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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】小便器用の床マット
(51)【国際特許分類】
   A47K 17/02 20060101AFI20220318BHJP
   A47G 27/02 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
A47K17/02 Z
A47G27/02 101C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017176404
(22)【出願日】2017-09-14
(65)【公開番号】P2019050986
(43)【公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】596116363
【氏名又は名称】三和テクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】福井 和郎
(72)【発明者】
【氏名】大西 章裕
(72)【発明者】
【氏名】今坂 秀則
【審査官】神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-165941(JP,A)
【文献】登録実用新案第3147071(JP,U)
【文献】特開2012-135334(JP,A)
【文献】特開2008-272498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 17/02
A47G 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小便器の下の床面上に敷設する床マットであって、この床マットの表面もしくは裏面に小便器の内壁面との位置合わせ用の指標が備えられ、この床マットの表面には左右対称形状のつま先を逆八の字状に開いた左右の靴跡が表示されており、この左右の靴跡のサイズは長さが378mm以上で、幅が120mm以上であることを特徴とする小便器用の床マット。
【請求項2】
左右の靴跡のサイズは、長さが403mm以上でかつ504mm以下、幅が130mm以上でかつ206mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の小便器用の床マット。
【請求項3】
左右の靴跡のサイズは、長さが428mm以上でかつ504mm以下、幅が140mm以上でかつ206mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の小便器用の床マット。
【請求項4】
位置合わせ用の指標は、ライン、色分け、柄模様、記号、文字のうちの少なくともいずれか1つからなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の小便器用の床マット。
【請求項5】
位置合わせ用の指標は、床マットの表面あるいは裏面に備えられた指標による表示に代えて、小便器用の床マットの前端部の切断面を指標とするものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の小便器用の床マット。
【請求項6】
床マットの表面に表示の左右対称形状の左右の靴跡は、つま先がやや外向きにとなるようにかつ左右のつま先同士の距離が左右の踵同士の距離よりも離間するように配置されて床マット上に表示されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の小便器用の床マット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、男性用の小便器用の床マットであり、とりわけ男性が便器の前に立つ位置を適切に誘導するための小便器用の床マットに関する。
【背景技術】
【0002】
男性が男性用小便器に向かって立位姿勢で小用を足す際には、本人が小便器に向けて放尿している場合であっても、意図せずとも小便器の周囲に尿の飛沫が飛散しやすく、周囲の壁や床面は、その飛散した小便によって汚損することが多く生じている。尿によって周囲が汚損されると、単に不衛生であるばかりか、変色、臭気の原因ともなることから、飛散することを織り込んで小まめに清掃をすることが事実上要請されてしまっている状況にある。
【0003】
すると、職場や公共機関等、多数の者が頻繁に用を足す状況で使用される小便器の周囲ともなれば、使用回数の多さゆえに飛散によって極めて汚れが目立ちやすいものとなってしまっている。決して誰しも汚そうと思って使っているわけでなくとも、飛散しやすいことから、汚損は不可避な状況にある。もっとも清潔であればあるほど心理的に汚されにくいことから、できるかぎり清潔に保ちたい、という要請がある。そして、単に清掃で解決しようとするとなると、清掃の頻度を高めるしかなく、清掃者にかかる作業負荷はとても大きなものとなっている。
【0004】
もちろん、これまでにも小便器やその周囲が汚損しにくくなるようにと、小便器の形状や構造を工夫することで、放尿を意図した小便器内に誘導して飛散を低減しようとする試みが種々になされてきている。たとえば、小便器の底面の地上高さを股下近くにしたり、手前に張出す形状を細めつつ股下近くまで位置させたり、あるいは左右側壁を大きく湾曲させて覆う部分を増やすなどの工夫である。こうした構造的な便器側の工夫は、放尿された尿を適切に便器内に受け止めようとする試みである。
【0005】
しかしながら、既存の便器を別な構造の便器へと取り替えることは改修工事を伴うので物理的にも経済的にも容易なことではない。それゆえに、便器側の形状や構造の工夫のみで対処できる場面はトイレの新設時や大型改装時などに実質的に限られてしまっている。また、適切な小便器の選択によって一定の効果が得られることはあるとしても、背丈の異なる大勢の利用者に適用することなどには限界があるので、多数の人の出入りする公共の場所に設置される小便器については形状や構造の工夫のみで対応しきれるものでもなかった。
【0006】
また、床や壁に飛散してしまった汚れを清掃しやすくする工夫として、防水シート、吸水シートや脱臭シートなどの機能素材を床や壁に敷設したり、さらにはこれらのシートを自動で清掃する仕組みを床面に敷設するなどの工夫もみられる。しかし、あくまで事後的な対処法にとどまることから、飛散自体を抑制・低減できておらず、直接的な解決に資するものとしては十分な対応がなかなかできていない状況にある。
【0007】
さらに、飛散や小便器周囲へ尿をこぼしてしまう、排泄時のし損じを低減させる試みとして、男性の立つ足元の床を傾動させて、立つ姿勢を前傾させて腰が引けにくくするといった立位姿勢を誘導しようとする試みがなされている。たとえば、「足を載せ置いた前記使用者の足裏を持ち上げる足載せ部を備え、前記足載せ部の上面形状が、前記使用者の踵の位置、土踏まずの位置、母趾球の位置、つま先の位置の順に低くなるように角度をつけたものであることを特徴とする男子小便器用トイレマット」が提案されている(特許文献1参照。)。この提案のものは、前方に傾けた場所で腰を引かさせないことになるであろうが、前につんのめったように傾動する安定感のなさに、やや不自然で違和感を覚えるかもしれず、わずかな傾きでも人は傾斜を認識してしまうことからすると、排尿時にリラックスしにくくなる点は否めない。
【0008】
また「男子用小便器の前方床面の立ち位置が、使用者の左右いずれか一方の足がつま先方向に向かうに従って上方へ傾斜するとともに、他方の足が踵方向に向かうに従って上方へ傾斜するように構成されていることを特徴とする小便飛散防止構造。」も提案されている(特許文献2参照。)。しかし、上記のように片方の足と他の足の角度が左右で異なるとなると、利用者の立ち姿勢が強制されるので、利用者に不自然な感覚を覚えさせることとなる。リラックスした心持ちで気楽に使用したい、といったトイレにおける解放感が損なわれる点は否めないところがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-272498号公報
【文献】特開2012-135334号公報
【文献】特許第5436970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、あらためて飛散する過程に立ち戻って要因を探ると、男性の尿道口から排尿される尿は断面が縦長と横長を周期的に繰り返すような動きをしながら排出されるので、その間の距離がある程度の長さになると液滴となって落下していることが観察されている。尿は単純な水流が円柱状の流れのままに便器まで放出されるものではなく、途中で液滴に形状変化しやすいのである。すなわち、排出される尿は、ある程度の距離となると、放出されて落下するまでの間に、当初の周期的な円柱状から、より表面積の小さい液滴へと変化して、便器に液滴として到達することとなるのである。そして、液滴となると、小便器の壁面や水面等に接触したときに、より跳ね返りを起こしやすいものとなってしまうのである。
【0011】
こうした放出された一筋の尿の水流が途中で液滴状に変化して滴下していく現象は、表面張力によるレイリーの不安定性と呼ばれる現象である。長細い流体を表面張力がちぎれさせるのである。垂直に流れ落ちる水の円柱の筋は、その長さが直径のπ倍より大きくなると液滴に変わるのである。さらに、15~20cmと長い尿道を経て排尿されることから、放尿された尿の流れを考えると、中心部分の流速が周囲に比べて速く、尿全体でも一様な流れではなく、揺れのある水流であることも影響していると思われる。してみると、円柱状から液滴に短距離で変化しやすいのは、円柱の太さが周期的に変わることと、ノズルとなる尿道口の形状が縦長なことも要因のひとつとなっていると思われる。
【0012】
さて、このように放尿されてから壁面に到達するまでの距離が長くなればなるほど液滴になりやすい。レイリーの不安定性や水流の揺れといった要因で排尿後わりとすぐに液滴となりやすいことが説明される。としても、さらに、液滴となってから壁面に到達したほうが周囲に飛散しやすくなる理由ははっきりしないところがある。分散した液滴が小便器の縦方向の内壁面に衝突するたびに衝撃で微細化されることを考えると、液滴が衝突したほうがより微細な液滴が生じやすいので、この内壁面で跳ね返った微細な液滴はより一層に周囲に飛び散りやすいのであろうと思われる。
【0013】
以上の観点からすると、立位姿勢で小用をたす男性は、できる限り小便器に近づいて用を足したほうが液滴の発生が抑制されやすく、そのことで、さらに衝突した液滴から生成される、微小な液滴の周囲への飛び散りも抑制されるので、小便器の周囲の飛散を抑制しやすいことにはなると思われる。もっとも、飛散の要因が多少わかったところで、直ちに飛散を低減することは容易ではない。もちろん自宅であれば、自身が小用を足すときに便器に近づくなどの自分自身での工夫もできるかもしれないが、そもそもどの程度排尿時に飛散するか自体がさほど認知されているわけでもない。微小な液滴の舞い上がる様子などは、視認しにくいものであり、特殊なカメラでも設置しなければ観察できないことから、便器にこぼさず排尿すれば、それでいいと考えるのが普通であり、男性が飛散抑制をさらに工夫しないといけないと認識するまで動機づけられてはいない現状だからである。
【0014】
そして、自宅とは異なり、共用のスペースや公共スペースにおける小便器の場合には、小便器に近づくよう促したところで、物理的に可能かどうかのみならず心理的にも難しい場合がある。言葉で「一歩前へお進みください」などと呼びかけたところで、この表示を目にした者は、清掃者の苦労を慮ると同時に、周囲の汚れが気になってしまったり意識していしまうこともあるので、かえって小便器に近づくことに躊躇してしまう場合もあるからである。したがって、使用者に近づいて小用を足してほしいという意図を強く認識させるのではなく、むしろ半ば無意識か低い注意力のもとで、いわば通常のリラックスした行動のなかで、知らず知らずのうちに小便器に近づくような、自然に違和感なく行動を誘導することのできる工夫が求められている。
【0015】
また、言葉ではなく、通常の足のサイズに相当する靴跡を床に描くことで立ち位置を示すものもある。もっとも、そうした靴跡は、身障者用の補助用のバーが巡らされている場合などであれば、そもそも深く侵入しにくい場所であることから、それを誘導する目的で描かれていることも多い。すると、そもそも靴跡のとおりの位置に立つことが補助用のバーが邪魔となるので容易ではない。さらに、靴跡が小さいので、かえってこれを避けるように立つことも簡単にできてしまうので、誘導する位置に人がなかなか立ってくれるとは限らないものとなってしまっている。そこで深く前進して小用を足すことにもつながっておらず、必ずしも飛散状況は改善されず、単なる靴跡を描き示すだけではいまだ十分な効果は得られていない。また、そもそも小便器から離れた位置に靴跡が描かれてしまっていては飛散低減の効果が十分に得られないが、離れた位置にポンとマットを置いている場合が多い。そこで所望の位置に簡便に敷設しうる手段も求められている。
【0016】
そこで、本願発明が解決しようとする課題は、小便器の周囲への尿の飛散を低減させるべく使用者の立ち位置を小便器の手前に近づくように誘導するための小便器用に敷く床マットであって、その適切な敷設位置が敷設者にとって簡便に把握できるものであって、また、利用者が殊更に意識することなく無意識的に前方の小便器に近づくよう促されるような、利用者を適切な立ち位置へそっと促し誘導することのできる、小便器用の飛散抑止に適した床マットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の課題を解決するための手段における、第1の手段では、小便器の下の床面上に敷設する床マットであって、この床マットの表面もしくは裏面に小便器の内壁面との位置合わせ用の指標が備えられ、この床マットの表面には左右対称形状のつま先を逆八の字状に開いた左右の靴跡が表示されており、この左右の靴跡のサイズは、長さが378mm以上で、幅が120mm以上であること、好ましくは、長さが403~504mmで、幅が130~206mmあること、さらに好ましくは、長さが428~504mmで、幅が140~206mmであることを特徴とする小便器用の床マットである。
【0018】
第1の手段における、小便器の内壁面とは、直立する利用者に対面している、尿の注がれる小便器内の正面の立壁のことであり、第1の手段の位置合せ用の指標の位置に沿って、靴跡の表示された床マットを床面に敷設することで、小便器に対して靴跡が適切な位置関係で配置されることとなる。
【0019】
さて、男性の足のサイズは、日本工業規格JIS S5037の「靴のサイズ」に、12歳以の男子用のサイズとして、足長さ(平らで水平なところに直立し、両足を平行に開いて平均に体重をかけた姿勢のときの、かかとの後端[しょう(踵)点]から最も長い足指の先端までの距離。)が20~30cmの場合のサイズが、付表1に列挙されている。そして、「足サイズ計測事業報告書」(平成21年6月)社団法人日本皮革産業連合会によると、日本人男性の靴のサイズは、最頻値が25.5EE(足長252mm足幅103mm)である。
【0020】
そこで、本発明の第1の手段の、床マット上に表示する靴跡の長さは、この男性の標準的な靴サイズの足長の1.5倍となる378mm以上であり、好ましくは、靴を履いていることを考慮して、それより一回り大きな標準的な足長の1.6倍となる長さが403mm以上でかつ504mm以下であり、さらに好ましくは、標準的な足長の1.7倍の長さが428mm以上でかつ504mm以下である。もっとも、必要以上に靴跡が大きすぎると、床マットのサイズも大きくなりすぎて、デザイン性が悪くなるほか、今度は、靴跡が自分の足と重ね合わせるものだという認識がされ難くなり、ほとんど無意識的に靴跡の先端に自分の足先を合わせるといった期待行動がとられ難くなることもあり得るので、靴跡の長さは標準的な足長の2倍の長さが504mm以下までとするとよい。
【0021】
なお、靴跡の幅は、足先に自然と誘導できる太さであれば違和感を生じないので、適宜の幅で適用できる。たとえば、靴跡の幅は、ややスリムな幅が130mmの足長に応じた不自然な靴跡とならない程度とし、さらに甲裏あたりの幅を持たせて太くして幅が140mmとすることができるが、最大の靴跡の幅は標準的サイズの足幅の2倍の幅が206mm以下とするとよい。したがって、靴跡の幅は、その1で、幅が130~206mmとするとよく、その2で、幅が140~206mmとするとよい。
【0022】
さらに、第2の手段では、位置合わせ用の指標は、ライン、色分け、柄模様、記号、文字のうちの少なくともいずれか1つであることを特徴とする第1の手段に記載の小便器用の床マットである。
【0023】
また、第3の手段では、位置合わせ用の指標は、床マットの表面あるいは裏面に備えられた指標による表示に代えて、小便器用の床マットの前端部に設けた切断面を指標とするものであることを特徴とする第1の手段に記載の小便器用の床マットである。すなわち、小便器用の床マットの前端の位置を小便器の内壁面の位置に合せて切断したものとしておき、床マットの設置時に前端部切断目を小便器内壁面を外挿した位置にあわせて敷設するようにする小便器用床マットである。
【0024】
また、さらに第4の手段では、床マットの表面に表示の左右対称形状の左右の靴跡は、つま先の箇所がやや外向きとなるように、かつ左右のつま先同士の距離が左右の踵同士の距離よりも離間するように配置されて床マット上に表示されていることを特徴とする、第1または第2の手段に記載の小便器用の床マットである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の課題を解決するための手段によると、床マットに表示されている靴跡が一般的な成人男性の靴跡よりも大きな靴跡形状であるので、小便器の前に立って小用を足そうとするとき、利用者は大きめの靴跡のつま先にあわせて無理なく足先を小便器の下部の外周形状に沿わせることができる。その際、大きめの靴跡を認識されれば、無意識的に靴跡のつま先側に合わせて立とうとすることとなる。したがって、靴跡を本人が認識するかしないかにかかわらず、小便器に近づくように深く前進した位置で立姿勢が得られることとなり易い。すなわち、いわばスリッパをつっかけて履いたときのように漸進した位置で立姿勢となるので、靴跡のつま先に足先を揃えることに、心理的抵抗感がなく無理なく行動でき、意識せずとも足先を靴跡の先に沿わせて立つことができる。そこで小便器の内壁面に近づいた最適の立姿勢となるので、排尿が飛び跳ね小便器の周囲に飛散して汚損する頻度が極めて低減されやすくなる。したがって、小便器の周囲をより清潔に保ちやすくなる。
【0026】
本発明は、なんとなく足先を靴跡のつま先にあわせてしまう人間の心理を利用するもので、大きな靴跡であれば足先を合わせることがより容易である。このことから、深く意識せずとも意識レベルが低い状態で実行することができ、気を抜いてリラックスした場面において、知らず知らずのうちに小便器に近づいた位置に利用者を近づけるよう誘導することができる。すなわち、大きな靴跡を呈示するだけで、そこに足をなんとなく置いてしまう心理的効果をうまく利用したものである。他方、余計な注意喚起を掲示することもないので、利用者の反発を招くこともなく、多数の人にとっては、説明せずとも受け入れやすい、自然な利用が促されるのである。
【0027】
さらに、本発明は、小便器の内壁面を基準にするために、小便器の外周下部の床面の深い位置に誘導する靴跡の配置が確認できるように、床マットを敷設する際に参照可能な、小便器の内壁面との位置合わせ用の指標を床マットの表面あるいは裏面に設けている。そこで、床マットを敷設する際に、敷設者は小便器と靴跡との距離を適切に保つようにして簡易に素早くセットすることができる。こうした指標は、床マットの表面または裏面にラインを引いたものでもいいが、その他の、柄模様の変化や色分けや、小さな記号や文字など、あるいはそれらの組合せによって、利用者に指標を殊更認識させることなく、自然と適切な立ち位置に誘導することができる。
【0028】
また、小便器の内壁面を基準とするので、あらかじめ小便器の内壁面の位置で、指標に基づいて床マットをカットすることもできる。そこで、あらかじめカットされた床マットの前端部の切断面そのものを小便器の内壁面と位置合わせする指標として用いることができてわかりやすい。
【0029】
さらに汚損防止のための床マットでもあることから、小便器の下方の床を覆うことが望ましいが、位置合わせを優先したいのであれば、敷設者にとって前端部の切断面を指標とすることは、適切な位置関係で配置するために有用であり、現場で前壁までの距離にあわせてカットする手間が省けて、切断道具を要しないので、簡易な工程からなる敷設が可能となる。
【0030】
また、左右の靴跡では、つま先同士の距離のほうが踵同士の距離よりも拡がっており、やや足先を開いたようにして左右の靴跡を配置させることで、利用者が立つ際に姿勢が安定しやすく、自然に足先を靴跡に沿わせることが促される。そこで、違和感を抱き難く、利用者が戸惑うこともなく小用を足すこととなる。したがって、一層に小便器の内壁面に近づくことが促されることとなるので、排尿が飛散しにくいものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施の形態の小便器用の床マットの平面図である。
図2】本発明の他の実施の形態の小便器用の床マットの平面図である。
図3】本発明の小便器用の床マットが複数の便器にあわせて床面に敷設された場合の図である。
図4】通常の靴跡サイズを用いた小便器用の床マットの平面図(従来例)である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1に示すように、本発明の小便器用の床マット1は、矩形の敷マットからなっている。
小便器4が立壁面9に中空で固定されているタイプの場合には、小便器の底部は床に接触していないので、図1に示す矩形のままの床マット1の指標3に基いて小便器の内壁面5を外挿したラインと指標3の位置が合うように、前端部10を立壁面9に当接する位置でカットして、小便器4の下方床面上に敷設することとする。
小便器4の底面が床に達している場合は、図1の床マット1の前端中央を小便器4の下部外囲形状6にあわせて円弧状等にカットした図2に示すものを用いる。
【0033】
さて、図1図2の床マットでは、表面にタイル状の模様が描かれている。そのタイル目の前方1行目と2行目の境界線が小便器の内壁面5の外挿位置が重なるようになっており、タイルの目が本願の位置合せの指標の柄として機能している。
【0034】
なお、こうした位置合せは、立壁面9と内壁面5の距離がそれほど大きくない場合には、立ち壁面9の前端部10のカットラインをあらかじめ立ち壁面9と内壁面5のマ-ジンを見越したものとしておくことで代用するようにしてもよい。すると、立壁面9の下端に床マットの前端部10をあわせるだけで所望の位置合せができることとなる。
【0035】
さて、これらの床マット1の敷設では、たとえば、床マット1のサイズは、横幅が70cm、奥行き70cmである。上記の図2では、さらに、床マット1のサイズは、小便器4の底面が床面位置に達している場合であるので、その小便器4の下部外周形状6にあわせるべく、床マット1の前端中央部1aが、幅298mm、奥行き295mmにわたって、U字状にくり抜かれて、カット部1aとなっている。
【0036】
ところで、この小便器用の床マット1の材質は、一般的な敷マットに用いるゴムシートや織物などいずれでも可能であるが、たとえば、いわゆる防水性の膜材であるターポリン(繊維の布を軟質の合成樹脂フィルムでサンドイッチした複合シート材)が好適である。ターポリンであれば、厚みを薄くしやすいので床面の高さの違いや通常のタイルの床の硬さとの違いなどで、利用者にさほど違和感を与えることがない。そこで、足を載せ置く際に自然と前に踏み出せるものとなる。
【0037】
ターポリンによる床マットとして、出願人は「ゴムもしくはエラストマーからなるベース基材を下層に配設し、編物からなる編地もしくは織物からなる織地を表面に文字や図柄を印刷した合成樹脂フィルムもしくはシート(以下、合成樹脂フィルムもしくはシートを「合成樹脂シート」という。)と無印刷の合成樹脂シートで挟持して構成されたターポリンフィルムもしくはシート(以下、ターポリンフィルムもしくはシートを「ターポリンシート」という。)とし、このターポリンシートをベース基材の上の中層に配設し、中層のターポリンシートの表面を保護する透明な保護フィルムもしくはシート(以下、保護フィルムもしくはシートを「保護シート」という。)をターポリンシートの上の上層に配設し、これらの下層のベース基材と中層のターポリンシートと上層の保護シートを熱融着により一体的に形成することを特徴とする表面の保護された床マット。」の製造方法を開発済みであるから(特許文献1参照。)、こうした製造方法を適用することができる。こうした方法により、ターポリンシートの印刷面の表面を、さらに塩化ビニルでラミネートし、裏面をゴムでラミネートすることができるので、小便器用の床マット1の敷設の指標3となるラインや床マット1の表面7の柄模様などが消えることなく、長期間表示できるなど、本発明を好ましい状態で実施することができる。
【0038】
なお、表面には滑り止めにシボ加工を施し、下地をゴムとすることでトイレの床面ともズレにくくなる。また、この小便器用の床マット1はターポリンの材質によって耐水性のみならず耐油性も備えることができるので、床マット1を簡単に洗浄することができる。したがって、この小便器用の床マット1は繰り返し使用できるので、汚損しやすいトイレのような悪条件化での使用への耐久性があり、長期に適用することができる。
【0039】
さて、実施例として示すターポリンによる小便器用の床マット1の具体的製造方法は、以下のとおりである。まず、NBRすなわちアクリロニトリルブタジエンゴムからベース基材を形成する。
さらに、このベース基材に載置するターポリンシートの構造を、フィラメント糸からなる編物もしくは織物と、これらを挟持している合成樹脂シートであるポリ塩化ビニルシートから形成する。
【0040】
上記のように挟持して形成した合成樹脂シートの上部側の表面を文字や図柄を印刷により描いてターポリンシートに形成することができる。この印刷の際に、左右の大きな靴型2と、小便器の内壁面との位置合わせ用の指標3となるライン、色分け、柄模様、記号、文字などを表面に印刷しておくことができる。ライン、色分け、柄模様、記号、文字はなどは、いずれか1つの指標3でもよいが、これらを組み合わせて指標3とすることでもよい。
【0041】
さらに、小用を足す利用者はこれらの色分けや模様の意味を認識する必要はないので、敷設者に理解できる指標3であればよく、指標3を利用者にかえって意識させないようにしてもよい。利用者には靴跡2の表示が違和感なくみえればいいので、自然と靴跡2の上にて足を前へと踏み出すことができるように、自然な印象のものが望ましく、靴跡2以外の部分は周囲の床の色調や模様にあわせるなど、自然な印象となるように、適宜印刷の柄模様を選択することが好ましい。
【0042】
さて、このターポリンシートの厚みは0.3mmに形成している。0.3mmよりも極端に厚くなりすぎると、熱融着による一体成型時にターポリンシートを形成するフィラメント糸からなるパイルの下側のポリ塩化ビニルシートとベース基材のゴム間の熱溶融による溶融物の回り込みが悪くなり、さらにターポリンシートの表面とその上の保護シートとの間に空気が入った状態となって、ターポリンマットが外観上不均一となることがあるからである。このようにした上で、さらに、このターポリンシートを保護するために、ターポリンシートの上に被せる最表面の保護シートを透明なポリ塩化ビニルシートから形成する。
【0043】
これらのベース基材からなる下層と、フィラメント糸からなる編物もしくは織物の両面をポリ塩化ビニルシートからなる合成樹脂で挟持して形成したターポリンシートからなる中層と、透明なポリ塩化ビニルシートの保護シートからなる上層の3層を重ねて、ベース基材の上にターポリンシートを載置し、さらにターポリンシートの上から透明な保護シートを被覆した後、これらを熱融着により床マットとして一体成型することもできる。
【0044】
なお、図3に一例を示すように、各便器毎に床マットを敷設する以外に、複数の便器がある場合に、1枚の長大な床マットを敷くこととして、各便器の手前に靴跡を表示させるようにしてもよい。
【0045】
(靴跡2の形状とサイズについて)
本実施例の靴跡2は、たとえば黒ベタ1色からなる靴跡2である。たとえば、黒ベタに塗りつぶされたやや大きめのつま先部と、やや小さな踵部との2つのパーツを土踏まずの部分で離間分断させて描いた靴跡2などが視認性があってわかりやすい。しかし、土踏まずで分断している必然性はなく、靴跡2と認識できるものであればよい。
【0046】
足型の形状自体は一般的で、特段に靴跡2に特徴があるわけではないが、つま先から甲部へとなるにつれて幅が太くなり、土踏まずのあたりがやや細まり、踵の部分がやや太くなるような通常の足型を大きくしたような形状としている。
たとえば、靴跡2の足長さは、430mm、甲の幅は160mm、踵の幅は110mmとし、つま先から土踏まずまでのつま先部の長さは250mm、踵部の長さは120mmとする。
【0047】
この靴跡2は、左右の踵部同士の間を40mm離間させ、つま先を左右に20°ずつそれおぞれ外向きに開き、すなわち、両足を40°の角度で開いた図柄の靴跡2であり、ターポリンシート上にあらかじめ印刷して描くものとすると、清掃に強い落ちにくい図柄となる。なお、靴跡2のつま先は踵部に比して多少互いに離間しており、つま先が外向きに開いているほうが立ちやすいので、靴跡2は10~60°程度開いた状態のものをこの小便器用の床マット1上に表示するのが好適である。
【0048】
(位置合わせ用の指標3と靴跡2のつま先との距離について)
さて、位置合わせ用の指標3と靴跡2のつま先との距離は、たとえば8~15cm程度となるようにするとよい。この距離は、小便器4の内壁面5である側壁の深さや小便器4の内壁面5の底面の前方への突出形状などによって前後させることが望ましい場合があるので、決まった固定値ではなく、適宜前後しうるものである。しかし、この位置合わせ用の指標3と靴跡2のつま先との距離は、小便器4にできるだけ近い位置に足先を誘導するためであることから、20cmを超えるような離間距離になると飛散抑止の効果が弱まっていくこととなる。
なお、位置合わせ用の指標3となるラインや色彩、模様、記号、などとトイレの立壁面9の位置をあわせるように敷設できると、簡単に位置合わせができることとなる。なお、この指標3は床マット1の表面7または裏面8のどちらに印刷してもよい。
【0049】
また、小便器4の形状に応じて、床マット1の中央前端を円弧状のカット部1aにカットしたり、トイレの立壁面9と床マット1の先端がぶつからないようにするために、あらかじめまたは敷設時に小便器4の内壁面5よりも床マット1の先端の長さお適宜裁断することができる。そこで、小便器4の内壁面5の位置であらかじめ床マット1を裁断し、床マット1の前端部10の切断面の端面を、指標3の代わりのラインにみたてて、小便器4の内壁面5の外挿したラインに位置させるように敷設配置してもよい。
【0050】
(靴跡2の形状や位置の違いと排尿の飛散の様子の関係性の確認試験について)
床マット1の上に表示させる靴跡2が大きなサイズの場合と通常のサイズの場合とで排尿の飛散の様子にどのような違いあるのか、また、靴跡2を表示させる位置の前後関係や、輪郭線のみで描いた靴跡2や、異なる色彩の靴跡2などによる、表示のさせ方の違いによって、利用者の床マット1の利用の仕方に変化があらわれるかどうかについて、試験をして、対比した。排尿の飛散面積は、2台の小便器4のうちより、汚染度の高いほうの床マット1側の数値を採用して各回毎に記録した。
【0051】
まず、対比試験には、出願人会社の苅藻工場の4階の男子トイレの小便器4の2台を使用した。1日あたりに1回、すなわち8時30分~17時30分までの間、床マット1を1回敷設し、その後、床マット1の上に同一寸法の障子紙を押しつけて排尿がこぼれた部分を障子紙に吸い取らせ、吸い取った尿の描く輪郭線を記録した。その輪郭線で描く面積を尿こぼれ面積として換算することで数値化して評価した。トイレの使用頻度は1日に約40回/台であった。同じ形状の床マット1について試験を1日に2セットの小便器4で実施した。
【0052】
試験では、靴跡2のサイズ、色、大きさ、表示位置、表示の態様を変えた床マット1を各種用意し、それぞれを利用者の用に供して、排尿後のマット上への排尿の飛散の度合いを対比した。
試験に用いた床マット1の靴跡2の態様について説明すると、
実施例1では、靴跡1のサイズは、足長430mm、足幅160mmである。
比較例1~4の靴跡1のサイズは、足長270mm、足幅 75mmである。
比較例5は、床マット1は敷設無しの例である。
小便器4の内壁面5の位置はトイレの正面の立壁面9から20mmである。正面の立壁面9から床マット1を長さが700mm、幅が700mmにわたって敷設した。床マット1は、小便器4の下部の外周面底面形状6に合わせて、床マット1の前方中央を幅297mm、奥行き295mmにわたってU字状にくり抜いている。
【0053】
表1に示すように、実施例1では、図2に示す左右の足先を約40°に広げ、左右の踵同士を40mm離間させて描いた大きなサイズの靴跡2を、靴跡2のつま先が床マット1の前端から、155mmの位置(小便器内壁面5の外挿ラインから135mmに相当する位置)となるように表1の態様のAで示す位置に配置した。この場合の踵の後端の位置は表1の態様のBで示す位置となる。
【0054】
比較例1では、左右の足先を約40°に広げ、左右の踵同士を40mm離間させた通常サイズの長さ270mmである靴跡2を、靴跡2のつま先が床マット1の前端から155mmの位置(小便器内壁面5の外挿ラインから135mmに相当する位置)となるように表1の態様のAで示す位置に配置した。
【0055】
比較例2では、左右の足先を約40°に広げ、左右の踵同士を40mm離間させた通常サイズの長さ270mmである靴跡2を、靴跡2のつま先が床マット1の前端から198mmの位置となるように配置した。この場合の踵の後端の位置は表1の態様のBで示す位置となっている。
なお、実施例1、比較例1および比較例2の靴跡2は黒ベタで描かれており、相似形である。
【0056】
比較例3では、比較例2の靴跡2の配色の黒ベタに変えて紫のベタとしたものであり、足先を約40°に広げ、踵同士を40mm離間させた通常サイズの靴跡2を、靴跡2のつま先が床マット1の前端から198mmの位置となるように配置した。この場合の踵の後端の位置は表1の態様のBで示す位置となっている。
【0057】
比較例4では、比較例2の靴跡を黒ベタでに変えて、黒輪郭の外形のみとしたものであり、足先を約40°に広げ、踵同士を40mm離間させた通常サイズの靴跡2を、靴跡2のつま先が床マット1の前端から198mmの位置となるように配置した。この場合の踵の後端の位置は表1の態様のBで示す位置となっている。
【0058】
比較例5では、床マット1を敷設することなく、また、靴跡2を床面に表示することもなく、小便器4を使用に供した場合である。
【0059】
(飛散の結果について)
実施例1では、排尿の飛散の尿こぼれ面積は、1回目、2回目ともに尿こぼれは検出されず、いずれも面積は0mm2であった。
比較例1では、排尿の飛散の尿こぼれ面積は、1回目は256mm2、2回目は128mm2であった。
比較例2では、排尿の飛散の尿こぼれ面積は、1回目は329mm2、2回目は415mm2であった。
比較例3では、排尿の飛散の尿こぼれ面積は、1回目は247mm2、2回目は520mm2であった。
比較例4では、排尿の飛散の尿こぼれ面積は、1回目は587mm2、2回目は250mm2であった。
比較例5では、排尿の飛散の尿こぼれ面積は、1回目は1018mm2で、2回目は3242mm2であった。
すなわち、比較例5は、床マット1が無く、靴跡2の無い場合であり、排尿の飛散度合いのベースラインとなる値であり、排尿の飛散の尿こぼれ面積は1000mm2オーバーであり、周囲の床面がかなり汚損されていた。
【0060】
これらの実験結果を下記の表1に一覧で示す。
【0061】
【表1】
【0062】
以上の結果から、靴跡2は大きなサイズであるほうが通常のサイズよりも利用者を前方の小便器4方へ誘導できており、実施例1では、検知の排尿こぼれ面積が0mm2であるなど、排尿の飛散が飛躍的に抑制できることが確認された。
次に、通常サイズの靴跡2の表示位置を、大きなサイズの靴跡2のつま先に揃えた比較例1と、踵に揃えた比較例2との間で対比すると、靴跡2が大きなサイズであり、かつ靴跡2をつま先の位置に揃えて前方に表示させたほうが、利用者が小便器4に大きく近づくことから、排尿の飛散が若干低減できていることがわかった。
【0063】
たしかに、比較例5のように、床マット1を床面に敷設することなく、靴跡2を全く表示しない場合と比較すると、比較例1~4の通常サイズの床マット1であれば、靴跡2が描かれていることによる効果が一定程度認められる。すなわち、比較例1は、比較例5に比して排尿の飛散が4分の1以下に抑えられてはいるものの、実施例1と比較するとその差は歴然としており、比較例1では排尿の飛散が少なからず認められた。これは、利用者の足を前方に誘導するという意味では、依然として足の置かれた位置が遠かったことを意味しており、前方への誘導が十分に行われていなかったことを示している。他方、実施例1では全く排尿が飛散していないことからすると、大きな靴跡2の場合には、通常サイズの靴跡2に比してもさらに誘導効果に優れることがわかり、それは簡単な工夫でありながら効果が飛躍的に高くなる、予測しがたい有用性が明らかになった。このことは、単に足先を前方に配したことのみでは説明することはできず、心理的な誘導効果が相俟っての結果であるといえる。
【0064】
また、比較例3は、靴跡2の配色を変えた試験であるが、黒と紫で有意な差は認められていない。比較例4は、靴跡2を輪郭線のみで描いた試験であるところ、輪郭線よりも黒ベタ一色のほうが視認性が高いことから、利用者の誘導効果がやや高くなりうる可能性が示唆されている。靴跡2はくっきり視認できるものがより好適である余地を示すものであり、靴跡2のサイズが大きいことが決定的に有益であることをむしろ裏付けるものとなっている。
【0065】
なお、念のため、排尿の飛散の様子を確認するために、トイレ床面に敷設された床マット1の表面にLEDによる紫外線を照射し、青紫の光の有無を視認により確認した。表1に示すように、靴跡2の長さが430mmである本発明の実施例1では、2回にわたり実施した試験のいずれにおいても、表1の尿こぼれ面積の欄に、こぼれ無し0mm2とあるように、排尿のこぼれたこん跡は認められず、紫外線を照射しても目立った反応はみられなかった。
【0066】
他方、トイレ床面に床マット1が敷設されていない場合は、小便器4の周囲のトイレ床面への紫外線の照射によって多数の箇所が光る様子がはっきり認められた。また、靴跡2のサイズが普通サイズの270mmである表1の比較例1~4では、排尿のこぼれの様子が点在してみられることが確認された。このように紫外線照射して得られた、尿こぼれ面積の画像を対比することで、排尿のこぼれの対比確認ができ、大きな靴跡2を床マット1に表示した表1の実施例1の場合と、通常サイズの靴跡2を表示した表1の比較例1~4の場合とで、尿跳ねの飛散抑止効果には大きな違いが認められた。
【0067】
また、上記の実験において、実施例1について、被験者から、足跡の大きさが大きすぎることで、使用しにくいといった声は聞かれず、使用において不満や違和感を述べる者はいなかった。このことからも、実施例1は、使用者に不自然な印象を抱かせることなく、かつ深く意識させることもなく、小便器の設置されている前方の立壁の方へ自然に誘導して近づけることができたといえる。
【符号の説明】
【0068】
1 (小便器用の)床マット
1a カット部
2 靴跡
3 (位置合せ用の)指標
4 小便器
5 (小便器の)内壁面
6 (小便器の)下部外周形状
7 (床マットに)表面
8 (床マットの)裏面
9 (トイレの)立壁
10 前端部
図1
図2
図3
図4