(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】眼内炎症性眼疾患の治療のためのタクロリムスを含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/706 20060101AFI20220317BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220317BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220317BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20220317BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220317BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20220317BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20220317BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220317BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
A61K31/706
A61P27/02
A61P9/10
A61P25/02 101
A61K9/08
A61K9/10
A61K47/06
A61P29/00
A61K47/10
(21)【出願番号】P 2019532960
(86)(22)【出願日】2017-12-14
(86)【国際出願番号】 EP2017082739
(87)【国際公開番号】W WO2018114557
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-08
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512086242
【氏名又は名称】ノバリック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】グンター, バーンハルド
(72)【発明者】
【氏名】シェレー, ディーター
(72)【発明者】
【氏名】シュー, ヘーピング
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-513586(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0018044(US,A1)
【文献】特表2015-527386(JP,A)
【文献】特表2013-522272(JP,A)
【文献】特表2013-540140(JP,A)
【文献】Arch Ophthalmol,2005年,123,pp.634-641
【文献】European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics,2014年,88,pp.123-128
【文献】アレルギー,2010年,59(11),第1525~1531頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼内炎症性眼疾患を治療する方法において使用するための、治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物
であって、前記医薬組成物が懸濁液の形態で処方される、医薬組成物。
【請求項2】
前記眼内炎症性眼疾患が、ぶどう膜炎、網膜炎症、強膜炎および視神経炎またはその組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記眼内炎症性眼疾患が、ぶどう膜炎、網膜炎症またはそれらの組合せから選択される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記眼内炎症性眼疾患がぶどう膜炎である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ぶどう膜炎が、前部ぶどう膜炎および/または中間部ぶどう膜炎および/または後部ぶどう膜炎である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
半フッ化アルカンが式F(CF
2)
n(CH
2)
mHの化合物であり、式中、nおよびmが3~10の範囲から独立に選択される整数である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記半フッ化アルカンが、F4H5、F4H6、F6H6およびF6H8からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が眼、眼瞼、眼嚢、眼表面または眼組織に局所投与される、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物であって、前記組成物が一眼当たり一用量当たり約5~約50μlの体積の単一液滴として投与される、組成物。
【請求項10】
前記組成物が1日当たり最大4回投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、最終組成物の重量に基づいて、99~99.99重量%の前記少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルからなる、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、炎症性眼疾患の第一選択治療で治療された患者に投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、前記第一選択治療としてステロイドで治療された患者に投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が、0.01%(w/v)~0.05%(w/v)のタクロリムス、0.2~1.4%(w/w)のエタノールを含み、前記半フッ化アルカンがF4H5である、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
炎症性眼疾患は、眼または周囲組織のあらゆる部位を冒し得る様々な種類の炎症を含む。広範囲の既知の炎症性眼疾患は、例えば、非常に一般的な状態、例えば花粉症によるアレルギー性結膜炎など、あるいは、それよりも稀で危険な状態、例えばぶどう膜炎、強膜炎、視神経炎、角膜炎、網膜血管炎または慢性血管炎などを含む。これらは全て罹患者の視力を危険にさらす可能性がある。
【0002】
一部の炎症性眼疾患は、副腎皮質ステロイド、例えばデキサメタゾンなどで効果的に治療される。しかし、デキサメタゾンの長期使用は、通常、副腎皮質ステロイドによる長期治療から、一般に知られているように、重篤な副作用をもたらすことがある。デキサメタゾンなどの副腎皮質ステロイドの投与に関連する一般的な副作用は、白内障または緑内障の発症である。白内障または緑内障の発症リスクの増加は、既存の炎症性眼疾患の治療の場合には特に問題となるであろう。
【0003】
ぶどう膜炎は、眼のぶどう膜の炎症状態である。臨床的に、ぶどう膜炎は罹患したぶどう膜の部位に基づいて前部ぶどう膜炎、中間部ぶどう膜炎、後部ぶどう膜炎および汎ぶどう膜炎に分類することができる。前部ぶどう膜炎は、全てのぶどう膜炎の症例の60~80%を占める。ぶどう膜炎は労働年齢の人々の失明の大きな原因のままであり、米国の全失明の10~15%を占めている。
【0004】
ぶどう膜炎は、感染性または非感染性(自己免疫)の病因を有することがある。自己免疫性ぶどう膜炎は、Th1およびTh17細胞をはじめとする網膜抗原特異的Tリンパ球に媒介され、副腎皮質ステロイドがこの状態の主な治療法であり続けている。前部ぶどう膜炎は通常局所ステロイドで治療されるが、患者に他の全身性自己免疫状態もある場合には全身性免疫抑制が必要なこともある。後部ぶどう膜炎には、全身性免疫抑制とは別に、ステロイド(例えば、デキサメタゾン、トリアムシノロンおよびフルオシノロン)の硝子体内注射が現在一般的に使用されている。
【0005】
様々な眼内インプラントも眼内薬物送達を改善するために開発されてきた。ステロイドの硝子体内注射は炎症をより良く制御し、全身性の副作用を制限することができるが、局所的な有害作用が依然として大きな懸念である。例えば、トリアムシノロンの硝子体内注射の後に30~50%の患者が緑内障を発症した;Retisertインプラントを介してフルオシノロンの硝子体内注射を受けたほぼ全ての患者が緑内障を患い、その40%が圧力を制御するために外科手術を必要とした。白内障は、特に複数の硝子体内ステロイド注射を受けている患者において、もう一つの一般的な副作用である。明らかに、ぶどう膜炎のより効果的でより安全な治療法が緊急に必要とされている。
【0006】
タクロリムス(FK506)は、真菌ストレプトマイセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)から単離されたマクロライド系ラクトンであり、強力な免疫抑制薬である。タクロリムスは、シクロスポリンと同様のTリンパ球シグナル伝達および細胞増殖を阻害する機構作用を有するが、100倍強力である。タクロリムスは、全身投与によるぶどう膜炎の第二選択治療法として使用されることが報告されており、特にステロイド抵抗性または不耐症の患者に有効であることが証明されている。
【0007】
タクロリムスは、その物理化学的性質のために、局所投与時に組織障壁を貫通する能力が低い(Tamura et al.,2002,J.Pharm.Sci.91,719-729)。
【0008】
米国特許出願公開第2003/0018044(A1)号明細書は、ドライアイ疾患(DED)などの眼疾患、ならびにその他の眼疾患を治療するためにタクロリムスを含有する製剤を記載している。タクロリムスは、0.9%生理食塩水または5%デキストロースなどの水性溶媒に溶解してもよいし、ジメチルスルホキシド(DMSO)またはアルコールなどの有機溶媒に溶解してもよい。
【0009】
国際公開第2011/073134(A1)号パンフレットは、1種以上の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルを含む、乾性角結膜炎の治療のための医薬組成物を提供する。組成物は、マクロライド系免疫抑制剤の群から選択される有効成分を組み込む。それらは、眼に局所投与され得る。
【0010】
国際公開第2012/160179(A2)号パンフレットは、半フッ化アルカンを含む、局所投与のための液体または半固体の医薬組成物を記載する。この組成物は、皮膚の深層または皮膚付属器への有効成分の送達に有用である。免疫抑制剤、抗感染剤、抗真菌薬、抗炎症薬、およびレチノイドなどの様々な有効成分が組み込まれてよい。
【0011】
国際公開第2012/160180(A2)号パンフレットは、ヒトの指の爪または足指の爪に局所投与するための半固体または液体の医薬組成物を記載する。組成物は、爪の奥深くまで有効成分を送達するのに有用である。様々な有効成分、例えば抗真菌薬、抗感染薬、抗炎症薬免疫抑制剤、局所麻酔薬、およびレチノイドなどが組み込まれてよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、広範囲の眼内炎症性眼疾患の治療において有用かつ有効であり、局所投与されてよい医薬組成物を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、そのような治療を必要とする患者による規則的な投与および全体的な服薬率を支えるための、取り扱いが安全で、投与が正確で、投与計画が簡便で従い易い医薬組成物を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、眼内炎症性眼疾患の一般的な第一選択治療に加えてまたはその代用として有用かつ有効であり、眼圧の増加に関して標準的なステロイド治療の副作用を示さない、眼内炎症性眼疾患の治療に用いる医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、眼内炎症性眼疾患を治療する方法において使用するための、治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物を提供する。
【0016】
本発明は、眼内炎症性眼疾患の治療のための方法において使用するための、薬剤有効量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物;および、組成物を保持するための容器を含むキットをさらに提供し、該容器は好ましくは組成物の眼表面、好ましくは下瞼、涙嚢または眼組織への局所投与に適合した分配手段を含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】タクロリムス/SFA点眼薬治療の内毒素誘発ぶどう膜炎(EIU)マウスモデルの臨床症状への効果を示す図である。
【
図2】異なる群のマウスにおけるEIUの病理組織を示す図である。
【
図3】タクロリムス/SFA点眼薬治療の実験的自己免疫性網膜ぶどう膜炎(EAU)の臨床症状への効果を示す図である。
【
図4】異なる群のマウスにおけるEAUの病理組織を示す図である。
【
図6】ぶどう膜炎の有るマウス眼と無いマウス眼の硝子体のタクロリムスレベルを示す図である。
【
図7】EIU研究においてフローサイトメトリーを用いる、網膜中の浸潤性免疫細胞を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1の態様において、本発明は、眼内炎症性眼疾患を治療する方法において使用するための、治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物に関する。
【0019】
本発明の医薬組成物は、タクロリムスを治療上有効な量で含む。タクロリムス(FK-506またはフジマイシンとしても公知;CAS 104987-11-3)は、式C44H69NO12および分子量804.018g/molを有するマクロライド系ラクトンである。
【0020】
タクロリムスは、細菌ストレプトマイセス・ツクバエンシスの発酵ブロスから単離することができ、例えば中国のZhejian Hisun Chemical Coより市販されており、通常その固体一水和物の形態かまたは原液の形態で供給されている。本明細書において使用されるタクロリムスの「治療上有効な量」という用語は、望ましい薬理効果、より具体的には、以下に詳細に記載される眼内炎症性眼疾患の治療における薬理効果を生じるために有用なタクロリムスの用量、濃度または強度を意味する。
【0021】
好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、液体製剤である。本明細書において使用される用語「液体製剤」とは、完全に固体ではないあらゆる製剤を意味する。本発明による液体製剤は、自由流動性液体、言い換えると低粘度であってもよく、あるいはクリームまたはペーストまたはゲルのような中または高粘度の液体であってもよい。しかし好ましくは、本発明の医薬組成物は、少なくとも生理的温度で自由流動性液体であり、滴下投与することができる。
【0022】
本発明の医薬組成物は、溶液、懸濁液または乳濁液の形態で処方されてよい。好ましくは、本発明の医薬組成物は、溶液として、さらにより好ましくは透明溶液として処方される。
【0023】
上述の、本明細書において理解される用語「透明溶液」とは、全ての溶質が完全に溶解可能であるかまたは室温条件下で、すなわち15~25℃の間で溶解されている液体溶液をさす。透明溶液は、いかなる粒子状成分または固相成分も含まず、好ましくは室温で水に近い屈折率(すなわち1.333)を有する。
【0024】
したがって、上記のようなタクロリムスは、本発明の医薬組成物の液体ビヒクル中に溶解または懸濁または乳化されることができる。本明細書において使用される用語「液体ビヒクル」は、タクロリムスが溶解または懸濁または乳化されている本発明の医薬組成物の連続(またはコヒーレント)相、通常は溶媒または異なる溶媒の混合物を意味する。
【0025】
本発明の医薬組成物の重要な利点の一部は、本発明の医薬組成物の液体ビヒクル中に、溶液の場合には液体懸濁ビヒクルまたは溶媒として機能する半フッ化アルカンが存在することによってもたらされる。
【0026】
本明細書において使用される用語「半フッ化アルカン」(本文書では「SFA」とも呼ばれる)とは、少なくとも1つの全フッ素置換セグメント(F-セグメント)および少なくとも1つの非フッ化炭化水素セグメント(H-セグメント)からなる直鎖状または分岐状化合物をさす。より好ましくは、半フッ化アルカンは、1つの全フッ素置換セグメント(F-セグメント)および1つの非フッ化炭化水素セグメント(H-セグメント)からなる直鎖状または分岐状化合物である。好ましくは、前記半フッ化アルカンは、4℃~40℃の温度範囲内の少なくとも1つの温度で液体状態で存在する化合物である。一実施形態では、前記SFAの全フッ素置換セグメントおよび/または炭化水素セグメントは、任意選択で環状炭化水素セグメントを含むかまたはそれからなるか、あるいは任意選択で前記SFAは炭化水素セグメント内に不飽和部分を含む。
【0027】
好ましくは、直鎖状または分岐状SFAのF-セグメントは、3~10個の間の炭素原子を含む。H-セグメントが3~10個の間の炭素原子を含むことも好ましい。F-セグメントとH-セグメントが互いに独立に3~10個の炭素原子を含むことは特に好ましい。好ましくは、各セグメントは互いに独立に3~10個の炭素原子を有する。
【0028】
さらに好ましくは、直鎖状または分岐状SFAのF-セグメントは、4~10個の間の炭素原子を含み、かつ/またはH-セグメントは4~10個の間の炭素原子を含む。F-セグメントとH-セグメントが互いに独立に4~10個の炭素原子を含むことは特にさらに好ましい。好ましくは、各セグメントは互いに独立に4~10個の炭素原子を有している。
【0029】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、液体ビヒクルは、式F(CF2)n(CH2)mHの化合物、好ましくは直鎖状化合物である、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む。式中、nおよびmは、3~10の範囲から独立に選択される、好ましくは4~10の範囲から独立に選択される、さらにより好ましくは4~8の炭素原子の範囲から独立に選択される、整数である。
【0030】
任意選択で、直鎖状または分岐状SFAは、-CH3、-C2H5、-C3H7および-C4H9からなる群から選択される1以上のアルキル基を含む分岐状非フッ化炭化水素セグメントを含んでよく、かつ/あるいは、直鎖状または分岐状SFAは、-CF3、-C2F5、-C3F7および-C4F9からなる群から選択される1以上の全フッ素置換アルキル基を含む分岐状全フッ素置換炭化水素セグメントを含んでよい。さらに好ましくは、直鎖状または分岐状SFAのF-セグメントとH-セグメントの炭素原子の比(前記比はF-セグメント中の炭素原子の数をH-セグメント中の炭素原子の数で除算することによって得る;例えば前記比は1-パーフルオロヘキシルオクタン(F6H8)について0.75である)は0.5以上であり、より好ましくは前記比は0.6以上である。さらに好ましくはF-セグメントとH-セグメントの炭素原子の比は、0.6~3.0の範囲内であり、より好ましくは前記比は0.6~1.0の間である。
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、半フッ化アルカンとは、少なくとも1つの全フッ素置換セグメント(F-セグメント)と、少なくとも1つの炭化水素セグメント(H-セグメント)からなる直鎖状化合物をさす。より好ましくは、前記半フッ化アルカンは、1つの全フッ素置換セグメント(F-セグメント)と1つの炭化水素セグメント(H-セグメント)からなる直鎖状化合物である。
【0032】
好ましくは、直鎖状SFAのF-セグメントは、3~10個の間の炭素原子を含む。H-セグメントが3~10個の間の炭素原子を含むことも好ましい。F-セグメントとH-セグメントが互いに独立に3~10個の炭素原子を含むことは特に好ましい。好ましくは、各セグメントは互いに独立に3~10個の炭素原子を有する。
【0033】
さらに好ましくは、直鎖状SFAのF-セグメントは、4~10個の間の炭素原子を含み、かつ/またはH-セグメントは4~10個の間、さらにより好ましくは4~8個の間の炭素原子を含む。特にさらに好ましくは、F-セグメントとH-セグメントは互いに独立に4~10個の炭素原子、さらにより好ましくは4~8個の炭素原子を含む。好ましくは、各セグメントは互いに独立に4~10個、好ましくは4~8個の炭素原子を有している。
【0034】
別の命名法によれば、本発明で使用される直鎖状半フッ化アルカンは、FnHmと呼ばれることがあり、この際、Fは全フッ素置換炭化水素セグメントを意味し、Hは非フッ化炭化水素セグメントを意味し、n、mはそれぞれのセグメントの炭素原子の数である。例えば、F4H5は1-パーフルオロブチルペンタンに用いられる。
【0035】
本発明の特に好ましい実施形態では、本発明による使用のための医薬組成物の液体ビヒクルは、F4H4、F4H5、F4H6、F4H7、F4H8、F5H4、F5H5、F5H6、F5H7、F5H8、F6H2、F6H4、F6H6、F6H7、F6H8、F6H9、F6H10、F6H12、F8H8、F8H10、F8H12およびF10H10からなる群から選択される少なくとも1種の直鎖状半フッ化アルカンを含む。
【0036】
より好ましくは、本発明による医薬組成物の液体ビヒクルは、F4H4、F4H5、F4H6、F5H4、F5H5、F5H6、F5H7、F5H8、F6H2、F6H4、F6H6、F6H7、F6H8、F6H9、F6H10、F8H8、F8H10、F8H12およびF10H10からなる群から選択される少なくとも1種の直鎖状半フッ化アルカンを含み、さらにより好ましくは、直鎖状SFAは、F4H4、F4H5、F4H6、F5H4、F5H5、F5H6、F5H7、F5H8、F6H4、F6H6、F6H7、F6H8、F6H9、F6H10、F8H8、F8H10、F8H12およびF10H10からなる群から選択され、より好ましくは、直鎖状SFAは、F4H4、F4H5、F4H6、F5H5、F5H6、F5H7、F5H8、F6H6、F6H7、F6H8、F6H9、F6H10、F8H8、F8H10、F8H12およびF10H10からなる群から選択され、さらにより好ましくは、直鎖状SFAは、F4H4、F4H5、F4H6、F5H5、F5H6、F5H7、F5H8、F6H6、F6H7、F6H8、F6H9、F6H10およびF8H8からなる群から選択される。
【0037】
なおさらに好ましい実施形態では、本発明による医薬組成物の液体ビヒクルは、F4H5、F4H6、F5H6、F5H7、F6H6、F6H7およびF6H8からなる群から選択される少なくとも1種の直鎖状SFAを含む。
【0038】
さらに好ましい実施形態では、本発明による液体ビヒクルは、少なくとも1種の直鎖状SFA、好ましくはF4H5、F4H6およびF6H8からなる群から選択される少なくとも1種の直鎖状SFAを含む。さらにより好ましくは、本発明による液体ビヒクルは、F4H5およびF6H8からなる群から選択される少なくとも1つの直鎖状SFAを含む。 最も好ましくは、本発明において、液体ビヒクルは、F4H5(1-パーフルオロブチル-ペンタン)を唯一の半フッ化アルカンとして含む。
【0039】
さらなる実施形態では、液体ビヒクルに含まれる半フッ化アルカンは、上記のように2種以上の異なる半フッ化アルカンの混合物として使用され得る。したがって、本発明の医薬組成物は、2種以上のSFAを含み得る。例えば、ある密度または粘度のような特定の目標特性を達成するために、異なるSFAを組み合わせることは有用であり得る。2種以上の異なるSFAの混合物が使用される場合、混合物は、F4H5、F4H6、F6H4、F6H6、F6H8およびF6H10の少なくとも1種、特にF4H5、F6H6およびF6H8のうちの1種を含むことがさらに好ましい。もう一つの実施形態では、混合物は、F4H5、F4H6、F6H4、F6H6、F6H8、およびF6H10から選択される少なくとも2つのメンバー、特に、F4H5、F6H6およびF6H8から選択される少なくとも2つのメンバーを含む。
【0040】
液体SFAは化学的かつ生理学的に不活性で、無色で安定している。それらの典型的な密度は1.1~1.7g/cm3の範囲であり、それらの表面張力は19mN/m程度に低くてもよい。FnHm型のSFAは水不溶性であるが、やや両親媒性であり、親油性の増加は、非フッ化セグメントのサイズの増加と相関する。
【0041】
もう一つの実施形態では、本発明の医薬組成物の液体ビヒクルは、室温で液体である少なくとも1種の半フッ化アルカン、例えばF4H4、F4H5、F4H6、F5H5、F5H6、F5H7、F5H8、F6H6、F6H7、F6H8、F6H9、F6H10およびF8H8などを含む。
【0042】
本発明の医薬組成物の液体ビヒクルに含まれる特に好ましい半フッ化アルカンは、化学式F(CF2)4(CH2)5Hを有する半フッ化アルカンである、1-パーフルオロブチル-ペンタンである。これは不活性の水不溶性の液体であり、密度は25℃で1.284g/cm3、屈折率は20℃で1.3204である。この化合物の別の命名法としてはF4H5が挙げられ、この際Fは4個の炭素原子を含む直鎖状全フッ素置換アルカンセグメントを表し、Hは5個の炭素原子の直鎖状非フッ化アルカン炭化水素セグメントを表す。
【0043】
本発明による使用のための医薬組成物は、治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含むが、一実施形態では、本発明の医薬組成物は、最終医薬組成物(最終剤形)の重量に基づいて少なくとも75%重量%、好ましくは少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、さらにより好ましくは少なくとも90、最も好ましくは少なくとも95重量%の少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルを含むかまたはそれからなる。タクロリムスと、少なくとも1種の半フッ素化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物は、以下に詳細に記載されるように、任意選択でさらなる溶媒および賦形剤を含み得る。
【0044】
好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、最終組成物の重量に基づいて、約95~約99.999重量%、より好ましくは約95~約99.99重量%、より好ましくは99~99.99重量%、さらにより好ましくは99.95~99.99重量%、最も好ましくは約99.96~約99.98重量%の上記の少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルからなる。
【0045】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明による使用のための医薬組成物は、最大1mg/mlのタクロリムス、好ましくは最大0.5mg/mlのタクロリムス、より好ましくは最大0.3mg/mlのタクロリムスを含む(最終組成物(最終剤形)の体積に基づく)。
【0046】
したがって、本発明による使用のための医薬組成物の好ましい実施形態は、約0.01%(w/v)~0.1%(w/v)(0.1~1mg/mlに対応)のタクロリムスを含む。しかし、好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、約0.01%~0.05%(w/v)(0.1~0.5mg/mlに対応)、さらにより好ましくは約0.02%~約0.04%(w/v)(0.2~0.4mg/mlに対応)のタクロリムスを含む。
【0047】
本発明の医薬組成物はまた、任意成分および追加成分として1種以上のさらなる賦形剤を含んでもよい。本明細書において使用される用語「賦形剤」とは、本発明の医薬組成物に、より具体的には医薬組成物の液体ビヒクルに添加して、その物理的構成または化学構造または安定性または治療特性を増強するかそうでなければ変更することのできる、任意の薬剤的に許容される天然または合成物質をさす。本発明の医薬組成物は、任意選択で1種以上の賦形剤、例えば、酸化防止剤、保存料、脂質もしくは油状賦形剤、界面活性剤もしくは潤滑剤またはそれらの少なくとも2種の賦形剤の組合せなどを含み得る。
【0048】
本発明の医薬組成物での使用に適した酸化防止剤は、例えば、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、第三級ブチルヒドロキノン(TBHQ)、ビタミンE、ビタミンE誘導体(すなわち、酢酸α-トコフェロール)および/またはアスコルビン酸を含む。
【0049】
本発明の医薬組成物での使用に適した脂質または油状賦形剤は、例えば、トリグリセリド油(すなわち、ダイズ油、オリーブ油、ゴマ油、綿実油、ヒマシ油、スイートアーモンド油)、トリグリセリド、鉱油(すなわち、ワセリンおよび流動パラフィン)、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、油状脂肪酸、ミリスチン酸イソプロピル、油状脂肪アルコール、ソルビトールおよび脂肪酸のエステル、油状スクロースエステル、または眼によって生理学的に許容される任意のその他の油状物質を含む。
【0050】
本発明の医薬組成物での使用に適した滑沢剤は、例えば、カルボキシメチルセルロースおよびそのナトリウム塩(CMC、カルメロース)、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、ヒプロメロース)、ヒアルロン酸およびそのナトリウム塩、ならびにヒドロキシプロピルグアーガムを含む。
【0051】
本発明による医薬組成物は、例えば、塩化ベンザルコニウムおよびクロルヘキシジンなどの薬剤的に適した天然もしくは合成保存料を含んでも含まなくてもよい。しかし、好ましい実施形態では、本発明による医薬組成物は、製薬上許容される保存料を含まない。
【0052】
任意成分としての上記の賦形剤に加えて、本発明の医薬組成物の液体ビヒクルは1種以上のさらなる溶媒も含んでよい。本明細書において使用される用語「さらなる溶媒」とは、液体ビヒクルの少なくとも1種の半フッ化アルカン以外の溶媒または2種以上の異なる溶媒の混合物をさす。適したさらなる溶媒は、例えば、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール、または眼によって生理学的に許容されるその他のさらなる溶媒から選択されてよい。
【0053】
好ましい溶媒はエタノールであり、これは本発明による使用のための医薬組成物中に、最終組成物(最終剤形)の液体ビヒクルの総重量に基づいて最大約1.4重量%(1.4%(w/w)に対応)以下、好ましくは最大約1.0重量%、例えば0.2~1.0重量%(0.2%~1.0%(w/w)に対応)または0.5~1.0重量%(0.5~1.0%(w/w)に対応)の量で存在し得る。より好ましくは、本発明による使用のための医薬組成物の液体ビヒクルは、1.0重量%のエタノールを(上記の少なくとも1種の半フッ化アルカンに加えて)含む。最も好ましくは、本発明による使用のための医薬組成物の液体ビヒクルは、1.4重量%のエタノールを(上記の少なくとも1種の半フッ化アルカンに加えて)含む。
【0054】
さらなる実施形態では、水も本発明の医薬組成物中に存在することができるが、好ましくは、最終組成物(最終剤形)に基づいて、最大1.0重量%、さらには最大0.1重量%以下の少量で存在する。好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は本質的に水を含まないが、残留水分が、タクロリムスの潜在的残留水分量に起因する可能性がある。本明細書において使用される用語「本質的に」は、存在する場合、本発明の目的に関して技術的な利点または関連性がないように、微量または残留量で存在することを意味する。
【0055】
例えば、1-パーフルオロブチル-ペンタン(F4H5)は、本発明のいくつかの実施形態で好ましい半フッ化アルカンとして、水を全く含まないか、または1-パーフルオロブチル-ペンタンの最大水溶解度以下の含水量を有する、例えば、カールフィッシャー滴定法などの水分分析について当技術分野で公知の方法によって決定される1.6×10-4mg/ml未満の含水量を有する。
【0056】
もう一つの好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、(本質的に)水を含まず、かつ/または保存料を含まない。
【0057】
さらなる好ましい実施形態では、本発明による使用のための医薬組成物は、0.01%~0.05%(w/v)のタクロリムス、0.2~1.4%(w/w)のエタノール(半フッ化アルカンの量に基づく)を含み、液体ビヒクルに含まれる半フッ化アルカンは、F4H5およびF6H8から選択される。なおさらなる好ましい実施形態では、本発明による使用のための医薬組成物は、0.01%~0.05%(w/v)のタクロリムス、0.2~1.4%(w/w)のエタノール(半フッ化アルカンの量に基づく)を含み、液体ビヒクルに含まれる半フッ化アルカンは、F4H5である。さらなる好ましい実施形態では、本発明の組成物の液体ビヒクルは、0.2~1.4%(w/w)のエタノール(半フッ化アルカンの量に基づく)と、F4H5およびF6H8から選択される半フッ化アルカンからなり、好ましくは半フッ化アルカンはF4H5である。
【0058】
さらなる好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、0.03%(w/v)のタクロリムス、1.4%(w/w)のエタノールを含み、半フッ化アルカンはF4H5である。特に好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、全て最終組成物(最終剤形)の重量に基づいて、0.03%(w/v)のタクロリムス、1.4%(w/w)のエタノールおよびF4H5から本質的になる。
【0059】
さらなる好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、0.03%(w/v)のタクロリムス、1.0%(w/w)のエタノールを含み、半フッ化アルカンはF4H5である。特に好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、全て最終組成物(最終剤形)の重量に基づいて、0.03%(w/v)のタクロリムス、1.0%(w/w)のエタノールおよびF4H5から本質的になる。
【0060】
第1の態様によれば、本発明は、眼内炎症性眼疾患を治療する方法において使用するための、治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物に関する。本明細書において使用される用語「眼内炎症性眼疾患」は、眼の中層および眼底におけるあらゆる種類の炎症を意味する。具体的には、角膜および結膜を含む炎症性眼疾患は、本明細書中で使用される場合、眼内炎症性眼疾患の定義に含まれない。
【0061】
本明細書において使用される用語「炎症性眼疾患」とは、眼または周囲組織のあらゆる部位を冒す炎症をさす。眼に関わる炎症は、花粉症のアレルギー性結膜炎から稀な潜在的失明状態、例えばぶどう膜炎、強膜炎、視神経炎、角膜炎、網膜血管炎および慢性結膜炎などに及び得る。
【0062】
好ましい実施形態では、眼内炎症性眼疾患は、ぶどう膜炎、網膜炎症、強膜炎、視神経炎およびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0063】
上述のぶどう膜炎および以下にさらに定義するその様々な種類は、眼内の炎症、すなわち、ぶどう膜を構成する眼の3つの部分の1つ以上を特異的に冒す眼内炎症性眼疾患である。
【0064】
本明細書において使用される用語「ぶどう膜炎」とは、虹彩、毛様体および脈絡膜からなる眼の中層である、ぶどう膜の炎症を広くさす。ぶどう膜は、強膜(眼の白色部分)と眼の内部の神経組織(網膜)の間に挟まれている。ぶどう膜炎の種類は、通常、ぶどう膜の炎症が起こる場所によって分類される。ぶどう膜炎は、通常、ステロイドで治療される。
【0065】
本明細書において使用される用語「前部ぶどう膜炎」は、虹彩の炎症(虹彩炎)または虹彩と毛様体(ciliar body)の炎症(虹彩毛様体炎)を意味する。虹彩炎の主な治療法はステロイド点眼薬である。この治療法の主な副作用は、感染症と闘う眼の能力を低下させることにあり、感染症は特定の患者において緑内障および白内障を加速させることがある。
【0066】
本明細書において使用される用語「中間部ぶどう膜炎」とは、毛様体(ciliar body)および硝子体ゼリーの後ろの領域の炎症を意味する。
【0067】
本明細書において使用される用語「後部ぶどう膜炎」とは、眼底、脈絡膜および網膜の炎症を意味する。
【0068】
さらに、本明細書において使用される用語「びまん性ぶどう膜炎」(「汎ぶどう膜炎」とも呼ばれる)は、ぶどう膜の全領域の炎症を意味する。
【0069】
網膜炎症は眼内炎症性眼疾患のさらなる例である。本明細書において使用される用語「網膜炎症」とは、眼の内側の後壁にある組織の腫脹をさす。網膜炎症は、白内障手術、糖尿病、黄斑症、全身性疾患、外傷によって引き起こされる場合もあり、識別できる原因がまったくない場合もある。本明細書において使用される用語「網膜炎症」は、例えば、糖尿病性網膜症および加齢黄斑変性症(AMD)などの炎症性成分を有する網膜の疾患をさらに含む。
【0070】
さらなる例となる眼内炎症性眼疾患は強膜炎である。本明細書において使用される用語「強膜炎」とは、強膜の炎症をさす。強膜は眼の硬く白色の外側のコーティングであり、硬質の構造支持を眼に提供する。強膜炎の治療は、炎症がどの程度重症であるかに依存する。重症型の強膜炎の人は、通常、ステロイドによる治療が必要である。
【0071】
本発明によるなおさらなる眼内炎症性眼疾患は視神経炎である。本明細書において使用される用語「視神経炎」とは、視神経の炎症をさす。主な治療は、通常、副腎皮質ステロイドの投与にある。視神経乳頭の炎症は、乳頭炎または眼内視神経炎と呼ばれる。したがって、本明細書において使用される用語「乳頭炎(papilitis)」は、特定の種類の視神経炎をさす。さらに、神経の眼窩部の炎症は、球後視神経炎または眼窩視神経炎と呼ばれる。
【0072】
上記のような治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物は、ぶどう膜炎、網膜炎症、強膜炎および視神経炎またはそれらの組合せからなる群から選択される眼内炎症性眼疾患に関連する症状の治療法もしくは治療に、またはそのような症状の寛解に有用である。
【0073】
そのため、さらなる実施形態では、本発明は、ぶどう膜炎、網膜炎症、強膜炎および視神経炎またはそれらの組合せからなる群から選択される眼内炎症性眼疾患を治療する方法で使用するための、治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルを含む医薬組成物に関する。本発明のさらなる実施形態では、眼内炎症性眼疾患は、ぶどう膜炎、網膜炎症およびそれらの組合せから選択される。上記のように、眼内炎症性眼疾患の組合せがあり得る。このことは、一度に前記眼内炎症性眼疾患のうちの1つだけが患者に発生し得ること、あるいは、上述の疾患のうちの2つ、3つまたは全てが同時に患者に発生し得、本発明による医薬組成物で首尾よく治療され得ることを意味する。
【0074】
本発明の好ましい実施形態では、眼内炎症性眼疾患はぶどう膜炎である。したがって、一実施形態では、本発明は、ぶどう膜炎を治療する方法において使用するための、治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物に言及する。
【0075】
そのため、特定の実施形態では、本発明は、前部ぶどう膜炎、中間部ぶどう膜炎および後部ぶどう膜炎またはその組合せからなる群から選択される眼内炎症性眼疾患、好ましくはぶどう膜炎を治療する方法で使用するための、治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルを含む医薬組成物に言及する。言い換えれば、本発明の好ましい実施形態は、前部ぶどう膜炎および/または中間部ぶどう膜炎および/または後部ぶどう膜炎を治療する方法において使用するための、治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物に言及する。
【0076】
ぶどう膜炎は、治療後すぐに治癒する場合は急性であり、数ヶ月間の間隔で繰り返されるエピソードが起こる場合は再発性であり、その状態が長期にわたって継続する場合またはそれを制御するために長期の投薬を必要とする場合、例えばその状態が3ヶ月以上続く場合は慢性であり得る。本発明のさらなる実施形態は、急性または慢性眼内炎症性眼疾患、例えばぶどう膜炎および/または網膜炎症の治療のための方法で使用するための医薬組成物に言及する。本発明のさらなる好ましい実施形態は、ぶどう膜炎が慢性または急性である、ぶどう膜炎を治療する方法において使用するための、治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物に言及する。
【0077】
さらにもう一つの実施形態では、本発明は、ぶどう膜炎が難治性ぶどう膜炎である、ぶどう膜炎を治療する方法で使用するための上記のような医薬組成物に言及する。
【0078】
以前に既に述べたように、本発明の医薬組成物で治療される全ての言及された眼内炎症性眼疾患は、単独で、または上記のような1もしくは2以上の異なるその他の眼内炎症性眼疾患と一緒に起こり得る。特に好ましい実施形態では、本発明は、網膜炎症と組み合わせて、ぶどう膜炎、または前部ぶどう膜炎、中間部ぶどう膜炎および/もしくは後部ぶどう膜炎などの特定の種類のぶどう膜炎の治療で使用するための上記のような医薬組成物に関する。他の疾患との組み合わせで発生する可能性のある全ての眼内炎症性眼疾患は、慢性または急性である場合もあれば、そうでない場合もあることに注意する必要がある。例えば、慢性ぶどう膜炎は、急性網膜炎症と一緒に発症してもよいし、その逆であってもよい。
【0079】
本発明の医薬組成物は、眼科用組成物として特に有用であり、好ましくは患者の眼、眼瞼、眼嚢、眼表面および/または患者の眼組織に局所的に投与され得る。しかし、好ましくは、本発明の医薬組成物は、患者の眼の外面に、あるいは患者またはそれを必要とする患者の眼に医薬組成物を投与する別の人が容易にアクセスできる眼組織に局所投与され得る。
【0080】
医薬組成物は、特に低粘度かまたは高粘度(通常1~3.5mPa sの範囲内)の液体として使用される場合に、液剤の形態で有利に投与されるか、あるいは、噴霧によるかまたは注射によって、例えば、硝子体内注射または眼周囲注射などによって有利に投与され得る。しかし、最も好ましくは、本発明の液体医薬組成物は、液剤として投与され得、より具体的には点眼薬として眼に局所投与され得る。
【0081】
疾患の程度または治療される患者の両眼が冒されているかどうかに応じて、本発明の眼科用医薬組成物の液剤または点眼薬は、患者の一方の眼のみに投与されてもよいし、または両眼に投与されてもよい。主に本発明の医薬組成物の液体ビヒクルに含まれる半フッ化アルカンの特定の物理的特性、例えば高密度および低表面張力のために、液滴の体積は通常約5~約50μlの範囲である。この小さい液滴サイズは通常、滴下投与を容易にし、さらに、本発明の医薬組成物の正確な投薬を容易にする。したがって、本発明の眼科用医薬組成物は、単一の液滴として、一眼当たり一用量当たり約5~約50μl、好ましくは一眼当たり一用量当たり約8~15μlの体積で、より好ましくは一眼当たり一用量当たり約8~12μlの体積で、最も好ましくは一眼当たり一用量当たり約10μlの体積で投与される。
【0082】
本発明の医薬組成物は、1日1回または1日数回、通常1日8回までまたは5回まで、好ましくは大体等間隔で投与され得る。多くの例では、本発明の医薬組成物は、好ましくは1日4回まで、例えば毎日1回のみまたは1日2回または1日3もしくは4回投与される。
【0083】
好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、炎症性眼疾患の第一選択治療で治療された患者に、または好ましくは眼内炎症性眼疾患の第一選択治療で治療された患者までも投与できる。本明細書において使用される用語「第一選択治療」とは、タクロリムスと、半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む本発明の医薬組成物以外の活性化合物または組成物による、炎症性眼疾患の治療または、より具体的には、眼内炎症性眼疾患の治療を意味する。したがって、本発明による眼内炎症性眼疾患の治療で使用するための本発明の医薬組成物の投与は、選択された第一選択治療法または治療が第二選択治療の初期化の前に中止されたか否か、あるいは補助療法もしくは治療の場合にはまだ進行中であるかどうかに応じて、第二選択治療法または補助療法もしくは治療として提供され得る。
【0084】
好ましい実施形態によれば、本発明の医薬組成物は、第一選択治療としてステロイドまたは副腎皮質ステロイド、例えばデキサメタゾン、トリアムシノロンおよびフルオシノロン、好ましくはデキサメタゾンで処置された患者に投与される。そのようなステロイド化合物は、多くの炎症性眼疾患、特に多くの眼内炎症性眼疾患、例えば、上に概説されるようなぶどう膜炎および網膜炎症などの第一選択治療として一般に使用されている。しかし、好ましくは、本発明で用いるための、タクロリムスと、半フッ化アルカンを含む少なくとも1種の液体ビヒクルとを含む医薬組成物は、ぶどう膜炎の第一選択治療としてステロイドで処置された患者に(第二選択治療として)投与される。
【0085】
本発明の医薬組成物は、ステロイドまたは副腎皮質ステロイドによる標準的な治療の臨床的代替法を提供するが、ステロイドまたは副腎皮質ステロイドによる治療の一般的な悪影響として眼内圧の上昇を誘発することはなく、緑内障または白内障などのさらなる合併症の危険性を増加させることもない。さらに、本発明の医薬組成物は、局所的に自己投与され得る第二選択治療の全ての利点を提供する。
【0086】
さらに、驚くべきことに、本発明の医薬組成物は網膜への浸潤性免疫細胞の数を減少させるのに効果的であることが見出された。そのため、本発明は、治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物を局所投与することを含む、炎症性眼疾患またはより具体的には眼内炎症性眼疾患を有する患者の網膜の浸潤性免疫細胞の数を減少させる方法にも関する。さらに、本発明は、治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物を局所投与することを含む、例えば、糖尿病性網膜症および加齢黄斑変性症などの、網膜が関与する炎症性成分を有する疾患に罹患している患者の網膜の浸潤性免疫細胞の数を減少させる方法にも関する。
【0087】
さらなる態様において、本発明は、タクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む組成物を眼に投与することを含む、眼内炎症性眼疾患を治療する方法を提供する。
【0088】
なおさらなる態様では、本発明は、眼内炎症性眼疾患を治療する方法における治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物の使用に言及する。
【0089】
なおさらなる態様において、本発明は、眼内炎症性眼疾患の治療のための薬物の製造のための、好ましくは治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物の使用に言及する。
【0090】
なおさらなる態様において、本発明は、以下
i.眼内炎症性眼疾患の治療のための方法において使用するための薬剤有効量のタクロリムスと少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物;および
ii.組成物を保持するための容器であって、好ましくは、眼表面、好ましくは下眼瞼、涙嚢または眼組織への組成物の局所投与に適合した分配手段を含む容器、および
iii.任意選択で、眼内炎症性眼疾患または障害の治療法、治療、予防または寛解における医薬組成物の使用のための説明書または指示書
を含むキットに関する。
【0091】
本発明のこの態様の項目i.によれば、薬学的キットは、本発明の第1の態様に関して上に記載されるような治療上有効な量のタクロリムスを含む医薬組成物を含む。
【0092】
本発明のこの態様の項目ii.に関連して使用される容器は、単一用量の医薬組成物を保持する単回使用のための容器として、または複数の単一用量を保持する複数回使用のための容器として、任意の適した形態で提供され得る。好ましくは、容器は、容器は、患者の眼の表面への医薬組成物の滴下局所投与を可能にする分配手段を含む。一実施形態では、分配手段を含む容器は、適切な分配手段を備えるガラスまたは熱可塑性エラストマー製のボトルなどの従来の点滴ボトル、または使い捨て点滴器であり得る。
【0093】
本発明のこの態様のさらなる好ましい実施形態では、分配手段は、約8~15μl、好ましくは約8~12μl、より好ましくは約10μlの体積を有する液滴を分配するような寸法の点滴器を含む。液滴の体積が小さいと、眼への正確な投薬を達成する(過剰投与を避ける)ことができ、投与後の眼から組成物のかなりの割合の過剰な量の排出を回避することができる。
【0094】
好ましい実施形態では、本発明のこの態様によるキットはさらに、項目iii.として取扱説明書を含む。
【0095】
本発明のこの態様の項目iii.による医薬組成物の使用のための説明書または指示書は、任意の適切な形態、例えば、印刷された形態またはその他の読取可能な形態の同封のラベルまたは説明書として、あるいは任意のその他の適したデータ媒体に提供され得る。あるいは、使用指示書は、バーコードまたはQRコードなどの電子的にまたはコンピュータで読み取り可能な形態で提供され得る。
【0096】
項目iii.による指示書は、眼内炎症性眼疾患または障害の治療法、治療、予防または寛解における、好ましくはぶどう膜炎、網膜炎症、強膜炎および視神経炎またはその組合せから選択される眼内炎症性眼疾患の治療法における、本発明の医薬組成物の取扱説明書を含み得る。
【0097】
以下は、本発明に含まれる番号付けられた実施形態である。
1.眼内炎症性眼疾患の治療のための方法において使用するための、治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物、または
治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む組成物を眼に投与することを含む、眼内炎症性眼疾患を治療する方法、または
眼内炎症性眼疾患を治療する方法における治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物の使用、または
眼内炎症性眼疾患の治療のための薬物の製造のための、好ましくは治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物の使用、または
i.眼内炎症性眼疾患の治療のための方法において使用するための、治療上有効な量のタクロリムスと、少なくとも1種の半フッ化アルカンを含む液体ビヒクルとを含む医薬組成物;およびii.組成物を保持するための容器であって、該容器が、好ましくは、眼表面、好ましくは下眼瞼、涙嚢または眼組織への組成物の局所投与に適合した分配手段を含む容器、を含むキットであって、
眼内炎症性眼疾患が、ぶどう膜炎、網膜炎症、強膜炎および視神経炎またはその組合せからなる群から選択される、キット。
2.眼内炎症性眼疾患が、ぶどう膜炎、網膜炎症およびそれらの組合せから選択される、実施形態1に記載の実施形態。
3.眼内炎症性眼疾患がぶどう膜炎である、実施形態2に記載の実施形態。
4.ぶどう膜炎が難治性ぶどう膜炎である、実施形態1~3のいずれか一項に記載の実施形態。
5.ぶどう膜炎が前部ぶどう膜炎および/または中間部ぶどう膜炎および/または後部ぶどう膜炎である、実施形態1~4のいずれか一項に記載の実施形態。
6.ぶどう膜炎が慢性または急性である、実施形態1~5のいずれか一項に記載の実施形態。
7.半フッ化アルカンが式F(CF2)n(CH2)mHの化合物であり、式中、nおよびmが3~10の範囲から独立に選択される整数である、実施形態1~6のいずれか一項に記載の実施形態。
8.前記半フッ化アルカンが、F4H5、F4H6、F6H6、F6H8からなる群から選択され、好ましくは前記半フッ化アルカンが、F4H5、F6H8から選択され、より好ましくは前記半フッ化アルカンがF4H5である、実施形態7に記載の実施形態。
9.前記組成物が、最大1mg/mlのタクロリムス、好ましくは最大0.5mg/mlのタクロリムス、より好ましくは最大0.3mg/mlのタクロリムスを含む、実施形態1~8のいずれか一項に記載の実施形態。
10.前記組成物が、有機賦形剤、好ましくはエタノール、より好ましくは最大1.4重量%のエタノールを含む、実施形態1~9のいずれか一項に記載の実施形態。
11.組成物が液体製剤である、実施形態1~10のいずれか一項に記載の実施形態。
12.液体製剤が水を含まない、かつ/または保存料を含まない、実施形態11に記載の実施形態。
13.前記組成物が溶液、懸濁液または乳濁液の形態で処方される、好ましくは前記組成物が溶液として処方される、実施形態1~12のいずれか一項に記載の実施形態。
14.前記組成物が眼、眼瞼、眼嚢、眼表面または眼組織に局所投与される、実施形態1~13のいずれか一項に記載の実施形態。
15.組成物が液滴の形態で、または噴霧によるかまたは注射によって投与される、実施形態1~14のいずれか一項に記載の実施形態。
16.前記組成物が1眼当たり約5~約50μl、好ましくは約8~15μl、より好ましくは約10μlの体積の単一液滴として1日当たり最大4回投与される、実施形態1~15のいずれか一項に記載の実施形態。
17.組成物が、第一選択治療で治療された患者に投与される、実施形態1~16のいずれか一項に記載の実施形態。
18.組成物が、第一選択治療としてステロイドで治療された患者に投与される、実施形態1~17のいずれか一項に記載の実施形態。
19.炎症性疾患がぶどう膜炎である、実施形態17または18に記載の実施形態。
20.組成物が、0.03% w/vのタクロリムス、1.4% w/wのエタノールを含み、半フッ化アルカンがF4H5である、実施形態1~19のいずれか一項に記載の実施形態。
21.組成物が1種以上のさらなる賦形剤をさらに含む、実施形態1~20のいずれか一項に記載の実施形態。
22.組成物が、0.03%(w/v)のタクロリムス、1.4%(w/w)のエタノールから本質的になり、半フッ化アルカンがF4H5である、実施形態1~21のいずれか一項に記載の実施形態。
【図面の説明】
【0098】
図1は、タクロリムス/SFA点眼薬治療の内毒素誘発ぶどう膜炎(EIU)マウスモデルの臨床症状への効果を示す。 EIUは、下記のように200ng/μl/眼のLPSの硝子体内注射によってマウスに誘導された。LPS注射の直後に、マウスを0.1%デキサメタゾン/PBS(DXM)、または0.03%タクロリムス/PBS(Tacro/PBS)、または0.03%タクロリムス/SFA(Tacro/SFA)点眼薬のいずれかで1日3回処置した。眼底画像を含む臨床評価を、その後48時間行った。
図1A~Eは、未処置(A、C)、タクロリムス/PBS処置(C)、DXM処置(D)およびタクロリムス/SFA処置(E)マウスの眼底画像を示す。
図1(F)は、異なる群における網膜炎症の臨床スコアを示す;マン・ホイットニー検定による統計。
【0099】
図2は、異なる群のマウスにおけるEIUの病理組織を示す。EIUマウスを、0.1%デキサメタゾン/PBS(DXM)、または0.03%タクロリムス/PBS、または0.03%タクロリムス/SFA点眼薬で、EIUの導入後0日目から2日目まで1日3回処置した。2日目に眼を収集し、H-E染色(ヘマトキシリンおよびエオシン染色)用に加工した。
図2A~Dは、対照としての未処置EIUマウス(A)、タクロリムス/PBS処置マウス(B)、DXM処置マウス(C)、およびタクロリムス/SFA処置マウス(D)の光学顕微鏡画像を示す。
図2Eは、網膜炎症の病理組織学的スコアを示す。1つのプロットは1匹のマウスのスコア(すなわち、マウスの両眼の平均スコア)を表す。マン・ホイットニー検定による統計(「AC」は前房を意味し、「CB」は毛様体を意味し、「Ir」は虹彩を意味し、「Vi」は硝子体を意味し、Reは網膜を意味する)。
【0100】
図3は、タクロリムス/SFA点眼薬治療の実験的自己免疫性網膜ぶどう膜炎(EAU)の臨床症状への効果を示す。 EAUは、IRBP
1-20ペプチド免疫化を用いてC57BL/6Jマウスに誘導した。免疫処置後(p.i.)14日目に、マウスを異なる点眼薬で1日3回処置した。眼底画像は、p.i.25日目に、対照未処置EAUマウス(A)、0.03%タクロリムス/PBS処置マウス(B)、0.1%デキサメタゾン(DXM)処置マウス(C)、および0.03%タクロリムス/SFA処置マウス(D)から撮影した。
図3Eは、異なる群におけるp.i.14日目からp.i.25日目までのEAUの臨床スコアの変化を示す(ウィルコクソン符号順位和検定による統計)。
図3Fは、異なる群におけるp.i.25日目のEAUの臨床スコアの比較を示す(マン・ホイットニー検定による統計)。
【0101】
図4は、異なる群のマウスにおけるEAUの病理組織を示す。EAUマウスを、0.1%デキサメタゾン(DXM)、または0.03%タクロリムス/SFA点眼薬でp.i.14日目から24日目まで1日3回で処置した。p.i.25日目に眼を収集し、H-E染色用に加工した。
図4A~Dは、対照未処置EAUマウス(A)、デキサメタゾン(DXM)処置マウス(B)、タクロリムス/PBS処置マウス(C)、およびタクロリムス/SFA処置マウス(D)の光学顕微鏡画像を示す。
図4Eは、網膜炎症の病理組織学的スコアを示す。1つのプロットは1匹のマウスのスコア(すなわち、マウスの両眼の平均スコア)を表す(マン・ホイットニー検定による統計)。
【0102】
図5は、正常なマウス眼の硝子体(
図5A)、脈絡膜/強膜(
図5B)、網膜(
図5C)および全血(
図5D)のタクロリムスレベルを示す。マウスを、タクロリムス/SFAまたはタクロリムス/PBS点眼薬で1日3回、3日間で処置した。最後の点眼薬処置後の異なる時点(15分、30分、1時間、2時間、4時間、6時間)で試料を回収し、液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)法を用いるタクロリムスの測定のために加工した。タクロリムスのレベルは、網膜および脈絡膜/強膜の組織重量に対して正規化した。平均±SD。同じ時点でタクロリムス/PBS処置眼と比較して、N=4、
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001、二元配置分散分析。同じ時点のタクロリムス/PBS処置眼と比較して、+P<0.05、++P<0.01(対応のないt検定)。「#」は、検定において検出可能な値よりも低い値を意味する。
【0103】
図6A~Dは、ぶどう膜炎の有るマウス眼と無いマウス眼の硝子体のタクロリムスレベルを示す。対照非ぶどう膜炎マウスおよびぶどう膜炎マウスをタクロリムス/SFA点眼薬で1日3回、3日間処置した。最後の点眼薬処置後の異なる時点(15分、30分、1時間、2時間、4時間、6時間)で、試料を収集した。
図6Aは、硝子体におけるタクロリムスレベルを示す。
図6Bは、脈絡膜/強膜組織におけるタクロリムスレベルを示す。
図6Cは網膜組織におけるタクロリムスレベルを示し、
図6dは全血中のタクロリムスレベルを示す。タクロリムスのレベルを、網膜および脈絡膜/強膜の組織重量に対して正規化した。平均±SD。N=4;同じ時点の対照非ぶどう膜炎眼と比較して、
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。二元配置分散分析。同じ時点の非ぶどう膜炎眼と比較して、+P<0.05、++P<0.01(対応のないt検定)。「#」は、検定において検出可能な値よりも低いタクロリムスレベルを示す。
【0104】
図7は、内毒素誘発ぶどう膜炎(EIU)マウスモデルにおいて観察された免疫細胞浸潤を示す。ここでは、網膜中の浸潤性免疫細胞をフローサイトメトリーを用いて測定した。0.03%(w/v)タクロリムス/SFA点眼薬を用いた場合に、より低いレベルの浸潤性免疫細胞が網膜で観察された。(対照=未処理、Dex=PBS中0.1%デキサメタゾン、Tacro/SFA=タクロリムスSFA、Tacro/PBS=PBS中0.1%タクロリムス;浸潤性免疫細胞マーカー:Gr1+=顆粒球マーカー陽性細胞;LFA1+=リンパ球機能関連抗原1、全てのT細胞、さらにはB細胞、マクロファージおよび好中球に見られる;CD62L+=L-セレクチン(CD62L)陽性細胞接着分子、リンパ球上に見られる;CCR2+=C-Cケモカイン受容体2型陽性炎症性単球)
【0105】
以下の実施例は本発明を説明するのに役立つが、これらは本発明の範囲を限定するものと理解されるべきではない。
実施例
概要:
使用した組成物:
【0106】
1.4%(w/w)エタノールを含むF4H5に溶解した0.03%w/vのタクロリムス[0.3mg/ml]の溶液を、1日3回(1滴/眼)適用する点眼薬の形態で局所投与される、高度に親油性の薬物を組み込み送達するように処方した。この製剤は、本明細書において「Tacro/SFA」または「タクロリムス/SFA」または「Tac/SFA」と略される。
【0107】
PBS(リン酸緩衝生理食塩水、0.03%)に懸濁したタクロリムスを対照として使用した。この製剤は、本明細書において「Tacro/PBS」または「タクロリムス/PBS」または「Tac/PBS」と略される。
【0108】
さらに、PBSに懸濁した0.1%デキサメタゾン(DXM)(シグマ-アルドリッチ、英国)を標準治療対照として使用した。この製剤は、本明細書において「DXM」または「Dex」または「0.1%デキサメタゾン/PBS」と略される。
動物:
【0109】
10~12週齢のC57BL/6Jマウスを、1986年の動物(科学的処置)法に対する内務省規則(英国)(the Home Office Regulations for Animal(Scientific Procedures)Act)、ならびに、眼科および視覚研究における動物の使用に関する視覚と眼科学研究協会の声明(the Association for Research in Vision and Ophthalmology Statement for the use of Animals in Ophthalmic and Vision Research)に従って処置した。全てのプロトコールは管轄倫理委員会によって承認された。
眼炎症の臨床評価:
【0110】
動物をイソフルラン吸入(Vet Tech Solutions Ltd、英国)によって麻酔し、1%アトロピンおよび2.5%フェニレフリン(Minims、Bausch and Lomb、英国)を使用して瞳孔を散大させた。眼炎症の重症度は、前部および後部の炎症の両方を考慮して顕微鏡下で(眼底イメージングシステムを用いた眼底検査によって)評価した。前部ぶどう膜炎の臨床スコアは、以前に定義されたスコアリングシステムに従って等級付けした(グレード0~4)(Goureau et al.,1995,J.Immunol.154,6518-6523):
-グレード0、炎症反応なし;
-グレード1、虹彩および結膜血管に個別の炎症;
-グレード2、虹彩および結膜血管の拡張と前房の中程度の発赤;
-グレード3、前房のチンダル現象に関連した虹彩の充血;ならびに
-グレード4、3と同じ臨床徴候に加えて、フィブリンまたはシネチアが存在。
【0111】
後部炎症を評価するために、前述のような局所内視鏡下眼底イメージング(TEFI)システムを用いて各々のマウスから眼底画像を撮影した(Xu et al.,2008,Exp.Eye Res.87,319-326)。各眼のデジタル画像を分析し、以前に本発明者らが開発した標準的な等級付けシステムを用いて2名の独立した研究者によって臨床スコアを評価した(Xu et al.,2008,Exp.Eye Res.87,319-326)。
組織診断:
【0112】
下記のような実験的自己免疫性網膜ぶどう膜炎(EAU)の誘発後25日目から、または下記のような組織学的検査のための内毒素誘発ぶどう膜炎(EIU)マウスの誘発後2日目から、眼を収集した。全ての眼を2.5%(w/v)グルタルアルデヒド(Agar Scientific Ltd、英国スタンステッド)で少なくとも24時間固定した。次に、眼をパラフィンに包埋し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色用に加工した。各眼について、4つの異なる層からの4つの切片を前述の基準に従って等級付けした(Agarwal et al.,2012,Methods Mol.Biol.900,443-469)。
<実施例1>内毒素誘発ぶどう膜炎(EIU)マウスモデル
ヒト急性前部ぶどう膜炎のモデルとしての内毒素誘発ぶどう膜炎(EIU)の導入:
【0113】
C57BL/6Jマウスにおいて、以下の通りわずかに変更した前述のプロトコール(Rosenbaum et al.,2011,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.52,6472-6477)を使用して、LPS(リポ多糖類)の硝子体内注射によってEIUを誘導した:大腸菌(Escherichia coli)055:B5 LPS(Sigma、英国)を発熱物質を含まないリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解した。Repeating Dispenser(PB600-1、Hamilton、米国ネバダ州)に入れた30ゲージ針および25μLシリンジを使用して、マウスに1μL中200ng/眼のLPSを硝子体内注射した。眼内炎症は、硝子体内注射によるLPS負荷の4~6時間後に始まり、24~48時間でピークに達した。その後、炎症は3日後に消散し始めた。眼は1週間以内に正常に戻るであろう(Rosenbaum et al.,2011,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.52,6472-6477)。
EIUの治療:
【0114】
マウスをEIU調査において4つの群に無作為化した:群1:対照(点眼薬無し)、n=6マウス;群2:0.1%デキサメタゾンによる処置、n=6マウス;群3:0.03%タクロリムス/PBSによる処置、n=6マウス;群4:0.03%タクロリムス/SFA、n=8マウス。2日間のLPSの硝子体内注射の直後から始めて、全てのマウスを1日3回点眼薬で処置した。この調査を2回繰り返した。
EIUの治療におけるタクロリムス/SFA点眼薬の効果:
【0115】
臨床試験により、結膜血管の充血、前房における広範囲の免疫細胞浸潤、および48時間の未処置マウスとタクロリムス-PBS処置EIUマウスの硝子体が明らかになった(
図1A、B;矢印参照)。浸潤細胞は硝子体の下部でより頻繁に観察された(
図1B)。網膜剥離および出血が、重度の炎症を有する眼において観察された(
図1C)。眼内炎症の重症度は、対照およびタクロリムス/PBS処置群と比較して、デキサメタゾン(
図1D)またはタクロリムス/SFA(
図1E)処置後に低下した(
図1F)。
【0116】
臨床徴候に一致して、組織学的解析により、処置していないマウス(
図2A)またはタクロリムス/PBS点眼薬で治療したマウス(
図2B)において、前房(AC)、硝子体腔(Vi)、および毛様体(CB)領域の免疫細胞の蓄積を特徴とするEIUの顕著な特徴が明らかになった。広範囲の網膜免疫細胞浸潤に関連する重度の網膜破壊(網膜剥離、無秩序な網膜層、出血)も観察された(
図2Aおよび2B中の矢印)。硝子体および網膜における軽度の細胞浸潤が、0.1%デキサメタゾンまたはタクロリムス/SFA点眼薬で処置した眼で観察され、網膜層の全体構造は無傷のままであった(
図2C、D)。デキサメタゾンおよびタクロリムス/SFA処置眼の組織病理学的スコアは、未処置対照EIU眼のスコアよりも有意に低かった(
図2E)。さらなる2組のマウスでの反復試験は同様の結果を示した。
【0117】
要約すると、タクロリムス/SFA点眼薬による治療は、内毒素誘発ぶどう膜炎(EIU)マウスモデルにおける急性ぶどう膜炎の重症度を軽減した:低下は臨床スコアならびに組織学的スコアにおいて観察された。さらに、網膜(眼底に位置する)においてそれよりも低いレベルの浸潤性免疫細胞が観察された。
<実施例2>実験的自己免疫性網膜ぶどう膜炎(EAU)
後部ぶどう膜炎のための実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(EAU)マウスモデルの誘導:
【0118】
Chen et al.,2012およびXu et al.,2005に以前に記載されたようにEAUを誘導した。C57BL/6Jマウスに、完全フロイントアジュバント(CFA、H37Ra、Difco Laboratories、米国ミズーリ州デトロイト)に乳化した、500μgのIRPBペプチド1-20(GPTHLFQPSLVLDMAKVLLD;GL(Biochem)Shanghai Ltd、中国)を皮下免疫した。マウスに、100μl(1.5μg)の百日咳菌毒素(Tocris Bioscience、英国)の追加の腹腔内注射を投与した。網膜炎症は、免疫処置後(p.i.)12~14日に発症し、p.i.22~25日にピークに達した。炎症の重症度は、ピーク期以降に低下するが、網膜炎症は4ヶ月以上持続する(Chen et al.,2012)。
EAUの治療:
【0119】
p.i.14日目にEAUマウスを炎症の臨床スコアに基づいて4つの群に分けたところ、各群のスコアは同等であった。群1:対照(処置無し、n=7マウス);群2:0.1%デキサメタゾン(DXM)点眼薬(n=7マウス);群3:0.03%タクロリムス/PBS点眼薬(n=7マウス);群4:0.03%タクロリムス/SFA点眼薬(n=7マウス)。群2~4の全てのマウスにp.i.14日目からp.i.25日目まで1日3回点眼薬処置を行った。
後部ぶどう膜炎(EAU)のマウスモデルにおけるタクロリムス/SFA点眼薬の治療的役割:
【0120】
タクロリムス/SFA点眼薬による処置がEIUの炎症を抑制することが示されたので、後部ぶどう膜炎のマウスモデルであるEAUにおいてその治療効果をさらに評価した。点眼薬の局所投与は、ぶどう膜炎の発症後、すなわちp.i.14日目に開始した。EAUの臨床スコアは、処置前(すなわち14日目)の調査群間で同等であった。広範囲の網膜浸潤(白っぽい病変、
図3Aおよび3B参照)、血管のカフィング(矢印、
図3A)、および直線状の病変(矢頭、
図3A)を特徴とする重度の網膜炎症は、未処置およびタクロリムス/PBS処置EAUマウスにおいて観察された。分散した小さな浸潤物、軽度の血管のカフィングおよび視神経乳頭腫脹(
図3C&3D)を特徴とする軽度の炎症は、デキサメタゾンおよびタクロリムス/SFA処置眼において観察された。網膜炎症の重篤度は全群でp.i.14日目から25日目まで増加したが、増加量はタクロリムス/SFAおよびデキサメタゾン処置群と比較して未処置およびタクロリムス/PBS処置群でより顕著であった(
図3E)。p.i.25日目に、デキサメタゾンおよびタクロリムス/SFA処置群の臨床スコアは、未処置マウスのスコアよりも有意に低かった(
図3F)。
【0121】
組織学的検査により、未処置(
図4A)およびタクロリムス/PBS処置(
図4C)マウスの眼の網膜および硝子体における広範囲の免疫細胞浸潤が明らかになった。網膜層はこれらの眼において無秩序であった。少数の免疫細胞浸潤および肉芽腫性病変(
図4の矢印)が、デキサメタゾン(
図4B)およびタクロリムス/SFA(
図4D)処置眼において観察されたが、網膜構造はこれらのマウスにおいてほとんど無傷であった。EAUの全体的な病理組織学的スコアは、未処置対照と比較して、デキサメタゾン処置マウスおよびタクロリムス/SFA処置マウスにおいて有意に低かった(
図4E)。本発明者らの結果は、タクロリムス/SFA点眼薬がEAUにおいて進行中の眼炎症の制御に効果的であることを示唆する。
【0122】
要約すると、タクロリムス/SFA点眼薬による治療は、実験的自己免疫性網膜ぶどう膜炎(EAU)マウスモデルにおける網膜炎症を軽減した:低下は臨床スコアならびに組織学的スコアにおいて観察された。
<実施例3>タクロリムス/SFA点眼薬の薬物動態および吸収調査
点眼薬処置および群:
【0123】
タクロリムス/SFA点眼薬の薬物動態は、正常マウスとEIUマウス(上記の通り)の両方で行った。正常C57BL/6JマウスまたはEIUマウス(LPS注射の直後)を、0.03%タクロリムス/SFAかまたは0.03%タクロリムス/PBS点眼薬(60μl/滴)のいずれかで1日3回3日間処置した。最後の点眼薬処置から異なる時点で(15分、30分、1時間、2時間、4時間および6時間)、動物を犠牲にし、タクロリムスの測定のために以下の試料を採取した(1)硝子体液、(2)網膜、(3)脈絡膜/強膜、および(4)血液。各群で4匹のマウスを使用し、点眼薬処置を受けなかった20匹の正常マウスと8匹のEIUマウスを対照として使用した。
サンプル収集および処理:
【0124】
6~8μlの硝子体液を各マウスから採取した。動物を犠牲にした直後に網膜組織を解剖して秤量し、エッペンドルフチューブに入れた。動物を犠牲にした直後に脈絡膜/強膜組織を解剖して秤量し、エッペンドルフチューブに入れた。200~500μlの全血を各マウスからEDTA被覆チューブに採取した。
【0125】
すべての試料を-20℃で保存し、次に、試料分析前のそれぞれのマトリックスに対して適格であった液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)法によって、タクロリムスを定量的に決定した。定量の下限は、血液について0.25ng/ml、網膜および脈絡膜/強膜ホモジネートについて0.05ng/ml、硝子体について1.25ng/mlであった。
正常な非炎症マウスにおけるタクロリムス点眼薬の薬物動態および吸収:
【0126】
タクロリムス/SFA点眼薬処置後15分~2時間に採取した硝子体液中のタクロリムスのレベルは、2~6ng/mlであった。4時間~6時間までに、タクロリムスのレベルは、タクロリムス/SFA処置マウスの大部分の試料において検出可能レベルよりも低くなった。タクロリムス/PBS処置マウスでは、タクロリムスレベルは、1時間からのものを除いて、全ての試料において検出可能レベルよりも低かった。タクロリムス/SFA群の硝子体中のタクロリムスのレベルは、投与後1時間のタクロリムス/PBS群のものよりも有意に高かった(
図5A)。
【0127】
脈絡膜/強膜では、タクロリムス/SFA点眼薬投与後15分~1時間に高レベルのタクロリムスが検出された(276ng/g組織~337ng/g組織、
図5B)。その後、レベルは2時間後に150ng/g組織、6時間後に70ng/g組織に減少した(
図5B)。タクロリムス/PBSで処置した眼では、23ng/gおよび34ng/g組織のタクロリムスが15分から1時間の間に検出され、レベルは6時間で8.45ng/g組織に減少した(
図5B)。全ての時点のタクロリムス/SFA群の脈絡膜/強膜中のタクロリムスのレベルは、タクロリムス/PBS群のレベルよりも有意に高かった(
図5B)。
【0128】
タクロリムス/SFAの網膜中のタクロリムスのレベルは、点眼薬投与後15分で48ng/g組織であり、1時間で90ng/g組織に増加した(
図5C)。タクロリムスのレベルは2時間後にわずかに減少したが、点眼薬処置の6時間後に53ng/g組織のままであった(
図5C)。タクロリムス/PBSで処置した眼において、タクロリムスのレベルは全ての時点で2~7ng/g組織の間であり、タクロリムス/SFAで処置した眼のレベルよりも有意に低かった(
図5C)。
【0129】
タクロリムス/SFAで処置した正常マウスの血液中のタクロリムスのレベルは、処置後15分で35ng/mlから30分で118ng/mlに増加した後、1時間から減少したが、2時間で62ng/mlのままであった(
図5D)。タクロリムス/PBS点眼薬で処置したマウスの血液中では、より低いレベルのタクロリムス(2~40ng/ml)が検出された。タクロリムス/PBS処置と未処置対照との間に差異はなかった(
図5D)。タクロリムス/SFA群の血液中のタクロリムスのレベルは、30分、1時間および4時間の時点でタクロリムス/PBS群よりも有意に高かった(
図5D)。
【0130】
これらの結果は、タクロリムス/SFAが、タクロリムス/PBSよりも高い透過性を有し、点眼薬投与後に、正常なマウス眼の眼障壁を急速に貫通し、全ての眼組織ならびに血液循環に急速に(15~30分以内に)分布し得ることを示す。
ぶどう膜炎マウスにおけるタクロリムス点眼薬の薬物動態および吸収:
【0131】
ぶどう膜炎の眼においてのみタクロリムス/SFAを試験したので、ぶどう膜炎の眼と非ぶどう膜炎の眼との間のタクロリムス/SFA点眼薬の薬物動態を比較した。ぶどう膜炎マウスの硝子体中のタクロリムスのレベルは、15分および30分でそれぞれ24ng/mlおよび14ng/mlであり、非ぶどう膜炎マウス(それぞれ、2.5ng/mlおよび2.3ng/ml)よりも有意に高かった。点眼薬投与の6時間後、非ぶどう膜炎の眼の1.1ng/mlと比較して、10ng/mlのタクロリムスをぶどう膜炎の眼の硝子体において検出した(
図6A)。
【0132】
脈絡膜/強膜におけるタクロリムスのレベルは、点眼薬投与後15分で、正常マウスでの276ng/g組織と比較して、ぶどう膜炎マウスにおいて855.5ng/g組織であった(
図6B)。タクロリムスの濃度は30分で減少し、ぶどう膜炎の眼では1時間で非ぶどう膜炎の眼と同程度のレベルまで減少した。2時間および6時間で、ぶどう膜炎マウスは、正常な非炎症マウスと比較して有意に高いレベルのタクロリムスを有していた(
図6B)。
【0133】
有意に高いレベルのタクロリムスは、非ぶどう膜炎マウスと比較してぶどう膜炎マウスの網膜において、投与の15分後(48ng/g組織に対して102)および2時間後(61ng/g組織に対して115ng/g)に検出された(
図6C)。6時間での網膜タクロリムスのレベルは、ぶどう膜炎の眼で15分のレベルの約67%であった(
図6C)。
【0134】
タクロリムスの血中濃度は、投与の15分後にぶどう膜炎マウスにおいて280ng/mlであり、非ぶどう膜炎マウス(35ng/ml)よりも有意に高かった(
図6D)。次に、レベルは、ぶどう膜炎マウスにおいて点眼薬処置後30分で143ng/mlに、6時間で73ng/mlに低下した。非炎症マウスでは、タクロリムスの血中濃度は30分で118ng/mlに増加し、他の時点でもぶどう膜炎マウスに匹敵するレベルのままであった(
図6D)。
【0135】
本発明の薬物動態調査は、タクロリムス/PBSではなく、タクロリムス/SFAが、局所投与後に急速に(15分以内)組織障壁(例えば、上皮、膜および内皮障壁)を貫通し、正常なマウスにおいて有意なレベルで脈絡膜/強膜などの眼組織に達することを示す。
【0136】
眼が炎症を起こしている場合には、眼組織(例えば脈絡膜/強膜および網膜など)への浸透ははるかに増加し、ぶどう膜炎マウスの脈絡膜/強膜中のタクロリムスのレベルは、投与15分後に非ぶどう膜炎マウスよりも3倍および8倍高かった。
【0137】
さらに、タクロリムス/SFAは、一般的な組織障壁だけでなく、眼障壁も貫通する。正常なマウス眼において、局所投与15分後にかなりの量のタクロリムスが硝子体および網膜に検出され、薬物は少なくとも6時間網膜にとどまった。硝子体および網膜中のタクロリムスのレベルは、投与後15分で、ぶどう膜炎の眼において非ぶどう膜炎の眼よりも2倍および10倍高かった。
【0138】
データは、タクロリムス/SFAがマウスの眼障壁(脈絡膜/強膜など)を貫通し、治療レベルで眼内組織(網膜など)に到達し、網膜炎症を抑制することができることを示唆する。0.03%タクロリムス/SFA点眼薬は、EIUモデルとEAUモデルの両方において眼内炎症を抑制することが示されている。タクロリムス/PBSは、EIUおよびEAUモデルにおいていかなる抑制効果も示さず、眼障壁を貫通することができなかった。