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特許7042250一炭化タングステン(WC)球状粉末の製造
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  • 特許-一炭化タングステン(WC)球状粉末の製造 図1A
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  • 特許-一炭化タングステン(WC)球状粉末の製造 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】一炭化タングステン(WC)球状粉末の製造
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/949 20170101AFI20220317BHJP
【FI】
C01B32/949
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019502606
(86)(22)【出願日】2017-07-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-22
(86)【国際出願番号】 EP2017068505
(87)【国際公開番号】W WO2018015547
(87)【国際公開日】2018-01-25
【審査請求日】2020-07-20
(31)【優先権主張番号】2016129969
(32)【優先日】2016-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】595054486
【氏名又は名称】ヘガネス アクチボラゲット
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シェブチェンコ、ルスラン アレクセーヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァクールシン、アレクサンデル ユーリーヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】チュカノフ、アンドレイ パブロヴィチ
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特公昭57-050726(JP,B1)
【文献】特表2013-528147(JP,A)
【文献】Dmytro Demirskyi et al.,Journal of Alloys and Compounds,2012年,vol.523,pp.1-10 ,DOI:10.1016/j.jallcom.2012.01.146
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/949
B22F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発材料を最初に溶融させ、次にアトマイズにより球状粉末を形成する、一炭化タングステン(WC)の球状粉末の製造方法であって
前記出発材料として一炭化タングステンのグリットを使用し、
前記出発材料の溶融およびアトマイズは、不活性雰囲気下で遠心式アトマイズ装置の回転るつぼに前記グリットを連続的に充填し、プラズマアークによって溶融させて粉末を形成することによって行なう、前記製造方法において
その後、前記粉末の熱処理を、1200℃よりも高い温度かつ1400℃以下の温度でWCの分解に必要な時間行ない、次に前記粉末を炉冷することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記出発材料は、粒径が20μm~80μmの一炭化タングステンWCのグリットである、請求項1に記載された製造方法。
【請求項3】
前記粉末の熱処理を1.5時間~2時間行なう、請求項1または請求項2に記載された製造方法。
【請求項4】
10μm~2.5mmの粒径を有する粉末を製造する、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された製造方法。
【請求項5】
前記不活性雰囲気は、窒素、アルゴンおよびヘリウムからなる群から選択される少なくとも1つのガスを含む、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉末冶金に関し、特に工具、ドリルビット、鋼合金化、摩耗の激しい状況で作動する要素の耐摩耗性被覆の製造に使用されるセラミック硬質合金の主成分である一炭化タングステン球状粉末の製造に関し、その製造方法および製造された粉末を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
一炭化タングステンは、タングステン又はその化合物(例えば酸化物又は酸など)を炭素又は炭素含有材料と接触させることによって製造される。例えば、タングステンおよび炭素の粉末に、強力な機械的処理および熱処理を行う一炭化タングステン粉末の合成方法が知られている(A.S. KurlovおよびA.I.Gusevの「Effect of ball milling parameters on the particle size in nanocrystalline powders(ナノ結晶粉末の粒子サイズに対するボールミル粉砕パラメーターの影響)」、Pis’ ma v Zhurnal Tekhnicheskoi Fiziki、2007;33(19):46-54。英訳:Tech.Phys.Lett.2007; 33(10):828-832)
【0003】
酸素含有タングステン化合物をプラズマ反応器中で放電プラズマを用いて炭化水素による還元を行い、WC、WC、タングステンおよび遊離炭素の混合粉末を生成し、その後、炭化物の還元および酸素の除去のために800℃~1300℃の温度で水素雰囲気中で混合粉末の処理を行い、一炭化タングステン基の粉末を製造する、一炭化タングステン基粉末の製造方法も知られている(RU2349424)。これらの技術によって製造された一炭化タングステンは、不規則な粒子形状の粉末が形成される。したがって、それは球状粉末ではない。
【0004】
しかしながら、球形粒子を有する粉末の使用が多くの用途に必要である。球状粒子の構造は、高密度であり、欠陥が実質的に存在しない(粉砕粉末を除く)ことを特徴とし、これにより、球状粒子は高強度を得ることができる。
【0005】
大部分の球状粉末材料は、従来技術に従って、基本的にはガスアトマイズ、遠心アトマイズ、プラズマ球状化などの様々な方法を用いた溶融アトマイズによって製造される。非球状WC粒子に炭素化合物を被覆して、プラズマ加熱により球状粉末を形成する、炭化タングステン球状粉末の製造方法が知られている(US9,079,778)。また、炭化タングステン初期材料の溶融をその融点よりも150~300℃高い温度で行い、溶融物を保持し、そして不活性ガス流によりアトマイズする、炭化タングステン球状粉末の製造方法が知られている(US5,089,182)。
【0006】
しかし、球状粒子を有する一炭化タングステン粉末を得ることは、2500℃の温度での加熱中の包晶反応による一炭化タングステンのWC及び遊離炭素(C)への分解のために不可能である。それに続く硬質材料構造への溶融物冷却の後、状態図に基づく相、すなわちWC、WC、Cが固定される。規定された溶融物組成のアトマイズによって使用可能な含有量の球状タングステン炭化物を有する粉末を得ることは従来技術では不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】露国特許第2349424号明細書
【文献】米国特許第9,079,778号明細書
【文献】米国特許第5,089,182号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】Pis’ ma v Zhurnal Tekhnicheskoi Fiziki、2007年、第33巻(19)、第46頁-54頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、先行技術における問題の少なくともいくつかを軽減し、一炭化タングステン粉末球状粉末の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による1つ結果として、最終製品中の一炭化タングステン含有量が70体積%を超えるまでに増加する。
【0011】
この技術的結果は、以下により達成される。本発明による一炭化タングステン球状粉末の製造方法は、球状粉末形成を伴う溶融アトマイズが含まれる。出発材料として、一炭化タングステンのグリットを使用し、出発材料の溶融およびアトマイズは、不活性雰囲気下で遠心式アトマイズ装置の回転るつぼにグリットを連続的に充填し、プラズマアークによってグリットを溶融して粉末を形成することによって行なう。その後、粉末の熱処理を、1200℃~1400℃の温度でWCの分解に必要な時間行ない、次に粉末を炉冷する。
【0012】
特許請求の範囲に記載された製造方法により、10μm~2.5mmの粒径を有する粉末が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】一炭化タングステン球状粉末の電子顕微鏡写真。
図1B】一炭化タングステン球状粉末粒子のエッチング断面。
図2】アトマイズ直後の一炭化タングステン球状粉末の典型的なX線回折。
図3】熱処理後の一炭化タングステン球状粉末の典型的なX線回折。
【発明を実施するための形態】
【0014】
状態図によれば、一炭化タングステンは、約2500℃の温度での包晶反応によって形成される。完全融解温度(2870℃)では、一炭化タングステンはW2Cと炭素に分解する。アトマイズ工程での溶融結晶化中に、WC、W2Cおよび遊離炭素の相が形成される。このため、溶融アトマイズにより得られる球状粉末はこれらの相が混在している。得られたアトマイズ粉末混合物を熱処理することにより、平衡状態にすることができる。それによって、粒子中のW2C相はWC相に変態する。さらに、冷却のモードおよび条件の選択により、所望の特性を得ることが可能である。実験によって、1200℃~1400℃の温度でW2Cの分解に必要な保持時間、アトマイズ球状粉末を熱処理することが適切であると決定された。続いて、粉末を炉内で徐冷することにより、70体積%を超える一炭化タングステン含有量を有する球状粉末を得ることができる。粉末の熱処理について、1200℃~1400℃で1.5~2時間の熱処理時間で最良の結果が得られる。
【0015】
第1の観点として、出発材料の初期溶融、およびその後の球状粉末の形成を行う溶融アトマイズ工程を含む、一炭化タングステン(WC)球状粉末の製造方法が提供される。 出発材料として一炭化タングステンのグリットを使用し、出発材料の溶融およびアトマイズを行う。これは、不活性雰囲気下で遠心式アトマイズ装置の回転るつぼにグリットを連続的に装填し、プラズマアークによって溶融して粉末を形成することによって行う。 その後、1200℃~1400℃の温度でW2Cの分解に必要な時間、粉末を熱処理して、次に粉末を炉冷する。
【0016】
一具体例では、出発材料は、粒径が20μm~80μmの一炭化タングステンWCのグリットである。粒径は、粒子表面上の任意の2点間の可能な最大距離として定義される。球状粒子の場合、粒径は直径に相当する。
【0017】
一具体例では、得られた粉末の熱処理は1.5時間~2時間行なう。当業者は、本明細書の説明を参照して、日常業務的な実験によってW2Cの分解に適した時間を決定することができる。適切な値は多くの場合1.5時間~2時間である。
【0018】
一具体例では、10μm~2.5mmの粒径を有する粉末が製造される。粒径は粉末の個々の粒子について測定される。
【0019】
一具体例では、不活性雰囲気は、窒素、アルゴンおよびヘリウムからなる群から選択される少なくとも1つのガスを含む。一具体例では、不活性雰囲気は窒素である。一具体例では、不活性雰囲気はアルゴンである。一具体例では、不活性雰囲気はヘリウムである。一具体例では、不活性雰囲気は少なくとも1つの希ガスである。一具体例では、不活性雰囲気は少なくとも1つの不活性ガスである。
【0020】
第2の観点によれば、10μm~2.5mmの粒径を有し、かつ上記の方法によって製造された一炭化タングステン球状粉末が提供される。
【0021】
一具体例では、WC含有量、すなわち一炭化タングステンの含有量は70体積%を超える。
【実施例
【0022】
不定形粒子を有する一炭化タングステン(グリット)の初期粉末(出発材料)を、遠心式アトマイズ装置で回転スカルるつぼからでアトマイズした。
【0023】
グリット溶融は、プラズマトロンと回転るつぼの表面との間で燃焼されるプラズマアーク熱を用いて回転るつぼ内で直接行われる。出発材料のグリットは連続的にるつぼに満たされた。
【0024】
その特性に対して粒子の大きさに対するチャンバー内のガス雰囲気の影響を研究するために、アルゴン、ヘリウムおよび窒素下でのアトマイズを大気圧下で行った。アトマイズ方式に応じて、10μm~2.5mmの粒径を有する球状粉末が得られた。
【0025】
いずれの場合においても、得られた粉末の粒子は球形であった(図1も参照)。
【0026】
粒径およびアトマイズ条件とは無関係に、アトマイズされた材料の相組成は同一であり、以下の相を有する粒子の混合物で表わされる。
WC(~31~35体積%)、WC(~42~58体積%)、C(~10~23体積%)、図2、表1。
【0027】
得られた球状粉末を異なる保持時間で1200℃を超える温度で熱処理を行った。
【0028】
表1に、アトマイズ条件および熱処理条件に応じた球状粉末材料中の相比率を示す。図3は、熱処理後の一炭化タングステン球状粉末の典型的な回折チャートを示す。
【0029】
粉末材料の構造に関して、いずれの場合においても、熱処理後の材料相組成は、アトマイズ後の材料相組成と比較して変化することが観察される。
【0030】
熱処理条件に応じて、WC相含有量は十分に減少し、実質的に消滅する。最も効果的な処理条件でのWC相含有量は0.5体積%以下、さらにはより低い値である。この含有量は非常に少なく、ほとんどの用途にとって実用上重要ではないため、WC相は消滅したと言える。
【0031】
それにより、提案された技術的解決法により、球形の粒子を有するアトマイズ粉末形態の実際的に純粋な一炭化タングステンが提供される。ほとんどの実用的な用途で、一炭化タングステンは十分に純粋にできると考えられるである。
【0032】
【表1】

図1A
図1B
図2
図3