(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】ミクロ流体装置による粒子の複合式分類および濃縮
(51)【国際特許分類】
G01N 1/40 20060101AFI20220317BHJP
G01N 1/34 20060101ALI20220317BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20220317BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20220317BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
G01N1/40
G01N1/34
G01N37/00 101
B81B1/00
C12M1/00 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020005143
(22)【出願日】2020-01-16
(62)【分割の表示】P 2017523990の分割
【原出願日】2015-11-03
【審査請求日】2020-02-13
(32)【優先日】2014-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2014-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カプール,ラビ
(72)【発明者】
【氏名】スミス,カイル・シィ
(72)【発明者】
【氏名】トナー,メフメット
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-515599(JP,A)
【文献】特開2007-196219(JP,A)
【文献】特開2004-170396(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0026419(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0059781(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0248621(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0006479(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 35/02
G01N 37/00
C12M 1/26
C12M 3/06
C12M 1/12
B01D 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体から粒子を抽出および濃縮するミクロ流体装置であって、
対応するミクロ流体流路と前記ミクロ流体流路における列島構造とを備えた流体交換モジュールを備え、前記列島構造は前記ミクロ流体流路の長手方向に沿って延在する1つ以上の行に配置され、行内の各島構造は、同一行内の隣接する島構造から離間されて開口を形成し、前記流体交換モジュールにおける前記列島構造は、行内の隣接する島構造の間の前記開口を通して前記列島構造の第1側に流体の一部を偏流するように構成および配置され、前記列島構造の反対側の第2側に前記流体の残部を残し、
前記ミクロ流体装置は、粒子濃縮モジュールをさらに備え、
前記粒子濃縮モジュールは、前記流体交換モジュールに流体接続され、前記流体の一部内に前記粒子を集中させるために前記流体内に含まれる粒子を集中させる慣性揚力を生じさせるように構成および配置され
、
前記粒子濃縮モジュールは、対応するミクロ流体流路と列島構造とを備え、前記列島構造における各島構造は、前記列島構造において隣接する島構造から離間されて開口を形成し、各粒子濃縮モジュールにおける前記列島構造は、前記列島構造における隣接する島構造の間の前記開口を通して前記列島構造の第1側に流体の一部を偏流するように構成および配置され、前記ミクロ流体流路の形状は、前記列島構造の反対側の第2側に1つ以上の流線に沿った前記流体内に含まれる粒子を集中させる慣性揚力を生じさせるように構成される、ミクロ流体装置。
【請求項2】
前記粒子濃縮モジュールの流体入力端は、前記流体交換モジュールの第1の流体交換出力端に流体接続される、請求項1に記載のミクロ流体装置。
【請求項3】
前記第1の流体交換出力端は、前記列島構造の前記第1側に流体接続され、前記流体交換モジュールは、前記列島構造の反対側の前記第2側に流体接続される第2の流体交換出力端をさらに備える、請求項1に記載のミクロ流体装置。
【請求項4】
前記ミクロ流体装置は、第1流体試料入力ポートと第2流体試料入力ポートとをさらに備え、
前記流体交換モジュールは、前記ミクロ流体通路において、前記第1流体試料入力ポートからの第1流体と、前記第2流体試料入力ポートからの第2流体とを受けるように構成および配置される、請求項1に記載のミクロ流体装置。
【請求項5】
前記流体交換モジュールおよび前記粒子濃縮モジュールは、それぞれ、共通する基板に規定される、請求項1に記載のミクロ流体装置。
【請求項6】
前記共通する基板は、実質的に円形である、請求項
5に記載のミクロ流体装置。
【請求項7】
前記ミクロ流体流路の幅は、前記長手方向に沿って実質的に一定である、請求項1に記載のミクロ流体装置。
【請求項8】
前記列島構造における島の間の間隔の断面領域は、前記長手方向に沿って増加し、前記列島構造における各間隔の前記断面領域は、前記間隔を通る流体の流れを横断する面に沿って規定される、請求項1に記載のミクロ流体装置。
【請求項9】
前記粒子は、1μm~100μmの平均水力直径を有する、請求項1に記載のミクロ流体装置。
【請求項10】
流体を第1の流体交換出力端に流体の一部を偏流させ、前記流体の残部を第2の流体交換出力端に残すように構成および配置される流体交換モジュールと、
粒子濃縮モジュールとを備え、
前記粒子濃縮モジュールは、前記流体交換モジュールに流体接続され、対応するミクロ流体流路と前記ミクロ流体流路における列島構造を備え、前記列島構造における各島構造は、隣接する島構造から離間されて開口を形成し、前記各粒子濃縮モジュールにおける前記列島構造は、前記列島構造において隣接する島構造の間の前記開口を通して前記列島構造の第1側に流体の一部を偏流するように構成および配置され、前記ミクロ流体流路の形状は前記列島構造の反対側の第2側に1つ以上の流線に沿って前記流体内に含まれる粒子を集中させる慣性揚力を生じさせるように構成され
、
前記流体交換モジュールは、対応するミクロ流体流路と前記ミクロ流体流路における列島構造を備え、前記列島構造は前記ミクロ流体流路の長手方向に沿って延在する1つ以上の行に配置され、行内の各島構造は、前記行内の隣接する島構造から離間されて開口を形成し、前記流体交換モジュールにおける前記列島構造は、行内の隣接する島構造の間の前記開口を通して前記列島構造の第1側に流体の一部を偏流するように構成および配置され、前記列島構造の反対側の第2側に前記流体の残部を残す、ミクロ流体装置。
【請求項11】
前記粒子濃縮モジュールは、前記流体交換モジュールの前記第1または第2の流体交換出力端の1つに流体接続される流体入力端を有する、請求項
10に記載のミクロ流体装置。
【請求項12】
前記流体交換モジュールおよび前記粒子濃縮モジュールは、それぞれ、共通する基板に規定される、請求項
10に記載のミクロ流体装置。
【請求項13】
前記共通する基板は、実質的に円形である、請求項
12に記載のミクロ流体装置。
【請求項14】
各開口は開口長さを有し、
前記列島構造における各島は前記島に隣接する開口の開口長さよりも大きい島長さを有し、これにより、前記粒子濃縮モジュールは、前記ミクロ流体装置の使用中に、慣性揚力を前記粒子に与え、前記粒子が隣接する島の間の1つ以上の前記開口を通して流体を前記ミクロ流体流路に伝播するのを実質的に防止する、請求項
10に記載のミクロ流体装置。
【請求項15】
前記流体が通る各開口の断面領域が前記流体内に含まれる前記粒子よりも大きい、請求項
10に記載のミクロ流体装置。
【請求項16】
前記開口の大きさが前記ミクロ流体流路の長手方向に沿って増加する、請求項
10に記載のミクロ流体装置。
【請求項17】
各島について、前記島の第1側の輪郭が前記島の前記第1側に面する壁の輪郭と実質的に一致する、請求項
10に記載のミクロ流体装置。
【請求項18】
前記粒子は、1μm~100μmの平均水力直径を有する、請求項
10に記載のミクロ流体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2014年11月3日に出願された米国仮出願第62/074213号および2014年11月3日に出願された米国仮出願第62/074315号の利益を主張し、各出願の全体が引用により本開示に援用される。
【0002】
技術分野
本開示は、ミクロ流体装置による粒子の複合式分類および濃縮(またはその逆)に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
粒子の分離および濾過は、業種および分野を問わず、さまざまな用途に使用されてきた。これらの用途の例として、化学プロセスおよび発酵濾過、水の浄化/廃水処理、血液成分の分類および濾過、コロイド溶液の濃縮、環境試料の精製および濃縮が挙げられる。遠心分離および濾過に基づく技術を含むさまざまなマクロ規模技術が、これらの用途に使用するために、開発されている。一般的には、このような技術は、膨大且つ高価で、複雑な可動部品を有するシステムを必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
場合によって、ミクロ規模技術は、規模の減少により、粒子の分類および濾過に特異な流体力学効果を使用することができ、複雑な可動部品を備えた大型システムを使用する必要がないという点で、マクロ規模技術に比べて有利である。さらに、ミクロ規模技術によって、携帯可能な装置を使用して、マクロ規模システムよりも遥かに低いコストで分類および濾過を行うことができる。しかしながら、従来のミクロ規模の分類および濾過装置は、指定の時間に処理できる流体の量に限度がある(すなわち、低処理量)ため、マクロ規模装置に比べて潜在的に不利である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
本開示は、少なくとも部分的に、ミクロ流体装置の形状および寸法を慎重に制御することによって、異なる流体試料間に粒子を移すだけでなく、特定の流体試料中の粒子濃度を大幅に変えることができるという発見に基づいている。具体的には、開示されたミクロ流体装置は、単一のチップまたは基板上に集積された2つの別個のミクロ流体モジュールを使用する。一方のモジュールは、一列の島構造を用いて、慣性揚力および流体偏流の組み合わせに基づき、ソース流体試料を処理する(例えば、ソース流体から粒子を別の第2流体に移す)。他方のモジュールは、慣性集中および流体偏流の組み合わせを利用して、粒子、すなわち、第2流体試料に移された粒子の濃度を高めるまたは増加させる。多くの種類のモジュールを並列に配置することによって、超高処理量のミクロ流体装置を得ることができる。モジュールは、任意の順序で配置することができる。例えば、さまざまなモジュールは、任意の順序で直列および/または並列に配置することができる。
【0006】
一般的には、一態様において、本開示の主題は、第1流体試料入力ポートと、流体試料入力ポートと、第1基板に設けられた流体交換モジュールとを備え、流体交換モジュールは、対応する第1ミクロ流体流路と、第1ミクロ流体流路に設けられた第1列島構造とを含み、第1列島構造は、第1ミクロ流体流路の長手方向に沿って延在する1つ以上の行に
配置され、行内の各島構造は、同一行内の隣接する島構造から離間することによって開口を形成し、各流体交換モジュール内の第1列島構造は、同一行内の隣接する島構造間の開口を通って流体の一部を偏流させるように構成且つ配置され、第2基板に設けられた粒子濃縮モジュールを備え、粒子濃縮モジュールは、対応する第2ミクロ流体流路と第2列島構造とを含み、第2列内の各島構造は、隣接する島構造から離間することによって開口を形成し、各粒子濃縮モジュール内の第2列島構造は、第2列内の隣接する島構造間の開口を通って産物流体の一部を第2列島構造の第1側に偏流させ、産物流体内に含まれた粒子を1つ以上の流線に沿って第2列島構造の反対側の第2側に集中させる。
【0007】
装置の実現例は、以下の特徴のうち1つ以上を有することができる。例えば、いくつかの実現例において、流体交換モジュールの第1ミクロ流体流路の出力端は、粒子濃縮モジュールの第2ミクロ流体流路の入力端に流体接続される。流体交換モジュールは、第1流体試料入力ポートからの第1流体試料および第2流体試料入力ポートからの第2流体試料を第1ミクロ流体流路に受け入れるように構成される。
【0008】
いくつかの実現例において、粒子濃縮モジュールの第2ミクロ流体流路の出力端は、流体交換モジュールの第1ミクロ流体流路の入力端に流体接続される。粒子濃縮モジュールは、第1流体試料入力ポートから第1流体試料を第2ミクロ流体流路に受け入れるように構成され、流体交換モジュールは、第2流体試料入力ポートからの第2流体試料を第1ミクロ流体流路に受け入れるように構成される。
【0009】
いくつかの実現例において、第1基板と第2基板とは、同一基板である。
いくつかの実現例において、各流体交換モジュール内の第1列島構造は、同一行内の隣接する島構造間の開口上方の流体抵抗の減少によって、開口を通って流体の一部を偏流させるように構成且つ配置され、各粒子濃縮モジュール内の第2列島構造は、第2列内の隣接する島構造間の開口上方の流体抵抗の減少によって、開口を通って産物流体の一部を第2列島構造の第1側に偏流させるように構成且つ配置される。
【0010】
いくつかの実現例において、流体交換モジュールの場合、第1ミクロ流体流路の第1壁と第1列島構造との間の距離が、第1ミクロ流体流路の長手方向に沿って漸進的に増加する。流体交換モジュールの場合、第1ミクロ流体流路の第2壁と第1列島構造との間の距離が、ミクロ流体流路の長手方向に沿って漸進的に減少する。
【0011】
いくつかの実現例において、粒子濃縮モジュールの場合、第2ミクロ流体流路の第1壁と第2列島構造との間の距離は、第2ミクロ流体流路の長手方向に沿って漸進的に増加する。粒子濃縮モジュールの場合、第2列島構造と第2ミクロ流体流路の第2壁とは、第2ミクロ流体流路の長手方向に沿って、第2列構造と第2壁との間に波状の流体経路を規定するように構成且つ配置される。第2壁の曲率は、高曲率領域と低曲率領域との間で交替する。第2列島構造内の各島構造は、三角柱を含む。
【0012】
いくつかの実現例において、装置は、並列に配置された複数の流体交換モジュールと、並列に配置された複数の粒子濃縮モジュールとを含む。
【0013】
いくつかの実現例において、ミクロ流体装置は、第1流体試料入力ポートに流体接続され且つフィルタの下流に配置された流体交換モジュールまたは粒子濃縮モジュールのいずれかに流体接続され、各フィルタは、柱構造列を含む。
【0014】
いくつかの実現例において、ミクロ流体装置は、フィルタを含み、フィルタは、フィルタの上流に配置された流体交換モジュールまたは粒子濃縮モジュールの一方に流体接続され、且つフィルタの下流に配置された流体交換モジュールまたは粒子濃縮モジュールの他
方に流体接続され、各フィルタは、柱構造列を含む。
【0015】
いくつかの実現例において、ミクロ流体装置は、慣性濃縮装置を含み、慣性濃縮装置は、慣性濃縮装置の上流に配置された流体交換モジュールまたは粒子濃縮モジュールの一方に流体接続され、且つ慣性濃縮装置の下流に配置された流体交換モジュールまたは粒子濃縮モジュールの他方に流体接続され、慣性濃縮装置は、第3ミクロ流体流路を含み、第3ミクロ流体流路は、その長手方向に横断する断面を有し、断面のサイズは、第3ミクロ流体流路の長手方向に沿って周期的に増減する。
【0016】
別の態様において、本開示の主題は、第1流体試料から粒子を抽出および濃縮する方法として実施することができ、この方法は、第1流体試料をミクロ流体装置の流体交換モジュールに供給するステップと、第2流体試料をミクロ流体装置の流体交換モジュールに供給するステップとを含み、流体交換モジュールは、対応する第1ミクロ流体流路と、第1ミクロ流体流路に設けられた第1列島構造とを含み、第1列島構造は、第1ミクロ流体流路の長手方向に沿って延在する1つ以上の行に配置され、行内の各島構造は、同一行内の隣接する島構造から離間することによって開口を形成し、第1流体試料および第2流体試料は、第1流体試料の粒子を含まない部分が行内の隣接する島構造間の開口を通るように偏流させられ、第1流体試料中の粒子が慣性揚力によって、流線を横切って第2流体試料に移されるように、流体交換モジュールに供給され、流体交換モジュールから移された粒子を含む第2流体試料を粒子濃縮モジュールに供給するステップを含み、粒子濃縮モジュールは、対応する第2ミクロ流体流路と、一列に配置された第2列島構造とを含み、第2列島構造の各々は、同一行内の隣接する島構造から離間することによって開口を形成し、移された粒子を含む第2流体試料は、第2流体試料の粒子を含まない部分が第2ミクロ流体流路内の隣接する島構造間の開口を通るように偏流させられ、第2流体試料内の粒子が粒子濃縮モジュールの慣性集中部で1つ以上の流線に集中させられるように、粒子濃縮モジュールに供給される。
【0017】
方法の実現例は、以下の特徴のうちの1つ以上を有することができる。例えば、いくつかの実現例において、第1流体試料は、全血であり、第2流体試料は、緩衝溶液である。
【0018】
いくつかの実現例において、粒子は、白血球である。白血球は、好中球である。
いくつかの実現例において、方法は、第1流体試料を流体交換モジュールに供給する前に、第1流体試料を濾過するステップをさらに含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、方法は、流体交換モジュールから移された粒子を含む第2流体試料をフィルタに供給するステップと、第2流体試料を粒子濃縮モジュールに供給する前に、フィルタで第2流体試料を濾過するステップとを含む。
【0020】
いくつかの実現例において、方法は、流体交換モジュールから出力された第2流体試料に対して、移された粒子を含む第2流体試料を粒子濃縮モジュールに供給する前に、粒子を第3ミクロ流体流路内の第2流体試料の1つ以上の流線に集中させるステップをさらに含み、第3ミクロ流体流路の出力端に位置する第2流体試料の1つ以上の流線は、粒子濃縮モジュールの慣性集中側に整列される。
【0021】
いくつかの実現例において、方法は、粒子濃縮モジュールの出力端で、粒子濃縮モジュールの入力端に位置する第2流体試料中の粒子の濃度よりも高い濃度の粒子を含む第2流体試料の一部を取得するステップをさらに含む。粒子濃縮モジュールの出力端に位置する第2流体試料中の粒子濃度は、粒子濃縮モジュールの入力端に位置する第2流体試料中の粒子濃度の10倍~100倍である。
【0022】
本開示に記載された主題の実現例は、いくつかの利点を提供する。例えば、いくつかの実現例において、本開示に記載のミクロ流体システムおよび方法を用いて、連続的に流動する流体中の粒子を単離することができ、遠心分離を必要とせずに連続的に流動する流体中の粒子の濃度を増加することができ、および/低い粒子濃度を有する純化流体試料を得ることができる。いくつかの実現例において、本開示に記載のミクロ流体システムおよび方法を用いて、粒子を1つの流体から別の流体に、例えば全血から緩衝液に偏流させることができる。本開示に記載された連続ミクロ流体技術によって、さまざまなポイントオブケア装置に実装可能な安価で簡単な器械を用いて、高容積量および高処理量、大幅且つ調整可能な液量の減少、および高粒子収率を提供することができる。特に、本開示に記載の技術は、既存の遠心分離技術に比べて、特に遠心分離の規模および費用が非常に厳しい用途において、顕著な利点を提供する。いくつかの実現例において、本開示に記載の技術は、能率化処理および他のミクロ流体モジュールとの簡単一体化も提供する。臨床用途において、本開示に記載のシステムは、自己内蔵式に構成することができ、使い捨て式に構成することもできる。逆に、バイオプロセス/産業用途において、装置は、連続流/連続処理に対応するように構成することができる。
【0023】
本開示において、「試料」(場合によって、「流体」または「流体試料」とも呼ばれる)は、ミクロ流体流路を通って流動することができる。試料は、1つ以上の流体懸濁液、または流体懸濁液に帰属され、ミクロ流体流路を通って流動するまたはミクロ流体流路を通って搬送される任意の試料を含むことができる。
【0024】
本開示において、流体は、任意種類の流体、例えば液体または気体を含むことができる。流体は、工業流体、環境流体、または工業処理または他の種類の処理を行うために、他の実体によって使用され、粒子を分散させる流体を含むことができる。例えば、流体は、油性溶液または水性溶液を含むことができる。流体は、生物体液、例えば、全血、血漿、白血球層、脳脊髄液、骨髄穿刺液、腹膜、気管支肺胞上皮、腹水、尿、または他の体液を含むことができる。流体中に含まれる粒子は、生物粒子、例えば、循環性腫瘍細胞、赤血球、白血球、骨髄細胞、細菌、真菌、ウイルス、藻類、任意の原核または真核細胞、精子、卵子、細胞小器官、エキソソーム、または天然に存在するまたは人工的に流体中に導入された他の種類の生物粒子を含むことができる。粒子は、液滴、泡沫、汚染物、沈殿物、有機粒子、無機粒子、ビーズ、ビーズ標識分析物、磁気ビーズ、および/または磁気標識分析物を含むことができる。
【0025】
本開示において、流路という用語は、流体が流動できる構造を指す。
本開示において、ミクロ流体システムという用語は、一般的には、約10nm~約5mm範囲の寸法を有する少なくとも1つの断面を含む流体システム、流体装置、流体流路、または流体チャンバを指す。
【0026】
本開示において、隙間または開口という用語は、流体または粒子が流れることができる区域を指す。例えば、隙間または開口は、2つの障害物の間のスペースであって、流体が流れることができる。
【0027】
本開示において、剛性島構造という用語は、粒子が一般に貫通することができない物理構造を指す。
【0028】
本開示において、体積減少という用語は、細胞/粒子の懸濁液を処理することによって、投入されたものよりも、処理後の産物がより高い濃度の細胞/粒子(したがって、より小さい体積)を有することを意味する。
【0029】
本開示において、粒子を含まない層という用語は、ミクロ流体装置内の連続的に流れる
流体試料の長尺区域であって、1種以上の異なる粒子を実質的に含まない区域として理解すべきである。
【0030】
本開示において、粒子の絶対収率という用語は、産物中の粒子の総数を投入物中の粒子の総数で割ったものを意味すると理解すべきである。
【0031】
本開示において、相対収率という用語は、産物中の粒子の総数を生成物(すなわち、産物+廃液)中の粒子の総数で割ったものを意味すると理解すべきである。
【0032】
本開示において、長さ割合という用語は、(粒子間の空間に対して)粒子によって占有された液流の割合を意味すると理解すべきである。
【0033】
本開示において、流体抵抗という用語は、流路(例えば、ミクロ流体流路)全体の圧力降下と流路を通る流体の流速との比率を指す。
【0034】
試料中の粒子は、ミクロ流体流路内で整列および集中できる任意のサイズを有することができる。例えば、粒子は、1μm~100μmの平均流体力学サイズを有することができる。粒子のサイズは、流路の幾何形状のみによって制限される。したがって、上記の粒子よりも大きい粒子または小さい粒子であっても、ミクロ流路で集中できる場合、その粒子を使用することができる。(例えば、細胞、卵子、細菌、真菌、ウイルス、藻類、任意の原核細胞または真核細胞、細胞小器官、エキソソーム、液滴、泡沫、汚染物、沈殿物、有機粒子、無機粒子、磁気ビーズ、および/または磁気標識分析物などの)粒子のサイズ、例えば、粒子の平均流体力学サイズまたは平均直径は、当該分野で周知の標準技術を用いて決定することができる。
【0035】
いくつかの実現例において、流体内の複数の粒子を流体の流線に沿って集中させることができる。
【0036】
いくつかの実現例において、慣性で粒子を流線に集中させること(「局在化」とも呼ばれる)は、一定の断面を有する流路を流動しており、懸濁粒子を搬送する流体の流速を変更することによって達成することができる。いくつかの実現例において、粒子が通過する流路の断面の面積を減少することによって、集中を達成することができる。粒子は、例えば粒子幅の1.05倍、2倍、3倍、4倍または5倍の幅を有する区域内で局在化することができる。局在化は、流路内の任意位置、例えば流路の非閉塞部で行うことができる。局在化は、断面積が50%、40%、30%、20%、10%、5%、2%、1%または0.1%未満に減少した流路の一部で行うことができる。
【0037】
特に定義しない限り、本開示に使用された全ての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的理解される意味と同様の意味を有する。本開示に記載の方法および材料と類似または同等のものを本発明の実施形態の実施または試験に用いることができるが、好適な方法および材料は、以下に記載される。特に明記しない限り、本開示に言及された全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全体が参考として援用される。矛盾する場合、定義を含む本開示は、優先する。また、材料、方法および実施例は、単なる例示であり、限定することを意図していない。
【0038】
1つ以上の実施形態の詳細は、添付の図面および以下の説明に記載される。その他の特徴、目的は、説明、図面、および請求項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本開示に従った代表的なミクロ流体装置の一般構造を示す上面図である。
【
図2】
図1に示す装置の流体試料入力部、流体試料フィルタ部および緩衝液試料入力部の一部を概略的に示す上面図である。
【
図3】
図1に示す装置の流体交換モジュールの一部を概略的に示す上面図である。
【
図4】
図3に示す流体交換モジュールの産物受容部および廃液受容部の両方を概略的に示す上面図である。
【
図5】
図1に示す装置の粒子濃縮モジュールの入口部を概略的に示す上面図である。
【
図6】
図1に示す装置の粒子濃縮モジュールを概略的に示す上面図である。
【
図7】
図1に示す装置の粒子濃縮モジュールを概略的に示す上面図である。
【
図8】
図7に示す粒子濃縮モジュールの廃液部および産物出力部を概略的に示す上面図である。
【
図9】本開示に従ったミクロ流体装置の一般化された断面を示す概略図である。
【
図10】本開示に従った装置を含むミクロ流体チップを概略的に示す上面図である。
【
図11】本開示に従ったミクロ流体装置を含む基板にレーザ溶接された界面層を概略的に示す上面図である。
【
図12】
図12Aは本開示に従ったミクロ流体装置の異なる実験における白血球相対収率分布を示すプロットである。
図12Bは本開示に従ったミクロ流体装置の異なる実験における白血球絶対収率分布を示すプロットである。
【
図13】
図13Aは本開示に従ったミクロ流体装置の異なる実験において、流体交換器モジュール(選別装置)を通過した後の白血球相対収率を示すプロットである。
図13Bは本開示に従ったミクロ流体装置の異なる実験において、粒子濃縮モジュールを通過した後の白血球相対収率を示すプロットである。
【
図14】
図14Aは本開示に従ったミクロ流体装置の異なる実験において、好中球相対収率を示すプロットである。
図14Bは本開示に従ったミクロ流体装置の異なる実験において、好中球絶対収率を示すプロットである。
【
図15】本開示に従ったミクロ流体装置の異なる実験において、白血球(WBC)相対収率対試料好中球収率を示すプロットである。
【
図16】赤血球(RBC)および血小板の除去データを示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
詳細な説明
複合式のミクロ流体粒子分類装置および濃縮装置の概要
図1は、本開示に従った代表的なミクロ流体装置100の一般構造を概略的に示す上面図である。特に、この概略図は、流体試料を受取、輸送、偏流、調整および/または貯蔵するためのさまざまなミクロ流体流路、ポート、リザーバおよび出力容器の概要を示している。装置100は、流体交換モジュールにおいて、1種以上の異なる粒子の懸濁液を含む流体試料、例えば血液を受け取り、バルク流体から粒子の部分集団を単離し(例えば、流体試料から1種以上の粒子を抽出して、異なる第2溶液に移し)、その後、粒子濃縮モジュールにおいて、後続分析および処理のために、抽出された粒子部分集団の濃度を富化するように設計される。代替的には、流体は、例えば濃度が低い場合、最初に粒子濃縮モジュールを通過し、その後、流体交換モジュールを通過することができる。流体および粒子を処理するための構造体のうち、さまざまな流路、ポートおよびリザーバは、単一の素子層に作製される。素子層の表面は、被覆層(
図1に図示せず)で封止される。この被覆層は、素子層内の流路およびリザーバのカバーとして機能する。被覆層の表面に任意のマニホルド層(
図1に図示せず)を配置することによって、さまざまな貫通孔をマクロ出力/入力接続(例えば、配管)に同時に流体接続することができる。例えば、全てのモジュールは、同一基板上に配置され、固定されおよび/または作製されてもよく、または各モジュールは、個々の基板上に配置され、固定されおよび/または作製された後、基板上の流体導管および/または機械接続を介して接続されてもよい。
【0041】
ミクロ流体装置100は、以下の別体の部分、すなわち、流体試料受取部102、流体試料フィルタ部104、緩衝液試料受取部106、流体交換モジュール(本開示では流体力選別(FFF)モジュールまたは慣性交換装置とも呼ばれる)108、粒子濃縮モジュール(本開示では慣性集中装置とも呼ばれる)110、流体交換モジュール産物受容部112、流体交換モジュール廃液受容部114、流体交換モジュール廃液リザーバ116、粒子濃縮モジュール入力部118、粒子濃縮モジュール廃液部120、および粒子濃縮モジュール産物出力部122を含む。最初に、装置100の動作の概要を説明し、その後、異なる部分の詳細を説明する。
【0042】
第1ステップにおいて、1種以上の異なる粒子を含む流体試料は、流体試料受取部102を通ってチップに流入する。流体試料受取部102は、流体試料を導入するための一連の穴を含むことができる。例えば、各穴は、流体試料を送達するための配管に対応して接続することができる。代替的にまたは追加的には、流体試料受取部102は、装置100に送達される流体試料を制御するために、手動または自動で開閉できる弁を含むことができる。当業者に知られているように、他の機構を利用して、流体試料をミクロ流体装置に導入することもできる。例えば、ポンプシステムを使用して、流体試料を装置100に圧送することができる。このポンプシステムは、流体試料に圧力を加え、装置100を通る試料を連続流にすることができる。
【0043】
装置100は、流体試料を受け取ると、受け取った流体試料を流体試料フィルタ部104に送る。流体試料フィルタ部104は、粒子のサイズ(例えば、平均直径)に従って、流入する流体に含まれた粒子を濾過し、予め定義されたサイズ以下の粒子を装置の次の段階に渡すように構成されることができる。装置100は、フィルタ部104の後方に設けられた緩衝液試料受取部106を含む。緩衝液試料受取部106は、第2流体試料(例示的な装置100において、緩衝液試料または緩衝液流と呼ばれる)を受け取るように構成される。緩衝液試料受取部106は、緩衝液試料を受け取るための複数の穴を含み、これらの穴は、流体交換モジュール108の上流に配置される。流体試料受取部と同様に、各穴は、流体試料を送達するための配管に対応して接続することができる。代替的にまたは追加的には、緩衝液試料受取部106は、装置100に送達される流体試料を制御するために、手動または自動で開閉できる弁を含むことができる。
【0044】
いくつかの実施形態において、濾過後の流体試料および緩衝液試料の両方は、その後、流体交換モジュール108に流入する。他の実施形態において、濾過後の流体試料および緩衝液試料は、最初に粒子濃縮モジュールに流入する。緩衝液試料および流体試料は、層流を形成するように、流体交換モジュール108中で流動する。すなわち、緩衝液試料および流体試料は、緩衝液試料と流体試料との間に乱流を形成しないように流動する。むしろ、緩衝液試料と流体試料の両方は、流体交換モジュール108の全長に亘って実質的に平行流として並行に流れる。流体交換モジュール108内にある間に、少なくとも第1種の粒子が流体試料から緩衝液試料に移される。したがって、モジュール108の端部では、全部ではなくても、少なくとも大部分の第1種の粒子が流体試料から抽出される。以下に説明するように、粒子を試料流体から緩衝液に移すプロセスは、部分的に、モジュール108内の島構造間の開口で流体試料の抽出と、粒子を抽出する流体から緩衝液試料に圧送する慣性揚力との組み合わせに依存する。慣性揚力は、サイズに依存するため、サイズに基づいて粒子を選別(例えば、分類)するために使用することができる。選別は、(1)慣性揚力を使用して大きな粒子を流路壁から遠ざけるステップ、(2)大きな粒子を含まない流体を隣接する流路に偏流させるステップを繰り返して行うことによって、達成される。複数の反復によって、大きな粒子は、流線を横切って、ソース流体(例えば、流体試料)から隣接する目的流体(例えば、緩衝液試料)に移動される。
【0045】
流体交換モジュール108の端部で、流体試料は、流体交換モジュール廃液部114に流入する。「廃液部」と呼ばれても、その中の流体試料は、廃棄されてもよく、他の目的のために再使用されまたはさらなる分析のために処理されてもよい。
【0046】
一方、移された粒子を含む緩衝液試料は、流体交換産物受容部112に流入する。この例において、流体交換産物受容部112は、貫通孔を含む。粒子を含有する緩衝液試料は、貫通孔を通って装置100から流出し、マニホルド層(図示せず)に流入する。マニホルド層は、粒子濃縮モジュール入力部118で緩衝液試料を装置100に戻すように構成される。代替の実施例において、移された粒子を含む緩衝液試料は、装置100を出入りする必要なく、粒子濃縮モジュール110に直接的に搬送することができる。
【0047】
粒子濃縮モジュール110は、3つの区域、すなわち、フィルタ区域、集中区域および濃縮区域を含む。粒子を含む緩衝液試料は、モジュール110に流入すると、フィルタ区域を通過する。フィルタ区域は、粒子のサイズ(例えば、平均直径)に従って、流入する流体に含まれた粒子を濾過するように構成されているため、予め定義されたサイズ以下の粒子をシステムの次の段階に渡すことができる。その後、緩衝液試料は、集中区域に進む。この集中区域には、1つ以上の流線に沿って、緩衝液試料中の粒子の慣性集中を誘導するように構成された構造体が使用される。所定の流線に沿って粒子を集中させることによって、濃縮区域に流入する前に粒子を正確な位置に位置させることができる。これにより、特定の実現例において、濃縮装置は、緩衝液試料中の粒子の濃度をより効果的に濃縮することができる。濃縮区域は、緩衝液中の粒子の濃度を増加するように構成且つ配置された構造体の列を含む。具体的には、緩衝液中の粒子は、慣性揚力を受けることによって、流体の流線を横切って流路断面内の平衡位置に向かって移動する。粒子の濃縮は、(1)慣性揚力を使用して大きな粒子を流路壁から遠ざけるステップ、(2)粒子を含まない緩衝液試料を隣接流路に偏流またはサイフォンさせるステップを繰り返して行うことによって、達成される。これによって、粒子濃縮モジュール110から、2つの出力流体、すなわち、高濃度の抽出粒子を含む濃縮緩衝液および粒子を含まない緩衝液が得られる。
【0048】
粒子濃縮モジュール110の端部では、濃縮緩衝液は、粒子濃縮モジュール産物出力部122に送られ、さらなる分析および/または処理のために回収される。粒子を含まない緩衝液は、廃液部120に送られる。流体交換モジュール108および粒子濃縮モジュール110は各々、多重構造を適用することによって、多量の試料流体を処理することができる超高処理装置を形成し、比較的短時間で高濃度の粒子の部分集団を得ることができる。
【0049】
試料の受取部およびフィルタ部
図2は、装置100の流体試料受取部102、流体試料フィルタ部104、および緩衝液試料受取部106の一部を概略的に示す上面図である。ミクロ流体装置の処理量を増やすために、前述した受取部およびフィルタ部は、チップ上で複数設けられる。この例において、受取部およびフィルタ部は、並列に設けられる。上述したように、流体試料受取部102は、流体試料を導入することができる複数の貫通孔200を含む。各貫通孔200は、例えば、流体試料を送達するる配管の一端に対応して接続することができる。代替的に、いくつかの実現例において、装置100は、別体のマニホルド層(図示せず)を含み、このマニホルド層は、貫通孔200の上方に配置され、各々の貫通孔200を単一のマクロ入力接続部(例えば、配管)に同時に流体接続するように構成される。代替的にまたは追加的には、流体試料受取部102は、装置100に送達される流体試料を制御するために、手動または自動で開閉できる弁を含むことができる。当業者に知られているように、他の機構を利用して、流体試料をミクロ流体装置に導入することもできる。例えば、ポンプシステムを使用して、流体試料を装置100に圧送することができる。このポンプシステムは、流体試料に圧力を加え、装置100を通る試料を連続流にすることができる。
【0050】
各々の貫通孔200からの流体試料は、対応する流体試料フィルタ部104に流入する。この実施例において、各流体試料フィルタ部104は、2つの別個の直線流路203を含む第1区域202を備える。2つの直線流路203は、平行に配置され、流体試料を搬送する。流体試料は、2つの流路203の端部で再び合流して、フィルタ104の第2区域204に流入する。
図2の各フィルタ部104には2つの平行流路しか示されていないが、第1区域202は、単一のミクロ流体流路を含んでもよく、3つ以上のミクロ流体流路を含んでもよい。
【0051】
また、各フィルタ部104は、第1区域202に流体接続された第2区域204を含む。第2区域204は、1つ以上の千鳥配列に配置され、流体試料を濾過するフィルタとして機能する複数の島構造または柱構造205を含む。第2区域204内の柱構造205の列は、粒子のサイズ(例えば、平均直径)に従って、流入する流体に含まれた粒子を濾過するように構成且つ配置されているため、予め定義されたサイズ以下の粒子をシステムの次の段階に渡すことができる。例えば、流体試料が骨髄穿刺液などの複雑な基質を含む場合、柱構造205の列は、下流で行われる装置操作の効率を改善するために、骨片および線維素凝塊を除去する(例えば、流体中の粒子濃度を濃縮するおよび/または粒子を1つの流体から別の流体に移動させる)ように構成することができる。
図2に示す例示的な構成において、第2区域204内の柱構造205は、実質的に三角柱の形状を有し、柱のサイズ(例えば、各柱の短面を横切る近似直径)および列の間隔は、特定のサイズよりも大きい粒子を偏流させ、主懸濁液から分離するように設計される。典型的には、サイズの限界は、装置100の後続段階を通過する粒子の最大サイズに基づいて決定される。例えば、柱構造205の列は、後続の流体交換モジュール108に設けられたミクロ流体流路の最小幅の50%超、60%超、70%超、80%超、または90%超の平均直径を有する粒子を濾過/ブロックするように構成することができる。
【0052】
図2に示された特定の例において、流体試料は、壁/仕切構造207に当接するまで、概ね矢印209で示された方向に沿って区域204に流入する。壁/仕切構造207は、流体試料を濾過するように機能する柱構造205の間の開口を通過するように流体試料を圧送する。流体試料は、壁/仕切構造207の周りで圧送され、1つ以上の別の柱構造列205を通過し、その後、矢印209の方向に沿って流動する。流体試料の所望レベルの濾過を達成するために、任意数または列の柱構造をフィルタ部104に設けることができる。さらに、フィルタ部104の第1区域および第2区域の配置順序は、装置100の動作に重要ではない。すなわち、2つの区域が流体接続されている限り、直線流路を含む第1区域202は、柱構造列205を含む第2区域204の上流または下流に配置されてもよい。例えば、
図2に示すように、チップ上のミクロ流体流路をより緊密に詰めるために、フィルタ部104の第1区域202および第2区域204は、各貫通孔200に対して交替するように配置される。
【0053】
流体試料フィルタ部104を通過した後、濾過後の流体試料は、流路211に流入して、流体交換モジュール108と流体連通する複数の液流を形成する。流体交換モジュール108の入口において、濾過後の流体試料液流は、第2流体(例えば、緩衝液試料)と並列に流動する。緩衝液試料は、緩衝液試料を受容するための貫通孔213を含む緩衝液試料受取部106内の装置に流入する。貫通孔200と同様に、貫通孔213は、緩衝液試料を送達する配管に対応してその端部に流体接続されてもよい。代替的に、いくつかの実現例において、別個のマニホルド層(図示せず)を使用して、流体を各貫通孔213に導入することができる。貫通孔213は、流体交換モジュール108の入口の上流に配置される。貫通孔213からの緩衝液は、濾過後の液体試料液流に応じて、複数の流体液流に分割される。場合によって、緩衝液は、濾過後の液体試料と緩衝液試料との間の正確な流量比を保証するための流体抵抗器を通過する。例えば、
図2に示された例において、各々
の緩衝液試料液流は、流体抵抗を増やすように機能する正弦曲線状流路を通過する。
【0054】
壁または他の仕切構造215は、各緩衝液試料液流/流体試料液流対の間の間隔を維持する。濾過後の流体試料と緩衝液との両方は、層流を形成するように流動する。したがって、流体試料と緩衝液との間の混合は、拡散によるものに限られる。緩衝液流が流体交換モジュール108に流入する場所では、緩衝液流は、壁/仕切構造215に最も近くで流動する一方、濾過後の流体試料は、壁/仕切構造215から最も離れて流動する。
【0055】
流体交換モジュール
図3は、流体交換モジュール108の一部を概略的に示す上面図である。流体交換モジュール108の目的は、濾過後の流体試料から大きな粒子を除去することである。すなわち、流体交換モジュール108は、濾過後の流体試料から粒子(例えば、比較的大きな粒子)を所望の部分集団に分類し、それらの粒子を緩衝液に移すように構成される。したがって、流体交換モジュール108は、所望の粒子を懸濁するための流体を「交換する」。このプロセスは、「選別」として呼ぶこともできる。濾過後の流体試料を選別するために、流体交換器108は、1つ以上の行に配置された複数の島構造300を含み、各島構造300は、流体が通過することができる間隙で離間される。
図3に示す例において、流体交換モジュール108は、実際に2つの別個の配列を含み、各配列は、3行の島構造300を有する。2つの別個の配列は、壁/仕切構造215によって互いに隔離される。島構造300は、実質的にその長辺が流体の流れとほぼ同一の方向に沿って延在する矩形構造を有するように示されているが、他の形状および向きにすることもできる。さらに、所望の構成に応じて、配列の数および島構造列の数を1つ以上に変化することもできる。
【0056】
流体交換モジュール108を用いた選別は、(1)慣性揚力を使用して、流体試料内の粒子を、流体を抽出する場所から遠ざけるステップ、(2)島構造間の隙間を通るように、粒子を含まない濾過後の流体試料の一部を偏流または抽出するステップを同時に繰り返して行うことによって、達成される。複数の反復の後、濾過後の流体試料中の粒子は、流線を横切って、流体試料の横に流動する異なる第2流体(例えば、緩衝液)に移すことができる。流体内の慣性力は、粒子がミクロ流体流路壁の近くで比較的高い流速で流動することによって生じる。したがって、流体試料が例えば島構造300の壁の近くで流動するときに、流体試料中の粒子は、島構造から粒子を押し出す慣性力を受ける。一方、流体の抽出または偏流は、流体が配列を通って流動する際に遭遇する相対的な流体抵抗によって制御される。ミクロ流体流路の場合、流体抵抗が流路の長さに従って変化するため、流体は、流体抵抗が減少する方向に向かって流動する傾向があり、したがって、流体の一部分が主な流動方向から偏流させられる。
【0057】
図3において、流路の流体抵抗は、各流路の外側境界の形状によって制御される。例えば、各配列に関して、流路の外壁305と島構造との間の距離が流体の流動方向に沿って漸進的に増加するため、流体抵抗が減少する。逆に、仕切構造215の壁307と島構造300との間の距離が配列の長さに沿って流体の流動方向に漸進的に減少するため、流体抵抗が増加する。その結果、流体は、矢印304によって示される方向に沿って、島構造300間の隙間を通って偏流させられる。流体内の比較的大きな粒子は、隙間から離れるように粒子を押す慣性揚力を受けるため、隙間を通って抽出された流体は、実質的に粒子を含まない。
【0058】
流体交換器108の動作中、濾過後の流体試料は、流路の壁305に近い2つの島構造列に流入し、一方、緩衝液流は、仕切構造215の壁307に近い島構造列に流入する。平均的に、濾過後の流体試料および緩衝液は、水平軌跡に沿って流体交換器108を通過する。この段階の前に、流体試料は、濾過されたにも関わらず、異なるサイズを有する1つ以上の粒子の異なる部分集団を含むことがある。島構造300間の隙間のサイズおよび
流体試料の流速に応じて、より大きい粒子は、島構造300に沿って流動する際により強い反発慣性揚力を受けるため、流線を横切って、(壁305に近い)濾過後の流体試料流から(壁307に近い)緩衝液流に流入する軌道に沿って流動する。より小さい粒子は、島構造300に沿って流れる間に比較的弱い慣性揚力を受けることができる。その結果、より小さい粒子は、島構造300に沿って流動する際に、より弱い慣性揚力を受ける。そのため、より小さい粒子は、濾過後の流体試料と同様の平均軌道に沿って流動し、緩衝液流に移すことができない。流体交換器108の出力端において、濾過後の流体は、1つ以上の粒子の部分集団を含まない(例えば、比較的大きな粒子を含まない)ように島構造列から離れ、緩衝液流は、1つ以上の粒子の部分集団を含有することになる。いくつかの実現例において、以下でさらに詳細に説明するように、1つ以上の流体試料は、粒子濃縮モジュール110から流体交換モジュール108に流入することもできる。
【0059】
上記で説明したように、慣性揚力がサイズに大きく依存するため、大きな粒子は、小さな粒子よりも大きな力を受ける。さらに、島構造300間の隙間から抽出された流体の割合は、島構造の設計および構成に基づいて調整することができる。そのような流体交換器のパラメータおよび設計原理に関するさらなる議論は、2014年11月3日に出願された米国仮出願第62/074213号および2014年11月3日に出願された米国仮出願第62/074315号に記載されており、各出願の全体が引用により本開示に援用される。
【0060】
流体交換モジュール産物受容部および流体交換モジュール廃液受容部
流体交換モジュール108を通過した後、大きな粒子を含まない処理後の流体試料流および緩衝液試料流は、それぞれ流体交換モジュール廃液受容部114および流体交換モジュール産物受容部112に流入する。
図4は、産物受容部112および廃液受容部114の両方を概略的に示す上面図である。流体の流動方向は、図面の下部に示される。緩衝液流は、流体交換モジュール108から流出してから、仕切構造215の壁の近くまで流動し続け、流路403に流入する。いくつかの実現例において、流路403は、緩衝液試料流の流量を調整するための流体抵抗器を含む。例えば、流路403は、流体抵抗を増やすように機能する正弦曲線形状を有することができる。流路403を通過した後、緩衝液流は、貫通孔400に流入する。貫通孔400は、緩衝液流を粒子濃縮モジュール110に流体接続する。例えば、貫通孔400を配管などのコネクタに接続することによって、緩衝液流は、粒子濃縮モジュールに流入する。代替的に、貫通孔400をマニホルドに接続することによって、緩衝液流を粒子濃縮モジュールに導流することができる。いくつかの実現例において、緩衝液流は、最初に流路および/または貫通孔400を通過することなく、流体交換モジュール108から粒子濃縮モジュール110に直接に流入する。
【0061】
対照的に、処理後の(大きな粒子を含まない)流体試料流は、流体交換モジュール108からミクロ流体流路401および流路405を通って流体交換モジュール廃液受容部114に流入する。廃液受容部114は、処理された液流を収集するための貫通孔406を含む。同様に、この貫通孔は、流体液流を導流するための配管またはマニホルドに接続することができる。いくつかの実現例において、廃液受容部114は、貫通穴を含まず、その代わりに、処理後の流体試料流を受けるリザーバを含む。流体交換モジュール108を廃液受容部114および産物受容部112に接続する流路の数は、
図4に示された数から変更することができる。例えば、いくつかの実現例において、1つの流路、3つの流路、4つの流路、またはそれ以上の流路を使用して、流体交換モジュール108からの処理後の流体試料流を廃液受容部114に連通することができる。同様に、いくつかの実現例において、1つの流路、3つの流路、4つの流路、またはそれ以上の流路を使用して、流体交換モジュール108からの緩衝液流を産物受容部112に連通することができる。
【0062】
粒子濃縮モジュール
上述したように、流体試料流から抽出された1つ以上の部分集団の粒子を含有する緩衝液流は、流体交換産物受容部112から粒子濃縮モジュール110に流入する。粒子濃縮モジュール110は、慣性集中および流体偏流技術の組み合わせによって、緩衝液流内の部分集団粒子の濃度をさらに濃縮することができる。
【0063】
図5は、(例えば、
図1に示された粒子濃縮モジュール入力部118に相当する)粒子濃縮モジュール110の入口部分を概略的に示す上面図である。流体の概ね流動方向は、図面の下部に示される。1つ以上の部分集団の粒子を含む緩衝液流は、貫通孔500を通って粒子濃縮モジュール110に流入する。貫通孔500は、例えば配管またはマニホルドを介して、産物受取部112からの貫通孔400に流体接続することができる。緩衝液流は、粒子濃縮モジュール110に流入してから、1つ以上のフィルタ列に流れる。フィルタ列は、
図2に示されたフィルタ列と同様に構築される。例えば、フィルタ列は、粒子のサイズ(例えば、平均直径)に従って、流入する流体に含まれた粒子を濾過するように構成され、予め定義されたサイズ以下の粒子をシステムの次の段階に渡すことができる。
図5に示すように、柱構造列505は、(矢印506によって示された)緩衝液流の両側に配置される。また、フィルタ列は、壁/仕切構造507を含むことができる。これによって、緩衝液流506は、壁507の周囲に押し込まれ、柱構造505を通過する。柱構造列505は、前に濾過した粒子と同一のサイズを有する粒子またはより小さいサイズを有する粒子を濾過するように構成且つ配置される。
【0064】
フィルタ列は、粒子濃縮モジュール110の粒子集中部に流体接続されている。粒子集中部は、粒子濃度を富化する前に、フィルタ列から出た粒子を所望の流体流線位置に事前集中させるように構成されている。特定の実施形態において、粒子を事前集中させる利点は、流路幅を亘る粒子の分布を狭い横範囲に減縮することである。粒子の集中線を再配置することによって、粒子が誤った流路に入るまたは廃液と共に抽出される可能性を低減することができる。
【0065】
慣性集中を用いて、事前集中を達成することができる。この場合、流路中の構造および配置は、流体試料中の粒子を所望の流線に動かす力を発生するように設計される。
図5に示す粒子集中部は、フィルタ列の出力端に流体接続された2つのミクロ流体流路504を隔離するための仕切壁502を含む。各流路504は、仕切壁502および流路外壁によって規定された波形経路を有する。仕切壁は、面する流路外壁と同様の輪郭を有する。
図5に示された波形経路において、ミクロ流体流路は、比較的高い曲率を有する区域と比較的低い曲率を有する区域との間で交替する。
【0066】
一般的には、粒子の「集中」とは、流路の横方向範囲に亘って、粒子を流路幅よりも小さい幅に再配置することを指す。例えば、本開示に開示された技術は、流体に懸濁された粒子を、粒子の平均直径の1.05倍、2倍、4倍、6倍、8倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、または100倍の幅を有する流路の長さの全体に局所化することができる。いくつかの実現例において、粒子は、流体の流線に集中させられる。いくつかの実現例において、流線は、粒子の平均水力直径に実質的に等しいまたはそれより僅かに大きい幅を規定する。限定しない例として、その幅は、約1μm~約100μmであり得る。
【0067】
慣性集中構造を製造するためのパラメータおよび設計原理に関するさらなる議論は、例えば、米国特許第8186913号、2014年11月3日に出願された米国仮出願第62/074213号、および2014年11月3日に出願された米国仮特許出願第62/074315号に記載されており、各出願の全体が引用により本開示に援用される。
【0068】
例えば、必要な粒子間の間隔を達成し、それによって粒子の整列および集中を維持する
ために、さまざまな流路形状は、集中させるべき粒子の所定の粒子対体積比を必要とする。特に、特定の流路形状内の集中を達成するために、必要に応じて、流体中に懸濁した粒子の粒子対体積比を計算および調整することができる。一般的に、以下の式を使用して、特定の粒子サイズおよび流路の幾何形状に対して最大の粒子対体積比を決定することができる。
【0069】
最大体積比=2Nπa2/3hw
式中、Nは、流路内の集中箇所の数であり、aは、集中させられる粒子の直径であり、hは、流路の高さであり、wは、流路の幅である。したがって、試料をシステムに導入する前および/または導入中に、所定の比になるように試料を希釈または濃縮することができる。本開示に記載された流路内の試料の粒子対体積比は、粒子の整列および集中を可能にするのに十分な値を有することができる。一般的に、粒子対体積比は、約50%未満であってもよい。他の実施形態において、粒子対体積比は、約40%、30%、20%、10%、8%、または6%未満であってもよい。より具体的には、いくつかの実現例において、粒子対体積比は、約0.001%~約5%の範囲内であってもよく、好ましくは約0.01%~約4%の範囲内であってもよい。
【0070】
一般的に、直線状、対称および非対称のミクロ流体流路に存在する特定のパラメータが、試料に浮遊している粒子の最適な整列および集中条件につながる。これらのパラメータは、例えば、流路の幾何形状、流路形状に対する粒子のサイズ、ミクロ流体流路を通る流体の特性、および層流条件下のミクロ流体流路を通過する粒子に関連する力を含むことができる。現在では粒子に作用する力が慣性力であると考えられているが、他の力が集中作用および整列行動に寄与する可能性もある。例示的な慣性力は、剪断勾配の減少方向に沿って流路壁から離れる慣性揚力、Dean抗力(粘性抗力)、Dean流からの圧力抗力、および個々の粒子に作用する遠心力を含むがこれらに限定されない。以下に議論される理論は、単に記述的且つ例示的なものであり、これらの原理を用いて設計されたシステムの挙動がこの理論を用いて予測することができるが、提示された理論は、本発明を本開示に開示されたシステムの実施形態に関する任意のパラメータ、または任意動作の特定の理論に制限するとは考えるべきではない。
【0071】
一般的には、本開示の実施形態に記載のように、層状ミクロ流体システムに存在する慣性揚力は、ランダムに分布している粒子を連続的に且つ高速で単一の流線に集中させるように機能することができる。粒子の幾何形状依存性を利用して、高処理量の分離を行うシステムを開発することができる。流路の幾何形状を変更することによって、流路内の粒子の濃縮を環状から4点、2点、または1点に減らすことができる。粒子の2つの追加整列、具体的には、流路の長さに沿った長手方向または周方向(非対称粒子の場合)の整列が観察され得る。一般的には、分離、整列および集中は、主に粒子のサイズと流路のサイズとの比およびシステムの流動特性によって制御される。好都合なことに、集中は、粒子の密度とは無関係である。
【0072】
剪断流中の粒子の横方向移動は、慣性揚力によって引き起こされる。この慣性揚力は、主に壁に向かって剪断勾配の減少方向に向かう剪断勾配誘発慣性(無限放物線流れにおける揚力)および粒子を壁から押し出す壁誘起慣性に寄与する。流体中に懸濁される粒子は、システムの流体力学パラメータから独立して変化する抵抗力および揚力を受ける。2つの無次元レイノルズ数、すなわち、非摂動流路流れを記述する流路レイノルズ数(Rc)と、粒子および粒子の移す流路の両方を記述するパラメータを含む粒子レイノルズ数(Rp)とを定義して、閉合流路システムにおける粒子の流れを記述することができる。
【0073】
Rc=(UmDh)/ν、Rp=Rc(a2/Dh
2)=(Uma2)/(νD)
両方の無次元群は、流路の最大流速Um、流体の動粘度ν(=μ/ρ(μは、流体の絶
対粘度であり、ρは、流体の密度である)、および水力直径Dh(=2wh/(w+h)(wおよびhは、流路の幅および高さである)に依存する。粒子レイノルズ数は、さらに粒子の直径aに依存する。流路の平均流速に基づいて定義されたレイノルズ数は、Re=2/3Rcで表すことができる。
【0074】
粒子のレイノルズ数が1次であるときに、慣性揚力は、粒子の挙動を支配する。典型的には、Rp<<1の場合、ミクロ規模流路中の粒子流は、粘性相互作用によって支配される。このようなシステムにおいて、粒子は、粒子表面上の流体の粘性抵抗によって、局部流速に加速される。中性浮遊性粒子の希釈懸濁液は、流線を横切って移動せず、流路の入口で、流路の全長に沿って、および流路の出口で同様に分布する。Rpの増加に連れて、マクロシステム上で流線を横切る移動が発生する。円筒形管において、粒子が管の中心および壁から離れるように移動し、集中環を形成することが観察された。この「管状ピンチ効果」の理論的な根拠は、高粒子レイノルズ数で粒子に作用する慣性揚力の組み合わせである。剛性粒子に作用する支配的な力は、壁付近の粒子の非対称な後流によって壁から離れる揚力を引き起す「壁効果」と、剪断勾配の減少方向に沿って壁に向かう剪断勾配誘起揚力とを含む。
【0075】
湾曲流路は、粒子に追加の抗力を作り出す。矩形流路に湾曲を導入する場合、流体の不均一な慣性によって、流れ方向に垂直な二次流が発生する。放物線状の速度プロファイルにおいて、湾曲流路の中心で高速で流動する流体要素は、流路の縁部の近くで流動する流体要素よりも大きな慣性を引き起すことができる。これらの要素は、流路の外縁に向かって移動することができ、全ての点で質量を保存するために、流体は、流路の上部および下部に沿って再循環することができる。2つの無次元数を用いて、この流れを特徴付けることができる。2つの無次元数とは、流路の最大速度に基づくDean数(De)、および曲率比(δ)である。Dean数De=Rc(Dh/2r)1/2、曲率比δ=Dh/2r(rは、流路の平均曲率半径である)。本開示に記載のミクロ流体システムから観察された中等度De<75の場合、二次回転流またはDean流は、2つの渦巻からなる。Dean流量の速度は、UD~ρDe
2/(μDh)として変化するため、Deが大きい場合、二次流に起因する懸濁粒子のストークス抗力が大きくなる。一般的には、Dean流に起因する抗力またはDean抗力(FD)は、FD~(ρUm
2aDh
2)/rに従って変化する。
【0076】
簡潔に言えば、3種類の流動状況が考えられる。(1)低い流速の場合、揚力と抗力との比Rfが流路断面の大部分に亘って1よりも大きくなり得るが、FzおよびFDが、低すぎるため、流路の長さ内に集中液流を生成できない。(2)中間流速の場合、Rfが流路断面の限られた区域に亘って1以上であり、力が十分に大きくなり、1つ以上の集中液流を生成することができる。(3)速い流速の場合、Rfが流路断面の全体で1未満であり、Dean抗力が支配的になり、粒子の混合をもたらす。
【0077】
再び装置100を参照すると、緩衝液流は、粒子濃縮モジュール110の慣性集中部から、緩衝液流中の1つ以上の部分集団の粒子濃度を増加するように構成されたミクロ流体流路に進む。
図6は、粒子濃度を富化するための粒子濃縮モジュール110の一部を概略的に示す上面図である。モジュール110を通過する流体の流動方向は、図面の下部で示される。具体的には、緩衝液流は、事前集中部のミクロ流体流路504から流出して、ミクロ流体流路512または514に流入する。第1流路対512および514は、壁502によって第2流路対512および514から隔離される。流路512および514のそれ自体は、柱構造506の列によって互いに分離される。柱構造は、(矢印510によって示された方向に沿って)流体を抽出することができる隙間によって互いに離間されている。
【0078】
一般的には、事前集中が緩衝液流内の粒子を壁502の表面に近い1つ以上の流線に沿
って位置させるため、緩衝液流が事前集中装置から流出するときに、粒子が流路512に整列される。流路512の設計および構成は、経路が波状であり、比較的高曲率区域と比較的低曲率区域との間で交替する点を除き、流路504と同様である。この流路形状は、1つ以上の粒子の部分集団を流路512内の流線に集中させる慣性力を引き起す。しかしながら、同時に、流路514は、流体交換モジュール108内で行われた流体抽出と同様に、緩衝流体の一部を矢印510で示すように流路514に繰り返して抽出するように、漸進的に減少する流体抵抗を有するように構成される。すなわち、外壁516と島構造506との間の距離は、流路514の長さに沿って漸進的に増加する。例えば、
図7は、流路514の幅が下流に向かって増加し続ける(島構造からの壁までの距離は、
図6に示すように入力端の近くよりも、
図7に示すように流路の下流方向に向かって大きくなる)ように、壁516が島構造506に対して一定の角度で配向されていることを示す概略図である。慣性集中は、流体抽出を行う隙間から離れるように粒子を押し出すため、抽出された流体の部分は、実質的に粒子を含まない。流路512から微粒子を含まない緩衝液を繰り返し除去する/サイホン処理することによって、流路512内の緩衝液に対する粒子の濃度は、流路504から出た時の濃度に比べて実質的に増加する。
【0079】
島構造506間の各間隙で抽出された粒子を含まない流体の量を確立するためおよび集中させられた粒子を1つ以上の流線に沿って位置付けるための設計パラメータは、とりわけ、流路512、514の長さ、流路512、514の幅、島構造506間の間隔、および粒子濃縮モジュール110を通る流体の流速を含む。例えば、粒子を含まない層を形成し、島構造506間の隙間を通して抽出され得る最大流速は、粒子濃縮流路の幅(
図7のx方向で測定した場合、流路壁512と仕切構造502の対向壁との間の距離)とほぼ直線関係を有する。別の例において、装置100の収率は、粒子濃縮モジュール110を通る流速によって不利に影響される可能性がある。流速が低すぎる(すなわち、レイノルズ数が小さい)場合、慣性力が粒子を流線に集中できるほど大きくならない。
【0080】
粒子濃度を高めるように、慣性集中および流体抽出を組み合わせた構造を製造するためのパラメータおよび設計原理に関するさらなる議論は、例えば、2014年11月3日に出願された米国仮出願第62/074213号および2014年11月3日に出願された米国仮出願第62/074315号の利益を主張し、各出願の全体が引用により本開示に援用される。
【0081】
粒子濃縮モジュール廃液および粒子濃縮モジュール産物の出力
粒子濃縮モジュールから流出すると、富化された粒子の集団を含む緩衝液流は、産物出力部122に送られ、そこで粒子は、さらなる処理および/または分析のために収集されてもよい。粒子を含まない緩衝液の抽出部分は、廃液部120に送られ、そこで廃液は、廃棄されてもよく、さらに分析および/または処理されてもよい。
図8は、廃液部および産物出力部を概略的に示す上面図である。
図8に示すように、粒子を含まない緩衝液を含む流路514は、廃液部120に流体接続される。廃液部120は、粒子を含まない緩衝溶液が通過する1つ以上の貫通孔800を含むことができる。対照的に、富化された粒子を含む緩衝液を含む流路は、産物出力部122に流体接続される。
図8に示す実施形態において、産物出力122に接続された流路は、1つ以上の流体抵抗器、例えば流体抵抗器802および804を含んでもよい。流体抵抗器802および804は、緩衝液流が産物出力122に通過するときに、緩衝液流の正確な流速を取得するように構成および配置することができる。例えば、
図8に示す実施例において、流体抵抗器802および804は、流体抵抗を増加させる正弦曲線状流路を含む。貫通孔806に接続された中心流路は、追加の流体抵抗器804を含む。流体抵抗器804は、貫通孔806に同様に接続されたより長い上方流路およびより長い下方流路内の緩衝液の流速と一致するように、中心流路内の緩衝液の流速を変更することができる。
【0082】
いくつかの実現例において、粒子濃縮モジュール110を使用することによって、第1流体試料から第2流体試料に移した粒子の濃度を大幅に高めることができる。例えば、粒子濃縮モジュールに流入する前の粒子の原始濃度よりも、粒子の濃度を約5倍~約100倍、例えば、約10倍、約20倍、約30倍、約40倍、約50倍、約60倍、約70倍、約80倍、または約90倍に高めることができる。
【0083】
さらに、流体交換モジュール108および粒子濃縮モジュール110を単一のミクロ流体装置に組み入れることによって、非常に高収率で流体試料から所望の粒子部分集団を抽出することができる。例えば、いくつかの実現例において、装置100を用いて、約70%超、約80%超、約85%超、約90%超、約95超、約99%超、約99.9%超、または99.99%超の収率で、初期流体試料から粒子を抽出することができる。収率は、流体試料から抽出された所望の粒子の数と、流体試料を装置に導入するときに流体試料に元々含まれていた所望の粒子の数との百分率を意味すると理解することができる。
【0084】
上述した例において、流体交換モジュールを使用して、流体試料から比較的大きな粒子を除去し、それらの粒子を緩衝液などの第2流体に移すことができる。その結果、粒子を除去した液体試料が廃液となり、緩衝液が産物となる。いくつかの実現例において、比較的大きな粒子を取り出した流体試料を産物として回収し、比較的大きな粒子を移した第2流体を廃液として除去することも可能である。この場合、装置は、移された粒子を含む第2流体試料の代わりに、粒子濃縮モジュール内に産物として回収された流体試料の濃度を変更(例えば、富化)するように構成することができる。例えば、流体交換モジュール、すなわち選別装置は、血液試料から白血球および赤血球を除去するための分離粒径を有し、血液試料に残っている血小板の濃度を濃縮するように設計することができる。
【0085】
ミクロ流体装置の製造
以下、本開示に従ったミクロ流体装置の製造方法を説明する。まず、基板層を形成する。基板層は、例えば、ガラス、プラスチックまたはシリコンウエハを含むことができる。例えば、熱または電子ビーム堆積を用いて、基板層の表面上に任意の薄膜層(例えば、SiO
2)を形成することができる。基板および任意の薄膜層は、
図2~
図8に示されたミクロ流体流路を形成する土台を形成する。基板の厚さは、約500μm~約10mmの範囲を有してもよい。例えば、基板210の厚さは、600μm、750μm、900μm、1mm、2mm、3mm、4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、または9mmであってもよい。他の厚さも可能である。
【0086】
基板内に形成されたミクロ流体流路は、流体試料および緩衝液用の異なる流体流路、例えば、直線流路、フィルタ列、流体抵抗器、流体交換モジュール内の流路、および粒子濃縮モジュール内の流路を含む。いくつかの実現例において、流体流路区域を規定するモールドに、ポリマー(例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)またはシクロオレフィンポリマー(COP))を堆積させることによって、ミクロ流体流路を形成することができる。硬化後のポリマーを支持層の表面に移して接着することができる。例えば、最初に、ミクロ流体流路網を規定するモールド(例えば、2段階のフォトリソグラフィ法で製造されたSU-8モールド(MicroChem社))にPDMSを注入することができる。次いで、(例えば、65
℃で約3時間に加熱することによって)PDMSを硬化させる。固体PDMS構造を支持層に移す前に、O2プラズマで基材層の表面を処理して接合を強化する。代替的には、ミクロ流体流路がガラスまたはシリコンウエハなどの別の基板材料で製造された場合、標準半導体フォトリソグラフィ処理を用いて、流路区域を規定すると共に、湿式および/または乾式エッチング法を用いて、流路を形成することができる。
【0087】
基板内にミクロ流体流路を形成した後、「流体層」とも呼ばれる基板を被覆層で覆うこ
とができる。被覆層は、流体層のミクロ流路を封止し(すなわち、各流路の「天井」を形成する)、流体層と整列され、流体層に接着される。接着は、例えば接着剤を使用して達成することができる。流体を装置に導入し且つ装置から引き出すことを可能にするように、被覆層は、流体層に形成された貫通孔と整列した貫通孔を含むことができる。代替的にまたは追加的に、流体層に貫通孔を形成することができる。よって、いくつかの実現例において、被覆層を必要としない。いくつかの実施態様において、被覆層の表面に第3界面層を接続する。界面層は、装置とのマクロ接続を可能にするマニフォールドを含むことができる。
【0088】
図9は、本開示に従った装置、例えば装置100の断面を示す概略図である。
図9に示す図は、一般化された断面であり、装置100のいずれかの特定位置に対応していない。断面に示すように、装置100は、ミクロ流体流路が形成された流体層900を含む。流体層900の上面は、被覆層902(
図1に図示せず)に接合されている。流体層900の貫通孔は、被覆層の貫通孔と整列することができる。界面層904(
図1に図示せず)は、装置100の複数の貫通孔と共通マクロ接続(例えば、配管接続)を確立するための1つ以上のマニホルド部906を含む。例えば、界面層904は、複数の貫通孔200(
図2)と単一の継手接続を提供するための第1マニホルド部と、複数の貫通孔800(
図8)と単一の継手接続を提供するための別のマニホルド部とを含む。界面層904は、被覆層902にレーザ溶接することができる。いくつかの実現例において、界面層904のマニホルドは、マクロ接続を可能にするポート908を含む。
【0089】
ミクロ流体流路網およびその製造に関するさらなる情報は、例えば、米国特許出願第2011/0091987号、米国特許第8021614号および米国特許第8186913号に記載されており、各出願の全体が引用により本開示に援用される。
【0090】
ミクロ流体装置の寸法
ミクロ流体装置を通って搬送される略球状粒子の場合、ミクロ流体流路の(例えば、
図2~8のページ面に垂直な方向に沿って測定された)深さおよび(例えば、
図2~8のX方向に沿って測定された)幅は、例えば、装置100を用いて富化する種類の粒子の直径の約2倍~約50倍の範囲にあってもよい。流体交換モジュール108において流体を抽出する隙間を形成する島構造300または粒子濃縮モジュール110において流体を抽出する隙間を形成する島構造506に関して、これらの構造の幅は、例えば隣接するミクロ流体流路の幅の約10倍であってもよいが、これらの構造の長さは、隣接する流路の幅の約0.25倍~約50倍であってもよい。
【0091】
いくつかの実現例において、(概ね
図3のZ方向に沿って測定された)島構造300の長さは、約10μm~約5mmの範囲にあり、例えば、約100μm、約250μm、約500μm、約750μm、または約1mmであってもよい。いくつかの実現例において、(概ね
図3のX方向に沿って測定された)島構造300の幅は、約1μm~約1mmの範囲にあり、例えば、約10μm、約50μm、約100μm、約250μm、約500μm、または約750μmであってもよい。いくつかの実施態様において、(概ね
図3のZ方向に沿って測定された)隣接する島構造300間の距離は、約1μm~約1mmの範囲にあり、例えば、約10μm、約50μm、約100μm、約250μm、約500μm、または約750μmであってもよい。いくつかの実現例において、列の最も外側の島構造300とミクロ流体流路の壁(例えば、壁305または307)との間の距離は、約1μm~約500μmの範囲にあり、例えば、約10μm、約20μm、約30μm、約40μm、約50μm、約60μm、約70μm、約80μm、約90μm、約100μm、約150μm、約200μm、約250μm、約300μm、約350μm、約400μm、または約450μmであってもよい。いくつかの実現例において、(概ねZ方向に沿って島構造300の列の一端から島構造300の列の他端まで測定された)流体交換
モジュール108の長さは、約10mm~約100mmの範囲にあり、例えば、約20mm、約30mm、約40mm、約50mm、約60mm、約70mm、約80mm、または約90mmであってもよい。
【0092】
島構造300とは対照的に、粒子濃縮モジュール110の島構造は、三角形の1つの底辺に概ね対応する最大幅を有する略三角柱の形状を有する。いくつかの実現例において、島構造506の最大長さは、約10μm~約5mmの範囲にあり、例えば、約100μm、約250μm、約500μm、約750μm、または約1mmであってもよい。いくつかの実施態様において、(概ね
図7のZ方向に沿って測定された)隣接する島構造506の間の距離は、約1μm~約1mmの範囲にあり、例えば、約10μm、約50μm、約100μm、約250μm、約500μm、または約750μmであってもよい。いくつかの実現例において、列の最も外側の島構造506とミクロ流体流路の壁(例えば、壁516または仕切構造502の壁)との間の距離は、約1μm~約500μmの範囲にあり、例えば、約10μm、約20μm、約30μm、約40μm、約50μm、約60μm、約70μm、約80μm、約90μm、約100μm、約150μm、約200μm、約250μm、約300μm、約350μm、約400μm、または約450μmであってもよい。いくつかの実施態様において、(概ねZ方向に沿って島構造506の列の一端から島構造506の列の他端まで測定された)粒子濃縮モジュール110の長さは、約10mm~約100mmの範囲にあり、例えば、約20mm、約30mm、約40mm、約50mm、約60mm、約70mm、約80mm、または約90mmであってもよい。
【0093】
一例として、約8μmの直径を有する略球状粒子の場合、
図1に示す構成と同様に剛性構造の列によって分離された2つのミクロ流体流路を有するミクロ流体装置は、以下のパラメータを有することができる。具体的に、各ミクロ流体流路は、約50μmの深さを有することができ、各ミクロ流体流路は、約10μm~約5000μmの範囲の幅を有することができ、各島構造は、約50μmの幅を有することができ、各島構造は、約200μmの長さを有することができる。
【0094】
用途
本開示に記載の新しいミクロ流体技術および装置は、さまざまな異なる用途に使用することができる。例えば、本開示中に記載の技術および装置を用いて、流体試料から細胞または他の粒子を単離および濃縮することができる。このような細胞または粒子は、例えば、通常の血液細胞、母体血液内の胎児血液細胞、骨髄細胞、循環性腫瘍細胞(CTC)、精子、卵子、細菌、真菌、ウイルス、藻類、任意の原核生物または原核生物の血液細胞、細胞小器官、エキソソーム、液滴、泡沫、汚染物、沈殿物、有機粒子、無機粒子、磁気ビーズ、および/または磁気標識分析物を含む。代替的にまたは追加的には、本開示に記載の技術および装置を用いて、粒子および/または細胞を抽出した精製後の流体試料を抽出することができる。このような流体は、例えば、血液、水溶液、油またはガスを含むことができる。以下、特定の応用例を示す。
【0095】
遠心分離置換
本開示に記載の複合式流体交換装置および粒子濃縮装置は、遠心分離の代替物として使用することができる。一般的には、遠心分離は、流体に遠心力を適用することによって、流体内の副次成分の濃縮を達成すると理解すべきである。典型的には、このプロセスは、摩耗し易く破損し易い可動部品を有する装置を必要とする。さらに、可動部品は、複雑且つ高価な製造プロセスを必要とする。遠心分離の別の課題は、遠心分離が一般的に閉鎖システムに適用されるプロセスであることである。すなわち、遠心分離は、手動で試料を遠心分離装置に移し、手動で処理後の試料を遠心分離装置から取り出す必要がある。
【0096】
対照的に、本開示の装置は、可動部品を必要とせずに、比較的に簡単な微細構造を使用
して流体成分の濃度を大幅に増加することができる。これらの技術は、単一の開放型ミクロ流体システムの一部として実施することができる。よって、手動関与することなく、装置の流体交換モジュールと粒子濃縮モジュールとの間でまたは装置の他の部分の間で、流体試料を移送することができる。さらに、本開示に記載の装置は、大きな処理量(すなわち、処理可能な流体の体積流量)を必要とする用途に使用することができる。例えば、本開示に記載の装置は、最大10、25、50、75、100、250、500、1000、5000、または10000μl/分の流量の流体を処理するように構成することができる。他の流量も可能である。流路のサイズを変更することによって、装置の処理できる最大容積流量を変更することができる。さらに、流体交換モジュールおよび粒子濃縮モジュール内の流路が多重化されている(すなわち、複数の流体交換構造および粒子濃縮構造が並行に使用される)ため、さらに高い流量を達成することができる。したがって、特定の実施形態において、本開示に記載の装置および技術は、従来の遠心分離プロセスに比べて、コストおよび時間を大幅に節約できるという利点を提供することができる。遠心分離装置を置換するミクロ流体装置の有用な応用例は、骨髄および尿の分析を含む。
【0097】
感染病原体の検出
さらに、本開示に記載の装置および技術は、分析対象物(例えば、タンパク質、細胞、細菌、病原体およびDNA)を研究するための研究プラットフォームの一部としてまたは潜在的な疾患状態または患者体内の感染病原体を診断するための診断アッセイの一部として使用することができる。本開示に記載のミクロ流体装置を用いて、粒子の抽出、集中および濃縮を行うことによって、小分子、タンパク質、核酸、病原体および癌細胞を含む多くの異なる生物標的を測定することができる。以下、さらなる例を説明する。
【0098】
希少細胞の検出
本開示に記載のミクロ流体装置および方法を用いて、希少細胞、例えば、血液試料中の循環性腫瘍細胞(CTC)または妊娠女性の血液試料中の胎児細胞を検出することができる。例えば、血液試料中の原発性腫瘍細胞またはCTCの濃度を増強することによって、癌の迅速且つ包括的なプロファイリングを行うことができる。したがって、ミクロ流体装置は、強力な診断および予後ツールとして使用することができる。検出される標的細胞は、癌細胞、幹細胞、免疫細胞、白血球、または他の細胞、例えば、(上皮細胞表面マーカに対する抗体、例えば上皮細胞接着分子(EpCAM)を用いる)循環性内皮細胞、または(例えば、癌細胞表面マーカに対する抗体、例えばメラノーマ細胞接着分子(CD146)を用いる)循環性腫瘍細胞を含む。また、このシステムおよび方法を用いて、小分子、タンパク質、核酸、または病原体を検出することもできる。
【0099】
有核細胞の単離および濃縮
本開示に記載のミクロ流体装置および技術を用いて、血液および骨髄などの複雑な入力流体から、有核細胞(例えば、白血球)を単離および濃縮することができる。例えば、本装置を用いて、血液から、放射線標識およびその後の注射および核イメージング(白血球イメージング)用の好中球を単離することができ、および/または損傷部位に注射される前駆細胞を骨髄穿刺液から濃縮することができる。
【0100】
流体交換
本開示に記載のミクロ流体装置および方法を用いて、細胞を1つの運搬流体から別の運搬流体に移すことができる。例えば、開示された粒子偏流技術を用いて、例えば薬剤、抗体、細胞染料、磁気ビーズ、凍結保護剤、溶解試薬および/または他の検体などの試薬を含有する流体液流に細胞を移すことができ、またはその流体液流から細胞を取り出すことができる。
【0101】
単一の粒子偏流区域は、(多数の入口からの)多数の平行な流体液流を含むことができ
、偏流されたセルは、これらの流体液流に移すことができる。例えば、白血球は、血流から染色試薬を含む液流に移し、その後、緩衝液流に移すことができる。
【0102】
バイオ処理および関連分野において、記載された装置および技術を用いて、(廃棄産物を含む)古い培地から新鮮な培地に細胞の無菌連続移送を行うことができる。同様に、細胞を生物反応器に保持しながら、無菌連続方式で生物反応器から、細胞外液および細胞産物(例えば、抗体、タンパク質、糖、脂質、生物医薬品、アルコール、およびさまざまな化学物質)を抽出することができる。
【0103】
細胞の分離および分析
本開示に記載のミクロ流体装置および方法を用いて、サイズなどの生物物理特性に基づいて、細胞を選別することができる。例えば、装置および方法を用いて、血液を血小板、赤血球、および白血球の液流に各々選別することができる。同様に、装置および方法を用いて、白血球をリンパ球、単球および顆粒球の液流に各々選別することができる。
【0104】
選別された細胞の液流を別々の流体出口に送ることによって単離することができる。代替的には、(例えば、光学技術を用いて)リアルタイムで細胞の液流を検出および分析することによって、各液流内の細胞の数または各液流内の細胞の特性(例えば、サイズまたは粒度)を決定することができる。
【0105】
分類の前にまたは分類の最中に細胞またはその運搬流体を改変することによって、選別および/または分析を容易にすることができる。例えば、大きなビーズを特定種類の細胞に接着することによって、その細胞の有効サイズを増加することができる。細胞の制御凝集を用いて、細胞の有効サイズを増加することもできる。流体の温度、密度、粘性、弾性、pH、浸透圧および他の特性を変更することによって、分類プロセスに直接な影響を及ぼす(例えば、慣性効果が粘度に依存する)ことができ、または細胞の特性(例えば、浸透膨潤または収縮)を変更することによって、分類プロセスに間接的な影響を及ぼすことができる。
【0106】
液体の滅菌および洗浄
本開示に記載のミクロ流体装置のミクロ流体装置および方法を用いて、流体から病原体、汚染物および他の特定の汚染物を除去することができる。流体の流線を横切って汚染物を偏流させることによって、流体試料から汚染物を除去し、別個の廃液流として回収することができる。
【0107】
バイオ燃料用の藻類の収穫
成長培地から藻類を収穫することは、バイオ燃料の生産に大きな支出となる。その理由は、藻類がほぼ中性浮力で非常に希薄な懸濁液に成長するため、藻類バイオマスの効率的な抽出および濃縮が困難であるからである。本開示に記載のミクロ流体装置および方法は、密度または濾過のいずれにも依存せず、藻類を効率的に収穫することができる。記載された装置および技術を用いて、成長槽中の成長培地から藻類を抽出し、高体積密度に濃縮することができる。このことは、単一のステップまたは連続プロセスの一部として行うことができる。さらに、本開示に記載された装置は、サイズに依存して細胞を分類することができるため、成熟したより大きな藻類のみを分類および濃縮し、未成熟の小さい藻類を成長槽に戻すように設計することができる。
【実施例】
【0108】
本発明は、以下の実施例においてさらに説明される。これらの実施例は、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定しない。
【0109】
装置の製造
流体交換モジュールおよび粒子濃縮モジュールを組み入れたミクロ流体装置の挙動を分析するために、
図1~
図8に示す構成要素の構造および配置に従うように装置を設計して、さまざまな実験を行った。実験に使用された装置は、以下のように設計され、製造された。
【0110】
図10は、本開示に従った装置を含むミクロ流体チップを概略的に示す上面図である。
図10に示すように、プラスチックディスク(DVDまたはCDと同様の形状)である基板1000を製作した。基板1000は、2つのミクロ流体装置1002を含む。装置1002の設計は、
図1~8に示された構造に類似する。装置1002の流路は、プラスチックディスク基板に射出成形することにより形成された。したがって、このディスクは、
図9に示す流体層900の一例である。
図10に示された装置1002の各々は、矩形箱にした輪郭で囲まれる。この輪郭は、実際の装置に形成されておらず、各装置1002の一般的なフットプリントがスライドガラス区域(例えば、約75mm×25mm)に収まることを示すために
図10に含まれている。
【0111】
被覆層をディスクの表面に熱接着した後、界面層をレーザ溶接した。界面層は、装置1002の貫通孔とのマクロ-ミクロ界面として機能する。
図11は、ミクロ流体装置1002を含む基板にレーザ溶接された界面層を概略的に示す上面図である。界面層は、配管に接続するように構成された一連の開口1100を含む。界面層を基板に接続したときに、これらの開口は、対応する貫通孔の上方に位置し、装置1002に流体試料を導入するまたは装置1002から流体試料を引き出す。
【0112】
装置1002内に作製されたミクロ流体流路の深さは、全て約52μmであった。各装置1002は、15個の二重構造に配置された30行の流体交換モジュールを含む(例えば、
図3に示す構造は、2つの別個の配列または1つの二重構造に対応する。各配列は、3行の島構造300を含む)。製造された装置の場合、各配列は、3行の島構造(例えば、島構造300)を含んだ。各装置1002、3個の二重構造に配置された6列の粒子濃縮モジュールを含む(例えば、
図7に示す構造は、2つの配列または単一の二重構造に対応する)。
【0113】
細胞抽出および富化
製造された装置1002に全血を充填し、好中球を抽出して濃度を富化する実験を行った。
【0114】
行われた全ての実験に充填された血液の量は、50mLであった。50mLの血液を50mLの緩衝液(1%プルロニックF-127を含む1倍のPBS)で1:1に希釈し、試料の総容量を100mLにした。入力試料および流体交換器廃液の血球容量から処理され計算された中間容積は、約87mL(87%)であった。約13mL(13%)の損失は、試料容器、シリンジ、配管および継手の死容積によるものである可能性がある。したがって、希釈された血液試料は、本開示に記載の流体試料に対応する。希釈した血液試料からの細胞が移入され、富化される第2流体試料は、緩衝液試料(1%プルロニックF-127を含む1倍のPBS)を含む。希釈した血液試料が装置1002に流入する流速は、約1.79mL/分であった。緩衝液試料が装置に流入する流速は、約8.17mL/分であった。産物(血液試料から富化された細胞を含む緩衝液)が装置1002から流出する流速は、約90μL/分であった。廃液が装置1002から流出する流量は、約9.87mL/分であった。各装置の流体交換モジュールの容積減少係数(入力容積/産物容積)は、約0.62Xであった。各装置の粒子濃縮モジュールの体積減少係数は、約32Xであった。
【0115】
実験を評価するために、以下のパラメータを定義した。具体的には、EPは、流体交換器から産物として出力された白血球(WBC)の数を表し、EWは、流体交換器から廃液として
出力されたWBCの数を表し、EOは、流体交換器から出力されたWBCの総数を表す。一方、CPは、粒子濃縮モジュールから産物として出力されたWBCの数を表し、CWは、粒子濃縮モジ
ュールから廃液として出力されたWBCの数を表し、COは、粒子濃縮モジュールから出力さ
れたWBCの総数を表す。前述のパラメータを用いて、以下の関係が成立する。EP=CO=CP
+CW、EO=EP+EW=CP+CW+EW。したがって、流体交換モジュールの相対収率は、EP/EO=(CP+CW)/(CP+CW+EW)として表すことができ、粒子濃縮モジュールの相対収率は、CP/CO=CP/(CP+CW)として表すことができる。
【0116】
流体交換モジュールを通過した後、白血球(WBC)の相対収率の中間値は、約78%で
あり、(処理された容積に基づいて算出された)絶対収率の中間値は、非常に近似の81%であった。
図12は、異なる実験の実験における白血球相対収率分布(
図12A)および白血球絶対収率分布(
図12B)のプロットを示す。粒子濃縮モジュールを通過した後の相対収率の中間値は、約100%であった。すなわち、本質的に全ての細胞損失は、流体交換モジュールに生じた。
図13は、異なる実験において、流体交換器モジュール(選別装置)を通過した後の白血球相対収率を示すプロット(
図13A)および粒子濃縮モジュールを通過した後の白血球相対収率を示すプロット(
図13B)を示す。
【0117】
いくつかの手法を用いて、WBC部分集団の収率を評価することができる。白血球イメー
ジング用途の重要な部分集団である好中球を例にする場合、好中球相対収率=WBC相対収
率×(産物好中球部分/試料好中球部分)に従って、好中球相対収率を計算することができる。
【0118】
産物好中球部分は、産物に存在する全てのWBC中の好中球部分であり、試料好中球部分
は、血液試料に存在する全てのWBC中の好中球部分である。したがって、好中球相対収率
は、実質的に、好中球部分集団の相対濃縮に基づいて調整された全WBCの相対収率として
表すことができる。好中球相対値の中間値は、84%であり、WBC相対値の中間値よりも
有意に高い。第2手法は、好中球絶対収率である。好中球絶対収率は、産物中の好中球の総数を、処理された試料中の好中球の総数で割ったものとして計算される。好中球絶対値収率の中間値は、78%である。
図14は、異なる実験において、装置1002からの好中球の相対収率(
図14A)および好中球の絶対収率(
図14B)を示すプロットである。
【0119】
なお、好中球の相対収率および絶対収率の計算値について、これらの計算値は、装置の出力から得られた産物の血液分析装置による分析に依存しており、すなわち、細胞溶液の組成が、分析装置が対応するように設計された(全血)の組成とは非常に異なる場合があるため、血液分析装置からのWBC部分集団の濃度および頻度の報告が精確とはいえない。
【0120】
好中球収率を評価する第3方法は、この制限を受けないが、大量のデータの収集に依存し、試料ごとではなく、多くの試料に対する好中球収率の推定値のみを提供する。この方法において、試料好中球部分は、各部分の相対収率に対してプロットし、最良適合線が量に関係することが見出された。最良適合線は、試料が100%好中球部分を有するという仮説ケースに拡張することができる。この場合、WBC相対収率と好中球相対とは、同等で
ある。このデータセットの場合、最良適合線の勾配は、正である。すなわち、試料中の好中球含有量が高いほど、全WBCの収率が高くなる。このことは、装置1002が好中球を
富化し、より大きなサイズの好中球を与えることを示唆する。さらに、前述の外挿法を使用することは、好中球収率が100%の範囲にあることを示唆する。
図15は、異なる実験において、白血球(WBC)相対収率対試料好中球収率を示すプロットおよび上記の最良
適合線を含む。
【0121】
WBC純度は、産物中のWBCの総数を、産物中の細胞(WBC、RBCおよび血小板)の総数で割ったものとして計算した。総合純度の中間値は、約97%であった。緩衝液の入口がブロックされ、RBCキャリーオーバーを引き起こす場合でも、純度は、一般的に約70~90
%であった。しかしながら、緩衝液ポートがブロックされていないまたは均一な注入の実験の場合、WBC純度は約99%であった。したがって、工程の改善によって、WBC中間値は、約99%になると予測される。
【0122】
図16に示すように、純度データは、RBCおよび血小板の除去データと密接に関連して
いる。RBC減少中間値は、4.8logであり、血小板減少中間値は、3.7logであった。
両細胞の除去は、一般にかなり良好であったが、緩衝液ポートがブロックされた場合または不均一な注入の場合は、例外であった。
【0123】
他の実施形態
理解すべきことは、詳細な説明に関連して本発明を説明したが、前述の説明は、本発明を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものではないことである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。