(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】温度センサ
(51)【国際特許分類】
G01K 1/16 20060101AFI20220317BHJP
G01K 7/22 20060101ALI20220317BHJP
G01K 13/02 20210101ALN20220317BHJP
【FI】
G01K1/16
G01K7/22 Z
G01K13/02
(21)【出願番号】P 2018004369
(22)【出願日】2018-01-15
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】緒方 逸平
(72)【発明者】
【氏名】今野 光浩
(72)【発明者】
【氏名】小川 千明
(72)【発明者】
【氏名】大矢 康裕
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-261846(JP,A)
【文献】特開昭49-046015(JP,A)
【文献】特開2009-139147(JP,A)
【文献】特開2004-163331(JP,A)
【文献】特開2009-115789(JP,A)
【文献】特開平02-138702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/16
G01K 7/22
G01K 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端が開口先端部(20)として開口された金属管(2)と、
前記開口先端部に配置され、測定環境下の測定対象ガス(G)の温度を測定するための感温素子(3)と、
前記金属管内に配置され、前記感温素子の表面に接触する一対のリード線(31)と、
前記金属管内に配置され、前記金属管と一対の前記リード線とを絶縁するとともに、一対の前記リード線を前記金属管に支持するためのセラミック材料からなる絶縁支持材(4)と、
前記開口先端部に、前記感温素子、一対の前記リード線の先端部(310)及び前記絶縁支持材の先端面(401)を覆う状態で最外周部として配置され、前記感温素子の線膨張率及び一対の前記リード線の線膨張率に比べて線膨張率が小さく、かつ前記測定対象ガスを透過しないセラミック材料からなる
とともに常温で固着処理可能なコート材(5)と、を備え
、
前記感温素子と一対の前記リード線とは、他の材料を介さずに対面接触しており、
前記コート材によって、前記感温素子に一対の前記リード線が接触する状態が維持されており、
前記温度センサの先端部が前記測定対象ガスによって加熱された状態においては、前記コート材から前記感温素子及び一対の前記リード線に圧縮応力が作用しており、
使用可能温度が-40~1050℃に設定されている、温度センサ(1)。
【請求項2】
前記絶縁支持材は、セラミック粒子が焼結されたものであり、
前記コート材は、セラミック粒子と無機バインダーとが焼結されたものである、請求項
1に記載の温度センサ。
【請求項3】
前記コート材は、線膨張率が異なる複数種類のセラミック粒子を含有している、請求項1
又は2に記載の温度センサ。
【請求項4】
一対の前記リード線は、前記金属管内から前記金属管の外部まで形成されており、
前記コート材は、前記金属管の先端面も覆っている、請求項1~
3のいずれか1項に記載の温度センサ。
【請求項5】
前記感温素子と一対の前記リード線とにおける、互いに対面する表面は、平坦面に形成されている、請求項1~
4のいずれか1項に記載の温度センサ。
【請求項6】
前記表面の粗さは、3μm以下である、請求項
5に記載の温度センサ。
【請求項7】
前記金属管、一対の前記リード線及び前記コート材は、1000℃においても性状に変化が生じない材料によって構成されている、請求項1~
6のいずれか1項に記載の温度センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度を測定するための感温素子を用いた温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
温度センサは、例えば、自動車の排気管内に配置され、排気管を流れる排ガスの温度を測定するために用いられる。例えば、特許文献1の温度センサにおいては、金属シース(金属管)内に挿通された金属芯線に感温素子が接続されており、感温素子は、金属シースの先端に取り付けられた金属カバー内に配置されている。また、感温素子は、金属シース内に充填された充填材(絶縁材)によって金属シースに固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
温度センサには、排ガス等の測定対象ガスの温度の変化を迅速に検出する応答性が要求される。この応答性を向上させるためには、測定環境下の測定対象ガスとサーミスタ等の感温素子との伝熱性を良くすることが考えられる。しかし、従来の温度センサにおいては、感温素子は、充填材を介して金属カバーに覆われている。そのため、金属カバーが断熱材として機能し、測定環境下の測定対象ガスと感温素子との間で伝熱が生じにくい。そのため、感温素子の温度が変化しにくく、感温素子の温度が測定対象ガスの温度になるまでに時間を要し、温度センサの応答性を阻害する。
【0005】
また、温度センサの応答性を改善するためには、特許文献1等において用いられる金属カバーを廃止することも考えられる。しかし、この場合には、充填材が測定対象ガスに晒されることになり、温度センサの耐久性(信頼性)を悪化させることになる。そのため、金属カバーを廃止するためには、温度センサに特別な工夫をしなければ、温度センサの熱及び測定対象ガスに対する耐久性を確保することができない。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、応答性を向上させることができるとともに、耐久性を高く維持することができる温度センサを提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、先端が開口先端部(20)として開口された金属管(2)と、
前記開口先端部に配置され、測定環境下の測定対象ガス(G)の温度を測定するための感温素子(3)と、
前記金属管内に配置され、前記感温素子の表面に接触する一対のリード線(31)と、
前記金属管内に配置され、前記金属管と一対の前記リード線とを絶縁するとともに、一対の前記リード線を前記金属管に支持するためのセラミック材料からなる絶縁支持材(4)と、
前記開口先端部に、前記感温素子、一対の前記リード線の先端部(310)及び前記絶縁支持材の先端面(401)を覆う状態で最外周部として配置され、前記感温素子の線膨張率及び一対の前記リード線の線膨張率に比べて線膨張率が小さく、かつ前記測定対象ガスを透過しないセラミック材料からなるとともに常温で固着処理可能なコート材(5)と、を備え、
前記感温素子と一対の前記リード線とは、他の材料を介さずに対面接触しており、
前記コート材によって、前記感温素子に一対の前記リード線が接触する状態が維持されており、
前記温度センサの先端部が前記測定対象ガスによって加熱された状態においては、前記コート材から前記感温素子及び一対の前記リード線に圧縮応力が作用しており、
使用可能温度が-40~1050℃に設定されている、温度センサ(1)にある。
【発明の効果】
【0008】
前記一態様の温度センサにおいては、金属管の先端が開口先端部として開口しており、開口先端部に配置された感温素子は、最外周部を形成するコート材によって覆われている。そして、金属管の開口先端部には、感温素子を覆うための金属カバー(曲面状の先端部)が設けられていない。この構成により、温度センサの先端部と測定環境下の測定対象ガスとの間における、熱放射、熱伝達(熱対流)等の伝熱が生じやすくすることができる。そのため、感温素子の温度が、測定対象ガスの温度になるまでの時間を短縮することができ、温度センサの応答性を向上させることができる。
【0009】
また、金属管の開口先端部には、感温素子、一対のリード線の先端部及び絶縁支持材の先端面を覆う状態で、最外周部としてのコート材が配置されている。このコート材は、感温素子の線膨張率及び一対のリード線の線膨張率に比べて線膨張率が小さいセラミック材料からなる。
【0010】
この構成により、温度センサの先端部が測定対象ガスによって加熱されるときには、コート材に比べて感温素子及び一対のリード線が大きく膨張しようとする。そのため、コート材が、感温素子及び一対のリード線の膨張を拘束し、コート材から一対のリード線に、一対のリード線が感温素子に密着する方向への圧力を与えることができる。そして、感温素子と一対のリード線との導通性を高く維持することができる。
【0011】
また、コート材は、測定対象ガスを透過しないセラミック材料からなる。この構成により、測定対象ガスが感温素子に接触することを防止することができ、測定対象ガスから感温素子を保護することができる。また、コート材がセラミック材料からなることにより、その耐熱性を確保することができる。そのため、温度センサの熱及び測定対象ガスに対する耐久性(信頼性)を高く維持することができる。
【0012】
それ故、前記一態様の温度センサによれば、その応答性を向上させることができるとともに、その耐久性(信頼性)を高く維持することができる。
【0013】
前記感温素子の一部は、金属管の開口先端部の先端側に配置され、前記感温素子の残部は、開口先端部の基端側に配置されていてもよい。また、前記感温素子の全体が、開口先端部の先端側に配置されていてもよい。
【0014】
前記リード線は、絶縁支持材に支持された第1線部と、絶縁支持材から突出する第2線部とが異なる材料によって構成されていてもよい。この場合には、第1線部と第2線部とが、溶接等によって互いに接合されている。また、前記リード線は、金属管内から感温素子に接触する位置まで同一材料によって構成されていてもよい。
【0015】
なお、本発明の一態様において示す各構成要素のカッコ書きの符号は、実施形態における図中の符号との対応関係を示すが、各構成要素を実施形態の内容のみに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態にかかる、温度センサの主要部を示す断面図。
【
図2】実施形態にかかる、温度センサの全体を示す断面図。
【
図3】実施形態にかかる、温度センサの主要部を示す、
図1のIII-III矢視断面図。
【
図4】実施形態にかかる、温度センサの先端部の温度の変化によって、感温素子、一対のリード線の先端部及びコート材に生じる伸びを示すグラフ。
【
図5】実施形態にかかる、他の温度センサの主要部を示す断面図。
【
図6】実施形態にかかる、他の温度センサの主要部を示す断面図。
【
図7】実施形態にかかる、他の温度センサの主要部を示す、
図1のIII-III矢視断面相当図。
【
図8】実施形態にかかる、温度センサの主要部の製造方法を示すフローチャート。
【
図9】実施形態にかかる、温度センサの製造過程であって、シース成形体を準備した状態を示す断面図。
【
図10】実施形態にかかる、温度センサの製造過程であって、一対のリード線を形成し、一対のリード線の間に感温素子を配置した状態を示す断面図。
【
図11】実施形態にかかる、温度センサの製造過程であって、感温素子及び一対のリード線の先端部をコート材用のスラリーに浸漬させた状態を示す断面図。
【
図12】確認試験にかかる、試験品及び比較品の温度センサの応答性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
前述した温度センサにかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
<実施形態>
本形態の温度センサ1は、
図1に示すように、金属管2、感温素子3、一対のリード線31、絶縁支持材4及びコート材5を備える。金属管2は、その先端が開口先端部20として開口されたものである。感温素子3は、開口先端部20に配置されており、測定環境下の測定対象ガスGの温度を測定するためのものである。一対のリード線31は、金属管2内に配置されており、その先端部310が感温素子3の表面に接触している。
【0018】
絶縁支持材4は、金属管2内に配置されており、金属管2と一対のリード線31とを絶縁するとともに、一対のリード線31を金属管2に支持するためのセラミック材料からなる。コート材5は、金属管2の開口先端部20に、感温素子3、一対のリード線31の先端部310及び絶縁支持材4の先端面401を覆う状態で、最外周部として配置されている。コート材5は、感温素子3の線膨張率及び一対のリード線31の線膨張率に比べて線膨張率が小さく、かつ測定対象ガスGを透過しないセラミック材料からなる。
【0019】
本形態の温度センサ1においては、金属管2の中心軸線に沿った方向を軸方向Lという。また、軸方向Lにおいて、金属管2に感温素子3が配置された側を先端側L1といい、先端側L1と反対側を基端側L2という。
【0020】
以下に、本形態の温度センサ1について詳説する。
(温度センサ1)
温度センサ1は、車載用のものであり、自動車における内燃機関(エンジン)の吸気管内又は排気管内を流れる流体の温度を測定するために使用される。本形態の温度センサ1は、排気管に配置され、排気管内を流れる排ガスの温度を測定するために用いられる。排ガスの温度は、電子制御ユニット(ECU)によって内燃機関の燃焼制御を行う際に利用される。排ガスの温度は、例えば、排気管に配置された排気浄化触媒の温度を検知するために利用することができる。
【0021】
(感温素子3)
本形態の感温素子3は、サーミスタ材料としての酸化物半導体の焼結体を用いて構成されたサーミスタ素子である。サーミスタ素子は、温度の上昇に対して電気抵抗値が減少するNTC(negative temperature coefficient)サーミスタとすることができる。これ以外にも、サーミスタ素子は、所定温度を超えると温度の上昇に対して急激に電気抵抗値が増大するPTC(positive temperature coefficient)サーミスタ、又は所定温度を超えると急激に電気抵抗値が減少するCTR(critical temperature resistor)サーミスタとすることもできる。
【0022】
また、感温素子3は、白金、銅、ニッケル等を用いて構成された、温度が上昇するに伴って電気抵抗値が増加する測温抵抗素子としてもよい。
【0023】
(リード線31)
図1に示すように、一対のリード線31は、導電性を有する種々の金属材料から構成されている。一対のリード線31は、絶縁支持材4に支持された一対の第1線部311と、絶縁支持材4から突出する一対の第2線部312とが、溶接等によって互いに接合されたものである。第1線部311と第2線部312とは、互いに異なる材料によって構成されている。第1線部311は、白金又は白金-ロジウム合金によって構成されている。
【0024】
第2線部312は、金属管2及び絶縁支持材4とともにシースピンとして形成されたものである。第2線部312はステンレス又はインコネル(登録商標、ニッケル基を含む超合金)によって構成されている。第1線部311と第2線部312とは、互いに突き合わされた状態で接合されている。第1線部311と第2線部312とは、互いに重ね合わされた状態で接合されていてもよい。
【0025】
第1線部311、第2線部312及びリード線31は、白金線、白金と他の金属との合金からなる白金合金線、ニッケルと他の金属との合金であるインコネル(登録商標)の線等によって構成することができる。これ以外にも、第1線部311、第2線部312及びリード線31は、SUS310Sの線、鉄とニッケルとの合金からなるインバー線、スーパーインバー線、ニッケル線、ニッケルクロム線、鉄クロム線等によって構成することもできる。
【0026】
一対のリード線31の先端部310とは、一対のリード線31における、絶縁支持材4から先端側L1に突出した部分のことをいう。本形態の一対のリード線31の先端部310は、主に第1線部311によって形成されている。
【0027】
(金属管2)
図2に示すように、金属管2は、シース管とも呼ばれ、金属材料から構成されている。金属管2は、円筒形状に形成されている。金属管2は、感温素子3が配置された先端側管部21の外径及び内径が最も小さく、先端側管部21よりも基端側L2に位置する基端側管部22の外径及び内径が、先端側管部21の外径及び内径よりも大きく形成されている。金属管2は、インコネル(登録商標)の管によって構成することができる。これ以外にも、金属管2は、SUS310Sの管、オーステナイト系ステンレス鋼の管、フェライト系クロム鋼の管、耐熱性コバルト合金、ニッケル合金の管、鉄クロム合金の管によって構成することもできる。金属管2は、温度センサ1の製造を容易にするために、複数の管材を、適宜、溶接等によって繋ぎ合わせて形成することができる。
【0028】
(ハウジング11)
図2に示すように、金属管2は、排気管に取り付けられるハウジング11に装着されている。ハウジング11は、一対のリード線31及びコネクタ12のターミナル13を配置するための配置穴111と、温度センサ1を排気管に取り付けるための外周ネジ112と、ハウジング11にコネクタ12を連結するための連結部113とを有する。配置穴111には、コネクタ12のターミナル13の先端部131が挿入される。
【0029】
(コネクタ12)
図2に示すように、絶縁性の樹脂等からなるコネクタ12には、リード線31が溶接によって接続されたターミナル(接続端子)13が設けられている。ターミナル13の先端部131は、リード線31が接続されるよう、コネクタ12から突出している。ターミナル13の基端部132は、温度センサ1の動作を制御する制御装置10に接続される。制御装置10は、エンジン制御ユニットとすることができ、エンジン制御ユニットとは別のセンサ制御ユニット(SCU)とすることもできる。ターミナル13は、導電性の金属材料によって構成されている。
【0030】
(絶縁支持材4)
図1及び
図2に示すように、絶縁支持材4は、酸化マグネシウム等の絶縁性の金属酸化物によって構成されている。絶縁支持材4は、酸化アルミニウム等によって構成することもできる。絶縁支持材4は、金属管2の先端側管部21に配置されたセラミック粒子が焼結された焼結体として形成されている。絶縁支持材4は、金属管2の先端側管部21に充填されており、金属管2の基端側管部22には充填されていない。言い換えれば、絶縁支持材4は、金属管2の先端側管部21に、軸方向Lに連続して一体的に配置されている。
【0031】
絶縁支持材4が金属管2の先端側管部21に充填されていることにより、金属管2の先端側管部21において、一対のリード線31が金属管2に強固に支持される。絶縁支持材4は、一対のリード線31の外周と金属管2の先端側管部21の内周とに接触している。絶縁支持材4は、金属管2の先端側管部21の内周における先端位置まで配置されている。
【0032】
(コート材5)
図1に示すように、本形態の温度センサ1の金属管2の先端部には金属カバーが設けられていない。コート材5は、感温素子3に一対のリード線31が接触する状態を維持するための機能と、金属カバーの代わりとして、温度センサ1の先端部101の最外周部として測定対象ガスGの透過を防止する機能とを有する。
【0033】
コート材5は、セラミック粒子と無機バインダー(結合剤)とが焼結された焼結体として形成されている。コート材5においては、その線膨張率を調整するために、複数種類のセラミック粒子が混合されている。セラミック粒子の線膨張率は、その種類によって異なる。そのため、複数種類のセラミック粒子を適切に配合することによって、所望とする線膨張率のコート材5を得ることができる。
【0034】
セラミック粒子は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、炭化ケイ素等とすることができる。無機バインダーは、セラミック粒子よりも小さなナノレベルのセラミック粒子とすることができる。無機バインダーは、例えば、コロイダルシリカとすることができる。
【0035】
コート材5は、セラミック粒子、無機バインダー、及び水等の溶媒を含有するスラリーを用いて形成される。そして、スラリーが、焼結のために加熱されるときに、溶媒が揮発され、セラミック粒子と無機バインダーとが焼結体を形成する。
【0036】
コート材5の焼結体においては、セラミック粒子同士の隙間を埋めるように無機バインダーが配置されている。これにより、コート材5には気孔がほとんど形成されていない。そして、コート材5は、セラミック粒子及び無機バインダーによって構成されることにより、測定対象ガスGを透過させない性質を得ることができる。
【0037】
コート材5は、常温で固着処理可能なものである。すなわち、コート材5は、加熱処理することなく溶媒を揮発させることができるものである。コート材5は、常温において、感温素子3、一対のリード線31の先端部310、絶縁支持材4の先端面401等に固着された後には、高温に加熱して焼結することができる。常温とは、例えば、20℃±15℃とすることができる。本形態の温度センサ1は排ガスの温度を測定するものであり、主に200℃以上の温度を測定する。そして、温度センサ1の先端部101は排ガスによって加熱された状態にある。
【0038】
コート材5の線膨張率は、感温素子3の線膨張率及びリード線31の線膨張率よりも小さい。温度センサ1の先端部101に位置するコート材5、感温素子3及びリード線31が加熱されると、コート材5の線膨張率と、感温素子3の線膨張率及びリード線31の線膨張率との差に応じて、温度が高くなるほど、膨張量(伸び)に大きな差が生じる。つまり、温度が高くなるほど、感温素子3及びリード線31がコート材5に比べて大きく膨張しようとする。これにより、加熱状態にある温度センサ1の先端部101においては、コート材5から感温素子3及び一対のリード線31に、拘束力としての圧縮応力が作用する。
【0039】
図1及び
図3に示すように、本形態の感温素子3と一対のリード線31とは、他の材料を介さずに対面接触している。つまり、感温素子3と一対のリード線31とは、互いに対面する状態で配置されているだけであり、白金等のペースト材料等によって接合されていない。感温素子3と一対のリード線31とは、感温素子3における先端面301及び側面302と、一対のリード線31における先端面315及び側面316とに接触するコート材5の存在によって、互いに接触する状態が維持されている。この構成により、感温素子3に一対のリード線31を接合する手間を省略することができ、温度センサ1の製造を容易にすることができる。
【0040】
そして、特に、温度センサ1の先端部101が加熱された状態にあるときには、コート材5から感温素子3及び一対のリード線31に作用する圧縮応力によって、感温素子3に対する一対のリード線31の接触状態をより強固に維持することができる。
【0041】
コート材5は、セラミック材料から構成されていることにより、耐熱性に優れており、1000℃に加熱されたときでも性状に変化が生じない耐熱性を有する。また、金属管2、感温素子3及び一対のリード線31は、合金材料又は酸化物半導体によって構成されていることにより、1000℃に加熱されたときでも性状に変化が生じない耐熱性を有する。さらに、本形態のコート材5、金属管2、感温素子3及び一対のリード線31は、1050℃においても性状が変化しない耐熱性を有する。
【0042】
そして、本形態の温度センサ1の使用可能温度は-40~1050℃に設定されている。金属カバーを用いた従来の温度センサにおいては、感温素子3と一対のリード線31とが、白金等のペースト材料によって接合されていることにより、その使用可能温度が900℃までとなっている。この従来の温度センサにおいては、焼成後のペースト材料に剥離が生じるおそれがあることを理由に、使用可能温度が900℃までと制限されている。
【0043】
一方、本形態の温度センサ1においては、コート材5の工夫によって白金等のペースト材料を廃止し、感温素子3と一対のリード線31とが対面接触する構造が採用されている。これにより、ペースト材料の剥離を考慮する必要がなくなり、温度センサ1の使用可能温度の上限値を高くすることができる。
【0044】
参考として、各部材3,31,5の線膨張率(線膨張係数)は次のように設定することができる。感温素子3の線膨張率は、酸化物半導体として8×10-6(1/K)に設定される。一対のリード線31の第1線部311の線膨張率は、白金又は白金-ロジウム13%合金として9×10-6(1/K)に設定される。コート材5の線膨張率は、セラミック材料として7×10-6(1/K)に設定される。なお、これらの線膨張率の値は一例である。これらの線膨張率は、コート材5の線膨張率が、感温素子3の線膨張率及び一対のリード線31の線膨張率よりも小さくなる範囲において、適宜設定することができる。なお、この線膨張率は、-40~1050℃における平均値として示す。
【0045】
(コート材5による圧縮応力のシミュレーション)
図4には、温度センサ1の先端部101の温度(℃)と、温度センサ1の先端部101に位置する、感温素子3、一対のリード線31の先端部310及びコート材5に生じる伸びλ(-)との関係のシミュレーション結果を示す。温度センサ1の先端部101の温度は-40℃~1050℃に変化させた場合を示す。伸びλ(-)は、初期長さをD0、加熱・冷却後の長さをD1としたとき、λ=(D1-D0)/D0×100(%)によって表される値である。
【0046】
このシミュレーションは、
図3に示すように、温度センサ1の先端部101において、板形状の感温素子3の主面302Aに、半円状の断面形状の一対のリード線31の平面316Aが接触する場合について行った。また、コート材5は、常温(25℃)において、感温素子3、一対のリード線31の先端部310、絶縁支持材4の先端面401等に固着させることとした。
【0047】
図4においては、感温素子3及び一対のリード線31の線膨張率を8~10×10
-6(1/K)とし、この感温素子3及び一対のリード線31が単独で存在する場合に生じる伸びλをラインA1によって示す。また、コート材5の線膨張率を2~3×10
-6(1/K)とし、このコート材5に生じる伸びλをラインA2によって示す。コート材5は、他の部材によって外側から拘束されていないため、コート材5に生じる伸びλは、コート材5が単独で存在する場合と変わらないものとする。
【0048】
また、温度センサ1において、コート材5によって覆われた状態の感温素子3及び一対のリード線31の見かけ上の線膨張率を4~6×10-6(1/K)とし、この状態の感温素子3及び一対のリード線31に生じる見かけ上の伸びλをラインA3によって示す。この見かけ上の線膨張率及び伸びλは、温度センサ1の先端部101が加熱される際に、感温素子3及び一対のリード線31がコート材5によって拘束されることにより、感温素子3及び一対のリード線31が単独で存在する場合に比べて小さくなる。
【0049】
そして、温度センサ1の先端部101の温度が常温(25℃)~1050℃の温度の範囲内の各温度にあるときに、見かけ上の伸びλからコート材5に生じる伸びλを差し引いた分が、コート材5から感温素子3及び一対のリード線31に圧縮応力として作用すると考える。この圧縮応力の作用を、
図4において網掛け部として示す。
【0050】
図4においては、コート材5が常温(25℃)において、感温素子3、一対のリード線31の先端部310、絶縁支持材4の先端面401等に固着したものであるため、常温よりも高い温度においては、常に、コート材5から感温素子3及び一対のリード線31に圧縮応力が作用する状態を形成することができる。このシミュレーション結果からも分かるように、本形態の温度センサ1は、その先端部101が高温に加熱される際に、感温素子3に一対のリード線31が強く当接され、感温素子3と一対のリード線31との導通性をより効果的に確保することができる。
【0051】
(感温素子3、リード線31、コート材5等の配置関係)
図1に示すように、本形態の絶縁支持材4の先端面401は、金属管2の先端面201よりも基端側L2に位置している。なお、
図5に示すように、金属管2の先端面201と絶縁支持材4の先端面401とは、軸方向Lにおけるほぼ同じ位置にあってもよい。また、同図に示すように、各リード線31は、同一材料からなる連続した1本の金属線とすることもできる。
【0052】
また、
図6に示すように、感温素子3の一部は、金属管2の先端面201よりも基端側L2に位置していてもよい。この場合には、感温素子3の一部が金属管2の開口先端部20の先端側L1に配置され、感温素子3の残部が開口先端部20の基端側L2に配置される。
【0053】
また、
図1及び
図3に示すように、感温素子3は、絶縁支持材4の先端面401に接触して配置されている。感温素子3は、互いに平行な一対の主面302Aを有する板形状、言い換えればチップ型に形成されている。主面302Aとは、複数の面のうちの表面積が最も大きな面のことをいう。
【0054】
本形態のリード線31の先端部310としての第1線部311は、平面316Aと曲面316Bとを有する形状、言い換えれば、略半円状の断面形状に形成されている。そして、リード線31の平面316Aが感温素子3の主面302Aと対面している。なお、金属管2内の絶縁支持材4に支持された、リード線31の第2線部312は、通常通り、丸線、言い換えれば、円状の断面形状に形成されている。
【0055】
リード線31の第1線部311は、
図7に示すように、四角状の断面形状に形成されていてもよい。この場合には、感温素子3の主面302Aには、第1線部311の側面317が接触する。また、一対のリード線31同士の断面積及び断面形状は、必ずしも同じにする必要はない。また、一対のリード線31の幅は、感温素子3の幅よりも小さくすることができ、感温素子3の幅と同じにすることもでき、感温素子3の幅よりも大きくすることもできる。「幅」とは、温度センサ1の軸方向Lと、感温素子3と一対のリード線31とが対向する方向とに直交する方向の幅のことをいう。また、リード線31の断面積は、感温素子3の断面積よりも小さくすることができ、感温素子3の断面積と同じにすることもでき、感温素子3の断面積よりも大きくすることもできる。
【0056】
図1に示すように、一対のリード線31は、金属管2内から金属管2の外部まで形成されている。リード線31の第1線部311は、金属管2の先端面201から先端側L1に突出した位置に配置されている。この構成により、一対のリード線31の第1線部311の間に、感温素子3を配置することが容易であり、温度センサ1の製造を容易にすることができる。
【0057】
コート材5は、絶縁支持材4の先端面401と金属管2の先端面201とを連続して覆っている。これにより、コート材5は、絶縁支持材4の先端面401だけでなく、金属管2の先端面201にも固着させることができる。そのため、温度センサ1の先端部101におけるコート材5の固着状態をより強固にすることができる。
【0058】
感温素子3の先端面301は、測定対象ガスGの温度を測定する際に、測定対象ガスGの温度の変化を最も早く検知する部分となる。そのため、感温素子3の先端面301におけるコート材5の厚みはできるだけ薄くすることが好ましい。感温素子3の先端面301におけるコート材5の厚みは、例えば、10~200μmに設定することができる。この場合には、感温素子3の温度を測定対象ガスGの温度に迅速に追従させることができる。
【0059】
図3に示すように、本形態の感温素子3と一対のリード線31とは、接合されずに対面接触しているだけであるため、両者の接触状態を良好に維持する工夫が必要になる。感温素子3と一対のリード線31とにおける、互いに対面する表面としての主面302Aと平面316Aとは、平坦面として形成されている。そして、主面302Aと平面316Aとは、全体がほぼ均一に接触している。
【0060】
また、感温素子3と一対のリード線31とにおける、互いに対面する表面である主面302A及び平面316Aの表面粗さ(面粗度)は、JIS B0601-1970(ISO468-1982)に準拠するRmaxとして、3μm以下である。本形態の主面302A及び平面316Aの表面粗さは1~2μmに設定されている。表面粗さを3μm以下とすることにより、感温素子3と一対のリード線31との接触状態及び導通性を効果的に維持することができる。
【0061】
(製造方法)
次に、本形態の温度センサ1の主要部を製造する方法について、
図8のフローチャートを参照して説明する。
図9に示すように、金属管2、一対のリード線31の第2線部312及び絶縁支持材4が設けられたシース成形体71を準備する(
図8のステップS1)。本製造方法におけるシース成形体71の金属管2とは、金属管2の先端側管部21のことを示す。シース成形体71は、金属管2内に、一対のリード線31の第2線部312が挿通されるとともに、金属管2内における隙間が絶縁支持材4によって充填されたものである。
【0062】
次いで、
図10に示すように、一対のリード線31の第1線部311の間に感温素子3を挟み込む状態で、この第1線部311を、シース成形体71における一対のリード線31の第2線部312に、レーザ溶接によって接合する(ステップS2)。こうして、金属管2の開口先端部20において、一対のリード線31の第1線部311の間に感温素子3が配置された状態の、温度センサ1の中間体が形成される。
【0063】
なお、一対のリード線31の第1線部311を、シース成形体71における一対のリード線31の第2線部312に接合した後、この第1線部311の間に感温素子3を差し込んで配置してもよい。
【0064】
次いで、
図11に示すように、温度センサ1の中間体の先端部101を、コート材5を構成するセラミック材料のスラリー50中に浸漬させる(ステップS3)。このとき、金属管2の先端面201がスラリー50に接触するように、感温素子3及び一対のリード線31の先端部310をスラリー50中に浸漬させる。
【0065】
次いで、温度センサ1の中間体の先端部101をスラリー50中から取り出したときには、感温素子3、一対のリード線31の先端部310、絶縁支持材4の先端面401及び金属管2の先端面201にスラリー50が付着する。そして、これらがスラリー50によって覆われる。
【0066】
次いで、常温(25℃)において、温度センサ1の中間体の先端部101に付着したスラリー50を乾燥させ、スラリー50中の溶媒を揮発させる(ステップS4)。そして、スラリー50中のセラミック粒子及び無機バインダーが、コート材5として、感温素子3、一対のリード線31の先端部310、絶縁支持材4の先端面401及び金属管2の先端面201に固着される。
【0067】
こうして、感温素子3及び一対のリード線31がコート材5によって覆われた温度センサ1の組付体が形成される。その後、温度センサ1の組付体を加熱し、絶縁支持材4を構成するセラミックス材料、コート材5を構成するセラミックス材料を焼結させて、温度センサ1の主要部を製造することができる。
【0068】
なお、コート材5が設けられる前の温度センサ1の中間体を加熱して、絶縁支持材4を焼結した後に、この中間体にコート材5を設けることもできる。
【0069】
(作用効果)
本形態の温度センサ1においては、金属管2の先端が開口先端部20として開口しており、開口先端部20に配置された感温素子3は、最外周部を形成するコート材5によって覆われている。そして、金属管2の開口先端部20には、感温素子3を覆うための金属カバー(曲面状の先端部)が設けられていない。この構成により、温度センサ1の先端部101と測定環境下の測定対象ガスGとの間における、熱放射、熱伝達(熱対流)等の伝熱が生じやすくすることができる。そのため、感温素子3の温度が、測定対象ガスGの温度になるまでの時間を短縮することができ、温度センサ1の応答性を向上させることができる。
【0070】
また、金属管2の開口先端部20には、感温素子3、一対のリード線31の先端部310、絶縁支持材4の先端面401及び金属管2の先端面201を覆う状態で、最外周部としてのコート材5が配置されている。このコート材5は、感温素子3の線膨張率及び一対のリード線31の線膨張率に比べて線膨張率が小さいセラミック材料からなる。
【0071】
この構成により、温度センサ1の先端部101が測定対象ガスGによって加熱されるときには、コート材5に比べて感温素子3及び一対のリード線31が大きく膨張しようとする。そのため、コート材5が、感温素子3及び一対のリード線31の膨張を拘束し、コート材5から一対のリード線31に、一対のリード線31が感温素子3に密着する方向への圧縮応力を与えることができる。そして、感温素子3と一対のリード線31との導通性を高く維持することができる。
【0072】
また、コート材5は、測定対象ガスGを透過しないセラミック材料からなる。この構成により、測定対象ガスGが感温素子3に接触することを防止することができ、測定対象ガスGから感温素子3を保護することができる。
【0073】
また、コート材5から感温素子3及び一対のリード線31に圧縮応力が作用することにより、感温素子3及び一対のリード線31とコート材5との境界には、微小な隙間が形成されにくくなる。そのため、測定対象ガスGが感温素子3に接触することをより効果的に防止することができる。特に、感温素子3が、酸素を含有する酸化物半導体から構成されている場合には、測定対象ガスGに含まれる水素が還元ガスとなって、感温素子3の酸化物半導体中の酸素を奪い、感温素子3を劣化させることを防止することができる。
【0074】
また、コート材5がセラミック材料からなることにより、その耐熱性を確保することができる。そのため、温度センサ1の熱及び測定対象ガスGに対する耐久性(信頼性)を高く維持することができる。
【0075】
それ故、本形態の温度センサ1によれば、その応答性を向上させることができるとともに、その耐久性(信頼性)を高く維持することができる。
【0076】
<確認試験>
本確認試験においては、金属管2の開口先端部20に金属カバーを有しない実施形態の温度センサ1(試験品)の応答性と、金属管2の開口先端部20に金属カバーを有する従来の温度センサ(比較品)の応答性とを確認し、比較した。この確認試験においては、試験品及び比較品について、測定対象ガスGの温度を常温(25℃)から1050℃に変化させたときに、この測定対象ガスGの温度の変化を測定するために要する時間としての63%応答時間を測定した。63%応答時間は、センサ出力が、初期出力である25℃から最終出力である1050℃までの温度変化量のうちの63%変化するまでの時間とした。
【0077】
本確認試験を行った結果を
図12に示す。試験品の63%応答時間は約1秒となり、比較品の63%応答時間は約10秒となった。この結果より、金属カバーを有しない実施形態の温度センサ1の応答性は、金属カバーを有する従来の温度センサの応答性に比べて優れることが分かった。
【0078】
本発明は、実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。また、本発明は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。
【符号の説明】
【0079】
1 温度センサ
2 金属管
20 開口先端部
3 感温素子
31 リード線
4 絶縁支持材
5 コート材