(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】上塗り塗料用二液反応硬化型水性塗料組成物、並びにこれを用いた複層膜形成方法及び塗装体
(51)【国際特許分類】
C09D 201/08 20060101AFI20220317BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20220317BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220317BHJP
C09D 127/12 20060101ALI20220317BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20220317BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220317BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220317BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20220317BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
C09D201/08
C09D163/00
C09D7/63
C09D127/12
B05D1/36 Z
B05D7/24 301F
B05D7/24 301U
B32B27/30 D
B32B27/38
C08J3/24 Z CER
C08J3/24 CEZ
(21)【出願番号】P 2017015988
(22)【出願日】2017-01-31
【審査請求日】2019-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【氏名又は名称】関口 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100152054
【氏名又は名称】仲野 孝雅
(72)【発明者】
【氏名】田辺 知浩
(72)【発明者】
【氏名】甲斐上 誠
(72)【発明者】
【氏名】加藤 瑞樹
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-186021(JP,A)
【文献】特開2013-199621(JP,A)
【文献】特開2016-132742(JP,A)
【文献】特開2008-250315(JP,A)
【文献】特開平10-259322(JP,A)
【文献】特開2014-088495(JP,A)
【文献】国際公開第2004/067658(WO,A1)
【文献】特開2016-014106(JP,A)
【文献】特開2013-166912(JP,A)
【文献】特開2009-270034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D,B05D,B32B,C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に下塗り塗料を塗装し乾燥させて下塗り塗膜を形成することと、前記下塗り塗膜に上塗り塗料を塗装し乾燥させて上塗り塗膜を形成することとを含む複層膜形成方法であって、
前記上塗り塗料は、(A)カルボキシル基含有樹脂と、(B)硬化剤と、(C)顔料と、(D)水とを含有する上塗り塗料用二液反応硬化型水性塗料組成物であって、
(B)硬化剤は、カルボジイミド基含有化合物を含み(ただし、一般式(1):
【化1】
{式中、pは1~5の整数を示し、2つのR
1は、独立して、一般式(2):
【化2】
(式中、数平均繰り返し数qが6~40の範囲にあり、R
2は炭素数1~8のアルキル基またはフェニル基を示す。)で表されるポリエチレングリコールモノアルキルエーテルの残基および/または一般式(3):
【化3】
(式中、数平均繰り返し数rが4~14の範囲にあり、R
3は炭素数1~8のアルキル基またはフェニル基を示す。)で表されるポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルの残基である。}
で表されるカルボジイミド化合物を除く)、
前記塗料組成物において、不揮発分の含有量は40~60質量%であり、
前記塗料組成物は、せん断速度0.1s
-1及び温度23℃における粘度が90~1000Pa・sであり、せん断速度1,000s
-1及び温度23℃の粘度が0.3~3Pa・sであり、
前記塗料組成物の表面張力は、55~80mN/mである塗料組成物
からなり、
前記下塗り塗料は、エポキシ樹脂を含有する二液反応硬化型水性塗料組成物からなる方法。
【請求項2】
前記上塗り塗料は、更に、(E)粘性調整剤を含有する請求項1に記載の
方法。
【請求項3】
前記上塗り塗料における(A)カルボキシル基含有樹脂は、カルボキシル基含有ふっ素樹脂を含む、請求項1又は2に記載の
方法。
【請求項4】
基材と、前記基材上に配置された下塗り塗膜と、前記下塗り塗膜上に配置された上塗り塗膜とを備える塗装体であって、
前記上塗り塗膜は、
(A)カルボキシル基含有樹脂と、(B)硬化剤と、(C)顔料と、(D)水とを含有する上塗り塗料用二液反応硬化型水性塗料組成物であって、
(B)硬化剤は、カルボジイミド基含有化合物を含み(ただし、一般式(1):
【化4】
{式中、pは1~5の整数を示し、2つのR
1
は、独立して、一般式(2):
【化5】
(式中、数平均繰り返し数qが6~40の範囲にあり、R
2
は炭素数1~8のアルキル基またはフェニル基を示す。)で表されるポリエチレングリコールモノアルキルエーテルの残基および/または一般式(3):
【化6】
(式中、数平均繰り返し数rが4~14の範囲にあり、R
3
は炭素数1~8のアルキル基またはフェニル基を示す。)で表されるポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルの残基である。}
で表されるカルボジイミド化合物を除く)、
前記塗料組成物において、不揮発分の含有量は40~60質量%であり、
前記塗料組成物は、せん断速度0.1s
-1
及び温度23℃における粘度が90~1000Pa・sであり、せん断速度1,000s
-1
及び温度23℃の粘度が0.3~3Pa・sであり、
前記塗料組成物の表面張力は、55~80mN/mである塗料組成物からなる上塗り塗料から形成され
、
前記下塗り塗膜は、エポキシ樹脂を含有する二液反応硬化型水性塗料組成物からなる下塗り塗料から形成されている塗装体。
【請求項5】
前記上塗り塗料は、更に、(E)粘性調整剤を含有する請求項4に記載の塗装体。
【請求項6】
前記上塗り塗料における(A)カルボキシル基含有樹脂は、カルボキシル基含有ふっ素樹脂を含む、請求項4又は5に記載の塗装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上塗り塗料用二液反応硬化型水性塗料組成物、並びにこれを用いた複層膜形成方法及び塗装体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護、作業者の安全、周辺への臭気低減等を図るため、水性塗料の開発が進められている。一方、市場では、塗装の手間の軽減、工期の短縮等を目的として、省工程により塗装回数を減らした塗装システムが求められてきた。
【0003】
省工程を実現する1つの手段として、例えば、下塗り塗料又は上塗り塗料として、厚膜形成可能な塗料を使用する手法が挙げられる。このような厚膜形成を可能にする手段としては、例えば、塗膜形成成分の含有量を高くし、特定の粘性調整剤を選択する方法や(特許文献1)、中空粒子を含有する方法(特許文献2)が公知である。これらは、主に下塗り塗料として用いられるエポキシ樹脂塗料や、一液型塗料に有効な手法である。
【0004】
水性の上塗り塗料としてはふっ素樹脂塗料、シリコーン樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、又はアクリル樹脂塗料が一般的に用いられる。このような塗料を用いつつ、特に耐候性等の高い塗膜性能を提供する手法としては、2液反応硬化型の塗料に硬化剤としてポリイソシアネートを含有させる方法(特許文献3及び4)が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-186021号公報
【文献】特許第5475917号公報
【文献】特開2005-187517号公報
【文献】特開2014-88495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
厚膜を形成する手法としては、例えば、塗料に添加する顔料及び/又は添加剤を工夫する方法が知られている。しかしながら、この方法を上塗り塗料に適用した場合、高性能の上塗り塗膜を形成可能な二液反応硬化型塗料として一般的なイソシアネート硬化型の水性上塗り塗料を高膜厚で塗装すると、乾燥時間が長引き、イソシアネート基も塗料中の水分と反応して二酸化炭素ガスが発生してしまうため、塗膜中、特に厚膜部に気泡が生じるという塗膜欠陥を起こしやすい。その結果、塗膜の耐久性が低下したり、塗膜の外観が損なわれたりする。また、得られる高膜厚の塗膜は、塗膜形成時の塗装作業性に優れるとともに、レベリング性に優れることが求められる。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、高膜厚で形成しても、第一に、塗膜中に気泡が生じるという塗膜欠陥を生じにくく、第二に、塗装作業性及びレベリング性に優れ、はけ塗り跡やローラーマークが目立ちにくい上塗り塗膜を与える上塗り塗料用二液反応硬化型水性塗料組成物、並びにこれを用いた複層膜形成方法及び塗装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らの検討によれば、硬化剤の少なくとも一部としてカルボジイミド基含有化合物を含み、上記硬化剤を主剤中のカルボキシル基と反応させることで塗膜を得る二液反応硬化型塗料組成物を用いると、塗膜内に気泡が発生せず、耐久性及び外観に優れた厚膜塗膜が形成できることが分かった。本発明者らの追加の検討によれば、塗料組成物の不揮発分含有量、粘度、及び表面張力を適切な値とすることで、上記硬化系を利用した厚膜塗膜を、刷毛、ローラー、及び/又はスプレーによる現地塗装で形成することができ、はけ塗り跡やローラーマークが目立ちにくい厚膜の上塗り塗膜を得ることができることを見出した。このように、本発明者らは、カルボキシル基を有する主剤と、カルボジイミド基含有化合物を含む硬化剤とを組み合わせ、得られる塗料組成物の不揮発分含有量、粘度、及び表面張力を特定の範囲に調整することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明に係る上塗り塗料用二液反応硬化型水性塗料組成物は、(A)カルボキシル基含有樹脂と、(B)硬化剤と、(C)顔料と、(D)水とを含有し、
(B)硬化剤は、カルボジイミド基含有化合物を含み、
前記塗料組成物において、不揮発分の含有量は40~60質量%であり、
前記塗料組成物は、せん断速度0.1s-1及び温度23℃における粘度が90~1000Pa・sであり、せん断速度1,000s-1及び温度23℃の粘度が0.3~3Pa・sであり、
前記塗料組成物の表面張力は、55~80mN/mである。
【0010】
本発明に係る塗料組成物の好適例において、前記塗料組成物は、更に、(E)粘性調整剤を含有する。
【0011】
本発明に係る塗料組成物の別の好適例において、(A)カルボキシル基含有樹脂は、カルボキシル基含有ふっ素樹脂を含む。
【0012】
本発明に係る複層膜形成方法は、基材に下塗り塗料を塗装し乾燥させて下塗り塗膜を形成することと、前記下塗り塗膜に上塗り塗料を塗装し乾燥させて上塗り塗膜を形成することとを含み、
前記上塗り塗料は、本発明に係る塗料組成物からなる。
【0013】
本発明に係る複層膜形成方法の好適例において、前記下塗り塗料は、エポキシ樹脂を含有する二液反応硬化型水性塗料組成物からなる。
【0014】
本発明に係る塗装体は、基材と、前記基材上に配置された下塗り塗膜と、前記下塗り塗膜上に配置された上塗り塗膜とを備え、
前記上塗り塗膜は、本発明に係る塗料組成物からなる上塗り塗料から形成されている。
【0015】
本発明に係る塗装体の好適例において、前記下塗り塗膜は、エポキシ樹脂を含有する二液反応硬化型水性塗料組成物からなる下塗り塗料から形成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高膜厚で形成しても、第一に、塗膜中に気泡が生じるという塗膜欠陥を生じにくく、第二に、塗装作業性及びレベリング性に優れ、はけ塗り跡やローラーマークが目立ちにくい上塗り塗膜を与える上塗り塗料用二液反応硬化型水性塗料組成物、並びにこれを用いた複層膜形成方法及び塗装体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
≪上塗り塗料用二液反応硬化型水性塗料組成物≫
本発明に係る上塗り塗料用二液反応硬化型水性塗料組成物は、(A)カルボキシル基含有樹脂と、(B)硬化剤と、(C)顔料と、(D)水とを含有する上塗り塗料用二液反応硬化型水性塗料組成物であって、
(B)硬化剤は、カルボジイミド基含有化合物を含み、
前記塗料組成物において、不揮発分の含有量は40~60質量%であり、
前記塗料組成物は、せん断速度0.1s-1及び温度23℃における粘度が90~1000Pa・sであり、せん断速度1,000s-1及び温度23℃の粘度が0.3~3Pa・sであり、
前記塗料組成物の表面張力は、55~80mN/mである。前記塗料組成物は、上記の構成をとることにより、高膜厚で形成しても、第一に、塗膜中に気泡が生じるという塗膜欠陥を生じにくく、第二に、塗装作業性及びレベリング性に優れ、はけ塗り跡やローラーマークが目立ちにくい上塗り塗膜を与えることができる。特に断らない限り、表面張力は、23℃で測定される。
【0018】
上記塗料組成物において、不揮発分の含有量は、40~60質量%であることが好ましく、45~55質量%であることがより好ましく、47~53質量%であることが更により好ましい。不揮発分の含有量が上記範囲内であると、十分な膜厚を有する上塗り塗膜を得やすい。なお、本明細書において、上塗り塗料用水性塗料組成物に含まれる不揮発分とは、上記塗料組成物を110℃オーブンで3時間乾燥させた後に残留する成分をいう。
【0019】
上記塗料組成物は、(A)カルボキシル基含有樹脂を含む。(A)カルボキシル基含有樹脂は、硬化剤等と反応する反応性部位として、カルボキシル基を有する。(A)カルボキシル基含有樹脂としては、例えば、カルボキシル基を含有するモノマーに由来する構成単位を含む樹脂が挙げられる。(A)カルボキシル基含有樹脂としては、1分子中に少なくとも1個のカルボキシル基を有する樹脂であり、不揮発分の酸価が、5mgKOH/g~80mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。以下、不揮発分の酸価であることを「mgKOH/g-不揮発分」という単位で表す。なお、(A)カルボキシル基含有樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
(A)カルボキシル基含有樹脂としては、カルボキシル基含有水溶性樹脂(以下、単に、「水溶性樹脂」と記載する場合がある。)及びカルボキシル基含有水分散性樹脂(以下、単に、「水分散性樹脂」と記載する場合がある。)が挙げられる。前記水溶性樹脂及び前記水分散性樹脂の各々は、1分子中に少なくとも2個のカルボキシル基を有することが好ましい。前記水溶性樹脂及び前記水分散性樹脂の各々は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、1種又は2種以上の前記水溶性樹脂と1種又は2種以上の前記水分散性樹脂とを混合して用いてもよい。
【0021】
前記水溶性樹脂としては、カルボキシル基を含有し、水溶性を有し、かつ、硬化剤(B)中のカルボジイミド基と反応して硬化するものであれば、その形態、種類等は特に限定されず、例えば、ノニオン性官能基、カチオン性官能基、又はアニオン性官能基を有するカルボキシル基含有スチレンアクリル樹脂、ノニオン性官能基、カチオン性官能基、又はアニオン性官能基を有するカルボキシル基含有アクリル樹脂、ノニオン性官能基、カチオン性官能基、又はアニオン性官能基を有するカルボキシル基含有ポリエステル樹脂等が挙げられる。ノニオン性官能基としては、例えば、アミド基、ポリオキシアルキレン基等が挙げられる。カチオン性官能基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基等が挙げられる。アニオン性官能基としては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。ノニオン性官能基、カチオン性官能基、及びアニオン性官能基の各々は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。前記水溶性樹脂としては、市販品を好適に利用できる。
【0022】
前記水溶性樹脂の形態としては、特に限定されず、水等の水性媒体に溶解した形態、水等の水性媒体に分散した形態が挙げられ、より具体的には、カルボキシル基含有水溶性樹脂水溶液が挙げられる。
【0023】
前記水分散性樹脂としては、カルボキシル基を含有し、水分散性を有し、かつ、硬化剤(B)中のカルボジイミド基と反応して硬化するものであれば、その形態、種類等は特に限定されず、例えば、カルボキシル基含有スチレンアクリル樹脂、カルボキシル基含有アクリル樹脂、カルボキシル基含有ウレタン樹脂、カルボキシル基含有シリコーン樹脂、カルボキシル基含有アクリルシリコン樹脂、カルボキシル基含有アクリルウレタン樹脂、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、カルボキシル基含有ふっ素樹脂、カルボキシル基含有アクリルふっ素樹脂等が挙げられ、長期耐久性、耐候性の観点から、カルボキシル基含有ふっ素樹脂が好ましい。前記水分散性樹脂としては、市販品を好適に利用できる。
【0024】
前記水分散性樹脂の形態としては、特に限定されず、強制乳化、自己乳化、懸濁重合、乳化重合、ミニエマルション重合等で得られ、乳化剤、親水性基等の作用で水等の水性媒体中に分散した形態が挙げられ、より具体的には、カルボキシル基含有水分散性樹脂エマルション、カルボキシル基含有水分散性樹脂ディスパージョンが挙げられる。なお、本明細書において、カルボキシル基含有水分散性樹脂エマルションとは、カルボキシル基含有水分散性樹脂が水を主成分とする水性媒体中で分散してなる乳濁液を意味し、カルボキシル基含有水分散性樹脂ディスパージョンとは、カルボキシル基含有水分散性樹脂が水を主成分とする水性媒体中で分散してなる分散液を意味する。上記カルボキシル基含有水分散性樹脂エマルションは、特に制限されないが、通常の乳化重合方式、強制乳化方式(乳化剤及び高速撹拌機等を使用する方式)等によって、水を主成分とする水性媒体中でカルボキシル基含有水分散性樹脂を乳化させることにより調製される。ここで、乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル系ノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体等のポリエーテル類;該ノニオン界面活性剤及び該ポリエーテル類の少なくとも一方とジイソシアネート化合物との付加物等が挙げられる。なお、乳化剤は、1種単独で用いても、2種以上のブレンドとして用いてもよい。
【0025】
本明細書において、(A)カルボキシル基含有樹脂は、初期の光沢が高くなりやすいとともに、耐久性に優れた上塗り塗膜が得られやすいことから、カルボキシル基含有水分散性樹脂エマルションと、カルボキシル基含有水溶性樹脂及び/又はカルボキシル基含有水分散性樹脂ディスパージョンとの組み合わせであることが好ましい。
【0026】
(A)カルボキシル基含有樹脂の重量平均分子量Mwは、塗膜性能等の観点から、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましく、5,000以上であることが更により好ましい。
【0027】
(A)カルボキシル基含有樹脂は、カルボキシル基含有ふっ素樹脂を含むことが好ましい。カルボキシル基含有ふっ素樹脂としては、例えば、含ふっ素モノマーに由来する構成単位を含むカルボキシル基含有樹脂が挙げられ、より具体的には、カルボキシル基を含有するモノマーに由来する構成単位と含ふっ素モノマーに由来する構成単位とを含む樹脂が挙げられる。上記含ふっ素モノマーとしては、例えば、ふっ化ビニル、ふっ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレン、(パー)フルオロアルキルトリフルオロビニルエーテル〔(パー)フルオロアルキル基の炭素数は、1~18個である。〕等が挙げられる。
【0028】
カルボキシル基を含有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、カルボキシアルキルアリルエステル等が挙げられる。
【0029】
(A)カルボキシル基含有樹脂の重合には、上記含ふっ素モノマー及びカルボキシル基を含有するモノマー以外の重合性モノマーを用いてもよい。かかる重合性モノマーとしては、水酸基含有重合性モノマー、ビニルエーテル類、オレフィン類、アリルエーテル類、ビニルエステル類、アリルエステル類、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、シアノ基含有モノマー類、ジエン類等、クロトン酸エステル類等が挙げられる。
【0030】
具体的に、水酸基含有重合性モノマーとしては、例えば、アリルアルコール;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、4-ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類;2-ヒドロキシエチルアリルエーテル、3-ヒドロキシプロピルアリルエーテル、4-ヒドロキシブチルアリルエーテル、4-ヒドロキシシクロヘキシルアリルエーテル等のヒドロキシアルキルアリルエーテル類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ヒドロキシ酢酸ビニル、ヒドロキシイソ酪酸ビニル、ヒドロキシプロピオン酸ビニル、ヒドロキシ酪酸ビニル、ヒドロキシ吉草酸ビニル、ヒドロキシシクロヘキシルカルボン酸ビニル等のヒドロキシアルキルカルボン酸とビニルアルコールとのエステル類;ヒドロキシエチルアリルエステル、ヒドロキシプロピルアリルエステル、ヒドロキシブチルアリルエステル、ヒドロキシイソブチルアリルエステル等のヒドロキシアルキルアリルエステル類等が挙げられる。
【0031】
上記含ふっ素モノマー、カルボキシル基を含有するモノマー、及び水酸基含有重合性モノマー以外の重合性モノマーの具体例としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、シクロヘキセン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のオレフィン類;スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン系モノマー類;メチルアリルエーテル、エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル等のアルキルアリルエーテル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、オクタン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等のカルボン酸(好ましくは脂肪酸)のビニルエステル類;プロピオン酸アリル、酢酸アリル等のカルボン酸(好ましくは脂肪酸)のアリルエステル類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸アミド等の(メタ)アクリル酸アミド類;アクリロニトリル、2,4-ジシアノブテン-1等のシアノ基含有モノマー類;イソプレン、ブタジエン等のジエン類;クロトン酸2-ヒドロキシエチル、クロトン酸4-ヒドロキシブチル等のクロトン酸エステル類等が挙げられる。
【0032】
更に、(A)カルボキシル基含有樹脂の重合には、水酸基及びカルボキシル基以外の反応性基を有する重合性モノマーを用いてもよい。かかる反応性基としては、例えば、アミド基、アミノ基、ニトリル基、グリシジル基、イソシアネート基等の官能基が挙げられる。
【0033】
具体的に、アミノ基含有重合性モノマーとしては、アミノアルキルビニルエーテル類、アミノアルキルアリルエーテル類が挙げられ、アミド基含有重合性モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられ、ニトリル基含有重合性モノマーとしては、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられ、グリシジル基含有重合性モノマーとしては、グリシジルアリルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられ、イソシアネート基含有重合性モノマーとしては、ビニルイソシアネート、イソシアナトエチルアクリレート等が挙げられる。
【0034】
上記カルボキシル基含有ふっ素樹脂は、ふっ素含有量が1~60質量%であることが好ましく、2~50質量%であることがより好ましい。上記カルボキシル基含有ふっ素樹脂のふっ素含有量が1質量%以上であれば、本発明の塗料組成物から得られる上塗り塗膜に十分な耐候性を与えやすい。また、上記カルボキシル基含有ふっ素樹脂のふっ素含有量が60質量%以下であると、該上塗り塗膜に十分な耐薬品性を与えやすい。
【0035】
上記カルボキシル基含有ふっ素樹脂は、例えば、カルボキシル基含有ふっ素樹脂エマルション及び/又カルボキシル基含有ふっ素樹脂ディスパージョンの形態で配合され、初期の光沢が高くなりやすく、更に耐久性に優れた上塗り塗膜が得られやすいことから、カルボキシル基含有ふっ素樹脂エマルションとカルボキシル基含有ふっ素樹脂ディスパージョンとの組み合わせであることが好ましい。なお、本発明において、カルボキシル基含有ふっ素樹脂エマルションとは、カルボキシル基含有ふっ素樹脂が水を主成分とする水性媒体中で分散してなる乳濁液を意味し、カルボキシル基含有ふっ素樹脂ディスパージョンとは、カルボキシル基含有ふっ素樹脂が水を主成分とする水性媒体中で分散してなる分散液を意味する。上記カルボキシル基含有ふっ素樹脂エマルションは、特に制限されないが、通常の乳化重合方式、強制乳化方式(乳化剤及び高速撹拌機等を使用する方式)等によって、水を主成分とする水性媒体中でカルボキシル基含有ふっ素樹脂を乳化させることにより調製される。乳化剤は、上述の通りである。
【0036】
前記塗料組成物に含まれる不揮発分において、(A)カルボキシル基含有樹脂の含有量は、上塗り塗膜の硬化性、防食性等の観点から、20~80質量%であることが好ましく、30~70質量%であることがより好ましく、40~60質量%であることが更により好ましい。
【0037】
上記塗料組成物は、(B)硬化剤を含む。(B)硬化剤としては、カルボジイミド基含有化合物を含む限り、特に限定されない。(B)硬化剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。カルボジイミド基含有化合物としては、例えば、カルボジイミド基含有樹脂、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド等が挙げられる。カルボジイミド基含有樹脂としては、種々のものが知られており、例えば、特開平6-56950号公報、特開平9-77839号公報等に記載の製造方法によって得られるものを使用することができ、市販品としては、商品名「カルボジライトE-02」、「カルボジライトE-03A」(以上、日清紡ケミカル株式会社製)等を挙げることができる。なお、カルボジイミド基含有化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
上記カルボジイミド基含有樹脂は、カルボジイミド基含有樹脂エマルション、カルボジイミド基含有樹脂ディスパージョン、及び/又はカルボジイミド基含有樹脂水溶液の形態で配合されるのが好ましい。なお、本発明において、カルボジイミド基含有樹脂エマルションとは、カルボジイミド基含有樹脂が水を主成分とする水性媒体中で分散してなる乳濁液を意味し、カルボジイミド基含有樹脂ディスパージョンとは、カルボジイミド基含有樹脂が水を主成分とする水性媒体中で分散してなる分散液を意味する。なお、上記カルボジイミド基含有樹脂エマルション、カルボジイミド基含有樹脂ディスパージョン、及びカルボジイミド基含有樹脂水溶液としては、入手可能な市販品を好適に使用できる。
【0039】
(B)硬化剤において、カルボジイミド基含有化合物以外の硬化剤としては、本発明の効果を損ねない限り、特に限定されず、例えば、オキサゾリン基含有化合物、ヒドラジド化合物等が挙げられる。(B)硬化剤における上記カルボジイミド基含有化合物の含有量は、塗膜中に気泡が生じにくく、良好な外観を保ちやすいことから、好ましくは50~100質量%であり、より好ましくは70~100質量%であり、更により好ましくは90~100質量%である。
【0040】
前記塗料組成物に含まれる不揮発分において、(B)硬化剤の含有量は、上塗り塗膜の硬化性、塗装性等の観点から、1~40質量%であることが好ましく、2~30質量%であることがより好ましく、3~20質量%であることが更により好ましい。
【0041】
上記塗料組成物は、(C)顔料を含む。(C)顔料としては、特に限定されず、塗料業界において一般的に使用される着色顔料、防錆顔料、体質顔料等が挙げられる。着色顔料、防錆顔料、及び体質顔料の具体例としては、酸化チタン、ベンガラ、黄色酸化鉄、カーボンブラック、トリポリりん酸アルミニウム、りん酸亜鉛、縮合りん酸アルミニウム、メタホウ酸バリウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリン、タルク、クレー、マイカ、アルミナ、ミョウバン、白土、水酸化マグネシウム、及び酸化マグネシウム等の無機顔料や、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ナフトールレッド、キナクリドンレッド、ベンズイミダゾロンイエロー、ハンザイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、及びジオキサジンバイオレット等の有機顔料が挙げられる。(C)顔料は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
上記塗料組成物に含まれる不揮発分において、顔料体積濃度(PVC)は、2~40%であることが好ましく、3~30%であることがより好ましく、4~25%であることが更により好ましい。上記顔料体積濃度(PVC)が2%以上であると、塗膜の隠ぺい性が不充分となりにくく、40%以下であると耐候性が低下しにくい。
【0043】
上記塗料組成物は、(D)水を含む。上記塗料組成物において、(D)水は、主要な分散媒として機能する。環境負荷や臭気の低減等の観点から、上記塗料組成物の揮発分(即ち、上記塗料組成物における不揮発分以外の成分)において、(D)水の含有量は、好ましくは50~100質量%であり、より好ましくは75~100質量%であり、更により好ましくは90~100質量%である。
【0044】
より厚膜の上塗り塗膜を形成しやすいように、上記塗料組成物は、更に、(E)粘性調整剤を含有してもよい。(E)粘性調整剤としては、特に限定されず、公知の粘性調整剤を用いることができ、具体的には、セルロース系粘性調整剤、有機ベントナイト、アマイド系粘性調整剤、アルカリ可溶型粘性調整剤、ウレタン会合型粘性調整剤等が挙げられる。(E)粘性調整剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
上記塗料組成物に含まれる不揮発分において、(E)粘性調整剤の含有量は、0.05~5質量%であることが好ましく、0.1~4質量%であることがより好ましく、0.15~3質量%であることが更により好ましい。(E)粘性調整剤の含有量が0.05~5質量%であると、より厚膜の上塗り塗膜を形成しやすい。
【0046】
上記塗料組成物は、上述した成分の他に、(A)カルボキシル基含有樹脂以外の結着樹脂、有機溶媒、希釈剤、防錆剤、分散剤、消泡剤、沈降防止剤、表面調整剤、レベリング剤、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤、pH調整剤等を必要に応じて適宜含んでもよい。
【0047】
上記塗料組成物は、(1)せん断速度0.1s-1及び温度23℃における粘度並びに(2)せん断速度1,000s-1及び温度23℃における粘度が、それぞれ、(1)90~1000Pa・s及び(2)0.3~3Pa・sであり、(1)100~500Pa・s及び(2)0.4~2Pa・sであることが好ましく、(1)200~300Pa・s及び(2)0.5~1Pa・sであることがより好ましい。上記(1)及び(2)の粘度がそれぞれ上記の範囲内であると、上記塗料組成物は高擬塑性となりやすいため、当該塗料組成物から十分な膜厚を有する上塗り塗膜を得やすい。上記(1)及び(2)の粘度の調整方法としては、例えば、上記塗料組成物において、粘性調整剤や水の配合量を調整する手法が挙げられる。
【0048】
上記塗料組成物の表面張力は、55~80mN/mであり、好ましくは60~75mN/mであり、より好ましくは65~70mN/mである。上記表面張力が55~80mN/mであると、得られる上塗り塗膜は、高膜厚で形成しても、塗装作業性及びレベリング性に優れたものとなりやすい。表面張力の調整方法としては、例えば、上記塗料組成物において、樹脂及び/もしくは表面調整剤の種類及び/もしくは量、並びに/又は、顔料及び/もしくは水の配合量を調整する手法が挙げられる。
【0049】
本発明に係る塗料組成物は、(A)カルボキシル基含有樹脂と(B)硬化剤とを塗装直前に混合して使用する二液反応硬化型水性塗料組成物である。(A)カルボキシル基含有樹脂及び(B)硬化剤のいずれも非危険物であるため、本発明に係る塗料組成物は、安全性に優れる。本発明に係る塗料組成物は、保存時には、(A)カルボキシル基含有樹脂と(B)硬化剤とを分けて含んでおり、塗装直前にこれらが混合される。(A)カルボキシル基含有樹脂は、通常、水や必要に応じて適宜選択される各種成分と組み合わせて保存されており、これを主剤と称する。また、(B)硬化剤も、通常、水や必要に応じて適宜選択される各種成分と組み合わせて保存されており、これを硬化剤混合物と称する。なお、本発明に係る塗料組成物の粘度を調整するため、主剤と硬化剤混合物とを混合した後に、水を更に加えてもよい。主剤と硬化剤混合物との混合により、常温で架橋が形成され、硬化反応が進行する。(A)カルボキシル基含有樹脂及び(B)硬化剤は、硬化反応時に気体を発生しないため、得られる上塗り塗膜は、厚膜で形成した場合にも、塗膜欠陥を生じにくい。
【0050】
≪複層膜形成方法≫
本発明に係る複層膜形成方法は、基材に下塗り塗料を塗装し乾燥させて下塗り塗膜を形成することと、前記下塗り塗膜に上塗り塗料を塗装し乾燥させて上塗り塗膜を形成することとを含み、
前記上塗り塗料は、本発明に係る塗料組成物からなる。
【0051】
上記基材としては、特に限定されず、例えば、鉄鋼、亜鉛、アルミニウム、銅、スズ等の金属基材;コンクリート基材;ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリオレフィン、アクリル、ABS等のプラスチック基材が挙げられる。また、防食性をより向上させることを目的として下地処理されている鉄鋼基材等も適用できる。その下地処理としては、ジンクリッチペイント、亜鉛めっき、金属溶射等が挙げられる。なお、基材の形状としては、その用途に応じて様々な形状が存在し、例えば、板状、管状等が挙げられる。上記基材は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
上記下塗り塗料としては、特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂系塗料、ウレタン樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料等が挙げられ、基材や旧塗膜への付着性、防食性等に優れる点から、エポキシ樹脂系塗料が好ましい。上記下塗り塗料は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
下塗り塗膜の厚さは、好ましくは30~300μm、より好ましくは60~130μmである。下塗り塗膜の厚さが30~300μmであると、下塗り塗膜の防食性、耐薬品性等が向上しやすい。
【0054】
上塗り塗膜の厚さは、好ましくは25~100μm、より好ましくは40~80μm、更により好ましくは50~70μmである。上塗り塗膜の厚さが25~100μmであると、隠蔽性に優れるとともに、耐候性が向上し、複層体としての塗膜寿命を長く維持できる。また、通常、下塗り塗膜と上塗り塗膜との間に中塗り塗膜を塗装するが、前述の利点を達成しうることから、この中塗り塗膜を不要とすることもでき、塗装工程を短縮することができる。
【0055】
なお、下塗り塗膜の厚さも上塗り塗膜の厚さも乾燥膜厚を指す。本明細書において、乾燥膜厚とは、23℃、50%相対湿度の条件にて168時間乾燥した後の膜厚を指す。
【0056】
下塗り塗膜は、単層であっても複層であってもよい。下塗り塗膜が複層である場合も、下塗り塗膜の厚さは、上述の通りである。下塗り塗膜が複層である場合としては、例えば、上記下塗り塗膜が第1下塗り塗膜と第2下塗り塗膜とからなる2層である場合(但し、第2下塗り塗膜が上塗り塗膜と接する。)が挙げられる。この場合、形成される複層膜は、第1下塗り塗膜、第2下塗り塗膜、及び上塗り塗膜がこの順序で積層された複層膜である。第1下塗り塗膜及び第2下塗り塗膜は、下塗り塗膜と中塗り塗膜と上塗り塗膜とからなる3層の複層膜における下塗り塗膜及び中塗り塗膜にそれぞれ該当する。
【0057】
上記複層膜形成方法において、下塗り塗料の塗装及び上塗り塗料の塗装には、特に制限されず、既知の塗装手段、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、はけ塗り、ローラー塗り等が利用できる。塗料の乾燥温度は5~35℃が好ましい。塗料の乾燥時間は、例えば、23℃、50%相対湿度においては、2~24時間が好ましく、2~16時間がより好ましい。なお、複層膜を形成するために次工程の塗料を塗り重ねる場合、例えば、23℃、50%相対湿度においては、4時間~10日乾燥させると、支障なく塗り重ねることができる。更に、補修の観点から、本発明で用いる下塗り塗料を基材上に塗装する場合においては、塗装すべき基材を既に覆っている塗膜(旧塗膜)が存在している場合がある。
【0058】
前記上塗り塗料の(1)せん断速度0.1s-1及び温度23℃における粘度並びに(2)せん断速度1,000s-1及び温度23℃における粘度については、上記塗料組成物の同様の粘度について既に説明した通りである。
【0059】
≪塗装体≫
本発明に係る塗装体は、基材と前記基材上に配置された下塗り塗膜と前記下塗り塗膜上に配置された上塗り塗膜とを備える塗装体であって、前記上塗り塗膜は、本発明に係る塗料組成物からなる上塗り塗料から形成されている。この塗装体は、例えば、基材に下塗り塗料を塗装し乾燥させて下塗り塗膜を形成することと、下塗り塗膜に上塗り塗料を塗装し乾燥させて上塗り塗膜を形成することとにより形成することができる。
【0060】
基材及び塗装方法は、本発明に係る複層膜形成方法において既に説明した通りである。また、他の点、例えば、下塗り塗膜の厚さ、上塗り塗膜の厚さ、上塗り塗膜が単層であっても複層であってもよい点についても、本発明に係る複層膜形成方法において既に説明した通りである。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。なお、下記の実施例及び比較例において、成分の量に関する「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
【0062】
<実施例1>
混合機中で、イオン交換水11.3部に、ヒドロキシエチルセルロース(粘性調整剤)0.05部、DISPERBYK-190(BYK社製顔料分散剤)0.2部、SNデフォーマー1312(サンノプコ社製消泡剤)0.2部、及び酸化チタン27.0部を撹拌環境下で徐々に投入し、粒度が15μm以下になるまで混合して混合物を得た。次いで、上記混合物に、アクリル樹脂エマルション1 59.1部、成膜助剤2.0部、及び表面調整剤0.1部を撹拌環境下で徐々に投入し、10分間撹拌を行って、実施例1の主剤を調製した。これとは別に、混合機中で、イオン交換水50.0部に、カルボジライトE-02A(日清紡ケミカル株式会社製カルボジイミド基含有化合物)50.0部を撹拌環境下で徐々に投入し、30分間撹拌を行って、実施例1の硬化剤を調製した。上記主剤と上記硬化剤とを塗装直前に85:15の質量比で混合して、実施例1の塗料を調製した。
【0063】
<実施例2~18、比較例1~13>
表1又は2に示す処方に従って、実施例1と同様の方法で、主剤及び硬化剤を調製し、上記主剤と上記硬化剤とを混合して、実施例2~18及び比較例1~12の塗料を調製した。比較例13の塗料は、大日本塗料株式会社製、イソシアネート硬化型の水性ふっ素樹脂上塗り塗料である「水性Vフロン#100H上塗」とした。
【0064】
【0065】
【0066】
(注1)アクリセットEMN-260E(日本触媒株式会社製アクリル樹脂エマルション;不揮発分44%、酸価40mgKOH/g-不揮発分)
(注2)WEM-200U(大成ファインケミカル株式会社製ウレタンアクリル樹脂エマルション;不揮発分38%、酸価16mgKOH/g-不揮発分)
(注3)WBR-016U(大成ファインケミカル株式会社製ポリウレタン樹脂ディスパージョン;不揮発分30%、酸価23mgKOH/g-不揮発分)
(注4)ルミフロンFD1000(旭硝子株式会社製ふっ素樹脂ディスパージョン;不揮発分40%、酸価15mgKOH/g-不揮発分)
(注5)BYK-307(BYK社製表面調整剤;不揮発分97%)
(注6)BYK-3455(BYK社製表面調整剤;不揮発分94%)
(注7)DISPERBYK-190(BYK社製顔料分散剤;不揮発分40%)
(注8)SNデフォーマー1312(サンノプコ社製消泡剤;不揮発分100%)
(注9)ヒドロキシエチルセルロース(セルロース系粘性調整剤;不揮発分100%)
(注10)SNシックナー617(サンノプコ株式会社製粘性調整剤;不揮発分20%)
(注11)ダルパッドC(DOWケミカル社製成膜助剤)
(注12)カルボジライトE-02A(日清紡ケミカル株式会社製カルボジイミド基含有化合物;不揮発分40%、カルボジイミド当量445g/eq-不揮発分)
(注13)カルボジライトE-03A(日清紡ケミカル株式会社製カルボジイミド基含有化合物;不揮発分40%、カルボジイミド当量365g/eq-不揮発分)
【0067】
実施例1~18及び比較例1~13の塗料について、下記の通りに特性を評価した結果を表3~8に示す。
【0068】
<不揮発分>
実施例1~18及び比較例1~13の塗料について、その各々を2gアルミカップに精秤し、これを110℃オーブンで3時間乾燥させ、次いで、残留物の質量を精秤し、元の質量に対する残留物の質量の割合を不揮発分(質量%)として求めた。
【0069】
<表面張力>
塗料の液温を23℃に調整した後、協和界面科学(株)製の自動表面張力計CBVP-Z型を使用して、白金プレート法にて表面張力を測定した。
【0070】
<粘度>
塗料の液温を23℃に調整した後、TAインスツルメンツ社製レオメーターARESを使用して、せん断速度0.1s-1の粘度、及び、せん断速度1,000s-1の粘度を測定した。
【0071】
<塗膜外観1(レベリング性)>
実施例1~18及び比較例1~13の塗料を、各々、ガラス板(2×70×150mm)に、乾燥膜厚が50~60μmとなるように刷毛を用いて塗装した。得られた塗膜を室温で1週間乾燥し、塗膜外観を下記の基準に基づいて目視で評価した。
〇:塗膜表面が滑らかで塗膜外観に優れていた。
△:塗膜表面に微小な凹凸があり、塗膜外観がやや劣っていた。
×:塗膜表面に明確な凹凸があり、塗膜外観が劣っていた。
【0072】
<塗膜外観2(発泡性)>
実施例1~18及び比較例1~13の塗料を、各々、ガラス板(2×70×150mm)に、乾燥膜厚が150~250μmとなるようにフィルムアプリケータを用いて塗装した。得られた塗膜を室温で1週間乾燥し、塗膜外観を下記の基準に基づいて目視で評価した。
〇:塗膜内部の発泡がなく塗膜表面が滑らかで塗膜外観に優れていた。
×:塗膜内部の発泡による明確な凹凸があり、塗膜外観に劣っていた。
【0073】
<塗装作業性>
実施例1~18及び比較例1~13の塗料を、各々、ブリキ板に乾燥膜厚が50~60μmとなるようにローラー及び刷毛で塗装した際の塗装作業性を、下記の基準に従って評価した。
〇:塗装作業に問題がなかった。
△:塗料が垂れやすく、又は、塗面が不均質になりやすかったため、塗装作業に熟練を要した。
×:ローラー及び/もしくは刷毛が重く、又は、軽すぎたため、均質な塗装面が形成できなかった。
【0074】
<たるみ性>
実施例1~18及び比較例1~13の塗料を用いて、JIS K 5551 7.9のたるみ性試験方法に準じて塗膜を作製し、得られた塗膜を室温で1週間乾燥した後、電磁式膜厚計を用いて塗膜の厚さを計測し、最大膜厚について下記の基準に基づいて評価した。なお、試験板はブリキ板(0.3×150×150mm)とした。
◎:最大膜厚が70μm以上であった。
〇:最大膜厚が50μm以上、70μm未満であった。
△:最大膜厚が25μm以上、50μm未満であった。
×:最大膜厚が25μm未満であった。
【0075】
<耐湿性>
清浄度がISO Sa2.5、表面粗さがRzJISで25μmになるようグリットブラスト処理した鋼板(3.2×70×150mm)に大日本塗料株式会社製の水性エポキシ樹脂下塗り塗料である「水性エポオール」を乾燥膜厚が60μmとなるよう試験板の両面にスプレー塗装し、23℃、相対湿度50%の条件下で24時間乾燥させた後、片面に実施例1~18及び比較例1~13の塗料を、各々、乾燥膜厚が55μmとなるようスプレー塗装した。更に24時間後に「水性エポオール」で試験板側面を塗り包み、その後6日間同条件下で乾燥し、目的とする塗板を得た。得られた塗板を、JIS K 5600-7-2の塗膜の長期耐久性、耐湿性(連続結露法)に準じて120時間試験した。試験後23℃、相対湿度50%の条件下に2時間静置し、下記の基準に基づいて目視で評価した。
〇:塗膜表面に割れ、ふくれ、はがれ等の異常が認められなかった。
×:塗膜表面に割れ、ふくれ、はがれ等の異常が認められた。
【0076】
<耐候性>
実施例1~18及び比較例1~13の塗料を、各々、アルミ板(1×70×150mm)に、乾燥膜厚が55μmとなるようスプレー塗装した。得られた塗膜を室温で1週間乾燥し、目的とする塗板を得た。作製した塗板の乾燥後の塗膜を、JIS K 5600-7-7の塗膜の長期耐久性、促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)のサイクルAに準じて試験した後の塗膜の光沢保持率及び塗膜の外観を目視で判定した。なお、光沢保持率は、BYKガードナー社製の光沢計(BYKガードナー・マイクロ-グロス)によって試験前後の塗膜の60°鏡面光沢度を測定し、以下の式によって算出した。
※光沢保持率(%)= 試験後の塗膜の鏡面光沢度(60°)/試験前の塗膜の鏡面光沢度(60°)×100
◎:試験時間2000時間での光沢保持率が80%以上であった。
○:試験時間500時間での光沢保持率が80%以上、試験時間2000時間での光沢保持率が80%未満であった。
×:試験時間500時間での光沢保持率が80%未満であった。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】