(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】吸収促進剤、飛翔害虫忌避香料含有組成物、及び飛翔害虫忌避製品
(51)【国際特許分類】
A01N 25/10 20060101AFI20220317BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20220317BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20220317BHJP
A01N 37/02 20060101ALI20220317BHJP
A01N 31/02 20060101ALI20220317BHJP
A01N 27/00 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
A01N25/10
A01P17/00
A01N25/00 101
A01N37/02
A01N31/02
A01N27/00
(21)【出願番号】P 2020548561
(86)(22)【出願日】2019-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2019036600
(87)【国際公開番号】W WO2020059761
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/035301
(32)【優先日】2019-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018174783
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019085502
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】浮田 涼子
(72)【発明者】
【氏名】岩本 友美
(72)【発明者】
【氏名】大野 泰史
(72)【発明者】
【氏名】川尻 由美
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170362(WO,A1)
【文献】特開昭56-115377(JP,A)
【文献】国際公開第2018/158696(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105613495(CN,A)
【文献】特開2004-105519(JP,A)
【文献】特開2018-095697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A61L 9
C08K
JSTPlus(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔害虫忌避香料含有組成物を硬度60度以下のエラストマー成形体へ吸収させるための吸収促進剤であって、
前記飛翔害虫忌避香料含有組成物中に10~65質量%の範囲で配合され、
d-リモネン及び/又は1,8-シネオールを有効成分と
し、
前記飛翔害虫忌避香料含有組成物は、下記の(a)成分及び(b)成分を含有し、
(a)成分は、一般式(I);
CH
3
-COO-R1 ・・・ (I)
〔R1:炭素数6~12のアルコール残基〕
で表される単独物質又は混合物としての酢酸エステル化合物であり、
(b)成分は、モノテルペン系アルコール及び/又は炭素数10の芳香族アルコールである吸収促進剤。
【請求項2】
前記エラストマー成形体は、シリコーンゴム成形体である請求項1に記載の吸収促進剤。
【請求項3】
前記エラストマー成形体は、熱可塑性エラストマー成形体である請求項1に記載の吸収促進剤。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマー成形体は、スチレン系熱可塑性エラストマー成形体、又はオレフィン系熱可塑性エラストマー成形体である請求項3に記載の吸収促進剤。
【請求項5】
前記飛翔害虫忌避香料含有組成物中に10~45質量%の範囲で配合される
請求項1~4の何れか一項に記載の吸収促進剤。
【請求項6】
前記(a)成分は、前記酢酸エステル化合物、及び一般式(II);
R2-CH
2-COO-CH
2-CH=CH
2 ・・・ (II)
〔R2:炭素数4~7のアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルコキシ基、又はフェノキシ基〕
で表される単独物質又は混合物としてのアリルエステル化合物の中から選択される少なくとも一種である
請求項1~5の何れか一項に記載の吸収促進剤。
【請求項7】
前記飛翔害虫忌避香料含有組成物における前記(a)成分の前記(b)成分に対する配合比率が、0.2~2.0倍量に設定される
請求項1~6の何れか一項に記載の吸収促進剤。
【請求項8】
前記酢酸エステル化合物は、p-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート、o-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート、p-tert-ペンチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、アニシルアセテート、メンチルアセテート、シンナミルアセテート、テルピニルアセテート、ジヒドロテルピニルアセテート、リナリルアセテート、エチルリナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、ボルニルアセテート、及びイソボルニルアセテートからなる群から選択される少なくとも一つである
請求項1~7の何れか一項に記載の吸収促進剤。
【請求項9】
前記アリルエステル化合物は、アリルヘキサノエート、アリルヘプタノエート、アリルオクタノエート、アリルn-アミルオキシアセテート、アリルシクロヘキシルアセテート、アリルシクロヘキシルオキシアセテート、及びアリルフェノキシアセテートからなる群から選択される少なくとも一つである
請求項6に記載の吸収促進剤。
【請求項10】
前記モノテルペン系アルコール及び/又は前記炭素数10の芳香族アルコールは、テルピネオール、ゲラニオール、ジヒドロミルセノール、ボルネオール、メントール、シトロネロール、ネロール、リナロール、エチルリナロール、チモール、オイゲノール、及びp-メンタン-3,8-ジオールからなる群から選択される少なくとも一つである
請求項1~9の何れか一項に記載の吸収促進剤。
【請求項11】
前記飛翔害虫忌避香料含有組成物は、飛翔害虫忌避香料の揮散時の忌避効果持続成分として、20℃における蒸気圧が0.2~20Paのグリコール及び/又はグリコールエーテルをさらに含有する
請求項1~10の何れか一項に記載の吸収促進剤。
【請求項12】
前記グリコール及び/又は前記グリコールエーテルは、ベンジルグリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群から選択される少なくとも一つである
請求項11に記載の吸収促進剤。
【請求項13】
(a)成分及び(b)成分と、d-リモネン及び/又は1,8-シネオールとを含有する飛翔害虫忌避香料含有組成物であって、
前記d-リモネン及び/又は1,8-シネオールの配合量は、10~65質量%の範囲であり、
前記(a)成分は、一般式(I);
CH
3-COO-R1 ・・・ (I)
〔R1:炭素数6~12のアルコール残基〕
で表される単独物質又は混合物としての酢酸エステル化合物であり、
前記(b)成分は、モノテルペン系アルコール及び/又は炭素数10の芳香族アルコールである飛翔害虫忌避香料含有組成物。
【請求項14】
前記(a)成分は、前記酢酸エステル化合物、及び一般式(II);
R2-CH
2-COO-CH
2-CH=CH
2 ・・・ (II)
〔R2:炭素数4~7のアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルコキシ基、又はフェノキシ基〕
で表される単独物質又は混合物としてのアリルエステル化合物の中から選択される少なくとも一種である
請求項13に記載の飛翔害虫忌避香料含有組成物。
【請求項15】
請求項1~12の何れか一項に記載の吸収促進剤を配合して構成される飛翔害虫忌避香料含有組成物を、前記硬度60度以下のエラストマー成形体の分子構造の隙間に入り込ませた状態で保持させてなる飛翔害虫忌避製品。
【請求項16】
前記硬度60度以下のエラストマー成形体は、その表面から飛翔害虫忌避香料が0.04~0.9mg/cm
2・h(単位表面積あたりの平均揮散量)の割合で揮散するように構成されている
請求項15に記載の飛翔害虫忌避製品。
【請求項17】
前記硬度60度以下のエラストマー成形体は、人体の一部又は物体が挿入又は装着される伸縮可能な環部を備えた環状エラストマー成形体であるか、もしくは端部どうしを結合又は近接させて人体の一部又は物体が挿入又は装着される伸縮可能な環部を形成しえる帯状エラストマー成形体である
請求項15又は16に記載の飛翔害虫忌避製品。
【請求項18】
前記環部に人体の一部又は物体が挿入又は装着した状態で、飛翔害虫忌避香料が5~15時間にわたって揮散する
請求項17に記載の飛翔害虫忌避製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛翔害虫忌避香料含有組成物を硬度60度以下のエラストマー成形体へ吸収させるための吸収促進剤、飛翔害虫忌避香料含有組成物、及び飛翔害虫忌避製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蚊、蚋、ユスリカ、ハエ類などの飛翔害虫に対して、ディート(N,N-ジエチルトルアミド)を含む忌避剤を皮膚表面に塗布する方法が汎用されている。しかし、ディートは通常の香料成分と比べると揮散性が幾分低いために空間的な忌避効果は期待できない。一方、常温揮散性の殺虫成分、例えば、ピレスロイド系のエムペントリン等を空間に揮散させて飛翔害虫に対する忌避効果を実現することはできるが、常温揮散性の殺虫成分の使用が敬遠される場面が少なからず存在する。
【0003】
そこで、忌避成分として揮散性の天然精油や、その組成成分を用いる試みがいくつか提案されている。例えば、シトロネラ油やその主成分であるシトロネラールが蚊に対して忌避効果を示すことはよく知られており、アメリカではシトロネラ油を有効成分として含有するキャンドルが市販されている。しかしながら、キャンドルの熱を利用してシトロネラールを放散させる方法は、シトロネラールの揮散効率が悪く、実用的な忌避効果を奏し得ない。
【0004】
また、特開2002-173407号公報(特許文献1)には、シトロネラ油の他、オレンジ油、カシア油などから選ばれた天然精油を有効成分とする飛翔害虫忌避剤が記載され、液剤に使用するための溶剤として、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類、フタル酸ジエチル、ミリスチン酸イソプロピル等のエステル類、ヘキサン、ケロシン、パラフィン等の脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、エーテル類等、多種が挙げられている。
【0005】
加えて、特開2003-201203号公報(特許文献2)は、害虫忌避成分(A)として、シトロネラールと、ターピネオール、メントール、リモネン、ゲラニオール、シトロネロール、カンフェン等から選ばれる1種又は2種以上とを含み、害虫忌避成分(A)中におけるシトロネラールの含有量が2~10質量%である害虫忌避剤揮散組成物を開示している。しかしながら、これらの忌避剤は、天然産志向と安全性への配慮を謳っているものの、その忌避効果は持続性に劣っており、必ずしも満足のいくものではない。
【0006】
さらに、特開昭61-289002号公報(特許文献3)には、「グリコールエーテル類を有効成分とする節足動物類、軟体動物類並びに爬虫類用忌避剤」が提案されている。特許文献3には、グリコールエーテル類がゴキブリやダニ類に優れた忌避効果を示す旨が記載されているが、その効果は到底十分とは言い難く、しかも飛翔害虫に対する忌避効果は何ら言及されていない。
【0007】
このように、飛翔害虫忌避効果、さらにはこれに加えて芳香の持続性向上を目指した有用な化合物や組成物は未だ知られておらず、その開発が求められている。
【0008】
ところで、エラストマーとは、ゴム弾性をもつ素材・材料を指し、エラストマーには熱を加えても軟化しない、シリコーンゴムで代表される「熱硬化性エラストマー」と、熱を加えると軟化し冷やせばゴム状に戻る「熱可塑性エラストマー」とがある。熱硬化性エラストマー、及び熱可塑性エラストマーは、何れも吸着性及び気体透過性に優れ、かつ物性的に安定であり、香料の発散性に優れることが知られている。このような性質を利用し、香料を種々のエラストマーに含有させた芳香剤が市販されているが、多くの改良点も存在する。
【0009】
例えば、以下はシリコーンゴム成形品に関するものであるが、香料をシリコーンゴムに含有させるにあたっては、通常、シリコーンコンパウンドもしくは液状シリコーンポリマーを含む組成物と香料を混合し、イオウや白金等の反応助剤、添加剤等を用いて加硫(架橋)を行う工程が一般的である。ところが、混練時に香料とシリコーンポリマー又は添加剤との分離が発生しやすく、さらには、成形時の熱と反応助剤による香料の分解、変性等の化学変化を生じる結果、芳香性を有しかつ物性の安定した成形品が得られ難かった。
【0010】
そこで、かかる問題を解決する手段として、特開平8-311216号公報(特許文献4)や特開2011-26462号公報(特許文献5)では、シリコーンゴム成形前に香料を混練するのではなく、シリコーンゴム成形後に香料を添加する方法が採用されている。かかるシリコーンゴム成形体を用いた飛翔害虫忌避製品においては、忌避効果の高い飛翔害虫忌避香料を含む組成物をシリコーンゴム成形体に速やかに吸液させる一方、当該飛翔害虫忌避香料が製品保存中は分解・変質を伴うことなくシリコーンゴム成形体中に担持され、使用時には効果的に揮散することが求められる。しかしながら、これらの文献は、香料組成物の性状とシリコーンゴム成形体との適合性について全く言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2002-173407号公報
【文献】特開2003-201203号公報
【文献】特開昭61-289002号公報
【文献】特開平8-311216号公報
【文献】特開2011-26462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、シリコーンゴム成形体のようなエラストマー成形体を利用した有用な飛翔害虫忌避製品を開発するにあたっては、忌避効果の高い飛翔害虫忌避香料の選定はもちろんであるが、エラストマー成形体への飛翔害虫忌避香料の吸収を促進させるための吸収促進剤をはじめ、エラストマー成形体との適合性に優れた化合物や組成物を見出した上で、各種試験の実施を不可欠とし、試行錯誤を繰り返さざるを得ない状況であった。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、忌避効果の高い飛翔害虫忌避香料を含む組成物(以下、「飛翔害虫忌避香料含有組成物」と称する。)をエラストマー成形体に速やかに吸収させるための吸収促進剤、飛翔害虫忌避香料含有組成物、及び製品保存中の飛翔害虫忌避香料の分解・変質を抑制して、使用時に優れた飛翔害虫忌避効果を発揮する飛翔害虫忌避製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
【0015】
(1)飛翔害虫忌避香料含有組成物を硬度60度以下のエラストマー成形体へ吸収させるための吸収促進剤であって、
d-リモネン及び/又は1,8-シネオールを有効成分とする吸収促進剤。
(2)前記エラストマー成形体は、シリコーンゴム成形体である(1)に記載の吸収促進剤。
(3)前記エラストマー成形体は、熱可塑性エラストマー成形体である(1)に記載の吸収促進剤。
(4)前記熱可塑性エラストマー成形体は、スチレン系熱可塑性エラストマー成形体、又はオレフィン系熱可塑性エラストマー成形体である(3)に記載の吸収促進剤。
(5)前記飛翔害虫忌避香料含有組成物中に2.0~65質量%の範囲で配合される(1)~(4)の何れか一つに記載の吸収促進剤。
(6)前記飛翔害虫忌避香料含有組成物中に10~45質量%の範囲で配合される(5)に記載の吸収促進剤。
(7)前記飛翔害虫忌避香料含有組成物は、下記の(a)成分及び(b)成分を含有し、
(a)成分は、一般式(I);
CH3-COO-R1 ・・・ (I)
〔R1:炭素数6~12のアルコール残基〕
で表される単独物質又は混合物としての酢酸エステル化合物であり、
(b)成分は、モノテルペン系アルコール及び/又は炭素数10の芳香族アルコールである(1)~(6)の何れか一つに記載の吸収促進剤。
(8)前記(a)成分は、前記酢酸エステル化合物、及び一般式(II);
R2-CH2-COO-CH2-CH=CH2 ・・・ (II)
〔R2:炭素数4~7のアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルコキシ基、又はフェノキシ基〕
で表される単独物質又は混合物としてのアリルエステル化合物の中から選択される少なくとも一種である(7)に記載の吸収促進剤。
(9)前記飛翔害虫忌避香料含有組成物における前記(a)成分の前記(b)成分に対する配合比率が、0.2~2.0倍量に設定される(7)又は(8)に記載の吸収促進剤。
(10)前記酢酸エステル化合物は、p-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート、o-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート、p-tert-ペンチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、アニシルアセテート、メンチルアセテート、シンナミルアセテート、テルピニルアセテート、ジヒドロテルピニルアセテート、リナリルアセテート、エチルリナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、ボルニルアセテート、及びイソボルニルアセテートからなる群から選択される少なくとも一つである(7)~(9)の何れか一つに記載の吸収促進剤。
(11)前記アリルエステル化合物は、アリルヘキサノエート、アリルヘプタノエート、アリルオクタノエート、アリルn-アミルオキシアセテート、アリルシクロヘキシルアセテート、アリルシクロヘキシルオキシアセテート、及びアリルフェノキシアセテートからなる群から選択される少なくとも一つである(8)~(10)の何れか一つに記載の吸収促進剤。
(12)前記モノテルペン系アルコール及び/又は前記炭素数10の芳香族アルコールは、テルピネオール、ゲラニオール、ジヒドロミルセノール、ボルネオール、メントール、シトロネロール、ネロール、リナロール、エチルリナロール、チモール、オイゲノール、及びp-メンタン-3,8-ジオールからなる群から選択される少なくとも一つである(7)~(11)の何れか一つに記載の吸収促進剤。
(13)前記飛翔害虫忌避香料含有組成物は、飛翔害虫忌避香料の揮散時の忌避効果持続成分として、20℃における蒸気圧が0.2~20Paのグリコール及び/又はグリコールエーテルをさらに含有する(7)~(12)の何れか一つに記載の吸収促進剤。
(14)前記グリコール及び/又は前記グリコールエーテルは、ベンジルグリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群から選択される少なくとも一つである(13)に記載の吸収促進剤。
(15)(a)成分及び(b)成分と、d-リモネン及び/又は1,8-シネオールとを含有する飛翔害虫忌避香料含有組成物であって、
前記(a)成分は、一般式(I);
CH3-COO-R1 ・・・ (I)
〔R1:炭素数6~12のアルコール残基〕
で表される単独物質又は混合物としての酢酸エステル化合物であり、
前記(b)成分は、モノテルペン系アルコール及び/又は炭素数10の芳香族アルコールである飛翔害虫忌避香料含有組成物。
(16)前記(a)成分は、前記酢酸エステル化合物、及び一般式(II);
R2-CH2-COO-CH2-CH=CH2 ・・・ (II)
〔R2:炭素数4~7のアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルコキシ基、又はフェノキシ基〕
で表される単独物質又は混合物としてのアリルエステル化合物の中から選択される少なくとも一種である(15)に記載の飛翔害虫忌避香料含有組成物。
(17)(1)~(14)の何れか一つに記載の吸収促進剤を配合して構成される飛翔害虫忌避香料含有組成物を、前記硬度60度以下のエラストマー成形体の分子構造の隙間に入り込ませた状態で保持させてなる飛翔害虫忌避製品。
(18)前記硬度60度以下のエラストマー成形体は、その表面から飛翔害虫忌避香料が0.04~0.9mg/cm2・h(単位表面積あたりの平均揮散量)の割合で揮散するように構成されている(17)に記載の飛翔害虫忌避製品。
(19)前記硬度60度以下のエラストマー成形体は、人体の一部又は物体が挿入又は装着される伸縮可能な環部を備えた環状エラストマー成形体であるか、もしくは端部どうしを結合又は近接させて人体の一部又は物体が挿入又は装着される伸縮可能な環部を形成しえる帯状エラストマー成形体である(17)又は(18)に記載の飛翔害虫忌避製品。
(20)前記環部に人体の一部又は物体が挿入又は装着した状態で、飛翔害虫忌避香料が5~15時間にわたって揮散する(19)に記載の飛翔害虫忌避製品。
【発明の効果】
【0016】
本発明の吸収促進剤は、エラストマー成形体との適合性に優れた飛翔害虫忌避香料含有組成物を提供する。即ち、忌避効果の高い飛翔害虫忌避香料を含む飛翔害虫忌避香料含有組成物をエラストマー成形体に速やかに吸収させる一方、当該飛翔害虫忌避香料が製品保存中は分解・変質を伴うことなくエラストマー成形体中に担持され、使用時には効果的に揮散するように作用する。従って、この吸収促進剤を配合して構成される飛翔害虫忌避香料含有組成物、及び当該飛翔害虫忌避香料含有組成物を用いた本発明の飛翔害虫忌避製品は、所定期間に亘って優れた飛翔害虫忌避効果を発揮し、その実用性は極めて高い。
さらに、飛翔害虫忌避香料として芳香性を有する成分を用いた場合には、初期の香調が長期に亘って持続するという効果を付与することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の吸収促進剤、飛翔害虫忌避香料含有組成物、及び飛翔害虫忌避製品に関する実施形態として、液状の飛翔害虫忌避香料含有組成物をエラストマー成形体へ吸液させるための吸収促進剤、及びこれを配合して構成される飛翔害虫忌避香料含有組成物を用いた飛翔害虫忌避製品について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0018】
本発明の飛翔害虫忌避製品は、飛翔害虫忌避香料及び吸収促進剤を含有する飛翔害虫忌避香料含有組成物を、硬度60度以下、好ましくは50度以下のエラストマー成形体の分子構造の隙間に、入り込ませた状態で保持させたものである。飛翔害虫忌避香料は、エラストマー成形体に適した特定の種類のものが使用される。飛翔害虫忌避香料の詳細については後述する。
【0019】
成形体に使用するエラストマーは、気体透過性に優れ、かつ物性的に安定であり、香料の吸着・発散に優れるという特性を有する。これは、香料の分子構造は主鎖が炭素で構成されており、香料分子がエラストマーの分子構造の隙間に入り込み易いためと考えられている。エラストマーの特性を生かすためには、エラストマー成形体として硬度を60度以下、好ましくは50度以下に調整することが好ましい。例えば、硬度が60度以下のエラストマーをエラストマー成形体の原料に使用する。これにより、完成したエラストマー成形体の硬度も60度以下となる。エラストマー成形体の硬度が60度以下の場合、エラストマーの分子構造が密になり過ぎないため、香料分子がエラストマーの分子構造の隙間に入り込み易くなる。なお、エラストマー成形体の硬度は、日本工業規格(JIS K6253)に準拠した方法又は装置によって測定される。本発明では、上記規格に適合したデュロメータを用いてエラストマー成形体の硬度が測定される。
【0020】
エラストマーは、シリコーンゴムで代表される「熱硬化性エラストマー」と、熱を加えると軟化し冷やせばゴム状に戻る「熱可塑性エラストマー」に区分される。熱硬化性エラストマー、及び熱可塑性エラストマーは、何れも本発明に適用可能であるが、飛翔害虫忌避製品の製造性や香料の吸着・発散性等を考慮すると熱硬化性エラストマーであるシリコーンゴムが使い易い。
【0021】
シリコーンゴムは、室温硬化型、加熱硬化型、縮合タイプ、付加タイプ等の種類を問わず使用でき、通常、シリコーンコンパウンドもしくは液状シリコーンポリマーに、イオウや白金等の反応助剤、添加剤等を用いて加硫(架橋)を行い、シリコーンゴム成形体に調製される。なお、シリコーンゴムの架橋密度を調整したり、添加剤として用いるシリコーンオイルやフィラーの添加量を調整することで、後に添加する飛翔害虫忌避香料含有組成物の揮散量をコントロールすることができる。
【0022】
本発明で使用するシリコーンゴム成形体には、他の種類のエラストマーが含まれていても構わない。例えば、シリコーンゴムの他にフッ素系ゴムが含まれているものは、耐久性の向上が期待される。
【0023】
一方、熱可塑性エラストマー(TPE)は、一般にゴム弾性を示す柔軟性成分(ソフトセグメント)と、高温では流動するものの常温では変形を防止する分子拘束成分(ハードセグメント)とからなり、両成分がブロック共重合体を形成しているブロックポリマー型と、物理的に分散しているブレンド型が存在する。熱可塑性エラストマーは、ソフトセグメントとハードセグメントの組み合わせによって、スチレン系TPE(TPS)、オレフィン系TPE(TPO)、エステル系TPE(TPEE)、ウレタン系TPE(TPU)、及びアミド系TPE(TPA)等の種類に分類される。これらの熱可塑性エラストマーは何れも本発明に適用可能であるが、製品保存中の飛翔害虫忌避香料の分解・変質を抑制して、使用時に優れた飛翔害虫忌避効果を発揮するにはスチレン系TPE(TPS)、及びオレフィン系TPE(TPO)の使用が好適である。TPSとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)等があげられる。TPOとしては、ソフトセグメントとしてのエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)とハードセグメントとしてのポリプロピレン(PP)とから構成されるTPO又はTPO-Vが代表的であるが、もちろんこれらに限定されない。
【0024】
本発明は、飛翔害虫忌避香料含有組成物をエラストマー成形体に担持させるにあたり、飛翔害虫忌避香料含有組成物がエラストマー成形体に速やかに吸液されるように、吸収促進剤としてd-リモネン、及び/又は1,8-シネオールを飛翔害虫忌避香料含有組成物中に配合したことに特徴を有する。そして、かかる吸収促進剤は、吸液後、当該飛翔害虫忌避香料のエラストマー成形体中における安定化、さらには使用時における効果的な揮散性能にも寄与するものである。
【0025】
上述のd-リモネン、及び/又は1,8-シネオールが、ある種の場面で飛翔害虫忌避効果を示すことは知られているが、エラストマー成形体を利用した飛翔害虫忌避製品において吸収促進剤として有用であることは特筆すべき新規な知見である。即ち、本発明者らの鋭意検討結果によれば、エラストマー成形体との適合性に優れた吸収促進剤を配合することによって、飛翔害虫忌避香料含有組成物が速やかにエラストマー成形体に吸液され、エラストマー成形体の分子構造の隙間に保持されるため、ある種の飛翔害虫忌避香料がエラストマー成形体の表面に留まって分解・変質を被る恐れが格段に低減され、製品保存中の安定性や使用時の揮散性能についても協働的に効果を高め得ることが明らかとなったのである。
一方、有機溶剤のみを添加して飛翔害虫忌避香料含有組成物の吸液を促進させることは可能であるが、飛翔害虫忌避香料のその後の製品保存中の安定性や使用時の揮散性能に何らかの影響を及ぼすことが認められ好ましくなかった。
【0026】
上述の吸収促進剤の飛翔害虫忌避香料含有組成物中における配合量は、2.0~65質量%、より好ましくは10~45質量%の範囲が好適である。2.0質量%未満であると当該飛翔害虫忌避香料含有組成物について十分な吸液促進効果が得られないし、一方、65質量%を超えると飛翔害虫忌避香料の飛翔害虫忌避効果に支障を来たす恐れを生じるので好ましくない。
【0027】
本発明の飛翔害虫忌避製品に用いる飛翔害虫忌避香料含有組成物は、実質的に殺虫成分を用いず、香料成分を飛翔害虫忌避成分として使用する。このような香料成分を「飛翔害虫忌避香料」と称する。飛翔害虫忌避香料含有組成物に含まれる飛翔害虫忌避香料は、下記の(a)成分及び(b)成分を含有する。
【0028】
(a)成分として、一般式(I);
CH3-COO-R1 ・・・ (I)
〔R1:炭素数6~12のアルコール残基〕
で表される単独物質又は混合物としての酢酸エステル化合物が挙げられる。
(b)成分として、モノテルペン系アルコール及び/又は炭素数10の芳香族アルコールが挙げられる。
【0029】
飛翔害虫忌避香料のうち、(a)成分として、さらに一般式(II);
R2-CH2-COO-CH2-CH=CH2 ・・・ (II)
〔R2:炭素数4~7のアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルコキシ基、又はフェノキシ基〕
で表される単独物質又は混合物としてのアリルエステル化合物を含めることも可能である。この場合、(a)成分は、酢酸エステル化合物及びアリルエステル化合物の中から選択される少なくとも一種である。
【0030】
本発明の飛翔害虫忌避製品に用いる飛翔害虫忌避香料含有組成物に含まれる飛翔害虫忌避香料について、さらに具体的に説明する。
【0031】
飛翔害虫忌避香料のうち、(a)成分である一般式(I)で表される酢酸エステル化合物の具体例としては、p-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート、o-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート、p-tert-ペンチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、アニシルアセテート、メンチルアセテート、シンナミルアセテート、テルピニルアセテート、ジヒドロテルピニルアセテート、リナリルアセテート、エチルリナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、ボルニルアセテート、及びイソボルニルアセテート等が挙げられる。これらの酢酸エステル化合物は、単独で使用してもよいし、任意に組み合わせて使用してもよい。
【0032】
飛翔害虫忌避香料のうち、(a)成分である一般式(II)で表されるアリルエステル化合物の具体例としては、アリルヘキサノエート、アリルヘプタノエート、アリルオクタノエート、アリルイソブチルオキシアセテート、アリルn-アミルオキシアセテート、アリルシクロヘキシルアセテート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、アリルシクロヘキシルオキシアセテート、及びアリルフェノキシアセテート等が挙げられる。これらのアリルエステル化合物は、単独で使用してもよいし、任意に組み合わせて使用してもよい。また、これらのアリルエステル化合物は、上述の酢酸エステル化合物と任意に組み合わせて使用することも可能である。
【0033】
飛翔害虫忌避香料のうち、(b)成分であるモノテルペン系アルコール及び/又は炭素数10の芳香族アルコールの具体例としては、テルピネオール、テルピネン-4-オール、ゲラニオール、ジヒドロミルセノール、ボルネオール、メントール、シトロネロール、ネロール、リナロール、エチルリナロール、チモール、オイゲノール、及びp-メンタン-3,8-ジオール等が挙げられる。これらのモノテルペン系アルコール及び/又は炭素数が10の芳香族アルコールは、単独で使用してもよいし、任意に組み合わせて使用してもよい。
【0034】
本発明の飛翔害虫忌避製品においては、飛翔害虫忌避香料である(a)成分と(b)成分とを併用することが好ましい。この場合、(a)成分の(b)成分に対する配合比率を0.2~2.0倍量に設定すると、特に優れた飛翔害虫忌避結果が得られることが本発明者らによる鋭意研究の結果より認められた。
【0035】
本発明の飛翔害虫忌避製品には、飛翔害虫忌避香料として、上記以外の香料成分、例えば、α-ピネン、β-ピネン、カルボン、プレゴン、カンファー、ダマスコン等の化合物、シトラール、シトロネラール、ネラール、ペリラアルデヒド等のモノテルペン系アルデヒド、ベンジルベンゾエート、シンナミルフォーメート、ゲラニルフォーメート等の他のエステル化合物、フェニルエチルアルコール、ジフェニルオキサイド、バニリン、ジャスミンラクトン、インドールアロマ等を適宜添加してもよい。さらには、上記香料成分を含む種々の精油類、例えば、ジャスミン油、ネロリ油、ペパーミント油、ベルガモット油、オレンジ油、ゼラニウム油、プチグレン油、レモン油、シトロネラ油、レモングラス油、シナモン油、ユーカリ油、レモンユーカリ油、タイム油、ゲットウ油等を適宜添加してもよい。
なお、本発明においては、精油として配合されたとしても、前記吸収促進剤又は前記飛翔害虫忌避香料が精油中に2.0質量%以上含まれる場合、個々の吸収促進剤又は飛翔害虫忌避香料として配合されたものと定義する。
【0036】
本発明で用いる飛翔害虫忌避香料含有組成物は、飛翔害虫忌避香料の揮散時の忌避効果持続成分として、20℃における蒸気圧が0.2~20Paのグリコール及び/又はグリコールエーテルをさらに含有することが好ましい。
【0037】
このようなグリコール及び/又はグリコールエーテルは、特許文献2において、エタノール、イソプロパノールや灯油等と同列に溶剤として列挙され、また、特許文献3では、ゴキブリやダニ類に優れた忌避効果を示す旨記載されているものの、飛翔害虫に対する効果は何ら言及されていない。しかるに、本発明者らは、当該グリコール及び/又はグリコールエーテルが溶剤としてのみならず、飛翔害虫忌避香料に対して特異的に忌避効果の持続作用を奏し、芳香性の飛翔害虫忌避香料を用いた場合には初期の香調をも持続させ得ることを知見したものである。
【0038】
上記のグリコール及び/又はグリコールエーテルの具体例(20℃における蒸気圧を併記)としては、プロピレングリコール(10.7Pa)、ジプロピレングリコール(1.3Pa)、トリプロピレングリコール(0.67Pa)、ジエチレングリコール(3Pa)、トリエチレングリコール(1Pa)、1,3-ブチレングリコール、ヘキシレングリコール(6.7Pa)、ベンジルグリコール(2.7Pa)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(3Pa)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられ、その中でも、ジプロピレングリコールが本発明の目的に好適である。なお、上記のグリコール及び/又はグリコールエーテルは、単独で使用してもよいし、任意に組み合わせて使用してもよい。グリコール及び/又はグリコールエーテルの飛翔害虫忌避香料に対する配合比率は、0.05~5倍程度が適当である。
【0039】
飛翔害虫忌避香料含有組成物には、本発明の効果に支障を来たさない限りにおいて、他の機能性成分を配合してもよい。他の機能性成分としては、例えば、殺虫成分、消臭成分、除菌・抗菌成分等が挙げられる。殺虫成分としては、常温揮散性ピレスロイド系のエムペントリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン等が挙げられる。殺虫成分を配合する場合は、本発明の趣旨に照らし、極力微量に留めるのが好ましい。消臭成分としては、イネ科、ツバキ科、イチョウ科、モクセイ科、クワ科、ミカン科、キントラノオ科、カキノキ科の中から選ばれる植物抽出物が代表的である。また、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド等を添加してリラックス効果を付与することもできる。これらの機能性成分は、単独で使用してもよいし、任意に組み合わせて使用してもよい。
【0040】
また、飛翔害虫忌避香料含有組成物には、本発明の飛翔害虫忌避製品の目的及び効果を妨げないものであれば、溶剤、界面活性剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、pH調整剤、着色剤等を適宜配合してもよい。あるいは、飛翔害虫忌避香料含有組成物を、例えば、マイクロカプセル化したり、サイクロデキストリン化することにより、当該飛翔害虫忌避香料含有組成物の安定化を図ったり、飛翔害虫忌避香料の揮散性を調節することも可能である。
【0041】
飛翔害虫忌避製品の調製に用いる溶剤としては、例えば、水、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、ノルマルパラフィンやイソパラフィン等の炭化水素系溶剤等が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン高級アルキルエーテル類(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等の非イオン系界面活性剤、ラウリルアミンオキサイド、ステアリルアミンオキサイド、ラウリン酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド等の高級アルキルアミンオキサイド系界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で使用してもよいし、任意に組み合わせて使用してもよい。
【0042】
飛翔害虫忌避香料含有組成物をエラストマー成形体に添加する方法としては、従来公知の方法を適宜採用することができる。例えば、エラストマー成形体の表面積が大きい場合は、飛翔害虫忌避香料含有組成物を薬液分注方式や塗布方式によって担持させる。エラストマー成形体の表面積が小さい場合は、多数個のエラストマー成形体を密閉容器に入れ、これに飛翔害虫忌避香料含有組成物を必要に応じて溶剤と共に加えて噴霧又は滴下し、エラストマー成形体に浸透させる。さらに、飛翔害虫忌避香料含有組成物の液中にエラストマー成形体を適当時間浸漬させたり、あるいは高濃度に飛翔害虫忌避香料含有組成物を含有させたエラストマー成形体と無処理のエラストマー成形体を密閉容器中に混在させ、適当時間放置してエラストマー成形体全体に亘って飛翔害虫忌避香料含有組成物の濃度を平均化させる方法によって、飛翔害虫忌避製品を製造することも可能である。
【0043】
以下、シリコーンゴム成形体を例にあげて、その形状及び仕様について述べるが、他のエラストマー成形体にも準用されるものである。
シリコーンゴム成形体は、その分子構造の隙間に飛翔害虫忌避香料含有組成物を保持させるとともに、その表面から飛翔害虫忌避香料が0.04~0.9mg/cm2・h(単位表面積あたりの平均揮散量)の割合で揮散するように構成される。なお、本発明の吸収促進剤が飛翔害虫忌避香料としての作用を有することを考慮して、本発明において「飛翔害虫忌避香料の揮散量」には、吸収促進剤の揮散量を含めて算出するものとする。飛翔害虫忌避香料の平均揮散量がこの範囲であると、飛翔害虫忌避香料のシリコーンゴム成形体内でのブリードが所定の期間にわたって安定してスムーズに進行する。飛翔害虫忌避香料の平均揮散量が0.04mg/cm2・h未満であると飛翔害虫忌避効果が不足し、一方、0.9mg/cm2・hを超えると、忌避効果の持続時間が短くなったり、飛翔害虫忌避香料又は飛翔害虫忌避香料含有組成物のシリコーンゴム成形体内での保持量が過大になり過ぎて表面にベトツキを生じる可能性が避けられない。なお、本発明において平均揮散量は、0.02mg/cm2・h以上の揮散量を示す時間区について平均値を求めることとした。
【0044】
シリコーンゴム成形体の形状としては、環状、帯状、小片シート状など種々可能であるが、人体の一部又は物体が挿入又は装着される伸縮可能な環部を備えた環状シリコーンゴム成形体や、端部どうしを結合又は近接させて人体の一部又は物体が挿入又は装着される伸縮可能な環部を形成しえる帯状シリコーンゴム成形体が、使いやすく、本発明の目的に適した形態と言える。
即ち、飛翔害虫忌避香料含有組成物を保持させた環状シリコーンゴム成形体、もしくは帯状シリコーンゴム成形体を、手首や足首等の人体の一部、又はバギー、自転車等のハンドル等、バッグ、リュックサック、カバン等の持ち手等、帽子、靴等のひも等の物体に挿入又は装着すると、環状シリコーンゴム成形体、もしくは帯状シリコーンゴム成形体の表面から飛翔害虫忌避香料が徐々に揮散し、例えば5~15時間、好ましくは8~12時間にわたって飛翔害虫忌避効果を発揮する。
あるいは、携帯用の小型扇風機のカバー枠等に環状シリコーンゴム成形体、もしくは帯状シリコーンゴム成形体を装着させ、扇風機の風を当てるようにして使用してもよい。この場合、前述の使用場面に較べると飛翔害虫忌避香料の揮散量が増大し有効持続時間が短くなるものの、一層優れた飛翔害虫忌避効果を奏し得る飛翔害虫忌避製品を提供することができる。
【0045】
環状シリコーンゴム成形体の場合、周囲が連結する1本の紐状体(線径:1~3mm、長さ:約10~20cm程度)であって、好ましくは図形もしくはキャラクターを形成したものが使用される。図形もしくはキャラクターとしては、動物シリーズ、昆虫シリーズ、乗り物シリーズ、アルファベットシリーズ等様々あげられるが、勿論これらに限定されるものではない。
ここで、1本の紐状体から形成される図形もしくはキャラクターを主要部とするものの、この紐状体の1箇所又は数箇所からシリコーンゴム成形体を分枝させて分枝部を形成し、付属のアクセサリーを構成するようにしてもよい。こうすることによって、装飾性が付与されるとともに、シリコーンゴム成形体の重量を大きくし保持される飛翔害虫忌避香料含有組成物の量をアップできる結果、手首や足首等に装着する本発明の飛翔害虫忌避製品の個数を減らせるというメリットを有する。アクセサリーの形状や大きさは、この部分の香料成分揮散性が図形もしくはキャラクター主要部と較べて過大又は過小でない限り限定されない。
【0046】
一方、帯状体については、その大きさは、幅が0.5~2.0cm程度、長さが約10~25cm程度、厚みが1~3mm程度のものであって、少なくとも一つの中空と当該中空を囲む外郭部とを含むパーツが連なってなるものが好ましい。ここで、パーツ毎に存在する中空が拡散気流を生起し、揮散性の向上に寄与することが認められており、中空の大きさは、例えば、シリコーンゴム成形体が非伸縮状態である場合において、平面視で、中空が占める総面積をS1とし、シリコーンゴム成形体の全面積(S1を含む)をS2としたとき、0.05≦S1/S2≦0.6を満たすように設定されるのが好ましい。S1/S2の値が0.05未満であると、シリコーンゴム成形体の単位重量当たりの揮散性能が紐状に成形したシリコーンゴム成形体に及ばなくなる。一方、S1/S2の値が0.6超であると、シリコーンゴム成形体としての強度に問題を生じることがある。中空の形状としては、その輪郭が図形もしくはキャラクター形状となるように構成されたものがあげられる。図形もしくはキャラクター形状としては、紐状体の場合と同様、種々のものがあげられる。さらに、中空のいくつかについて、これを埋めて凹窪み状に改変することもできる。このようにすることによって、中空のデザイン性を保持しつつ、シリコーンゴム成形体の重量を増加させ、飛翔害虫忌避香料の充填量を増やすことも可能となる。なお、中空を囲む外郭部から外方に延びる分枝部を形成し、キャラクター性やデザイン性を付与するようにしても勿論構わない。
【0047】
環状シリコーンゴム成形体や帯状シリコーンゴム成形体においては、その一部分を拡げて手首や足首等に装着させた時に、当該部分の少なくとも20%、好ましくは30%が手首や足首等の皮膚と離間した装着状態を形成するように伸縮するものであることが好ましい。これは、離間部分が飛翔害虫忌避香料の揮散性向上に寄与するだけでなく、香料成分といえども皮膚との接触はできるだけ避ける方が望ましいためである。
【0048】
前述の環状シリコーンゴム成形体や帯状シリコーンゴム成形体の場合、シリコーンゴム成形体自体がリストリング、リストバンド等として飛翔害虫忌避製品となり得る。他方、小片シート状のシリコーンゴム成形体を調製するとともに、これを収納するプラスチック製収納体と組み合わせて、例えば時計バンド状の飛翔害虫忌避製品を構成するようにしても良い。この場合、シリコーンゴム成形体を取替え自在となすことができ、またシリコーンゴム成形体が腕の皮膚に直接触れないというメリットも有する。
このようなシリコーンゴム成形体と収納体との組み合わせは、所定の飛翔害虫忌避香料の揮散性能が確保される限り、人体用だけでなく、車内等の空間用に用いられる載置タイプ、吊下げタイプなど様々な形態の飛翔害虫忌避製品に適用可能であることは勿論である。
【0049】
以上のシリコーンゴム成形体の形状及び仕様は、他のエラストマー成形体にも同様に適用される。
【0050】
本発明の飛翔害虫忌避製品における飛翔害虫忌避香料含有組成物の配合量は、当該飛翔害虫忌避製品の使用用途、使用期間、及びエラストマー成形体の種類やその仕様等によって適宜決定すればよい。例えば、1回あたり5~15時間、好ましくは8~12時間使用する飛翔害虫忌避製品の場合では、エラストマー成形体1個あたり20~200mg程度の飛翔害虫忌避香料含有組成物を配合するのが好ましい。15~30日使用する飛翔害虫忌避製品の場合では、例えば、製品重量を2~10g程度とし、エラストマー成形体1個あたり100~2000mg程度の飛翔害虫忌避香料含有組成物を配合するのが好ましい。
【0051】
このようにして得られた本発明の飛翔害虫忌避製品は、玄関、台所、トイレ、リビングルーム、寝室などの室内、倉庫、車内等の空間や、庭先、屋外で、手首や足首等の各部位に必要に応じて1~5個装着して使用することにより、アカイエカ、チカイエカ、ヒトスジシマカなどの蚊類、蚋、ユスリカ類、ハエ類、コバエ類(ショウジョウバエ類、ノミバエ類等)、チョウバエ類、イガ類などの飛翔害虫に対し、所定の期間にわたり優れた飛翔害虫忌避効果を発揮する。そして、芳香性の飛翔害虫忌避香料を用いた場合には初期の香調が変質することなく所定期間持続し、しかも、実質的に殺虫成分を含有していないため、殺虫剤の使用を好まない人であっても抵抗なく使用できるので、その実用性は極めて高い。
【0052】
次に具体的な実施例に基づき、本発明の吸収促進剤、及びこれを配合して構成される飛翔害虫忌避香料含有組成物を用いた飛翔害虫忌避製品についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
〔実施例1〕
飛翔害虫忌避香料含有組成物の全体量(シリコーンゴム成形体1個あたり30mg)に対し、シリコーンゴム成形体への吸収促進剤としてd-リモネン23.5質量%(7.1mg)、飛翔害虫忌避香料における(a)成分である一般式(I)で表される酢酸エステル化合物として、ベンジルアセテート12.8質量%(3.8mg)とトリシクロデセニルアセテート4.1質量%(1.2mg)、(a)成分である一般式(II)で表されるアリルエステル化合物として、アリルヘプタノエート6.7質量%(2.0mg)、(b)成分であるモノテルペン系アルコール及び/又は炭素数が10の芳香族アルコールとして、ジヒドロミルセノール14.0質量%(4.2mg)とゲラニオール7.6質量%(2.3mg)、その他の飛翔害虫忌避香料を14.6質量%(4.4mg)(β-ピネン6.0質量%、及びベンジルベンゾエート8.6質量%を含む)、さらに、忌避効果持続成分としてジプロピレングリコール16.7質量%(5.0mg)を配合し、本発明の吸収促進剤を含有する飛翔害虫忌避香料含有組成物を調製した。この飛翔害虫忌避香料含有組成物における(a)成分の(b)成分に対する配合比率は1.09倍であった。
【0054】
シリコーンコンパウンドを用いて調製した紐リング状のシリコーンゴム成形体(硬度:35度)100個を噴霧装置が付設された密閉容器に入れ、上記飛翔害虫忌避香料含有組成物を、噴霧装置を用いて、シリコーンゴム成形体1個当たりの吸着量が30mg(飛翔害虫忌避香料として25.0mg)になるように噴霧した。十分攪拌後、飛翔害虫忌避香料含有組成物は15時間経過後までにはシリコーンゴム成形体全体に速やかに浸透し、リストリング形態であって有効持続時間が約10時間の本発明の飛翔害虫忌避製品を得た。
この飛翔害虫忌避製品における飛翔害虫忌避香料の全表面積当たりの平均揮散量は0.34mg/cm2・h(使用開始時から2時間後まで)で、手首に装着した際、リストリングの約42%が手首の皮膚から離間した状態であった。
上記リストリング2個ずつを左右の手首に巻いて外出したところ、およそ10時間にわたり、蚊やコバエ等の飛翔害虫に煩わされることがなく実用的な忌避効果が確認された。また、動物のキャラクターを身に付けることで遊び心を楽しめるとともに、身体の周囲空間には初期香調のままの芳香が漂い、快適な爽やかさをも満喫できた。
なお、別途、硬度が80度のシリコーンゴム成形体について同様に試してみたが、飛翔害虫忌避香料含有組成物は僅かしか吸着せず、本発明に適用できなかった。
【0055】
[実施例2~13、比較例1~4]
シリコーンコンパウンドを用い、中空の輪郭としてスターを模したパーツを7個繋ぎ合わせて帯状体を構成するとともに、当該帯状体の両端に結合部(一端側が6個の丸形の貫通孔(受け部)、他端側がT字型の突起部)を有するシリコーンゴム成形体〔長さ:20cm、重量:3.2g、シリコーンゴム成形体の全面積(S2)に対して中空が占める総面積(S1)の比率(S1/S2):0.29〕を成形した。なお、シリコーンゴム成形体の硬度を、実施例2~13及び比較例1~3については31度に調整し、比較例4については62度に調整した。
次に、実施例1に準じて調製した表1及び表2に示す飛翔害虫忌避香料含有組成物90mgを、シリコーンゴム成形体の外表面の1箇所に注加し、飛翔害虫忌避製品を得た。下記(1)~(4)の項目に関して評価試験を実施した。得られた結果を表3に示す。
(1)飛翔害虫忌避香料含有組成物のシリコーンゴム成形体への吸液性能を下記の方法によって評価した。
(2)飛翔害虫忌避製品を密封し、30℃で6ケ月保存後における飛翔害虫忌避香料の回収率を求めた。
(3)飛翔害虫忌避効果試験を下記の方法に従って実施した。
(4)飛翔害虫忌避香料の揮散量測定試験を下記の方法に従って実施した。
【0056】
[飛翔害虫忌避香料含有組成物の吸液性能評価試験]
前述のシリコーンゴム成形体と同じシリコーンコンパウンドを用い、評価試験用として、厚さが約2mmで、直径24mmの円盤状シート(約1g)を準備した。このシートをガラスシャ-レの中に入れ、シートの中央に供試組成物20mgを1滴注下した。シャーレの蓋をして25℃で保存し、供試組成物がシートにほぼ完全に吸液されるまでの時間を計測した。評価は以下の基準によった。
レベル5:吸液時間が6時間以上、8時間未満
レベル4:吸液時間が8時間以上、10時間未満
レベル3:吸液時間が10時間以上、15時間未満
レベル2:吸液時間が15時間以上、24時間未満
レベル1:吸液時間が24時間以上
【0057】
[飛翔害虫忌避香料の回収試験]
所定量の飛翔害虫忌避製品をガラスビンに密封し、30℃で6ケ月間保存した。室温に戻した後、ガラスビンにアセトンを加えて飛翔害虫忌避製品から飛翔害虫忌避香料を抽出した。抽出液につき、ガスクロマトグラフィにより飛翔害虫忌避香料の含有量を分析し、仕込み量に対する回収率を求めた。
【0058】
[飛翔害虫忌避効果試験]
試験室内(約6m3)に、蓋をしていないオープン状態のプラスチックカップ(約1L)を2個併設した。片方のプラスチックカップ内にアカイエカ成虫誘引源と供試飛翔害虫忌避製品を入れ(処理区)、他方のプラスチックカップ内にはアカイエカ成虫誘引源のみを入れた(無処理区)。使用開始2時間後、及び使用開始7時間後に、室内にアカイエカ成虫(♀)約50匹を放ち、両区プラスチックカップ内への侵入虫を計数し、次式に従って飛翔害虫忌避率を算出した。
飛翔害虫忌避率 = [(無処理区の侵入虫数-処理区の侵入虫数)/無処理区の侵入虫数] × 100
【0059】
[飛翔害虫忌避香料の揮散量測定試験]
飛翔害虫忌避製品の重量を、使用開始時、使用開始2時間後、及び使用開始7時間後に測定し、重量減少量に基づいて、使用開始時から使用開始2時間後までと、使用開始2時間後から使用開始7時間後までとの単位表面積・単位時間あたりの飛翔害虫忌避香料の平均揮散量を算出した。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
試験の結果、実施例2~13では、本発明のシリコーンゴム成形体への吸収促進剤、すなわち、飛翔害虫忌避香料含有組成物中に飛翔害虫忌避香料と共に配合されるd-リモネン及び/又は1,8-シネオールは、飛翔害虫忌避香料含有組成物のシリコーンゴム成形体への吸液速度を速め、製造必要工程の効率化に寄与する一方、得られた飛翔害虫忌避製品は、製品保存中の品質が向上し、また、使用開始から2時間後及び7時間後において、飛翔害虫忌避香料の揮散性能に優れ、満足のいく飛翔害虫忌避効果を奏することが認められた。
なお、実施例4の飛翔害虫忌避香料含有組成物において、d-リモネンを3.4質量%から2.5質量%に変更し、ベンジルベンゾエートを8.6質量%から9.5質量%に変更し、他の飛翔害虫忌避香料成分をそのままとした組成物(実施例4-2)においても、実施例4と同等の吸収性能レベル、香料成分の回収率、飛翔害虫忌避率及び平均揮散量が得られた。
また、飛翔害虫忌避香料含有組成物として、シトロネラオイル(中国産:d-リモネン2.6質量%、シトロネラール34.4質量%、ゲラニオール24.9質量%、シトロネリルアセテート及びゲラニルアセテート13.6質量%、他成分を含有)を供試し、実施例4や実施例4-2と比較したところ、ほぼ同等の吸収性能と香料成分の回収率を示し、飛翔害虫忌避率や平均揮散量についてもそれほど遜色なかった。
さらに、飛翔害虫忌避香料含有組成物として、ゲットウ油(1,8-シネオール16.6質量%、テルピネン-4-オール11.5質量%、β-ピネン7.3質量%、他成分を含有)を供試し、実施例12と比較したところ、ほぼ同等の吸収性能と香料成分の回収率を示し、飛翔害虫忌避率や平均揮散量についてもそれほど遜色なかった。
このように、d-リモネン及び/又は1,8-シネオールは、精油由来のものか、或いは個々の成分として配合されたものかに関わらず、吸収促進剤として何れも有効であることが確認された。
【0064】
なお、飛翔害虫忌避香料としては、(a)成分である一般式(I)で表される酢酸エステル化合物と、(a)成分である一般式(II)で表されるアリルエステル化合物と、(b)成分であるモノテルペン系アルコール及び/又は炭素数10の芳香族アルコールとの3成分の組み合わせが最も好ましく、また(a)成分の(b)成分に対する比率が0.2~2.0の範囲において、より優れた飛翔害虫忌避効果が得られた。さらに、実施例2~7、9~11において、忌避効果持続成分の配合は、使用時の後期において飛翔害虫忌避効果の低減抑制に効果的であった。これに対し、比較例1及び2が示すように、本発明の吸収促進剤を配合しない場合、飛翔害虫忌避香料含有組成物のシリコーンゴム成形体への吸液速度が遅い結果、ある種の飛翔害虫忌避香料がシリコーンゴム成形体の表面上で分解・変質を被る危惧を生じ、使用時の飛翔害虫忌避効果も劣った。また、本発明の吸収促進剤の替わりにキシレンを使用する比較例3では、吸液速度は速まるものの、実施例2と比べるとシリコーンゴム成形体が明らかに脆化し不適であった。さらに、比較例4のように、本発明の吸収促進剤を用いても、シリコーンゴム成形体の硬度が60度を超える場合は吸液性能がレベル1~2となるとともに、飛翔害虫忌避香料がゴム成形体から揮散し難く、使用時の飛翔害虫忌避効果も顕著に劣ることが確認された。
【0065】
次に、実施例2で用いた硬度31度のシリコーンゴム成形体の替わりに、硬度が48度、55度、及び60度のシリコーンゴム成形体を用いて、前述の吸液性能評価試験を実施したところ、硬度が48度のシリコーンゴム成形体では吸液性能がレベル4~5となり、硬度が55度、及び60度のシリコーンゴム成形体では吸液性能がレベル3~4となった。この結果から、シリコーンゴム成形体の硬度としては、60度以下が好ましく、50度以下がより好ましいことが認められた。
【0066】
[実施例14]
飛翔害虫忌避香料含有組成物全体量(シリコーンゴム成形体1個あたり30mg)に対し、シリコーンゴム成形体への吸収促進剤として1,8-シネオール15.8質量%(4.7mg)、飛翔害虫忌避香料における(a)成分である一般式(I)で表される酢酸エステル化合物として、シトロネリルアセテート10.5質量%(3.2mg)とp-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート5.6質量%(1.7mg)、(a)成分である一般式(II)で表されるアリルエステル化合物として、アリルオクタノエート7.3質量%(2.2mg)、(b)成分であるモノテルペン系アルコール及び/又は炭素数が10の芳香族アルコールとして、メントール14.9質量%(4.5mg)とチモール9.1質量%(2.7mg)、その他の飛翔害虫忌避香料を20.1質量%(6.0mg)(レモングラス油13.7質量%、及びベンジルベンゾエート6.4質量%を含む)、さらに、忌避効果持続成分としてジプロピレングリコール16.7質量%(5.0mg)を配合し、本発明の吸収促進剤を含有する飛翔害虫忌避香料含有組成物を調製した。この飛翔害虫忌避香料含有組成物における(a)成分の(b)成分に対する配合比率は0.98倍であった。
【0067】
二液性の付加型液状シリコーンゴム組成物を硬化させて、小片シート状のシリコーンゴム成形体(直径:3cm、厚さ:1.2mm、硬度:37度、片面の表面積:7.1cm2)を成形した。一方、得られたシリコーンゴム成形体の表面の一箇所に、上記飛翔害虫忌避香料含有組成物30mg(飛翔害虫忌避香料として25mg)を注加し、密閉下に1日間放置して飛翔害虫忌避香料含有組成物をシリコーンゴム成形体全体に均一に浸透させた。
これを、プラスチック製収納体[環状(直径:3.5cm)で中央に円形穴(直径:2.7cm)をそれぞれ備える前面部と後面部を、ヒンジ部を介して一体成形したもの]に収納し、有効持続時間が約10時間の車内用の本発明の飛翔害虫忌避製品を得た。
本製品を車内に吊るして使用したところ、使用開始時から5時間後までにおける飛翔害虫忌避香料の平均揮散量は0.28mg/cm2・hで、およそ10時間にわたり蚊やコバエ等の飛翔害虫が車内に侵入するのを防止できた。
なお、実施例14の飛翔害虫忌避香料含有組成物において、吸収促進剤を1,8-シネオール15.8質量%(4.7mg)からd-リモネン3.7質量%(1.1mg)と1,8-シネオール12.1質量%(3.6mg)とを含むものに変更し、他の成分はそのままとした組成物(実施例14-2)においても、シリコーンゴム成形体への吸収は同様に速やかで、実施例14と同等の平均揮散量及び飛翔害虫忌避効果が得られた。
【0068】
[実施例15~22、比較例5~9]
帯状の熱可塑性エラストマー成形体(幅:12mm、長さ:20cm、厚さ:1.0mm、重量:3.0~3.5g)を用い、実施例1に準じて調製した表4に示す飛翔害虫忌避香料含有組成物100mgを、熱可塑性エラストマー成形体の外表面の1箇所に注加し、飛翔害虫忌避製品を得た。
【0069】
これらの飛翔害虫忌避製品について、飛翔害虫忌避製品を密封し30℃で6ケ月保存後における飛翔害虫忌避香料の回収率を求めるとともに、前述の吸液性能評価試験、飛翔害虫忌避効果試験、及び揮散量測定試験を実施した。得られた結果を表5に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
試験の結果、実施例15~22では、本発明の熱可塑性エラストマー成形体への吸収促進剤、すなわち、飛翔害虫忌避香料含有組成物中に飛翔害虫忌避香料と共に配合されるd-リモネン及び/又は1,8-シネオールは、実施例2~13のシリコーンゴム成形体の場合と同様に、飛翔害虫忌避香料含有組成物の熱可塑性エラストマー成形体への吸液速度を速め、製造必要工程の効率化に寄与する一方、得られた飛翔害虫忌避製品は、製品保存中の品質が向上し、また、使用開始から2時間後及び7時間後において、飛翔害虫忌避香料の揮散性能に優れ、満足のいく飛翔害虫忌避効果を奏することが認められた。
【0073】
なお、実施例16と実施例17との対比から、本発明で用いる熱可塑性エラストマー成形体の硬度としては、良好な吸液性能を得るために、50~60度であるよりも50度以下であることが好ましかった。さらに、実施例15と実施例16との対比から、忌避効果持続成分の配合は、使用時の後期において飛翔害虫忌避効果の低減抑制に効果的であった。
【0074】
これに対し、比較例5~7が示すように、本発明の吸収促進剤を配合しない場合、飛翔害虫忌避香料含有組成物の熱可塑性エラストマー成形体への吸液速度が遅い結果、ある種の飛翔害虫忌避香料が熱可塑性エラストマー成形体の表面上で分解・変質を被る危惧を生じ、使用時の飛翔害虫忌避効果も劣った。さらに、比較例8及び9のように、本発明の吸収促進剤を用いても、熱可塑性エラストマー成形体の硬度が60度を超える場合は吸液性能がレベル1~2となるとともに、飛翔害虫忌避香料が熱可塑性エラストマー成形体から揮散し難く、使用時の飛翔害虫忌避効果も顕著に劣ることが確認された。
【0075】
また、熱可塑性エラストマー成形体のなかでは、SEBS、TPO、TPO-Vが好ましかったが、シリコーンゴム成形体を用いた実施例2~13と熱可塑性エラストマー成形体を用いた実施例15~22とを対比すると、飛翔害虫忌避香料含有組成物のシリコーンゴム成形体や熱可塑性エラストマー成形体に対する吸着・発散性等の性能は、総じてシリコーンゴム成形体がより優れていることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のエラストマー成形体への吸収促進剤、飛翔害虫忌避香料含有組成物、及び当該飛翔害虫忌避香料含有組成物を用いた飛翔害虫忌避製品は、飛翔害虫用だけでなく広範な害虫駆除を目的として利用することが可能である。