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  • 特許-溶接物の製造方法 図1
  • 特許-溶接物の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】溶接物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/32 20140101AFI20220318BHJP
【FI】
B23K26/32
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017165609
(22)【出願日】2017-08-30
(65)【公開番号】P2019042748
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000148324
【氏名又は名称】株式会社浅野歯車工作所
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】田中 康行
(72)【発明者】
【氏名】伊達 亮介
(72)【発明者】
【氏名】浜名 真澄
(72)【発明者】
【氏名】有田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】山本 信治
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-185880(JP,A)
【文献】特開平08-290292(JP,A)
【文献】特開2001-334378(JP,A)
【文献】特開昭48-11252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄と、鋳鉄と溶接可能な金属材とのレーザー溶接において、
溶接部が所定温度になるまで、溶接の前に予熱を与える予熱工程を有しており、
前記予熱工程における所定温度は、62℃以上150℃以下であり、
さらに、レーザー溶接後に後熱工程を有しており、
前記予熱工程および前記後熱工程は、レーザーを用いて行うことを特徴とする、溶接物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に鋳鉄を使用した異材溶接において白銑化を防止することができる、溶接物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製の部材を多数用いる自動車等の製造においては、例えば、鋳鉄と鋼といった異材を組み合わせる必要がある。異材を組み合わせる場合、ボルト締結等の方法が用いられているが、ボルト締結から溶接に変更することで、軽量化が見込まれる。鋳鉄と鋼との結合に溶接を用いることは検討されているが(例えば、特許文献1参照)、炭素含有量の多い鋳鉄を溶接する場合、鋳鉄側の溶接熱影響部に、溶接強度低下に影響を及ぼす白銑組織が生成しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平8-32362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、溶接部の靭性低下に著しく影響を及ぼす白銑組織の生成を抑制することが可能となる溶接物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の溶接物の製造方法は、鋳鉄と、鋳鉄と溶接可能な金属材とのレーザー溶接において、溶接部が所定温度になるまで、溶接の前に予熱を与える予熱工程を有しており、前記予熱工程における所定温度は、62℃以上150℃以下であり、さらに、レーザー溶接後に後熱工程を有しており、前記予熱工程および前記後熱工程は、レーザーを用いて行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の溶接物の製造方法によれば、溶接部の靭性低下に著しく影響を及ぼす白銑組織の生成が抑制された溶接物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施例および比較例の白銑面積を比較したグラフである。
図2図2は、実施例および比較例の溶接部の断面組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、この発明の実施の形態を、詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の説明に限定および制限されない。
【0009】
本発明の溶接物の製造方法は、鋳鉄と、鋳鉄と溶接可能な金属材とのレーザー溶接において、レーザー溶接を行う前に予熱工程を行い、溶接部を62℃以上150℃以下になるまで予熱を行うという簡便な手段で白銑化が抑制されることを見出したものである。
【0010】
例えば、自動車用の部材としては、従来、鋳鉄からなるデフケースと、鋼からなるリングギヤとは、ボルトによって締結されている。通常の方法で、前記デフケースと前記リングギヤとを、ファイバーレーザーを用いてレーザー溶接を行おうとすると、ボルトが不要となることで軽量化は可能となるが、鋳鉄側の溶接熱影響部には白銑組織が生成してしまう白銑化という問題があった。白銑化とは、脆い共晶炭化物が晶出し、鋳鉄が硬脆化する現象をいう。白銑化した鋳鉄品は、破壊したとき、その破面が白く光って見える。鋳鉄は、炭素含有量が多いと、白銑組織が生じやすく、白銑組織が生成すると、溶接部の強度(疲労強度、衝撃強度)の著しい低下が起こる。
【0011】
発明者らは、レーザー溶接を行う際に所定条件での予熱工程を行うことで、白銑化が抑制できることを見出した。これは、予熱工程により、溶融部の急冷防止(徐冷)が可能となり、母材中の炭素の吐き出し(黒鉛化)を促進して白銑の主成分であるセメンタイト(鉄と炭素との化合物)の析出を抑制できるためであると考えられる。前記予熱は、溶接部を62℃以上150℃以下にするものであり、好ましくは、80~150℃の範囲内である。
【0012】
本発明において用いる鋳鉄としては、例えば、質量%でC(炭素)を3.4~3.9%を含むものを挙げることができる。
【0013】
レーザー溶接には、ファイバーレーザーを好適に用いることができるが、これに限定されず、例えば、YAGレーザー、半導体レーザー、DISKレーザー、電子ビーム等のレーザーも使用することができる。
【0014】
本発明においては、レーザー溶接後に、さらに所定条件での後熱工程を有している。後熱工程を有していることで、白銑化がより抑制できる。これは、後熱工程により、溶融部のさらなる急冷防止(徐冷)が可能となるためであると考えられる。前記後熱は、溶接部を62℃以上150℃以下にするための前記予熱の条件と同一の条件で行うことが好ましく、より好ましくは、予熱条件で80~150℃の範囲内とするものと同一の条件である。
【0015】
予熱および後熱には、レーザー溶接に用いるのと同じレーザーを、その出力または照射時間を変更して用いることが好ましい。予熱および後熱にレーザー溶接に用いるのと同じレーザーを用いると、同一の設備で、予熱工程、レーザー溶接工程、後熱工程の全てを行うことが可能であるため好ましい。
【実施例
【0016】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例および比較例によって限定されるものではない。
【0017】
[実施例1]
鋳鉄(FCD500材)と鋼(S50材)とを用いて、レーザー溶接することで相互に結合した。レーザーとしてはファイバーレーザーを用い、出力5kW、速度1.2m/minの条件で溶接した。溶接部位の大きさは、幅が1.5~2.1mm、溶接深さが4~8mmである。
【0018】
レーザー溶接の前に、溶接部を144℃になるまでレーザー照射を行った(予熱工程)。予熱工程におけるレーザー照射は出力2kW、速度10m/minの条件で行った。なお。溶接部の温度は、開先部を非接触温度計(赤外線)を用いて測定した値である。
【0019】
[実施例2]
予熱工程を、溶接部を62℃になるまでレーザー照射を行った以外は、実施例1と同様に、レーザー溶接を行った。
【0020】
[実施例3]
予熱工程を、溶接部を104℃になるまでレーザー照射を行った以外は、実施例1と同様に、レーザー溶接を行った。
【0021】
[実施例4]
予熱工程を、溶接部を140℃になるまでレーザー照射を行った以外は、実施例1と同様に、レーザー溶接を行った。
【0022】
[比較例1]
予熱工程を行わない状態で、溶接部は20℃であった。レーザー溶接の前に、溶接部へのレーザー照射を行わなかった以外は、実施例1と同様に、レーザー溶接を行った。
【0023】
(白銑化評価)
レーザー溶接後に、溶接1mm深さでの白銑部分の面積(白銑面積)を断面組織写真から算出することによって、白銑化の程度を評価した。図1に、実施例および比較例の白銑面積を比較したグラフを示す。図2(a)に実施例1の溶接部の断面組織写真を示す。この写真は、試料の切断面を研磨して、溶接深さ1mmの断面の組織観察を行ったものである。図2(b)は実施例2の溶接部の断面組織写真、図2(c)は実施例3の溶接部の断面組織写真、図2(d)は実施例4の溶接部の断面組織写真、図2(e)は比較例1の溶接部の断面組織写真である。図2の各図において、白銑部は実線で囲んだ部分である。白銑化の評価は、撮影倍率200倍で撮影した実体顕微鏡写真から、白銑面積を算出して行った。図1および図2から、実施例1~4はいずれも、比較例1と比べて、白銑部の面積が小さくなっていることがわかる。
【0024】
(ビッカース硬さ評価)
溶接部の溶接深さ1mmでのビッカース硬さを計測した。予熱なしで溶接を行ったもの(比較例1に相当)、予熱あり(出力2kW、速度10m/min)で溶接を行ったもの、予熱に加え後熱(出力1kW、速度2m/min)もありで溶接を行ったものの3水準についての計測した。予熱なしの場合、最大硬さが約730HVであったが、予熱を行うことで、約650HVまで低下した。さらに後熱を行うと、約620HVまで低下した。予熱および後熱の付与によって、硬さが低減しており、白銑が抑制されていることがわかる。
【0025】
白銑化評価結果およびビッカース硬さ評価結果からは、所定条件での予熱を行うことにより白銑部の面積を減少させ、溶接部の疲労強度および衝撃強度を向上させることができることがわかる。さらに、予熱に加えて後熱も付与すると、より好ましいことがわかる。
【0026】
以上のように、本発明によると、溶接部の靭性低下に著しく影響を及ぼす白銑組織の生成を抑制することが可能となる溶接物の製造方法を提供することができる。本発明は、従来、ボルト等での接合を行っていた部材間接合について、溶接によって行うことが可能な範囲を広げることができるため、部材を削減することで低コスト化を可能とするものである。
図1
図2