(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】貝除臭方法
(51)【国際特許分類】
A23L 17/40 20160101AFI20220317BHJP
A23L 17/00 20160101ALI20220317BHJP
【FI】
A23L17/40 C
A23L17/00 A
(21)【出願番号】P 2020073790
(22)【出願日】2020-04-17
【審査請求日】2020-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2019079104
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593020108
【氏名又は名称】エースコック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【氏名又は名称】福島 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】今西 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】横原 健偉致
(72)【発明者】
【氏名】李 俊輝
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-018729(JP,A)
【文献】特開2008-161117(JP,A)
【文献】特開平11-187825(JP,A)
【文献】特開2007-097533(JP,A)
【文献】特開2017-006109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/00
A23L 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
香辛料を含む水溶液に生きている貝を浸漬させ、前記貝が香辛料を含む水溶液を摂取する除臭工程を行うことにより、貝の不快なにおいを除去又は低減する、貝除臭方法
であって、
前記除臭工程が、前記香辛料として、ジンジャー、ガーリック、オニオン、山椒、西洋わさび、唐辛子、ローレル、ナツメグ、バジル、マスタード、タイム、及びコリアンダーからなる群より選択される少なくとも1種を含む、貝が生存できる温度の水溶液に、生きている貝を浸漬させる工程であり、
前記貝の不快なにおいが、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、及び、アルコールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、貝除臭方法。
【請求項2】
前記貝の不快なにおいが、アセトアルデヒド、2,4-ヘプタジエナール、2-メチル-2-ペンタナール、n-ヘキサナール、n-ペンタナール、1-ペンテン-3-オン、イソ吉草酸、酪酸、プロピオン酸、1-オクテン-3-オール、及び1-ペンテン-3-オールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1に記載の貝除臭方法。
【請求項3】
前記香辛料として、ジンジャー及びガーリックの少なくとも一方又は両方を含む、請求項1又は2に記載の貝除臭方法。
【請求項4】
前記香辛料として、ジンジャー及びガーリックの両方を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の貝除臭方法。
【請求項5】
前記除臭工程において、生きている貝を浸漬させる時間が、3~12時間であり、かつ、
前記除臭工程の後に、前記香辛料を含む調味液で貝を調味する調味工程を備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の貝除臭方法。
【請求項6】
香辛料を含む水溶液に生きている貝を浸漬させ、前記貝が香辛料を含む水溶液を摂取する除臭工程を備える、貝の不快なにおいが除去又は低減された貝を含む加工食品の製造方法
であって、
前記除臭工程が、前記香辛料として、ジンジャー、ガーリック、オニオン、山椒、西洋わさび、唐辛子、ローレル、ナツメグ、バジル、マスタード、タイム、及びコリアンダーからなる群より選択される少なくとも1種を含む、貝が生存できる温度の水溶液に、生きている貝を浸漬させる工程であり、
前記貝の不快なにおいが、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、及び、アルコールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、加工食品の製造方法。
【請求項7】
前記除臭工程において、生きている貝を浸漬させる時間が、3~12時間であり、かつ、
前記除臭工程の後に、前記香辛料を含む調味液で貝を調味する調味工程を備える、請求項6に記載の貝を含む加工食品の製造方法。
【請求項8】
香辛料を含む水溶液に生きている貝を浸漬させ、前記貝が香辛料を含む水溶液を摂取する除臭工程を経て得られた、貝の不快なにおいが除去又は低減された貝を含む加工食品
であって、
前記除臭工程が、前記香辛料として、ジンジャー、ガーリック、オニオン、山椒、西洋わさび、唐辛子、ローレル、ナツメグ、バジル、マスタード、タイム、及びコリアンダーからなる群より選択される少なくとも1種を含む、貝が生存できる温度の水溶液に、生きている貝を浸漬させる工程であり、
前記貝の不快なにおいが、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、及び、アルコールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、加工食品。
【請求項9】
前記除臭工程において、生きている貝を浸漬させる時間が、3~12時間であり、かつ、
前記除臭工程の後に、前記香辛料を含む調味液で貝を調味する調味工程を経て得られた、請求項8に記載の貝を含む加工食品。
【請求項10】
ジンジャー
、ガーリック
、オニオン、山椒、西洋わさび、唐辛子、ローレル、ナツメグ、バジル、マスタード、タイム、及びコリアンダーからなる群より選択される少なくとも1種の香辛料を含む、貝が生存できる温度の水溶液に、生きている貝を浸漬させ、前記貝が前記香辛料を含む水溶液を摂取することにより、前記香辛料を含む水溶液を、貝の不快なにおいに含まれるアルデヒドの除臭剤として使用する方法。
【請求項11】
ジンジャー
、ガーリック
、オニオン、山椒、西洋わさび、唐辛子、ローレル、ナツメグ、バジル、マスタード、タイム、及びコリアンダーからなる群より選択される少なくとも1種の香辛料を含む、貝が生存できる温度の水溶液、生きている貝を浸漬させ、前記貝が前記香辛料を含む水溶液を摂取することにより、前記香辛料を含む水溶液を、貝の不快なにおいに含まれるケトンの除臭剤として使用する方法。
【請求項12】
前記除臭工程において、生きている貝を浸漬させる時間が、3~12時間である、請求項10又は11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝除臭方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貝類は、人類が特に好む水産食品であり、生食をはじめとして、各種の調理をして食べられている。これらの貝類は、市場で殻付き等の生の状態で販売されるだけでなく、調理済の加工食品の素材として広く利用されている。最近では、即席麺、吸い物(味噌汁、スープ)等の即席食品が広く普及しており、その具材として凍結乾燥(フリーズドライ)、減圧フライ等の処理で乾燥された貝類が使用されることが多い。
【0003】
しかしながら、乾燥させた貝類では、魚介類に特有の不快臭が問題となっていた。魚介類に特有の不快臭は、それらの素材が潜在的に有する特有の臭い、及びそれらの鮮度の低下若しくは腐敗により、経時的に発生する臭いを含む複合的なものであることが知られている(例えば、特許文献1等)。特許文献1には、魚介類に特有の不快臭の主な原因化合物として、例えば、窒素化合物、高度不飽和脂肪酸、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、有機酸、含硫化合物等が挙げられている。このような貝類における不快臭の問題を解決するために、様々な処理方法が提案されている。
【0004】
特許文献2には、貝類の可食部を乾燥処理する前に内臓部を摘出し、その後、残存する内臓部の脂質を分解して除去することを特徴とする貝類の乾燥前の処理方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、内臓付き貝類を含む凍結乾燥食品における内臓付き貝類の内臓臭の生成を抑制する方法であって、内臓付き貝類を含む食品を凍結乾燥する工程に先立ち、内臓付き貝類に、セロリ、オニオン、ガーリック、ジンジャー及びパクチーからなる群から選ばれる香辛野菜成分と、コショウ、ターメリック、ローレル、コリアンダー、タイム及びセージからなる群より選ばれる香辛料成分とを浸透させる香辛成分浸透工程を含む方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3834140号公報
【文献】特開2000-106849号公報
【文献】特開2008-161117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の処理方法は、貝類の内臓部の摘出及び脂質の除去に多大な労力を費やす必要があった。また、特許文献3に記載の方法では貝類の臭みの除去効果が十分ではなかった。
【0008】
かかる状況において、本発明が解決しようとする課題は、貝の臭みを効率よく除去することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが、貝の臭みを効率よく除去することができる方法(貝除臭方法)を開発すべく鋭意検討した結果、生きている貝を、香辛料を含む水溶液に浸漬させることにより、貝の体内に香辛料が摂取され、貝の臭みを効率よく除去することができることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
項1.
香辛料を含む水溶液に生きている貝を浸漬させ、前記貝が香辛料を含む水溶液を摂取する除臭工程を行うことにより、貝の不快なにおいを除去又は低減する、貝除臭方法。
項2.
前記香辛料が、ジンジャー、ガーリック、オニオン、山椒、西洋わさび、唐辛子、ローレル、ナツメグ、バジル、マスタード、タイム、及びコリアンダーからなる群より選択される少なくとも1種である、上記項1に記載の貝除臭方法。
項3.
前記香辛料として、ジンジャー及びガーリックの少なくとも一方又は両方を含む、上記項1又は2に記載の貝除臭方法。
項4.
前記香辛料として、ジンジャー及びガーリックの両方を含む、上記項1~3のいずれか一項に記載の貝除臭方法。
項5.
前記除臭工程の後に、前記香辛料を含む調味液で貝を調味する調味工程を備える、上記項1~4のいずれか一項に記載の貝除臭方法。
項6.
香辛料を含む水溶液に生きている貝を浸漬させ、前記貝が香辛料を含む水溶液を摂取する除臭工程を備える、貝の不快なにおいが除去又は低減された貝を含む加工食品の製造方法。
項7.
前記除臭工程の後に、前記香辛料を含む調味液で貝を調味する調味工程を備える、上記項6に記載の貝を含む加工食品の製造方法。
項8.
香辛料を含む水溶液に生きている貝を浸漬させ、前記貝が香辛料を含む水溶液を摂取する除臭工程を経て得られた、貝の不快なにおいが除去又は低減された貝を含む加工食品。
項9.
前記除臭工程の後に、前記香辛料を含む調味液で貝を調味する調味工程を経て得られた、上記項8に記載の貝を含む加工食品。
項10.
ジンジャー及びガーリックの少なくとも一方又は両方を、アルデヒドの除臭剤として使用する方法。
項11.
ジンジャー及びガーリックの少なくとも一方又は両方を、ケトンの除臭剤として使用する方法。
項12.
ジンジャー及びガーリックの少なくとも一方又は両方を、含硫化合物の除臭剤として使用する方法。
項13.
貝が加熱される貝加熱工程を備える貝除臭方法であって、
前記貝加熱工程に先立ち、香辛料の成分を含む香辛料成分含有水溶液を前記貝が摂取する抽出物摂取工程を備える貝除臭方法。
なお、上記の「不快なにおいが除去又は低減された貝を含む加工食品」は、現時点において、物の構造を完全に特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、プロダクトバイプロセスクレームによって、それぞれの物の発明を記載している。また、上記加工食品は、加工食品組成物と言い換えることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の貝除臭方法によれば、香辛料を含む水溶液に生きている貝を浸漬させ、前記貝が香辛料を含む水溶液を摂取する除臭工程を行うことで、貝の臭み(不快なにおい)を除去又は低減することができる。本発明の貝除臭方法は、生きている貝を、香辛料を含む水溶液に浸漬するだけでよいので、貝の内臓を取り除くことで内臓臭の生成を抑制する従来の処理方法と比較して、簡単な操作で効率よく貝類独特の臭みを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、香辛料のn-デカナールに対する除臭効果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、香辛料の1-ペンテン-3-オンに対する除臭効果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、香辛料のジメチルジスルフィドに対する除臭効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の貝除臭方法は、香辛料を含む水溶液に生きている貝を浸漬させ、前記貝が香辛料を含む水溶液を摂取する除臭工程を行うことにより、貝の臭み(不快なにおい)を除去又は低減する方法である。採取した貝を対して、料理する前に本発明の貝除臭方法によって下処理(前処理)することにより、貝特有の臭みを効率よく除去することができる。
【0014】
本発明において除臭対象となる貝は、生きている貝である。そのような貝として、例えば、アサリ、シジミ、カキ、ハマグリ、アカガイ、バカガイ、トリガイ、ミルクイガイ、アコヤガイ、クロチョウガイ、シロチョウガイ、ヒオウギガイ、ホタテガイ、ホッキガイ等が挙げられる。これらの貝は、養殖された貝、又は捕獲された貝のいずれであってもよい。また、生きている貝であれば、その種類、産地、サイズ等は、特に限定されない。
【0015】
本発明の貝除臭方法により除かれる「臭み」とは、貝類の不快なにおい(不快臭)であり、例えば、貝類が潜在的に有している特有の臭い、及び加工した後貯蔵中にそれらの鮮度の低下若しくは腐敗により、経時的に発生する臭い等を含んでいる。このような臭みとして、例えば、魚臭さ、貝臭さ、生臭さ、ドロ臭さ、なまぐさ臭、鮮度低下臭、酸化臭、腐敗臭、カビ臭さ、薬品臭、異臭等と呼ばれる臭いが挙げられる。また、臭いの原因化合物として、例えば、アルデヒド類、ケトン類、含硫化合物、窒素化合物、カルボン酸類、アルコール類等が知られている。アルデヒド類として、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、2,4-ヘプタジエナール、2-メチル-2-ペンタナール、n-ヘキサナール、n-ペンタナール(ノルマルバレルアルデヒド)、n-デカナール等が挙げられる。ケトン類として、アセトン、メチルエチルケトン、1-ペンテン-3-オン等が挙げられる。含硫化合物として、硫化水素、メチルメルカプタン、硫化メチル、ジメチルメルカプタン、エチルメルカプタン、ジメチルジスルフィド、二酸化硫黄等が挙げられる。窒素化合物として、アンモニア、ジメチルアミン、トリメチルアミン等が挙げられる。カルボン酸類として、イソ吉草酸、酪酸、プロピオン酸等が挙げられる。アルコール類として、1-オクテン-3-オール、1-ペンテン-3-オール等が挙げられる。
【0016】
本明細書において、貝除臭方法における「除臭」とは、上述した様々な臭いを除去する場合だけでなく、臭いを低減(一部除去)する場合、又は脱臭する場合も含んでいる。
【0017】
本発明の貝除臭方法は、香辛料を含む水溶液(香辛料含有水溶液)に生きている貝を浸漬させ、前記貝が香辛料を含む水溶液を摂取する除臭工程を含む。生きている貝を、香辛料を含む水溶液に浸漬すると、該水溶液中で貝が呼吸することにより、その内部に前記水溶液を摂取する一方、自らの体内にある汚れた水、体液(排泄物)、砂等を吐き出す。この結果、貝の臭みを抑制することができ、この貝除臭方法を行うことにより得られた貝を食したときに、貝の臭み(不快なにおい)を感じなくすることができる。(以下、この工程を「除臭工程」又は「抽出物摂取工程」という場合もある。)
【0018】
本明細書において、香辛料は、調味料のうち香り付け及び臭い消しの少なくとも一方の効果を有するもの、並びに、野菜及びハーブの中で香り付け及び臭い消しの少なくとも一方の効果を有するものをいう。本明細書において、香り付けの効果を有するものが香辛料に含まれるのは、香り付けによって、臭いの影響が抑えられる可能性があるためである。香辛料として、例えば、ジンジャー、ガーリック、オニオン、山椒、西洋わさび、唐辛子、ローレル、ナツメグ、バジル、マスタード、タイム、コリアンダー、セロリ、パクチー、コショウ、ターメリック、セージ等が挙げられ、ジンジャー、ガーリック、オニオン、山椒、西洋わさび、唐辛子、ローレル、ナツメグ、バジル、マスタード、タイム、及びコリアンダーが好ましい。優れた除臭効果が得られることから、香辛料として、ジンジャー及びガーリックの少なくとも一方又は両方を使用することがより好ましく、ジンジャー及びガーリックの両方を使用することが特に好ましい。
【0019】
特に、ジンジャー又はガーリックは、貝の臭みの原因化合物である、アルデヒド類、ケトン類、及び含硫化合物に対する除臭効果が高い。よって、ジンジャー及び/又はガーリックを、アルデヒド類、ケトン類、又は含硫化合物の除臭剤として使用することができる。よって、本発明には、ジンジャー及びガーリックの少なくとも一方又は両方を、アルデヒド類、ケトン類、又は含硫化合物の除臭剤として使用する方法が包含される。ジンジャー及びガーリックの両方を用いることが、より優れた除臭効果が得られることから好ましい。アルデヒド類としては、n-デカナール等が挙げられる。ケトン類としては、1-ペンテン-3-オン等が挙げられる。含硫化合物としては、ジメチルジスルフィド等が挙げられる。
【0020】
貝を浸漬させる液体は、香辛料を含む水溶液であればよい。前記水溶液に含まれる香辛料の形態は特に限定されない。前記香辛料は、実、種子、樹皮、根、地下茎、又は葉そのもの、これらを乾燥させたもの、乾燥させた後に粉砕したもの(例えば、粉末品)、ペースト状にしたもの等のいずれの形態で使用されてもよく、水溶液中に香辛料の成分が香辛料抽出物の形態で含まれてもよい。香辛料の成分を抽出する方法は特に限定されず、例えば、固液抽出、液液抽出、酸塩基抽出等が挙げられる。抽出された香辛料の成分は、その用途によっては香料と呼ばれることもある。香辛料の原料を植物精油の抽出に利用される方法、例えば、水蒸気蒸留法、溶剤抽出法、超臨界炭酸ガス抽出法等によって、香辛料抽出物を得ることが好ましい。香辛料抽出物には、香辛料に含まれる機能成分(味、効能等を特徴づける成分)が含まれる。また、香辛料抽出物は、市販されているものを使用することもできる。
【0021】
香辛料の成分は、抽出されたものに限定されない。香辛料の原料を粉砕し、粉砕した香辛料を水に含ませることにより、香辛料の成分が水に含有されていてもよい。除臭効果の観点からは、香辛料抽出物を使用することが好ましい。
【0022】
香辛料含有水溶液中の前記香辛料の含有量は、乾燥粉末品の場合、前記水溶液中に、好ましくは0.03~1.5質量%程度であり、より好ましくは0.3~0.9質量%である。なお、乾燥粉末品以外の形態の場合には、力価が等量になるように濃度を調整して使用する。香辛料抽出物の場合、前記水溶液中に、好ましくは0.005~0.5質量%程度であり、より好ましくは0.01~0.3質量%である。
【0023】
本明細書において、前記水溶液における溶媒は、水に加えて他の溶媒を含んでいてもよい。他の溶媒は、貝の生存に悪影響を及ぼさない範囲であれば特に限定されず、例えば、エタノール等のアルコールが挙げられる。
【0024】
浸漬する際の香辛料含有水溶液の温度は、貝が生存できる温度であればよく、貝の種類、採取の時期及び場所等によって適宜調整することができる。採取時の採取場所の水温に近い温度が、貝の砂出し又は食物代謝の状態を自然に近い状態に保つ上で好ましい。水溶液の温度として、例えば、8℃~25℃程度が挙げられ、10℃~22℃程度が好ましい。
【0025】
浸漬時間は、水溶液の温度等により適宜調整することができる。3時間以上が好ましく、6~12時間がより好ましい。
【0026】
ここで、アサリ、シジミ、ハマグリ等の砂の中に生息している貝は、呼吸するたびに砂が殻の中に入り、体内にある砂を吐き出すことから、該除臭工程において、同時に砂抜きが行われることになる。よって、砂抜きを行う必要がある貝では、除臭工程(抽出物摂取工程)と砂抜工程とを1つの工程で(同時に)行うことができる。この場合、淡水又は海水(食塩を含む水)に代えて、香辛料を含有する水溶液を使用する以外は、周知の砂抜き工程の手順と同様である。例えば、海の砂の中に生息する貝であれば、海水と同程度の塩分濃度にするために、水溶液に食塩(塩化ナトリウム)を添加することができる。食塩の濃度は、1~3%程度が好ましい。
【0027】
除臭工程(抽出物摂取工程)と砂抜工程とは、別の工程にすることもできる。除臭工程(抽出物摂取工程)と砂抜工程とを別の工程とする場合には、砂抜工程を行った後に、除臭工程(抽出物摂取工程)を行うことができる。
【0028】
本発明の貝除臭方法は、採取した貝類に対して料理の前に行われる下処理(前処理)の1つとして行うことができる。すなわち、貝類の加工処理における下処理として、除臭工程(抽出物摂取工程)を行えばよい。該貝除臭工程以外の処理は、貝類を料理するに際して通常行われる処理を特に制限なく行うことができる。貝類の加工処理は、前記除臭工程に加えて、貝加熱工程、及び脱殻工程を備えることが好ましい。なお、貝除臭方法を施した貝類は、非加熱状態(生)で食べることも可能である。
【0029】
以下、貝類の加工処理について、貝を含む凍結乾燥食品の製造方法を例にとり、具体的に説明する。
【0030】
貝を含む凍結乾燥食品の製造方法は、例えば、洗浄工程、選別工程、砂抜工程、除臭工程(抽出物摂取工程)、加熱工程、脱殻工程、調味工程、及び凍結乾燥工程を備えるが、これらに限定されない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことは可能である。
【0031】
洗浄工程とは、除臭工程に先立ち貝が洗浄される工程である。洗浄される貝は、生きている貝である。洗浄の方法は、周知の方法を用いることができる。
【0032】
選別工程とは、洗浄された貝のうち、除臭工程の対象とするものが選別される工程である。選別の基準は特に限定されない。
【0033】
砂抜工程は、砂抜きを行う必要がある貝で行われる工程であり、通常砂の中で生息していない貝、例えば、ホタテガイ、カキ等については行う必要はない。砂抜きを行う必要がある貝では、該砂抜工程と除臭工程とを1つの工程で(同時に)行うことができる。該砂抜工程と除臭工程(抽出物摂取工程)とを同時に行う場合、海の砂の中に生息する貝であれば、海水と同程度の塩分濃度にするために、水溶液に食塩(塩化ナトリウム)を添加することができる。食塩の濃度は、1~3%程度が好ましい。該砂抜工程と除臭工程とを別の工程で行う場合には、貝の種類によって従来行われている砂抜工程と同様の手順で行うことができる。
【0034】
除臭工程は、香辛料を含む水溶液に生きている貝を浸漬させ、前記貝が香辛料を含む水溶液を摂取する工程であり、上述した除臭方法で説明したとおりである。前記砂抜工程と除臭工程(抽出物摂取工程)とを別の工程とする場合には、砂抜工程を行った後に、除臭工程(抽出物摂取工程)を行うことが好ましい。
【0035】
加熱工程は、除臭処理した貝を加熱する工程である。加熱する方法としては、特に限定されず、例えば、蒸気により加熱することができる。具体的な手順は、周知のものと同様である。あるいは、除臭処理した貝をボイルしてもよい。
【0036】
脱殻工程において、加熱された貝から貝殻が取り外される。該脱殻工程は、省略されてもよい。貝から貝殻を取り外す具体的な手順は、周知である。貝殻が取り外された貝は、必要であれば、洗浄してもよい。
【0037】
調味工程とは、貝を調味する工程である。貝を調味する具体的な手順は、周知である。調味工程は、例えば、70~100℃程度に加熱した調味料を含む水(調味液)に、貝を浸漬することにより行われる。調味料は、貝の調味に使用される調味料であれば、特に限定されず、例えば、食塩、糖、旨味成分等を使用することができる。調味料に、上記除臭工程で使用した香辛料と同じものが含まれることが好ましく、ジンジャー及びガーリックの少なくとも一方又は両方が含まれることがより好ましい。調味液への浸漬時間は、特に限定されず、2~30分間程度が好ましい。
【0038】
凍結乾燥工程は、貝が凍結乾燥される工程である。貝を凍結乾燥する具体的な手順は、周知である。調味工程後の貝は、例えば、凍結乾燥器を用いて凍結乾燥を行うことで、貝を含む凍結乾燥食品に加工される。
【0039】
よって、本発明は、香辛料を含む水溶液に生きている貝を浸漬させ、前記貝が香辛料を含む水溶液を摂取する除臭工程を備える、貝の不快なにおいが除去又は低減された貝を含む加工食品の製造方法を包含する。前記貝を含む加工食品の製造方法は、前記除臭工程の後に、前記香辛料を含む調味液で貝を調味する調味工程を備えることが好ましい。
【0040】
また、本発明は、香辛料を含む水溶液に生きている貝を浸漬させ、前記貝が香辛料を含む水溶液を摂取する除臭工程を経て得られた、貝の不快なにおいが除去又は低減された貝を含む加工食品も包含する。前記貝を含む加工食品は、前記除臭工程の後に、前記香辛料を含む調味液で貝を調味する調味工程を経て得られたものであることが好ましい。
【0041】
本発明の貝除臭方法によって臭いが除かれた貝は、周知の方法で調理された貝と同様に利用することができる。その利用の例として、加工食品の具材が挙げられる。前記加工食品として、例えば、冷蔵食品、チルド食品、冷凍食品、即席食品(例えば、即席麺、スープ等)等が挙げられる。本発明の貝除臭方法によって臭いが除かれた貝の加工食品は、長期保存した後にお湯等で復元させて喫食した場合でも、貝の不快なにおいが抑制されている。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0043】
以下の実施例及び比較例で使用した香辛料は、以下のとおりである。
ジンジャー抽出物(稲畑香料株式会社製、ジンジャーエッセンス FL-D8326、製品中にジンジャーオイル2.6質量%、水48.4質量%、及びエタノール49.0質量%が含まれる)
ガーリック抽出物(稲畑香料株式会社製、ガーリックエッセンス FL-D8325、製品中にガーリックオイル1.8質量%、水48.7質量%、及びエタノール49.5質量%が含まれる)
オニオン抽出物(稲畑香料株式会社製、オニオンエッセンス FL-D7649)
山椒抽出物(稲畑香料株式会社製、サンショウエッセンス FL-D3502)
西洋わさび抽出物(稲畑香料株式会社製、ホースラディシュエッセンス FL-D7648)
唐辛子抽出物(稲畑香料株式会社製、カプシカムエッセンス FTB-8518)
ローレル抽出物(稲畑香料株式会社製、ローレルエッセンス FTB-7482)
ナツメグ抽出物(稲畑香料株式会社製、ナツメグエッセンス FTB-8506)
バジル抽出物(高砂香料工業株式会社製、BASIL FLAVOR STU1701273)
マスタード抽出物(高田香料株式会社製、ドライコートスパイス マスタード#8-Z)
タイム抽出物(株式会社永廣堂本店製、オレオ タイム N)
コリアンダー抽出物(株式会社永廣堂本店製、オレオ コリアンダー H)
ジンジャーパウダー(株式会社カネカサンスパイス製、ジンジャーパウダーG)
ガーリックパウダー(日研フード株式会社製、ガーリックパウダーC)
【0044】
[実施例1]
抽出物摂取工程において、作業者は、生きているアサリを抽出物水溶液に浸けた。本実施例にかかる抽出物水溶液は、0.30質量%の香辛料の抽出物と3.0質量%の食塩(塩化ナトリウム)とを含んでいた。この抽出物は、エタノールと、水と、ジンジャーオイルとの混合物であった。ジンジャーオイルは、刻まれたジンジャーを含む水を蒸留した際に得られた蒸留水の上澄みであった。この抽出物(以下、「ジンジャー抽出物」という。)におけるエタノールと水とジンジャーオイルとの質量%は、エタノール49.0%、水48.4%、ジンジャーオイル2.6%であった。アサリが抽出物水溶液に浸けられていた時間は3時間であった。抽出物水溶液に浸けられたアサリは、抽出物水溶液を摂取する一方、自らの体内にある砂を吐き出した。抽出物摂取工程の後、貝加熱工程において、作業者は、抽出物水溶液を摂取したアサリを沸騰した水から出る蒸気で加熱した。貝加熱工程の後、脱殻工程において、作業者は、加熱したアサリから貝殻を取り外した。これにより、本実施例にかかるアサリが得られた。本実施例にかかるアサリを4人のパネラーが試食したところ、いずれも「臭みを感じないが、ジンジャーの風味が利き過ぎ」と評価した。
【0045】
[実施例2]
香辛料抽出物として、エタノールと、水と、ガーリックオイルとの混合物を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2に係るアサリを得た。ガーリックオイルは、刻まれたガーリックを含む水を蒸留した際に得られた蒸留水の上澄みであった。この抽出物(以下、「ガーリック抽出物」という。)におけるエタノールと水とガーリックオイルとの質量%は、エタノール49.5%、水48.7%、ガーリックオイル1.8%であった。本実施例にかかるアサリを4人のパネラーが試食したところ、いずれも「臭みを感じないが、ガーリックの風味が利き過ぎ」と評価した。
【0046】
[実施例3]
0.20質量%のジンジャー抽出物と0.10質量%のガーリック抽出物とを含む抽出物水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例3に係るアサリを得た。なお、ジンジャー抽出物は、実施例1で用いた香辛料の抽出物と同一であった。また、ガーリック抽出物は、実施例2で用いた香辛料の抽出物と同一であった。本実施例にかかるアサリを4人のパネラーが試食したところ、いずれも「臭みを感じないが、ジンジャーおよびガーリックの風味が利き過ぎ」と評価した。
【0047】
[実施例4]
0.10質量%のジンジャー抽出物と0.30質量%のガーリック抽出物とを含む抽出物水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例4に係るアサリを得た。なお、ジンジャー抽出物は、実施例1で用いた香辛料の抽出物と同一であった。また、ガーリック抽出物は、実施例2で用いた香辛料の抽出物と同一であった。本実施例にかかるアサリを4人のパネラーが試食したところ、いずれも「臭みを感じず、かつ好ましい風味が付与されている」と評価した。
【0048】
[実施例5]
0.03質量%のジンジャー抽出物と0.03質量%のガーリック抽出物とを含む抽出物水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例5に係るアサリを得た。なお、ジンジャー抽出物は、実施例1で用いた香辛料の抽出物と同一であった。また、ガーリック抽出物は、実施例2で用いた香辛料の抽出物と同一であった。本実施例にかかるアサリを4人のパネラーが試食したところ、いずれも「臭みを感じないが、香辛料の風味が弱い気がする」と評価した。
【0049】
[実施例6]
0.02質量%のジンジャー抽出物と0.01質量%のガーリック抽出物とを含む抽出物水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例6に係るアサリを得た。なお、ジンジャー抽出物は、実施例1で用いた香辛料の抽出物と同一であった。また、ガーリック抽出物は、実施例2で用いた香辛料の抽出物と同一であった。本実施例にかかるアサリを4人のパネラーが試食したところ、いずれも「臭みを感じないが、香辛料の風味が弱い気がする」と評価した。
【0050】
[実施例7]
0.01質量%のジンジャー抽出物と0.01質量%のガーリック抽出物とを含む抽出物水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例7に係るアサリを得た。なお、ジンジャー抽出物は、実施例1で用いた香辛料の抽出物と同一であった。また、ガーリック抽出物は、実施例2で用いた香辛料の抽出物と同一であった。本実施例にかかるアサリを4人のパネラーが試食したところ、いずれも「臭みを感じないが、香辛料の風味が弱い気がする」と評価した。
【0051】
[比較例1]
まず、作業者は、生きているアサリを、3.0質量%の食塩(塩化ナトリウム)を含む食塩水に浸けた。アサリが食塩水に浸けられていた時間は3時間であった。食塩水に浸けられたアサリは、食塩水を摂取する一方、自らの体内にある砂を吐き出した。その後、作業者は、食塩水を摂取したアサリを沸騰した水から出る蒸気で加熱した。貝加熱工程の後、脱殻工程において、作業者は、加熱したアサリから貝殻を取り外した。これにより、本比較例にかかるアサリが得られた。本比較例にかかるアサリを4人のパネラーが試食したところ、いずれも「臭みを強く感じる」と評価した。
【0052】
[比較例2]
貝殻が取り外された貝を、0.01質量%のジンジャー抽出物と0.03質量%のガーリック抽出物と3.0質量%の食塩とを含む水溶液で煮た以外は、比較例1と同様の操作を行い、比較例2に係るアサリを得た。なお、ジンジャー抽出物は、実施例1で用いた香辛料の抽出物と同一であった。また、ガーリック抽出物は、実施例2で用いた香辛料の抽出物と同一であった。本比較例にかかるアサリを4人のパネラーが試食したところ、いずれも「噛み込む際に内臓臭を感じる」と評価した。
【0053】
表1に、上述した実施例と比較例との相違点及びパネラーの評価を示す。表1によれば、上述した実施例にかかるアサリはいずれも「臭みを感じない」と評価された。一方、比較例1にかかるアサリは「臭みを強く感じる」と評価された。比較例2にかかるアサリは噛み込む際に内臓臭を感じる」と評価された。
【0054】
【0055】
これらのことから、抽出物水溶液を貝が摂取するとその貝を噛み込む際に内臓臭を感じることが回避されるのは明らかである。内臓臭を感じることが回避されると、貝の臭みの除去効果について改善されるのは明らかである。
【0056】
貝の内臓を除去することで貝の臭みを除去する場合、その加工にコストがかかり、かつ、貝の可食部の歩留まりが低くなる。本実施形態にかかる貝除臭方法によれば、内臓が残る貝を喫食しても臭みを抑え得る。貝の臭みを抑え得ると、加工コストの発生を抑え得る。内臓が残る貝は内臓が除去された貝よりも見栄えがよい。
【0057】
[実施例8~19]
生きているアサリを洗浄して選別し、下記表2に記載の香辛料含有水溶液に浸漬した。その後、アサリを沸騰した水から出る蒸気で加熱(蒸煮)し、冷却させた。その後、アサリを殻から外し、熟練パネラー4人が試食し、以下の評価基準に基づいて官能評価を行った。結果を表2に示す。
【0058】
評価基準
5:臭みを感じず、かつ、香辛料の風味が程よく効いている。
4:臭みを感じない。
3:臭みを若干感じるが、不快ではない。
2:臭みを感じる。
1:臭みを強く感じる。
【0059】
【0060】
表2より、生きている貝を様々な香辛料抽出物を含む水溶液に浸漬させることにより、除臭効果が得られることがわかった。実施例18及び19の結果から、香辛料の抽出物だけでなく、香辛料の粉末を含む水溶液を用いても、除臭効果が得られることがわかった。
【0061】
[実施例20]
生きているアサリを洗浄して選別し、0.1質量%のジンジャー抽出物と0.03質量%のガーリック抽出物とを含む香辛料含有水溶液に浸漬した。その後、アサリを沸騰した水から出る蒸気で加熱(蒸煮)し、冷却させた。その後、アサリを殻から外し、水で洗浄した後、0.1質量%のジンジャーパウダー、0.5質量%のガーリックパウダー、5質量%の食塩、及び7質量%のグルタミン酸ナトリウムを含む80℃の水溶液で20分間煮た。その後、調味したアサリを冷却し、凍結乾燥処理を行い、凍結乾燥アサリを得た。なお、ジンジャーパウダーは、実施例18で用いたものと同一であった。また、ガーリックパウダーは、実施例19で用いたものと同一であった。得られた凍結乾燥アサリ5gに95℃以上の熱湯を注ぎ、3分間戻したものを4人のパネラーが試食し、上記評価基準に基づいて評価したところ、「5」の評価であった。
【0062】
実施例20で得られたアサリについて、以下のように加速度試験を行った。
具体的には、実施例20で得られたアサリ5.0gを、即席フライ麺65gとともに、紙製容器に入れ、紙層及びシール層を含む積層体で封止した。封止した紙製容器を、温度35℃、湿度75%に設定された恒温恒湿器(東京理科器械株式会社製、EYELA光安定性試験器LST-300)内に8週間静置した。その後、加速度試験を行ったアサリを4人のパネラーが試食し、上記評価基準に基づいて評価したところ、「4」の評価であった。
【0063】
この結果から、除臭工程の後、調味工程を行うことで、貝の臭みが除去できるだけでなく、風味が優れた貝を得ることができることがわかった。また、加速度試験の後でも、除臭効果が持続することがわかった。
【0064】
(試験例1)
上記実施例20で製造した凍結乾燥アサリ(除臭工程あり、調味工程あり)、及び以下に示す3種類の凍結乾燥アサリについて、ガスクロマトグラフ質量分析を行った。
【0065】
[比較例1’]
上記比較例1と同様の処理を行った後、貝殻が外された貝を水で洗浄し、凍結乾燥処理を行い、比較例1’の凍結乾燥アサリ(除臭工程なし、調味工程なし)を得た。
【0066】
[比較例3]
生きているアサリを、3.0質量%の食塩(塩化ナトリウム)を含む食塩水に3時間浸漬した。その後、食塩水を摂取したアサリを沸騰した水から出る蒸気で加熱し、貝殻を取り外した。貝殻が外された貝を、水で洗浄し、0.1質量%のジンジャーパウダー、0.5質量%のガーリックパウダー、5質量%の食塩、及び7質量%のグルタミン酸ナトリウムを含む80℃の水溶液で20分間煮た。その後、調味したアサリを冷却し、凍結乾燥処理を行い、比較例3の凍結乾燥アサリ(除臭工程なし、調味工程あり)を得た。なお、ジンジャーパウダーは、実施例18で用いたものと同一であった。また、ガーリックパウダーは、実施例19で用いたものと同一であった。
【0067】
[実施例4’]
生きているアサリを洗浄して選別し、0.3質量%のジンジャー抽出物と0.1質量%のガーリック抽出物と3.0質量%の食塩(塩化ナトリウム)とを含む水溶液に浸漬した。その後、アサリを沸騰した水から出る蒸気で加熱(蒸煮)し、冷却させた。その後、アサリを殻から外し、水で洗浄した後、凍結乾燥処理を行い、実施例4’の凍結乾燥アサリ(除臭工程あり、調味工程なし)を得た。
【0068】
各凍結乾燥アサリ(1g)を乳鉢ですり潰し、3gのアセトンで1時間浸漬抽出した。抽出物をアドバンテック(登録商標)のNo.2ろ紙を用いてろ過した後、ろ液を冷凍庫で1時間放置し、上澄みを採取した。上澄みにマーカーであるn-ウンデカンを1ppmとなるように添加したものをサンプルとした。
【0069】
ガスクロマトグラフ質量分析の条件は、以下のとおりである。
分析機器:アジレント社製のGC/MS(7890B/5977B)
香気捕集法:DHS(ダイナミックヘッドスペース)法
カラム:ジーエルサイエンス製inertCap Pure-WAX。使用温度:40℃~250℃(3℃/min)、40℃(2min、hold)、250℃(20min、hold)
注入方法:TDU(加熱脱着装置)。注入口温度:30℃~240℃(720℃/min)、240℃(3min hold)
キャリアガス:ヘリウム。流量:1mL/min
検出器温度:250℃。検出器:MSD(質量選択検出器)
【0070】
ガスクロマトグラフ質量分析の結果、比較例1’の凍結乾燥アサリ(除臭工程なし、調味工程なし)には、アルデヒド類34成分、ケトン類45成分、アミン類1成分、エーテル類3成分、カルボン酸類16成分、アルコール類20成分、エステル類23成分、テルペン類8成分、及び脂肪族炭化水素類1成分が含まれていることがわかった。これより、凍結乾燥したアサリには、様々な臭気成分が含まれており、貝の臭みは、様々な臭気成分が複合された臭いであることがわかった。
【0071】
これらの成分の中で、魚介類の臭みに関係があると考えられる成分、具体的には、アルデヒド類(アセトアルデヒド、2,4-ヘプタジエナール、2-メチル-2-ペンタナール、n-ヘキサナール、及びn-ペンタナール(ノルマルバレルアルデヒド)、ケトン類(1-ペンテン-3-オン)、カルボン酸類(イソ吉草酸、酪酸、及びプロピオン酸)、及びアルコール類(1-オクテン-3-オール、及び1-ペンテン-3-オール)について、ガスクロマトグラフ質量分析の結果を用い、下式より除臭率を算出した。結果を表3に示す。
【数1】
【0072】
なお、アセトアルデヒド、n-ペンタナール、及びイソ吉草酸は、特定悪臭物質に指定されている物質である。また、2,4-ヘプタジエナール、2-メチル-2-ペンタナール、及びn-ヘキサナール等のアルデヒド類は、脂質の酸化により発生する不快臭成分といわれており、1-ペンテン-3-オン等のケトン類は魚臭の原因であるといわれている。また、イソ吉草酸は足臭いにおいの原因であるといわれており、酪酸は汗臭いにおいの原因であるといわれている。プロピオン酸は刺激的な酸っぱいにおいの原因であるといわれている。1-オクテン-3-オールは土臭の原因であるといわれており、1-ペンテン-3-オールは魚介類の調理品の臭みを評価する指標とされることがある。
【0073】
【0074】
表3において実施例4’と比較例3とを比較することにより、分析した全臭気成分について、比較例3よりも実施例4’の除臭率が高いことがわかった。これより、調味工程で貝を香辛料で味付けするよりも、生きている貝に香辛料を摂取させるほうが、除臭効果が高くなることがわかった。さらに、生きている貝に香辛料を摂取させることに加えて、調味工程も行った実施例20の凍結乾燥アサリは、除臭工程のみを行った実施例4’の凍結乾燥アサリよりも、さらに高い除臭効果が得られた。
【0075】
(試験例2)香辛料のアルデヒド(n-デカナール)に対する除臭効果の検証
以下の4種類のサンプルを作成し、各サンプルについて、サンプリング直後、一晩放置後、及び一晩放置後(開放系)にガスクロマトグラフ質量分析を行った。なお、ガスクロマトグラフ質量分析の条件は、上記試験例1と同様である。
【0076】
サンプル
ブランク:n-デカナールを500ppmになるように3%食塩水に添加したもの
ジンジャー:ブランクにジンジャー抽出物を2%になるように添加したもの
ガーリック:ブランクにガーリック抽出物を2%になるように添加したもの
ジンジャー+ガーリック:ブランクにジンジャー抽出物及びガーリック抽出物をそれぞれ2%ずつ添加したもの
【0077】
測定条件
直後:各サンプルを約5gずつ採取し、直ちにそのうちの0.1gについてガスクロマトグラフ質量分析を行った。
一晩放置:無色透明のスクリュー管(5mL)に各サンプルをすりきり一杯に入れて蓋を閉め、室温(25℃)で一晩放置した後、そのうちの0.1gを採取してガスクロマトグラフ質量分析を行った。
一晩放置(開放系):ビーカー(20mL)に各サンプル(約5g)を入れ、室温(25℃)で一晩放置した後、そのうちの0.1gを採取してガスクロマトグラフ質量分析を行った。
【0078】
結果を表4及び表5、並びに
図1に示す。表4の数値は、ガスクロマトグラフにおける各成分のピーク面積値を示し、表5の数値は、直後のブランクのピーク面積値を100とした場合の数値を示している。
図1は、香辛料のn-デカナールに対する除臭効果(サンプリング直後、一晩放置後、及び一晩放置後(開放系))を示すグラフである。
【0079】
【0080】
【0081】
これらの結果より、香辛料としてジンジャー及び/又はガーリックを用いることにより、アルデヒドであるn-デカナールのサンプリング直後の検出量が顕著に減少することがわかった。さらに、一晩放置した後においても、n-デカナールに対する高い除臭効果が得られることがわかった。
【0082】
(試験例3)香辛料のケトン(1-ペンテン-3-オン)に対する除臭効果の検証
以下の4種類のサンプルを作成し、各サンプルについて、サンプリング直後、一晩放置後、及び一晩放置後(開放系)にガスクロマトグラフ質量分析を行った。なお、ガスクロマトグラフ質量分析の条件は、上記試験例1と同様である。また、測定条件は、上記試験例2と同様である。
【0083】
サンプル
ブランク:1-ペンテン-3-オンを500ppmになるように3%食塩水に添加したもの
ジンジャー:ブランクにジンジャー抽出物を2%になるように添加したもの
ガーリック:ブランクにガーリック抽出物を2%になるように添加したもの
ジンジャー+ガーリック:ブランクにジンジャー抽出物及びガーリック抽出物をそれぞれ2%ずつ添加したもの
【0084】
結果を表6及び表7、並びに
図2に示す。表6の数値は、ガスクロマトグラフにおける各成分のピーク面積値を示し、表7の数値は、直後のブランクのピーク面積値を100とした場合の数値を示している。
図2は、香辛料の1-ペンテン-3-オンに対する除臭効果(サンプリング直後、一晩放置後、及び一晩放置後(開放系))を示すグラフである。
【0085】
【0086】
【0087】
これらの結果より、香辛料としてジンジャー及び/又はガーリックの両方を用いることにより、ケトンである1-ペンテン-3-オンに対する除臭効果が得られることがわかった。特に、香辛料としてジンジャー及びガーリックの両方を用いることにより、ケトンである1-ペンテン-3-オンに対する高い除臭効果が得られることがわかった。
【0088】
(試験例4)香辛料の含硫化合物(ジメチルジスルフィド)に対する除臭効果の検証
以下の4種類のサンプルを作成し、各サンプルについて、サンプリング直後、一晩放置後、及び一晩放置後(開放系)にガスクロマトグラフ質量分析を行った。なお、ガスクロマトグラフ質量分析の条件は、上記試験例1と同様である。また、測定条件は、上記試験例2と同様である。
【0089】
サンプル
ブランク:ジメチルジスルフィドを500ppmになるように3%食塩水に添加したもの
ジンジャー:ブランクにジンジャー抽出物を2%になるように添加したもの
ガーリック:ブランクにガーリック抽出物を2%になるように添加したもの
ジンジャー+ガーリック:ブランクにジンジャー抽出物及びガーリック抽出物をそれぞれ2%ずつ添加したもの
【0090】
結果を表8及び表9、並びに
図3に示す。表8の数値は、ガスクロマトグラフにおける各成分のピーク面積値を示し、表9の数値は、直後のブランクのピーク面積値を100とした場合の数値を示している。
図3は、香辛料のジメチルジスルフィドに対する除臭効果(サンプリング直後、一晩放置後、及び一晩放置後(開放系))を示すグラフである。
【0091】
【0092】
【0093】
これらの結果より、香辛料としてジンジャー及び/又はガーリックを用いることにより、含硫化合物であるジメチルジスルフィドの検出量が減少することがわかった。特に、開放系で一晩放置した後において、ジメチルジスルフィドに対する高い除臭効果が得られることがわかった。