IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社きもとの特許一覧

<>
  • 特許-機能性部材 図1
  • 特許-機能性部材 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-17
(45)【発行日】2022-03-28
(54)【発明の名称】機能性部材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20220318BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20220318BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20220318BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220318BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20220318BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20220318BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B27/36
B32B27/38
B32B27/00 C
C09D133/00
C09D167/00
C09D5/00 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018052239
(22)【出願日】2018-03-20
(65)【公開番号】P2019162808
(43)【公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000125978
【氏名又は名称】株式会社きもと
(72)【発明者】
【氏名】船橋 洋平
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 輝弘
(72)【発明者】
【氏名】岸 幸生
(72)【発明者】
【氏名】奈良 英明
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特許第2948030(JP,B2)
【文献】特許第3817129(JP,B2)
【文献】特許第5245112(JP,B2)
【文献】特許第4449414(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/30
B32B 27/36
B32B 27/38
B32B 27/00
C09D 133/00
C09D 167/00
C09D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一方の面に易接着層及び機能層をこの順に積層した機能性部材であって、前記易接着層を形成するための組成物がグリシジル基を有するポリエステル-アクリル複合樹脂を含み、且つ当該組成物の固形分酸価が2.5~6.0mgKOH/gであり、前記機能層を形成するための組成物がグリシジル基と反応性を持つ官能基を有する化合物を含み、且つ当該組成物の固形分酸価が4.0mgKOH/g以下であることを特徴とする機能性部材。
【請求項2】
前記易接着層を形成するための組成物が、前記ポリエステル-アクリル複合樹脂を主成分とするものであることを特徴とする請求項1に記載の機能性部材。
【請求項3】
前記易接着層を形成するための組成物の固形分全体の構成成分に占めるアクリル樹脂成分の含有量が20~50重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の機能性部材。
【請求項4】
前記グリシジル基と反応性を持つ官能基がヒドロキシ基であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の機能性部材。
【請求項5】
前記基材の前記易接着層が積層される面が、表面処理によってグリシジル基と反応性を持つ官能基が導入されるものであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の機能性部材。
【請求項6】
前記表面処理によって導入されるグリシジル基と反応性を持つ官能基が、ヒドロキシ基であることを特徴とする請求項5記載の機能性部材
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材、易接着層、機能層がこの順番に積層された機能性部材、フィルム、シート等に関し、詳しくは高温高湿等の厳しい環境下でも十分な密着性が維持される機能性部材、フィルム、シート等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料は、その軽量性、加工適正、生産性により、電子デバイスの材料として広く使用されている。プラスチック材料は、それ単体で用いられる場合もあるが多くの場合は表面に特定の機能を持たせた機能層が積層され、用途に応じた機能が付加されている。特に近年では、ガラスや金属材料の置き換えとして従来では使用されなかったような分野へプラスチック材料の使用が進み、それに伴いプラスチック材料にも高温高湿等の厳しい環境下での高い層間密着安定性が求められるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平09-176518号公報
【文献】国際公開2015/170560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、プラスチック材料の原料であるポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリイミド等の熱可塑性樹脂は通常、溶融して、繊維、フィルム、シート等に形成されるが、その表面は結晶化されている場合が多く、インキ、接着剤等の接着性に乏しい。中でもフィルムの場合、延伸、熱固定の工程により、高度に結晶配向されるため、その接着性のレベルは非常に低く、密着性が一般に劣ることが知られている。
【0005】
このような場合、プラスチックフィルムと親和性の高い材料が機能層に使われることで解決できるが、機能層の材料が極度に制限されてしまい必要な機能が損なわれることがあった。そのため、特許文献1や特許文献2のように基材と機能層の間に両層と親和性の高い易接着層が設けられることで基材と易接着層の密着性及び易接着層と機能層の密着性を向上させる手法が取られている。しかしながら、このように易接着層が設けられた機能性プラスチックフィルムであっても、初期の密着性は良好であるものの、高温高湿等の厳しい環境下で該フィルムが長時間暴露されると、基材と易接着層の密着性及び/又は易接着層と機能層の密着性が低下し、易接着層及び/又は機能層が剥がれる等の不具合が起こっている。
【0006】
上述したように近年、今までは使われないような分野、例えばタッチパネル用透明導電性基材、フレキシブル回路基板、フレキシブルディスプレイ用基板、有機EL用基材、LED照明用基材等のような電子デバイスの材料においてもプラスチック材料が使用されており、従来では要求されなかったような高い初期密着性及び高温高湿等の厳しい環境下での経時密着安定性が要求されている。
【0007】
本発明は、基材と易接着層の密着性及び易接着層と機能層の密着性を向上させ、高温高湿等の厳しい環境下での長時間暴露においても十分な密着性が維持されることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の機能性部材は、基材の少なくとも一方の面に易接着層及び機能層をこの順に積層した機能性部材であって、前記易接着層を形成するための組成物がグリシジル基を有するポリエステル-アクリル複合樹脂を含み、且つ当該組成物の固形分酸価が2.5~6.0mgKOH/gであり、前記機能層を形成するための組成物がグリシジル基と反応性を持つ官能基を有する化合物を含み、且つ当該組成物の固形分酸価が4.0mgKOH/g以下であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の機能性部材は、好適には前記易接着層を形成するための組成物が、前記ポリエステル-アクリル複合樹脂を主成分とするものであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の機能性部材は、好適には前記易接着層を形成するための組成物の固形分全体の構成成分に占めるアクリル樹脂成分の含有量が20~50重量%であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の機能性部材は、好適には前記グリシジル基と反応性を持つ官能基がヒドロキシ基であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の機能性部材は、好適には前記基材の前記易接着層が積層される面が、表面処理によってグリシジル基と反応性を持つ官能基が導入されるものであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の機能性部材は、好適には前記表面処理によって導入されるグリシジル基と反応性を持つ官能基が、ヒドロキシ基であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前記機能性部材の基材と易接着層の密着性及び易接着層と機能層の密着性を向上させることができる。特に高温高湿等の厳しい環境下でも前記機能性部材は密着性の変化が少なく、良好な密着性が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の機能性部材の基本的な形態
図2】本発明の機能性部材において、基材の機能層が形成された面とは反対の面にバックコート層が施された形態
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1及び図2を参照して、本発明である機能性部材の実施形態について説明する。
【0017】
本発明の機能性部材は、基本的な構成として図1に示すように基材10、易接着層20及び機能層30を有するものである。機能性部材は、図1に示すものだけでなく、機能層30が積層された面とは反対側の面にバックコート層40(図2)を備えていてもよい。
【0018】
まず基材10について説明する。基材10としては、プラスチックフィルムが好適に使用される。プラスチックフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、トリアセチルセルロース、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリノルボルネン、ポリイミド化合物等が使用でき、例えば透明性、耐熱性、機械的強度、寸法安定性、色味等の用途に応じて基材を選択できる。中でも延伸加工、特に二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムが機械的強度、寸法安定性に優れているために好適に使用される。
【0019】
基材10の厚みは、特に限定されず適用される材料に対して適宜選択できるが、取扱い性を考慮すると一般に1μm以上300μm以下であり、好ましくは23μm以上188μm以下である。
【0020】
基材10は、場合によりプラズマ処理、コロナ放電処理、遠紫外線照射処理等の表面処理が施される場合がある。これらの表面処理が施されることで、基材10への易接着層20の濡れ性が良くなり密着性を向上させる。特にプラズマ処理やコロナ放電処理で導入される官能基がグリシジル基と反応性を持つ官能基である場合、後述する易接着層20のグリシジル基と付加反応が起こり、より密着性を向上させる。
【0021】
ここで、前記表面処理により導入されるグリシジル基と反応性を持つ官能基は、例えばヒドロキシ基、カルボキシ基、ヒドロペルオキシ基、カルボニル基、エポキシ基等が挙げられ、好適にはヒドロキシ基であることが望ましい。
【0022】
次に易接着層20について説明する。易接着層20を形成するための組成物は、グリシジル基を有するポリエステル-アクリル複合樹脂を含み、特定の固形分酸価を有する組成物であれば特に限定されず、電離放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の化合物を単独又は2以上組み合わせることができ、目的に応じて使い分けることができる。
【0023】
密着のメカニズムは確かではないが、易接着層20を形成するための組成物が特定の固形分酸価を有し、且つグリシジル基を有するポリエステル-アクリル複合樹脂を含み、さらに後述する機能層30を形成するための組成物が特定の固形分酸価を有し、且つグリシジル基と反応性を持つ官能基を有する化合物を含むことで、易接着層20と機能層30の間で付加反応が起こり易接着層20と機能層30の密着性を向上させると考えられる。
また基材10との密着性は基材10の素材により異なるが、密着性が十分ではない場合は、基材10に前述した表面処理が施されることにより密着性を向上させることができる。
さらに、基材10に前記表面処理により導入された極性基が前述したような特定の官能基の場合は、基材10と易接着層20の間にも付加反応が起こり、より密着性を向上させる。
【0024】
易接着層20を形成するための組成物の固形分酸価は、基材10と易接着層20の密着性及び易接着層20と機能層30の密着性を向上させるために2.5mgKOH/g以上が好ましく、さらに好ましくは3.0mgKOH/g以上であり、6.0mgKOH/g以下が好ましく、さらに好ましくは4.5mgKOH/g以下である。酸価が2.5mgKOH/g未満であると、前記グリシジル基と反応性を持つ官能基と前記グリシジル基との付加反応が十分に進まないことにより、基材10と易接着層20の密着性及び易接着層20と機能層30の密着性が低下する場合があり、6.0mgKOH/gより大きいと、前記グリシジル基の開環重合等の副反応が優先し、前記付加反応が阻害され、基材10と易接着層20の密着性及び易接着層20と機能層30の密着性が低下する不具合が起こる場合がある。
本発明における固形分酸価とは、JIS K 2501:2003に規定される指示薬滴定法によって求めた酸価とその固形分濃度から算出した値である。
【0025】
易接着層20を形成するための組成物の酸価は、該組成物を構成する化合物に、例えばカルボキシ基、スルホ基、リン酸基、フェノール性ヒドロキシ基等の官能基を導入することで調整することができる。
【0026】
前記組成物は、ポリエステル-アクリル複合樹脂を主成分とするものであることが望ましい。ポリエステル-アクリル複合樹脂を主成分とすることにより、基材10と易接着層20の密着性及び易接着層20と機能層30の密着性を向上させることができる。
本発明での主成分とは、組成物を構成する成分の全固形分を100重量部とした場合に、その成分が50重量部を超えることをいう。
【0027】
ポリエステル-アクリル複合樹脂は、ポリエステル樹脂とアクリル樹脂との混合物、又はポリエステル成分とアクリル成分の両方が構成成分として含まれる化合物のどちらでもよいし、それらが複合されていてもよい。ポリエステル成分とアクリル成分の両方が構成成分として含まれる化合物とは、例えばポリエステル-アクリル共重合体等が挙げられる。組成物の保存安定性、膜の透明性や平滑性を考えるとポリエステル成分とアクリル成分の両方が構成成分として含まれる化合物であることが望ましい。
【0028】
前記易接着層20を形成するための組成物の成分比は必ずしも限定されないが、固形分全体の構成成分に占めるアクリル樹脂成分の含有量が20~50重量%の範囲内であると基材10と易接着層20の密着性及び易接着層20と機能層30の密着性をより向上させる。
【0029】
前記ポリエステル-アクリル複合樹脂のグリシジル基の含有量は、1グラム当量のエポキシ基を含む化合物のグラム数、すなわちエポキシ当量にて表すことができる。
前記ポリエステル-アクリル複合樹脂におけるエポキシ当量は、易接着層20と機能層30の密着性を向上させるために100g/eq.以上が好ましく、さらに好ましくは120g/eq.以上、もっとも好ましくは150g/eq.以上であり、100000g/eq.以下、さらに好ましくは10000g/eq.以下、もっとも好ましくは5000g/eq.以下である。この範囲を満たすことで、初期密着性及び高温高湿等の厳しい環境下での長時間暴露においても十分な密着性が維持される。
前記エポキシ当量が100g/eq.未満であると、易接着層20としての剛性や靱性が不足し、基材10と易接着層20の密着性及び/又は易接着層20と機能層30の密着性を低下させる。また、100000g/eq.を超えると、グリシジル基の含有量が少なすぎて基材10と易接着層20の間及び易接着層20と機能層30の間で付加反応により形成される化学結合の量が十分ではなく、高温高湿等の厳しい環境下で長時間暴露した場合に基材10と易接着層20の間及び/又は易接着層20と機能層30の間に剥離不具合が起こる。
エポキシ当量はJIS K 7236:2009に規定される方法にて求めることができる。
【0030】
さらに易接着層20には、本発明の機能を阻害しない範囲内において帯電防止剤、酸化防止剤、レベリング剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、難燃剤、紫外線吸収剤、分散剤、凝集剤、顔料、染料、滑剤等の添加剤をも適宜含有させることができる。
【0031】
易接着層20の厚みは、0.01μm以上50μm以下、好ましくは0.1μm以上5μm以下、より好ましくは0.5μm以上2μm以下である。このような厚みを有することにより、基材10と易接着層20の密着性及び易接着層20と機能層30の密着性を向上させ、高温高湿等の厳しい環境下での長時間暴露においても十分な密着性が維持される。
易接着層20の厚みは、例えば反射分光膜厚計(FE-300UV:大塚電子社)により測定される。
【0032】
次に機能層30について説明する。機能層30を形成するための組成物は、グリシジル基と反応性を持つ官能基を含み、特定の固形分酸価を有するものであれば特に限定されず、電離放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の化合物を単独又は2以上組み合わせることができ、目的に応じて使い分けることができる。
【0033】
このような電離放射線硬化性樹脂としては、光重合性プレポリマー若しくは光重合性モノマー等の1種又は2種以上を混合した電離放射線硬化性塗料に電離放射線(紫外線又は電子線)を照射することで硬化するものを使用することができる。ここで光重合性プレポリマーとしては、1分子中に1個又は2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するアクリル系プレポリマーが特に好ましく使用される。このアクリル系プレポリマーとしては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、メラミンアクリレート、ポリペルフルオロアルキルアクリレート、シリコーンアクリレート等が挙げられる。
【0034】
また光重合性モノマーとしては、1分子中に1個又は2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するアクリル系モノマーが特に好ましく使用される。例えば、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ブトキシエチルアクリレート等の単官能アクリルモノマー;例えば、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート等の2官能アクリルモノマー;例えば、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等の多官能(3官能以上)アクリルモノマー;等が挙げられる。これら光重合性モノマーは、単独使用又は2種類以上併用することができる。光重合性プレポリマーと光重合性モノマーの配合割合は特に制限されず、目的及び用途に応じて適宜設定される。
【0035】
また熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリウレタンアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられる。
【0036】
また熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、セルロース系樹脂、アセタール系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0037】
機能層30を形成するための組成物に含まれる易接着層20のグリシジル基と反応性を持つ官能基は、特に限定されるものではないが、例えばヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、カルボン酸無水物、イミダゾール基、メルカプト基、イソシアネート基等が使用できる。
製造時の反応の制御のしやすさを考えると特にヒドロキシ基が望ましい。
【0038】
機能層30を形成するための組成物の固形分酸価は、易接着層20と機能層30の密着性をより向上させるために4.0mgKOH/g以下が好ましく、さらに好ましくは3.0mgKOH/g以下である。酸価が4.0mgKOH/gを超えると、前記易接着層20内のグリシジル基の開環重合等の副反応が優先し、前記密着性を発現するための付加反応が阻害される不具合が起こる場合がある。
固形分酸価は、上述した易接着層20を形成するための組成物の固形分酸価と同様の方法で求めることができる。
【0039】
機能層30には、さらに硬化方法に応じて光開始剤、硬化剤等が含まれていてもよい。
光開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルメチルケタール、ベンゾイルベンゾエート、α-アシルオキシムエステル、チオキサンソン類等の光ラジカル重合開始剤やオニウム塩類、スルホン酸エステル、有機金属錯体等の光カチオン重合開始剤が挙げられる。中でも前記易接着層20内のグリシジル基の開環重合等の副反応を起こしにくく、(メタ)アクリロイル基を有する光重合性プレポリマーや光重合性モノマーを効果的に重合させる光ラジカル重合開始剤が特に好ましく使用される。
また硬化剤としては、ポリイソシアネート、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、カルボン酸等の化合物を適合する樹脂に合わせて適宜使用することができる。
【0040】
さらに機能層30には、本発明の機能を阻害しない範囲内において帯電防止剤、酸化防止剤、レベリング剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、難燃剤、紫外線吸収剤、分散剤、凝集剤、顔料、染料、滑剤等の添加剤も適宜含有させることができる。
【0041】
機能層30の厚みは、0.01μm以上100μm以下、好ましくは1μm以上10μm以下、より好ましくは2μm以上5μm以下である。このような厚みを有することにより、機能層30は易接着層20との密着性を向上させ、高温高湿等の厳しい環境下での長時間暴露においても十分な密着性が維持される。
機能層30の厚みは、例えば反射分光膜厚計(FE-300UV:大塚電子社)により測定される。
【0042】
機能層30の機能としては特に限定されないが、例えば防眩層、ハードコート層、反射防止層、防汚層、抗菌層、バリア層、遮光層、インデックスマッチング層、帯電防止層等を目的に応じて適宜選択できる。ハードコート層のように膜の収縮性が大きいために密着性が損なわれるような機能を選択した場合でも、本発明の易接着層20、機能層30の条件を満たすことで効果的に密着性を向上させることができる。
【0043】
次にバックコート層40について説明する。本発明の機能性部材は、基材の少なくとも一方の面にそれぞれ易接着層20、機能層30がこの順番で積層されたものであるが、必要に応じてバックコート層40が設けてもよい。バックコート層40は特に限定されず、用途に応じて必要な機能を有する層を適宜使用することができる。バックコート層40として易接着層20、機能層30が設けられてもよいし、基材10とバックコート層40の間に表面処理が施されてもよい。
【0044】
次に本発明の機能性部材の作製方法の一例を説明する。本発明の機能性部材の作製方法は特に限定されないが、例えば任意の基材10に、上述した易接着層20の材料を適当な溶媒に溶解又は分散させた易接着層用塗布液を、公知の方法で基材10上に塗布、乾燥し、必要に応じて紫外線等の電離放射線を照射して作製できる。さらに易接着層20の上に、上述した機能層30の材料を適当な溶媒に溶解又は分散させた機能層用塗布液を、公知の方法で塗布、乾燥し、必要に応じて紫外線等の電離放射線を照射して作製できる。
【0045】
また、バックコート層40を有する場合は、機能層30を備えた基材10の機能層30とは反対側の面に、適当な溶媒に溶解又は分散させたバックコート層用塗布液を、公知の方法で塗布、乾燥し、必要に応じて紫外線等の電離放射線を照射して作製できる。
【0046】
前記易接着層20、機能層30及びバックコート層40の塗布方法(成膜方法)については特に限定されず、例えばスピンコート法、エクストルージョンダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、ステンシル印刷法、ロールコート法、スプレーコート法、ディップコート法、インクジェット法等の公知の塗布方法を用いることができる。
【0047】
この時、易接着層20、機能層30及びバックコート層40の塗布順は、生産性等の観点から適宜選択できる。
また必要に応じて機能層30又はバックコート層40上に、さらに機能層を積層塗布してもよい。
【0048】
次に、本発明の機能性部材の特性について説明する。機能性部材が備えるべき特性は、初期密着性及び高温高湿等の厳しい環境下にて長時間暴露した後の密着性である。
【0049】
密着性は、JIS K 5400にて規定された碁盤目剥離試験に基づき、機能性部材を作製した後に何も処理していない状態(以下、「初期密着性試験」という)と、促進耐候性試験として温度85℃湿度85%(加湿は純水にて実施)の環境で一定期間暴露した後の状態(以下、「高温高湿暴露後密着性試験」という)の2種類の状態で試験を行い、各種試験片の碁盤目100マスのうち80マス以上のマスにおいて4分の1以上の剥離が見られない状態を合格とする。
【0050】
本発明の機能性部材によれば、基材10と易接着層20の密着性及び易接着層20と機能層30の密着性を向上させることができる。特に、高温高湿等の厳しい環境下での長時間暴露による経時変化が少なく、密着性が良好に維持される。
【実施例
【0051】
以下、本発明の機能性部材の実施例及び比較例を説明する。なお以下の実施例及び比較例において、特に断らない限り、「%」及び「部」はいずれも重量基準である。
【0052】
[実施例1]
厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラーT60:東レ社)の一方の面に、コロナ放電処理を施し、当該表面処理面に表1に示した処方の易接着層用塗布液Aを塗布、乾燥し、厚み1.5μmの易接着層を形成した。次いで、当該易接着層上に表2に示した処方の機能層用塗布液Aを塗布、乾燥した後、紫外線を照射し硬化させ、厚み3μmの機能層を形成し、実施例1の機能性部材を作製した。
【0053】
<ポリエステル樹脂A水分散液の製造>
テレフタル酸83部、イソフタル酸36部、エチレングリコール32部及びネオペンチルグリコール46部を窒素導入管、温度計、攪拌機及び蒸留器を備えたフラスコに仕込み、260℃で4時間加熱してエステル化反応を行った。次いで、触媒として三酸化アンチモン0.1部を添加し、系の温度を280℃に昇温し、系の圧力を徐々に減じて1.5時間後に0.1mmHgとした。この条件下でさらに4時間重縮合反応を行った結果、分子量18400のポリエステル樹脂Aを得た。得られたポリエステル樹脂A25部をイソプロパノール15部及びイオン交換水60部の混合溶液に仕込み、70~80℃で3時間攪拌を行い、固形分濃度25%のポリエステル樹脂A水分散液を得た。ポリエステル樹脂A水分散液の固形分酸価は1.0mgKOH/gであった。
【0054】
<ポリエステル樹脂B水分散液の製造>
ジメチルテレフタレート77部、ジメチルイソフタレート50部、エチレングリコール47部、ネオペンチルグリコール73部、触媒として酢酸亜鉛0.1部及び三酸化アンチモン0.1部を窒素導入管、温度計、攪拌機及び蒸留器を備えたフラスコに仕込み140~220℃で3時間加熱してエステル交換反応を行った。次いで240~270℃で減圧下(10~0.2mmHg)で30分かけて重縮合反応を行った。次に常圧下170~190℃で無水トリメリット酸15部を入れ、30分間付加反応を行った結果、分子量5700のポリエステル樹脂Bを得た。得られたポリエステル樹脂B25部をイソプロパノール15部及びイオン交換水60部の混合溶液に仕込み、70~80℃で3時間攪拌を行い、固形分濃度25%のポリエステル樹脂B水分散液を得た。ポリエステル樹脂B水分散液の固形分酸価は42mgKOH/gであった。
【0055】
<ポリエステル樹脂C水分散液の製造>
テレフタル酸83部、イソフタル酸83部、エチレングリコール62部、ジエチレングリコール21部及び触媒として酢酸亜鉛0.1部を窒素導入管、温度計、攪拌機及び蒸留器を備えたフラスコに仕込み190~220℃で13時間加熱してエステル化反応を行いポリエステルグリコールを得た。得られたポリエステルグリコール100部、キシレン100部及び無水ピロメリット酸28部を上記と同様の器具を備えたフラスコに仕込み140℃で1時間反応を行った後、キシレンを留去しつつ、系の温度を2時間かけて180℃に昇温し更に1時間保温した。その結果、分子量18000のポリエステル樹脂Cを得た。得られたポリエステル樹脂C25部をイソプロパノール15部及びイオン交換水60部の混合溶液に仕込み、70~80℃で3時間攪拌を行い、固形分濃度25%のポリエステル樹脂C水分散液を得た。ポリエステル樹脂C水分散液の固形分酸価は110mgKOH/gであった。
【0056】
<アクリル樹脂A水分散液の製造>
ビーカーにイオン交換水18部及びエレミノールRS-3000(三洋化成工業社、アニオン系界面活性剤、固形分濃度50%)3部を仕込み、攪拌しつつグリシジルメタクリレート40部を投入し、モノマー乳化液を作製した。次にコンデンサー、モノマー滴下用ロート、温度計及び攪拌機を備えたフラスコに、イオン交換水37.5部、エレミノールRS-3000を1部及び過硫酸カリウム0.5部を仕込み、攪拌しつつ窒素置換後、加温を始め、75℃で前記モノマー乳化液を4時間かけて滴下した。滴下終了後も液温75~85℃で4時間攪拌後、冷却した。冷却後、さらにイオン交換水を加えて、固形分濃度25%のグリシジル基を有するアクリル樹脂A水分散液を得た。アクリル樹脂A水分散液の固形分酸価は0.33mgKOH/gであった。

<アクリル樹脂B水分散液の製造>
ビーカーにイオン交換水18部及びエレミノールRS-3000(三洋化成工業社、アニオン系界面活性剤、固形分濃度50%)3部を仕込み、攪拌しつつメチルメタクリレート71部及びブチルアクリレート29部を投入し、モノマー乳化液を作製した。次にコンデンサー、モノマー滴下用ロート、温度計及び攪拌機を備えたフラスコに、イオン交換水37.5部、エレミノールRS-3000を1部及び過硫酸カリウム0.5部を仕込み、攪拌しつつ窒素置換後、加温を始め、75℃で前記モノマー乳化液を4時間かけて滴下した。滴下終了後も液温75~85℃で4時間攪拌後、冷却した。冷却後、さらにイオン交換水を加えて、固形分濃度25%のグリシジル基を有しないアクリル樹脂B水分散液を得た。アクリル樹脂B水分散液の固形分酸価は0.50mgKOH/gであった。
【0057】
[実施例2]
実施例1のコロナ放電処理を施さなかった以外は、実施例1と同様にして実施例2の機能性部材を作製した。
【0058】
[実施例3]
実施例1の易接着層用塗布液Aを表1記載の易接着層用塗布液Bに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例3の機能性部材を作製した。
【0059】
[実施例4]
実施例1の易接着層用塗布液Aを表1記載の易接着層用塗布液Cに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例4の機能性部材を作製した。
【0060】
[実施例5]
実施例1の機能層用塗布液Aを表2記載の機能層用塗布液Bに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例5の機能性部材を作製した。
【0061】
[実施例6]
実施例1の機能層用塗布液Aを表2記載の機能層用塗布液Cに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例6の機能性部材を作製した。
【0062】
[実施例7]
実施例1の機能層用塗布液Aを表2記載の機能層用塗布液Dに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例7の機能性部材を作製した。
【0063】
[実施例8]
実施例1の機能層用塗布液Aを表2記載の機能層用塗布液Eに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例8の機能性部材を作製した。
【0064】
[比較例1]
実施例1の易接着層用塗布液Aを表1記載の易接着層用塗布液Dに変更した以外は、実施例1と同様にして比較例1の機能性部材を作製した。
【0065】
[比較例2]
実施例1の機能層用塗布液Aを表2記載の機能層用塗布液Fに変更した以外は、実施例1と同様にして比較例2の機能性部材を作製した。
【0066】
[比較例3]
実施例1の易接着層用塗布液Aを表1記載の易接着層用塗布液Eに変更した以外は、実施例1と同様にして比較例3の機能性部材を作製した。
【0067】
[比較例4]
実施例1の易接着層用塗布液Aを表1記載の易接着層用塗布液Fに変更した以外は、実施例1と同様にして比較例4の機能性部材を作製した。
【0068】
[比較例5]
実施例1の易接着層用塗布液Aを表1記載の易接着層用塗布液Gに変更した以外は、実施例1と同様にして比較例5の機能性部材を作製した。
【0069】
[比較例6]
実施例1の易接着層用塗布液Aを表1記載の易接着層用塗布液Hに変更した以外は、実施例1と同様にして比較例6の機能性部材を作製した。
【0070】
表1
【0071】
表2
【0072】
上述した実施例及び比較例で作製した易接着層用塗布液、機能層用塗布液及び機能性部材について下記の特性を評価した。
【0073】
<固形分酸価の算出>
上記記載の実施例1~8及び比較例1~6の、それぞれ易接着層用塗布液及び機能層用塗布液に対し、JIS K 2501:2003に規定される指示薬滴定法によって求められた酸価と、その固形分濃度から算出した値を固形分酸価とした。算出結果を表3に示した。
【0074】
<密着性試験>
1.初期密着性試験
上述した実施例及び比較例で作製した機能性部材の機能層面をJIS K 5400にて規定された碁盤目剥離試験に基づき試験し次に示す基準にて評価した。碁盤目100マスのうちすべてのマスにおいて4分の1以上の剥離が見られない状態を「◎」、100マスのうち80マス以上のマスにおいて4分の1以上の剥離が見られない状態を「〇」、100マスのうち4分の1以上の剥離が見られないマスが80マス未満である状態を「×」とした。測定結果を表3に示した。
【0075】
2.高温高湿暴露後密着性試験
上述した実施例及び比較例で作製した機能性部材を温度85℃湿度85%(加湿は純水にて実施)の環境で500時間暴露した。その後、機能層面をJIS K 5400にて規定された碁盤目剥離試験に基づき試験し次に示す基準にて評価した。碁盤目100マスのうちすべてのマスにおいて4分の1以上の剥離が見られない状態を「◎」、100マスのうち80マス以上のマスにおいて4分の1以上の剥離が見られない状態を「〇」、100マスのうち4分の1以上の剥離が見られないマスが80マス未満である状態を「×」とした。測定結果を表3に示した。
【0076】
表3
【0077】
表3の結果から明らかなように、実施例1~8の機能性部材は、基材上に易接着層を形成するための組成物がグリシジル基を有するポリエステル-アクリル複合樹脂を含み、且つ当該組成物の固形分酸価が2.5~6.0mgKOH/gであり、前記機能層を形成するための組成物がグリシジル基と反応性を持つ官能基を有する化合物を含み、且つ当該組成物の固形分酸価が4.0mgKOH/g未満であったため、初期密着性試験、高温高湿暴露後密着性試験ともに評価良好で、基材と易接着層の密着性及び易接着層と機能層の密着性に優れるものであった。
【0078】
一方、比較例1及び比較例6は易接着層を形成するための組成物にグリシジル基を有する化合物を含んでいなかったため、基材と易接着層の密着性及び易接着層と機能層の密着性を発現するための付加反応が起こらず、初期密着性及び高温高湿暴露後密着性が劣るものであった。比較例1及び比較例4は、易接着層を形成するための組成物の固形分酸価が2.5mgKOH/g未満であったため、前記密着性を発現するための付加反応が十分に進まなかったことにより初期密着性及び高温高湿暴露後密着性に劣るものであった。比較例3及び比較例5は、易接着層を形成するための組成物の固形分酸価が6.0mgKOH/gを超えたため、グリシジル基の開環重合等の副反応が優先し、前記密着性を発現するための付加反応が阻害され、初期密着性及び/又は高温高湿暴露後密着性に劣るものであった。比較例2は、易接着層を形成するための組成物の固形分酸価は良好な範囲に入っていたが、機能層を形成するための固形分酸価が4.0mgKOH/gを超えたため、前記密着性を発現するための付加反応が十分に進まなかったことにより高温高湿暴露後密着性に劣るものであった。また比較例1は易接着層を形成するための組成物のアクリル成分濃度が低かったため初期密着性及び高温高湿暴露後密着性が劣り、比較例5は易接着層を形成するための組成物のアクリル成分濃度が高すぎたため、高温高湿暴露後密着性が劣るものであった。
【符号の説明】
【0079】
10・・・基材、20・・・易接着層、30・・・機能層、40・・・バックコート層
図1
図2