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特許7042495セラミックス複合体及びそのセラミックス複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】セラミックス複合体及びそのセラミックス複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/83 20060101AFI20220318BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220318BHJP
   C08L 33/12 20060101ALI20220318BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220318BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20220318BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20220318BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20220318BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20220318BHJP
   C04B 38/00 20060101ALN20220318BHJP
【FI】
C04B41/83 D
C08L101/00
C08L33/12
C08K3/36
C08K3/22
C08K3/20
C08L29/04 Z
A61C13/083
C04B38/00 303Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018524113
(86)(22)【出願日】2017-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2017022695
(87)【国際公開番号】W WO2017221932
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2016124299
(32)【優先日】2016-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】アダマンド並木精密宝石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(72)【発明者】
【氏名】武藤 光
(72)【発明者】
【氏名】秋山 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】武田 紳一
(72)【発明者】
【氏名】辛嶋 俊介
(72)【発明者】
【氏名】天野 俊平
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-516752(JP,A)
【文献】国際公開第2017/202770(WO,A1)
【文献】特開昭63-252981(JP,A)
【文献】特表2012-501783(JP,A)
【文献】特開2009-53659(JP,A)
【文献】特開2007-323053(JP,A)
【文献】特開2001-279106(JP,A)
【文献】特開昭62-026886(JP,A)
【文献】特開昭61-281088(JP,A)
【文献】特開2004-297020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/80 - 41/91
C04B 38/00 - 38/10
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
A61C 5/20 - 5/35
A61C 5/70 - 5/88
A61C 8/00 - 13/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
理論密度が得られる焼結温度から、-700℃以上且つ-100℃以下で焼結してなり複数の隙間を有するセラミックス焼結体に、ポリビニールアルコール又はポリメタクリル酸メチル樹脂からなる樹脂が浸透され、前記樹脂が浸透されていない隙間が形成されており、前記樹脂が浸透された状態での相対密度が45%以上且つ60%以下であり、最も薄い部分の厚みが0.04mm以上且つ0.06mm以下であり、破壊靱性が0.11MPam 1/2 超且つ0.21MPam 1/2 未満である歯科用セラミックス複合体。
【請求項2】
前記セラミックス焼結体を形成するセラミックス材料が、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ハイドロキシアパタイト、β-リン酸三カルシウムの何れかである請求項1に記載の歯科用セラミックス複合体。
【請求項3】
少なくとも、理論密度が得られる焼結温度から、-700℃以上且つ-100℃以下で焼結したセラミックス焼結体と液状樹脂を用意し、前記液状樹脂としてポリビニールアルコール又はポリメタクリル酸メチル樹脂からなる液状樹脂を用い、液状樹脂にセラミックス焼結体を浸漬し、真空雰囲気下でセラミックス焼結体内部の隙間に液状樹脂を浸透させ、次に、CIP処理により真空パック内にセラミックス焼結体と液状樹脂を入れて加圧することでセラミックス焼結体に液状樹脂を浸透させ、浸透した液状樹脂を固化し、樹脂を浸透させて45%以上且つ60%以下の相対密度を有するセラミックス複合体を得る、歯科用セラミックス複合体の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂が浸透していない隙間を形成する請求項3に記載の歯科用セラミックス複合体の製造方法。
【請求項5】
最も薄い部分の厚みを0.04mm以上且つ0.06mm以下に形成する請求項3又は4に記載の歯科用セラミックス複合体の製造方法。
【請求項6】
前記セラミックス焼結体を形成するセラミックス材料を、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ハイドロキシアパタイト、β-リン酸三カルシウムの何れかとする請求項3から5の何れかに記載の歯科用セラミックス複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス複合体及びそのセラミックス複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量、高靭性、高剛性(高ヤング率)、高強度等の機械特性が要求される分野に於いては、セラミックスと樹脂との複合材料が注目されている。現在実用化されている複合材料はセラミックス繊維と樹脂との複合材料で、FRP(Fiber Reinforced Plastics)又はCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)と称して、機械部品や構造材料として使用されている。
【0003】
その複合材料の製造方法としては、セラミックス繊維を薄い布状にし、それに樹脂を塗布又は樹脂に浸し、それを幾層にも重ねてプレスしながら熱硬化し、機械加工して製造する。或いは型の中にセラミックス繊維を配置して樹脂を塗布し、これを順次繰り返して製品の形状にした後、樹脂を常温又は加熱硬化させて製造する。
【0004】
しかしこれらの製造方法には、複雑な形状の製品を作製する事が出来ず、量産も不可能で、コストの低減化が難しいという問題が有った。また、セラミックスが繊維状なので製品の特性が均一にならずバラツキが発生すると共に、セラミックスの含有率を高くする事が出来ないという問題も有った。
【0005】
そこで、このような問題を解決する製造方法として、例えば特許文献1が開示されている。特許文献1には、40%以上の相対密度を有するセラミックス多孔体を液状樹脂に浸し、真空処理でセラミックス多孔体に液状樹脂を浸透させ、浸透した樹脂を硬化させる事を特徴とする、セラミックスと樹脂との複合材料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-279106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セラミックスと樹脂との複合材料の用途としては、特に歯科用途が挙げられる。歯科用途では、患者の歯形毎に個別に精密な成形加工性が、噛み合わせ等の点から求められる。成形加工性には、加工の容易性と高精度な成形が必要とされる。更に、高精度な成形には、欠けやチッピングが発生しない事が求められ、高い破壊靱性が必要となる。
【0008】
しかし、高い破壊靱性を実現しようとすると、力学的な負荷が加わった時の破壊に対する抵抗が大きくなる為、外力に対する加工の容易性が低下する。従って、高い破壊靱性と加工の容易性の向上とは二律背反の課題で両立が困難であり、特許文献1記載の製造方法でも、セラミックスと樹脂との複合材料の加工の容易性向上と、破壊靱性の向上の両立を図る事は出来なかった。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、加工の容易性向上を図りながら、破壊靱性の向上の両立を図る事が可能なセラミックス複合体とその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、以下の本発明により解決される。即ち本発明の歯科用セラミックス複合体は、理論密度が得られる焼結温度から、-700℃以上且つ-100℃以下で焼結してなり複数の隙間を有するセラミックス焼結体に、ポリビニールアルコール又はポリメタクリル酸メチル樹脂からなる樹脂が浸透され、前記樹脂が浸透されていない隙間が形成されており、前記樹脂が浸透された状態での相対密度が45%以上且つ60%以下であり、最も薄い部分の厚みが0.04mm以上且つ0.06mm以下であり、破壊靱性が0.11MPam 1/2 超且つ0.21MPam 1/2 未満である事を特徴とする。
【0011】
また本発明の歯科用セラミックス複合体の製造方法は、少なくとも、理論密度が得られる焼結温度から、-700℃以上且つ-100℃以下で焼結したセラミックス焼結体と液状樹脂を用意し、前記液状樹脂としてポリビニールアルコール又はポリメタクリル酸メチル樹脂からなる液状樹脂を用い、液状樹脂にセラミックス焼結体を浸漬し、真空雰囲気下でセラミックス焼結体内部の隙間に液状樹脂を浸透させ、次に、CIP処理により真空パック内にセラミックス焼結体と液状樹脂を入れて加圧することでセラミックス焼結体に液状樹脂を浸透させ、浸透した液状樹脂を固化し、樹脂を浸透させて45%以上且つ60%以下の相対密度を有するセラミックス複合体を得る事を特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセラミックス複合体又はその製造方法に依れば、理論密度が得られる焼結温度から、-700℃以上且つ-100℃以下で焼結して隙間を形成したセラミックス焼結体に樹脂を浸透させて、40%以上且つ90%以下の相対密度であるセラミックス複合体を作製する事で、セラミックス複合体の破壊靱性の向上が可能となる。
【0013】
同時に、樹脂が浸透されていない隙間を意図的に残存させる事で、空孔を設けつつ過度な破壊靱性の向上を抑える事が出来る。従って、力学的な負荷が加わった時の破壊に対する抵抗が過大にならず、外力に対する加工の容易性が向上する。よって、セラミックス複合体の加工の容易性も向上させる事が可能となり、セラミックス複合体を極めて薄く精密に形成加工する事が出来る。
【0014】
なお所望の値まで破壊靱性を向上させる事は、所定の材料と体積で形成されたセラミックス焼結体に、樹脂を所定量浸透させれば実現出来る為、それ以上の量を浸透させる必要は無い。従って、樹脂が浸透されない隙間を意図的に残存させる事で、破壊靱性の向上と加工の容易性の向上の両立を図る事が可能となる。
【0015】
更に、樹脂としてポリビニールアルコール又はポリメタクリル酸メチル樹脂の何れかを浸透させると共に樹脂が浸透されない隙間を残存させる事で、相対密度が45%以上且つ60%以下に設定され、厚みが0.04mm以上且つ0.06mm以下と云う極めて薄く精密な形成加工が可能になると共に、0.11MPam1/2超且つ0.21MPam1/2未満の範囲まで破壊靱性を向上させる事が可能となるセラミックス複合体を実現する事が出来る。
【0016】
更に樹脂を浸透させるセラミックス材料を、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ハイドロキシアパタイト、β-リン酸三カルシウムの何れかとする事で、歯科用途に最適な破壊靱性と加工の容易性を兼ね備えるセラミックス複合体を実現する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態及び実施例に係るセラミックス複合体で作製した、試験片の斜視図である。
図2】(a)図1の試験片の平面図である。(b)図2(a)の試験片のB-B側断面図である。
図3図2(b)の円C内の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施の形態の第一の特徴は、セラミックス複合体が、セラミックス焼結体に樹脂が浸透されて40%以上且つ90%以下の相対密度であると云う事である。
【0019】
また第二の特徴は、セラミックス複合体の製造方法が、少なくとも、理論密度が得られる焼結温度から、-700℃以上且つ-100℃以下で焼結したセラミックス焼結体と液状樹脂を用意し、液状樹脂にセラミックス焼結体を浸漬し、セラミックス焼結体に液状樹脂を浸透させ、浸透した液状樹脂を固化し、樹脂を浸透させて40%以上且つ90%以下の相対密度を有するセラミックス複合体を得ると云う事である。
【0020】
また第三の特徴は、セラミックス複合体に、樹脂が浸透していない隙間を形成する事である。
【0021】
これらのセラミックス複合体及びセラミックス複合体の製造方法に依れば、セラミックス複合体の破壊靱性の向上が可能となる。同時に、樹脂が浸透されていない隙間を意図的に残存させる事で、空孔を設けつつ過度な破壊靱性の向上を抑える事が出来る。従って、力学的な負荷が加わった時の破壊に対する抵抗が過大にならず、外力に対する加工の容易性が向上する。よって、セラミックス複合体の加工の容易性も向上させる事が可能となり、セラミックス複合体を極めて薄く精密に形成加工する事が出来る。
【0022】
なお所望の値まで破壊靱性を向上させる事は、所定の材料と体積で形成されたセラミックス焼結体に、樹脂を所定量浸透させれば実現出来る為、それ以上の量を浸透させる必要は無い。従って、樹脂が浸透されない隙間を意図的に残存させる事で、破壊靱性の向上と加工の容易性の向上の両立を図る事が可能となる。
【0023】
なお本発明に於いて相対密度とは、所望のセラミック原料で作製されたセラミックス焼結体が呈する理論密度に対する相対的な密度である。
【0024】
また本発明に於いて焼結とは、セラミック原料から固結体(セラミックスから成る固結体)を作製する工程を指すものであり、慣用的に用いられる焼成や仮焼成または仮焼結も含むものとする。更にセラミックス焼結体とは、本発明に於ける焼結によって作製されるセラミックスから成る固結体であり、セラミックス焼成体やセラミックス仮焼成体またはセラミックス仮焼結体も含むものとする。
【0025】
なお本発明に於いて理論密度が得られる焼結温度とは、所望のセラミック原料で作製されたセラミックス焼結体が理論密度を得られる際の焼結温度を指す。具体的には理論密度として、シリカ2.20g/cm、アルミナ3.99g/cm、ジルコニア6.07g/cm、ハイドロキシアパタイト3.16g/cm、β-TCP3.07g/cmの各理論密度が得られるセラミックス焼結体が形成された際の焼結温度を指す。
【0026】
第四の特徴は、セラミックス複合体の相対密度が45%以上且つ60%以下であると云う事である。
【0027】
第五の特徴は、セラミックス複合体の最も薄い部分の厚みが0.04mm以上且つ0.06mm以下であると云う事である。
【0028】
第六の特徴は、セラミックス複合体の破壊靱性が0.11MPam1/2超且つ0.21MPam1/2未満であると云う事である。
【0029】
第七の特徴は、浸透させる樹脂を、ポリビニールアルコール又はポリメタクリル酸メチル樹脂の何れかとする事である。ポリビニールアルコール又はポリメタクリル酸メチル樹脂の何れかを、理論密度が得られる焼結温度から、-700℃以上且つ-100℃以下で焼結したセラミックス焼結体に浸透させると共に樹脂が浸透されない隙間を残存させる事で、相対密度が45%以上且つ60%以下に設定され、0.04mm以上且つ0.06mm以下と云う極めて薄く精密な形成加工が可能になると共に、0.11MPam1/2超且つ0.21MPam1/2未満の範囲まで破壊靱性を向上させる事が可能となるセラミックス複合体を実現する事が出来る。
【0030】
第八の特徴は、セラミックス焼結体を形成するセラミックス材料を、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ハイドロキシアパタイト、β-リン酸三カルシウムの何れかとする事である。従って、歯科用途に最適な破壊靱性と加工の容易性を兼ね備えるセラミックス複合体を実現する事が可能となる。
【0031】
以下、図1から図3を適宜参照して、本発明の実施形態に係るセラミックス複合体とその製造方法を説明する。本実施形態のセラミックス複合体は、所望のセラミック原料で作製されたセラミックス焼結体に樹脂が浸透され、40%以上且つ90%以下の相対密度を有するセラミックス複合体である。
【0032】
40%以上且つ90%以下の相対密度を有する為、10%未満又は40%未満の相対密度として複数の隙間が、本実施形態のセラミックス複合体には形成されている。
【0033】
樹脂をセラミックス焼結体に浸透させる為、予め複数の隙間を有する多孔体としてセラミックス焼結体を用意する。次に樹脂がそのセラミックス焼結体に浸透する際、破壊靱性を向上させる観点だけならば、セラミックス焼結体に形成されている隙間を全て埋める様に、出来るだけ多くの樹脂を浸透させる事が望ましい。しかし本実施形態のセラミックス複合体では樹脂がセラミックス焼結体に浸透後、40%以上且つ90%以下の相対密度を示す事で、樹脂が浸透されていない隙間を敢えて形成している事を特徴とする。
【0034】
樹脂をセラミックス焼結体に浸透させる事で、隙間に樹脂が浸透して充填されて破壊靱性の向上が可能となる。同時に、樹脂が浸透されていない隙間を意図的に残存させる事で、空孔を設けつつ過度な破壊靱性の向上を抑える事が出来る。従って、力学的な負荷が加わった時の破壊に対する抵抗が過大にならず、外力に対する加工の容易性が向上する。よって、所望の値の破壊靱性を実現しながら、セラミックス複合体の加工の容易性も向上させる事が可能となり、セラミックス複合体を極めて薄く精密に形成加工する事が出来る。
【0035】
なお所望の値まで破壊靱性を向上させる事は、所定の材料と体積で形成されたセラミックス焼結体に、樹脂を所定量浸透させれば実現出来る為、それ以上の量を浸透させる必要は無い。従って、樹脂が浸透されない隙間を意図的に残存させる事で、破壊靱性の向上と加工の容易性の向上の両立を図る事が可能となる。
【0036】
セラミックス複合体の相対密度が40%未満では隙間が過大になり、歯科用途のセラミックス複合体として必要な破壊靱性値を確保出来ない。一方、相対密度が90%を超えると隙間が過少となり、外力に対する加工の容易性が低下してしまう。
【0037】
特にセラミックス複合体を歯科用途に用いる場合、高精度な成形の点から、破壊靱性は高いほど良いと見なしてセラミックス複合体を製造する可能性が有る。しかし、高精度な成形が得られる破壊靱性値を実現しながら隙間を設けられる事を、本出願人は実験検証の上、見出した。樹脂が浸透していない隙間をセラミックス複合体に残すと、破壊靱性が低下すると思われたが、実験検証の結果、樹脂を浸透させていないセラミックス焼結体に比べて破壊靱性の向上と加工の容易性の向上を同時に達成出来る事が判明した。
【0038】
更に相対密度が45%以上且つ60%以下と設定する事が、歯科用途のセラミックス複合体として破壊靱性の向上と加工の容易性の向上の高度な両立の点から、より好ましい。
【0039】
前記歯科用途のセラミックス複合体として、より高度な両立の点から具体的な数値としては、最も薄い部分の厚みとして0.04mm以上且つ0.06mm以下の範囲までの加工の容易性の確保と、破壊靱性として0.11MPam1/2超且つ0.21MPam1/2未満の範囲の確保が好ましい事を、本出願人は用途調査と検証により見出した。
【0040】
0.11MPam1/2超且つ0.21MPam1/2未満の範囲の破壊靱性の確保が出来たとしても、厚み0.04mm未満の形成加工は不可能であった。一方、厚みが0.06mmを超えると、厚みが増大して微細な形成加工が困難となる。
【0041】
破壊靱性が0.11MPam1/2以下では、歯科用途のセラミックス複合体として高精度な形成が不可能となる。一方0.21MPam1/2以上では、破壊靱性の向上と云う観点だけなら好ましいものの、力学的な負荷が加わった時の破壊に対する抵抗が大きくなる為、外力に対する加工の容易性が低下する。
【0042】
以上の破壊靱性と加工の容易性を確保する為に、本実施形態では浸透させる樹脂を、ポリビニールアルコール(PVA:Polyvinyl Alcohol)又はポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA:Polymethyl Methacrylate)の何れかとする。PVA又はPMMAの何れかを、セラミックス焼結体に浸透させると共に樹脂が浸透されない隙間を残存させる事で、0.04mm以上且つ0.06mm以下と云う極めて薄く精密な形成加工が可能になると共に、0.11MPam1/2超且つ0.21MPam1/2未満の範囲まで破壊靱性が向上した、セラミックス複合体を実現する事が出来る。
【0043】
なおセラミックス焼結体を形成するセラミックス材料は、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ハイドロキシアパタイト、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)の何れかとする。従って、歯科用途に最適な破壊靱性と加工の容易性を兼ね備えるセラミックス複合体を実現する事が可能となる。
【0044】
以上の本実施形態に係るセラミックス複合体の製造方法を、以下に説明する。まず所望のセラミック原料を用意する。使用するセラミック原料としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ハイドロキシアパタイト、β-TCPの何れかとする。このセラミック原料は粉末等で用意すれば良い。
【0045】
そのセラミック原料を成形し、成形したセラミック原料を、理論密度が得られる焼結温度から、-700℃以上且つ-100℃以下で焼結して、複数の隙間を有する多孔体から成るセラミックス焼結体を用意する。
【0046】
なお理論密度が得られる焼結温度とは、所望のセラミック原料で作製されたセラミックス焼結体が理論密度を得られる際の焼結温度を指す。具体的には理論密度として、シリカ2.20g/cm、アルミナ3.99g/cm、ジルコニア6.07g/cm、ハイドロキシアパタイト3.16g/cm、β-TCP3.07g/cmの各理論密度が得られるセラミックス焼結体が形成された際の焼結温度を指す。この焼結温度から、-700℃以上且つ-100℃以下で焼結する。
【0047】
理論密度が得られる各セラミックス焼結体の焼結温度の一例は、次の通りである。シリカ1400℃、アルミナ1550℃、ジルコニア1450℃、ハイドロキシアパタイト1300℃、β-TCP1300℃。
【0048】
樹脂を浸透する前に用意するセラミックス焼結体(多孔体)の焼結温度は、セラミック原料の種類や粒度に依るが、焼結が進んでも多孔体の気孔が塞がらない温度以下が望ましく、具体的な数値範囲としては850℃以上且つ1050℃以下で焼結する事が望ましい。焼結する雰囲気は、空気中でも良いし、窒素やアルゴン等の希ガスと云った非酸化雰囲気でも良い。
【0049】
多孔体の作製方法としては、前記の様にセラミック原料の粉末を成形して焼結するか、セラミック原料の粉末に無機質バインダを添加して成形し焼結しても良い。
【0050】
更に液状樹脂を用意する。セラミックス焼結体に浸透させる樹脂の種類は適宜選択すれば良いが、歯科用途としては前述の様にPVA又はPMMAが好ましい。その樹脂を水や有機溶媒で撹拌して混合又は溶解し、液状樹脂を用意する。液状樹脂は水に溶解又は分散した樹脂、有機溶媒に溶解した樹脂、溶解しなくても樹脂が液状である樹脂等、殆どの液状樹脂が使用出来る。しかし、固化時の体積収縮が小さいものが望ましい。なお揮発分が多い液状樹脂は、多孔体の隙間に浸透した樹脂が大きく収縮してしまい、空孔が残る可能性がある。
【0051】
次に、先程焼結したセラミックス焼結体を真空装置内に入れて真空引きする事で真空雰囲気下に置き、セラミックス焼結体に液状樹脂を所定量滴下するなどして、液状樹脂にセラミックス焼結体を浸漬する。セラミックス焼結体全体が液状樹脂に浸漬した時点で更に脱気を行い、真空雰囲気下でセラミックス焼結体内部の隙間に樹脂を浸透させる。真空度はロータリーポンプでの真空度とする。
【0052】
次に、適宜必要に応じて、セラミックス焼結体と液状樹脂に加圧処理を施し、更に浸透を行う。加圧処理は所望の方法を用いる事が可能であり、例えばCIP(冷間等方圧加圧法)処理により、真空パック内にセラミックス焼結体と液状樹脂を入れて加圧する事でセラミックス焼結体に液状樹脂を浸透させる。加圧圧力は数気圧で十分であり、それ以上の圧力でも構わない。
【0053】
セラミックス焼結体に液状樹脂を浸透後、セラミックス焼結体を取り出して液を切り表面の余分な樹脂を布などで拭き取るか、軽く水で洗浄して除去する。それを加熱して乾燥させ、水分を除去すると共に、隙間に浸透した樹脂を固化させて、本実施形態に係るセラミックス複合体を形成する。加熱時間は約10分から240分間保持すれば十分であり、長い分には構わない。
【0054】
以上、本発明に係るセラミックス複合体では、歯科用途のセラミックス複合体として過不足の無い破壊靱性値の数値範囲を導出(特に上限値を導出)する事で、初めて隙間を残存させる事が可能となり、加工の容易性の向上も実現する事が出来た。従って、二律背反する破壊靱性と加工の容易性の向上を、歯科用途のセラミックス複合体として満足できる数値範囲(破壊靱性値0.11MPam1/2超且つ0.21MPam1/2未満、最も薄い部分の厚み0.04mm以上且つ0.06mm以下)で以て、両立する事が出来た。
【0055】
そのセラミックス複合体をCAD/CAM装置で加工し、例えば図1から図3に示す様な試験片1を作製すれば良い。図1から図3に示す試験片1は、中央部1aと周縁部1bとから成る、平面が円形の物体である。中央部1aと周縁部1bの厚みを比較すると、図2(b)に示すように試験片1の厚み方向tに於いて中央部1aの厚みの方が薄く形成されており、更に中央部1aに於いても、図3に示すように中央箇所が最も薄く形成されて最薄部Aが形成されている。本実施形態のセラミックス複合体では、この最薄部Aを0.04mm以上且つ0.06mm以下まで薄く形成する事が可能となる。
【0056】
なお、別途楔状の試験片も作製し、楔先端のチッピング量(mm)も測定したところ、樹脂を浸透させていない同形状の試験片に比べて、チッピング量が削減された事を確認した。
【実施例
【0057】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0058】
本実施例では、セラミック原料としてジルコニア(ZrO)粉末(粒度0.06μm)を用意した。次にそのセラミック原料を成形し、理論密度が得られる焼結温度から-450℃(1000℃)で焼結して、複数の隙間を有する多孔体から成るセラミックス焼結体を用意した。
【0059】
セラミックス焼結体に浸透させる樹脂として、PVA及びPMMAを用意した。各樹脂をそれぞれ水で撹拌して溶解し、液状樹脂を用意した。
【0060】
次に、先程焼結したセラミックス焼結体を真空装置内に入れて真空引きして真空雰囲気下に置き、セラミックス焼結体に液状樹脂を所定量(表1中の「樹脂量(vol%)」を参照)滴下して、液状樹脂にセラミックス焼結体を浸漬した。セラミックス焼結体全体が液状樹脂に浸漬した時点で脱気を行い、真空雰囲気下でセラミックス焼結体内部の隙間に樹脂を浸透させた。
【0061】
次に、セラミックス焼結体と液状樹脂に加圧処理としてCIP処理を施し、更に浸透を行った。具体的には、真空パック内にセラミックス焼結体と液状樹脂を入れ、真空パックごと水中に沈め、水中によりCIP処理で以て真空パックに等方圧を加えた。
【0062】
セラミックス焼結体に液状樹脂を浸透後、セラミックス焼結体を取り出して表面の余分な樹脂を水で洗浄して除去し、その後70℃で加熱して乾燥させ、水分を除去すると共に、隙間に浸透した樹脂を固化させてセラミックス複合体を形成した。
【0063】
そのセラミックス複合体をCAD/CAM装置で加工し、樹脂の種類並びに浸透させた樹脂量(vol%)に応じて、図1から図3に示す試験片1を5種類作製した。何れも相対密度は53.7%であった。その試験片1の最薄部A(mm)に於ける形成可否と、形成可能だった場合の最薄部A(mm)の厚み、並びに試験片1毎の破壊靱性(MPam1/2)を測定した。その結果を表1に示す。表1中の樹脂PVA又はPMMAと記載された試料が実施例である。なお破壊靱性の測定方法は、JIS T6526:2012を適用した。
【0064】
【表1】
【0065】
各試験片を測定、観察した結果、破壊靱性としてはPVA及びPMMAで何れも、浸透量4.0から19.8(vol%)に亘って0.11MPam1/2超且つ0.21MPam1/2未満の測定値が得られた。
【0066】
更に、0.06(mm)の最薄部Aが、PVA及びPMMAで以て浸透量8.9から15.7(vol%)に亘って形成可能である事が観察された(表1中、「○」が各浸透量での各樹脂に於ける全ての試料に亘って形成可能である事を示し、「×」が同様に全ての試料に亘って形成不可の観察結果を示す)。
【0067】
更に、0.04(mm)の最薄部Aが、PVAを浸透量8.9(vol%)で浸透させたセラミックス複合体で形成可能である事が観察された(表1中、「△」は一部の試料で形成可能である事を示す)。
【比較例】
【0068】
次に比較例を示す。比較例が前記実施例と異なる点は、樹脂を浸透させずに多孔体から成るセラミックス焼結体を用意し、同一形状の試験片1を作製した事である。具体的には、実施例と同様、ZrO粉末を成形し、1000℃で焼結して多孔体から成るセラミックス焼結体を用意し、そのセラミックス焼結体をCAD/CAM装置で加工して、図1から図3に示す試験片1を作製した。
【0069】
その試験片1の最薄部A(mm)に於ける形成可否と、形成可能だった場合の最薄部A(mm)の厚み、並びに試験片1の破壊靱性(MPam1/2)を測定した。その結果を表1に示す。
【0070】
試験片を測定した結果、破壊靱性値として0.11MPam1/2以下が測定され、樹脂を添加しなければ0.11MPam1/2超の破壊靱性の達成は不可能である事が確認された。
【0071】
更に0.07(mm)と0.08(mm)の最薄部Aは形成可能だったものの、0.04(mm)と0.06(mm)は形成不可である事が確認された。表1中、「○」が全ての試料に亘って形成可能である事を示し、「×」が全ての試料に亘って形成不可の観察結果を示す。
【符号の説明】
【0072】
1 試験片
1a 中央部
1b 周縁部
A 中央部の最薄部

図1
図2
図3