(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】モータ制御装置及びモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/05 20060101AFI20220318BHJP
【FI】
H02P21/05
(21)【出願番号】P 2017146210
(22)【出願日】2017-07-28
【審査請求日】2020-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000253075
【氏名又は名称】澤藤電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092808
【氏名又は名称】羽鳥 亘
(74)【代理人】
【識別番号】100140981
【氏名又は名称】柿原 希望
(72)【発明者】
【氏名】福田 健二
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-219239(JP,A)
【文献】特開2003-158886(JP,A)
【文献】特許第4765700(JP,B2)
【文献】特開2017-093218(JP,A)
【文献】特開2010-029027(JP,A)
【文献】特開2014-132815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PMモータに3相交流の駆動電流を出力するインバータと、
前記駆動電流の値を取得する駆動電流検出部と、
前記PMモータの電気角を取得する角度検出部と、
前記電気角に基づいて電気角速度を算出する角速度演算部と、
前記電気角に基づいて前記駆動電流検出部が取得した駆動電流をd軸、q軸フィードバック電流に変換する3相/dq変換部と、
矩形波制御時に、トルク指令値に基づく電圧位相を出力するトルク制御部と、前記電圧位相に基づいてd軸、q軸電圧指令を生成する電圧指令生成部と、
を有する矩形波制御部と、
前記d軸、q軸電圧指令
を補正する線形補正部と、前記線形補正部が補正したd軸、q軸電圧指令に基づいて
3相の電圧指令を生成するdq/3相変換部と、前記3相の電圧指令と三角波とを比較して前記インバータをスイッチングする駆動信号を生成する
駆動信号生成部と、を備えた制御信号生成部と、
を有するモータ制御装置において、
前記矩形波制御部が、前記d軸、q軸フィードバック電流をそれぞれ平滑して推定d軸、q軸電流指令を生成する平滑部と、前記推定d軸、q軸電流指令から前記d軸、q軸フィードバック電流
の瞬時値をそれぞれ減算してd軸、q軸補正電流をそれぞれ生成する補正電流生成部と、前記d軸、q軸補正電流からd軸、q軸補正電圧を生成する補正電圧生成部と、前記d軸、q軸補正電圧を前記d軸、q軸電圧指令にそれぞれ加算して前記制御信号生成部に出力する電圧指令補正部と、
同期制御部と、をさらに有し、
前記同期制御部は、前記電気角速度に基づいて前記三角波の周波数を前記3相の電圧指令の周波数の奇数の3の整数倍とするキャリア設定情報を設定して前記駆動信号生成部に出力するとともに、前記三角波と前記3相の電圧指令とが前記3相の電圧指令の1周期の間で2回交差し三角波比較により生成される駆動信号が1パルスの矩形波となるような矩形波形成電圧を設定して前記電圧指令生成部と前記線形補正部とに出力し、
前記電圧指令生成部は前記電圧位相と前記矩形波形成電圧に基づいてd軸、q軸電圧指令を生成するとともに、前記線形補正部は前記矩形波形成電圧に基づいて前記d軸、q軸電圧指令を補正し、さらに駆動信号生成部は前記キャリア設定情報に基づいた周期の三角波により前記3相の電圧指令との三角波比較を行うことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
正弦波制御同期制御部を備えるとともに、正弦波制御時に、トルク指令値に基づいてd軸、q軸電流指令を算出し、このd軸、q軸電流指令に基づいてd軸、q軸電圧指令を生成する正弦波制御部と、
d軸電圧指令、q軸電圧指令の生成を前記正弦波制御部と矩形波制御部とで切り替える切替部と、をさらに有し、
前記正弦波制御同期制御部は、電気角速度に基づいて三角波の周波数を3相の電圧指令の周波数の奇数の3の整数倍とするキャリア設定情報を設定して駆動信号生成部に出力することを特徴とする請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
インバータからPMモータに出力される3相交流の駆動電流の値を取得する駆動電流取得ステップと、
前記PMモータの電気角を取得する電気角取得ステップと、
前記電気角に基づいて電気角速度を算出するステップと、
前記駆動電流をd軸、q軸フィードバック電流に変換するフィードバック電流生成ステップと、
矩形波制御時に、トルク指令値に基づく電圧位相を生成する電圧位相生成ステップと、
前記電圧位相と前記電気角速度に基づいて三角波比較に用いる三角波を設定するためのキャリア設定情報を生成するステップと、
三角波比較により生成される駆動信号が1パルスの矩形波となるような矩形波形成電圧を出力するステップと、
前記電圧位相
と前記矩形波形成電圧に基づいてd軸、q軸電圧指令を生成するdq電圧指令生成ステップと、
前記d軸、q軸フィードバック電流をそれぞれ平滑して推定d軸、q軸電流指令を生成する電流指令生成ステップと、
前記推定d軸、q軸電流指令から前記d軸、q軸フィードバック電流
の瞬時値をそれぞれ減算してd軸、q軸補正電流をそれぞれ生成する補正電流生成ステップと、
前記d軸、q軸補正電流からd軸、q軸補正電圧を生成する補正電圧生成ステップと、
前記d軸、q軸補正電圧を前記d軸、q軸電圧指令にそれぞれ加算する補正ステップと、
前記補正ステップで補正されたd軸、q軸電圧指令
を前記矩形波形成電圧に基づいて更に補正した後、3相の電圧指令に変換し、前記キャリア設定情報に基づく周波数が前記3相の電圧指令の周波数の奇数の3の整数倍の三角波と前記3相の電圧指令とを比較して駆動信号を生成する駆動信号生成ステップと、
前記駆動信号により前記インバータをスイッチング動作させ駆動電流を出力する駆動ステップと、を有することを特徴とするモータ制御方法。
【請求項4】
PMモータの運転状況に応じてd軸、q軸電圧指令の生成を正弦波制御と矩形波制御で切り替えるステップと、
正弦波制御時に、トルク指令値に基づいてd軸、q軸電流指令を算出し、このd軸、q軸電流指令に基づいてd軸、q軸電圧指令を生成するステップと、
正弦波制御時に、電圧位相と電気角速度に基づいて周波数が3相の電圧指令の周波数の奇数の3の整数倍となる三角波を設定するためのキャリア設定情報を生成するステップと、をさらに有することを特徴とする請求項3記載のモータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に矩形波制御時のモータの駆動電流のオフセット等を補正するモータ制御装置及びモータ制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの家電や機械設備の動力源として電動モータが使用されている。このうち、回転子側に永久磁石を設け、固定子側に電機子巻線を設け、この電機子巻線の磁界を制御することで回転子を回転させるPM(Permanent Magnet)モータ(永久磁石モータ)は、界磁損失が存在しないため低損失、高効率であり、近年の省エネルギー化の流れから大型の機械機器にも多く採用されている。そして、このPMモータの制御方法としては、外部(システムの上位の制御部等)から指示されるトルク指令値と、PMモータの現在のトルクTとから所定の駆動信号Su、Sv、Swを生成し、この駆動信号Su、Sv、Swによってインバータをスイッチング動作させ、これにより出力する3相交流の駆動電流Iu、Iv、Iwで行う事が一般的である。また、この駆動信号Su、Sv、Swの生成は、PMモータの運転状況に応じて正弦波制御と矩形波制御とを切り換えて行うものが多い。この制御方法では、中・低速回転の動作領域では正弦波制御(PWM制御)にてPMモータを動作制御(駆動信号Su、Sv、Swの生成)し、高速回転・高トルクの動作領域では高出力が可能な矩形波制御にて動作制御を行う。ただし、正弦波制御の場合でも矩形波制御の場合でも、PMモータの制御にはインバータが出力するモータの駆動電流Iu、Iv、Iwのフィードバック電流の情報とPMモータの電気角の情報が必要となる。
【0003】
しかしながら、電気角取得のための角度センサの精度やインバータのスイッチング素子の応答バラつき等により駆動電流Iu、Iv、Iwにオフセットが生じる場合があり、このオフセットはモータの振動の発生やトルク低下、損失等の要因となる。特に、矩形波制御では電圧位相によりモータのトルクを直接制御することが一般的であるため、フィードバック電流中のオフセット成分に対する補正処理がされず、オフセットによる影響が顕著に表れる傾向が高い。
【0004】
ここで、
図4に三相の駆動電流Iu、Iv、Iwと、これを3相/dq変換したd軸、q軸電流のシミュレーショングラフを示す。尚、
図4(a)が振幅にアンバランスが存在する場合の駆動電流Iu、Iv、Iwのシミュレーショングラフであり、
図4(b)はこれを3相/dq変換したd軸、q軸電流のシミュレーショングラフである。また、
図4(c)はオフセットが存在する場合の駆動電流Iu、Iv、Iwのシミュレーショングラフであり、
図4(d)はこれを3相/dq変換したd軸、q軸電流のシミュレーショングラフである。
【0005】
先ず、
図4(b)、(d)の破線で示すように、駆動電流Iu、Iv、Iwに振幅アンバランスやオフセットが存在しない場合、d軸電流、q軸電流は一定値を示す。しかしながら、駆動電流Iu、Iv、Iwに振幅アンバランスやオフセットが存在する場合、d軸電流、q軸電流には
図4(b)、(d)の実線で示すような変動が生じる。従って、オフセットや振幅アンバランスを抑制するためには、この変動成分を補正、もしくは除去、平滑することが有効と考えられる。
【0006】
そして、この問題点に関し下記[特許文献1]では、駆動電流Iu、Iv、Iwの1周期分の平均値やローパスフィルタによって各相のオフセット量を算出し、これにより駆動信号を補正してオフセットを修正する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、[特許文献1]に記載の発明は、三相交流の駆動電流Iu、Iv、Iwそれぞれの1周期分の平均値が必要なためオフセット量の算出に時間を要し、応答性が悪いという問題点がある。また、[特許文献1]に記載のローパスフィルタを用いてオフセット量を算出する構成ではモータの動作状態が変化する度にオフセット補正に遅れが生じる虞があり、これも応答性が悪いという問題点がある。また、オフセット量を3相で個別に算出し、それぞれ個別にオフセット補正を行うため、ある相への補正が他の相へ悪影響を及ぼす可能性が有る。また、上記の平均値やローパスフィルタを用いて補正量を算出する方法では、三相間の振幅アンバランスを検出できず、その補正を行うことができないという問題点がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、矩形波制御おけるオフセットや振幅アンバランスの補正を高い応答性で行うことが可能なモータ制御装置及びモータ制御方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
(1)PMモータ10に3相交流の駆動電流Iu、Iv、Iwを出力するインバータ20と、前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)の値を取得する駆動電流検出部12u、12vと、前記PMモータ10の電気角θを取得する角度検出部14と、前記電気角θに基づいて電気角速度ωを算出する角速度演算部16と、前記電気角θに基づいて前記駆動電流検出部12u、12vが取得した駆動電流Iu、Iv、(Iw)をd軸、q軸フィードバック電流Id、Iqに変換する3相/dq変換部22と、
矩形波制御時に、トルク指令値T*に基づく電圧位相θvを出力するトルク制御部502と、前記電圧位相θvに基づいてd軸、q軸電圧指令Vd、Vqを生成する電圧指令生成部516と、を有する矩形波制御部50と、
前記d軸、q軸電圧指令を補正する線形補正部38と、前記線形補正部38が補正したd軸、q軸電圧指令に基づいて3相の電圧指令Vu、Vv、Vwを生成するdq/3相変換部32と、前記3相の電圧指令Vu、Vv、Vwと三角波とを比較して前記インバータ20をスイッチングする駆動信号Su、Sv、Swを生成する駆動信号生成部36と、を備えた制御信号生成部30と、を有するモータ制御装置において、
前記d軸、q軸フィードバック電流Id、Iqをそれぞれ平滑して推定d軸、q軸電流指令Id*、Iq*を生成する平滑部72と、
前記矩形波制御部50が、前記推定d軸、q軸電流指令Id*、Iq*から前記d軸、q軸フィードバック電流Id、Iqをそれぞれ減算してd軸、q軸補正電流ΔId、ΔIqをそれぞれ生成する補正電流生成部74と、
前記d軸、q軸補正電流ΔId、ΔIqからd軸、q軸補正電圧ΔVd、ΔVqを生成する補正電圧生成部76と、
前記d軸、q軸補正電圧ΔVd、ΔVqを前記d軸、q軸電圧指令Vd、Vqにそれぞれ加算して前記制御信号生成部30に出力する電圧指令補正部78と、同期制御部520と、をさらに有し、
前記同期制御部520は、前記電気角速度ωに基づいて前記三角波の周波数を前記3相の電圧指令Vu、Vv、Vwの周波数の奇数の3の整数倍とするキャリア設定情報Scを設定して前記駆動信号生成部36に出力するとともに、前記三角波と前記3相の電圧指令Vu、Vv、Vwとが前記3相の電圧指令Vu、Vv、Vwの1周期の間で2回交差し三角波比較により生成される駆動信号が1パルスの矩形波となるような矩形波形成電圧|Va’|を設定して前記電圧指令生成部516と前記線形補正部38とに出力し、
前記電圧指令生成部516は前記電圧位相θvと前記矩形波形成電圧|Va’|に基づいてd軸、q軸電圧指令Vd、Vqを生成するとともに、前記線形補正部38は前記矩形波形成電圧|Va’|に基づいて前記d軸、q軸電圧指令を補正し、さらに駆動信号生成部36は前記キャリア設定情報Scに基づいた周期の三角波により前記3相の電圧指令Vu、Vv、Vwとの三角波比較を行うことを特徴とするモータ制御装置100を提供することにより、上記課題を解決する。
(2)正弦波制御同期制御部420を備えるとともに、正弦波制御時に、トルク指令値に基づいてd軸、q軸電流指令を算出し、このd軸、q軸電流指令に基づいてd軸、q軸電圧指令を生成する正弦波制御部40と、
d軸電圧指令、q軸電圧指令の生成を前記正弦波制御部40と矩形波制御部50とで切り替える切替部24と、をさらに有し、
前記正弦波制御同期制御部420は、電気角速度ωに基づいて三角波の周波数を3相の電圧指令Vu、Vv、Vwの周波数の奇数の3の整数倍とするキャリア設定情報Scを設定して駆動信号生成部36に出力することを特徴とする上記(1)記載のモータ制御装置100を提供することにより、上記課題を解決する。
(3)インバータ20からPMモータ10に出力される3相交流の駆動電流Iu、Iv、(Iw)の値を取得する駆動電流取得ステップと、
前記PMモータ10の電気角θを取得する電気角取得ステップと、
前記電気角θに基づいて電気角速度ωを算出するステップと、
前記駆動電流Iu、Iv、(Iw)をd軸、q軸フィードバック電流Id、Iqに変換するフィードバック電流生成ステップと、
矩形波制御時に、トルク指令値T*に基づく電圧位相θvを生成する電圧位相生成ステップと、
前記電圧位相θvと前記電気角速度ωに基づいて三角波比較に用いる三角波を設定するためのキャリア設定情報Scを生成するステップと、
三角波比較により生成される駆動信号が1パルスの矩形波となるような矩形波形成電圧|Va’|を出力するステップと、
前記電圧位相θvと前記矩形波形成電圧|Va’|に基づいてd軸、q軸電圧指令Vd、Vqを生成するdq電圧指令生成ステップと、
前記d軸、q軸フィードバック電流Id、Iqをそれぞれ平滑して推定d軸、q軸電流指令Id*、Iq*を生成する電流指令生成ステップと、
前記推定d軸、q軸電流指令Id*、Iq*から前記d軸、q軸フィードバック電流Id、Iqをそれぞれ減算してd軸、q軸補正電流ΔId、ΔIqをそれぞれ生成する補正電流生成ステップと、
前記d軸、q軸補正電流ΔId、ΔIqからd軸、q軸補正電圧ΔVd、ΔVqを生成する補正電圧生成ステップと、
前記d軸、q軸補正電圧ΔVd、ΔVqを前記d軸、q軸電圧指令Vd、Vqにそれぞれ加算する補正ステップと、
前記補正ステップで補正されたd軸、q軸電圧指令Vd’、Vq’を前記矩形波形成電圧|Va’|に基づいて更に補正した後、3相の電圧指令Vu、Vv、Vwに変換し、前記キャリア設定情報Scに基づく周波数が前記3相の電圧指令Vu、Vv、Vwの周波数の奇数の3の整数倍の三角波と前記3相の電圧指令Vu、Vv、Vwとを比較して駆動信号Su、Sv、Swを生成する駆動信号生成ステップと、
前記駆動信号Su、Sv、Swにより前記インバータ20をスイッチング動作させ駆動電流Iu、Iv、Iwを出力する駆動ステップと、を有することを特徴とするモータ制御方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(4)PMモータ10の運転状況に応じてd軸、q軸電圧指令の生成を正弦波制御と矩形波制御で切り替えるステップと、
正弦波制御時に、トルク指令値に基づいてd軸、q軸電流指令を算出し、このd軸、q軸電流指令に基づいてd軸、q軸電圧指令を生成するステップと、
正弦波制御時に、電圧位相θvと電気角速度ωに基づいて周波数が3相の電圧指令Vu、Vv、Vwの周波数の奇数の3の整数倍となる三角波を設定するためのキャリア設定情報Scを生成するステップと、をさらに有することを特徴とする上記(3)記載のモータ制御方法を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るモータ制御装置及びモータ制御方法は、矩形波制御時にd軸、q軸フィードバック電流を平滑処理して推定d軸、q軸電流指令を生成し、この推定d軸、q軸電流指令を用いてd軸、q軸電流の変動成分の補正を行う。このため、優れた応答性で矩形波制御時におけるモータの駆動電流のオフセットや振幅アンバランスの補正を行うことができる。また、本発明に係るモータ制御装置及びモータ制御方法はdq二相状態で補正を行うため、ある相への補正が他の相へ悪影響を及ぼすことも無い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るモータ制御装置のブロック図である。
【
図2】本発明に係るモータ制御装置の三角波と電圧指令Vuの位置関係を説明する図である。
【
図3】本発明に係るモータ制御装置及び制御方法の効果を示すグラフである。
【
図4】3相電流のオフセットおよび振幅アンバランスとdq軸電流の変動成分を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るモータ制御装置100及びモータ制御方法の実施の形態について図面に基づいて説明する。ここで、
図1は本発明に係るモータ制御装置100のブロック図である。先ず、本発明に係るモータ制御装置100は、PMモータ(永久磁石モータ)10の動作を制御するものであり、このPMモータ10に3相交流の駆動電流Iu、Iv、Iwを出力するインバータ20と、この駆動電流Iu、Iv、(Iw)の値を取得する駆動電流検出部12u、12vと、PMモータ10の電気角θを取得する角度検出部14と、駆動電流検出部12u、12vが取得した駆動電流Iu、Iv、(Iw)をd軸フィードバック電流Id、q軸フィードバック電流Iqに変換する3相/dq変換部22と、外部(システムの上位の制御部等)から指示されるトルク指令値T
*に応じたd軸電圧指令Vd’、q軸電圧指令Vq’を出力する正弦波制御部40と矩形波制御部50と、d軸電圧指令Vd’、q軸電圧指令Vq’に基づいてインバータ20の駆動信号Su、Sv、Swを生成する制御信号生成部30と、PMモータ10の運転状況に応じてPMモータ10の制御を矩形波制御部50と正弦波制御部40とで切り替える切替部24と、を有している。
【0014】
また、PMモータ10は、前述のように回転子側に永久磁石を設けるとともに、固定子側に3相の電機子巻線を設け、この3相の電機子巻線に交流の駆動電流Iu、Iv、Iwをそれぞれ流下させることで各電機子巻線の磁極及び磁束を連続的に変化させ、回転子を回転させるものである。尚、PMモータ10としては永久磁石を回転子に埋め込んだIPM(Interior Permanent Magnet)モータを用いることが好ましい。
【0015】
また、角度検出部14としては、回転子の角度を取得可能な周知の角度センサを用いることができる。また、角度検出部14は回転子の機械角を取得して、この機械角から電気角θを演算等で算出するようにしても良いが、回転子内の永久磁石の極対数と同じ数の回転子極数を有するレゾルバ回転角センサを用い、PMモータ10の電気角θを直接取得することが好ましい。
【0016】
また、駆動電流検出部12u、12vはインバータ20から出力される駆動電流Iu、Iv、Iwを非接触で取得可能な周知の電流センサを用いることができる。尚、本例では駆動電流Iu、Iv、Iwのうちの2つの駆動電流Iu、Ivを取得し、d軸、q軸フィードバック電流Id、Iqに変換する例を示している。また、上記の電気角θと駆動電流Iu、Ivの取得は、後述の三角波の頂点と谷の両方のタイミングで行い、三角波の半周期毎に後述のモータ制御装置100の各部にて使用することが好ましい。
【0017】
次に、本発明に係るモータ制御装置100の各部の構成、動作及び本発明に係るモータ制御方法を説明する。先ず、インバータ20は制御信号生成部30から出力される駆動信号Su、Sv、Swにより内部のスイッチング素子がオン・オフし、位相が1/3周期(2/3π(rad))づつずれた交流の駆動電流Iu、Iv、IwをPMモータ10の電機子巻線にそれぞれ流下させる。これにより、PMモータ10の電機子巻線は磁極及び磁束が連続的に変化して回転磁界を発生する。そして、回転子はこの回転磁界との引力及び斥力によって回転動作する。
【0018】
このとき、駆動電流検出部12u、12vがインバータ20の出力する駆動電流Iu、Ivの値を取得して3相/dq変換部22に出力する(駆動電流取得ステップ)。また、角度検出部14がPMモータ10の電気角θ(rad)を取得して3相/dq変換部22に出力する(電気角取得ステップ)。これにより、3相/dq変換部22はPMモータ10の電気角θに基づいて駆動電流Iu、Iv、(Iw)に対する3相2相変換及び回転座標変換を行い、駆動電流Iu、Iv、(Iw)をd軸電流(磁束分電流)Idとq軸電流(トルク分電流)Iqとに変換する(フィードバック電流生成ステップ)。そして、これらをd軸フィードバック電流Id、q軸フィードバック電流Iqとして切替部24に出力する。
【0019】
また、角度検出部14が取得した電気角θは角速度演算部16にも出力され、この角速度演算部16は入力した電気角θから電気角速度ω(rad/s)を算出し、各部に出力する。
【0020】
切替部24はPMモータ10の運転状況に応じてd軸電圧指令Vd’、q軸電圧指令Vq’の生成方法を切り換える切り替え回路であり、PMモータ10が予め設定されている高回転速度、高トルクの動作領域で動作する場合には、d軸電圧指令Vd’、q軸電圧指令Vq’の生成を正弦波制御部40から矩形波制御部50に切り替える。これにより、PMモータ10は中・低速回転動作時ではトルク変動の少ない正弦波制御により動作制御され、高速回転・高トルク動作時には高出力が可能な矩形波制御で動作制御される。
【0021】
次に、正弦波制御部40の構成及び動作を説明する。尚、以下で説明する正弦波制御部40の構成は本発明に好適な一例であるから、下記の構成に限定されるわけではなく、他の如何なる正弦波制御機構を用いても良い。
【0022】
先ず、上位システムの制御部等からトルク指令値T*が出力される。このトルク指令値T*はPMモータ10の動作目標となるトルクである。そして、このトルク指令値T*は切替部24が正弦波制御部40を選択している場合、正弦波制御部40のトルク制御部402に入力する。また、トルク制御部402にはトルク計算部404からPMモータ10の現在のトルクTが入力する。
【0023】
ここで、トルク計算部404はPMモータ10のモータパラメータとしての誘起電圧定数φa、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq等を有している。尚、誘起電圧定数φa、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLqは予め設定された固定値としても良いし、PMモータ10の温度や動作状況に応じて予め設定された適切な値を例えばデータテーブル等から適宜取得するようにしても良い。そして、トルク計算部404はこれらの値と、d軸、q軸フィードバック電流Id、Iqもしくは電流指令生成部406から出力されるd軸、q軸電流指令Id*、Iq*に基づいて、PMモータ10の現在のトルクTを例えば下記式に基づいて算出する。尚、本例ではd軸、q軸電流指令Id*、Iq*に基づいてトルクTを算出する例を示している。
T=P(φaIq*+(Ld-Lq)Id*Iq*) [N・m]
P:PMモータの永久磁石の極対数
φa:誘起電圧定数
Ld:d軸インダクタンス
Lq:q軸インダクタンス
【0024】
そして、トルク制御部402はトルク指令値T*と現在のトルクTとから、PMモータ10が目標のトルクで動作する電流指令値Ia*を設定し、電流指令生成部406に出力する。尚、電流指令値Ia*は積分制御、比例制御などの演算により算出しても良い。
【0025】
電流指令生成部406はトルク計算部404と同様のモータパラメータを有するとともに、角速度演算部16からの電気角速度ωと、図示しない電源部からの電源電圧Vdcが入力する。そして、電流指令生成部406はトルク制御部402からの電流指令値Ia*、電源電圧Vdc、及びモータパラメータ、電気角速度ωを用いた所定の演算や電圧制御によりd軸電流指令Id*、q軸電流指令Iq*を算出し、正弦波制御部40の電圧指令生成部416に出力する。尚、このとき、後述の電圧指令の大きさ|Va|が K×Vdc(K:電圧利用率設定値)の値を超えないようにd軸、q軸電流指令Id*、Iq*を調整することで、正弦波制御領域と矩形波制御領域との間に過変調制御領域を設けることが可能となり、中高速動作領域での出力向上を図ることができる。また、電流指令値Ia*、d軸電流指令Id*、q軸電流指令Iq*には必要に応じて電流リミッタを設けても良い。
【0026】
ここで、電圧指令生成部416の好適な一例を説明する。先ず、電圧指令生成部416に入力したd軸、q軸電流指令Id*、Iq*は2分岐して、一方は非干渉制御部414に入力する。そして、非干渉制御部414にてd軸、q軸電流指令Id*、Iq*間で干渉する速度起電力成分が算出され、d軸、q軸電圧指令Vd’’、Vq’’として電流制御部410に出力される。また、d軸、q軸電流指令Id*、Iq*の他方は、減算部412においてd軸、q軸フィードバック電流Id、Iqが減算されて変動成分ΔId、ΔIqとされた後、電流制御部410に入力する。そして、電流制御部410において、適宜、電流積分制御、電流比例制御等の電流制御が施されるとともに、非干渉制御部414からのd軸、q軸電圧指令Vd’’、Vq’’が適切な位置で加算されd軸電圧指令Vd’、q軸電圧指令Vq’が生成される。そして、この電流制御部410における電流制御によりd軸、q軸電流指令の変動成分(駆動電流Iu、Iv、Iwのオフセットや振幅アンバランス成分)は低減もしくは平滑化する。
【0027】
尚、電圧指令生成部416にはd軸、q軸電圧指令Vd’、Vq’に基づく電圧指令Vu、Vv、Vwがインバータ20の出力限界となる最大電圧(1パルスの矩形波電圧となる電圧)の近傍とならないように制限するリミッタ部を設けることが好ましい。このリミッタ部の制限電圧は後述の正弦波制御同期制御部420が設定する三角波の同期数に準じて設定することが好ましい。
【0028】
また、正弦波制御部40は、電流制御部410のd軸、q軸電圧指令Vd’’’、Vq’’’を取得して極座標変換を行い電圧位相θvと電圧指令の大きさ|Va|を取得する極座標変換部418と、この極座標変換部418で得られた電圧位相θvと電気角速度ωと電気角θとから後述する三角波のキャリア設定情報Scを生成し三角波生成部34に出力する正弦波制御同期制御部420と、を有している。尚、キャリア設定情報Scに関しては後述する。
【0029】
そして、電流制御部410から出力したd軸電圧指令Vd’、q軸電圧指令Vq’は切替部24を介して制御信号生成部30に入力する。ここで、制御信号生成部30の好適な一例を説明する。尚、以下で説明する制御信号生成部30の構成は本発明に好適な一例であるから、下記の構成に限定されるわけではなく、他の如何なる制御信号生成機構を用いても良い。
【0030】
先ず、電流制御部410から出力したd軸電圧指令Vd’、q軸電圧指令Vq’は制御信号生成部30のdq/3相変換部32に入力する。尚、制御信号生成部30は、dq/3相変換部32の前段に矩形波制御時、過変調制御時におけるd軸、q軸電圧指令Vd’、Vq’と電圧指令Vu、Vv、Vwとの非線形性を補正するための線形補正部38を有していても良い。尚、この線形補正部38で用いる補正値は矩形波形成電圧|Va’|と対応して設定する。
【0031】
また、dq/3相変換部32には角度検出部14からの電気角θと角速度演算部16からの電気角速度ωが入力し、この電気角θと電気角速度ωとに基づいてインバータ20がスイッチング動作を行う新たなタイミングの予測電気角θ’を算出し、この予測電気角θ’に基づいてd軸、q軸電圧指令Vd’、Vq’を3相の電圧指令Vu、Vv、Vwに変換し、駆動信号生成部36に出力する。
【0032】
駆動信号生成部36は三角波生成部34を有しており、この三角波生成部34にはキャリア設定情報Scが入力して、このキャリア設定情報Scに基づいた周期の三角波を生成する。
【0033】
そして、駆動信号生成部36はこの三角波と電圧指令Vu、Vv、Vwとをそれぞれ三角波比較する。このとき、三角波の振幅は後述のキャリア設定情報Scによって増減する。よって、電圧指令Vu、Vv、Vwを三角波の振幅と比例する換算係数によって調整し、この調整後の電圧指令Vu、Vv、Vwを用いて三角波比較を行う。これにより、Hi-Lowの駆動信号Su、Sv、Swが生成される。この駆動信号Su、Sv、Swはインバータ20に出力され、インバータ20はこの駆動信号Su、Sv、Swによりスイッチング動作して3相交流の駆動電流Iu、Iv、Iwを出力し、PMモータ10を動作させる。
【0034】
また、切替部24はPMモータ10が高回転速度、高トルクの動作領域で動作すると、PMモータ10の制御を正弦波制御部40から矩形波制御部50に切り替える。これにより、トルク指令値T*は矩形波制御部50のトルク制御部502に入力する。また、矩形波制御部50のトルク計算部504にはd軸フィードバック電流Id、q軸フィードバック電流Iqが入力する。尚、トルク計算部504は正弦波制御部40のトルク計算部404と同様にモータパラメータを有しており、これらモータパラメータとd軸、q軸フィードバック電流Id、IqとからPMモータ10の現在のトルクTを算出して、トルク制御部502に出力する。そして、トルク制御部502は、トルク指令値T*とトルクTとから、PMモータ10が目標のトルクで動作するような電圧位相θvを積分制御、比例制御などにより生成する(電圧位相生成ステップ)。そして、矩形波制御部50の電圧指令生成部516と同期制御部520に出力する。
【0035】
同期制御部520は電圧位相θvと電気角速度ωと電気角θとから三角波比較に用いる三角波を設定するためのキャリア設定情報Scを生成する。そして、三角波生成部34に出力する。ここで、キャリア設定情報Scが設定する三角波は、三角波の周波数が電圧指令Vu、Vv、Vwの周波数
の奇数の3の整数倍、即ち、9、15、21、27倍など(以後、この倍数を同期数とする)であり、かつ
図2中の点Aに示す三角波の立ち下がりの中央位置と電圧指令Vuの立ち上がりのゼロ位置とがクロスすることが好ましい。尚、三角波の同期数は電気角速度ωに応じて設定される。そして、同期制御部520は電圧位相θvと電気角θとに基づいて三角波の中央位置と電圧指令Vuのゼロ位置とがクロスする三角波の周期を設定すると同時に、三角波の周波数が設定された同期数となるような三角波の周期を設定する。また、同期制御部520は電気角速度ωの変化に連動して周期の設定情報を変化させ、三角波を上記の状態に追従、維持させる。さらに、同期制御部520は電気角速度ωが予め設定された所定の値を超えた場合、同期数を1段階下げてキャリア設定情報Scを設定し出力する。また、電気角速度ωが予め設定された所定の値を下回った場合、同期数を1段階上げてキャリア設定情報Scを設定し出力する。尚、同期数を変化させる電気角速度ωの値は同期数毎にデータテーブル等に予め記憶しておき、同期制御部520は入力した電気角速度ωに応じて対応する同期数をデータテーブルから取得し設定を行う事が好ましい。このとき、同期数を上下する電気角速度ωにはヒステリシス幅を持たせることが好ましい。これらの同期制御部520の動作は
正弦波制御同期制御部420においても基本的に同じである。尚、これらの三角波の周期の変化と連動して、後述の補正電圧生成部76の補正ゲイン(Kd、Kq)、平滑部72の時定数、各制御のゲイン等は調整され再設定される。
【0036】
また、同期制御部520は三角波と電圧指令Vu、Vv、Vwとが、電圧指令Vu、Vv、Vwの1周期の間で2回交差する、即ち、三角波比較により生成される駆動信号Su、Sv、Swが1パルスの矩形波となるような矩形波形成電圧|Va’|を取得し電圧指令生成部516に出力する。尚、同期制御部520による矩形波形成電圧|Va’|の設定は、2点で交差する矩形波形成電圧|Va’|の値を予め三角波の同期数毎にデータテーブルに設定しておき、同期制御部520が三角波の同期数を決定すると同時に、この同期数と対応した矩形波形成電圧|Va’|を選択して設定することが好ましい。そして、同期制御部520はこの矩形波形成電圧|Va’|を電圧指令生成部516及び線形補正部38に出力する。
【0037】
電圧指令生成部516は、トルク制御部502から入力した電圧位相θvと、同期制御部520から入力した矩形波形成電圧|Va’|とから、d軸電圧指令Vd、q軸電圧指令Vqを生成する(dq電圧指令生成ステップ)。
【0038】
ここで本発明に係るモータ制御装置100の矩形波制御部50は、本発明の特徴的な構成として平滑部72と、補正電流生成部74と、補正電圧生成部76と、電圧指令補正部78と、を備えた補正部70を有している。
【0039】
そして、補正部70の平滑部72は、切替部24を介して入力したd軸、q軸フィードバック電流Id、Iqを例えば移動平均処理もしくはなまし処理を行ってそれぞれ平滑化する。尚、ここでのなまし処理とは、入力信号(d軸、q軸フィードバック電流Id、Iq)に対し、任意の周期ごとに下記(1)式の処理を行う事で平滑化する処理を意味する。
C=B(1-K)+K×A・・・・(1)
ここで、Aは入力値(d軸、q軸フィードバック電流Id、Iq)であり、Bは直前の周期のなまし処理後の出力値であり、Kはなまし定数であり、Cが出力値(推定d軸、q軸電流指令Id*、Iq*)である。
【0040】
この平滑化処理により、オフセット等による変動成分が平滑化された疑似的な推定d軸電流指令Id*、推定q軸電流指令Iq*が生成される(電流指令生成ステップ)。そして、これら推定d軸、q軸電流指令Id*、Iq*は補正電流生成部74に出力される。
【0041】
また、補正電流生成部74にはd軸フィードバック電流Id、q軸フィードバック電流Iqがそれぞれ入力しており、補正電流生成部74は平滑部72で生成された推定d軸電流指令Id*、推定q軸電流指令Iq*からd軸フィードバック電流Id、q軸フィードバック電流Iqをそれぞれ減算する。これにより、変動成分としてのd軸補正電流ΔId、q軸補正電流ΔIqが生成される(補正電流生成ステップ)。そして、これらd軸補正電流ΔId、q軸補正電流ΔIqを補正電圧生成部76に出力する。尚、このd軸補正電流ΔId、q軸補正電流ΔIqは、オフセットや振幅アンバランスの成分(変動成分)が平滑化した推定d軸、q軸電流指令Id*、Iq*からオフセットや振幅アンバランスの成分(変動成分)を含むd軸、q軸フィードバック電流Id、Iqをそれぞれ減算したものであるから、基本的に変動成分の逆相をとる。
【0042】
また、補正電圧生成部76は、補正電流生成部74から入力したd軸補正電流ΔId、q軸補正電流ΔIqから、例えば所定の補正ゲイン(Kd、Kq)による比例制御等によりd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqを生成し(補正電圧生成ステップ)、電圧指令補正部78に出力する。
【0043】
電圧指令補正部78は、補正電圧生成部76から入力したd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqを電圧指令生成部516から出力したd軸電圧指令Vd、q軸電圧指令Vqにそれぞれ加算してd軸電圧指令Vd’、q軸電圧指令Vq’を生成する(補正ステップ)。ここで、d軸、q軸電圧指令Vd’、Vq’は、前述のようにオフセットや振幅アンバランス成分(変動成分)の逆相のd軸、q軸補正電圧ΔVd、ΔVqが加算されたものである。即ち、d軸、q軸電圧指令Vd’、Vq’には駆動電流Iu、Iv、Iwに生じるオフセットや振幅アンバランス分の逆の電圧(d軸、q軸補正電圧ΔVd、ΔVq)が加味されたものである。
【0044】
ここで
図3に、補正部70を備えていない従来の矩形波制御部の使用でオフセットが生じている駆動電流Iu、Iv、Iwのグラフと、同条件にて補正部70を備えた矩形波制御部50を使用したときの駆動電流Iu、Iv、Iwのグラフを示す。尚、
図3(a)は補正部70を備えていない矩形波制御部の駆動電流Iu、Iv、Iwのグラフであり、
図3(b)は補正部70を備えた矩形波制御部50の駆動電流Iu、Iv、Iwのグラフである。
【0045】
図3から、補正部70を備えていない矩形波制御部の駆動電流Iu、Iv、Iwは波形の中心位置が上下にズレたオフセットが生じているのに対し、補正部70を備えた矩形波制御部50の駆動電流Iu、Iv、Iwは波形の中心位置にズレが無くオフセットが解消されていることがわかる。これは、補正部70によるd軸、q軸補正電圧ΔVd、ΔVqの加算により駆動電流Iu、Iv、Iwのオフセットが補正され解消したことを意味している。
【0046】
そして、これらd軸電圧指令Vd’、q軸電圧指令Vq’は切替部24を介して制御信号生成部30に入力する。そして、正弦波制御部40の時と同様に、線形補正部38を介してdq/3相変換部32にて3相の電圧指令Vu、Vv、Vwに変換される。
【0047】
そして、駆動信号生成部36において、三角波比較が行われ駆動信号Su、Sv、Swが生成される(駆動信号生成ステップ)。尚、このときの三角波は同期制御部520からのキャリア設定情報Scによって、周波数が電圧指令Vu、Vv、Vwの奇数の3の整数倍の三角波となる。
【0048】
そして、この駆動信号Su、Sv、Swによりインバータ20をスイッチング動作させる。これにより三相交流の駆動電流Iu、Iv、IwがPMモータ10に出力される(駆動ステップ)。そして、この駆動電流Iu、Iv、IwによってPMモータ10がトルク指令値T*に応じたトルクで回転動作する。このとき、この駆動電流Iu、Iv、Iwの基となるd軸電圧指令Vd’、q軸電圧指令Vq’は前述のように変動成分とは逆相のd軸補正電圧ΔVd、q軸補正電圧ΔVqがそれぞれ加算されてオフセットや振幅アンバランスの成分(変動成分)が補正されているから、この駆動電流Iu、Iv、Iwで動作するPMモータ10のオフセットや振幅アンバランスは解消され、矩形波制御時であっても低振動かつ高効率で回転動作することができる。
【0049】
以上のように、本発明に係るモータ制御装置100及びモータ制御方法は、矩形波制御時にd軸、q軸フィードバック電流Id、Iqを平滑処理して推定d軸、q軸電流指令Id*、Iq*を生成するとともに、この推定d軸、q軸電流指令Id*、Iq*からd軸、q軸フィードバック電流Id、Iqを減算し、変動成分としてのd軸、q軸補正電流ΔId、ΔIqを生成する。そして、このd軸、q軸補正電流ΔId、ΔIqからd軸、q軸補正電圧ΔVd、ΔVqを生成した後、電圧指令生成部516から出力したd軸、q軸電圧指令Vd、Vqにそれぞれ加算することで変動成分を補正する。このため、d軸、q軸フィードバック電流Id、Iqの瞬時値によって変動成分の補正が可能となる。これにより、極めて高い応答性で矩形波制御時におけるPMモータ10の駆動電流Iu、Iv、Iwのオフセットおよび振幅アンバランスの補正を行うことができる。また、本発明に係るモータ制御装置100及びモータ制御方法は、dq二相状態、即ちd軸、q軸電圧指令Vd’、Vq’の状態で補正を行う。即ち、各相(U相、V相、W相)への補正を個別に行うものではないため、ある相への補正が他の相へ悪影響を及ぼすことも無い。
【0050】
尚、本例で示したモータ制御装置100の各部の構成、機構、モータ制御方法の手順等は一例であるから上記の例に限定されるわけでは無く、本発明は本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 PMモータ
12u、12v 駆動電流検出部
14 角度検出部
20 インバータ
22 3相/dq変換部
30 制御信号生成部
502 トルク制御部
516 電圧指令生成部
72 平滑部
74 補正電流生成部
76 補正電圧生成部
78 電圧指令補正部
100 モータ制御装置
Iu、Iv、Iw 駆動電流
Id、Iq d軸、q軸フィードバック電流
Id*、Iq* 推定d軸、q軸電流指令(矩形波制御時)
ΔId、ΔIq d軸、q軸補正電流(矩形波制御時)
Vd、Vq d軸、q軸電圧指令(矩形波制御時)
ΔVd、ΔVq d軸、q軸補正電圧(矩形波制御時)
Su、Sv、Sw 駆動信号
T* トルク指令値
θ 電気角
θv 電圧位相