(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】ハンドリングツール、歯科用セット及び歯科コンポーネントを組み立てるための方法
(51)【国際特許分類】
A61C 8/00 20060101AFI20220317BHJP
【FI】
A61C8/00 Z
(21)【出願番号】P 2018556814
(86)(22)【出願日】2017-05-19
(86)【国際出願番号】 EP2017062076
(87)【国際公開番号】W WO2017198807
(87)【国際公開日】2017-11-23
【審査請求日】2020-05-12
(32)【優先日】2016-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506260386
【氏名又は名称】ノベル バイオケア サーヴィシィズ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャンセン, ピアーズ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルカート, ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】バグナード, ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】ヴィゼー, トーマス
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06827575(US,B1)
【文献】特表平09-510124(JP,A)
【文献】特表2008-543438(JP,A)
【文献】特開平03-121065(JP,A)
【文献】特表2015-533561(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102012106469(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠位端(69;169)と、近位端(68;168)と、長手方向軸(L)とを有する、歯科コンポーネント(20;40)のためのハンドリングツール(60;160)であって、
前記近位端におけるグリップ(63;163)と、
前記グリップ(63;163)の遠位方向に位置するシャフト(65;165)と、を具備し、
前記シャフト(65;165)は、締結要素(30;130)の係合機構(32;132)と係合するための係合セクション(61;161)
を備え、前記シャフトは、その外周側に、前記締結要素(30;130)によって締結されるべき前記歯科コンポーネント(20;40)を保持するための保持セクション(62;162
)をさらに備え、
前記ハンドリングツール(60;160)の前記保持セクションは、前記歯科コンポーネント(20;40)に対する回転を可能にするように構成されている、ハンドリングツール(60:160)。
【請求項2】
前記シャフト(65;165)、前記係合セクション(61;161)、及び前記保持セクション(62;162)は、一体的に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のハンドリングツール(60;160)。
【請求項3】
前記保持セクション(62;162)は、摩擦嵌合を利用して歯科コンポーネント(20;40)を保持するように成形されている、請求項1
または2に記載のハンドリングツール(60;160)。
【請求項4】
前記ハンドリングツールの前記係合セクション(61;161)は、前記ハンドリングツール(60)と、締結要素(30)との間のトルクの移動を可能にするために、形状適合の幾何学形状を有する、請求項1
から請求項
3のいずれか1項に記載のハンドリングツール(60)。
【請求項5】
前記ハンドリングツールの前記係合セクション(61;161)は、前記ハンドリングツール(60)と、締結要素(30)との間のトルクの移動を制限するために、摩擦嵌合の幾何学形状を有する、請求項1
から請求項
3のいずれか1項に記載のハンドリングツール(60)。
【請求項6】
前記グリップ(63;163)の直径は、前記係合セクション(61;161)の直径及び前記保持セクション(62;162)の直径のいずれの一方よりも大き
く、
前記ハンドリングツールはさらに、中間セクション(64)を備え、前記中間セクション(64)は、前記係合セクション(61)の直径及び/または前記保持セクション(62)の直径に至るまで前記グリップ(63)の直径から収束している、請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載のハンドリングツール(60;160)。
【請求項7】
前記シャフト(65;165)は、切欠き(164)を含み、
前記切欠き(164)は詳細には、前記シャフト(65;165)内を貫通しているか、または前記係合セクション(61;161)によって形成されている、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のハンドリングツール(60;160)。
【請求項8】
前記ハンドリングツール(60;160)の前記長手方向軸(L)に沿った前記切欠き(164)の位置は、前記長手方向軸(L)に沿った前記保持セクション(62;162)及び/または係合セクション(61;161)の位置と少なくとも部分的に一致する、請求項7に記載のハンドリングツール(60;160)。
【請求項9】
材料の厚さの偏差が最小限になるように、前記ハンドリングツール(60;160)内に配置された少なくとも1つの空洞(66;166)をさらに備える、請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載のハンドリングツール(60;160)。
【請求項10】
前記ハンドリングツールは、固体ポリマーまたは固体ポリマー複合材料、詳細にはPEEKまたはPEEK複合材料から少なくとも一部が作成されている、請求項1から請求項
9のいずれか1項に記載のハンドリングツール(60;160)。
【請求項11】
請求項1から請求項
10のいずれか1項に記載のハンドリングツール(60;160)と、歯科コンポーネント(20;40)とを備える歯科用セットであって、
前記ハンドリングツール(60;160)は、長手方向軸(L)と、前記歯科コンポーネント(20;40)を長手方向に保持するが、前記長手方向軸(L)を中心とした前記ハンドリングツール(60;160)と、前記歯科コンポーネント(20;40)との間の回転を可能にする保持セクション(62:162)とを有する、歯科用セット。
【請求項12】
前記ハンドリングツール(60;160)の前記保持セクション(62;162)と、前記歯科コンポーネント(20;40)の接触セクション(21;41)との間の円周方向の接触は非連続である、請求項
11に記載の歯科用セット。
【請求項13】
前記歯科コンポーネント(20;40)のねじ山(23)と係合し、かつ頂端歯科コンポーネント(10)のねじ山(13)に締結される際、前記歯科コンポーネント(20;40)の前記ねじ山(23)との係合から外れるねじ山(31;131)を有する締結要素(30;130)をさらに備える、請求項
11または請求項
12に記載の歯科用セット。
【請求項14】
請求項1から請求項
10のいずれか1項に記載のハンドリングツール(60;160)を利用して歯科用コンポーネント(20;40)を
事前に組み立てる方法であって、
前記ハンドリングツール(60;160)の係合セクション(61;161)を、締結要素(30;130)の係合機構(32;132)と係合状態にするステップと、
前記ハンドリングツール(60;160)の保持セクション(62;162)を、摩擦嵌合によって歯科コンポーネント(20;40)の接触セクション(21;41)に結合するステップと、
を含み、前記摩擦嵌合は、前記ハンドリングツール(60;160)と、前記歯科コンポーネント(20;40)との間の相対的な回転を可能にする、方法。
【請求項15】
事前に組み立てられた歯利用セットを与えるために、前記締結要素(30;130)のねじ山(31;131)を前記歯科コンポーネント(20;40)のねじ山(23)とねじ込み係合状態にするステッ
プを含む、請求項
14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数ユニットのアバットメントのためのハンドリングツール、ハンドリングツールを備えた歯科用セット、及び複数ユニットのアバットメントを歯科コンポーネントに設置するための方法に関する。本発明はまた、歯科コンポーネント及び締結要素と共に事前に組み立てられたハンドリングツールにも関する。
【背景技術】
【0002】
インプラントが患者の上顎骨または下顎骨に植え込まれ、治癒期間または手術後すぐに骨組織に結合した後、歯科補綴物を設置するために、少なくとも1つの歯科コンポーネントがこのインプラントに装着される。歯科補綴物は、例えばアバットメント、複数ユニットのアバットメント、スペーサ及び少なくとも1つの歯の複製などの複数の歯科コンポーネントを有する場合がある。一般に、このような歯科コンポーネントをインプラントに固定するために、歯科用ねじなどの締結要素が使用される。
【0003】
歯科コンポーネント及び歯科用ねじは一般にサイズがかなり小さいため、このようなコンポーネントを手で扱い、インプラントに固定するための器具を使用することが有利である。元々は2つの別々の器具が使用されており、1つは、歯科コンポーネントを手で扱うためのものであり、他方は、歯科用ねじをしっかり締めるためのものであった。
【0004】
より最近では、歯科用ねじと、歯科コンポーネントの両方を扱うハンドルが導入されている。そのようなハンドルは、例えばUS6,827,575B1より知られている。ここでは、スペーサ及びねじは、ホルダーに対して回転式に固定された位置でホルダーと係合される。より具体的には、スペーサは、ホルダーのスペーサ係合部に嵌め込まれ、ねじは、ホルダーのねじ係合部に嵌め込まれる。スペーサをインプラントに固定するために、ねじは、インプラントのねじ山と係合させられ、ホルダーに回転運動を加えることによってしっかり締められる。締結中、回転式に固定されたスペーサと歯科用ねじは共に、スペーサがインプラントの歯冠側に隣接するまで回転される。
【0005】
US6,827,575B1のハンドルは、スペーサの扱い及び装着をかなり促進させるが、そのようなハンドルは、歯科用インプラントと、歯科コンポーネントとの間に割り出し手段が存在する場合には使用することができない。割り出し手段は一般に、歯科用補綴物の所定の配向を固定するために、2つの歯科コンポーネントの間のいかなる相対的な回転も阻止することが意図されている。
【0006】
US6,827,575B1のハンドルを、割り出し手段を含むインプラント及びアバットメントなどの歯科コンポーネントに適用することは、これにより、歯科コンポーネントが歯科用インプラントに締結されない結果になる。歯科用インプラントと、アバットメントとの間の割り出し手段が係合状態になるとすぐに、ねじ及び歯科コンポーネントを保持するハンドルがインプラントを回し始め、これはインプラントを緩めることにつながる可能性があるため、明らかに望ましくない。
【発明の概要】
【0007】
その結果として、本発明の目的は、歯科コンポーネントが、このような歯科コンポーネント間のいかなる回転も阻止する割り出し手段を含む場合でも、歯科コンポーネントを手で扱うこと、ならび歯科コンポーネントを別の歯科コンポーネント、例えばインプラントなどにしっかり締め付けることを可能にする器具を提供することであった。
【0008】
別の目的は、ユーザに対して、設置プロセスについてより優れた触覚フィードバックを与えるハンドリングツールを提供することであった。同時に、本発明のねらいは、手で扱いやすくし、かつ汚染のリスクを抑えるために、歯科コンポーネントに対して事前に組み立てられた歯科用ねじのオプションを提供することであった。
【0009】
一つの解決策として、本発明は、遠位端と、近位端と、長手方向軸とを有する、歯科コンポーネントのためのハンドリングツールを提供する。さらに、ハンドリングツールは、近位端のグリップと、グリップの遠位方向に位置するシャフトとを備える。シャフトは、締結要素の係合機構に係合するための係合セクションと、締結要素によって締結されるべき歯科コンポーネントを保持するための保持セクションとを備え、ハンドリングツールの保持セクションは、歯科コンポーネントに対する回転が可能であるように構成される。
【0010】
締結要素は、ハンドリングツールの係合セクションと係合されることによって回転式に固定されるのに対して、歯科コンポーネントは、ハンドリングツールの保持セクションによって長手方向に解放可能に保持される。それにもかかわらず、保持セクションは、外部トルクを加えることによって、ハンドリングツールに対して円周方向で、ハンドリングツールの保持セクションと、歯科コンポーネントとの間の相対的な回転を生じさせることができるように構成される。この外部トルクは、ハンドリングツールのグリップを利用して、手または器具によって加えることができる。一方で長手方向における保持セクションと、歯科コンポーネントとの間の相互作用と、他方で円周方向における保持セクションと、歯科コンポーネントとの間の相互作用との違いは、ハンドリングツールと歯科コンポーネントを離すように引っ張ることで、これら2つの部品の間の保持が解除されるのに対して、歯科コンポーネントに対してハンドリングツールを回すことは、ハンドリングツールの保持セクションを歯科コンポーネントから切り離すことにならない点である。代わりに、ハンドリングツールは、歯科コンポーネントを保持した状態で維持する。
【0011】
さらに、締結要素は、歯科コンポーネントに対して回転式に固定されない。結果として、歯科コンポーネントは、これらのコンポーネントの間に相対的な回転を生じさせることなく、インプラントまたはアバットメントなどの別の歯科コンポーネントに締結させることができる。その結果として、割り出し手段が存在する場合でも、歯科コンポーネントを互いに対して装着するのにハンドリングツールを使用することができる。
【0012】
好ましい一実施形態において、保持セクションは、摩擦嵌合を利用して歯科コンポーネントを保持するように成形されている。
【0013】
歯科コンポーネントを保持するために保持セクションにおいて摩擦を利用することは、歯科コンポーネントの上記に挙げた長手方向の装着、ならびにハンドリングツールと、歯科コンポーネントとの間の相対的な回転を可能にする。摩擦嵌合の利点の1つは、保持セクションの幾何学上の設計及び/または製造公差を調節することによって摩擦嵌合の強度の調節が容易であることである。
【0014】
摩擦嵌合は、ハンドリングツールと、歯科コンポーネントとの間に解放可能な接続を実現するように構成される。よって、歯科コンポーネントを装着場所に誘導するために、ハンドリングツールによって歯科コンポーネントを長手方向に保持することができる。しかしながら長手方向において互いから離れるように引っ張られた場合、ハンドリングツールと、歯科コンポーネントが切り離される場合がある。摩擦嵌合のこのような解放の可能性はまた、ハンドリングツールと、歯科コンポーネントとの間の相対的な回転が起こり得る原因にもなる。
【0015】
しかしながら2つの部品を離すように引っ張るのとは対照的に、回転は、歯科コンポーネントとハンドリングツールの離脱を生じさせることはない。代わりに、摩擦嵌合の代わりに回転が行われ、ハンドリングツールは、トルクが加えられる間、歯科コンポーネントを保持する状態を維持する。結果として、ユーザは、締結プロセスにわたって向上した制御を有する。換言すると、摩擦嵌合のおかげで、ハンドリングツールと、歯科コンポーネントとの間の接続が安定することで、ユーザは、歯科コンポーネントを別の歯科コンポーネントに締結する間、優れた制御及びフィードバックを有することになる。
【0016】
締結要素、及びこれにより歯科コンポーネントを別の歯科コンポーネントに対してしっかりと締め付けるための締結要素の回転は、ハンドルの長手方向軸の周りにもたらされるため、保持セクションは好ましくは、実質的に回転対称であるように設計される。しかしながら、歯科コンポーネント間の摩擦嵌合及び/または形状適合の強度を調節するために、保持要素が保持セクションの面の上に設けられる場合もある。
【0017】
別の好ましい実施形態では、ハンドリングツールの係合セクションは、ハンドリングツールと、締結要素との間のトルクの移動を可能にするために、形状適合の幾何学形状を有する。
【0018】
形状適合の幾何学形状を利用することは、回転方向における高い強度の係合を可能にする係合セクションをハンドリングツールに提供する。換言すると、締め付け中のハンドリングツールと、歯科コンポーネントとの間のいかなるすべりのリスクも最小限になる。
【0019】
さらに、形状適合は、歯科コンポーネントを頂端歯科コンポーネントに締結する間、ハンドリングツールの、その回転の間の規定された挙動を保証する。より具体的には、ハンドリングツールのその長手方向軸を中心とした回転が締結要素に完全に伝達される。結果として、締結要素によって歯科コンポーネントを締結する間、歯科コンポーネントに加えられる有意なトルクは存在せず、そのようなトルクは、そうでなければ、歯科コンポーネント間の相対的な回転を生じさせる可能性がある。また、ハンドリングツールから締結要素へのトルクの移動に対する制限も全くないため、ユーザは、加えられたトルクに関する直接の触覚フィードバックを有することになる。
【0020】
別の好ましい実施形態では、ハンドリングツールの係合セクションは、ハンドリングツールと、締結要素との間のトルクの移動を制限するために、摩擦嵌合の幾何学形状を有する。
【0021】
この実施形態では、係合セクションもまた、上記に挙げた保持セクションの上記に記載した好ましい実施形態と同様の摩擦嵌合の幾何学形状を有する。しかしながら、係合セクションによって提供される接続強度は、保持セクションによって提供される接続強度より高いため、ハンドリングツールのその長手方向軸を中心としたいかなる回転も、締結要素に伝達されることになる。
【0022】
しかしながら締結要素が、所定の分量まで頂端歯科コンポーネントに締結された場合、ハンドリングツールの継続する回転は、締結要素に対するハンドリングツールのすべりを生じさせることになる。よって、すべりが両方のセクションにおいて、すなわち係合セクションと、保持セクションにおいて生じることになる。結果として、本実施形態は、ハンドリングツールによって加えられてよいトルクの分量が制限されることで、歯科用組立体、及び詳細には歯科用インプラントの過負荷を回避することができるという利点を有する。
【0023】
別の実施形態において、グリップの直径は、係合セクションの直径及び保持セクションの直径のいずれの一方よりも大きい。
【0024】
よって一方でユーザはハンドリングツールを容易に掴み、その回転ならびに加えられるトルクを制御することができる。一方で、直径がより小さい係合セクション及び保持セクションは、歯科コンポーネントが設置されるべき場所の優れた視認性を提供し、このことは、患者の口腔内での歯科コンポーネントの誘導を向上させる。
【0025】
好ましい実施形態において、ハンドリングツールはさらに中間セクションを備える。中間セクションは、係合セクションの直径及び/または保持セクションの直径に至るまで、グリップの直径から収束する。
【0026】
その結果として、中間セクションは、一方のグリップと、他方の係合セクション及び保持セクションとの間に配置される。ハンドリングツールは、単に直径の簡素な段差を有する代わりに直径が収束する中間セクションを有するため、固定する場所における視覚的障害物の発生が回避される。好ましくは中間セクションは、グリップから係合セクション及び/または保持セクションまで直線状に、またはハンドリングツールの長手方向軸に向かう凹面の曲率で収束することで、ハンドリングツールのグリップと、シャフトとの間に滑らかな移行部を提供する。
【0027】
別の好ましい実施形態において、シャフトは切欠きを含み、切欠きは好ましくはシャフト内を貫通している、または係合セクションによって形成される。
【0028】
シャフト内に切欠きを含むことは、ハンドリングツールの長手方向軸に直交する方向のシャフトの弾性を高めることができるという利点を有する。結果として、シャフトは、より大きな範囲の製造公差に適合することができる、またはさらには、異なる歯科コンポーネントにも適合することができる。
【0029】
切欠きは、長手方向軸を横切るシャフトの円周側にある、または長手方向軸に沿って歯冠方向のシャフトの頂端部における開口から延出するシャフトの頂端部における凹部であってよい。好ましくは切欠きは、シャフトの中を貫通して伸びて貫通孔を形成する。切欠きが、シャフトの外周側に位置する場合、それは好ましくはスロットが付けられた、または細長い穴として形成される。
【0030】
特に好ましい一実施形態では、ハンドリングツールの長手方向軸に沿った切欠きの位置は、長手方向軸に沿った保持セクション及び/または係合セクションの位置と少なくとも部分的に一致する。
【0031】
この好ましい実施形態において、切欠きは、製造公差の点においてより大きなコンプライアンスを提供するだけでなく、保持セクション及び/または係合セクションが、歯科コンポーネント及び締結要素それぞれに与える接続強度の調節も可能にする。
【0032】
また保持セクション及び係合セクションの一方を、保持セクション及び係合セクションの他方のための切欠きとして形成することも可能である。このことは、切欠きが追加の機構として形成されないためだけでなく、ハンドリングツールのシャフトに沿った、かつ互いに対する保持セクション及び/または係合セクションの有利な配置によっても、ハンドリングツールのさらによりコンパクトな設計を可能にする。
【0033】
別の好ましい実施形態では、切欠きの円周部は好ましくは丸みがつけられる。
【0034】
丸みがつけられた円周部は、締結要素を締結させる際、ハンドリングツールに加えられるトルクによって生じる高いストレスの発生を阻止する。結果として、素材が破損するリスクが低下する。さらに、ハンドリングツールの破損による患者に対する悪影響のリスクも有意に低下される。
【0035】
別の好ましい実施形態において、ハンドリングツールはさらに、ハンドリングツール内に配置された少なくとも1つの空洞を備えることで、材料の厚さの偏差が最小限になる。
【0036】
この実施形態では、ハンドリングツールの異なるセクションにおける材料の厚さが比較的小さい範囲内に維持されることで、ハンドリングツールを、とりわけ射出成形などの成形技術を利用して効率的に製造することができる。
【0037】
特に好ましい一実施形態では、ハンドリングツールは、固体ポリマーまたは固体ポリマー複合材料、詳細にはPEEKまたはPEEK複合材料から少なくとも一部が作成される。
【0038】
ポリマーは製造するのに安価であるため、その利用は、よりコスト効果の高い治療を提供する。また、PEEKなどのポリマーは、生体適合性であることが知られており、かつハンドリングツールを形成するために使用されるのに十分な材料強度を有する。さらに、固体ポリマー複合材料を利用することによって、材料の特性を高める、とりわけ材料強度を高めることも可能である。例えば、PEEKを、TiO2及び/またはファイバ、例えば硝子ファイバまたはカーボンファイバなどの充填剤と合体するPEEK複合材料が使用されてよい。
【0039】
さらに本発明は、ハンドリングツール、詳細には上記に記載したようなハンドリングツールと、歯科コンポーネントとを備える歯科用セットを提供し、ハンドリングツールは、長手方向軸と、歯科コンポーネントを長手方向に、すなわち長手方向軸に沿って固定された位置に保持するが、長手方向軸を中心としたハンドリングツールと、歯科コンポーネントの間の回転を可能にする保持セクションとを有する。
【0040】
ハンドリングツール及び歯科コンポーネントは好ましくは、事前に組み立てられた歯科用セットとして歯科医などのユーザに届けられる。好ましくは歯科用セットは、滅菌済みのパッケージとして提供される。上記に記載したように、保持セクションは、歯科コンポーネントを長手方向に保持するのと同時に、これら2つの部品間の相対的な回転を可能にするのに十分な、ハンドリングツールと、歯科コンポーネントとの間の接続を提供する利点を有する。さらに、歯科コンポーネントを長手方向に保持することによって、ハンドリングツールによって締結要素にトルクを加える間の制御が向上する。
【0041】
好ましい一実施形態において、ハンドリングツールの保持セクションと、歯科コンポーネントの接触セクションとの間の円周方向の接触が非連続であるように構成される。
【0042】
ハンドリングツールの保持セクションと、歯科コンポーネントの接触セクションとの間の円周方向の接触は非連続であるため、ハンドリングツールと、歯科コンポーネントとの間の摩擦嵌合を所望される値に容易に調節することができる。非連続の接触を利用することはとりわけ、保持セクションにおいて生じる嵌合の強度が、係合セクションにおいて生じる嵌合の強度より小さいことを保証する特定のレベルに、摩擦嵌合を調節することを可能にする。
【0043】
好ましくは、保持セクションと、接触セクションとの間の非連続の接触は、起伏する幾何学形状を有するセクションの一方の表面によって実現される。例えばハンドルの保持セクションは、上記に記載したように概ね円形の構成を有する外周面であり得るのに対して、歯科コンポーネントの接触セクションは、保持セクションを取り囲み、かつ起伏する構成を有する、またはその逆も同様である。起伏する幾何学形状の結果として、歯科コンポーネントの接触セクションは、所定の間隔でのみ、好ましくは規則的な間隔で保持セクションと接触する。
【0044】
歯科用セットの別の好ましい一実施形態において、締結要素は、歯科コンポーネントのねじ山と係合するねじ山を有しており、この場合、該ねじ山は、頂端歯科コンポーネントのねじ山に締結される際、歯科コンポーネントのねじ山との係合から外れる。
【0045】
別の歯科コンポーネントに締結されるべき歯科コンポーネントのねじ山と係合している締結要素のねじ山は、事前に組み立てられた歯科用セットの場合にとりわけ有利である。より具体的には、そのようなねじ込み係合は、ハンドリングツール及び歯科コンポーネントに対する締結要素の位置を固定する。また、歯科コンポーネントのねじ山は、締結要素をさらに回転させることによって歯科コンポーネントを頂端歯科コンポーネントに取り付ける際、少なくとも最初のうち締結要素を誘導する。
【0046】
締結要素は、事前組立中に固定されるため、事前に組み立てられた歯科用セットを、例えば輸送することによって生じる慣性力に起因する、ハンドリングツールを歯科コンポーネントとの係合から外れるようにし得るいかなる遊びも回避される。結果として、締結要素を受けるために歯科コンポーネント内にねじ山を設けることはまた、係合セクションにおけるものより、保持セクションにおいてより小さい接続強度を提供するために、低い強度の摩擦嵌合によって保持セクションを支持する。
【0047】
本発明はまた、ハンドリングツールを利用して、とりわけ上記に記載したハンドリングツールを利用して歯科コンポーネントを組み立てるための方法も提供する。方法は、ハンドリングツールの係合セクションを、締結要素の係合機構と係合状態にするステップと、ハンドリングツールの保持セクションを、摩擦嵌合によって歯科コンポーネントの接触セクションに結合するステップであって、該摩擦嵌合は、ハンドリングツールと、歯科コンポーネントとの間の相対的な回転を可能にするステップとを含む。
【0048】
歯科コンポーネントを組み立てるための本発明によるこの方法は、ハンドリングツール及び歯科用セットに対して既に記載した利点を提供する。この方法はとりわけ、ハンドリングツールと、締結要素と、歯科コンポーネントとを事前に組み立てるのに使用されてよい。この事前の組み立ては、歯科用セットが治療のために歯科医院に届けられる前に行われてよい。それでもなお、方法はまた、歯科コンポーネントの患者の口への挿入及び固定に備えて歯科医院で適用される場合もある。いずれのケースでも、歯科用セットをそのようにして準備することが実現可能であることは、歯科コンポーネントを設置するのに必要とされる患者の椅子に座る時間を短縮する。
【0049】
好ましくは、締結要素は、ハンドリングツールの保持セクションと、歯科コンポーネントの接触セクションによってハンドリングツールが歯科コンポーネントに結合される前に、歯科コンポーネントに挿入される。
【0050】
とりわけ好ましい一実施形態では、方法はまた、締結要素のねじ山を歯科コンポーネントのねじ山とねじ込み係合状態にするステップと、好ましくは、締結要素のねじ山を歯科コンポーネントのねじ山との係合から外し、頂端歯科コンポーネントのねじ山と係合状態にするために、締結要素を歯科コンポーネントに対してさらに回転させるステップとを有する。
【0051】
方法のこの実施形態は、事前に組み立てられた歯科用セット内にねじを固定し、ならびにねじを頂端歯科コンポーネントと係合するように誘導するという先に記載した利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
以下の図面は、本発明の好ましい実施形態を例示している。これらの実施形態は、限定として解釈するべきではなく、単に本発明の理解を高めるものと理解すべきである。これらの図面において、同一の参照符号は、同一の、あるいは等価な機能及び/または構造を有する構成要素を、図面を通して指している。これはまた、異なる実施形態を指す最初の数字を除いて同一の参照符号に適用される。その結果として、これらの構成要素のそれぞれの繰り返しの説明は、概ね省略される。
【0053】
【
図1】本発明によるハンドリングツールの斜視図である。
【
図2】
図2aは、
図1のハンドリングツールの側面図である。
図2bはハンドリングツールの断面の側面図である。
【
図3】
図3aから
図3dは、締結要素を備える歯科コンポーネントの隣接する頂端歯科コンポーネントへの取り付け及び固定のための、先の図面のハンドリングツールの利用を示す。
【
図4】
図4aから
図4cは、保持セクションの摩擦を高めるために、保持セクションの外周面上に形成することができる保持要素の実施形態である。
【
図5】本発明によるハンドリングツールの別の実施形態である。
【
図6】
図6a及び
図6bは、
図5に例示されるハンドリングツールの異なる側面図である。
【
図7】
図7a及び
図7bは、歯科コンポーネントを、締結要素を備える別の頂端歯科コンポーネントに固定するための、
図5及び
図6に例示されるハンドリングツールの利用を示す、側面図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図1、
図2a及び
図2bは、2つの歯科コンポーネントを互いに対して装着し、締結するための、本発明によるハンドリングツール60の第一の実施形態を示している。歯科コンポーネントは、インプラント10、スペーサ、アバットメント20、40及び/または人工歯であってよい。ハンドリングツール60は、細長く、近位端68と、遠位端69とを有する。近位端68は、グリップ63である。グリップ63は、ユーザにより優れた把持を提供するために、
図1及び
図2aに示される長手方向の溝などの構築された円周方向の面を有してよい。
【0055】
遠位端69において、ハンドリングツール60は、その外周側に保持セクション62を備える。保持セクション62と、把持セクション63との間に、ハンドリングツール60は、中間セクションを含んでよく、ここでは、ハンドリングツール60の直径は、保持セクション62及び/または係合セクション61の直径に至るまで縮小する。
図2に最適に見ることができるように、直径の縮小は好ましくは、長手方向軸Lに沿ってハンドリングツール60の遠位方向に直線状または凹面の収束として形成される。
【0056】
保持セクション62は、歯科コンポーネント20、40を保持するためのものである。換言すると、歯科コンポーネント20、40が、ハンドリングツール60に切り離し可能に結合されるように、歯科コンポーネント20、40は、ハンドリングツール60の保持セクション62に結合されてよい。保持機能は、摩擦嵌合及び/または形状適合によって達成される。どちらのケースでも、保持セクション62は、ハンドリングツール60の長手方向軸Lを中心とした歯科コンポーネント20,40の回転を可能にする。よって、保持セクション62は、歯科コンポーネントに対するハンドリングツールの回転を可能にする幾何学形状、例えば概ね円形の幾何学形状を有する。
【0057】
好ましくは、保持セクション62は、摩擦嵌合によって歯科コンポーネント20、40を保持する。摩擦嵌合は、円形の外周面など、簡素な幾何学形状によって実現することができる。この方法において、摩擦嵌合が、ハンドリングツール60に対する歯科コンポーネント20,40の回転を可能にする。しかしながら、例えば、保持セクション62上に保持要素67a、67b、67cを含むことによって(
図4を参照)、摩擦嵌合の増大した接続強度を提供することも可能である。換言すると、歯科コンポーネントが、ハンドリングツール60の長手方向にしっかりと保持されるが、長手方向軸Lを中心として回転することが可能であるように、摩擦嵌合を、保持セクション62によって提供されるべき所望される接続強度に調節することができる。
【0058】
それにも関わらず、保持セクション62としてスナップ嵌合の幾何学形状を含むことも可能である。これは、上記に挙げた摩擦嵌合の代替の機構、またはそれに対して相補的な機構であってよい。そのようなスナップ嵌合の幾何学形状はまた、長手方向における先に記載した保持機能だけでなく、長手方向軸Lを中心とした回転機能も提供する必要がある。これは、ハンドリングツール60の保持セクション62及び/または歯科コンポーネント20,40の接触セクション21、41上に連続する円周方向の溝または隆起を設けることによって達成されてよい。
【0059】
ハンドリングツール60はまた、係合セクション61を備える。
図1から
図4に示されるハンドリングツール60の実施形態において、係合セクション61は、長手方向軸Lに沿ってハンドリングツール60のシャフト65内に延在する凹部として、ハンドリングツール60の遠位端69に形成される。
【0060】
図1及び
図2bに例示されるように、係合セクション61は、締結要素30を長手方向軸Lを中心として回転方向に係合させる幾何学形状を有する。しかしながら、係合セクション61の幾何学形状はまた、締結要素30の長手方向軸Lに沿った並進も可能にするように形成される。結果として、締結要素30は、ハンドリングツール60が回転される間、ハンドリングツール60に対して遠位方向に移動し、締結要素30は、そのねじ山31を利用して頂端歯科コンポーネント20,40に徐々に係合する。
【0061】
図1に示される例示の実施形態では、係合セクション61は、六角形の幾何学形状を有する。しかしながら、長手方向軸Lを中心とする回転係合をもたらし、かつ同時に、この長手方向軸Lに沿った締結要素30の並進も可能にするいかなる幾何学形状も、係合セクション61として利用するのに適している。
【0062】
ポリマーは、安価で高度な大量生産が可能であるため、ハンドリングツール60、160は好ましくは、PEEKなどのポリマーから作成され、ハンドリングツール60は、使い捨ての部品として簡単に提供されてよい。
【0063】
図2bに例示されるように、ハンドリングツール60は、長手方向軸Lに沿ってグリップセクション63のレベルに空洞66を備える。この方法では、ハンドリングツール60は、材料の厚さの偏差がより小さく、これは、例えば射出成形による製造を容易にする。好ましくは、ハンドリングツールの隣接する断面における、とりわけ段差の変化を有する場所における材料の厚さの変化は、これより薄いセクションに対して250%未満、好ましくは150%未満であり、さらにより好ましくは100%である。同様のことが、同じ目的のために空洞166を含むハンドリングツール160にも適用される。
【0064】
図3a及び
図3bは、歯科コンポーネント20を頂端歯科コンポーネント10にしっかりと締め付ける作業の終了時のハンドリングツール60の利用を、側面図と、断面の側面図それぞれとして例示している。
図3において、頂端歯科コンポーネント10は、歯科用インプラントであり、歯科コンポーネント20はアバットメントである。歯科コンポーネントは、歯科補綴物または上部構造を構築するための任意の好適な歯科コンポーネントであり得ることが当業者によって理解される。例えば、以下にさらに詳細に記載される
図7では、スリーブまたは歯冠アバットメント40が、頂端アバットメント20に締結される。
【0065】
図3bから理解され得るように、歯科用インプラント10は、締結要素30の外側のねじ山31と係合するための内側のねじ山13を備える。
図3における締結要素30は、ねじヘッド34と、シャフトとを含む歯科用ねじである。シャフトは、その遠位端に外側のねじ山31を備える。ねじヘッドは、その外周上に、ハンドリングツール60の係合セクション61と係合するために係合機構32を含む。それはまた、以下の
図7に関連してより詳細に説明される別の締結要素130とのねじ込み係合のために内側のねじ山35も備える。
【0066】
歯科コンポーネント20は、締結要素30の挿入のために、その長手方向に沿ってコンポーネント内を通過する貫通孔を備える。貫通孔の歯冠端部において、歯科コンポーネント20は、ハンドリングツール60の保持セクション62に結合するための接触セクション21を含む。接触セクションは、長手方向軸Lに実質的に平行な内周面として形成されることで、締結要素と接触する際、並進することを可能にする。接触セクション21の頂端部において、歯科コンポーネント20は、歯科コンポーネント20を、歯科コンポーネント10に固定式に取り付けることができるようにねじ台座をさらに備える。
【0067】
貫通孔の頂端部において、歯科コンポーネント20は、内側のねじ山23を備えることができる。
図3dに例示されるように、内側のねじ山23は、事前に組み立てられた状態で締結要素30の外側のねじ山31と係合するように機能する。上記に記載したように、ハンドリングツール60、歯科コンポーネント20及び締結要素30は好ましくは、患者に歯科用セットを使用するための準備を与えるため、かつ治療中患者の椅子に座る時間を短縮するために事前に組み立てられる。
【0068】
図3に示される例示の実施形態における歯科用セットの事前組み立ては、歯科コンポーネント20の内側のねじ山23とねじ込み係合するように締結要素30を回転させることによって行われる。この後に、ハンドリングツール60の係合セクション61を、締結要素30の係合機構32と係合するように長手方向軸Lに沿ってねじヘッド34上を移動させ、その後、ハンドリングツール60の保持セクション62を歯科コンポーネント20の接触セクション21と接触させる。この例示の実施形態では、歯科コンポーネント20はまた、歯科コンポーネント20及び歯科コンポーネント10、すなわち本実施形態ではインプラントを回転方向にロックするために割り出し手段を備える。
【0069】
この事前に組み立てられた歯科用セットはその後、患者の口腔内に移動され、歯科コンポーネント10へと誘導される。より具体的には、歯科コンポーネント20は、歯科コンポーネント20を受けるための歯科コンポーネント10の対応する凹部に誘導される。これは、
図3dに例示される状況になる。
【0070】
図3に示される実施形態では、締結要素30は、歯科コンポーネント20とのねじ込み係合状態にあるため、締結要素が、事前に組み立てられた歯科用セットから緩んで延出することはない。結果として、締結要素30が、事前に組み立てられた歯科用セットを患者の口腔内で歯科コンポーネント10まで誘導する邪魔をすることはない。
【0071】
歯科コンポーネント20を歯科コンポーネント10に固定するために、ハンドリングツール60をその長手方向軸Lに沿って回すことによって締結要素30が回転される。結果として、締結要素30の外側のねじ山31は、歯科コンポーネント20の内側のねじ山23との係合から外れて、さらに歯科コンポーネント10の内側のねじ山13と係合するように頂端方向に進む。固定された、またはしっかりと締められた状態で、外側のねじ山31は、内側のねじ山23との係合状態から完全に外れることで、歯科コンポーネント20の歯科コンポーネント10に対する確実な締結が実現される。
【0072】
一方、締結方向に回転する間、締結要素30は、ハンドリングツール60の係合セクション61から出るように頂端方向に移動する。その結果として、ハンドリングツール60の係合セクション61と、締結要素30の係合機構32との間の係合は、長手方向軸Lを中心とした回転の点のみにおいて生じており、この長手方向軸に沿った並進の点では生じていない。
【0073】
一方、歯科コンポーネント20の接触セクション21と接触しているハンドリングツール60の保持セクション62は、外部の力がこの方向に沿って加えられない限り、歯科コンポーネント20を長手方向軸Lに沿ってハンドリングツール60に対して固定された位置に保持するが、歯科コンポーネント20に対するハンドリングツール60の相対的な回転を可能にする摩擦嵌合を提供する。摩擦嵌合は、歯科コンポーネント20の締結中にハンドリングツール60を回転させる間、ハンドリングツール60と、歯科コンポーネント20との間で最小限のトルクを伝達するが、このトルクは、歯科用インプラント10の患者の周辺の骨組織との結合性に影響を及ぼすことはない。
【0074】
一般に、ハンドリングツール60、160の長手方向軸Lを中心とした回転方向におけるハンドリングツール60、160の保持セクション62,162と、歯科コンポーネント20,40との間の接続の強度は、ハンドリングツール60、160の係合セクション61,161と、歯科コンポーネント20,40との間の接続の強度より小さい。
【0075】
この強度の差は、締結要素30と、ハンドリングツール60との間で形状適合を利用し、ハンドリングツール60と、歯科コンポーネント20との間で摩擦嵌合を利用することによって、
図3の実施形態において実現される。結果として、ハンドリングツール60と、歯科コンポーネント20の間のみにすべりが生じる可能性がある。
【0076】
しかしながら、この事前の状態はまた、一方でハンドリングツール60と、締結要素30との間で、他方でハンドリングツール60と、歯科コンポーネント20との間(
図7を参照)で摩擦嵌合を利用するケースにおいても満たすことができる。
【0077】
締結要素30を利用して歯科コンポーネント20を歯科コンポーネント10に締結した後、ハンドリングツール60を頂端方向に引っ張ることによって、ハンドリングツール60を容易に取り除くことができる。
【0078】
図4に注目すると、
図4は、ハンドリングツール60の保持セクション62上に付加的に設けられてよい3つの保持要素67a、67b、67cを例示している。これらの保持要素67は、局所的に摩擦嵌合を高める、及び/またはハンドリングツール60と歯科コンポーネント20、40との間に形状適合を実現する突起67a、67b、67cとして設けられてよい。追加としてまたは代替として、保持要素67a、67b、67cは、所定の摩擦嵌合及び/または形状適合を獲得するために、ハンドリングツール60と、歯科コンポーネント20、40との間に規定された局所的な接触力を提供するために板ばねと同様の弾性特性を有する場合がある。
【0079】
保持要素67は好ましくは、保持セクション62の外周を取り巻くように等距離に設けられる。好ましくは、1つから6つの突起、及び好ましくは2つから4つの突起が、保持セクション62の外周面上に形成される。
【0080】
図5は、参照符号160によって示される本発明によるハンドリングツールの別の実施形態を示している。以下に記載される本発明の実施形態に関連する参照符号の最初の数字から分かるように、ハンドリングツール160の基本構造は、先に記載したハンドリングツール60と同様である。例えばハンドリングツール60と同様に、ハンドリングツール160は、その近位端にグリップ163を備え、その遠位端には、保持セクション162と、係合セクション161とを含むシャフト165を備える。しかしながら、保持セクション162及び係合セクション161は少なくともその一部が、ハンドリングツール60の保持セクション62及び係合セクション61と同じレベルには設けられず、代わりに続けて設けられている。より具体的には、係合セクション161は、ハンドリングツール160の遠位端169に据えられており、保持セクション162は、その近位方向に配置される。
【0081】
先の図面のハンドリングツール60の実施形態と同様に、係合セクション161は、トルクを加えるために、少なくとも部分的な形状適合によって締結要素130と係合するように構成される。
図5に例示されるように、係合セクション161は、複数の係合サブセクション161a、161bによって形成されてよい。このような係合サブセクション161a、161bは、係合セクション161の円周上に配置される。この実施形態において、係合サブセクション161a、161bは平面であり、中間サブセクション167a、167bによって隔てられている。換言すると、係合サブセクション161a、161bは、好ましい規則的なパターンを形成するために、係合セクション161の円周を囲むように中間サブセクション167a、167bと交互に配置される。中間サブセクション167a、167bは、それらが、締結要素130の対応する係合機構132に係合しないように形成される。係合サブセクション161a、161bの数は好ましくは、中間サブセクション167a、167bの数と等しい。さらに、係合サブセクション161a、161bの数は、締結要素130の係合機構132に応じて選択される。例えば、係合機構132が六角形の幾何学形状によって形成される場合、好ましくは6つの平面の係合セクション161a、161bが存在する。
【0082】
長手方向において、係合セクション161は、締結要素130をハンドリングツール160に接して保持するために、摩擦嵌合によって締結要素130と係合するように構成される。
【0083】
係合サブセクション161a、161bは必ずしも平面である必要はないが、この幾何学形状が、締結要素130の係合機構132に少なくとも一部のみが係合することができる限り、任意の他の幾何学形状を有する場合もあることを当業者は理解するであろう。それにもかかわらず、このような係合サブセクション161a、161bは好ましくは、係合機構132に一部のみが係合するように形成される。この方法において、ハンドリングツールの係合セクション161によって加えられるトルクの分量を制限することが可能である。換言すると、係合サブセクション161a、161bを締結要素130の係合機構132に一部のみが係合するハンドリングツールに設けることは、ハンドリングツール160によって加えられるトルクが所定の量を超えた場合、ハンドリングツール160と締結要素130との間のすべりを可能にする。
【0084】
また、ハンドリングツール160は、中間セクション64を含まず、この場合、ハンドリングツールの直径は、グリップ163から保持セクション162及び係合セクション161まで連続して収束する。代わりに、グリップセクション163は、ハンドリングツール160の長手方向において相対的に短くなるように設計され、装着場所の優れた視認性を提供するため、及びとりわけより大きな補綴物の再建を容易にするために、シャフト165のより小さな直径への段階的な変化を有する。好ましくは、グリップセクション163は、近位端168において、長さの約半分に沿って形成される、または遠位方向におけるハンドリングツール160の全長より短くなるように形成される。
【0085】
図1から
図4のハンドリングツール60に対する別の違いは、ハンドリングツール160の遠位端169付近の切欠き164である。切欠き164は、シャフト165の中を貫通して横方向に延在している。既に上記に記載したように、切欠き164を形成する凹部はまた、シャフトの弾性の調節、及びとりわけ保持セクション162の弾性の調節を可能にする。
【0086】
先の実施形態のハンドリングツール60のケースでは、そのような凹部は、係合セクション61によって形成される場合もある。ここでは、係合セクション61の位置もまた、2つのセクションが共にハンドリングツール60の長手方向軸Lに沿って同一レベルに配置されるため、保持セクション62の弾性を高める。
【0087】
図5から
図7の例示の実施形態では、切欠き164は、ハンドリングツール160の長手方向軸Lに沿って保持セクション162の領域内に延在する。この方法において、保持セクション162の弾性が高められる。また、近位端168に向かってシャフト165に沿ってさらに延びる切欠き164は、歯科コンポーネント40の貫通孔の中でのハンドリングツール160の容易な回転を保証することができる(
図7bを参照)。
【0088】
ハンドリングツールの一実施形態に関連して先に記載したように、切欠き164は、ハンドリングツール160の材料の中での高い応力の発生を阻止するために、丸みがつつけられた円周部を備える。切欠き164は、シャフト165の横方向全体にわたって延在するスロットまたは細長い穴として形成されるが、切欠き164を形成することは、貫通孔を形成しないが、底部を有する凹部として形成するだけで十分な場合もある。そのような一実施形態では、切欠き164は、シャフト165の円周を囲むように均等になるように配置された2つ以上の凹部として好ましくは設けられる。
【0089】
図5及び
図6からさらに分かるように、保持セクション162は、連続する保持セクションとして形成されないが、代わりに、互いに向かい合い、切欠き164によって隔てられた2つの保持サブセクションを備える。
【0090】
保持セクションを、切欠きによって隔てられてよい、または縮小された寸法を有するサブセクションの間の区域、すなわち長手方向軸Lに直交する方向の特定の距離によって単に隔てられた複数のサブセクションにさらに分割する。これは、歯科コンポーネント40をハンドリングツール160の長手方向軸Lに沿って固定された位置に保持するのに必要とされる所望される値に摩擦嵌合の強度を調節し、その一方でその長手方向軸Lを中心とした歯科コンポーネント40に対するハンドリングツール160の回転を可能にするための別のオプションである。
【0091】
ハンドリングツール160の利用が、
図7a及び
図7bに関連して最適に説明される。先に記載したように、歯科コンポーネント40、ハンドリングツール160、及び
図7に示される実施形態では歯科用ねじとして形成される締結要素130は、事前に組み立てられた状態で患者の口の中に挿入される。歯科コンポーネント40は、先に記載した歯科コンポーネント20と同様の貫通孔を備えるが、その頂端部に内側のねじ山は持たない。
【0092】
事前組み立て中、締結要素130が歯科コンポーネント40に挿入され、その後にハンドリングツール160の保持セクション162が続く。締結要素130及びハンドリングツール160を、締結要素130がねじ台座に当接するまで頂端方向に歯科コンポーネントの貫通孔に押し込むことによって、締結要素130が、歯科用セットを患者の口に挿入する間、長手方向に移動するのが阻止される。その結果として、この実施形態では、ハンドリングツールの保持セクション162はまた、締結要素130を保持する機能も有しており、この機能は、先の実施形態では、締結要素30の内側のねじ山31によって達成される。
【0093】
歯科用セットを配置する間、及びすなわち歯科コンポーネント40を歯科コンポーネント20上に配置する間、締結要素130は、歯科コンポーネント40の歯冠方向で貫通孔の中に押し戻される。
【0094】
歯科コンポーネント20は、歯科コンポーネント40を歯科コンポーネント20に結合するために、上記に記載した起伏する接触セクションを備えてよい。この起伏する接触セクション21は、これら2つのコンポーネントの間の回転を阻止するための割り出し手段として機能し得る。歯科コンポーネント20の円周方向の接触セクション21が起伏する幾何学形状を有する場合、
図3に関連して先に記載したハンドリングツール60と、歯科コンポーネント20との間の摩擦嵌合は、ハンドリングツール60の保持セクション62の円周の周りで非連続的に確立される。上記に記載したように、これは、摩擦嵌合の接続強度を操作することを可能にする。
【0095】
ひとたび歯科コンポーネント40が歯科コンポーネント20上に配置されると、ハンドリングツール160を回転させることによって、締結要素130を、締結要素30のヘッドに配置された先に記載した締結要素30の内側のねじ山35とねじ込み係合するように前に進めることができる。ハンドリングツール160の係合セクション161と、ねじの係合機構132との間の少なくとも部分的な形状適合係合は、ハンドリングツール160の保持セクション162と、歯科コンポーネント40の接触セクション41との接触によって生じる接続より高い接続強度を有するため、保持セクション162と接触セクション41の間のみにすべりが生じる。
【0096】
しかしながら締結要素130が、所定のトルク値まで、締結要素30の内側のねじ山35に対して締め付けられるとすぐに、係合サブセクション161a、161bの幾何学形状及び/または寸法は、係合セクション161と、接触セクション132との間にすべりが生じることを可能にするように、先に記載したように構成されてよい。よって係る実施形態では、最大トルクに達するとすぐに生じるすべりの形態で、より優れた触覚フィードバックがハンドリングツール160によってユーザに提供される。この方法において、歯科コンポーネントに対する損傷、または歯科コンポーネントと、患者の組織との間の接触面に対するいかなる損傷も回避することができる。
【0097】
締結要素130を締めた後、ハンドリングツール160を頂端方向に引っ張ることによって、ハンドリングツール160を容易に取り除くことができる。こうして、歯科用セットを挿入する間も、ハンドリングツールを取り除く間も、歯科用セットの構成要素が患者の口腔内で失われるリスクは存在しない。
【0098】
本開示では、ハンドリングツール60及び160は、複数ユニットのアバットメント、詳細には2つの部品のアバットメントを組み立てるために使用される。しかしながら、ハンドリングツールのいずれも、1部品のアバットメントまたは上記に挙げた任意の他の歯科コンポーネントを設置するのに使用される場合もあることは当業者にとって明らかであろう。
【0099】
ハンドリングツール、歯科コンポーネント及び締結要素の上記に記載した実施形態は、内部機構を外部機構によって置き換えるために修正される場合もあることも当業者によって理解されるであろう。例えば、ハンドリングツール60の係合セクション61は、凹部の外周上に配置される場合もあり、保持セクション62が、凹部の内周上に配置される場合もある。
【符号の説明】
【0100】
10 頂端歯科コンポーネントまたはインプラント
13 内側のねじ山
20 第1の歯科コンポーネント
21 接触セクション
23 内側のねじ山
25 割り出し手段
30 インプラントねじなどの締結要素
31 外側のねじ山
32 係合機構
34 ねじヘッド
35 内側のねじ山
40 第2の歯科コンポーネント
41 接触セクション
60 ハンドリングツール
61 係合セクション
62 保持セクション
63 グリップ
64 中間セクション
65 シャフト
66 空洞
67 保持要素
68 近位端
69 遠位端
130 補綴物ねじなどの締結要素
131 外側のねじ山
132 係合機構
160 ハンドリングツール
161 係合セクション
161a、161b 係合サブセクション
162 保持セクション
163 グリップ
164 横方向の切欠き
165 シャフト
166 空洞
167a、b 中間サブセクション
168 近位端
169 遠位端
L 長手方向軸