IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 岩井機械工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-多管式熱交換器及び熱交換システム 図1
  • 特許-多管式熱交換器及び熱交換システム 図2
  • 特許-多管式熱交換器及び熱交換システム 図3
  • 特許-多管式熱交換器及び熱交換システム 図4
  • 特許-多管式熱交換器及び熱交換システム 図5
  • 特許-多管式熱交換器及び熱交換システム 図6
  • 特許-多管式熱交換器及び熱交換システム 図7
  • 特許-多管式熱交換器及び熱交換システム 図8
  • 特許-多管式熱交換器及び熱交換システム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-16
(45)【発行日】2022-03-25
(54)【発明の名称】多管式熱交換器及び熱交換システム
(51)【国際特許分類】
   F28F 9/00 20060101AFI20220317BHJP
【FI】
F28F9/00 331
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021178155
(22)【出願日】2021-10-29
【審査請求日】2021-11-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000157946
【氏名又は名称】岩井機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 大樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 一道
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-112019(JP,A)
【文献】実開昭56-107193(JP,U)
【文献】特開2012-180877(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0234099(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェル、前記シェルに収容される複数のチューブ、及び前記チューブの両端部を支持する固定管板を備える多管式熱交換器であって、
前記固定管板を前記シェルに着脱可能に固定する着脱構造と、
前記シェルに設けられ、長手方向に伸縮する伸縮部と、を備え、
前記チューブ及び前記シェルに同じ被処理液体として飲料又は液状の医薬を流通させ、被処理液体同士で熱交換するように構成され
前記固定管板は、一部が前記シェルの内部に収容され、残りの一部が前記シェルの開口から外側に向けて突出した突出部であり、前記突出部には側面に沿って溝部が形成されており、
前記着脱構造は、
前記シェルの内面と前記固定管板の側面との間に取り付けられる環状のシール部材と、
前記溝部に嵌合する被クランプ部材と、
前記被クランプ部材が前記溝部に嵌合し、かつ前記被クランプ部材及び前記シェルと前記固定管板との間に前記シール部材が挟まれた状態で、前記突出部に向けて荷重を掛けた状態を維持し、又は当該状態を解除することが可能なクランプ部材と、を備える
ことを特徴とする多管式熱交換器。
【請求項2】
請求項1に記載の多管式熱交換器において、
前記伸縮部は、前記シェルに設けられたベローズであり、
前記ベローズを構成する各山の幅(W)と高さ(H)の比(W/H)は、0.9±0.
3である
ことを特徴とする多管式熱交換器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の多管式熱交換器において
記固定管板を覆い、複数の前記チューブに共通した流路を形成する蓋部材を備え、
前記蓋部材は、前記固定管板の前記突出部に着脱可能に取り付けられる
ことを特徴とする多管式熱交換器。
【請求項4】
請求項1から請求項の何れか一項に記載の多管式熱交換器と、
被処理液体を加熱する加熱手段と、を備え、
前記多管式熱交換器の前記チューブを流通した被処理液体が前記加熱手段によって加熱
され、その後、前記多管式熱交換器の前記シェルに戻されて前記チューブを流通する被処
理液体と熱交換する
ことを特徴とする熱交換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多管式熱交換器及び熱交換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被処理液体を加熱又は冷却するために、多管式熱交換器が用いられている。多管式熱交換器は、口径の大きな配管であるシェルの内部に、口径の小さな配管である複数本のチューブを配置し、チューブの両端を固定管板を介してシェルに取り付けた構成である。一般的に多管式熱交換器はシェルに熱冷媒を流通させ、チューブに清涼飲料などの被処理液体を流通させて熱交換を行う。
【0003】
また、多管式熱交換器では、熱によってシェルとチューブが伸縮するが、それらの伸縮長には差がある。このような伸縮差によって生じる応力によって、シェル、チューブ、固定管板などが破損するおそれがある。
【0004】
そこで、特許文献1には、シェルにベローズを設けることでシェルとチューブの伸縮差を吸収する多管式熱交換器が開示されている。
【0005】
上述したように多管式熱交換器では被処理液体とは異なる熱冷媒を用いて被処理液体を加熱又は冷却するが、熱回収率を向上させる観点では被処理液体同士で熱交換を行うことが望ましい。
【0006】
しかしながら、特許文献1の多管式熱交換器においては、被処理液体同士で熱交換を行っておらず、熱回収率が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実開昭56-107193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、シェルとチューブの伸縮差を吸収し、被処理液体の洗浄性及び熱回収率を向上することができる多管式熱交換器及び熱交換システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の一態様は、シェル、前記シェルに収容される複数のチューブ、及び前記チューブの両端部を支持する固定管板を備える多管式熱交換器であって、前記固定管板を前記シェルに着脱可能に固定する着脱構造と、前記シェルに設けられ、長手方向に伸縮する伸縮部と、を備え、前記チューブ及び前記シェルに同じ被処理液体として飲料又は液状の医薬を流通させ、被処理液体同士で熱交換するように構成され、前記固定管板は、一部が前記シェルの内部に収容され、残りの一部が前記シェルの開口から外側に向けて突出した突出部であり、前記突出部には側面に沿って溝部が形成されており、前記着脱構造は、前記シェルの内面と前記固定管板の側面との間に取り付けられる環状のシール部材と、前記溝部に嵌合する被クランプ部材と、前記被クランプ部材が前記溝部に嵌合し、かつ前記被クランプ部材及び前記シェルと前記固定管板との間に前記シール部材が挟まれた状態で、前記突出部に向けて荷重を掛けた状態を維持し、又は当該状態を解除することが可能なクランプ部材と、を備えることを特徴とする多管式熱交換器にある。
【0010】
上記課題を解決する本発明の一態様は、上記多管式熱交換器と、被処理液体を加熱する加熱手段と、を備え、前記多管式熱交換器の前記チューブを流通した被処理液体が前記加熱手段によって加熱され、その後、前記多管式熱交換器の前記シェルに戻されて前記チューブを流通する被処理液体と熱交換することを特徴とする熱交換システムにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シェルとチューブの伸縮差を吸収し、被処理液の洗浄性及び熱回収率を向上することができる多管式熱交換器及び熱交換システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】熱交換システムの概略図である。
図2】多管式熱交換器の断面図である。
図3】着脱構造を示す断面図である。
図4図1の一部を拡大した断面図である。
図5】バッフル板の斜視図である。
図6】多管式熱交換器とバッフル板の配置を説明するための図である。
図7】バッフル板の平面図である。
図8】伸縮部の変形例を示す断面図である。
図9】上流蓋部材及び下流蓋部材の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1から図4を用いて、本実施形態に係る多管式熱交換器(以降、熱交換器ともいう)及びこれを用いた熱交換システムを説明する。なお、図1においてシェル流入口21、シェル流出口22、チューブ流入口65、チューブ流出口66は、作図の都合上、図2のものとは配置を異ならせている。また、実施形態の説明は例示であり、本発明は以下の説明に限定されない。
【0014】
図1に示すように、熱交換システム2は、3台の多管式熱交換器1と、被処理液体を加熱する加熱手段70とを備えている。3台の多管式熱交換器1は、被処理液体同士で熱交換を行うように構成されており、それぞれ個別に言及する際には1A、1B、1Cの符号を用いる。
【0015】
加熱手段70は、多管式熱交換器71と、加熱装置群72とから構成されている。多管式熱交換器71は、一般的な多管式熱交換器であり、被処理液体をそれとは異なる熱媒で熱交換するように構成されている。
【0016】
加熱装置群72は、蒸気や熱水などの熱媒体を多管式熱交換器71のシェルに供給するための装置群からなる。例えば、加熱装置群72は、温水や蒸気などの熱媒を製造する熱媒製造装置、熱媒を多管式熱交換器71に送るためのポンプ、各種配管、バルブ等から構成されている。熱媒製造装置としては、ガスなどの燃料を燃焼して温水や蒸気を製造するものであってもよいし、他の装置や設備で発生した熱を用いて温水や蒸気を製造するものであってもよい。また熱媒製造装置は、多管式熱交換器71に送られる水に蒸気を吹き込むようにしてもよいし、又は、多管式熱交換器71に蒸気を直接吹き込むようにしてもよい。
【0017】
図2に示すように、熱交換器1は、チューブ10と、シェル20と、固定管板30と、バッフル板40とを備えている。熱交換器1は、チューブ10やシェル20が水平方向に延びるよう配置されている。なお、チューブ10やシェル20は、厳密に水平方向に延びている必要はなく、少なくとも垂直方向に延びておらず、斜め方向に延びていてもよい。
【0018】
チューブ10は、被処理液体が流通する部材であり、円筒状に形成されている。チューブ10には被処理液体が流通する。チューブ10は複数本使用されており、何れもシェル20内に配置されている。なお、チューブ10の具体的な本数については特に限定はないし、形状についても円筒に限らず、屈曲した形状であってもよい。
【0019】
シェル20は、複数のチューブ10を内部に収納する部材であり、円筒状に形成されている。また、シェル20には、液体の出入口となるシェル流入口21及びシェル流出口22が設けられている。
【0020】
シェル20には、バッフル板43とバッフル板44との間にベローズ25が形成されている。ベローズ25は、シェル20の外周面の一部が外側に向けて突出した山状の部分を、シェル20の長さ方向に複数個繰り返し設けたものである。本実施形態では3つの山状の部分が形成されてベローズ25を成している。なお、ベローズ25はこのような構成に限定されず、山状の部分を螺旋状に設けることでベローズとしてもよい。
【0021】
ベローズ25の大きさは、特に限定はないが、幅Wと高さHとの比をW/Hとする。W/Hが大きい(1より大)、すなわちベローズ25の各山の間隔が広く、低めである場合は、ベローズ25の内側に残留した被処理液を洗浄しやすい。W/Hが低い(1より小)、すなわちベローズ25の各山の間隔が狭く、高めである場合は、ベローズ25が伸縮しやすい。W/Hは、具体的には、0.8~1.2、さらには伸縮可能でかつ山の高さが高すぎない形状として0.90であることが好ましい。固定管板30をシェル20に固定、または着脱可能に固定する場合ではシェル20で伸縮差を抑える必要があることから、伸縮性を重視する1未満のW/Hが有用であり、かつ洗浄性を維持するために、0.9±0.3程度にすることが好ましいからである。
【0022】
シェル20の両端の開口は、固定管板30が固定されている。この固定管板30を覆うように半球状の上流蓋部材61、及び下流蓋部材62がそれぞれ装着されている。上流蓋部材61と固定管板30との間の空間を上流空間部63、下流蓋部材62と固定管板30との間の空間を下流空間部64と称する。上流空間部63は、複数のチューブ10に共通した流路を形成しており、上流蓋部材61に設けられたチューブ流入口65から上流空間部63を介して各チューブ10に液体が流通する。また、下流空間部64は、複数のチューブ10に共通した流路を形成しており、各チューブ10からチューブ流出口66を介して下流蓋部材62に設けられたチューブ流出口66に液体が流通する。
【0023】
固定管板30は、シェル20の開口に固定される円板状の部材である。図2の例では、固定管板30の側面がシェル20の内面に溶接されている。なお、固定管板30がシェル20に固定されるとは、少なくとも被処理液体を加熱している間においては固定管板30がシェル20に固定されていることをいう。したがって、被処理液体を加熱していない非運転時において固定管板30がシェル20から取り外すことが可能な構成であってもよい。このような着脱可能に固定するための固定管板30の構成については後述する。
【0024】
また、固定管板30には貫通孔31が形成されており、貫通孔31にはチューブ10が接続されている。例えば、チューブ10はその開口が貫通孔31に挿通され、チューブ10の外側側面が貫通孔31に溶接されている。このような溶接は、特許第5451115号に開示された技術を適用することが好ましい。このように固定管板30に両端部が支持されたチューブ10は、上流空間部63及び下流空間部64に連通している。
【0025】
図1を用いて、熱交換器1を用いて被処理液体同士で熱交換させるための構成について説明する。なお、被処理液体としては、飲料、医薬などの液状製品であり、特に限定はない。
【0026】
本実施形態では、3台の熱交換器1が直列的に接続されている。すなわち、
熱交換器1Aのチューブ流出口66が熱交換器1Bのチューブ流入口65に、
熱交換器1Bのチューブ流出口66が熱交換器1Cのチューブ流入口65に、
それぞれ配管を介して接続されている。
【0027】
このようにして3台の熱交換器1が直列的に接続された後では、熱交換器1Cのチューブ流出口66が配管を介して多管式熱交換器71のチューブ流入口65に接続されている。多管式熱交換器71のチューブ流出口66から流出した被処理液体は、加熱装置群72からの温水で加熱された後、多管式熱交換器1に熱媒として供給される。具体的には、多管式熱交換器71のチューブ流出口66が熱交換器1Cのシェル流入口21に、熱交換器1Cのシェル流出口22が熱交換器1Bのシェル流入口21に、熱交換器1Bのシェル流出口22が熱交換器1Aのシェル流入口21に、それぞれ配管を介して接続されている。
【0028】
このような構成の熱交換システム2では、被処理液体が熱交換器1A、1B、1Cのチューブ10を流通しながら、熱媒としての被処理液体によって加熱される。また、熱交換器1A、1B、1Cで加熱された被処理液体は、加熱手段70によって加熱された後に、熱媒として熱交換器1A、1B、1Cのシェル20に供給される。このように、熱交換器1A、1B、1Cにおいては、被処理液体同士で熱交換が行われる。
【0029】
なお、熱交換器1Aのシェル流出口22から流出した被処理液体は、次工程に送られる。次工程は特に限定はないが、例えば、被処理液体を冷却するための熱交換器や、被処理液体を一時的に貯留するタンクや、被処理液体を容器に充填する充填機などが挙げられる。また、熱交換器1Aのシェル流出口22から流出した被処理液体を、再度、熱交換器1Aのチューブ流入口65に戻すように構成してもよい。
【0030】
もちろん、被処理液体がチューブ10で加熱される場合に限定されず、冷却される構成であってもよい。この場合は、加熱手段70に替えて、被処理液体を冷却するための冷却手段を備えれば良い。また、チューブ10内を流れる被処理液体の方向と、シェル20内を流れる熱媒体としての被処理液体の方向が向かい合う向流を例示したが、並流であってもよい。
【0031】
次に、図3(a)を用いて、固定管板30をシェル20に着脱可能に固定する着脱構造80を備えた熱交換器1について説明する。なお、着脱構造80は、シェル20の片側だけを示すが、図示しない反対側でも同様である。
【0032】
着脱構造80は、シール部材81と、被クランプ部材84と、クランプ部材85と、を備えている。
【0033】
固定管板30は、その一部がシェル20の開口から外側に向けて突出している。この突出した一部を突出部33と称する。固定管板30の突出部33には外周面に沿った溝部32(図3(b)参照)が形成されている。また、シェル20の開口には、外側に突出したフランジ部23が形成されている。
【0034】
シール部材81は、EPDMにPTFEを被覆したゴム材からなる環状のガスケット82と、SUSなどからなる環状のガスケットリング83とから構成されている。もちろん、ガスケット82やガスケットリング83の材料はこれらに限定されない。ガスケット82は、固定管板30の外周面と、シェル20の開口近傍の内面との間を埋めるように配置されている。ガスケットリング83は、固定管板30の外周面に沿って装着され、シェル20の開口の一部に接するように配置されている。
【0035】
被クランプ部材84は、固定管板30の外周面に沿う弧状の2つの部材であり、例えばSUSから形成されている。2つの弧状の部材の両端同士を連結すると、固定管板30の外周面に沿う環状の部材となる。また、被クランプ部材84の一部はその溝部32に嵌合し、別の一部はフランジ部23に接している。
【0036】
クランプ部材85は、シェル20の外周面及び被クランプ部材84の外周面に沿う弧状の二つの部材であり、例えばSUSから形成されている。2つの弧状部材の両端同士は、図示しないボルト及びナットなどの締結部材によって固定することが可能となっている。
【0037】
被クランプ部材84とシェル20の開口(フランジ部23)とが接した状態で、それらの外側から挟み込むようにして2つのクランプ部材85が取り付られている。そして、それらのクランプ部材85の両端同士が図示しない締結部材で固定されている。
【0038】
これにより、被クランプ部材84が固定管板30の突出部33に向けて荷重を掛けた状態が維持されている。すなわち、クランプ部材85の荷重によって、固定管板30がシェル20の開口近傍に固定されている。さらに被クランプ部材84は、固定管板30の溝部32に嵌合しているので、固定管板30がシェル20の長手方向に沿って移動することをより確実に防止することができる。
【0039】
また、締結部材を解除してクランプ部材85を取り外すことで、シール部材81、被クランプ部材84を取り外すことができる。この結果、シェル20からチューブ10とともに固定管板30を取り外すことができる。このような着脱構造80によれば、固定管板30をシェル20に着脱可能に固定することが可能となっている。
【0040】
なお、シール部材81は、上述したように2つの部材に限定されない。シール部材81は、シェル20の内面と固定管板30の側面との間を液密にするための構成であればよく、個数としては上述したように2つに限らず1つ又は3つ以上でもよいし、材質もEPDM、PTFEやSUSに限定されない。さらに、被クランプ部材84としては、上述したような2つの弧状の部材に限定されず、クランプ部材85が内側に締め付ける力を固定管板30に伝達することができる部材であればよい。
【0041】
また、上流蓋部材61、及び図示しない下流蓋部材62は、固定管板30の突出部33に着脱可能であってもよい。図3(a)に示す例では、上流蓋部材61側に面した固定管板30の表面の外周近傍を周縁部34とする。上流蓋部材61は、その開口部61aが周縁部34に接した状態で、クランプ部材90によって固定管板30の突出部33に着脱可能に取り付けられている。
【0042】
図3(b)には上流蓋部材61を固定管板30ではなくシェル20に固定した場合を示す。具体的には、上流蓋部材61は、開口部61aが突出部33の外側を覆うような配置となっており、その状態で被クランプ部材84などとともにクランプ部材85によりシェル20に着脱可能に固定されている。
【0043】
図3(a)、図3(b)における、上流蓋部材61の開口部61aの開口幅のそれぞれをφd、φDとする。図3(a)では、開口幅φdは、固定管板30の直径よりも小さくできる、一方、図3(b)では、開口幅φDは、固定管板30の直径よりも大きくなる。すなわち、開口幅の関係は、φD>φdとなる。
【0044】
したがって、図3(a)の上流蓋部材61の内部を流通する流体の流速を早くすることができ、この結果、熱交換器1の洗浄性が向上する。
【0045】
また、図3(a)の構成においては、固定管板30の表面(上流蓋部材61側の面)と上流蓋部材61の開口部61aとの間にシール部材100を配置できる。一方、図3(b)の構成においては、固定管板30の外周面と上流蓋部材61の内周面との間にシール部材101を配置できる。図3(b)のシール部材101は、固定管板30の外周に位置するため、流体の流れから離れているのに対し、図3(a)のシール部材100は、流体の流れに近い。したがって、図3(a)のように上流蓋部材61をシェル20に固定した構造の方が洗浄性を向上させることができる。なお、上流蓋部材61について説明したが、下流蓋部材62についても同様の作用効果がある。
【0046】
次に、図4図7を用いてバッフル板40について説明する。バッフル板40は、第1挿通孔51及び第2挿通孔52を有する円板状の部材である。バッフル板40は、少なくとも2枚以上、本実施形態では6枚がシェル20の内部において固定管板30の間に配置されている。以後、これらの6枚について個別に説明するときはバッフル板41~46と称し、区別せずに説明するときはバッフル板40と称する。
【0047】
第1挿通孔51は、複数のチューブ10が挿通可能な貫通孔である。本実施形態では、バッフル板40に半月状の貫通孔からなる第1挿通孔51が一個形成されている。また、第1挿通孔51と、複数のチューブ10との間には隙間S1が確保されている。
【0048】
第2挿通孔52は、一本のチューブ10が挿通可能な貫通孔である。本実施形態では、バッフル板40に円形状の貫通孔からなる第2挿通孔52が6個形成されている。また、第2挿通孔52と、チューブ10との間の隙間S2は実質的にゼロである。
【0049】
図6は、各バッフル板41からバッフル板46の配置を示す図である。同図のシェル20の下側には、平面視のバッフル板41からバッフル板46を示している。
【0050】
バッフル板43及びバッフル板44は、少なくとも2枚のバッフル板であり、これらのバッフル板43及びバッフル板44の間に上述したベローズ25が配置されている。バッフル板43及びバッフル板44は、シェル20に配置された状態における平面視(つまりシェル20の開口を正面から見る方向における平面視)において、バッフル板43及びバッフル板44の第1挿通孔51同士が重なっている。そして、バッフル板43及びバッフル板44は、鉛直方向において第1挿通孔51が第2挿通孔52よりも上方になるように配置されている。
【0051】
バッフル板41及びバッフル板46は、鉛直方向において第1挿通孔51が第2挿通孔52よりも下方になるように配置されている。また、バッフル板42は第1挿通孔51が右側になるように配置され、バッフル板45は第1挿通孔51が左側になるように配置されている。
【0052】
各チューブ10は、チューブ10の配置に応じて、各バッフル板40の第1挿通孔51又は第2挿通孔52の何れかを挿通している。例えば、あるチューブ10は、バッフル板41、バッフル板42、バッフル板45及びバッフル板46では第2挿通孔52を挿通し、バッフル板43及びバッフル板44では第1挿通孔51を挿通している。
【0053】
図7を用いて、バッフル板43及びバッフル板44について詳細に説明する。バッフル板43及びバッフル板44の鉛直方向における上半分側の一部を第1領域R1、下半分側の一部を第2領域R2と称する。
【0054】
第1領域R1には、第1挿通孔51が設けられており、第1挿通孔51には複数本のチューブ10が挿通されている。第1領域R1では、第1挿通孔51とチューブ10との間に隙間S1がある。この隙間S1に熱媒としての被処理液体が流通する。
【0055】
第2領域R2には、複数の第2挿通孔52が設けられており、各第2挿通孔52にはチューブ10が挿通されている。第2挿通孔52とチューブ10との間の隙間S2は実質的には無いので、第2領域R2では、熱媒としての被処理液体が流通しない。
【0056】
このようなバッフル板43及びバッフル板44をシェル20に配置することにより、シェル20の流路の断面積は実質的に隙間S1の面積に絞られることになる。このため、シェル20の流路においては、バッフル板43からバッフル板44に亘り、鉛直方向における上半分側の流速が下半分側よりも相対的に早くなる(図6の流速を示す矢印参照)。
【0057】
バッフル板43とバッフル板44との間にはベローズ25が設けられている。特に上側のベローズ25には、熱媒としての被処理液体に含まれる気泡が滞留する可能性がある。しかしながら、シェル20の上半分側においては、バッフル板43及びバッフル板44により被処理液体の流速が早くなっているので、その気泡を下流に向けて排除しやすくなっている。ベローズ25に気泡が滞留すると焦げ付く虞があるが、気泡が排除されやすくなっているので、焦げ付きを抑制することができる。
【0058】
以上に説明したように、熱交換器1及びこれを備える熱交換システム2は、被処理液体同士で熱交換を行うよう構成され、ベローズ25を備えるシェル20に固定管板30が固定されている。
【0059】
従来では、熱交換器1についても加熱手段70を設ける必要があったので、熱回収率を向上することができなかった。しかし、熱交換器1及び熱交換システム2は加熱手段70によって加熱された被処理液体を熱媒として熱交換器1で利用するので、熱回収率が向上する。
【0060】
また、熱交換器1及び熱交換システム2は、チューブ10が固定管板30を介してシェル20に固定されていても、チューブ10とシェル20の熱による伸縮差はベローズ25によって吸収することができる。
【0061】
さらに、シェル20に対して移動可能な遊動管板ではなくシェルに固定された固定管板30としたことで、固定管板30とシェル20とを溶接して隙間をなくし、あるいは図3のように隙間にシール部材81を配置できる。これにより、当該隙間に被処理液体が付着することがないし、洗浄すれば被処理液体の残留をより確実に防ぐことができる。このように本実施形態の熱交換器1及び熱交換システム2によれば、チューブ10とシェル20の伸縮差を吸収し、被処理液体の洗浄性及び熱回収率を向上することができる。
【0062】
また、熱交換器1は、固定管板30をシェル20に着脱可能に固定する着脱構造80を備えている。これにより、チューブ10と共に固定管板30をシェル20から取り外せるので、例えば洗浄後にシェル20の内部が確実に洗浄されているかを目視で確認することができる。
【0063】
また、熱交換器1は、着脱構造80として、シール部材81、被クランプ部材84、クランプ部材85を備えている。これによれば、簡易な構造で容易に着脱することができる着脱構造80を実現することができる。
【0064】
また、熱交換器1は、上流蓋部材61、下流蓋部材62を固定管板30の突出部33に着脱可能に取り付けられるものとした。上流蓋部材61及び下流蓋部材62をシェル20に着脱しないので、シェル20に上流蓋部材61及び下流蓋部材62を取り付ける部分の摩耗を回避できる。また、図3(a)に示したように、上流蓋部材61の内部を流通する流体の流速を早くすることができ、この結果、熱交換器1の洗浄性が向上する。さらに、流体の流れに近い、上流蓋部材61と固定管板30の表面との間にシール部材100を配置できる。これにより、シール部材100に対する洗浄性を向上させることができる。
【0065】
また、熱交換器1は、ベローズ25がシェル20の内部に装着したバッフル板43及びバッフル板44の間に設けられている。この構成により、シェル20の内部を流通する熱媒としての被処理液体に含まれる気泡がベローズ25の窪みに入り込んだとしても、バッフル板43及びバッフル板44によって高速化された流速によって気泡をシェル20の外へ排出することができる。気泡をシェル20の外へ排出できるので、気泡による熱交換性能の低下や、気泡周辺における被処理液体の焦げ付きをより確実に防止することができる。
【0066】
このように、本実施形態の熱交換器1によれば、チューブ10とシェル20の伸縮差により生ずる応力を低減し、気泡の滞留を抑制できるという効果を奏する。
【0067】
本実施形態の熱交換器1は、第1挿通孔51及び第2挿通孔52を有し、隙間S1の面積が隙間S2の面積よりも大きくなっている。このようなバッフル板43及びバッフル板44は、シェル20の鉛直方向の上半分側において被処理液体の流速を速めるために適した形状であるので、より確実に、流速による気泡の排出性を向上させることができる。
【0068】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
【0069】
図1では伸縮部としてベローズ25を例示したが、これに限定されない。図8に示すように伸縮部としてダイアフラム29を用いてもよい。図8(a)に示すシェル20Aは、管状の部材である第1シェル26及び第2シェル27がダイアフラム29によって連結されている。ダイアフラム29が伸縮することで、チューブ(図示せず)とシェル20Aとの熱による伸縮差が吸収される。
【0070】
また、図8(b)に示すシェル20Bは、第1シェル26の一方の開口が徐々に拡径した広径部28となっている。この広径部28がダイアフラム29によって第2シェル27に連結されている。このように、開口径が異なる二つの管状の第1シェル26及び第2シェル27をダイアフラム29によって連結させてもよい。
【0071】
図1に示した熱交換システム2では、3台の熱交換器1を直列に接続したものを例示したがこれに限定されない。熱交換器1の台数は1台又は複数台でよい。また、加熱手段70を構成する機器として多管式熱交換器71を用いたが、これに限定されない。多管式以外、例えばプレート式の熱交換器でもよい。
【0072】
また、バッフル板43及びバッフル板44の間にベローズ25が位置させる必要はない。すなわち、ベローズ25の位置に関係なくバッフル板40を配置してもよい。
【0073】
バッフル板40に設けた第1挿通孔51に挿通させるチューブ10の本数や配置は、図7に示したものに限定されず、任意に設定することができる。また、第2挿通孔52の個数及び配置についても図7に示したものに限定されず、任意に設定することができる。
【0074】
また、バッフル板43及びバッフル板44は、上述したような形状に限定されない。例えば、第1挿通孔51は一つではなく複数あってもよい。第1挿通孔51が複数ある場合は、複数の第1挿通孔51についてチューブ10との隙間の面積を合計したものが隙間S2の面積よりも広くなればよい。
【0075】
また、第1挿通孔51がバッフル板43及びバッフル板44の上半分側の第1領域R1にのみ設けられている必要はない。例えば、第1挿通孔51の一部が下半分側にまで拡張されていてもよい。この場合、第1挿通孔51とチューブ10との隙間のうち、上半分の第1領域R1内の面積を採用すればよい。また、第2挿通孔52とチューブ10との間の隙間S2は、実質的にゼロとしたが、これに限定されない。
【0076】
バッフル板43及びバッフル板44は円板状とし、シェル20の内周面に接触するような形状としたがこれに限定されない。例えば、バッフル板を半月状とし、シェル20の鉛直方向における下側に取り付けてもよい。シェル20の鉛直方向の下側に配置されたバッフル板により、シェル20の断面積が小さくなるので、シェル20の鉛直方向の上側において液体の流速を速めることができる。
【0077】
結局、どのような形状の第1挿通孔51及び第2挿通孔52であっても、シェル20により形成された流路のうち、鉛直方向における上半分側で流速が速く、下側部分で流速が遅くなるようにバッフル板の形状及び配置を構成すればよい。
【0078】
また、バッフル板43及びバッフル板44は、第1挿通孔51が平面視で重なるように配置されていたが、これに限定されない。すなわち、バッフル板43及びバッフル板44の第1挿通孔51は平面視で一部が重なっていればよい。さらに、バッフル板43及びバッフル板44の第1挿通孔51の形状は異なっていてもよい。
【0079】
また、図2には、半球状の上流蓋部材61、下流蓋部材62を例示したがこのような形状に限定されない。図9に上流蓋部材61A、下流蓋部材62Aの変形例を示す。
【0080】
上流蓋部材61Aは、先端のチューブ流入口65から徐々に拡径した漏斗状の形状を有している。チューブ流入口65とは反対側の広い開口部は、シェル20の開口に連結されている。下流蓋部材62Aについても同様である。
【0081】
また上流蓋部材61のチューブ流入口65と、下流蓋部材62Aのチューブ流出口66は、シェル20が延びる方向から見てズレている。つまり、チューブ流入口65とチューブ流出口66は、シェル20の中心Cから偏心している。
【0082】
このように上流蓋部材、下流蓋部材の形状は漏斗状であってもよいし、先に示したように半球状であってもよいし、形状に限定はない。さらに、チューブ流入口及びチューブ流出口の配置についても、図9のように偏心していてもよいし、図示しないがシェル20の中心に合うように配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0083】
S1、S2…隙間、1…多管式熱交換器(熱交換器)、2…熱交換システム、10…チューブ、20、20A、20B…シェル、25…ベローズ(伸縮部)、29…ダイアフラム(伸縮部)、30…固定管板、33…突出部、40~46…バッフル板、51…第1挿通孔、52…第2挿通孔、61…上流蓋部材(蓋部材)、62…下流蓋部材(蓋部材)、70…加熱手段、80…着脱構造、81…シール部材、84…被クランプ部材、85、90…クランプ部材
【要約】
【課題】シェルとチューブの伸縮差を吸収し、被処理液体の洗浄性及び熱回収率を向上することができる多管式熱交換器及び熱交換システムを提供する。
【解決手段】シェル20、複数のチューブ10、及びチューブ10の両端部を支持する固定管板30を備え、固定管板30は、シェル20に固定され、シェル20は、長手方向に伸縮するベローズ25を有し、チューブ10及びシェル20に同じ被処理液体を流通させ、被処理液体同士で熱交換するように構成されている。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9