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▶ 有限会社藤原ホイルの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】自転車
(51)【国際特許分類】
   B62K 5/08 20060101AFI20220318BHJP
   B62K 21/20 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
B62K5/08
B62K21/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021065302
(22)【出願日】2021-04-07
【審査請求日】2021-05-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304003837
【氏名又は名称】有限会社藤原ホイル
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】藤原 久男
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108082362(CN,A)
【文献】特開2018-001785(JP,A)
【文献】特開2008-132933(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03670299(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 5/00- 5/10
B62K 21/00-21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪(F)に車体の幅方向に並列する2つの車輪(W,W)を備えた自転車において、
フレーム(1)と、前記フレーム(1)に設けられるセンターポスト(4)と、車体の幅方向に並列する前記2つの車輪(W,W)を転動自在に支持する対の車輪支持部材(60,60)と、前記対の車輪支持部材(60,60)と前記センターポスト(4)との間に設けられ車体幅方向へのスイング機能を発揮する第一のリンク機構(10)と、対の車輪支持部材(60,60)と前記センターポスト(4)との間に配置され前記車輪(W,W)から前記フレーム(1)への衝撃を緩和する弾性部材(31)を備えたサスペンション機構(30)と、を備え、
前記第一のリンク機構(10)は、上部リンクバー(11)と、前記上部リンクバー(11)よりも下方に設けられる下部リンクバー(12)と、前記上部リンクバー(11)の中央部及び前記下部リンクバー(12)の中央部をそれぞれ前記センターポスト(4)に揺動自在に連結する揺動連結部(15,16)と、前記上部リンクバー(11)と前記下部リンクバー(12)との車体幅方向への相対移動をロックすることで前記スイング機能を停止するロック機構(20)と、を備え、
前記対の車輪支持部材(60,60)をそれぞれ支持する対のサイドポスト(50,50)を備え、前記上部リンクバー(11)及び前記下部リンクバー(12)の両端は、それぞれ前記対のサイドポスト(50,50)よりも前方に位置して前記対のサイドポスト(50,50)間にピン結合され、
前記弾性部材(31)は、前記対のサイドポスト(50,50)の前方で上下方向に配置されてその下端が前記下部リンクバー(12)の両端に当接している自転車。
【請求項2】
前記センターポスト(4)は、操舵用ハンドル(2)を支持するハンドル軸(3)を軸回り回転自在に支持するハンドルポストであり、前記対のサイドポスト(50,50)と前記ハンドル軸(3)との間に操舵機能を発揮する第二のリンク機構(40)を備える請求項1に記載の自転車。
【請求項3】
前記上部リンクバー(11)と前記下部リンクバー(12)との間に配置され前記センターポスト(4)に揺動自在に連結される受け部材(13)を備え、
前記弾性部材(31)は、前記下部リンクバー(12)と前記受け部材(13)との間に配置されるコイルバネであり、
前記ロック機構(20)は、前記センターポスト(4)と前記受け部材(13)との間に設けられる請求項1又は2に記載の自転車。
【請求項4】
前記センターポスト(4)に着脱自在の中央部材(14)を備え、
前記上部リンクバー(11)の中央部及び前記下部リンクバー(12)の中央部は、前記揺動連結部(15,16)によって前記中央部材(14)に揺動自在に連結される請求項1から3のいずれか一つに記載の自転車。
【請求項5】
前記上部リンクバー(11)は、前記センターポスト(4)を挟んで車体幅方向一方側に配置される第一上部リンクバー(11a)と、他方側に配置される第二上部リンクバー(11b)とで構成されている請求項1から4のいずれか一つに記載の自転車。
【請求項6】
前記弾性部材(31)は、前記下部リンクバー(12)の両端にそれぞれ設けられ、前記受け部材(13)は、前記下部リンクバー(12)に沿って前記対のサイドポスト(50,50)間に連続して設けられる1つの部材である請求項3に記載の自転車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、前輪又は後輪あるいはその両方に、車体幅方向に並列する2つの車輪を備えた自転車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前輪に車体幅方向に並列する2つの車輪を備えた前二輪自転車、あるいは、後輪に車体幅方向に並列する2つの車輪を備えた後二輪自転車等がある。
【0003】
例えば、特許文献1の前二輪自転車は、操向ハンドル28に連なる操向軸27がハンドルポスト21に回動自在に支承されている。ハンドルポスト21には、リンク機構45を介して左右のサイドポスト29L,29Rが連結されている。左右のサイドポスト29L,29Rの下端には、左右の前輪WFL,WFRをそれぞれ回転自在に支持する左右のフロントフォーク30L,30Rが接続されている(符号は該当する特許文献のものを記載。以下同じ。)。
【0004】
リンク機構45は4節リンク機構からなり、左右のフロントフォーク30L,30Rに連結され、左右のサイドポスト29L,29Rに両端がピン結合される上部リンク35Uと、上部リンク35Uよりも下方に配置されて左右のサイドポスト29L,29Rに両端がピン結合される下部リンク35Dを備えている。上部リンク35Uの中央部と、下部リンク35Dの中央部は、ハンドルポスト21に回動自在に連結されている。また、左右のサイドポスト29L,29Rは、上方に向かうにつれて両サイドポスト29L,29Rの間隔が小さくなるように傾斜して配置されている。
【0005】
また、特許文献2の前二輪自転車は、フレームポスト2に操向回転自在に支持されているハンドル軸7と、左右の前輪9L,9Rをそれぞれ回転自在に支持する左右のホークバー11L,11Rと、左右のホークバー11L,11Rを連結して4節リンク機構(平行リンク)を形成する上下のリンクバー12U,12Dと、ハンドル軸7を上下のリンクバー12U,12Dの各中央部に揺動自在に連結する連結部19,22と、平行リンクとハンドル軸7間に設けられた左右の前輪9L,9R軸間の高さ位置の変化を防止する方向に復元力を与えるばね手段13L,13Rとを含んで構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-337779号公報(請求項1、図2及び図9等参照)
【文献】特開2010-042710号公報(請求項1、図1及び図2等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1,2に記載の自転車では、左右の車輪を支持するフォーク部材又はそのフォーク部材を支持するサイドポストと、操舵用のハンドルを支持するハンドルポストとの間に4節リンク機構を備えたことにより、車体を車輪とともに車体の幅方向(左右方向)へスイングさせることが可能である。さらに、特許文献2の自転車は、車体の幅方向へのスイング機能に加えて、路面から車体に作用する衝撃を緩和するサスペンション機能を備えている。
【0008】
しかし、上記のようなスイング機能を備えた自転車では、交差点やカーブを通過する時に車体を傾斜させることでスムーズな走行が可能である。しかし、スイング機能を備えた自転車では、例えば、運転者が片足を地面について停車しているような状態で、運転者がバランスを崩すと車体が大きく傾斜して転倒する恐れがある。
【0009】
そこで、この発明の課題は、前輪又は後輪あるいはその両方に、車体幅方向に並列する2つの車輪を備え、車体の幅方向へのスイング機能を備えた自転車において、停車時における転倒を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明は、前輪又は後輪あるいはその両方に車体の幅方向に並列する2つの車輪を備えた自転車において、フレームと、前記フレームに設けられるセンターポストと、車体の幅方向に並列する前記2つの車輪を転動自在に支持する対の車輪支持部材と、前記対の車輪支持部材と前記センターポストとの間に設けられ車体幅方向へのスイング機能を発揮する第一のリンク機構と、対の車輪支持部材と前記センターポストとの間に配置され前記車輪から前記フレームへの衝撃を緩和する弾性部材を備えたサスペンション機構とを備え、前記第一のリンク機構は、上部リンクバーと、前記上部リンクバーよりも下方に設けられる下部リンクバーと、前記上部リンクバーの中央部及び前記下部リンクバーの中央部をそれぞれ前記センターポストに揺動自在に連結する揺動連結部と、前記上部リンクバーと前記下部リンクバーとの車体幅方向への相対移動をロックすることで前記スイング機能を停止するロック機構とを備える自転車を採用した。
【0011】
ここで、前記対の車輪支持部材をそれぞれ支持する対のサイドポストを備え、前記上部リンクバー及び前記下部リンクバーの両端は、それぞれ前記対のサイドポスト間にピン結合されている構成を採用することができる。
【0012】
また、前記センターポストは、操舵用ハンドルを支持するハンドル軸を軸回り回転自在に支持するハンドルポストであり、前記対のサイドポストと前記ハンドル軸との間に操舵機能を発揮する第二のリンク機構を備える構成を採用することができる。
【0013】
前記上部リンクバーと前記下部リンクバーとの間に配置され前記センターポストに揺動自在に連結される受け部材を備え、前記弾性部材は、前記下部リンクバーと前記受け部材との間に配置されるコイルバネであり、前記ロック機構は、前記センターポストと前記受け部材との間に設けられる構成を採用することができる。
【0014】
これらの各態様において、前記センターポストに着脱自在の中央部材を備え、前記上部リンクバーの中央部及び前記下部リンクバーの中央部は、前記揺動連結部によって前記中央部材に揺動自在に連結される構成を採用することができる。
【0015】
また、前記上部リンクバーは、前記センターポストを挟んで車体幅方向一方側に配置される第一上部リンクバーと、他方側に配置される第二上部リンクバーとで構成することができる。
【0016】
前記弾性部材は、前記下部リンクバーの両端にそれぞれ設けられ、前記受け部材は、前記下部リンクバーに沿って前記対のサイドポスト間に連続して設けられる1つの部材である構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0017】
前輪又は後輪あるいはその両方に、車体の幅方向に並列する2つの車輪を備え、車体の幅方向へのスイング機能を備えた自転車において、停車時における転倒を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明の第一の実施形態を示す要部拡大斜視図
図2図1の正面図
図3図2の右側面図
図4図1の平面図
図5図4の状態から操舵用ハンドルを進行方向左側にきった状態を示す平面図
図6】左右の車輪が載る路面間に高低差がある場合の状態を示す正面図
図7】ロック機構のロック状態を示す断面図
図8】ロック機構のロック解除状態を示す断面図
図9】変形例のロック機構のロック状態を示す底面図
図10】変形例のロック機構のロック状態を示す側面図
図11】変形例のロック機構のロック状態を示す正面図
図12】ロック機構の操作部を示す分解斜視図
図13】ロック機構の操作部を示す断面図
図14】ロック機構の操作部を示す断面図
図15】第一のリンク機構の変形例を示す正面図
図16】自転車のフレームへの車輪支持ユニットの着脱方法を示す断面図
図17】自転車のフレームへの車輪支持ユニットの着脱方法を示す断面図
図18】自転車のフレームへの車輪支持ユニットの着脱方法を示す側面図
図19】自転車のフレームへの車輪支持ユニットの着脱方法を示す平面図
図20】自転車の全体図
図21】この発明の第二の実施形態を示す要部拡大平面図
図22図21の正面図
図23図22の右側面図
図24】この発明の第三の実施形態を示す要部拡大平面図
図25図24の正面図
図26図25の右側面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。図1図21は第一の実施形態とその変形例を、図22図23は第二の実施形態を、図24図26は第三の実施形態を示している。第一の実施形態では前輪Fに車体の幅方向に並列する2つの車輪W,Wを備えた前二輪自転車を例にこの発明を説明し、第二、第三の実施形態では後輪Rに車体の幅方向に並列する2つの車輪W,Wを備えた後二輪自転車を例にこの発明を説明している。
【0020】
自転車80の基本構成は、図20に示すように、車体の前後方向に延びるフレーム1と、フレーム1の前端に車輪支持ユニット70を介して取り付けられる車輪W(前輪F)と、フレーム1に前後方向中ほどにシートポストを介して昇降自在に取り付けられるサドル5と、フレーム1の後端に取り付けられる車輪W(後輪R)等を備えている。
【0021】
フレーム1の前端には、上下方向に伸びる円筒状のセンターポスト4が設けられている。センターポスト4は、ペダルを備えたクランク軸を回転自在に支持するボトムブラケット部から、前方へ向かって上方へ傾斜するように設けられたメインフレームの前端に突出して設けられている。センターポスト4には断面円形のハンドル軸3が挿通され、そのハンドル軸3はベアリングを介して軸回り回転自在に支持されている。ハンドル軸3の上端3aには、クランプ部材によって操舵用ハンドル2が接続されている。操舵用ハンドル2の両端のグリップ部2aを運転者が掴んで操作する。また、操舵用ハンドル2の両端には前輪F及び後輪Rに付与する制動力を調整するブレーキレバーが設けられている。以下、この第一の実施形態では、センターポスト4をハンドルポスト4と称する。
【0022】
一般的な自転車80では、ハンドル軸3は、ハンドルポスト4から下方へ突出してその下部に車輪Wを転動自在に支持するフォーク部材60が取り付けられている。一般的なフォーク部材60はハンドル軸3側が1本の軸で構成され、車輪W側は二股に分かれてその先端で車輪Wのハブ軸の両端を支持する構造となっている。これに対して、この発明では、フレーム1に車輪支持ユニット70を介して車輪Wを取り付けるために、ハンドル軸3はハンドルポスト4の下端付近までの短い部材で構成されている。
【0023】
第一の実施形態の車輪支持ユニット70は、図1図3に示すように、ハンドルポスト4に嵌め込み固定される中央部材14を備えている。この実施形態では、中央部材14はハンドルポスト4とは別体の部材とし、中央部材14をハンドルポスト4に対して着脱自在としているが、着脱自在としない場合には、中央部材14とハンドルポスト4とを溶接等で一体化した部材で構成してもよいし、あるいは、ハンドルポスト4自身を中央部材14としてもよい。
【0024】
また、車輪支持ユニット70は、車体幅方向に並列する2つの車輪W,Wを転動自在に支持する対の車輪支持部材60,60と、対の車輪支持部材60,60と中央部材14との間、すなわち、対の車輪支持部材60,60とハンドルポスト4との間に設けられ車体幅方向へのスイング機能を発揮する第一のリンク機構(スイング機構)10と、対の車輪支持部材60,60とハンドルポスト4との間に配置され車輪W,Wからフレーム1への衝撃を緩和する弾性部材31を備えたサスペンション機構30とを備えている。この実施形態では、対の車輪支持部材60,60として、それぞれフォーク部材を採用している。フォーク部材は、前述の一般的なものと同様に、上方側が1本の軸で構成され、車輪W側は二股に分かれてその先端で車輪Wのハブ軸の両端を支持する構造となっている。
【0025】
対の車輪支持部材60,60の上端は、それぞれ筒状を成す対のサイドポスト50,50内に挿通されてその対のサイドポスト50,50に支持されている。左側の車輪支持部材60は、左側のサイドポスト50に軸回り回転自在に支持され、右側の車輪支持部材60は、右側のサイドポスト50に軸回り回転自在に支持されている。左右の車輪Wの回転中心面、タイヤを保持するリム部の幅方向中心線を含む面は、左右それぞれのサイドポスト50の軸線を含む位置、又は、そのサイドポスト50の軸線と平行な位置に配置されている。なお、左右のサイドポスト50,50の軸線同士は、互いに平行であるか、あるいは、上方へ向かって徐々に近づくようにややキャンバーを付けた構成であってもよい。
【0026】
第一のリンク機構10は、上部リンクバー11と、上部リンクバー11よりも下方に設けられる下部リンクバー12と、上部リンクバー11の中央部及び下部リンクバー12の中央部をそれぞれ中央部材14に対して、すなわちハンドルポスト4に対して揺動自在に連結する揺動連結部15,16と、上部リンクバー11と下部リンクバー12との車体幅方向への相対移動をロックすることでスイング機能を停止するロック機構20とを備えている。
【0027】
この実施形態では、上部リンクバー11及び下部リンクバー12の両端は、それぞれ対のサイドポスト50,50間にピン結合されて、その接続部はピンの軸回りに揺動自在である。上部リンクバー11とサイドポスト50,50とは、それぞれピン17を介して接続されている。また、下部リンクバー12とサイドポスト50,50とは、それぞれピン18を介して接続されている。ピン17,18の軸線は車体の前後方向を向き、且つ、サイドポスト50,50の軸線に直交するように設定されている。また、上部リンクバー11の中央部及び下部リンクバー12の中央部をそれぞれ中央部材14に対して揺動自在に連結する揺動連結部15,16もピンで構成されており、その揺動連結部15,16のピンの軸方向は、ピン17,18に平行な配置となっている。
【0028】
対のサイドポスト50,50とハンドル軸3との間には、操舵機能を発揮する第二のリンク機構(操舵機構)40が備えられている。第二のリンク機構40は、図4及び図5に示すように、ハンドル軸3の下端3bに接続される横方向へ伸びる中央接続片46と、その中央接続片46の前端部41に設けられる上下方向の接続軸41aを備えている。ハンドル軸3と中央接続片46とは嵌め込み固定であり、図16及び図17に示すように、中央部材14をハンドルポスト4に固定するために使用する筒状の固定部材45によって、ハンドル軸3と中央接続片46とが外側から締め付けられるように固定されている。
【0029】
図2図5に示すように、対の車輪支持部材60の上端には、前方へ突出する接続片44が設けられ、その接続片44の前端に上下方向の支持軸44aが設けられている。運転者から見て右側の車輪支持部材60から伸びる接続片44の支持軸44aと、中央接続片46の接続軸41aとの間は、操舵用リンクバー42で接続されている。また、運転者から見て左側の車輪支持部材60から伸びる接続片44の支持軸44aと、中央接続片46の接続軸41aとの間は、同じく操舵用リンクバー43で接続されている。各操舵用リンクバー42,43の両端は、それぞれ支持軸44a、接続軸41aの軸回りに揺動自在である。運転者が図4に示す状態から図5に示す状態へと操舵用ハンドル2を旋回動作させると、第二のリンク機構40の機能によって、左右それぞれの車輪支持部材60がサイドポスト50の軸回りに回転して、車輪W,Wが同方向に回転する。直進方向に対する各車輪W,Wの操舵角は、操舵用ハンドル2の旋回量によって調整することができる。これにより、交差点やカーブを通過する際の旋回が可能である。図5の鎖線は左方向への旋回状態を示しているが、逆方向の右方向への旋回も可能である。
【0030】
サスペンション機構30は、上部リンクバー11と下部リンクバー12との間に配置され、中央部材14に揺動自在、すなわち、センターポスト4に揺動自在に連結される受け部材13を備えている。弾性部材31は、下部リンクバー12と受け部材13との間に配置されるコイルバネで構成されている。図1及び図2に示すように、弾性部材31の下端は下部リンクバー12の両端に当接した状態に保持され、弾性部材31の上端は受け部材13の両端に当接した状態に保持されている。図中の符号32aは、上方側のバネ受けを示し、符号32cは下方側のバネ受けを示している。符号32bに示す凹部は、上部リンクバー11との干渉を防ぐための逃げ部である。
【0031】
なお、この実施形態では、上部リンクバー11は、中央部材14を挟んで車体幅方向一方側(運転者から見て右側)に配置される第一上部リンクバー11aと、他方側(運転者から見て左側)に配置される第二上部リンクバー11bとに分割して構成されているが、これを、例えば図6の変形例に示すように、全長に亘って連続する一つの部材で構成してもよい。また、下部リンクバー12についても同様に、中央部材14を挟んで車体幅方向一方側に配置される第一下部リンクバー12aと、他方側に配置される第二下部リンクバー12bとに分割して構成されているが、これを、図6の変形例に示すように、全長に亘って連続する一つの部材で構成してもよい。受け部材13については、左右両側に弾性部材31を配置しているため、左右で部材を分割せずに全長に亘って連続する一つの部材で構成することが望ましい。
【0032】
ロック機構20は、図6に示すように、中央部材14と受け部材13との間に設けられている。図6は、左右の車輪W,Wが載る路面間に高低差がある場合の状態を示しており、左右の車輪W,Wの下端間を結ぶ路面方向に対して、ハンドル軸3の軸方向が傾斜した実質的なスイング状態を示している。ロック機構20は、受け部材13の中央部に下向きに突出して設けられたロック片22と、そのロック片22に設けられた係合孔22aと、中央部材14に設けられる進退自在の係合部材(係合ピン)21等を備えている。
【0033】
係合ピン21は、図7及び図8に示すように、中央部材14に設けられたケーシング26内に収容されている。また、係合ピン21にはワイヤ23が接続され、そのワイヤ23は、図12に示すように、操舵用ハンドル2のグリップ部2a近くに設けられる操作部25に導かれている。ワイヤ23の前端の抜け止め部(ボール)23aは、係合ピン21の収容凹部21a内にあって抜け止めされている。また、ケーシング26内には、係合ピン21をロック片22側へ突出する方向へ付勢するコイルバネからなる係合弾性部材24が収容されている。運転者が操作部25を操作してワイヤ23を引くことにより、係合ピン21は係合弾性部材24の付勢力に抗してケーシング26内に引き込まれる(図8参照)。運転者が操作部25を操作してワイヤ23の引っ張りを解除すれば、係合ピン21は係合弾性部材24の付勢力によってケーシング26外に突出する(図7参照)。
【0034】
ロック片22は、受け部材13の両端間を結ぶ左右方向に対して向きが変わらないように固定されている。この実施形態では、受け部材13の両端間を結ぶ左右方向に対して、ロック片22は下向き(実施形態では、左右方向に対して、ロック片22の固定部であるピン19の軸心と係合孔22aの中心とを結ぶ方向が下向きに直交する向き)に固定されている。このため、図2に示す通常の直進状態では、中央部材14の軸線方向(ハンドルポスト4の軸線方向)に対して、受け部材13の左右方向は直交しており、ロック片22の係合孔22aと、中央部材14側の係合ピン21の位置が一致している。このため、係合ピン21が突出して、ロック片22の係合孔22aに係合ピン21が入り込めば、スイング機能は停止して車体は傾斜しない。また、係合ピン21が後退して、ロック片22の係合孔22aから係合ピン21が離脱すれば、スイング機能が発揮できる状態となる。このため、運転者の荷重移動や実際の走行状態に応じて、中央部材14の軸線方向(ハンドルポスト4の軸線方向)に対する受け部材13の左右方向の成す角度が変化することで(直交以外の状態となることで)、車体の傾斜が可能である。図2は、ロック片22の係合孔22aに係合ピン21が入り込んだスイング禁止状態を示している。図6は、ロック片22の係合孔22aから係合ピン21が離脱したスイング可能状態を示している。
【0035】
図9図11は、ロック機構20の変形例を示している。この変形例では、中央部材14側の係合部材21として、進退自在の係合ピン21に代えて、軸回り揺動自在の係合片21を採用している。係合片21は、中央部材14に設けられたケーシング26内に収容され、そのケーシング26に支持された揺動軸21cの軸回りに揺動自在である。また、係合片21は、ねじりコイルバネからなる係合弾性部材24によって、ロック片22側へ突出する方向へ付勢されている。また、ワイヤ23の前端の抜け止め部(ボール)23aは、係合ピン21の収容凹部21a内にあって抜け止めされている。運転者が操作部25を操作してワイヤ23を引くことにより、係合片21は係合弾性部材24の付勢力に抗してケーシング26内に引き込まれ、係合孔22aから離脱する(図10の鎖線状態参照)。運転者が操作部25を操作してワイヤ23の引っ張りを解除すれば、係合ピン21は係合弾性部材24の付勢力によってケーシング26外に突出し、係合孔22aに入り込む(図10の破線状態参照)。スイング禁止状態とスイング可能状態に切り替えるロック機構20の構成は、実施形態に示すロック片22とそれに係合する係合部材21(係合ピン21や係合片21)の例に限定されず、その他の種々の形態を採用できる。
【0036】
図12図15は、ロック機構20の操作部25を示している。操作部25は、グリップ部2a付近で操舵用ハンドル2に挿通される、第一部材25a、第二部材25b、第三部材25cの3つの環状部材を備えている。第一部材25aは、運転者が回転操作するダイヤル部材である。第一部材25aは、第二部材25bの外周に嵌められて一体に周方向に沿って回転自在である。第二部材25bは、第三部材25cに対して軸方向に隣接して配置される。第三部材25cは、ボルト25jによって操舵用ハンドル2に締め付け固定される。
【0037】
第一部材25a及び第二部材25bは、第三部材25cに対して周方向に沿って相対回転自在である。ワイヤ23の後端の抜け止め部(ボール)23bは、第二部材25bの収容凹部25f内にあって抜け止めされている。また、ワイヤ23は、第二部材25bから第三部材25cを経由して、ロック機構20側へ引き出されている。第一部材25a及び第二部材25bを、第三部材25cに対して周方向一方側へ相対回転させれば(図では運転者がダイヤル部材を手前方向へ回せば)、ワイヤ23が引っ張られる(図14参照)。また、第一部材25a及び第二部材25bを、第三部材25cに対して周方向他方側へ相対回転させれば(図では運転者がダイヤル部材を前方方向へ回せば)、ワイヤ23の引っ張りが解除される(図13参照)。第二部材25bと第三部材25cとの相対回転は、第二部材25bに設けた突起25dが、第三部材25cに設けた周方向溝25e内を移動することでガイドされ、突起25dが周方向溝25eの端壁に当たることでその相対回転の範囲が規制されている。また、第二部材25bと第三部材25cとの間に、コイルバネからなる弾性体25gとボール25h、2つの球面状凹部25iからなるボールプランジャ機構を配置したことにより、第二部材25bと第三部材25cとの相対回転の位置決めが成されている。これにより、第二部材25bと第三部材25cとの相対方位が、スイング禁止状態やスイング可能状態に至った際に、ボール25hがいずれかの球面状凹部25iに入り込むことで、運転者は、カチッという音や部材の振動で把握することができる。
【0038】
図15は、ロック機構20から操作部25へのワイヤ23の引き回し状態の例を示している。なお、図15では、受け部材13の左右方向長さをやや短くして、弾性部材31の位置を、下部リンクバー12の両端よりもやや内側に変更している。このように、弾性部材31の位置は自由に設定できる。
【0039】
この実施形態のロック機構20は、中央部材14(ハンドルポスト4)と受け部材13との間に設けられている構成としたが、ロック機構20は、上部リンクバー11と下部リンクバー12との車体幅方向への相対移動をロックすることでスイング機能を停止するものであればよく、この実施形態以外の態様も採用可能である。例えば、ロック片22を、受け部材13の両端間を結ぶ左右方向に対して上向き(同上向きに直交する方向が望ましい)に固定してもよい。また、ロック機構20を、中央部材14(ハンドルポスト4)と上部リンクバー11との間、あるいは、中央部材14(ハンドルポスト4)と下部リンクバー12との間に設けてもよい。具体的には、ロック片22を上部リンクバー11の中央部に設けてもよいし、ロック片22を下部リンクバー12の中央部に設けてもよい。このとき、ロック片22を上部リンクバー11に設ける場合、その突出方向は、上部リンクバー11の両端間を結ぶ左右方向に対して、上向き(同上向きに直交する方向が望ましい)、あるいは下向き(同下向きに直交する方向が望ましい)とすることができる。また、ロック片22を下部リンクバー12に設ける場合、その突出方向は、下部リンクバー12の両端間を結ぶ左右方向に対して、上向き(同上向きに直交する方向が望ましい)、あるいは下向き(同下向きに直交する方向が望ましい)とすることができる。ただし、ロック片22が備える係合孔22aは、上部リンクバー11と下部リンクバー12の間に位置していることが望ましいことから、上部リンクバー11に設ける場合のロック片22は下向き突出、下部リンクバー12に設ける場合のロック片22は上向き突出が望ましい。
【0040】
また、この実施形態では、車輪支持ユニット70の中央部材14を、ハンドルポスト4に着脱自在としたことから、前一輪自転車を前二輪自転車に改造することができる。中央部材14は、図16~19に示すように、円筒状を成すハンドルポスト4に対して嵌め込み固定が可能である。図16及び図17に示すように、中央部材14は円筒状を成す部材の上部を一部切り欠いた形状となっている。中央部材14は、下部に全周に亘る円筒状部14dを、上部には、車体の前後方向に対して後方側に開口14cを備えたC字状断面部14eとなっている。中央部材14の円筒状部14dをハンドルポスト4の下端に対して下方から嵌め込み、次に、中央部材14を持ち上げながら、C字状断面部14eをハンドルポスト4に向かって押し付けるように嵌め込む。中央部材14の下端に接続された第二のリンク機構40の中央接続片46を、筒状のスリーブ45を介してハンドル軸3の下端3bに嵌め込む。そして、ハンドルポスト4に対して車体の前後方向に対して後方側から車輪支持ユニット70を宛がう。車輪支持ユニット70は、前後方向に伸びる貫通孔71aを備えた本体ブロック71と、ボルト72及びナット73を備えている。本体ブロック71の貫通孔71aに挿通されたボルト72を、中央部材14側の支持部14aのボルト穴14bに挿通し、ナット73を締め付けることによって、中央部材14がハンドルポスト4に固定される。また、車輪支持ユニット70には回転止め手段77が備えられている。回転止め手段77は、図17及び図19に示すように、本体ブロック71に設けられた2つのねじ孔74とそのねじ孔74にそれぞれねじ込まれるボルト75で構成されている。ボルト75をねじ孔74にねじ込み、本体ブロック71から下方に突出するボルト75の先端が、ハンドルポスト4のすぐ後方において、フレーム1のメインフレームを左右両側から挟み込むことで、中央部材14の回り止めを行っている。
【0041】
第二の実施形態を図21図23に基づいて説明する。この実施形態は、後二輪自転車において、この発明を適用したものである。以下、第一の実施形態との差異点を中心に説明すると、第二の実施形態の車輪支持ユニット70では、後輪につき操舵機能は求められない。このため、第一の実施形態のハンドルポスト4は、センターポスト4と読み替える。センターポスト4は、フレーム1の後端付近において、車体の幅方向中央に1箇所設けられている。また、操舵機能を発揮する第二のリンク機構40は省略されている。
【0042】
図22及び図23に示すように、対のサイドポスト50は、センターポスト4よりも後方に車体中心線を挟んで対称に配置されている。車輪支持部材60は、いわゆるフォーク部材ではなく、車輪Wのハブ軸Aを内側から(車体中心線側から)片持ちで保持するものとなっている。図中の符号6はリヤスプロケットである。リヤスプロケット6は、左右の車輪W,Wのうち一方の車輪Wの車軸Aのみに設けられ、駆動力は、一方の車輪Wのみに伝達される。また、図中の符号7は、ブレーキディスクである(ブレーキパッド及びブレーキキャリパ等は図示せず)。ブレーキディスク7は、両方の車輪W,Wの車軸Aにそれぞれ設けられている。
【0043】
この実施形態でも同じく、上部リンクバー11は、中央部材14を挟んで車体幅方向一方側(運転者から見て右側)に配置される第一上部リンクバー11aと、他方側(運転者から見て左側)に配置される第二上部リンクバー11bとに分割して構成されているが、これを、左右方向全長に亘って連続する一つの部材で構成してもよい。また、下部リンクバー12についても同様に、中央部材14を挟んで車体幅方向一方側に配置される第一下部リンクバー12aと、他方側に配置される第二下部リンクバー12bとに分割して構成されているが、これを、左右方向全長に亘って連続する一つの部材で構成してもよい。これは、後述の第三の実施形態においても同様である。なお、受け部材13については、左右両側に弾性部材31を配置しているため、左右で部材を分割せずに全長に亘って連続する一つの部材で構成することが望ましい。第一のリンク機構10、ロック機構20、サスペンション機構30、その他の構成は、前述の第一の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0044】
第三の実施形態を図24図26に基づいて説明する。上述の各実施形態では、上部リンクバー11及び下部リンクバー12の両端は、それぞれ対のサイドポスト50,50間にピン結合されていた。しかし、この実施形態では、サイドポスト50の設置は省略されている。このため、操舵機能を必要とする前輪Fよりも、操舵機能を必要としない後輪Rに適用しやすい構成である。第三の実施形態では、サスペンション機構30を構成する弾性部材31は、コイルバネで構成されており、そのコイルバネは、上部リンクバー11の両端と下部リンクバー12の両端にそれぞれピン32,33を介して揺動自在に連結されている。
【0045】
上述のように、一般的な自転車80では、ハンドル軸3は、ハンドルポスト4から下方へ突出してその下部に車輪Wを転動自在に支持するフォーク部材60が取り付けられている。これに対して、この発明では、ハンドル軸3の下端にフォーク部材60が接続されておらず、ハンドル軸3は、ハンドルポスト4の下端付近までの短い部材で構成されている。このため、この発明の車輪支持ユニット70を用いて、既存の前一輪自転車を前二輪自転車に改造する際には、フォーク部材60を備えたハンドル軸3を、フォーク部材60を備えないハンドル軸3に交換して行うこととなる。
【0046】
以上のように、第一の実施形態では前輪Fに車体の幅方向に並列する2つの車輪W,Wを備えた前二輪自転車を例にこの発明を説明し、第二、第三の実施形態では後輪Rに車体の幅方向に並列する2つの車輪W,Wを備えた後二輪自転車を例にこの発明を説明した。ただし、各実施形態の車輪支持ユニット70は、前輪F、後輪Rのいずれにも適用可能である。ただし、前輪Fに用いられる車輪支持ユニット70には、ハンドル軸3の回転に連動する第二のリンク機構(操舵機構)40を設ける必要がある。また、後輪Rに対して車輪支持ユニット70を適用するには、フレーム1の後端付近にセンターポスト4が必要である。既存の後一輪自転車を後二輪自転車に改造する際に、フレーム1の後端付近にセンターポスト4が無い場合は、そのセンターポスト4を溶接等によりフレーム1に取り付けることも可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 フレーム
2 操舵用ハンドル
3 ハンドル軸
4 センターポスト
10 第一のリンク機構(スイング機構)
11 上部リンクバー
11a 第一上部リンクバー
11b 第二上部リンクバー
12 下部リンクバー
13 受け部材
14 中央部材
15,16 揺動連結部
20 ロック機構
21 係止部材(係合ピン、係合片)
22 ロック片
30 サスペンション機構
31 弾性部材
40 第二のリンク機構(操舵機構)
50 サイドポスト
60 車輪支持部材(フォーク部材)
70 車輪支持ユニット
80 自転車
【要約】
【課題】車体の幅方向に並列する2つの車輪を備え、車体の幅方向へのスイング機能を備えた自転車において、停車時における転倒を防止する。
【解決手段】車体の幅方向に並列する2つの車輪W,Wを転動自在に支持する対の車輪支持部材60,60と、対の車輪支持部材60,60をそれぞれ支持する対のサイドポスト50,50と、対のサイドポスト50,50とフレーム1のセンターポスト4との間に設けられた第一のリンク機構10と、サイドポスト50,50とセンターポスト4との間に配置されたサスペンション機構30とを備え、第一のリンク機構10は、対のサイドポスト50,50間を結ぶ上部リンクバー11及び下部リンクバー12と、それらをセンターポスト4に揺動自在に連結する揺動連結部11a,12aと、上部リンクバー11と下部リンクバー12との車体幅方向への相対移動をロックするロック機構20とを備える自転車とした。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図18
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図26