(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】自律走行型掃除機、及び、自律走行型掃除機と充電台とを有するシステム
(51)【国際特許分類】
A47L 9/28 20060101AFI20220317BHJP
【FI】
A47L9/28 E
A47L9/28 U
(21)【出願番号】P 2017052065
(22)【出願日】2017-03-17
【審査請求日】2019-08-07
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 康博
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 則和
(72)【発明者】
【氏名】風間 敦
(72)【発明者】
【氏名】山上 将太
(72)【発明者】
【氏名】橋本 翔太
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】田合 弘幸
【審判官】塩澤 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-105829(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163374(WO,A1)
【文献】特開2015-80560(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0278599(US,A1)
【文献】特開2013-172961(JP,A)
【文献】特開2015-142328(JP,A)
【文献】特開2014-71846(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104640(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L 9/22-9/32
G05D 1/00-1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、
2つの撮像部と、
前記本体の周囲の少なくとも一部に設けられ、前記本体に対してバンパばねを備えるバンパと、を有する一般家庭の部屋を走行する自律走行型掃除機であって、
前記バンパは、バンパフレームと、バンパシェードと、を有し、
2つの前記撮像部の間に赤外線センサを有し、
前記バンパフレームは、略平板状の平板部を有し、該平板部に、2つの前記撮像部が取り付けられ、
前記撮像部は、前記バンパフレーム及び前記バンパシェードの間に位置し、
前記撮像部の光軸上に前記バンパの一部が位置し、
前記撮像部は、前記バンパとともに可動に取り付けられるとともに、前記バンパの最外周面よりも内側に位置し、
前記バンパシェードのうち、前記撮像部の光軸上の部分は、可視光を透過させる材料で形成されている又は孔部であ
り、
前記バンパシェードのうち、前記赤外線センサの光軸上の部分は、赤外線の透過率が可視光及び紫外線の透過率よりも大きい材料で形成されていることを特徴とする自律走行型掃除機。
【請求項2】
前記バンパシェードは、前記撮像部のうち、1つ以上又は全部の光軸上の部分が凹んでいる凹部を有することを特徴とする
請求項1に記載の自律走行型掃除機。
【請求項3】
前記撮像部は、前記撮像部の光軸が床面に対して略平行又は斜め下方を向くように配されていることを特徴とする請求項1
または2に記載の自律走行型掃除機。
【請求項4】
前記撮像部を2
つ固定して有し、
前記撮像部の1つ又は2
つは、撮像範囲に当該
自律走行型掃除機の一部を含んでいることを特徴とする請求項1乃至
3の何れか一項に記載の自律走行型掃除機。
【請求項5】
前記バンパフレーム及び前記バンパシェードよりも前記本体に対して外側に位置するバンパ縁部、又は、上下方向に略垂直な回転軸で回転するサイドブラシを有し、
前記撮像部の1つ又は2
つは、前記バンパ縁部又は前記サイドブラシを撮像範囲に含んでいることを特徴とする
請求項4に記載の自律走行型掃除機。
【請求項6】
基準点と、帰還信号を発する発信部と、を有する
充電台と
、
前記撮像部を2
つ有する請求項1乃至
5の何れか一項に記載の自律走行型掃除機と、
前記自律走行型掃除機に設けられ、前記充電台に対して電気的に接続可能な接続部と、
を有するシステムであって、
前記自律走行型掃除機は、前記帰還信号を利用して前記
充電台に接続する接続状態になり、該接続状態において前記自律走行型掃除機が測定する距離を調整もしくは較正するキャリブレーションを実行でき、
前記キャリブレーションは、前記撮像部で撮影された撮像情報の座標を修正することであって、
前記基準点
は、前記キャリブレーションに用いられるものであって、
前記自律走行型掃除機が前記充電台に対して電気的に接続している際の、前記撮像部から前記基準点までの既知の距離をもとに撮像情報の座標を換算する際の係数を修正することを特徴とするシステム。
【請求項7】
前記自律走行型掃除機の前縁は、前記充電台との接続状態において、前記充電台の前縁に沿う曲線状であることを特徴とする
請求項6に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律走行型掃除機、及び、自律走行型掃除機と充電台とを有するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、室内を自律的に移動しつつ掃除する自律走行型掃除機が知られている。特許文献1は、本体ケース20に離間されて配置され、互いに視野が重なるように本体ケース20の走行方向側を撮像し、物体の深度を計算するカメラ51,52,53を有する自律走行型掃除機を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開WO2016/104640号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自律走行型掃除機は、本体ケースに障害物や壁面等が接触した場合に、この接触を検知すべく、本体ケース側周を、水平方向に可動なバンパとすることがある。一方、自律走行型掃除機の走行方向側を撮影できるようにカメラを取り付ける場合、カメラをやはり側周に設置することが考えられる。すると、バンパやカメラの設置態様によっては、バンパを形成する部材の屈折率や透過可能な波長帯といった物性、障害物等への接触によるカメラの位置ずれや破損の虞、等を考慮する必要が生じる。しかし、特許文献1は、これら課題に鑑みたカメラ及びバンパの関係、カメラやバンパそれ自体の構成等を何ら開示していない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記事情に鑑みてなされた本発明は、本体と、2つの撮像部と、前記本体の周囲の少なくとも一部に設けられ、前記本体に対してバンパばねを備えるバンパと、を有する一般家庭の部屋を走行する自律走行型掃除機であって、前記バンパは、バンパフレームと、バンパシェードと、を有し、2つの前記撮像部の間に赤外線センサを有し、前記バンパフレームは、略平板状の平板部を有し、該平板部に、2つの前記撮像部が取り付けられ、前記撮像部は、前記バンパフレーム及び前記バンパシェードの間に位置し、前記撮像部の光軸上に前記バンパの一部が位置し、前記撮像部は、前記バンパとともに可動に取り付けられるとともに、前記バンパの最外周面よりも内側に位置し、前記バンパシェードのうち、前記撮像部の光軸上の部分は、可視光を透過させる材料で形成されている又は孔部であり、前記バンパシェードのうち、前記赤外線センサの光軸上の部分は、赤外線の透過率が可視光及び紫外線の透過率よりも大きい材料で形成されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態1に係る自律走行型掃除機を左前方から見た斜視図。
【
図2】実施形態1に係る自律走行型掃除機の下面図。
【
図4】実施形態1に係る自律走行型掃除機のバンパシェードを外してバンパ内部構成を観察可能にした斜視図。
【
図5】実施形態1に係る自律走行型掃除機の制御装置、及び制御装置に接続される機器を示す構成図。
【
図6】実施形態1に係る自律走行型掃除機の充電台を左前方から見た斜視図。
【
図7】実施形態1に係るキャリブレーション時の状態を左側面から見た図。
【
図8】実施形態2に係る自律走行型掃除機の断面図。
【
図9】実施形態2に係る自律走行型掃除機のバンパシェードを外してバンパ内部構成を観察可能にした斜視図。
【
図10】実施形態3に係る自律走行型掃除機を左前方から見た斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について、適宜添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0008】
<<実施形態1>>
(自律走行型掃除機S)
図1は実施形態1に係る自律走行型掃除機Sを左前方から見た斜視図、
図2は実施形態1に係る自律走行型掃除機Sの下面図、
図3は
図1のA-A断面図、
図4は実施形態1に係る自律走行型掃除機Sのバンパシェード2cを外したバンパ2内部構成を示す斜視図、
図5は実施形態1に係る自律走行型掃除機Sの制御装置10、及び制御装置10に接続される機器を示す構成図である。
【0009】
自律走行型掃除機Sが進行する向きのうち、自律走行型掃除機Sが主に進行する方向を前方、鉛直上向きを上方、駆動輪3,4が対向する方向であって駆動輪3側を右方、駆動輪4側を左方とする(
図2参照)。すなわち
図1等に示すように前後、上下、左右方向を定義する。
【0010】
自律走行型掃除機Sは、所定の掃除領域(例えば、部屋の床面Y)を自律的に移動しながら自動的に掃除する電気機器である。電気機器としては、移動可能でカメラ等の撮像部を有し、壁や障害物などとの接触によって、この接触した事実を検知する機能を有するものが考えられる。
【0011】
自律走行型掃除機Sは、本体ケース1、本体ケース1の側周を覆うバンパ2、一対の駆動輪3,4、補助輪5、およびサイドブラシ8a,8bを備えている。
【0012】
(本体ケース1)
本体ケース1は、自律走行型掃除機Sの上面の少なくとも一部を形成する上カバー1u及び自律走行型掃除機Sの底面の少なくとも一部を形成する下ケース1sを有する。
【0013】
(バンパ2)
バンパ2は、自律走行型掃除機Sの側周略全体に設けられている。このようなバンパ2としては、例えば無底の略筒形状として形成することができるが、少なくとも自律走行型掃除機Sの前方側の側周が水平方向、特に前後方向に可動な態様で設けられていればよい。バンパ2は、自律走行型掃除機Sが移動するに伴って障害物等に接触した場合、接触に伴う力で押されることで自律走行型掃除機S内側(自律走行型掃除機Sの前方側でバンパ2に接触した場合は、後方)に向けて変位することができる。バンパ2の詳細は後述する。
【0014】
(駆動輪3,4)
駆動輪3,4は、下ケース1s側に取り付けられており、駆動輪3,4自体が回転することで自律走行型掃除機Sを前進、後退、旋回させることができる駆動部の一例としての車輪である。駆動部は、電気機器の一例である自律走行型掃除機Sを床面Yに対して移動させることができる。駆動輪3,4は左右両側に配置されており、それぞれ走行モータ3m,4mおよび減速機で構成される車輪ユニットにより回転駆動される。駆動輪3,4は、前後方向について自律走行型掃除機Sの略中央で、左右方向について下ケースの外周寄りに(外側に)設けられている。
【0015】
(補助輪5)
補助輪5は従動輪であり、自由回転するキャスタである。補助輪5は、前後方向について自律走行型掃除機Sの前方側、左右方向について略中央に設けられている。補助輪5は、駆動輪3,4とともに下ケース1sを床面Yから所定高さに保たせることに寄与する。駆動輪3,4及び補助輪5によって、自律走行型掃除機Sを円滑に移動させることができる。補助輪5は、自律走行型掃除機Sの移動に伴い床面Yとの間で生じる摩擦力によって従動回転し、さらに向きが水平方向に360°公転できるように、下ケース1sに軸支されている。
【0016】
(サイドブラシ8)
サイドブラシ8a,8bは、自律走行型掃除機Sの下ケース1sの下方であって、自律走行型掃除機Sの前方側、左右方向の下ケースの外周寄りに(外側に)設けられている。サイドブラシ8a,8bは
図2の矢印α1のように、自律走行型掃除機Sの前方外側の領域を、左右方向外側から内側に向かう方向に掃引するよう回転して、床面上の塵埃を中央の回転ブラシ6(
図2参照)側に集める。なお、サイドブラシ8a、8bは、それぞれサイドブラシモータ8am、8bm(
図5参照)で、上下方向に略垂直な回転軸で回転駆動される。サイドブラシ8a,8bは、1つ又は2つ以上の毛又は毛束が回転する。
【0017】
(制御装置10)
自律走行型掃除機Sは、充電池9、制御装置10を内部に備えている。
充電池9は、制御装置10、走行モータ3m,4m等の各種モータ、バンパセンサ19、ステレオカメラ20、前方測距センサ21や床面用測距センサ22等の各種センサに電力を供給する。
【0018】
自律走行型掃除機Sは、制御装置10により統括的に制御される。制御装置10は、例えばマイコン(Microcomputer)と周辺回路とが基板に実装され、構成される。マイコンは、ROM(Read Only Memory)に記憶された制御プログラムを読み出してRAM(Random Access Memory)に展開し、CPU(Central Processing Unit)が実行することで各種処理が実現される。周辺回路は、A/D・D/A変換器、各種モータの駆動回路、センサ駆動回路、充電池9の充電回路等を有している。
【0019】
制御装置10は、利用者による命令を入力可能な操作ボタン18の操作や、バンパセンサ19、床面用測距センサ22、前方測距センサ21、ステレオカメラ20から入力される信号に応じて演算処理を実行し、演算処理後の信号を出力する。
【0020】
(バンパ2の構造)
バンパ2は、本体ケース1の側周の少なくとも一部を覆う、例えば中空無底の筒形状のバンパフレーム2aと、バンパフレーム2aよりも自律走行型掃除機Sにおいて出っ張った位置にあるバンパ縁部2bと、バンパフレーム2aよりも自律走行型掃除機Sにおいて外側に位置し、かつ、バンパ縁部2bよりも内側に位置するバンパシェード2cとを有する。
【0021】
バンパフレーム2a、バンパ縁部2b及びバンパシェード2cは、壁等の障害物への衝突によって作用する力に応じて水平方向(前後、左右方向)に一体に移動可能に設置されている。
【0022】
バンパフレーム2aは、上述のように無底の略筒形状に構成することができるが、その一部は平板状に形成されている。バンパフレーム2aは、平板状の平板部2apと、下端側に位置して外側に出っ張る方向に延出している延出部2aa、延出部2aa外端に設けられて上下方向に延びる縁固定部2abを有している。平板部2apには、後述するステレオカメラ20が設けられている。
【0023】
バンパ縁部2bは、バンパ2の例えば下端側に設けられており、バンパフレーム2a及びバンパシェード2cよりも外側に出っ張っている。バンパ縁部2bは、縁固定部2abに取り付けられている。
【0024】
バンパ縁部2bは、バンパフレーム2a、バンパシェード2cおよび本体ケース1より軟質な材質で形成されており、その材料としては例えば、エラストマー等の樹脂材を採用できる。これにより、自律走行型掃除機Sが家具等に衝突しても、家具等が破損することを抑制できる。
【0025】
バンパシェード2cは光を透過させる樹脂又はガラスで形成されている。バンパシェード2cのうち少なくとも、後述する前方測距センサ21の近傍は、赤外線の透過率が可視光及び紫外線の透過率よりも大きい材料で形成されており、好ましくは、赤外線のみを透過させる材料、例えば樹脂又はガラスで形成されている。これにより、紫外線や可視光が受光部に入り込んで、障害物までの距離を誤認識する虞を低減できる。また、バンパシェード2cは、バンパ縁部2bよりも内周側に位置しているため、自律走行型掃除機Sが障害物等に接触する場合、バンパシェード2cよりも先にバンパ縁部2bが接触しやすい。このため、バンパシェード2cに傷が付くことを抑制できる。
【0026】
このようなバンパ2は左右一対のバンパばねによって本体ケース1に対して外向きに付勢されている。バンパ2を介して障害物と衝突した際の作用力がバンパばねに作用すると、バンパばねは平面視で内側に倒れ込むように変形し、バンパ2を外向きに付勢しつつバンパ2の本体ケース1の内側方向への移動を許容する。バンパ2が障害物から離れて作用力がなくなると、バンパばねの付勢力によってバンパ2は元の位置に復帰する。バンパばねの具体的態様は種々公知のものを採用できる。
【0027】
このバンパ2の移動(つまり、障害物との接触)は、下ケース1sに固定されたバンパセンサ19によって検知される。バンパセンサ19としては例えばフォトカプラを採用できる。バンパ2が後退すると、フォトカプラのセンサ光が遮られることになり、遮られることによる変化に応じた検知信号が制御装置10に出力される。制御装置10は駆動輪3,4を制御し、自律走行型掃除機Sを後退させた後、進行方向を転換させ、障害物から遠ざける。
【0028】
(前方測距センサ21)
図4に例示する前方測距センサ21は、障害物までの距離を検出する赤外線センサである。本実施形態では、正面1箇所と左右側面それぞれ2箇所の計5か所(1か所図示せず)に前方測距センサ21を設けた。前方測距センサ21は、赤外線を発光させる発光部と、赤外線が障害物で反射して戻ってくる反射光を受光する受光部とを有している。受光部によって検出される反射光に基づいて、障害物までの距離が算出される。具体的には反射光を受ける位置、反射光を受けるまでの時間、反射光の量、強さ等に基づいて、障害物までの距離が算出される。これら5箇所の前方測距センサ21はバンパシェード2cとバンパフレーム2aの間で、バンパフレーム2aに固定されている。
【0029】
前方測距センサ21のうち、一部は後述するカメラ20a,20bの間に位置している。
【0030】
(ステレオカメラ20)
ステレオカメラ20は、2つのカメラ20a,20bの撮像の差から撮影された対象物の距離を算出する機器である。それぞれのカメラ20a,20bによる撮像における対象物の位置が大きく異なる場合、その対象物はステレオカメラ20に近い位置にあり、逆に撮像における対象物の位置がほぼ同じ場合、その対象物はステレオカメラ20から遠い位置にあると判断する。なお、この算出は制御装置10で行う。
【0031】
ステレオカメラ20はバンパ2に固定されており、好ましくは、バンパシェード2cとバンパフレーム2aの間に位置し、バンパフレーム2aに固定されている。本実施形態では、カメラ20a,20bは、左右方向について自律走行型掃除機S本体の中央側に位置している。
【0032】
カメラ20a,20bは、床面Yから略同じ高さに位置している。また、2つのカメラ20a,20bは、駆動輪3,4の回転軸同士をつなぐ仮想軸から略等しい距離だけ前方に位置している。さらに、それぞれのカメラ20a,20bの光軸(撮影方向)は、駆動輪3,4の回転軸同士をつなぐ仮想軸に略垂直で、本体の前方に向けられている。つまり2つのカメラ20a,20bの光軸は、自律走行型掃除機Sの通常の進行方向に略平行であるとともに、2つのカメラ20a,20bの光軸は互いに略平行になっている。このような配置にすることで、2つのカメラ20a,20bの位置は左右方向にのみ、ずれが大きいものになり、2つのカメラ20a,20bの撮像に写る対象物について、その左右方向のずれ量を計測することで、比例計算によりステレオカメラ20からの距離に換算することができ、カメラの光軸が平行でないものと比べ、制御装置10で行われる処理を簡単にすることできる。
【0033】
また、カメラ20a,20bは、自律走行型掃除機S本体の左右幅の中央位置に対して略対称に固定されている。これにより、自律走行型掃除機Sに近接する障害物等を左右方向略均等に観測できる。
【0034】
(バンパ2とステレオカメラ20との関係)
ステレオカメラ20の前方はバンパシェード2cで覆われている。これにより、ステレオカメラ20に水等の液体がかかることを抑制できる。バンパシェード2cを設けても撮像にずれが生じたり撮像が困難になることを抑制するべく、バンパシェード2cのうち少なくともステレオカメラ20の近傍は、可視光を透過させる材料、例えば樹脂又はガラスで形成されている。
【0035】
ステレオカメラ20は、それぞれのカメラ20a,20bの向きや互いの位置がずれると、距離測定の精度が低下する傾向にある。障害物への接触等の衝撃をバンパばねでバンパ2を支持することで、カメラ20a,20bの向きや位置にずれが生じることを抑制できる。
【0036】
また、ステレオカメラ20はバンパシェード2cを介して撮影しているが、バンパシェード2cが撮像に際して与える影響を無視できる程度に均一な厚みで作られているとは限らない。バンパシェード2cの厚みが、バンパシェード2c中で位置依存性を有しており、その依存性が無視できない程度の場合、障害物との接触等に伴ってカメラ20a,20bの一方又は両方に対するバンパシェード2cの位置が相対的に変位すると、カメラ20a,20bそれぞれの前方の厚みが変動するため、光軸上の屈折率が変化する。これにより、撮像にゆがみが生じ、計測距離に誤差が生じる。
【0037】
自律走行中、カメラ20a,20bの光軸上のバンパシェード2cの厚みが変化しなければ、ゆがみの生じている部分を無視する等の処理により、算出する距離に誤った結果を反映させないことが可能である。しかし、自律走行中にバンパシェード2cとステレオカメラ20の相対位置がずれ、光軸上のバンパシェード2cの厚みが変動した場合、算出する距離に誤りが生じてしまう。この現象を防ぐためにも、本実施形態のようにバンパシェード2cとステレオカメラ20の相対位置がずれないように、ステレオカメラ20はバンパ2に固定することが望ましい。すなわち、バンパ2のうち、ステレオカメラ20が取り付けられている部材と、バンパシェード2cとが一体で移動して相対移動が抑制されていることが好ましい。なお、ステレオカメラ20に代えて単眼カメラをバンパ2に固定してもよい。
【0038】
また、カメラ20a又はカメラ20b近傍のバンパシェード2cに傷がつくと、傷によって撮像に隠された部分が生じ、計測距離に誤差が生じる。自律走行中、この隠された部分の位置が撮像に対して移動しなければ、この隠された部分を無視する等の処理により、算出する距離に誤った結果を反映させないことが可能である。誤検知を抑制するためにも、自律走行中にバンパシェード2cの傷とステレオカメラ20の相対位置がずれないように、ステレオカメラ20はバンパ2に固定することが望ましい。
【0039】
ステレオカメラ20は自律走行型掃除機Sが主に進行する向き(前向き)に設置されており、前方に障害物(壁、椅子の脚、階段等の段差、敷居等)がないか判定する。床面Yの段差の有無を精度よく判定するには、2つのカメラ20a,20bによる撮像に床面Yが写ることが好ましい。このため、2つのカメラ20a,20bの光軸を床面に対して略平行又は斜め下方を向くように配することが望ましい。
【0040】
また、撮像により算出した距離と実際の距離を高精度に比較確認するために、少なくともバンパ2の一部又はサイドブラシ8a、8bの一部が2つのカメラ20a,20bによって撮像されるほうが望ましい。これにより、バンパ2やサイドブラシ8a,8bと2つのカメラ20a,20bとの距離は既知であるから、この距離情報を利用して障害物等と自律走行型掃除機Sとの距離の算出制度を向上させることができる。なお、サイドブラシ8a,8bのうち、先端部分が撮像されることが好ましい。
【0041】
バンパ縁部2bが撮像範囲の多くの割合を占めないように、カメラ20a,20bはバンパ2の高さ方向の中央又は中央より上側に設けられることが望ましい。また、サイドブラシ8a、8b先端が撮像できるように、自律走行型掃除機Sの上面視で、サイドブラシ8a及び/又はサイドブラシ8bの先端はバンパ縁部2bよりも外側に届くようにすることが好ましい。
【0042】
ステレオカメラ20で撮像した情報を時系列的につなぎ合わせることで、制御装置10は、外界(掃除する領域)の状態(どこに障害物があるか等)や掃除する領域に対する自律走行型掃除機S自身の位置を把握することができる。この情報を基に、壁、階段等の段差、バンパ2より低いが乗り越えることができない高さと判断される敷居等に近づいたら方向転換してその場から離れたり、椅子の脚に近づいたらその周りを掃除したり、掃除する経路を決定および修正することができる。
【0043】
なお、この様な走行制御を行うためにも、カメラ20a,20bは広い範囲の状況を認識したほうが良く、視野角が60度以上の広角のものが望ましい。さらに視野角の広い魚眼レンズを搭載したカメラを用いても構わない。
【0044】
(キャリブレーション(較正))
できるだけカメラ20a,20bの位置や向きがずれないように固定したステレオカメラ20でも、自律走行を繰り返すうちに少しずつずれることが想定される。カメラ20a,20bの位置がずれ、測定距離に誤差が生じた場合、キャリブレーションする必要がある。このキャリブレーションはステレオカメラ20自体の位置を調整するのではなく、撮像情報を制御装置10で換算する際の係数等を修正する。
【0045】
図6は自律走行型掃除機Sの充電台30の斜視図、
図7は自律走行型掃除機Sがキャリブレーションしているときの状態を示す図であり、自律走行型掃除機Sが充電台30と接続している状態を左側面から見た図である。本実施形態では、電気機器の一例としての自律走行型掃除機Sが接続するベースの一例として、充電台30を挙げて説明するが、ベースには必ずしも電気機器の充電機能を設ける必要はなく、電気機器の撮像部と後述の基準点との位置関係が略所定の状態で電気機器がベースに接続するように帰還信号を発することができればよい。
【0046】
自律走行型掃除機Sは、底面に充電台30との接続部31を有している。充電台30は側面視略L字状になっており、電子基板を内蔵して床面Yに設置される充電台ボディ30aと、充電台ボディ30aの後方に位置し、充電台ボディ30aよりも上方に向かって延在している調整板30bと、充電台ボディ30aから前方向に延びる充電台端子部30cと、帰還信号を発する発信部30eとを有する。
【0047】
調整板30bのうち、充電台ボディ30a側の面には、幾何学模様30dが描かれている。
【0048】
充電台ボディ30aは上方から見ると、その前縁は略円弧状になっており、自律走行型掃除機Sが充電台30に接続した状態では、バンパ縁部2bの前縁に沿う形状である。すなわち、バンパ縁部2b及び充電台ボディ30aは、互いの前縁が広い範囲で略接することができる形状関係にある。これにより、自律走行型掃除機Sが充電台30に接続するに際して、自律走行型掃除機Sの充電台30に対する向きが略一定になるよう案内できる。このような案内を効果的に行うために、充電台ボディ30aの前縁や自律走行型掃除機Sの前縁は、略直線状でなく曲線状であることが好ましい。
【0049】
充電時には、自律走行型掃除機Sのバンパ縁部2bと充電台ボディ30aが合致するとともに、自律走行型掃除機Sの底面に設けられた充電端子31と充電台端子部30cが電気的に接続される。これらの電気的な接続は、充電台30が発する帰還信号を自律走行型掃除機Sが検知し、帰還信号の情報を利用して充電端子31及び充電台端子部30cが電気的に接続する状態になるまで移動する、いわゆる帰還制御を種々公知の方法で行うことで達成できる。キャリブレーションは、充電端子31及び充電台端子部30cが電気的に接続した状態(接続状態)で行うことができる。この状態で行うことで、ステレオカメラ20及び幾何学模様30dの位置関係を略一定の状態にし易い。
【0050】
キャリブレーションは、幾何学模様30dを基準点として行われる。基準点と2つのカメラ20a,20bとの距離が近すぎると、基準点がカメラ20a,20bの視野角から外れ、撮像されず、キャリブレーションが行えない虞がある。基準点としては、幾何学模様30dのような、面に描かれた模様に限られず、キャリブレーション処理に用いることができる種々公知のものを採用できる。
【0051】
2つのカメラ20a,20bの両方に幾何学模様30dを撮像させるために、幾何学模様30dが描かれた調整板30bの面は、充電台ボディ30aの前縁より後方に位置している。ステレオカメラ20と幾何学模様30dは、接続状態で20mm以上離れていることが望ましい。例えば、ステレオカメラ20間の距離を50mm、幾何学模様30dを構成する小模様30daのうちの1つの横幅を20mm、1つのカメラの視野角を120度とした場合、ステレオカメラ20と幾何学模様30dを20mm以上離すことで、少なくともそれぞれ1つ以上の小模様30daを2つのカメラで撮像可能となる。本実施形態では、3つ分の小模様30daの寸法に亘って、小模様30daが上下方向及び左右方向にそれぞれ並んでいる。
【0052】
このように充電台30の前方に自律走行型掃除機Sを位置させた状態で、ステレオカメラ20のキャリブレーションを行う。自律走行型掃除機Sと充電台30が接続された状態では2つのカメラ20a,20bから基準点までの距離は既知であり、この既知の距離をもとに2つのカメラ20a,20bからの撮像のずれを計測することで、撮像からの換算計算の係数等を修正する。
【0053】
また、接続状態で前方測距センサ21のキャリブレーションを行っても良い。接続状態における前方測距センサ21(特に、2つのカメラ20a,20bの間に位置する前方測距センサ21)から調整板30bまでの距離は既知であるから、この状態における前方測距センサ21の検出値(検出距離)がこの既知の値に一致するように前方測距センサ21をキャリブレーションすることができる。このように、前方測距センサ21のキャリブレーションも可能であるから、調整板30bは、複数又はすべての前方測距センサ21の光軸上に届くことができる寸法であることが好ましい。この場合、調整板30bは、前方測距センサ21の出力する光又は音の波長(例えば赤外線)に対する反射率が比較的高い材料で形成されていると好ましい。なお、前方測距センサ21としては、例えばPSDセンサを用いることができる。
【0054】
また、前方測距センサ21の検出値を基に、ステレオカメラ20のキャリブレーションの実行不実行を判定することができる。例えば、自律走行型掃除機Sが充電台30に対して、垂直に帰還しなかった場合(調整板30bに対して垂直に帰還しなかった場合)、前方測距センサ21の検出値が、垂直に帰還した場合とは異なる値になる。この場合、ステレオカメラ20の光軸が幾何学模様30dに対して垂直ではないものと考えられるため、キャリブレーションを行わないようにすることができる。或いはこの場合、前方測距センサ21の検出値が、ステレオカメラ20の光軸が幾何学模様30dに対して垂直であるときの検出値に近づくように駆動輪3,4を制御して本体位置を調整し、その後にキャリブレーションを行うことができる。
【0055】
駆動輪3,4の制御は、自律走行型掃除機Sを超信地旋回させ、前方測距センサ21の検出値が略最小の場所で停止させるようにすることが好ましい。このようにすることで、キャリブレーション時におけるステレオカメラ20と幾何学模様30dとの距離を略一定に保つことができる。
【0056】
なお、キャリブレーションを行う自律走行型掃除機Sと充電台30の許容接続角度(接続状態であると判定する角度)は、垂直な状態から約10度以内のずれにすることが望ましい。例えば、カメラ20a,20b間の距離を50mm、それぞれのカメラ20a,20bの視野角を120度、ステレオカメラ20と幾何学模様30dとの距離を20mm、カメラ20a,20bの横方向の画素を16画素とした場合、自律走行型掃除機Sと充電台30との接続角度のずれを10度以下とすることで、キャリブレーション中の撮像のずれが1画素中に収まる。
【0057】
キャリブレーションは、充電中か否かに拘らず、充電台30との接続状態であればそのタイミングは制限されない。例えば充電完了後や充電開始前に行っても良い。なお、キャリブレーションでは修正ができない程度カメラ20a,20bの位置や向きがずれている場合は、キャリブレーションを通じてその旨を検知し、例えば上ケース1u側に設けた表示パネル17等によりユーザーに報知しても良い。
【0058】
<<実施形態2>>
本実施形態の構成は、次の点を除き実施形態1と同様にできる。
図8は本実施形態の自律走行型掃除機Sの断面図である。バンパシェード2cは、ステレオカメラ20の光軸上近傍の部分が内側に(本体中心側に)凹んでいる凹部2caとなっている。これにより、凹部2caの傷付き等を抑制できる。
【0059】
図9は本実施形態の自律走行型掃除機Sのバンパシェード2cを外した状態の斜視図である。
【0060】
本実施形態の自律走行型掃除機Sは、撮像部として3つのカメラ20a,20b,20cを搭載している。具体的には、実施形態1に比して、カメラ20a,20bの間に第3のカメラ20cが設けられている。カメラ20cは本体左右幅の略中央に位置している。また、カメラ20cの光軸(撮影方向)は、駆動輪3,4をつなぐ仮想軸に略垂直で、本体の前方に向けられている。3つのカメラ20a,20b,20cの光軸は前向きで略並行になっている。
【0061】
本実施形態によれば、制御装置10は、カメラ20aとカメラ20cの撮像を用いて第1のステレオカメラとして扱い、本体右前方の領域の障害物までの距離を測定することができる。また、制御装置10は、カメラ20bとカメラ20cの撮像を用いて第2のステレオカメラとして扱い、本体左前方の領域の障害物までの距離を測定することができる。
【0062】
このように略中央のカメラ20cの撮像を、カメラ20cに対して一方側に位置するカメラ20aと組合せて撮像する制御と、カメラ20cに対して一方側とは反対の方向である他方側に位置するカメラ20bと組合せて撮像する制御を行うことができる。
【0063】
さらに、制御装置10は、カメラ20aとカメラ20bの撮像を用いて第3のステレオカメラとして扱い、本体前方の領域の障害物までの距離を測定することができる。第3のステレオカメラを構成するカメラ20a,20bは、上述の他の組合せのステレオカメラに比べて、カメラ間の距離が離れている。このため、それぞれのカメラによる撮像のずれ量が大きくなるから、障害物までの距離をより正確に計測できる。このように、3つのカメラを用いて3組のステレオカメラを構成させることができるから、本体の右前方、左前方、正面遠距離の障害物等の位置を把握する。
【0064】
このようにすることで、3つのカメラ20a,20b,20cを利用して3組のステレオカメラとして用いることができるので、使用するカメラ数を低減しつつ、幅広い範囲の領域の障害物との間の距離を把握することができ、より障害物を回避することが可能となる。
【0065】
なお、本実施形態では3つのカメラを例にして説明したが、より多数のカメラを用いて、複数のステレオカメラを構成させても構わない。
なお、本実施形態のようにステレオカメラを複数にすることで、監視できる範囲を広くすることができるから、前方測距センサ21は左右側面それぞれ1箇所のみとすることができる。これにより、前方測距センサ21にかかるコストを低減することができる。
【0066】
<<実施形態3>>
本実施形態の構成は、次の点を除き実施形態1と同様にできる。
図10は実施形態3に係る自律走行型掃除機Sを左前方から見た斜視図である。本実施形態の自律走行型掃除機Sは、カメラ20a,20bの光軸上の部分が空隙となった孔部2caとして形成されている。このように、バンパシェード2cのうちカメラ20a,20bの光軸上の部分を空隙にすることで、バンパシェード2cの他の部分でステレオカメラ20を保護しつつ撮像への影響を低減できる。孔部2caの大きさは、バンパ2の可動範囲を考慮して、バンパ2の可動前後でカメラ20a,20bの光軸上をバンパシェード2cが覆わないように設定できる。
【0067】
以上、本発明に係る自律走行型掃除機について実施形態を示して詳細に説明した。なお、本発明の内容は実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲内において適宜改変・変更等することができることはいうまでもない。また、電気機器として自律走行型掃除機を例に取り説明したが、床面を走行する又は飛行する移動体へ適用しても同様な効果がある。
【符号の説明】
【0068】
1 本体ケース
2 バンパ
2a バンパフレーム
2b バンパ縁部
2c バンパシェード
2ca 孔部
3,4 駆動輪
6 回転ブラシ
8 サイドブラシ
9 充電池
11 吸引ファン
12 集塵ケース
14 吸口
20 ステレオカメラ
21 測距センサ
30 充電台(ベース)
S 自律走行型掃除機