(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】コネクタ
(51)【国際特許分類】
H01R 13/42 20060101AFI20220318BHJP
【FI】
H01R13/42 C
H01R13/42 F
(21)【出願番号】P 2018244569
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮村 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】春日井 正邦
(72)【発明者】
【氏名】守安 聖典
【審査官】山下 寿信
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-209400(JP,A)
【文献】特開平10-112345(JP,A)
【文献】特開平10-189115(JP,A)
【文献】特開2008-198554(JP,A)
【文献】特開2008-186739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに対し後方から挿入される端子金具と、
前記ハウジングに取り付けられ、前記ハウジングに対する前記端子金具の挿入を許容する仮係止位置と、前記ハウジングに挿入された前記端子金具を抜止めする本係止位置との間で、前記端子金具の挿入方向と交差する方向に移動可能なリテーナと、
前記ハウジングに形成された変位規制部と、
前記リテーナに形成され、前記リテーナが
前記本係止位置にあるときに前記変位規制部に対して前方から当接可能な引掛部とを
備え、
前記リテーナは、後方から前記ハウジングに組み付けられ、前記ハウジングに形成されて前後方向に延びる保持部によってガイドされながら前記仮係止位置に至り、
前記リテーナは、前記保持部から外れることによって、前記仮係止位置から前記本係止位置へ移動するコネクタ。
【請求項2】
ハウジングと、
前記ハウジングに対し後方から挿入される端子金具と、
前記ハウジングに取り付けられ、前記ハウジングに対する前記端子金具の挿入を許容する仮係止位置と、前記ハウジングに挿入された前記端子金具を抜止めする本係止位置との間で、前記端子金具の挿入方向と交差する方向に移動可能なリテーナと、
前記ハウジングに形成された変位規制部と、
前記リテーナに形成され、前記リテーナが前記本係止位置にあるときに前記変位規制部に対して前方から当接可能な引掛部とを備え、
前記引掛部は、前記リテーナが前記仮係止位置
にあるときと前記リテーナが前記本係止位置にあるときに、前記ハウジングの保持部と嵌合することで前記リテーナを移動規制す
るコネクタ。
【請求項3】
ハウジングと、
前記ハウジングに対し後方から挿入される端子金具と、
前記ハウジングに取り付けられ、前記ハウジングに対する前記端子金具の挿入を許容する仮係止位置と、前記ハウジングに挿入された前記端子金具を抜止めする本係止位置との間で、前記端子金具の挿入方向と交差する方向に移動可能なリテーナと、
前記ハウジングに形成された変位規制部と、
前記リテーナに形成され、前記リテーナが前記本係止位置にあるときに前記変位規制部に対して前方から当接可能な引掛部と、
前記ハウジングに形成され、前記端子金具を収容する端子収容室と、
前記ハウジングに形成され、前記端子収容室の内壁部の一部を凹ませた形態の切欠部と、
前記リテーナに形成され、前記リテーナが前記仮係止位置にあるときには前記切欠部に収容され、前記リテーナが前記本係止位置にあるときには前記端子金具に対して後方から当接可能に対向する抜止部
と、
前記ハウジングの外面に沿うように配され、相手側コネクタとの嵌合過程で前記ハウジングの前記外面に接近するように弾性変位するロックアームと、を備え、
前記切欠部が、前記ハウジングの前記外面において前記ロックアームと対向するように開口し、
前記リテーナが前記仮係止位置にあるときに前記抜止部がロックアームの弾性変位を規制する位置に配されるようになっているコネクタ。
【請求項4】
前記端子金具に形成され、前記切欠部内へ突出した形態であり、前記リテーナが前記本係止位置にあるときに前記抜止部に対して前方から当接可能に対向可能な二次係止部を備えている
請求項3に記載のコネクタ。
【請求項5】
前記リテーナに設けられ、前記仮係止位置にある状態では前記ハウジングを相手側コネクタと嵌合させる過程で前記相手側コネクタと干渉し、前記本係止位置にある状態では前記相手側コネクタと非干渉となる検知部を備えている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ハウジングに対し後方からコンタクトを挿入するとともに、ハウジングの後端部に対し後方からリテイナを取り付け、リテイナによってコンタクトを抜止めするコネクタが開示されている。ハウジングの外面には突起状の係止部が形成され、リテイナには弾性変形可能な着脱係止部が形成されている。リテイナをハウジングに取り付ける過程では、着脱係止部が弾性変形しながら係止部を乗り越える。リテイナが正規の取付け状態になると、着脱係止部が係止部に係止することにより、リテイナが後方への移動を規制された保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リテイナをハウジングに取り付ける過程では、着脱係止部が弾性変形した状態で係止部に摺接するため、着脱係止部と係止部との間に摩擦抵抗が生じる。この摩擦抵抗は、リテイナを取り付ける際に作業性を低下させる原因となる。この対策としては、係止部の突出寸法を小さくすることが考えられるが、係止部の突出寸法を小さくすると、着脱係止部と係止部との係止力が低下するため、リテイナを取付け状態に保持する機能が低下するという問題が生じる。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、ハウジングに対するリテーナの保持力を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
ハウジングと、
前記ハウジングに対し後方から挿入される端子金具と、
前記ハウジングに取り付けられ、前記ハウジングに対する前記端子金具の挿入を許容する仮係止位置と、前記ハウジングに挿入された前記端子金具を抜止めする本係止位置との間で、前記端子金具の挿入方向と交差する方向に移動可能なリテーナと、
前記ハウジングに形成された変位規制部と、
前記リテーナに形成され、前記リテーナが本係止位置にあるときに前記変位規制部に対して前方から当接可能な引掛部とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
リテーナが仮係止位置から本係止位置へ移動すると、引掛部が変位規制部に対して前方から当接可能となり、リテーナはハウジングに対し後方への相対変位を規制された状態に保持される。リテーナが仮係止位置から本係止位置へ移動する際に引掛部が変位規制部を乗り越えることがないので、引掛部と変位規制部との当接代を大きく確保することが可能である。これより、ハウジングに対するリテーナの保持力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1の雌側コネクタにおいてリテーナが仮係止位置に保持されている状態をあらわす斜視図
【
図2】リテーナが仮係止位置に保持されている状態をあらわす正断面図
【
図3】雌側ハウジングにリテーナを組み付けた状態をあらわす平断面図
【
図4】リテーナが仮係止位置に保持されている状態をあらわす側断面図
【
図5】リテーナが本係止位置に保持されている状態をあらわす斜視図
【
図6】リテーナが本係止位置に保持されている状態をあらわす正断面図
【
図7】リテーナが本係止位置に保持されている状態をあらわす側断面図
【
図11】リテーナが仮係止位置に保持されている状態で雌側コネクタを雄側コネクタに嵌合し始めた状態をあらわす背面図
【
図13】リテーナが本係止位置に保持されている状態で雌側コネクタを雄側コネクタに嵌合した状態をあらわす背面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、前記引掛部は、前記リテーナが前記仮係止位置と前記本係止位置のうち少なくとも一方の係止位置にあるときに、前記ハウジングの保持部と嵌合することで前記リテーナを移動規制するようになっていてもよい。この構成によれば、引掛部が、リテーナを仮係止位置や本係止位置に保持する機能を兼ね備えているので、リテーナの形状の簡素化を図ることができる。
【0010】
本発明は、前記ハウジングに形成され、前記端子金具を収容する端子収容室と、前記ハウジングに形成され、前記端子収容室の内壁部の一部を凹ませた形態の切欠部と、前記リテーナに形成され、前記リテーナが前記仮係止位置にあるときには前記切欠部に収容され、前記リテーナが前記本係止位置にあるときには前記端子金具に対して後方から当接可能に対向する抜止部とを備えていてもよい。この構成によれば、リテーナの抜止部と端子金具との当接位置を、端子収容室内における後端よりも前方の領域に設定できるので、抜止部と端子金具との当接部位に異物が干渉することを防止できる。
【0011】
本発明は、前記端子金具に形成され、前記切欠部内へ突出した形態であり、前記リテーナが前記本係止位置にあるときに前記抜止部に対して前方から当接可能に対向可能な二次係止部を備えていてもよい。この構成によれば、リテーナの仮係止位置と本係止位置との間の移動方向において、二次係止部の突出寸法を拡大し、二次係止部と抜止部との当接代を大きく確保することができる。
【0012】
本発明は、前記ハウジングの外面に沿うように配され、相手側コネクタとの嵌合過程で前記ハウジングの前記外面に接近するように弾性変位するロックアームを備えており、前記切欠部が、前記ハウジングの前記外面において前記ロックアームと対向するように開口し、前記リテーナが前記仮係止位置にあるときに前記抜止部がロックアームの弾性変位を規制する位置に配されるようになっていてもよい。この構成によれば、リテーナが仮係止位置にある状態のままでコネクタを相手側コネクタと嵌合しようとすると、ロックアームの弾性変位が規制される。これにより、リテーナが本係止位置へ移動していないことを検知することができる。
【0013】
本発明は、前記リテーナに設けられ、前記仮係止位置にある状態では前記ハウジングを相手側コネクタと嵌合させる過程で前記相手側コネクタと干渉し、前記本係止位置にある状態では前記相手側コネクタと非干渉となる検知部を備えていてもよい。この構成によれば、ハウジングを相手側コネクタと嵌合させる際に、リテーナが仮係止位置と本係止位置のいずれの係止位置にあるかを検知することができる。
【0014】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した実施例1を
図1~
図14を参照して説明する。尚、以下の説明において、前後の方向については、
図1,3~5,7~9,12,における左方を前方と定義する。上下の方向については、
図1,2,4,5~14にあらわれる向きを、そのまま上方、下方と定義する。
【0015】
本実施例1の雌側コネクタF(請求項に記載のコネクタ)は、合成樹脂製の雌側ハウジング10(請求項に記載のハウジング)と、一対の雌端子金具27(請求項に記載の端子金具)と、合成樹脂製のリテーナ36とを備えて構成されている。
【0016】
図4,7に示すように、雌側ハウジング10は、全体としてブロック状をなす端子収容部11と、ロックアーム22とを一体に形成した単一部材である。端子収容部11内には、左右対称な一対の端子収容室12が左右に並んで形成されている。端子収容室12の下面には、上下方向へ弾性変形可能なランス13が形成されている。端子収容室12の後端は、雌側ハウジング10の後端面において端子挿入口14として開口されている。
【0017】
端子収容部11には、左右対称な一対の切欠部15が形成されている。一対の切欠部15は、左右一対の端子収容室12の内壁部を構成する上壁部のうち後端側領域を、個別な凹ませた形態である。一対の切欠部15は、端子収容室12の外面16(上面)に開口されているとともに、端子収容室12の後端面に開口されている。
【0018】
図1,2,5,6,8に示すように、雌側ハウジング10(端子収容部11)の左右両外側面には、雌側ハウジング10の後端面に開口する左右対称な一対の凹部17が形成されている。左右両凹部17には、夫々、リテーナ36を仮係止位置と本係止位置に保持するための手段として、上下一対の変位規制部18と、仮係止用保持部19(請求項に記載の保持部)と、共用保持部20(請求項に記載の保持部)と、仮係止用規制部21とが形成されている。
【0019】
上下一対の変位規制部18は、凹部17の側面における後端部から幅方向(雌側ハウジング10に対するリテーナ36の組付け方向と直交する方向)へリブ状に突出した形態である。上下一対の変位規制部18は、前後方向(雌側ハウジング10に対するリテーナ36の組付け方向と平行な方向)に細長く延びており、互いに平行をなし、且つ上下方向(後述するリテーナ36の仮係止位置と本係止位置との間での移動方向と平行に方向)に間隔を空けて配置されている。一対の変位規制部18の前端は、前後方向において同じに揃うように位置している。
【0020】
仮係止用保持部19は、変位規制部18と同様、凹部17の側面から幅方向へリブ状に突出した形態である。仮係止用保持部19の突出寸法は、変位規制部18の突出寸法よりも小さい寸法である。仮係止用保持部19は、前後方向に細長く延びた形態であり、一対の変位規制部18よりも上方に配置されている。前後方向における仮係止用保持部19の形成領域は、変位規制部18の前端よりも前方の位置から、変位規制部18の前端よりも後方の位置に至る範囲である。
【0021】
共用保持部20は、変位規制部18及び仮係止用保持部19と同様、凹部17の側面から幅方向へリブ状に突出した形態である。共用保持部20の突出寸法は仮係止用保持部19の突出寸法とほぼ同じ寸法である。共用保持部20は、前後方向に細長く延びた形態であり、一対の変位規制部18よりも上方の位置であり、且つ仮係止用保持部19よりも下方の位置に配置されている。前後方向における共用保持部20の形成領域は、変位規制部18の前端よりも前方の位置から、変位規制部18の前端とほぼ同じ位置に至る範囲である。
【0022】
仮係止用規制部21は、変位規制部18、仮係止用保持部19及び共用保持部20と同様、凹部17の側面から幅方向へリブ状に突出した形態である。仮係止用規制部21の突出寸法は、仮係止用保持部19及び共用保持部20の突出寸法よりも小さい寸法に設定されている。仮係止用規制部21は、上下方向に細長く延びた形態である。仮係止用規制部21の上端は共用保持部20の後端部に連なり、仮係止用規制部21の下端は上側の変位規制部18の前端部に連なっている。
【0023】
図4,7に示すように、ロックアーム22は、アーム本体部23と支持部24とを備えている。アーム本体部23は、端子収容部11の外面16(上面)に沿って前後方向に細長く延びた形態である。支持部24は、アーム本体部23の前端部から下方へ延出し、端子収容部11の外面16(上面)に連なっている。ロックアーム22は、支持部24を支点として上下方向へ弾性変形し得るようになっている。
【0024】
ロックアーム22が弾性変形しない自由状態であるときに、アーム本体部23は、端子収容部11の上面に対して上下方向に間隔を空けて対向している。アーム本体部23の後端部はロック解除用の操作部25として機能する。アーム本体部23の上面にはロック突起26が形成されている。アーム本体部23の前後方向における後端側領域は、端子収容部11の上面における一対の切欠部15の開口部と対向するように配置されている。
【0025】
図4,7に示すように、雌端子金具27は、前端部に角筒部28を有し、後端部にはオープンバレル状の圧着部29を有している。角筒部28内には弾性接触片30が収容されている。角筒部28の下面には突起状の一次係止部31が形成されている。角筒部28を構成する下板部は圧着部29の基板部と連なっている。圧着部29には、被覆電線32の前端部が導通可能に圧着されている。
【0026】
角筒部28を構成する上板部33は、圧着部29よりも上方に位置している。上板部33と圧着部29との高低差により、角筒部28の上板部33の後端部は、段差状をなす二次係止部34として機能する。二次係止部34は、上板部33の後端から上方へ略直角に且つ片持ち状に延出した形態の当て部35を有している。
【0027】
雌端子金具27は、雌側ハウジング10の後方から端子収容室12内に挿入される。正規挿入された雌端子金具27は、一次係止部31をランス13に係止させることにより、抜止め状態に保持される。雌端子金具27に固着された被覆電線32は、雌側ハウジング10の後方へ導出されている。雌端子金具27が正規位置に挿入された状態では、角筒部28が、端子収容部11のうち切欠部15よりも前方の領域(端子収容室12の奥方の領域)に収容される。上板部33は、端子収容室12の上壁部に対し接近してい対向するように位置し、二次係止部34の当て部35が、切欠部15内に収容され、切欠部15の前面に沿うように配される。圧着部29は、端子収容室12のうち前後方向において切欠部15が形成されている後端側領域に収容される。
【0028】
図9に示すように、リテーナ36は、後壁部37と、左右対称な一対の検知用突部41(請求項に記載の検知部)と、左右対称な一対の抜止部42と、左右対称な一対の引掛部43とを有する単一部材である。後壁部37は、壁厚方向を前後方向に向けた略平板状をなす。後壁部37の背面視形状は略方形であり、雌側ハウジング10の後面の全体を覆う大きさを有している。後壁部37のうち、背面視において操作部25の左右両端部と対応する領域は、覆い部38として機能する。
【0029】
後壁部37のうち、背面視において操作部25の左右方向中央部と対応する領域には、前後方向(後壁部37の厚さ方向)に貫通した形態の操作孔39が形成されている。後壁部37には、背面視において端子収容室12と対応する領域を切り欠いた形態の逃がし部40が形成されている。逃がし部40は、後壁部37の下端縁に開口され、被覆電線32とリテーナ36との干渉を回避する手段である。一対の検知用突部41は、後壁部37の前面における左右両端部に配置されている。検知用突部41は、後壁部37の前面から片持ち状に突出した形態である。
【0030】
左右一対の抜止部42は、後壁部37の前面(雌側ハウジング10の後面と対向する面)から前方へ片持ち状に突出した形態である。抜止部42の突出方向は、雌側ハウジング10に対する雌端子金具27の挿入方向及び雌側ハウジング10に対するリテーナ36の組付け方向と平行であり、且つリテーナ36の仮係止位置と本係止位置との間の移動方向と直交する方向である。一対の抜止部42は、左右方向において、後壁部37の左右両端よりも中央寄りの位置に配されている。
【0031】
一対の引掛部43は、後壁部37の前面のうち一対の抜止部42を左右両側から挟む位置に配置されている。各引掛部43は、全体としては、後壁部37の前面から片持ち状に突出した形態である。詳細には、引掛部43は、後壁部37から前方へ突出した基部44と、基部44の突出端部(前端部)の下面から下方へ突出した突起部45とを有している。突起部45の突出方向は、リテーナ36が仮係止位置から本係止位置へ変位するときの移動方向と同じ向きである。引掛部43の側面視形状は、略L字形である。引掛部43は、その後端部(後壁部37に連なる部位)を支点として左右方向へ弾性変位し得るようになっている。
【0032】
基部44の左右両側面のうち相手側の突起部45と対向する内側面には、共用嵌合溝46が形成されている。共用嵌合溝46は、前後方向(雌側ハウジング10に対するリテーナ36の組付け方向と平行な方向)に延びた形態であり、基部44(引掛部43)の前端面に開口されている。突起部45の左右両側面のうち相手側の突起部45と対向する内側面には、仮係止用嵌合溝47が形成されている。仮係止用嵌合溝47は、共用嵌合溝46と平行な方向、即ち前後方向に延びた形態であり、共用嵌合溝46よりも下方に配置されている。仮係止用嵌合溝47は、突起部45の前端面と後端面とに開口している。
【0033】
リテーナ36は、雌側ハウジング10の後方から端子収容部11の後端部に組み付けられる。リテーナ36を組み付ける際には、一対の引掛部43を端子収容部11の左右両外側面に沿わせ、共用嵌合溝46を仮係止用保持部19に嵌合して摺接させる。共用嵌合溝46と仮係止用保持部19の嵌合により、リテーナ36は、雌側ハウジング10に対し、上下方向に位置決めされるともに、上下方向の姿勢の傾きを規制された状態でガイドされる。
【0034】
リテーナ36の組付け過程では、突起部45の内側面が仮係止用規制部21を乗り越えるのに伴い、一対の引掛部43が互いに左右方向へ離間するように弾性変形する。リテーナ36の組付け工程は、リテーナ36が仮係止位置(
図1,2,4,11を参照)に到達した時点で完了する。リテーナ36が仮係止位置に到達すると、後壁部37が端子収容部11の後端面に当接するとともに、突起部45が仮係止用規制部21を通過し、一対の引掛部43が左右方向内側へ弾性復帰する。
【0035】
引掛部43が弾性復帰すると、
図3に示すように、突起部45の後面が、仮係止用規制部21に対し前方から当接可能に対向するので、リテーナ36は雌側ハウジング10に対して後方へ離脱することを規制される。また、引掛部43の弾性復帰により、仮係止用嵌合溝47が共用保持部20に嵌合する。共用嵌合溝46は仮係止用保持部19に嵌合した状態を保つ。
図2に示すように、仮係止用嵌合溝47と共用保持部20との嵌合、及び共用嵌合溝46と仮係止用保持部19との嵌合により、リテーナ36は、上下方向への移動を規制されたセミロック状態となり、仮係止位置に保持される。
【0036】
リテーナ36が仮係止位置にある状態では、
図2,4に示すように、一対の抜止部42のうち下側部位が、一対の切欠部15に個別に収容され、一対の抜止部42のうち上側部位が端子収容部11の上面(外面16)とロックアーム22の下面との間の空間に収容される。抜止部42の上面は、アーム本体部23の下面に対し接近した状態で対向するように位置する。抜止部42は、端子収容室12に対する雌端子金具27の挿抜経路よりも上方へ退避しているので、端子収容室12に対する雌端子金具27の挿抜が可能である。したがって、雌側ハウジング10に対する雌端子金具27の取付け作業は、リテーナ36を仮係止位置に保持した状態で行うことができる。
【0037】
仮係止位置のリテーナ36に対し下向きの操作力を付与すると、リテーナ36が、下方へ平行移動する。この間、後壁部37の前面が端子収容室12の後端面に摺接することにより、リテーナ36がガイドされる。リテーナ36の移動が開始すると、一対の引掛部43が互いに拡開するように弾性変形し、共用嵌合溝46が仮係止用保持部19から外れるとともに、仮係止用嵌合溝47が共用保持部20から外れる。そして、引掛部43の前端部が、仮係止用保持部19と共用保持部20に乗り上がり、両保持部19,20の突出端部に摺接する。
【0038】
変位規制部18の突出寸法は、両保持部19,20の突出寸法よりも大きいので、引掛部43の前端部が両保持部19,20の突出端部に摺接してる間、突起部45の後面は、上下両変位規制部18の前端面に対し、前方から摺接可能に対向する位置関係を保つ。これにより、リテーナ36が雌側ハウジング10に対して後方へ相対移動することを規制される。
【0039】
リテーナ36が本係止位置(
図5~7,13を参照)に到達すると、一対の引掛部43が互いに接近するように弾性復帰し、
図6に示すように、共用嵌合溝46が共用保持部20に嵌合する。この嵌合により、リテーナ36は、雌側ハウジング10に対する上下方向への相対移動を規制された状態で、本係止位置に保持される。
【0040】
また、
図3に示すように、突起部45の後面が、上下両変位規制部18の前面に対し前方から当接可能な状態で対向する。これにより、リテーナ36が雌側ハウジング10に対して後方へ相対変位(離脱)することを規制される。また、リテーナ36を本係止位置に保持した状態では、覆い部38がロックアーム22の操作部25を後方から覆う状態となる。したがって、後方から異物が操作部25に接近しても、その異物が操作部25に接触する虞はない。
【0041】
リテーナ36が仮係止位置から本係止位置へ移動する過程において、突起部45は、常に変位規制部18よりも前方に位置するので、変位規制部18を乗り越えることがなく、突起部45と変位規制部18との間に引掛部43の弾性変形に起因する摩擦抵抗が生じることはない。したがって、変位規制部18の突出寸法を大きく設定しても、リテーナ36を仮係止位置と本係止位置との間で移動させる際の摩擦抵抗が増大することはない。
【0042】
また、リテーナ36が仮係止位置から本係止位置へ移動する過程では、切欠部15内へ退避していた抜止部42が、二次係止部34の当て部35と同じ高さまで下降する。そして、抜止部42の後端部が当て部35に対し後方から当接可能な状態で対向する。したがって、リテーナ36が本係止位置にある状態では、被覆電線32が後方へ引っ張られても、当て部35(二次係止部34)が抜止部42に当接するので、雌端子金具27が後方へ相対変位することを規制される。雌端子金具27は、ランス13に対する一次係止部31の係止作用と、リテーナ36に対する二次係止部34の係止作用とにより、確実に抜止め状態に保持される。
【0043】
雌端子金具27を雌側ハウジング10から取り外す際には、本係止位置のリテーナ36を仮係止位置へ移動させ、リテーナ36(抜止部42)による二次係止状態を解除する。次に、治具(図示省略)を用いてランス13を弾性撓みさせ、一次係止部31から解離させる。そして、ランス13を一次係止部31から解離した状態を保ったまま、被覆電線32を後方へ引っ張ればよい。
【0044】
雌側コネクタFは雄側コネクタMと嵌合可能である。雄側コネクタMは、回路基板(図示省略)に取り付けられる基板用コネクタとしての機能を有する。雄側コネクタMは、雄側ハウジング50と、雄側ハウジング50に取り付けた一対の雄端子金具54とを備えて構成されている。雄側ハウジング50は、壁状の端子貫通部51と、端子貫通部51の外周縁から正面側(雌側コネクタF側)へ角筒状に突出したフード部52とを有する。
【0045】
フード部52を構成する上面部にはロック孔(図示省略)が形成されている。フード部52を構成する左右両側面部の正面(両コネクタF,Mの嵌合時に雌側コネクタFと対向する面)には、凹んだ形態の検知用受け部53が形成されている(
図12,14を参照)。雄端子金具54は端子貫通部51に貫通され、雄端子金具54の先端のタブはフード部52内に収容され、雄端子金具54の基板接続部は回路基板に半田付けにより固着されている。
【0046】
雌側コネクタFを雄側コネクタMに嵌合する過程では、ロック突起26がフード部52の上面部と干渉することにより、ロックアーム22が端子収容部11の上面(外面16)に接近する方向(下方)へ弾性撓みする。このとき、リテーナ36が本係止位置に保持されていれば、
図7に示すように、端子収容部11の上面(外面16)とアーム本体部23の下面との間には十分な撓み空間48が確保されるので、ロックアーム22の弾性撓み動作に支障を来すことはない。また、リテーナ36が本係止位置にある状態では、
図14に示すように、リテーナ36の検知用突部41が、雄側ハウジング50と干渉することなく検知用受け部53内に嵌入するので、両コネクタF,Mの嵌合動作に支障を来すことはない。
【0047】
そして、両コネクタF,Mが正規の嵌合状態に至ると、ロックアーム22が弾性復帰してロック突起26とロック孔とが係止状態となり、両コネクタF,Mが嵌合状態にロックされる。また、検知用突部41が検知用受け部53に嵌入しているので、両コネクタF,Mに対するリテーナ36の上方(仮係止位置側へ向かう方向)への移動が規制される。したがって、リテーナ36による二次係止機能の信頼性に優れている。
【0048】
また、リテーナ36が仮係止位置にある状態のままで、両コネクタF,Mの嵌合を始めた場合には、リテーナ36の抜止部42が、端子収容部11の上面(外面16)より上方の撓み空間48内に進出し、アーム本体部23に対して接近して対向する状態となる。したがって、両コネクタF,Mの嵌合の途中で、ロックアーム22が弾性撓みした直後に、アーム本体部23の下面が抜止部42と干渉し、それ以上のロックアーム22の弾性撓み動作が規制される。これにより、両コネクタF,Mの嵌合動作も規制される。
【0049】
また、リテーナ36が仮係止位置にある状態で両コネクタF,Mの嵌合を無理に進めた場合、ロックアーム22が抜止部42を押すことによってリテーナ36が本係止位置側へ移動する。しかし、ロックアーム22の弾性撓み量が最大に達したときに、リテーナ36は、本係止位置には到達しない。したがって、両コネクタF,Mの嵌合途中で、検知用突部41が検知用受け部53に嵌入せずに、雄側ハウジング50(フード部52)の正面と干渉する。この干渉により、それ以上の両コネクタF,Mの嵌合動作が規制される。これにより、リテーナ36が本係止位置に保持されていないことが検知される。
【0050】
上述のように、本実施例1の雌側コネクタFは、雌側ハウジング10と、雌側ハウジング10に対し後方から挿入される雌端子金具27と、雌側ハウジング10に取り付けられるリテーナ36とを備えている。リテーナ36は、雌側ハウジング10に対する雌端子金具27の挿入を許容する仮係止位置と、雌側ハウジング10に挿入された雌端子金具27を抜止めする本係止位置との間で、雌端子金具27の挿入方向と交差する上下方向に移動可能である。
【0051】
雌側ハウジング10には変位規制部18が形成され、リテーナ36には、リテーナ36が本係止位置にあるときに変位規制部18に対して前方から当接可能な引掛部43が形成されている。リテーナ36が仮係止位置から本係止位置へ移動すると、引掛部43が変位規制部18に対して前方から当接可能となり、リテーナ36は雌側ハウジング10に対し後方への相対変位を規制された状態に保持される。リテーナ36が仮係止位置から本係止位置へ移動する際に引掛部43が変位規制部18を乗り越えることがないので、引掛部43と変位規制部18との当接代を大きく確保することが可能である。これより、雌側ハウジング10に対するリテーナ36の保持力を向上させることができる。
【0052】
また、引掛部43は、リテーナ36が仮係止位置にあるときに、雌側ハウジング10の仮係止用保持部19と共用保持部20と嵌合することでリテーナ36を移動規制する。また、引掛部43は、リテーナ36が本係止位置にあるときに、雌側ハウジング10の共用保持部20と嵌合することでリテーナ36を移動規制する。この構成によれば、引掛部43が、リテーナ36を仮係止位置及び本係止位置に保持する機能を兼ね備えているので、引掛部43とは別の部位に仮係止用保持部19や共用保持部20との嵌合部位を形成する場合に比べると、リテーナ36の形状の簡素化を図ることができる。
【0053】
また、雌側ハウジング10には、雌端子金具27を収容する端子収容室12と、端子収容室12の内壁部の一部を凹ませた形態の切欠部15とが形成されている。リテーナ36には、リテーナ36が仮係止位置にあるときには切欠部15に収容され、リテーナ36が本係止位置にあるときには雌端子金具27に対して後方から当接可能に対向する抜止部42が形成されている。この構成によれば、リテーナ36の抜止部42と雌端子金具27との当接位置を、端子収容室12内における後端よりも前方の領域(端子収容室12の奥側)に設定できるので、抜止部42と雌端子金具27との当接部位に異物が干渉することを防止できる。
【0054】
また、雌端子金具27には、切欠部15内へ突出した形態であり、リテーナ36が本係止位置にあるときに抜止部42に対して前方から当接可能に対向可能な二次係止部34(当て部35)が形成されている。この構成によれば、リテーナ36の仮係止位置と本係止位置との間の移動方向において、二次係止部34の突出寸法を拡大し、二次係止部34と抜止部42との当接代を大きく確保することができる。
【0055】
また、雌側ハウジング10は、雌側ハウジング10の外面16(端子収容部11の上面)に沿うように配されたロックアーム22を有している。ロックアーム22は、雄側コネクタMとの嵌合過程で雌側ハウジング10の外面16に接近するように弾性変位する。切欠部15は、雌側ハウジング10の外面16においてロックアーム22と対向するように開口している。
【0056】
リテーナ36が仮係止位置にあるときに、抜止部42は、ロックアーム22の弾性変位を規制する位置(撓み空間48内)に配される。この構成によれば、リテーナ36が仮係止位置にある状態のままで雌側コネクタFを雄側コネクタMと嵌合しようとすると、ロックアーム22の弾性変位が規制される。これにより、リテーナ36が本係止位置へ移動していないことを検知することができる。
【0057】
また、リテーナ36には、仮係止位置にある状態では雌側ハウジング10を雄側コネクタMと嵌合させる過程で雄側コネクタMと干渉する検知用突部41が設けられている。リテーナ36が本係止位置にある状態では、検知用突部41は雄側コネクタMと非干渉となる。この構成によれば、雌側ハウジング10を雄側コネクタMと嵌合させる際に、リテーナ36が仮係止位置と本係止位置のいずれの係止位置にあるかを検知することができる。
【0058】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例1では、引掛部が、リテーナを仮係止位置に保持する機能とリテーナを本係止位置に保持する機能とを兼ね備えているが、引掛部は、リテーナを仮係止位置に保持する機能のみを備えていてもよく、リテーナを本係止位置に保持する機能のみを備えていてもよく、リテーナを仮係止位置と本係止位置のいずれの係止位置に保持する機能も備えていな形態であってもよい。
(2)上記実施例1では、リテーナが端子収容室の内部で端子金具を抜止めするが、リテーナは、端子収容室の後端の開口部で端子金具を抜止めするものであってもよい。
(3)上記実施例1では、端子金具の二次係止部が切欠部内へ突出しているが、二次係止部は切欠部内に突出しない形態であってもよい。
(4)上記実施例1では、切欠部がハウジングの外面に開口しているが、切欠部はハウジングの外面に開口しない形態であってもよい。
(5)上記実施例1では、リテーナが、仮係止位置と本係止位置のいずれの係止位置にあるかを検知するための検知部を備えているが、リテーナは検知部を有しない形態であってもよい。
【符号の説明】
【0059】
F…雌側コネクタ(コネクタ)
M…雄側コネクタ(相手側コネクタ)
10…雌側ハウジング(ハウジング)
12…端子収容室
15…切欠部
18…変位規制部
19…仮係止用保持部(保持部)
20…共用保持部(保持部)
22…ロックアーム
27…雌端子金具(端子金具)
34…二次係止部
36…リテーナ
41…検知用突部(検知部)
42…抜止部
43…引掛部