(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-29
(54)【発明の名称】心臓幹細胞、ならびに該細胞を同定し、そして用いる方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20220317BHJP
A61K 35/34 20150101ALI20220317BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220317BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220317BHJP
A61P 9/02 20060101ALI20220317BHJP
A61P 9/06 20060101ALI20220317BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220317BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220317BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220317BHJP
C12N 1/02 20060101ALI20220317BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220317BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220317BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220317BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220317BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220317BHJP
G01N 33/536 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
C12N5/077
A61K35/34
A61K45/00
A61P9/00
A61P9/02
A61P9/06
A61P9/10
A61P13/12
A61P35/00
C12N1/02
C12Q1/02
G01N33/15 Z
G01N33/48 P
G01N33/50 Z
G01N33/53 D
G01N33/53 Y
G01N33/536 D
(21)【出願番号】P 2015545500
(86)(22)【出願日】2013-12-02
(86)【国際出願番号】 US2013072660
(87)【国際公開番号】W WO2014093051
(87)【国際公開日】2014-06-19
【審査請求日】2016-12-02
【審判番号】
【審判請求日】2020-01-06
(32)【優先日】2012-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515146431
【氏名又は名称】ヴェッション,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】ハッチスターゴス,コンスタンティノス・イー
(72)【発明者】
【氏名】ヘア,ジョシュア・エム
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】中島 庸子
【審判官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】Am J Physiol Heart Circ Physiol,2012年5月25日,Vol.303,H256-270
【文献】細田徹,遺伝子・再生医学講座「心臓再生-Up-Date」,Angiology Frontier,2010年,Vol.9,No.1p.54-61
【文献】PNAS,2007年,Vol.104,No.35,p.141068-14073
【文献】JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2010年,Vol.285,No21,p.16286-16293
【文献】CIRCULATION,2012年11月20日,V126,P A19546
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12N15/00-15/90, C12Q1/00-3/00
JST7580/JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋梗塞後の心筋瘢痕サイズを減少させるための療法組成物の調製における、
心臓前駆細胞の使用
であって、心臓前駆細胞はセリン608位においてリン酸化されたホスホ-Rbに関して陽性であり、ARFに関して陰性である、前記使用。
【請求項2】
心臓前駆細胞が
:
心臓細胞集団において、リン酸化網膜芽細胞腫タンパク質を含む細胞としてホスホ-Rb陽性心筋前駆細胞の集団を同定すること、および
同定したホスホ-Rb陽性心臓前駆細胞を単離すること
を含む方法により単離されている、請求項1の使用。
【請求項3】
前記同定が、リン酸化Rbを検出する剤と、心臓細胞集団を接触させることを含む、請求項2の使用。
【請求項4】
前記剤が過剰リン酸化Rbを検出する、請求項2の使用。
【請求項5】
前記リン酸化Rbを検出する剤が抗体である、請求項3の使用。
【請求項6】
前記抗体が、RbのSer608位でリン酸化されたRbに結合する、請求項5の使用。
【請求項7】
前記剤または抗体が検出可能標識を含む、請求項3~6のいずれか一項の使用。
【請求項8】
前記単離されたホスホ-Rb陽性心臓前駆細胞がGata4に関して陽性である(Gata4
+
)、請求項1~7のいずれか1項の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対するクロスリファレンス
[0001]本出願は、本明細書にその全体が援用される、2012年11月30日出願の米国仮出願第61/731,835号の優先権を主張する。
【0002】
政府の関心
[0002]本明細書に開示する態様は、P20 HL101443の下で、米国国立衛生研究所によって授与される政府支援を用いて作成され、したがって、米国政府は特定の権利を有しうる。
【背景技術】
【0003】
背景技術は存在しない。
【発明の概要】
【0004】
[0003]本概要は、本明細書記載の態様のいくつかの概要を提示するために提供される。
本概要は、請求項の範囲または意味を解釈するかまたは限定するために用いられないとい
う理解とともに提出される。
本明細書は以下の発明の開示を包含する。
[1]心臓細胞集団から心臓前駆細胞を単離する方法であって:
リン酸化網膜芽細胞腫タンパク質を含む細胞として、集団中の心臓前駆細胞を同定し;
そして
同定された心臓前駆細胞を単離する
ことを含む、前記方法。
[2]前記同定が、リン酸化Rbを検出する剤と、心臓細胞集団を接触させることを含む、[1]の方法。
[3]前記剤が過剰リン酸化Rbを検出する、[2]の方法。
[4]前記リン酸化Rbを検出する剤が抗体である、[2]の方法。
[5]前記抗体が、RbのSer608位でリン酸化されたRbに結合する、[4]の方法。
[6]前記剤または抗体が検出可能標識を含む、[2]~[5]のいずれか一項の方法。
[7]こうした投与が必要な被験体に、単離された心臓前駆細胞を投与することをさらに含む、[1]の方法。
[8]前記被験体が心臓疾患を有する、[7]の方法。
[9]心臓疾患が、心臓血管疾患、心筋症、心筋気絶、末梢血管疾患、間欠性跛行、頻脈、虚血-再灌流、心筋梗塞、急性腎不全、脳卒中、低血圧、塞栓症、血栓塞栓症(血餅)、鎌状赤血球病、体に向かう四肢への限局性の圧力、腫瘍、およびその任意の組み合わせである、[8]の方法。
[10]前記単離された心臓前駆細胞がGata4に関して陽性である(Gata4+)、[1]の方法。
[11]前記単離された心臓前駆細胞がARFに関して陰性である(ARF-)、[1]の方法。
[12]前記単離された心臓前駆細胞がGata4に関して陽性であり(Gata4+)、そしてARFに関して陰性である(ARF-)、[1]の方法。
[13]前記単離が、細胞集団から同定された細胞をソーティングすることを含む、[1]の方法。
[14]同定が、蛍光補助細胞ソーター(FACS)、レーザー走査型サイトメトリー、蛍光顕微鏡検査、RT-PCR、DNAハイブリダイゼーション、蛍光in situハイブリダイゼーション、質量分析、マイクロアレイ分析、免疫組織化学分析、または任意のその組み合わせを用いて心臓前駆細胞を同定することを含む、[1]の方法。
[15]治療が必要な被験体において、心臓疾患を治療する方法であって、療法的有効量の単離された心臓前駆細胞を投与することを含み、該心臓前駆細胞が:
リン酸化網膜芽細胞腫タンパク質を含む細胞として、集団中の心臓前駆細胞を同定し;
そして
同定された心臓前駆細胞を単離することを含む方法にしたがって単離される、前記方法。
[16]単離された細胞がGata4に関して陽性であり(Gata4+)、そして/またはARFに関して陰性である(ARF-)、[15]の方法。
[17]心臓疾患が、心臓血管疾患、心筋症、心筋気絶、末梢血管疾患、間欠性跛行、頻脈、虚血-再灌流、心筋梗塞、急性腎不全、脳卒中、低血圧、塞栓症、血栓塞栓症(血餅)、鎌状赤血球病、体に向かう四肢への限局性の圧力、腫瘍、およびその任意の組み合わせである、[15]の方法。
[18]心臓細胞集団から心臓前駆細胞を単離する方法であって:
ホスホ-Rb陽性またはGata4に関して陽性であり、そして/またはARFに関して陰性であるか、またはその任意の組み合わせである細胞として、集団中の心臓前駆細胞
を同定し;そして
同定された心臓前駆細胞を単離する
ことを含む、前記方法。
[19]ホスホ-Rb陽性およびGata4に関して陽性である細胞を、心臓前駆細胞として同
定する、[18]の方法。
[20]ホスホ-Rb陽性に関して陽性であり、そしてARFに関して陰性である細胞を、心臓前駆細胞として同定する、[18]の方法。
[21]Gata4に関して陽性であり、そしてARFに関して陰性である細胞を、心臓前駆細胞として同定する、[18]の方法。
[22]ホスホ-Rb陽性およびGata4に関して陽性であり、そしてARFに関して陰性である細胞を、心臓前駆細胞として同定する、[18]の方法。
[23]前記同定が、蛍光補助細胞ソーター(FACS)、レーザー走査型サイトメトリー、蛍光顕微鏡検査、RT-PCR、DNAハイブリダイゼーション、蛍光in situハイブリダイゼーション、質量分析、マイクロアレイ分析、免疫組織化学分析、または任意のその組み合わせを用いて心臓前駆細胞を同定することを含む、[18]の方法。
[24]前記同定される心臓前駆細胞が、N-カドヘリン陽性、コネキシン-43陽性、Isl1陽性、Wt1陽性、CDK2陽性、CDK4陽性、CDK6陽性、E2F陽性、ホスホ-p107陽性、ホスホ-p130陽性、CCNA陽性、CCND1陽性、CCND2陽性、CCND3陽性、CCNE陽性、c-kit陽性、CD3陰性、CD14陰性、CD68陰性、Nkx2.5陽性、MITF陽性、MEF2c陽性、またはその任意の組み合わせである、[18]の方法。
[25]前記同定された心臓前駆細胞を単離する前に、N-カドヘリン陽性、コネキシン-43陽性、Isl1陽性、Wt1陽性、CDK2陽性、CDK4陽性、CDK6陽性、E2F陽性、ホスホ-p107陽性、ホスホ-p130陽性、CCNA陽性、CCND1陽性、CCND2陽性、CCND3陽性、CCNE陽性、c-kit陽性、CD3陰性、CD14陰性、CD68陰性、Nkx2.5陽性、MITF陽性、MEF2c陽性、またはその任意の組み合わせである細胞を同定することをさらに含む、[18]の方法。
[26][18]~[25]のいずれか一項の方法にしたがって得られる心臓前駆細胞の単離された集団を含む組成物。
[27]心筋細胞集団から、再生心筋細胞を単離する方法であって:
ホスホ-Rb陽性、Gata4陽性、ARF陰性、N-カドヘリン陽性、コネキシン-43陽性、Isl1陽性、Wt1陽性、CDK2陽性、CDK4陽性、CDK6陽性、E2F陽性、ホスホ-p107陽性、ホスホ-p130陽性、CCNA陽性、CCND1陽性、CCND2陽性、CCND3陽性、CCNE陽性、CDKN1a陰性、CDKN1b陰性、CDKN1c陰性、CDKN2a陰性、CDKN2b陰性、CDKN2c陰性、CDKN3陰性、c-kit陽性、CD3陰性、CD14陰性、CD68陰性、Nkx2.5陽性、MITF陽性、MEF2c陽性、およびその任意の組み合わせより選択される少なくとも1つのマーカーに関して陽性である細胞として、集団中の再生心筋細胞を同定し;そして
同定された再生心筋細胞を単離する
ことを含む、前記方法。
[28]ホスホ-Rb陽性である心筋細胞を再生心筋細胞と同定する、[28]の方法。
[29]ホスホ-Rb陽性およびGata4陽性である心筋細胞を再生心筋細胞と同定する、[28]の方法。
[30]ホスホ-Rb陽性およびARF陰性である心筋細胞を再生心筋細胞と同定する、[28]の方法。
[31]ホスホ-Rb陽性、Gata4陽性、およびARF陰性である心筋細胞を再生心筋細胞と同定する、[28]の方法。
[32]N-カドヘリン陽性、コネキシン-43陽性、Isl1陽性、Wt1陽性、CDK2陽性、CDK4陽性、CDK6陽性、E2F陽性、ホスホ-p107陽性、ホスホ-p130陽性、CCNA陽性、CCND1陽性、CCND2陽性、CCND3陽性、CCNE陽性、CDKN1a陰性、CDKN1b陰性、CDKN1c陰性、CDKN2a陰性、CDKN2b陰性、CDKN2c陰性、CDKN3陰性、c-kit陽性、CD3陰性、CD14陰性、CD68陰性、Nkx2.5陽性、MITF陽性、MEF2c陽性からなる群より選択される少なくとも1つのさらなるマーカーを有する心筋細胞を、再生心筋細胞と同定する、[28]~[32]のいずれか一項の方法。
[33]前記同定が、蛍光補助細胞ソーター(FACS)、レーザー走査型サイトメトリー、蛍光顕微鏡検査、RT-PCR、DNAハイブリダイゼーション、蛍光in situハイブリダイゼーション、質量分析、マイクロアレイ分析、免疫組織化学分析、または任意のその組み合わせを用いて心臓前駆細胞を同定することを含む、[28]の方法。
[34]心臓疾患に関して治療される被験体において、心臓の再生を予測する方法であって:
被験体から心臓細胞を含む生物学的試料を得て;
生物学的試料におけるリン酸化網膜芽細胞腫(pRb)レベルを測定し;そして
生物学的試料におけるリン酸化網膜芽細胞腫(pRb)レベルを、ベースライン対照と比較する、ここでベースライン対照と比較した際、被験体の生物学的試料におけるpRbレベルが増加していると、被験体における心臓細胞の再生が予測される
ことを含む、前記方法。
[35]測定が、網膜芽細胞腫タンパク質のSer608でのリン酸化を測定することを含む、[35]の方法。
[36]リン酸化網膜芽細胞腫(pRb)レベルを測定することが、免疫組織化学アッセイ、ウェスタンブロットアッセイ、ELISA、生化学的酵素アッセイ、またはその任意の組み合わせで、pRbを定量化することを含む、[35]の方法。
[37]前記心臓細胞が成熟心筋細胞である、[35]の方法。
[38]前記心臓細胞がGata4陽性(Gata4+)心臓前駆細胞(CPC)である、[35]の方法。
[39]心臓疾患に関して治療される被験体を、優れた予後を持つ被験体として同定する方法であって:
被験体から心臓細胞を含む生物学的試料を得て;
生物学的試料におけるリン酸化網膜芽細胞腫(pRb)レベルを測定し;そして
生物学的試料におけるリン酸化網膜芽細胞腫(pRb)レベルを、ベースライン対照と
比較する
ここでベースライン対照と比較した際、被験体の生物学的試料におけるpRbレベルが
増加していると、被験体が優れた予後を有すると同定される
ことを含む、前記方法。
[40]前記測定が、網膜芽細胞腫タンパク質のSer608でのリン酸化を測定することを含む、[40]の方法。
[41]リン酸化網膜芽細胞腫(pRb)レベルを測定することが、免疫組織化学アッセイ、ウェスタンブロットアッセイ、ELISA、生化学的酵素アッセイ、またはその任意の組み合わせで、pRbを定量化することを含む、[40]の方法。
[42]心臓細胞が成熟心筋細胞である、[40]の方法。
[43]心臓細胞がGata4陽性(Gata4+)心臓前駆細胞(CPC)である、[40]の方法。
[44]成体骨髄由来間葉系細胞(MSC)、成体心臓幹細胞(CSC)、またはその任意の組み合わせで被験体を治療する、[40]の方法。
[45]心臓前駆細胞においてRb経路を調節する候補剤を同定する方法であって:
候補剤を心臓前駆細胞(CPC)集団と接触させ;そして
候補剤と接触させた心臓前駆細胞集団におけるリン酸化Rbレベルを、候補剤と接触させていないCPC集団におけるリン酸化Rbレベルに比較する、ここで、リン酸化Rbレベルの相違は、候補剤を、心臓前駆細胞においてRb経路を調節する剤と同定する
ことを含む、前記方法。
[46]心臓前駆細胞(CPC)が、リン酸化Rbser608(pRbser608)および/またはGata4に関して陽性である、[46]の方法。
[47]CPCが、リン酸化Rbser608(pRbser608)およびGata4に関して陽性である、[46]の方法。
[48]リン酸化Rbレベルの相違が少なくとも10%である、[46]の方法。
[49]in vitroまたはin vivoで、心臓細胞を再生する方法であって、心臓細胞を、網膜芽細胞腫(Rb)、INK4aの代替読み枠(ARF)タンパク質、またはその任意の組み合わせの機能を阻害する少なくとも1つの剤と接触させることを含む、前記方法。
[50]心臓細胞が、心臓幹細胞(CSC)、心臓前駆細胞(CPC)、心筋細胞、またはその任意の組み合わせを含む、[50]の方法。
[51]少なくとも1つの剤が、siRNA阻害剤、shRNA阻害剤、アンチセンスヌクレオチド阻害剤、ペプチド擬似体阻害剤、小分子、抗体、Rbをリン酸化するキナーゼ、ARFの転写リプレッサー、またはその任意の組み合わせを含む、[50]の方法。
[52]少なくとも1つの剤が、cdk4の活性化因子、cdk6の活性化因子、E2Fの活性化因子、非定型プロテインキナーゼCの活性化因子、Skp2の活性化因子、mdm2の活性化因子、MAPキナーゼの活性化因子、またはその任意の組み合わせを含む、[50]の方法。
[53]少なくとも1つの剤が、心臓細胞におけるRbのリン酸化を増加させ、そして/または心臓細胞におけるARFの発現を減少させる、[50]の方法。
[54]治療が必要な被験体において、虚血性障害を治療する方法であって、心臓細胞における網膜芽細胞腫(Rb)および/またはInk4aの代替読み枠(ARF)の機能を阻害する剤の療法的有効量を投与することを含む、前記方法。
[55]前記虚血性障害が、心臓手術、臓器移植、血管形成術、ステント留置、またはその任意の組み合わせによって引き起こされる、[54]の方法。
[56]虚血性障害が、心臓血管疾患、心筋症、心筋気絶、末梢血管疾患、間欠性跛行、頻脈、虚血-再灌流、心筋梗塞、急性腎不全、脳卒中、低血圧、塞栓症、血栓塞栓症(血餅)、鎌状赤血球病、体に向かう四肢への限局性の圧力、腫瘍、およびその任意の組み合わせより選択される、[54]の方法。
[57]剤が、siRNA阻害剤、shRNA阻害剤、アンチセンスヌクレオチド阻害剤、ペプチド擬似体阻害剤、小分子、抗体、Rbをリン酸化するキナーゼ、ARFの転写リプレッサー、またはその任意の組み合わせを含む、[54]の方法。
[58]剤が、心臓細胞におけるRbのリン酸化を増加させるか、心臓細胞におけるARF発現を減少させるか、またはその任意の組み合わせである、[54]の方法。
[59]in vitroまたはin vivoで、間葉系幹細胞(MSC)および心臓幹細胞(CSC)を共培養するプロセスによって形成される前駆細胞であって、リン酸化網膜芽細胞腫、セリン608(pRbser608)、およびGata4(Gata4+)に関して陽性であるマーカーによって同定される表現型を含む、前記前駆細胞。
[60]前記前駆細胞が、心臓前駆細胞(CPC)である、[59]の前駆細胞。
[61]前記前駆細胞が、ARF陰性である、[59]の前駆細胞。
【0005】
[0004]本明細書記載の態様は、療法後の心臓再生を予測するマーカー組成物に関する。患者回復、有糸分裂を監視する方法、薬剤発見法等もまた提供する。いくつかの態様において、方法は、バイオマーカー発現、活性または機能の検出を利用する。新規細胞タイプおよびその使用もまた提供する。
【0006】
[0005]本明細書に開示するのは、心臓前駆細胞を単離するための組成物および方法、ならびに心臓疾患に関して被験体を治療する方法である。本明細書に開示するいくつかの態様は、心臓細胞の再生を予測する方法である。いくつかの態様において、心臓疾患に関して治療される被験体において、心臓細胞の再生を予測する方法は、被験体から心臓細胞を含む生物学的試料を得て;該生物学的試料におけるリン酸化網膜芽細胞腫(pRb)レベルを測定し;そして生物学的試料におけるリン酸化網膜芽細胞腫(pRb)レベルをベースライン対照と比較する工程を含んでもよく、ここで、ベースライン対照と比較した際の、被験体の生物学的試料におけるpRbレベルの増加したレベルは、被験体における心臓細胞の再生を予測する。
【0007】
[0006]本明細書に開示するいくつかの態様は、心臓疾患に関して治療される被験体の予後を同定することに関する。いくつかの態様において、心臓疾患に関して治療される被験体を優れた予後を持つ被験体として同定する方法は、被験体由来の心臓細胞を含む生物学的試料を得て;該生物学的試料におけるリン酸化網膜芽細胞腫(pRb)レベルを測定し;そして生物学的試料におけるリン酸化網膜芽細胞腫(pRb)レベルをベースライン対照と比較する工程を含んでもよく、ここで、ベースライン対照と比較した際の、被験体の生物学的試料におけるpRbの増加したレベルは、被験体が優れた予後を有することを同定する。いくつかの態様において、被験体を、成体骨髄由来間葉系細胞(MSC)、成体心臓幹細胞(CSC)、またはその任意の組み合わせで治療してもよい。
【0008】
[0007]いくつかの態様は、Rb経路を調節する候補剤を同定することに関する。いくつかの態様において、心臓前駆細胞におけるRb経路を調節する候補剤を同定する方法は、心臓前駆細胞(CPC)集団と候補剤を接触させ;そして候補剤と接触させた心臓前駆細胞集団におけるリン酸化Rbレベルを、候補剤と接触させていないCPC集団におけるリン酸化Rbレベルに比較する工程を含んでもよく、ここで、リン酸化Rbレベルの相違は、候補剤を、心臓前駆細胞におけるRb経路を調節する剤と同定する。いくつかの態様において、心臓前駆細胞(CPC)は、リン酸化Rbser608(pRbser608)、Gata4、またはその組み合わせに関して陽性である。いくつかの態様において、リン酸化Rbレベルの相違は、少なくとも10%である。
【0009】
[0008]いくつかの態様において、in vitroまたはin vivoで心臓細胞を再生する方法は、網膜芽細胞腫(Rb)、Ink4aの代替読み枠(ARF)タンパク質、またはその任意の組み合わせの機能を阻害する少なくとも1つの剤と、心臓細胞を接触させる工程を含んでもよい。心臓細胞は、心臓幹細胞(CSC)、心臓前駆細胞(CPC)、心筋細胞、またはその任意の組み合わせであってもよい。いくつかの態様において、剤は、siRNA阻害剤、shRNA阻害剤、アンチセンスヌクレオチド阻害剤、ペプチド擬似体阻害剤、小分子、抗体、Rbをリン酸化するキナーゼ、ARFの転写リプレッサー、またはその任意の組み合わせであってもよい。いくつかの態様において、剤は、心臓細胞におけるRbのリン酸化を増加させ、そして/または心臓細胞におけるARFの発現を減少させることも可能である。
【0010】
[0009]他の態様において、治療が必要な被験体において、虚血性障害を治療する方法は、心臓細胞における網膜芽細胞腫(Rb)および/またはInk4aの代替読み枠(ARF)の機能を阻害する剤の療法的有効量を投与することを含んでもよい。虚血性障害は、心臓手術、臓器移植、血管形成術、ステント留置、またはその任意の組み合わせによって引き起こされうる。いくつかの態様において、剤は、心臓細胞におけるRbのリン酸化を増加させるか、心臓細胞におけるARF発現を減少させるか、またはその任意の組み合わせを行ってもよい。
【0011】
[0010]さらなる態様において、前駆細胞は、in vitroまたはin vivoで、間葉系幹細胞(MSC)および心臓幹細胞(CSC)を共培養するプロセスによって形成されることも可能であり、ここで、前駆細胞は、リン酸化網膜芽細胞腫、セリン608(pRbser608)、およびGata4(Gata4+)に関して陽性であるマーカーによって同定される表現型を含む。いくつかの態様において、前駆細胞はARF陰性であってもよい。いくつかの態様において、前駆細胞は、心臓前駆細胞(CPC)であってもよい。
【0012】
[0011]本明細書に開示するのは、心臓前駆細胞を同定する方法である。いくつかの態様において、心臓細胞集団から心臓前駆細胞を単離する方法は、リン酸化網膜芽細胞腫タンパク質を含む細胞として、集団中の心臓前駆細胞を同定し;そして同定された心臓前駆細胞を単離する工程を含んでもよい。いくつかの態様において、リン酸化Rbを検出する剤と心臓細胞集団を接触させることによって、心臓前駆細胞を同定する。いくつかの態様において、リン酸化Rbを検出する剤は、抗体であってもよい。いくつかの態様において、方法は、投与を必要とする被験体に療法的有効量で単離された心臓前駆細胞を投与することをさらに含んでもよい。いくつかの態様において、被験体は、心臓疾患を有する被験体であってもよい。
【0013】
[0012]いくつかの態様において、心臓細胞集団から心臓前駆細胞を単離する方法は、ホスホ-Rb陽性、Gata4陽性、ARF陰性、およびその任意の組み合わせより選択される少なくとも1つのマーカーに関して陽性である細胞として、集団中の心臓前駆細胞を同定し;そして同定された心臓前駆細胞を単離することを含んでもよい。いくつかの態様において、単離された心臓前駆細胞は、以下のマーカーを有してもよい:N-カドヘリン陽性、コネキシン-43陽性、Isl1陽性、Wt1陽性、CDK2陽性、CDK4陽性、CDK6陽性、E2F陽性、ホスホ-p107陽性、ホスホ-p130陽性、CCNA陽性、CCND1陽性、CCND2陽性、CCND3陽性、CCNE陽性、c-kit陽性、CD3陰性、CD14陰性、CD68陰性、Nkx2.5陽性、MITF陽性、MEF2c陽性、およびその任意の組み合わせ。さらなる態様において、組成物は、本明細書記載の方法にしたがって得られる心臓前駆細胞の単離された集団を含んでもよい。
【0014】
[0013]いくつかの態様において、成熟心筋細胞集団から再生心筋細胞を単離する方法は、ホスホ-Rb陽性、Gata4陽性、ARF陰性、N-カドヘリン陽性、コネキシン-43陽性、Isl1陽性、Wt1陽性、CDK2陽性、CDK4陽性、CDK6陽性、E2F陽性、ホスホ-p107陽性、ホスホ-p130陽性、CCNA陽性、CCND1陽性、CCND2陽性、CCND3陽性、CCNE陽性、CDKN1a陰性、CDKN1b陰性、CDKN1c陰性、CDKN2a陰性、CDKN2b陰性、CDKN2c陰性、CDKN3陰性、c-kit陽性、CD3陰性、CD14陰性、CD68陰性、Nkx2.5陽性、MITF陽性、MEF2c陽性、およびその任意の組み合わせより選択される少なくとも1つのマーカーに関して陽性である細胞として、集団中の再生心筋細胞を同定し;そして同定された再生心筋細胞を単離することを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】[0014]
図1は、hMSC/hCSCの間の相互作用が、宿主心筋細胞および心臓前駆体において、pRb
Ser608を通じて、内因性再生活性を誘導することを示す。(
図1A、1B)、共焦点免疫蛍光分析によって、pRb
Ser608の発現(赤い核)が、心筋細胞(黄色の矢じり)およびGata4
+前駆体(矢印)に存在することが明らかになる。細胞質分裂を示すpRb
Ser608心筋細胞(アステリスクが付いた黄色い矢じり)、および非常に小さい、おそらく新規形成されたpRb
Ser608+心筋細胞が(
図1A)に描かれる。心臓系譜に関係づけられない細胞(白い矢じり)はpRb
Ser608を発現しない。トロポミオシン(緑、
図1A)およびGata4(白、
図1B)は、ぞれぞれ、心筋細胞および/または心臓前駆体を同定するマーカーとして使用された。
図1C、1D: hCSCで処置した心臓は、梗塞領域(
図1C)および境界領域(
図1D)の両方において、hMSCまたはプラセボでの療法に比較して、有意により高い濃度のpRb
Ser608+/Gata4
+前駆体を有する。しかし、hMSCとhCSCの組み合わせはこの効果をさらに増進させた。
図1E、1F: pRb
Ser608+前駆細胞プールの拡大に加えて、動物を、細胞の組み合わせで処置すると、他の群に比較して、梗塞領域(
図1E)および境界領域(
図1F)の両方において、有意により高い割合のpRb
Ser608+成体心筋細胞が示された。N=3匹/群;値を平均±SEMで示す;
*p≦0.0001。CPC、Gata4
+前駆体; CM、心筋細胞; hpf、高倍率視野。
【
図2】[0015]
図2は、宿主CPCにおけるpRb
Ser608+の誘導が、細胞周期活性と関連しないことを示す。
図2A、2B:有糸分裂マーカーHP3
+に対する共焦点免疫蛍光によって、ブタ心臓の梗塞領域(
図2A)および境界領域における有糸分裂中のかなりの数のGata4
+前駆体を示す。
図2C、2D:幹細胞処置心臓は、かなりより多数のpRb
Ser608+/Gata4
+前駆体に取り巻かれているが、有糸分裂中のHP3
+/Gata4
+前駆体の数は、梗塞領域(
図2C)においても、または境界領域においても、群間で有意に異ならない。したがって、hCSC/hMSC相互作用後のpRb
Ser608の誘導は、Gata4
+心臓前駆体における細胞周期決定よりも、細胞運命をより制御するようである。
【
図3】[0016]
図3は、全細胞周期再進入に対するhMSC/hCSC連結によって、宿主心筋細胞におけるpRb
Ser608およびARF抑制を示す。
図3A~3E: HP3の発現によって例示されるような、ヒト幹細胞処置心臓の梗塞領域における、有糸分裂的に分裂している成体ブタ心筋細胞。ラミニン(赤、
図3C)は、細胞外マトリックスで心筋細胞境界を強調する。合併図(
図3D)において、死んだ瘢痕組織と健康な心筋の境界に白線で境界を描いた。
図3E中の有糸分裂心筋細胞(
図3D、矢じり)のより高い倍率は、ラミニン+境界(白線)によって、細胞質分裂を例示する。
図3F、3G: hMSC/hCSC移植後、他の群に比較して、梗塞領域(
図3F)および境界領域(
図3G)中の有糸分裂心筋細胞のプールは、劇的に増加する。
図3H、3I: HP3(白、
図3H)およびpRb
Ser608(赤、
図3I)を発現しているhMSC/hCSC処置心臓中の有糸分裂的に分裂中の心筋細胞(挿入図)。重要なことに、分裂中の細胞は、ARFの発現を欠き(緑の核)、これは細胞周期においてさらなる周期を経る潜在能力を示す。この表現型は、成体、一過性増幅再生心筋細胞集団の存在と一致し、通常の心筋細胞よりもより広い増殖潜在能力を示す。白い矢じりは、核中でARFを発現しているpRb
Ser608陰性心筋細胞を示す。
図3J、3K:他の群に比較して、hCSCおよびhMSCの組み合わせで処置した動物は、有意により高い率のpRb
Ser608+/ARF
(-)心筋細胞を示し、成体心筋細胞複製の新規機構を示す。CM、心筋細胞; hpf、高倍率視野。
【
図4】[0017]
図4は、pRb
Ser608が制御する心筋細胞複製および前駆細胞拘束が、心筋瘢痕サイズ減少に関連することを示す。cMRI計算変化率の線形回帰分析は、瘢痕サイズを変化させる:
図4A、4B:梗塞領域および境界領域におけるpRb
Ser608+/Gata4
+前駆体の数;梗塞領域(
図4A)内のpRb
Ser608+前駆体の数は、瘢痕サイズの減少と有意に相関したが、境界領域(
図4B)のものは相関しない。
図4C、4D:梗塞領域および境界領域におけるpRb
Ser608+心筋細胞%;梗塞領域(
図4C)または境界領域(
図4D)において、瘢痕サイズ減少およびpRb
Ser608+心筋細胞%の間の相関は観察されなかった。しかし、梗塞領域(
図4E)および境界領域(
図4F)中のpRb
Ser608+/ARF
(-)心筋細胞%は、心筋瘢痕縮小の度合いと有意に相関した。したがって、ARF抑制後のpRb
Ser608+は、心筋細胞における完全再生活性に必須である。
【
図5】[0018]
図5は、研究概要の模式図である。
図5Aは、ヒト間葉系細胞および心臓幹細胞の組み合わせの療法的移植が虚血性ブタ心外膜および血管周囲部位におけるヒト幹細胞の耐久性移植を生じることを示す。
図5Bは、異種移植された幹細胞混合物が、各細胞タイプを単独で移植した場合とは対照的に、ser-608でのpRbリン酸化を通じて内因性再生活性を誘導することを示す。
図5Cは、この翻訳後修飾が、もっぱら心臓系譜特異的細胞において伝播し、そして二重の効果を示すことを示す。ARF抑制と組み合わせて、これは、宿主心筋細胞において、全細胞周期活性を回復させる一方、同時に、再生Gata4
+宿主前駆体を活性化する。その結果、死んだ心筋の有意な回復が生じる。
【
図6】[0019]
図6は、健康なブタ心臓におけるpRb
Ser608の発現パターンを示す。共焦点免疫蛍光分析によって、健康なブタ心臓において、心外膜(
図6A)および心内膜(
図6C)細胞が、pRb
Ser608を示すが、心筋緻密壁(compact myocardial wall)の細胞(
図6B)は示さないことが明らかになる。矢じりは、Gata4
+/pRb
Ser608+前駆体を示し、矢印は、pRb
Ser608+心筋細胞を示す。
【
図7】[0020]
図7は、再生心筋細胞が、通常の心筋細胞よりもはるかに小さいことを示す。
図7A:ヒト幹細胞処置動物の心臓におけるHP3
+有糸分裂心筋細胞(青いバー)、およびプラセボ処置群における非有糸分裂心筋細胞(黒いバー)の横断面面積の形態計測分析によって、前者のサイズが有意により小さいことが明らかになる。
図7B、7C:HP3
+心筋細胞(
図7B、挿入図)および非分裂心筋細胞(
図7C)の代表的な顕微鏡写真。心臓ミオシン軽鎖(cMLC2v、赤)およびGata4を心筋細胞マーカーとして用いた。
【
図8】[0021]
図8は、pRb
Ser608+/ARF
(-)心筋細胞が、有糸分裂活性と相関することを示す。HP3+有糸分裂心筋細胞の数とpRb
Ser608+心筋細胞%(
図8A)、ならびにpRb
Ser608+/ARF
(-)心筋細胞%(
図8B)の線形回帰分析によって、pRb
Ser608のレベルが、心筋細胞有糸分裂率を正確に予測することが明らかになる。回帰は、pRb
Ser608にARF陰性表現型が付随した場合に、より頑強である(
図8B)。
【
図9-1】[0022]
図9は、心筋細胞におけるpRb
Ser608+/ARF
(-)再生表現型の誘導が、MSCおよびCSCの両方を必要とすることを示す。プラセボ(
図9A、9B)、hMSC+hCSC(
図9C、9D)、hCSC(
図9E、9F)またはhMSC(
図9G、9H)で処置し、そしてpRb
Ser608+(赤い核)、ARF(白い核)およびトロポミオシン(緑)に関して免疫染色したブタ心臓の代表的な共焦点顕微鏡写真。他の群に比較して、hMSC+hCSC処置後のpRb
Ser608+心筋細胞における劇的な相違に注目されたい。さらに、心筋細胞核の大部分は、腫瘍抑制因子ARFを発現し、細胞周期抑止を生じる。しかし、hMSCおよびhCSC両方の移植後(
図9C、9D)、ARF発現は、宿主心筋細胞のかなりの割合で抑制されるようになる(
図9Bの挿入図および矢印)。
【
図9-2】[0022]
図9は、心筋細胞におけるpRb
Ser608+/ARF
(-)再生表現型の誘導が、MSCおよびCSCの両方を必要とすることを示す。プラセボ(
図9A、9B)、hMSC+hCSC(
図9C、9D)、hCSC(
図9E、9F)またはhMSC(
図9G、9H)で処置し、そしてpRb
Ser608+(赤い核)、ARF(白い核)およびトロポミオシン(緑)に関して免疫染色したブタ心臓の代表的な共焦点顕微鏡写真。他の群に比較して、hMSC+hCSC処置後のpRb
Ser608+心筋細胞における劇的な相違に注目されたい。さらに、心筋細胞核の大部分は、腫瘍抑制因子ARFを発現し、細胞周期抑止を生じる。しかし、hMSCおよびhCSC両方の移植後(
図9C、9D)、ARF発現は、宿主心筋細胞のかなりの割合で抑制されるようになる(
図9Bの挿入図および矢印)。
【
図10】[0023]
図10は、有糸分裂心筋細胞の大部分がARFを発現することを示す。共焦点免疫蛍光は、ARF(緑)およびpRb
Ser608(赤)を共発現する、HP3
+(白)、有糸分裂心筋細胞(矢印)を示す。ARFの発現は、心筋細胞がさらなる細胞周期を経るのを制限する。
【
図11】[0024]
図11は、心筋細胞分化中のヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)における相対的遺伝子発現分析を示す。値を第0日の胚様体(EB)に対して規準化する。
【
図12】[0025]
図12は、ヒト胚性幹細胞(hESC)におけるRbのノックダウンを示す。
図12AおよびBは、蛍光顕微鏡によって測定されるような、dox未処理およびdox処理細胞のそれぞれにおけるhESC中のGFP発現を示す。
【
図13】[0026]
図13は、胚様体におけるRbのノックダウンを示す。
図13Aは、第8日および第10日、拍動している胚様体(EB)の定量化を示す。
図13Bは、第10日の胚様体におけるGFP
+細胞の蛍光顕微鏡検査を示す。
図13Cは、第10日の胚様体におけるRbの発現を示す。
【
図14】[0027]
図14は、態様にしたがって、対照およびRb shRNAを発現している第10日EBにおける、Gata4、Isl1、およびTnnIの遺伝子発現分析を示す。
【
図15】[0028]
図15は、態様にしたがって、対照およびRb shRNAを発現している第8~10日EBにおける細胞周期活性化因子の遺伝子発現分析を示す。
【
図16】[0029]
図16は、態様にしたがって、対照およびRb shRNAを発現している第10日EBにおける、細胞周期阻害剤の遺伝子発現分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[0030]理論的な側面を提示することなく、態様を実施することも可能である。さらに、提示されるいかなる理論にも、態様が束縛されることがないことを理解しながら、理論的な側面を提示する。
【0017】
[0031]本明細書に開示するすべての遺伝子、遺伝子名、および遺伝子産物は、本明細書に開示する組成物および方法が適用可能である任意の種由来の相同体に対応するよう意図される。したがって、該用語には、限定されるわけではないが、ヒトおよびマウス由来の遺伝子および遺伝子産物が含まれる。特定の種由来の遺伝子または遺伝子産物を開示した際、本開示は、例示のみであることが意図され、そしてそれを明確に示す文脈がない限り、限定と解釈されないものとする。したがって、例えば、いくつかの態様において、哺乳動物のものに関連する、本明細書に開示するタンパク質または遺伝子に関して、核酸およびアミノ酸配列は、限定されるわけではないが、他の哺乳動物、魚類、両生類、は虫類および鳥類を含む、他の動物由来の相同および/またはオルソログ遺伝子および遺伝子産物を含むと意図される。いくつかの態様において、遺伝子または核酸配列はヒトである。
【0018】
[0032]別に定義しない限り、本明細書に用いるすべての用語(技術的および科学的用語を含む)は、一般の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に用いられる辞書に定義されるものなどの用語は、関連する技術分野の背景における意味と一致した意味を有すると解釈されるべきであり、そして本明細書にそう明らかに定義されない限り、理想化されるかまたは過剰に秩序だった意味で解釈されないものとする。
【0019】
[0033]本明細書に用いる専門用語は、特定の態様を記載する目的のみのためのものであり、そして限定することを意図されない。本明細書において、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに別に示さない限り、複数形もまた含むと意図される。さらに、用語「含んでいる(including)」、「含む(includes)」、「有している(having)」、「有する(has)」、「とともに(with)」またはその変形が詳細な説明および/または請求項のいずれかで用いられる範囲で、こうした用語は、用語「含む(comprising)」と類似の方式で包含性であると意図される。
【0020】
[0034]用語「約」または「およそ」は、一般の当業者によって決定されるような特定の値に関する許容されうる誤差範囲内を意味し、これは、部分的に、値がどのように測定または決定されるか、すなわち測定系の限界に依存するであろう。例えば、「約」は、当該技術分野における実施ごとに、1または1より多い標準偏差内を意味しうる。あるいは、「約」は、参照値の±10%の範囲を意味しうる。
【0021】
[0035]「投与すること」は、療法と組み合わせて用いた際、療法をターゲット組織内または組織上に直接投与するか、あるいは療法を患者に投与して、それによってターゲティングされる組織に療法が積極的に影響を及ぼすことを意味する。組成物を「投与すること」は、経口投与、注射、注入、非経口、静脈内、粘膜、舌下、筋内、皮下吸収によって、あるいは他の既知の技術と組み合わせた任意の方法によって、達成されてもよい。療法はまた、治療部位に移植されるかまたは配置されてもよい。
【0022】
[0036]用語「動物」、「患者」、または「被験体」には、本明細書において、限定されるわけではないが、ヒトおよび非ヒト脊椎動物、例えば野生動物、家畜および農場動物が含まれる。いくつかの態様において、該用語はヒトを指す。
【0023】
[0037]本明細書において、用語「自己」は、後にその個体に再導入されるのと同じ個体から得られる任意の物質を指すよう意味される。
[0038]用語「同種細胞」は、「レシピエント宿主」になる動物と同じ動物種であるが、1またはそれより多い遺伝子座で遺伝的に異なる細胞を指す。これは通常、1つの動物から、同じ種の別の非同一動物に移植される細胞にあてはまる。しかし、いくつかの態様において、1つの種由来の細胞を異なる種に投与することも可能である。
【0024】
[0039]「生物学的試料」には、固体および体液試料が含まれる。本明細書で用いる生物学的試料には、細胞、タンパク質または細胞の膜抽出物、血液または生物学的液体、例えば腹水または脳液(例えば脳脊髄液)が含まれうる。固体生物学的試料の例には、限定されるわけではないが、中枢神経系、骨、乳房、腎臓、子宮頸部、子宮内膜、頭頸部、胆嚢、耳下腺、前立腺、脳下垂体、筋肉、食道、胃、小腸、結腸、肝臓、脾臓、膵臓、甲状腺、心臓、肺、膀胱、脂肪、リンパ節、子宮、卵巣、副腎、精巣、扁桃腺および胸腺の組織から採取される試料が含まれる。「体液試料」の例には、限定されるわけではないが、血液、血清、精液、前立腺液、精漿、尿、唾液、痰、粘液、骨髄、リンパおよび涙が含まれる。生物学的試料にはまた、心臓細胞、心臓前駆細胞、心臓再生細胞、または成熟心筋細胞も含まれうる。
【0025】
[0040]「骨髄由来前駆細胞」(BMDC)または「骨髄由来幹細胞」は、自己再生機構が恒常的に活性化されている原始的幹細胞を指す。この定義内に含まれるのは、全能性、多能性および前駆体である幹細胞である。「前駆細胞」は、より成熟した細胞に分化することが可能な細胞分化経路にある任意の細胞であってもよい。こうしたものとして、用語「前駆細胞集団」は、より成熟した細胞に発展させることが可能な細胞の群を指す。前駆細胞集団は、全能性である細胞、多能性である細胞、および幹細胞系譜制限された細胞(すなわちすべてではない造血系譜に、または例えば赤血球系譜の細胞のみに発展可能である細胞)を含みうる。
【0026】
[0041]「診断」または「診断された」は、病的状態の存在または性質を同定することを意味する。診断法は、その感度および特異性が異なる。診断アッセイの「感度」は、陽性の試験結果を示す疾患個体の割合(「真の陽性」パーセント)である。該アッセイによって検出されない疾患個体は、「偽陰性」である。病気でなく、そして該アッセイで陰性の試験結果を示す被験体は、「真の陰性」と称される。診断アッセイの「特異性」は、1から偽陽性率を引いたものであり、ここで「偽陽性」率は、陽性の試験結果を示す、疾患を持たないものの比率と定義される。特定の診断法は、状態の定義的診断を提供しない可能性もあるが、方法が診断を補助する正の指標を提供するならば十分である。
【0027】
[0042]本明細書において、「心疾患」は、心臓血管疾患、心筋気絶、末梢血管疾患、心筋症、肥大性心筋症、拡張性心筋症、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、虚血性心疾患、心筋炎、ウイルス感染、創傷、高血圧性心疾患、弁膜症、先天性心疾患、心筋梗塞、鬱血性心不全、不整脈、心臓のリモデリングを生じる疾患等を含む、任意のタイプの心疾患を指す。心疾患は、例えば心組織に対する損傷、例えば収縮性の減少(例えば駆出率の減少によって立証されうるようなもの)などの、任意の理由のためでありうる。心疾患はまた、間欠性跛行、頻脈、虚血-再灌流、急性腎不全、脳卒中、低血圧、塞栓症、血栓塞栓症(血餅)、鎌状赤血球病、体に向かう四肢への限局性の圧力、腫瘍等から生じる可能性もある。
【0028】
[0043]「虚血」は、心筋虚血性損傷を生じる、心臓への酸素流の欠如を指す。本明細書において、句、心筋虚血性損傷には、心筋への血流減少によって引き起こされる損傷が含まれる。心筋虚血および心筋虚血性損傷の原因の限定されない例には:大動脈拡張期圧の減少、心室内圧および心筋収縮の増加、冠動脈狭窄(例えば冠動脈結紮、固定冠動脈狭窄、急性の斑変化(例えば破裂、出血)、冠動脈血栓症、血管収縮)、大動脈弁狭窄および逆流、ならびに右心房圧増加が含まれる。虚血はまた、心臓手術、臓器移植、血管形成術、ステント留置、またはその任意の組み合わせによっても引き起こされうる。心筋虚血および心筋虚血損傷の副作用の限定されない例には:筋細胞損傷(例えば筋細胞喪失、筋細胞肥大、筋細胞過形成)、アンギナ(例えば安定狭心症、異形狭心症、不安定狭心症、心臓性突然死)、心筋梗塞、および鬱血性心不全が含まれる。心筋虚血による損傷は、急性または慢性であることも可能であり、そして結果には、瘢痕形成、心臓リモデリング、心肥大、壁厚減少、拡張、および関連機能変化が含まれうる。虚血はまた、本明細書記載の心疾患によって引き起こされうる。例えば、非侵襲性画像撮影(例えばMRI、心エコー)、血管造影術、ストレス試験、心臓トロポニンなどの心臓特異的タンパク質に関するアッセイ、および臨床症状を含む、当該技術分野に周知の多様な方法および技術のいずれかを用いて、急性または慢性心筋損傷および/または心筋虚血の存在および病因を診断することも可能である。これらの方法および技術、ならびに他の適切な技術を用いて、本明細書記載の治療法に関して、どの被験体が適切な候補者かを決定することも可能である。
【0029】
[0044]用語「調節する」によって、本明細書記載の言及する活性いずれかを、例えば、増加させ、増進させ、増加させ、アゴナイズし(アゴニストとして作用し)、または促進することを意味する。調節は、ベースライン値よりも1倍、2倍、3倍、5倍、10倍、100倍以上等で活性を増加させうる。調節はまた、ベースライン値未満に活性を減少させうる。調節はまた、活性をベースライン値に対して規準化させうる。
【0030】
[0045]用語「患者」または「個体」は、本明細書において交換可能に用いられ、そして治療しようとする哺乳動物被験体を指す。いくつかの態様において、患者はヒトである。いくつかの場合、方法を、実験動物において、獣医学的適用において、そして疾患に関する動物モデルの開発において用いてもよく、これには、限定されるわけではないが、マウス、ラット、およびハムスターを含む齧歯類;ならびに霊長類が含まれる。いくつかの態様において、患者は、その必要がある患者である。
【0031】
[0046]本明細書において、句「その必要がある」は、患者が特定の方法または治療に対する必要性を有すると同定されていることを意味する。いくつかの態様において、同定は、任意の診断手段によってもよい。本明細書記載の方法および治療のいずれかにおいて、動物または哺乳動物にその必要がありうる。いくつかの態様において、動物または哺乳動物は、特定の疾患、障害、または状態が蔓延している環境にいるか、またはこうした環境に旅行するであろう。
【0032】
[0047]用語「同系細胞」は、移植またはワクチン接種法において、その細胞株のレシピエント宿主となる動物と、同じ動物種であり、そして大部分の遺伝子型および表現型マーカーに関して同じ遺伝的組成物を有する細胞を指す。これは通常、一卵性双生児から移植される細胞に当てはまるし、または非常に近交系である動物間で移植される細胞に当てはまりうる。
【0033】
[0048]「幹細胞ニッチ」は、幹細胞と相互作用して幹細胞の運命を制御する、その中に幹細胞が見いだされる微小環境を指す(例えば、Kendall Powell, Nature 435, 268-270(2005)を参照されたい)。単語「ニッチ」は、in vivoまたはin vitro幹細胞微小環境に関してもよい。胚発生中、多様なニッチ因子が胚性幹細胞に対して作用して、遺伝子発現を改変し、そして胎児の発生のため、幹細胞の増殖または分化を誘導する。ヒト体内で、幹細胞ニッチは、静止状態で成人幹細胞を維持するが、組織傷害後、周囲の微小環境が幹細胞に活発にシグナルを伝達して、自己再生または分化のいずれかを促進して、新規組織を形成させる。ニッチ内の幹細胞特性を制御するには、いくつかの要因が重要である:幹細胞間の細胞-細胞相互作用、ならびに幹細胞および隣接する分化した細胞の間の相互作用、幹細胞および接着分子の間の相互作用、細胞外マトリックス構成要素、酸素分圧、増殖因子、サイトカイン、ならびにpH、イオン強度(例えばCa2+濃度)、ATPのような代謝産物を含む環境の物理化学的性質もまた重要である。幹細胞およびニッチは、発生中に互いに誘導し、そして成体期には相互にシグナル伝達して、互いを維持することも可能である。ニッチはまた、組織生成、維持および修復に、これらがどのように関与するかを制御する、特定の解剖学的位置も指す。ニッチは、幹細胞を枯渇から守る一方、行き過ぎた幹細胞過剰増殖から宿主を保護する。これは組織生理の基本的な単位を構成し、生物の必要に対する幹細胞のバランスが取れた反応を仲介するようにシグナルを統合する。それでもなおニッチはまた、幹細胞または他のターゲットに異常な機能を課すことによって、病態を誘導することも可能である。幹細胞およびそのニッチの間の相互作用は、組織を維持するために必要な、そして幹細胞療法の最終的な設計のための動的な系を生成する。
【0034】
[0049]「治療」は、障害の発展を防止するか、あるいはその病態または症状を改変する意図で行われる介入である。したがって、「治療」は、療法的治療、あるいは予防的または防止的手段を指すことも可能である。いくつかの態様において、治療は療法的治療のためのものである。いくつかの態様において、治療は、予防的または防止的治療のためのものである。治療が必要なものには、障害をすでに有するもの、ならびに障害を防止しようとするものが含まれることも可能である。本明細書において、「寛解」または「治療」は、正常化された値(例えば健康な患者または個体で得られる値)に近づいた、例えばルーチンの統計検定を用いて決定した際に、正常化された値から50%未満異なるか、正常化された値から25%未満異なるか、正常化された値から10%未満異なるか、または正常化された値から有意には異ならない症状を指す。
【0035】
[0050]一般的に言って、用語「組織」は、特定の機能を実行する際に結びつけられている、類似の特殊化された細胞のいかなる凝集も指す。
[0051]本明細書において、用語「療法剤」は、患者の望ましくない状態、疾患または症状を阻止するか、これらと闘うか、これらを寛解するか、防止するかまたは改善するために利用される剤を意味する。
【0036】
[0052]剤または細胞の「療法的有効量」または「有効量」は、望ましい効果を達成するため、すなわち患者の望ましくない状態、疾患または症状を寛解させるか、防止するかまたは改善するための計算されたあらかじめ決定された量である。本発明の方法によって意図される活性には、適切なように、療法的および/または予防的治療の両方が含まれる。療法および/または予防的効果を得るために、本明細書記載の方法にしたがって投与される細胞/剤の特定の用量は、もちろん、例えば投与される細胞/剤、投与経路、および治療しようとする状態を含む、症例を取り巻く特定の状況によって決定されるであろう。投与される有効量は、治療しようとする状態、投与しようとする細胞/剤の選択、および選択する投与経路を考慮して、医師によって決定されうる。細胞/剤の療法的有効量は、典型的には、生理学的に許容されうる賦形剤組成物中で投与された際、有効全身濃度またはターゲット組織における局所濃度を達成するのに十分であるような量である。細胞はまた、賦形剤なしで投与されることも可能である。
【0037】
[0053]本明細書において、用語「幹細胞」は、特定の状態下で、長期間、または成体幹細胞の場合は生物の生涯を通じて、それ自身を再生する能力を有する、胚、胎児、または成体由来の細胞を指す。これはまた、体の組織および臓器を構成する特殊化細胞を生じさせることも可能である。
【0038】
[0054]本明細書において、用語「多能性幹細胞」は、体のすべての細胞が生じる三胚葉(中胚葉、内胚葉および外胚葉)から発展する細胞のタイプを生じさせる能力を有する細胞を指す。ヒト多能性幹細胞の唯一の既知の供給源は、初期ヒト胚から、そして生殖腺の部分であるように運命づけられた胎児組織から単離され、そして培養されるものである。
【0039】
[0055]本明細書において、用語「胚性幹細胞」は、胚盤胞と呼ばれる初期(4~5日齢)胚の部分である内部細胞塊と呼ばれる細胞群に由来する細胞を指す。ひとたび胚盤胞から取り除かれると、内部細胞塊の細胞は、培養して胚性幹細胞にすることも可能である。これらの胚性幹細胞はそれ自体、胚ではない。
【0040】
[0056]細胞は、本明細書において、特定のマーカーに関して陽性または陰性であると称される。例えば、細胞は、GATAに関して陽性であることも可能であり、これはまた、GATA陽性と称されうる。上付き文字表記「陽性」は、上付き文字に連結されたマーカーに関して陽性である細胞を指す。対照的に、上付き文字「陰性」を伴うマーカーは、そのマーカーに関して陰性である細胞を指す。例えば、「ARF陰性」と称される細胞は、ARFに関して陰性である。「+」もまた、そのマーカーを陽性と称するために使用可能である。「-」もまた、マーカーを陰性と称するために使用可能である。
【0041】
[0057]本明細書において、用語「成体幹細胞」は、分化した(特殊化された)組織に存在し、それ自体を再生し、そして適切な組織にトランスファーされた際に、配置された組織の特殊化された細胞タイプのすべてを生じるように特殊化されるようになる、非分化(非特殊化)細胞を指す。成体幹細胞は、生物の生涯に渡って、それ自体の同一コピーを作製することが可能である。この特性は、「自己再生」と称される。成体幹細胞は、通常、分裂して、前駆体または前駆細胞を生成し、これはその後、特徴的な形状および特殊化された機能、例えば筋細胞収縮または神経細胞シグナル伝達を有する「成熟」細胞タイプに分化するかまたは発展する。成体幹細胞の供給源には、骨髄、血液、目の角膜および網膜、脳、骨格筋、歯髄、肝臓、皮膚、胃腸管の裏打ち、ならびに膵臓が含まれる。
【0042】
[0058]本明細書において、用語「全能性細胞」は、すべての細胞系譜に発展することが可能な細胞を指す。同様に、用語「全能性細胞集団」は、すべての細胞系譜に発展することが可能な細胞の組成物を指す。また、本明細書において、用語「多能性細胞」は、多様な(たとえすべてではなくても)細胞系譜に発展することが可能な細胞を指し、そして少なくともすべての造血細胞系譜(例えばリンパ、赤血球、および血小板系譜)に発展可能な細胞を指す。骨髄由来幹細胞は、2つのよく特徴付けられるタイプの幹細胞を含有する。間葉系幹細胞(MSC)は、通常、軟骨細胞および骨芽細胞を形成する。造血幹細胞(HSC)は中胚葉起源であり、通常、血液および免疫系の細胞(例えば赤血球、顆粒球/マクロファージ、巨核球およびリンパ細胞系譜)を生じさせる。さらに、造血幹細胞はまた、肝臓(肝細胞、胆管細胞を含む)、肺、腎臓(例えば尿細管上皮細胞および腎実質)、胃腸管、骨格筋線維、CNSの星状細胞、プルキニエ・ニューロン、心筋(例えば心筋細胞)、内皮および皮膚の細胞に分化する潜在能力を有することもまた示されてきている。
【0043】
[0059]用語「異種細胞」は、移植またはワクチン接種法において、レシピエント動物宿主になる動物種とは異なる動物種に由来する細胞を指す。
[0060]本明細書に開示するいくつかの態様は、心臓細胞の投与を含んでもよい治療に反応した心臓再生を予測するマーカーに関する。本明細書に記載する態様の前には、患者の心臓細胞が、治療後に再生するかどうかは知られておらず、これは成体哺乳動物心臓における内因性細胞複製の根底にある機構がこれまでは未知であったためである。
【0044】
[0061]網膜芽細胞腫タンパク質(Rb)は、網膜芽細胞腫感受性遺伝子の腫瘍抑制因子産物であり、細胞増殖および分化を制御する際に重要な役割を果たす110kDaタンパク質である。腫瘍抑制因子としてのRbタンパク質の役割の中心となるのは、Rbが、細胞周期のG1期において、細胞を抑止することによって、不適切な増殖を抑制する能力である。Rbタンパク質は、E2F-1、PU.1、ATF-2、UBF、Elf-1、およびc-Ablを含む転写因子に結合することによって、増殖抑制機能を発揮する。Rbタンパク質の結合は、そのリン酸化状態によって支配される。Rbの低または過少リン酸化型は、転写因子、最も顕著には、E2F/DPファミリーの転写因子に結合し、そしてこれらを隔離して、細胞周期のG1~S期への境界を横断するのに必要な遺伝子の転写を阻害する。この細胞周期阻害機構は、Rbがサイクリンおよびサイクリン依存性タンパク質キナーゼ(cdk)の特定の複合体によって触媒されるリン酸化を経る際に、撤廃される。さらに、Rbはまた、非cdk、例えばMAPキナーゼ、p38キナーゼ、JNK1、非定型プロテインキナーゼC、アポトーシスシグナル等によってリン酸化される。したがって、Rbのリン酸化は、その機能の阻害を生じる。
【0045】
[0062]INK4a/ARF遺伝子座は、代替であるが、部分的に重複する読み枠由来の2つの関連しないタンパク質:(i)p16Ink4aおよび(ii)ARF(ヒトにおけるp14ARFおよびマウスにおけるp19ARF)をコードすることが示されてきている。ARFは、正常細胞条件下でp53発現を維持する、p53および二重微小2(ヒトにおけるHdm2、マウスにおけるMdm2)に関与する自動制御ループに干渉することによって、p53を安定化する。Mdm2はp53に結合し、そしてp53のトランス活性化機能を阻害することが知られる。さらに、Mdm2はp53を核から細胞質へと往復させ、そしてp53分解を促進する。さらに、Mdm2はまた、ユビキチン依存性26Sプロテアソーム経路内で、p53に向かうE3ユビキチン・リガーゼとしても作用する。したがって、Mdm2は、多数のおよび多様な機構を通じて、核におけるp53活性を阻害する。ARFは次に、Mdm2活性を阻害し、そしてp53レベルおよび機能を回復する。ARFの喪失は、p53レベル/機能の減少を生じ、細胞周期進行を導く。
【0046】
[0063]骨髄由来の幹細胞は、成体幹細胞の最もよく研究されたタイプである。これらを臨床的に用いて、移植を通じて、多様な血液および免疫構成要素を骨髄に戻すことも可能である。現在同定されている骨髄に見られる幹細胞には2つの主要なタイプ:典型的には血液および免疫細胞を形成すると見なされる造血幹細胞(HSC、またはCD34+細胞)、ならびに典型的には、骨、軟骨、筋肉および脂肪を形成すると見なされる間質(間葉系)幹細胞(MSC)がある。しかし、どちらのタイプの骨髄由来幹細胞も、最近、同じ組織を形成する能力の広範な可塑性および多分化能を示した。
【0047】
[0064]「前駆体または前駆」細胞は、胎児または成体組織中に存在し、そして部分的に特殊化されている;該細胞は分裂し、そして分化した細胞を生じさせる。研究者らは、幹細胞が分裂した際;2つの新規細胞の一方がしばしばそれ自体再び複製することが可能な幹細胞である点で、しばしば成体幹細胞と前駆体/前駆細胞を区別する。前駆体/前駆細胞が分裂する際とは対照的に、さらなる前駆体/前駆細胞を形成することも可能であるし、または2つの特殊化細胞を形成することも可能である。前駆体/前駆細胞は、損傷を受けたかまたは死んだ細胞を置き換えて、こうして肝臓または脳などの組織の完全性および機能を維持することも可能である。
【0048】
[0065]間葉系幹細胞は、とりわけ、骨髄、血液、真皮および骨膜に見られる形成性の多能性芽細胞であり、生物活性因子、例えばサイトカインからの多様な影響に応じて、間葉系または結合組織(すなわち特殊化された要素;特に脂肪性、骨性、軟骨性、弾性、および繊維性結合組織を支持する体組織)の特定のタイプのいずれかに分化することが可能である。
【0049】
[0066]間葉系幹細胞を単離し、そして/または精製する特定の方法が記載されてきている。いくつかの態様において、間葉系幹細胞は、成体患者の骨髄から単離される。いくつかの態様において、細胞を、密度勾配に通過させて、望ましくない細胞タイプを除去する。細胞を適切な培地に入れ、そして培養することも可能である。いくつかの態様において、細胞を少なくとも1日、または約3~約7日培養し、そして非接着細胞を除去する。次いで、接着細胞をプレーティングし、そして増殖させてもよい。
【0050】
[0067]有用な幹細胞を単離し、そして培養するための他の方法もまた知られる。臍帯血は、造血幹細胞の豊富な供給源である。臍帯血から得られた幹細胞および骨髄または末梢血から得られたものは、移植使用に関して、非常に類似であるように見える。胎盤は、間葉系幹細胞の容易に入手可能な優れた供給源である。さらに、間葉系幹細胞は、脂肪組織および骨髄間質細胞から得られることも可能であり、そして他の組織に存在すると推測されうる。成体幹細胞が得られうる臓器において劇的な定性的および定量的な相違がある一方、細胞間の最初の相違は、比較的表面的であり、そしてこれらが示す類似の範囲の可塑性によって平衡が取れている可能性もある。
【0051】
[0068]すべての間葉系細胞系譜の前駆体として働く均質なヒト間葉系幹細胞組成物を提供する。MSCは、ユニークなモノクローナル抗体で同定される特異的細胞表面マーカーによって同定される。造血細胞または分化した間葉系細胞のいずれかと関連するマーカーを含まない、接着性骨髄または骨膜細胞の陽性選択によって、均質なMSC組成物が得られる。これらの単離された間葉系細胞集団は、間葉系幹細胞のみと関連するエピトープ特性を示し、分化することなく、培養中で再生する能力を有し、そしてin vitroで誘導されるか、またはin vivoで損傷を受けた組織部位に配置されるかいずれかの際、特定の間葉系細胞系譜に分化する能力を有する。
【0052】
[0069]本ヒト間葉系幹細胞を得るため、多能性間葉系幹細胞を骨髄または他のMSC供給源において他の細胞から分離する。骨髄細胞を腸骨稜、大腿部、脛骨、脊椎、肋骨または他の髄質空間から得てもよい。ヒト間葉系幹細胞の他の供給源には、胚性卵黄嚢、胎盤、臍帯、胎児および青年期皮膚、ならびに血液が含まれる。
【0053】
[0070]いくつかの態様において、間葉系幹細胞は:自己、異種、同系、同種、または異種供給源を含む1またはそれより多い供給源より得られる。これらの供給源には、細胞株が含まれてもよい。本明細書において、「供給源」は、ヒトを含めて、幹細胞が得られる動物を指す。
【0054】
[0071]間葉系幹細胞の心臓細胞系譜への分化は、心臓環境に存在する要因によって調節される。局所化学的、電気的および機械的環境の影響は、多能性MSCを改変し、そして心臓に投与される細胞を心臓細胞系譜に変換する。
【0055】
[0072]いくつかの態様において、心臓幹細胞は:c-kit陽性、CD3陰性、CD14陰性およびCD68陰性を含むマーカーによって同定される。いくつかの他の態様において、細胞は、本明細書に記載するようなマーカーの存在または非存在によって同定される。
【0056】
[0073]本明細書に開示するのは、心臓前駆細胞を同定し、そして単離する方法である。理論によって束縛されることは望ましくないが、リン酸化Rb(pRb)活性は、細胞療法に対する宿主反応において、内因性細胞増殖および運命の拘束を支配する。本明細書に記載する態様は、間葉系幹細胞(MSC)および心臓幹細胞(CSC)の間の相互作用が、pRbおよびInk4aの代替読み枠(ARF)が心臓再生を制御することに関して、宿主心筋を許容性にすることを示す。さらに、同定されるのは、複製中の筋細胞、分化中の前駆体、および内因性再生細胞供給源としての一過性増幅前駆体のプールであった。これらの機構は、成体哺乳動物幹細胞ニッチの重要な特徴を再現し、そしてしたがって、哺乳動物心臓の再生レパートリーにおける幹細胞ニッチの役割を支持する。
【0057】
[0074]新規細胞タイプを生成し、そして同定した。以下の実施例セクションにおいて、いくつかの態様を提供する。いくつかの態様において、新規細胞は、通常の心筋細胞よりもより広い増殖潜在能力を持つ、一過性増幅再生心筋細胞と同定される特性を含む。さらに、形態計測分析は、これらの新規に形成された心筋細胞の横断面面積が、プラセボ処置群における心筋細胞に比較して有意に低いことを例示し(p<0.05)、宿主CPCの一過性増幅性子孫である証拠を提供する(例えば
図7を参照されたい)。pRb
Ser608の量は、有糸分裂中の心筋細胞の数と有意に相関し(
図8A)、hMSC/hCSC相互作用がpRb
Ser608不活性化を誘導し、そして続いて心筋細胞の細胞周期活性の制御を誘導するという結論をさらに支持する。いくつかの態様において、単離される細胞マーカー:HP3
+、pRb
Ser608+およびGata4
+を含む。いくつかの態様において、単離される細胞はARF陰性である。いくつかの態様において、細胞は哺乳動物細胞である。
【0058】
[0075]いくつかの態様において、心筋細胞集団から再生心筋細胞を単離する方法は、ホスホ-Rb陽性、Gata4陽性、ARF陰性、N-カドヘリン陽性、コネキシン-43陽性、Isl1陽性、Wt1陽性、CDK2陽性、CDK4陽性、CDK6陽性、E2F陽性、ホスホ-p107陽性、ホスホ-p130陽性、CCNA陽性、CCND1陽性、CCND2陽性、CCND3陽性、CCNE陽性、CDKN1a陰性、CDKN1b陰性、CDKN1c陰性、CDKN2a陰性、CDKN2b陰性、CDKN2c陰性、CDKN3陰性、c-kit陽性、CD3陰性、CD14陰性、CD68陰性、Nkx2.5陽性、MITF陽性、MEF2c陽性、およびその任意の組み合わせより選択される少なくとも1つのマーカーに関して陽性である細胞として、集団中の再生心筋細胞を同定し;そして同定された再生心筋細胞を単離することを含むことも可能である。いくつかの態様において、心筋細胞集団は、成熟した心筋細胞を含有する。
【0059】
[0076]いくつかの態様において、ホスホ-Rb陽性である心筋細胞は再生心筋細胞と同定される。いくつかの態様において、ホスホ-Rb陽性およびGata4陽性である心筋細胞は再生心筋細胞と同定される。いくつかの態様において、ホスホ-Rb陽性およびARF陰性である心筋細胞は再生心筋細胞と同定される。いくつかの態様において、ホスホ-Rb陽性、Gata4陽性、およびARF陰性である心筋細胞は再生心筋細胞と同定される。いくつかの態様において、上述のマーカーの存在に加えて、N-カドヘリン陽性、コネキシン-43陽性、Isl1陽性、Wt1陽性、CDK2陽性、CDK4陽性、CDK6陽性、E2F陽性、ホスホ-p107陽性、ホスホ-p130陽性、CCNA陽性、CCND1陽性、CCND2陽性、CCND3陽性、CCNE陽性、CDKN1a陰性、CDKN1b陰性、CDKN1c陰性、CDKN2a陰性、CDKN2b陰性、CDKN2c陰性、CDKN3陰性、c-kit陽性、CD3陰性、CD14陰性、CD68陰性、Nkx2.5陽性、MITF陽性、MEF2c陽性からなる群より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、または少なくとも5つのさらなるマーカーを有する心筋細胞が、再生心筋細胞として同定される。いくつかの態様において、すべてのマーカーを有する心筋細胞が、再生心筋細胞として同定される。
【0060】
[0077]いくつかの態様において、同定される再生心筋細胞を単離する工程は、当該技術分野の任意の既知の技術によって実行可能であり、これには例えば、限定されるわけではないが、蛍光補助細胞ソーター(FACS)、レーザー走査型サイトメトリー、蛍光顕微鏡検査、RT-PCR、DNAハイブリダイゼーション、蛍光in situハイブリダイゼーション、質量分析、マイクロアレイ、免疫組織化学、または任意のその組み合わせがある。単離法は重大ではなく、そして単離が本明細書記載のマーカーの存在または非存在を利用する限り、任意の方法を使用してもよい。
【0061】
[0078]本明細書にやはり開示するのは、再生細胞を生成する方法である。いくつかの態様において、再生細胞を生成する方法は、間葉系幹細胞(MSC)、心臓幹細胞(CSC)またはMSCおよびCSCの組み合わせをin vitroで共培養するか、あるいは間葉系幹細胞(MSC)、心臓幹細胞(CSC)またはMSCおよびCSCの組み合わせでの治療の必要がある被験体に投与することを含む。いくつかの態様において、再生細胞は、マーカーHP3+/pRbSer608+/Gata4+// ARF陰性によって同定される表現型を含む。いくつかの態様において、再生細胞は、マーカーpRbSer608+、Gata4+、およびARF-によって同定される表現型を含む。いくつかの態様において、前駆細胞は、間葉系幹細胞(MSC)および心臓幹細胞(CSC)をin vitroまたはin vivoで共培養するプロセスによって形成されることも可能であり、ここで、前駆細胞は、リン酸化網膜芽細胞腫セリン608(pRbSer608)および/またはGata4(Gata4+)に関して陽性であるマーカーによって同定される表現型を含む。前駆細胞は、心臓前駆細胞(CPC)であってもよい。いくつかの態様において、前駆細胞はARF陰性であってもよい。
【0062】
[0079]Gata-4は心筋細胞マーカーとして使用可能である。GATA転写因子には、ジンクフィンガー転写因子のGATAファミリーのメンバーが含まれる。GATA転写因子は、いくつかの中胚葉由来細胞系譜の発展に関与する。GATA転写因子には、GATA-4および/またはGATA-6が含まれる。GATA-6およびGATA-4タンパク質は、タンパク質のアミノ末端でのプロリン-リッチ領域に渡って、他のGATAファミリーメンバーでは保存されない、高レベルのアミノ酸配列同一性を共有する。
【0063】
[0080]さらなる心筋細胞特異的タンパク質の発現検出は、例えば、ミオシン重鎖モノクローナル抗体MF20(MF20)、筋小胞体カルシウムATPアーゼ(SERCA1)に対する抗体(mnAb 10D1)を用いることによって、またはコネキシン43に対する抗体を用いるギャップジャンクションによって達成可能である。心筋細胞に対する他のマーカーは、心臓トロポニンI(cTnI)、心臓トロポニンT(cTnT)、筋節ミオシン重鎖(MHC)、GATA-4、Nkx2.5、N-カドヘリン、β1-アドレノセプターβ1-AR、ANF、転写因子のMEF-2ファミリー、クレアチニンキナーゼMB(CK-MB)、ミオグロビン、または心房性ナトリウム利尿因子(ANF)を含む。また、抗体を用いて、本明細書記載のマーカーのいずれかまたはすべてを検出することも可能である。
【0064】
[0081]本明細書にやはり開示するのは、再生前駆細胞を単離する方法である。いくつかの態様において、心臓細胞集団から心臓前駆細胞を単離する方法は、リン酸化網膜芽細胞腫タンパク質を含む細胞として、集団中の心臓前駆細胞を同定し;そして同定された心臓前駆細胞を単離することを含むことも可能である。いくつかの態様において、心臓前駆細胞は、リン酸化Rbを検出する剤と心臓細胞集団を接触させることによって同定される。いくつかの態様において、剤は、高リン酸化Rbを検出可能である。いくつかの態様において、剤は、Ser-249、Thr-252、Thr-373、Thr-356、Ser-608、Ser-780、Ser-795、Ser-807、Ser-811、Thr-821、およびThr-826を含む、16の推定上のリン酸化セリンまたはスレオニン残基のいずれを検出してもよい。いくつかの態様において、Rbは、Ser-608でリン酸化される。いくつかの態様において、リン酸化Rbを検出する剤は、抗体であることも可能である。リン酸化Rbに対する抗体は当該技術分野に知られ、そして任意のこうした抗体が使用可能である。例えば、リン酸化Ser608でRbに結合する抗体が使用可能である。
【0065】
[0082]いくつかの態様において、リン酸化網膜芽細胞腫タンパク質によって同定される単離された心臓前駆細胞はまた、Gata4に関して陽性である(Gata4+)。いくつかの態様において、リン酸化網膜芽細胞腫タンパク質によって同定される単離された心臓前駆細胞はまた、ARFに関して陰性である(ARF-)。いくつかの態様において、リン酸化網膜芽細胞腫タンパク質によって同定される単離された心臓前駆細胞はまた、Gata4に関して陽性であり(Gata4+)、そしてARFに関して陰性である(ARF-)。
【0066】
[0083]いくつかの態様において、本明細書記載の剤または抗体は、検出可能標識、例えば発色団、フルオロフォア、化学発光化合物、酵素、金属イオン、およびその任意の組み合わせをさらに含むことも可能である。いくつかの態様において、一次抗pRb抗体を特異的に認識する二次抗体を用いてもよい。二次抗体は、検出可能標識、例えば、ペルオキシダーゼ(例えば西洋ワサビ(horseradish)または大豆(soybean)ペルオキシダーゼ)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、キレート化ランタニド、ビオチン、放射標識、発色団、フルオロフォア等にコンジュゲート化されていてもよい。用語「標識」は、プローブまたは抗体に関して、検出可能な物質をプローブまたは抗体にカップリングさせる、すなわち物理的に連結することによる、プローブまたは抗体の直接標識、ならびに直接標識されている別の試薬との反応性によるプローブまたは抗体の間接的標識もまた含むことも可能である。間接的標識の例には、蛍光標識二次抗体を用いた一次抗体の検出、および蛍光標識されたストレプトアビジンで検出可能であるようなビオチンでのDNAプローブの末端標識が含まれる。
【0067】
[0084]ひとたびリン酸化Rbを発現している心臓前駆細胞が同定されたら、同定された細胞を、細胞の残りの集団からソーティングすることも可能である。使用可能なソーティング技術の限定されない例は、蛍光補助細胞ソーター(FACS)、蛍光プレート読み取り装置、レーザー走査型サイトメーター、蛍光顕微鏡、またはその任意の組み合わせである。単離された心臓前駆細胞は、Gata4に関して陽性(Gata4+)であり、そして/またはARFに関して陰性(ARF-)であることも可能である。
【0068】
[0085]いくつかの態様において、本明細書記載の単離された心臓前駆細胞を、こうした投与が必要な被験体に投与してもよい。例えば、被験体は、心臓疾患、心臓障害、例えば虚血を有してもよい。理論によって束縛されることは望ましくないが、投与された心臓前駆細胞は、傷害部位で成熟心筋細胞に分化し、そして心臓組織が治癒するのを補助することも可能である。心臓疾患の例には、限定されるわけではないが、心臓血管疾患、心筋症、心筋気絶、末梢血管疾患、間欠性跛行、頻脈、虚血-再灌流、心筋梗塞、急性腎不全、脳卒中、低血圧、塞栓症、血栓塞栓症(血餅)、鎌状赤血球病、体に向かう四肢への限局性の圧力、腫瘍、およびその任意の組み合わせが含まれる。
【0069】
[0086]いくつかの態様において、心臓細胞集団から心臓前駆細胞を単離する方法は、ホスホ-Rb陽性、Gata4陽性、ARF陰性、およびその任意の組み合わせより選択される少なくとも1つのマーカーに関して陽性である細胞として、集団中の心臓前駆細胞を同定し;そして同定された心臓前駆細胞を単離する工程を含んでもよい。いくつかの態様において、ホスホ-Rb陽性およびGata4に関して陽性である細胞は心臓前駆細胞と同定される。いくつかの態様において、ホスホ-Rb陽性に関して陽性であり、そしてARFに関して陰性である細胞は、心臓前駆細胞と同定される。いくつかの態様において、Gata4に関して陽性であり、そしてARFに関して陰性である細胞は、心臓前駆細胞と同定される。いくつかの態様において、ホスホ-Rb陽性およびGata4に関して陽性であり、そしてARFに関して陰性である細胞は、心臓前駆細胞と同定される。いくつかの態様において、同定される心臓前駆細胞は、N-カドヘリン陽性、コネキシン-43陽性、Isl1陽性、Wt1陽性、CDK2陽性、CDK4陽性、CDK6陽性、E2F陽性、ホスホ-p107陽性、ホスホ-p130陽性、CCNA陽性、CCND1陽性、CCND2陽性、CCND3陽性、CCNE陽性、c-kit陽性、CD3陰性、CD14陰性、CD68陰性、Nkx2.5陽性、MITF陽性、MEF2c陽性、またはその任意の組み合わせである。
【0070】
[0087]いくつかの態様において、単離された心臓前駆細胞はまた、以下のマーカーを有することも可能である:N-カドヘリン陽性、コネキシン-43陽性、Isl1陽性、Wt1陽性、CDK2陽性、CDK4陽性、CDK6陽性、E2F陽性、ホスホ-p107陽性、ホスホ-p130陽性、CCNA陽性、CCND1陽性、CCND2陽性、CCND3陽性、CCNE陽性、c-kit陽性、CD3陰性、CD14陰性、CD68陰性、Nkx2.5陽性、MITF陽性、MEF2c陽性、またはその任意の組み合わせ。マーカーの陰性発現は、非前駆細胞と比較した際、前駆細胞におけるタンパク質またはmRNAの発現レベルが、相対的に低いかまたは欠けていることを意味する。本明細書記載のマーカーは、当該技術分野の任意の既知の技術によって同定可能であり、これには例えば、限定されるわけではないが、蛍光補助細胞ソーター(FACS)、レーザー走査型サイトメトリー、蛍光顕微鏡検査、RT-PCR、DNAハイブリダイゼーション、蛍光in situハイブリダイゼーション、質量分析、マイクロアレイ、免疫組織化学、および任意のその組み合わせがある。細胞はまた、限定されるわけではないが、細胞ソーティングを含む、任意の既知の方法によって単離可能である。
【0071】
[0088]いくつかの態様において、方法はさらに、同定される心臓前駆細胞を単離する前に、N-カドヘリン陽性、コネキシン-43陽性、Isl1陽性、Wt1陽性、CDK2陽性、CDK4陽性、CDK6陽性、E2F陽性、ホスホ-p107陽性、ホスホ-p130陽性、CCNA陽性、CCND1陽性、CCND2陽性、CCND3陽性、CCNE陽性、c-kit陽性、CD3陰性、CD14陰性、CD68陰性、Nkx2.5陽性、MITF陽性、MEF2c陽性、またはその任意の組み合わせである細胞を同定することを含む。
【0072】
[0089]さらなる態様において、組成物は、本明細書記載の方法にしたがって得られる心臓前駆細胞の単離された集団を含むことも可能である。
[0090]いくつかの態様において、心臓細胞集団から心臓前駆細胞を単離する方法は、心臓細胞内に、レポータータンパク質およびRbの阻害剤をコードする核酸配列を導入し;レポータータンパク質を発現する細胞をスクリーニングし;そしてレポータータンパク質を発現している細胞を単離することを含むことも可能であり、ここで、単離された細胞は、レポータータンパク質を発現しない細胞に比較した際、Rbタンパク質レベルの減少を含む。いくつかの態様において、レポータータンパク質および阻害剤は、異なるDNA分子によってコードされてもよい。いくつかの態様において、レポータータンパク質および阻害剤は、単一のDNA分子によってコードされてもよい。心臓細胞内に導入される核酸は、プラスミド、ベクター、またはDNA断片であってもよい。いくつかの態様において、ベクターは、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、または遺伝子操作において慣用的に用いられる任意の別のベクターであってもよい。
【0073】
[0091]いくつかの態様において、レポータータンパク質は、緑色蛍光タンパク質(GFP)、増進緑色蛍光タンパク質(EGFP)、増進黄色蛍光タンパク質(EYFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、増進青色蛍光タンパク質(EBFP)、または増進シアン蛍光タンパク質(ECFP)であってもよい。さらに、核酸配列中のレポータータンパク質の存在は、阻害剤を発現する細胞をトラッキングする利点を有する。
【0074】
[0092]いくつかの態様において、Rb阻害剤は、RNA干渉(RNAi)分子、例えば小分子干渉RNA(siRNA)、小分子ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、miRNAおよびshRNAのハイブリッド、ならびにアンチセンスRNAであることも可能である。小分子ヘアピンRNA分子の構造および機能は、当業者に周知である。小分子ヘアピンRNAは、RNA干渉と呼ばれるプロセスにおいて、遺伝子ノックダウンを仲介することが可能である。細胞において、ひとたびshRNA分子が転写されたら、RNアーゼIII様酵素(ダイサー)によって二本鎖小分子干渉RNA(siRNA)に切断され、そしてループ構造を失う。ATP依存性工程において、siRNAは、一般的にRNAi誘導性サイレンシング複合体(RISC)として知られる多サブユニットタンパク質複合体に組み込まれ、該複合体がsiRNAをターゲットRNA配列に導く。組み込み期中のある時点で、siRNA二重鎖が巻き戻され、そしてアンチセンス鎖がRISCに結合したままであり、そしてエンドおよびエキソヌクレアーゼの組み合わせによって、相補mRNAの分解を導く。
【0075】
[0093]例えばトランスフェクション、ウイルス形質導入、エレクトロポレーション等の、当該技術分野に知られる任意の技術によって、核酸配列を心臓細胞内に導入することも可能である。いくつかの態様において、核酸配列は、レンチウイルス構築物、レトロウイルス構築物、アデノウイルス構築物、または当該技術分野でルーチンに用いられる任意の他のプラスミド構築物の部分であってもよい。いくつかの態様において、shRNA分子の制御された発現を可能にし、そしてしたがって、発現を、組織特異的および/または時間依存性方式で作動させて、ターゲット遺伝子のノックダウンを導くことが可能である、条件付きベクターを使用してもよい。制御は、例えば、ポリメラーゼIIIプロモーター中の人工的制御配列に対して作用する、ドキシサイクリンまたはテトラサイクリンのような誘導化合物を用いることによって達成されてもよい。
【0076】
[0094]ひとたび、レポータータンパク質を発現する心臓前駆細胞が同定されたら、同定された細胞を細胞集団からソーティングすることも可能である。使用可能なソーティング技術の限定されない例は、蛍光補助細胞ソーター(FACS)、蛍光プレート読み取り装置、レーザー走査型サイトメーター、蛍光顕微鏡、またはその任意の組み合わせである。単離された細胞を、さらに、Rbタンパク質の発現レベルを検出するアッセイによって確認することも可能である。こうしたアッセイは、ウェスタンブロッティング、RT-PCR、ELISA、免疫組織化学等であってもよい。さらに、単離された心臓前駆細胞はまた、Gata4に関して陽性(Gata4+)であり、そしてARFに関して陰性(ARF-)であることも可能である。
【0077】
[0095]本明細書に開示するのはまた、心臓疾患を有する被験体を治療する方法である。不十分な心臓機能によって特徴付けられる心臓疾患(心臓損傷または障害)には、正常な心臓機能の障害または欠如、あるいは異常な心臓機能の存在のいずれも含まれる。異常な心臓機能は、疾患、傷害、および/または加齢の結果であることも可能である。本明細書において、異常な心臓機能には、心筋細胞、心筋細胞集団または心臓自体の、形態学的および/または機能的異常が含まれる。形態学的および機能的異常の限定されない例には、心筋細胞の物理的劣化および/または細胞死、心筋細胞の異常な増殖パターン、心筋細胞間の物理的連結の異常、心筋細胞による単数または複数の物質の過少または過剰産生、心筋細胞が通常産生している単数または複数の物質の産生の失敗、および異常なパターンまたは異常な時点での電気インパルスの伝達が含まれる。より大規模なレベルでの異常には、ジスキネジア、駆出率減少、心エコーによって観察されるような変化(例えば拡張)、EKGにおける変化、運動負荷における変化、毛細管灌流減少、および血管造影術によって観察されるような変化が含まれる。例えば、虚血性心疾患、例えば狭心症、心筋梗塞、慢性虚血性心疾患、高血圧性心疾患、肺心臓疾患(肺性心)、心臓弁膜症、例えばリウマチ熱、僧帽弁逸脱、僧帽弁輪石灰化、カルチノイド心疾患、感染性心内膜炎、鬱血性心疾患、心筋疾患、例えば心筋炎、拡張性心筋症、高血圧性心筋症、鬱血性心不全を生じる心臓障害、および心臓の腫瘍、例えば原発性肉腫および続発性腫瘍を含む多くの障害で、異常な心臓機能が見られている。心臓損傷にはまた、創傷、例えばナイフの創傷;生物学的(例えばウイルス;自己免疫疾患)または化学的(例えば化学療法、薬剤)創傷;手術;移植等も含まれる。
【0078】
[0096]いくつかの態様において、治療が必要な被験体において、心臓疾患を治療する方法は、本明細書に開示する心臓前駆細胞の療法的有効量を投与することを含むことも可能である。被験体は、心臓血管疾患、心筋症、心筋気絶、末梢血管疾患、間欠性跛行、頻脈、虚血-再灌流、心筋梗塞、急性腎不全、脳卒中、低血圧、塞栓症、血栓塞栓症(血餅)、鎌状赤血球病、体に向かう四肢への限局性の圧力、腫瘍、およびその組み合わせを患っている可能性もある。心臓疾患はまた、本明細書に記載するような、心臓の形態学的および機能的異常、不十分な心臓機能、および心臓損傷によることも可能である。投与される心臓前駆細胞は、マーカー、例えばGata4を発現し(Gata4+)、そしてARFに関して陰性(ARF-)の表現型を有してもよい。さらに、心臓前駆細胞は、Rbのリン酸化によってRb機能を欠いてもよいし、またはRb発現を欠いていてもよい。
【0079】
[0097]本明細書に開示するのは、虚血を有する被験体を治療する方法である。血液および酸素が欠乏した組織は、虚血性壊死または梗塞を経て、不可逆性の臓器損傷を受ける可能性がある。ひとたび血流および酸素が臓器または組織に戻っても(再灌流)、臓器は直ちには、正常虚血前状態に戻らない。虚血または低酸素組織または臓器を蘇生させるためには、血流の再灌流が必要である。タイムリーな再灌流によって、細胞の救出が容易になり、そして罹患率および死亡率が減少する。しかし、虚血領域の再灌流は、血管収縮を生じる顕著な内皮細胞機能不全、ならびに血小板および白血球活性化による急性免疫反応、オキシダント産生増加、ならびに液体およびタンパク質血管外流出増加を含む、逆説的な機能不全を生じうる。
【0080】
[0098]いくつかの態様において、治療が必要な被験体において、虚血障害を治療する方法は、心臓細胞において、療法的有効量の、網膜芽細胞腫(Rb)および/またはInk4aの代替読み枠(ARF)の機能を阻害する剤を投与することを含むことも可能である。いくつかの態様において、虚血性障害は、心臓手術、臓器移植、血管形成術、ステント留置、またはその任意の組み合わせによって引き起こされる可能性もある。さらに、虚血性障害はまた、心臓血管疾患、心筋症、心筋気絶、末梢血管疾患、間欠性跛行、頻脈、虚血-再灌流、心筋梗塞、急性腎不全、脳卒中、低血圧、塞栓症、血栓塞栓症(血餅)、鎌状赤血球病、体に向かう四肢への限局性の圧力、腫瘍、およびその任意の組み合わせによる可能性もある。
【0081】
[0099]虚血性障害を治療するために使用可能な剤は、Rb機能および/またはARF機能を阻害する剤であることも可能である。こうした阻害は、心筋細胞および/または心臓前駆細胞の細胞周期進行および増殖を生じ、傷害を受けた組織の治癒を生じるであろう。使用可能な限定されない剤は、Rbおよび/またはARF発現を阻害するRNAi分子、例えばsiRNA阻害剤、shRNA阻害剤、またはアンチセンスヌクレオチド阻害剤である。いくつかの態様において、剤はまた、ペプチド擬似体阻害剤、小分子、抗体、Rbをリン酸化するキナーゼ、ARFの転写リプレッサー、またはその任意の組み合わせであることも可能である。
【0082】
[0100]いくつかの態様において、剤はまた、心臓細胞におけるRbのリン酸化を増加させることも可能である。例えば、cdk阻害剤(cip/kipファミリーおよびINK4ファミリー)をターゲットとするRNAi分子は、Rbのリン酸化を増加させ、そしてRb機能を阻害することも可能である。いくつかの態様において、本明細書記載の剤はまた、心臓細胞におけるARFの発現を減少させることも可能である。さらに、剤にはまた、ARFの転写リプレッサー、Mdm2の転写活性化因子、あるいはMdm2発現レベルを増加させるか、p53の発現レベルを減少させるか、またはp53の分解を増加させる剤が含まれてもよい。さらに、剤はまた、cdk4の活性化因子、cdk6の活性化因子、E2Fの活性化因子、非定型プロテインキナーゼCの活性化因子、Skp2の活性化因子、mdm2の活性化因子、MAPキナーゼの活性化因子、またはその任意の組み合わせであることも可能である。当業者は、Rb経路および/またはARF経路を阻害する剤が、心臓前駆細胞の細胞増殖増加を生じ、そして虚血性傷害を治癒させるのを補助しうることを理解するであろう。
【0083】
[0101]本開示は、in vitroまたはin vivoで心臓細胞を再生させるための方法を提供する。いくつかの態様において、方法には、心臓細胞を、網膜芽細胞腫(Rb)、Ink4aの代替読み枠(ARF)タンパク質、またはその任意の組み合わせの機能を阻害する少なくとも1つの剤と、接触させることが含まれる。心臓細胞は、心臓幹細胞(CSC)、心臓前駆細胞(CPC)、心筋細胞、またはその任意の組み合わせを含む。いくつかの態様において、剤は、Rbの機能を阻害する本明細書記載の任意の剤であってもよい。いくつかの態様において、剤は、ARFの機能を阻害する本明細書記載の任意の剤であってもよい。剤の限定されない例には、siRNA阻害剤、shRNA阻害剤、アンチセンスヌクレオチド阻害剤、ペプチド擬似体阻害剤、小分子、抗体、Rbをリン酸化するキナーゼ、ARFの転写リプレッサー、またはその任意の組み合わせであってもよい。さらに、剤にはまた、ARFの転写リプレッサー、Mdm2の転写活性化因子、あるいはMdm2発現レベルを増加させるか、p53の発現レベルを減少させるか、またはp53の分解を増加させる剤も含まれてもよい。さらに、剤はまた、cdk4の活性化因子、cdk6の活性化因子、E2Fの活性化因子、非定型プロテインキナーゼCの活性化因子、Skp2の活性化因子、mdm2の活性化因子、MAPキナーゼの活性化因子、またはその任意の組み合わせであることも可能である。さらに、本明細書記載の剤は、心臓細胞においてRbのリン酸化を増加させ、そして/または心臓細胞においてARFの発現を減少させることも可能である。
【0084】
[0102]別の態様において、in vitroまたはin vivoの心臓細胞を再生させる方法は、in vitroで生物学的試料を接触させるか、あるいは心臓疾患または障害を患う患者に薬学的組成物を投与することを含み、ここで組成物は、網膜芽細胞腫(Rb)およびInk4aの代替読み枠(ARF)の発現、機能または活性を阻害する1またはそれより多い剤を含む。いくつかの態様において、間葉系幹細胞(MSC)、心臓幹細胞(CSC)またはMSCおよびCSCの組み合わせを、場合によって被験体に投与するか、またはin vitroで試料において共培養する。いくつかの態様において、生成される細胞は、マーカー:HP3+/pRbser608+/Gata4+//ARF陰性を有すると同定された表現型を含む。
【0085】
[0103]いくつかの態様において、心臓疾患に関して治療された被験体において、心臓細胞の再生を予測するための方法を提供する。いくつかの態様において、方法は、被験体から心臓細胞を含む生物学的試料を得て;該生物学的試料において、リン酸化網膜芽細胞腫(pRb)レベルを測定し;そしてベースライン対照に対して、生物学的試料中のリン酸化網膜芽細胞腫(pRb)レベルを比較することを含むことも可能であり、ここで、ベースライン対照と比較した際の被験体の生物学的試料中のpRbレベル増加は、被験体において、心臓細胞の再生を予測する。いくつかの態様において、測定は、網膜芽細胞腫タンパク質のSer-608でのリン酸化を測定し、そして定量化することを含むことも可能である。リン酸化網膜芽細胞腫(pRb)レベルは、当該技術分野に知られる任意の技術、例えば免疫組織化学アッセイ、ウェスタンブロットアッセイ、ELISA、生化学的酵素アッセイ、またはその任意の組み合わせによって、定量化されてもよい。いくつかの態様において、心臓細胞は、成熟心筋細胞および/またはGata4陽性(Gata4+)心臓前駆細胞(CPC)であってもよい。pRbser608の量、発現または活性の増加の検出は、被験体において、心臓細胞の再生を予測する。いくつかの態様において、pRbser608は、被験体の心臓の緻密心室壁において検出される。細胞レベルで、pRbser608は、成熟心筋細胞において検出され、そしてGata4+は、成体心臓前駆細胞で検出される。リン酸化の増加は、ベースライン対照と比較した際、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、または200%であることも可能である。ベースライン対照は、例えば、未処置試料におけるリン酸化タンパク質レベルであってもよい。未処置試料は、治療されている患者由来であってもよいし、または別の患者由来であってもよい。さらに、ベースライン対照は、ベースライン対照が複数の患者から得られる平均であるように、未処置試料のプール由来であってもよい。
【0086】
[0104]本開示はまた、被験体を監視し、そして/またはその予後を予測する方法も提供する。いくつかの態様において、心臓疾患に関して治療される被験体を、優れた予後を持つ被験体として同定する方法は、被験体から心臓細胞を含む生物学的試料を得て;生物学的試料において、リン酸化網膜芽細胞腫(pRb)レベルを測定し;そして生物学的試料におけるリン酸化網膜芽細胞腫(pRb)レベルを、ベースライン対照に対して比較することを含むことも可能であり、ここで、ベースライン対照と比較した際の、被験体の生物学的試料におけるpRbレベルの増加は、その被験体が優れた予後を有すると同定する。「優れた予後」は、回復が予期される患者を指す。いくつかの態様において、測定は、網膜芽細胞腫タンパク質のSer608でのリン酸化を測定することを含む。いくつかの態様において、測定は、網膜芽細胞腫タンパク質のSer-608でのリン酸化を測定し、そして定量化することを含むことも可能である。リン酸化網膜芽細胞腫(pRb)レベルは、当該技術分野に知られる任意の技術、例えば免疫組織化学アッセイ、ウェスタンブロットアッセイ、ELISA、生化学的酵素アッセイ、またはその任意の組み合わせによって、定量化されてもよい。いくつかの態様において、心臓細胞は、成熟心筋細胞および/またはGata4陽性(Gata4+)心臓前駆細胞(CPC)であってもよい。いくつかの態様において、被験体を、成体骨髄由来間葉系細胞(MSC)、成体心臓幹細胞(CSC)、またはその任意の組み合わせで治療してもよい。いくつかの態様において、ベースライン対照と比較した際、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、または200%の増加は、優れた予後を予測する。ベースライン対照は、例えば、未処置試料におけるリン酸化タンパク質レベルであってもよい。未処置試料は、治療されている患者由来であってもよいし、または別の患者由来であってもよい。さらに、ベースライン対照は、ベースライン対照が、複数の患者から得られる平均であるように、未処置試料のプール由来であってもよい。
【0087】
[0105]いくつかの態様において、リン酸化Rbタンパク質の存在およびベースライン対照と比較した際の相対量を用いて、限定される訳ではないが、心筋炎、冠動脈心疾患、アンギナ、急性冠動脈症候群、大動脈瘤および大動脈解離、不整脈、心筋症、先天性心疾患、鬱血性心不全または慢性心不全、心膜炎等を含む、本明細書に論じる疾患に関する転帰または予後を予測することも可能である。
【0088】
[0106]別の態様において、治療後の被験体の回復を監視する方法は、幹細胞療法を経ている患者から試料を得て、ベースライン対照と比較した際の網膜芽細胞腫(Rb)の発現、機能または活性を測定することを含み、ここで、網膜芽細胞腫は、アミノ酸位608(pRbser608)で過剰リン酸化セリンを含む。いくつかの態様において、治療は、被験体に:成体骨髄由来間葉系細胞(MSC)、成体心臓幹細胞(CSC)、またはMSCおよびCSCの組み合わせを投与することを含む。いくつかの態様において、CSCまたはMSC単独での治療に比較した際、MSCおよびCSCで治療した被験体において、pRbser608発現、機能または活性は増加する。
【0089】
[0107]別の態様において、被験体の心筋細胞における有糸分裂率を決定する方法は、幹細胞治療を経ている被験体から生物学的試料を得て;ベースライン対照と比較した際の、生物学的試料中の網膜芽細胞腫(Rb)の発現、機能または活性を測定し、ここで、網膜芽細胞腫は、アミノ酸位608(pRbser608)で過剰リン酸化セリンを含む、そして治療後の被験体回復を監視することを含む。いくつかの態様において、治療は、被験体に:成体骨髄由来間葉系細胞(MSC)、成体心臓幹細胞(CSC)、またはMSCおよびCSCの組み合わせを投与することを含む。いくつかの態様において、CSCまたはMSC単独での治療に比較した際、MSCおよびCSCで処置した被験体において、pRbser608発現、機能または活性は増加する。
【0090】
[0108]他の態様において、MSC/CSC相互作用は、pRbser608活性、機能または発現の不活性化を誘導する。別の態様において、MSC/CSC相互作用は、ARF活性、機能または発現の不活性化を誘導する。別の態様において、MSC/CSC相互作用は、pRbser608およびARF活性、機能または発現の不活性化を誘導する。他の態様において、セリン-10リン酸化ヒストン-H3/pRbser608(HP3+/pRBser608+)Ink4aの代替読み枠(-)(ARF(-))心筋細胞の増殖は、ベースライン対照と比較して増加している。
【0091】
[0109]いくつかの態様において、心臓前駆細胞に関するバイオマーカーを開示する。いくつかの態様において、バイオマーカーは、リン酸化網膜芽細胞腫(pRb)およびInk4a代替読み枠(ARF)、その突然変異体、変異体または断片を含む。いくつかの態様において、マーカーpRbは、過剰リン酸化アミノ酸を含む。他の態様において、過剰リン酸化されるアミノ酸は、アミノ酸608位のセリンである(pRbser608)。いくつかの態様において、マーカーpRBser608の検出は、Gata4+心臓幹細胞の決定要因である。他の態様において、マーカーARFは、ベースライン対照と比較して減少している。用語「ベースライン対照」は、本明細書全体で用いられるようなものを意味する。
【0092】
[0110]いくつかの態様において、ベクター中および細胞中にバイオマーカーを含むマーカーを発現することが望ましい。こうした組み合わせの適用は制限されない。1またはそれより多い生体分子を発現しているベクターおよび細胞を、アッセイ、キット、薬剤発見、診断、予後等に用いてもよい。細胞は、骨髄から前駆細胞として単離された幹細胞、または任意の他の供給源、例えばATCCより得られる細胞であることも可能である。
【0093】
[0111]本明細書に具現するバイオマーカー、あるいは1またはそれより多いマーカーを発現する細胞を用いて、こうした細胞およびその多様な子孫の特性に影響を及ぼす因子(例えば溶媒、小分子試料薬剤、ペプチド、オリゴヌクレオチド)または環境条件(例えば培養条件または操作)に関してスクリーニングしてもよい。
【0094】
[0112]いくつかの態様において、心臓前駆細胞において、Rb経路を調節する候補剤を同定する方法は、候補剤を、心臓前駆細胞(CPC)集団と接触させ;そして候補剤と接触させていないCPC集団におけるリン酸化Rbレベルに、候補剤と接触させた心臓前駆細胞の集団におけるリン酸化Rbレベルを比較することを含むことも可能であり、ここで、リン酸化Rbレベルの相違は、候補剤を、心臓前駆細胞においてRb経路を調節する剤と同定する。心臓前駆細胞(CPC)は、リン酸化Rbser608(pRbser608)、Gata4、またはその任意の組み合わせに関して陽性であることも可能である。
【0095】
[0113]いくつかの態様において、候補剤を同定する方法であって:(a)患者由来の生物学的試料を候補剤と接触させ、そして本明細書記載の1またはそれより多いバイオマーカーの発現レベルを決定し;(b)候補剤と接触させていない生物学的試料のアリコット中の対応する単数または複数のバイオマーカーのリン酸化、発現、機能または活性のレベルを決定し;(c)候補剤と接触させた生物学的試料のアリコット中の単数または複数のバイオマーカーのリン酸化、発現、機能または活性のレベル、および候補剤と接触させていない生物学的試料のアリコット中の対応する単数または複数のバイオマーカーのリン酸化、発現、機能または活性のレベルを比較することによって、候補剤の効果を観察し;そして(d)前記の観察された効果から前記剤を同定する、ここで、候補剤と接触させた生物学的試料のアリコット中のバイオマーカーまたはバイオマーカー遺伝子の組み合わせのリン酸化、発現、機能または活性のレベル、および候補剤と接触させていない生物学的試料のアリコット中の対応するバイオマーカーまたはバイオマーカーの組み合わせのリン酸化、発現、機能または活性のレベルの間の、少なくとも1%、2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%の相違が候補剤の効果の指標である、前記方法を提供する。
【0096】
[0114]いくつかの態様において、本明細書記載の方法によって得られる候補剤を提供する。
[0115]いくつかの態様において、本明細書記載の態様にしたがった剤を含む薬学的調製物を提供する。
【0097】
[0116]いくつかの態様において、薬剤を産生する方法は、(i)上記の工程(c)で同定された候補剤あるいはその類似体または誘導体を、被験体に、療法的有効量の前記薬剤を提供するために十分な量で合成し;そして/または(ii)上記の工程(c)で同定された薬剤候補剤あるいはその類似体または誘導体と、薬学的に許容されうるキャリアーを組み合わせることを含む。
【0098】
[0117]他のスクリーニング適用は、心筋組織維持または修復に対する効果に関する薬学的化合物の試験に関する。化合物が細胞に対する薬理学的効果を有するように設計されているため、または別の箇所に影響を有するように設計された化合物が、この組織タイプの細胞に対して意図されない副作用を有する可能性もあるため、スクリーニングを行ってもよい。幹細胞または最終分化細胞のいずれを用いて、スクリーニングを行ってもよい。
【0099】
[0118]いくつかの態様において、マーカーは、心臓血管疾患および障害の治療において、新規薬剤を同定するために有用である。
[0119]いくつかの態様において、マーカーは、患者の治療が進行しているかどうかを検証するであろう。例えば、pRbser608の量、活性または発現は、治療の経過中に変化し、そして正常な調節を反映することも可能である。
【0100】
[0120]小分子試験化合物または候補療法化合物は、最初に、有機または無機化学薬品ライブラリーのメンバーであってもよい。本明細書において、「小分子」は、約3,000ダルトン未満の分子量の小分子有機または無機分子を指す。小分子は、天然産物またはコンビナトリアル化学ライブラリーのメンバーであることも可能である。多様な分子のセットを用いて、電荷、芳香族性、水素結合、柔軟性、サイズ、側鎖の長さ、疎水性、および強剛性などの多様な機能をカバーするべきである。小分子を合成するのに適したコンビナトリアル技術は、当該技術分野に知られ、例えばObrechtおよびVillalgordo, Solid-Supported Combinatorial and Parallel Synthesis of Small-Molecular-Weight Compound Libraries, Pergamon-Elsevier Science Limited(1998)に例示される通りであり、そして「スプリットおよびプール」または「平行」合成技術、固相および溶液相技術、ならびにコード化技術などのものが含まれる(例えば、Czarnik, Curr. Opin. Chem. Bio., 1:60(1997)を参照されたい)。さらに、多くの小分子ライブラリーが商業的に入手可能である。
【0101】
[0121]本明細書に開示する特定のスクリーニング適用は、薬剤研究における薬学的化合物の試験に関する。読者は、一般的に、標準的教科書”In vitro Methods in Pharmaceutical Research”, Academic Press, 1997、および米国特許第5,030,015号を参照されたい。候補薬学的化合物の活性の評価は、一般的に、候補化合物を投与し、化合物に起因しうる、細胞の形態、マーカー表現型および発現、または代謝活性および細胞の機能におけるいかなる変化(未処置細胞または不活性化合物で処置した細胞と比較して)も決定し、そして次いで、観察される変化と化合物の効果を相関させることを含む。
【0102】
[0122]化合物は、特定の細胞種に対する薬理学的効果を有するように設計されているため、または別の箇所に影響を有するように設計された化合物は、意図されない副作用を有する可能性もあるため、スクリーニングを行ってもよい。ありうる薬剤-薬剤相互作用効果を検出するため、2またはそれより多い薬剤を組み合わせて(同時にまたは連続してのいずれかで細胞と合わせることによって)試験してもよい。いくつかの適用において、化合物をまず、潜在的な毒性に関してスクリーニングする(Castellら, pp. 375-410 ”In vitro Methods in Pharmaceutical Research,” Academic Press, 1997)。細胞生存度、生存、形態、および特定のマーカー、受容体または酵素の発現または放出に対する影響によって、まず第一に、細胞毒性を決定することも可能である。DNA合成または修復を測定することによって、染色体DNAに対する薬剤の影響を決定することも可能である。特に、細胞周期中、不定期の、または細胞複製に必要なレベルを超える、[3H]チミジンまたはBrdU取り込みは、薬剤効果と一致する。望ましくない効果にはまた、中期蔓延によって決定される、異常な率の姉妹染色分体交換が含まれてもよい。さらなる詳細に関しては、A. Vickers(PP 375-410 ”In vitro Methods in Pharmaceutical Research,”中 Academic Press, 1997)を参照されたい。
【0103】
[0123]方法の例には、限定されるわけではないが、標準的教科書、”In vitro Methods in Pharmaceutical Research”, Academic Press, 1997、および米国特許第5,030,015号が含まれる。候補薬学的化合物の活性の評価は、一般的に、単独または他の薬剤と組み合わせた候補化合物を、細胞と合わせることを含む。研究者は、化合物に起因しうる、細胞の形態、マーカー表現型、または機能活性におけるいかなる変化(未処置細胞または不活性化合物で処置した細胞と比較して)も決定し、そして次いで、観察される変化と化合物の効果を相関させる。
【0104】
[0124]細胞生存度、生存、形態、ならびに特定のマーカーおよび受容体の発現に対する影響によって、まず第一に、細胞毒性を決定することも可能である。DNA合成または修復を測定することによって、染色体DNAに対する薬剤の影響を決定することも可能である。特に、細胞周期中、不定期の、または細胞複製に必要なレベルを超える、[3H]チミジンまたはBrdU取り込みは、薬剤効果と一致する。望ましくない効果にはまた、中期蔓延によって決定される、異常な率の姉妹染色分体交換が含まれてもよい。さらなる詳細に関しては、A. Vickers(pp 375-410 ”In vitro Methods in Pharmaceutical Research,”中 Academic Press, 1997)を参照されたい。
【0105】
[0125]任意の標準アッセイを用いて、細胞培養またはin vivoのいずれかで、心筋細胞の表現型または活性、例えばマーカー発現、受容体結合、収縮活性、または電気生理を観察して、細胞機能の影響を評価してもよい。薬学的候補はまた、収縮活性に対する影響、例えば収縮の度合いまたは頻度を増加させるかまたは減少させるかに関して、試験されることも可能である。影響を観察する場合、化合物濃度を用量設定して、有効用量中央値(ED50)を決定することも可能である。
【0106】
[0126]Rbおよび/またはARFの機能を阻害する剤を、薬学的組成物または薬剤として配合してもよい。直接投与に適応した薬学的組成物には、限定なしに、凍結乾燥粉末、あるいは水性または非水性無菌注射可能溶液または懸濁物が含まれ、これはさらに、特定の酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、および組成物を意図されるレシピエントの血液と実質的に等張にする溶質を含有することも可能である。こうした組成物中に存在しうる他の構成要素には、例えば、水、アルコール、ポリオール、グリセリンおよび植物油が含まれる。無菌粉末、顆粒および錠剤から、即時注射溶液および懸濁物を調製することも可能である。例えば、しかし限定なしに、患者への投与前に、無菌水または生理食塩水で再構成される凍結乾燥粉末として剤を供給してもよい。
【0107】
[0127]薬学的組成物は、薬学的に許容されうるキャリアーを含んでもよい。適切な薬学的に許容されうるキャリアーには、薬学的組成物の生物学的活性の有効性に干渉しない、本質的に化学的不活性であり、そして非毒性である組成物が含まれる。適切な薬学的キャリアーの例には、限定されるわけではないが、水、生理食塩水溶液、グリセロール溶液、エタノール、N-(1(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジオレシルホスホチジル-エタノールアミン(DOPE)、およびリポソームが含まれる。こうした組成物は、療法的有効量の化合物を、患者に直接投与する型を提供するように、適切な量のキャリアーと一緒に含有しなければならない。
【0108】
[0128]組成物は、薬学的に許容されうる塩の形であってもよく、これには、限定なしに、未結合(free)アミノ基を伴って形成されるもの、例えば塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸等に由来するもの、および未結合カルボキシル基を伴って形成されるもの、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等に由来するものが含まれる。
【0109】
[0129]多様な態様において、薬学的組成物を、傷害領域に、例えば心臓組織に、例えば手術中の局所注入、局所適用(例えば手術後の創傷ドレッシングと組み合わせて)、注射、カテーテル手段、座薬手段、または移植手段によって、直接投与する。移植物は、多孔性、非孔性、またはゼラチン性物質のものであってもよく、膜、例えばシラスティック(sialastic)膜または繊維が含まれてもよい。座薬は、一般的に、重量0.5%~10%の範囲の活性成分を含有する。
【0110】
[0130]他の態様において、徐放系をターゲット部位近傍に配置してもよい。例えば、マイクロポンプは、調節された用量を、直接、ターゲット部位の領域内に、例えば心臓組織に送達し、それによって薬学的組成物のタイミングおよび濃度を細かく制御することも可能である。
【0111】
[0131]いくつかの態様にしたがって、Rbおよび/またはARFの機能を阻害する剤を、直接投与によって患者に送達する。したがって、剤を、限定なしに、ターゲット部位内への1またはそれより多い直接注射によって、ターゲット部位内への連続または不連続灌流によって、剤の容器の導入によって、ターゲット部位内への遅延放出装置の導入によって、ターゲット部位内への遅延放出配合物の導入によって、および/またはターゲット部位上への直接適用によって、投与してもよい。ターゲット部位内への投与様式によって、ターゲット部位の領域内に実質的に直接流入する血管またはリンパ管内への剤の導入もまた意図される。各場合で、少なくとも目的を達成するのに十分な量で、そして場合によって、薬学的に許容されうるキャリアーを含む、薬学的組成物を投与する。
【0112】
[0132]いくつかの態様において、薬学的キャリアーには、限定なしに、結合剤、コーティング剤、崩壊剤、充填剤、希釈剤、フレーバー、着色剤、潤滑剤、流動促進剤、保存剤、吸着剤、甘味剤、コンジュゲート化リノール酸(CLA)、ゼラチン、蜜蝋、精製水、グリセロール、限定なしに魚油または大豆油を含む任意のタイプの油等が含まれることも可能である。ペプチド/化合物の薬学的組成物はまた、適切な固相またはゲル相キャリアーまたは賦形剤を含むことも可能である。こうしたキャリアーまたは賦形剤の例には、限定されるわけではないが、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、多様な糖、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリマー、例えばポリエチレングリコール等が含まれる。
【0113】
[0133]本明細書に開示する剤を、例えば、慣用的な方式で、活性である任意の経路によって、投与することも可能である。投与は、全身、非経口、局所、または経口であることも可能である。例えば、投与は、限定されるわけではないが、非経口、皮下、静脈内、筋内、腹腔内、経皮、経口、頬側、または目経路、あるいは膣内であってもよく、吸入によって、デポ注射によって、または移植物によってであってもよい。したがって、剤の投与様式(単独で、または他の薬剤と組み合わせてのいずれかで)は、限定されるわけではないが、舌下、注射可能(皮下または筋内注射される短期作用、デポ、移植物およびペレット型を含む)であっても、または膣クリーム、座薬、ペッサリー、膣リング、直腸座薬、子宮内デバイス、ならびに経皮型、例えばパッチおよびクリームの使用によってもよい。
【0114】
[0134]経口投与のため、これらの剤を、当該技術分野に周知の薬学的に許容されうるキャリアーと組み合わせることによって、剤を容易に配合可能である。こうしたキャリアーは、剤、化合物、細胞等が、治療される患者によって経口摂取されるような、錠剤、ピル、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁物等に配合されることを可能にする。経口使用のための薬学的調製物は、固形賦形剤を添加し、場合によって生じた混合物をすりつぶし、そして望ましい場合、適切な補助剤を添加した後に、顆粒混合物をプロセシングして、錠剤または糖衣錠コアを得ることによって、得られうる。適切な賦形剤には、限定されるわけではないが、充填剤が含まれ、これには、限定されるわけではないが、ラクトース、スクロース、マンニトール、およびソルビトールを含む糖;限定されるわけではないが、トウモロコシ(maize)デンプン、小麦(wheat)デンプン、イネ(rice)デンプン、ジャガイモ(potato)デンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびポリビニルピロリドン(PVP)などのセルロース調製物が含まれる。望ましい場合、限定されるわけではないが、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、あるいはアルギン酸またはその塩、例えばアルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤を添加してもよい。
【0115】
[0135]糖衣錠コアは、適切なコーティングとともに提供されうる。この目的のため、濃縮糖溶液を用いてもよく、これは場合によって、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒または溶媒混合物を含有することも可能である。色素またはピグメントを、同定のためまたは活性ペプチド/化合物用量の異なる組み合わせを特徴付けるために、錠剤または糖衣錠コーティングに添加してもよい。
【0116】
[0136]経口的に使用可能な薬学的調製物には、限定されるわけではないが、ゼラチン製の押し込み型カプセル、ならびにゼラチンおよび可塑剤、例えばグリセロールまたはソルビトール製の密封軟カプセルが含まれる。押し込み型カプセルは、充填剤、例えばラクトース、結合剤、例えばデンプン、および/または潤滑剤、例えばタルクまたはステアリン酸マグネシウム、ならびに場合によって安定化剤と混合された活性成分を含有することも可能である。軟カプセルにおいて、活性ペプチド/化合物は、適切な液体、例えば脂肪油、流動パラフィン、または流動ポリエチレングリコール中で溶解されるかまたは懸濁されてもよい。さらに、安定化剤を添加してもよい。経口投与のためのすべての配合物は、こうした投与のために適した投薬型でなければならない。
【0117】
[0137]頬側投与のため、組成物は、例えば慣用的な方式で配合された錠剤またはロゼンジの形を取ってもよい。
[0138]吸入による投与のため、使用する組成物は、適切な噴霧剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切な気体の使用を伴い、加圧パックまたは噴霧器から、エアロゾルスプレー提示の形で好適に送達される。加圧エアロゾルの場合、投薬単位は、計測された量を送達するバルブを提供することによって、決定可能である。ペプチド/化合物の粉末混合物、および適切な粉末基剤、例えばラクトースまたはデンプンを含有する、例えば、吸入装置または吸入器で使用するためのゼラチンのカプセルおよびカートリッジを配合することも可能である。
【0118】
[0139]組成物はまた、座薬または停留浣腸などの直腸組成物中で、例えば慣用的な座薬基剤、例えばココアバターまたは他のグリセリドを含有する組成物もまた、配合してもよい。
【0119】
[0140]先に記載する配合物に加えて、組成物はまた、デポ調製物として配合されてもよい。こうした長期作用配合物を移植によって(例えば皮下または筋内)、または筋内注射によって、投与してもよい。
【0120】
[0141]約1~約6ヶ月、またはより長い間隔で、デポ注射を投与してもよい。したがって、例えば、適切なポリマー性または疎水性物質(例えば許容されうる油中のエマルジョンとして)またはイオン交換樹脂とともに、あるいは難溶性誘導体、例えば難溶性塩として、ペプチド/化合物を配合してもよい。
【0121】
[0142]経皮投与において、組成物を、例えば、硬膏剤に適用してもよいし、または経皮療法系によって適用し、これがその結果、生物に供給されてもよい。
[0143]組成物はまた、他の活性成分、例えばアジュバント、プロテアーゼ阻害剤、あるいは他の適合可能な薬剤または化合物と組み合わせて投与されてもよく、この場合、こうした組み合わせは、本明細書記載の方法の望ましい効果を達成する際に望ましいかまたは好都合であるように見えるものである。
【0122】
[0144]いくつかの態様において、崩壊剤構成要素は、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスポビドン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、イオン交換樹脂、食品酸(food acid)および炭酸アルカリ構成要素に基づく発泡系、粘土、タルク、デンプン、アルファ化デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、セルロース・フロック、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ケイ酸カルシウム、炭酸金属、重炭酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、またはリン酸カルシウムの1またはそれより多くを含む。
【0123】
[0145]いくつかの態様において、希釈剤構成要素は、マンニトール、ラクトース、スクロース、マルトデキストリン、ソルビトール、キシリトール、粉末化セルロース、微結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、アルファ化デンプン、リン酸カルシウム、炭酸金属、酸化金属、またはアルミノケイ酸金属の1またはそれより多くを含む。
【0124】
[0146]いくつかの態様において、場合による潤滑剤構成要素は、存在する場合、ステアリン酸、金属性ステアリン酸、ステアリルフマル酸ナトリウム、脂肪酸、脂肪性アルコール、脂肪酸エステル、ベヘン酸グリセリル、ミネラルオイル、植物油、パラフィン、ロイシン、シリカ、ケイ酸、タルク、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリエトキシル化ひまし油、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアルキレングリコール、ポリオキシエチレン-グリセロール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪性アルコールエーテル、ポリエトキシル化ステロール、ポリエトキシル化ひまし油、ポリエトキシル化植物油、または塩化ナトリウムの1またはそれより多くを含む。
【0125】
[0147]本明細書に論じるように、多様な技術を用いて、特定のマーカーを同定するかまたは検出することも可能である。以下は、こうした技術の限定されない例である。一般的に、核酸マイクロアレイを用いて、試験および対照組織試料由来の試験および対照mRNA試料を逆転写して、そして標識し、cDNAプローブを生成する。次いで、プローブを、固体支持体上に固定された核酸アレイにハイブリダイズさせる。アレイは、アレイの各メンバーの配列および位置が知られるように設定される。例えば、特定の疾患状態において発現される潜在能力を有する遺伝子のセレクションを固体支持体上に整列させてもよい。標識プローブと特定のアレイメンバーとのハイブリダイゼーションによって、プローブが得られる試料がその遺伝子を発現することを示す。疾患組織の示差遺伝子発現分析は、価値ある情報を提供しうる。マイクロアレイ技術は、核酸ハイブリダイゼーション技術および計算技術を利用して、単一の実験内で、数千の遺伝子のmRNA発現プロファイルを評価する(例えば、2001年10月11日に公開されたWO 01/75166を参照されたい;(例えばアレイ製造の考察に関しては、米国特許第5,700,637号、米国特許第5,445,934号、および米国特許第5,807,522号、Lockart, Nature Biotechnology, 14:1675-1680(1996); Cheung, V. G.ら, Nature Genetics 21(Suppl):15-19(1999)を参照されたい)。DNAマイクロアレイは、ガラスまたは他の支持体上に、直接合成されたか、またはスポッティングされたかいずれかの遺伝子断片を含有する微小アレイである。通常、数千の遺伝子が、単一アレイ中に提示される。典型的なマイクロアレイ実験は、以下の工程を伴う:1)試料から単離されたRNAからの蛍光標識ターゲットの調製、2)マイクロアレイに対する標識ターゲットのハイブリダイゼーション、3)アレイの洗浄、染色、およびスキャニング、4)スキャンされた画像の分析、ならびに5)遺伝子発現プロファイルの生成。現在、2つの主なタイプのDNAマイクロアレイが用いられている:オリゴヌクレオチド(通常、25~70量体)アレイおよびcDNAから調製されるPCR産物を含有する遺伝子発現アレイ。アレイを形成する際、オリゴヌクレオチドをあらかじめ製造し、そして表面にスポッティングするか、または表面上で直接合成する(in situ)かいずれでもよい。ガラス表面上のオリゴヌクレオチドの直接合成によって製造されるアレイを含む、Affymetrix GeneChipTM系は、商業的に入手可能なマイクロアレイ系である。
【0126】
[0148]プローブおよび遺伝子アレイもまた使用可能である。半導体に基づくフォトリソグラフィおよび固相化学合成技術の組み合わせによって、通常、25量体のオリゴヌクレオチドをガラスウェーハ上に直接合成する。各アレイは、最大40万の異なるオリゴヌクレオチドを含有することも可能であり、そして各オリゴヌクレオチドは、数百万コピーで存在する。オリゴヌクレオチドプローブは、アレイ上の既知の位置で合成されるため、Affymetrix Microarray Suiteソフトウェアによって、ハイブリダイゼーションパターンおよびシグナル強度を、遺伝子同一性および相対発現レベルに関して解釈してもよい。各遺伝子は、一連の異なるオリゴヌクレオチドプローブによって、アレイ上に提示される。各プローブ対は、完全マッチオリゴヌクレオチドおよびミスマッチオリゴヌクレオチドからなる。完全マッチプローブは、特定の遺伝子に正確に相補的な配列を有し、そしてしたがって、遺伝子の発現を測定する。ミスマッチプローブは、中央塩基位でのターゲット遺伝子転写物の結合を妨げる単一塩基置換によって、完全マッチプローブとは異なる。これによって、完全マッチオリゴヌクレオチドに関して測定されるシグナルに寄与するバックグラウンドおよび非特異的ハイブリダイゼーションを決定することを補助する。Microarray Suiteソフトウェアは、完全マッチプローブのものからミスマッチプローブのハイブリダイゼーション強度を減じて、各プローブセットに関する絶対または特異的強度値を決定することも可能である。GenBankおよび他のヌクレオチド・リポジトリ由来の現在の情報に基づいて、プローブを選択する。配列は、遺伝子の3’端のユニークな領域を認識すると考えられる。GeneChipハイブリダイゼーションオーブン(「回転式(rotisserie)」オーブン)を用いて、一度に最大64アレイのハイブリダイゼーションを実行する。流体ステーションは、プローブアレイの洗浄および染色を実行する。これは完全に自動化され、そして4つのモジュールを含有し、各モジュールは1つのプローブアレイを保持する。各モジュールは、あらかじめプログラミングされた流体工学プロトコルを用いて、Microarray Suiteソフトウェアを通じて、独立に制御される。スキャナは、共焦点レーザー蛍光スキャナであり、プローブアレイに結合した標識cRNAによって放出される蛍光強度を測定する。Microarray Suiteソフトウェアを備えたコンピュータ・ワークステーションは、流体ステーションおよびスキャナを制御する。Microarray Suiteソフトウェアは、プローブアレイのためのあらかじめプログラミングされたハイブリダイゼーション、洗浄、および染色プロトコルを用いて、最大8つの流体ステーションを制御可能である。ソフトウェアはまた、ハイブリダイゼーション強度データを獲得し、そして適切なアルゴリズムを用いて、各遺伝子に関する存在/非存在コールに変換する。最後に、ソフトウェアは、比較分析によって、実験間の遺伝子発現における変化を検出し、そしてアウトプットを.txtファイルにフォーマットし、これは、さらなるデータ分析のため、他のソフトウェアプログラムで使用可能である。
【0127】
[0149]また、遺伝子欠失または遺伝子増幅を調べることによって、選択されたバイオマーカーの発現を評価することも可能である。当該技術分野に知られる非常に多様なプロトコルの任意の1つによって、例えば適切に標識されたプローブを用いた慣用的なサザンブロッティング、mRNAの転写を定量化するノーザンブロッティング(Thomas, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:5201-5205(1980))、ドットブロッティング(DNA分析)、またはin situハイブリダイゼーション(例えばFISH)、適切に標識されたプローブを用いた細胞遺伝学法または比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)によって、遺伝子欠失または増幅を測定してもよい。
【0128】
[0150]いくつかの態様において、マーカーに対応するポリペプチドを検出する。いくつかの態様において、本明細書記載のマーカーに対応するポリペプチドに結合することが可能な抗体またはアプタマー、あるいは検出可能標識を含む抗体を用いる。抗体はポリクローナルまたはモノクローナルであってもよい。インタクトな抗体、またはその断片、例えばFabまたはF(ab’)2もまた使用可能である。
【0129】
[0151]また、当業者に周知の技術を用いて、個体からタンパク質を単離してもよい。使用するタンパク質単離法は、例えば、Harlow & Lane(1988)、上記に記載されるものなどであってもよい。多様な形式を使用して、試料が所定の抗体に結合するタンパク質を含有するかどうかを決定することも可能である。試料中の多様なバイオマーカーの発現を、いくつかの方法論によって分析してもよく、これらの方法論の多くは、当該技術分野に知られ、そして当業者に理解されるものであり、これらには、限定されるわけではないが、免疫組織化学および/またはウェスタン分析、血液に基づく定量的アッセイ(例えば血清ELISA)(例えば、タンパク質発現レベルを調べる)、生化学的酵素活性アッセイ、in situハイブリダイゼーション、ノーザン分析および/またはmRNAのPCR分析、ならびに遺伝子および/または組織アレイ分析によって実行可能な非常に多様なアッセイの任意の1つが含まれる。遺伝子および遺伝子産物の状態を評価するための典型的なプロトコルは、例えばAusubelら監修, 1995, Current Protocols In Molecular Biology、ユニット2(ノーザンブロッティング)、4(サザンブロッティング)、15(イムノブロッティング)および18(PCR分析)に見いだされる。当業者は、細胞がマーカーを発現するかどうか、そして/または血液または他の体組織中の特異的ポリペプチド発現産物の相対濃度を決定する際に使用するため、既知のタンパク質/抗体検出法を容易に適応させることも可能である。
【0130】
[0152]いくつかの態様において、試料を、抗体-バイオマーカー複合体が形成されるのに十分な条件下で、前記バイオマーカーに特異的な抗体と接触させ、そして次いで前記複合体を検出してもよい。バイオマーカーの存在は、いくつかの方法において、例えば血漿または血清を含む非常に多様な組織および試料をアッセイするためのウェスタンブロッティングおよびELISA法によって、検出することも可能である。こうしたアッセイ形式を用いた広い範囲のイムノアッセイ技術が利用可能であり、例えば米国特許第4,016,043号、4,424,279号、および4,018,653号を参照されたい。これらには、非競合タイプの単一部位および二部位または「サンドイッチ」アッセイの両方、ならびに伝統的な競合的結合アッセイが含まれる。これらのアッセイにはまた、ターゲットバイオマーカーに対する標識抗体の直接結合も含まれる。
【0131】
[0153]サンドイッチアッセイは、一般的に用いられるアッセイである。サンドイッチアッセイ技術のいくつかの変形が存在し、そしてすべて本開示に含まれると意図される。簡潔には、典型的な順方向(forward)アッセイにおいて、非標識抗体を固体支持体上に固定し、そして試験しようとする試料を、結合分子と接触させる。適切な期間、抗体-抗原複合体の形成を可能にするのに十分な期間、インキュベーションした後、次いで、検出可能なシグナルを産生することが可能なレポーター分子で標識された、抗原に特異的な第二の抗体を添加し、そして抗体-抗原-標識抗体の別の複合体の形成に十分な時間、インキュベーションする。いかなる未反応物質も洗い流し、そしてレポーター分子によって産生されるシグナルの観察によって、抗原の存在を検出する。結果は、可視シグナルの単純な観察によって定性的であってもよいし、または既知の量のバイオマーカーを含有する対照試料と比較することによって定量化されても、どちらでもよい。
【0132】
[0154]順方向アッセイに関する変動には、試料および標識抗体の両方が結合抗体に同時に添加される、同時アッセイが含まれる。これらの技術は、容易に明らかであろう任意の重大でない変動を含めて、当業者には周知である。典型的な順方向サンドイッチアッセイにおいて、バイオマーカーに対する特異性を有する第一の抗体は、固体表面に共有的にまたは受動的にのいずれかで結合している。固体表面は、典型的にはガラスまたはポリマーであり、最も一般的に用いられるポリマーはセルロース、ポリアクリルアミド、ナイロン、ポリスチレン、塩化ポリビニルまたはポリプロピレンである。固体支持体は、チューブ、ビーズ、マイクロプレートディスクの形であっても、またはイムノアッセイを実施するのに適した任意の他の表面であってもよい。結合プロセスは当該技術分野に周知であり、そして一般的に、架橋、共有結合または物理的吸着からなり、ポリマー-抗体複合体は試験試料の調製において洗浄される。次いで、試験しようとする試料のアリコットを固相複合体に添加し、そして十分な期間(例えば2~40分間、またはより好適であれば一晩)、そして適切な条件下で(例えば室温~40℃、例えば両端を含めて25℃~32℃の間)、インキュベーションして、抗体中に存在するいかなるサブユニットの結合も可能にする。インキュベーション期間に続いて、抗体サブユニット固相を洗浄し、そして乾燥させ、そしてバイオマーカーの部分に特異的な第二の抗体とインキュベーションする。第二の抗体は、レポーター分子に連結され、該レポーター分子は、分子マーカーへの第二の抗体の結合を示すために用いられる。
【0133】
[0155]いくつかの態様において、試料中のターゲットバイオマーカーを固定し、そして次いで固定されたターゲットを、レポーター分子で標識されていてもまたはされていなくてもよい特異的抗体に曝露する工程を伴う方法を利用することもできる。ターゲットの量およびレポーター分子シグナルの強度に応じて、抗体で直接標識することによって、結合したターゲットが検出可能でありうる。あるいは、第一の抗体に特異的な第二の標識抗体を、ターゲット-第一の抗体の複合体に曝露して、ターゲット-第一の抗体-第二の抗体の三次複合体を形成する。該複合体を、レポーター分子によって放出されるシグナルによって検出する。「レポーター分子」によって、本明細書において、その化学的性質によって、分析的に同定可能なシグナルを提供し、該シグナルが抗原に結合した抗体の検出を可能にする、分子を意味する。このタイプのアッセイで最も一般的に用いられるレポーター分子は、酵素、フルオロフォア、または放射性核種含有分子(すなわち放射性同位体)および化学発光分子である。
【0134】
[0156]酵素イムノアッセイの場合、一般的に、グルタルアルデヒドまたは過ヨウ素酸塩によって、酵素を第二の抗体にコンジュゲート化する。しかし、容易に認識されるであろうように、非常に多様な異なるコンジュゲート化技術が存在し、これらは当業者に容易に利用可能である。
【0135】
[0157]一般的に用いられる酵素には、とりわけ、西洋ワサビ・ペルオキシダーゼ、グルコース-オキシダーゼ、-ガラクトシダーゼ、およびアルカリホスファターゼが含まれる。特定の酵素とともに用いられる基質は、一般的に、対応する酵素による加水分解に際しての、検出可能な色変化の産生に関して選択される。適切な酵素の例には、アルカリホスファターゼおよびペルオキシダーゼが含まれる。上述の発色基質ではなく、蛍光産物を生じる蛍光発生基質を使用することもまた可能である。すべての場合で、酵素標識抗体を第一の抗体-分子マーカー複合体に添加し、結合を可能にし、そして次いで、過剰な試薬を洗い流す。次いで、適切な基質を含有する溶液を抗体-抗原-抗体の複合体に添加する。基質は、第二の抗体に連結された酵素と反応し、定性的に可視であるシグナルを生じて、該シグナルを分光光度的にさらに定量化することも可能であり、これが試料に存在したバイオマーカーの量の指標を与えるであろう。あるいは、蛍光化合物、例えばフルオレセインおよびローダミンを、結合能を改変することなく抗体に化学的にカップリングすることも可能である。特定の波長の光で照射することによって活性化した際、蛍光色素標識抗体は、光エネルギーを吸収し(adsorb)、分子において状態を興奮性に誘導し、その後、光学顕微鏡で視覚的に検出可能な特徴的な色の光を放出させる。EIAにおけるように、蛍光標識抗体が、第一の抗体-分子マーカー複合体に結合することを可能にする。未結合試薬を洗い流した後、次いで、残りの三次複合体を適切な波長の光に曝露し、観察される蛍光は、関心対照の分子マーカーの存在を示す。免疫蛍光およびEIA技術はどちらも、当該技術分野において、非常によく確立されている。しかし、他のレポーター分子、例えば放射性同位体、化学発光または生物発光分子もまた使用可能である。
【0136】
[0158]本明細書記載の方法にはまた、組織または細胞試料におけるmRNAの存在および/または発現を調べるプロトコルが含まれることも可能である。細胞におけるmRNAの評価のための方法が周知であり、そしてこれには、例えば相補的DNAプローブを用いたハイブリダイゼーションアッセイ(例えば標識リボプローブを用いたin situハイブリダイゼーション、ノーザンブロットおよび関連技術)および多様な核酸増幅アッセイ(例えばRT-PCRおよび他の増幅型の検出法、例えば分枝DNA、SISBA、TMA等)が含まれる。
【0137】
[0159]いくつかの態様において、マーカーに対応するmRNAのレベルを、当該技術分野に知られる方法を用いて、生物学的試料中でin situによって、そしてin vitro形式によっての両方で決定可能である。多くの発現検出法は、単離されたRNAを用いる。細胞からRNAを精製するために、in vitro法のため、mRNAの単離に反するように選択しない任意のRNA単離技術を利用してもよい。例えば、Ausubelら監修, Curr. Prot. Mol. Biol., John Wiley & Sons, NY(1987-1999)を参照されたい。さらに、当業者に周知の技術、例えば米国特許第4,843,155号の一工程RNA単離プロセスを用いて、多数の組織試料を容易にプロセシングすることも可能である。単離されたmRNAをハイブリダイゼーションまたは増幅アッセイで用いてもよく、これらには、限定されるわけではないが、サザンまたはノーザン分析、PCR分析およびプローブアッセイが含まれる。いくつかの態様において、mRNAレベルの検出のための方法は、検出される遺伝子にコードされるmRNAにハイブリダイズ可能な核酸分子(プローブ)と単離mRNAを接触させることを含む。核酸プローブは、例えば全長cDNA、またはその一部、例えば少なくとも長さ7、15、30、50、100、250または500ヌクレオチドであり、そして本明細書記載のマーカーをコードするmRNAにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするのに十分であることも可能である。
【0138】
[0160]いくつかの態様において、例えばアガロースゲル上に単離されたmRNAを泳動し、そしてゲルから膜、例えばニトロセルロースにmRNAをトランスファーすることによって、mRNAを固体表面に固定し、そしてプローブと接触させる。別の形式において、プローブ(単数または複数)を固体表面上に固定して、そしてmRNAを例えばAffymetrix遺伝子チップアレイにおいて、プローブ(単数または複数)と接触させる。当業者は、本明細書記載のマーカーによってコードされるmRNAのレベルを検出する際に使用するため、既知のmRNA検出法を容易に適応させることも可能である。
【0139】
[0161]in situ法のため、mRNAは、検出前に細胞から単離される必要はない。こうした方法において、既知の組織学的方法を用いて、細胞または組織試料を調製する/プロセシングする。次いで、試料を支持体、典型的にはガラススライド上に固定し、そして次いで、マーカーをコードするmRNAにハイブリダイズ可能なプローブと接触させる。
【0140】
[0162]マーカーの絶対発現レベルに基づく決定を行う代替法として、決定は、マーカーの規準化された発現レベルに基づいてもよい。発現レベルは、マーカーではない遺伝子、例えば恒常的に発現されるハウスキーピング遺伝子の発現に対して、マーカーの発現を比較することにより、マーカーの絶対発現レベルを修正することによって、規準化される。規準化のための適切な遺伝子には、ハウスキーピング遺伝子、例えばアクチン遺伝子または上皮細胞特異的遺伝子が含まれる。この規準化は、1つの試料、例えば患者試料における発現レベルを別の試料に、または異なる供給源由来の試料間で比較することを可能にする。
【0141】
[0163]あるいは、相対発現レベルとして発現レベルを提供してもよい。マーカーの相対発現レベルを決定するため、問題の試料に関する発現レベルの決定の前に、疾患生物学的試料に対して正常の10またはそれより多い試料に関して、あるいは50またはそれより多い試料に関して、マーカーの発現レベルを決定する。より多数の試料においてアッセイされる各遺伝子の平均発現レベルを決定し、そしてこれを該マーカーに関するベースライン発現レベルとして用いる。次いで、そのマーカーに関して得られる平均発現値によって試験試料に関して決定されるマーカーの発現レベル(絶対発現レベル)を割る。これは、相対発現レベルを提供する。
【0142】
[0164]細胞供給源の選択は、相対発現レベルの使用に応じる。正常組織で見られる発現を、平均発現スコアとして用いて、アッセイするマーカーが特異的であるかどうか(正常細胞に対して)の検証を補助する。さらに、より多くのデータが集積されるにつれて、平均発現値を改定し、集積されたデータに基づいて改善された相対発現値を提供する。
【0143】
[0165]本明細書に言及するすべての文書は、本明細書に援用される。本出願に引用されるすべての刊行物および特許文書は、各個々の刊行物または特許文書が個々にそう記載されるのと同じ度合いに、すべての目的のために援用される。本文書において多様な参考文献を引用することによって、出願者らは、いかなる特定の参考文献も「先行技術」とは認めない。
【実施例】
【0144】
[0166]多様な態様が上記に記載されてきているが、これらは例示のためにのみ提示されており、そして限定のためではないことを理解すべきである。本開示にしたがって、態様の精神または範囲から逸脱することなく、開示する態様に多くの変更を行うことも可能である。したがって、請求項の幅および範囲は、明白で、そして明確な排除がない限り、限定されるべきではない。
【0145】
実施例1:心筋形成におけるRbの機能
方法
[0167]簡潔には、hCSCおよびhMSCを、組み合わせてまたは単独で、心筋梗塞(MI)後のブタ心臓に投与し、そして心臓pRb活性を評価した。記載されるように、MIの2週間後、幹細胞移植を行った(Williams AR, Hatzistergos KEら 心筋梗塞後の梗塞サイズを減少させ、そして心臓機能を回復させるヒト心臓幹細胞および骨髄間葉系幹細胞の効果増進。 Circulation. 2013 Jan 15;127(2):213-23(Epub 2012 Dec 5))。以下の群を研究した: 200M hMSC、1M hCSC、200M hMSCに加えて、1M hCSC、またはプラセボ(n=各3)。すべてのヒト細胞は、先に記載される方法を用いて、関連しないコード化されたドナーから得られた(Hare JMら JAMA 2012 November 6;1-11; Bolli Rら Lancet 2011 November 26;378(9806):1847-57)。
【0146】
[0168]すべての動物プロトコルは、マイアミ大学施設動物使用飼育委員会によって再検討され、そして認可された。
心筋梗塞
[0169]MIのブタモデルを最近記載されるように実行した(Hatzistergos KEら 骨髄間葉系幹細胞は、心臓幹細胞増殖および分化を刺激する。 Circ Res 2010 July 29; Williams ARら 心筋梗塞後の梗塞サイズを減少させ、そして心臓機能を回復させるヒト心臓幹細胞および骨髄間葉系幹細胞の効果増進。 Circulation. 印刷中 2012)。簡潔には、ヨークシャーブタ(35~40kg、n=22)に閉胸虚血-再灌流プロトコルを行って、前壁MIモデルを生成した。血管形成技術を用いて、第一対角枝のすぐ上で、左冠動脈前下降枝のバルーン閉塞を90分間実行してMIを誘導し、そしてバルーンをしぼませた後、血管造影によって、完全再灌流を確認した。
【0147】
細胞単離および培養
[0170]IRB認可およびインフォームドコンセントの後、単一のヒト男性ドナーにおいて、左心室補助デバイス(LVAD)の移植中に、頂端組織の中心から除去して、外植心臓組織を採取した。先に記載されるように、c-kitを発現するCSCを、酵素で解離させた心筋試料から、抗ヒトCD117抗体にカップリングさせた磁気マイクロビーズを用いて単離した(Bolli Rら Lancet 2011 November 26;378(9806):1847-57)。解離後、細胞を高密度でプレーティングし、増幅し、採取し、そして凍結保存した。
【0148】
[0171]hMSC単離のため、ヒト男性ドナーの腸骨稜から骨髄(BM)吸引液を得た。先に記載されるように、Ficoll密度遠心分離およびプラスチック接着によって、他のBM細胞から、ヒトMSCを単離した(Hare JMら JAMA 2012 November 6;1-11);hMSCを増幅し、採取し、そして凍結保存した。幹細胞注射の日の朝、細胞を融解し、洗浄し、そしてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に再懸濁した。hMSCのみの注射のため(n=3)、2億のhMSCを6mlのPBS中に懸濁し、そしてhCSCのみの注射のため(n=3)、100万のhCSCを3mlのPBS中に懸濁した。組み合わせた注射のため(n=3)、100万のhCSCおよび2億のhMSCを総体積6mlのPBS中に懸濁し、そして注射前に混合した。プラセボ注射のため(n=3)、6mlのPBSを投与した。すべての細胞またはプラセボ注射は、10の等体積のアリコットに分け、そして27ゲージ針で、経心外膜注射した。
【0149】
心臓磁気共鳴画像法
[0172]ECG同期および短時間の息止め獲得を伴う16チャネル体表面コイルを用いたSyngo MRソフトウェアを含むSiemens Trio 3T Tim(ドイツ・エアランゲン)スキャナー上でCMR研究を行った。QMassソフトウェア(Medis、オランダ・ライデン)を使用して、瘢痕サイズを計算した。
【0150】
細胞移植
[0173]先に記載されるように、細胞療法の異種移植モデルを行った(Williams ARら Circulation. 印刷中 2012)。MIの14日後、動物に胸腔鏡誘導直接経心外膜幹細胞(n=9)またはプラセボ注射(n=3)を行った。MI誘導由来の冠動脈血管造影および遅延増進CMR画像法を再検討して、冠動脈解剖所見および梗塞の度合いを定義した。左小規模開胸術で、第五前方/側方肋間腔中に、小さい4~5cmの切開を生成し、そして左胸膜腔(plural cavity)に進入して、直接視覚下に置いた。5mmポートを第六または第七肋間腔に配置し、そして5mm内視鏡(Karl Storz、ドイツ・チューリンゲン)を左胸腔に挿入した。心膜を開放し、そして壁挙動異常および冠動脈解剖所見との相関によって、梗塞領域を同定した。カーブした27ゲージ針を接線方向で心筋内に挿入し、そして10の別個の注射を梗塞境界領域に投与した。指で穏やかに圧を掛けて、針穿刺部位の適切な止血を達成した。ポート切開を通じて、12フレンチの胸腔チューブを左胸膜腔内に挿入し、そして胸壁をトンネル通過させた。すべての切開を閉鎖し、そして胸腔チューブを-20cmの水中吸引に配置して、気胸の空気を抜いた。蛍光透視法を行って、肺の拡大を確認し、そして抜管前に胸腔チューブを除去した。動物を回復させ、そして3日間、経皮フェンタニルパッチ(75mcg/時間)で、そして処置直後にブプレノルフィン(0.03mg/kg IM)での適切な術後鎮痛剤を提供した。MIの6週後、すべての動物を安楽死させた。
【0151】
免疫組織化学
[0174]先に記載されるように、5μm厚ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片において、免疫蛍光分析および共焦点顕微鏡検査を行った(Hatzistergos KEら Circ Res 2010; 107(7):913-22)。簡潔には、組織切片を脱パラフィン処理し、そして再水和した後、クエン酸緩衝溶液、pH=6(Dako)中で20分間スライドをマイクロ波処理することによって、抗原アンマスキングを行った。切片を10%正常ロバ血清(Millipore)で1時間ブロッキングした後、一次抗体と4℃で一晩インキュベーションした。以下の抗体を用いた:抗ブタC-kit(マウス・モノクローナル)、抗ヒトc-kit(ウサギ・ポリクローナル; DAKO)、トロポミオシン(マウス・モノクローナル; Abcam)、ser-608 pRb(ヤギ・ポリクローナル; Santa Cruz Biotechnologies)、ARF(ウサギ・ポリクローナル; Novus BiologicalsおよびAbcam)、GATA-4(ウサギおよびヤギ・ポリクローナル; Santa Cruz Biotechnologies)、WT1(ウサギ・ポリクローナル; Santa Cruz Biotechnologies)、心臓ミオシン軽鎖-2v(ウサギ・ポリクローナル; Novus biological)、ラミニン(ヤギ・ポリクローナル; Abcam)およびser-10リン酸化ヒストン-H3(マウス・モノクローナル; Abcam)。翌日、アフィニティ精製二次抗体のFITC、Cy3またはCy5コンジュゲート化F(ab’)2断片(Jackson Immunoresearch)と37℃で1時間、切片をインキュベーションすることによって、抗体を視覚化した。スライドをDAPIで対比染色し、ProLong Antifade Gold試薬(Life Technologies)でマウントし、そしてさらに検査する前に4℃で保存した。Zeiss LSM-710共焦点顕微鏡(Carl Zeiss)で顕微鏡評価および画像獲得を行った。Carl Zeiss ZENソフトウェア(2009、簡易版)を分析に用いた。
【0152】
統計分析
[0175]すべての値を平均(+/-SEM)で表す。群間のpRbser608の相違を、クラスカル-ウォリスANOVAで計算した。筋細胞横断面面積の相違を計算するために、対応スチューデントt検定を使用した。線形回帰分析を用いて、cMRIに基づく瘢痕サイズ減少と細胞数の回帰を試験した。GraphPad Prism(バージョン4.03、カリフォルニア州ラホヤ)を用いて、すべてのデータを分析し、そしてグラフをプロットした。0.05未満のp値を統計的に有意と見なした。
【0153】
結果
[0176]pRb
Ser608は宿主再生心臓細胞を反映し、そしてMSC/CSC相互作用によって増進される。Ser-608でのpRbの過剰リン酸化は、pRb活性を阻害し、そして傷害を受けた成体イモリ(newt)心臓における再生の特徴であるため、本発明者らは、pRb
ser608が、細胞に基づく療法後に、哺乳動物心筋再生活性に関与するかどうかを試験した。しかし、イモリ生理学および再生系は非常に異なるため、哺乳動物心筋と同じ方式でpRbが働くかどうかに関して、成功は期待できなかった。例えば、ヒト幹細胞および疾患経路において、他の種における幹細胞および疾患経路と比較すると、Rbは非常に異なる方式で作動する。したがって、マウスまたはイモリにおいて、Rbが細胞周期および細胞運命決定を制御する機構に関するいかなる実験上の情報も、必ずしもこれらの機構がヒトで作動することを意味しない。さらに、ARFは、より低次の脊椎動物、例えば再生能を示すイモリおよびゼブラフィッシュ(zebrafish)において相同体を持たない。例えば、イモリは、切断後、肢を再生させることが可能である一方、このプロセスはヒトでは起こらない。したがって、再生は、多様なシグナル伝達経路を通じて、イモリおよび新生マウスで起こるが、この現象は、成体哺乳動物では明らかではない。したがって、pRbが心筋再生において役割を有するかどうかは確かではなかった。したがって、正常心筋において、心室心筋緻密壁にpRb
Ser608が存在しないか、そして健康なブタ心筋において、心外膜および心内膜に限定されているかどうかに関して試験を行った(
図6)。虚血傷害後、心室心筋緻密壁において、その発現は実質的に増加し、ここで、pRb
Ser608は、成熟心筋細胞およびGata4
+ CPC(Gata4を発現する未成熟細胞)の両方で同定されたが、心臓外細胞系譜の細胞では同定されなかった(
図1A、1B)。
【0154】
[0177]pRbの内因性細胞不活性化に対する細胞療法の影響を評価するため、定量化pRb
Ser608+ CPCを4つの細胞処置群において定量化した。プラセボに比較して、幹細胞療法後、pRbの存在量は増加した(p<0.0001)(
図1c、d)。hMSCに比較して、hCSCは、梗塞および境界領域の両方で、より高い度合いでpRb
Ser608を誘導した。hCSCおよびhMSCを同時注射すると、この効果は、各細胞タイプ単独に比較して、~1.5倍であり、そしてプラセボに比較して、~3倍であった(p<0.0001)(
図1C、1D)。
【0155】
宿主前駆細胞の存在量
[0178]pRbser608が、内因性CPCにおける細胞周期または細胞運命決定に関与しているかどうかを決定するため、成体CPCを同定することが知られる、Wt1
+、c-kit
+およびGata4
+を含むいくつかのマーカーを発現している細胞における相違を定量化した。4週時、4つの群間で、Wt1
+、c-kit
+またはGata4
+ CPCにおける心筋存在量には相違はまったくなかった。さらに、有糸分裂マーカー、セリン-10リン酸化ヒストン-H3(HP3)との共局在は、これらのCPCのかなりの数が細胞分裂を経ていることを明らかにしたが、群間の複製CPCの相違もまた、異なる細胞療法によって影響を受けなかった(梗塞領域および境界領域において、それぞれp=0.08およびp=0.36)(
図2)。したがって、胚性幹細胞由来CPCにおけるpRbの役割同様、これらの知見は、pRbSer608が、成体Gata4
+ CPCにおいて、増殖活性よりも細胞系譜拘束を決定する証拠を提供する(
図2)。
【0156】
宿主心筋細胞におけるpRb
Ser608
[0179]次に調べたのは、内因性心筋細胞におけるpRb
Ser608の役割であった。共焦点免疫蛍光は、hCSCまたはhMSCがいずれも、宿主心筋細胞におけるpRb
Ser608のレベルに単独では影響を及ぼさないことを示した(
図1E、1F)。しかし、hMSCおよびhCSCを組み合わせて移植すると、pRb
Ser608+によって明らかであるように、pRbの大きな不活性化を生じた(梗塞領域および境界領域における心筋細胞の~60%)(
図1E、1F)。pRbSer608発現は、成体イモリ心筋細胞において、増殖活性を与えるため、群間で、心筋細胞において、有糸分裂率を分析した。hCSCまたはhMSCを単独で移植すると、療法4週後、心筋細胞増殖率は増加しなかった(
図3)。しかし、hMSCおよびhCSCを併せて移植すると、梗塞領域内のHP3
+心筋細胞の数は、hMSC処置動物に比較して3倍増加し、そしてhCSCおよびプラセボ処置群と比較して10倍増加した(p<0.0001)(
図3)。梗塞境界領域において、この増強の度合いはより大きかった:hMSCおよびhCSC療法単独に比較して、HP3
+心筋細胞の数は6倍増加し、そしてプラセボに比較して、46倍増加した(p<0.0001)(
図3)。さらに、形態計測分析によって、これらの新規形成心筋細胞の横断面面積は、プラセボ処置群の心筋細胞に比較して、有意により小さいことが示され(p<0.05)、これらが、宿主CPCs19の一過性増幅子孫である証拠を提供した(
図7)。pRb
Ser608の存在量は、有糸分裂中の心筋細胞の数と有意に相関し(
図8A)、hMSC/hCSC相互作用が、pRb
Ser608不活性化を、そして続いて心筋細胞細胞周期活性の制御を誘導するという結論をさらに支持した。
【0157】
MSC/CSC相互作用は、pRbSer608+/ARF(-)一過性増幅心筋細胞を生じる
[0180]pRb
Ser608+心筋細胞に比較して、より少ない有糸分裂心筋細胞しかなく、これは、イモリに比較して、pRb
Ser608不活性化が大規模な細胞周期再進入を誘発するのに十分ではないことを示した。ARFが、成体pRb
Ser608心筋細胞の有糸分裂への進行を抑制する可能性に取り組みため、ARF心筋発現を分析した。ARFが、すべての群の、pRb
Ser608+心筋細胞を含む、大部分の心筋細胞で発現されることが見いだされた(
図3、
図9A~9H)。しかし、hMSCおよびhCSCの組み合わせで処置したブタにおいて、ARFは、pRb
Ser608+心筋細胞の~20%で有意に抑制された(
図3)。さらに、G期から有糸分裂への進行には、ARFの一過性不活性化が必要であったが、hMSCおよびhCSCの組み合わせで処置した動物は、HP3
+/pRb
Ser608+であるがARF陰性の表現型を持つ有糸分裂心筋細胞を含有し、損傷を受けたブタ心臓内で、増殖潜在能力が広がった成熟心筋細胞が再生している証拠を提供した(
図3、
図10)。
【0158】
[0181]重要なことに、pRb
Ser608+/ARF陰性細胞は、心筋細胞有糸分裂の度合いと相関した((p=0.003);
図8B)。したがって、これらの知見は、hMSC/hCSC相互作用が、pRbおよびARF両方を不活性化することが可能であり、細胞を一過性増幅し、そして細胞周期の心筋細胞完了を容易にする。
【0159】
pRb
Ser608およびARFは、瘢痕退縮と相関する
[0182]最後に、pRb
Ser608活性が、全臓器レベルで、心筋再生を反映するかどうかを決定するため、pRb
Ser608+心筋細胞およびCPCのレベルが、瘢痕サイズの心臓MRIに基づく変化と相関するという予測を試験した。実際、梗塞領域内のpRb
Ser608+ Gata4
+ CPCのレベルは、細胞療法に反応した、心筋瘢痕サイズの減少と相関した(
図4)。対照的に、pRb
Ser608+心筋細胞のレベルは、心筋瘢痕減少と相関しなかった(
図4)。しかし、梗塞領域および境界領域内のpRb
Ser608+/ARF陰性筋細胞は、瘢痕サイズ減少%と
相関した(
図4)。したがって、これらの知見は、哺乳動物心筋細胞が、再生適格性に関する能力を有することを実証した。
【0160】
考察
[0183]網膜芽細胞腫は、細胞周期活性を制御する、成体哺乳動物組織および幹細胞ニッチにおいて広く発現される腫瘍抑制因子である(Walkley CRら Cell 2007 June 15;129(6):1081-95; Calo Eら Nature 2010 August 26;466(7310):1110-4; Burke JRら Genes Dev 2012 June 1;26(11):1156-66)。無脊椎動物および再生中の組織において、pRbは、単独で、そしてやはり細胞活性を抑制する平行経路、ARFと組み合わせて、不活性化されている(Conkrite K,ら J Clin Invest 2012 May 1;122(5):1726-33; Bettencourt-Dias Mら J Cell Sci 2003 October 1;116(Pt 19):4001-9; Pajcini KVら Cell Stem Cell 2010 August 6;7(2):198-213)。細胞療法に反応した心臓再生の成功には、内因性再生経路が伴うという認識が高まっていることを考慮して、適切な細胞での細胞療法が、宿主前駆体、一過性増幅性、および完全形成心筋細胞において、pRbおよびARFの組み合わされた不活性化を導くという仮説を試験した。総合すると、本明細書に提示するデータは、成体哺乳動物心臓組織におけるこの二重不活性化が重要な役割を果たしていることを支持する。実際、二重不活性化を伴う前駆体の存在は、幹細胞注射後の心筋回復の度合いを予測する。これらの効果は、間質細胞およびc-kit+前駆細胞の協調した作用によって仲介される。これらの知見は、成体哺乳動物において組織再生を支配する経路の解明のため、ならびに最適な細胞に基づく療法戦略の設計および実行のため、重要な暗示を有する。
【0161】
[0184]心筋梗塞のブタモデルにおける本発明者らの研究は、骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)およびcKit+心臓前駆体(CSC)の組み合わせの移植が、幹細胞療法を受けていない動物に比較して、瘢痕サイズの有意な減少および心臓機能の改善を生じることを示してきている。これらの改善には有糸分裂における小型の単核心筋細胞集団の検出頻度の有意な増加が伴い、そしてこれと相関する。共焦点顕微鏡検査を用いた免疫表現型分析によって、非有糸分裂心筋細胞と比較して、これらの有糸分裂中の小型の心筋細胞は、セリン608で、Rbの過剰リン酸化を示し(RbSer608+)、そしてARF発現を欠く。対照的に、分裂していない心筋細胞は、ARFの強い発現、およびRbの過少リン酸化状態を示す。本発明者らはまた、梗塞瘢痕領域内およびその周囲で、有糸分裂していないRbSer608+心筋細胞の大きなプールを検出した。重要なことに、これらの非分裂RbSer608+心筋細胞は、ARFを強く発現した。さらに、幹細胞療法を受けている動物は、RbSer608+でもあるGata+心筋前駆体の検出頻度の有意な増加を提示する。総合すると、これらのデータは、哺乳動物における心筋生成機構の根底にはRb活性があり、そしてRbの心臓生成活性は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤、ARFによって制御される可能性があることを示唆する。
【0162】
実施例2:Rbノックダウンは心筋細胞分化を増進する
[0185]in vitroモデルにおいて、心筋生成におけるRbの役割をさらに解明するため、ヒト胚性(hESC)および人工多能性(hIPSC)幹細胞を用いた。自発的に拍動するヒト心筋細胞へのそのin vitro分化を導くプロトコルを確立した。予備的な一連の実験において、遺伝子発現分析によって、心原性プログラムの誘導が、RbおよびARFの両方の発現の鋭い誘導と重複することが明らかになった(
図11)。これらの知見は、哺乳動物において、心筋形成の機能の根底にはRb活性があり、そしてRbの心原活性は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤、ARFによって制御されている可能性があることを示す、仮説およびブタにおけるin vivo研究(実施例1に開示する)と完全に一致する。心臓形成におけるRbの役割に関するさらなる見識を得るため、テトラサイクリン誘導性GFP発現レンチウイルスベクター(pSLIK)を用いて、Rbに対するshRNAが安定して形質導入された、hESCのトランスジェニック株を得た。この系によって、ドキシサイクリンを培地に添加することによって、hESCにおいて条件的にRbをノックダウンし、そしてGFPの発現によって、影響を受けた細胞集団の運命を観察することが可能になった。予備的な結果によって、ドキシサイクリンの添加には、蛍光顕微鏡によって測定されるようなGFPの強い発現(
図12A、B)、および対照と比較して、Rbの発現レベルの~50%の減少が伴うことが示された。
【0163】
[0186]心筋前駆体からヒト心筋細胞への分化に対するRbの役割を試験するため、hESCを心臓分化プロトコルに供した。顕著なことに、このプロトコルでは、自発的に収縮する胚様体の発展が胚様体形成7日後(EB-第7日)以内に見られた。したがって、拍動性心筋細胞に分化する前に、心臓前駆体においてRB1をノックアウトするため、ドキソサイクリンの添加をEB-第5日からEB-第8日に開始した。拍動性胚様体の定量化によって、第8日の拍動性EBの数は、RB1ノックダウンおよび対照群間で類似であったものの(
図13A)、EB-第10日までに、RB1ノックダウン群における拍動性胚様体の割合は、対照群における19.0±3.3%に比較して、44.6±3.8%であることが示された(p=0.0002、一方向ANOVA)。Rbの遺伝子発現分析によって、対照群と比較した際、dox処置EBにおけるRb発現減少が明らかになった(
図13C)。重要なことに、蛍光顕微鏡検査は、RB1ノックダウン群における拍動性EBの100%がGFP
+であることを示し、RB1 shRNAが心筋細胞への分化中に強く発現されることを示した(
図13B)。さらに、第10日のEBの遺伝子発現分析によって、対照と比較した際、Rbノックダウンが、心臓細胞系譜特異的マーカーGATA4、Isl1および心臓トロポニンI(TnnI)の転写活性を有意に増進したことが明らかになり(
図14)、ヒト心筋細胞生成の制御因子としてのRbの役割が裏付けられた。重要なことに、これらの変化には、CDK4、CDK6、E2F2およびE2F3の発現の有意な増加が伴い(
図15)、RbがCDK4/6およびE2F関連経路を通じて作動することを示唆した。さらに、CDK阻害剤CDKN1b(p21
kip1)、CDKN1c(p57
kip2)、CDKN2a(ARF)、CDKN2b(p15
Ink4b)、CDKN2c(p18
Ink4c)およびCDKN3の発現増進もまた記録された(
図16)。さらに、Rbのノックダウンは、p107およびp130の転写活性の有意な増加も誘発した(
図16)が、その活性は、心臓形成を抑制するのに十分ではなく、心筋細胞へのヒト心臓前駆体の分化が、Rbによって制御されるが、p107およびp130によっては制御されないという仮説を支持した。
【図 】