(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】耐雷トランス
(51)【国際特許分類】
H01F 27/36 20060101AFI20220318BHJP
H02H 7/20 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
H01F27/36
H02H7/20 A
(21)【出願番号】P 2018051161
(22)【出願日】2018-03-19
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000130835
【氏名又は名称】株式会社サンコーシヤ
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安喰 浩司
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 寿彦
(72)【発明者】
【氏名】安田 諒
【審査官】杉田 恵一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-254487(JP,A)
【文献】特開2015-064297(JP,A)
【文献】韓国登録実用新案第20-0343466(KR,Y1)
【文献】柳川俊一,よくわかる雷サージ対策技術,初版,日本,日刊工業新聞社,2015年08月31日,第97頁から第99頁,ISBN 978-4-526-07450-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/36
H02H 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次巻線を有する一次側回路と、前記一次巻線に近接して配置される二次巻線を有する二次側回路と、を有し、前記一次巻線の一端側と前記二次巻線の一端側との間の第1のキャパシタと、前記一次巻線の他端側と前記二次巻線の他端側との間の、前記一次巻線の他端側から順番に第2のキャパシタ及び第3のキャパシタと、前記第2のキャパシタと前記第3のキャパシタとの間とアースとの間に設けられた接地抵抗とを有する耐雷トランスであって、
前記接地抵抗の値が
30Ωから100
Ωの場合において、サージ移行率が1%以下となるように前記第2のキャパシタの容量値を設定したことを特徴とする耐雷トランス。
【請求項2】
前記第2のキャパシタの容量を前記第3のキャパシタの容量の1/100以下としたことを特徴とする請求項1に記載の耐雷トランス。
【請求項3】
D種接地箇所に設置可能な請求項1又は2に記載の耐雷トランス。
【請求項4】
前記第2のキャパシタの容量値は、前記接地抵抗での電圧に基づいて設定されることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の耐雷トランス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雷サージ等の異常高電圧から電気機器等を保護するための耐雷トランスに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、耐雷トランスを設けた低圧電源線と通信信号線の両方に接続されて使用される電気機器の雷サージ保護方法であって、避雷器又はサージ吸収素子と、電気的振動抑制装置とを上記電源線と上記通信信号線の線間及び/又は対地間に設けたことを特徴とする雷サージ保護方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の耐雷トランス単体のサージ移行率は一般的に0.1%以下になるよう設計されている。このサージ移行率0.1%は、シールド層の接地抵抗が0Ωの場合に相当し、接地抵抗が大きくなるにつれてサージ移行率も大きくなってしまう。そこで、耐雷トランスの接地抵抗は10Ω以下(A種接地)が基準とされている。
【0005】
しかしながら、周囲の環境条件によってはA種接地の施工が困難な場所(例えば鉄道の線路沿い等)があり、耐雷トランスの接地にD種接地(100Ω以下)を用いなければならないケースがある。
【0006】
このような場合は接地抵抗が大きいためサージ移行率が高くなってしまい、耐雷トランスのサージ抑制効果が十分に生かされず、機器を雷サージ等の異常電圧から満足に保護できなくなってしまうという問題が発生する。
【0007】
本発明は、耐雷トランスにおいて、サージ移行率の接地抵抗に対する依存性を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一次巻線からシールド層までの間に生じる漂遊容量の容量値を小さくする。これにより、接地抵抗に流れ込むサージ電流を抑制し、接地抵抗による電位上昇を低減し、サージ移行率の上昇を抑制する。
【0009】
本発明の一観点によれば、一次巻線を有する一次側回路と、前記一次巻線に近接して配置される二次巻線を有する二次側回路と、を有し、前記一次巻線の一端側と前記二次巻線の一端側との間の第1のキャパシタと、前記一次巻線の他端側と前記二次巻線の他端側との間の、前記一次巻線の他端側から順番に第2のキャパシタ及び第3のキャパシタと、前記第2のキャパシタと前記第3のキャパシタとの間とアースとの間に設けられた接地抵抗とを有する耐雷トランスであって、前記接地抵抗の値が100Ω以下の場合において、サージ移行率が1%以下となるように前記第2のキャパシタの容量値を設定したことを特徴とする耐雷トランスが提供される。
【0010】
前記第2のキャパシタの容量を前記第3のキャパシタの容量の1/100以下としたことが好ましい。
【0011】
本発明は、D種接地箇所に設置可能な耐雷トランスである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐雷トランスにおいて、サージ移行率の接地抵抗に対する依存性を抑制することができるようになり、接地抵抗が大きい場所でもサージ移行率を低く保つことができる耐雷トランスを提供することができる。
【0013】
これにより、A種接地(接地抵抗10Ω以下)の施工が困難で、D種接地(100Ω以下)で施工される場所においても、耐雷トランスのサージ抑制効果を十分に生かし、機器を雷サージ等の異常電圧から満足に保護できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】耐雷トランスによる雷サージ電圧抑制対策の一例を示す図である。
【
図2】サージに対する耐雷トランスの等価回路を示す図である。
【
図3】サージ電圧が印加されたときの電流の流れを等価回路で示す図である。
【
図4】接地抵抗を考慮に入れた新しいサージに対する等価回路図である。
【
図5】
図4の等価回路にサージ電圧が印加された場合の電流の流れを示した図である。
【
図6】
図5中の静電容量のインピーダンスの値を大まかな比で示した図である。
【
図7】本実施の形態による、サージ移行率を改善する原理を示す図である。
【
図9】本実施の形態による新耐雷トランスと現用耐雷トランスのサージ移行率計算結果を示す図である。
【
図10】一般的な接地抵抗における新耐雷トランスと現用耐雷トランスのサージ移行率の比較例を示す図である。
【
図11】従来品と本実施の形態に基づく設計思想による試作品のサージ移行率実測結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態による耐雷トランスについて、図面を参照しながら説明する。
【0016】
まず、サージ移行率の接地抵抗に対する依存性が低い耐雷トランスを提供するための発明者の考察について説明する。
【0017】
図1は、耐雷トランスによる雷サージ電圧抑制対策の一例を示す図である。雷サージの侵入が予測されるAC電源線等に適用する。一次側回路1は、配線1a,配線1b,コイル1cからなり、一次側回路1に、例えばAC電源側からV1=20kVの雷サージ電圧が印加された場合、二次側回路11(11a,11c,11b)に進行する電圧は20V以下(一般的にはV1の0.1%以下、すなわち、以下の式(1)に示すように、サージ移行率:0.1%以下)に抑制することができる。ここで、コイル1cとコイル11cとの間にシールド層15が形成される。
【0018】
この抑制効果により、二次側回路に接続される機器17を過大な雷サージ電圧から防護することが出来る。
【0019】
【0020】
図2は、サージに対する耐雷トランスの等価回路を示す図である。
図2の左図に示す
一次側回路1と二次側回路11からなる等価回路は、サージのような高周波電圧が印加された場合には、トランス内部の静電容量(C1、C2、C3)に流れる電流が支配的になる。従って、サージに対する等価回路は
図2右図に示したように静電容量Cのみで表すことができる。
【0021】
図3は、サージ電圧が印加されたときの電流の流れを等価回路で示す図である。
図3に示すように、二次側回路11に発生する電圧v2は静電容量C2を介して一次側回路1からアースGNDに流れる電流i1に関係なく、静電容量C1を介して一次側回路1から二次側回路11に流れ、次いで、静電容量C3を介してアースGNDに流れる電流i2によって決まる。すなわち、二次側電圧v2は静電容量C1と静電容量C3とで印加電圧v1を分圧した値となる(下記(2)式参照)。
【0022】
【0023】
また、上記の耐雷トランスでは、静電容量C1を1とするとC3は1000以上となるようにしている。これにより、トランス単体のサージ移行率を0.1%以下にすることができる。
【0024】
上記の考察において明らかなように、耐雷トランスのサージ移行率はトランス単体の移行率であり、接地抵抗が0Ωの場合に相当する。すなわち、従来は、接地抵抗が0Ωの場合での設計を行っていた。
【0025】
(接地抵抗の影響)
しかしながら、実際に耐雷トランスを設置する場合には、接地抵抗が必ず存在する。そして、サージ移行率はこの接地抵抗の影響を受ける。発明者は、以下に説明するように、新規な設計手法を用いた耐雷トランスを設計、試作した。
【0026】
図4は、接地抵抗を考慮に入れた新しいサージに対する等価回路図である。
図5,
図6は、
図4の等価回路にサージ電圧が印加された場合の電流の流れを示した図である。
図5は静電容量C1,C2,C3の値を大まかな比で示した図である。
図6は、静電容量C1,C2,C3のインピーダンスの値を大まかな比で示した図である(いずれも、パラメータの後ろに括弧書きの数値で示した)。さらに、
図5,
図6では、静電容量C2、接地抵抗Rを介してアースGNDに流れる電流i1,静電容量C1、C3、接地抵抗Rを介してアースGNDに流れる電流i2の値も比で示している。一次巻線を符号51で、二次巻線を符号52で示す。
【0027】
これらの図を参照すると、接地抵抗Rに流れる電流はi1が支配的であり(i2の100倍)、それに伴い二次側電圧v2もi1×Rが支配的となり、サージ移行率が接地抵抗Rに大きく影響されることが分かる。
【0028】
(サージ移行率の改善方法)
以下に、接地抵抗を考慮した耐雷トランスのサージ移行率の改善について説明する。
図7(a)は、本実施の形態による、サージ移行率を改善する原理を示す図である。接地抵抗Rを考慮した場合の耐雷トランスの二次側電圧v2においては、接地抵抗Rに発生する電圧vRが支配的である。vRにおいては、一次巻線~シールド層間を介して接地抵抗Rに流れる電流i1が支配的である。したがって電流i1を抑制すれば、接地抵抗Rにおける電圧vRは抑制され、サージ移行率が低減することがわかる。
【0029】
そこで、
図7(b)に示すように、一次巻線~シールド層間静電容量を従来(現状)の1/10とし、そのインピーダンスを10倍とする。(3)式に示すように、接地抵抗Rに流れる電流i1が1/10となることにより改善される(vR改)は(vR)の1/10となり、サージ移行率の大きな低減が可能である。
【0030】
【0031】
尚、上記の例では、一次巻線~シールド層間静電容量を1/10とした例について説明したが、例えば、1/3以下程度であれば、一定の効果を発揮できることが確認されている(後述の(試作品による確認結果)を参照)。
【0032】
(改善効果)
次に、上記の方針に基づいて新たに設計した耐雷トランスについての改善効果について説明する。
等価回路計算による改善原理の確認
図8(a)は、計算に用いた等価回路図である。理論計算は、サージ電圧の模擬として交流250kHzの電源を用いた交流回路に基づく計算により行った。
【0033】
図8(a)に示すように、接地抵抗を考慮した等価回路は、一次巻線71と二次巻線72と、を有する。そして、一次巻線71と二次巻線72との間の静電容量をC1、一次巻線71とシールド層間の静電容量をC2、二次巻線72とシールド層間の静電容量をC3とする。また、Rを接地抵抗とする。
【0034】
図8(b)は、
図8(a)に基づくサージ移行率計算のためのモデル回路を示す図である。
【0035】
ここでは、以下の式が成立する。
【0036】
【0037】
(計算に用いた定数)
表1に計算に用いた定数を示す。計算対象モデルは、現用耐雷トランス、本実施の形態による耐雷トランス(新耐雷トランス)の2種を用いた。
【0038】
新耐雷トランスでは、接地抵抗に流れるサージ電流を抑制するため、一次巻線~シールド層間の静電容量C2を現用トランスの1/5、1/10、1/20とした例について計算した。
【0039】
【0040】
ここで、計算条件を下のようにした。
※1 計算対象モデル:現用耐雷トランス、新耐雷トランス
※2 交流電源周波数:250kHz(波頭長1.0μsのサージに相当)
※3 実測値は現用耐雷トランスのC3のみ
※4 現用耐雷トランスのC1はC3の1/1500とした。
※5 新耐雷トランスのC2は現用耐雷トランスC2の1/5、1/10、1/20とした。
【0041】
(計算結果)
図9は、本実施の形態による新耐雷トランスと現用耐雷トランスのサージ移行率計算結果を示す図である。
図10は、一般的な接地抵抗における新耐雷トランスと現用耐雷トランスのサージ移行率の比較例を示す図である。
【0042】
これらの計算結果を見ると、一次巻線~シールド間の静電容量C2が小さいほど移行率が低減されることが分かる。
【0043】
図10において、現用耐雷トランスとC2を現用の1/10(35.2pF)とした新耐雷トランスとで比較する。接地抵抗1Ωでは双方とも0.1%(1/1000)以下である。しかしながら、接地抵抗10Ωでは現用品が1%(1/100)以下というレベルであるのに対し、新耐雷トランスでは0.1%以下を維持していることがわかる。
【0044】
また、接地抵抗100Ωでの新耐雷トランスのサージ移行率(0.59%)と、接地抵抗10Ωでの現用耐雷トランスのサージ移行率(0.50%)はほぼ同じ値となった。
【0045】
このことから、本実施の形態による新耐雷トランスによれば、D種接地(接地抵抗100Ω)箇所でも従来のA種接地(接地抵抗10Ω)に相当するサージ移行率を確保できることがわかる。
【0046】
(試作品による確認結果)
以上のサージ移行率低減効果原理の基本的妥当性を確認するため、現用耐雷トランス相当の従来品において、一次巻線~シールド層間の離隔を大きくし、その静電容量C2を減じた耐雷トランス(C2の値については以下参照)を試作した。
【0047】
ここで、“従来品”と“試作品”との静電容量C2の値はそれぞれ以下の通りである。
(従来品) C2=195pF
(試作品) C2=70pF(従来品の約1/3)
【0048】
図11は、従来品と本実施の形態に基づく設計思想による試作品のサージ移行率実測結果を示した図である。
図11に示すように、試作品の方がどの接地抵抗の値に対しても、従来品より低いサージ移行率を示すことがわかる。
【0049】
尚、以上の結果より、C2の容量値を従来品の1/3以下程度にすれば、サージ移行率の上昇を抑制することができることがわかる。
【0050】
このように、本実施の形態による耐雷トランスによれば、耐雷トランスにおいて、サージ移行率の接地抵抗に対する依存性を抑制することができるようになり、接地抵抗が大きい場所でもサージ移行率を低く保つことができる耐雷トランスを提供することができる。
【0051】
また、これにより、A種接地(接地抵抗10Ω以下)の施工が困難で、D種接地(100Ω以下)で施工される場所においても、耐雷トランスのサージ抑制効果を十分に生かし、機器を雷サージ等の異常電圧から満足に保護できるようになる。
【0052】
上記の実施の形態において、図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0053】
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、耐雷トランスに利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 一次側回路
11 二次側回路
C1,C2,C3 静電容量
71 一次巻線
72 二次巻線