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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】リアクトル
(51)【国際特許分類】
   H01F 37/00 20060101AFI20220318BHJP
【FI】
H01F37/00 E
H01F37/00 M
H01F37/00 C
H01F37/00 A
H01F37/00 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020557806
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2019046466
(87)【国際公開番号】W WO2020111160
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2018224282
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】舌間 誠二
(72)【発明者】
【氏名】大石 明典
(72)【発明者】
【氏名】吉川 浩平
(72)【発明者】
【氏名】古川 尚稔
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 和宏
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-182173(JP,A)
【文献】特開2013-243211(JP,A)
【文献】特開2010-45112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結部を介して並列に配置される一対の巻回部を有するコイルと、
前記各巻回部の内側に配置される内側コア部と、前記両巻回部の外側に配置される一対の外側コア部とを有する磁性コアと、
前記両巻回部の各端面に対向するように配置される一対の保持部材と、
前記各外側コア部の外周面の少なくとも一部を覆い、前記各巻回部の内周面と前記各内側コア部との間に充填されるモールド樹脂部と、を備え、
前記コイルは、1本の連続する巻線で構成され、
前記連結部は、前記巻線の一部を折り返して形成され、
前記連結部が配置される側の一方の前記保持部材は、前記連結部が収納される凹部と、前記連結部の内側に配置される内側突起とを有する、
リアクトル。
【請求項2】
一方の前記保持部材の前記凹部側の面を平面視したとき、前記凹部の面積に対する前記内側突起の面積の割合が50%以上である請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
一方の前記保持部材の前記凹部側の面は、前記内側突起の端面と、前記凹部を除く残りの部分の面とが面一である請求項1又は請求項2に記載のリアクトル。
【請求項4】
前記保持部材は、前記両内側コア部の各端部が挿入される一対の貫通孔が形成され、
前記貫通孔の周縁部から前記巻回部の内側に向かって突出する内側介在部を有し、
前記内側介在部は、前記巻回部と前記内側コア部との間に挿入される請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項5】
一方の前記保持部材において、前記内側介在部は、前記貫通孔の周縁部のうち、前記凹部が設けられた側にのみ設けられている請求項4に記載のリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リアクトルに関する。
本出願は、2018年11月29日付の日本国出願の特願2018-224282号に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、巻線を巻回してなる巻回部を有するコイルと、巻回部の内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアと、巻回部の端面と外側コア部との間に介在される端面介在部材とを備えるリアクトルが開示されている。上記磁性コアは、巻回部の内部に配置される内側コア部と、巻回部の外部に配置される外側コア部とを有する。また、特許文献1に記載のリアクトルは、巻回部の内周面と内側コア部の外周面との間に充填される内側樹脂部と、外側コア部を端面介在部材に一体化する外側樹脂部とを備える。上記端面介在部材は、内側樹脂部を構成する樹脂を巻回部の内部へ充填する樹脂充填孔を有する。上記外側樹脂部と上記内側樹脂部とは、樹脂充填孔を通じて繋がっている。
【0003】
特許文献2には、一連の巻線を巻回して構成され、並列状態に配置された一対の巻回部を有するコイルが開示されている。両巻回部は、巻線の一部を折り返してなる連結部を介して接続される。上記連結部は、両巻回部の一端側において、巻線をヘアピン状に折り返して形成され、両巻回部の端部同士を繋ぐ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-28142号公報
【文献】特開2010-45112号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示のリアクトルは、
連結部を介して並列に配置される一対の巻回部を有するコイルと、
前記各巻回部の内側に配置される内側コア部と、前記両巻回部の外側に配置される一対の外側コア部とを有する磁性コアと、
前記両巻回部の各端面に対向するように配置される一対の保持部材と、
前記各外側コア部の外周面の少なくとも一部を覆い、前記各巻回部の内周面と前記各内側コア部との間に充填されるモールド樹脂部と、を備え、
前記コイルは、1本の連続する巻線で構成され、
前記連結部は、前記巻線の一部を折り返して形成され、
前記連結部が配置される側の一方の前記保持部材は、前記連結部が収納される凹部と、前記連結部の内側に配置される内側突起とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態1のリアクトルの概略上面図である。
図2図2は、図1に示す(II)-(II)線で切断した概略断面図である。
図3図3は、実施形態1のリアクトルを構成する組合体の概略分解図である。
図4図4は、第一の保持部材の概略上面図である。
図5図5は、図4に示す(V)-(V)線で切断した概略断面図である。
図6図6は、第一の保持部材を巻回部の端面に対向する側から見た概略図である。
図7図7は、第二の保持部材を巻回部の端面に対向する側から見た概略図である。
図8図8は、巻回部の端面に第一の保持部材を配置する方法を説明する図である。
図9図9は、巻回部の端面に第一の保持部材を配置した状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1に記載のリアクトルでは、外側コア部の外周面を樹脂で覆うと共に、端面介在部材といった保持部材に形成された樹脂充填孔を通して巻回部の端面側から巻回部と内側コア部との間の隙間に樹脂を充填する。このようにして、外側樹脂部及び内側樹脂部といったモールド樹脂部とを一体に成形している。
【0008】
特許文献2に記載されるような、1本の連続する巻線で構成され、連結部を介して並列に配置される一対の巻回部を有するコイルを、上述したモールド樹脂部を備えるリアクトルに適用することが検討されている。1本の連続する巻線で構成された上記コイルは、巻線を折り返して形成された連結部を有する。この連結部は、両巻回部の一端側において、巻回部の端面から巻回部の軸方向に突出する。連結部と巻回部の端面との間、換言すれば連結部の内側には、空間が形成される。以下、この空間を「連結部の内側空間」という場合がある。上記コイルを用いる場合、連結部が保持部材と干渉しないように、連結部が配置される側の一方の保持部材を部分的に薄くすることが考えられる。
【0009】
上述したモールド樹脂部を備えるリアクトルの製造方法としては、例えば、コイルと磁性コアと保持部材とを組み合わせた組合体を金型内に配置し、金型内に樹脂を注入して樹脂モールドすることが挙げられる。これにより、外側コア部を樹脂で覆い、保持部材の樹脂充填孔を通して巻回部と内側コア部との間に樹脂を充填することで、モールド樹脂部を成形する。
【0010】
一般に、金型内への樹脂の注入は、射出成形により樹脂に圧力をかけて行うが、巻回部と内側コア部との間の狭い隙間に樹脂を十分に行き渡らせるためには、高い圧力をかける必要がある。そのため、モールド樹脂部を成形する際に、樹脂の圧力によって保持部材が外方に膨らむように変形しようとする。特に、コイルの連結部が配置される側の一方の保持部材の肉厚を連結部と干渉しないように部分的に薄くすると、その部分の強度が低下する。そのため、モールド樹脂部の成形時に保持部材の肉厚の薄い部分が変形し易く、場合によっては破損するおそれがある。保持部材が大きく変形したり破損したりすると、保持部材と巻回部の端面との間から樹脂漏れが発生する。
【0011】
そこで、本開示は、モールド樹脂部を成形する際に保持部材の変形による樹脂漏れを抑制できるリアクトルを提供することを目的の一つとする。
【0012】
[本開示の効果]
本開示のリアクトルは、モールド樹脂部を成形する際に保持部材の変形による樹脂漏れを抑制できる。
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
本発明者らは、コイルの連結部が保持部材と干渉しないように、連結部が配置される側の一方の保持部材に、連結部を収納する空間を形成する凹部を設けることを検討した。この場合、保持部材における凹部が形成された部分の厚さが薄く強度が低いため、モールド樹脂部の成形時に凹部が形成された部分が変形し易い。モールド樹脂部の成形時に保持部材の変形を抑制するため、金型の内面に突起を一体に設けておき、その突起を連結部の内側空間に嵌め込むことが考えられる。モールド樹脂部の成形時に金型に設けた突起の端面を保持部材に形成された凹部の底面に接触させて、突起の端面で凹部の底面を支持することにより、凹部が形成された部分の変形を抑制する。しかし、一般的に、巻線を巻回してなるコイルの巻回部は、その軸方向の長さにばらつきが生じ易い。そのため、個々のコイルによって巻回部の長さが異なることから、連結部の軸方向の位置が異なることがあり、金型に対する保持部材の位置もばらつくことがある。よって、金型に上記突起を設けるにしても、金型内に組合体を配置したときに連結部の内側空間に突起が確実に入るように、連結部の内側空間に対して突起の大きさを比較的小さくせざるを得ない。つまり、保持部材の凹部の面積に対して突起の面積が小さくなる。突起が小さければ、突起の端面と保持部材の凹部の底面との接触面積が減るため、突起の端面で凹部の底面を十分に支持することが難しくなる。そうすると、保持部材の凹部が形成された部分の変形を十分に抑制できない可能性がある。
【0014】
本発明者らは、コイルの連結部が配置される側の一方の保持部材において、連結部が収納される凹部内に、連結部の内側空間に配置される内側突起を一体に設けることを提案する。内側突起を設けることによって、保持部材における凹部が形成された部分の厚さが薄い領域を減らすことができる。そのため、保持部材の凹部が形成された部分の強度を高めることができる。よって、モールド樹脂部を成形する際に保持部材の凹部が形成された部分の変形を抑制することが可能であり、保持部材の変形による樹脂漏れを抑制できる。
【0015】
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0016】
(1)本開示の実施形態に係るリアクトルは、
連結部を介して並列に配置される一対の巻回部を有するコイルと、
前記各巻回部の内側に配置される内側コア部と、前記両巻回部の外側に配置される一対の外側コア部とを有する磁性コアと、
前記両巻回部の各端面に対向するように配置される一対の保持部材と、
前記各外側コア部の外周面の少なくとも一部を覆い、前記各巻回部の内周面と前記各内側コア部との間に充填されるモールド樹脂部と、を備え、
前記コイルは、1本の連続する巻線で構成され、
前記連結部は、前記巻線の一部を折り返して形成され、
前記連結部が配置される側の一方の前記保持部材は、前記連結部が収納される凹部と、前記連結部の内側に配置される内側突起とを有する。
【0017】
本開示のリアクトルによれば、コイルの連結部が配置される側の一方の保持部材が、連結部が収納される凹部内に内側突起を有する。内側突起により凹部が形成された部分の厚さが薄い領域を減らすことができる。そのため、保持部材の凹部が形成された部分の強度を高めることができる。よって、モールド樹脂部を成形する際に保持部材の凹部が形成された部分の変形を抑制することが可能である。本開示のリアクトルは、モールド樹脂部を成形する際に保持部材の変形による樹脂漏れを抑制できる。
【0018】
また、本開示のリアクトルによれば、コイルによって連結部の軸方向の位置が異なることがあっても、保持部材の内側突起の大きさは変更する必要がない。そのため、内側突起は、連結部の内側空間に対応した大きさ、形状とすることができる。よって、凹部が形成された部分の強度を確保し易い。上述したように、金型に設けた突起を連結部の内側空間に嵌め込む場合、コイルと磁性コアと保持部材とを組み合わせた組合体を金型内に配置する。その際、複数の部材からなる組合体において、連結部の位置をばらつかないようにすることは困難である。したがって、連結部の内側空間に対して突起を小さくせざるを得ない。一方、保持部材に設けた内側突起であれば、連結部の内側空間に嵌め込むだけでよく、内側突起を大きくしても連結部の内側に嵌め易い。したがって、内側突起の大きさを変更する必要がなく、連結部の内側空間に対する内側突起の大きさも確保し易い。
【0019】
(2)上記リアクトルの一形態として、
一方の前記保持部材の前記凹部側の面を平面視したとき、前記凹部の面積に対する前記内側突起の面積の割合が50%以上であることが挙げられる。
【0020】
上記形態によれば、凹部の面積に対する内側突起の面積の割合が50%以上であることで、保持部材の凹部が形成された部分の強度をより高めることができる。よって、モールド樹脂部の成形時に保持部材の凹部が形成された部分の変形をより抑制できる。
【0021】
(3)上記リアクトルの一形態として、
一方の前記保持部材の前記凹部側の面は、前記内側突起の端面と、前記凹部を除く残りの部分の面とが面一であることが挙げられる。
【0022】
上記形態によれば、内側突起の端面と、保持部材の凹部を除く残りの部分の面とが面一であることで、モールド樹脂部の成形時に保持部材の凹部を除く上面を金型の内面に面接触させることができる。これにより、保持部材の変形を効果的に抑制できる。
【0023】
(4)上記リアクトルの一形態として、
前記保持部材は、前記両内側コア部の各端部が挿入される一対の貫通孔が形成され、
前記貫通孔の周縁部から前記巻回部の内側に向かって突出する内側介在部を有し、
前記内側介在部は、前記巻回部と前記内側コア部との間に挿入されることが挙げられる。
【0024】
上記形態によれば、保持部材の各貫通孔に両内側コア部の各端部が挿入されることで、両内側コア部を位置決めできる。また、保持部材の内側介在部が巻回部と内側コア部との間に挿入されることで、巻回部と内側コア部とを間隔をあけて保持できると共に、巻回部を位置決めできる。
【0025】
(5)上記(4)に記載のリアクトルの一形態として、
一方の前記保持部材において、前記内側介在部は、前記貫通孔の周縁部のうち、前記凹部が設けられた側にのみ設けられていることが挙げられる。
【0026】
一方の保持部材は、内側突起が設けられているため、巻回部の端面に対して巻回部の軸方向から配置しようとしても、内側突起が連結部と干渉して凹部内に連結部を配置することはできない。一方の保持部材を巻回部の端面に配置するとき、例えば、両巻回部の軸線に対して連結部が上側に設けられている場合、連結部の内側空間の下側に内側突起が位置するようにして、連結部の内側空間の下側から内側突起を差し込む。そして、巻回部の端面に沿って保持部材を相対的に上方向にスライドさせて配置する。このとき、保持部材が内側介在部を有する場合は、内側介在部を巻回部内に挿入した状態で、巻回部の端面に沿って保持部材をスライドさせる。内側介在部が貫通孔の周縁部の全周に設けられていると、連結部の内側空間の下側に内側突起を位置させるときに、内側介在部が巻回部と干渉し、内側介在部を巻回部内に挿入できない。上記形態によれば、内側介在部が凹部が設けられた側、上記の例でいえば上側にのみ設けられていることで、内側介在部を巻回部内に挿入した状態で、巻回部の端面に沿って保持部材をスライドさせることが可能である。これにより、一方の保持部材を巻回部の端面に配置することができる。
【0027】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係るリアクトルの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。また、各図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合があり、また、実際の縮尺とは必ずしも一致していない。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0028】
[実施形態1]
図1図9を参照して、実施形態1のリアクトル1Aについて説明する。以下、リアクトル1A及びその構成部材について説明するときは、リアクトル1Aを側面視して、コイル2の両巻回部21、22の中心軸線に対して連結部23が設けられた側を上側とし、その反対側を下側とする。この上下方向を高さ方向、即ち縦方向とする。図1において、紙面手前側が上側であり、紙面奥側が下側である。図2において、紙面上側が上側であり、紙面下側が下側である。図2図5中、上記中心軸線を一点鎖線で示す。また、コイル2の両巻回部21、22の軸方向に沿った方向、即ち図1図2の紙面左右方向を長さ方向とする。コイル2の両巻回部21、22の並列方向、即ち図1の紙面上下方向を幅方向とする。図2は、巻回部21の軸方向に沿って縦方向に切断したリアクトル1Aの縦断面図である。
【0029】
<概要>
実施形態1のリアクトル1Aは、図1図3に示すように、コイル2と、磁性コア3と、保持部材41、42とを備える図3に示す組合体10を有する。コイル2は、図1に示すように、一対の巻回部21、22と、連結部23とを有する。磁性コア3は、巻回部21、22の内側に配置される内側コア部31、32と、巻回部21、22の外側に配置される外側コア部33とを有する。保持部材41、42は、両巻回部21、22の各端面に対向するように配置される。また、リアクトル1Aは、図1図2に示すように、モールド樹脂部8を備える。モールド樹脂部8は、各外側コア部33の外周面の少なくとも一部を覆い、各巻回部21、22の内周面と各内側コア部31、32との間に充填される。以下の説明では、一対の保持部材41、42のうち、コイル2の連結部23が配置される側、即ち図1図2における右側の一方の保持部材41を「第一の保持部材」と呼び、他方の保持部材42を「第二の保持部材」と呼ぶ場合がある。リアクトル1Aの特徴の1つは、図3図4にも示すように、第一の保持部材41が、連結部23が収納される凹部46と、連結部23の内側に配置される内側突起47とを有する点にある。以下、リアクトル1Aの構成について詳しく説明する。
【0030】
(コイル)
コイル2は、図1図3に示すように、一対の巻回部21、22と、両巻回部21、22の一端側に連結部23とを有する。図1でいえば、両巻回部21、22の右側に連結部23が設けられている。コイル2は、1本の連続する巻線で構成される。連結部23は、巻線の一部を折り返して形成される。具体的には、両巻回部21、22は、1本の連続する巻線を螺旋状に巻回して構成され、互いの軸が平行するように並列に配置されている。両巻回部21、22は、巻線の一部を折り返して形成される連結部23を介して繋がっている。本例の連結部23は、両巻回部21、22の一端側で、巻線をJ状に折り返して形成されている。連結部23は、巻回部21、22の端面から軸方向に突出する。本例では、図3に示すように、コイル2を上側から見たとき、連結部23と巻回部21、22の端面との間、即ち連結部23の内側に涙滴形状の空間が形成されている。両巻回部21、22の他端側、即ち図1における左側は、巻線の端部が適宜な方向に引き出され、その先端に図示しない端子金具が取り付けられる。端子金具には、電源などの図示しない外部装置が接続される。なお、図1図3では、巻線の端部を省略して示している。
【0031】
巻線は、導体線と、絶縁被覆とを有する被覆線が挙げられる。導体線の構成材料は、銅などが挙げられる。絶縁被覆の構成材料は、ポリアミドイミドなどの樹脂が挙げられる。被覆線としては、断面形状が長方形状の被覆平角線や、断面形状が円形状の被覆丸線などが挙げられる。
【0032】
両巻回部21、22は、同じ仕様の巻線からなり、形状、大きさ、巻回方向、ターン数が同じである。この例では、巻回部21、22は、被覆平角線をエッジワイズ巻きした四角筒状のエッジワイズコイルである。具体的には、巻回部21、22の形状は矩形筒状である。巻回部21、22の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、円筒状や楕円筒状、長円筒状などであってもよい。また、各巻回部21、22を形成する巻線の仕様や、各巻回部21、22の形状、大きさなどは異ならせてもよい。
【0033】
この例では、巻回部21、22を軸方向から見た端面形状が矩形環状である。つまり、巻回部21、22の外周面は、4つの平面と4つの角部とを有する。巻回部21、22の角部は丸められている。
【0034】
(磁性コア)
磁性コア3は、図1図3に示すように、内側コア部31、32と、一対の外側コア部33とを有する。内側コア部31、32はそれぞれ、各巻回部21、22の内側に配置される。外側コア部33は、両巻回部21、22の外側に配置される。内側コア部31、32は、その軸方向の端部が巻回部21、22から突出していてもよい。外側コア部33は、両内側コア部31、32の各端部同士を接続する。この例では、両内側コア部31、32を両端から挟むように外側コア部33がそれぞれ配置される。図1に示す磁性コア3は、図3に示すように、両内側コア部31、32の各端面と外側コア部33の内端面33eとが接続されることによって、環状に構成される。磁性コア3には、コイル2を励磁した際に磁束が流れ、閉磁路が形成される。
【0035】
(内側コア部)
内側コア部31、32の形状は、巻回部21、22の内周形状に概ね対応した形状である。巻回部21、22の内周面と内側コア部31、32の外周面との間には隙間が存在する。この隙間には、図2に示すように、後述するモールド樹脂部8が充填される。この例では、内側コア部31、32の形状が四角柱状、具体的には矩形柱状である。内側コア部31、32を軸方向から見た端面形状が矩形状である。内側コア部31、32の角部は、巻回部21、22の角部に沿うように丸められている。両内側コア部31、32の形状、大きさは同じである。また、この例では、内側コア部31、32の両端部が巻回部21、22の両端面から突出している。この巻回部21、22から突出する端部も内側コア部31、32に含まれる。巻回部21、22から突出する内側コア部31、32の両端部は、図3にも示すように、後述する保持部材41、42の貫通孔43に挿入される。
【0036】
この例では、各内側コア部31、32は、1つの柱状のコア片で構成されている。内側コア部31、32構成する各コア片は、巻回部21、22の軸方向の全長と略等しい長さを有する。つまり、内側コア部31、32には、ギャップ材が設けられていない。なお、各内側コア部31、32は、複数のコア片と、隣り合うコア片間に介在されるギャップ材とで構成してもよい。
【0037】
(外側コア部)
外側コア部33の形状は、両内側コア部31、32の各端部同士を繋ぐ形状であれば、特に限定されない。外側コア部33は、図3に示すように、両内側コア部31、32の各端面に対向する内端面33eを有する。この例では、外側コア部33の形状は直方体状である。両外側コア部33の形状、大きさは同じである。各外側コア部33は、1つの柱状のコア片で構成されている。
【0038】
〈構成材料〉
内側コア部31、32及び外側コア部33は、軟磁性材料を含む成形体で構成されている。軟磁性材料としては、鉄や鉄合金といった金属、フェライトなどの非金属が挙げられる。鉄合金は、例えば、Fe-Si合金、Fe-Ni合金などである。軟磁性材料を含む成形体としては、軟磁性材料からなる粉末、即ち軟磁性粉末を圧縮成形した圧粉成形体や、軟磁性粉末を樹脂中に分散させて成形した複合材料などが挙げられる。複合材料は、未固化の樹脂中に軟磁性粉末を混合して分散させた原料を金型に充填し、樹脂を硬化させることで得られる。圧粉成形体は、複合材料に比較して、コア片に占める軟磁性粉末の割合が高い。複合材料は、樹脂中の軟磁性粉末の含有量を調整することによって、比透磁率や飽和磁束密度といった磁気特性を制御し易い。
【0039】
軟磁性粉末は、軟磁性粒子の集合体である。軟磁性粒子は、その表面に絶縁被覆を有する被覆粒子であってもよい。絶縁被覆の構成材料は、リン酸塩などが挙げられる。複合材料の樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、液晶ポリマー(LCP)、ポリイミド(PI)樹脂、フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。PA樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン9Tなどが挙げられる。複合材料の樹脂にフィラーを含有させてもよい。フィラーを含有することで、複合材料の放熱性を向上させることができる。フィラーとしては、例えば、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウムなどの酸化物、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などの窒化物、炭化珪素などの炭化物といったセラミックスやカーボンナノチューブなどの非磁性粉末を利用できる。
【0040】
内側コア部31、32の構成材料と外側コア部33の構成材料は、同じであってもよいし、異なってもよい。例えば、内側コア部31、32及び外側コア部33を複合材料で構成し、それぞれの軟磁性粉末の材質や含有量を異ならせることも可能である。この例では、内側コア部31、32が複合材料で構成されている。外側コア部33が圧粉成形体で構成されている。また、本例の磁性コア3は、ギャップ材を有していないが、これに限らず、複数のコア片間に介在されるギャップ材を有する構成であってもよい。
【0041】
(保持部材)
保持部材41、42は、図1図3に示すように、両巻回部21、22の各端面に対向するように配置される部材である。本例の保持部材41、42は、巻回部21、22を有するコイル2と、内側コア部31、32及び外側コア部33を有する磁性コア3との電気的絶縁を確保する。また、保持部材41、42は、コイル2及び磁性コア3の位置決め状態を保持する。
【0042】
両保持部材41、42の基本的な構成は同じであるが、第一の保持部材41は、凹部46及び内側突起47を有する点で、第二の保持部材42と異なる。本例の保持部材41、42について、図4図7も参照しつつ説明する。まず、保持部材41、42の共通の基本構成を説明する。次いで、一方の保持部材41に設けられた凹部46及び内側突起47について説明する。
【0043】
本例では、図6図7に示すように、保持部材41、42が矩形枠状である。各保持部材41、42の外周面は実質的に平面で構成されている。なお、図6では、紙面右側が保持部材41の上側である。図7では、紙面左側が保持部材42の上側である。
【0044】
〈貫通孔〉
各保持部材41、42は、巻回部21、22と外側コア部33との間の電気的絶縁を確保する。各保持部材41、42は、図1図3に示すように、両巻回部21、22の各端面と各外側コア部33の内端面33eとの間に介在される。各保持部材41、42には、図6図7にも示すように、一対の貫通孔43が形成されている。各貫通孔43には、両内側コア部31、32の各端部が挿入される。貫通孔43の形状は、内側コア部31、32の端部の外周形状に概ね対応した形状である。各貫通孔43に両内側コア部31、32の各端部が挿入されることで、内側コア部31、32が保持される。また、貫通孔43は、内側コア部31、32の端部が挿入された状態で、図6図7に示すように、内側コア部31、32の外周面と貫通孔43の内周面との間に部分的に隙間43cが形成されるように設けられている。この隙間43cは、巻回部21、22の内周面と内側コア部31、32の外周面との間の隙間に連通する。
【0045】
〈嵌め込み部〉
各保持部材41、42は、各外側コア部33の外周面の少なくとも一部を囲むように形成され、その内側に嵌め込み部44を有する。嵌め込み部44には、図3に示すように、外側コア部33の内端面33e側が嵌め込まれる。この例では、嵌め込み部44は、外側コア部33が嵌め込まれた状態で、外側コア部33の外周面と嵌め込み部44の内周面との間に部分的に隙間が形成されるように設けられている。この隙間には、図1に示すように、後述するモールド樹脂部8が充填され、モールド樹脂部8によって各保持部材41、42と各外側コア部33とが一体化される。本例の保持部材41、42は、外側コア部33と嵌め込み部44との間の隙間と、上述した図6図7に示す内側コア部31、32と貫通孔43との間の隙間43cとが連通するように構成されている。これらの隙間が連通することにより、後述するモールド樹脂部8を成形する際に、モールド樹脂部8を構成する樹脂を巻回部21、22と内側コア部31、32との間に導入することが可能である。つまり、これらの隙間は、モールド樹脂部8を構成する樹脂を巻回部21、22の内部へ充填する樹脂充填孔として機能する。
【0046】
〈内側介在部〉
更に、各保持部材41、42は、図3に示すように、貫通孔43の周縁部から巻回部21、22の内側に向かって突出する内側介在部48を有する。内側介在部48は、巻回部21、22と内側コア部31、32との間に挿入される。図6図7に示すように、この内側介在部48によって、巻回部21、22と内側コア部31、32とが間隔をあけて保持され、巻回部21、22と内側コア部31、32との間の電気的絶縁を確保する。
【0047】
この例では、図6図7に示すように、第一の保持部材41と第二の保持部材42とで、内側介在部48の形成範囲が異なっている。第一の保持部材41では、図6に示すように、内側介在部48が凹部46が設けられた側にのみ設けられている。具体的には、図5図6に示すように、第一の保持部材41において、内側介在部48は、貫通孔43の周縁部のうち上側にのみ設けられている。第一の保持部材41を図3に示す巻回部21、22の端面に対向する側から見たとき、図6に示すように内側介在部48の形状は]状である。第一の保持部材41の内側介在部48は、内側コア部31、32の端部のうち、上面と側面の上側の一部とを覆う。一方、第二の保持部材42では、図7に示すように、内側介在部48が貫通孔43の周縁部の全周に亘って設けられている。第二の保持部材42を図3に示す巻回部21、22の端面に対向する側から見たとき、図7に示すように内側介在部48の形状は矩形枠状である。第二の保持部材42の内側介在部48は、内側コア部31、32の端部における外周面の全周を覆う。
【0048】
上述したように、内側コア部31、32の各端部が保持部材41、42の各貫通孔43に挿入されることによって、内側コア部31、32が位置決めされる。また、図3に示すように、外側コア部33の内端面33e側が保持部材41、42の嵌め込み部44に嵌め込まれることによって、外側コア部33が位置決めされる。更に、内側介在部48によって、巻回部21、22が位置決めされる。その結果、保持部材41、42によって、巻回部21、22を有するコイル2と、内側コア部31、32及び外側コア部33を有する磁性コア3とが位置決め状態で保持される。
【0049】
〈構成材料〉
保持部材41、42は、電気絶縁材料で構成されている。電気絶縁材料としては、代表的には樹脂が挙げられる。具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂や、PPS樹脂、PA樹脂、LCP、PI樹脂、フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。保持部材41、42を構成する樹脂にフィラーを含有させてもよい。フィラーを含有することで、保持部材41、42の放熱性を向上させることができる。フィラーとしては、上述した複合材料に用いるフィラーと同様のものを利用できる。本例の保持部材41、42は、射出成形により成形された成形品であり、PPS樹脂で構成されている。
【0050】
(凹部)
連結部23が配置される第一の保持部材41の上部には、図4図5に示すように、連結部23が収納される凹部46が形成されている。図5図6に示すように、凹部46の底面は平面である。本例では、図4に示すように、連結部23に対向する凹部46の内周面は、連結部23の外側の輪郭に沿って形成されている。つまり、保持部材41を上側から見たとき、凹部46の形状は連結部23の外観形状に概ね対応した形状である。図5図6に示すように、保持部材41の凹部46が形成された部分の厚さ、換言すれば貫通孔43の内周面と凹部46の底面との間隔は、凹部46を除く部分の厚さ、換言すれば貫通孔43の内周面と保持部材41の上面との間隔に比較して薄い。
【0051】
(内側突起)
第一の保持部材41の凹部46には、図4図5に示すように、連結部23と巻回部21、22の端面との間、即ち連結部23の内側に配置される内側突起47が設けられている。つまり、連結部23の内側空間に内側突起47が嵌め込まれる。内側突起47は、図5に示すように、凹部46の底面から突出する。内側突起47は保持部材41に一体に形成されている。図5図6に示すように、内側突起47の端面は平面である。本例では、図4に示すように、保持部材41を上側から見たとき、内側突起47の形状は連結部23の内側空間の形状に概ね対応した涙滴形状である。図5図6に示すように、保持部材41の内側突起47が形成された部分の厚さ、換言すれば貫通孔43の内周面と内側突起47の端面との間隔は、凹部46が形成された部分の厚さに比較して厚くなっている。
【0052】
〈内側突起の面積比〉
図4に示すように、保持部材41の凹部46側の面、即ち上面を平面視したとき、凹部46の面積に対する内側突起47の面積の割合は50%以上であることが挙げられる。以下、上記面積の割合のことを「内側突起の面積比」という。ここで、凹部46の面積とは、巻回部21、22の端面に保持部材41を配置した状態で、凹部46の上記内周面と巻回部21、22の端面とで囲まれる領域の面積をいう。この領域を、図4の斜線部分で示す。凹部46の面積には、内側突起47の面積を包含する。内側突起47の面積とは、保持部材41の上面を平面視したときの内側突起47の端面の面積をいう。内側突起47の面積比は、凹部46の面積の55%以上、更に60%以上であることが好ましい。内側突起47の面積比の上限は、特に限定されないが、例えば80%以下であることが挙げられる。
【0053】
〈内側突起の高さ〉
図5に示すように、内側突起47の高さは、例えば、連結部23の高さ、即ちコイル2の巻回部21、22を構成する巻線の幅以上であることが挙げられる。内側突起47の高さとは、凹部46の底面から内側突起47の端面までの距離のことを指す。連結部23の高さとは、両巻回部21、22の並列方向と軸方向の双方に直交する方向の寸法のことをいう。連結部23の高さは、巻回部21、22の内周面と外周面との間隔に等しい。本例では、図5に示すように、内側突起47の高さが連結部23の高さと略等しく、内側突起47の方が連結部23よりも若干高い。また、内側突起47は、その突出方向、即ち高さ方向に一様な断面を有する。
【0054】
更に、本例では、図5図6に示すように、保持部材41の上面を構成する内側突起47の端面と、凹部46を除く残りの部分の面とが実質的に面一である。そのため、凹部46が設けられた保持部材41の上面は、凹部46を除いて実質的に平面で構成されている。
【0055】
(モールド樹脂部)
モールド樹脂部8は、図1図2に示すように、外側コア部33の外周面の少なくとも一部を覆うと共に、巻回部21、22の内周面と内側コア部31、32の外周面との間に充填される。このモールド樹脂部8により、内側コア部31、32と外側コア部33とが一体に保持され、巻回部21、22を有するコイル2と、内側コア部31、32及び外側コア部33を有する磁性コア3とが一体化されている。そのため、コイル2と磁性コア3とを一体物として取り扱うことができる。また、モールド樹脂部8によって各外側コア部33と各保持部材41、42とが一体化されている。つまり、この例では、モールド樹脂部8によって、コイル2、磁性コア3及び保持部材41、42が一体化されており、図3に示す組合体10を一体物として取り扱うことができる。なお、巻回部21、22の外周面は、モールド樹脂部8で覆われておらず、モールド樹脂部8から露出している。
【0056】
モールド樹脂部8は、内側コア部31、32と外側コア部33とを一体に保持できればよい。そのため、モールド樹脂部8は、内側コア部31、32の少なくとも端部の外周面を覆うように形成されていればよい。つまり、モールド樹脂部8は、内側コア部31、32の軸方向の中央部まで及んでいなくてもよい。内側コア部31、32と外側コア部33とを一体に保持するというモールド樹脂部8の機能に鑑みれば、モールド樹脂部8の形成範囲は、内側コア部31、32の端部近傍までで十分である。勿論、モールド樹脂部8は、内側コア部31、32の軸方向の中央部まで及んでいてもよい。この場合、モールド樹脂部8は、内側コア部31、32の外周面を全長にわたって覆い、一方の外側コア部33から他方の外側コア部33にわたって形成される。本例では、モールド樹脂部8が、図2に示すように巻回部21、22の軸方向に沿って、巻回部21、22の内周面と内側コア部31、32の外周面との間の隙間の全長にわたって充填されている。
【0057】
〈構成材料〉
本例のモールド樹脂部8は、射出成形により成形されている。モールド樹脂部8を構成する樹脂は、上述した保持部材41、42を構成する樹脂と同様のものを利用できる。モールド樹脂部8は上述したフィラーを含有してもよい。本例では、モールド樹脂部8がPPS樹脂で構成されている。
【0058】
<製造方法>
上述したリアクトル1Aの製造方法の一例を説明する。リアクトルの製造方法は、大別すると、組合体を作製する工程と、モールド樹脂部を成形する工程とを備える。
【0059】
組合体を作製する工程では、図3に示すように、コイル2と磁性コア3と保持部材41、42とを組み合わせた組合体10を作製する。
組合体10の組立は、次のようにして行う。コイル2の巻回部21、22の各端面に対向するように保持部材41、42をそれぞれ配置する。コイル2の連結部23が配置される側の第一の保持部材41については、図8に示すように、巻回部21、22の一方の端面に対し、連結部23の内側空間の下側に内側突起47が位置するように保持部材41を配置すると共に、内側介在部48を巻回部21、22内に挿入した状態とする。なお、図8では、両巻回部21、22のうち、巻回部21を軸方向に沿って縦方向に切断した状態を示しており、巻回部22を図示していない。次に、連結部23の内側空間の下側から内側突起47を差し込むように、巻回部21、22の端面に沿って保持部材41を相対的に上方向にスライドさせる。図8中、白抜き矢印方向は保持部材41のスライド方向を示す。これにより、図9に示すように、保持部材41の凹部46内に連結部23を収納すると共に、連結部23の内側空間に内側突起47を嵌め込むことで、巻回部21、22の一方の端面に第一の保持部材41を配置する。
【0060】
巻回部21、22の一端側に保持部材41を配置した後、保持部材41の嵌め込み部44に外側コア部33を嵌め込む。その状態で、巻回部21、22の他端側から巻回部21、22内に内側コア部31、32をそれぞれ挿入する。その後、巻回部21、22の他方の端面に対して巻回部21、22の軸方向から第二の保持部材42を配置し、保持部材42の嵌め込み部44に外側コア部33を嵌め込む。両内側コア部31、32の各端部は、保持部材41、42の各貫通孔43に挿入され、内側コア部31、32の両端に外側コア部33がそれぞれ配置される。これにより、両内側コア部31、32の各端面と各外側コア部33の内端面33eとを接続して、図1に示すように、内側コア部31、32と外側コア部33とで環状の磁性コア3を構成する。以上のようにして、コイル2と磁性コア3と保持部材41、42とを備える組合体10を組み立てる。コイル2と磁性コア3とは、保持部材41、42によって位置決め状態で保持されている。
【0061】
モールド樹脂部を成形する工程では、外側コア部33の外周面の少なくとも一部を樹脂で被覆すると共に、巻回部21、22の内周面と内側コア部31、32との間に樹脂を充填する。これにより、図2に示すように、モールド樹脂部8を成形する。
【0062】
組合体10を金型内に配置し、組合体10の外側コア部33側から金型内に樹脂を注入する。例えば、外側コア部33の内側コア部31、32が配置される側とは反対側から樹脂を射出して、外側コア部33の外周面を樹脂で覆う。このとき、樹脂の一部は、図6図7を参照して説明した保持部材41、42に形成される上述の樹脂充填孔、即ち、外側コア部33と嵌め込み部44との間の隙間と、内側コア部31、32と貫通孔43との間の隙間43cとを通って、巻回部21、22と内側コア部31、32との間に充填される。その後、樹脂を固化させることで、モールド樹脂部8を一体成形する。これにより、モールド樹脂部8によってコイル2、磁性コア3及び保持部材41、42を一体化することができる。以上により、図1図2に示すリアクトル1Aを製造することができる。
【0063】
樹脂の充填は、一方の外側コア部33側から他方の外側コア部33側に向かって巻回部21、22内に樹脂を充填してもよいし、両方の外側コア部33側から巻回部21、22内に樹脂を充填してもよい。本例では、両方の外側コア部33側から樹脂を射出する両方向充填により、各外側コア部33を樹脂で覆うと共に、巻回部21、22の内周面と内側コア部31、32の外周面との間の隙間に樹脂を充填する。
【0064】
本実施形態では、図4図5に示すように、第一の保持部材41の上部に、連結部23が収納される凹部46内に内側突起47が一体に設けられている。凹部46内に内側突起47が存在するため、保持部材41において、凹部46により厚さが薄くなった部分の領域を減らすことができる。よって、保持部材41の凹部46が形成された部分の強度を高めることができる。したがって、モールド樹脂部8を成形する際に、保持部材41の凹部46が形成された部分の変形を抑制することが可能であり、保持部材41の変形による樹脂漏れを抑制できる。
【0065】
また、内側突起47の面積比が50%以上であることで、保持部材41の凹部46が形成された部分の強度をより高めることができる。よって、モールド樹脂部8の成形時に保持部材41の凹部46が形成された部分の変形をより抑制できる。
【0066】
更に、本例では、図5図6に示すように、内側突起47の端面と、保持部材41の凹部46を除く残りの部分の面とが面一であり、保持部材41の凹部46を除く上面が平面である。そのため、モールド樹脂部8の成形時に保持部材41の上面を金型の内面に面接触させることができる。これにより、保持部材41の変形を効果的に抑制できる。
【0067】
本例では、保持部材41の内側介在部48が貫通孔43の周縁部のうち上側にのみ設けられている。そのため、図8を参照して説明したように、連結部23の下側に内側突起47を位置させると共に、内側介在部48を巻回部21、22内に挿入した状態で、巻回部21、22の端面に沿って保持部材41をスライドさせることができる。これにより、保持部材41を巻回部21、22の端面に配置することができる。
【0068】
{効果}
実施形態1のリアクトル1Aは、次の作用効果を奏する。
【0069】
コイル2の連結部23が配置される側の一方の保持部材41が、連結部23が収納される凹部46内に内側突起47を有する。内側突起47によって、保持部材41における凹部46が形成された厚さが薄い部分の領域を減らすことができるため、保持部材41の凹部46が形成された部分の強度を高めることができる。よって、モールド樹脂部8を成形する際に、保持部材41の凹部46が形成された部分の変形を抑制することが可能であり、保持部材41の変形による樹脂漏れを抑制できる。
【0070】
{用途}
実施形態1のリアクトル1Aは、電圧の昇圧動作や降圧動作を行う回路の部品に利用できる。リアクトル1Aは、例えば、種々のコンバータや電力変換装置の構成部品などに利用できる。コンバータの一例としては、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等の車両に搭載される車載用コンバータ、代表的にはDC-DCコンバータや、空調機のコンバータなどが挙げられる。リアクトル1Aは、例えば、コンバータケースなどの図示しない設置対象に設置される。
【0071】
[変形例]
上述した実施形態1のリアクトル1Aの変形例としては、例えば次のようなものが挙げられる。
【0072】
(1)リアクトル1Aを収納するケースを備えてもよい。リアクトル1Aをケースに収納することで、コイル2、磁性コア3及び保持部材41、42を含む組合体10の機械的保護及び外部環境からの保護を図ることができる。外部環境からの保護は、組合体10の防食性を向上させる。ケースは、金属材料で構成することが挙げられる。金属製のケースは、熱伝導率が比較的高く、組合体10の熱をケースを介して外部に放熱し易い。よって、リアクトル1Aの放熱性の向上に寄与する。
【0073】
ケースは、例えば、リアクトル1Aが載置される底板部と、リアクトル1Aの周囲を囲む側壁部と、底板部と対向する側に形成された開口部とを有することが挙げられる。このケースは、底板部と側壁部とでリアクトル1Aの収納空間が形成される。このケースは、底板部と対向する側に開口部が形成された有底筒状の容器である。底板部と側壁部とは、一体に形成されていてもよいし、別体で形成されていてもよい。底板部と側壁部とを別体とする場合、例えばねじや接着剤などで接合すること挙げられる。側壁部の高さ、即ちケースの高さは、ケース内に収納されたリアクトル1Aの上端よりも高くすることが挙げられる。ここでは、ケースの底板部側を下、その反対側の開口部側を上とする。この上下方向に沿った方向をケースの高さ方向、換言すれば深さ方向とする。ケースの形状としては、例えば、側壁部の形状が矩形枠状で、上方から見た開口部の形状が矩形状であることが挙げられる。
【0074】
ケースの構成材料は、非磁性金属が好適である。非磁性金属としては、アルミニウムやその合金、マグネシウムやその合金、銅やその合金、銀やその合金、オーステナイト系ステンレス鋼などが挙げられる。金属製のケースは、ダイキャストで製造できる。
【0075】
(2)上記ケースを備える場合、ケース内に充填されて、リアクトル1Aの少なくとも一部を封止する封止樹脂部を備えてもよい。封止樹脂部によって、組合体10の保護を図ることができる。また、封止樹脂部は、コイル2とケースとの間に介在される。例えば、巻回部21、22とケースの側壁部との間に封止樹脂部が介在される。これにより、コイル2の熱を封止樹脂部を介してケースに伝えることができ、組合体10の放熱性を向上できる。
【0076】
封止樹脂部は、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂や、PPS樹脂などの熱可塑性樹脂で構成することが挙げられる。封止樹脂部の熱伝導率は高いほど好ましい。コイル2の熱をケースに伝達させ易いからである。封止樹脂部の熱伝導率は、例えば1W/m・K以上、更に1.5W/m・K以上、特に2W/m・K以上が好ましい。封止樹脂部は上述したフィラーを含有してもよい。
【0077】
(3)リアクトル1Aの配置形態として、平置き型、縦積み型、直立型が挙げられる。平置き型とは、コイル2の両巻回部21、22の並列方向が設置対象の面と平行するように配置されている形態である。縦積み型とは、コイル2の両巻回部21、22の並列方向が設置対象の面と直交するように配置されている形態である。直立型とは、コイル2の両巻回部21、22の軸方向が設置対象の面と直交するように配置されている形態である。上記ケースにリアクトル1Aを収納する場合、ケースの底板部が設置対象になる。
【0078】
リアクトル1Aの配置形態が縦積み型の場合、平置き型に比較して、設置対象に対するリアクトル1Aの設置面積を小さくできる。一般的に、両巻回部21、22の並列方向及び軸方向の双方に直交する方向に沿った組合体10の長さは、両巻回部21、22の並列方向に沿った組合体10長さよりも短いからである。同様に、リアクトル1Aの配置形態が直立型の場合も、平置き型に比較して、設置対象に対するリアクトル1Aの設置面積を小さくできる。一般的に、両巻回部21、22の並列方向及び軸方向の双方に直交する方向に沿った組合体10の長さは、両巻回部21、22の軸方向に沿った組合体10長さよりも短いからである。よって、配置形態が縦積み型又は直立型の場合、平置き型に比較して、リアクトル1Aの設置面積の省スペース化が可能である。また、ケースに収納する場合、縦積み型又は直立型では、平置き型に比較して、両巻回部21、22とケースとの対向面積を大きく確保でき、ケースを放熱経路として効率よく利用できる。そのため、コイル2の熱をケースに放熱し易く、放熱性をより向上できる。両巻回部21、22の軸方向に沿った組合体10の長さが、両巻回部21、22の並列方向に沿った組合体10の長さよりも長い場合は、直立型の方が縦積み型よりもリアクトル1Aの設置面積を小さくできる。
【0079】
(4)リアクトル1Aと設置対象との間に接着層を備えてもよい。これにより、リアクトル1Aを設置対象に強固に固定できる。接着層は、リアクトル1Aを設置対象に取り付けたとき、リアクトル1Aにおける設置対象に対向する面に形成することが挙げられる。上記ケースにリアクトル1Aを収納する場合、ケースの底板部が設置対象になる。
【0080】
接着層は、電気絶縁樹脂で構成することが挙げられる。接着層を構成する電気絶縁樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂や、PPS樹脂、LCPなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。接着層は上述したフィラーを含有してもよい。接着層は、市販の接着シートを利用したり、市販の接着剤を塗布して形成してもよい。
【符号の説明】
【0081】
1A リアクトル
10 組合体
2 コイル
21、22 巻回部
23 連結部
3 磁性コア
31、32 内側コア部
33 外側コア部
33e 内端面
41、42 保持部材
43 貫通孔
43c 隙間
44 嵌め込み部
46 凹部
47 内側突起
48 内側介在部
8 モールド樹脂部
図1
図2
図3
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図5
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図9