(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】歯科用グラスアイオノマーセメント組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/889 20200101AFI20220318BHJP
A61K 6/84 20200101ALI20220318BHJP
A61K 6/853 20200101ALI20220318BHJP
A61K 6/15 20200101ALI20220318BHJP
A61C 13/23 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
A61K6/889
A61K6/84
A61K6/853
A61K6/15
A61C13/23
(21)【出願番号】P 2018019810
(22)【出願日】2018-02-07
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】坂本秀二
(72)【発明者】
【氏名】木本勝也
【審査官】今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-269675(JP,A)
【文献】特公平06-072028(JP,B2)
【文献】米国特許第05189077(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00- 6/90
A61C 5/00-13/38
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)酸性基含有重合性単量体の重合体
5~20重量%、
(b)水
10~25重量%、
(c)多価金属化合物:0.01~10重量%、
(d)酸反応性ガラス粉末
60~80重量%を含む歯科用グラスアイオノマーセメント組成物であって、その硬化物において、
前記、酸性基含有重合性単量体は、(メタ)アクリル酸、2-クロロアクリル酸、3-クロロ(メタ)アクリル酸、2-シアノアクリル酸、アコニット酸、メサコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、グルタコン酸、シトラコン酸、ウトラコン酸、1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸、3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸がであり、
(c)多価金属化合物は、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウムから選ばれた少なくとも一種の金属元素を含む多価金属化合物であり、
(d)酸反応性ガラス粉末は、フルオロアルミノシリケートガラスであり、
練和開始から2時間後と1週間後におけるコントラスト比の差が0.05以下であることを特徴とする歯科用グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項2】
前記練和開始から2時間後におけるコントラスト比が0.90以下であることを特徴とする請求項1に記載の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、齲蝕や破折等により生じた歯牙の欠損を修復するための歯科充填用グラスアイオノマーセメント、または歯科補綴装置を歯牙の欠損部に接着または合着させるための歯科合着用グラスアイオノマーセメントに関するものである。
より詳細には、硬化後、早期に透明性が安定域に達する優れた審美性を有し、且つ高い機械的強度とX線不透過性を兼ね備えた歯科充填用グラスアイオノマーセメント組成物、または歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科臨床において、齲蝕や破折等により生じた歯牙の欠損に対して審美的及び機能的回復を行うために、歯科充填用コンポジットレジンや歯科充填用グラスアイオノマーセメントを歯牙の欠損部に充填する直接修復や、歯科用接着性レジンセメントや歯科合着用グラスアイオノマーセメントを用いて歯科補綴装置を歯牙の欠損部に接着または合着させる間接修復が行われている。
一般的に、歯科充填用コンポジットレジンや歯科用接着性レジンセメント等に代表される歯科用レジン系材料は、数種類の重合性単量体からなるマトリックスレジン、ガラスフィラー及び有機無機複合フィラー等の各種充填材、及び重合触媒を主成分としており、高い機械的特性や高い透明性による優れた審美性を有しているため、近年、広く用いられる歯科材料のひとつである。しかし歯科用レジン系材料には歯質に対する自己接着性が無いものが多く、それらの材料を適用する際には歯科用ボンディング材または歯科用プライマーを併用する必要があり、操作が煩雑である。また歯科用ボンディング材または歯科用プライマーを適用する際には防湿が重要であり、防湿しにくい症例においては、水分の影響により接着不良を起こすリスクが懸念される。さらに、フッ化物イオンの徐放による二次う蝕の予防効果についても、一部の市販品において認められるのみである。
【0003】
これに対して、歯科充填用グラスアイオノマーセメントや歯科合着用グラスアイオノマーセメントに代表される歯科用グラスアイオノマーセメントは、一般的にポリカルボン酸、水、フルオロアルミノシリケートガラスに代表される酸反応性ガラス粉末を主成分としており、成分中のポリカルボン酸の作用により自己接着性を発現するため、歯科用ボンディング材または歯科用プライマーを併用する必要がないことを利点としている。また、成分中に水を含むために根面う蝕等の防湿しにくい部位に対しても使用可能である。さらに、硬化物からフッ化物イオンが持続的に徐放されるため、二次う蝕の予防効果が期待できる。しかしその反面、歯科用グラスアイオノマーセメントは、歯科用レジン系材料と比較して機械的特性が低いため、その適応症例が限定されていた。
【0004】
さらに歯科用グラスアイオノマーセメントは不透明であるため、歯科充填用グラスアイオノマーセメントを窩洞に充填、または歯科合着用グラスアイオノマーセメントを用いて歯科補綴装置を歯牙の欠損部に合着させた際に、歯牙または歯科補綴装置の色調との適合性が低く、審美性に課題を残していた。なお、ここで述べる歯科補綴装置とは、特にジルコニア等のセラミック材料またはハイブリッドレジン等のレジン材料から成る審美性に優れた歯科補綴装置のことを指す。
また、歯科用グラスアイオノマーセメントが有する審美性に関する別の課題として、その透明性が安定域に達するまでに数日を要することが挙げられる。つまり、最終的には歯牙または歯科補綴装置の色調にある程度適合する場合においても、治療したその日はまだ不透明で歯牙または歯科補綴装置の色調に適合しないことが課題であった。この現象は、光重合または化学重合により反応が迅速に進行し、早期に透明性が安定する歯科用レジン系材料と比較して、歯科用グラスアイオノマーセメントが大きく劣る点である。
【0005】
このように、歯科用グラスアイオノマーセメントの透明性が低く、且つその透明性が安定域に達するまで数日を要する原因は、以下に示したことによるものと推察される。すなわち、従来の歯科用グラスアイオノマーセメントの硬化物は、ポリカルボン酸、水、及びポリカルボン酸の作用により酸反応性ガラス粉末から放出された各種イオン(金属イオン、ケイ酸イオン、フッ化物イオン等)からなるマトリックス部分と、ポリカルボン酸と未反応の酸反応性ガラス粉末からなるコア部分から構成されるが、それぞれの屈折率が1.40~1.45、及び1.50~1.55とその差が大きいため、マトリックス部分とコア部分の界面において、光の反射及び散乱が生じ、透明性の低下を引き起こしていた。
また、ポリカルボン酸の作用により酸反応性ガラス粉末から放出される各種イオンはマトリックス部分の屈折率を上昇させ、コア部分との屈折率の差を小さくさせるが、各種イオンは初期硬化時に多量に放出された後も、数日間は徐々に放出され続けてマトリックス部分の屈折率を上昇させるため、歯科用グラスアイオノマーセメントの硬化物は透明性が安定域に達するまで数日を要していた。
さらに、X線撮影による術後の診査・診断を的確に行えるようにするため、歯科用グラスアイオノマーセメントの主成分であるフルオロアルミノシリケートガラスは、ストロンチウムやバリウム等の元素が導入されているが、これによりガラス成分の屈折率がより高くなり、結果としてより透明性が低く、審美性が低かった。
【0006】
このため、高いX線不透過性を有し、且つ硬化後、早期に透明性が安定域に達する審美性に優れた歯科用グラスアイオノマーセメントが求められていた。
これまで、高いX線不透過性を有し、且つ歯科用グラスアイオノマーセメントの透明性を向上させるために様々な技術が提案されてきたが、以下に示した課題をそれぞれ残している。
高いX線不透過性を有し、且つ歯質との色調適合性に優れたセメント硬化物を与えるものとして、ストロンチウム、バリウム等のX線不透過性元素を特定量含み、さらに屈折率を1.46~1.60の範囲としたグラスアイオノマーセメント用ガラス組成物が提案されている(特許文献1 特公平6-72028号公報)。しかし、該ガラスを用いたグラスアイオノマーセメント組成物は、高いX線不透過性を有するもののガラスの屈折率が比較的高いため、その透明性は充分なものではなかった。また、従来の歯科用グラスアイオノマーセメントと同様に硬化直後から反応が安定域に達するまでの数日間に透明性が大きく変化するものであった。
【0007】
さらに上記発明と同様に高いX線不透過性を有し、且つ透明性を向上させたものとして、ストロンチウムを規定の範囲内で含むガラス組成物が提案されている(特許文献2 特開2007-269675号公報)。しかし、該ガラスを用いたグラスアイオノマーセメント組成物は、完全硬化した数日後における透明性は比較的高いものの、充填したその日の透明性は充分ではなく、満足できる審美性を発現するものではなかった。また、従来のグラスアイオノマーセメントと同様に硬化直後から反応が安定域に達するまでの数日間に透明性が大きく変化するものであった。
透明性を改良したグラスアイオノマーセメントとして、少なくとも10%のナノフィラーを含む組成物(特許文献3 特許第4851452号公報)、ポリ酸、ナノフィラー、水、及び重合性成分を組み合わせた混合物の屈折率が、酸反応性ガラス粉末の屈折率の4%以内である組成物(特許文献4 特許第4851453号公報)、及びナノジルコニアフィラーを含む組成物(特許文献5 特許第4851454号公報)が提案されている。しかし、これら組成物はいずれもナノフィラーを配合しているため、粉/液混和タイプのグラスアイオノマーセメントに用いた場合、ナノフィラーを均一に分散させることが難しく、その硬化体における透明性の向上効果は不充分で、満足できるものではなかった。一方、ペースト&ペーストタイプのレジン強化型グラスアイオノマーセメントに用いた場合においても、ペースト中で経時的にナノフィラーの凝集が起こってしまい、硬化物の透明性を安定的に発現させることが困難であった。またこれら組成物において、透明性を向上させる効果を得るためには、ナノフィラーを大量に配合する必要があり、その影響により、グラスアイオノマー成分の反応性が低下してしまい、硬化特性や硬化物の機械的特性が低下することも課題であった。さらに従来のグラスアイオノマーセメントと同様に硬化直後から反応が安定域に達するまでの数日間に透明性が大きく変化するものであった。なおこれら組成物はいずれも、金属酸化物、ガラス、金属塩及びそれらの組み合わせからなる酸反応性ガラス粉末を含むものの、金属酸化物や金属塩を配合することによる透明性の向上効果については何ら言及されていない。
操作時間、硬化時間等の作業性、及び機械的特性に加えて、審美性を改良したグラスアイオノマーセメントとして、ポリ(ビニルホスホン酸)とアクリル酸とのコポリマー等のリンベースの酸性ポリアルケノエートポリマー、塩化アルミニウム等の酸可溶性多価金属塩及びジホスホン酸等の非高分子酸性リン化合物を含むポリアルケノエートセメント組成物が提案されている(特許文献6 特表2011-526268号公報)。しかし、この発明は硬化特性と機械的特性の改良に重点を置いており、酸可溶性多価金属塩の配合による透明性の向上効果については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公平6-72028号公報
【文献】特開2007-269675号公報
【文献】特許第4851452号公報
【文献】特許第4851453号公報
【文献】特許第4851454号公報
【文献】特表2011-526268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の歯科用グラスアイオノマーセメントは透明性が低いため、歯科充填用グラスアイオノマーセメントを窩洞に充填、または歯科合着用グラスアイオノマーセメントを用いて歯科補綴装置を歯牙の欠損部に合着させた際に、歯牙または歯科補綴装置の色調との適合性が低く、審美性に課題を残していた。また、歯科用グラスアイオノマーセメントが有する審美性に関する別の課題として、その透明性が安定域に達するまでに数日を要することが挙げられる。これは、歯科用グラスアイオノマーセメントの硬化反応は進行が遅く、反応が安定域に達するまで時間を要し、見かけ上は硬化していても、その後、反応が徐々に進行し、数日かけて透明性が安定域に到達することが原因であり、光重合または化学重合により反応が迅速に進行し、早期に透明性が安定する歯科用レジン系材料と比較して大きく劣る点である。
さらに、X線撮影による術後の診査・診断を的確に行えるようにするため、歯科用グラスアイオノマーセメントの主成分であるフルオロアルミノシリケートガラスは、ストロンチウムやバリウム等の元素が導入されているが、これによりガラス成分の屈折率がより高くなり、結果としてより透明性が低く、審美性が低かった。本発明は、上記した従来技術の課題を解消し、硬化後、早期に透明性が安定域に達する優れた審美性を有し、且つ高い機械的強度とX線不透過性を兼ね備えた歯科充填用グラスアイオノマーセメント組成物、または歯科合着用グラスアイオノマーセメント組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者らは、歯科用グラスアイオノマーセメントを練和した際に、酸反応性ガラス粉末から放出された金属イオンにより前記マトリックス部分の屈折率が時間経過と共に上昇し、未反応の酸反応性ガラス粉末からなるコア部分との屈折率差が小さくなる現象に着目した。すなわち、歯科用グラスアイオノマーセメントに、多価金属化合物を配合することにより、前記マトリックス部分の屈折率と前記コア部分の屈折率との差が早期に小さくなり、硬化後、早期に透明性が安定域に達する優れた審美性を発現し、且つ硬化直後から数日間における透明性の変化が小さくなることを見いだした。特に、多価金属化合物がストロンチウム、バリウム、ランタン、亜鉛、カルシウム、アルミニウムから選ばれた少なくとも一種の金属元素を含む化合物である場合は、より早期に高い透明性を発現することを見いだし、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
(a)酸性基含有重合性単量体の重合体、(b)水、(c)多価金属化合物:0.01~10重量%、(d)酸反応性ガラス粉末を含む歯科用グラスアイオノマーセメント組成物であって、その硬化物において、練和開始から2時間後と1週間後におけるコントラスト比の差が0.05以下であることを特徴とする歯科用グラスアイオノマーセメント組成物であり、
前記練和開始から2時間後におけるコントラスト比が0.90以下であることが好ましく、
前記(a)酸性基含有重合性単量体の重合体が、α-β不飽和カルボン酸の重合体であることが好ましく、
前記(c)多価金属化合物がストロンチウム、バリウム、ランタン、亜鉛、カルシウム、アルミニウムから選ばれた少なくとも一種の金属元素を含むことが好ましく、
歯科用グラスアイオノマーセメント組成物の硬化物に対して、
(a)酸性基含有重合性単量体の重合体5~20重量%、
(b)水10~25重量%、
(c)多価金属化合物:0.01~10重量%、
(d)酸反応性ガラス粉末60~80重量%を含む歯科用グラスアイオノマーセメント組成物であって、その硬化物において、
練和開始から2時間後と1週間後におけるコントラスト比の差が0.05以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、高い機械的特性を有しているために様々な症例で口腔機能を回復させることができ、さらに高いX線不透過性を有しているために歯科医が治療部位を歯科用X線撮影装置を用いて容易に識別することが可能である。また硬化後、早期に透明性が安定域に達し、歯牙及び/または歯科補綴装置の色調に適合する優れた審美性を有しているため患者の満足度も高い等、歯科臨床に大きく貢献できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物における各成分について詳細に説明する。
本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物に用いる(a)酸性基含有重合性単量体の重合体は、少なくとも分子内に1つ以上の酸性基を有した酸性基含有重合性単量体を重合させた重合体であれば、何等制限なく用いることができる。
(a)酸性基含有重合性単量体の重合体を得るために用いる酸性基含有重合性単量体は、その酸性基の種類を特に限定することなく、いずれの酸性基を有する酸性基含有重合性単量体であっても用いることができる。また、この酸性基含有重合性単量体が有するラジカル重合可能な不飽和基の数(単官能性または多官能性)やその種類においても何等制限なく用いることができる。
酸性基含有重合性単量体が有する酸性基を具体的に例示すると、リン酸基、ピロリン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、チオリン酸基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
酸性基含有重合性単量体が有する不飽和基を具体的に例示すると、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、ビニル基、アリル基等が挙げられるが、これら不飽和基の中でも(メタ)アクリロイル基を有している酸性基含有重合性単量体であることが好ましい。
さらにこれらの酸性基含有重合性単量体は、分子内にアルキル基、ハロゲン、アミノ基、グリシジル基及び/または水酸基等のその他の官能基を併せて有することもできる。
以下に酸性基含有重合性単量体の重合体を得るために用いることができ、不飽和基として(メタ)アクリロイル基を有する酸性基含有重合性単量体を具体的に例示する。
リン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、(メタ)アクリロイルオキシメチルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル-2-ジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2’-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
また、ピロリン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、ピロリン酸ビス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]、ピロリン酸ビス[3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル]、ピロリンビス[4-(メタ)アクリロイルオキシブチル]、ピロリン酸ビス[5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル]、ピロリン酸ビス[6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル]、ピロリン酸ビス[7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチル]、ピロリン酸ビス[8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル]、ピロリン酸ビス[9-(メタ)アクリロイルオキシノニル]、ピロリン酸ビス[10-(メタ)アクリロイルオキシデシル]、ピロリン酸ビス[12-(メタ)アクリロイルオキシドデシル]、ピロリン酸トリス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル] 等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、ホスホン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネ-ト、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノアセテート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
また、カルボキシル基を有する酸性基含有重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、2-クロロアクリル酸、3-クロロ(メタ)アクリル酸、2-シアノアクリル酸、アコニット酸、メサコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、グルタコン酸、シトラコン酸、ウトラコン酸、1,4-ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、6-(メタ)アクリロイルオキシナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸、1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸、3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸及びその無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸及びその無水物、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネ-ト、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレエ-ト、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、p-ビニル安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸及びこれらの酸無水物、5-(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、6-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ヘキサンジカルボン酸、8-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-オクタンジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-デカンジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
また、スルホン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ) アクリレ-ト、4-(メタ)アクリロイルオキシベンゼンスルホン酸、3-(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、チオリン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
以上に示した酸性基含有重合性単量体は、単独で又は数種を組み合わせて酸性基含有重合性単量体の重合体を合成するために用いても何等問題はない。さらに、少なくとも分子内に一つ以上の酸性基を有した酸性基含有重合性単量体と酸性基を有していない重合性単量体とを共重合させて酸性基含有重合性単量体の重合体を合成しても何等問題はない。
【0017】
これらの酸性基含有重合性単量体の中でも、α-β不飽和カルボン酸系の酸性基含有重合性単量体を用いることが好ましい。このときに用いるα-β不飽和カルボン酸系の酸性基含有重合性単量体は特に限定されず、また分子内に有するカルボキシル基の数やカルボン酸無水物または他の置換基等の有無に何等関係なく用いることができる。
これらのα-β不飽和カルボン酸系の酸性基含有重合性単量体を具体的に例示すると、(メタ)アクリル酸、2-クロロアクリル酸、3-クロロ(メタ)アクリル酸、2-シアノアクリル酸、アコニット酸、メサコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、グルタコン酸、シトラコン酸、ウトラコン酸、1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸、3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸のみを出発原料として合成した酸性基含有重合性単量体の重合体、或いはアクリル酸とマレイン酸、アクリル酸と無水マレイン酸、アクリル酸とイタコン酸、アクリル酸と3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸等、2種類以上を出発原料として合成した酸性基含有重合性単量体の重合体を用いることがより好ましい。
【0018】
各種重合性単量体を重合させる方法は特に限定されず、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等のいずれの方法で重合させたものでも何等制限なく用いることができる。また、重合体の合成時に用いる重合開始剤や連鎖移動剤は、所望の重合体を得るために適宜選択すればよい。このようにして得られた酸性基含有重合性単量体の重合体は単独で、または数種を組み合わせて用いることができる。
これらの酸性基含有重合性単量体の重合体が有する重量平均分子量は特に定めないが、10,000~200,000の範囲にあることが好ましく、10,000~100,000の範囲にあることがより好ましい。
酸性基含有重合性単量体の重合体の重量平均分子量が10,000未満になると硬化物の機械的強度が低く、耐久性に問題が生じる傾向にある。一方、重量平均分子量が200,000を超えると歯科用グラスアイオノマーセメント組成物を練和した際に練和物の粘度が高くなり、操作性に問題が生じる傾向にある。
【0019】
本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物に用いる(b)水は、歯科用グラスアイオノマーセメント組成物の硬化性や機械的強度に悪影響を及ぼすような不純物を含有していないものであれば何等制限なく使用することができる。具体的には蒸留水またはイオン交換水を使用することが好ましい。
本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物に用いる(c)多価金属化合物は、2以上の価数を有し、かつ酸性基含有重合性単量体の重合体が有する酸性基とキレート結合する金属元素を含んでいることが好ましい。すなわち多価金属化合物中に周期律表の第2~16族に属する金属元素、例えばマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、イッテルビウム等を含んでいることが好ましい。これらの中でも、ストロンチウム、バリウム、ランタン、亜鉛、カルシウム、アルミニウム等の2価または3価の金属元素を含んでいる多価金属化合物を用いることがより好ましい。
多価金属化合物は、これらの金属元素の1種類または2種類以上を含むことができ、その含有割合は特に限定されない。
【0020】
つまり、本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物に含まれる多価金属化合物は前述の金属元素を含むものであれば、その酸化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硅酸塩、フッ化物、塩化物、窒化物、鉱物等であっても何等制限されることなく用いることができる。これらの多価金属化合物を具体的に例示すると、塩化バリウム、硫酸バリウム、フッ化バリウム、塩化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、塩化ランタン、フッ化亜鉛、酸化亜鉛、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、アルミン酸カルシウム、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これらの多価金属化合物は単独でまたは数種を組み合わせて用いることができる。なお、これらの多価金属化合物は水または酸性水溶液に対して可溶性であるものが好ましい。また多価金属化合物の形状も特に限定されずに球状、針状、板状、破砕状、鱗片状等の任意の粒子形状のものやそれらの凝集体であってもよく、何等制限なく用いることができる。
多価金属化合物を粉末の状態で含ませる場合、その平均粒子径は0.05~30.0μmの範囲にあることが好ましく、0.05~20.0μmの範囲にあることがより好ましく、0.05~10.0μmの範囲にあることがさらに好ましい。多価金属化合物の平均粒子径が0.05μm未満になると、粒子の凝集が生じて性状が不安定になる傾向にある。また、多価金属化合物の平均粒子径が30.0μmを超えると、練和中に完全に溶解せず、固体の状態で残留することもあり、硬化物が不透明になる傾向にあり、さらに機械的強度も低くなる傾向にある。
【0021】
本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物に用いる(d)酸反応性ガラス粉末は、周期律表の第1族、第2族、第3族に属する金属元素等の酸反応性元素、及びフッ素元素を含んでいる必要がある。酸反応性ガラス粉末は、酸反応性元素を含むことにより水の存在下で酸性基含有重合性単量体の重合体が有する酸性基との酸-塩基反応が進行する。酸反応性元素を具体的に例示すると、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、アルミニウム、亜鉛等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの酸反応性元素は1種類または2種類以上を含むことができ、またこれらの含有量は特に限定されない。さらに、本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物にX線造影性を付与するために、酸反応性ガラス粉末にはX線不透過性の元素を含ませることが望ましい。X線不透過性の元素を具体的に例示すると、ストロンチウム、ランタン、ジルコニウム、チタン、イットリウム、イッテルビウム、タンタル、錫、テルル、タングステン及びビスマス等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、酸反応性ガラス粉末に含まれるその他の元素については特に制限はなく、本発明における酸反応性ガラス粉末は様々な元素を含むことができる。
【0022】
酸反応性ガラス粉末は、以上に示した酸反応性元素、フッ素、及びX線不透過性の元素を含んだアルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、アルミノボレートガラス、ボロアルミノシリケートガラス、リン酸ガラス、ホウ酸ガラス及びシリカガラス等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
さらに、酸反応性ガラス粉末の形状も特に限定されずに球状、針状、板状、破砕状、鱗片状等の任意の粒子形状のものを何等制限なく用いることができる。これらの酸反応性ガラス粉末は単独または数種を組み合わせて用いることができる。
これらの酸反応性ガラス粉末の製造方法は特に限定されず、溶融法、気相法及びゾル-ゲル法等のいずれの製造方法で製造されたものでも問題なく使用することができる。その中でも、酸反応性ガラス粉末中に含まれる元素の種類やその含有量を制御しやすい溶融法またはゾル-ゲル法により製造された酸反応性ガラス粉末を用いることが好ましい。
酸反応性ガラス粉末は充填材として一般に販売されているものを、粉砕等の加工をすることなく使用することもできるが、所望の平均粒子径に粉砕して用いることが好ましい。粉砕方法に関しては特に限定されず、湿式法または乾式法のいずれの粉砕方法を用いて粉砕したものでも使用することができる。具体的には、ハンマーミルやターボミル等の高速回転ミル、ボールミルや振動ミル等の容器駆動媒体ミル、サンドグラインダーやアトライター等の媒体撹拌ミル、ジェットミル等を用いて、酸反応性ガラス粉末を粉砕し、本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物の使用用途または使用目的に応じてその平均粒子径を適宜調整することができる。
【0023】
例えば、本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物を充填用や支台築造用の材料として用いる場合は、高い機械的強度を必要とするために酸反応性ガラス粉末の平均粒子径は0.01~30.0μmの範囲にあることが好ましく、0.01~10.0μ mの範囲にあることがより好ましい。
また、本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物を合着用として用いる場合は、薄い被膜厚さを必要とするために酸反応性ガラス粉末の平均粒子径は0.01~10.0μmの範囲にあることが好ましく、0.01~5.0μmの範囲にあることがより好ましい。
酸反応性ガラス粉末の平均粒子径が0.01μm 未満になると、その表面積が増大し、組成物中に多量に含ませることができなくなる場合もあり、機械的強度の低下を引き起こす恐れがある。また練和物の粘度が増大することや、操作性が悪くなることもある。
充填用として使用する場合、酸反応性ガラス粉末の平均粒子径が30.0μm を超えると、研磨後における材料表面が粗造になる場合もあり、着色や変色等を引き起こすおそれがある。また、合着用として使用する場合、酸反応性ガラス粉末の平均粒子径が10.0μmを超える場合は、被膜厚さが厚くなるために接着する補綴装置が浮き上がこともあり、意図した補綴装置の適合が得られなくなることもある。
【0024】
本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物の操作性や硬化特性、機械的特性等を調整する目的で、酸反応性ガラス粉末は、酸性基含有重合性単量体の重合体との酸-塩基反応に悪影響を及ぼさない範囲で、種々の表面処理、加熱処理、液相中または気相中等での凝集処理、表面を有機物で包含するマイクロカプセル化処理、または表面を有機物で機能化するグラフト化等の処理を施すことができる。また酸反応性ガラス粉末は、これらの処理を単独で又は数種を組み合わせて施しても何等問題はない。これらの中でも各種特性を制御しやすく、且つ生産性にも優れることから、表面処理または加熱処理を施すことが好ましい。
酸反応性ガラス粉末の表面処理方法を具体的に例示すると、りん酸または酢酸等の酸による洗浄、酒石酸またはポリカルボン酸等の酸性化合物による表面処理、フッ化アルミニウム等のフッ化物による表面処理、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランまたはテトラメトキシシラン等のシラン化合物による表面処理等が挙げられる。
本発明において用いることができる表面処理方法は上記したものに限定されず、またこれらの表面処理方法はそれぞれ単独でまたは複合的に組み合わせて用いることができる。
酸反応性ガラス粉末の加熱処理方法を具体的に例示すると、電気炉等を用いて100~600℃の範囲で1~24時間加熱する処理方法等が挙げられる。
【0025】
本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は(a)酸性基含有重合性単量体の重合体、(b)水、(c)多価金属化合物、(d)酸反応性ガラス粉末を含み、これらの成分を練和することで硬化物が得られる。
(a)酸性基含有重合性単量体の重合体は、硬化物に5~20重量%含まれることが好ましい。酸性基含有重合性単量体の重合体の含有量が5重量%未満では、硬化するまでの時間が長くなりすぎる傾向にあり、唾液による汚染のリスクが高まる場合もある。また硬化物の機械的強度が低くなりすぎる傾向にあり、耐久性に問題が生じる場合もある。20重量%を超えると練和した際に練和物の粘度が高くなることもあり、操作性に問題が生じる場合や、充分な操作余裕時間が得られなくなる場合もある。
(b)水は、硬化物に10~25重量%含まれることが好ましい。水の含有量が10重量%未満では、練和した際に練和物の粘度が高くなる傾向にあり、操作性に問題が生じる場合もある。また、硬化が速くなり充分な操作余裕時間が確保できなくなる場合もある。25重量%を超えると硬化するまでの時間が長くなりすぎる傾向にあり、唾液による汚染のリスクが高まる場合もある。また硬化物の機械的強度が低くなりすぎる傾向にあり、耐久性に問題が生じる場合もある。
【0026】
(c)多価金属化合物は、硬化物に0.01~10重量%含まれなければならない。多価金属化合物の含有量が0.01重量%未満では、硬化後、早期に透明性が安定域に達するという本発明の効果を得ることができない。また、10重量%を超えると練和した際に完全に溶解せず、硬化物が不透明になり、さらに硬化物の機械的強度が低くなりすぎて、耐久性に問題が生じる。
(d)酸反応性ガラス粉末は、硬化物に60~80重量%含まれることが好ましい。酸反応性ガラス粉末の含有量が60重量%未満では、硬化するまでの時間が長くなりすぎて、唾液による汚染のリスクが高まる場合もある。また硬化物の機械的強度が低くなりすぎて、耐久性に問題が生じる場合もある。80重量%を超えると練和した際に練和物の粘度が高くなる傾向にあり、操作性に問題が生じるとともに、充分な操作余裕時間が確保できなくなる場合もある。
【0027】
本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は(a)酸性基含有重合性単量体の重合体、(b)水、(c)多価金属化合物、(d)酸反応性ガラス粉末を含み、それらを練和して得られた硬化物において、練和開始から2時間後と1週間後におけるコントラスト比の差が0.05以下である。好ましいコントラスト比は0.03以下である。
なお、ここで述べるコントラスト比とは0~1の数値で示される透明性の尺度であり、測色計を用いて黒色板及び白色板上における硬化体のY値を測定し、それらの値から以下の式にて算出される。
【0028】
【0029】
硬化物において、練和開始から2時間後と1週間後におけるコントラスト比の差が0.05よりも大きい場合、歯科用グラスアイオノマーセメントを適用後、早期に透明性が安定域に達していないため、満足できる審美性が得られない。
さらに本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物の硬化物は、練和開始から2時間後におけるコントラスト比が0.90以下であることが好ましい。
硬化物において、練和開始から2時間後におけるコントラスト比が0.90よりも大きい場合、歯科用グラスアイオノマーセメントを適用した時点で、非常に不透明であるため、本発明の技術を用いたとしても、臨床的に満足のいく審美性は得られない場合がある。
本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物には、操作余裕時間や硬化時間を調整する目的で、多塩基性カルボン酸、リン酸、ピロリン酸、又はトリポリリン酸等を含ませることができる。本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物に用いる多塩基性カルボン酸を具体的に例示すると、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、アコニット酸、トリカルバリール酸、イタコン酸、1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸、3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸等が挙げられる。以上に記載した多塩基性カルボン酸は、これらに限定されるものではなく、何等制限なく用いることができる。またこれらの多塩基性カルボン酸、リン酸、ピロリン酸及び/又はトリポリリン酸は、単独でまたは数種を組み合わせて用いることができる。多塩基性カルボン酸、リン酸、ピロリン酸及び/又はトリポリリン酸は、硬化物に0.1~15.0重量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0030】
さらに本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物には、諸特性に影響を与えない範囲であれば、練和性を向上させる目的で、界面活性剤を含ませることができる。
本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物に用いることができる界面活性剤は、イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤のいずれでもよい。
イオン性界面活性剤を具体的に例示すると、アニオン性界面活性剤としては、ステアリン酸ナトリウム等の脂肪族カルボン酸金属塩類、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等の硫酸化脂肪族カルボン酸金属塩類、ステアリル硫酸エステルナトリウム等の高級アルコール硫酸エステルの金属塩類等が挙げられる。また、カチオン性界面活性剤としては、高級アルキルアミンとエチレンオキサイドの付加物、低級アミンからつくられるアミン類、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド等のアルキルトリメチルアンモニウム塩類等が挙げられる。さらに両性界面活性剤としては、ステアリルアミノプロピオン酸ナトリウム等の高級アルキルアミノプロピオン酸の金属塩類、ラウリルジメチルベタイン等のベタイン類等が挙げられる。
【0031】
また、非イオン性界面活性剤としては、高級アルコール類、アルキルフェノール類、脂肪酸類、高級脂肪族アミン類、脂肪族アミド類等にエチレンオキシドやプロピレンオキシドを付加させたポリエチレングリコール型あるいはポリプロピレングリコール型、または多価アルコール類、ジエタノールアミン類、糖類と脂肪酸がエステル結合した多価アルコール型等を挙げることができる。
以上に記載した界面活性剤はこれらに限定されるものではなく、何等制限なく用いることができる。またこれらの界面活性剤は単独でまたは数種を組み合わせて用いることができる。
本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物に含まれる界面活性剤は、硬化物に0.001~5.0重量%の範囲で含まれることが好ましい。
さらに本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物がペースト状の形態を含む場合、そのペースト性状を調整する目的で、諸特性に悪影響を与えない範囲で増粘剤を含ませることができる。
【0032】
本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物に用いる増粘剤は、無機増粘剤、有機増粘剤のいずれも用いることができる。無機増粘剤としては、ヒュームドシリカ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、さらにサポナイト、モンモリロナイト、バイデライト、バーミキュライト、ソーコナイト、スチブンサイト、ヘクトライト、スメクタイト、ネクタイト及びセピオライト等の粘土鉱物等が挙げられる。有機増粘剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシポリメチレン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリアクリル酸ナトリウム、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カーヤガム、アラビアガム、カラヤガム、グアガム等が挙げられる。これらは単独で或いは2種類以上を混合して用いることができる。
本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物に含まれる増粘剤は、ペースト中に0.001~10.0重量%の範囲で含まれることが好ましい。
さらに本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物には、諸特性に悪影響を与えない範囲であれば、操作性、機械的特性または硬化特性を調整する目的で、非酸反応性粉末を含ませることができる。
【0033】
本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物に用いる非酸反応性粉末は、酸性基含有重合性単量体の重合体が有する酸性基がキレート結合する元素を含有しないものであれば特に限定されることなく用いることができる。非酸反応性粉末としては歯科用充填材として公知なもの、例えば、無機充填材、有機充填材及び有機-無機複合充填材等が挙げられ、これらは単独でまたは数種を組み合わせても何等制限なく用いることができる。それらの中でも無機充填材を用いることが特に好ましい。また、これら非酸反応性粉末の形状は特に限定されず、球状、針状、板状、破砕状、鱗片状等の任意の粒子形状のものやそれらの凝集体であってもよく、これらに限定されるものではない。これら非酸反応性粉末の平均粒子径は特に制限はないが、0.001~30μmの範囲にあることが好ましい。
無機充填材を具体的に例示すると、石英、無定形シリカ、超微粒子シリカ、酸性基または酸性基のアルカリ金属塩がキレート結合する元素を含まない種々のガラス(溶融法によるガラス、ゾル-ゲル法による合成ガラス、気相反応により生成したガラス等を含む)、チッ化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物に含まれる非酸反応性粉末は、硬化物に0.001~30重量%の範囲で含まれることが好ましい。
本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、(a)酸性基含有重合性単量体の重合体と(d)酸反応性ガラス粉末が(b)水の存在下で共存しない限り、粉材/液材、ペースト/液材、ペースト/ペースト等の様々な形態で提供される。
粉材/液材の形態としては、(c)多価金属化合物、及び(d)酸反応性ガラス粉末を含む粉材と、(a)酸性基含有重合性単量体の重合体、及び(b)水を含む液材との組み合わせ、(d)酸反応性ガラス粉末を含む粉材と、(a)酸性基含有重合性単量体の重合体、(b)水、及び(c)多価金属化合物を含む液材との組み合わせ、(a)酸性基含有重合性単量体の重合体、及び(d)酸反応性ガラス粉末を含む粉材と、(b)水、及び(c)多価金属化合物を含む液材との組み合わせ、(a)酸性基含有重合性単量体の重合体、(c)多価金属化合物、及び(d)酸反応性ガラス粉末を含む粉材と、(b)水を含む液材との組み合わせ等が提供されるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
ペースト/液材の形態としては、(b)水、(c)多価金属化合物、及び(d)酸反応性ガラス粉末を含むペーストと、(a)酸性基含有重合性単量体の重合体、及び(b)水を含む液材との組み合わせ、(b)水、及び(d)酸反応性ガラス粉末を含むペーストと、(a)酸性基含有重合性単量体の重合体、(b)水、及び(c)多価金属化合物を含む液材との組み合わせ等が提供されるが、これらに限定されるものではない。
ペースト/ペーストの形態のとしては、(b)水、(c)多価金属化合物、及び(d)酸反応性ガラス粉末を含む第一ペーストと、(a)酸性基含有重合性単量体の重合体、及び(b)水を含む第二ペーストとの組み合わせ、(b)水、及び(d)酸反応性ガラス粉末を含む第一ペーストと、(a)酸性基含有重合性単量体の重合体、(b)水、及び(c)多価金属化合物を含む第二ペーストとの組み合わせ等が提供されるが、これらに限定されるものではない。
また、本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、防腐剤、抗菌材、着色顔料、その他の従来公知の添加剤等の成分を必要に応じて任意に含むことができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の歯科合着用グラスアイオノマーセメントは、齲蝕や破折等により生じた歯牙の欠損を修復するため、または歯科補綴装置を歯牙の欠損部に接着または合着させるために用いることができ、産業上利用できる。
【実施例】
【0036】
以下に本発明の実施例及び比較例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例にて調製した歯科用グラスアイオノマーセメント組成物について、その性能を評価した試験方法は次の通りである。
【0037】
〔コントラスト比〕
目的:歯科用グラスアイオノマーセメント組成物の透明性を評価する。
方法:本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物を表3、4に記載の割合で練和した後、得られた練和物をステンレス製リング(内径12mm、厚さ1.0mm)に充填し、37℃湿度100%の恒温恒湿槽に1時間静置した。1時間後、リングから試験体を取り外し、37℃のイオン交換水中に浸漬した。練和開始から2時間後、または1週間後、試験体を取り出し、測色計(Spectra Photometer,CM-3500d)を用いて、黒色板及び白色板上におけるY値を測定し、以下の式よりコントラスト比を算出した。
【数1】
【0038】
〔圧縮強さ〕
目的:歯科用グラスアイオノマーセメント組成物の圧縮強さを評価する。
方法:ISO 9917-1:2007に従って、以下の手順により圧縮強さを測定した。23℃湿度50%環境下において、本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物を表3、4に記載の割合で練和した後、得られた練和物をステンレス製金型(4mm×6mm:円柱状)に充填し、37℃湿度100%の恒温恒湿槽に1時間静置した。1時間後、金型から試験体を取り外し、37℃のイオン交換水に浸漬した。練和終了から24時間後、試験体を取り出し、インストロン万能試験機(型式:5567A)を用い、クロスヘッドスピード1mm/min.にて圧縮強さを測定した。
【0039】
〔正味硬化時間〕
目的:歯科用グラスアイオノマーセメント組成物の正味硬化時間を評価する。
方法:ISO 9917-1:2007に従って、以下の手順により正味硬化時間を測定した。23℃湿度50%環境下において、本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物を表3、4に記載の割合で練和した後、得られた練和物をアルミニウム製金型(縦8×横10×高さ5mm)に充填した。練和終了から60秒後に、37℃湿度100%の恒温恒湿槽中の金属ブロック(最小寸法:8mm×75mm×100mm)上に練和物を填入したアルミニウム製金型を載せた。練和物の水平面に対して垂直にビカー針(質量:400±5g、末端径1.0±0.1mm)を下ろし、ビカー針の痕跡を目視にて確認した。ビカー針の痕跡が完全な円形を示さなくなるまでこの操作を繰り返し、練和終了時から痕跡が完全な円形を示さなくなるまでの時間を正味硬化時間とした。
【0040】
〔操作余裕時間〕
目的:歯科用グラスアイオノマーセメント組成物の操作余裕時間を評価する。
方法:23℃湿度50%環境下において、本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物を表3、4に記載の割合で練和した後、スパチュラを用いて得られた練和物の流動性を確認した。練和開始から練和物の流動性がなくなり、充填(または合着)及び形態付与が不可能になるまでの時間を操作余裕時間とした。
【0041】
〔X線造影性〕
目的:歯科用グラスアイオノマーセメント組成物のX線造影性を評価する。
方法:ISO 9917-1:2007に従って、以下の手順によりX線造影性を測定した。本発明の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物を表3、4に記載の割合で練和した後、得られた練和物をステンレス製リング(内径15mm、厚さ1.0mm)に充填し、37℃湿度100%の恒温恒湿槽に30分間静置した。30分後、リングから試験体を取り外し、23℃のイオン交換水中に浸漬した。試験体作製から7日間以内に試験体を水中から取り出し、取り出し後30分以内にX線造影性を測定した。X線撮影像における試験体とアルミニウム・ステップウェッジ(厚さ0.5mm刻み)のフィルム濃度を比較して試験体のフィルム濃度が厚さ何mmのアルミニウムと同等であるかを確認し、その数値を試料のX線造影性(mm)とした。
【0042】
本発明の実施例及び比較例に使用した成分及びその略号を以下に示す。
(a)酸性基含有重合性単量体の重合体
PCA1:アクリル酸ホモポリマー粉末(重量平均分子量:5万)
PCA2:アクリル酸-トリカルボン酸コポリマー粉末(重量平均分子量:8万)
(b)水
イオン交換水
(c)多価金属化合物
M1:塩化ストロンチウム
M2:塩化アルミニウム
M3:酢酸亜鉛
(d)酸反応性ガラス粉末
G1:酸反応性ガラス粉末
(フルオロアルミノシリケートガラス、50%平均粒子径:4.5μm)
【0043】
[G1:酸反応性ガラス粉末の製造]
二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、フッ化ナトリウム、炭酸ストロンチウムの各種原料(ガラス組成:SiO2 23.8重量%、Al2O3 16.2重量%、SrO 35.6重量%、Na2O 2.3重量%、F 11.6重量%)を混合した後、その原料混合品を溶融炉中で1400℃にて溶融した。その融液を溶融炉から取り出し水中で冷却してガラスを生成した。得られたガラスを粉砕し、酸反応性ガラス粉末を得た。この酸反応性ガラス粉末の50%平均粒子径をレーザー回折式粒度測定機(マイクロトラックSPA:日機装社製)により測定した結果、4.5μmであった。
その他成分
酒石酸
【0044】
(粉材、及び液材の調製)
表1に示す割合にて各成分を混合することにより液材L1~7を調製した。また表2に示す割合にて各成分を混合することにより粉材P1~7を調製した。これら液材、及び粉材を表3、4に示す組合せ、及び粉/液比にて練和した歯科用グラスアイオノマーセメント組成物(実施例1~17、比較例1~2)について、上記の方法に従い、コントラスト比(2時間後、及び1週間後)、圧縮強さ、正味硬化時間、操作余裕時間、X線造影性を測定した。さらに市販の充填用グラスアイオノマーセメント4製品(製品A、B、C、D)、も同様に評価した(表4、対照例1~4)。それらの試験結果を表5に示す。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
<実施例1~17>
実施例1~17の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、高い圧縮強さとX線造影性を有し、さらに練和開始から2時間後と1週間後におけるコントラスト比の差が0.05以下と硬化直後から反応が安定域に達するまでにおける透明性の変化が小さかった。特に、実施例1~14の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、練和開始から2時間後におけるコントラスト比が0.90以下と硬化後、早期に高い透明性を示した。
<比較例1>
比較例1の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、硬化物における(c)多価金属化合物が配合されていない点で本発明の要件を満たしていない。その結果、比較例1の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、練和開始から2時間後と1週間後におけるコントラスト比の差が0.10と硬化直後から反応が安定域に達するまでにおける透明性の変化が大きかった。
<比較例2>
比較例2の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、硬化物における(c)多価金属化合物の含有量が10重量%を超えている点で本発明の要件を満たしていない。その結果、比較例2の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、練和した際に(c)多価金属化合物が完全に溶解せず、練和開始から2時間後のコントラスト比が0.90以上と硬化後直後における透明性が低かった。さらに硬化物の機械的強度が低くなりすぎているため、耐久性の不足が懸念される。
【0051】
<対照例1>
対照例1の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、市販の歯科充填用グラスアイオノマーセメント(ハイ-ボンド グラスアイオノマーセメントF(色調:ユニバーサル)/松風)である。試験の結果、対照例1の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、練和開始から2時間後と1週間後におけるコントラスト比の差が0.09と硬化直後から反応が安定域に達するまでにおける透明性の変化が大きかった。
<対照例2>
対照例2の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、市販の歯科充填用グラスアイオノマーセメント(フジIX GP(色調:A2)/ジーシー)である。試験の結果、対照例2の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、練和開始から2時間後と1週間後におけるコントラスト比の差が0.09と硬化直後から反応が安定域に達するまでにおける透明性の変化が大きかった。
<対照例3>
対照例3の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、市販の歯科充填用グラスアイオノマーセメント(フジIX GP EXTRA(色調:A2)/ジーシー)である。試験の結果、対照例3の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、練和開始から2時間後と1週間後におけるコントラスト比の差が0.08と硬化直後から反応が安定域に達するまでにおける透明性の変化が大きかった。
【0052】
<対照例4>
対照例4の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、市販の歯科充填用グラスアイオノマーセメント(Ketac Molar EasymiX(色調:A3)/スリーエム エスペ)である。試験の結果、対照例4の歯科用グラスアイオノマーセメント組成物は、練和開始から2時間後のコントラスト比が0.90以上と硬化後直後における透明性が低かった。さらに練和開始から2時間後と1週間後におけるコントラスト比の差が0.10と硬化直後から反応が安定域に達するまでにおける透明性の変化が大きかった。