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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】ジルコニア用蛍光性付与液
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/25 20200101AFI20220318BHJP
   A61K 6/70 20200101ALI20220318BHJP
   A61K 6/60 20200101ALI20220318BHJP
   A61C 13/00 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
A61K6/25
A61K6/70
A61K6/60
A61C13/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018046104
(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公開番号】P2019156769
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】風間 政広
(72)【発明者】
【氏名】北村 敏夫
【審査官】古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-512258(JP,A)
【文献】特開2013-147489(JP,A)
【文献】特表2017-530939(JP,A)
【文献】特開2010-222466(JP,A)
【文献】特表2013-515672(JP,A)
【文献】特開2016-117618(JP,A)
【文献】国際公開第2013/022612(WO,A1)
【文献】特開2017-132647(JP,A)
【文献】特表2018-504408(JP,A)
【文献】国際公開第2011/119131(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
A61C 5/00-5/90
A61C 7/00-7/36
A61C 8/00-8/02
A61C 13/00-13/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科切削加工用ジルコニアから切削加工された補綴装置に用いる蛍光性付与液であって、
(a)水溶性ビスマス化合物及び/又は水溶性ネオジウム化合物:2~40wt%
(b)水及び又は植物油:8~70wt%
(c)有機溶媒:0.1-10wt%
を含み、
鉄、コバルトマンガン、クロムの内一つ以上が固溶したジルコニア粉末で着色されている歯科切削加工用ジルコニアに適用することを特徴とする蛍光性付与液。
【請求項2】
有機溶媒がアルコール類、ポリオール類、グリコールエーテル類のいれか一つ以上であることを特徴とする請求項1記載の蛍光性付与液。
【請求項3】
(a)水溶性ビスマス化合物及び/又は水溶性ネオジウム化合物がエチレンジアミン四酢酸ビスマス、酒石酸ビスマス、酢酸ネオジウムの内の一つ以上あることを特徴とする請求項1の蛍光性付与液。
【請求項4】
歯科切削加工用ジルコニアから切削加工される補綴装置がインレー、ラミネート、クラウン、ブリッジであることを特徴する請求項1記載の蛍光性付与液。
【請求項5】
歯科切削加工用ジルコニアから切削加工された補綴装置の表層のみに請求項1に記載の蛍光性付与液を塗布もしくは浸漬することを特徴とする蛍光性付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科分野においてCAD/CAMシステムを用いて歯科切削加工用ジルコニアから切削加工された補綴装置に塗布することにより、焼結後のジルコニアセラミックス補綴装置の蛍光性を付与するための、蛍光性付与液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歯冠欠損部の歯科治療においては一般に鋳造クラウンブリッジや義歯による補綴修復が行われてきている。具体的には陶材焼付用の鋳造用合金で作製した金属フレーム表面に陶材を焼付けて、歯冠形態を再現させた機能性と審美性を兼備した陶材焼付クラウン・ブリッジの臨床応用が挙げられる。
また、金属アレルギーの発症や貴金属の相場に左右される価格高騰等の観点から、また天然歯の色調に模倣することができる審美性の観点から、アルミナ、アルミノシリケートガラス、二ケイ酸リチウムガラス等を用いたディッピング法やセラミックスインゴットを用いたプレス法などの技法により作製された補綴装置、いわゆるオールセラミックスが注目されてきており、それを用いた補綴修復も増加してきている。
【0003】
近年、歯科用CAD/CAMシステムを用いた切削加工により補綴装置を作製する技術が急速に普及してきている。これによりジルコニア、アルミナ、アルミノシリケートガラス、二ケイ酸リチウムガラスで製造されたブロックやディスクなどのブランク材を切削加工して、容易に補綴装置を作製することが可能となってきている。また高強度セラミックスとしてジルコニアが臨床で多用されてきているが、ジルコニアブランクの切削性を向上させるために、完全焼結まで行わず、低い焼成温度で仮焼して切削加工に有利な強度や硬さに調整したジルコニアブランク(予備焼結体)が一般に用いられてきている。
このジルコニアブランクは4ユニット以上のブリッジフレームに用いられる曲げ強さを有することから、3mol%イットリウム含有の正方晶部分安定化ジルコニアブランクが実用化されている。この3モル%イットリウム含有ジルコニアブランクには、焼結性の向上と低温劣化の抑制のためアルミナを微量添加させている。また、臼歯フルクラウンに適用可能な光透過性を高めるために、極微量のアルミナを含有したジルコニアブランクも臨床で用いられている。更に安定化材として添加しているイットリウムの含有量を5~6mol%に増量させて、前歯のフルクラウンにも使用できるように光透過性を高く設計したジルコニアブランクも使用されてきている。
【0004】
ジルコニアには大きく分けて色調が白色のジルコニアと、天然歯の色調に近い色に調色された着色ジルコニアの二種類がある。天然歯の色調は歯のエナメルにあたる切端部から歯頸部に向かって色が濃く変化しており、いわゆる彩度が増加している状態にある。
そのため、ジルコニアブランクから切削加工された天然歯の切端部と歯頸部の色調に再現できるように、切端部のエナメル色と歯頸部色に対応した異なる色調のジルコニア粉末を段階的に層状に重ね合わせて、色のグラデーションをつけた多層構造からなる歯科切削加工用ジルコニアブランクを成形する技術も用いられるようになってきた。
【0005】
この多層構造からなる歯科切削加工用ジルコニアブランクは、色調、光透過性等が異なる層が様々な厚みで重ね合わさっているのが特徴である。
しかし、イットリウム含有量が5mol%以上のジルコニアブランクは透明性は向上するものの、強度が低下するという問題があり、4本ブリッジを越える症例に使用した場合、破切するなどの問題を抱えていた。
この一方で、3~4mol%のイットリウム含有量のジルコニアブランクは十分な透明性が得られないため、歯のエナメル部に相当する透明性を再現するのは困難であり、エナメル質に陶材と呼ばれるガラスを築盛する必要があった。しかし、この工程は非常に煩雑な工程であるとともに、技工士のテクニックを必要とするものであった。
【0006】
上記のように歯科用ジルコニア材料を天然歯の透明感に近づけるような改善はこれまで試みられてきた。しかし、天然歯に近い透明感を持つジルコニア材料には蛍光性がないという問題があった。天然歯は元々蛍光性を持ち、人工の補綴装置を作製する場合、陶材と呼ばれるセラミックス材料や硬質レジンと呼ばれるレジン材料にも蛍光性を付与されていた。しかし、歯科用ジルコニアセラミックスは高温(1400~1600℃)で焼結するために通常陶材や硬質レジンで使用される蛍光性材料は発色しないという問題を抱えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2016-512258
【文献】特開2016-117618
【文献】特表2013-515672
【文献】特開2013-147489
【0008】
特許文献1には、溶媒と着色材料及びビスマスイオンからなる蛍光性材料によりジルコニアに蛍光性を付与する方法が開示されている。この方法はFeイオンを含まないジルコニアセラミックスにより着色及び蛍光性を付与する方法である。
【0009】
特許文献2には、蛍光性を有するジルコニアディスクに関する方法が開示されている。この方法によると通常のジルコニアディスクに蛍光性を付与するものであるが、蛍光性付与するのはセリウム賦活イットリウムシリケート、テルビウム賦活イットリウムシリケート、ユーロピウム賦活イットリウムをジルコニア粉末の中に粉末状でブレンドし、蛍光性を得るものである。しかし、ユーロピウム賦活イットリウムなどは高温で焼結した場合、蛍光が失われ、テルビウム賦活イットリウムは弱い蛍光しか得られず、セリウム賦活イットリウムシリケートで蛍光を得ようとした場合、黄色の発色が多くなりすぎるという問題があった。
【0010】
特許文献3には、ランタニド元素をドープしたジルコニア粒子を作製し、蛍光性元素を作製する方法が開示されている。これはランタニド元素をドープしたジルコニア粒子を焼結させてジルコニアディスクを作製する方法であるが、蛍光性元素をドープしても十分な発色が得られないという問題があった。
特許文献4には、ビスマス化合物にグリセリンを併用して水溶液にし、この水溶液に予備焼結されたジルコニアクラウンを浸漬させて蛍光性を付与する方法が開示されている。しかし、この方法ではグリセリンの量が多くなり、予備焼結させたジルコニアクラウンに浸透しにくく、また十分な蛍光特性が出ないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述した先行技術は、蛍光性を付与する技術であるが、ジルコニアディスク全体に蛍光性を付与しようしたした場合、十分な蛍光性を得ることができなかった。また、酸化鉄を含むジルコニアディスクにおいては鉄イオンの色調変化により黄色に変色するなど技術的な課題があった。さらに、蛍光性を付与する粉末の製造及びディスクの製造など煩雑な工程を多く含み、製造コストが上がるなどの問題があった。また、蛍光性の発色が弱いなどの問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、歯科切削加工用ジルコニアから切削加工された補綴装置に塗布又は浸漬することにより、ジルコニア補綴装置の変色などを伴うことなく、補綴装置に蛍光性を付与する液材を提供することにある。
本発明は、歯科切削加工用ジルコニアから切削加工された補綴装置に用いる蛍光性付与液であって、(a)水溶性ビスマス化合物及び/又は水溶性ネオジウム化合物:2~40wt%
(b)水及び/又は植物油:8~70wt%
(C)有機溶媒:0.1-10wt%
を含むことを特徴とする蛍光性付与液である。
【0013】
本発明は、有機溶媒がアルコール類、ポリオール類、グリコールエーテル類のいづれか一つ以上であることを特徴とする蛍光性付与液である。
本発明は(a)ビスマス化合物及び/又は水溶性ネオジウム化合物がエチレンジアミン四酢酸ビスマス、酒石酸ビスマス、酢酸ネオジウムであることを特徴とする蛍光性付与液である。
本発明は、鉄、コバルト、クロムの内一つ以上が固溶したジルコニア粉末で着色されていることを特徴とする蛍光性付与液である。
本発明は、歯科切削加工用ジルコニアから切削加工された補綴装置がインレー、ラミネート、クラウン、ブリッジであることを特徴する蛍光性付与液である。
本発明は、歯科切削加工用ジルコニアから切削加工された補綴装置の表層のみに蛍光性付与液を塗布もしくは浸漬することを特徴とする蛍光性付与方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の蛍光性付与液を歯科切削用ジルコニアから切削加工された補綴装置に適用することにより、変色することなく、補綴装置の蛍光性を付与することができる。
【0015】
更に予め着色されたジルコニアの予備焼結体に塗布することにより、着色液を使用することなく、塗布した部分のみ蛍光性を付与することができ、塗布量を調整することにより変色を起こすことなく蛍光性を付与できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の構成要件について具体的に説明する。
(a)水溶性ビスマス化合物及び/又は水溶性ネオジウム化合物の溶解するとは分散を含む意味である。溶解とは溶解度の範囲内であること、分散は混合後24時間静置しても沈澱物が発生しないことをいう。
本発明の蛍光性付与液に含まれる(a)成分の水溶性ビスマス化合物は水に溶解及びまたは分散するものであれば、いずれのビスマス化合物でも用いることができる。
具体的には、乳酸塩、エチレンジアミン四酢酸ビスマス、酸化酒石酸ビスマス水和物、クエン酸ビスマスナトリウム、クエン酸ビスマスカリウム、塩化酸化ビスマス、クエン酸ビスマス、オキシ酢酸ビスマス、オキシ過塩素酸ビスマス、オキシサリチル酸ビスマス、三塩化ビスマス、三臭化ビスマス、水酸化ビスマス、オキシ炭酸二ビスマス、オキシ硝酸ビスマス、硫酸ビスマス、硝酸ビスマスなどが挙げられ、エチレンジアミン四酢酸ビスマス、酒石酸ビスマスが特に好ましい。これらの水溶性ビスマス化合物は単独だけでなく、複数を組み合わせて用いることができる。
また、ビスマス化合物は錯化体と併用して、水溶性化合物にしてもよく、キレート材と併用しても良い。キレート材としてはEDTAやクエン酸などが挙げられる。
【0017】
本発明の蛍光性付与液に含まれる(a)成分の水溶性ネオジウム化合物は水に溶解及びまたは分散するものであれば、いずれのネオジウム化合物でも用いることができる。例えば、塩化物、硝酸化物、硫酸化物、酢酸化物、などが挙げられ、塩化ネオジウム、酢酸ネオジウムが使用できる。具体的には、塩化ネオジウム、硝酸ネオジウム、硫酸ネオジウム、酢酸ネオジウムなどが挙げられ、塩化ネオジウム、酢酸ネオジウムが特に好ましい。
【0018】
本発明の蛍光性付与液に含まれる(a)成分の水溶性ビスマス化合物及び/又は水溶性ネオジウム化合物の含有量は2wt%~40wt%の範囲であることが必須であり、より好ましくは20wt%~30wt%の範囲で含まれていることである。蛍光性付与液に含まれている水溶性ビスマス化合物の含有量が1wt%未満である場合、補綴装置に蛍光性付与液を塗布しても蛍光性が付与されない。一方、40wt%を超えると水への溶解性及びまたは分散性が著しく悪くなるため、均一な蛍光性付与液を調製することができない。
【0019】
本発明の蛍光性付与液に含まれている水及び/又は植物油は(a)水溶性ビスマス化合物及び/又は水溶性ネオジウム化合物を溶解及びまたは分散させるために必要であり、特に水の含有は溶解及びまたは分散させることに有利になる。
本発明の蛍光性付与液に含まれている水は特に限定されないが、イオン交換水、日本薬局方精製水および日本薬局方蒸留水等を用いることできる。本発明の蛍光性付与液に含まれている水の含有量は特に制限はないものの、8~70wt%の範囲が好ましく、より好ましくは30~60wt%の範囲である。含有量が少ない場合は(a) 水溶性ビスマス化合物及び/又は水溶性ネオジウム化合物の溶解性及びまたは分散性が悪くなり、配合量が多い場合は蛍光性付与の効果が少なくなる。
本発明の蛍光性付与液に含まれている植物油は特に限定されず、いずれの植物油でも用いることができる。具体的に例示するとガムネン、ピネン、D-リモネン、ターピネオール等が挙げられ、その中でもピネン、D-リモネンが好ましい。
本発明の蛍光性付与液に含まれている植物油の含有量は特に制限はないものの、好ましくは8~70wt%の範囲であり、より好ましくは30~60wt%の範囲である。含有量が少ない場合は(a) 水溶性セリウム化合物及び/又は(b) 水溶性希土類化合物の溶解性及びまたは分散性が悪くなり、含有量が多い場合は(a) 水溶性セリウム化合物及び/又は(b) 水溶性希土類化合物の割合が減少するため、透明性向上の効果が少なくなる。
本発明の蛍光性付与液に含まれている有機溶媒は水や植物油と相溶するものを適時選択して用いることができる。この有機溶媒は増粘剤として粘度を調製し、かつジルコニアの焼結時に有機物としての残渣が残らないものが好ましい。この有機溶媒を具体的に例示するとメタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、アセトン、1.4ジオキサン、ポリプロピレングリコール等が挙げられ、その中でもポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが好ましい。また、本発明の蛍光性付与液に含まれている有機溶媒の含有量は0.1wtから10wt%が特に好ましい。有機溶媒の含有量が0.1wt%未満の場合は塗布性が悪くなる。10wt%以上の場合は液の浸透性が悪くなる。
【0020】
また、本発明の蛍光性付与液に有機染料をベースとする有機マーカーを含有してもよい。これは蛍光性付与液を歯科切削加工用ジルコニアから切削加工により作製した補綴装置に適用した場合において、その適用した領域を視覚化することができ、また適用した蛍光性付与液の量やその浸透度合いも視覚化することができる。有機染料は無機物を含まないことが求められる。有機染料として具体的に例示するとクチナキ黄色素、アナトー色素、赤キャベツ色素等が挙げられ、その中でも赤キャベツ、クチナキ黄色素が好ましい。
【0021】
本発明は多孔質である予備焼結された歯科切削加工用ジルコニアを切削加工することにより、補綴装置(半焼結体)を作製し、その補綴装置に本発明の蛍光性付与液を適用後に完全焼結して色調の彩度や透明性の向上をもたらせるものである。そのため本発明の蛍光性付与液が予備焼結体である補綴装置に浸透して、その後の完全焼結により補綴装置の蛍光性を付与することができる。そのためには、補綴装置を切削加工により作製する歯科切削加工用ジルコニアの相対密度や比表面積、そして組成等がそれらに影響を与える。
そのため補綴装置を切削加工により作製する歯科切削加工用ジルコニアの相対密度(完全焼結体の密度を100%としたとき半焼結体の見かけ上の密度を相対密度と定義)は45~60%であることが好ましい。相対密度が45%未満ではCAD/CAM加工機による加工性が悪くなる傾向にある。一方、相対密度が60%を越える場合は、塗布した蛍光性付与液が浸透しにくい傾向にある。また予備焼結体が多孔質であるという観点から歯科切削加工用ジルコニアブランクの比表面積は10~200cm2/gの範囲であることが好ましい。比表面積が10cm2/g未満であると蛍光性付与液の浸透が十分でない傾向にあり、一方比表面積が200cm2/gを越えるとCAD/CAM加工機による切削性悪くなる傾向にある。
【0022】
また、本発明の蛍光性付与液を適用する補綴装置を作製するための歯科切削加工用ジルコニアに安定化材として、イットリウム及び/または、エルビウムを含んでいることが好ましい態様であり、これは本発明の蛍光性付与液を適用する補綴装置の歯科切削用ジルコニアが安定化材を含むものがより審美的である。歯科切削加工用ジルコニア中にこれらの安定化材が含まれているモル濃度は4mol%以下であることが好ましい。歯科切削加工用ジルコニア中における安定化材のモル濃度が4mol%を越える場合は完全焼結後において補綴装置の透明性は向上するものの強度は低下する傾向にある。
【0023】
本発明の蛍光性付与液を適用する補綴装置を作製するための歯科切削加工用ジルコニアは着色されたジルコニア粉末を用いて製造したものが好ましく、具体的には上記エルビウム安定化材入りのジルコニア粉末(赤色)や鉄を含有した黄色のジルコニア粉末等が挙げられる。また、これらの着色ジルコニア粉末に加えて色調調整のためにコバルト(グレー)、マンガン(赤色)、クロム(黄色)などの元素を含有した着色ジルコニア粉末を併用しても何等問題はない。
また歯科切削加工用ジルコニアの焼結性向上と低温劣化の抑制を目的として、0.01wt%~0.3wt%の範囲で焼結助剤であるアルミナ(酸化アルミニウム)を含有するジルコニア粉末を用いて製造した歯科切削加工用ジルコニアを用いることも好ましい態様である。しかし、アルミナを過剰に含有するジルコニア粉末を用いると歯科切削加工用ジルコニアの光透過性が低下する傾向にあるため、0.01wt%~0.25wt%の範囲でアルミナ(酸化アルミニウム)を含有するジルコニア粉末を用いて製造した歯科切削加工用ジルコニアを用いることがより好ましい。
【0024】
本発明の蛍光性付与液を適用する補綴装置の種類は特に制限はなく、インレー、ラミネート、クラウン、ブリッジ等のいずれの補綴装置でも何等問題はない。そのため補綴装置を切削加工により作製する歯科切削加工用ジルコニアの形状も特に制限はなく、インレー、ラミネート、クラウン等に対応したブロック形状やブリッジに対応したディスク形状など、いずれの形状の歯科切削加工用ジルコニアでも用いることができる。また、本発明の蛍光性付与液を適用することにより、より審美的な補綴装置を得るためには多層構造のブロック形状やディスク形状の歯科切削加工用ジルコニアを用いることがより好ましい態様である。
【0025】
また、本発明の蛍光性付与液は全ての成分を混合して製造する。流動性がある状態の液体状であれば好ましい。蛍光性付与液はいずれの状態であっても何等制限は無く、例えば均一にすべての成分が相溶している状態、複数層に分離している状態、ある特定の成分が分離して沈降している状態等が挙げられるが、使用前に振る等の操作により全体が均一な状態になるのであれば特に問題はない。その中でも本発明の蛍光性付与液を補綴装置に塗布後に本発明の蛍光性付与液が浸透するという観点からすべての成分が相溶しており、流動性がある低粘性の液体状であることが好ましい。
【実施例
【0026】
以下、実施例により本発明をより詳細に、且つ具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
ジルコニア蛍光性付与液として表1に記載の配合で用意した。調合は各種試薬を溶媒にて1時間混合した。蛍光性を付与するジルコニアディスクとしては松風製「松風ディスクZR-SSカラード ピーチライト色」を用いて10mm×10mm×1mmのセミシンタージルコニア片を切り出した。その後、セミシンタージルコニア片を蛍光性付与液に5分間浸漬し、取扱説明書記載の方法にて焼結を行った。また、蛍光性に関しては蛍光測定装置にて488nmの波長の蛍光強度を比較して蛍光強度を求めた。天然歯の蛍光強度を100としてそれ以外の蛍光性を比較蛍光強度100として他の実施例はそれとの比較を行った。また、蛍光性付与液の塗布性を○、△、×で評価した。塗布含浸性は筆により塗れるものを○とし、やや粘性が低く、塗布しにくいものを△、全く塗布できないものを×とした。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】