IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社日本クライメイトシステムズの特許一覧

特許7042428車両用空調装置及び車両用空調装置を備えた車両
<>
  • 特許-車両用空調装置及び車両用空調装置を備えた車両 図1
  • 特許-車両用空調装置及び車両用空調装置を備えた車両 図2
  • 特許-車両用空調装置及び車両用空調装置を備えた車両 図3
  • 特許-車両用空調装置及び車両用空調装置を備えた車両 図4
  • 特許-車両用空調装置及び車両用空調装置を備えた車両 図5
  • 特許-車両用空調装置及び車両用空調装置を備えた車両 図6
  • 特許-車両用空調装置及び車両用空調装置を備えた車両 図7
  • 特許-車両用空調装置及び車両用空調装置を備えた車両 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】車両用空調装置及び車両用空調装置を備えた車両
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/00 20060101AFI20220318BHJP
【FI】
B60H1/00 101Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018068774
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177803
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000152826
【氏名又は名称】株式会社日本クライメイトシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 悠
(72)【発明者】
【氏名】小森 晃
(72)【発明者】
【氏名】古井 美緒
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 憲作
(72)【発明者】
【氏名】濱本 浩
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 洋一
(72)【発明者】
【氏名】西井 秀明
(72)【発明者】
【氏名】重中 祐昭
【審査官】佐藤 正浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-246037(JP,A)
【文献】特開2006-327530(JP,A)
【文献】特開平05-178064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される車両用空調装置において、
車室内の乗員周りの温熱環境を検出する温熱環境検出手段と、
乗員の脈波からRRIを検出するRRI検出手段と、
前記RRI検出手段により検出されたRRIから乗員の快適感を定量的に算出して乗員の快適感を示す信号を出力する快適感演算手段と、
前記乗員周りの温熱環境を制御する温熱環境制御装置と、
前記快適感演算手段から出力された乗員の快適感を示す信号に基づいて前記温熱環境制御装置の制御目標値を設定する制御目標値設定手段と、
前記温熱環境検出手段で検出された乗員周りの温熱環境と、前記温熱環境制御装置の動作状態とを含む温冷感算出情報に基づいて乗員の熱モデルを得て、乗員の温冷感を定量的に算出して乗員の温冷感を示す信号を出力する乗員温冷感算出手段とを備え、
前記制御目標値設定手段は、前記快適感演算手段から出力された信号と、前記乗員温冷感算出手段から出力された信号とが互いに対応しているか否かを判定し、両信号が対応していないと判定された場合には、前記快適感演算手段から出力された信号を補正する補正処理を実行するように構成されている車両用空調装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用空調装置において、
前記制御目標値設定手段は、前記快適感演算手段から出力された信号と、前記乗員温冷感算出手段から出力された信号とが互いに対応していると判定された場合には、前記補正処理を禁止するように構成されている車両用空調装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用空調装置において、
乗員の皮膚温度を検出する皮膚温度検出手段を備え、
前記温冷感算出情報には、前記皮膚温度検出手段で検出された乗員の皮膚温度の情報が含まれている車両用空調装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の車両用空調装置において、
前記快適感演算手段は、前記温熱環境検出手段で検出された乗員周りの温熱環境と、前記温熱環境制御装置の動作状態とを得て、前記乗員周りの温熱環境及び前記動作状態の変化がないにも関わらず、前記RRI検出手段により検出されたRRIが変化した場合は、変化前のRRIから乗員の快適感を算出するように構成されている車両用空調装置。
【請求項5】
請求項3に記載の車両用空調装置において、
前記快適感演算手段は、前記温熱環境検出手段で検出された乗員周りの温熱環境と、前記温熱環境制御装置の動作状態と、前記皮膚温度検出手段で検出された乗員の皮膚温度とを得て、前記乗員周りの温熱環境、前記動作状態及び前記乗員の皮膚温度の変化がないにも関わらず、前記RRI検出手段により検出されたRRIが変化した場合は、変化前のRRIから乗員の快適感を算出するように構成されている車両用空調装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の車両用空調装置において、
前記快適感演算手段は、前記RRI検出手段でRRIを検出できなかった場合には、前記乗員温冷感算出手段から出力された信号に基づいて乗員の快適感を算出するように構成されている車両用空調装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1つに記載の車両用空調装置を備えた車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等に設けられる車両用空調装置及び車両用空調装置を備えた車両に関し、特に、乗員の生体信号を検出する手段を備えた技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な車両用空調装置は、車室内温度や外気温度、日射量、乗員による設定温度等を検出し、それら検出結果を使用して所定のアルゴリズムに従い、車室内への吹き出し空気温度や吹き出し風量を自動的に設定する、いわゆるオートエアコン制御を実行することが可能に構成されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1の空調装置は、乗員の脈波信号を計測し、脈波信号から抽出した特徴量に基づいて個人特性を推定し、推定された個人特性に応じて設定温度に対する制御を可変するように構成されている。個人特性は、脈波伝播時間、脈波波形、加速度脈波、血圧-心拍の相互相関係数、心拍変動のゆらぎ等であり、このような個人特性を用いることで、健康を考慮した空調となるように制御を可変するようにしている。
【0004】
特許文献2の空調装置は、乗員が携帯する携帯機によって乗員の脈波を検出し、検出した脈波から寒暑の感覚と相関性を有する数値を算出し、この算出された数値が暑さを感じていることを示す数値である場合には車室内を冷房し、寒さを感じていることを示す数値である場合には車室内を暖房するように構成されている。
【0005】
また、特許文献3には、車両のステアリングホイールに取り付けられた電極によって運転者の心電図波形を検出するとともに、車両の振動ノイズも検出し、電極によって検出された心電図波形から振動ノイズを差し引くことによって乗員の心電図波形を得ることが開示されている。
【0006】
さらに、特許文献4には、車両用シートに着座した乗員に光を照射し、乗員からの反射光を受光し、受光量の変化に基づいて乗員の脈波を検出する生体情報検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-132246号公報
【文献】特開2011-246037号公報
【文献】特開2011-24903号公報
【文献】特開2012-147925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来の一般的な車両用空調装置では、乗員が暑いと感じているのか寒いと感じているのか分からず、しかも暑さの程度及び寒さの程度も分からない状態で、車室内温度等の間接的な情報のみに基づいて空調制御を行っていたので、空調制御の精度が高いとは言えない面があり、更なる向上の余地があった。
【0009】
このことに対し、例えば赤外線センサによって乗員の皮膚温度を測定し、皮膚温度に基づいて空調制御を行うことが考えられる。しかしながら、乗員の皮膚温度は個人差が大きく、赤外線センサによって得られる温度は表層のみであることから、乗員の温冷感を適切に表したものとならない場合がある。その結果、乗員の皮膚温度を空調制御に用いたとしても、空調制御の精度が向上しないおそれがある。
【0010】
一方、例えば特許文献1に開示されているように、乗員の脈波を得て、脈波に基づいて空調制御を行うことが考えられるが、特許文献1は、空調制御の精度を高めるというよりは、個人特性を用いることで健康を考慮した空調となるように制御を可変するものである。しかも、乗員の脈波を検出するにあたっては、例えば特許文献3に開示されている方法があるが、車両の場合、特に走行中の振動によるノイズ成分が検出信号に含まれる場合があるとともに、そのノイズは経時的に大きく変化することもあり、空調精度を向上させるには問題がある。また、特許文献4に開示されているように受光量に基づいて脈波を検出する場合も同様な問題を持つものと考えられる。
【0011】
また、特許文献2では、車室外に持ち出す携帯機によって乗員の脈波を検出するようにしているので、走行時の振動によるノイズ成分の無い脈波信号が検出可能になる。しかし、特許文献2は、乗員が乗車するまでの間の空調、いわゆるプレ空調を行うための技術であり、そのため、車両走行中に乗員の脈波を検出しようとすると、上述したようにノイズの問題が生じる。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、乗員の脈波を利用して空調制御の精度の更なる向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の第1の側面に係る車両用空調装置は、車両に搭載される車両用空調装置において、車室内の乗員周りの温熱環境を検出する温熱環境検出手段と、乗員の脈波からRRIを検出するRRI検出手段と、前記RRI検出手段により検出されたRRIから乗員の快適感を定量的に算出して乗員の快適感を示す信号を出力する快適感演算手段と、前記乗員周りの温熱環境を制御する温熱環境制御装置と、前記快適感演算手段から出力された乗員の快適感を示す信号に基づいて前記温熱環境制御装置の制御目標値を設定する制御目標値設定手段と、前記温熱環境検出手段で検出された乗員周りの温熱環境と、前記温熱環境制御装置の動作状態とを含む温冷感算出情報に基づいて乗員の熱モデルを得て、乗員の温冷感を定量的に算出して乗員の温冷感を示す信号を出力する乗員温冷感算出手段とを備え、前記制御目標値設定手段は、前記快適感演算手段から出力された信号と、前記乗員温冷感算出手段から出力された信号とが互いに対応しているか否かを判定し、両信号が対応していないと判定された場合には、前記快適感演算手段から出力された信号を補正する補正処理を実行するように構成されている。
【0014】
この構成によれば、乗員の脈波のRRIから乗員の快適感が定量的に算出されて乗員の快適感を示す信号が快適感演算手段から出力される。RRIは、ストレスの有無によって変化することが周知であり、例えばストレスを感じていて不快である場合にはRRIが短くなる一方、リラックスしていて快適である場合にはRRIが長くなる。よって、RRIの変化によって乗員の快適感を定量的に算出することが可能になる。
【0015】
一方、温冷感算出情報に基づいて乗員の温冷感が定量的に算出されて乗員の温冷感を示す信号が乗員温冷感算出手段から出力される。温冷感算出情報には、乗員周りの温熱環境と、温熱環境制御装置の動作状態とが含まれており、例えば乗員周りが低温である場合には乗員が寒冷感を感じているとすることができ、乗員周りが高温である場合には乗員が温感を感じているとすることができる。また、温熱環境制御装置の動作状態が強暖房状態である場合には、車室内の温度が低く、乗員が寒冷感を感じているとすることができる。
【0016】
そして、制御目標値設定手段は、快適感演算手段で算出された乗員の快適感に基づいて制御目標値を設定するので、乗員が快適になるように、温熱環境制御装置が車室内の乗員周りの温熱環境を制御する。よって、乗員の快適感が反映された空調制御とすることができ、空調制御の精度が高まる。
【0017】
ここで、特に車両の場合は走行時の振動等により、乗員の脈波から得られたRRIの信頼性が低い場合が想定される。この場合、快適感演算手段で算出された乗員の快適感は実際の乗員の快適感を反映したものになっていない可能性が高いので、制御目標値設定手段は、快適感演算手段で算出された乗員の快適感と、乗員温冷感算出手段で算出された乗員の温冷感とが互いに対応していないと判定する。そして、制御目標値設定手段は、快適感演算手段から出力された信号を補正するので、乗員の快適性が損なわれないように、乗員周りの温熱環境を制御することが可能になる。
【0018】
第2の側面に係る車両用空調装置は、前記制御目標値設定手段は、前記快適感演算手段から出力された信号と、前記乗員温冷感算出手段から出力された信号とが互いに対応していると判定された場合には、前記補正処理を禁止するように構成されている。
【0019】
この構成によれば、乗員の脈波からRRIを正常に検出できる場合には、快適感演算手段から出力された信号を補正しないので、乗員の快適感を温熱環境の制御に確実に反映させることができる。
【0020】
第3の側面に係る車両用空調装置は、乗員の皮膚温度を検出する皮膚温度検出手段を備え、前記温冷感算出情報には、前記皮膚温度検出手段で検出された乗員の皮膚温度の情報が含まれている。
【0021】
すなわち、乗員の皮膚温度は温冷感を表している場合があり、この皮膚温度が温冷感算出情報に含まれていることで、乗員の温冷感の算出精度を向上させることができる。
【0022】
第4の側面に係る車両用空調装置は、前記快適感演算手段は、前記温熱環境検出手段で検出された乗員周りの温熱環境と、前記温熱環境制御装置の動作状態とを得て、前記乗員周りの温熱環境及び前記動作状態の変化がないにも関わらず、前記RRI検出手段により検出されたRRIが変化した場合は、変化前のRRIから乗員の快適感を算出するように構成されている。
【0023】
すなわち、RRIは乗員のストレスによって変化するため、温冷感以外の要因でも変化することがある。この発明では、乗員周りの温熱環境及び動作状態の変化がないにも関わらず、RRIが変化した場合は、RRIが温冷感以外の要因で変化したものと推定し、変化前のRRIから乗員の快適感を算出する。従って、乗員の快適感の算出精度が高まる。
【0024】
第5の側面に係る車両用空調装置は、前記快適感演算手段は、前記温熱環境検出手段で検出された乗員周りの温熱環境と、前記温熱環境制御装置の動作状態と、前記皮膚温度検出手段で検出された乗員の皮膚温度とを得て、前記乗員周りの温熱環境、前記動作状態及び前記乗員の皮膚温度の変化がないにも関わらず、前記RRI検出手段により検出されたRRIが変化した場合は、変化前のRRIから乗員の快適感を算出するように構成されている。
【0025】
この構成によれば、乗員周りの温熱環境及び動作状態の他、乗員の皮膚温度にも変化がないにも関わらず、RRIが変化した場合は、RRIが温冷感以外の要因で変化したものと推定し、変化前のRRIから乗員の快適感を算出する。従って、乗員の快適感の算出精度が高まる。
【0026】
第6の側面に係る車両用空調装置は、前記快適感演算手段は、前記RRI検出手段でRRIを検出できなかった場合には、前記乗員温冷感算出手段から出力された信号に基づいて乗員の快適感を算出するように構成されている。
【0027】
この構成によれば、RRIを検出できなかった場合に、乗員の温冷感に基づいて乗員周りの温熱環境の制御を行うことができる。
【0028】
また、第1から第6のいずれか1つの側面に係る車両用空調装置を備えた車両を構成することもできる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、快適感演算手段がRRIから乗員の快適感を定量的に算出し、この乗員の快適感に基づいて温熱環境制御装置の制御目標値を設定するようにしたので、乗員の快適感が反映された空調制御とすることができ、空調制御の精度を高めることができる。そして、前記RRIの信頼性が低い場合には、快適感演算手段から出力された信号を補正するので、乗員の快適性が損なわれないように、乗員周りの温熱環境を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態に係る自動車の車室内の一部を示す側面図である。
図2】車室内の運転席近傍の一部を示す斜視図である。
図3】車両用空調装置のブロック図である。
図4】車室用空調ユニットの概略構成図である。
図5】シートヒータを備えた車両用シートをシートクッション部とシートバック部とに分割した状態を示す図である。
図6】車両用空調装置の制御内容を示すフローチャートである。
図7】脈波の一例を示すグラフである。
図8】温冷感値と快適感の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0032】
(自動車1の構成)
図1は、本発明の実施形態に係る自動車1の車室内Rの一部を示す側面図である。以下の説明において、「前」とは車両前後方向の前側であり、「後」とは車両前後方向の後側であり、「左」とは車両左右方向の左側であり、「右」とは車両左右方向の右側である。
【0033】
車室内Rのフロアパネル100には、車両用シートSがスライド装置101を介して取り付けられている。車室内Rの前端部には、図示しない計器類を有するインストルメントパネル102が配設されている。インストルメントパネル102の運転席側には、ステアリングコラム103が後側へ突出するように設けられている。ステアリングコラム103の後端部には、ステアリングホイール104が乗員Aと正対するように設けられている。
【0034】
スライド装置101は、フロアパネル100に固定された前後方向に延びるレール部材101aと、車両用シートSの下部に固定され、レール部材101aによって前後方向に案内される被案内部材101bと、被案内部材101bをレール部材101aに対して所望位置で固定するロック部材(図示せず)とを備えている。
【0035】
車室内Rの前端部には、フロントウインドガラス105が設けられている。フロントウインドガラス105の下端部は、インストルメントパネル102の前端部近傍に位置している。
【0036】
インストルメントパネル102の上面の前端部には、デフロスタ吹き出し口102aが設けられている。デフロスタ吹き出し口102aは、フロントウインドガラス105の内面と対向するように配置され、左右方向に所定範囲に亘って形成されている。デフロスタ吹き出し口102aは、フロントウインドガラス105の内面に向けて空調風を吹き出す開口である。インストルメントパネル102の後側には、乗員Aの上半身の一部あるいは上半身の全部に向けて空調風が吹き出すベント吹き出し口102bが設けられている。ベント吹き出し口102bは、インストルメントパネル102の左右両側と、左右方向中央部とにそれぞれ設けられており、運転席乗員と助手席乗員に対向するように配置されている。インストルメントパネル102の下部には、乗員Aの下半身の一部あるいは下半身の全部に向けて空調風が吹き出すヒート吹き出し口102cが設けられている。ヒート吹き出し口102cは、運転席乗員と助手席乗員のそれぞれの足元近傍において開口するように形成でき、フット吹き出し口とも呼ぶことができる。図示しないが、ベント吹き出し口及びヒート吹き出し口は、後部座席の乗員用としても設けることができる。
【0037】
この自動車1は図3にブロック図で示す車両用空調装置2を備えている。車両用空調装置2は、温熱環境制御装置としての車室用空調ユニット10(図4に示す)と、ステアリングヒータ104a(図1及び図2に示す)と、足元ヒータ30(図1及び図2に示す)と、シートヒータ装置40(図5に示す)と、制御ユニット60(図3に示す)とを備えている。
【0038】
尚、自動車1は乗用自動車であってもよいし、トラック等の荷物積載車であってもよい。これらは車両の例であり、自動車以外の車両に車両用空調装置2を搭載することもできる。
【0039】
(車室用空調ユニット10の構成)
車室用空調ユニット10は、車室内Rに設けられたデフロスタ吹き出し口102a、ベント吹き出し口102b及びヒート吹き出し口102cから吹き出す空調風を生成し、空調風により車室内Rの空調、即ち、車室内Rの乗員A周りの温熱環境を制御するように構成されている。具体的には、図4に示すように、車室用空調ユニット10は、空調ケーシング11と、送風機12と、冷凍サイクル装置13と、ヒータコア14と、エアミックスダンパ15と、吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cと、エアミックスアクチュエータ17と、吹出方向切替アクチュエータ18とを備えている。
【0040】
空調ケーシング11には、車室内Rに連通して車室内Rの空気(内気)を空調ケーシング11内に取り入れるための内気導入口11aと、車室外に連通して車室外の空気(外気)を空調ケーシング11内に取り入れるための外気導入口11bとが形成されている。空調ケーシング11の内部には、内気導入口11aと外気導入口11bの一方を閉塞して他方を開放するように動作する内外気切替ダンパ11cが配設されている。内外気切替ダンパ11cの動作によって内気導入口11aが開かれて外気導入口11bが閉じられると内気循環モードとなり、一方、内気導入口11aが閉じられて外気導入口11bが開かれると外気導入モードとなる。内気循環モードと外気導入モードの切替は、乗員Aによる手動切替の他、後述する制御ユニット60による自動切替であってもよい。
【0041】
送風機12は、空調ケーシング11の内部に配設されるシロッコファン(遠心式ファン)12aと、シロッコファン12aを回転駆動するブロアモータ12bとを備えている。ブロアモータ12bによってシロッコファン12aが回転駆動されると、内気導入口11aまたは外気導入口11bから空調用空気が空調ケーシング11の内部に取り入れられ、空調ケーシング11の内部に取り入れられた空調用空気は該空調ケーシング11の下流側に向けて送風される。尚、送風機12の形式は特に限定されるものではなく、遠心式ファン以外のファンを使用した送風機であってよい。
【0042】
図3に示すように、ブロアモータ12bは制御ユニット60に接続されている。ブロアモータ12bのON、OFFの切替、及びブロアモータ12bの単位時間当たりの回転数の変更は、制御ユニット60により行われる。ブロアモータ12bの単位時間当たりの回転数を上げることにより、送風機12の送風量が増加する。
【0043】
図4に示すように、冷凍サイクル装置13は、コンプレッサ13aと、コンデンサ(凝縮器)13bと、膨脹弁13cと、エバポレータ13dとを備えており、これらは冷媒配管によって接続されて冷媒の循環が可能に構成されている。コンプレッサ13aはエンジンE(図4にのみ示す)によって駆動される。コンプレッサ13のクラッチ(図示せず)が図3に示す制御ユニット60により制御されることにより、コンプレッサ13のON、OFFの切替が行われる。
【0044】
コンプレッサ13aから吐出された冷媒はコンデンサ13bに流入して該コンデンサ13bの内部で凝縮された後、膨脹弁13cに流入する。膨脹弁13cに流入した冷媒は、減圧された後、エバポレータ13dに流入する。エバポレータ13dは空調ケーシング11の内部に配設されており、空調ケーシング11に導入された空調用空気の全量がエバポレータ13dを通過するようになっている。エバポレータ13dに流入した冷媒は、該エバポレータ13dの内部を流通する間に、該エバポレータ13dの外部を通過する空調用空気と熱交換し、これにより、空調用空気が冷却されて冷風が生成される。
【0045】
ヒータコア14は、空調ケーシング11の内部においてエバポレータ13dよりも空気流れ方向下流側に配設されている。ヒータコア14はエンジンEのウォータジャケット(図示せず)に接続されており、エンジンEの冷却水がヒータコア14を循環するようになっている。従って、エンジンEの冷却水の温度がヒータコア14の外部を通過する空調用空気の温度よりも高ければ、空調用空気が冷却水と熱交換することによって空調用空気が加熱されて温風が生成される。
【0046】
図示しないが、例えば電気自動車である場合には、ヒータコア14に、走行用モーターやインバータ装置の冷却水を流すようにすることもできる。また例えば電気自動車である場合には、ヒータコア14の代わりに、電動式コンプレッサ13aを備えたヒートポンプ装置を搭載して冷媒凝縮器(加熱用熱交換器)を空調ケーシング11の内部に設けることができる。また、ヒータコア14に加えて電気式ヒータ(例えばPTCヒータ)等を設けることができる。
【0047】
エアミックスダンパ15は、ヒータコア14を通過する空気量と、ヒータコア14をバイパスする空気量との比率を変更するための部材である。図4に実線で示すように、エアミックスダンパ15がヒータコア14側の通路を全閉にし、かつ、ヒータコア14をバイパスする通路を全開にすると、エバポレータ13dを通過した空気はヒータコア14を通過しないので、フルコールド状態となる。一方、図4に仮想線で示すように、エアミックスダンパ15がヒータコア14側の通路を全開にし、かつ、ヒータコア14をバイパスする通路を全閉にすると、エバポレータ13dを通過した空気は全量がヒータコア14を通過するので、フルホット状態となる。エアミックスダンパ15は、図4に実線で示す状態と仮想線で示す状態との間の任意の位置に停止させることができるようになっている。エアミックスダンパ15の停止位置を変更することにより、ヒータコア14を通過する空気量と、ヒータコア14をバイパスする空気量との比率が変更され、その結果、生成される空調風の温度が変更される。
【0048】
エアミックスアクチュエータ17は、エアミックスダンパ15を作動させるためのものであり、図3に示すように、制御ユニット60に接続されている。エアミックスアクチュエータ17は、制御ユニット60からの制御信号を受けてエアミックスダンパ15を所望の位置で停止させておくことができる。
【0049】
図4に示す吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cは、空調風の吹出方向を切り替えるためのダンパである。符号16aで示す吹出方向切替ダンパは、デフロスタ吹き出し口102aを開閉するためのダンパであり、デフロスタダンパである。符号16bで示す吹出方向切替ダンパは、ベント吹き出し口102bを開閉するためのダンパであり、ベントダンパである。符号16cで示す吹出方向切替ダンパは、ヒート吹き出し口102cを開閉するためのダンパであり、ヒートダンパである。吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cは、それぞれ、実線で示す位置が閉位置であり、仮想線で示す位置が開位置である。吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cは閉位置から開位置の間の任意の位置で停止させることができる。このような吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cの動作は、従来から周知のリンク機構(図示せず)によって実現できる。
【0050】
吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cはリンク機構を介して連動することによって空調風の吹出方向を切り替えることができるように構成されている。例えば、吹出方向切替ダンパ16aが開位置にあり、吹出方向切替ダンパ16b、16cが閉位置にある場合には、空調風がデフロスタ吹き出し口102aのみから吹き出すデフロスタモードとなる。吹出方向切替ダンパ16bが開位置にあり、吹出方向切替ダンパ16a、16cが閉位置にある場合には、空調風がベント吹き出し口102bのみから吹き出すベントモードとなる。吹出方向切替ダンパ16cが開位置にあり、吹出方向切替ダンパ16a、16bが閉位置にある場合には、空調風がヒート吹き出し口102cのみから吹き出すヒートモードとなる。吹出方向切替ダンパ16a、16cが開位置にあり、吹出方向切替ダンパ16bが閉位置にある場合には、空調風がデフロスタ吹き出し口102a及びヒート吹き出し口102cから吹き出すデフヒートモードとなる。吹出方向切替ダンパ16b、16cが開位置にあり、吹出方向切替ダンパ16aが閉位置にある場合には、空調風がベント吹き出し口102b及びヒート吹き出し口102cから吹き出すバイレベルモードとなる。以上の吹出モードは例であり、吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cのそれぞれの開閉切替によって様々な吹出モードに変更することができ、また各吹出モードにおいてデフロスタ吹き出し口102a、ベント吹き出し口102b及びヒート吹き出し口102cのそれぞれの開度を変更して各吹き出し口から吹き出す空調風の量を変更することも可能である。
【0051】
尚、吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cの構成は一例であり、従来から周知の手法に従い、例えば2つのダンパを組み合わせることによって吹出モードを切り替えることもできる。
【0052】
吹出方向切替アクチュエータ18は、吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cを作動させるためのものであり、図3に示すように、制御ユニット60に接続されている。吹出方向切替アクチュエータ18は、制御ユニット60からの制御信号を受けて吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cを所望の位置で停止させておくことができ、これにより上述した各吹出モードにすることができる。
【0053】
(シートヒータ装置40の構成)
図5に示すように、シートヒータ装置40は車両用シートSに内蔵されている。車両用シートSは、シートクッション部S1とシートバック部S2とを備えている。図5は、説明の便宜上、車両用シートSをシートクッション部S1とシートバック部S2とに分割した状態を示しているが、図1図2に示すように車両1への搭載時にはシートクッション部S1とシートバック部S2とが一体化されている。この実施形態で説明する車両用シートSは、運転席を構成するものであるが、本発明は助手席を構成するシートや、後席を構成するシートに適用することもできる。また、左右方向に複数人が並んで着座可能に構成された、いわゆるベンチシートに本発明を適用することもできる。
【0054】
車両用シートSは、シートクッション部S1とシートバック部S2とを備えている。シートクッション部S1は、シート座部とも呼ぶことができるものであり、乗員Aの主に臀部(尻部)から大腿部を下方から支持するように構成されている。シートバック部S2は、シート背もたれ部とも呼ぶことができるものであり、乗員Aの主に腰部、背中、肩胛骨周り、肩を後方から支持するように構成されている。
【0055】
シートヒータ装置40は、臀部発熱体41と、大腿部発熱体42と、クッション側部発熱体43と、クッション前端部発熱体44と、腰部発熱体45と、肩サイド発熱体46とを備えている。臀部発熱体41、大腿部発熱体42、クッション側部発熱体43及びクッション前端部発熱体44は、シートクッション部S1に内蔵されており、具体的には、クッション材と表皮材との間に配設することができる。臀部発熱体41、大腿部発熱体42、クッション側部発熱体43及びクッション前端部発熱体44は、制御ユニット60に接続され、制御ユニット60により制御される。
【0056】
腰部発熱体45及び肩サイド発熱体46は、シートバック部S2に内蔵されており、具体的には、クッション材と表皮材との間に配設することができる。腰部発熱体45及び肩サイド発熱体46は、制御ユニット60に接続され、制御ユニット60により制御される。
【0057】
上記各発熱体41~46は、例えば、通電によってジュール熱を発生する線材で構成されている。すなわち、この実施形態に係る各発熱体は、電流が物体を流れる際に熱エネルギーに変化することによって熱を生じる現象を利用する発熱体であり、例えばニクロム線等で構成することができる。上記線材で発生する熱量は、上記線材に流れる電流の大きさによって増減するとともに、当該電流が流れる時間によっても増減する。
【0058】
臀部発熱体41は、シートクッション部S1の上面部(座面部)において奥側(後側)に配設される。この臀部発熱体41の真上には、標準的な乗車姿勢の乗員Aの臀部が位置することになる。大腿部発熱体42は、シートクッション部S1の上面部において手前側(前側)に配設される。この大腿部発熱体42の真上には、標準的な乗車姿勢の乗員Aの大腿部が位置することになる。臀部発熱体41及び大腿部発熱体42は、シートクッション部S1における乗員Aの接触部位に対応するように配設されており、従って、乗員Aを直接加温する直接加温装置となる。
【0059】
一方、クッション側部発熱体43は、シートクッション部S1の上面部において左端部近傍及び右端部近傍にそれぞれ配設されている。乗員Aが平均的な身長及び体重の成人であり、かつ、その乗員Aの乗車姿勢が標準的な乗車姿勢である場合には、左右のクッション側部発熱体43の間に乗員Aの大腿部が位置するか、クッション側部発熱体43の真上から殆ど外れた所に乗員Aの大腿部が位置することになる。よって、シートクッション部S1の上面部において左端部近傍及び右端部近傍は、車両用シートSにおける乗員Aが接触しない領域であり、この領域にクッション側部発熱体43が配設されているので、クッション側部発熱体43は、乗員Aから離れて配設され、乗員Aを輻射熱により加温する輻射加温装置である。
【0060】
クッション前端部発熱体44は、シートクッション部S1の前面部の上端部近傍に配設されている。クッション前端部発熱体44は左右方向に長い形状とされており、乗員Aの左右の膝裏近傍に対応するように位置している。乗員Aの乗車姿勢が標準的な乗車姿勢である場合には、クッション前端部発熱体44の上方や前方に離れて乗員Aの大腿部よりも下の部位(例えば膝裏等)が位置することになる。シートクッション部S1の前面部において上端部近傍は、車両用シートSにおける乗員Aが接触しない領域であり、この領域にクッション前端部発熱体44が配設されている。クッション前端部発熱体44は、乗員Aから離れて配設され、乗員Aを輻射熱により加温する輻射加温装置である。
【0061】
臀部発熱体41、大腿部発熱体42、クッション側部発熱体43及びクッション前端部発熱体44の各発熱体が発生する熱量は、制御ユニット60による電流値や通電時間等によって変更することができる。臀部発熱体41、大腿部発熱体42、クッション側部発熱体43及びクッション前端部発熱体44の各々の出力上限値(単位時間当たりに発生する熱量の上限値)は、制御ユニット60により設定されている。クッション側部発熱体43及びクッション前端部発熱体44の出力上限値に比べて、臀部発熱体41及び大腿部発熱体42の出力上限値の方が低くなっている。
【0062】
腰部発熱体45は、シートバック部S2の前面部において下側に配設される。この腰部発熱体45の直前方には、標準的な乗車姿勢の乗員Aの腰部が位置することになる。腰部発熱体45は、シートバック部S2における乗員Aの接触部位に対応するように配設されており、従って、乗員Aを直接加温する直接加温装置となる。腰部発熱体45によって背中を加温するようにしてもよい。この場合、腰部及び背中部発熱体となり、直接加温装置である。
【0063】
肩サイド発熱体46は、シートバック部S2の前面部において上側の左端部近傍及び右端部近傍にそれぞれ配設されており、乗員Aの背中部に達しないように位置付けられている。乗員Aが平均的な身長及び体重の成人であり、かつ、その乗員Aの乗車姿勢が標準的な乗車姿勢である場合には、左肩の側方に左側の肩サイド発熱体46が位置し、右肩の側方に右側の肩サイド発熱体46が位置することになる。シートバック部S2の前面部において上側の左端部近傍及び右端部近傍は、車両用シートSにおける乗員Aが接触しない領域であり、この領域に肩サイド発熱体46が配設されている。肩サイド発熱体46は、乗員Aから離れて配設され、乗員Aを輻射熱により加温する輻射加温装置である。
【0064】
腰部発熱体45及び肩サイド発熱体46の各発熱体が発生する熱量は、制御ユニット60による電流値や通電時間等によって変更することができる。腰部発熱体45及び肩サイド発熱体46の各々の出力上限値は、制御ユニット60により設定されている。肩サイド発熱体46の出力上限値に比べて、腰部発熱体45の出力上限値の方が低くなっている。
【0065】
シートヒータ装置40のON、OFFの切替、強弱の設定は、車室内Rに設けられた操作スイッチ等(図示せず)で行うことが可能になっている他、制御ユニット60によって自動制御することもできるようになっている。
【0066】
(ステアリングヒータ104aの構成)
図1及び図2に示すように、ステアリングヒータ104aは、ステアリングホイール104における乗員Aの手が接触する部位、具体的には運転中に乗員Aが手で握る部分に内蔵されている。従って、ステアリングヒータ104aは、乗員Aの接触部位に対応するように配設されることになり、乗員Aを直接加温する直接加温装置となる。
【0067】
ステアリングヒータ104aは、シートヒータ装置40の各発熱体と同様な線材で構成することができるものであり、制御ユニット60に接続され、制御ユニット60により制御される。ステアリングヒータ104aのON、OFFの切替、強弱の設定は、車室内Rに設けられた操作スイッチ等(図示せず)で行うことが可能になっている他、制御ユニット60によって自動制御することもできるようになっている。
【0068】
(足元ヒータ30の構成)
図1及び図2に仮想線で示すように、足元ヒータ30は、乗員Aの右側のふくらはぎに対向する部分と、乗員Aの右側のふくらはぎに対向する部分とにそれぞれ配設されており、具体的にはドアトリムやコンソール等の内装材に配設することができる。足元ヒータ30は、乗員Aから離れて配設され、乗員Aを輻射熱により加温する輻射加温装置である。
【0069】
足元ヒータ30は、シートヒータ装置40の各発熱体と同様な線材で構成することができるものであり、制御ユニット60に接続され、制御ユニット60により制御される。足元ヒータ30のON、OFFの切替、強弱の設定は、車室内Rに設けられた操作スイッチ等(図示せず)で行うことが可能になっている他、制御ユニット60によって自動制御することもできるようになっている。
【0070】
(補助暖房装置の構成)
上述したシートヒータ装置40の臀部発熱体41、大腿部発熱体42及び腰部発熱体45と、ステアリングヒータ104aとは直接加温装置であり、またシートヒータ装置40のクッション側部発熱体43、クッション前端部発熱体44及び肩サイド発熱体46と、足元ヒータ30とは、輻射加温装置である。この実施形態では、車室用空調ユニット10が主空調装置であり、直接加温装置及び輻射加温装置が、主空調装置を補助する補助暖房装置である。直接加温装置としては、例えばアームレストに内蔵したヒータ等を挙げることができる。輻射加温装置としては、例えばステアリングコラム下面に内蔵したヒータ等を挙げることができる。直接加温装置及び輻射加温装置の両方を設けることができるが、一方のみを設けてもよい。補助暖房装置は必須の構成ではない。
【0071】
(車両用空調装置2のその他の構成)
図3に示すように、車両用空調装置2は、外気温度センサ71、内気温度センサ72、湿度センサ73、日射センサ74、温度設定スイッチ75、ステアリング温度センサ76、足元ヒータ温度センサ77、シート温度センサ78、皮膚温度センサ79及び脈波センサ80を備えている。これらセンサやスイッチは、従来から周知の部材で構成することができ、制御ユニット60に接続されて所定の短いサイクルまたは継続的に検出値の出力等を行っている。温度を検出するセンサは、例えば熱電対等を使用することができる。
【0072】
外気温度センサ71は、車室外に配設されており、車室外の気温を検出するセンサである。内気温度センサ72は、車室内Rに配設されており、車室内Rの空気温度を検出するセンサであり、このセンサによって車室内の温度状態を検知または推定することができる。湿度センサ73は、車室内Rに配設されており、車室内Rの湿度を検出するセンサであり、このセンサによって車室内の湿度状態を検知または推定することができる。日射センサ74は、車室内Rに配設されており、車室内Rに差し込んでくる日射量を検出するセンサであり、このセンサによって車室内Rの日射状態を検知または推定することができる。温度設定スイッチ75は、車室内Rのインストルメントパネル102に配設されており、乗員Aが所望の空調温度に設定するためのスイッチである。
【0073】
上記車室内Rの温度状態、車室内Rの湿度状態及び日射状態は、車室内Rにおける乗員A周りの温熱環境である。これら3つの状態の内、任意の1つのみを検知または推定するようにしてもよいし、他の手段によって車室内Rの乗員A周りの温熱環境を検出するようにしてもよい。つまり、本発明の温熱環境検出手段は、内気温度センサ72、湿度センサ73及び日射センサ74であるが、これらの内、任意の1つ以上を設ければよい。
【0074】
また、シートヒータ装置40が作動している場合には、シート温度センサ78で検出された温度も車室内Rの乗員A周りの温熱環境を表すものである。また、足元ヒータ30が作動している場合には、足元ヒータ温度センサ77で検出された温度も車室内Rの乗員A周りの温熱環境を表すものである。また、ステアリングヒータ104aが作動している場合には、ステアリング温度センサ76も車室内Rの乗員A周りの温熱環境を表すものである。よって、シート温度センサ78、足元ヒータ温度センサ77及びステアリング温度センサ76も本発明の温熱環境検出手段となり得る。
【0075】
尚、インストルメントパネル102には、温度設定スイッチ75の他、図示しないが、空調のON、OFFスイッチや、風量調整スイッチ、オートエアコンスイッチ等が配設されている。
【0076】
ステアリング温度センサ76は、ステアリングホイール104に配設されており、ステアリングホイール104の乗員Aが接触する部分の温度やステアリングヒータ104aの温度等を検出するためのセンサである。足元ヒータ温度センサ77は、足元ヒータ30を有する内装材に配設されており、当該内装材の表面温度や足元ヒータ30の温度等を検出するためのセンサである。シート温度センサ78は、車両用シートSのシートクッション部S1及びシートバック部S2に内蔵されており、シートクッション部S1及びシートバック部S2の各表皮材の温度やシートヒータ装置40の各発熱体41~46の温度を検出するためのセンサである。
【0077】
皮膚温度センサ79は、例えば従来から周知の赤外線を検出するセンサを使用することができる。図1に示すように、皮膚温度センサ79を例えば天井部等に配設して検出方向を乗員A側に向けておくことで、乗員Aの各部の赤外線強度を検出することができ、この赤外線強度に基づいて乗員Aの皮膚温度(乗員Aの表面温度)を取得できる。皮膚温度センサ79として使用する赤外線センサは、上下左右方向に可動式(走査式)として広範囲の赤外線強度を検出できるようにしてもよいし、複数個使用して広範囲の赤外線強度を検出できるようにしてもよい。赤外線センサによって赤外線強度画像を取得することができる。この赤外線強度画像を画像処理することで、乗員Aの各部位の表面温度だけでなく、各部位の位置を推定することや乗員Aの体格を推定することが可能になる。
【0078】
皮膚温度センサ79は、自動車1が備えるシート毎に配設することができ、乗員毎に皮膚温度を検出する。後述する制御に使用する皮膚温度は、運転席乗員の皮膚温度とすることもできるし、後席乗員の皮膚温度とすることもでき、またゾーン空調を実現可能な車両用空調装置2の場合は、各ゾーンに存在する乗員の皮膚温度を検出し、各ゾーンの温熱制御に使用することができる。ゾーン空調とは、例えば車室内Rの運転席側と助手席側とに個別に温度調節した空調風を供給可能にする空調や、車室内Rの前席側と後席側とに個別に温度調節した空調風を供給可能にする空調のことであり、その構成は従来から周知である。
【0079】
脈波センサ80は、乗員Aの脈波を検出するためのセンサであり、これも従来から周知のものを使用することができる。例えば、図1に破線で示すように、車両用シートSのシートクッション部S1に埋め込まれた埋め込み型の脈波センサ80を使用することができる。この脈波センサ80は、スマートラバーと呼ばれる面状圧力センサであり、乗員Aの臀部や大腿部の動脈内の血流による微小な圧力変動を脈波として検出することができる。脈波センサ80は、例えば特許文献1~4に開示されているようなものも用いることができる。また、例えば腕時計型(ウエアラブル型)の脈波検出器や、ミリ波を乗員Aに照射して反射波に基づいて脈波を検出するミリ波レーダー型の脈波検出器等であってもよい。また、指先の細動脈から脈波を検出する手法(指尖容積脈波)であってもよい。
【0080】
脈波センサ80は、自動車1が備えるシート毎に配設することができ、乗員毎に脈波を検出する。後述する制御に使用する脈波は、運転席乗員の脈波とすることもできるし、後席乗員の脈波とすることもでき、またゾーン空調を実現可能な車両用空調装置2の場合は、各ゾーンに存在する乗員の脈波を検出し、各ゾーンの温熱制御に使用することができるが、制御に使用する皮膚温度と脈波とは同じ乗員Aから検出されたものとする。
【0081】
(制御ユニット60の構成)
図3に示す制御ユニット60は、図示しないが、例えば中央演算処理装置や記憶装置(例えばROM、RAM等)を有するマイクロコンピュータ等で構成することができ、後述する各手段や処理をハードウェアで実行するように構成してもよいし、記憶装置に記憶させたソフトウェア(プログラム)に従って実行するように構成してもよい。制御ユニット60は、動作状態検出部61と、RRI検出部62と、快適感演算部63と、乗員温冷感算出部64と、制御目標値設定部65とを備えている。
【0082】
制御ユニット60は、外気温度センサ71、内気温度センサ72、湿度センサ73、日射センサ74、温度設定スイッチ75等の検出値や乗員Aによる設定温度等に基づいてオートエアコン制御を行うように構成されている。すなわち、外気温及び車室内Rの温度が低く、暖房が必要な場合には、高温の空調風を生成するように車室用空調ユニット10を制御して車室内Rに供給する。このとき、要求される暖房の強さは、乗員Aによる設定温度や車室内Rの温度等によって設定され、暖房の強さに応じて空調風の温度や空調風の風量を調整する。一方、冷房が必要な場合には、低温の空調風を生成するように車室用空調ユニット10を制御して車室内Rに供給する。このとき、要求される冷房の強さは、乗員Aによる設定温度や車室内Rの温度等によって設定され、冷房の強さに応じて空調風の温度や空調風の風量を調整する。このオートエアコン制御の手法は従来から周知の手法であるため、詳細な説明は省略する。
【0083】
(動作状態検出部62の構成)
動作状態検出部62は、車室用空調ユニット10及び補助空調装置の動作状態を検出するための手段である。車室用空調ユニット10の動作状態とは、例えばブロアモータ12bのON、OFF及び回転数、エアミックスアクチュエータ17の動作状態、吹出方向切替アクチュエータ18の動作状態、冷凍サイクル装置13の動作状態等である。ブロアモータ12bの回転数は、ブロアモータ12bへの印加電圧等によって検出できる。
【0084】
エアミックスアクチュエータ17の動作状態とは、エアミックスアクチュエータ17がエアミックスダンパ15をどこに位置付けているかということであり、エアミックスアクチュエータ17の動作状態を検出することで、現在のエアミックスダンパ15の位置を取得することができる。エアミックスダンパ15の位置は、開度で表すことができ、フルホット状態を開度100%とし、フルコールド状態を開度0%として表すことや、その反対で表すことができる。生成される空調風の温度は実験等によって推定することができる。
【0085】
吹出方向切替アクチュエータ18の動作状態とは、吹出方向切替アクチュエータ18が吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cをどの吹出モードにしているかということであり、吹出方向切替アクチュエータ18の動作状態を検出することで、現在の吹出モードを取得することができる。
【0086】
補助空調装置の動作状態とは、シートヒータ装置40の臀部発熱体41、大腿部発熱体42、クッション側部発熱体43、クッション前端部発熱体44、腰部発熱体45及び肩サイド発熱体46のON、OFF、強弱と、ステアリングヒータ104aのON、OFF、強弱と、足元ヒータ30のON、OFF、強弱とである。
【0087】
(RRI検出部62の構成)
RRI検出部62は、脈波センサ80から出力される乗員Aの脈波からRRIを検出するためのRRI検出手段である。脈波センサ80から出力される乗員Aの脈波は、正常に検出された場合には図7に示すような波形となり、R波とR波との時間間隔(R-R Interval)をRRIとする。R波とR波との時間間隔を検出する手法は従来から周知の手法を用いることができる。
【0088】
(快適感演算部63の構成)
快適感演算部63は、RRI検出部62により検出されたRRIから乗員Aの快適感を定量的に算出して乗員Aの快適感を示す信号を出力する快適感演算手段である。一般的に、人間のRRIは、リラックスしていると長くなり、ストレスを感じていると短くなる。よって、RRI検出部62により検出されたRRIが所定時間内で所定値よりも短ければ、乗員Aが不快であるとし、所定時間内で所定値以上であれば快適であるとすることができる。不快であるか否か、快適であるか否かの判定に用いるRRI閾値は実験等によって得ることができる。
【0089】
例えば、RRIが所定値よりも短い場合(不快である場合)を「1」とし、RRIが所定値以上である場合(快適である)を「10」とし、RRIの変動幅を10段階で表した場合、RRIの変動幅に応じて不快感、快適感を定量的に算出することができ、快適感演算部63は1~10に対応する信号を出力する。これは一例であり、例えば3段階や5段階で快適感を表してもよいし、10段階を超える多段階で快適感を表してもよい。
【0090】
(乗員温冷感算出部64の構成)
乗員温冷感算出部64は、内気温度センサ72、湿度センサ73、日射センサ74、シート温度センサ78、足元ヒータ温度センサ77、ステアリング温度センサ76等で検出された乗員A周りの温熱環境と、動作状態検出部61で検出された車室用空調ユニット10の動作状態とを含む温冷感算出情報に基づいて乗員Aの熱モデルを得て、この乗員Aの熱モデルから乗員Aの温冷感を定量的に算出し、算出結果に従って乗員の温冷感を示す信号を出力する乗員温冷感算出手段である。温冷感算出情報には、皮膚温度センサ79で検出された乗員Aの皮膚温度の情報が含まれていてもよい。
【0091】
ここで、温冷感とは、暑い、寒いといった温熱感覚を表すことであり、例えば、藤原健一監修「カーエアコン」、東京電気大学出版局、2009年9月20日発行、33、88~94頁に詳しく解説されており、当業者の間では一般的に使用されている。皮膚温度は、温冷感をよく表すものの一例であり、例えばサーマルマネキン(熱モデル)を用いてその表面温度を皮膚温度として検出し、これにより乗員Aの温冷感を、「暑い」を3、「暖かい」を2、「やや暖かい」を1、「無感(ちょうどよい)」を0、「やや涼しい」を-1、「涼しい」を-2、「寒い」を-3などで評価する手法は確立されている。「温冷感が高い」とは上記数値が高いということで、暑い側のことであり、一方、「温冷感が低い」とは上記数値が低いということで、寒い側のことである。例えば、図8のグラフに示すように、横軸を温冷感値とした場合、「寒い」を1とし、「暑い」を9とすることができ、この場合、5が「無感(ちょうどよい)」となる。
【0092】
車室用空調ユニット10が暖房を行っていて、乗員による設定温度と車室内の温度とが略等しい場合には、車室内Rが定常状態であると推定されるので、乗員Aの温冷感は高くも低くもない、即ち図8の横軸の5と推定できる。一方、車室用空調ユニット10が強い暖房を行っている場合には、車室内Rがまだ暖まっていないと推定されるので、乗員Aの温冷感は低い、即ち図8の横軸の1や2と推定できる。また、シート温度センサ78、足元ヒータ温度センサ77、ステアリング温度センサ76等で検出された温度が高い場合には、乗員Aに対して入熱量が多いので、乗員Aの温冷感は高い、即ち図8の横軸の8、9と推定できる。乗員温冷感算出部64は、これらの情報を組み合わせて総合的に温冷感を算出して数値化し、算出した数値を出力する。
【0093】
また、皮膚温度センサ79で検出された乗員Aの皮膚温度の情報が温冷感算出情報に含まれている場合には、乗員Aの皮膚温度も温冷感の算出に使用する。乗員Aの皮膚温度が高いと乗員Aが暑さを感じ、反対に低いと乗員Aが寒さを感じていると判断することができるので、乗員Aの皮膚温度は乗員Aの温熱感を表す情報として利用することができる。
【0094】
乗員A周りの温熱環境と、車室用空調ユニット10の動作状態とを含む温冷感算出情報に基づいて乗員Aの熱モデルを得た後、この乗員Aの熱モデルと、乗員Aの皮膚温度とを対応する部位同士で比較し、同程度の温冷感である場合には、乗員Aの熱モデルに基づいて乗員Aの温冷感を算出する。一方、乗員Aの熱モデルと、乗員Aの皮膚温度とを対応する部位同士で比較したとき、ある範囲を超えて相違している場合には、乗員Aの皮膚温度による温冷感に近づくように、補正係数を決定した後、この補正係数を用いて乗員Aの熱モデルを補正する。例えば、乗員Aの皮膚温度が高いほど温冷感を表す数値が大きくなるように補正し、乗員Aの皮膚温度が低いほど温冷感を表す数値が小さくなるように補正する。
【0095】
温冷感を定量的に推定するための温冷感計算モデルについては従来から周知のものを使用することができる。例えば、「Thermal sensation and comfort models for non-uniform and transient environments: Part I: Local sensation of individual body parts, Hui Zhang et. al., Building and Environment 45, 2010, pp380-388」、「Thermal sensation and comfort models for non-uniform and transient environments, part III: Whole-body sensation and comfort Hui Zhang et. al., Building and Environment 45 (2010) 399-410」に記載されている温冷感計算モデルを挙げることができる。
【0096】
乗員Aが快適であるか否かを計算するモデルとしては、例えば、「Thermal sensation and comfort models for non-uniform and transient environments, part II: Local comfort of individual body parts Hui Zhang et. al., Building and Environment 45 (2010) 389-398」に記載されている快適感計算モデルを挙げることができる。
【0097】
(制御目標値設定部65の構成)
制御目標値設定部65は、快適感演算部63から出力された乗員Aの快適感を示す信号に基づいて車室用空調ユニット10の制御目標値を設定する制御目標値設定手段である。快適感を示す信号が例えば10段階の8以下の場合には、暖房または冷房を強めるように、車室用空調ユニット10の制御目標値を設定する。制御目標値は、空調風の目標温度や目標風量である。
【0098】
快適感を示す信号例えば10段階の8以下であり、かつ、暖房を行っている場合には空調風の温度がより高まる方向に制御目標値を設定し、空調風の風量がより多くなる方向に制御目標値を設定する。制御目標値は一定である必要はなく、暖房時における制御目標値は、快適感を示す数値が低ければ低いほど(不快感が強ければ強いほど)空調風の温度が高くなるように設定する。
【0099】
快適感を示す信号例えば10段階の8以下であり、かつ、冷房を行っている場合には、空調風の温度がより低くなる方向に制御目標値を設定し、空調風の風量がより多くなる方向に制御目標値を設定する。冷房時における制御目標値は、快適感を示す数値が低ければ低いほど(不快感が強ければ強いほど)空調風の温度が低くなるように設定する。
【0100】
制御目標値設定部65は、快適感演算部63から出力された信号と、乗員温冷感算出部64から出力された信号とが互いに対応しているか否かを判定し、両信号が対応していないと判定された場合には、快適感演算部63から出力された信号を補正する補正処理を実行するように構成されている。これについては後述する。
【0101】
(制御ユニット60による制御内容)
次に、図6に示すフローチャートに基づいて制御ユニット60による制御内容について説明する。図6のフローチャートのステップSA1では、車室内外環境データを取得する。車室内外環境データは、外気温度センサ71、内気温度センサ72、湿度センサ73、日射センサ74、ステアリング温度センサ76、足元ヒータ温度センサ77、シート温度センサ78の検出値及び操作スイッチ類(温度設定スイッチ75等)の状態から取得することができる。その後、ステップSA2では、車室用空調ユニット10の動作状態を取得する。これは動作状態検出部61から取得できる。ステップSA1、SA2の順序は問わないし、ステップSA1、SA2を並行して行ってもよい。
【0102】
ステップSA3では、乗員Aの熱モデルを演算する。乗員Aの熱モデルは、乗員A周りの温熱環境と、車室用空調ユニット10の動作状態とを含む温冷感算出情報に基づいて得ることができる。乗員Aの熱モデルにより、乗員Aの部位毎に温冷感を取得することができる。
【0103】
乗員Aの部位毎に温冷感を取得する場合について説明する。図2に示すように、乗員Aを有限個の部位A1~A16に仮想的に分割する。A1は、首及び頭部である。A2は、胸部から腹部であり、A3は横腹部から背部、腰部である。A4は、下腹部から股、左右大腿部の付け根部である。A5は、右肩から右上腕部であり、A6は、左肩から左上腕部である。A7は、右肘近傍から右手首であり、A8は、左肘近傍から左手首である。A9は、右手であり、A10は左手である。A11は、右大腿部から右膝であり、A12は、左大腿部から左膝である。A13は、右すね及びふくらはぎであり、A14は、左すね及びふくらはぎである。A15は、右足首よりも先の部分であり、A16は、左足首よりも先の部分である。尚、乗員Aを仮想的に各部位に分割する場合、その個数は任意に設定することができ、また分割境界線も任意に設定することができる。
【0104】
ステップSA4では、乗員Aの皮膚温度を取得する。乗員Aの皮膚温度は、皮膚温度センサ79の検出値から取得できる。乗員Aの皮膚温度は、推定値であってもよい。乗員Aの皮膚温度は、少なくとも車両用空調装置2の空調中、継続的に取得するのが好ましい。
【0105】
ステップSA5では、ステップSA3で演算した乗員Aの熱モデルと、ステップSA4で取得した乗員Aの皮膚温度とが等しいか否かを判定する。すなわち、ステップSA3で演算した乗員Aの熱モデルから温熱感を得ることができるが、この乗員Aの温熱感は熱モデルだけではなく、上述したように乗員Aの皮膚温度から得ることもできる。ステップSA5の判定処理では、乗員Aの熱モデルから得られた温熱感と、乗員Aの皮膚温度から得られた温熱感とを比較し、略同じ場合には、乗員Aの熱モデルから得られた温熱感と、乗員Aの皮膚温度から得られた温熱感とが互いに対応しているということができるので、YESと判定される。一方、ステップSA5の判定処理において、乗員Aの熱モデルから得られた温熱感と、乗員Aの皮膚温度から得られた温熱感とが相違している場合には、乗員Aの熱モデルから得られた温熱感と、乗員Aの皮膚温度から得られた温熱感とが互いに対応していないということができるので、NOと判定される。
【0106】
ステップSA5でNOと判定された場合にはステップSA6に進み、乗員Aの熱モデル補正係数を決定する。ステップSA5でNOと判定されたということは、乗員Aの熱モデルから得られた温熱感と、乗員Aの皮膚温度から得られた温熱感とが相違しているということであり、この場合は、ステップSA6において乗員Aの熱モデルを補正することによって乗員Aの熱モデルから得られた温熱感と、乗員Aの皮膚温度から得られた温熱感とを互いに対応させる。
【0107】
従って、乗員Aの熱モデルから得られた温熱感が、乗員Aの皮膚温度から得られた温熱感よりも低い場合には、乗員Aの熱モデルから得られた温熱感が乗員Aの皮膚温度から得られた温熱感と略同じになるように、乗員Aの熱モデルから得られた温熱感を高める補正係数を決定する。一方、乗員Aの熱モデルから得られた温熱感が、乗員Aの皮膚温度から得られた温熱感よりも高い場合には、乗員Aの熱モデルから得られた温熱感が乗員Aの皮膚温度から得られた温熱感と略同じになるように、乗員Aの熱モデルから得られた温熱感を低める補正係数を決定する。これにより、乗員Aの皮膚温度から得られた温熱感を優先させた制御を行うことができる。
【0108】
ステップSA6で乗員Aの熱モデル補正係数が決定されると、ステップSA3に戻り、ステップSA3で乗員Aの熱モデルを演算する際に、熱モデル補正係数を反映する。つまり、フロー開始1回目のステップSA3では熱モデル補正係数が決定されていないので、温冷感算出情報に基づいて熱モデルを得るが、2回目以降は、ステップSA6で熱モデル補正係数が決定されていると、その熱モデル補正係数を反映する処理を行い、熱モデル補正係数が決定されていないと、温冷感算出情報に基づいて熱モデルを得る処理を行う。
【0109】
ステップSA5でYESと判定されてステップSA7に進むと、温冷感値を算出する。温冷感値は、ステップSA3で演算された乗員Aの熱モデルに基づいて算出する。この実施形態では、図8のグラフに示すように、温冷感値は寒い側から暑い側に1~9の数値で表すことができる。
【0110】
続くステップSA8では、乗員Aの脈波を取得する。乗員Aの脈波は、脈波センサ80から取得でき、少なくとも車両用空調装置2の空調中は、脈波を継続的に取得するのが好ましい。
【0111】
ステップSA9では、ステップSA8において脈波が継続して正しく取得されたか否かを判定する。自動車1の場合、走行時の振動等、外乱要因によって脈波センサ80の検出値が異常になったり、ノイズを多く含んでしまうことがあり、このような検出値が取得された場合には脈波が正しく取得されなかったとして、ステップSA9でNOと判定されてステップSA10に進む。例えば、検出信号がない状態が続いたり、途切れていて波形をなしていなかったり、一般的な心電波形からかけ離れた異常な波形が検出された場合には、脈波が正しく取得されなかったと判定することができる。
【0112】
ステップSA10では、所定時間内に脈波が一度でも取得されたか否かを判定する。所定時間は、例えば10秒~30秒程度とすることができる。ステップSA10で脈波が一度でも取得された場合には、YESと判定されてステップSA13に進み、ステップSA7で算出した温冷感値及び/またはステップSA4で取得した皮膚温度の変化量からRRIを推定する。温冷感値が5であれば、RRIが所定値以上(長くなっている)と推定し、温冷感値が1や9であればRRIが所定値よりも短くなっていると推定する。皮膚温度の単位時間当たりの変化量が大きいと、RRIの変動量が大きいと推定し、皮膚温度の単位時間当たりの変化量が小さいと、RRIの変動量が小さいと推定する。ステップSA7で算出した温冷感値と、ステップSA4で取得した皮膚温度の変化量とを組み合わせてRRIを推定してもよい。
【0113】
ステップSA10でNOと判定されて脈波が一度も取得されなかった場合には、ステップSA11に進み、ステップSA7で算出した温冷感値より快適感を算出する。温冷感値が5であれば快適であるとし、温冷感値が1や9であれば不快であるとする。快適感は、温冷感値に基づいて快適と不快との間を段階的に算出することができる。つまり、快適感演算部63は、RRI検出部62でRRIを検出できなかった場合には、乗員温冷感算出部64から出力された信号に基づいて乗員Aの快適感を算出することができる。
【0114】
ステップSA9でYESと判定されたステップSA12では、脈波が継続して正しく取得されているので、RRI検出部62によってRRIを検出し、検出されたRRIに基づいて快適感演算部63が快適感を算出する。また、ステップSA13でRRIを推定した場合もステップSA12に進み、推定されたRRIに基づいて快適感演算部63が快適感を算出する。
【0115】
ステップSA14では、ステップSA7で算出された温冷感値と、ステップSA12で算出した快適感とが等しいか否か、または、ステップSA7で算出された温冷感値と、ステップSA11で算出した快適感とが等しいか否かを判定する。すなわち、図8に示すように、温冷感値が5及びその近傍にあるときには、リラックス(=快適)状態であり、温冷感値が1及び9近傍にあるときには、ストレス(=不快)状態であることが実験結果から得られており、快適感と温冷感値とは相関関係にある。
【0116】
ステップSA7で算出された温冷感値と、ステップSA11、SA12で算出した快適感とを比較し、略同じ場合には、ステップSA7で算出された温冷感値と、ステップSA11、SA12で算出した快適感とが互いに対応しているということができるので、YESと判定される。一方、ステップSA14の判定処理において、ステップSA7で算出された温冷感値と、ステップSA11、SA12で算出した快適感とが相違している場合には、ステップSA7で算出された温冷感値と、ステップSA11、SA12で算出した快適感とが互いに対応していないということができるので、NOと判定される。
【0117】
ステップSA14でNOと判定された場合にはステップSA15に進み、制御目標値補正係数を決定する。ステップSA7で算出された温冷感値は、乗員温冷感算出部64から出力された信号に相当するものであり、ステップSA12で算出された快適感は、快適感演算部53から出力された信号に相当するものであり、ステップSA14でNOと判定されたということは、乗員温冷感算出部64から出力された信号と、快適感演算部53から出力された信号とが互いに対応していないということであり、この場合には、制御目標値補正係数を決定する。
【0118】
制御目標値補正係数は、快適感演算部63から出力された信号を補正するための係数であり、ステップSA16における制御目標値の決定処理で使用される。例えば、車両走行時の振動等により、乗員Aの脈波から得られたRRIの信頼性が低い場合が想定され、この場合、快適感演算部63で算出された乗員Aの快適感は実際の乗員Aの快適感を反映したものになっていないおそれがある。そして、乗員温冷感算出部64から出力された信号と、快適感演算部53から出力された信号とが互いに対応するように、快適感演算部53から出力された信号を補正する補正処理を行う。この補正処理のための係数が、上記制御目標値補正係数である。
【0119】
ステップSA16において制御目標値設定部65は、快適感演算部63から出力された信号を制御目標値補正係数によって補正するので、乗員の快適性が損なわれないように、乗員A周りの温熱環境を制御することが可能になる。
【0120】
また、ステップSA14でYESと判定された場合にはステップSA15には進まない。従って、制御目標値設定部65は、快適感演算部63から出力された信号と、乗員温冷感算出部64から出力された信号とが互いに対応していると判定された場合には、補正処理を禁止することになる。
【0121】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態に係る車両用空調装置2によれば、快適感演算部63が乗員AのRRIから乗員Aの快適感を定量的に算出し、この乗員Aの快適感に基づいて車両用空調装置2の制御目標値を設定するようにしたので、乗員Aの快適感が反映された空調制御とすることができ、空調制御の精度を高めることができる。そして、乗員AのRRIの信頼性が低い場合には、快適感演算部から出力された信号を補正するので、乗員Aの快適性が損なわれないように、乗員A周りの温熱環境を制御することができる。
【0122】
(その他の実施形態)
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【0123】
快適感演算部63は、内気温度センサ72、湿度センサ73及び日射センサ74等の温熱環境検出手段によって乗員A周りの温熱環境と、車室用空調ユニット10の動作状態とを得て、乗員A周りの温熱環境及び車室用空調ユニット10の動作状態の変化がないにも関わらず、RRI検出部62により検出されたRRIが変化した場合は、変化前のRRIから乗員の快適感を算出するように構成することができる。
【0124】
すなわち、RRIは乗員Aのストレスによって変化するため、温冷感以外の要因でも変化することがある。この形態では、乗員A周りの温熱環境及び車室用空調ユニット10の動作状態の変化がないにも関わらず、RRIが変化した場合は、RRIが温冷感以外の要因で変化したものと推定し、変化前のRRIから乗員Aの快適感を算出することができる。従って、乗員Aの快適感の算出精度が高まる。
【0125】
また、快適感演算部63は、内気温度センサ72、湿度センサ73及び日射センサ74等の温熱環境検出手段によって乗員A周りの温熱環境と、車室用空調ユニット10の動作状態と、皮膚温度センサ79で検出された乗員Aの皮膚温度とを得て、乗員A周りの温熱環境、車室用空調ユニット10の動作状態及び乗員Aの皮膚温度の変化がないにも関わらず、RRI検出部62により検出されたRRIが変化した場合は、変化前のRRIから乗員Aの快適感を算出するように構成することができる。
【0126】
この形態では、乗員A周りの温熱環境及び車室用空調ユニット10の動作状態の他、乗員Aの皮膚温度にも変化がないにも関わらず、RRIが変化した場合は、RRIが温冷感以外の要因で変化したものと推定し、変化前のRRIから乗員Aの快適感を算出することができる。従って、乗員Aの快適感の算出精度が高まる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
以上説明したように、本発明は、例えば自動車等の車両用空調装置として有用である。
【符号の説明】
【0128】
1 自動車(車両)
2 車両用空調装置
10 車室用空調ユニット(温熱環境制御装置)
30 足元ヒータ
40 シートヒータ装置
60 制御ユニット
62 RRI検出部(RRI検出手段)
63 快適感演算部(快適感演算手段)
64 乗員温冷感算出部(乗員温冷感算出手段)
65 制御目標値設定部(制御目標値設定手段)
79 皮膚温度センサ(皮膚温度検出手段)
80 脈波センサ
R 車室内
S 車両用シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8