周面に圧着させ、ロール軸5に固定し、ロール軸を回転させて円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を同調して回転を開始する。
【0033】
工程(c)円筒状Nd-Fe-B系磁性体外周面の重希土類コーティング
第2スプレーガン10及び熱風乾燥ノズル12を、吹付け待ちの円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の上方へ移動させ、かつ第2スプレーガン10と円筒状Nd-Fe-B系磁性体11との距離を調節し、その後、第2スプレーガン10を起動し、回転している円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の外周面に沿って重希土類スラリーの吹付けを行う。吹付け完成後に、第2スプレーガン10を停止し、続いて熱風乾燥ノズル12を起動し、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を熱風で乾燥し、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の外周面に吹付けた重希土類スラリーを硬化させ、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の外周面に重希土類コーティング層を形成する。
【0034】
工程(d)円筒状Nd-Fe-B系磁性体内周面の重希土類コーティング
上記工程(c)によって外周面が乾燥した段階でロール軸5の回転を停止し、その後、スライドレール6を上方向に移動させ、V字形の支持体9が円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を下から保持する状態にする。ロール軸5の伸縮手段7を縮状態にし、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11をロール軸5から完全に離脱させて、支持体9によって保持する。モータを起動し、支持体9で円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を保持した状態で、第1スプレーガン8へ向けて移動させ、第1スプレーガン8を起動し、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の内周面に重希土類スラリーの吹付けを開始する。吹付け完了後の円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を装置から取り出し、焼付箱内に置いて乾燥させ、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の内周面上の重希土類スラリーを硬化させて重希土類コーティング層を形成する。
【0035】
工程(e)拡散及び時効処理
内外表面のいずれにも重希土類コーティング層を成形した円筒状Nd-Fe-B系磁性体11に対し、真空又は不活性ガス雰囲気による保護の下で拡散及び時効処理を行い、最終製品としての円筒状Nd-Fe-B系磁性体を完成させる。
【0036】
なお、上記工程(c)における第1スプレーガン8と吹付け待ちの円筒状Nd-Fe-B系磁性体11表面との距離は、10~100mmであり、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11内周面の重希土類コーティング層の厚さは、外周面の重希土類コーティング層の厚さより、厚くすることが好ましい。
【0037】
また、上記工程(c)(d)で形成する重希土類コーティング層は、一層であっても、また場合によって多層であっても良い。
【0038】
また工程(e)において、拡散処理温度は850℃~950℃、拡散時間は4~72時間、時効処理温度は450℃~650℃、時効時間は3~15時間である。
【0039】
上記製造装置及び方法を用いて製造する円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の具体的実施例について、以下、説明する。
【0040】
実施例1
純ジスプロシウム粉末、樹脂系接着剤及びベンゼン類希釈剤を混合して混合して重希土類スラリーを調合し、重希土類スラリーを圧力撹拌桶1内に投入して撹拌した。
【0041】
内径5mm、壁厚1mm、長さ5mmの拡散処理前の円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を用意し、これをロール軸5に挿入し、伸縮手段7を調節し、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11をロール軸5に固定した。その後、ロール軸5を回転させ、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を同調して回転させ、第2スプレーガン10を円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の外周面からの距離を10mmにセットし、第2スプレーガン10を起動し、重希土類スラリーを円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の外周面に吹付け、塗膜の厚さを5μmとした。続いて熱風乾燥ノズル12を起動し、吹付け完了後の円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を熱風で乾燥し、乾燥後に熱風乾燥ノズル12を停止した。
【0042】
ロール軸5の回転を停止し、スライドレール6を上昇させ、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を支持体9によって下から保持し、ロール軸5の伸縮手段7を縮状態とした。ロール軸5の軸線方向に沿って支持体9とともに円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を第1スプレーガン8側へ移動させ、第1スプレーガン8を起動し、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の内周面への重希土類スラリーの吹付けを開始した。重希土類スラリーの厚さを8μmとなるよう制御した。吹付け完了後の円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を装置から取り出し、オーブンに置いて乾燥させた。乾燥後、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を真空炉内に置き、900℃で4時間の拡散処理及び500℃で3時間の時効処理を行った。拡散後の磁気特性を測定し、比較例として拡散前の素地との磁気特性の対比を行った。結果は表1に示すとおりである。
【0043】
表1
【0044】
表1に示すとおり、本発明の製造方法によってジスプロシウムを拡散した実施例1に係る円筒状Nd-Fe-B系磁性体11は、残留磁束密度が0.1kGs低下したものの、保磁力は4.4kOe向上し、角形比の変化は極めて少ない結果となった。
【0045】
実施例2
実施例2の製造方法は基本的に実施例1と同じであるが、重希土類スラリーの成分として水素化テルビウム粉末に樹脂系接着剤及びケトン類希釈剤を混合したものを用い、また拡散処理前の磁性体は、内径20mm、肉厚10mm、長さ100mmの円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を選択した。
【0046】
第2スプレーガン10と円筒状Nd-Fe-B系磁性体11との距離を50mmとし、外周面に吹付ける膜の厚さを50μmに制御し、内周面に吹付ける膜の厚さを80μmに制御した。乾燥後、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を真空炉内に置き、850℃で72時間の拡散処理及び450℃で15時間の時効処理を行った。拡散後の磁気特性を測定し、比較例として拡散前の素地との磁気特性の対比を行った。結果は表2に示すとおりである。
【0047】
表2
【0048】
表2に示すとおり、本発明の製造方法によって水素化テルビウムを拡散した実施例2に係る円筒状Nd-Fe-B系磁性体11は、残留磁束密度が0.3kGs低下したものの、保磁力は9.8kOe向上し、角形比の変化は極めて少ない結果となった。
【0049】
実施例3
実施例3の製造方法は基本的に実施例1と同じであるが、重希土類スラリーの成分としてテルビウム-銅合金粉末に樹脂系接着剤及びエステル類希釈剤を混合したものを用い、また拡散処理前の磁性体は、内径30mm、肉厚15mm、長さ50mmの円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を選択した。
【0050】
第2スプレーガン10と円筒状Nd-Fe-B系磁性体11との距離を100mmとし、外周面に吹付ける膜の厚さを100μmに制御し、内周面に吹付ける膜の厚さを130μmに制御した。乾燥後、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11を真空炉内に置き、950℃で30時間の拡散処理及び650℃で10時間の時効処理を行った。拡散後の磁気特性を測定し、比較例として拡散前の素地との磁気特性の対比を行った。結果は表3に示すとおりである。
【0051】
表3
【0052】
表3に示すとおり、本発明の製造方法によってテルビウム-銅合金を拡散した実施例3に係る円筒状Nd-Fe-B系磁性体11は、残留磁束密度が0.2kGs低下したものの、保磁力は9.1kOe向上し、角形比の変化は極めて少ない結果となった。
【0053】
上記各実施例から明らかなとおり、本発明の製造装置及び製造方法によれば、円筒状Nd-Fe-B系磁性体11の内外周面に重希土類コーティング層を均一かつ迅速に形成することが可能であり、拡散及び時効処理を経た円筒状Nd-Fe-B系磁性体11は、残留磁束密度の低下はわずかでありながら、その保磁力を著しく向上させることができる。
【0054】
なお本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明で開示した技術思想の範囲内において、様々な具体的方法によって実施することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 圧力撹拌桶
2 密閉ブース
3 固定台
4 支持ラック
5 ロール軸
6 スライドレール
7 伸縮手段
7-1 伸状態にある伸縮手段
7-2 縮状態にある伸縮手段
8 第1スプレーガン
9 支持体
10 第2スプレーガン
11 円筒状Nd-Fe-B系磁性体
12 熱風乾燥ノズル
図1
図2