(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】リアクトル
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20220318BHJP
H01F 27/24 20060101ALI20220318BHJP
H01F 27/06 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
H01F37/00 T
H01F37/00 G
H01F37/00 A
H01F37/00 J
H01F37/00 M
H01F27/24 K
H01F27/06 101
(21)【出願番号】P 2018106543
(22)【出願日】2018-06-01
【審査請求日】2020-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 健人
(72)【発明者】
【氏名】舌間 誠二
(72)【発明者】
【氏名】吉川 浩平
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-051320(JP,A)
【文献】特開2013-219318(JP,A)
【文献】国際公開第2012/090258(WO,A1)
【文献】特開2017-055096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
H01F 27/24
H01F 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の巻回部を有するコイルと、
前記
一対の巻回部の内外に配置されて、閉磁路を形成するように
枠状に組み付けられる複数のコア片を含む磁性コアと、
前記コイルと前記磁性コアとを含む組物を収納するケースとを備え、
前記組物は、前記ケースの深さ方向に前記一対の巻回部が上下に並ぶように前記ケースに収納され、
前記磁性コアは、前記
一対の巻回部外に配置される部分を含む二つの外側コア片
と、前記一対の巻回部内にそれぞれ配置される内側コア片とを備え
、
前記ケースは、その内壁面において各外側コア片の外端面に対向する第一の対向面及び第二の対向面と、前記第一の対向面及び前記第二の対向面の少なくとも一方に設けられ、前記ケースの開口側から前記ケースの内底面側に向かって両対向面間の間隔が狭くなるように傾斜するケース傾斜面とを備え、
前記外側コア片の外端面側に設けられ、前記ケース傾斜面に面接触するコア傾斜面を備えるリアクトル。
【請求項2】
前記外側コア片の外端面に直接設けられる前記コア傾斜面を備える請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記外側コア片の外端面の全体に設けられる前記コア傾斜面を備える請求項2に記載のリアクトル。
【請求項4】
前記ケースは、前記内壁面から前記ケースの内側に向かって張り出した突出部を有し、
前記外側コア片は、前記突出部が嵌められるスリット部を有し、
前記ケース傾斜面は、前記突出部に設けられ、
前記コア傾斜面は、前記スリット部を形成する内周面に設けられる請求項
2に記載のリアクトル。
【請求項5】
前記外側コア片に着脱可能であり、前記外側コア片の外端面の少なくとも一部に面接触する樹脂部材を備え、
前記樹脂部材に設けられる前記コア傾斜面を備える請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項6】
巻回部を有するコイルと、
前記巻回部の内外に配置されて、閉磁路を形成するように組み付けられる複数のコア片を含む磁性コアと、
前記コイルと前記磁性コアとを含む組物を収納するケースとを備え、
前記磁性コアは、前記巻回部外に配置される部分を含む二つの外側コア片を備え、
前記ケースは、その内壁面において各外側コア片の外端面に対向する第一の対向面及び第二の対向面と、前記第一の対向面及び前記第二の対向面の少なくとも一方に設けられ、前記ケースの開口側から前記ケースの内底面側に向かって両対向面間の間隔が狭くなるように傾斜するケース傾斜面と
、前記内壁面から前記ケースの内側に向かって張り出した突出部とを備え、
前記外側コア片は、前記外側コア片の外端面
に直接設けられ、前記ケース傾斜面に面接触するコア傾斜面
と、前記突出部が嵌められるスリット部とを備え
、
前記ケース傾斜面は、前記突出部に設けられ、
前記スリット部を形成する内周面に設けられる前記コア傾斜面を備えるリアクトル。
【請求項7】
前記外側コア片に着脱可能であり、前記外側コア片の外端面の少なくとも一部に面接触する樹脂部材を備え、
前記樹脂部材に設けられる前記コア傾斜面を備える請求項
6に記載のリアクトル。
【請求項8】
巻回部を有するコイルと、
前記巻回部の内外に配置されて、閉磁路を形成するように組み付けられる複数のコア片を含む磁性コアと、
前記コイルと前記磁性コアとを含む組物を収納するケースと、
樹脂部材とを備え、
前記磁性コアは、前記巻回部外に配置される部分を含む二つの外側コア片を備え、
前記ケースは、その内壁面において各外側コア片の外端面に対向する第一の対向面及び第二の対向面と、前記第一の対向面及び前記第二の対向面の少なくとも一方に設けられ、
前記ケースの開口側から前記ケースの内底面側に向かって両対向面間の間隔が狭くなるように傾斜するケース傾斜面とを備え、
前記樹脂部材は、前記外側コア片に着脱可能であり、前記外側コア片の外端面の少なくとも一部に面接触する面と、前記ケース傾斜面に面接触するコア傾斜面
とを備えるリアクトル。
【請求項9】
前記外側コア片の外端面に直接設けられる前記コア傾斜面を備える請求項
8に記載のリアクトル。
【請求項10】
前記外側コア片の外端面の全体に設けられる前記コア傾斜面を備える請求項
9に記載のリアクトル。
【請求項11】
前記外側コア片と前記樹脂部材とは互いに嵌め合わされる係合部を有し、前記樹脂部材は、前記係合部によって前記外側コア片に取り付けられる請求項
5及び請求項7から請求項10のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項12】
前記ケース傾斜面及び前記コア傾斜面における前記ケースの深さ方向に対する傾斜角度が10°以下である請求項1から請求項
11のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項13】
前記ケース内に充填され、前記組物を埋設する封止樹脂を備える請求項1から請求項
12のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項14】
前記複数のコア片のうち、隣り合う前記コア片に互いに嵌め合わされる凹部及び凸部を備える請求項1から請求項
13のいずれか1項に記載のリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車載コンバータ等に用いられるリアクトルを開示する。このリアクトルは、一対の巻回部を備えるコイルと、巻回部の内外に配置され、環状に組み付けられる複数のコア片を有する磁性コアと、コイルと磁性コアとの組物を収納するケースと、上記組物をケース内に埋設する封止樹脂とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コア片同士の接触状態を長期に亘り良好に維持できつつ、製造性にも優れるリアクトルが望まれている。
【0005】
特許文献1では、ケースの側壁部を樹脂製とすると共に、ケース内部に向かって突出する樹脂製の二つの押圧突起をそれぞれ側壁部の対向位置に一体に設けることで、両押圧突起によって磁性コアを巻回部の軸方向に締め付けられるため、コア片同士を接合する接着剤を省略できるとする。しかし、押圧突起が樹脂からなることで組立時に摩滅し過ぎたり、経年劣化したりする等によって、コア片同士の接触状態が変化し、コア片間の隙間から漏れ磁束が生じる虞がある。
【0006】
そこで、コア片同士の接触状態を維持できる上に製造性にも優れるリアクトルを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のリアクトルは、
巻回部を有するコイルと、
前記巻回部の内外に配置されて、閉磁路を形成するように組み付けられる複数のコア片を含む磁性コアと、
前記コイルと前記磁性コアとを含む組物を収納するケースとを備え、
前記磁性コアは、前記巻回部外に配置される部分を含む二つの外側コア片を備え、
前記ケースは、その内壁面において各外側コア片の外端面に対向する第一の対向面及び第二の対向面と、前記第一の対向面及び前記第二の対向面の少なくとも一方に設けられ、前記ケースの開口側から前記ケースの内底面側に向かって両対向面間の間隔が狭くなるように傾斜するケース傾斜面とを備え、
前記外側コア片の外端面側に設けられ、前記ケース傾斜面に面接触するコア傾斜面を備える。
【発明の効果】
【0008】
上記のリアクトルは、コア片同士の接触状態を維持できる上に製造性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1のリアクトルを示す概略正面図である。
【
図2】実施形態1のリアクトルの組立手順を示す工程説明図である。
【
図3】実施形態2のリアクトルを示す概略正面図である。
【
図4】実施形態2のリアクトルに備えられる外側コア片の概略斜視図である。
【
図5】実施形態2のリアクトルに備えられるケースにおいて、
図3に示す(V)-(V)切断線で切断した状態を示す断面図である。
【
図6】実施形態3のリアクトルを示す概略正面図である。
【
図7】実施形態3のリアクトルに備えられる組物の組立手順を示す工程説明図である。
【
図8】実施形態4のリアクトルの組立手順を示す工程説明図である。
【
図9】実施形態5のリアクトルに備えられる磁性コアの組立手順を示す工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本発明の実施形態の説明]
最初に、本発明の実施態様を列記して説明する。
(1)本発明の一態様に係るリアクトルは、
巻回部を有するコイルと、
前記巻回部の内外に配置されて、閉磁路を形成するように組み付けられる複数のコア片を含む磁性コアと、
前記コイルと前記磁性コアとを含む組物を収納するケースとを備え、
前記磁性コアは、前記巻回部外に配置される部分を含む二つの外側コア片を備え、
前記ケースは、その内壁面において各外側コア片の外端面に対向する第一の対向面及び第二の対向面と、前記第一の対向面及び前記第二の対向面の少なくとも一方に設けられ、前記ケースの開口側から前記ケースの内底面側に向かって両対向面間の間隔が狭くなるように傾斜するケース傾斜面とを備え、
前記外側コア片の外端面側に設けられ、前記ケース傾斜面に面接触するコア傾斜面を備える。
【0011】
上記のリアクトルは、以下に説明するように、コア片同士の接触状態を維持できる上に製造性にも優れる。
【0012】
(接触状態)
上記のリアクトルでは、ケースの内壁面のうち、両外側コア片の外端面を挟むように配置される第一の対向面及び第二の対向面の少なくとも一方にケース傾斜面が設けられ、このケース傾斜面と外側コア片側のコア傾斜面とが面接触する。この面接触によって、両外側コア片を互いに近接する方向に押し付ける力(以下、押付力と呼ぶことがある)が両外側コア片に作用する。上記のリアクトルに備えられる磁性コアが、両外側コア片間に介在されるコア片を含む場合には、上述の押付力によって外側コア片間に挟まれた状態が維持されると共に、隣り合うコア片同士が接触した状態が維持される。このようなリアクトルは、隣り合うコア片同士が接着剤等で接合されていなくても、上記コア片同士の接触状態を適切に維持できる。特に、上記のリアクトルでは、上述の面接触によって、外側コア片における押付力が作用する領域を広く確保できるため、コア片同士の接触状態が変化し難い。従って、上記のリアクトルは、接着剤等による接合がなされていなくても、隣り合うコア片同士の接触状態を長期に亘り適切に維持できる。ひいては、コア片間からの漏れ磁束に起因する特性の低下、コア片間に隙間が生じることに起因する騒音や振動等も防止できる。ケースの両対向面がそれぞれケース傾斜面を備えると共に、両外側コア片側にそれぞれコア傾斜面を備える場合には、各外側コア片への押付力を均一的にし易く、コア片同士の接触状態をより適切に維持し易い。
【0013】
(製造性)
上記のリアクトルでは、上述のようにコア片同士を接合する接着剤を不要にできるため、接着剤の塗布工程や固化工程等を省略できる。また、コイルと磁性コアとを組み付けた状態で、ケース傾斜面にコア傾斜面を滑らせるようにして上記組物をケースに収納すれば、上述の押付力を自動的に発生できる。更に、磁性コアを所定の形状に組み付けた状態を容易にかつ自動的に保持できる。これらの点から、上記のリアクトルは製造性に優れる。
【0014】
(2)上記のリアクトルの一例として、
前記外側コア片の外端面に直接設けられる前記コア傾斜面を備える形態が挙げられる。
【0015】
上記形態は、上述の押付力が外側コア片の外端面に直接作用する点から、コア片同士の接触状態をより維持し易い。また、上記形態は、外側コア片とは独立した部材(後述の樹脂部材参照)にコア傾斜面を備える場合に比較して、部品点数が少ない点から、製造性により優れる。
【0016】
(3)上記(2)のリアクトルの一例として、
前記外側コア片の外端面の全体に設けられる前記コア傾斜面を備える形態が挙げられる。
【0017】
上記形態は、上述の押付力が外側コア片の外端面の実質的に全体に作用する点から、コア片同士の接触状態を更に維持し易い。
【0018】
(4)上記(2)又は(3)のリアクトルの一例として、
前記ケースは、前記内壁面から前記ケースの内側に向かって張り出した突出部を有し、
前記外側コア片は、前記突出部が嵌められるスリット部を有し、
前記ケース傾斜面は、前記突出部に設けられ、
前記コア傾斜面は、前記スリット部を形成する内周面に設けられる形態が挙げられる。
【0019】
上記形態は、ケースの突出部と外側コア片のスリット部との嵌め合いによって外側コア片におけるケースに対する位置決めを容易にかつ精度よく行える点から、製造性により優れる。また、上記形態は、外側コア片の移動方向をコア傾斜面の傾斜方向に沿った方向に規制できるため、コア片同士が接触した状態を更に維持し易い。
【0020】
(5)上記のリアクトルの一例として、
前記外側コア片に着脱可能であり、前記外側コア片の外端面の少なくとも一部に面接触する樹脂部材を備え、
前記樹脂部材に設けられる前記コア傾斜面を備える形態が挙げられる。
【0021】
上記形態は、外側コア片とは独立した樹脂部材が必要であるものの、コア傾斜面の具備に伴う外側コア片の増大を招かず、軽量にし易い。また、上記形態は、外側コア片を比較的単純な形状にし易く、外側コア片を製造し易い点で製造性により優れる。更に、上記形態は、樹脂といった絶縁材料からなる樹脂部材によって、外側コア片とケースとの間の電気的絶縁性を高められる。加えて、樹脂部材によって、コア片の製造公差を吸収できる場合がある(後述の実施形態4参照)。
【0022】
(6)上記(5)のリアクトルの一例として、
前記外側コア片と前記樹脂部材とは互いに嵌め合わされる係合部を有し、前記樹脂部材は、前記係合部によって前記外側コア片に取り付けられる形態が挙げられる。
【0023】
上記形態は、外側コア片に樹脂部材を容易に取り付けられる上に、樹脂部材を備える組物をケースに収納し易い点から、製造性に優れる。また、上記形態は、係合部によって外側コア片と樹脂部材とが位置ずれし難く、樹脂部材を介して上述の押付力を外側コア片により確実に作用させられて、コア片同士が接触した状態をより維持し易い。
【0024】
(7)上記のリアクトルの一例として、
前記ケース傾斜面及び前記コア傾斜面における前記ケースの深さ方向に対する傾斜角度が10°以下である形態が挙げられる。
【0025】
上記形態は、傾斜角度が上記範囲であるため、上述の押付力を適切に発現できつつ、特にコア傾斜面を外側コア片に直接備える場合に外側コア片の増大を低減し易く、小型、軽量にし易い。
【0026】
(8)上記のリアクトルの一例として、
前記ケース内に充填され、前記組物を埋設する封止樹脂を備える形態が挙げられる。
【0027】
上記形態は、封止樹脂によって複数のコア片を組み付けた状態を維持し易いため、コア片同士の接触状態をより維持し易い。
【0028】
(9)上記のリアクトルの一例として、
前記複数のコア片のうち、隣り合う前記コア片に互いに嵌め合わされる凹部及び凸部を備える形態が挙げられる。
【0029】
上記形態は、製造過程で、隣り合うコア片のうち、一方のコア片の凹部と他方のコア片の凸部とを嵌め合うことで両コア片を容易に位置決めできて組み付け易い上に、隣り合うコア片同士が位置ずれし難い。このような形態は、製造性により優れる上に、コア片同士の接触状態をより維持し易い。
【0030】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を具体的に説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0031】
[実施形態1]
図1,
図2を参照して、実施形態1のリアクトル1Aを説明する。
図1は、ケース4についてはその深さ方向に平行な平面で切断した断面を示す。また、
図1ではケース4の収納物のうち、組物10については外観を示し、封止樹脂9については二点鎖線で仮想的に示す。これらの点は、後述の
図3、
図6、
図8についても同様である。
図2に示すケース4の一部は外観を示し、他部はケース4を切り欠いた断面を示す。
図2及び後述する図において傾斜角度θは分かり易いように大きく示し、後述する数値範囲を満たさないことがある。
【0032】
(リアクトル)
〈概要〉
実施形態1のリアクトル1Aは、
図1に示すように、巻回部を有するコイル2と、巻回部の内外に配置される磁性コア3と、コイル2と磁性コア3とを含む組物10を収納するケース4とを備える。本例のコイル2は一対の巻回部2a,2bを有し、各巻回部2a,2bは各軸が平行し、巻回部2a,2bが隣り合って並ぶように配置される。磁性コア3は、閉磁路を形成するように組み付けられる複数のコア片を含む。特に、磁性コア3は、巻回部2a,2b外に配置される部分を含む二つの外側コア片32A,32Aを備える。本例のリアクトル1Aでは、ケース4の深さ方向(
図1,
図2では上下方向)に対して巻回部2a,2bが上下に並ぶように、組物10がケース4内に収納される(以下、この収納形態を縦積み形態と呼ぶことがある)。本例では巻回部2aがケース4の底部40側に位置する。また、本例のリアクトル1Aは、ケース4内に充填され、組物10を埋設する封止樹脂9を備える。このようなリアクトル1Aは、代表的には、ケース4の底部40がコンバータケース等の設置対象(図示せず)に取り付けられて使用される。この設置状態は例示であり、リアクトル1Aの設置方向は適宜変更できる。
【0033】
ケース4は、底部40と側壁部41とを備える有底筒状の容器である。側壁部41の内周面、即ち内壁面41iは、ケース4内に収納された組物10の外周面を囲む。実施形態1のリアクトル1Aでは、特に、外側コア片32Aの外端面32oと、ケース4の内壁面41iのうち外側コア片32Aの外端面32oとの対向箇所とが両外側コア片32A,32Aを近接する方向に押し付け可能な形状を有する。詳しくは、ケース4は、その内壁面41iにおいて各外側コア片32A,32Aの外端面32o,32oに対向する第一の対向面4a及び第二の対向面4bと、第一の対向面4a及び第二の対向面4bの少なくとも一方に設けられるケース傾斜面43とを備える。ケース傾斜面43は、ケース4の開口側からケース4の内底面40i側に向かって両対向面4a,4b間の間隔が狭くなるように傾斜する。本例では両対向面4a,4bにそれぞれ、ケース傾斜面43,43を備える。かつ、リアクトル1Aは、外側コア片32Aの外端面32o側に設けられ、ケース傾斜面43に面接触するコア傾斜面33を備える。本例では、両外側コア片32A,32Aの外端面32o,32oにそれぞれ、直接設けられるコア傾斜面33,33を備える。また、本例では、各コア傾斜面33,33は、外端面32o,32oの全体に設けられている。実施形態1のリアクトル1Aは、ケース傾斜面43とコア傾斜面33との面接触によって、上述の近接方向の押付力を両外側コア片32A,32Aに作用させられる。以下、構成要素ごとに詳細に説明する。
【0034】
〈コイル〉
本例のコイル2は、巻線が螺旋状に巻回されてなる筒状の巻回部2a,2bを備える。一対の巻回部2a,2bを備えるコイル2として、以下の形態が挙げられる。
(α)独立した2本の巻線によってそれぞれ形成される巻回部2a,2bと、巻回部2a,2bから引き出される巻線の両端部のうち、一方の端部同士を接続する接続部とを備える。
(β)1本の連続する巻線から形成される巻回部2a,2bと、巻回部2a,2b間に渡される巻線の一部からなり、巻回部2a,2bを連結する連結部とを備える。
上述のいずれの形態も、各巻回部2a,2bから延びる巻線の端部は、ケース4外に引き出されて、電源等の外部装置が接続される箇所として利用される。形態(α)の接続部は、巻線の端部同士が溶接や圧着等によって直接接合される形態、適宜な金具等を介して間接的に接続される形態が挙げられる。なお、
図1,
図2及び後述の図では、説明の便宜上、巻回部2a,2bのみ示し、巻線の端部、接続部や連結部を省略している。
【0035】
巻線は、銅等からなる導体線と、ポリアミドイミド等の樹脂からなり、導体線の外周を覆う絶縁被覆とを備える被覆線が挙げられる。本例の巻回部2a,2bは、被覆平角線からなる巻線をエッジワイズ巻して形成された四角筒状のエッジワイズコイルであり、形状・巻回方向・ターン数等の仕様を同一とする。エッジワイズコイルは、占積率を高め易く、小型なコイル2とすることができる上に、四角筒状であれば、四つの長方形状の平面を外周面に含むことができる。上記四つの平面のうち、複数の面がケース4の内壁面41iや内底面40iに近接されることで、小型なリアクトル1Aとすることができる上に、本例のケース4は金属製で熱伝導性に優れるため、放熱性にも優れる。
【0036】
なお、巻線や巻回部2a,2bの形状、大きさ等は適宜変更できる。例えば、巻線を被覆丸線としたり、巻回部2a,2bの形状を円筒状やレーストラック筒状等の角部を有さない筒状としたりすることが挙げられる。各巻回部2a,2bの仕様を異ならせることもできる。
【0037】
〈磁性コア〉
本例の磁性コア3は、四つの柱状のコア片を備え、これらコア片が枠状(環状)に組み付けられる。詳しくは、本例の磁性コア3は、
図2に示すように、主として巻回部2a,2b内にそれぞれ配置される二つの内側コア片31,31と、実質的にその全体が巻回部2a,2b外に配置される二つの外側コア片32A,32Aとを備える。各内側コア片31,31において両端部を除く中間部は巻回部2a,2b内に収納され、両端部は巻回部2a,2bから突出されて、外側コア片32A,32Aとの接続箇所として利用される(
図1)。各内側コア片31,31は、巻回部2a,2bの配置状態に倣って、各軸が平行するように配置される。両内側コア片31,31の一端部間を渡るように一方の外側コア片32Aが配置され、他端部間を渡るように他方の外側コア片32Aが配置されて四角枠状をなし、閉磁路を形成する。本例の磁性コア3は、隣り合うコア片間にギャップ材を有しておらず、コア片31,32A同士が直接接触する(
図1)。
【0038】
《内側コア片》
本例の二つの内側コア片31,31はそれぞれ、巻回部2a,2bの内周形状に概ね対応した直方体状であり、同一形状、同一の大きさである。本例では、一つの巻回部2a又は2bに収納されるコア片の個数が一つのみであり、コア片の総数が少ない。そのため、本例の磁性コア3は、組立時間を短縮できる。
【0039】
《外側コア片》
本例の二つの外側コア片32A,32Aはそれぞれ、概ね直方体状であり、同一形状、同一の大きさである。以下、代表して一つの外側コア片32Aを説明する。
【0040】
本例の外側コア片32Aは、内側コア片31,31の端面に接触する内端面32iと、内端面32iとは反対側に位置する外端面32oと、ケース4に収納された状態においてケース4の開口側に配置される上面32uと、上面32uとは反対側に位置し、内底面40i側に配置される下面32dと、これら四つの面32i,32o,32u,32dに囲まれる二つの側面32s,32s(一方の側面32sは
図2の紙面奥に位置して見えない、この点は後述の
図4、
図7も同様)とを備える。本例では四つの面32i,32o,32u,32dはいずれも長方形状である。
【0041】
本例の内端面32iは、内側コア片31,31の軸方向(ここでは巻回部2a,2bの軸方向にも相当)に実質的に直交するように配置される平坦な面である。内端面32iは、巻回部2a,2bの端面に対向する面でもある。
【0042】
本例の外端面32oは、上記軸方向に非直交に交差するように設けられる平坦な面である。そのため、外端面32oは、内端面32iに非平行である。本例では、側面32sに直交する方向から側面32sをみた正面形状が直角台形状となるように、外端面32oは上面32u側から下面32d側に向かうにつれて内端面32iに近づくように傾斜する。いわば、外端面32oは、内端面32iから外端面32oまでの距離(以下、コア厚さと呼ぶことがある)が上面32u側から下面32d側に向かって連続的に減少するように傾斜する。本例では、外端面32oの全体が上述のように傾斜する。このような外側コア片32Aを備える磁性コア3を環状に組み合わせた状態における正面形状は、下面32d側の長さL10が上面32u側の長さL1よりも短い台形状をなす。長さL10,L1は、上記軸方向に沿った大きさとする。
【0043】
本例の磁性コア3では、上述の外端面32oの全体がケース傾斜面43に面接触するコア傾斜面33をなす。コア傾斜面33の詳細は、ケース傾斜面43とまとめて、後述の〈外側コア片とケースとの関係〉の項で説明する。
【0044】
なお、磁性コア3を構成するコア片の形状、大きさ、個数等は例示であり、適宜変更できる(例、後述の変形例4参照)。
【0045】
《構成材料》
コア片は、軟磁性材料を含む成形体、代表的には軟磁性材料を主体とする成形体等が挙げられる。軟磁性材料は、鉄や鉄合金(例、Fe-Si合金、Fe-Ni合金等)といった金属、フェライト等の非金属等が挙げられる。上記成形体は、軟磁性材料からなる粉末や、更に絶縁被覆を備える被覆粉末等が圧縮成形されてなる圧粉成形体、軟磁性粉末と樹脂とを含む流動性の混合体を固化させた複合材料の成形体、フェライトコア等の焼結体、電磁鋼板等の板材が積層されてなる積層体等が挙げられる。
【0046】
内側コア片31の構成材料と外側コア片32Aの構成材料とを等しくすることもできるし、異ならせることもできる。構成材料が異なる例として、内側コア片31が複合材料の成形体であり、外側コア片32Aが圧粉成形体である形態、内側コア片31及び外側コア片32Aの双方が複合材料の成形体であり、軟磁性粉末の種類や含有量が異なる形態等が挙げられる。構成材料が異なる形態では、各コア片の透磁率を調整することでギャップ材を有さない磁性コア(本例の磁性コア3)とすることができる。
【0047】
〈介在部材〉
本例のリアクトル1Aは、樹脂等の絶縁材料からなり、コイル2と磁性コア3との間に介在されて、両者の電気的絶縁性を高めることに寄与する介在部材を備える。本例の介在部材は、巻回部2a,2bの一端面と一方の外側コア片32Aの内端面32iとの間に介在されるフランジ部材5と、巻回部2a,2bの他端面と他方の外側コア片32Aの内端面32iとの間に介在されるフランジ部材5とを備える。両フランジ部材5,5は同一形状、同一の大きさであるため、以下、代表して一つのフランジ部材5を説明する。
【0048】
本例のフランジ部材5は、平板状の基部に内側コア片31,31が挿通される貫通孔5h,5hが設けられた枠状の部材である。各貫通孔5h,5hは、巻回部2a,2bの並びに対応して、巻回部2a,2bの軸方向に直交する方向(
図2では上下方向)に並ぶように上記基部に設けられている。フランジ部材5において外側コア片32Aが配置される側には、基部の一面を底面とし、外側コア片32Aの内端面32i側の領域を嵌め込む凹部を備える(
図2の破線参照)。フランジ部材5においてコイル2が配置される側には、基部の他面を底面とし、巻回部2a,2bの端面側の領域を嵌め込む二つの凹部を備える(
図2の破線参照)。このような特定の形状のフランジ部材5は、巻回部2a,2bに対して磁性コア3を位置決めする部材としても機能する。
【0049】
なお、介在部材の形状、大きさ、個数等は適宜変更できる。例えば、巻回部2a,2b内に配置される内側介在部材(図示せず、特許文献1参照)を備えること等が挙げられる。フランジ部材と内側介在部材とを一体に成形した部材等とすることもできる。
【0050】
介在部材の構成材料は、各種の樹脂、例えばポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミド(PA)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。又は、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。介在部材は、射出成形等の公知の成形方法によって製造できる。
【0051】
〈ケース〉
ケース4は、組物10の機械的保護、外部環境からの保護(防食性の向上)等に機能する。本例のケース4は、組物10の実質的に全体を収納可能な形状及び大きさを有する内部空間を備えており、上記保護機能をより得易い。特に、実施形態1のリアクトル1Aに備えられるケース4は、内壁面41iにケース傾斜面43を備えて、磁性コア3が所定の形状(本例では環状)に組み付けられた状態、換言すれば隣り合うコア片同士が接触した状態を維持する機能も有する。
【0052】
ケース4は、底部40と、底部40から立設される側壁部41とを備え、底部40に対向する側(
図1,
図2では上側)が開口した箱体が挙げられる。底部40は、組物10の下面(本例では巻回部2aの下面と磁性コア3の下面32dとを含む)側が近接される内底面40iを有する。側壁部41は、組物10の側面(本例では巻回部2a,2bの側面と磁性コア3の側面32sとを含む)、及び組物10の端面(本例では外側コア片32Aの外端面32o)を囲む内壁面41iを備える。
【0053】
本例のケース4の内周面、即ち内底面40i及び内壁面41iはいずれも平坦な面である。開口形状及び内底面40iの平面形状は、組物10の下面側の形状及び上面側の形状に対応した長方形状である。内壁面41iのうち、一方の外側コア片32Aの外端面32oに対向する第一の対向面4aと、他方の外側コア片32Aの外端面32oに対向する第二の対向面4bとは、内底面40iに対して非直交に交差するように設けられている。そのため、両対向面4a,4bはケース4の深さ方向に非直交に交差する。本例では、両対向面4a,4b及び内底面40iをケース4の深さ方向に平行な平面で切断したときにケース4内の空間の断面形状が台形状となるように、両対向面4a,4bは内底面40iに対して傾斜する。詳しくは、両対向面4a,4bは、両対向面4a,4b間の間隔がケース4の開口側からケース4の内底面40i側に向かって連続的に狭くなるように傾斜する。本例では両対向面4a,4bの全体が上述のように傾斜する。両対向面4a,4b間の間隔のうち、内底面40i側の間隔(長さL40)が開口側の間隔(長さL4)よりも短い。
【0054】
本例のケース4では、上述の両対向面4a,4bの全体がそれぞれケース傾斜面43,43をなし、各外側コア片32A,32Aの外端面32o,32oに面接触する。
【0055】
本例のケース4は、底部40と側壁部41とが一体に成形された金属製の箱である。金属製のケース4は、樹脂製のケースに比較して摩滅や弾性変形等をし難い。そのため、金属製のケース4は、磁性コア3が主として鉄等からなる場合でも、磁性コア3に上述の押付力を長期に亘り発現させ易い。また、金属は樹脂に比較して熱伝導性に優れることから、金属製のケース4は、組物10の放熱経路としても機能し、放熱性に優れるリアクトル1Aとすることができる。ケース4の構成材料の具体例として、アルミニウムやアルミニウム合金等の非磁性金属が挙げられる。
【0056】
〈外側コア片とケースとの関係〉
コア傾斜面33,33をなす各外側コア片32A,32Aの外端面32o,32oと、各ケース傾斜面43,43をなす第一の対向面4a、第二の対向面4bとは、実質的に等しい傾斜角度θを有し(
図2)、かつ逆向きに傾斜することで面接触する(
図1)。この面接触によって、両外側コア片32A,32Aには、互いに近接方向に押し付ける力が作用する。上記押付力によって、磁性コア3をなす隣り合うコア片(本例では内側コア片31と外側コア片32A)が接着剤等で接合されていなくても、隣り合うコア片同士が接触した状態を維持できる。そのため、磁性コア3は、環状に組み付けられた状態が維持される。本例では、両外側コア片32A,32Aが内側コア片31,31を挟んだ状態が維持される。特に、上記押付力は、組物10をケース4内に収納することで自動的に発現できる。
【0057】
コア傾斜面33及びケース傾斜面43の傾斜角度θは0°超90°未満の範囲で適宜選択できる。傾斜角度θは、コア傾斜面33及びケース傾斜面43においてケース4の深さ方向に対する角度とする。傾斜角度θは、大きいほど外側コア片32A及びケース4の大型化を招き易いため、上述の押付力によるコア片同士の接触状態を維持可能な範囲で、ある程度小さいことが好ましい。例えば、傾斜角度θは10°以下であることが挙げられる。傾斜角度θが10°以下の範囲で大きいほど押付力を大きくし易く、小さいほど小型にし易い。傾斜角度θが5°以下、更に1°以下、0.5°以下であれば、より小型なリアクトル1Aとし易い。本例の傾斜角度θは約0.3°である。
【0058】
傾斜角度θは、代表的には外側コア片32Aやケース4を直接測定することが挙げられる。又は、外側コア片32Aの上面32uのコア厚さ及び下面32dのコア厚さを測定し、両コア厚さの差と外側コア片32Aの高さと三角比とを用いて、傾斜角度θを求めることが挙げられる。コア厚さは、一方の側面32sから他方の側面32sまでの範囲から複数点を測定した平均、又は上記範囲の全域を測定した平均を用いることが挙げられる。外側コア片32Aの高さとは、上面32uから下面32dまでの距離(ケース4の深さ方向に沿った大きさ)が挙げられる。
【0059】
本例では、一方の外側コア片32Aのコア傾斜面33及び第一の対向面4aにおける傾斜角度θと、他方の外側コア片32Aのコア傾斜面33及び第二の対向面4bにおける傾斜角度θとが等しい。この場合、上述の面接触による一方の外側コア片32Aへの押付力と、他方の外側コア片32Aへの押付力を均一的にし易い。また、外側コア片32Aやケース4を単純な形状にし易く製造し易い上に小型にもし易く、小型なリアクトル1Aとすることができる。上記の一方の傾斜角度θと他方の傾斜角度θとを異ならせることもできる。
【0060】
本例では、ケース4の底部40側の長さL
40が組物10の下面側の長さL
10よりも短く(L
40<L
10)、ケース4の開口側の長さL
4が組物10の上面側の長さL
1よりも長い(L
4>L
1)。そのため、組物10のコア傾斜面33,33をケース傾斜面43,43に滑らせるようにしてケース4内に組物10を収納すると、ケース4における両対向面4a,4bの間隔が長さL
10に対応する位置で、組物10におけるケース4の内底面40i側への移動が自動的に止められる。本例では、
図1に示すようにケース4内に収納された組物10は、その両端面(外端面32o,32o)がケース4の内壁面41i(対向面4a,4b)に面接触した状態で支持されて、組物10の下面は内底面40iに接触せず、内底面40iから浮いた状態に維持される。
【0061】
その他、本例のケース4は、組物10を収納した状態において組物10がケース4から突出しない深さを有する。そのため、ケース傾斜面43の傾斜方向に沿った長さ(以下、斜辺長さと呼ぶ)をコア傾斜面33の傾斜方向に沿った長さ(傾斜長さ)よりも長くできる。ケース傾斜面43の斜辺長さがコア傾斜面33の斜辺長さよりも長い場合、組物10の製造公差の大小によらず、コア傾斜面33とケース傾斜面43との面接触を適切に行える。この場合、ケース4内における組物10のケース4の深さ方向に沿った位置が上下に変動することがあるものの、ケース4内に組物10を完全に収納できて、コア傾斜面33の全面がケース傾斜面43に面接触できるからである。ケース傾斜面43の斜辺長さはコア傾斜面33の斜辺長さよりも長く、かつケース4の大型化を招かない範囲で適宜調整するとよい。本例のケース傾斜面43は、ケース4の開口縁から内底面40iに至るが、コア傾斜面33の斜辺長さよりも長い傾斜長さを有すれば、開口縁及び内底面40iの少なくとも一方に至らないようにケース傾斜面43を設けることもできる。
【0062】
上述のようにケース4内に収納された組物10がケース4から突出しないため、組物10の上面位置は、ケース4の開口部よりも低い位置にある。従って、ケース4内に後述の封止樹脂9が充填された状態では、上述の巻線の端部を除いて、組物10を封止樹脂9によって埋設できる。
【0063】
〈封止樹脂〉
封止樹脂9は、ケース4内に充填されて組物10を覆う。このような封止樹脂9は、組物10の一体化、組物10の機械的保護及び外部環境からの保護(防食性の向上)、組物10とケース4との間の電気的絶縁性の向上、組物10とケース4との一体化によるリアクトル1Aの強度や剛性の向上といった種々の機能を奏する。封止樹脂9の材質によっては放熱性の向上も期待できる。本例の封止樹脂9は、上述のように組物10の実質的に全体を埋設するため、上述の一体化機能、保護機能等をより得易い。
【0064】
封止樹脂9の構成樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、PPS樹脂等が挙げられる。上述の樹脂成分に加えて、熱伝導性に優れるフィラーや電気絶縁性に優れるフィラーを含有するものを封止樹脂9に利用できる。上記フィラーは、非金属無機材料、例えば、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム等の酸化物、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ほう素等の窒化物、炭化珪素等の炭化物等のセラミックス、カーボンナノチューブといった非金属元素からなるもの等が挙げられる。その他、封止樹脂9は公知の樹脂組成物を利用できる。
【0065】
〈リアクトルの製造方法〉
実施形態1のリアクトル1Aは、例えば、コイル2と、磁性コア3と、必要に応じて介在部材(本例ではフランジ部材5)とを組み付けて組物10を作製する工程と、組物10をケース4内に収納する工程とを備える製造方法によって製造することが挙げられる。封止樹脂9を備える場合には、上記製造方法は、更に、ケース4内に封止樹脂9を充填して組物10をケース4内に埋設する工程を備えることが挙げられる。組物10をケース4内に収納する際には、上述のように組物10のコア傾斜面33,33をケース傾斜面43,43に滑らせるように移動させれば、組物10をケース4内の所定の位置に自動的に位置決めできつつ、ケース4内に収納できる。ケース傾斜面43を組物10に対するガイドとして機能させることで、収納作業も容易に行える。更に、この収納作業により、上述の面接触状態も自動的に形成できる。
【0066】
なお、ケース4に収納する前の組物10を接着テープ等で仮止めすることができる。仮止めすることで収納前の組物10を取り扱い易く、ケース4内に収納し易い。仮止め材は、組物10をケース4内に収納後、取り外すことができる。勿論、仮止めを行わなくてもよい。
【0067】
(用途)
実施形態1のリアクトル1Aは、電圧の昇圧動作や降圧動作を行う回路の部品、例えば種々のコンバータや電力変換装置の構成部品等に利用できる。コンバータの一例として、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等の車両に搭載される車載用コンバータ(代表的にはDC-DCコンバータ)や、空調機のコンバータ等が挙げられる。
【0068】
(主な効果)
実施形態1のリアクトル1Aは、コア傾斜面33とケース傾斜面43とを備えて、両者が面接触することで、上述のように両外側コア片32A,32Aを互いに近接する方向に押し付ける力を両外側コア片32A,32Aに作用させられる。このような実施形態1のリアクトル1Aは、接着剤等で接合されていなくても隣り合うコア片同士が接触した状態を長期に亘り適切に維持できる。コア片同士の接触状態を維持できることで、実施形態1のリアクトル1Aは、コア片間からの漏れ磁束に起因する特性の低下、コア片間に隙間が生じることに起因する騒音や振動等も防止できる。
【0069】
また、コア片同士を接合する接着剤を不要にできる上に、ケース傾斜面43に沿ってコア傾斜面33を滑らせて、組物10をケース4内に収納することで上記押付力を自動的に発生できる上に磁性コア3の組み付け状態を形成できる。これらのことから、実施形態1のリアクトル1Aは、製造性にも優れる。本例のリアクトル1Aは、外側コア片32Aの外端面32oに直接コア傾斜面33を備えており、部品点数が少ないことからも製造性に優れる。
【0070】
更に、本例のリアクトル1Aは、以下の点からも、隣り合うコア片同士が接触した状態を長期に亘り維持し易い。
(1)ケース4が金属製であり、樹脂製のケースに比較して、ケース傾斜面43が製造過程で摩滅したり、リアクトル1Aの使用時に変形したりし難い。そのため、上述の面接触による押付力を長期に亘り外側コア片32Aに作用できる。
(2)封止樹脂9を備えており、封止樹脂9によっても組物10を一体化できる。
(3)両外側コア片32A,32Aの外端面32o,32oにそれぞれコア傾斜面33,33を備えると共に、各外端面32o,32oの全面をコア傾斜面33,33とする。かつ、ケース4の両対向面4a,4bにそれぞれケース傾斜面43,43を備える。そのため、各外側コア片32A,32Aへの押付力を均一的にし易い。
【0071】
その他、本例のリアクトル1Aは、外端面32oに直接、コア傾斜面33を備えるものの、傾斜角度θが10°以下であるため、コア傾斜面33の具備による外側コア片32Aの増大を低減でき、小型で、軽量である。また、本例のリアクトル1Aは外端面32oに直接、コア傾斜面33を備えるものの縦積み形態であるため、傾斜角度θ及び磁路断面積を一定とする場合、後述の横並び形態(後述の変形例3)に比較して、所定の磁路断面積を確保しつつ、小型な外側コア片32Aとし易い。傾斜角度θが上述のように小さいことからも、所定の磁路断面積を確保しつつ、小型な外側コア片32Aとし易い。
【0072】
[実施形態2]
図3~
図5を参照して、実施形態2のリアクトル1Bを説明する。
図5は、
図3に示すケース4Bについて、その深さ方向に平行な平面であって、巻回部2a,2bの軸方向に直交する平面で切断した断面を示す。
【0073】
実施形態2のリアクトル1Bの基本的構成は、実施形態1のリアクトル1Aと同様であり、コイル2と、二つの外側コア片32B,32Bを含む磁性コア3と、組物10を収納するケース4Bとを備える。各外側コア片32B,32Bの外端面32o,32oには、直接、コア傾斜面33,33が設けられている。ケース4Bは、各外端面32o,32oに対向する対向面4a,4bに設けられたケース傾斜面43,43を備える。実施形態2のリアクトル1Bにおける実施形態1との相違点の一つは、各外側コア片32B,32Bの外端面32o,32oの全体ではなく、一部のみにコア傾斜面33,33を備える点にある。以下、実施形態1との相違点を詳細に説明し、実施形態1と重複する構成及びその効果については詳細な説明を省略する。
【0074】
ケース4Bは、その内壁面41iからケース4Bの内側に向かって張り出した突出部44を有する。外側コア片32Bは突出部44が嵌められるスリット部34を有する(
図4)。本例では、第一の対向面4aと第二の対向面4bとのそれぞれに突出部44,44を有し、各外側コア片32B,32Bにスリット部34,34を有する。各ケース傾斜面43,43は突出部44,44に設けられている。各コア傾斜面33,33は各スリット部34,34を形成する内周面に設けられている。本例では、ケース4Bにおける各対向面4a,4b側の形状及び大きさ、各外側コア片32B,32Bの形状及び大きさが同一であるため、代表して一方について説明する。
【0075】
本例のケース4Bでは、側壁部41の内壁面41iにおいて、外側コア片32Bの外端面32oに対向する第一の対向面4aは、一様な平面ではなく凹凸形状である。詳しくは、内壁面41iにおける外端面32oに向かい合う箇所は、深さ方向(
図3,
図5では上下方向)に平行する平面からなる平坦部と、この平坦部からケース4Bの内側に張り出す突出部44とを含む(
図5も参照)。突出部44は、
図5に示すように、上記外端面32oに向かい合う箇所においてケース4Bの深さ方向に直交する方向(
図5では左右方向)の中間位置に、ケース4Bの開口側から内底面40i側に亘って設けられている。そのため、対向面4aは、突出部44の一面(後述の傾斜面)と、突出部44の両側に配置される二つの上記平坦部とを含む。第二の対向面4bも同様である。
【0076】
本例の突出部44は、
図3に示すようにケース4Bの深さ方向に直交する方向(
図3では紙面直交方向)からみた正面形状が直角三角形状の三角柱状である。この突出部44は、傾斜角度θを有する頂角がケース4Bの開口側に配置され、上記開口側から内底面40i側に向かって、上記平坦部からケース4Bの内側への突出長さが連続的に増大するように傾斜する傾斜面を有する。この傾斜面がケース傾斜面43をなす。上記傾斜面の面積が大きいほど、コア傾斜面33との接触面積を増大でき、ひいては上述の押付力を得易い。所定の押付力が得られるように上記傾斜面の面積を調整するとよい。上記傾斜面の面積は、例えば、外端面32oの面積の1/4以上、更に1/3以上であることが挙げられる。
図5では、上記傾斜面(ケース傾斜面43)の面積が外端面32oの面積の1/3程度である場合を例示する。傾斜角度θはケース4Bの深さ方向に対する角度である。
【0077】
また、本例では、第一の対向面4a側の突出部44と第二の対向面4b側の突出部44とは、上述の傾斜面同士が向き合うように設けられると共に、ケース4Bの開口側から内底面40i側に向かって両傾斜面間の間隔が狭くなるように設けられている。第一の対向面4a側の平坦部と第二の対向面4b側の平坦部との間隔は、上記開口側から内底面40i側に向かって一様な大きさである。
【0078】
本例の外側コア片32Bは、
図4に示すように概ね直方体状であり、実施形態1で説明した外側コア片32Aと同様に、内端面32i(
図3)、外端面32o、上面32u、下面32d(
図3)、及び二つの側面32s,32sを備える。本例の外端面32oの一部は、部分的に凹んでおり、この凹みがスリット部34をなす。外端面32oの他部は、内端面32iに実質的に平行であり、内側コア片31,31の軸方向に実質的に直交するように配置される(
図3)。側面32s,32sは、側面32sに直交する方向からみた正面形状が長方形状である(
図3も参照)。また、外側コア片32Bを備える磁性コア3を環状に組み合わせた状態における上記正面形状は、上面32u側から下面32d側に至って一様な長さを有する長方形状である(
図3)。上記長さは、内側コア片31の軸方向に沿った大きさとする。
【0079】
本例のスリット部34は、上面32uから下面32dに亘って連続する溝であり、上面32u、下面32d及び外端面32oの三面に開口する。また、スリット部34は、外側コア片32Bの上面32u及び下面32dにおいて、一方の側面32sから他方の側面32sに向かう方向の中間位置に設けられている。本例では、スリット部34における外端面32o側の開口形状は、一様な溝幅を有する長方形状である。スリット部34の溝底面は、溝深さが上面32u側から下面32d側に向かって連続的に増大するように傾斜する。そのため、スリット部34の断面積は上面32u側から下面32d側に向かって連続的に増大する。また、溝底面は、傾斜角度θを有して傾斜する。傾斜角度θは、上面32u側から下面32d側に向かう方向(リアクトル1Bではケース4Bの深さ方向に相当)に対する角度である。
【0080】
本例の磁性コア3では、上述のスリット部34の溝底面がケース傾斜面43に面接触するコア傾斜面33をなす。スリット部34の溝底面は外端面32oの一部をなすため、本例のコア傾斜面33は、外端面32oの一部に直接設けられているといえる。
【0081】
リアクトル1Bの製造過程では、組物10のスリット部34,34をそれぞれケース4Bの突出部44,44に嵌め込む。そして、スリット部34,34のコア傾斜面33,33をそれぞれ突出部44,44のケース傾斜面43,43に滑らせるようにして、ケース4B内に組物10を収納する。ここで、ケース4Bの両突出部44,44間の長さL40,L4と組物10の両スリット部34,34の傾斜面間の長さL10,L1とを比較する。本例では、底部40側の長さL40が下面32d側の長さL10よりも短く(L40<L10)、開口側の長さL4が上面32u側の長さL1よりも長い(L4>L1)。そのため、上述のように組物10を滑らせると、実施形態1と同様に、両突出部44,44の間隔が長さL10に対応する位置で、組物10におけるケース4Bの内底面40i側への移動が自動的に止められる。
【0082】
実施形態2のリアクトル1Bは、実施形態1と同様にコア傾斜面33とケース傾斜面43との面接触によって、接着剤等で接合されていなくても隣り合うコア片同士の接触状態を長期に亘り適切に維持できる上に、製造性にも優れる。特に、実施形態2のリアクトル1Bは、ケース4Bの突出部44と外側コア片32Bのスリット部34との嵌め合いによって外側コア片32Bにおけるケース4Bに対する位置決めを容易にかつ精度よく行えるため、製造性により優れる。また、実施形態2のリアクトル1Bは、上述の嵌め合いによって、外側コア片32Bの移動方向をコア傾斜面33の傾斜方向に沿った方向に規制できるため、コア片同士が接触した状態を更に維持し易い。
【0083】
[実施形態3]
図6、
図7を参照して、実施形態3のリアクトル1Cを説明する。
実施形態3のリアクトル1Cの基本的構成は、実施形態1のリアクトル1Aと同様であり、コイル2と、二つの外側コア片32C,32Cを含む磁性コア3と、組物10を収納するケース4とを備える。また、リアクトル1Cは、各外側コア片32C,32Cの外端面32o,32o側にコア傾斜面33,33を備える。ケース4は、対向面4a,4bに設けられたケース傾斜面43,43を備える。実施形態3のリアクトル1Cにおける実施形態1との相違点の一つは、各外側コア片32C,32Cに取り付けられる樹脂部材6C,6Cを備え、各コア傾斜面33,33が各樹脂部材6C,6Cに設けられており、外側コア片32Cに直接設けられていない点にある。以下、実施形態1との相違点を詳細に説明し、実施形態1と重複する構成及びその効果については詳細な説明を省略する。本例では、各外側コア片32C,32Cの形状及び大きさが同一であり、各樹脂部材6C,6Cの形状及び大きさが同一であるため、代表して一方について説明する。なお、ケース4の構成は、実施形態1で説明した構成と同様である。
【0084】
本例の外側コア片32Cは、後述する二つの角部を除いて、概ね直方体状であり、
図7に示すように内端面32i、外端面32o、上面32u、下面32d、及び二つの側面32s,32sを備える。外端面32oは、概ね全体が内端面32iに実質的に平行であり、内側コア片31,31の軸方向に実質的に直交するように配置される。側面32s,32sは、側面32sに直交する方向からみた正面形状が概ね長方形状である。外側コア片32Cを備える磁性コア3を環状に組み合わせた状態における上記正面形状は、上面32u側から下面32d側に至って概ね一様な長さを有する長方形状である(
図6)。上記長さは、内側コア片31の軸方向に沿った大きさとする。
【0085】
本例のリアクトル1Cでは、外側コア片32Cと樹脂部材6Cとは互いに嵌め合わされる係合部を有し、この係合部によって外側コア片32Cに樹脂部材6Cが取り付けられる。外側コア片32Cでは、外端面32oのうち、上面32u側の角部と下面32d側の角部とがそれぞれ、一方の側面32sから他方の側面32sに亘って連続的に切り欠かれている。切欠部326,326が樹脂部材6Cとの係合部をなす。
【0086】
樹脂部材6Cは外側コア片32Cに着脱可能な樹脂製の成形体であり、外側コア片32Cの外端面32oの少なくとも一部に面接触するように外側コア片32Cに配置される。本例の樹脂部材6Cは、一面が直角台形状の直方体状の部材であり、外端面32oの実質的に全体を覆う本体60と、本体60から外端面32oに向かって突出する二つの係合凸部63,63とを備える。係合凸部63,63が外側コア片32Cとの係合部をなす。
【0087】
本例の本体60は、外端面32oの実質的に全面に面接触する内側面6iと、内側面6iとは反対側に位置する傾斜面と、リアクトル1Cが組み立てられた状態において、ケース4の開口側に配置される上面と、内底面40i側に配置される下面と、内側面6i,傾斜面及び上下面に囲まれ、直角台形状である二つの側面とを備える。リアクトル1Cが組み立てられた状態において、内側面6iは内側コア片31,31の軸方向に実質的に直交するように配置される(
図6)。また、内側面6iは外側コア片32Cの内端面32i及び外端面32oに実質的に平行するように配置される(
図7の紙面左側の樹脂部材6C参照)。樹脂部材6Cの傾斜面は、内側面6iから傾斜面までの距離が樹脂部材6Cの上面側から下面側に向かって連続的に減少するように傾斜する。また、樹脂部材6Cの傾斜面は、内側面6iに対して傾斜角度θを有して傾斜する。傾斜角度θは、樹脂部材6Cの上面側から下面側に向かう方向(リアクトル1Cではケース4の深さ方向に相当)に対する角度である。リアクトル1Cでは、この樹脂部材6Cの傾斜面がケース傾斜面43に面接触するコア傾斜面33をなす。
【0088】
本例の樹脂部材6Cでは、内側面6iの上端側に一方の係合凸部63が設けられ、下端側に他方の係合凸部63が設けられている。また、本例では、各係合凸部63,63は同一形状、同一の大きさである。一つの係合凸部63は、本体60の一方の側面から他方の側面に亘って連続的に設けられた直方体状の突条であり、切欠部326に対応した形状、大きさを有する。樹脂部材6Cの各係合凸部63,63を外側コア片32Cの各切欠部326,326に嵌め込むことで、樹脂部材6Cを備える組物10は外端面32o側に傾斜角度θを有するコア傾斜面33,33を備えることができる。樹脂部材6Cを備える外側コア片32Cの外観は、実施形態1で説明した外側コア片32Aに類似する。
【0089】
リアクトル1Cの製造過程では、
図7に示すようにコイル2と、磁性コア3(内側コア片31,31、外側コア片32C,32C)と、フランジ部材5,5とを組み付ける。更に各外側コア片32C,32Cの外端面32o,32oに樹脂部材6C,6Cを取り付けて、樹脂部材6Cを備える組物10を作製することが挙げられる。本例では、外側コア片32Cの切欠部326に樹脂部材6Cの係合凸部63を嵌めることで、外側コア片32Cと樹脂部材6Cとを容易に位置決めできる。得られた組物10をケース4内に収納する際には、実施形態1と同様に、樹脂部材6C,6Cのコア傾斜面33,33をケース傾斜面43,43に滑らせるようにするとよい。リアクトル1Cでは、ケース4の両対向面4a,4bの間隔のうち、内底面40i側の長さは、樹脂部材6C,6Cを含んだ組物10において両樹脂部材6C,6Cの下端(外側コア片32Cの下面32d側の端部)間の長さよりも短くするとよい。ケース4の両対向面4a,4bの間隔のうち、開口側の長さは、上記組物10において両樹脂部材6C,6Cの上端(外側コア片32Cの上面32u側の端部)間の長さよりも長くするとよい。上記長さを満たすように、外側コア片32Cの大きさに合わせて、樹脂部材6Cにおける内側面6iから傾斜面(コア傾斜面33)までの長さを調整するとよい。上記長さは内側コア片31,31の軸方向に沿った大きさとする。
【0090】
樹脂部材6Cの構成樹脂は、上述の介在部材の構成樹脂を参照することができる。また、切欠部326、係合凸部63の形状、大きさ、形成位置等は例示であり、係合部の形状、大きさ、形成位置等は適宜変更できる。例えば、樹脂部材6Cに切欠部を備え、外側コア片32Cに凸部を備えることが挙げられる。又は、例えば、切欠部を止まり穴等の凹部とし、樹脂部材はこの凹部に対応する形状、大きさの凸部を備えることが挙げられる。
【0091】
実施形態3のリアクトル1Cは、一方の樹脂部材6Cのコア傾斜面33と第一の対向面4aのケース傾斜面43とが面接触すると共に、他方の樹脂部材6Cのコア傾斜面33と第二の対向面4bのケース傾斜面43とが面接触する。その結果、一方の樹脂部材6Cの内側面6iが一方の外側コア片32Cの外端面32oを押し付けると共に、他方の樹脂部材6Cの内側面6iが他方の外側コア片32Cの外端面32oを押し付ける。本例では、樹脂部材6Cの内側面6iと外側コア片32Cの外端面32oとがその実質的に全面に亘って面接触していることで、内側面6iが外端面32oに適切に押し付けられる。このような実施形態3のリアクトル1Cは、樹脂部材6C,6Cを介して、両外側コア片32C,32Cを互いに近接する方向に押し付ける力を両外側コア片32C,32Cに作用させられる。従って、実施形態3のリアクトル1Cは、実施形態1と同様にコア傾斜面33とケース傾斜面43との面接触によって、接着剤等で接合されていなくても隣り合うコア片同士の接触状態を長期に亘り適切に維持できる上に、製造性にも優れる。
【0092】
特に、本例のリアクトル1Cでは、外側コア片32Cと樹脂部材6Cとに係合部(外側コア片32Cの切欠部326、樹脂部材6Cの係合凸部63)を備えて両者が位置ずれし難いため、上述の押付力をより確実に作用させてコア片同士の接触状態を維持し易い。また、上記係合部によって、樹脂部材6Cを備える組物10を組み付け易い上に、外側コア片32Cから樹脂部材6Cが脱落し難く、樹脂部材6Cを備える組物10をケース4に収納し易いことからも、製造性に優れる。
【0093】
更に、実施形態3のリアクトル1Cは、外側コア片32Cとは独立した樹脂部材6Cが必要であるものの、樹脂部材6Cに設けられるコア傾斜面33を備えるため、外側コア片32Cを増大する必要が無く、軽量にし易い。また、外側コア片32Cを比較的単純な形状にし易く、外側コア片32Cを製造し易いことからも製造性に優れる。加えて、樹脂部材6Cは、樹脂といった絶縁材料からなるため、外側コア片32Cと金属製のケース4との間に介在されることで両者の電気的絶縁性を高められる。
【0094】
[実施形態4]
図8を参照して、実施形態4のリアクトル1Dを説明する。
実施形態4のリアクトル1Dの基本的構成は、実施形態3のリアクトル1Cと同様であり、コイル2と、二つの外側コア片32D,32Dを含む磁性コア3と、各外側コア片32D,32Dの外端面32o,32oの少なくとも一部に面接触する樹脂部材6D,6Dと、樹脂部材6D,6Dを含む組物10を収納するケース4とを備える。樹脂部材6Dは、外端面32oの少なくとも一部に面接触する内側面6iと、内側面6iとは反対側に位置し、傾斜角度θを有する傾斜面とを備える。この傾斜面がコア傾斜面33をなす。実施形態4のリアクトル1Dにおける実施形態3との相違点の一つは、外側コア片32Dと樹脂部材6Dとが係合部を有しておらず、樹脂部材6Dが外側コア片32Dに対してケース4の深さ方向の配置位置を変更可能な点が挙げられる。以下、実施形態3との相違点を詳細に説明し、実施形態3と重複する構成及びその効果については詳細な説明を省略する。本例では、各外側コア片32D,32Dの形状及び大きさが同一であり、各樹脂部材6D,6Dの形状及び大きさが同一であるため、代表して一方について説明する。なお、ケース4の構成は、実施形態1で説明した構成と同様である。
【0095】
本例の外側コア片32Dは、実施形態3で説明したコア片32Cにおいて、切欠部326が無い直方体状のものである。このような外側コア片32Dは非常に単純な形状であり、製造性に優れる。上記外側コア片32Dを備える磁性コア3を環状に組み合わせた状態における上面32u側の長さL1と、下面32d側の長さL10とが実質的に等しく(L1=L10)、上面32u側から下面32d側に亘って一様な長さを有する。上記長さは、内側コア片31の軸方向に沿った大きさとする。
【0096】
本例の樹脂部材6Dは、実施形態3で説明した樹脂部材6Cにおいて係合凸部63が無く、一面が直角台形形状の直方体状の本体60を備える。このような樹脂部材6Dは非常に単純な形状であり、製造性に優れる。樹脂部材6Dの大きさは、実施形態3と同様に、内側面6iの大きさを外側コア片32Dの外端面32oと同等の大きさとすることができるが、本例の樹脂部材6Dは、実施形態3における樹脂部材6Cよりも小さい。つまり、樹脂部材6Dの内側面6iの面積は、外側コア片32Dの外端面32oよりも小さい。また、内側面6iにおけるケース4の深さ方向に沿った大きさ(
図8では樹脂部材6Dの上面から下面までの長さ)は、外端面32oにおけるケース4の深さ方向に沿った大きさよりも小さく、後述するように磁性コア3の長さL
1が長過ぎて樹脂部材6Dにおけるケース4の挿入深さが浅くなり易い場合でも、ケース4から突出しない大きさである。
【0097】
樹脂部材6Dの内側面6iの大きさは、押付力を発現可能な範囲で調整できるが、小さ過ぎると上述の押圧力を適切に発現し難くなり、大き過ぎると磁性コア3の大きさによってはケース4内に収納されずに突出する部分を有することがある。ケース4の深さを大きくすれば、樹脂部材6Dの突出を防止できるが、大型化を招く。そのため、内側面6iの大きさは、一つの内側コア片31の端面の大きさよりも大きいこと、好ましくは外端面32oの面積及び外端面32oのケース4の深さ方向に沿った大きさの50%以上95%以下程度、更に60%以上80%以下程度を有すること(本例)が挙げられる。
【0098】
なお、リアクトル1Dにおけるケース4の両対向面4a,4bの間隔は、実施形態3と同様にすることが挙げられる。即ち、上記間隔のうち、内底面40i側の長さは、樹脂部材6D,6Dを含んだ組物10における両樹脂部材6D,6Dの下端間の長さよりも短くするとよい。上記間隔のうち、開口側の長さは、上記組物10における両樹脂部材6D,6Dの上端間の長さよりも長くするとよい。上記長さを満たすように、外側コア片32Dの大きさに合わせて、樹脂部材6Dにおける内側面6iから傾斜面(コア傾斜面33)までの長さを調整するとよい。上記長さは内側コア片31,31の軸方向に沿った大きさとする。
【0099】
樹脂部材6D,6Dを含む組物10をケース4に収納する際、外側コア片32D,32Dの外端面32o,32oとケース傾斜面43,43(対向面4a,4b)との間に樹脂部材6D,6Dをそれぞれ滑らせるようにして挿入する。このとき、樹脂部材6Dは、外側コア片32Dの外端面32oに対してケース4の深さ方向の位置(挿入深さ)を調整できる。ここで、磁性コア3が複数のコア片を含む場合、各コア片の製造公差が合算されることで、組み付けられた磁性コア3の大きさ(上述の長さL
1=L
10)にばらつきが生じることがある。具体的には、上記長さL
1がケース4の両対向面4a,4b間の間隔に対して短過ぎたり、長過ぎたりすることがある。
図8の下図に例示するように上記長さL
1が比較的長い場合には、樹脂部材6D,6Dは、ケース4の深さ方向において比較的浅い位置に自動的に位置決めされる。上記長さL
1が比較的短い場合には、樹脂部材6D,6Dは、ケース4の深さ方向において比較的深い位置(
図8の下図に示す樹脂部材6Dの位置よりも下方の位置)に自動的に位置決めされる。いずれの場合も樹脂部材6Dがケース4内で位置決めされると、内側面6iの全面が外側コア片32Dの外端面32oの一部に面接触し、コア傾斜面33の全面がケース傾斜面43の一部に面接触する。
【0100】
このような実施形態4のリアクトル1Dは、実施形態3と同様に、樹脂部材6D,6Dを介して、両外側コア片32D,32Dを互いに近接する方向に押し付ける力を両外側コア片32D,32Dに作用させられる。従って、実施形態4のリアクトル1Dは、実施形態1と同様にコア傾斜面33とケース傾斜面43との面接触によって、接着剤等で接合されていなくても隣り合うコア片同士の接触状態を長期に亘り適切に維持できる上に、製造性にも優れる。特に、実施形態4のリアクトル1Dは、樹脂部材6Dにおけるケース4の深さ方向の配置位置を調整することで、磁性コア3における製造公差等に起因する大きさのばらつきも吸収できる。
【0101】
[実施形態5]
図9を参照して、磁性コア3の別例を説明する。
実施形態1では、磁性コア3として、隣り合うコア片の接触面、ここでは内側コア片31の端面及び外側コア片32Aの内端面32iがいずれも、平坦な平面からなる場合を説明した。磁性コア3の別例として、複数のコア片のうち、隣り合うコア片に互いに嵌め合わされる凹部及び凸部を備えることが挙げられる。
図9に示す磁性コア3は、外側コア片32Eの内端面32iに内側コア片31,31の端面側の領域がそれぞれ嵌め込まれる凹部321,321を備える。内側コア片31の端面側の領域が凸部をなす。
【0102】
製造過程では、外側コア片32Eの凹部321,321にそれぞれ、内側コア片31,31の端面側の領域を嵌め込むことで、外側コア片32Eと内側コア片31,31とを容易に位置決めできて、磁性コア3を組み付け易い。この点で製造性により優れる。また、外側コア片32Eと内側コア片31,31とが互いに位置ずれし難い。このような磁性コア3を備えるリアクトルは、上述のようにコア傾斜面33,33とケース傾斜面43,43(
図1)との面接触によって近接方向の押付力が外側コア片32E,32Eに作用すると、外側コア片32E,32Eと内側コア片31,31との接触状態をより維持し易い。
【0103】
なお、凹部及び凸部の形状、大きさ、形成位置等は例示であり、適宜変更できる。例えば、内側コア片31に凹部を備え、外側コア片32Eに凸部を備えることが挙げられる。又は、例えば、凸部を、内側コア片31の端面又は外側コア片32Eの内端面32iから突出するものとすることが挙げられる。
【0104】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
例えば、上述の実施形態1等のリアクトルに対して、以下の少なくとも一つの変更が可能である。
【0105】
(変形例1)一方の外側コア片の外端面にコア傾斜面を有し、他方の外側コア片の外端面にはコア傾斜面を有さない。又は、一方の外側コア片の外端面にコア傾斜面を有する樹脂部材が配置され、他方の外側コア片の外端面には樹脂部材が配置されない。また、ケースの内壁部のうち、第一の対向面のみがケース傾斜面を有し、第二の対向面はケース傾斜面を有さない。ケースの第二の対向面及び他方の外側コア片の外端面は、例えばケースの内底面に直交し、ケースの深さ方向に平行な平面とし、両者が面接触する構成とすることが挙げられる。
この場合でも、ケース傾斜面とコア傾斜面との面接触によって、上述の近接方向の押付力を両外側コア片に作用させられて、コア片同士の接触状態を維持できる。
【0106】
(変形例2)一方の外側コア片の外端面に直接、コア傾斜面(実施形態2で説明したスリット部でもよい)を備え、他方の外側コア片の外端面には実施形態3,4で説明したコア傾斜面を備える樹脂部材を備える。
この場合、実施形態3,4よりも樹脂部材の個数を低減でき、組物の組立工程数を少なくできる点から製造性に優れる。
【0107】
(変形例3)縦積み形態に代えて以下の横並び形態とする。横並び形態とは、ケースに組物を収納した状態において、二つの巻回部の並び方向及び巻回部の軸方向がケースの深さ方向に直交するように両巻回部が配置される形態である。
【0108】
(変形例4)磁性コアを形成するコア片の形状を変更する。
例えば、各外側コア片はU字状のコア片であること、E字状のコア片であること、一方の外側コア片がE字状のコア片であり、他方の外側コア片がI字状であること等が挙げられる。U字状のコア片は、巻回部内に収納される二つの脚部と、両脚部を繋ぎ、巻回部外に配置される連結部とを備えることが挙げられる。E字状のコア片は、巻回部内に収納される一つの中央脚と、この中央脚を挟み、巻回部外に配置される二つの側脚と、中央脚及び側脚を繋ぎ、巻回部外に配置される連結部とを備えることが挙げられる。E字状のコア片を備える場合には、巻回部を一つ備えるものが挙げられる。そして、上記連結部に外端面を備える。いずれの場合も、コア片の総数を少なくでき、組物の組立工程数を少なくできる点から製造性に優れる。
又は、例えば、一つの巻回部内に収納されるコア片の個数を複数とする。この形態は後述するギャップ材を多く含む場合等に利用することが挙げられる。
又は、例えば、内側コア片の外周形状が巻回部の内周形状に非相似である。
又は、外側コア片にコア傾斜面を有する突出部を有し、ケースにケース傾斜面を有するスリット部を有する。
【0109】
(変形例5)隣り合うコア片間に介在されるギャップ材(図示せず)を備える。
ギャップ材は、コア片の端面に面接触可能な形状及び大きさを有する板材等が挙げられる。ギャップ材の構成材料は、アルミナや樹脂等の非磁性材料、樹脂と磁性粉末とを含む複合材料の成形板であってコア片よりも比透磁率が低いもの等が挙げられる。隣り合うコア片がギャップ材を介して面接触していれば、上述のコア傾斜面とケース傾斜面との面接触によって近接方向の押付力が外側コア片に作用することで、両外側コア片に挟まれるコア片及びギャップ材が接触した状態を維持できる。
【0110】
(変形例6)温度センサ、電流センサ、電圧センサ、磁束センサ等のリアクトルの物理量を測定するセンサ(図示せず)を備える。
【符号の説明】
【0111】
1A,1B,1C,1D リアクトル
10 組物
2 コイル、2a,2b 巻回部
3 磁性コア
31 内側コア片
32A,32B,32C,32D,32E 外側コア片
32o 外端面、32i 内端面、32u 上面、32d 下面、32s 側面
321 凹部、326 切欠部、33 コア傾斜面、34 スリット部
4,4B ケース
4a 第一の対向面、4b 第二の対向面、40 底部、40i 内底面
41 側壁部、41i 内壁面、43 ケース傾斜面、44 突出部
5 フランジ部材、5h 貫通孔
6C,6D 樹脂部材、6i 内側面、60 本体、63 係合凸部
9 封止樹脂